特許第6132377号(P6132377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6132377歯科用ドリル及び該歯科用ドリルを用いた歯科インプラント埋込のための穿孔方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6132377
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】歯科用ドリル及び該歯科用ドリルを用いた歯科インプラント埋込のための穿孔方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
   A61C8/00 Z
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-114897(P2016-114897)
(22)【出願日】2016年6月8日
【審査請求日】2016年12月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591128305
【氏名又は名称】株式会社ビック・ツール
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】新井 高一
(72)【発明者】
【氏名】新井 義一
(72)【発明者】
【氏名】木村 勝世
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 智
【審査官】 増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5051801(JP,B2)
【文献】 特表平11−510103(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/182618(WO,A1)
【文献】 特表2006−519642(JP,A)
【文献】 特開2016−030090(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0244206(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
A61C 1/00−18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸対称に形成された2つの切刃を有し、先端部にシンニングが施されており、
前記切刃が、ドリル先端側から見たとき、チゼルエッジからドリル外周側に向けて曲線を含む形状に延びるシンニング切刃と、前記シンニング切刃の端部からドリル外周端まで延びる主切刃とからなり、
前記シンニング切刃により形成されたシンニング面の切屑排出溝との境界の稜線が、前記切屑排出溝の開口側であるドリル正面側から見たとき、ドリル軸芯方向に対してドリル先端側から基端側に向かうにつれてシンニング切刃側から主切刃側へと移行する方向に傾斜した略U字状に形成されており、
前記主切刃により形成されたすくい角θと、前記シンニング切刃により形成されたすくい角θがチゼルの直下を除いて、θ>θ>0°を満たし、
前記先端部の直径がドリル直径よりも小さく、
前記先端部と前記ドリル直径の外径部との間に傾斜部を備え、
逃げ角βouterが前記傾斜部の外周にのみ設けられ、
外周溝が前記2つの切刃の両側に設けられていることを特徴とする歯科用ドリル。
【請求項2】
前記シンニング面の最深部に沿って延びる線をドリル先端方向に延長した延長線が、前記ドリル正面側から見たとき、ドリル先端中心部と交わらずにドリルのヒール側又は切刃側にずれていることを特徴とする請求項に記載の歯科用ドリル。
【請求項3】
前記ずれの幅が、ドリル直径の10%以内であることを特徴とする請求項に記載の歯科用ドリル。
【請求項4】
前記延長線が、ドリルのヒール側にずれていることを特徴とする請求項2又は3に記載の歯科用ドリル。
【請求項5】
前記延長線が、ドリルの切刃側にずれていることを特徴とする請求項2又は3に記載の歯科用ドリル。
【請求項6】
前記シンニング面の最深部に沿って延びる線をドリル先端方向に延長した延長線が、前記ドリル正面側から見たとき、ドリル先端中心部と交わることを特徴とする請求項に記載の歯科用ドリル。
【請求項7】
前記シンニング切刃のチゼルの直下を含む部分にすくい角が形成されていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1つに記載の歯科用ドリル。
【請求項8】
前記シンニング切刃のチゼルの直下近傍であって且つ直下を含まない部分にすくい角が形成されていることを特徴とする請求項2、3、5、6のいずれか1つに記載の歯科用ドリル。
【請求項9】
前記逃げ角βouterが0°<βouter<20°であることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1つに記載の歯科用ドリル。
【請求項10】
前記外周溝が、2枚刃の外周に対し交互に設けられていることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1つに記載の歯科用ドリル。
【請求項11】
前記外周溝が、2枚刃の外周に対し同位置に設けられていることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか1つに記載の歯科用ドリル。
【請求項12】
ドリル直径が3.0mm〜5.0mmであることを特徴とする、請求項1乃至11のいずれか1つに記載の歯科用ドリル。
【請求項13】
ドリル直径が4.0mm〜6.0mmであることを特徴とする、請求項1乃至11のいずれか1つに記載の歯科用ドリル。
【請求項14】
第1のパイロット孔を穿孔するための最もドリル径が小さい第1の歯科用ドリルと、第2のパイロット孔を穿孔するための該第1の歯科用ドリルよりもドリル径が大きい第2の歯科用ドリルと、第3のパイロット孔を穿孔するための該第2の歯科用ドリルよりもドリル径が大きい第3の歯科用ドリルの3つの歯科用ドリルを用いて行う歯科治療用の歯科用ドリルセットであって、該歯科用ドリルセットは、
1の歯科用ドリルと、
請求項1乃至12のいずれか1つに記載の第2の歯科用ドリルと、
請求項1乃至11又は13のいずれか1つに記載の第3の歯科用ドリルと
を含む歯科用ドリルセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用ドリル及び該歯科用ドリルを用いた歯科インプラント埋込のための穿孔方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドリルの歯科治療への適用、とりわけ歯科用インプラントの顎骨への埋込について、特許文献1には、歯科用インプラント(即ち、外科的に顎骨に固定される人工的な歯支持体)の身体への受け入れを確実にするために、所定の時間、妨害されずに治癒するままにしておくことが開示されている。歯科用インプラントの配置を行う間に、歯科用インプラントの正確な外科的配置が実行される。この歯科用インプラントの部位は、低速度で骨を穿孔する歯科用ドリルを使用して、準備がなされ、患者の顎骨に準備を施し、所定の径を有する略円筒状の歯科用インプラントを受け入れる穿孔部位を提供し得るように、ドリルと共に使用されるドリル・ビット、又はバーの径を徐々に大きいものにしていくとしている。
【0003】
特許文献1には、外科的な穿孔処置は、歯科用インプラント埋込術が成功する上で極めて重要であり、この成功のためには、歯科用インプラントの生体表面すなわちバイオメディカル表面が、骨に対して骨性一体化すなわちオセィオインテグレーション(osseointegration)することが必要とされること、歯科用インプラント埋込術が失敗し、また、拒絶される一つの大きな理由は、歯科用インプラントを準備する間に、骨が過熱することであるとされており、1分間、47°C以上の温度を受けたとき骨細胞が生存し得ないことは、多数の研究で明らかにされていることが開示されている。
【0004】
特許文献1の発明では、ドリル・バーが着脱可能に取り付けられた外科用ヘッドを有する型式の外科用ドリルの温度計測器組立体において、ドリル・バーの先端まで伸長する透孔を有するドリル・バーと、前記ドリル・バーの先端における温度を検出し且つ測定するための、前記ドリル・バーの透孔内に受け入れ可能な温度センサ手段と、前記ドリル・バー先端における温度を表示するための、前記温度センサ手段に結合された温度計測手段とを備えることで、骨が47°C以上の温度にならないようにしている。
【0005】
また特許文献2には、歯科用インプラントの顎骨への埋込孔の形成の際、最初から大きい直径のドリルで穿孔すると、ドリルと顎骨との接触面積が大きくなり、ドリルの回転による摩擦熱が増加し、顎骨が壊死するリスクが増大するので、摩擦熱が増加して顎骨が壊死するのを避けるために、歯科用インプラントの顎骨への埋込孔の穿孔は、まず直径の小さいドリルで埋め込む歯科用インプラントの長さに合わせた深さまで下孔の形成を行い、続いて下孔の直径よりも少し大きい直径のドリルで同じ深さまで穿孔し、これを繰り返すことで、埋入する歯科用インプラントの外径サイズに合わせた直径まで徐々に拡大させて形成する必要があることが開示されている。
【0006】
特許文献3には、歯科用ドリルによる穿孔がインプラントと後の義歯の正しい位置を保証するために、局部的に非常に正確に植込み適合した箇所にて顎骨を突き通ることができるステップドリルを提供することを目的とし、この目的を達成するために、顎骨に設けるべき袋孔状の段状孔として、歯科インプラントを収容するインプラントベットを準備するためのパイロットドリルと、段状孔に対して前もって顎骨内に設けられた袋孔状パイロット孔を拡大するために(即ち、歯科インプラント(移植組織)の収容部としてのさらに拡大された段状孔に対して現存の段状孔を拡大するために)、ステップドリル、第2ステップドリル、第3ステップドリルを備えることが開示されている。
【0007】
特許文献3には、段状ガイドが2.0mmの範囲内の長さを有すること、ステップドリルが三刃に形成され、それでそれぞれ三つの先端刃、研磨部、案内刃、螺旋溝、斜角面と段状刃を有すること、ドリルネックは使用すべきインプラント(移植組織)の少なくとも挿入深さの長さを有すること、第2と第3ステップドリルの段状ガイドは、2.0mm,2.8mm,或いは3.5mmの範囲内の直径を有し、そしてこれら第1、第2と第3のドリルネックは2.8mm,3.5mm、或いは4.3mmの範囲内の付属する直径を有すること、先端刃の間に位置する先端角は90°より大きく、特に120°の範囲内にあることが開示されている。
【0008】
また、特許文献4において、本発明者は一般産業用のドリルとして、切削抵抗を大幅に低減することができ、ハンドドリルやボール盤等を使用した人力による穴あけ作業を容易に行うことが可能である一般産業で広く使えるドリルを提案している。
【0009】
特許文献4に記載されたドリルは、回転軸対称に形成された2つの切刃を有し、先端部にシンニングが施されているドリルであって、前記切刃が、ドリル先端側から見たとき、チゼルエッジからドリル外周側に向けて曲線を含む形状に延びるシンニング切刃と、前記シンニング切刃の端部からドリル外周端まで延びる主切刃とからなり、前記シンニング切刃により形成されたシンニング面が、ドリル正面側から見たとき、ドリル軸芯方向に対して傾斜した略放物線状に形成されていることを構成上の特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表9−502911号公報
【特許文献2】特開2016−30090号公報
【特許文献3】特表2006−519642号公報
【特許文献4】特許5051801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
叙上の特許文献2及び3に開示された歯科用ドリルはいずれも一般産業用のステップドリルの思想を取り入れてドリルの回転による摩擦熱を抑制しようしているが、ドリル先端部の構成はすくい角について規定されていないので、顎骨の穿孔時に熱を誘発するものである。
また、特許文献4には、特許文献2及び3に開示されているようなステップドリルとしての適用については記載されていない。
従って、本発明はドリルの回転に伴う摩擦熱により顎骨が壊死することのないように、ドリル先端部の主切刃とシンニング切刃の夫々のすくい角を適切に規定した歯科用ドリル及び該歯科用ドリルを用いた歯科インプラント埋込のための穿孔方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、回転軸対称に形成された2つの切刃を有し、先端部にシンニングが施されている歯科用ドリルであって、前記切刃が、ドリル先端側から見たとき、チゼルエッジからドリル外周側に向けて曲線を含む形状に延びるシンニング切刃と、前記シンニング切刃の端部からドリル外周端まで延びる主切刃とからなり、前記シンニング切刃により形成されたシンニング面の切屑排出溝との境界の稜線が、前記切屑排出溝の開口側であるドリル正面側から見たとき、ドリル軸芯方向に対してドリル先端側から基端側に向かうにつれてシンニング切刃側から主切刃側へと移行する方向に傾斜した略U字状に形成されており、前記主切刃により形成されたすくい角θと、前記シンニング切刃により形成されたすくい角θがチゼルの直下を除いて、θ>θ>0°を満たすことを特徴とする第1の歯科用ドリルに関する。
【0013】
請求項2に係る発明は、回転軸対称に形成された2つの切刃を有し、先端部にシンニングが施されている歯科用ドリルであって、前記切刃が、ドリル先端側から見たとき、チゼルエッジからドリル外周側に向けて曲線を含む形状に延びるシンニング切刃と、前記シンニング切刃の端部からドリル外周端まで延びる主切刃とからなり、前記シンニング切刃により形成されたシンニング面の切屑排出溝との境界の稜線が、前記切屑排出溝の開口側であるドリル正面側から見たとき、ドリル軸芯方向に対してドリル先端側から基端側に向かうにつれてシンニング切刃側から主切刃側へと移行する方向に傾斜した略U字状に形成されており、前記主切刃により形成されたすくい角θ1と、前記シンニング切刃により形成されたすくい角θ2がチゼルの直下を除いて、θ1>θ2>0°を満たし、前記先端部の直径がドリル直径よりも小さく、前記先端部と前記ドリル直径の外径部との間に傾斜部を備え、逃げ角βouterが前記傾斜部の外周にのみ設けられ、外周溝が前記2つの切刃の両側に設けられ、ドリル直径が第1の歯科用ドリルよりも大きいことを特徴とする第2の歯科用ドリルに関する。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の第2の歯科用ドリルにおいて、ドリル直径が請求項2に記載の第2の歯科用ドリルよりもさらに大きいことを特徴とする第3の歯科用ドリルに関する。
【0015】
請求項4に係る発明は、前記シンニング面の最深部に沿って延びる線をドリル先端方向に延長した延長線が、前記ドリル正面側から見たとき、ドリル先端中心部と交わらずにドリルのヒール側又は切刃側にずれていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の第1乃至第3の歯科用ドリルに関する。
【0016】
請求項5に係る発明は、前記ずれの幅が、ドリル直径の10%以内であることを特徴とする請求項4に記載の第1乃至第3の歯科用ドリルに関する。
【0017】
請求項6に係る発明は、前記延長線が、ドリルのヒール側にずれていることを特徴とする請求項4又は5に記載の第1乃至第3の歯科用ドリルに関する。
【0018】
請求項7に係る発明は、前記延長線が、ドリルの切刃側にずれていることを特徴とする請求項4又は5に記載の第1乃至第3の歯科用ドリルに関する。
【0019】
請求項8に係る発明は、前記シンニング面の最深部に沿って延びる線をドリル先端方向に延長した延長線が、前記ドリル正面側から見たとき、ドリル先端中心部と交わることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の第1乃至第3の歯科用ドリルに関する。
【0020】
請求項9に係る発明は、前記シンニング切刃のチゼルの直下を含む部分にすくい角が形成されていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1つに記載の第1乃至第3の歯科用ドリルに関する。
【0021】
請求項10に係る発明は、前記シンニング切刃のチゼルの直下近傍であって且つ直下を含まない部分にすくい角が形成されていることを特徴とする請求項4,5,7,8のいずれか1つに記載の第1乃至第3の歯科用ドリルに関する。
【0022】
請求項11に係る発明は、前記逃げ角βouterが0°<βouter<20°であることを特徴とする、請求項2乃至10のいずれか1つに記載の第2又は第3の歯科用ドリルに関する。
【0023】
請求項12に係る発明は、前記外周溝が、2枚刃の外周に対し交互に設けられていることを特徴とする、請求項2乃至11のいずれか1つに記載の第2又は第3の歯科用ドリルに関する。
【0024】
請求項13に係る発明は、前記外周溝が、2枚刃の外周に対し同位置に設けられていることを特徴とする、請求項2乃至11のいずれか1つに記載の第2又は第3の歯科用ドリルに関する。
【0025】
請求項14に係る発明は、ドリル直径が1.5mm〜3.5mmであることを特徴とする、請求項1又は4乃至10のいずれか1つに記載の第1の歯科用ドリルに関する。
【0026】
請求項15に係る発明は、ドリル直径が3.0mm〜5.0mmであることを特徴とする、請求項2又は4乃至13のいずれか1つに記載の第2の歯科用ドリルに関する。
【0027】
請求項16に係る発明は、ドリル直径が4.0mm〜6.0mmであることを特徴とする、請求項3乃至13のいずれか1つに記載の第3の歯科用ドリルに関する。
【0028】
請求項17に係る発明は、請求項1、4乃至10、又は14のいずれか1つに記載の第1の歯科用ドリルと、請求項2、4乃至13、又は15のいずれか1つに記載の第2の歯科用ドリルと、請求項3乃至13、又は16のいずれか1つに記載の第3の歯科用ドリルとからなる歯科用ドリルセットに関する。
【0029】
請求項18に係る発明は、(1)第1の歯科用ドリルを用いて、該第1のドリルの直径によって顎骨の予め決められた位置に、顎骨の皮質を該第1のドリル先端によって穿孔して第1のパイロット孔を穿設して、顎骨内に穿設された前記第1のパイロット孔に深さ測定ゲージを導入して前記第1のパイロット孔を正確な深さに制御する工程と、(2)前記第1の歯科用ドリルの直径より大きい直径を有する第2の歯科用ドリルを前記第1のパイロット孔に挿入して穿孔して第2のパイロット孔を穿設して、顎骨内に穿設された第2のパイロット孔に対応する深さ測定ゲージを導入して前記第2のパイロット孔を正確な深さに制御する工程と、(3)前記第2の歯科用ドリルの直径より大きい直径を有する第3の歯科用ドリルを前記第2のパイロット孔に挿入して穿孔して第3のパイロット孔を穿設して、顎骨内に穿設された第3のパイロット孔に対応する深さ測定ゲージを導入して前記第3のパイロット孔を正確な深さに制御する工程と、(4)前記第3のパイロット孔にインプラントを螺着する工程とを含む歯科用ドリルを用いた歯科インプラント埋込のための穿孔方法に関する。
【発明の効果】
【0030】
請求項1の発明に係る第1の歯科用ドリルによれば、従来の歯科用ドリルに比べて切削抵抗を大幅に低減することができ、骨穿孔を容易に行うことが可能な歯科用ドリルを提供することができる。また、切削抵抗が低減されることで、穴あけ精度が向上し、穿孔時間が短縮するため作業効率が向上し、ドリルの寿命を大幅に延ばすことも可能となる。さらに、切削抵抗が大幅に低減されているため、骨穿孔時の加工熱を抑制し、顎骨の壊死を抑制できる。
また、主切刃により形成されたすくい角θと、シンニング切刃により形成されたすくい角θがチゼルの直下を除いて、θ>θを満たすことにより、見掛け上のすくい角が小さくなって顎骨に食い込む量が少なくなり、顎骨を容易に切れるようになる。また、θ>0°とすることにより、θを0°からマイナスとした場合の不具合(切削抵抗が増加して切れ味が悪くなる)が生じない。
【0031】
請求項2の発明に係る第2の歯科用ドリルによれば、上記した第1の歯科用ドリルの効果に加え、先端部と外径部との間に傾斜部を備えているため、歯科用インプラントの形状に合致した第1のパイロット孔よりも大きい第2のパイロット孔を形成することができる。
また、逃げ角βouterが前記傾斜部の外周にのみ設けられ、外径部の外周には設けられていないため、第1の態様の歯科用ドリルを用いて空けた第1のパイロット孔を拡径する際に、主な切削場所となる傾斜部に大きな切削力を持たせることができる。また、ドリル先端部が第1のパイロット孔の底部に到達した後は、先端部の切削力と安定性が加味され穿孔が促進される。さらに、外径部に逃げ角βouterを設けていないため、先端部と傾斜部によって形成された円筒形状の第1のパイロット孔に沿って進み、外径部は円筒形状の第1のパイロット孔によって支えられる形となり、極めて安定した切削(穿孔)が可能となる。
さらに、外周溝が2つの切刃の両側に設けられているため、外周溝がブレーキとなり顎骨を穿孔する際に顎骨の切り過ぎを防ぐことができる。
【0032】
請求項3の発明に係る第3の歯科用ドリルによれば、上記した第2の歯科用ドリルの効果に加え、先端部と外径部との間に傾斜部を備えているため、歯科用インプラントの形状に合致した第2のパイロット孔よりも大きい第3のパイロット孔を形成することができる。
【0033】
請求項4の発明に係る第1乃至第3の歯科用ドリルによれば、シンニング面の最深部に沿って延びる線をドリル先端方向に延長した延長線が、ドリル正面側から見たとき、ドリル先端中心部と交わらずにドリルのヒール側又は切刃側にずれていることから、チゼルから切刃にかけて(一部ヒール部にも)或いはチゼル直下を除いてチゼル近傍から切刃にかけて、明確なすくい部を形成することができる。これによって切れ味が飛躍的に向上する。
【0034】
請求項5の発明に係る第1乃至第3の歯科用ドリルによれば、前記ずれの幅がドリル直径の10%以内であることから、より確実に切削抵抗を小さくすることができて優れた切れ味を得ることが可能となる。
【0035】
請求項6の発明に係る第1乃至第3の歯科用ドリルによれば、前記延長線がドリルのヒール側にずれていることから、チゼルから切刃にかけて(一部ヒール部にも)明確なすくい部を形成することができる。これによってチゼル部から切刃部にかけて明確な切刃が形成され、切れ味が飛躍的に向上する。
また、すくい角は比較的大きくなり、前記延長線がドリルの切刃側にずれた場合や前記延長線がドリル先端中心部と交わる場合に比べて、切削力が最も大きくなる。
【0036】
請求項7の発明に係る第1乃至第3の歯科用ドリルによれば、前記延長線がドリルの切刃側にずれていることから、チゼル直下を除いて、チゼル近傍から切刃にかけて明確なすくいが得られる。チゼル直下にはすくいが無いが、チゼル幅は、前記延長線がヒール側にずれた場合(場合1)よりも狭くなり、前記延長線がドリル先端中心部と交わる場合(場合2)と略同じとなり、加えて、シンニング部が大きくとれるため、切削抵抗が減少し、チゼル直下にすくいが無くとも、上記2つの場合(場合1,2)と同等以上の切れ味を得ることができる。
【0037】
請求項8の発明に係る第1乃至第3の歯科用ドリルによれば、シンニング面の最深部に沿って延びる線をドリル先端方向に延長した延長線が、ドリル正面側から見たとき、ドリル先端中心部と交わることから、チゼル直下を除いて、チゼル近傍から切刃部にかけて明確な切刃が形成され、切れ味が飛躍的に向上する。また、チゼル幅が最小となるため、切削抵抗は却って減少し、前記延長線がヒール側にずれた場合と同様の切削力が得られる。
【0038】
請求項9の発明に係る第1乃至第3の歯科用ドリルによれば、シンニング切刃のチゼルの直下を含む部分にすくい角が形成されていることから、チゼル直下から切刃にかけて顎骨と接する部分全てにすくい角が形成され、その全てが切刃として作用するため、切削力が大きくなるという利点がある(後記図11(a)参照)。
【0039】
請求項10の発明に係る第1乃至第3の歯科用ドリルによれば、前記シンニング切刃のチゼルの直下近傍であって且つ直下を含まない部分にすくい角が形成されていることから、チゼル直下を除き、顎骨と接する部分が切刃として作用する。これによって、シンニング切刃のチゼルの直下を含む部分にすくい角が形成されている場合(場合3)に準ずる切削力が得られるが、チゼル先端部が狭くなるため、チゼル先端部の切削抵抗が減少し、場合3と同等の切れ味が得られる(後記図11(b)(c)参照)。
【0040】
請求項11の発明に係る第2又は第3の歯科用ドリルによれば、傾斜部の外周に設けられた逃げ角βouterが0°<βouter<20°であるため、切刃の強度と切削の安定性を保ちつつ、切刃に大きな切削力を持たせることができる。
【0041】
請求項12の発明に係る第2又は第3の歯科用ドリルによれば、外周溝が2枚刃の外周に対し交互に設けられているため、切削する顎骨に切刃が必ず接触する状況を確保することができ、ブレーキ力を高め、より確実に顎骨の切り過ぎを防ぐことができる。
【0042】
請求項13の発明に係る第2又は第3の歯科用ドリルによれば、外周溝が2枚刃の外周に対し同位置に設けられているため、切削する顎骨に切刃が接触しない箇所ができるため、切削力を適切に抑制することができ、より確実に顎骨の切り過ぎを防ぐことができる。
【0043】
請求項14の発明に係る第1の歯科用ドリルによれば、ドリル直径が1.5mm〜3.5mmであるため、目的部位以外を傷つけることなく、埋め込む歯科用インプラントの長さに合わせた深さまで、第1のパイロット孔を形成することができる。
【0044】
請求項15の発明に係る第2の歯科用ドリルによれば、ドリル直径が3.0mm〜5.0mmであるため、第1の歯科用ドリルで穿孔した第1のパイロット孔を拡径することができる。
【0045】
請求項16の発明に係る第3の歯科用ドリルによれば、ドリル直径が4.0mm〜6.0mmであるため、第2の歯科用ドリルで穿孔した第1のパイロット孔を拡径することができる。
【0046】
請求項17の発明に係る歯科用ドリルセットによれば、上記した第1から第3の歯科用ドリルの効果を備えた歯科用ドリルセットを提供でき、大きな切削力を有し加工熱の抑制を図ることで顎骨細胞等の細胞死を防ぎ、且つ顎骨を切り過ぎることが無く安全に、適切な大きさの歯科用インプラントの形状に合致した第3のパイロット孔を形成することができる。
【0047】
請求項18の発明に係る第1から第3の歯科用ドリルを用いた歯科インプラント埋込のための穿孔方法によれば、大きな切削力を有する上記第1から第3の歯科用ドリルを使用することで、加工熱の抑制を図り、顎骨細胞等の細胞死を防ぎ、且つ顎骨を切り過ぎることが無く安全に、適切な大きさの歯科用インプラントの形状に合致した第3のパイロット孔を形成する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の第一実施形態に係るドリルを示す図であって、(a)は上面図(ドリルを先端側から見た図)、(b)は先端部の正面図である。
図2】本発明に係るドリルを図1(b)よりも若干左方向から見た図である。
図3】逃げ角を定義する図である。
図4】シンニング形成時にドリルを砥石に当てる角度を示す図である。
図5】シンニングの角度を示す図である。
図6】(a)はシンニング部に直角な断面を示す図、(b)は(a)の断面部位(A−A断面)を示す図である。
図7】すくい面の縁部形状の別の例を示す図である。
図8】本発明の第二実施形態のドリルを示す図であって、(a)は上面図(ドリルを先端側から見た図)、(b)は先端部の正面図である。
図9】本発明の第三実施形態のドリルを示す図であって、(a)は上面図(ドリルを先端側から見た図)、(b)は先端部の正面図である。
図10】本発明の第四実施形態のドリルを示す図であって、(a)は上面図(ドリルを先端側から見た図)、(b)は先端部の正面図である。
図11】本発明に係るドリルをチゼルに沿って縦方向(ドリル長さ方向)に切断した断面図であって、(a)は第二実施形態のドリル、(b)は第三実施形態のドリル、(c)は第四実施形態のドリルである。
図12】本発明に係るドリルにおけるシンニング切刃の創成用の砥石形状の例を示す図であり、砥石の回転端部(外周縁部)を示している。
図13】本発明に係るドリルにおけるシンニング切刃の創成用の砥石形状の例を示す図であり、砥石の回転端部(外周縁部)を示している。
図14】本発明の第六実施形態のドリルを示す図であって、(a)は側面図、(b)は傾斜部と外周部の断面図である。
図15】本発明の第七実施形態のドリルの側面図である。
図16】本発明に係る歯科用ドリルに設けられる外周溝の説明図であって、(a)は外周溝が2枚刃の外周に対し交互に設けられ、外周溝の入口がドリル先端側に傾斜した形状、(b)は外周溝が2枚刃の外周に対し同位置に設けられ、外周溝の入口がドリル先端側に傾斜した形状、(c)は外周溝が2枚刃の外周に対し交互に設けられ、外周溝の入口が柄側に傾斜した形状、(d)は外周溝が2枚刃の外周に対し同位置に設けられ、外周溝の入口が柄側に傾斜した形状、(e)は外周溝が2枚刃の外周に対し交互に設けられ、外周溝の入口がドリル先端側と柄側の両方に傾斜した側面視略V字状の形状、(f)は外周溝が2枚刃の外周に対し同位置に設けられ、外周溝の入口がドリル先端側と柄側の両方に傾斜した側面視略V字状の形状、(g)は外周溝が側面視略矩形の形状、(h)は外周溝が側面視略U字状の形状を示し、(i)は(g)における側面視略矩形状の外周溝の部分領域(X)の拡大図、(j)は(h)における側面視略U字状の外周溝の部分領域(Y)の拡大図である。
図17】本発明に係る歯科用ドリルを使用して、段階的に骨穿孔する様子を示す図である。
図18】切削性能試験に用いたテストピースと、温度及び切削抵抗の測定位置を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明に係る歯科用ドリルの好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明に係る歯科用ドリルの第一実施形態を示す図であって、(a)は上面図(ドリルを先端側から見た図)、(b)は先端部の正面図である。
【0050】
本発明に係る歯科用ドリルは、回転軸対称に形成された2つの切刃を有し、先端部にシンニングが施されている。
切刃は、ドリル先端側から見たとき、チゼルエッジからドリル外周側に向けて曲線を含む形状に延びるシンニング切刃(1)と、シンニング切刃(1)の端部からドリル外周端まで延びる主切刃(2)とからなる。尚、図示例において、主切刃(2)は、シンニング切刃(1)の端部からドリル外周端まで直線状に延びているが、曲線状に延びていてもよいし、直線状部分と曲線状部分とを含む線状に延びていてもよい。これは本発明の全ての実施形態に共通する。
図中、(3)は逃げ面、(4)はチゼル、(5)は主切刃(2)により形成されたすくい面、(6)はシンニングにより形成された新たなすくい面、(W)はチゼル幅である。
【0051】
第一実施形態の歯科用ドリルは、主切刃(2)の延びる方向における切刃長さが、主切刃(2)の長さを(A)、シンニング切刃(1)の長さを(B)としたとき、0<A≦Bを満たしている。
シンニング切刃(1)の長さ(B)を、主切刃(2)の長さ(A)と同じかそれ以上に設定することにより、A>Bである従来の歯科用ドリルに比べて切削抵抗を大幅に低減することが可能となる場合がある。
但し、本発明においては、後述する実施形態(図8図10参照)に示すように、A>Bとしてもよい。
【0052】
第一実施形態の歯科用ドリルでは、切刃長さ全長(A+B)に占めるシンニング切刃(1)の長さ(B)の割合(B/(A+B))が大きいほど切削抵抗が低減されるため、できるだけシンニング切刃(1)の長さ(B)を長くして主切刃(2)の長さ(A)を短くすることが好ましい。しかし、主切刃(2)の長さ(A)が0になると、開けた穴の面精度が低下するため、0<Aとする必要がある。好ましくは、ドリル半径(R)に対してR×0.1≦Aを満たすように設定する。
【0053】
図2は第一実施形態の歯科用ドリルを正面より若干左方向から見た図である。
主切刃(2)により形成されたすくい角(θ)と、シンニング切刃(1)により形成されたすくい角(θ)は、θ>θ>0°を満たす。但し、チゼル(4)の直下のみでθ≒0°(ほぼ0°に近いθ<0°)となる。
シンニング切刃(1)により形成されたすくい角(θ)が、主切刃(2)により形成されたすくい角(θ)より小さいということは、シンニングを施すことにより見掛け上のすくい角が小さくなる(緩くなる)ことを意味する。
本発明では、θ>θを満たすようにシンニング切刃(1)を形成することにより、見掛け上のすくい角が小さくなって被切削物に食い込む量が少なくなり、容易に切れるようになる。
【0054】
θ>0°とするのは、シンニング切刃(1)により形成されたすくい角(θ)が0°からマイナスになると逆に切削抵抗が増加し、却って切れ味が悪くなるためである。因みに、従来のドリルでは、中心部にすくいがあると刃先が欠け易くなるという理由から、すくい角がマイナスになるようなシンニングが施されている。
【0055】
ドリルの捩れ角はドリルの種類によって様々であるが、概ね30°前後に設定されている。しかし、この角度では切削抵抗が大きくなる。
捩れ角を小さくすることによりすくい角を小さくして切削抵抗を低減する方法もあるが、捩れ角を変えてドリルを製作するよりも従来の捩れ角を変えずに本発明の如くシンニングのみで見掛けのすくい角を変える方法は極めて簡単に行うことができるという大きな利点がある。
【0056】
主切刃(2)により形成された刃先角(α)と、シンニング切刃(1)により形成された刃先角(α)は、α<α<90°を満たす(尚、α,αについて図6参照)。
【0057】
ここで、すくい角と刃先角について補足説明する。
ドリルが本来持っているすくい角(シンニング形成前のすくい角)では、刃先角が鋭すぎて、刃先が楔のように被切削物に鋭く食い込むため、切削抵抗が大きくなる。
シンニングを行うことにより、すくい角が減少して刃先角が増大し、これによって切れ味が向上する(切削抵抗が減少する)。特に、本発明に係る歯科用ドリルに施されるシンニングによれば、作業に適した緩やかなすくい角と大きめの刃先角が創成されることとなる。
【0058】
逃げ角(β)は0°<β<8°を満たすように設定する。好ましくは0°<β≦4°を満たすように設定する。
一般的には、逃げ角を大きくとり、すくい角を大きくすることで、鋭利な刃先を形成することにより、鋭い切れ味が得られると考えられており、市販のドリルは共通してこのような形状を有している。
本発明では逃げ角(β)を0°<β≦4°と小さく設定することにより、被切削物に食い込む量が少なくなり、被切削物を容易に切れるようになる。
【0059】
ここで、逃げ角(β)は下記(イ)又は(ロ)により定義される。
(イ)半径50mm以上の砥石外周部の砥石水平中心線上に、ドリル先端部の中心を合わせ、ドリル先端部の切刃部を砥石水平中心線と平行(=水平)に当て、ドリル後端部を、ドリル先端部を中心に砥石水平中心線より下降させたときの砥石水平中心線とドリル中心軸線のなす角度(図3(a)参照)。
(ロ)砥石側面(垂直平面)の砥石水平中心線上に、ドリル先端部の中心を合わせ、ドリル先端部の切刃部を砥石水平中心線と平行(=水平)に当て、ドリル後端部を、ドリル先端部を中心に砥石水平中心線より下降させたときの砥石水平中心線とドリル中心軸線のなす角度(図3(b)参照)。
【0060】
但し、(イ)と(ロ)とでは、図3(a)に示す砥石半径と、ドリル中心から切刃部までの距離:1/2W(W:心厚)とにより生まれる角度分(砥石半径50mmにおいて心厚(W)が2mmの場合、約0.573°、半径100mmにおいては約0.286°、半径150mmにおいては約0.191°)程度の違いが生じる。
そのため、(イ)で求める場合、この差分を加えたものを逃げ角とすることが好ましい。つまり、逃げ角は下式の通りに求めることが好ましい。
(イ)(図3(a))の場合:逃げ角=β+tan−1((1−cos(sin−10.5W/R))R÷0.5W)
(ロ)(図3(b))の場合:逃げ角=β
例えば、逃げ角3°で半径(R)50mmの砥石で研磨する、直径10mm、心厚2mmのドリルの実際の逃げ角は約3.573°となる。
【0061】
チゼル幅(W)(図1(a)参照)は、被切削物を容易に切れるようにするために小さく設定することが好ましい。具体的には、ドリル直径の10%以下に設定することが好ましい。例えば、ドリル直径φが2〜13mmの場合、チゼル幅(W)はドリル直径の増減に応じて0.1〜0.8mmの範囲で増減させて設定する。
【0062】
本発明では、シンニングの角度を従来のドリルに比べて小さく設定する。
従来のシンニングは、ドリル自体の強度・剛性を優先するために、シンニング形成時にドリルを砥石に当てる角度(θ)を大きめにしていた(図4(a)参照)。
角度(θ)を極力少なくし、砥石の研削面接線上にドリルの中心を近づけると、ドリル中心部のウエブと呼ばれる部分の抵抗を受けなくなるため、切削抵抗は大幅に減少する(図4(b)参照)。
【0063】
そこで、本発明においては、シンニングの角度を下記(I)及び(II)を満たすように設定することが好ましい。
(I)シンニングを行う砥石の垂直中心線に対してドリル中心軸線のなす角度(図4のθ)が0〜20°
(II)シンニングを行う砥石の幅方向の中心線に対してドリル中心軸線のなす角度が20〜35°(図5参照)
但し、上記(II)のシンニングの角度の範囲は、先端角118°、捩れ角30°の場合に求められたものであり、必ずしも全てのドリルに対して好適とはいえない。理論上は、上記(II)のシンニングの角度の上限値は、ドリルの刃先と平行な位置(=先端角)の1/2の角度(118°の場合は59°)までの範囲に設定することができる。
【0064】
次に、シンニングの形状について説明する。
図6(a)はドリルのシンニング部に直角な断面(図6(b)のA−A断面)を示す図である。
図6(a)に示す例では、シンニングにより形成されたすくい面(6)の縁部(主切刃(2)により形成されたすくい面(5)との境界部)は、シンニングの半径(R)によって円弧状に形成されている。尚、(R)はドリル溝部の半径である。
図示のように、主切刃(2)により形成されたすくい角(θ)と、シンニング切刃(1)により形成されたすくい角(θ)は、θ>θ>0°を満たす。
また、主切刃(2)により形成された刃先角(α)と、シンニング切刃(1)により形成された刃先角(α)は、α<α<90°を満たす。
【0065】
本発明において、すくい面の縁部形状は、円弧状に限らず、円弧と直線を組み合わせた形状であってもよい(図7参照)。
本発明者らは、すくい面の縁部形状が円弧状の場合(図6(a))と、円弧と直線を組み合わせた形状の場合(図7)とが、同等の切れ味を有し、切削抵抗に違いが無いことを実験により確認している。
【0066】
本発明に係る歯科用ドリルは、シンニング切刃(1)により形成されたシンニング面(8)の切屑排出溝との境界の稜線が、ドリル正面側から見たとき、ドリル軸芯方向(C)に対して傾斜した略放物線状(略U字状)に形成されている(図2参照)。尚、本発明において「ドリル正面側」とは、切屑排出溝の開口側を指す。
傾斜の方向は、図示の通り、ドリル先端側から基端側に向かうにつれ、シンニング切刃(1)側から主切刃(2)側へと移行する方向(正面視にて左斜め下方向)である。後述する実施形態についても同様である。
傾斜の角度(γ)は、20〜35°の範囲(例えば27.5°)に設定する。この角度設定は、上述したように、シンニングを行う砥石の幅方向の中心線に対してドリル中心軸線のなす角度が20〜35°(図5参照)となるように設定することにより行うことができる。シンニングを行う際に、ドリル長手方向の中心軸に対して砥石の中心(図1(a)の一点鎖線(L)参照)を傾ける角度は、ドリルの捩れ角を考慮して、捩れ角−10°〜捩れ角+10°の範囲に設定することが好ましい。但し、理論上はこの角度は捩れ角−10°〜切刃側の先端角の1/2までに設定できる。
これらの構成(シンニング切刃の形状、傾斜の方向、傾斜の角度)は、本発明の全ての実施形態のドリルに共通する構成である。
【0067】
図8は本発明の第二実施形態の歯科用ドリルを示す図であって、(a)は上面図(ドリルを先端側から見た図)、(b)は先端部の正面図である。
第二実施形態の歯科用ドリルは、シンニング切刃(1)により形成されたシンニング面(8)が、ドリル正面側から見たとき、ドリル軸芯方向(C)に対して傾斜した略放物線状(略U字状)に形成されている(図8(b)参照)。
シンニング切刃(1)により形成されたシンニング面(8)の最深部(シンニングにより削り取られた最も深い部分)に沿って延びる線をドリル先端方向に延長した延長線(D)は、ドリル正面側から見たとき、ドリル先端中心部(7)と交わらずにドリルのヒール側にずれている。
ずれ量(d)は、ドリル直径の10%以内であることが好ましい。10%を超えると、切削抵抗が増加して切れ味が低下するためである。
【0068】
シンニング切刃(1)のチゼル(4)の直下を含む部分にはすくい角が形成されている。図8(a)において、すくい角を形成しているすくい面を符号(10)で示している。
チゼル(4)の直下を含む部分においてすくい角が形成されていることにより、チゼル(4)の直下にはチゼルと平行な方向の幅がチゼル幅(W)より狭い部分(9)が形成されている。(図11(a)参照)
【0069】
第二実施形態の歯科用ドリルは、主切刃(2)の延びる方向における切刃長さが、主切刃(2)の長さを(A)、シンニング切刃(1)の長さを(B)としたとき、A>Bとなっている。
主切刃(2)により形成されたすくい角(θ)と、シンニング切刃(1)により形成されたすくい角(θ)は、θ>θ>0°を満たしている。チゼル(4)の直下においても同様である。
【0070】
図9は本発明の第三実施形態の歯科用ドリルを示す図であって、(a)は上面図(ドリルを先端側から見た図)、(b)は先端部の正面図である。
第三実施形態の歯科用ドリルも、シンニング切刃(1)により形成されたシンニング面(8)が、ドリル正面側から見たとき、ドリル軸芯方向(C)に対して傾斜した略放物線状(略U字状)に形成されている(図9(b)参照)。
シンニング切刃(1)により形成されたシンニング面(8)の最深部に沿って延びる線をドリル先端方向に延長した延長線(D)は、ドリル正面側から見たとき、ドリル先端中心部(7)と交わらずにドリルの切刃側にずれている。
ずれ量(d)は、ドリル直径の10%以内であることが好ましい。10%を超えると、切削抵抗が増加して切れ味が低下するためである。
【0071】
シンニング切刃(1)のチゼル(4)の直下近傍であって且つ直下を含まない部分にはすくい角が形成されている。より具体的には、シンニング切刃(1)のチゼル(4)の直下よりも主切刃(2)側にすくい角が形成されている。図9(a)において、すくい角を形成しているすくい面を符号(10)で示している。
【0072】
第三実施形態の歯科用ドリルは、主切刃(2)の延びる方向における切刃長さが、主切刃(2)の長さを(A)、シンニング切刃(1)の長さを(B)としたとき、0<A≦Bを満たしている。
主切刃(2)により形成されたすくい角(θ)と、シンニング切刃(1)により形成されたすくい角(θ)は、θ>θ>0°を満たす。但し、チゼル(4)の直下のみでθ≒0°(ほぼ0°に近いθ<0°)となる。
【0073】
図10は本発明の第四実施形態の歯科用ドリルを示す図であって、(a)は上面図(ドリルを先端側から見た図)、(b)は先端部の正面図である。
第四実施形態の歯科用ドリルも、シンニング切刃(1)により形成されたシンニング面が、ドリル正面側から見たとき、ドリル軸芯方向(C)に対して傾斜した略放物線状(略U字状)に形成されている(図10(b)参照)。
シンニング切刃(1)により形成されたシンニング面(8)の最深部に沿って延びる線をドリル先端方向に延長した延長線(D)は、ドリル正面側から見たとき、ドリル先端中心部(7)と交わっている。
【0074】
シンニング切刃(1)のチゼル(4)の直下近傍であって且つ直下を含まない部分にはすくい角が形成されている。より具体的には、シンニング切刃(1)のチゼル(4)の直下よりも主切刃(2)側にすくい角が形成されている。図10(a)において、すくい角を形成しているすくい面を符号(10)で示している。
【0075】
第四実施形態の歯科用ドリルは、主切刃(2)の延びる方向における切刃長さが、主切刃(2)の長さを(A)、シンニング切刃(1)の長さを(B)としたとき、A>Bとなっている。
主切刃(2)により形成されたすくい角(θ)と、シンニング切刃(1)により形成されたすくい角(θ)は、θ>θ>0°を満たす。但し、チゼル(4)の直下のみでθ≒0°(ほぼ0°に近いθ<0°)となる。
【0076】
第五実施形態の歯科用ドリルは、上記第一から第四実施形態の歯科用ドリルのいずれかの特徴を備え、ドリル直径が1.5mmから3.5mm、好ましくは、1.5mmから2.5mmの歯科用ドリルである。上記のドリル直径であることにより、埋め込む歯科用インプラントの長さに合わせた深さまで、第1のパイロット孔を形成することができる。また、上記第一から第四実施形態の歯科用ドリルのいずれかの特徴を備えていることにより、従来の歯科用ドリルよりも切削抵抗が低くなり、骨穿孔時の加工熱を抑えることができる。
【0077】
第六実施形態の歯科用ドリルは、ドリル先端部の直径(11)がドリル直径(12)よりも小さく、先端部(13)と外径部(14)との間に傾斜部(15)を備え、逃げ角(βouter)が傾斜部(15)の外周にのみ設けられ(図14の(b)参照)、外周溝(16)が2つの切刃の両側に設けられている(図14の(a)参照)。ドリル直径は3.0mmから5.0mm、好ましくは、3.0mmから4.0mmである。尚、第六実施形態の歯科用ドリルは、上記した特徴以外に関しては上記第一から第四実施形態の歯科用ドリルのいずれかの特徴を備えている。上記のドリル直径であることにより、第五実施形態の歯科用ドリルで空けた第1のパイロット孔を拡径することができる。
本発明に係る歯科用ドリルは溝長(17)中で異なる直径を有するため、本明細書におけるドリル直径(12)とは溝長(17)中で最も大きい直径のことをいう。
また、本明細書において、ドリル直径(12)を有する部位の外周部分を外径部(14)という。
【0078】
第六実施形態の歯科用ドリルはドリル先端部の直径(11)がドリル直径(12)よりも小さいため、先端部(13)と外径部(14)との間に傾斜部(15)が形成される。第1のパイロット孔の拡径のための切削は主にこの傾斜部(15)で行うことになるため、傾斜部(15)の外周にのみ逃げ角(βouter)を設け、傾斜部(15)の切刃に大きな切削力を持たせる。
傾斜部(15)の逃げ角(βouter)は0°<βouter<20°を満たすように設定する。好ましくは0°<βouter≦15°、より好ましくは0°<βouter<8°を満たすように設定する。
尚、外径部(14)には逃げ角(βouter)を設けないことが好ましい。これにより、第五実施形態の歯科用ドリルを用いて空けた第1のパイロット孔を拡径する際に、主に傾斜部(15)の切刃で切削を行い、先端部(13)が第1のパイロット孔の底部に到達した後は、先端部(13)の切削力と安定性が加味され穿孔が促進される。さらに、外径部(14)に逃げ角(βouter)を設けていないため、先端部(13)と傾斜部(15)にて形成した円筒形状のパイロット孔に沿って進み、外径部(14)は円筒形状のパイロット孔によって支えられる形となり、極めて安定した切削(穿孔)が可能となる。
第六実施形態の歯科用ドリルは傾斜部(15)を有するため、本歯科用ドリルを用いて骨穿孔することにより、歯科用インプラントの形状に合致した第2のパイロット孔を形成することができる。
【0079】
第六実施形態の歯科用ドリルは、2つの切刃の両側に外周溝(16)が設けられている。外周溝(16)が設けられることにより、切削中に外周溝(16)がブレーキとなって、顎骨の切り過ぎを防ぐことができる。
図16に示すように、外周溝(16)は2枚刃の外周に対し交互に設けられる、あるいは2枚刃の外周に対し同位置に設けられる。また、外周溝(16)を、2枚刃の外周に対し、ある箇所では交互に配置し、ある箇所では同位置に配置してもよい。2枚刃の外周に対し交互に設けることで、切削するパイロット孔に対して切刃が必ず接触している状況を確保することができる。また、2枚刃の外周に対し同位置に設けることで、切削するパイロット孔に切刃が接触しない箇所ができるため切削力が抑制される。
【0080】
図16の(a)から(f)に示すように、外周溝(16)の入口の形状はドリル先端側に傾斜した形状、柄側に傾斜した形状、ドリル先端側と柄側の両方に傾斜した側面視略V字状、又は図16の(g)に示すように側面視略矩形状、若しくは図16の(h)に示すように側面視略U字状の形状が好ましい。図16の(i)は図16の(g)における側面視略矩形状の外周溝の部分領域(X)の拡大図、図16の(j)は図16の(h)における側面視略U字状の外周溝の部分領域(Y)の拡大図である。外周溝の入口に傾斜を有することで、切削時のブレーキ力をより高めることができる。
【0081】
第七実施形態の歯科用ドリルは、上記第六実施形態の歯科用ドリルと同じ特徴を備え、ドリル直径のみ異なる(図15参照)。第七実施形態の歯科用ドリルのドリル直径は4.0mmから6.0mm、好ましくは、4.0mmから5.0mmである。上記のドリル直径であることにより、第六実施形態の歯科用ドリルで空けた第2のパイロット孔を拡径することができ、適切な大きさ及び形の第3のパイロット孔を形成することができる。
【0082】
上記第二〜第七実施形態の歯科用ドリルはいずれも、上記第一実施形態の歯科用ドリルと同様に、シンニング切刃(1)が、ドリル正面側から見たとき、ドリル軸芯方向(C)に対して傾斜した略放物線状(略U字状)に形成されているという特徴を有している。
これにより、0<A≦Bを満たさなくとも、チゼルに掛かる負荷が減少し、チゼル幅を狭くすることが可能となる。具体的には、シンニング後のチゼル幅は、ドリル直径の3〜5%程度まで狭くすることが可能となる。そのため、切削抵抗が減少して優れた切れ味を得ることができ、骨穿孔にとって絶大な効果を発揮する。
【0083】
以上、本発明に係る第一から第七実施形態について説明したが、インプラントのためのパイロット孔を形成する際には、第五から第七実施形態の3つの歯科用ドリルをセットで使用することが望ましい。しかし、第一から第七実施形態の歯科用ドリルの単独使用あるいは組み合わせた使用でもよい。
また、本発明に係る歯科用ドリルの材質は、ステンレス、チタン合金など、医療用途に定められた材質が好ましい。
【0084】
以下、本発明に係るドリルにおけるシンニング切刃(1)の創成用の砥石形状について説明する。図12図13は砥石形状の例を示す図であり、砥石の回転端部(外周縁部)を示している。
砥石は、回転端部に1つ以上の曲率半径をもった砥石とする。
砥石の曲率半径の1つをRとし、このRを主に切刃部に掛かるシンニング切刃創成用の半径とする。次にRと隣り合ってRと滑らかに繋がる曲面を形成する曲率半径Rを、主にヒール部に当たるように設ける。
【0085】
このRとRの2つの曲率半径の組み合わせを基本に、ドリルの直径及び心厚の比率に応じて、図13に示すように、RとRの大小関係(R=R、R<R、R>R)を変更したり、太いドリルに対応するためにRとRの間により大きいRを設けたり、砥石幅に対して大きな曲率半径を収束させるために砥石コーナーに小さいR、Rを形成する。
また、上記1つ以上の曲率半径を組み合わせた砥石を使用することもできる。
更に、図13に示すように、R部の間に直線部を含ませたり、側面に傾斜をつけたりして、シンニングを施してもよい。
【0086】
以下に、例として第五から第七実施形態の歯科用ドリルを用いたインプラントのための骨切削方法について記載する(図17参照)。尚、上記した組み合わせ以外の各実施形態の組み合わせや単独での使用によって骨穿孔を行ってもよく、穿孔方法についても通常使用される方法を用いてもよい。
【0087】
骨穿孔は工程(1)から(4)で構成される。
工程(1):この工程で第1の歯科用ドリル(DR1)を用いて、該第1の歯科用ドリルの直径によって顎骨の予め決められた位置に、顎骨の皮質を該第1の歯科用ドリル先端によって穿孔して第1のパイロット孔(PO1)を穿設して、顎骨内に穿設された前記第1のパイロット孔(PO1)に深さ測定ゲージを導入して前記第1のパイロット孔を正確な深さに制御する。
工程(2):この工程で前記第1の歯科用ドリル(DR1)の直径より大きい直径を有する第2の歯科用ドリル(DR2)を前記第1のパイロット孔(PO1)に挿入して穿孔して第2のパイロット孔(PO2)を穿設して、顎骨内に穿設された第2のパイロット孔(PO2)に対応する深さ測定ゲージを導入して前記第2のパイロット孔(PO2)を正確な深さに制御する。
工程(3):この工程で前記第2の歯科用ドリル(DR2)の直径より大きい直径を有する第3の歯科用ドリル(DR3)を前記第2のパイロット孔(PO2)に挿入して穿孔して第3のパイロット孔(PO3)を穿設して、顎骨内に穿設された第3のパイロット孔(PO3)に対応する深さ測定ゲージを導入して前記第3のパイロット孔(PO3)を正確な深さに制御する。
工程(4):この工程で前記第3のパイロット孔(PO3)にインプラントを螺着する。
尚、第1、第2及び第3の歯科用ドリルは、前述の第五から第七実施形態のものを使用することができるが、これに限定されない。
【0088】
上記の方法により、切削時の顎骨細胞等の細胞死を防ぎ、且つ顎骨を切り過ぎることが無く安全に、適切な大きさの歯科用インプラントの形状に合致した第3のパイロット孔を形成することができる。
【実施例】
【0089】
本発明の実施例と比較例の歯科用ドリルを用いて、切削性能試験を実施した。
(試験方法)
NCフライス盤にモデルボーンを輪切りにしたテストピースを取り付けて、比較例と実施例1−3の計4種類×3形態の歯科用ドリルで切削を行い、各々の切削時に発生する温度及び、垂直方向に発生する切削抵抗を測定し、発熱と切れ味による各ドリルの性能を比較した(図18参照)。
各種ドリルは3段階(1st〜3rd)に分けて順次拡大し、3段階目(3rd)で最終形状(第3のパイロット孔)を形成できるものとしている。
各種ドリルによる切削は、以下の条件で実施した。
温度:16℃
モデルボーン(テストピース)表面温度:12℃
回転数:8.33s−1
送り速度:0.1mm/rev.
実施例1−3の2nd及び3rdのドリルの外周溝は、外周溝が2枚刃の外周に対し交互に設けられ、外周溝の入口がドリル先端側に傾斜した形状(図16の(a)参照)のものを使用した。
下記表1に実施例1−3の外周溝の有無を示す。
【0090】
【表1】
【0091】
(試験結果)
各種ドリルによる切削時に発生した温度及び、垂直方向に発生した切削抵抗の測定値を表2に示す。
また、切削性能試験から得られた実施例1−3の特徴を表3に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
比較例の2nd及び3rdドリルでは切削時に発生した温度が、骨細胞が壊死し得る47℃を超えて50℃に達していたが、実施例1−3のドリルでは全てのドリルにおいて47℃未満の温度であった。
さらに、切削抵抗においても、比較例では3.4〜5.5kgだったが、実施例では1.1〜2.0kgであった。
また、2nd及び3rdドリルの傾斜部と外周部に溝を設けることで、切削抵抗は多少上昇するが、切削時の発生温度を低く保ったまま操作性を良くすることが可能になり、温度上昇を防ぎ、且つ切り過ぎも防ぐことができる。
このように、本発明の歯科用ドリルは、従来の歯科用ドリルと比較して、切削抵抗を大きく低減でき、切削時の温度上昇を抑えることで顎骨の壊死を防ぐことができる。さらに、溝を傾斜部及び/又は外周部に設けることで、溝がストッパーとなり、切り過ぎを防止することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る歯科用ドリルは、歯科用インプラントの顎骨への埋込のための顎骨への穿孔用ドリルとして好適に使用される。
【符号の説明】
【0096】
1 シンニング切刃
2 主切刃
3 逃げ面
4 チゼル
5 主切刃により形成されたすくい面
6 シンニングにより形成されたすくい面
7 ドリル先端中心部
8 シンニング切刃により形成されたシンニング面
9 チゼルと平行な方向の幅がチゼル幅より狭い部分
10 すくい角を形成しているすくい面
11 ドリル先端部の直径
12 ドリル直径
13 先端部
14 外径部
15 傾斜部
16 外周溝
17 溝長
A 主切刃の長さ
B シンニング切刃の長さ
C ドリル軸芯方向
D シンニング面の最深部に沿って延びる線をドリル先端方向に延長した延長線
DR1 第1の歯科用ドリル
DR2 第2の歯科用ドリル
DR3 第3の歯科用ドリル
d ずれ量
PO1 第1のパイロット孔
PO2 第2のパイロット孔
PO3 第3のパイロット孔
R ドリル半径
X 側面視略矩形状の外周溝の部分領域
Y 側面視略U字状の外周溝の部分領域
θ 主切刃により形成されたすくい角
θ シンニング切刃により形成されたすくい角
α 主切刃により形成された刃先角
α シンニング切刃により形成された刃先角
β 逃げ角
βouter 傾斜部の逃げ角
γ シンニング面の傾斜角度
主切刃によるすくい面を形成する半径
シンニングによるすくい面を形成する半径
W チゼル幅
θ シンニング形成時にドリルを砥石に当てる角度
【要約】
【課題】摩擦熱により顎骨が壊死することのない、歯科用ドリル及び該歯科用ドリルを用いた歯科インプラント埋込のための穿孔方法を提供すること。
【解決手段】回転軸対称に形成された2つの切刃を有し、先端部にシンニングが施されているドリルであって、切刃がドリル先端側から見た時、チゼルエッジからドリル外周側に向けて曲線を含む形状に延びるシンニング切刃と、シンニング切刃の端部からドリル外周端まで延びる主切刃とからなり、シンニング切刃により形成されたシンニング面が、ドリル正面側から見たとき、ドリル軸芯方向に対して傾斜した略放物線状に形成される第1の歯科用ドリルと、先端部の直径がドリル直径よりも小さく、傾斜部を備え、逃げ角βが傾斜部の外周にのみ設けられ、外周溝が2つの切刃の両側に設けられ、ドリル直径が第1の歯科用ドリルよりも大きい第2及び第3の歯科用ドリルとする。
【選択図】図17
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18