(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Siを6質量%以上18質量%以下、Mgを0.2質量%以上1.0質量%以下、Cuを1.2質量%以上3.0質量%以下含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金と、
非金属無機材料からなり、前記アルミニウム合金からなる母相中に分散される硬質粒子とからなり、
相対密度が98%以上、
引張強さが200MPa以上であり、
面粗度Rzが6以下である液相焼結アルミニウム合金部材。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
本発明者らは、焼結体の寸法精度の高精度化を検討するのに際し、寸法精度に大きな影響を及ぼす事項として、サイジング前の液相焼結体に着目した。液相焼結体は、原料粉末を成形して成形体とし、その成形体を液相焼結することで得られる。一般に、液相焼結体は、原料粉末間の空孔が液相により縮小され、固相焼結の焼結体に比べて空孔が少なく高密度であり、高強度である。一方で、この焼結体は、焼結時の急激な緻密化による寸法収縮が大きく、大きな歪が生じて矯正量の大きな寸法矯正が必要とされることが多い。
【0013】
このような液相焼結体にサイジングを行う際、サイジング代(塑性加工に伴う寸法矯正量)が大きければ焼結体が割れ易く、歩留りの低下を招く。これは、高密度で高強度の液相焼結体に対して大きなサイジング代を採れば、焼結体がサイジング用の金型に沿い難いため、焼結体に過度の応力が作用して割れが生じることがあるからである。例えば、円柱や円筒の液相焼結体の場合、側面と直交する方向に歪みが生じ、その歪みに対するサイジング代の大きさは、側面の全長の0.5%以上と大きい。
【0014】
そこで、本発明者らは、液相焼結体をサイジングする際に、その焼結体の塑性変形性を向上させることをさらに検討した。その結果、液相焼結体を熱処理により軟化させてからサイジングを施せば、サイジング代が大きな場合であっても焼結体の割れを低減でき、高い寸法精度の液相焼結部材を歩留り良く得られるとの知見を得て本発明を完成するに至った。以下、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0015】
(1)実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材の製造方法は、以下の工程を備える。
(A)Si,Mg,Cu及びZnから選択される少なくとも1種の元素を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金粉末を含む原料粉末を成形して成形体とする成形工程。
(B)前記成形体に液相焼結を施して焼結体とする焼結工程。
(C)前記焼結体に熱処理を施して軟化材とする軟化工程。
(D)前記軟化材にサイジングを施して矯正材とする矯正工程。
(E)前記矯正材に熱処理を施して析出物が析出された時効材とする時効工程。
【0016】
上記した実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材の製造方法によれば、液相焼結を施していることで、原料粉末間の空孔が液相により縮小され、固相焼結の焼結体に比べて空孔が少なく高密度であり、高強度の焼結体が得られる。この焼結体に熱処理を施して軟化材としてからサイジングすることで、軟化材は伸びが向上して柔らかいため、サイジング時に割れの発生を抑制し、歩留りを向上できる。また、サイジング時に軟化材が金型に沿い易いため、寸法精度に優れる液相焼結アルミニウム合金部材を効率よく製造することができる。
【0017】
(2)実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材の製造方法としては、前記軟化工程は、前記軟化材の伸びが2%以上となる温度で行うことが挙げられる。
【0018】
軟化材の伸びが2%以上であることで、サイジング時に割れの発生がより生じ難い。また、軟化材が柔らかい程より金型に沿い易いため、寸法精度を向上し易い。
【0019】
(3)実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材の製造方法としては、前記軟化工程は、455℃以上520℃以下の温度で行うことが挙げられる。
【0020】
軟化工程における熱処理温度を上記範囲とすることで、軟化材の伸びを2%以上とし易い。熱処理温度が455℃以上であることで、サイジング時に割れが生じ難い塑性加工性を有する軟化材を形成し易い。熱処理温度が520℃以下であることで、それ以上に加熱しなくてもサイジング時に要する伸びを十分に得られ、不必要な加熱を省略できる。
【0021】
(4)実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材の製造方法としては、前記軟化工程は、溶体化処理を行うことが挙げられる。
【0022】
溶体化処理を行うことで、アルミニウム合金中に添加元素を十分に固溶させることができる。
【0023】
(5)実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材の製造方法としては、前記矯正工程は、前記軟化材の硬さHRBが50以下で行うことが挙げられる。
【0024】
軟化工程において熱処理を施して軟化材の伸びを向上しても、その状態のまま放置すると、自然時効によって硬さが上昇すると共に伸びが低下する。そこで、軟化材の硬さHRBが50以下で行うことで、軟化材は柔らかく、割れの発生を抑制し易く、寸法精度に優れる液相焼結アルミニウム合金部材を歩留りよく製造し易い。
【0025】
(6)実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材の製造方法としては、前記アルミニウム合金粉末が、Al−Si−Mg−Cu系合金粉末であることが挙げられる。
【0026】
Al−Si−Mg−Cu系合金の液相焼結体は、耐摩耗性に優れる。しかし、Al−Si−Mg−Cu系合金は、伸びが小さいため、サイジング時に割れが発生したり、寸法精度の悪い部材となり易い。そこで、上述した実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材の製造方法を用いることで、寸法精度の高いAl−Si−Mg−Cu系合金の液相焼結体を効率的に製造できる。
【0027】
(7)実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材として、上記(1)〜(6)のいずれか1つの実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材の製造方法によって製造されたものを提案する。
【0028】
実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材は、液相焼結が施されていることで、高密度であり、高強度である。また、軟化材をサイジングしており、寸法精度に優れる。かつ、実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材は、実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材の製造方法によって容易に製造できることから、生産性に優れる。
【0029】
(8)実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材は、Si,Mg,Cu及びZnから選択される少なくとも1種の元素を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を含む液相焼結アルミニウム合金部材であって、相対密度が98%以上、引張強さが200MPa以上である。
【0030】
上記した実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材によれば、相対密度が98%以上と高密度であり、引張強さが200MPa以上と高強度である。
【0031】
(9)実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材としては、面粗度Rzが6以下であることが挙げられる。
【0032】
面粗度Rzが6以下であるということは、焼結体のサイジング時に金型に沿って液相焼結アルミニウム合金部材が製造されたということであって、寸法精度に優れる。
【0033】
(10)実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材としては、直角度が全長の0.1%以下であることが挙げられる。
【0034】
液相焼結アルミニウム合金部材が、部材を構成する外周面のうち二面を繋ぐ角部を有する場合、その直角度が全長の0.1%以下、即ちほぼ直角であることで、寸法精度に優れる。
【0035】
(11)実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材としては、前記アルミニウム合金が、Al−Si−Mg−Cu系合金であることが挙げられる。
【0036】
Al−Si−Mg−Cu系合金の液相焼結体であることで、耐摩耗性にも優れる。
【0037】
(12)実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材としては、さらに、非金属無機材料からなり、前記アルミニウム合金からなる母相中に分散される硬質粒子を含むことが挙げられる。
【0038】
アルミニウム合金からなる母材に硬質粒子を分散することで、母材単独の場合と比較して、耐摩耗性を向上できる。
【0039】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態の詳細を、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、後述する試験例について原料粉末の組成、焼結工程・軟化工程・時効工程の各温度・時間などを適宜変更することができる。
【0040】
<液相焼結アルミニウム合金部材の製造方法>
実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材の製造方法は、以下の準備工程、成形工程、焼結工程、軟化工程、矯正工程、時効工程を備える。
【0041】
〔準備工程〕
原料粉末として、アルミニウム合金粉末を準備する。さらに、必要に応じて、複数の硬質粒子を混合して混合粉末とすることもできる。
【0042】
(アルミニウム合金粉末)
アルミニウム合金粉末は、Si,Mg,Cu及びZnから選択される少なくとも1種の元素を含有し、残部がAl及び不可避的不純物のアルミニウム合金からなる。アルミニウム合金としては、Al−Si−Mg−Cu系合金、Al−Zn−Mg−Cu系合金、Al−Si系合金、Al−Cu系合金、Al−Mg系合金、Al−Cu−Si系合金などが挙げられる。
【0043】
Al−Si−Mg−Cu系合金は耐摩耗性に優れて好ましい。Al−Si−Mg−Cu系合金の具体的組成としては、Siを6質量%以上18質量%以下、Mgを0.2質量%以上1.0%質量%以下、Cuを1.2質量%以上3.0%質量%以下含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるものが挙げられる。特に、Siは8質量%以上15質量%以下含有されることが好ましい。
【0044】
Al−Zn−Mg−Cu系合金は強度に優れて好ましい。Al−Zn−Mg−Cu系合金の具体的組成としては、Znを5.1質量%以上6.5質量%以下、Mgを2.0質量%以上3.0質量%以下、Cuを1.2質量%以上2.0質量%以下、Snを0.1質量%以上0.3質量%以下含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるもの、その他、JIS規格の7075,7010といった公知の組成が挙げられる。
【0045】
原料粉末として、上述したアルミニウム合金と同様な組成のアルミニウム合金粉末を用いてもよいし、添加元素の濃度が高い高添加アルミニウム合金粉末と、実質的に添加元素を含有しない高純度アルミニウム粉末とを混合した複合粉末を用いてもよい。柔らかい高純度アルミニウム粉末を含有すると、成形性に優れる。高純度アルミニウム粉末の量や高添加アルミニウム合金粉末における添加元素の濃度は適宜選択することができる。この複合粉末を用いた場合、後述する焼結工程において、高添加アルミニウム合金粉末の添加元素の一部が高純度アルミニウム粉末に拡散して、所望の組成となる。
【0046】
アルミニウム合金粉末の平均粒径は、45μm以上350μm以下程度が好ましい。この原料粉末の平均粒径は、アルミニウム合金部材中の平均粒径と実質的に同一とみなすことができる。平均粒径が45μm以上であることで、取り扱い易く、ハンドリング性に優れて好ましい。一方、350μm以下であることで、成形し易く好ましい。
【0047】
原料のアルミニウム合金粉末の粒度分布は、例えば、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)で計測する。液相焼結アルミニウム合金部材中のアルミニウム合金粒子の平均粒径、最大径は以下のように測定する。液相焼結アルミニウム合金部材の任意の断面を光学顕微鏡(100〜400倍)で観察し、この観察像を画像処理して、この断面中に存在する全てのアルミニウム合金粒子の面積を測定する。各面積の円相当径を演算し、この円相当径を各粒子の直径とし、当該断面における最大の直径をこの断面の最大径とする。n=10個の断面について最大径を求め、10個の最大径の平均をアルミニウム合金粒子の最大径とする。また、一つの断面における全ての粒子の直径の平均をとり、n=10個の断面について平均を求め、10個の直径の平均を更に平均したものをアルミニウム合金粒子の平均粒径とする。
【0048】
(硬質粒子)
硬質粒子は、非金属無機材料とする。非金属無機材料には、セラミックス、金属間化合物、ダイヤモンドなどが挙げられる。特に、化合物の非金属無機材料が好適に利用できる。より具体的な材質は、Si単体の他、アルミナ(Al
2O
3)、ムライト(アルミナと酸化ケイ素との化合物)、SiC、AlN、BNなどの化合物が挙げられる。中でも、アルミナを用いると金属相との反応性がよく、耐摩耗性に優れる部材が得られ、ムライトを用いると相手攻撃性の低い部材が得られる。これら各種の硬質粒子は、単一種であっても良いし、複数種を混合して液相焼結アルミニウム合金部材に含まれていても良い。液相焼結アルミニウム合金部材中の硬質粒子の組成(単体元素、化合物元素及び含有量)は、例えば、走査型電子顕微鏡―エネルギー分散型X線分光法、X線回折、化学分析などを利用することで測定できる。
【0049】
液相焼結アルミニウム合金部材に占める硬質粒子の含有量(複数種の硬質粒子を含有する場合、合計含有量)は、0.5質量%以上10質量%以下が好ましい。0.5質量%以上であると、他の焼結部材と同程度又はそれ以上の耐摩耗性が得られ易く、さらには実用上十分な強度、硬さを有することができる。より好ましい下限値は1質量%以上である。硬質粒子の含有量は多いほど、耐摩耗性や硬さが向上する。但し、10質量%を超えると、強度が低下したり、例えば摺動部材とした場合に相手材の摩耗や損傷が激しくなったりする、すなわち相手攻撃性が高くなる。より好ましい上限値は5.0質量%以下、特に3.0質量%以下である。
【0050】
液相焼結アルミニウム合金部材の硬さは、硬質粒子の硬さが高いほど、又は硬質粒子の含有量が多いほど高くなる傾向にある。
【0051】
硬質粒子の平均粒径は、小さい方が耐摩耗性に優れる傾向にある。硬質粒子の平均粒径が大き過ぎると、小さい粒子と同じ耐摩耗性を確保するために硬質粒子の含有量が多くなり、その結果、例えば摺動部材とした場合に相手攻撃性が大きくなる。具体的な大きさは、アルミナ粒子の場合、平均粒径は10μm以下が好ましく、1μm以上6μm以下がより好ましい。上記範囲を満たす大きさのアルミナ粒子を上記特定の範囲で含有する場合、合金部材の焼結性を高める効果がある。ムライトの場合、平均粒径は20μm以下が好ましく、1μm以上15μm以下がより好ましい。また、硬質粒子の平均粒径が大き過ぎると、例えば摺動部材とした場合、相手材との摺接時に硬質粒子が脱落すると、相手材との間に介在された状態で摺動されることで、相手攻撃性を悪化させる。よって、硬質粒子の最大径は30μm以下であることが好ましく、4μm以上30μm以下がより好ましい。
【0052】
原料に用いる硬質粒子の粒度分布は、例えば、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)で計測する。液相焼結アルミニウム合金部材中の硬質粒子の平均粒径、最大径は、上記アルミニウム合金粒子の平均粒径、最大径の測定方法と同様である。
【0053】
硬質粒子の形状は、シャープエッジをもたないこと、言い換えれば可能な限り球形に近い方が好ましい。例えば、アスペクト比が1.0以上3.0以下であることが好ましい。球形に近い硬質粒子又は角が角張っていない硬質粒子を用いることで、細長い粒子などを用いる場合に比べて相手攻撃性を低減できる。
【0054】
硬質粒子は、アルミニウム合金の母材中に実質的にそのまま残存する。従って、合金中の硬質粒子の含有量や大きさが所望の量や大きさとなるように、原料となる硬質粒子の量や大きさを調整する。
【0055】
〔成形工程〕
準備した原料粉末を金型に充填して成形する。例えば、冷間金型成形などの冷間の加圧成形が利用できる。成形圧力としては、2ton/cm
2以上10ton/cm
2以下が挙げられる。この金型のキャビティの形状を調整することで、複雑形状の成形体を得ることもできる。
【0056】
〔焼結工程〕
得られた成形体の焼結は、液相出現温度で行えばよく、公知の条件を利用できる。代表的な焼結条件は、窒素やアルゴンといった不活性雰囲気で、温度:540℃以上620℃以下、時間:0(規定温度到達と同時に降温開始)以上60分以下が挙げられる。焼結温度は、例えば、Al−Si−Mg−Cu系合金の場合、540℃以上560℃以下、Al−Zn−Mg−Cu系合金の場合、580℃以上620℃以下が挙げられる。
【0057】
原料粉末として、高添加アルミニウム合金粉末と高純度アルミニウム粉末とを混合した複合粉末を用いた場合、この焼結工程により、高添加アルミニウム合金粉末の添加元素の一部が高純度アルミニウム粉末に拡散する。例えば、Al−Si系合金の場合、原料粉末として、Siを6質量%以上含有する高Siアルミニウム合金粉末と、実質的にSiを含有しない高純度アルミニウム粉末とを混合する複合粉末とすると、Siの含有量が6質量%以上である高Siアルミニウム合金相と、Siの含有量が2質量%以下である低Siアルミニウム合金相とを有する二相構造のアルミニウム合金となる。
【0058】
〔軟化工程〕
得られた焼結体に熱処理を施して、伸びを向上させた軟化材とする。
図1に、Al−14Si−2.5Cu−0.5Mg(単位:質量%)の組成のAl−Si−Mg−Cu系合金粉末(平均粒径70μm)に2μmのアルミナ粉末を1質量%混合した混合粉末を用いて成形・液相焼結した焼結体に軟化工程・時効工程を施した際の伸びと硬さとを示す。軟化工程は、495℃×1時間の加熱後水焼入れ(Water Quench:WQ)を施し、時効工程は、175℃×8時間の熱処理(時効処理)を施した。
図1のグラフに示すように、焼結体に熱処理(ここでは溶体化に相当)を施すと、硬さ(ロックウェル硬さ)の低下に伴い、1.0%程度であった伸び(破断伸び)が、3.3%程度まで向上することがわかる。その後、時効処理を施すと、析出強化によって硬さが向上すると共に伸びが低下することがわかる。伸びが向上した状態の軟化材に、後述する矯正工程におけるサイジングを施すと、サイジング時に金型に軟化材が沿い易く、割れの発生を抑制することができ、寸法精度に優れる部材を効率よく製造できると考えられる。軟化材の伸び(破断伸び)は、2%以上が好ましい。さらに好ましくは3%以上である。
【0059】
図2に、焼結体に施す熱処理温度と熱処理後に常温まで冷却した焼結体(軟化材)の硬さHRB及び電気伝導度IACS%とを示す。
図2の上グラフは、
図1と同様のAl−14Si−2.5Cu−0.5Mgの組成のAl−Si−Cu−Mg系合金粉末(平均粒径70μm)に2μmのアルミナ粉末を1質量%混合して成形・液相焼結した焼結体を用いた結果である。
図2の下グラフは、Al−5.5Zn−1.5Cu−2.5Mgの組成のAl−Zn−Cu−Mg系合金粉末(平均粒径70μm)に2μmのアルミナ粉末を1質量%混合して成形・液相焼結した焼結体を用いた結果である。
図2の両グラフに示すように、硬さ(ロックウェル硬さ)は、熱処理温度の上昇に伴い高くなる傾向にあるが、温度上昇の途中で硬さがほぼ一定となる領域が存在する。この温度が一定となる領域ではアルミニウム合金中に添加元素が完全固溶している状態である。さらに温度が上昇すると液相となり、これが急冷されると硬さが上昇してしまう。よって、硬さがほぼ一定となる温度領域で熱処理を施すことで、伸びを向上できる。このような熱処理温度は、Al−Si−Cu−Mg系合金の場合、480℃以上520℃以下が好ましく、さらに480℃以上510℃以下、特に486℃以上496℃以下がより好ましい。また、Al−Zn−Cu−Mg系合金の場合、460℃以上500℃以下が好ましく、さらに470℃以上490℃以下、特に465℃以上495℃以下がより好ましい。この熱処理温度で軟化された軟化材は、伸びが2%以上となり易い。一方、電気伝導度は、熱処理温度の上昇に伴い低くなり、熱処理温度が低過ぎると高くなる傾向にある。これは、熱処理温度が高いとより多くのCuやZnなどが固溶されるからである。電気伝導度が低いと、CuやZnなどが固溶しているため塑性加工性に優れ、サイジング時に軟化材が金型に沿い易い。よって、電気伝導度がより低い温度領域で熱処理を施すことが好ましい。軟化に必要な保持時間は、軟化材が十分に固溶体になる時間が必要であり、おおむね0.5時間以上2時間以下であり、より好ましい時間は、1時間以上1.2時間以下である。
【0060】
焼結体に行う熱処理として溶体化処理を行う場合も、熱処理条件は上述した熱処理条件(温度と保持時間)と同様である。加熱後は、冷却速度を100℃/s以上として冷却することが好ましい。
【0061】
〔矯正工程〕
軟化材、特に伸びが2%以上である軟化材にサイジングを施す。
図3に、上記焼結体(
図2と同様)の軟化工程後の軟化材の硬さの推移を示す。
図3のグラフに示すように、時間の経過と共に、硬さ(ロックウェル硬さ)は向上する傾向にある。硬さの向上に伴い伸びは減少する。軟化材の硬さHRBが50以下である状態でサイジングを施すことが好ましい。
図3のグラフに示すように、Al−Si−Cu−Mg系合金の場合、軟化工程
後6時間経過すると、硬さHRBは50以上となり、それに伴い伸びは2%未満となる。また、Al−Zn−Cu−Mg系合金の場合、軟化工程後20時間経過すると、硬さHRBは50以上となり、それに伴い伸びは2%未満となる。
【0062】
軟化材をサイジングするには、所望の形状の金型の成形空間に軟化材を充填して加圧する。金型は一般的なものが利用できる。例えば、貫通孔が設けられた筒状のダイと、この貫通孔に挿入配置されて軟化材を加圧圧縮する上パンチ及び下パンチとを備えるものが挙げられる。ダイの貫通孔の内周面と、この貫通孔の一方の開口部に挿入した下パンチとで形成される成形空間に、上述の軟化材を配置した後、上記貫通孔の他方の開口部に挿入した上パンチと、上記下パンチとで軟化材を所定の圧力で加圧・圧縮して矯正材を形成し、ダイから矯正材を抜き出す。この金型を用いた場合、ダイの輪郭形状、及び上パンチ・下パンチの端面形状に応じた柱状の矯正材が得られる。
【0063】
サイジングは、熱間でも冷間でもよい。冷間サイジングは、寸法精度を向上させることができ、熱間サイジングは、強度を向上させることができる。また、このサイジングは、しごきの場合や据込みの場合のいずれでもよいが、特にしごきサイジングの場合は、良好な面粗度が得られる。
【0064】
〔時効工程〕
サイジングを施した矯正材に熱処理(時効)を施して析出物が析出された時効材とする。この熱処理温度は、170℃以上210℃以下が挙げられる。
【0065】
<液相焼結アルミニウム合金部材>
上述した液相焼結アルミニウム合金部材の製造方法によって製造される液相焼結アルミニウム合金部材は、液相焼結を施しているため、原料粉末間の空孔が液相により縮小され、高密度であると共に、高強度である。この液相焼結アルミニウム合金部材の相対密度は96%以上であり、好ましくは98%以上である。ここでの相対密度は、アルミニウム合金からなる部材の真密度を各元素の比重を基に演算し、(実際の密度/真密度)×100を算出した値である。また、この液相焼結アルミニウム合金部材の引張強さは200MPa以上であり、好ましくは250MPa以上である。
【0066】
液相焼結を施した焼結体に熱処理を施して軟化材としてからサイジングを施しているため、サイジング時に金型に沿った軟化材が形成され易い。よって、液相焼結アルミニウム合金部材に直角を有する場合、その直角度は、全長の0.1%以下である。また、サイジングを施すことで、液相焼結アルミニウム合金部材の面粗度Rzは、6以下である。
【0067】
なお、本実施形態の液相焼結アルミニウム合金部材は、アルミニウム合金からなる母材を構成する母材粒子のアスペクト比(最大径と最小径との比)が小さい(5未満)。即ち、合金組織を調べることで、焼結により製造されたことが確認できる。
【0068】
[試験例]
種々のアルミニウム合金を含む液相焼結アルミニウム合金部材を作製する。得られた液相焼結アルミニウム合金部材の相対密度及び引張強さ、直角度、面粗度を調べた。また、液相焼結アルミニウム合金部材の歩留りを調べた。
【0069】
(試料の作製)
・試料No.1:Al−Si−Mg−Cu系合金
原料粉末として、Al−18Si−3.25Cu−0.81Mg(単位:質量% 以下同様)の組成のAl−Si−Mg−Cu系合金粉末(高添加アルミニウム合金粉末)と、Al−0.5Mgの組成の高純度アルミニウム粉末と、アルミナ粉末とを用意する。Al−Si−Mg−Cu系合金粉末と高純度アルミニウム粉末の各平均粒径は50μm、アルミナ粉末は、平均粒径が2μm(最大径6μm)である。用意したAl−Si−Mg−Cu系合金粉末、高純度アルミニウム粉末、及びアルミナ粉末をそれぞれ混合させた混合粉末を作製する。Al−Si−Mg−Cu系合金粉末と高純度アルミニウム粉末の質量割合は80:20であり、この割合は、液相焼結アルミニウム合金部材に占める高Siアルミニウム合金相と低Siアルミニウム合金相の質量割合である。混合粉末に対してアルミナ粉末が1.0質量%となるように上記各粉末を混合する。得られた混合粉末を5ton/cm
2の面圧で金型成形して、円柱状の成形体(径:35mm×高さ:10mm)を作製した。続いて、この成形体を窒素雰囲気中で550±5℃×50分の焼結条件で液相焼結した。
【0070】
得られた焼結体に、495℃×1時間に加熱後、水冷(150℃/s)して溶体化を施し、0.5時間後に6ton/cm
2の条件で冷間サイジングを施した。溶体化処理後0.5時間経過した軟化材の硬さ(ロックウェル硬さ)HRBは23であり、伸び(破断伸び)は2%以上であった。サイジングには、上述した筒状ダイとパンチとを用いた。その後、さらに175℃×8時間の時効を行って液相焼結Al−Si−Cu−Mg系合金の試料(液相焼結アルミニウム合金部材)を作製した。
【0071】
・試料No.2:Al−Zn−Mg−Cu系合金
原料粉末として、Al−6.5Zn−1.75Cu−2.7Mg(単位:質量% 以下同様)の組成のAl−Zn−Mg−Cu系合金粉末と、アルミナ粉末とを用意する。Al−Zn−Mg−Cu系合金粉末の平均粒径は70μm、アルミナ粉末の平均粒径は2μm(最大径6μm)である。用意したAl−Zn−Mg−Cu系合金粉末とアルミナ粉末とを混合させた混合粉末を作製する。混合粉末に対してアルミナ粉末が1.0質量%となるように上記各粉末を混合する。得られた混合粉末を5ton/cm
2の面圧で金型成形して成形体を作製した。続いて、この成形体を窒素雰囲気中で610±5℃×20分の焼結条件で液相焼結した。
【0072】
得られた焼結体に、495℃×1時間に加熱後、水冷(150℃/s)して溶体化を施し、1時間後に6ton/cm
2の条件で冷間サイジングを施した。溶体化処理後1.5時間経過した軟化材の硬さ(ロックウェル硬さ)HRBは23であり、伸び(破断伸び)は2%以上であった。サイジングには、上述した筒状ダイとパンチとを用いた。その後、さらに175℃×8時間の時効を行って液相焼結Al−Zn−Cu−Mg系合金の試料(液相焼結アルミニウム合金部材)を作製した。
【0073】
・試料No.100:Al−Si−Mg−Cu系合金
比較品として、試料No.1の原料粉末を用いて、従来の方法(液相焼結→サイジング→溶体化→時効)で試料No.100を作製する。この試料は、液相焼結後の処理順序として、サイジング後に溶体化・時効を行った点以外は、試料No.1と同様の条件とした。
【0074】
・試料No.200:Al−Zn−Mg−Cu系合金
比較品として、試料No.2の原料粉末を用いて、従来の方法(液相焼結→サイジング→溶体化→時効)で試料No.200を作製する。この試料は、液相焼結後の処理順序として、サイジング後に溶体化・時効を行った点以外は、試料No.2と同様の条件とした。
【0075】
(相対密度)
作製した各試料の液相焼結アルミニウム合金部材について、相対密度を測定した。相対密度は、市販の密度測定装置を利用して実際の密度を測定すると共に、試料の各組成のアルミニウム合金からなる部材の真密度を各元素の比重を基に演算し、(実際の密度/真密度)×100を算出することで求められる。その結果を表1に示す。
【0076】
(引張強さ)
作製した各試料の液相焼結アルミニウム合金部材について、JIS Z 2241(2011)の金属材料引張試験方法に基づいて、汎用引張試験機にて引張強さを測定した。その結果を表1に示す。
【0077】
(面粗度)
作製した各試料の液相焼結アルミニウム合金部材について、JIS B 0601(2001)に基づいて、市販の表面粗さ測定器にて面粗度Rz(十点平均粗さ)を測定した。その結果を表1に示す。
【0078】
(直角度)
作製した各試料の液相焼結アルミニウム合金部材について、JIS B 0621(1984)に基づいて、市販の直角測定器(スコヤマスタ、株式会社ミツトヨ製)にて測定した。直角度の測定方法は、例えば
図4に示すように、直角測定器10のダイヤルゲージ11を試料1の側面に当ててシャフト沿いにスリーブ12をスライドすることで試料1の高さ方向全面に亘って直角度を測定した。その結果を表1に示す。
【0079】
(歩留り)
作製した各試料の液相焼結アルミニウム合金部材について、歩留りを求めた。歩留りは、部材において割れや欠けのないものを良品、あるものを不良品とし、全体(100個作製)のうち良品と判断したものの割合とした。その結果を表1に示す。
【0081】
表1に示すように、本実施形態の製造方法によって製造された試料No.1及び試料No.2は、相対密度が98%以上と高く、引張強さが317MPa以上と高い。
【0082】
表1に示すように、液相焼結体に溶体化を施してからサイジングを行った試料No.1及び試料No.2は、面粗度Rzが6以下であり、従来の方法による試料No.100及び試料No.200と比較して小さいことがわかる。また、試料No.1及び試料No.2は、直角度が0.05%以下と、試料No.100及び試料No.200と比較して小さいことがわかる。これらの結果は、サイジングを行う前に施された熱処理によって軟化材の伸びが向上して柔らかくなり、サイジング時に軟化材が金型の形状に沿って形成されたためであると考えられる。そして、本実施形態の製造方法によって液相焼結アルミニウム合金部材を製造した場合、歩留りが100%となり、従来と比較して生産性が向上することがわかる。