(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
例えば、沸騰水型原子炉に使用される燃料集合体は、複数の燃料棒と水管とが、上部タイプレートと複数のスペーサと下部タイプレートとにより束ねられて構成されている。燃料棒は、金属製の長尺な被覆管の中に複数の円柱状の燃料ペレットが封じ込められて構成されている。燃料ペレットは、例えばプルトニウム酸化物(PuO
2)とウラン酸化物(UO
2)とを混合したMOX燃料により形成される。
【0003】
燃料集合体を目的地まで輸送する場合には、燃料集合体は、通常、燃料ホルダに収容され、燃料集合体が収容された複数の燃料ホルダは輸送容器に収容され、この輸送容器は、船舶、トラック等の輸送用機器の架台に設置される。
【0004】
輸送の際には、車両のブレーキ等によって発生する比較的大きな振動により、燃料集合体が燃料ホルダ内で滑りを伴って移動して燃料集合体と燃料ホルダとが衝突するおそれがある。したがって、燃料ホルダ及び輸送容器は、燃料集合体と燃料ホルダとの衝突による燃料集合体の破損を防止する設計がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、一般的な輸送時の振動より大きなレベルの振動に対し、内容器等の内部で燃料体が滑りを伴う特異な振動を生じることなく、安定して輸送できるBWR燃料体の内容器等との固縛法とこれを用いた輸送方法を提供することを目的として(特許文献1の0005欄〜0015欄等)、「沸騰水型原子炉燃料体を縦長形状の内容器等に収納して輸送容器で輸送する輸送方法において、前記輸送容器を水平にしたときに前記燃料体及び内容器等の垂直方向断面の一辺が水平よりおよそ45度傾斜していて、上方より前記燃料体を締め付けることにより前記燃料体を前記内容器等に固縛する工程を含むことを特徴とする沸騰水型原子炉燃料体の輸送方法」(特許文献2の請求項1参照。)が開示されている。
【0006】
また、輸送の際には、車両のブレーキ等によって発生する比較的大きな振動だけでなく、輸送用機器のエンジンから発生する振動、及び道路の凹凸により車体が揺れることによる振動等、輸送中間断なく生じるあまり大きくない振動が、輸送用機器から燃料集合体へと伝達されている。
このような振動が燃料集合体に常に伝達されると、振動により燃料棒が振れ、燃料棒とスペーサとの接触部が擦れ合うことにより、燃料棒の被覆管が摩耗して、その厚みが薄くなり、最悪の場合には、燃料棒が破断するおそれがある。
特に、船舶等で海外に燃料集合体を輸送する場合には、輸送期間が長期にわたるので、燃料棒の被覆管がより一層摩耗し易くなるから、燃料棒が破断しないようにするための対策が重要になる。
【0007】
例えば、特許文献1には、「前記締め付け機構の締め付け板と燃料体間に板バネ等の圧縮部材を設けてこの圧縮部材を介して燃料体を締め付けて前記内容器等と固縛する工程」(特許文献1の請求項10)を含む沸騰水型原子炉燃料体の輸送方法が開示されている。この方法によると、輸送機関の振動との共振を回避できることが開示されている(特許文献1の0032欄)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に示されるように、燃料集合体と締め付け板との間に板バネ等を配置して輸送機関との共振を回避しようとする場合には、燃料集合体と締め付け板との接触部に大きな荷重がかかるため、この荷重を支えることができる程度の大きさを有する板バネを取り付ける必要がある。現在使用されている規格の燃料ホルダと燃料集合体との間には、荷重を支えることができる程度の大きな板バネを取り付けるスペースがなく、燃料ホルダの規格を変更せずに板バネによって共振を回避することは困難である。また、板バネを取り付けるスペースを確保するために燃料ホルダを大きくすると、燃料ホルダを収容する輸送容器も大きくなり、輸送容器を設置するための輸送用機器も大きなスペースが必要となる。また、板バネは、使用によって劣化するので、定期的な点検が必要であり、船舶等による長期間にわたる輸送には不向きである。
【0010】
このように、板バネで共振を回避することにより燃料集合体の振動を防止することは現実的でない。そこで、間断なく生じるあまり大きくない振動に対して、燃料集合体と燃料ホルダとの間にシリコーンゴム等の振動を吸収する部材を配置することにより、振動を減衰させることが考えられる。しかしながら、MOX燃料集合体を輸送する場合には、MOX燃料は燃料ホルダ内で発熱するので、燃料ホルダ内は高温になり、シリコーンゴムの使用限界温度を超えてしまうことから、MOX燃料を輸送する場合には、シリコーンゴム製の部材を配置して振動を吸収するという対策を取ることができない。
【0011】
これまでに、MOX燃料集合体を輸送する場合に、輸送用機器からMOX燃料集合体へ定常的に伝達される振動を低減する機構を有する燃料ホルダはない。したがって、MOX燃料集合体を輸送する場合には、輸送時の速度制限や輸送ルートの検討、運用面での検討が必要となり、これらがMOX燃料集合体を輸送する際の制限となっている。
【0012】
この発明が解決しようとする課題は、MOX燃料集合体を輸送する場合であっても、輸送時に車両等の輸送用機器から燃料集合体へ伝達される振動を低減することができる燃料ホルダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するための手段は、
(1) 燃料集合体を収容する収容殻と、前記収容殻に設けられ、前記燃料集合体を前記収容殻の軸線に直交する方向に固定する複数の固定手段とを有し、
前記収容殻及び前記固定手段のうち、輸送用機器から燃料集合体への振動伝達経路上にある部位の少なくとも一部が制振合金であることを特徴とする燃料ホルダであり、
(2) 前記収容殻は、複数の内壁面を有し、
前記固定手段は、前記内壁面のうちの少なくとも一つに設置された受け板と、前記受け板が設置された内壁面に対向する他の内壁面に設置されると共に付勢手段を有する締付部とを有し、前記締付部は前記付勢手段により、前記燃料集合体を締め付け可能な構造を有し、
前記受け板における、前記収容殻に接触する部位及び前記燃料集合体に接触する部位の少なくとも一方、前記締付部の前記付勢手段以外の部分における、前記収容殻に接触する部位及び前記燃料集合体に接触する部位の少なくとも一方、及び前記付勢手段のうちの少なくとも一つが制振合金であることを特徴とする前記(1)に記載の燃料ホルダである。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る燃料ホルダは、前記収容殻及び前記固定手段のうち、輸送用機器から燃料集合体への振動伝達経路上にある部位の少なくとも一部が制振合金であるので、輸送時に車両等の輸送用機器から燃料集合体へ伝達される振動を低減することができる。
特に、制振合金は、耐熱性を有し、高温環境下においても振動を吸収する機能を十分に発揮するので、発熱を伴うMOX燃料集合体を輸送する場合にも、輸送時に車両等の輸送用機器から燃料集合体へ伝達される振動を低減することができる。
また、制振合金は、板バネやシリコーンゴム等に比べて強度が大きく経時劣化し難いので、この発明に係る燃料ホルダは、船舶等で長期間にわたり燃料集合体を輸送する場合であっても振動を吸収する機能を維持することができ、そのため、保守及び点検に関する作業量を低減することができる。
また、制振合金は、板バネのように大きなスペースを必要としないので、現在使用されている規格の燃料ホルダの大きさを変更することなく、輸送用機器から燃料集合体へ伝達される振動を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下においては、図面を参照しつつこの発明に係る燃料ホルダを説明する。
【0017】
図1は、この発明に係る燃料ホルダの一実施態様を示す縦断面概略説明図である。
図2は、
図1に示した燃料ホルダ及び燃料集合体を、燃料集合体の長手方向に直交し、かつ上部タイプレートの上部グリッドを通る切断面で切断して得られる横断面概略説明図である。
【0018】
図1及び
図2に示すように、燃料ホルダ1は、燃料集合体100を収容し、軸線O方向に延在する収容殻2と、収容殻2に設けられ、燃料集合体100を前記軸線Oに直交する方向に固定する複数の固定手段3とを備えている。また、燃料ホルダ1は、燃料集合体100の固定及び輸送に必要な部材であるところの台座11、頂部12、及び底部13を備えている。
【0019】
この燃料ホルダ1に収容される燃料集合体100は、例えば、沸騰水型原子炉に使用される燃料集合体であり、複数の燃料棒104及び水管(図示せず)が上部タイプレート101、複数のスペーサ102、及び下部タイプレート103で束ねられて構成されている。
【0020】
上部タイプレート101は、上部グリッド105とハンドル106とを有する。上部グリッド105は、略方形板状体であり、複数の貫通孔を有する。この貫通孔それぞれに燃料棒104及び水管が嵌入されて、燃料棒104及び水管の端部が上部グリッド105によって固定されている。ハンドル106は、燃料集合体100を鉛直状態で移動するときの被保持部としての役割を有する。ハンドル106は、コの字形状を有し、平面視略方形の上部グリッド105の対角位置で上部グリッド105に結合している。
【0021】
下部タイプレート103は、下部グリッド107と、下部グリッド107の端部から円筒部109に向かって減幅する中空角錐状の逆角錐部108と、円筒部109に結合されてなるノーズピース部(図示せず)とを有する。下部グリッド107は、略方形板状体であり、複数の貫通孔を有する。この貫通孔それぞれに燃料棒104及び水管が嵌入されて、燃料棒104及び水管の端部が下部タイプレート103によって固定されている。
【0022】
スペーサ102は、上部タイプレート101と下部タイプレート103との間に軸線O方向に沿って所定の間隔で設けられている。スペーサ102は、略方形板状体であり、複数の貫通孔を有する。この貫通孔それぞれに燃料棒104及び水管が嵌入されて、燃料棒104及び水管がスペーサ102によって固定されている。
【0023】
燃料棒104は、金属製の長尺な円筒状の被覆管の中に複数の円柱状の燃料ペレットが封じ込められて構成されている。燃料ペレットは、例えばプルトニウム酸化物(PuO
2)とウラン酸化物(UO
2)とを混合したMOX燃料により形成される。
【0024】
図1及び
図2に示すように、この燃料ホルダ1の収容殻2は、収容殻2の軸線O方向に直交する断面が正方形を成す筒体である。収容殻2は、互いに直交する4個の内壁面21〜24を有する。
【0025】
図2に示すように、燃料集合体100を収容する前段階において、各内壁面21〜24を与える4個のパネル部材は、相互に固定されていても良く、固定されていなくても良い。もっとも、燃料集合体100を収容した後の収容殻2は、輸送時等に収容殻2に作用する衝撃等によって、内壁面21〜24が互いに直交しなくなるような変形を生じることがないように、適宜の補強材を内壁面の適宜個所に設けておくのが好ましい。
【0026】
図1に示すように、燃料集合体100を収容殻2に収容したときに、頂部9は収容殻2における上部タイプレート101側の開口部を閉鎖し、底部10は収容部2における下部タイプレート103側の開口部を閉鎖する。頂部12及び底部13は、それぞれが収容殻2に固定されているのが好ましい。なお、頂部12及び底部13と収容殻2との固定手段は、特に限定されず、接着、溶着、係合、嵌合又は螺合等の公知の手段又はこの発明の技術分野における通常の知識を有する者により容易に想到可能な手段を採用することができる。
【0027】
燃料集合体100の収容殻2への収容は、収容殻2と燃料集合体100とを直立させて行われることが多い。底部10の内側に取り付けられて成る台座11は、燃料集合体100を直立させたときに、下部タイプレート103のノーズピースを内挿し、燃料集合体100の円筒部109を支持可能に形成されている。
【0028】
固定手段3は、4つの内壁面21〜24それぞれに設けられ、また、燃料集合体100における上部グリッド105、複数のスペーサ102、及び下部グリッド107の外周面に当接する位置にそれぞれ設けられている。固定手段3は、すべてのスペーサ102の外周面に当接する位置に設けられているのが、燃料集合体100を確実に固定する点で好ましいが、少なくとも一つのスペーサ102の外周面に当接する位置に設けられていればよい。
【0029】
この実施形態の固定手段3は、受け板4と締付部5とを有する。受け板4は、内壁面21〜24のうちの互いに隣接する内壁面21及び22それぞれに設置される。締付部5は、受け板4が設置された内壁面21及び22に対向する他の内壁面24及び23それぞれに設置される。締付部5の内側面は燃料集合体100に向かって移動可能であり、受け板4と締付部5とで燃料集合体100を締め付けて燃料集合体100を燃料ホルダ1に固定する。締付部5は付勢手段6を有し、付勢手段6により燃料集合体100を締付可能な構造を有する。付勢手段6は、燃料ホルダ1に押圧力を与えることができる限り特に限定されず、例えば、ネジ及びバネ等を挙げることができる。締付部5の構造は特に限定されないが、例えば、上部グリッド105及び下部グリッド107に当接する締付部5は、ネジ部6と押え部7と枠体8とを有し(
図2)、ネジ部6で押え部7を燃料集合体100に向かって移動させることができる構造を有する。また、スペーサ102に当接する締付部5は、バネと押え部とを有し(図示せず。)、バネで押え部を燃料集合体に向かって移動させることができる構造を有する。以下では、
図2に示す、上部グリッド105及び下部グリッド107に当接する締付部5について説明する。押え部7は板状体であり、その外周部が枠体8に嵌め合わされている。枠体8は、内壁面23及び24に接合され、押え部7が内壁面23及び24から脱落しないように形成されている。枠体8は、例えば、
図2に示すように、断面略L字状の形状を有し、枠体8に囲まれる空間に押え部7が配置される。ネジ部6は、例えば円筒状のネジであり、収容殻2に形成されたネジ穴9に螺合されている。例えば、ネジ部6を回して燃料集合体100が配置されている方向にネジ部6を移動することにより、押え部7を介して上部グリッド105、及び下部グリッド107をそれぞれ外周面から押圧し、締付部5と受け板4とでこれらを拘束する。
【0030】
燃料ホルダ1は、耐熱性を有し、要求される機械的強度を有する材料で形成される。燃料ホルダ1は、輸送用機器のエンジン等から発生する振動が燃料集合体100へ伝達される振動伝達経路上にある部位の少なくとも一部は制振合金で形成される。制振合金である部位は、振動伝達経路上にある限り特に限定されないが、この実施形態では、
図2に網掛け部分Dとして示されるように、受け板4における収容殻2に接触する部位が制振合金Dである。その他の部分はステンレス鋼及び耐熱ニッケル基合金等耐熱性及び要求される機械的強度を有する一方で制振合金Dに比べて振動を吸収し難い合金で形成されている。この燃料ホルダ1は振動伝達経路上にある部位の少なくとも一部が制振合金Dであるので、輸送用機器のエンジン等から発生する振動等、輸送中間断なく発生する振動を制振合金Dが吸収し、輸送用機器から燃料集合体100へ伝達される振動を低減することができる。燃料集合体100が定常的に振動していると燃料棒104とスペーサ102とが擦れ合い、燃料棒104の被覆管が摩耗して、その厚みが薄くなり、最悪の場合には燃料棒が破断するおそれがあるところ、この燃料ホルダ1は、輸送用機器から燃料集合体100へ伝達される振動を低減することができるので、このような燃料棒104の摩耗及びそれによる破断を防止することができる。
【0031】
輸送用機器のエンジン等から発生する振動は、輸送用機器から燃料容器、及び燃料ホルダ1を介して燃料集合体100へと伝達される。燃料ホルダ1における振動伝達経路は、輸送容器と燃料ホルダ1との接触部から燃料ホルダ1と燃料集合体100との接触部までの間に存在する部位である。燃料集合体100は、受け板4と締付部5とにより固定されているので、振動は、少なくとも収容殻2と受け板4及び締付部5とを通って伝達される。
【0032】
一例として、
図3に示す輸送容器30に燃料ホルダ1が収容されて輸送される場合の燃料ホルダ1における振動伝達経路について説明する。この輸送容器30は、燃料ホルダ1を収容する略角柱状のバスケット孔31を複数有し、バスケット孔31の断面の一辺が水平に対して45°傾斜するように配置されている。バスケット孔31に収容された燃料ホルダ1は、下側に配置される2つのパネル部材の外面がバスケット孔31の2つの内壁面32、33に接触している。また、バスケット孔31の上側に配置される2つの内壁面34、35には2つの固縛装置36、37が設けられ、この固縛装置36、37と燃料ホルダ1の上側に配置される2つのパネル部材の外面とが接触している。
また、
図2に示すように、燃料ホルダ1は、受け板4と締付部5とを有し、これらと燃料集合体100とが接触している。すなわち、燃料ホルダ1の下側に配置される受け板4と燃料集合体100における上部タイプレート105、スペーサ102、及び下部タイプレート107それぞれの外周面とが接触している。また、燃料ホルダ1の上側に配置される締付部5と燃料集合体100における上部タイプレート105、スペーサ102、及び下部タイプレート107それぞれの外周面とが接触している。
【0033】
図3に示す燃料ホルダ1において、振動は、輸送容器30と燃料ホルダ1との接触部T
1、T
2から燃料ホルダ1と燃料集合体100との接触部T
3、T
4までの間に存在する部位を伝達する。これらの部位のうち、前記接触部T
1、T
2と前記接触部T
3、T
4との間で最短距離となる部位は振動が減衰し難く、最も振動が伝達し易い。したがって、振動伝達経路のうちでも、バスケット孔31の下側の内壁面32、33と燃料ホルダ1の下側の外面との接触部T
1から、受け板4を通って、受け板4と燃料集合体100との接触部T
3との間、及び、固縛装置36、37と燃料ホルダ1の上側の外面との接触部T
2から、締付部5を通って、締付部5と燃料集合体100との接触部T
4との間の少なくとも一部が、制振合金であることが好ましい。
【0034】
燃料ホルダ1は、振動伝達経路上にある部位の少なくとも一部が制振合金であればよく、収容殻2、受け板4、及び締付部5のすべてが制振合金であってもよい。受け板4は振動伝達経路上にあるので、受け板4における少なくとも一部が制振合金であってもよく、例えば、
図2に示すように、受け板4における収容殻2に接触する部位が制振合金Dであってもよいし、
図4(a)に示すように、受け板4における燃料集合体100に接触する部位が制振合金Dであってもよいし、
図4(b)に示すように、受け板4全体が制振合金Dであってもよい。また、締付部5は振動伝達経路上にあるので、締付部5における少なくとも一部が制振合金であってもよく、例えば、
図4(c)に示すように、ネジ部6が制振合金Dであってもよいし、
図4(d)に示すように、締付部5のネジ部6以外の部分における収容殻2に接触する部位すなわち枠体8における収容殻2に接触する部位が制振合金Dであってもよいし、
図4(e)に示すように、締付部5のネジ部6以外の部分における燃料集合体100に接触する部位すなわち押え部7が制振合金Dであってもよいし、
図4(f)に示すように、締付部5全体が制振合金Dであってもよい。なお、
図2及び
図4において、制振合金で形成されている部位は、網掛けで示されている。また、収容殻2は振動伝達経路上にあるので、収容殻2における少なくとも一部が制振合金であってもよく、例えば、収容殻2における、輸送容器30に接触する部位、受け板4に接触する部位、及び締付部5に接触する部位の少なくとも一つ、又は収容殻2全体が制振合金であってもよい。また、受け板4の少なくとも一部、締付部5の少なくとも一部、及び収容殻2の少なくとも一部のうちの少なくとも一つが制振合金であってもよい。なお、ここでは上部グリッド105及び下部グリッド107に当接する締付部5について説明したが、スペーサ102に当接する締付部5も同様に、締付部5の少なくとも一部が制振合金であってもよい。
【0035】
これらの中でも、燃料集合体100の下側に到達する振動は輸送用機器から燃料集合体100までの間の振動伝達経路が短く、振動が減衰し難いので、収容殻2のうち下側に配置されるパネル部材及び受け板4が制振合金であるのが好ましい。また、制振合金が高価であることから、収容殻2における、輸送容器30に接触する部位若しくは受け板4に接触する部位、又は受け板4における、収容殻2に接触する部位(
図2)若しくは燃料集合体100に接触する部位(
図4(a))が制振合金であるのが好ましい。
【0036】
制振合金は、振動エネルギーを内部摩擦により熱エネルギーに変換して振動を吸収する合金である。制振合金は、制振機構により、双晶型、転位型、強磁性型、複合型があるが、これらのうちのいずれであってもよい。制振合金としては、例えば、Mn−Cu−Ni−Fe合金、Mn−Cu−Al−Fe−Ni合金等のMn基合金、Cu−Mn−Al合金、Cu−Zn−Al合金、Cu−Al−Ni等のCu基合金、Fe−Al合金、Fe−Cr合金、Fe−Cr−Al合金等のFe基合金、Mg−Zr合金、Mg−Ni合金等のMg基合金等を挙げることができる。振動伝達経路上に配置される制振合金は、他の部分を形成するステンレス鋼等の材料に比べて制振係数が大きく、制振係数が1%より大きいのが好ましい。制振係数が大きいほど振動減衰能が大きくなり、輸送用機器から燃料集合体100へ伝達される振動を低減することができる。制振係数は、材料の0.2%耐力をσyとし、σy/10の表面最大せん断応力振幅を用いてねじり振動法で求めた比減衰能である。比減衰能は弾性エネルギーWに対する1サイクル当たりのエネルギー損失ΔWの割合((ΔW/W)×100%)で求めることができる。制振係数については、例えば、丸善株式会社発行の新素材ハンドブックに掲載されている。
【0037】
次に、燃料ホルダ1の使用方法の一例を説明する。
まず、締付部5のネジ部6を緩めておき、燃料ホルダ1をその軸線O方向が上下方向になるように縦置き状態にして、収容殻2のうち少なくとも一つのパネル部材を開放し、燃料集合体100を燃料ホルダ1の収容空間に配置する。このとき、ノーズピースを台座11の内部に挿入し、円筒部109が台座11に当接するようにする。
【0038】
燃料集合体100を燃料ホルダ1に配置した後の収容殻2は4つのパネル部材が互いに直交する状態が固定されている必要があるが、燃料集合体100を配置する前の収容殻2は、各パネル板が相互に固定されていてもよく、固定されていなくともよい。また、パネル部材同士の固定態様は、隣接する端縁の全長が結合されて一体に形成されてもよいし、隣接する端縁における特定の複数箇所が互いに結合されていてもよい。
【0039】
燃料集合体100を配置する前の底部13は、4つのパネル部材すべてに固定されていてもよく、4つのパネル部材すべてに固定されていなくともよく、一部のパネル部材に固定されていてもよい。燃料集合体100が燃料ホルダ1に配置された後には、底部13とすべてのパネル部材とは、溶接又は係合等の公知の手段により固定される。なお、頂部12についても、底部13と同様にパネル部材に固定される。
【0040】
次いで、締付部5におけるネジ部6を締め付けて、押え部7と受け板4とを上部グリッド105、及び下部グリッド107それぞれの側面すなわち外面に当接させ、適度な押圧力で燃料集合体100を燃料ホルダ1に固定するように調整する。このとき、スペーサ102の側面は、押え部を介してバネによる適度な押圧力で押圧され、燃料集合体100が燃料ホルダ1に固定される。
【0041】
燃料集合体100が収容された燃料ホルダ1は、さらに輸送容器に装荷されて、船舶、トラック等の輸送用機器の架台に設置され、原子力発電所及び他の各燃料施設等の需要地に搬送される。一つの輸送容器に装荷される燃料ホルダ1の数は、輸送容器の種類により異なり、例えば、4個、9個及び12個等が挙げられ、燃料ホルダ1は、従来公知の輸送容器により搬送される。
【0042】
この燃料ホルダ1は、収容殻2及び固定手段3のうち、輸送用機器から燃料集合体への振動伝達経路上にある部位の少なくとも一部が制振合金であるので、輸送時に輸送用機器から燃料集合体100へ伝達される振動を低減することができる。
特に、制振合金は、耐熱性を有し、高温環境下においても振動を吸収する機能を十分に発揮するので、発熱を伴うMOX燃料集合体を輸送する場合にも、輸送時に輸送用機器から燃料集合体100へ伝達される振動を低減することができる。
また、制振合金は、板バネやシリコーンゴム等に比べて強度が大きく経時劣化し難いので、燃料ホルダ1は、船舶等で長期間にわたり燃料集合体を輸送する場合であっても振動を吸収する機能を維持することができ、そのため、保守及び点検に関する作業量を低減することができる。
また、制振合金は、板バネのように大きなスペースを必要としないので、現在使用されている規格の燃料ホルダの大きさを変更することなく、輸送用機器から燃料集合体100へ伝達される振動を低減することができる。
【0043】
この発明に係る燃料ホルダは、前記実施形態の燃料ホルダ1に特に限定されず、この発明の課題を達成することができる限り、適宜変更することができる。
【0044】
例えば、
図5に示すように、バスケット孔41の断面の一辺が水平に配置されている輸送容器40に燃料ホルダ1を収容して輸送する場合には、輸送用機器から伝達される振動が最も減衰し難く、振動が伝達され易い部位は、燃料ホルダ1の下側に配置される1つのパネル部材と1つの受け板4であるので、この1つのパネル部材及び受け板4の少なくとも一部が制振合金Dであってもよい。