特許第6132282号(P6132282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6132282-汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132282
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20170515BHJP
   G21F 9/30 20060101ALI20170515BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   G21F9/28 521A
   G21F9/30 531M
   G21F9/06 541
   G21F9/28 Z
   G21F9/06 521A
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-12231(P2013-12231)
(22)【出願日】2013年1月25日
(65)【公開番号】特開2014-142311(P2014-142311A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2016年1月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成23年度 茨城大学復興支援プロジェクト調査研究報告書,第39−43頁,平成24年7月31日発行
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100176164
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 州志
(72)【発明者】
【氏名】新村 信雄
(72)【発明者】
【氏名】菊池 賢司
【審査官】 山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−343948(JP,A)
【文献】 特開2009−125610(JP,A)
【文献】 特開2000−197877(JP,A)
【文献】 特開2007−225122(JP,A)
【文献】 特開平09−239352(JP,A)
【文献】 特開2001−133595(JP,A)
【文献】 特開2005−279530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
G21F 9/06
G21F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物物質で汚染された土壌又は焼却灰の除染方法であって、
前記放射性物物質で汚染された土壌又は焼却灰を回収又は捕集する工程と、該回収又は捕集する工程後の土壌又は焼却灰を室温又は加温下で機械的に粉砕後の平均粒径が1mm以下となるまで粉砕する粉砕工程と、該粉砕工程後の土壌又は焼却灰を水洗する水洗工程と、該水洗工程後の土壌又は焼却灰から前記放射性物質を含有する水を分離して回収する分離回収工程とを有することを特徴とする汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法。
【請求項2】
前記粉砕工程と水洗工程との間に、前記粉砕工程で粉砕された後の土壌又は焼却灰から粗粒子を選別する選別工程を有することを特徴とする請求項に記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法。
【請求項3】
前記選別工程において、前記選別される粗粒子は最小粒径が1mmを超えるものであることを特徴とする請求項に記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法。
【請求項4】
請求項1〜の何れかに記載の除染方法において、前記放射性物質を含有する水を分離して回収された後に残る土壌又は焼却灰は、放射線線量の検査を行い、前記放射線線量が所定の値以下であれば回収前又は捕集前の元の場所に戻し、前記放射線量が所定の値を超えるときには、少なくとも前記の水洗工程及び分離回収工程を前記放射線線量が所定の値以下になるまで繰り返すことを特徴とする汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法。
【請求項5】
前記粉砕工程は、酸化剤の存在下で行われることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法。
【請求項6】
前記の酸化剤は、オゾン、過酸化水素、酸素、塩素酸、過塩素酸及び過マンガン酸カリウムからなる群の少なくとも1つであることを特徴とする請求項に記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法。
【請求項7】
前記放射性物質を含有する水を分離して回収する分離回収工程は、濾過法、デカンテーション法及び遠心分離法からなる群の少なくとも1つの方法によって行われることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法。
【請求項8】
前記分離回収工程は、前記水洗工程で水洗された土壌又は焼却灰の粒子の中で最小粒径100μmを超える粒子を篩を用いて取り除いた後に、前記の濾過法、デカンテーション法及び遠心分離法からなる群の少なくとも1つの方法によって行われることを特徴とする請求項に記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法。
【請求項9】
前記水洗工程は、前記粉砕工程後の土壌又は焼却灰を水中で混合又は撹拌して行われることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法。
【請求項10】
前記の粉砕工程は、ボールミルを用いて回転撹拌によって行われることを特徴とする請求項1〜の何れかに記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染された土壌又は焼却灰の除染方法、特に、137Csや134Cs等の放射性物質で汚染された土壌又は焼却灰の除染を効率的に、且つ効果的に行うために、機械的衝撃及び酸化可溶性促進を利用した汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電関連施設等から何らかの原因でセシウム等の放射性物質が大量に外部へ漏れたり飛散したりして土壌表層部が汚染された場合、放射性物質の直接接触や経口摂取等による人体への直接的な影響が懸念されている。特に、放射性物質からの放射線量が多い場合は大きな被害を引き起こしやすい。また、土壌表層部において農作物が栽培されていたり、ゴミ等が放置されている場合は、農作物やゴミへの汚染が発生する。さらに、森林土壌などでは土壌表層部を覆っている落ち葉や草木等への汚染も考慮する必要がある。
【0003】
このような土壌表層部の汚染に対する除染方法としては、従来から(i)大型機械を用いて表面を削る方法、(ii)高圧洗浄機を用いて水洗する方法、(iii)高分子ゲル又はゼオライトやベントナイト等の無機物によって、汚染物質を付着又は吸着させて除染する方法、(iv)汚染された土壌をアスファルトや非汚染の土壌や物質で被覆する客土法、(v)植物を利用して汚染物質を除去する技術等が知られている。例えば、特許文献1には、前記の(i)の方法として、土壌表層部を固定することによって、該表層部をその下層の土壌からはぎ取るための方法が提案されている。前記の特許文献1に記載の発明は、放射性物質による汚染領域が土壌深さ数cm程度の表層部のみに限定されるという点に着目してなされたものである。
【0004】
また、特許文献2には、汚染土壌を汚染サイト(地域)から採取、輸送してから、その汚染土壌そのものの除染を湿式で行う方法が開示されている。前記の特許文献2に記載の発明は、アクチニドもしくはその放射性崩壊生成物もしくは核分裂生成物で汚染された土壌を、非毒性生成物に自然に分解可能な成分を含有する水溶液からなる液体媒体と接触させて処理することによって、土壌をより安全な状態にする方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−223698号公報
【特許文献2】特開平6−51096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の特許文献1に記載の発明は、放射性物質で汚染された土壌表層部を剥ぎ取るための方法に関するものであり、土壌表層部の除去後の除染方法については記載や示唆が何等されておらず、除染を行った後の土壌の再生や再利用については認識が全くされていなかった。また、除染方法として例示した前記の(iv)客土法も汚染土壌のそのものの除染方法に関するものでなく、汚染土壌が存在する地域の処理を広範囲に行うことが困難であり、その地域の再利用や再開発を行うには環境への負荷や安全性を含めて多くの問題が残されている。
【0007】
さらに、前記の(ii)、(iii)及び(v)の方法は、除染方法として簡便で効率的であるものの、放射性物質の吸着能の点から除染効果が十分でなく、確実な除染を行う方法としてはさらに改良が必要である。
【0008】
一方、前記の特許文献2には汚染土壌そのものの除染方法が開示されているが、非毒性生成物に自然に分解可能な成分を含有する水溶液は少なくとも3成分を有する必要があり、除染の効果を十分に発揮するためには、それらの成分の種類と配合量の最適化のための調整が煩雑な作業となる。また、除染の対象物とするセシウム137(137Cs)又はセシウム134(134Cs)の場合でも、短時間処理で十分な除染効果が得られるか否かが不明である。
【0009】
さらに、放射性物質で汚染された焼却灰についても、単に汚染焼却灰として隔離して保管又は貯蔵のために長期間放置する場合、処理量が膨大となるにつれて保管、貯蔵場所の確保が大きな問題となる。そのため、汚染された焼却灰を長期間に亘って保管又は貯蔵する代わりに、早期に埋立や他の用途へ使用できることが必要であり、効率的で、且つ確実な焼却灰の除染方法が強く望まれている。
【0010】
本発明は、係る問題を解決するためになされたものであり、137Csや134Cs等の放射性物質で汚染された土壌又は焼却灰を回収又は捕集した後に、機械的衝撃及び酸化可溶性促進を利用することによって、除染を効率的に、且つ効果的に行うだけでなく、除染後の土壌や焼却灰の再生及び再利用を促進することができる汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、137Csや134Cs等の放射性物質が、汚染土壌中又は汚染焼却灰中で数10μm程度の顆粒状として存在するために水洗等による除染効果を低下させるという新たな知見に基づいて、水洗等による除染方法を行う前に、機械的衝撃を利用して汚染土壌又は汚染焼却灰をより小さな粒子に粉砕して表面積を増やすだけでなく、さらに、汚染土壌中又は汚染焼却灰中に存在する放射性物質の酸化を促進して水洗等による除染処理の効率を高めることによって、上記の課題を解決できることを見出して本発明に到った。
【0012】
すなわち、本発明の構成は以下の通りである。
[1]本発明は、放射性物物質で汚染された土壌又は焼却灰の除染方法であって、前記放射性物物質で汚染された土壌又は焼却灰を回収又は捕集する工程と、該回収又は捕集する工程後の土壌又は焼却灰を室温又は加温下で機械的に粉砕後の平均粒径が1mm以下となるまで粉砕する粉砕工程と、該粉砕工程後の土壌又は焼却灰を水洗する水洗工程と、該水洗工程後の土壌又は焼却灰から前記放射性物質を含有する水を分離して回収する分離回収工程とを有することを特徴とする汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法を提供する。
]本発明は、前記粉砕工程と水洗工程との間に、前記粉砕工程で粉砕された後の土壌又は焼却灰から粗粒子を選別する選別工程を有することを特徴とする前記[1]に記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法を提供する。
]本発明は、前記選別工程において、前記選別される粗粒子は最小粒径が1mmを超えるものであることを特徴とする前記[]に記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法を提供する。
]本発明は、前記[1]〜[]の何れかに記載の除染方法において、前記放射性物質を含有する水を分離して回収された後に残る土壌又は焼却灰は、放射線線量の検査を行い、前記放射線線量が所定の値以下であれば回収前又は捕集前の元の場所に戻し、前記放射線量が所定の値を超えるときには、少なくとも前記の水洗工程及び分離回収工程を前記放射線線量が所定の値以下になるまで繰り返すことを特徴とする汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法を提供する。
]本発明は、前記粉砕工程が、酸化剤の存在下で行われることを特徴とする前記[1]〜[]の何れかに記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法を提供する
]本発明は、前記の酸化剤が、オゾン、過酸化水素、酸素、塩素酸、過塩素酸及び過マンガン酸カリウムからなる群の少なくとも1つであることを特徴とする前記[]に記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法を提供する。
]本発明は、前記放射性物質を含有する水を分離して回収する分離回収工程が、濾過法、デカンテーション法及び遠心分離法からなる群の少なくとも1つの方法によって行われることを特徴とする前記[1]〜[]の何れかに記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法を提供する。
]本発明は、前記分離回収工程が、前記水洗工程で水洗された土壌又は焼却灰の粒子の中で最小粒径100μmを超える粒子を篩を用いて取り除いた後に、前記の濾過法、デカンテーション法及び遠心分離法からなる群の少なくとも1つの方法によって行われることを特徴とする前記[]に記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法を提供する。
]本発明は、前記水洗工程が、前記粉砕工程後の土壌又は焼却灰を水中で混合又は撹拌して行われることを特徴とする前記[1]〜[]の何れかに記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法を提供する。
10]本発明は、前記の粉砕工程が、ボールミルを用いて回転撹拌によって行われることを特徴とする前記[1]〜[]の何れかに記載の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法を提供する。
[発明の効果]
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セシウム等の放射性物質で汚染された土壌又は焼却灰を初期の大きさよりも小さく粉砕して表面積を増やすことによって、前記放射性物質が酸化されやすい環境が創出され、水洗等の簡便な方法を使って効率的で、且つ確実な除染を行うことができる。さらに、粉砕工程を酸化剤の存在下で行うことによって放射性物質の酸化が促進されるため、除染効果の一層の向上が図れる。
【0014】
また、本発明によれば、放射性物質で汚染された土壌又は焼却灰の除染が短時間で十分に行えるため、環境への悪影響を低減し、安全性を高めることができる。それによって、汚染土壌又は汚染焼却灰の再生及び再利用を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による放射性物質除染方法の工程を示す図である。
図2】本発明の実施例2による放射性物質除染方法の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の汚染土壌又は汚染焼却灰の除染方法を図1に示す。図1に示すように、本発明は、放射性物物質で汚染された土壌又は焼却灰を回収又は捕集する工程S1と、該回収又は捕集する工程後の土壌又は焼却灰を室温又は加温下で機械的に粉砕する粉砕工程S2と、該粉砕工程後の土壌又は焼却灰を水洗する水洗工程S4と、前記水洗後の土壌又は焼却灰から前記放射性物質を含有する水を分離して回収する分離回収工程S5とを有することを基本構成とする。さらに、粉砕工程S2と水洗工程S4の間に、粗粒子を選別する選別工程S3を導入することが好ましい。粉砕工程S2において十分に粉砕しきれないで残存する粗粒子は、選別工程S3を経由することによって取り除かれる。図1に示すS1〜S5の工程の中で、捕集工程後の土壌又は焼却灰を室温又は加温下で機械的に粉砕する粉砕工程S2を有することが本発明の大きな特徴である。本発明において、S2の工程を積極的に採用した理由は以下の通りである。
【0017】
何らかの要因で原子力発電所から飛散した放射性物質は、周囲の環境に沈降した後、雨水等とともに流出する他にも、樹木の葉、落ち葉又は土壌に残存している。残存した放射性物質、特に人体に大きな悪影響を与えるセシウム(137Cs等)は本来、水に溶けると考えられていたが、土壌の表層に留まっている他、落ち穂(落ち葉)にも粒子として付着していることが分かった。この粒子状物質は、松葉や土壌をイメージングプレート(IP)による放射能の2次元分布測定を行った結果、確認されたものである。ここで、IPは、光輝尽性蛍光体(BaFBr)のIPにエネルギー(放射線)を照射すると、発光中心が準安定状態(励起状態)になり、レーザー光によりエネルギー(波長の長い光)を加え、基底状態(安定状態)に戻るときに発する光を読み取るものであり、それによって放射能2次元分布を測定することができる。
【0018】
仮に、松葉や土壌に残留する放射性物質が水溶性であれば、前記のIP測定において松葉全体或いは土壌全体が黒色化する結果が得られるはずである。しかし、実際の測定では点状の線源が観測されており、粒子状物質が依然として残留することが確認された。従来の除染方法においても137Csは非水溶性になることが知られており、その原因は、例えば、土壌中に存在するゼオライト様物質に吸着するためであると考えられていた。しかしながら、上記のIP測定によれば、137Cs等の放射性物質は水溶性であるにも関わらず、汚染された松葉表面や土壌中で数10μm程度の顆粒状で存在するために非水溶性となるのではないかと考えられる。したがって、従来の方法によって土壌や焼却灰を水洗しても除染効果が十分に得られていないという実情は、この顆粒状物質の存在が大きく関係しているのではないかとの考察に至った。
【0019】
顆粒状137Csは大気中に放出され、土壌やその他の酸化されやすい環境に留まることで酸化が促進される。酸化Csは水溶性であるため、酸化が進行すれば、顆粒状137Csは表面から少しずつ溶解し、土壌や植物に移行する。137Cs粒子の表面積が多くなれば、酸化はさらに進むため水溶解性が増し、水洗による137Csの除染効果を大幅に向上できる。本発明は、このような従来にはない新しい知見に基づいてなされたものであり、顆粒状粒子の表面積を増やし、酸化を促進させるために、S2の工程である顆粒状放射性物質の機械的な粉砕工程を積極的に取り入れる。
【0020】
また、137Csはβ崩壊することでBaになるが、137Csがβ崩壊する度にCs(+)とBa(++)の結合電子状態の差で顆粒状粉末の内側にクラックが入りやすくなる。これに、本発明のS2の工程である機械的な粉砕工程による物理的衝撃を加えれば、顆粒は壊れ小さくなる。それによって、顆粒の表面積が増大し表面酸化が進むため、137Csが土壌から外れ、従来法よりも効率的な除染が可能となるだけでなく、確実な除染によって放射線量の大幅な低減を図ることができる。
【0021】
本発明においては、顆粒状137Csの表面酸化を促進させるために、機械的な粉砕工程S2によってその表面積を増やすだけでなく、S2の粉砕工程を酸化剤の存在下で行うことによって酸化反応に拍車をかけることができ、除染の一層の高効率化が図れる。本発明に使用する酸化剤としては、オゾン、過酸化水素、酸素、塩素酸、過塩素酸及び過マンガン酸カリウムからなる群の少なくとも1つを使用する。これらの酸化剤の中で、過酸化水素、塩素酸、過塩素酸及び過マンガン酸カリウムは、通常、水溶液として使用される。水溶液の濃度は、除染効率、粉砕処理時間及び処理量等に応じて、酸化剤の量を土壌もしくは焼却灰に対して0.1〜5重量%の範囲になるように調整する。
【0022】
本発明に使用する酸化剤としては、土壌や焼却灰への影響を最小限にできることから、上記の酸化剤の中で、金属元素を含まないオゾン、過酸化水素、酸素、塩素酸、過塩素酸が好ましい。さらに、土壌や焼却灰のpH変動を抑制するという観点から、オゾン、過酸化水素、酸素がより好ましい。
【0023】
本発明においては、図1に示すように、粉砕工程S2と水洗工程S4の間に、さらに、粉砕工程後の土壌又は焼却灰から粗粒子を選別する選別工程S3を採用する理由は以下の通りである。選別工程S3は、粉砕工程S2において、機械的な処理能力や処理時間等の観点から顆粒状粒子のすべてを微粒子に粉砕することは困難であり、粉砕しきれないで残存する粗粒子を取り除くために行うものである。粗粒子は、その内部に酸化されていない137Csの存在する量が多いため、後に行う水洗工程S4において除染効果が十分に得られないという問題がある。しかし、粗粒子の選別工程S3によって、土壌又は焼却灰の除染漏れを回避することができる。また、粉砕工程S2において処理時間の削減と処理量の増大を行う場合でも、除染が十分にされていない粗粒子は、選別工程S3によってあらかじめ選別及び分別されるため、確実な除染効果が安定して得られる。それによって、除染工程のスループットを向上させることができる。
【0024】
以上のように、本発明の除染方法は、上記のS1〜S2及びS4〜S5の工程、さらに、除染効果の一層の向上を図るために上記S3の工程を加えたS1〜S5の工程に基づく処理を行って放射性物質を含有する水を分離回収する。分離回収工程の後に得られる水溶液及び残土、残焼却灰は、図1に示すS6及びS7〜S9の2つの工程フローに分けて、それぞれ除染処理を行う。
【0025】
分離回収工程S5を経由して分離又は濾過された水溶液は、放射性物質を含有する水、すなわち、土壌又は焼却灰が含まれる放射性物質を抽出した後の水として捕集される(工程S6)。補修後の放射性物質を含有する水は、放射量測定の結果、放射線量が低い場合には、図1に示すように、水洗工程S4に戻して水洗用として再利用する。また、放射線量が高い場合には、隔離した場所に保管、貯蔵する方法が一般的にとられる。或いは、処理コストはやや高くなるものの、放射性物質を含有する水から放射性物質だけを精製凝縮する方法を採用しても良い。放射性物質の精製凝縮物は、従来の放射性物質の処理法と同様に、ガラス化したものをコンクリート等の放射線遮蔽物内に保管、貯蔵することができる。
【0026】
また、S7の工程で回収又は補修される残土、残焼却灰は、S8の工程において放射線量測定を行い、放射線量が許容値以下か否かの判定を行う。放射線量の判定に応じて、残土又は残焼却灰は、S9の工程による再生又は再利用、又はS2〜S8の工程による再処理を行うか否かを決める。S7〜S9の工程については、後述して説明する。
【0027】
次に、図1に示す本発明による放射性物質除染方法の工程を具体的に説明する。
【0028】
(1)汚染された土壌又は焼却灰の回収又は捕集(工程S1)
放射性物物質で汚染された土壌は、汚染の程度が高い表層部分を手動で、又は油圧ショベル等の重機による切削装置や剥離装置を用いて除去又は剥離する。剥離装置は、植物や水溶性又は水分散性の高分子化合物を用いて土壌の表層を固定した後、剥離操作を行うための装置である。このようにして除去又は剥離された土壌は回収又は捕集した後、後の粉砕工程S2を行う場所へ輸送する。回収又は捕集する土壌の量が多くない場合は、粉砕工程S2は土壌の回収又は捕集する場所の傍で行っても良い。なお、本発明の処理対象物である土壌とは、汚染された落ち葉や腐葉土等を有する森林土壌をも含む。
【0029】
焼却灰は、放射性物質で汚染されたゴミ、放置物、落ち葉等を焼却場で焼却した後の灰であり、放射性物質が凝集して高い放射線量を有する。この焼却灰は、水蒸気等の影響により凝集した粗粒子として存在する場合があり、単純な水洗工程では除染効果が十分に得られていなかった。そのため、焼却灰は、通常、隔離した場所に集めて保管、貯蔵されているが、処理量が膨大であり、保管、貯蔵場所の確保が大きな問題となっていた。本発明では、この問題を解決するための除染方法であり、凝集物を含む焼却灰を焼却場からプラスチック製のフレコン袋等を用いて回収又は捕集する。
【0030】
(2)機械的な粉砕(工程S2)
上記のS1の工程で回収又は補修された土壌又は焼却灰は、137Cs等の顆粒状放射性物質の表面酸化を促進させるために、表面積を増やすための機械的な粉砕を行う。土壌又は焼却灰の粉砕は、通常の粉砕法によって行う。例えば、複数の羽を有するロータの回転を利用するロータ回転式粉砕機(粉砕効率を上げるためにグラインダを備えるものを含む)、ハンマーのスイングや回転を利用するハンマー式粉砕機、圧縮空気と遠心力を利用する衝撃式粉砕機、衝撃力とせん断による摩砕力を利用する超遠心粉砕機、及びボールを内包する容器を回転撹拌するボールミル粉砕機の何れかを用いて行う。本発明は、土壌又は焼却灰の飛散を抑え、且つ、顆粒を粉砕した後の微粉の平均粒径をより小さくでき、さらに湿式粉砕が可能なことから、ボールミルを用いて回転撹拌を行うボールミル粉砕機による粉砕方法が好ましい。本発明で使用するボールミルのボールの直径は20〜50mmのものを使用する。
【0031】
粉砕工程S2は、通常、室温又は加温下で行われる。S1の工程で回収又は捕集される土壌又は焼却灰において、水分含有量が少なく乾燥状態に近いものであれば、室温で機械的な粉砕を行うことができ、装置ランニングコストの点からも好ましい。しかし、水分量が多く、粘ついたり汚泥状になっているものは、室温での処理では粉砕が難しいため、加温によって含まれる水分を蒸発させながら撹拌による粉砕を行っても良い。加温時の温度は30〜70℃の範囲で調整できるが、粉砕効率と装置の耐久性の点から40〜50℃の範囲が好ましい。
【0032】
本発明の粉砕工程で使用する粉砕機は、土壌又は焼却灰に含まれる放射性物質の飛散や揮散を防ぐため、密閉式のものが好ましい。加温しながら粉砕を行う場合は、水分等の揮発成分の蒸発を容易にするために、粉砕機に微細な多孔質の穴やメッシュを設けることができる。また、土壌又は焼却灰を微細な穴やメッシュを有する容器に入れた後、その容器の上部等の所定の位置に蒸気を逃すための排気口を設けた密閉式の別の容器に入れ、前記の微細な穴やメッシュを有する容器だけを回転撹拌できるような構成を有する粉砕機を使用しても良い。
【0033】
粉砕工程S2は、本発明の除染方法において鍵となる工程であり、土壌又は焼却灰の粉砕後の粒子径が除染効率と除染効果に大きな影響を及ぼす。本発明の効果を奏するためには、土壌、放射性物物質で汚染された土壌又は焼却灰は平均粒径が粉砕前の平均粒径の1/3以下となるように粉砕することが好ましい。ここで、平均粒径は、日本工業規格JIS A 1204に基づいてふるい分級によって得られる粒径加積曲線において、重量比が50%にあたる粒径D50に該当するものとして定義する。粉砕後の平均粒径が粉砕前のものと比べて1/3を超えると、粉砕が十分に行われていないことを意味し、除染の効果が小さく本発明の目的である確実な除染を行うことが難しい。粉砕後の平均粒径を粉砕前の平均粒径の1/3以下になるまで粉砕することによって、放射性物質の減少割合を2倍以上にすることができる。粉砕前の土壌又は焼却灰は、通常、平均粒径として細礫の粒径に近い1〜4mmを有する。そのため、本発明において、具体的な粉砕後の平均粒径としては、粗砂の粒径に近い1mm以下、好ましくは0.5mm以下となるまで粉砕を行うことが好ましい。
【0034】
粉砕機を稼働するための諸条件(粉砕機の容量、ロータやハンマーの回転速度又はボールミルを有する粉砕容器の回転撹拌速度等)は、粉砕後の粒子の平均粒径が所定の値となるように、土壌又は焼却灰の処理量と処理時間に応じて設定することができる。
【0035】
上記で述べたように、本発明の粉砕工程は、顆粒状137Csの表面酸化を促進させることによって除染の一層の高効率化を図るために、酸化剤の存在下で行うことが好ましい。本発明で使用する酸化剤としては、オゾン、過酸化水素、酸素、塩素酸、過塩素酸及び過マンガン酸カリウムからなる群の少なくとも1つからなり、それらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0036】
上記の酸化剤は、あらかじめ粉砕を行う前に土壌又は焼却灰に混入させても良いし、粉砕工程の途中で加えても良い。また、酸化剤の混入は、1回だけではなく、数回に分けて行っても良い。水等の希釈剤を含まない酸化剤そのものの含有量は、土壌又は焼却灰の100重量部に対して1〜3重量部である。含有量が1重量部未満では、酸化剤としての効果が期待できず、また、3重量部を超えると、酸化剤としての効果が飽和するだけでなく、汚染された土壌又は焼却灰の処理量が少なくなる。
【0037】
(3)粗粒子の選別(工程S3)
上記の粉砕工程S2の後に、粉砕しきれないで残存する粗粒子を取り除くために、土壌又は焼却灰から粗粒子の選別を行う。この選別工程によって、酸化されていない137Csを内部に多く含有する粗粒子を除去できるため、水洗による除染効果を確実なものとすることができる。粗粒子の選別は、大量の土壌又は焼却灰の処理が簡便にでき、且つ、処理コストを低く抑えることができることから、通常は、所定の呼び(目開き)寸法を有する篩を用いる。選別する土壌や焼却灰の量が少ない場合には、篩による方法の他にも、遠心分離機等を使用してもよい。
【0038】
粗粒子の選別工程S3は、本発明の除染方法において、機械的な粉砕工程S2に加えて、確実な除染を行うための鍵となる工程であり、粉砕された土壌又は焼却灰に含まれる粗粒子の粒子径が除染の効率と効果に大きな影響を及ぼす。本発明の効果を奏するために、粗粒子は、最小粒径として1mmを超えるものが選別されることが好ましい。最小粒径が1mmを超える粗粒子の選別は、例えば、呼び寸法が1mm(16メッシュ)以下の篩を用いて行うことができる。選別後の土壌又は焼却灰に最小粒径が1mmを超える粗粒子が残存すると、粗粒子内に存在する数10μmの顆粒状137Csの量が多くなるため除染が不十分となり、本発明の目的である確実な除染を行うことが難しい。
【0039】
本発明において選別工程S3で選別及び分別された粗粒子は、図1に示すように、粉砕工程S2に戻して粉砕を再度行うことができる。その場合、選別及び分別された粗粒子は、選別工程S3を行った後、直ちに粉砕工程S2へ戻す方法でも良いし、2回以上の選別工程S3を経て捕集した粗粒子をまとめた状態で粉砕工程S2へ戻しても良い。また、除染処理時間の短縮化や除染工程の簡略化等を行うために、選別及び分別された粗粒子を直ちに粉砕工程S2に戻す必要がない場合には、該粗粒子を隔離した場所に所定の期間だけ保管又は貯蔵することができる。その場合にも、まとまった量の粗粒子は、後で粉砕工程S2に投入しても良い。このようにして、水洗工程S4で水洗処理を行う土壌又は焼却灰は残存する粗粒子の量が大幅に低減しているため、水洗による土壌又は焼却灰の除染漏れを回避できる効果が格段に向上する。
【0040】
(4)水洗(工程S4)
S2又はS3の工程の後に得られる土壌又は焼却灰の粉砕粒子は、放射性物質の溶解性、取扱い性や作業性並びに周辺への環境負荷の低減を考慮して、水又は水を主成分とする水系媒体で洗浄する。本発明において使用する水を主成分とする水系媒体は、水が80質量%以上、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上を占める媒体である。水以外には、例えば、水溶性のメチルアルコール、エチルアルコール、2プロパノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類又はアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類の溶媒を少量配合して使用してもよい。これらの溶媒の中で、人体に対する影響と環境負荷が少ないするためにエチルアルコールが好ましい。
【0041】
水洗工程S3は、容器中で粉砕後の土壌又は焼却灰を水又は水系媒体に浸漬させるだけで大きな除染効果が得られる。それ以外にも、土壌又は焼却灰の粒子と水又は水系媒体との接触を向上させて両者を密接させるために、ミキサー中で混ぜたり、容器中に攪拌機を備えて撹拌を行うことができる。これらの処理は、水洗工程において処理時間を短くでき、効率的な除染方法を構築することができるため、本発明において好ましい水洗方法である。ここで、水洗時に使用する水又は水系媒体の量は、粉砕後の土壌又は焼却灰の量に対して、質量比で1〜5倍量が好ましく、処理速度と処理量の観点から3〜5倍量がより好ましい。
【0042】
水洗工程S3は、通常、室温で行うが、30〜60℃に加温して行うことができる。また、水洗処理は、通常、上方が解放した容器を用いて行うが、水若しくは水系溶媒の揮発又は放射性物質の飛散を防ぐために、密閉容器や準密閉容器を用いて水洗処理を行っても良い。
【0043】
(5)分離回収(工程S5及びS6)
水洗工程S4の後に捕集された土壌又は焼却灰は、放射性物質を含有する水を分離回収するための処理を行う(工程S5)。この処理後に、分離又は濾過された水溶液は、工程6において捕集される。本発明において、前記放射性物質を含有する水とは、主に放射性物質を含有する水溶液を意味するが、分離回収できなかった微粒子や細かな汚泥を含有する水溶液をも含んでいる。前記前記放射性物質を含有する水を除いた残土又は残焼却灰は、後に続く工程によって再生又は再利用される。
【0044】
分離回収工程S5は主に濾過法によって行うが、それ以外にも、ハイドロサイクロン法、デカンテーション法及び遠心分離法の何れかの方法、又はこれらの方法の2以上を組合わせて行っても良い。
【0045】
濾過法は公知の濾過システムを利用でき、ろ紙又はプラスチック製フィルターを用いて常圧、真空、加圧の何れの方法で行うことができる。また、限外濾過法を使用しても良い。ろ紙又はプラスチック製フィルターは、数10μm以下の径を有する粒子を濾過できるもので有れば良く、濾過能力、処理量及び処理時間に応じて適当なものを選ぶことができる。これらの特性のバランスをとるために、ろ紙又はフィルターの孔径は0.5〜20μmの範囲が好ましい。
【0046】
上記のデカンテーション法は特別な装置や設備が不要であるとともに、大量の処理が可能であることから本発明において採用することができる。また、遠心分離法は、処理量にある程度の制約はあるものの、短時間に、且つ高精度で分離回収を行うことができるため、濾過法及びデカンテーション法と同様に本発明において有用な方法である。
【0047】
本発明の分離回収工程S5においては、前記の濾過法、デカンテーション法及び遠心分離法の何れかの方法を行う前に、水洗工程S4で水洗された土壌又は焼却灰の粒子の中で最小粒径1mmを超える粒子、好ましくは100μmを超える粒子をあらかじめ篩を用いて取り除くことが好ましい。例えば、土壌又は焼却灰と水溶液の分離を濾過法で行う場合、濾過は孔径が小さく目の細かいろ紙又はフィルターで行われるため、大きな粒子が存在すると濾過効率が低下する。そのため、あらかじめ1mmを超える粒子、好ましくは100μmを超える粒子を篩によって取り除いて大きな粒子の土壌又は焼却灰を水溶液から分離した後、篩を通り抜けた粒子と水溶液を目の細かいろ紙又はフィルターで分離する2段階の分離法を採用することによって、濾過効率を向上させることができる。
【0048】
本発明において、上記の粗粒子の選別工程S3を採用しない場合には、水洗工程S4で水洗された土壌又は焼却灰の粒子の中に最小粒径1mmを超える粒子が存在しているため、まずこの大きな粒子を取り除く必要がある。これは、酸化されていない137Csを内部に多く含有する粗粒子を除去するためでもある。さらに、最小粒径が1mm以下で100μmを超える粒子を取り除くことができれば、土壌又は焼却灰と水溶液の分離効率を大幅に高めることができる。一方、粗粒子の選別工程S3を採用する場合には、最小粒径1mmを超えるものが既に選別されて除去されているため、分離回収工程5においては、最小粒径100μmを超える粒子をあらかじめ取り除くことによって濾過の効率を高めることができる。最大粒径が100μmを超える粒子の選別は、土壌又は焼却灰を含む大量の水を簡便に処理でき、且つ、処理コストを相対的に低くできることから、呼び寸法が106μm(140メッシュ)、100μm(149メッシュ)若しくはそれより小さい呼び寸法を有する篩を用いて行う。
【0049】
最小粒径100μmを超える粒子を篩によって取り除く上記の方法は、濾過法だけでなく、ハイドロサイクロン法、デカンテーション法又は遠心分離法の場合にも適用できる。それらの方法の中で、濾過法、デカンテーション法及び遠心分離法の何れかの方法と合わせて適用するときに分離効率の向上に対して大きな効果を得ることができる。
【0050】
また、本発明においては、上記の分離回収方法の他に、水洗工程S4及び分離回収工程S5を連続的に行うために次の方法を採用することもできる。すなわち、上部開放型容器の底面又は中間部にろ紙やフィルターをあらかじめ設置した後、粉砕後の土壌又は焼却灰を前記容器に入れる。その後、前記容器の上方から水又は水系溶媒をシャワー方式で全体に万遍なく連続的に降り注いで、粉砕した土壌又は焼却灰を通過した水又は水系溶媒を容器底面で受けて溜めるか、又は容器底面の下部に受け皿を設ける方法である。後者の場合は、前記容器の底面形状を、例えば、開放部を有するメッシュ状にする。また、別の方法として、粉砕後の土壌又は焼却灰を筒や管に入れて、筒や管の一方の入口から水若しくは水系媒体を連続的に注入して、もう一方の別の出口から流出させる方法等を採用しても良い。その場合、粗粒子の選別工程S3を行った後に、水洗工程S4及び分離回収工程S5からなる連続的な処理を行っても良い。
【0051】
(6)残土又は残焼却灰の再生又は再利用(工程S7〜S9)
S5の工程後に得られる残土又は残焼灰はS7の工程で回収又は捕集される。その後、回収物又は捕集物はそのまま放射性廃棄物として隔離した場所に保管、貯蔵しても良い。これら残土又は残焼却灰は、S1〜S5の工程を有する除染方法によって放射性物質の濃度をかなり低減できるため、そのまま放射性廃棄物として隔離した場所に保管、貯蔵する場合でも、周囲の環境への悪影響を小さくできるだけでなく、従来の除染方法よりも安全性が高くなるため、大きな安心感が得られる。しかしながら、本発明においては、除染後の残土又は残焼灰の再生を速め、再利用を促進するために、さらにS8及びS9の工程を行うことが好ましい。
【0052】
上記のS7の工程で回収又は捕集された残土、残焼却灰は、S8の工程において放射線量測定を行い、放射線量が許容値以下か否かの判定を行う。放射線量が所定の許容値以下であると判定されたときは、S9の工程において、残土又は残焼却灰は回収前又は捕集前の元の場所へ戻すか、場合によっては、埋土として必要とされる別の場所に廃棄する。仮に、放射線量が所定の許容値を超えると判定されたときには、残土又は残焼却灰は粉砕工程S2に戻されて、S2〜S8の工程が放射線量が所定の許容値以下になるまで繰り返される。本発明においては、残土又は焼却灰の放射線量が所定の許容値を超えた場合でも、除染処理量が大幅に増え、それに対応する必要がある場合は、再処理のためにS2〜S8の工程を繰り返す操作を途中で止めても良い。再処理を中断した残土又は焼却灰は、例えばプラスチック製のフレコン袋等に梱包した後、隔離した場所に保管、保存する。また、再処理のためのS2〜S8の工程の中で、粗粒子の選別工程S3は、土壌又は焼却灰を除染する際の処理量と処理時間に応じて導入するか否かを決めることができる。
【0053】
以上のように、本発明の除染方法は、放射性物質で汚染された土壌又は焼却灰の除染を効率良く、且つ、効果的に行うことによって環境への悪影響を低減し、安全性を高めるために、図1に示すS1〜S5の工程を基本構成として、S6及びS7の工程を有する。さらに、汚染土壌又は汚染焼却灰の再生及び再利用を促進するために、S7〜S9の工程を有するものである。
【0054】
本発明を実施例によって説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
本発明の除染方法の効果について、少量スケールで確認実験を行った。137Csを含み、放射線量が150,920Bq/kgと測定された土壌の10gを、密閉式のドラム形状を有するW−C粉砕機を用いて室温で60秒間粉砕した。W−C粉砕機には、粒径が100〜300μmのボールミルを混入する。粉砕後の土壌の平均粒径D50は50μm以下であり、粉砕前の土壌の平均粒径と比べると、1/4以下に微粉砕されていることが分かった。放射線量は、Ge半導体検出器(CANBERA製)を用いて測定を行い、計数値(Cts/sec/g)からBq/kgに換算した。また、平均粒径D50は、JIS A 1204規格に基づいてふるい分析によって得られる粒径加積曲線から求めた。
【0056】
次いで、粉砕した土壌を400mlの水に2時間浸漬して洗浄した。その後、水に浸漬された土壌を孔径が10〜13μmのろ紙を用いて濾過して乾燥した。
【0057】
濾過及び乾燥の後、ろ紙上の残渣として得られる残土の量は8.5gであり、その放射線量は測定の結果、850Bq(100,000Bq/kg)になった。一方、濾過水は、蒸発乾固した後の残渣について測定した放射線量が450Bq(300,000Bq/kg)であった。本発明の除染方法によって、濾過後の残渣である残土の放射性物質は約半分(1509Bq→850Bq)に減少することが分かる。なお、放射性物質の収支(ΔQ)はΔQ=1509−(850+450)=209Bqと誤差が生じているが、これは放射線量の測定誤算又は処理容器等への付着等によるものと考えられる。本実施例における放射線量の単位質量当たりの減衰率は、150kBq/kg→100kBq/kgであり、約33%である。
【0058】
[比較例1〜2]
放射線量が8,440Bq/kg及び13,200Bq/kgと測定された土壌A及び土壌Bの各20gについて、W−C粉砕機による粉砕処理工程を省略する以外は、実施例1と同じ方法で除染を行った。
【0059】
上記の土壌A及び土壌Bは、それぞれ200mlの水に8時間浸漬して洗浄した。その後、水に浸漬された土壌を孔径が13μmのろ紙を用いて濾過して乾燥した。ここで、土壌A及び土壌Bの除染方法を、それぞれ比較例1及び2とする。
【0060】
濾過及び乾燥後、ろ紙上の残渣として得られる土壌A及び土壌Bの量は20gであり、その放射線量は測定の結果、それぞれ7,618Bq/kg及び12,255Bq/kgになった。比較例1及び2における放射線量の単位質量当たりの減衰率は、それぞれ9.7%及び7.2%である。
【0061】
このように、実施例1は、比較例1及び2と比べて、放射線量の単位質量当たりの減衰率が3倍以上となり、粉砕工程によって高い除染効果が得られることが確認できた。また、実施例1と比較例1−2の間で除染処理の総時間を対比すると、水洗工程で使用する水の量が両者で異なるために一概に比較することは困難であるものの、実施例1は比較例1及び2と比べて、総処理時間が約1/4に短縮している。したがって、本発明は、従来法と比べて、効率的で、且つ、確実な除染を行うことができる除染方法となることが期待される。
【0062】
[実施例2]
本実施例による放射性物質除染方法を図2に示す。図2に示す除染方法は、実施例1とは、粉砕工程S2において粉砕条件だけでなく、新たに酸化剤を添加した点で異なる。さらに、分離回収工程S5において、篩による最小粒径100μmを超える粒子の除去工程を追加した点でも異なる。また、実施例1よりも処理する土壌量を増やし、処理規模を拡大したものである。
【0063】
137Csを含む土壌の4000gを、図2に示す密閉式のドラム形状を有する粉砕機1に入れる。粉砕機1には、粒径が2cmの陶器製ボールミルが約1000個混入されている。土壌体積とボールミル体積との比率は、2:1である。続いて、酸化剤として濃度が3質量%の塩素酸水溶液を3,000cc加える。粉砕は、撹拌回転数は60rpmで行い、土壌の平均粒径D50が100μm以下になるまで、60〜70℃で2時間連続的に行った(図2の(a))。粉砕後の土壌の平均粒径D50は、粉砕前の土壌の平均粒径と比べると1/3以下に微粉砕されていることが分かった。実施例1と同じように、放射線量は、Ge半導体検出器(CANBERA製)を使用し、計数値(Cts/sec/g)からBq/kgに換算した。また、平均粒径D50は、JIS A 1204規格に基づいてふるい分析によって得られる粒径加積曲線から求めた。
【0064】
次いで、粉砕後の土壌2を水洗用容器3にいれた後、15,000mlの水を注入して10分間浸漬することによって洗浄を行った(図2の(b))。その後、呼び寸法が100μmである金属製篩を用いて、最大粒径100μmを超える粒子の選別及び分別を行った(図2の(c))。選別及び分別後の土壌は、洗浄水を含んだままの状態で孔径が1μmのろ紙を用いて濾過し(図2の(d))、さらに乾燥を行った。濾過水溶液は、137Cs精製凝集用容器4を用いて、137Csの精製凝集を行う(図2の(e)).
【0065】
濾過及び乾燥後、ろ紙上の残渣として得られる残土の放射線量を、粉砕前の初期の土壌のものと比べると、放射線量の単位質量当たりの減衰率は約50%であった。このように、本実施例は、実施例1と対比すると、除染効果が高くなることが確認できた。除染効果の向上は、粉砕条件の変更により土壌の微粉砕が均一に進んだこと、粉砕時に酸化剤を添加したことによる顆粒状放射性物質の表面酸化の促進、及び最小粒径100μmを超える粒子の除去によって効率的な分離回収が行われたこと等の効果が相乗的に働いたためと考えられる。
【0066】
さらに、図2に示す放射性物質除染方法において、粉砕後の土壌から最小粒径1mmを超える粗粒子を選別する選別工程S2を追加する場合には、濾過及び乾燥後に、ろ紙上の残渣として得られる残土は放射線量の単位質量当たりの減衰率が50%を超え、選別工程S2を追加しない場合よりも除染効果がやや向上することが確認された。
【0067】
実施例1−2においては汚染土壌の除染方法についての実験結果を示しているが、本発明の除染方法は汚染焼却灰に対しても適用することができる。特に、焼却灰は、放射性物質の凝集が顕著であり高い放射線量を示すだけでなく、水蒸気又は保管時や貯蔵時の圧力等によって顆粒状になって存在する確率が高いため、本発明の除染方法によってより高い除染効果を得ることが期待できる。
【0068】
以上のように、本発明によれば、セシウム等の放射性物質で汚染された土壌又は焼却灰を初期の大きさよりも小さく粉砕して表面積を増やすことによって、前記放射性物質が酸化されやすい環境が創出され、水洗等の簡便な方法を使って効率的で、且つ確実な除染を行うことができる。さらに、粉砕工程を酸化剤の存在下で行うことによって放射性物質の酸化が促進されるため、除染効果の一層の向上が図れる。それによって、放射性物質で汚染された土壌又は焼却灰の除染が短時間で十分に行えるため、環境への悪影響を低減し、安全性を高めることができる。加えて、汚染土壌又は汚染焼却灰の再生及び再利用を促進できることから、その有用性は極めて高い。
【符号の説明】
【0069】
1・・・粉砕機、2・・・粉砕後の土壌、3・・・水洗用容器、4・・・137Cs精製凝集用容器。
図1
図2