特許第6132279号(P6132279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6132279-ニッケル水素二次電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132279
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】ニッケル水素二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/30 20060101AFI20170515BHJP
   H01M 4/32 20060101ALI20170515BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20170515BHJP
   H01M 4/52 20100101ALI20170515BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20170515BHJP
   C22C 19/00 20060101ALI20170515BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20170515BHJP
   C22C 1/00 20060101ALN20170515BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170515BHJP
   B22F 7/04 20060101ALN20170515BHJP
   B22F 3/11 20060101ALN20170515BHJP
【FI】
   H01M10/30 Z
   H01M10/30 A
   H01M4/32
   H01M4/38 A
   H01M4/52
   C22F1/10 Z
   C22C19/00 F
   C22C19/03 Z
   !C22C1/00 N
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 628
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 661C
   !C22F1/00 641A
   !C22F1/00 621
   !B22F7/04 C
   !B22F3/11 A
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-77939(P2012-77939)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-206866(P2013-206866A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】武井 雅朗
(72)【発明者】
【氏名】山根 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】井本 雄三
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 武
(72)【発明者】
【氏名】高須 大
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−045480(JP,A)
【文献】 特開2004−179064(JP,A)
【文献】 特開2000−294234(JP,A)
【文献】 特開2003−092134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/24−10/30
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に電極群がアルカリ電解液とともに密閉状態で収容され、前記電極群がセパレータを介して互いに重ね合わされた正極及び負極からなるニッケル水素二次電池において、
前記ニッケル水素二次電池内にはLiが含まれており、前記ニッケル水素二次電池内でのLiの総量は、LiをLiOHに換算し、正極の容量1Ah当たりの質量として求めた場合、15〜50(mg/Ah)であり、
前記負極は、
希土類元素、Mg及びNiを含む希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を有しており、
前記希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、
Mn及びCoを除いて構成された組成からなり、
前記正極は、
正極活物質粒子を含み、
前記正極活物質粒子は、
水酸化ニッケルを主成分とするベース粒子と、
前記ベース粒子の表面を覆う導電層とを有しており、
前記導電層は、Co化合物からなり、前記Co化合物の結晶中にはLiが取り込まれている、
ことを特徴とするニッケル水素二次電池。
【請求項2】
前記希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、
一般式:Ln1−xMg(Ni1−y(ただし、式中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ca、Sr、Sc、Y、Ti、ZrおよびHfから選ばれる少なくとも一つの元素、Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe、Al、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、PおよびBから選ばれる少なくとも一つの元素、添字x、y、zは、それぞれ0<x≦1、0≦y≦0.5、2.5≦z≦4.5を示す)で表される組成を有する
ことを特徴とする請求項に記載のニッケル水素二次電池。
【請求項3】
前記正極は、
添加剤としてY化合物、Nb化合物及びW化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載のニッケル水素二次電池。
【請求項4】
前記アルカリ電解液は、
LiOHを含んでいる
ことを特徴とする請求項1〜の何れかに記載のニッケル水素二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル水素二次電池は、ニッケルカドミウム二次電池に比べて高容量で、且つ環境安全性にも優れているという点から、用途が拡大し、各種の携帯電子機器等に使用されるようになっている。
【0003】
このようなニッケル水素二次電池に用いられる正極としては、例えば、非焼結式正極が知られている。この非焼結式正極は、例えば、以下のようにして製造される。まず、正極活物質としての水酸化ニッケル粒子、結着剤及び水を混練して正極合剤ペーストを作製し、この正極合剤ペーストを3次元網状の骨格構造を有した発泡ニッケルシートからなる集電体に充填する。次いで、ペーストの乾燥プロセス及び正極合剤を緻密化させる集電体のロール圧延プロセスを経ることにより正極の中間製品を形成する。その後、当該中間製品を所定寸法に裁断することにより非焼結式正極が製造される。この非焼結式正極は、焼結式正極に比べて正極活物質を高密度で充填できるメリットがある。
【0004】
ところで、従来の非焼結式正極は、活物質を高密度で充填できるものの、活物質としての水酸化ニッケル粒子の導電性が比較的低いため、活物質の利用率が低くかった。このように、活物質の利用率が低くいと、充電及び放電の電池反応が円滑に進行され難いといった不具合が生じる。
【0005】
そこで、非焼結式正極における活物質の利用率を高めるために、正極合剤に水酸化コバルト粉末等のコバルト化合物を導電剤として添加することが知られている(例えば、特許文献1参照)。このように、正極合剤に正極活物質としての水酸化ニッケルと、導電剤としてのコバルト化合物とを含んでいる正極は、ニッケル水素二次電池に組み込まれると、前記コバルト化合物がアルカリ電解液中にコバルト酸イオンとして溶解し、水酸化ニッケルの表面に一様に分散する。その後、前記コバルト酸イオンは、電池の初充電時に導電性の高いオキシ水酸化コバルトに酸化され、活物質相互間及び活物質と集電体との間をつなぐ導電性ネットワークを形成する。その結果、活物質相互間及び活物質と集電体との間の導電性は高められ、それにともない活物質の利用率が向上する。
【0006】
ところで、上記したような携帯電子機器は、近年、ますます普及し、それにともない、様々なユーザーにより様々な使い方がなされるようになっている。ここで、ユーザーによっては、電子機器の電源を切り忘れることも予想される。このように、電源の切り忘れによりニッケル水素二次電池が負荷につながれた状態で長期間放置されると、斯かる電池は、使用可能電圧範囲(例えば、0.8V以上)以下となるまで放電される。そして、電池の容量がなくなった後も更にこの放電状態のまま長期間放置されると、いわゆる深放電状態となる。
【0007】
上記したような導電性ネットワークが形成されている電池が深放電状態となると、正極の電位がオキシ水酸化コバルトの還元電位以下となるため、当該導電性ネットワークを形成しているオキシ水酸化コバルトが還元されて溶出してしまう。そして、オキシ水酸化コバルトの還元・溶出が起こると、前記導電性ネットワークは部分的に破壊されてしまうため、正極の導電性は低下して充電受入性が損なわれるとともに正極活物質の利用率が低下してしまう。このため、斯かる電池に再度充電しても、初期の容量値まで充電容量を回復させることが困難となる。ここで、深放電後における充電容量の回復度合いを容量回復性として表現すれば、この容量回復性が高いほど、深放電後の充電の際、充電容量が当初の容量に近い値に達することを意味する。
【0008】
用途が拡大したニッケル水素二次電池においては、過酷な使用態様により深放電状態になったとしても、再充電により所定の容量に回復できるように容量回復性の向上が望まれている。このような容量回復性の改善が試みられた電池としては、例えば、特許文献2のアルカリ蓄電池が知られている。
【0009】
特許文献2のアルカリ蓄電池は、正極中に導電剤としてリチウムとコバルトの複合酸化物を添加し、この複合酸化物により導電性ネットワークを形成するものである。この複合酸化物は、還元反応に対して比較的高い安定性を有するので、電池が深放電状態となっても分解や溶出反応は起こりにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62−237667号公報
【特許文献2】特許3191751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、ニッケル水素二次電池の用途の更なる拡大にともない、ニッケル水素二次電池においてはより過酷な状況で使用されることが想定される。このような場合、特許文献2の電池などの従来の電池の容量回復性は充分ではなく、更なる容量回復性の向上が望まれている。特に、電池が深放電状態に繰り返し置かれるような過酷な状況では、コバルトの還元反応に対する安定性が大幅に損なわれていくので、深放電の繰り返し回数が増加するにしたがい導電性ネットワークは徐々に破壊されていき、その範囲が広がっていく。これにともない活物質の導電性は低下し、活物質の利用率も低下していくので、深放電が繰り返された電池は、再充電しても当初の充電容量に回復させることが困難となる。
【0012】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、より高い容量回復性と、深放電の繰り返しに対する耐久性とを備えるニッケル水素二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明者は、ニッケル水素二次電池において、深放電後の容量回復性を向上させるとともに深放電の繰り返しに対する耐久性も向上させる手段を鋭意検討した。本発明者は、この検討過程で、深放電後の容量回復性及び深放電の繰り返しに対する耐久性(以下、これらの特性を併せて耐深放電性という)を向上させるには、正極活物質表面の導電性ネットワーク中のオキシ水酸化コバルトの還元・溶出に対する耐久性を高める必要があり、このオキシ水酸化コバルトの耐久性は、正極に取り込まれるリチウムの量及び負極に含まれる水素吸蔵合金の種類により影響を受けることを見出した。このような知見から、本発明者は、電池内のリチウムの総量を制御するとともに負極に用いる水素吸蔵合金を特定し、ニッケル水素二次電池の構成の組合せを最適化することにより、本発明に想到した。
【0014】
すなわち、本発明によれば、容器内に電極群がアルカリ電解液とともに密閉状態で収容され、前記電極群がセパレータを介して互いに重ね合わされた正極及び負極からなるニッケル水素二次電池において、前記ニッケル水素二次電池内にはLiが含まれており、前記ニッケル水素二次電池内でのLiの総量は、LiをLiOHに換算し、正極の容量1Ah当たりの質量として求めた場合、15〜50(mg/Ah)であり、前記負極は、希土類元素、Mg及びNiを含む希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を有しており、前記希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、Mn及びCoを除いて構成された組成からなり、前記正極は、正極活物質粒子を含み、前記正極活物質粒子は、水酸化ニッケルを主成分とするベース粒子と、前記ベース粒子の表面を覆う導電層とを有しており、前記導電層は、Co化合物からなり、前記Co化合物の結晶中にはLiが取り込まれている、ことを特徴とするニッケル水素二次電池が提供される(請求項1)。
【0016】
より好ましくは、前記希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、一般式:Ln1−xMg(Ni1−y(ただし、式中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ca、Sr、Sc、Y、Ti、ZrおよびHfから選ばれる少なくとも一つの元素、Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe、Al、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、PおよびBから選ばれる少なくとも一つの元素、添字x、y、zは、それぞれ0<x≦1、0≦y≦0.5、2.5≦z≦4.5を示す)で表される組成を有する構成とする(請求項)。
【0018】
より好ましくは、前記正極は、添加剤としてY化合物、Nb化合物及びW化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む構成とする(請求項)。
【0019】
また、前記アルカリ電解液は、LiOHを含んでいる構成とすることが好ましい(請求項)。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るニッケル水素二次電池は、電池内に含まれるLiの総量をLiOH量に換算した値で、正極の容量1Ah当たり15〜50mg/Ahとする構成と、負極の水素吸蔵合金として希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いる構成とを備えている。これらの構成の組合せにより、導電性ネットワークの破壊を抑制する効果が発揮されるので、本発明の電池は、高い容量回復性を示す。しかも、この導電性ネットワークの破壊を抑制する効果は、深放電が繰り返し行われてもほぼ維持されるため、本発明の電池は、深放電の繰り返しに対しても優れた耐久性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るニッケル水素二次電池を部分的に破断して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るニッケル水素二次電池(以下、単に電池と称する)2を、図面を参照して説明する。
本発明が適用される電池2としては特に限定されないが、例えば、図1に示すAサイズの円筒型の電池2に本発明を適用した場合を例に説明する。
【0023】
図1に示すように、電池2は、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶10を備えている。外装缶10は導電性を有し、その底壁35は負極端子として機能する。外装缶10の開口内には、導電性を有する円板形状の蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁37をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁37に固定されている。即ち、蓋板14及び絶縁パッキン12は互いに協働して外装缶10の開口を気密に閉塞している。
【0024】
ここで、蓋板14は中央に中央貫通孔16を有し、そして、蓋板14の外面上には中央貫通孔16を塞ぐゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うようにしてフランジ付き円筒形状の正極端子20が固定され、正極端子20は弁体18を蓋板14に向けて押圧している。なお、この正極端子20には、図示しないガス抜き孔が開口されている。
【0025】
通常時、中央貫通孔16は弁体18によって気密に閉じられている。一方、外装缶10内にガスが発生し、その内圧が高まれば、弁体18は内圧によって圧縮され、中央貫通孔16を開き、この結果、外装缶10内から中央貫通孔16及び正極端子20のガス抜き孔を介してガスが放出される。つまり、中央貫通孔16、弁体18及び正極端子20は電池のための安全弁を形成している。
【0026】
外装缶10には、電極群22が収容されている。この電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28からなり、これらは正極24と負極26との間にセパレータ28が挟み込まれた状態で渦巻状に巻回されている。即ち、セパレータ28を介して正極24及び負極26が互いに重ね合わされている。電極群22の最外周は負極26の一部(最外周部)により形成され、外装缶10の内周壁と接触している。即ち、負極26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。
【0027】
そして、外装缶10内には、電極群22の一端と蓋板14との間に正極リード30が配置されている。詳しくは、正極リード30は、その一端が正極24の内端に接続され、その他端が蓋板14に接続されている。従って、正極端子20と正極24とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続されている。なお、蓋板14と電極群22との間には円形の絶縁部材32が配置され、正極リード30は絶縁部材32に設けられたスリット39を通して延びている。また、電極群22と外装缶10の底部との間にも円形の絶縁部材34が配置されている。
【0028】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。このアルカリ電解液は、電極群22に含浸され、正極24と負極26との間での充放電反応を進行させる。このアルカリ電解液としては、特に限定はされないが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、及びこれらのうち2つ以上を混合した水溶液等をあげることができる。
【0029】
セパレータ28の材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したものを用いることができる。
【0030】
正極24は、多孔質構造を有する導電性の正極集電体と、この正極集電体の空孔内に保持された正極合剤とからなる。
このような正極集電体としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状若しくは繊維状の金属体、あるいは、発泡ニッケルシートを用いることができる。
【0031】
正極合剤は、図1中円S内に概略的に示されているように、正極活物質粒子36と、結着剤42とを含む。この結着剤42は、正極活物質粒子36を互いに結着させると同時に正極合剤を正極集電体に結着させる働きをなす。ここで、結着剤42としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ディスパージョンなどを用いることができる。
【0032】
一方、上記した正極活物質粒子36は、ベース粒子38と、ベース粒子38の表面を覆う導電層40とを有している。
【0033】
ベース粒子38は、水酸化ニッケル粒子又は高次の水酸化ニッケル粒子である。ベース粒子38の平均粒径は、8μm〜20μmの範囲内に設定することが好ましい。即ち、非焼結式正極においては、正極活物質の表面積を増大させることにより、正極の電極反応面積を増大させることができ、電池の高出力化を図ることができるので、正極活物質のベースとなるベース粒子38としても、その平均粒径を20μm以下の小径粒子とすることが好ましい。ただしベース粒子の表面に析出させる導電層40の厚さを同等とした場合に、ベース粒子38を小径にするほど導電層40の部分の割合が多くなり単位容量の低下を招く弊害がある。また、ベース粒子38の製造歩留まりを考慮して粒径は8μm以上とすることが好ましい。より好ましい範囲は、10μm〜16μmである。
【0034】
なお、上記した水酸化ニッケルには、コバルト及び亜鉛のうちの少なくとも一方を固溶させることが好ましい。ここで、コバルトは正極活物質粒子間の導電性の向上に寄与し、亜鉛は、充放電サイクルの進行に伴う正極の膨化を抑制し、電池のサイクル寿命特性の向上に寄与する。
【0035】
ここで、水酸化ニッケル粒子に固溶される上記元素の含有量は、水酸化ニッケルに対して、コバルトが2〜6重量%、亜鉛が3〜5重量%とすることが好ましい。
【0036】
ベース粒子38は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、硫酸ニッケルの水溶液を調製する。この硫酸ニッケル水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させることにより水酸化ニッケルからなるベース粒子38を析出させる。ここで、水酸化ニッケル粒子に亜鉛及びコバルトを固溶させる場合は、所定組成となるよう硫酸ニッケル、硫酸亜鉛及び硫酸コバルトを秤量し、これらの混合水溶液を調製する。得られた混合水溶液を攪拌しながら、この混合水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させることにより水酸化ニッケルを主体とし、亜鉛及びコバルトを固溶したベース粒子38を析出させる。
【0037】
導電層40は、リチウムを含有しているコバルト化合物(以下、リチウム含有コバルト化合物という)からなる。このリチウム含有コバルト化合物は、詳しくは、オキシ水酸化コバルト(CoOOH)やコバルト水酸化物(Co(OH)2)などのコバルト化合物の結晶中にリチウムが取り込まれた化合物である。このリチウム含有コバルト化合物は極めて高い導電性を有することから、正極内にて活物質の利用率を高めることができる良好な導電性ネットワークを形成する。
【0038】
この導電層40は、以下の手順により形成される、
まず、ベース粒子38をアンモニア水溶液中に投入し、この水溶液中に硫酸コバルト水溶液を加える。これにより、ベース粒子38を核として、この核の表面に水酸化コバルトが析出し、水酸化コバルトの層を備えた中間体粒子が形成される。得られた中間体粒子は、高温環境下にて空気中に対流させられ、水酸化リチウム水溶液が噴霧されつつ、所定の加熱温度、所定の加熱時間で加熱処理が施される。ここで、前記加熱処理は、80℃〜100℃で、30分〜2時間保持することが好ましい。この処理により、前記中間体粒子の表面の水酸化コバルトは、導電性の高いコバルト化合物(オキシ水酸化コバルト等)となるとともにリチウムを取り込む。これにより、リチウムを含有したコバルト化合物からなる導電層40で覆われた正極活物質粒子36が得られる。
【0039】
ここで、導電層40としてのコバルト化合物には、更に、ナトリウムを含有させると、導電層の安定性が増すので、好ましい。前記コバルト化合物にナトリウムを更に含有させるには、高温環境下にて空気中に対流させられた前記中間体粒子に対し、水酸化リチウム水溶液とともに水酸化ナトリウム水溶液を噴霧して加熱処理を行う。これにより、リチウム及びナトリウムを含有したコバルト化合物からなる導電層40で覆われた正極活物質粒子36が得られる。
【0040】
正極24は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、上記したようにして得られた正極活物質粒子36、水及び結着剤42を含む正極合剤ペーストを調製する。正極合剤ペーストは例えばスポンジ状のニッケル製金属体に充填され、乾燥させられる。乾燥後、水酸化ニッケル粒子等が充填された金属体は、ロール圧延されてから裁断され、正極24が作製される。
【0041】
このようにして得られた正極24中においては、図1中の円Sに示すように、表面が導電層40で覆われたベース粒子38からなる正極活物質粒子36が互いに接触し、斯かる導電層40により導電性ネットワークが形成される。
【0042】
ここで、正極24には、添加剤として、Y化合物、Nb化合物及びW化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種を更に添加することが好ましい。この添加剤は、深放電が繰り返された場合に、導電層からコバルトが溶出することを抑制し、導電性ネットワークが破壊されることを抑える。このため、繰り返しの深放電に対する耐久性の向上に寄与する。なお、前記Y化合物としては、例えば、酸化イットリウム、前記Nb化合物としては、例えば、酸化ニオブ、前記W化合物としては、例えば、酸化タングステン等を用いることが好ましい。
【0043】
この添加剤は、正極合剤中に添加され、その含有量は、正極活物質粒子100重量部に対して、0.2〜2重量部となる範囲に設定することが好ましい。これは、添加剤の含有量が、0.2重量部より少ないと、導電層からのコバルトの溶出を抑える効果が得られず、2重量部を超えると前記効果は飽和してしまうとともに、正極活物質の量が相対的に低下し容量低下を招くからである。
【0044】
本発明の電池2においては、電池内に含まれるLiの総量が特定される。本発明者は、ニッケル水素二次電池の耐深放電性を向上させるべく鋭意検討した過程において、電池内のLiの量を制御することが、深放電後の容量回復性の更なる向上と深放電の繰り返しに対する耐久性の向上に有効であることを見出し、電池内での適正なLiの量を特定した。以下、斯かるLiについて詳しく説明する。
【0045】
本発明の電池においては、電池内に含まれるLiの総量Wは、LiをLiOHに換算し、正極の容量1Ah当たりの質量として求めた場合、W=15〜50(mg/Ah)とする。
【0046】
Liの総量Wが15(mg/Ah)より少ないと、耐深放電性の向上の効果は小さい。一方、Liの総量Wは多いほど耐深放電性が向上する。しかしながら、Liの総量Wが50(mg/Ah)を超えると電池の低温放電特性が低下するといった弊害が生じてくるので、上限は50(mg/Ah)とする。また、好ましくは、Liの総量Wの範囲を40(mg/Ah)<W≦50(mg/Ah)とする。
【0047】
電池内にLiOHの形でLiを存在させる方法としては、正極活物質粒子に対してLiOHを用いてアルカリ処理する方法、アルカリ電解液にLiOHを添加する方法、正極合剤ペースト中にLiOHを混入する方法、セパレータにLiOHを担持させる方法、負極の水素吸蔵合金をLiOHで処理する方法等を挙げることができ、これらの方法を単独、あるいは組み合わせて採用することが好ましい。ここで、上記した実施態様のような正極活物質粒子に対してLiOHを用いてアルカリ処理する方法は、正極にLiを偏在させる処理が簡易に行えるので好適である。また、アルカリ電解液に水酸化リチウム水溶液を採用した場合、アルカリ電解液の組成は、LiOHの飽和に近い組成とすることが好ましい。
【0048】
次に、負極26について説明する。
本発明者は、正極におけるオキシ水酸化コバルト等のコバルト化合物の耐久性を向上させる検討の過程で、負極の水素吸蔵合金として、AB5型構造の合金のようにMn及びCoを含む水素吸蔵合金を用いた場合、これらのMn及びCoといった成分がアルカリ電解液中に溶出するとともに正極活物質表面に到達し導電性ネットワークのオキシ水酸化コバルト等を還元・溶出させることを見出した。そこで、Mn及びCoを必要としない希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を採用することとした。この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を含む負極26について、以下に詳しく説明する。
【0049】
負極26は、帯状をなす導電性の負極基板(芯体)を有し、この負極基板に負極合剤が保持されている。
負極基板は、貫通孔が分布されたシート状の金属材からなり、例えば、パンチングメタルシートや、金属粉末を型成形して焼結した焼結基板を用いることができる。負極合剤は、負極基板の貫通孔内に充填されるばかりでなく、負極基板の両面上にも層状にして保持されている。
【0050】
負極合剤は、図1中円R内に概略的に示されているが、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子44、導電助剤46及び結着剤48を含む。この結着剤48は水素吸蔵合金粒子44及び導電助剤46を互いに結着させると同時に負極合剤を負極基板に結着させる働きをなす。ここで、結着剤48としては親水性若しくは疎水性のポリマー等を用いることができ、導電助剤46としては、カーボンブラックや黒鉛を用いることができる。
【0051】
水素吸蔵合金粒子44における水素吸蔵合金としては、希土類元素、Mg、Niを含む希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金が用いられる。詳しくは、Mn及びCoを除いて構成された組成からなる希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金である。より詳しくは、この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の組成は、一般式:
Ln1−xMg(Ni1−y・・・(I)
で表されるものが用いられる。
ただし、一般式(I)中、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ca、Sr、Sc、Y、Ti、ZrおよびHfから選ばれる少なくとも一つの元素、Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe、Al、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、PおよびBから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、添字x、y、zは、それぞれ0<x≦1、0≦y≦0.5、2.5≦z≦4.5を満たす数を表す。
【0052】
この希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の結晶構造は、AB2型及びAB5型が組み合わされたいわゆる超格子構造をなしている。
【0053】
水素吸蔵合金粒子44は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるよう金属原材料を秤量して混合し、この混合物を例えば誘導溶解炉で溶解してインゴットにする。得られたインゴットに、900〜1200℃の不活性ガス雰囲気下にて5〜24時間加熱する熱処理を施す。この後、インゴットを粉砕し、篩分けにより所望粒径に分級して、水素吸蔵合金粒子44が得られる。
【0054】
また、負極26は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子44からなる水素吸蔵合金粉末、導電助剤46、結着剤48及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極基板に塗着され、乾燥させられる。乾燥後、水素吸蔵合金粒子44等が付着した負極基板はロール圧延及び裁断が施され、これにより負極26が作製される。
【0055】
以上のようにして作製された正極24及び負極26は、セパレータ28を介在させた状態で、渦巻き状に巻回され、電極群22に形成される。
【0056】
このようにして得られた電極群22は、外装缶10内に収容される。引き続き、当該外装缶10内には所定量のアルカリ電解液が注入される。その後、電極群22及びアルカリ電解液を収容した外装缶10は、正極端子20を備えた蓋板14により封口され、本発明に係る電池2が得られる。
【0057】
以上のように、本発明の電池2は、電池2内に含まれるLiの総量を特定する構成と、負極26に含まれる水素吸蔵合金の種類を特定する構成とが組み合わされていることを特徴としている。本発明の電池2は、斯かる構成の組合せにより、深放電後の容量回復性が高く、しかも、深放電状態に繰り返し置かれたとしても、導電性ネットワークの破壊は有効に抑制される。このため、本発明の電池2は、繰り返し深放電状態となった後に再度充電しても、当初の容量に近い充電容量まで回復でき、深放電の繰り返しに対する耐久性を備えた優れた電池となっている。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
1.電池の製造
(1)正極の作製
ニッケルに対して亜鉛4重量%、コバルト1重量%となるように、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛及び硫酸コバルトを秤量し、これらを、アンモニウムイオンを含む1N(規定度)の水酸化ナトリウム水溶液に加え、混合水溶液を調整した。得られた混合水溶液を攪拌しながら、この混合水溶液に10N(規定度)の水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させ、ここでの反応中、pHを13〜14に安定させて、水酸化ニッケルを主体とし、亜鉛及びコバルトを固溶したベース粒子38を生成させた。
【0059】
得られたベース粒子38を10倍の量の純水で3回洗浄した後、脱水、乾燥した。なお、得られたベース粒子38は、平均粒径が10μmの球状をなしている。
【0060】
次に、得られたベース粒子38をアンモニア水溶液中に投入し、その反応中のpHを9〜10に維持しながら硫酸コバルト水溶液を加えた。これにより、ベース粒子38を核として、この核の表面に水酸化コバルトが析出し、厚さ約0.1μmの水酸化コバルトの層を備えた中間体粒子を得た。ついで、この中間体粒子を80℃の環境下にて酸素を含む高温空気中に対流させ、12N(規定度)の水酸化ナトリウム水溶液及び4N(規定度)の水酸化リチウム水溶液を噴霧して、45分間の加熱処理を施した。これにより、前記中間体粒子の表面の水酸化コバルトが、導電性の高いオキシ水酸化コバルトとなるとともに、オキシ水酸化コバルトの層中にナトリウム及びリチウムが取り込まれ、ナトリウム及びリチウムを含有したコバルト化合物からなる導電層40が形成される。その後、斯かるオキシ水酸化コバルトの層を備えた粒子を濾取し、水洗いしたのち、60℃で乾燥させた。このようにして、ベース粒子38の表面にナトリウム及びリチウムを含有したオキシ水酸化コバルトからなる導電層40を有した正極活物質粒子36を得た。
【0061】
次に、作製した正極活物質粒子100重量部に、0.3重量部の酸化イットリウム、0.2重量部のHPC(結着剤42)及び0.2重量部のPTFE(結着剤42)のディスバージョン液を混合して正極活物質ペーストを調製し、この正極活物質ペーストを正極集電体としての発泡ニッケルシートに塗着・充填した。正極活物質粒子が付着した発泡ニッケルシートを乾燥後、ロール圧延して裁断し、リチウムを含有した正極24を得た。ここで、得られた正極中の正極合剤は、図1中円Sに示すように、表面が導電層40で覆われたベース粒子38からなる正極活物質粒子36が互いに接触して存在する態様をなしており、斯かる導電層40により導電性ネットワークが形成されている。
【0062】
(2)水素吸蔵合金及び負極の作製
先ず、60重量%のランタン、20重量%のサマリウム、5重量%のプラセオジム、15重量%のネオジムを含む希土類成分を調製した。得られた希土類成分、ニッケル、マグネシウム、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.90:0.10:3.40:0.10の割合となる混合物を調製した。得られた混合物は、誘導溶解炉で溶解され、インゴットとされた。次いで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間加熱する熱処理を施し、その組成が(La0.60Sm0.20Pr0.05Nd0.150.90Mg0.10Ni3.40Al0.10となる水素吸蔵合金のインゴットを得た。この後、このインゴットをアルゴンガス雰囲気中で機械的に粉砕して篩分けし、400メッシュ〜200メッシュの間に残る水素吸蔵合金粒子からなる粉末を選別した。得られた水素吸蔵合金の粉末の粒度を測定した結果、水素吸蔵合金粒子の平均粒径は60μmであった。
【0063】
得られた水素吸蔵合金の粉末100重量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウム0.4重量部、カルボキシメチルセルロース0.1重量部、スチレンブタジエンゴム(SBR)のディスバージョン(固形分50重量%)1.0重量部(固形分換算)、カーボンブラック1.0重量部、および水30重量部を添加して混練し、負極合剤のペーストを調製した。
【0064】
この負極合剤のペーストを負極基板としての鉄製の孔あき板の両面に均等、且つ、厚さが一定となるように塗布した。なお、この孔あき板は60μmの厚みを有し、その表面にはニッケルめっきが施されている。
ペーストの乾燥後、水素吸蔵合金の粉末が付着した孔あき板を更にロール圧延して裁断し、超格子構造の水素吸蔵合金を含むAサイズ用の負極26を作成した。
【0065】
(3)ニッケル水素二次電池の組み立て
得られた正極24及び負極26をこれらの間にセパレータ28を挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群22を作製した。ここでの電極群22の作製に使用したセパレータ28はポリプロピレン繊維製不織布から成り、その厚みは0.1mm(目付量40g/m2)であった。
【0066】
有底円筒形状の外装缶10内に上記電極群22を収納するとともに、KOH、NaOH及びLiOHを含む水溶液からなるアルカリ電解液を所定量注液した。ここで、KOHの濃度は5N(規定度)、NaOHの濃度は3.0N(規定度)、LiOHの濃度は0.7N(規定度)とした。この後、蓋板14等で外装缶10の開口を塞ぎ、公称容量が2700mAhのAサイズのニッケル水素二次電池2を組み立てた。このニッケル水素二次電池を電池Aと称する。
【0067】
なお、電池A内の前記アルカリ電解液中に含まれるLiOHの質量を測定したところ、33mgであった。この値を電解液中のLiOH量として表1に示す。また、電池A内に含まれるLiOHの総質量を求めたところ61mgであった。この値を電池内のLiOH量として表1に示す。そして、この電池内のLiOH量をもとに正極の単位容量当たりのLiOHの質量を求めたところ、23mg/Ahであった。この値を単位容量当たりのLiOH量として表1に示す。
【0068】
(4)初期活性化処理
電池Aに対し、温度25℃の下にて、0.1Cの充電電流で16時間の充電を行った後に、0.2Cの放電電流で電池電圧が0.5Vになるまで放電させる初期活性化処理を2回繰り返した。このようにして、使用可能状態の電池Aを得た。
【0069】
(実施例2〜4)
中間体粒子に噴霧する水酸化リチウム水溶液の濃度を適宜変更し、電池内に含まれる正極の単位容量当たりのLiOHの質量を表1に示すように変化させたこと以外は、実施例1の電池Aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池B〜D)を得た。
【0070】
(実施例5)
正極を作製する際に、正極合剤ペーストに添加剤として酸化ニオブの粉末0.6重量部を更に添加したこと以外は、実施例1の電池Aと同様なニッケル水素二次電池(電池E)を得た。
なお、電池E内の正極の単位容量当たりのLiOHの質量は、23mg/Ahであった。
【0071】
(比較例1)
正極を作製する際に、中間体粒子に12N(規定度)の水酸化ナトリウム水溶液のみ噴霧して加熱処理を行い、導電層にリチウムを含有させなかったこと、及び、負極を作製する際に、組成がMmNi3.80Co0.70Al0.30Mn0.40(但し、Mmはミッシュメタルを示す)となるAB5型構造の水素吸蔵合金を用いたこと以外は、実施例1の電池Aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池F)を得た。
なお、電池F内の正極の単位容量当たりのLiOHの質量は、12mg/Ahであった。
【0072】
(比較例2)
正極を作製する際に、中間体粒子に12N(規定度)の水酸化ナトリウム水溶液のみ噴霧して加熱処理を行い、導電層にリチウムを含有させなかったこと以外は、実施例1の電池Aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池G)を得た。
なお、電池G内の正極の単位容量当たりのLiOHの質量は、12mg/Ahであった。
【0073】
(比較例3)
負極を作製する際に、組成がMmNi3.80Co0.70Al0.30Mn0.40(但し、Mmはミッシュメタルを示す)となるAB5型構造の水素吸蔵合金を用いたこと以外は、実施例1の電池Aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池H)を得た。
なお、電池H内の正極の単位容量当たりのLiOHの質量は、23mg/Ahであった。
【0074】
(比較例4)
中間体粒子に噴霧する水酸化リチウム水溶液の濃度を適宜変更し、電池内に含まれる正極の単位容量当たりのLiOHの質量を51mg/Ahとしたこと以外は、実施例1の電池Aと同様にしてニッケル水素二次電池(電池I)を得た。
【0075】
2.ニッケル水素二次電池の評価
(1)深放電後の容量回復率
初期活性化処理済みの電池A〜電池Iに対し、25℃の雰囲気下にて、1.0Cの充電電流で電池電圧が最大値に達した後、10mV低下するまで充電するいわゆる−ΔV充電(以下、単に−ΔV充電という)を行い、その後、同一の雰囲気下にて1.0Cの電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電させたときの電池の放電容量を測定した。このときの放電容量を初期容量とする。ついで、電池の正極端子及び負極端子の間に2Ωの抵抗を接続し、60℃の雰囲気下で14日間放置して、電池を深放電状態とした。この後、斯かる電池を25℃の雰囲気下にて、1.0Cの充電電流で−ΔV充電を行い、その後、同一の雰囲気下にて1.0Cの電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電させることを1サイクルとし、これを1回繰り返した後の放電容量を測定した。この放電容量を1サイクル放置後容量とする。また、前記1サイクルを3回繰り返した後の放電容量を測定した。この放電容量を3サイクル放置後容量とする。そして、(II)式で示される1サイクル深放電後の容量回復率(%)及び(III)式で示される3サイクル深放電後の容量回復率(%)を求めた。
【0076】
1サイクル深放電後の容量回復率=(1サイクル放置後容量/初期容量)×100・・・(II)
3サイクル深放電後の容量回復率=(3サイクル放置後容量/初期容量)×100・・・(III)
そして、この結果を表1に示した。
【0077】
(2)低温放電特性
初期活性化処理済みの電池A〜電池Iに対し、0.1Cの充電電流で−ΔV充電を行い、その後、−10℃の低温雰囲気下で3時間放置した。
ついで、同一の低温雰囲気下にて0.1Cの放電電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電した。このとき各電池の放電容量を測定した。そして、比較例1の電池Fの放電容量を100として、各電池の放電容量との比を求め、その結果を低温放電特性比として表1に併せて示した。
【0078】
【表1】
【0079】
(3)表1の結果について
(i)電池内における正極の単位容量当たりのLiOH量が23mg/Ahである構成と、負極に含まれる水素吸蔵合金として希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いた構成とを組み合わせている実施例1の電池Aは、1サイクル深放電後の容量回復率が100%であり、当初の容量と、深放電後に再度充電した際の容量とが同じである。つまり、深放電状態となっても、当初の容量まで回復させることができている。また、3サイクル深放電後の容量回復率は、90%であり、深放電状態に繰り返し置かれた後に再度充電した場合でも、当初の容量に対し90%まで容量を回復させることができている。
【0080】
これは、実施例1の電池Aでは、電池内のLi量を比較的多くしたことにより正極活物質の導電性が向上し、当該活物質の利用率が高くなっていることと、水素吸蔵合金としてMn及びCoを必須としていない希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いたことによりMn及びCoによるオキシ水酸化コバルトの還元・溶出が抑制されたこととの相乗効果が得られたためと考えられる。
【0081】
(ii)これに対し、電池内における正極の単位容量当たりのLiOH量が12mg/Ahであり、しかも、負極に含まれる水素吸蔵合金としてMn及びCoを含むAB5型の水素吸蔵合金を用いている比較例1の電池Fは、1サイクル深放電後の容量回復率及び3サイクル深放電後の容量回復率が実施例1の電池Aの値よりも低い。
【0082】
これは、比較例1の電池Fでは、深放電状態になって正極電位がオキシ水酸化コバルトの還元電位以下となると、正極活物質表面のオキシ水酸化コバルトの還元・溶出が起き、導電性ネットワークの破壊が進行したものと考えられる。このため、導電性が低下し、容量の回復が充分行えなくなり、深放電後の容量が低下したものと考えられる。そして、深放電が繰り返されると、オキシ水酸化コバルトの還元・溶出がより進行するので、3サイクル深放電後の容量がより低下したものと考えられる。
【0083】
(iii)また、電池内における正極の単位容量当たりのLiOH量が12mg/Ahであり、負極に含まれる水素吸蔵合金として希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いた構成を有する比較例2の電池Gは、1サイクル深放電後の容量回復率が比較例1の電池Fよりも高いが、実施例1の電池Aよりも低い。そして、3サイクル深放電後の容量回復率は、80%であり充分な値ではない。
【0084】
これは、比較例2の電池Gでは、Mn及びCoを含まない希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いることで、これらの成分によるオキシ水酸化コバルトの還元・溶出を抑制しているので、比較例1の電池Fよりも1サイクル深放電後の容量回復率が高くなったと考えられる。しかし、深放電の繰り返しに対しては、充分な耐久性は発揮されず、オキシ水酸化コバルトの還元・溶出を抑制できなかったためと考えられる。
【0085】
(iv)更に、電池内における正極の単位容量当たりのLiOH量が23mg/Ahであり、負極に含まれる水素吸蔵合金としてMn及びCoを含むAB5型の水素吸蔵合金を用いている比較例3の電池Hは、1サイクル深放電後の容量回復率が比較例1の電池Fよりも高い値を示しているが、実施例1の電池Aよりも低い。そして、3サイクル深放電後の容量回復率は、85%であり充分な値ではない。
【0086】
これは、比較例3の電池Hでは、電池内のLi量を増加させ、オキシ水酸化コバルトの導電性を向上させているので、比較例1の電池Fよりも1サイクル深放電後の容量回復率が高くなったと考えられる。しかし、深放電の繰り返しに対しては、充分な耐久性は発揮されず、オキシ水酸化コバルトの還元・溶出を抑制できなかったためと考えられる。
【0087】
(v)また、電池内における正極の単位容量当たりのLiOH量を増やしていった実施例2〜4の電池B〜Dは、特に、3サイクル深放電後の容量回復率が電池Aよりも高くなっており、深放電の繰り返しに対する耐久性がより向上している。
【0088】
(vi)ここで、電池内における正極の単位容量当たりのLiOH量が51mg/Ahである比較例4の電池Iは、3サイクル深放電後の容量回復率が比較的高い値を示すが、低温放電特性が低い。これより、LiOH量の増加は、深放電の繰り返しに対する耐久性の向上には有効であるが、過剰に多くなると低温放電特性の低下を招くことがわかる。
【0089】
(vii)以上より、電池内における正極の単位容量当たりのLiOH量が15〜50mg/Ahの範囲内にある構成と、負極に含まれる水素吸蔵合金として希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いた構成とを組み合わせることが、電池の耐深放電性の向上に有効であるといえる。
【0090】
(viii)更に、実施例1の電池Aの構成に正極添加剤として酸化ニオブを添加した構成の実施例5の電池Eは、3サイクル深放電後の容量回復率がより向上しており、深放電の繰り返しに対する耐久性の向上に酸化ニオブの追加が有効であることを示している。
【0091】
なお、本発明は、上記した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能であり、例えば、ニッケル水素二次電池は、角形電池であってもよく、機械的な構造は格別限定されることはない。また、負極に用いた希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、実施例に用いた組成に限定されるものではなく、一般式(I)で規定される組成の水素吸蔵合金を採用すれば同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0092】
2 ニッケル水素二次電池
22 電極群
24 正極
26 負極
28 セパレータ
36 正極活物質粒子
38 ベース粒子
40 導電層
44 水素吸蔵合金粒子
図1