特許第6132145号(P6132145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132145
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】コンクリートバイブレータ
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/08 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
   E04G21/08
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-110666(P2013-110666)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-227793(P2014-227793A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】根本 浩史
(72)【発明者】
【氏名】前田 敏也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正憲
(72)【発明者】
【氏名】宮田 佳和
【審査官】 西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭55−109743(JP,U)
【文献】 特開平08−021094(JP,A)
【文献】 米国特許第06808384(US,B1)
【文献】 特開2000−297533(JP,A)
【文献】 特開2012−197670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/08
B06B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動筒内に収容され、偏心質量が0.007〜0.010N・mの範囲で設定された偏心ウエイトを、150〜200Hzの回転数で偏心回転させ、コンクリート内に挿入してコンクリート締固めを行うことを特徴とするコンクリートバイブレータ。
【請求項2】
前記偏心質量を0.009N・m振動数を180Hzとしたことを特徴とする請求項1に記載のコンクリートバイブレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリートバイブレータに係り、振動部が細口径で高出力を発揮し、密に配筋された部位でのコンクリートの締固めを確実に行えるようにしたコンクリートバイブレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート構造物のコンクリート打設作業において、型枠内に打設されたコンクリートの締固めのためにコンクリートバイブレータが利用されている。一般的な鉄筋コンクリート構造物のコンクリート締固めにおいては、「コンクリート標準示方書(施工編)」(土木学会編)等で規定されているように、型枠内のコンクリート内に所定の間隔で振動部を挿入してコンクリートに振動を加える内部振動機としての棒状の高周波バイブレータを使用することが原則とされている。なお、本明細書では、このタイプのコンクリートバイブレータについて説明し、以下単に「バイブレータ」と記す。
【0003】
バイブレータは、コンクリートが打設された際、型枠内の隅部や鉄筋間に未充填箇所が発生したり、ジャンカ(豆板)が発生したりするのを防止するために、コンクリート構造物の形状、規模、鉄筋の配筋状態に応じて適切な能力のものを使用することが重要である。このために各種のタイプ(能力、寸法)のバイブレータが製品として開発されている(非特許文献1)。
【0004】
ところで、阪神大震災以後、たとえば鉄道や道路の高架橋の柱梁接合部等の構造設計において、せん断耐力の向上等のため鉄筋量が増加した設計がなされるようになった。それら設計によれば、鉄筋径が太くなり、配筋本数も増える。そのため、鉄筋間の空きが狭い過密配筋部分を有する構造物が増加した。このような過密配筋部分では、密に配筋された鉄筋が、打設されたコンクリートが行き渡るのを阻害するため、この部分にコンクリート未充填部やジャンカの発生するおそれが増してきた。
【0005】
一方、上述したような耐震設計を行うような規模の構造物においても、コンクリートを密実にする締固め能力がバイブレータに求められるため、振動筒の外径がφ40mm以上のものが使用されていた(特許文献1,非特許文献1第6ページ参照)。このため、現状使用されているバイブレータでは、振動筒部分を鉄筋間に差し込むことができないという問題があった。そのため、より細い直径で十分なコンクリート締固め能力を有するバイブレータの開発が求められていた。
【0006】
たとえば特許文献1にはφ30mm以下でφ40バイブレータに匹敵する締固め能力を示すとされているバイブレータが開示されている。このバイブレータは、振動軸の基端が自動調心ベアリングで支持され、他端が振動体の先端部の内面に当接する構造になっている。したがって、この振動軸は外部からの回転力により、自ら回転(自転)するとともに、先端部の振動体内面に対して所定角度だけ傾いて摩擦接触しているため、振動軸は自転に公転動作を伴う遊星運動動作によって振動機能を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−236667号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】三笠産業株式会社、“2012年度版三笠総合カタログ”、[online]、2012年6月14日更新、高周波バイブレータ(インヘッダー)、[2013年4月8日検索]、インターネット<http://www.mikasas.com/japanese/products/catalogue/new/index_book.html?openpage=10>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述のコンクリート標準示方書によれば、打設されたコンクリートにバイブレータを差し込んで締固め作業を行う際、バイブレータを差し込む間隔は、振動が有効であると認められる範囲の直径以下で、一般に50cmピッチ以下とすることが好ましいとされている。したがって、バイブレータによる締固め作業効率、締固め性能を考慮した場合、細い口径のバイブレータを開発する際の要件としては、鉄筋の空き寸法(一例として鉄筋径の1.5倍以上で、かつ25mm以上)以下であって、バイブレータ本体が締固めエネルギーを十分発揮できるとともに、バイブレータをコンクリート内に差し込んだ位置から少なくとも25cm(50/2cm)程度離れた点においても締固めエネルギーの減衰がなるべく小さいことが挙げられる。
【0010】
特許文献1に開示されたバイブレータは、振動体内部で振動軸と筒内面との面接触で公転運動を実現しているため、部品の摩耗が進行すると、有効な遊星運動が果たせなくなるため、装置の耐久性に問題がある。また、後述するように、特許文献1に開示された発明による製品での検証実験によれば、上述の要件としての25cm(実験では30cm)離れた位置でのエネルギー減衰が大きく、作業性が劣ることが確認された。
【0011】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、細口径のバイブレータにおいて、当初の締固めエネルギーが大きく、また振動源から所定位置だけ離れたコンクリートに対する締固めエネルギーの減衰が小さくなるように、構造仕様上のパラメータを設定したコンクリートバイブレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は振動筒内に収容され、偏心質量が0.007〜0.010N・mの範囲で設定された偏心ウエイトを、150〜200Hzの回転数で偏心回転させ、コンクリート内に挿入してコンクリート締固めを行うことを特徴とする。
【0014】
このとき、前記偏心質量0.009N・m振動数180Hzのときにそのコンクリート締固め効果が最大となる。

【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、実際のコンクリート締固め作業において十分な締固めエネルギーを有し、過密配筋部位等の鉄筋の空き部分に挿入して確実な締固め作業を行え、また適正な締固め間隔の範囲における未充填部分やジャンカなどの不具合の発生を防止でき、密実で高品質なコンクリート構造物を構築できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のコンクリートバイブレータの一実施形態を示した模式構成図。
図2】本発明のコンクリートバイブレータによる性能試験の実施状態を示した説明図。
図3】所定の偏心質量のバイブレータにおける振動数と締固めエネルギーとの関係を示したグラフ。
図4】バイブレータの種類による締固め位置からの距離と締固めエネルギーとの関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のバイブレータの一実施形態としての基本構造について、図1を参照して説明する。このバイブレータ10は外部駆動源としての電動モータ1の回転をフレキシブルシャフト2内に収容された駆動伝達ケーブル3でバイブレータ10の振動筒12に伝える公知の駆動タイプからなる。バイブレータ10の振動筒12内の先端と根元部には軸受13,14が装着されている。これら軸受13,14に、振動体としての偏心ウエイト15の両端が回転可動に支持されている。
【0018】
偏心ウエイト15は、図示したように、両端部は扁平円柱状をなし、先端軸受13と根元部軸受14とに回転可能に支持されている。中間部15aは振動筒12の長手方向の中心軸に対して偏心した円弧状断面をなす細長棒状体からなる。さらに偏心ウエイト15の根元部側には軸受14位置で回転ジョイント16が連結されている。この回転ジョイント16を介して駆動伝達ケーブル2の回転力が偏心ウエイト15の根元側の軸端に伝達され、偏心ウエイト15が振動筒12内で所定回転数で回転する。
【0019】
バイブレータ10の振動機能は、所定質量の偏心ウエイト15の重心が振動筒12の中心軸Cから所定距離だけ偏心して位置することにより、偏心ウエイト15が回転する際、回転軸が振動筒12の構造上の中心軸Cからブレて回転するために発生する振動によって果たされる。この振動は上述した偏心ウエイト15の質量Wと偏心ウエイト15の重心と振動筒12の中心軸との偏心距離eとの関係によって調整、設定できる。本明細書では、この関係(積)W・eを「偏心質量」と定義して、バイブレータ10の構造仕様を決定し、バイブレータ10の振動締固めによるコンクリート締固め能力を評価するための指標とした。
【0020】
[バイブレータの仕様]
バイブレータの構造仕様を設定する際、バイブレータの外径寸法決定も重要な要素である。本実施形態では、バイブレータ10の振動筒12内で偏心回転する偏心ウエイト15が回転する際の軌跡と、振動筒12の内周面とが接触しないための必要最少なクリアランスが得られるように振動筒12の内径寸法を定め、さらに振動筒12の必要強度との関係からバイブレータ10の外径をφ27mmとした。なお、この外径は上記クラリアランスが確保できるように、偏心ウエイトの使用材料の剛性、強度を高めることで、実用性を確保した範囲で、より細くできる。
【0021】
外部駆動源としては交流電源駆動の公知の整流子モータ等の電動モータ1が用いられている。電動モータ1の回転数は駆動回路に組み込まれたインバータ4によって制御することができる。電動モータ1の種類、能力や電動モータからバイブレータに回転力を伝達する駆動伝達ケーブル2の仕様(径、長さ)もバイブレータの仕様、バイブレータを使用する対象構造物の規模等により適宜設定できることはいうまでもない。
【0022】
[パラメータの設定]
上述したように、本発明のバイブレータを開発するに当たり、細口径で十分なコンクリートの締固めエネルギーを発生する点と、振動源から離れた位置での振動の減衰が小さい点とを、開発するバイブレータの要件とした。そのためにバイブレータ性能に寄与する因子として上述した偏心質量と、外部駆動源によって加えられる振動数(回転数)とを選択し、パラメータを組み合わせ、締固めエネルギーが大きく、距離減衰が小さいという性能を得られるかを検討した。
【0023】
[バイブレータの性能評価]
(1)バイブレータ性能の定義
(a)締固めエネルギー
バイブレータの性能は、型枠内に打設されたコンクリートの締固めが十分果たされることで評価されることが必要である。本発明ではこのためにコンクリート内に挿入され振動するバイブレータからコンクリートを媒体として伝播される振動エネルギーを以下に示す(式1)で得られる「締固めエネルギー」と定義し、この値によって性能を評価するものとした。
【0024】

…(式1)

ここで、E:締固めエネルギー(J/L(リットル))
ρ:コンクリート密度
αmax:計測時間内最大加速度(加速度計計測値)
0:計測時間(10sec)
f:振動数(Hz)
(b)偏心質量、振動数の設定
バイブレータとしては、上述した偏心質量としておよそ0.005〜0.010N・mの範囲の構造仕様のものを設定可能である。そのうち、性能試験のために3種類(0.005、0.007、0.009(N・m)の異なる偏心質量を有するバイブレータについて、それぞれのバイブレータが適正に運転可能と設定した範囲内で振動数を変化させて、試験体のコンクリート締固めを行った。具体的には振動数130〜230Hzの範囲で、適当な間隔をあけた3振動数を段階変化させるものとした。
【0025】
(2)コンクリート締固め効果確認試験
型枠内に打設されたコンクリートを、性能確認するためのバイブレータで締固めを行い、型枠内のコンクリートの所定位置に配置された加速度計により、振動発生源から所定距離だけ離れた位置での加速度を計測する。その計測値から(式1)を用いて締固めエネルギーを算定する。
(a)コンクリート試験体と加速度計設置位置
図2は、コンクリート締固め効果確認試験用の型枠全体図(同図(a))と加速度計設置位置での型枠内断面図(同図(b))を示している。図2(b)に示したように、型枠20内に打設されたコンクリート21の締固め作業における加速度を、バイブレータ挿入位置(振動源位置)から3計測点(100,300,500mm)に埋設された加速度計22A,22B,22Cを用いて計測する。
(b)使用コンクリート
以下の仕様のコンクリートを図2(a)に示した型枠20内に打設する。
普通コンクリート
使用セメント:普通ポルトランドセメント
水セメント比:W/C=64.8%
最大粗骨材寸法:20mm
スランプ:8±2.5cm
(c)バイブレータ振動試験
振動試験としては、異なる構造仕様(本発明3種類、従来品(既製品))4本のバイブレータを、所定振動数範囲(範囲内の3振動数を段階変化)で動作させてコンクリート締固め作業を行う。データ(加速度)計測は、バイブレータの挿入位置でのバイブレータ振動による締固めを開始後、各加速度計位置に十分コンクリートが充填されて締固め状態に達したことを確認した後、加速度計22A,22B,22Cによって行う(本実施形態では計測時間内(10秒間)での最大加速度を抽出した)。
(d)締固めエネルギーの算出
各振動試験における試験条件および、計測された最大加速度をもとに、(式1)によって、各試験における締固めエネルギー値を算出する。
【0026】
(3)試験結果
(a)最適偏心質量と振動数
図3は、3種類(0.005、0.007、0.009(N・m))の偏心質量において、それぞれ締固めエネルギーの変化が確認できるように、所定間隔をあけて設定された3振動数(130〜230(Hz))での締固めエネルギーを算出して示したグラフである。同図に示したように、偏心質量が0.007(N・m)、0.009(N・m)に設定されたバイブレータを用いて締固めを行ったところ、150〜200Hzの範囲で締固めエネルギーと振動数との間に有意な増加傾向が確認できた。特に偏心質量0.009(N・m)のバイブレータで、振動数が180Hzのときに高効率の締固めエネルギーが得られることが確認された。
【0027】
また、図4は4種類のバイブレータ(本発明品(φ27)、比較品(φ28遊星運動タイプ)、従来品(φ30高周波タイプ))による、バイブレータ挿入位置から3計測点(100,300,500mm)における締固めエネルギーの比較を行った結果を示したグラフである。同図に示したように、本発明のバイブレータは挿入位置(振動発生位置)から30cmまでの範囲でもっとも減衰が小さいことが認められた。実際の工事におけるコンクリート締固め間隔が50cm程度以下に規定されていることから、規定されたバイブレータの挿入間隔での締固め作業において、十分なコンクリート締固めを行うことができることが確認された。
【0028】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0029】
1 電動モータ
3 駆動伝達ケーブル
4 インバータ
10 バイブレータ
12 振動筒
13,14 軸受
15 偏心ウエイト
20 型枠
21 コンクリート
22A,22B,22C 加速度計
図1
図2
図3
図4