(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132262
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20170515BHJP
C08G 63/672 20060101ALI20170515BHJP
C08K 5/523 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
C08L67/02
C08G63/672
C08K5/523
【請求項の数】16
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-531305(P2013-531305)
(86)(22)【出願日】2012年8月27日
(86)【国際出願番号】JP2012071597
(87)【国際公開番号】WO2013031730
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年7月8日
(31)【優先権主張番号】特願2011-187016(P2011-187016)
(32)【優先日】2011年8月30日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 敦子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和誠
【審査官】
佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−344939(JP,A)
【文献】
特開2010−006965(JP,A)
【文献】
特開2009−155412(JP,A)
【文献】
特開2004−091693(JP,A)
【文献】
特開平04−201431(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/126506(WO,A1)
【文献】
特開平08−134260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00−67/08
C08G 63/00−63/91
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸単位とジオール単位とを含み、前記ジオール単位中1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位である、ポリエステル樹脂(A)と、
前記ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、下記一般式(1)で表されるリン化合物(B)
(ただし、分子量100〜500のリン酸エステル化合物を除く)を0.005〜2重量部と、
塩基性化合物(C)を0〜2重量部と、
を含有する、ポリエステル樹脂組成物
(ただし、末端構造の少なくとも1個がアミノ基であり、分子中にアルキレンオキシド単位を少なくとも1個含む3個以上の官能基を有する多官能性化合物を含まない)。
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立して、アリール基を表し、Xは炭素数6〜15の芳香族ジヒドロキシ化合物由来の2価の基を表す。nは1〜5の整数である。)
【請求項2】
前記塩基性化合物(C)の含有量が、前記ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、0.0005〜2重量部である、請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記塩基性化合物(C)が、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩である、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記環状アセタール骨格を有するジオール単位が、
一般式(2):
【化2】
(式中、R
5及びR
6はそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
又は一般式(3):
【化3】
(式中、R
5は前記と同様であり、R
7は炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
で表されるジオールに由来するジオール単位である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記環状アセタール骨格を有するジオール単位が、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンに由来するジオール単位、又は5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンに由来するジオール単位である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記ジオール単位のうち、前記環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる1種以上のジオールに由来するジオール単位である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記ジカルボン酸単位が、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,7−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
前記リン化合物(B)の融点が50℃以上150℃以下である、請求項1〜7いずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
ジカルボン酸単位とジオール単位とを含み、前記ジオール単位中1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位である、ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、下記一般式(1)で表されるリン化合物(B)
(ただし、分子量100〜500のリン酸エステル化合物を除く)を0.005〜2重量部及び塩基性化合物(C)を0〜2重量部混合する、ポリエステル樹脂組成物
(ただし、末端構造の少なくとも1個がアミノ基であり、分子中にアルキレンオキシド単位を少なくとも1個含む3個以上の官能基を有する多官能性化合物を含まない)の製造方法。
【化4】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立して、アリール基を表し、Xは炭素数6〜15の芳香族ジヒドロキシ化合物由来の2価の基を表す。nは1〜5の整数である。)
【請求項10】
前記塩基性化合物(C)の混合量が、前記ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、0.0005〜2重量部である、請求項9に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記塩基性化合物(C)が、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩である、請求項9又は10に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記環状アセタール骨格を有するジオール単位が、
一般式(2):
【化5】
(式中、R
5及びR
6はそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
又は一般式(3):
【化6】
(式中、R
5は前記と同様であり、R
7は炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
で表されるジオールに由来するジオール単位である、請求項9〜11のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記環状アセタール骨格を有するジオール単位が3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンに由来するジオール単位、又は5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンに由来するジオール単位である、請求項9〜11のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記ジオール単位のうち、環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる1種以上のジオールに由来するジオール単位である、請求項9〜13のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
前記ジカルボン酸単位が、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,7−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位である、請求項9〜14のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
前記リン化合物(B)の融点が50℃以上150℃以下である、請求項9〜15のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエステル樹脂組成物に関し、詳しくは、特定のポリエステル樹脂及び特定のリン化合物を含有するポリエステル樹脂組成物及びその製造方法、さらには、特定のポリエステル樹脂、特定のリン化合物及び塩基性化合物を含有するポリエステル樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と言うことがある)は機械的性能、耐溶剤性、保香性、リサイクル性等にバランスのとれた樹脂であり、ボトル、シート、フィルム等の用途を中心に大量に用いられている。しかしながら、PETは結晶性が高いため、厚みのある成形体やシートを製造しようとすると、結晶化により白化し、透明性が損なわれてしまう。また、PETのガラス転移温度は80℃程度であるため、自動車内で使用する製品、輸出入用の包装材、レトルト処理や電子レンジ加熱を行う包装材等高い耐熱性、透明性が要求される用途には利用できなかった。
【0003】
一方、PETと化学構造のよく類似した透明ポリエステル樹脂であるポリエチレンナフタレ−ト(以下「PEN」と言うことがある)は、PETのジカルボン酸単位がナフタレンジカルボン酸単位であるポリエステルであり、PETとほぼ同じ成型物(ボトル等)の加工が可能であり、そのリサイクル使用の可能性も有している。PENは剛直な分子構造を有するために、耐熱性(ガラス転移温度110℃程度)、ガスバリヤー性等の面でPETよりも優れる特長を有しているが、非常に高価であり、更にPETと同様に結晶性が高いため、厚みのある成形体やシートを製造しようとすると、結晶化により白化し、透明性が損なわれてしまう欠点がある。
【0004】
そこで、透明性を必要とする用途には1,4−シクロヘキサンジメタノールで一部共重合された変性PETやイソフタル酸で一部変性された変性PETといった低結晶性ポリエステル樹脂が用いられている。しかし、これらの樹脂のガラス転移温度は80℃前後であり、PETと比較して依然として耐熱性の改善はなされていないのが現状である。
【0005】
一方、環状アセタール骨格を有するジオールを含むポリエステル樹脂(例えば、特許文献1)は、高い透明性を持ちながらPETやPENの耐熱性を改善したポリエステル樹脂であり、透明性と耐熱性が要求される用途での利用が可能である。また、当該樹脂は結晶性を抑えた樹脂であり、厚みのある成形体やシートを製造しても結晶化による白化等の不具合はなく透明な成形体を容易に得ることができる。しかしながら、通常の直接エステル化法により、前記樹脂を製造すると環状アセタール骨格の分解による樹脂の分子量の低下やゲル化、分子量分布の増大が起こりやすい問題があった。
【0006】
環状アセタール骨格を有するジオールを含むポリエステル樹脂の熱分解度を抑制し、成形体の外観を良好にする方法として、特許文献2は、製造時に塩基性化合物を使用することを提案する。
また、特許文献3は、耐衝撃性等の機械物性や黄色度が小さい環状アセタール骨格を有するジオールを含むポリエステル樹脂を提供する方法として、リン酸トリメチル等のリン化合物の存在下、特定のエステルと環状アセタール骨格を有するジオールとをチタン化合物の存在下でエステル交換反応させてオリゴマーを製造した後、前記オリゴマーを高分子量化する方法を提案する。
【0007】
他方、環状アセタール骨格を有するジオールを含むポリエステル樹脂からなる層と、他のポリエステル樹脂、アクリル樹脂等からなる透明樹脂層を用いることにより透明性と耐熱性を備える多層シートを形成することも提案されている(例えば特許文献4、5)。
【0008】
さらに、特許文献6は、耐熱性、透明性に優れ、成形時に着色しにくいポリエステル樹脂組成物を提供する方法として、環状アセタール骨格を有するジオールを含むポリエステル樹脂とリン系酸化防止剤等とを含有する組成物を提案する。
また、特許文献7は、製造時や成形時の加熱加工時における黄着色、分子量低下、ゲル状成分発生といった熱劣化が起きにくいポリエステル樹脂組成物を提供する方法として、環状アセタール骨格を有するジオールを含むポリエステル樹脂と特定のホスファイト等のリン系酸化防止剤等とを含有する組成物を提案する。
【0009】
なお、一般に、リン化合物がポリエステル樹脂の重縮合反応触媒を失活させうることが知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−69165号公報
【特許文献2】特開2005−314643号公報
【特許文献3】特開2006−225621号公報
【特許文献4】特開2003−182014号公報
【特許文献5】特開2008−188875号公報
【特許文献6】特開2004−67830号公報
【特許文献7】特開2007−326890号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】湯木和男編、飽和ポリエステル樹脂ハンドブック、p142〜145、日刊工業新聞社、1989年、12月22日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記従来技術によって得られるポリエステル樹脂組成物は、熱安定性や外観の点から、いまだ十分とはいえない。
特に、昨今の押出機による成形のように押出機内に樹脂が長時間滞留する場合において、過度に加熱され環状アセタール骨格の分解、環状アセタール骨格を有するジオールの多官能化によってゲル化、分子量低下、着色、コゲを生じやすいといった新たな課題が発生し、高温で長時間連続して成形品を製造するといった過酷な条件下においても使用に耐え得る、更なる熱安定性が求められている。
また、環状アセタール骨格を有するジオールを含むポリエステル樹脂からなる層と他の樹脂からなる層とを含む多層シートにおいて各層を構成する樹脂との粘度や融点が異なる場合、外観良好なシートを得るために、成形温度を、環状アセタール骨格を有するジオールを含むポリエステル樹脂の成形温度よりも高く設定する場合が多く、このような場合、塩基性化合物やリン化合物の使用による効果は充分とはいえず、着色やゲル状物が生じやすい問題があった。
本発明は、前記従来技術の欠点を克服し、長時間高温加熱加工時の熱安定性が改善され、外観の優れたポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエステル樹脂と、特定のリン化合物(或いは特定のリン化合物と特定の塩基性化合物)とを特定量含有するポリエステル樹脂組成物が、高温での成形加工時の熱安定性が向上し、環状アセタール骨格を有するジオールの分解やゲル状物の発生、分子量低下、黄着色等、成形品の外観品質や物性の低下を起こしにくく、さらに透明性に優れることを見出し、本発明に到達した。
また、環状アセタール骨格を有するジオール単位を含むポリエステル樹脂の重合反応終了後に、ポリエステル樹脂に対して特定のリン化合物(或いは特定のリン化合物及び特定の塩基性化合物)を特定量配合せしめることで、高温での成形加工時の熱安定性が向上し、環状アセタール骨格を有するジオールの分解やゲル状物の発生、分子量低下、黄着色等、成形品の外観品質や物性の低下を起こしにくく、さらに透明性に優れたポリエステル樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明はつぎのとおりである。
〔1〕
ジカルボン酸単位とジオール単位とを含み、前記ジオール単位中1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位である、ポリエステル樹脂(A)と、
前記ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、下記一般式(1)で表されるリン化合物(B)(ただし、分子量100〜500のリン酸エステル化合物を除く)を0.005〜2重量部と、
塩基性化合物(C)を0〜2重量部と、
を含有する、ポリエステル樹脂組成物(ただし、末端構造の少なくとも1個がアミノ基であり、分子中にアルキレンオキシド単位を少なくとも1個含む3個以上の官能基を有する多官能性化合物を含まない)。
【化1】
(式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して、アリール基を表し、Xは炭素数6〜15の芳香族ジヒドロキシ化合物由来の2価の基を表す。nは1〜5の整数である。)
〔2〕
前記塩基性化合物(C)の含有量が、前記ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、0.0005〜2重量部である、〔1〕に記載のポリエステル樹脂組成物。
〔3〕
前記塩基性化合物(C)が、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩である、〔1〕又は〔2〕に記載のポリエステル樹脂組成物。
〔4〕
前記環状アセタール骨格を有するジオール単位が、
一般式(2):
【化2】
(式中、R5及びR6はそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
又は一般式(3):
【化3】
(式中、R5は前記と同様であり、R7は炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
で表されるジオールに由来するジオール単位である、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
〔5〕
前記環状アセタール骨格を有するジオール単位が、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンに由来するジオール単位、又は5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンに由来するジオール単位である、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
〔6〕
前記ジオール単位のうち、前記環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる1種以上のジオールに由来するジオール単位である、〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
〔7〕
前記ジカルボン酸単位が、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,7−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位である、〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
〔8〕
前記リン化合物(B)の融点が50℃以上150℃以下である、〔1〕〜〔7〕いずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
〔9〕
ジカルボン酸単位とジオール単位とを含み、前記ジオール単位中1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位である、ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、下記一般式(1)で表されるリン化合物(B)(ただし、分子量100〜500のリン酸エステル化合物を除く)を0.005〜2重量部及び塩基性化合物(C)を0〜2重量部混合する、ポリエステル樹脂組成物(ただし、末端構造の少なくとも1個がアミノ基であり、分子中にアルキレンオキシド単位を少なくとも1個含む3個以上の官能基を有する多官能性化合物を含まない)の製造方法。
【化4】
(式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して、アリール基を表し、Xは炭素数6〜15の芳香族ジヒドロキシ化合物由来の2価の基を表す。nは1〜5の整数である。)
〔10〕
前記塩基性化合物(C)の混合量が、前記ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、0.0005〜2重量部である、〔9〕に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
〔11〕
前記塩基性化合物(C)が、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩である、〔9〕又は〔10〕に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
〔12〕
前記環状アセタール骨格を有するジオール単位が、
一般式(2):
【化5】
(式中、R5及びR6はそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
又は一般式(3):
【化6】
(式中、R5は前記と同様であり、R7は炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
で表されるジオールに由来するジオール単位である、〔9〕〜〔11〕のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
〔13〕
前記環状アセタール骨格を有するジオール単位が3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンに由来するジオール単位、又は5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンに由来するジオール単位である、〔9〕〜〔11〕のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
〔14〕
前記ジオール単位のうち、環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる1種以上のジオールに由来するジオール単位である、〔9〕〜〔13〕のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
〔15〕
前記ジカルボン酸単位が、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,7−ナフタレンジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位である、〔9〕〜〔14〕のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
〔16〕
前記リン化合物(B)の融点が50℃以上150℃以下である、〔9〕〜〔15〕のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、長時間高温加熱加工時の熱安定性が改善され、外観の優れたポリエステル樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する(以下、本実施の形態と称する)。なお、本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施の形態のみに限定されない。
【0022】
[ポリエステル樹脂組成物]
本実施の形態のポリエステル樹脂組成物は、ジカルボン酸単位とジオール単位とを含み、ジオール単位中1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位である、ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、下記一般式(1)で表されるリン化合物(B)を0.005〜2重量部及び塩基性化合物(C)を0〜2重量部含有する。
【0023】
【化7】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立して、アリール基を表し、Xは炭素数6〜15の芳香族ジヒドロキシ化合物由来の2価の基を表す。nは1〜5の数である。)
【0024】
<ポリエステル樹脂(A)>
本実施の形態で用いられるポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸単位とジオール単位とを含みジオール単位中1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位である。
ここで、ポリエステル樹脂の化学構造は、後記のような
1H−NMR分析によって決定できる。
本実施の形態において、環状アセタール骨格を有するジオール単位は、下記の一般式(2)又は(3)で表される化合物に由来する単位が好ましい。
【0026】
【化9】
(式(2)及び(3)中、R
5、R
6、及びR
7はそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数が3〜10の脂環式炭化水素基、及び炭素数が6〜10の芳香族炭化水素基からなる群から選ばれる炭化水素基を表す。)
一般式(2)又は(3)で表される化合物のうち、光学特性、耐熱性、機械物性の点から、特に好ましい化合物は、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、又は5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンである。
【0027】
本実施の形態において、環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位としては特に制限はされないが、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルジオール類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類;上記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び上記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等のジオール化合物に由来するジオール単位が例示できる。
本実施の形態のポリエステル樹脂の機械的性能、経済性等の点から、環状アセタール骨格を有するジオール単位以外のジオール単位は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく、特にエチレングリコールが好ましい。
上記で例示したジオール単位は単独で使用することもできるし、複数を併用することもできる。
【0028】
本実施の形態で用いられるポリエステル樹脂(A)のジカルボン酸単位としては、特に制限はされないが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位が例示できる。
本実施の形態のポリエステル樹脂の機械的性能及び耐熱性の点から、ジカルボン酸単位は、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,7−ナフタレンジカルボン酸といった芳香族ジカルボン酸に由来するジカルボン酸単位が好ましく、特にテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、及びイソフタル酸に由来するジカルボン酸単位が好ましい。中でも、経済性の点から、テレフタル酸に由来するジカルボン酸単位がもっとも好ましい。
前記例示したジカルボン酸は単独で使用することもできるし、複数を併用することもできる。
【0029】
本実施の形態で用いられるポリエステル樹脂(A)は、全ジオール単位中に、環状アセタール骨格を有するジオール単位を1〜60モル%、好ましくは5〜50モル%、特に好ましくは10〜45モル%の割合で有する。環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合が上記範囲の場合には、ポリエステル樹脂(A)は結晶性が低下し、ガラス転移温度が高くなるため、高い透明性と耐熱性を有する樹脂となる。
【0030】
本実施の形態で用いられるポリエステル樹脂(A)の溶融粘度は、特に制限されないが、測定温度240℃、剪断速度100s
−1で測定した際に700〜5000Pa・sの範囲であることが好ましい。溶融粘度が上記範囲にあると成形性により一層優れる。
【0031】
本実施の形態で用いられるポリエステル樹脂(A)のガラス転移点は、特に制限されないが、耐熱性の点から、85〜150℃であることが好ましく、より好ましくは90〜130℃である。ここで、ポリエステル樹脂(A)のガラス転移点は、後記のとおり、示差走査熱量測定(DSC)により測定できる。
【0032】
本実施の形態で用いられるポリエステル樹脂(A)の数平均分子量(Mn)は、特に制限されないが、機械的強度の点から、8000〜30000であることが好ましく、より好ましくは10000〜25000である。また、本実施の形態で用いられるポリエステル樹脂(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、特に制限されないが、成形性の点から、2.5〜12.0であることが好ましく、より好ましくは2.5〜8.0である。ここで、数平均分子量(Mn)や分子量分布(Mw/Mn)は、後記のとおり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定できる。
【0033】
本実施の形態のポリエステル樹脂組成物における、ポリエステル樹脂(A)の含有量は、特に制限されないが、耐熱性、成形加工性の点から、ポリエステル樹脂組成物100重量部に対して、50重量部以上であることが好ましく、60重量部以上であることがより好ましい。
【0034】
<リン化合物(B)>
本実施の形態で用いられるリン化合物(B)は、下記式(1)で表される。これらは単独で用いることもできるし、2種以上を同時に用いることもできる。
【0036】
前記式(1)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4はそれぞれ独立してアリール基を表す。前記アリール基は、特に制限されないが、例えば、フェニル、クレジル、キシレニル、トルイル、キシリル、クメニル、メシチル、ベンジル、フェネチル、スチリル、シンナミル、ベンズヒドリル、トリチル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、フェニルフェニル、ベンジルフェニル、p−クミルフェニル、ジノニルフェニル、α‐ナフチル、β‐ナフチル等が挙げられる。中でもフェニル、クレジル、キシレニルが好ましく、キシレニルが特に好ましい。
【0037】
前記式(1)中、Xは炭素数6〜15の芳香族ジヒドロキシ化合物由来の2価の基を表す。上記Xの基は、特に制限されないが、例えば、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール由来の基が挙げられる。得られるエステル樹脂組成物の熱安定性の点から、前記のうち、レゾルシン、ハイドロキノン、ビスフェノールA由来の基であることが好ましく、レゾルシン由来の基であることが特に好ましい。nは、1〜5の整数を表し、好ましくは1〜3、特に好ましくは1である。
【0038】
前記式(1)で示されるリン化合物の具体例としては、例えば、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、フェニレンビス(フェニルクレジルフォスフェート)、1,3−フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)、フェニレンビス(ジクレジルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジクレジルホスフェート)等を挙げることができる。熱安定性や耐加水分解性に優れ、低揮発性であり、樹脂の透明性を阻害し難く、粉末で取り扱いが容易であり、耐熱性を特に向上させることができることから、1,3−フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)が特に好ましい。
【0039】
本実施の形態において、リン化合物(B)の融点は、成形加工時の取り扱いの点から、50〜150℃であることが好ましく、より好ましくは70〜120℃である。ここで、融点測定器によって測定される。
【0040】
本実施の形態において、リン化合物(B)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、0.005〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部、より好ましくは0.02〜0.5重量部、最も好ましくは0.02〜0.1重量部である。含有量が0.005重量部以上であると得られるポリエステル樹脂組成物の熱安定性は向上し、2重量部以下であるとポリエステル樹脂の透明性が良好となる。
【0041】
<塩基性化合物(C)>
本実施の形態において、塩基性化合物(C)は、特に制限されるものではないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、水酸化物、カルボン酸塩、酸化物、塩化物、アルコキシド;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩、水酸化物、カルボン酸塩、酸化物、アルコキシド:トリメチルアミン、トリエチルアミン等のアミン化合物が例示できる。
これらの中で、アルカリ金属の炭酸塩、水酸化物、及びカルボン酸塩;アルカリ土類金属の炭酸塩、水酸化物、及びカルボン酸塩が好ましく、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のカルボン酸塩が特に好ましい。アルカリ金属及びアルカリ土類金属のカルボン酸塩を用いることで、熱安定性を特に向上させることができ、更に透明性が特に優れたものとなる。アルカリ金属及びアルカリ土類金属のカルボン酸塩は、特に制限されないが、例えば蟻酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、イソ酪酸塩、カプロン酸塩、カプリル酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ソルビン酸塩、安息香酸塩等が挙げられ、中でも酢酸塩、プロピオン酸塩、イソ酪酸塩、ヘキサン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、ステアリン酸塩、ソルビン酸塩、安息香酸塩が好ましい。アルカリ金属及びアルカリ土類金属としてはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムが好ましく、カリウムが特に好ましい。これらの中で、酢酸カリウム、ステアリン酸カリウムが特に好ましい。これらは単独で用いることもできるし、2種以上を同時に用いることもできる。
【0042】
本実施の形態において、塩基性化合物(C)の含有量は、機械物性や透明性の点から、ポリエステル樹脂(A)100重量部に対し、0〜2重量部、好ましくは0.0005〜2重量部、より好ましくは0.001〜1重量部、最も好ましくは0.005〜0.5重量部である。
【0043】
<他の任意成分>
本実施の形態のポリエステル樹脂組成物は、目的を阻害しない範囲内でリン化合物(B)及び塩基性化合物(C)以外に他の樹脂や各種添加剤を含有してもよい。これらは単独で加えてもよいし、2種以上を併用して加えてもよい。
【0044】
他の樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、1,4−シクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリスチレン等のスチレン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;アクリル樹脂;フェノール樹脂;エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0045】
また、各種添加剤としては、特に制限されないが、例えば、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、染顔料、無機フィラー等が挙げられる。
【0046】
[ポリエステル樹脂組成物の製造方法]
本実施の形態のポリエステル樹脂組成物の製造方法では、ジカルボン酸単位とジオール単位とを含みジオール単位中1〜60モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位である、ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、下記一般式(1)で表されるリン化合物(B)を0.005〜2重量部及び塩基性化合物(C)を0〜2重量部混合する。
【0047】
【化11】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立して、アリール基を表し、Xは炭素数6〜15の芳香族ジヒドロキシ化合物由来の2価の基を表す。nは1〜5の整数である。)
本実施の形態の製造方法は、ポリエステル樹脂(A)の重合反応終了後にリン化合物(B)及び塩基性化合物(C)を混合する点が特徴である。一般に、リン化合物がポリエステル樹脂の重縮合反応触媒を失活させうることが知られているが(非特許文献1参照)、本実施の形態の製造方法によれば、ポリエステル樹脂の重合反応終了後にリン化合物を混合するため、重合反応の進行を阻害することなく、添加量を任意に調整することが可能となる。
【0048】
ポリエステル樹脂(A)、リン化合物(B)、塩基性化合物(C)については、各々前記のとおりである。
本実施の形態において、ポリエステル樹脂(A)とリン化合物(B)及び塩基性化合物(C)を混合する方法としては、特に制限されないが、ポリエステル樹脂(A)をペレット化した後にドライブレンドする方法、更にそのドライブレンドしたものを押出機等で溶融混練する方法、押出機等を用いて溶融したポリエステル樹脂(A)に添加する方法が採用される。
【0049】
本実施の形態において、ポリエステル樹脂(A)とリン化合物(B)及び塩基性化合物(C)を混合する方法は、特に制限されず、混合装置としては、公知の装置を用いることができ、例えばタンブラー、高速ミキサー、ナウターミキサー、リボン型ブレンダー、ミキシングロール、ニーダー、インテンシブミキサー、単軸押出機、二軸押出機等の混合、混練装置を挙げることができる。また、ゲートミキサー、バタフライミキサー、万能ミキサー、ディゾルバー、スタティックミキサー等の液体混合装置を用いることもできる。
【0050】
本実施の形態の製造方法で得られたポリエステル樹脂組成物を用いて成形する方法は、従来公知の成形方法を用いることができ、特に制限されるものではないが、例えば、射出成形、押出成形、カレンダー成形、押出し発泡成形、押出しブロー成形、インジェクションブロー成形等を挙げることができる。
【0051】
本実施の形態のポリエステル樹脂組成物は、熱安定性に優れることから、射出成形体、押出成形体、シート、シート成形品、未延伸フィルム、延伸フィルム、インジェクションブローボトル、ダイレクトブローボトル、発泡体等種々の用途に好適用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその範囲を制限されるものではない。
【0053】
[原料]
本実施例及び比較例で使用した原料を以下に示す。
(1−1)リン化合物(1)
1,3−フェニレンビス(ジキシレニルホスフェート)「PX−200」(大八化学工業製、商品名)
化学構造式:
【0054】
【化12】
分子量:686、融点:95℃、リン含有率:9.0%
【0055】
(1−2)リン化合物(2)
ビスフェノールA(ビスジフェニルホスフェート)「FP−600」(ADEKA製、商品名)
化学構造式:
【0056】
【化13】
分子量:692(主成分)、リン含有率:8.9%
【0057】
(1−3)リン化合物(3)
トリエチルホスフェート(純正化学製)
化学構造式:
【0058】
【化14】
分子量:182、リン含有比率:17.0%
【0059】
(1−4)リン化合物(4)
モノステアリルアシッドホスフェート及びジステアリルアシッドホスフェートの混合物「AX−71」(ADEKA製、商品名)
化学構造式:
【0060】
【化15】
分子量:約490、融点:68〜75℃、リン含有率:約6.3%
【0061】
(1−5)リン化合物(5)
6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル)プロポキシ]2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]−ジオキサホスフェピン「GP」(住友化学製、商品名)
化学構造式:
【0062】
【化16】
分子量:661、融点:115℃、リン含有率:4.7%
【0063】
(1−6)リン化合物(6)
トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト「IRGAFOS168」(チバ・ジャパン製、商品名)
化学構造式:
【0064】
【化17】
分子量:647、融点:183〜186、リン含有率:4.8%
【0065】
(2−1)塩基性化合物(1)
酢酸カリウム(純正化学製)
(2−2)塩基性化合物(2)
ステアリン酸カリウム(純正化学製)
【0066】
[測定方法]
後記ポリエステル樹脂(A−1)、(A−2)の物性等は以下の方法で測定した。
【0067】
(1)環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合
ポリエステル樹脂中の環状アセタール骨格を有するジオール単位の割合は、ポリエステル樹脂20mgを1gの重クロロホルムに溶解し、
1H−NMR測定により、ピーク面積比から算出した。測定装置は日本電子(株)製JNM−AL400(商品名)を用い、400MHzで測定した。
【0068】
(2)ガラス転移温度
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は島津製作所製DSC/TA−50WSを使用し、試料約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30ml/min)気流中昇温速度20℃/minで測定し、DSC曲線の転移前後における基線の差の1/2だけ変化した温度をガラス転移温度とした。
【0069】
(3)分子量(数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mn)
ポリエステル樹脂2mgを20gのクロロホルムに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレンで検量したものをMn、Mwとした。GPCは東ソー株式会社製TOSOH 8020に東ソー株式会社製カラムGMHHR−Lを2本、TSK G5000HRを1本接続し、カラム温度40℃で測定した。溶離液はクロロホルムを1.0ml/minの流速で流し、UV検出器で測定した。
【0070】
(4)溶融粘度
測定装置は東洋精機製 Capirograph1C(キャピログラフ)を用い、下記の条件で測定した。
温度:240℃、予熱時間:1min、ノズル径:1mm、ノズル長:10mm、剪断速度:100(1/sec)。
【0071】
[評価方法]
ポリエステル樹脂組成物は以下の方法で評価した。
(1)ゲル化率
ポリエステル樹脂組成物ペレットをSUS製容器に密封し、290℃で15時間、18時間及び20時間加熱した後、クロロホルムに溶解し、不溶物を吸引ろ過した。フィルターを恒量に達するまで真空乾燥し、初期ペレット量に対する重量比をゲル化率として算出した。ゲル化率が1%未満のものを○、1%以上10%未満のものを△、10%以上のものを×とした。
【0072】
(2)Mn低下率
ポリエステル樹脂組成物ペレットをSUS製容器に密封し、290℃で15時間、18時間及び20時間加熱した。加熱前及び加熱後の樹脂2mgをクロロホルム20gに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレンで検量したものをMnとした。GPCは東ソー株式会社製TOSOH 8020(商品名)に東ソー株式会社製カラムGMHHR−Lを2本、TSK G5000HRを1本接続し、カラム温度40℃で測定した。溶離液はクロロホルムを1.0ml/minの流速で流し、UV検出器で測定した。加熱前のMnに対する加熱後のMnの低下率を算出した。Mn低下率が80%未満のものを○、80%以上85%未満のものを△、85%以上のものを×とした。
【0073】
(3)熱分解度
ペレット10mgを株式会社島津製作所製DTG−50(商品名)にて窒素流量50ml/min、昇温速度10℃/minで40℃から500℃まで昇温し、初期の重量に対する減量率が10%となる温度を求めた。当該値が405℃以上のものを○、405℃未満395℃以上のものを△、395℃未満のものを×とした。
【0074】
〔ポリエステル樹脂(A−1)、(A−2)の製造〕
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、攪拌機、加熱装置、窒素導入管を備えた150リットルのポリエステル樹脂製造装置に表1に記載の量のテレフタル酸(PTA)とエチレングリコール(EG)を仕込み、常法にてエステル化反応を行った。得られたエステルに表1に記載の量の解重合用エチレングリコール(解重合用EG)と、二酸化ゲルマニウム(GeO
2)を加え、225℃、窒素気流下で解重合を行なった。生成する水を留去しつつ3時間反応を行った後、215℃、13.3kPaでエチレングリコールを留去した。得られたエステルに表1に記載量のテトラ−n−ブチルチタネート(TBT)、酢酸カリウム(AcOK)、リン酸トリエチル(TEP)、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(SPG)を添加し、225℃、13.3kPaで3時間反応を行った。得られたエステルを昇温、減圧し、最終的に270℃、高真空化(300Pa以下)で重縮合反応を行い、所定の溶融粘度となったところで反応を終了し、ポリエステル樹脂(A−1)及び(A−2)を得た。
【0075】
【表1】
【0076】
[実施例1〜7、比較例1〜5]
表2〜5に示す割合でポリエステル樹脂(A)とリン化合物(B)及び塩基性化合物(C)とをタンブラーを用いて乾式混合し、二軸押出機(東芝機械株式会社製TEM37BS)により溶融混練を行い、ペレット状のポリエステル樹脂組成物を得た。溶融混練の条件は、シリンダー温度210〜240℃、ダイ温度240℃、スクリュー回転数100rpmであった。
得られたポリエステル樹脂組成物を前記の方法により評価した。得られた評価結果を表2〜5に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
なお、本出願は、2011年8月30日に日本国特許庁に出願された日本特許出願(特願2011−187016号)に基づく優先権を主張しており、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)が非晶性であり且つ高いガラス転移温度を有し、成形性及び耐熱性に優れ、熱安定性に優れ、さらには透明性にも優れることから、例えば、ボトル等の容器、射出成形体、発泡体、フィルムやシート等の包装材料等の形態でOA機器、情報・通信機器、家庭電化機器等の電気・電子機器、自動車分野、食品分野、建築分野等様々な分野において幅広く利用することができる。
また、本発明のポリエステル樹脂組成物は、長時間高温での加熱加工時のゲル状物の発生、分子量低下、黄着色等を起こしにくいため、成形時において生産速度を損なうことなく長時間連続して所望の成形品を製造することが可能となる。