特許第6132351号(P6132351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132351
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】凝集処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/56 20060101AFI20170515BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20170515BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C02F1/56 Z
   B01D21/01 102
   C02F1/52 Z
   B01D21/01 106
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-223568(P2013-223568)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-85219(P2015-85219A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129300
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】リン ブーン ケン
(72)【発明者】
【氏名】中村 華子
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−217972(JP,A)
【文献】 特開2013−217842(JP,A)
【文献】 特開2001−219005(JP,A)
【文献】 特開2003−164708(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/113435(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/52−1/56
B01D 21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塩と多糖類とを個別に添加する手順を含む凝集処理方法であって、
前記多糖類として、ラン藻類由来成分と、タピオカデンプン及び/又はグルコマンナンとを添加する凝集処理方法。
【請求項2】
前記ラン藻類由来成分と、前記タピオカデンプン及び/又はグルコマンナンとの添加量の比率が15:85〜90:10である請求項1記載の凝集処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水、泥水、濁水、その他各種懸濁水の凝集処理による水処理・水浄化技術などに関連する。より詳細には、鉄塩と2種類以上の多糖類とを個別に添加する手順を含む凝集処理方法などに関連する。
【背景技術】
【0002】
浄水場などで飲用に適する水を供給するためには、安全性などの観点から、有機物・無機物・有害物質などを除去し、水を浄化する必要がある。産業排水、生活排水、畜産排水などについても、環境負荷低減などの観点から、汚濁物質・有害物質を極力除去してから放流する必要がある。
【0003】
河川、運河、港湾、内湾、湖沼などの水域で土木工事を行う場合には、泥水、濁水の発生を抑制するための対策を講じる必要がある。また、港湾、湖沼、干潟、運河、堀など閉鎖性・半閉鎖性水域では、アオコや微細藻類(植物プランクトン)などが大量発生する場合があり、それらを有効に除去する必要がある。
【0004】
排水、泥水、濁水、その他各種懸濁水を処理する方法として、沈降分離法が知られている。泥、汚濁物などの懸濁物に凝集剤などを添加して凝集・沈降させ、それらの物質を水から分離し、除去する。
【0005】
凝集剤として、ポリ塩化アルミニウムなどの無機性凝集剤が汎用されている。しかし、これらの凝集剤を用いても充分に大きなフロックを形成することが困難である。また、ポリ塩化アルミニウムは生分解性が悪いため、水域などで大量に用いた場合の自然環境への影響が懸念される。
【0006】
また、凝集剤として多糖類を用いる方法も提案されている。例えば、特許文献1には、酸性の第2鉄水溶液中に中性の植物生産水溶性多糖類であるグアーガムを溶存した水処理用凝集剤が、特許文献2には、予め鉄塩を加えてpHを調整した後、多糖類(キサンタンガム又はアルギン酸ソーダ)を添加するフロック生成方法が、それぞれ記載されている。
【0007】
スイゼンジノリ(学名「Aphanothece sacrum」)は、日本国九州地方に自生する淡水産ラン藻類の光合成微生物で、細胞外マトリックスに、この種に特有な分子量約1,600万の多糖類を含有する。本発明者らは、先般、例えば、鉄塩と、スイゼンジノリなどのラン藻類由来成分とを個別に添加することで、高い凝集効果が得られることを報告している(特許文献3)。
【特許文献1】特開2001-219005号公報
【特許文献2】特開平10-216737号公報
【特許文献3】特開2012-217972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
天然のスイゼンジノリは、主には特定地域の湧水にのみ生息し、希少である。また、野養殖も行われているが、その生産量は年々減少している。その他、室内における人工量産培養技術も試みられているが、開発途上であり、大量生産には至っていない。一方、スイゼンジノリ由来の多糖類は、食材、化粧品材料、レアアース回収材料、保水材などとしての利用が研究されており、今後、需要が高まる可能性がある。
【0009】
従って、例えば、スイゼンジノリなどのラン藻類由来成分を凝集剤として用いる場合、高い凝集効果を得られる一方、コスト高になるという課題がある。そこで、本発明では、沈降分離による水処理・水浄化において、高い凝集効果を保持しつつ、コストを低減できる手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、沈降分離による凝集処理によって水処理・水浄化を行う場合などにおいて、鉄塩と多糖類とを個別に添加する際に、多糖類として、ラン藻類由来成分に加えて一又は複数の水溶性中性多糖類を添加することにより、ラン藻類由来成分の添加量を減らしつつ、高い凝集効果を保持できることを新規に見出した。
【0011】
そこで、本発明では、鉄塩と多糖類とを個別に添加する手順を含む凝集処理方法であって、前記多糖類として、ラン藻類由来成分及び水溶性中性多糖類を添加する凝集処理方法を提供する。
【0012】
この方法では、ラン藻類由来成分と水溶性中性多糖類を合わせて添加することにより、ラン藻類由来成分の添加量を減らすことができる。水溶性中性多糖類は大量生産が可能なものが多く一般的に比較的低価格であるため、ラン藻類由来成分の添加量を減らした分、凝集処理の際の費用を削減できる。
【0013】
一方、この方法では、ラン藻類由来成分の添加量を減らしても、鉄塩とラン藻類由来成分を個別に添加した場合とほぼ同等に大きなフロックを形成させることができ、ラン藻類由来成分とほぼ同等の高い凝集効果を保持できる。また、泥、汚濁物、有害物質など、広範な種類の懸濁物を凝集させることができる。
【0014】
従って、本発明は、例えば、浄水場における有機物・無機物・有害物質などの除去、排水処理場における汚濁物質・有害物質の除去、その他、水中などに含有した有害物質などの回収・除去、水域での土木工事における泥水、濁水の発生抑制と汚濁物・泥の除去、水域での土木工事の際に水底などから巻き上げられた有害物質などの回収・除去、水域におけるアオコや微細藻類(植物プランクトン)などの有機性懸濁物の除去などに有効である。
【0015】
その他、この方法で用いる物質は、いずれも自然界由来の成分であり、水域などに比較的大量に添加しても環境負荷が少ない。加えて、この凝集処理方法は凝集効果が高いため、凝集・沈降後の上澄みへの両凝集剤の残留はほとんどない。従って、これらの凝集剤を水域などに添加しても環境への影響が小さいという有利性がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、沈降分離による水処理・水浄化において、高い凝集効果を保持しつつ、コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、鉄塩と多糖類とを個別に添加する手順を含む凝集処理方法であって、前記多糖類として、ラン藻類由来成分及び水溶性中性多糖類を添加する凝集処理方法をすべて包含する。
【0018】
例えば、懸濁水を集約した後、鉄塩と多糖類のいずれかを添加し、撹拌・混合する。次に、もう一方を添加し、撹拌・混合した後、懸濁水を静置し、懸濁物を沈降させる。そして、上澄み液の透明度が基準値に達した場合は、懸濁物を沈降分離し、基準値に達しなかった場合は同様の水処理を繰り返す。これにより、各種懸濁物を有効に凝集・沈降・分離・除去できる。
【0019】
鉄塩と多糖類は、それぞれ個別に懸濁水に添加すればよく、添加する順序は特に限定されない。鉄塩と多糖類のどちらを先に添加した場合でも、ほぼ同様の凝集効果を得ることができる。
【0020】
この方法で用いる鉄塩は、特に限定されないが、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などの第二鉄塩を好適に用いることができる。これらの物質は、例えば、第二鉄塩を少なくとも含有する固形剤、若しくは水溶液などの形態で、懸濁水に添加してもよい。
【0021】
第二鉄塩の添加量は、例えば、塩化第二鉄の場合、懸濁水1L当たり、0.5〜1,000mgが好適であり、1〜500mgがより好適であり、5〜100mgが最も好適である。
【0022】
この方法では、多糖類として、ラン藻類由来成分及び水溶性中性多糖類を添加する。ラン藻類由来成分と水溶性中性多糖類を合わせて添加することにより、鉄塩とラン藻類由来成分を個別に添加した場合とほぼ同等の高い凝集効果を保持しつつ、ラン藻類由来成分の添加量を減らすことができる。そのため、沈降分離による水処理・水浄化において、高い凝集効果を保持しつつ、コストを低減できる。
【0023】
多糖類の添加量は、ラン藻類由来成分及び1又は複数の水溶性中性多糖類を合わせて、例えば、懸濁水1L当たり、0.5〜2,000mgが好適であり、1〜1,000mgがより好適であり、3〜500mgが最も好適である。
【0024】
凝集効果及び凝集剤のコストを勘案し、ラン藻類由来成分と水溶性中性多糖類の添加量の比率は15:85〜90:10であることが好適であり、18:82〜75:25であることがより好適であり、20:80〜60:40であることが最も好適である。
【0025】
本発明で採用するラン藻類由来成分は、その成分中に多糖類を有効成分として含有していればよく、その形態などは特に限定されない。多糖類を有効成分とするラン藻類由来成分として、例えば、ラン藻類の藻体をペースト状に調製したものを用いてもよいし、ラン藻類から抽出された多糖類などの成分を直接又は調製して用いてもよい。
【0026】
ラン藻類としては、淡水産のものが好適であり、クロオコッカス科(学名「Chroococcaceae」)の微生物、例えば、Chroococcus limneticus(学名)、Chroococcus disperses(学名)、Merismopedia elegans(学名)、スイゼンジノリ(学名「Aphanothece sacrum」)、Aphanothece clathrata(学名)などがより好適であり、スイゼンジノリ(学名「Aphanothece sacrum」)又はその近縁種が最も好適である。例えば、これらのラン藻類を水耕栽培又は野養殖し、ラン藻類由来成分の原材料として用いてもよい。
【0027】
ラン藻類の藻体をペースト状に調製する方法としては、公知のものを採用でき、特に限定されない。例えば、低濃度の水酸化ナトリウム水溶液にラン藻類の藻体を入れ、ミキサーなどでペースト状になるまで混合・粉砕し、そのペースト状物含有溶液を数時間、沸騰処理した後、冷却放置する。以上の手順などにより、ラン藻類由来ペースト状物を調製できる。
【0028】
ラン藻類から多糖類などの成分を抽出する方法としては、公知のものを採用でき、特に限定されない。例えば、ラン藻類を直接又は乾燥粉砕物を調製後、溶媒に一定時間浸漬し、水溶性・脂溶性色素などを除去する。溶媒には、例えば、エタノールなどの有機溶媒を用いることができる。次に、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの水溶液に移し、一定時間加熱処理して加水分解する。以上の手順などにより、ラン藻類から多糖類などの有効成分を抽出できる。
【0029】
また、ラン藻類から抽出した成分を中和し、その溶液をラン藻類由来成分の水溶液として用いてもよい。その他、例えば、脱水処理後、低温乾燥し、粉末化したもの、その粉末を固形化したもの、その粉末を溶液に溶解したものなどをラン藻由来成分として用いてもよい。
【0030】
ラン藻類由来成分は、その抽出成分中に、好適には重量平均分子量500万〜4,000万の多糖類を、より好適には重量平均分子量800万〜3,000万の多糖類を、さらに好適には重量平均分子量1,000万〜2,000万の多糖類を、有効成分として含有する。なお、重量平均分子量の測定は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーにより、公知の方法で行うことができる。
【0031】
ラン藻類由来成分に含有する多糖類は、好適には5〜30種類の、より好適には8〜30種類の、さらに好適には11〜30種類の構成単糖を含む。この多糖類は、少しずつ構造の異なる多様な糖鎖分子を分子構造中に包含し、また、多くの硫酸基、カルボン酸基、アミノ基などを含有し、両性電解質である。そのため、イオン交換能発現に幅を有しており、pHの変化などに対して、物質特性の安定性を備えている。従って、本発明に係る凝集処理方法は、pH調整などの前処理を行う手順を省略又は簡略化でき、より簡易かつ有効に懸濁物を凝集・沈降させることができるという有利性を備える。
【0032】
ラン藻類由来成分に含有する多糖類の構成単糖として、例えば、中性糖であるグルコース、ガラクトース、マンノース、ラムノース、フコース、キシロース、アラビノースなど、酸性糖であるウロン酸類(グルクロン酸、ガラクツロン酸)、硫酸化ムラミン酸など、並びにアミノ糖であるガラクトサミンなどが挙げられる。
【0033】
ラン藻類由来成分に含有する多糖類は、構成単糖として少なくともウロン酸類を含有することが好ましい。ラン藻類由来成分に含有する多糖類における全構成単糖中のウロン酸類の割合は特に限定されないが、例えば、2〜20%が好適であり、4〜15%がより好適であり、5〜12%が最も好適である。
【0034】
なお、構成単糖の定性・定量分析は、例えば、高速液体クロマトグラフィー、質量分析計による分析などにより、公知の方法で行うことができる。
【0035】
ラン藻類由来成分に含有する多糖類は、硫酸基を含有する構成単糖を、好適には1〜20%、より好適には3〜15%、さらに好適には5〜10%有する。
【0036】
なお、硫酸基の定量分析は、例えば、質量分析計による分析などにより、公知の方法で行うことができる。また、多糖類中における硫黄含量は、例えば、ICP発光分光法などによる公知の方法で行うことができる。
【0037】
本発明で採用する水溶性中性多糖類は、水溶性の中性多糖類、即ち、水溶性であり、かつ構成単糖中に、ウロン酸、エステル硫酸などをほとんど含有しないものを広く包含する。
【0038】
また、本発明で用いる水溶性中性多糖類は、水溶性を有し、若しくは獲得し、かつ構成単糖中に、ウロン酸、エステル硫酸などをほとんど含有しないものであれば、例えば、α化、アセチル化など、公知の修飾・加工などを施したものも広く包含する。
【0039】
水溶性中性多糖類として、例えば、デンプン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、グアーガム、デキストラン、プルランなど、アルドヘキソースを構成単糖とする多糖類、特に、グルコース、マンノース、ガラクトースのいずれか又は複数を構成単糖とする多糖類を用いることが好適であり、水溶性中性多糖類がタピオカデンプン及び/又はグルコマンナンであることが最も好適である。
【0040】
この水溶性中性多糖類の分子量は、1万〜400万程度が好適であり、2万〜300万がより好適であり、2万5,000〜250万が最も好適である。
【0041】
なお、本発明では、1種類の水溶性中性多糖類を用いる場合と2種以上の水溶性中性多糖類を用いる場合の両方を広く包含する。
【0042】
上述の通り、本発明は、広範な懸濁水の凝集処理に適用できる。例えば、浄水場における有機物・無機物などの除去、排水処理場における汚濁物質などの除去、水域での土木工事における泥水・濁水の発生抑制と汚濁物・泥などの除去、水域におけるアオコや微細藻類(植物プランクトン)などの有機性懸濁物の除去などに有効である。
【0043】
加えて、本発明は、例えば、浄水場・排水処理場などにおける有害物質の除去、その他、水中に含有した有害物質などの回収・除去、水域での土木工事の際に水底などから巻き上げられた有害物質などの回収・除去などにも有効であるという有利性を持つ。
【0044】
除去可能な有害物質として、例えば、鉛、銅、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、スズ、ビスマスなどの重金属、ウラン、プルトニウム、セシウム、ストロンチウム、亜鉛、マンガンなどの放射性同位元素などが挙げられる。
【0045】
その他、本発明は、淡水、汽水、海水のいずれの懸濁水に対しても有効である。
【実施例1】
【0046】
実施例1では、多糖類を用いた凝集処理において、ラン藻類由来成分以外の多糖類がその代替えとなりうるか、検討した。
【0047】
供試する多糖類として、多糖類含有ラン藻類由来成分、ダイユータンガム(商品名「KELCO-CRETE DG/DG-F」、以下同じ)、キサンタンガム(商品名「KELTROL F」、以下同じ)、α化アセチル化タピオカデンプン(商品名「アルファタピオカスターチAC」、以下同じ)、グルコマンナン(商品名「プロポールA」、以下同じ)を準備した。
【0048】
多糖類含有ラン藻類由来成分は、以下の手順で調製された。野養殖したスイゼンジノリをエタノールに一定時間浸し、水溶性色素、脂溶性色素などを除去した。次に、水酸化ナトリウム水溶液に移し、加熱処理を行い、ラン藻類から重量平均分子量200万〜2,000万の多糖類を主とする成分を抽出した。この抽出液に塩酸を滴下し、pH7付近に中和した。その一部を分取し、高速液体クロマトグラフィーを用いて定量した(以下の実施例において同じ)。
【0049】
ダイユータンガムは、2個のグルコース、1個のグルクロン酸、及び、3個のラムノースを構成単位とする天然の水溶性酸性多糖類で、分子量10万〜1013である。キサンタンガムは、2個のグルコース、及び、1個のグルクロン酸を構成単位とする水溶性酸性多糖類で、分子量100万である。
【0050】
供試したα化アセチル化タピオカデンプンは、キャッサバ由来デンプンを加工したもので、グルコースを構成単位とする水溶性中性多糖類であり、分子量4〜34万である。グルコマンナンは、D-グルコースとD-マンノースが約1:1.6のモル比でβ-1,4結合によって重合したコンニャクイモ由来の水溶性中性多糖類で、分子量200万以上である。
【0051】
水道水にカオリン(和光純薬株式会社製のはくとう土)を添加し、濁度が約200NTUの濁水を調整した。
【0052】
試験区1〜5のそれぞれに濁水200mLを入れ、ポリ硫酸第二鉄水溶液800μL添加し(最終濃度7.1mg/L)、6分間撹拌した後、各試験区に表1に示す多糖類を最終濃度6mg/Lになるように添加し、4分間撹拌し、攪拌を停止して5分間静置した。
【表1】
【0053】
撹拌・静止後沈降した凝集粒子を10mL採取し、20mLガラス瓶に収容して、2分間150rpm左右振とう処理した後、水深30cmのシリンダーに滴下して沈降速度を計測した。
【0054】
結果を図1に示す。図1は凝集剤として各多糖類を用いた場合における粒子沈降速度を示すグラフである。同グラフ中の横軸は各試験区の結果であることを、縦軸は粒子沈降速度(単位:mm/分)を表す。
【0055】
図1に示す通り、ラン藻類由来成分以外の多糖類を添加した場合(試験区2〜5)、いずれの多糖類でも、粒子沈降速度が400〜800mm/分の範囲であり、フロック粒子が形成され、凝集・沈降が見られたが、多糖類としてラン藻類由来成分を添加した場合(試験区1)の粒子沈降速度(1,000mm/分以上)よりは低く、ラン藻類由来成分と同等の凝集効果は得られなかった。
【実施例2】
【0056】
実施例2では、多糖類を用いた凝集処理において、ラン藻類由来成分とそれ以外の多糖類を添加し、その凝集効果を検討した。
【0057】
実施例1と同様、試験区6〜9のそれぞれに濁水200mLを入れ、ポリ硫酸第二鉄水溶液800μL添加し(最終濃度7.1mg/L)、6分間撹拌した後、各試験区に表2に示す2種の多糖類を合わせて最終濃度6mg/Lになるように添加し、4分間撹拌し、攪拌を停止して5分間静置した。そして、撹拌・静止後沈降した凝集粒子を10mL採取し、20mLガラス瓶に収容して、2分間150rpm左右振とう処理した後、水深30cmのシリンダーに滴下して沈降速度を計測した。
【表2】
【0058】
結果を図2に示す。図2は凝集剤として2種類の多糖類を添加した場合における粒子沈降速度を示すグラフである。同グラフ中の横軸は各試験区の結果であることを、縦軸は粒子沈降速度(単位:mm/分)を表す。なお、同グラフ中、試験区1は実施例1での結果を表す。
【0059】
図2に示す通り、多糖類としてラン藻類由来成分とダイユータンガム又はキサンタンガムとを添加した場合の粒子沈降速度(試験区6、7)は、ラン藻類由来成分を単独で添加した場合(試験区1)よりも低かった。また、多糖類としてダイユータンガム又はキサンタンガムを単独で添加した場合(図1中、試験区2、試験区3)と比較しても、粒子沈降速度は少しの上昇にとどまり、若しくはほぼ同等の範囲内であった。
【0060】
それに対し、多糖類としてラン藻類由来成分とα化アセチル化タピオカデンプン又はグルコマンナンとを添加した場合の粒子沈降速度(試験区8、9)は、ラン藻類由来成分を単独で添加した場合(試験区1)とほぼ同等であった。また、多糖類としてα化アセチル化タピオカデンプン又はグルコマンナンを単独で添加した場合(図1中、試験区4、試験区5)と比較して、粒子沈降速度は顕著に上昇した。
【0061】
上述の通り、ダイユータンガム及びキサンタンガムは構成単糖にグルクロン酸を含む水溶性酸性多糖類であり、α化アセチル化タピオカデンプン及びグルコマンナンはアルドヘキソースを構成単糖とする水溶性中性多糖類である。従って、本実験結果は、鉄塩と多糖類とを個別に添加する凝集処理において、多糖類としてラン藻類由来成分及び水溶性中性多糖類を添加することにより、ラン藻類由来成分を単独で添加した場合とほぼ同等の凝集効果を保持しつつ、ラン藻類由来成分の添加量を低減できることを示す。
【0062】
なお、ラン藻類由来成分に含有する多糖類の分子量は約1,600万であるのに対し、合わせて添加する水溶性中性多糖類の分子量は、ラン藻類由来成分に含有する多糖類の分子量よりも小さい方が好ましいと推測する。本実験で用いた多糖類の分子量を勘案すると、水溶性中性多糖類の分子量は、1万〜400万程度が好適であると推定する。
【実施例3】
【0063】
実施例3では、ラン藻類由来成分及び水溶性中性多糖類を用いた凝集処理において、ラン藻類由来成分の添加の割合を検討した。
【0064】
実施例1などと同様、試験区10〜14のそれぞれに濁水200mLを入れ、ポリ硫酸第二鉄水溶液800μL添加し(最終濃度7.1mg/L)、6分間撹拌した後、各試験区に表3に示す2種以上の多糖類を合わせて最終濃度6mg/Lになるように添加し、4分間撹拌し、攪拌を停止して5分間静置した。そして、撹拌・静止後沈降した凝集粒子を10mL採取し、20mLガラス瓶に収容して、2分間150rpm左右振とう処理した後、水深30cmのシリンダーに滴下して沈降速度を計測した。
【表3】
【0065】
結果を図3に示す。図3は凝集剤として2種類以上の多糖類を添加する場合において、ラン藻類由来成分と他の多糖類との添加の割合を変えた場合における粒子沈降速度を示すグラフである。同グラフ中の横軸は各試験区の結果であることを、縦軸は粒子沈降速度(単位:mm/分)を表す。なお、同グラフ中、試験区1は実施例1での結果を表す。
【0066】
図3に示す通り、ラン藻類由来成分及び水溶性中性多糖類を用いた凝集処理において、添加する多糖類のうちのラン藻類由来成分の添加の割合を25%にした場合の粒子沈降速度(試験区10〜12)は、ラン藻類由来成分を単独で添加した場合(試験区1)とほぼ同等であった。一方、添加する多糖類のうちのラン藻類由来成分の添加の割合を10%にした場合の粒子沈降速度(試験区13、試験区14)は、ラン藻類由来成分を単独で添加した場合(試験区1)よりも低い値であった。
【0067】
本実験結果は、鉄塩と多糖類とを個別に添加する凝集処理において、多糖類としてラン藻類由来成分及び水溶性中性多糖類を添加する場合、添加する多糖類のうちのラン藻類由来成分の添加の割合を少なくとも15%以上にすることにより、ラン藻類由来成分を単独で添加する場合とほぼ同等の凝集効果が得られることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】実施例1において、凝集剤として各多糖類を用いた場合における粒子沈降速度を示すグラフ。
図2】実施例2において、凝集剤として2種類の多糖類を添加した場合における粒子沈降速度を示すグラフ。
図3】実施例3において、ラン藻類由来成分と他の多糖類との添加の割合を変えた場合における粒子沈降速度を示すグラフ。
図1
図2
図3