【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、
図24のレンズアレイ素子では、X方向及びY方向に対して同じレンズ動作をさせることができない。この問題について
図26を用いて説明する。
図26(a)は、
図24のレンズアレイ素子をX方向から眺めた電圧無印加時の配向状態である。
図26(a)では、液晶は初期にY方向に配向している。このため、基板に対して微少なプレチルト角を有して、基板にほぼ平行に配向している。
【0011】
以上のレンズアレイ素子の上下基板間に電圧を与えた状態を示したのが、
図26(b)である。
図26(b)では液晶層に電圧が印加されるため、液晶が基板面から立ち上る。しかし、この立ち上る状態は初期のプレチルト角方向から決まるため、
図26(b)に示すように、幅Sxの電極の中心に対して非対称なものとなる。以上のように、
図26から分かるように、幅Sxの電極の中心に対して電極構造は対称なものの、電圧印加時の液晶配向状態は非対称なものとなる。このため、幅Sxの電極上にはX方向に延びた非対称なシリンドリカルレンズしか得ることができない。
【0012】
他方、
図27(a)は
図24のレンズアレイ素子をY方向から眺めた電圧無印加時の配向状態である。液晶はY方向に配向しているため、幅Syの電極上の液晶配向には初期から非対称性が存在しない。このため、上下基板に電圧を印加した
図27(b)の状態においても、幅Syの電極の中心に関して対称な液晶配向が得られる。このため、幅Syの電極上に対称なシリンドリカルレンズ構造を得ることができる。
【0013】
以上のように、液晶がY方向に初期配向している場合、
図25の3状態のうち、第3の状態であるX方向に延びたシリンドリカルレンズは非対称なレンズ構造しか得られないことが分かる。また、液晶がX方向に初期配向している場合、
図25の3状態のうち、第1の状態であるY方向に延びたシリンドリカルレンズは液晶の初期配向方向(X方向)と直交し、非対称なレンズ構造しか得られない。
【0014】
以上の非対称なシリンドリカルレンズを用いて3D表示を行った場合には、左目及び右目への光の分離を正しく行うことが出来ない。その結果、3Dクロストークの量が多くなったり、または、右目と左目で明るさが異なったりする。このため、高品質な立体表示が困難となり、非対称性が著しい場合には立体表示観察すること自体が不可能となる。
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、画面の明るさを保ったまま、縦置き画面あるいは横置き画面の両方で立体表示(以下、縦置き3D表示、横置き3D表示)を可能にした液晶レンズ素子及び表示装置並びに端末機を実現することである。また、合わせて、立体表示ではない通常表示(以下、2D表示)を可能にした液晶レンズ素子及び表示装置並びに端末機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の本発明は、対向する上基板及び下基板と両基板間に挟まれた液晶層とからなり、前記両基板の面内方向をxy平面としたときに、前記液晶層はx方向に初期配向方向を有し、前記上基板はx方向に電位勾配を発生させるA電極構造がx方向に並んだ繰り返し領域を有し、前記下基板はy方向に電位勾配を発生させるB電極構造がy方向に並んだ繰り返し領域を有し、なおかつ、前記A電極構造中央部にy方向に延伸した開口部を有することから構成される液晶レンズ素子である。
【0017】
第1の本発明の液晶レンズ素子について
図1を用いて説明する。本発明においては、液晶レンズ素子は、上基板1と下基板2、両者に挟まれた液晶層3からなっている。いま、
図1に示すように座標系を導入すれば、XY平面方向が前記基板の面内方向と一致する。本発明においては、初期の液晶配向方向はほぼX方向に一致している。この際に、実用上必要な小さなプレチルト角31があってもかまわない。さらに、本発明においては、上基板1上にX方向に電位勾配を発生する電極構造(A電極構造4と呼ぶ。)がX方向に周期的に配置されており、上基板1の面内に繰り返し領域を形成している。また、下基板2上にY方向に電位勾配を発生する電極構造(B電極構造5と呼ぶ。)がY方向に周期的に配置されており、下基板2の面内に繰り返し領域を形成している。
【0018】
図2を用いて、本発明の液晶レンズ素子の動作を説明する。
図2は、
図1の一つのA電極構造4のXZ断面での液晶配向状態を示している。特に、
図2(a)は電圧無印加時の初期の液晶配向状態を示している。液晶はプレチルト角を持ちながらも、ほぼX方向に平行に配向している。以上のA電極構造4とB電極構造5の間に電圧を印加すれば、液晶は基板に垂直になるように配向する。この際、A電極構造4のためにX方向に電位勾配が発生する。
【0019】
A電極構造4の具体的な例は後で述べられる。ここでは、
図3を用いてA電極構造4の働きを説明する。
図3は、
図1のX方向に沿った断面での液晶層に印加される電位分布を示している。A電極構造は繰り返し領域内でX方向に配置されているため、
図3(a)あるいは
図3(b)のような電位分布を液晶層に印加する。このため、
図3(a)では、A電極構造の中心付近で最も電位差が大きく、この付近の屈折率が最も小さくなり、いわゆる凹レンズ性能が得られる。一方、
図3(b)では、A電極構造単位の中心付近が最も電位差が小さく、この付近の屈折率が最も大きくなり、凸レンズ性能が得られる。以下の説明では、凸レンズの場合について説明するが、凹レンズでも同様に本発明の作用を説明することができる。
【0020】
図4は、凸レンズ性能の場合の液晶層に印加される電位差を示している。
図4(a)は対称な電極構造の効果から生じる対称な電位分布を示している。しかし、すでに従来技術の課題で述べたように、液晶層にはプレチルト角があるため、実際には
図4(b)に示すような非対称な電位分布が生じる。このため、非対称な屈折率分布しか得られなかった。一方、本発明では、A電極構造の中心部に開口部を有するため、この付近の液晶層の電位差はほぼ0となる。このため、
図4(c)に示すように、A電極構造単位の中心部の開口部に対応した電位差0の領域が生じる。以上のように、A電極構造内で対称な電位分布を得ることができる。
【0021】
以上の電位分布に対する液晶の配向状態を示した図が、
図2(b)である。
図2(b)ではA電極構造両端で大きな電位差が液晶層に印加されている。一方、A電極構造中央部ではほぼ0の電位差が液晶層に印加されている。このため、
図2(b)に示すような液晶の配向状態が得られ、中心部に対して対称な屈折率分布が得られる。
【0022】
第2の本発明は、前記A電極構造が前記上基板上に第1導電層、絶縁層、第2導電層を有し、前記第1導電層が前記上基板全面を覆う形状の電極であり、前記第2導電層がy方向に延伸したストライプ形状であることから構成される第1の本発明の液晶レンズ素子である。
【0023】
第2の本発明について
図5を用いて説明する。本発明においては、A電極構造4が、第1導電層7、絶縁層8、第2導電層9からなる。第1導電層は、A電極構造の全面を覆う形状を有しており、なおかつ一方向に延伸した開口部6を有している。その上部に絶縁層8、第2導電層9が配置されている。第2導電層の形状は一方向に延伸した形状となっている。
【0024】
以上の電極構造を持った液晶レンズ素子の構造を
図6に示す。
図6では、上基板1は
図5のA電極構造4の繰り返し構造を有している。X方向に電位勾配を発生させるために、前記A電極構造4の第2導電層9の延伸方向はY方向に一致している。また、開口部6の延伸方向はY方向と一致する。下基板2は第1導電層7、絶縁層8、X方向に延びた第2導電層9からなるB電極構造の繰り返し領域を有している。
図6に示すように、B電極構造中の第2導電層9の延伸方向をX方向に一致させておく。下基板2のこれら構成が、Y方向に電位勾配を発生させるB電極構造に相当する。また、液晶の配向方向をX方向に一致させておく。
【0025】
以上の液晶レンズ素子の動作を
図7の断面図を用いて説明する。
図7(a)では、上基板1上のすべての電極の電位はΦ0に設定し、下基板2の第1導電層7をΦ0に、第2導電層9をΦに設定する。但し、Φ≠Φ0とする。以上によって、下基板2上ではY方向に沿って電位勾配が発生する。また、上基板1上ではほぼ一定の電位Φ0となる。従って、液晶層3に印加される電位は、下基板2の第2導電層9付近ではΦ−Φ0となり最も電位差が大きくなり、第2導電層9と次の第2導電層9の中間位置では電位差は小さくなる。以上のようにして、Y方向に沿った第2導電層9から次の第2導電層9までの幅を一単位とした液晶配向状態が生じる。これがX方向に延びたシリンドリカルレンズに相当する。
【0026】
一方、
図7(b)に示すように、下基板2上の全電極の電位をΦ0と、上基板1上の第1導電層7、第2導電層9の電位を各々Φ0、Φと設定する。但し、Φ≠Φ0とする。これによって、X方向に沿って、上基板1の第2導電層9から次の第2導電層9を一単位とした液晶配向状態が生じる。この際に、既に述べた開口部6の働きにより、対称な液晶配向状態が得られる。これがY方向に延びたシリンドリカルレンズに相当する。
【0027】
以上のようにして、各電極の電位の設定により、X方向あるいはY方向に延びたシリンドリカルレンズを得ることができる。
【0028】
第3の本発明は、前記A電極構造が前記上基板上に第1導電層、第1絶縁層、第2導電層、第2絶縁層、抵抗膜を有し、前記第1導電層が前記上基板全面を覆う電極であり、前記第2導電層がy方向に延伸したストライプ形状であり、前記抵抗膜のシート抵抗が前記第1導電層あるいは前記第2導電層と前記第2絶縁層との中間に位置することから構成される第1の発明の液晶レンズ素子である。
【0029】
第3の本発明の構成について
図8を用いて説明する。第3の本発明においては、上基板1上に第1導電層7、第1絶縁層10、第2導電層9、第2絶縁層11、抵抗膜12が設けられている。第1導電層7はA電極構造4の全面を覆う形状を有し、一方向に延伸した開口部6を有している。また、第2導電層9は一方向に延びたストライプ形状である。また、抵抗膜12はA電極構造4の全面を覆う形状を有する。
【0030】
あるいは、
図9に示すように、
図8と積層構成は同じであるが、開口部6が抵抗膜12に設けられていてもよい。
図8及び
図9のいずれの開口部6も、A電極構造4の中心付近の電位に影響を与えることができる。
【0031】
図8のA電極構造4を用いて構成した液晶レンズ素子について
図10を用いて説明する。
図10では、上基板1のA電極構造はX方向に電位勾配が発生するように配置されている。下基板2上のB電極構造として
図8の構成で開口部を持たない電極構成を使用している。
図10から分かるように、A電極構造ではY方向に延びる第2導電層9を有し、B電極構造ではX方向に延びる第2導電層9を有している。
【0032】
以上の液晶レンズ素子の動作について
図11を用いて説明する。
図11においては、液晶の初期の配向方向はX方向に設定されている。
図11(a)では、上基板1上のすべての電位はΦ0に設定され、下基板2上の第1導電層7は電位Φ0に、第2導電層9は電位Φに設定される。以上のようにして、液晶層3に印加される電位分布はY方向に勾配をもつこととなる。この際、既に述べた説明と同様に、X方向に延びたシリンドリカルレンズに相当する液晶配向状態を得ることができる。
【0033】
一方、
図11(b)に示すように、下基板2上のすべての電位をΦ0に設定し、上基板1上の第1導電層7をΦ0、第2導電層9をΦに設定することにより、液晶層3に印加される電位分布にX方向の勾配を持たせることができる。この際、すでに述べた開口部6の働きにより、液晶初期配向方向がX方向にも関わらず、対称な液晶配向状態を得ることができる。この場合、Y方向に延びたシリンドリカルレンズとして働く。
【0034】
以上のように、X方向に延びたシリンドリカルレンズ機能あるいはY方向に延びたシリンドリカルレンズ機能の両者を実現することができる。
【0035】
第4の本発明は、対向する上基板及び下基板と両基板間に挟まれた液晶層とからなり、前記両基板の面内方向をxy平面としたときに、前記液晶層はx方向に初期配向方向を有し、前記上基板はx方向に電位勾配を発生させるA電極構造がx方向に並んだ繰り返し領域を有し、前記下基板はy方向に電位勾配を発生させるB電極構造がy方向に並んだ繰り返し領域を有し、なおかつ、前記A電極構造中央部にy方向に延伸した中央部電極を有することから構成される液晶レンズ素子である。
【0036】
本発明の液晶レンズ素子について
図12を用いて説明する。
図12では、上基板1、下基板2、液晶層3からなる液晶レンズ素子が示されている。各基板上には、X方向に電位勾配を発生させることができるA電極構造4がX方向に並んだ繰り返し領域、Y方向に電位勾配を発生させることができるB電極構造5がY方向に並んだ繰り返し領域が各々配置されている。さらに、
図12ではA電極構造4の中央部にY方向に延伸した中央部電極13が配置されている。この際、液晶の初期配向方向はX方向である。
【0037】
以上の液晶レンズ素子の動作について
図13の液晶配向状態を示す断面図を用いて説明する。液晶は初期にX方向に配向している。このため、すでに
図4で述べたように、X方向に液晶配向の非対称性が生じやすい状況にある。本発明においては、中央部電極13に固定電位を供給することによって、中央部電極13直下の液晶層3の電圧を決定することができる。例えば、
図13では中央部電極13をB電極構造5と同電位にすることにより、直下の液晶層3に電圧が印加されないようにすることができる。以上のようにして、A電極構造4の中央部の電位を決めることで、
図13に示したような対称な液晶配向分布を発生させることができる。
【0038】
第5の本発明は、前記A電極構造が、少なくとも第1導電層、第2導電層からなり、前記第1導電層のシート抵抗が前記第2導電層のシート抵抗よりも低く、なおかつA電極構造がx方向に延伸した主方向部位とy方向に延伸した分岐部位とy方向に延伸した前記中央部電極とy方向に延伸した端部電極とからなり、なおかつ前記主方向部位は前記分岐部位と前記中央部電極と前記端部電極に接続し、なおかつ前記主方向部位が前記第2導電層で構成され、なおかつ前記分岐部位と前記中央部電極と前記端部電極とが少なくとも前記第1導電層を含む層で構成されている第4の発明の液晶レンズ素子である。
【0039】
本発明について
図14、
図15を用いて説明する。
図14では、上基板1上の第1導電層と第2導電層からなるA電極構造4が示されている。第1導電層のシート抵抗は第2導電層のシート抵抗より低いとする。A電極構造4は、主方向部位15と分岐部位14と中央部電極13と端部電極30から構成される。主方向部位15は
図14の左右方向に延伸しており、これと直交した方向に分岐部位14、中央部電極13、端部電極30が延伸している。
図14に示すように主方向部位15と、分岐部位14、中央部電極13、端部電極30の各々は基板面内で重複した部分を有することで接続部を有している。主方向部位15は相対的にシート抵抗の高い第2導電層から構成されている。一方、分岐部位14、中央部電極13、端部電極30は
図14に示すように第1導電層から構成されている。あるいは
図15の分岐部位14、中央部電極13、端部電極30で示したように第1電極層及び第2電極層から構成することができる。
【0040】
図14および
図15では図示されていないが、中央部電極13及び端部電極30は繰り返し領域の外まで延伸され、外部電源と結線されて電位が設定される。
図14及び
図15の左右端の端部電極30を互いに短絡して同一電位に、中央部電極13をこれとは異なる電位に設定する。中央部電極13はA電極構造4の中央部に位置しているため、
図14及び
図15の主方向部位15に沿った電位分布は中央部電極13を対称軸として対称な形状となる。また、分岐部位14は主方向部位15に直交する方向に延伸しており、相対的にシート抵抗の低い第1導電層で形成されている。このため、A電極構造4内の電位は、主方向部位15に沿って変化し、分岐部位14に沿って変化しにくい分布となっている。等電位線はほぼ分岐部位14方向に平行な形状となる。
【0041】
以上のように、中央部電極13によりA電極構造4の中央部の電位を決定することができる。主方向部位15に平行に液晶を配向させた場合、電位勾配方向と平行になる。この際、既に
図2に述べたようにプレチルト角の効果のため、電位勾配方向に沿って非対称な配向状態となりやすい。しかし、本発明においては、中心部電極13が配置されているため、A電極構造4の中央部の電位が確定し、対称な配向状態が得られる。
【0042】
第6の本発明は、少なくとも表示パネル、偏光板、前記液晶レンズ素子の順序からなる積層体を含み、前記液晶レンズ素子が請求項1から5記載のいずれかであることから構成される表示装置である。
【0043】
以上の第1から第5の液晶レンズ素子を、表示パネル、偏光板、液晶レンズ素子の順序で積層して、縦置き立体表示、横置き立体表示、2次元平面表示ができる表示装置を得ることは、従来技術と同様である。
【0044】
第7の本発明は、第6の発明の表示装置を搭載した端末機から構成される。
【0045】
また、以上の表示装置を端末機に搭載して端末機を得ることは周知の通りである。とくに、縦置き及び横置き表示を自由に変えることができる端末機には好適である。
図28にこの端末機の斜視図を示す。