(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、車両(二輪車、四輪車、特殊車両など)に搭載された車載照明装置(例えば、ヘッドランプ、テールランプ、ブレーキランプ、ルームランプなど)にはLEDを用いたものが増加している。
LEDを点灯させるにはLED駆動回路(LED点灯回路)が必要であるが、車載のLED駆動回路には、以下の要件が求められる。
【0005】
要件1:LEDを点灯させる電源電圧範囲は、車載バッテリの定格電圧が12Vの場合には9〜16Vの範囲で変動するため、この電源電圧範囲内にて、おおよそ同一輝度でLEDを点灯させること。
要件2:正サージ電圧(例えば、約120V で50μ秒間、 約30〜70V で0.2秒間)に耐えること。負サージ電圧(例えば、約−100〜−数百Vで1m秒間)に耐えること。
要件3:LEDの点灯輝度が周囲温度(車載用電子機器の規格では−40〜+80℃)や自己発熱の影響をほとんど受けないこと。
要件4:LEDの点灯輝度が生産ロットの影響をほとんど受けないこと。尚、生産ロットの影響には、LED自身の順方向電圧のバラツキによる影響も含む。
要件5:LEDの自己発熱により信頼性(例えば、ハンダ付の信頼性など)が低下しないこと。
要件6:発生する電磁ノイズが規格を満たすこと。
要件7:LED駆動回路を構成するプリント配線基板が小型であること。
要件8:コストが安いこと。
【0006】
LED駆動回路にスイッチングレギュレータICを用いた定電流回路を使用すれば、前記要件1〜6については容易に実現できる。
しかし、前記要件6は前記要件7,8と背反する。
前記要件8については、スイッチングレギュレータICが高価であるため、大電力(例えば、数十ワット級)の車載照明装置(例えば、ヘッドランプ)に用いられるLED駆動回路を除いては、実現が困難である。
本発明は、前記要件1〜8を満足させることが可能なLED駆動回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、下記のように本発明の各局面に想到した。
【0008】
<第1の局面>
第1の局面は、
1個または直列接続された複数個のLEDと、
LEDに直列接続された駆動用トランジスタを備え、駆動用トランジスタに流れる電流を一定電流値に制御することにより、LEDを定電流駆動する定電流回路と、
駆動用トランジスタに流れる電流を検出するための抵抗と、
抵抗の両端間電圧に応じて、駆動用トランジスタをフィードバック制御する制御用トランジスタと、
車載バッテリの電源電圧から一定電圧を生成し、その一定電圧を、定電流回路と抵抗と制御用トランジスタとに供給する定電圧回路とを備えた車載のLED駆動回路である。
【0009】
第1の局面では、駆動用トランジスタをフィードバック制御する制御用トランジスタを備えるため、駆動用トランジスタの特性バラツキがLEDに流れる電流の精度に影響を及ぼすのを防止できる。
また、第1の局面では、車載バッテリの電源電圧から生成した一定電圧を回路構成部材(定電流回路、抵抗、制御用トランジスタ)へ供給する定電圧回路を備えるため、定電流回路および制御用トランジスタを確実に動作させることができる。
従って、第1の局面によれば、前記要件1〜8を満足させることが可能なLED駆動回路を提供できる。
【0010】
ところで、特許文献1の発明の目的は、「低電圧の電源電圧ですみ、また温度変化にかかわらず光量が大きく変化しない発光ダイオード駆動回路を提供する」ことにある(段落[0006]を参照)。
これら目的のうち、「温度変化にかかわらず光量が大きく変化しない」ことは、前記要件3と同じである。
【0011】
また、「低電圧の電源電圧ですみ」については、特許文献1の段落[0028][0045]に、「電源電圧Vccは………2.5Vとなって、電源電圧Vccは低電圧でも発光ダイオードを駆動することができる。」との記載がある。
この記載から、特許文献1の発明は、直列接続した2個の乾電池を電源とする電子機器に適用されるものであることが推認され、前記要件1が求められる車載照明装置用のLED駆動回路には適用不可であることが分かる。
【0012】
そして、特許文献1の発明は、「駆動指示信号に基づき第1のトランジスタを駆動する」ことを構成要件としており(請求項1,2を参照)、「駆動指示信号」に相当する構成要件を備えない第1の局面とは異なる。
ちなみに、特許文献1の[発明の実施の形態]には、「駆動指示信号」についての具体的な記載は無い。
【0013】
加えて、特許文献1には、「電源電圧Vcc」を一定電圧値にする定電圧回路について一切開示されておらず示唆すらもされていない。これは、前記のように、特許文献1の発明が乾電池を電源にするため、「電源電圧Vcc」の変動が少ないことによるものであると推認できる。
従って、特許文献1に基づいて、定電圧回路を備えた第1の局面を想到することは、たとえ当業者といえども困難であり、また、第1の局面の前記作用・効果について予測し得るものではない。
【0014】
<第2の局面>
第2の局面は、第1の局面において、制御用トランジスタの温度変動特性を相殺して補正する補正用能動素子を備える。
第2の局面では、補正用能動素子を備えるため、制御用トランジスタの温度変動特性がLEDに流れる電流の精度に影響を及ぼすのを防止できる。
【0015】
<第3の局面>
第3の局面は、第1の局面または第2の局面において、車載バッテリの電源電圧を定電圧回路に供給するダイオードを備える。
第3の局面では、ダイオードを備えるため、負サージ電圧や車載バッテリを逆接続した場合に他の回路素子を保護することができる。
【0016】
<第4の局面>
第4の局面は、第1〜第3の局面において、定電圧回路はツェナーダイオードを備える。
第4の局面では、定電圧回路を簡単な構成(例えば、ツェナーダイオードと抵抗との直列回路)で具体化可能であり、低コスト化を図ることができる。
【0017】
<第5の局面>
第5の局面は、第4の局面において、ツェナーダイオードのツェナー電圧は、ツェナーダイオードの温度係数が正となる最小電圧値よりも大きく、且つ、車載バッテリの電源電圧の最小電圧値よりも小さくなるように設定されている。
【0018】
第5の局面では、ツェナー電圧がツェナーダイオードの温度係数が正となる最小電圧値よりも大きくなるように設定するため、アバランシェ(雪崩)降伏領域を使用することが可能になり、ツェナー電圧の電圧変動が少なくなることから、定電圧回路を確実に動作させることができる。
また、第5の局面では、ツェナー電圧が車載バッテリの電源電圧の最小電圧値よりも小さくなるように設定するため、車載バッテリの電源電圧を無駄なく最大限利用可能になり、低コスト化を図ることができる。
【0019】
<第6の局面>
第6の局面は、第4の局面または第5の局面に記載のLED駆動回路を構成する回路素子が搭載された配線基板であって、配線基板上において、LEDおよび駆動用トランジスタから最も離れた位置にツェナーダイオードが配置されている配線基板である。
【0020】
第6の局面では、LEDおよび駆動用トランジスタの発熱量が大きくても、LEDおよび駆動用トランジスタが発生した熱がツェナーダイオードに伝達されて悪影響を与えるのを防止可能であり、ツェナー電圧の電圧変動が少なくなることから、定電圧回路を確実に動作させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した各実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、各実施形態において、同一の構成部材および構成要素については符号を等しくすると共に、同一内容の箇所については重複説明を省略する。
【0023】
<第1実施形態>
図1に示すように、第1実施形態のLED駆動回路10は、車載バッテリ11、光源ブロック12、LED13、定電圧回路14、ダイオードD1、ツェナーダイオードZD1、NPNトランジスタQ1、PNPトランジスタQ2,Q3、抵抗R1〜R5を備えており、車両(二輪車、四輪車、特殊車両など)に搭載された車載照明装置(例えば、ヘッドランプ、テールランプ、ブレーキランプ、ルームランプなど)に用いられる。
【0024】
車載バッテリ11のプラス端子はダイオードD1のアノードに接続され、車載バッテリ11のマイナス端子はアースに接続されている。
車載バッテリ11の定格電圧は12Vであり、車載バッテリ11からLED駆動回路10に供給される電源電圧Vbatは9〜16Vの範囲で変動する。
光源ブロック12は、直列接続された2個のLED13から構成されている。
定電圧回路14は、ツェナーダイオードZD1と抵抗R5の直列回路から構成されている。
逆方向接続されたツェナーダイオードZD1のカソードはダイオードD1のカソードに接続され、ツェナーダイオードZD1のアノードは抵抗R5を介してアースに接続されている。
【0025】
トランジスタQ2,Q3のベースは共通接続され、そのベースは、トランジスタQ3のコレクタに接続されると共に、抵抗R4を介してツェナーダイオードZD1のアノードに接続されている。すなわち、トランジスタQ3はダイオード接続されている。
トランジスタQ2,Q3のエミッタはそれぞれ、抵抗R1,R3を介してツェナーダイオードZD1のカソードに接続されている。
トランジスタQ2のコレクタは、抵抗R2を介してトランジスタQ1のベースに接続されている。
順方向接続されたLED13のアノードは、抵抗R1を介してダイオードD1のカソードに接続され、LED13のカソードはトランジスタQ1のコレクタに接続されている。
トランジスタQ1のエミッタはアースに接続されている。
【0026】
[LED駆動回路10の特徴]
第1実施形態のLED駆動回路10は、以下の特徴を有する。
【0027】
[特徴1]
LED駆動回路10を構成する部品のうち、車載バッテリ11を除く全ての回路素子(電子部品)がディスクリート部品であり、IC(集積回路)を使用していない。
車載用電子機器の規格を満たすIC(車載用IC)は、一般電子機器の規格を満たすだけのIC(一般民生用IC)に比べて高価であるため、車載用ICを用いるとLED駆動回路10のコストが高くなる。
また、IC自身をサージ電圧から保護する電子部品が必要になるため、更にコストが高くなる。
【0028】
LED駆動回路10はICを使用していないため、低コスト化を図ることが可能であり、前記要件8を実現できる。
そして、LED駆動回路10では、ディスクリート部品を使用することにより、ICに比べてサージ耐性のある電子部品が選択可能であるため、前記要件2の正サージ電圧については比較的簡単に実現できる。
但し、LED13への投入電流Iの精度や温度特性については、ICを使用した場合に比べて劣るため、後述する特徴3,4のような工夫を行っている。
【0029】
[特徴2]
LED駆動回路10はリニアレギュレータ方式を用いているため、電磁ノイズの発生は皆無である。但し、LED13への投入電流Iは150mA以下とする。
スイッチングレギュレータ方式では、LED13の点灯には直接関わらない電磁ノイズ対策用の電子部品が必要になるため、コストが高くなる上に、LED駆動回路10を構成する回路素子が搭載されたプリント配線基板が大型化するため、前記要件6〜8を同時に満たすのは困難である。
【0030】
それに対して、リニアレギュレータ方式であれば、電磁ノイズは発生しないため、前記要件6を容易に実現できる上に、電磁ノイズ対策用の電子部品が不要であるため、前記要件7,8も実現できる。
但し、リニアレギュレータ方式では、電力効率(=LED13への投入電力/LED駆動回路10の消費電力)は50%前後であり、スイッチングレギュレータ方式の電力効率(通常は80%以上)には劣る。
このため、リニアレギュレータ方式はスイッチングレギュレータ方式に比べて発熱が大きくなり、前記要件3,5,7,8の実現が困難になるという問題がある。
この問題を解決するために、LED13への投入電流Iは150mA以下に制限する必要がある。
【0031】
[特徴3]
前記要件3を実現するため、半導体(トランジスタQ1〜Q3、ツェナーダイオードZD1)の温度依存性については、以下の方法で依存度の低減を図っている。
【0032】
方法1:LED13を駆動するトランジスタQ1の温度依存性については、トランジスタQ2,Q3によるフィードバック制御(負帰還制御)により、トランジスタQ1の温度による特性変化(主に、トランジスタQ1のベース・エミッタ間電圧VBE
Q1)がLED13への投入電流Iに影響を及ぼすのを防止している。
【0033】
方法2:トランジスタQ2,Q3の温度依存性については、同型・同生産ロットの製品またはペアトランジスタを用いることで相殺して補正する。
尚、トランジスタQ2,Q3を熱結合すれば温度依存性を確実に相殺して補正可能であり、2個のトランジスタQ2,Q3が1個のパッケージに収容された製品を用いれば更に望ましいものの、トランジスタQ2,Q3の熱結合は不可欠ではない。
【0034】
LED13への投入電流Iは、抵抗R1,R3,R4の抵抗値R1,R3,R4と、ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧Vzと、トランジスタQ2,Q3のベース・エミッタ間電圧VBE
Q2,VBE
Q3とにより、簡易解析式である数式1から求められる。
【0035】
I=1/R1×{R3×(Vz−VBE
Q3)/(R3+R4)+(VBE
Q3−VBE
Q2)} ………(数式1)
【0036】
トランジスタQ2,Q3のベース・エミッタ間電圧VBE
Q2,VBE
Q3が等しければ、大カッコ内の第2項はゼロ、もしくは、温度にほとんど依存しない値にすることができる。
【0037】
方法3:LED13への投入電流Iの温度依存は、ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧VzとトランジスタQ3のベース・エミッタ間電圧VBE
Q3の温度特性で決まるが、抵抗R3,R4を設けることでその影響を小さくできる。
すなわち、数式1の大カッコ内の第1項より、LED13への投入電流Iの温度依存は、ツェナー電圧Vzとベース・エミッタ間電圧VBE
Q3との差で直接決まるのではなく、ツェナー電圧Vzとベース・エミッタ間電圧VBE
Q3との差に抵抗R3,R4の分圧比{(R3/(R3+R4)}を乗じた値に依存するため、温度依存性は小さくなる。
【0038】
具体的には、R3=6.2kΩ、R4=16kΩ、Vz=7.5V、ツェナーダイオードZD1の温度特性を約2.5mV/℃、ベース・エミッタ間電圧VBE
Q3の温度特性を約−2.3mV/℃の場合、温度1℃上昇当たりの影響は、数式1の大カッコ内の第1項より1.34mV/℃となり、トランジスタQ3単独の温度特性(約−2.3mV/℃)より小さくなる。
これは、R1=39Ωの場合、LED13への投入電流Iに換算すれば、34.3μA/℃に相当する。
【0039】
方法4:ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧Vzは6.2〜8.2Vに限定する。
ツェナー電圧Vzの選定は、温度特性よりも、LED13への投入電流Iの電源電圧依存性から決まる。
電源電圧依存性が少なく、理想的なツェナーダイオード特性を示すのは、一般にツェナー電圧Vzが8.2V以上の製品であるが、ツェナー電圧Vzの温度特性は悪化してゆく。
【0040】
一方、ツェナー電圧Vzが6.2V以下の製品を用いれば、点灯電圧範囲の下限が広くなり、前記要件1を満たすには有利であるが、ツェナー電圧Vzの電圧依存性は悪化するため、LED13への投入電流Iの精度も悪くなる。
但し、ツェナー電圧Vzが6.2Vの製品は、温度特性はほぼゼロのため、この点は有利ではある(前記数式1を参照)。
ツェナー電圧Vzが6.2V以下の製品は、定電圧特性に難があり、車載バッテリ11の電源電圧Vbatが9〜16Vの範囲で変動すると、LED13への投入電流Iは大きく変化してしまう。
【0041】
総合すれば、ツェナー電圧Vzの電圧依存性が、だいたい理想に近く、温度依存性も少ないツェナーダイオードZD1は、ツェナー電圧Vzが7.5Vの製品であり、この製品を用いればバランスのとれた回路性能が得られる。
但し、仕様要件が許すなら、ツェナー電圧Vzは6.2〜8.2Vには限定されない。
【0042】
[特徴4]
半導体(トランジスタQ1〜Q3、ツェナーダイオードZD1)の特性バラツキがLED13への投入電流Iに与える影響が少なく、LED13への投入電流Iの電流精度が比較的高く、量産性に優れた回路構成である。
【0043】
すなわち、前記数式1にトランジスタQ1に関わる項が無いことから分かるように、トランジスタQ2,Q3によるフィードバック制御により、トランジスタQ1の特性バラツキは、LED13への投入電流Iの精度に影響しない。
また、前記のように、トランジスタQ2の温度依存性はトランジスタQ3により相殺して補正される。
そして、LED13への投入電流Iのバラツキは、ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧VzとトランジスタQ3のベース・エミッタ間電圧VBE
Q3で決まるが、前記数式1に示すように、バラツキにも抵抗R3,R4の分圧比{(R3/(R3+R4)}が乗じられる回路なので、影響は小さくなる。
【0044】
具体的には、R1=39Ω、R2=3.3kΩ、R3=6.2kΩ、R4=16kΩ、R5=1kΩ、Vz=7.5Vの場合、ツェナー電圧Vzとベース・エミッタ間電圧VBE
Q3のバラツキ合計が大きく見積もって+0.3Vとしても、LED13への投入電流Iは約2.1mAの増加に留まることになり、投入電流Iを50mAに設定すると、僅かに+4%のバラツキ増に抑えられる。
【0045】
[LED駆動回路10の動作について]
[i]LED13の順方向電圧の合計値は約7V以下 とする。窒化ガリウム系LEDの場合には、1個のLED13における順方向電圧は2.8〜3.5Vであるため、LED13は2個直列までが上限である。
これは、車載バッテリ11の定格電圧が12Vの場合における電源電圧Vbatの最小電圧値(たいてい、9〜10V)による制約であり、車載バッテリ11の電圧を昇圧せずに電源電圧Vbatが最小電圧値のときでもLED13を安定して発光させるには、LED13は2個直列までが上限である。
電源電圧Vbatの最小電圧値を大きくできるなら、LED13の順方向電圧の合計値も大きくすることができる。
【0046】
[ii]LED駆動回路10はリニアレギュレータ方式でフィードバック型の定電流回路であり、トランジスタQ1によりLED13への投入電流Iを一定電流値に制御することにより、LED13を定電流駆動する。
特徴2で述べたように、リニアレギュレータ方式なので、電力効率(=LED13への投入電力/LED駆動回路10の消費電力)は、スイッチングレギュレータ方式には劣る。
しかし、LED13はもともと消費電力が小さいこともあり、電力効率がそれほど良くなくても、LED駆動回路10全体の消費電力について問題視されることは少なく、むしろ電力効率よりもコストが優先する。
【0047】
[iii]トランジスタQ1は、LED13の駆動用(ドライバ)の役割がある。
トランジスタQ1のベース電流はトランジスタQ2によってフィードバック制御され、トランジスタQ1のコレクタ電流(=LED13への投入電流I)は、おおよそ一定電流値に保たれる(電源電圧Vbat:9〜16V、周囲温度:−40〜+80℃) 。
【0048】
[iv]トランジスタQ2は、比較器とトランジスタQ1の駆動用(ドライバ)とを兼用する役割がある。
トランジスタQ2はフィードバック機能を担当し、抵抗R1の両端間電圧が、おおよそ抵抗R3の両端間電圧(ほぼ一定電圧値)と等しくなるように、トランジスタQ1のベース電流をフィードバック制御する。
その際、トランジスタQ2のエミッタ電圧Vaとベース電圧Vbの比較を行っている。
トランジスタQ2,Q3のベース・エミッタ間電圧VBE
Q2,VBE
Q3の温度依存性については、同型・同生産ロットの製品またはペアトランジスタを用いることで相殺して補正し、ベース・エミッタ間電圧VBE
Q2の温度変動特性がLED13への投入電流Iに影響しないようにしている(前記数式1を参照)。
【0049】
[v]トランジスタQ3は、リファレンス電圧の供給とトランジスタQ2のベース・エミッタ間電圧VBE
Q2の温度依存性を相殺して補正する役割がある。
ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧Vzを、抵抗R3,R4とトランジスタQ3のベース・エミッタ間電圧VBE
Q3とで分圧し、トランジスタQ2に供給している。
トランジスタQ2,Q3のベース電圧Vbの概算値は、数式2から求められる。
【0050】
Vb≒VBE
Q3+R3×(Vz−VBE
Q3)/(R3+R4) ………(数式2)
【0051】
トランジスタQ3をダイオード接続にして、抵抗R3,R4の分圧回路に含めているのは、トランジスタQ2,Q3のベース・エミッタ間電圧VBE
Q2,VBE
Q3の温度依存性を相殺して補正し、トランジスタQ2のベース・エミッタ間電圧VBE
Q2の温度変動特性がLED13への投入電流Iに影響しないようにするためである。
【0052】
[vi]ツェナーダイオードZD1は、リファレンス電圧の大元となる一定電圧値のツェナー電圧Vzを供給する役割がある。
ツェナーダイオードZD1は、特徴3の方法4で述べたように、ツェナー電圧Vzは6.2〜8.2Vの製品に限定する。
【0053】
例えば、抵抗R3,R4およびトランジスタQ3を省き、トランジスタQ2のベースをツェナーダイオードZD1のアノードに接続する回路構成にした場合には、回路構成を簡素化できる。
しかし、電源電圧Vvatの下限の制約(約9V程度)のため、フィードバックセンサ役の抵抗R1の両端間電圧は2V以下になってしまう(LED13で約7Vを占めるため)。
すると、ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧Vzが2V以下の製品を選択することになるが、ツェナー電圧Vzが2V以下の製品は、理想特性には程遠く、電流−ツェナー電圧Vz特性が悪い。
このため、電源電圧Vbatに対してLED13への投入電流Iが一定電流値を保てず、投入電流Iの精度が悪くなる。
【0054】
[vii]抵抗R1は、LED13への投入電流Iをセンシング(電流検出)する役割がある。
LED駆動回路10では、抵抗R1の両端間電圧が、抵抗R3の両端間電圧に等しくなるようにフィードバック制御している。
厳密には、抵抗R1は、トランジスタQ2のコレクタ電流とLED13への投入電流Iの合計をセンシングしているが、トランジスタQ2のコレクタ電流は、LED13への投入電流IをトランジスタQ1の直流電流増幅率hFEで除算した値(I/hFE)にほぼ等しく、直流電流増幅率hFEは100以上であるため、LED13への投入電流Iだけを検出しているとして問題ない。
【0055】
但し、抵抗R1の抵抗値は、要求するLED13への投入電流Iが50mAなら、40Ω(=2V/50mA)と比較的低い値になり、LED13への投入電流Iが大きくなれば、それだけ抵抗R1の抵抗値は小さくなる。
これは、電源電圧Vbatの下限が約9V程度に設定されるため、LED13への電圧割り当てが7Vの場合、抵抗R1の両端間電圧の割り当てが2V以下になるためである。
抵抗R1への電圧割り当てが小さいということは、LED13への投入電流Iの精度と温度特性が悪くなる傾向となり、リファレンス電圧の電圧精度と、温度特性の良さが求められる理由になっている。
【0056】
LED駆動回路10では、リファレンス電圧の大元を作るツェナーダイオードZD1としてツェナー電圧Vzが7.5V前後の製品を選択し、電圧精度をよくしている。
また、トランジスタQ2,Q3のベース・エミッタ間電圧VBE
Q2,VBE
Q3の温度依存性を相殺して補正し、ベース・エミッタ間電圧VBE
Q2の温度変動特性がLED13への投入電流Iに影響しないようにしている。
トランジスタQ1のベース・エミッタ間電圧VBE
Q1の温度特性については、トランジスタQ2によりフィードバック制御することで影響無しにしている。
ツェナーダイオードZD1の温度特性は、ツェナー電圧Vzが7.5V前後の製品を選択することにより、温度係数を比較的小さくできる(約+2.5mV/℃)。この温度係数を抵抗R3,R4で分割して、さらに温度係数を小さくしている。
正確には、ツェナー電圧Vzの温度特性とトランジスタQ3のベース・エミッタ間電圧VBE
Q3の差を抵抗分割している。
【0057】
[viii]抵抗R3,R4は、リファレンス電圧を決定する役割がある。
ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧Vzを抵抗R3,R4とトランジスタQ3のベース・エミッタ間電圧VBE
Q3で分割して、トランジスタQ2にリファレンス電圧であるベース電圧Vbを供給している(前記数式2を参照)。
【0058】
[ix]抵抗R5は、ツェナーダイオードZD1のツェナー電流を決定する役割がある。
抵抗R5はツェナーダイオードZD1のツェナー電流が流れる経路となり、ツェナーダイオードZD1がリファレンス電圧の元になるツェナー電圧Vzを発生させる。
但し、抵抗R5は、トランジスタQ3のコレクタ電流と、トランジスタQ2,Q3のベース電流の経路でもあり、ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧Vzが電源電圧Vbatに依存することから、ツェナー電圧Vzの誤差要因になる。
【0059】
ツェナー電圧Vzが電源電圧Vbatに依存し難くなるよう、ツェナーダイオードZD1の許容電力が許す範囲で、抵抗R5は小さな値にする必要がある。
しかし、正サージ電圧(例えば、約120V、50μ秒)が印加された場合に、ツェナーダイオードZD1が破壊されないようにするため、抵抗R5の抵抗値には下限がある。
ツェナーダイオードZD1としてツェナー電圧Vzが7.5V前後の製品を選択する場合には、ツェナー電流が10μAあれば、ツェナー電圧Vzの精度をおおよそ獲得できるため、抵抗R5の抵抗値を1kΩ程度の比較的大きな値にすることが可能であり、ツェナーダイオードZD1の電力容量が比較的小さくても(例えば、200mW級)、正サージ電圧によってツェナーダイオードZD1が破壊されることはない。
【0060】
[x]ダイオードD1は、負サージ電圧や車載バッテリ11を逆接続した場合に他の回路素子を保護する役割がある。
電源電圧Vbatが低下(約9V以下)した場合には、ダイオードD1による電圧降下(約0.5〜0.6V)により、LED13への投入電流Iが要求値より低下するため、ダイオードD1の順方向電圧はできる限り低い値であることが望ましい。
【0061】
[第1実施形態の作用・効果]
第1実施形態のLED駆動回路10によれば、以下の作用・効果を得ることができる。
【0062】
[1]車載のLED駆動回路10は、直列接続された2個のLED13と、LED13に直列接続されたトランジスタQ1(駆動用トランジスタ)を備え、トランジスタQ1に流れる電流(LED13への投入電流I)を一定電流値に制御することにより、LED13を定電流駆動する定電流回路である。
そして、LED駆動回路10は、トランジスタQ1に流れる電流Iを検出するための抵抗R1と、抵抗R1の両端間電圧に応じて、トランジスタQ1をフィードバック制御するトランジスタQ2(制御用トランジスタ)を備える。
また、LED駆動回路10は、車載バッテリ11の電源電圧から一定電圧を生成し、その一定電圧を回路構成部材(定電流回路、抵抗R1、トランジスタQ2)に供給する定電圧回路14を備える。
【0063】
LED駆動回路10は、トランジスタQ1をフィードバック制御するトランジスタQ2を備えるため、トランジスタQ1の特性バラツキがLED13に流れる投入電流Iの精度に影響を及ぼすのを防止できる。
また、LED駆動回路10は、定電圧回路14を備えるため、定電流回路およびトランジスタQ2を確実に動作させることができる。
従って、第1実施形態によれば、前記要件1〜8を満足させることが可能なLED13駆動回路を提供できる。
【0064】
[2]LED駆動回路10は、トランジスタQ2(制御用トランジスタ)の温度変動特性を相殺して補正する補正用能動素子としてトランジスタQ3を備えるため、トランジスタQ2の温度変動特性がLED13に流れる投入電流Iの精度に影響を及ぼすのを防止できる。
【0065】
[3]LED駆動回路10は、車載バッテリ11の電源電圧Vbatを定電圧回路14に供給するダイオードD1を備えるため、負サージ電圧や車載バッテリ11を逆接続した場合に他の回路素子を保護することができる。
【0066】
[4]定電圧回路14は、ツェナーダイオードZD1と抵抗R1との直列回路から成る簡単な構成であるため、低コスト化を図ることができる。
【0067】
[5]ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧Vzは、ツェナーダイオードZD1の温度係数が正となる最小電圧値よりも大きく、且つ、車載バッテリ11の電源電圧Vbatの最小電圧値よりも小さくなるように設定されている。
すなわち、ツェナー電圧VzがツェナーダイオードZD1の温度係数が正となる最小電圧値よりも大きくなるように設定するため、アバランシェ(雪崩)降伏領域を使用することが可能になり、ツェナー電圧Vzの電圧変動が少なくなることから、定電圧回路14を確実に動作させることができる。
また、ツェナー電圧Vzが車載バッテリ11の電源電圧Vbatの最小電圧値よりも小さくなるように設定するため、車載バッテリ11の電源電圧Vbatを無駄なく最大限利用可能になり、低コスト化を図ることができる。
【0068】
[6]
図2に示すように、LED駆動回路10を構成する部品のうち、車載バッテリ11を除く回路素子(光源ブロック12、LED13、定電圧回路14、ダイオードD1、ツェナーダイオードZD1、トランジスタQ1〜Q3、抵抗R1〜R5)は、同一のプリント配線基板PB上に搭載されている。
【0069】
そのため、LED13およびトランジスタQ1の発熱量が大きくても、LED13およびトランジスタQ1が発生した熱がツェナーダイオードZD1に伝達されて悪影響を与えるのを防止可能であり、ツェナー電圧Vzの電圧変動が少なくなることから、定電圧回路14を確実に動作させることができる。
【0070】
[7]特許文献1の発明の目的は、「低電圧の電源電圧ですみ、また温度変化にかかわらず光量が大きく変化しない発光ダイオード駆動回路を提供する」ことにある(段落[0006]を参照)。
これら目的のうち、「温度変化にかかわらず光量が大きく変化しない」ことは、前記要件3と同じである。
【0071】
また、「低電圧の電源電圧ですみ」については、特許文献1の段落[0028][0045]に、「電源電圧Vccは………2.5Vとなって、電源電圧Vccは低電圧でも発光ダイオードを駆動することができる。」との記載がある。
この記載から、特許文献1の発明は、直列接続した2個の乾電池を電源とする電子機器に適用されるものであることが推認され、前記要件1が求められる車載照明装置用のLED駆動回路には適用不可であることが分かる。
【0072】
そして、特許文献1の発明は、「駆動指示信号に基づき第1のトランジスタを駆動する」ことを構成要件としており(請求項1,2を参照)、「駆動指示信号」に相当する構成要件を備えない第1実施形態のLED駆動回路10とは異なる。
ちなみに、特許文献1の[発明の実施の形態]には、「駆動指示信号」についての具体的な記載は無い。
【0073】
加えて、特許文献1には、「電源電圧Vcc」を一定電圧値にする定電圧回路について一切開示されておらず示唆すらもされていない。これは、前記のように、特許文献1の発明が乾電池を電源にするため、「電源電圧Vcc」の変動が少ないことによるものであると推認できる。
従って、特許文献1に基づいて、定電圧回路14を備えた第1実施形態のLED駆動回路10を想到することは、たとえ当業者といえども困難であり、また、前記[1][4][5]の作用・効果について予測し得るものではない。
【0074】
<第2実施形態>
図3に示すように、第2実施形態のLED駆動回路20は、車載バッテリ11、光源ブロック12、LED13、定電圧回路14、ダイオードD1、ツェナーダイオードZD1、PNPトランジスタQ1、NPNトランジスタQ2,Q3、抵抗R1〜R5を備えている。
【0075】
逆方向接続されたツェナーダイオードZD1のカソードは抵抗R5を介してダイオードD1のカソードに接続され、ツェナーダイオードZD1のアノードはアースに接続されている。
トランジスタQ2,Q3のベースは共通接続され、そのベースは、トランジスタQ3のコレクタに接続されると共に、抵抗R4を介してツェナーダイオードZD1のカソードに接続されている。
トランジスタQ2,Q3のエミッタはそれぞれ、抵抗R1,R3を介してアースに接続されている。
順方向接続されたLED13のアノードはトランジスタQ1のコレクタに接続され、LED13のカソードは抵抗R1を介してアースに接続されている。
トランジスタQ1のエミッタはダイオードD1のカソードに接続されている。
【0076】
第2実施形態のLED駆動回路20において、第1実施形態のLED駆動回路10と異なるのは、トランジスタQ1〜Q3の極性であり、トランジスタQ1〜Q3の極性に合わせて他の回路素子の接続関係が変更されている。
従って、第2実施形態のLED駆動回路20においても、第1実施形態のLED駆動回路10と同様の作用・効果が得られる。
【0077】
<第3実施形態>
図4に示すように、第3実施形態のLED駆動回路30は、車載バッテリ11、光源ブロック12、LED13、定電圧回路14、ダイオードD1、ツェナーダイオードZD1、NPNトランジスタQ1、PNPトランジスタQ2、抵抗R1〜R5、ダイオードD2を備えている。
【0078】
順方向接続されたダイオードD2のアノードは、抵抗R3を介してツェナーダイオードZD1のカソードに接続されている。
ダイオードD2のカソードは、トランジスタQ2のベースに接続されると共に、抵抗R4を介してツェナーダイオードZD1のアノードに接続されている。
【0079】
第3実施形態のLED駆動回路30において、第1実施形態のLED駆動回路10と異なるのは、ダイオード接続されたトランジスタQ3がダイオードD2に置き換えられている点だけである。
すなわち、第3実施形態では、トランジスタQ2(制御用トランジスタ)の温度変動特性を相殺して補正する補正用能動素子としてダイオードD2を備える。
【0080】
ダイオードD2の順方向電圧は、ダイオード接続されたトランジスタQ3のエミッタ・コレクタ間電圧とは厳密には一致しない。
そのため、第3実施形態のLED駆動回路30では、第1実施形態のLED駆動回路10に比べて、LED13への投入電流Iの精度はやや劣るものの、第1実施形態とほぼ同様の作用・効果が得られる。
【0081】
<第4実施形態>
図5に示すように、第4実施形態のLED駆動回路40は、車載バッテリ11、光源ブロック12、LED13、定電圧回路14、ダイオードD1、ツェナーダイオードZD1、PNPトランジスタQ1、NPNトランジスタQ2、抵抗R1〜R5、ダイオードD2を備えている。
【0082】
順方向接続されたダイオードD2のアノードは、抵抗R3を介してアースに接続されている。
ダイオードD2のカソードは、トランジスタQ2のベースに接続されると共に、抵抗R4を介してツェナーダイオードZD1のカソードに接続されている。
【0083】
第4実施形態のLED駆動回路40において、第3実施形態のLED駆動回路30と異なるのは、トランジスタQ1,Q2の極性であり、トランジスタQ1,Q2の極性に合わせて他の回路素子の接続関係が変更されている。
従って、第4実施形態のLED駆動回路40においても、第3実施形態のLED駆動回路30と同様の作用・効果が得られる。
【0084】
<別の実施形態>
本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、以下のように具体化してもよく、その場合でも、前記各実施形態と同等もしくはそれ以上の作用・効果を得ることができる。
【0085】
[A]前記各実施形態では、直列接続された2個のLED13を備えているが、本発明は、LED13を1〜3個または5個以上備えるLED駆動回路に適用してもよい。
【0086】
[B]バイポーラトランジスタQ1〜Q3をMOSトランジスタに置き換えてもよい(NPNトランジスタをNMOSトランジスタに置き換え、PNPトランジスタをPMOSトランジスタに置き換える)。
【0087】
[C]定電圧回路14は、ツェナーダイオードZD1と抵抗R5の直列回路に限らず、どのような形式の定電圧回路によって具体化してもよい。
【0088】
[D]
図2に示すプリント配線基板PBに限らず、バスバー(リードフレーム)やワイヤなどの配線材により回路配線が構成された配線基板(配線板)に適用してもよい。
【0089】
本発明は、前記各局面および前記各実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。本明細書の中で明示した公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。