特許第6132407号(P6132407)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6132407ドネペジルを含有する経皮吸収製剤及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132407
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】ドネペジルを含有する経皮吸収製剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/445 20060101AFI20170515BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20170515BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20170515BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20170515BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20170515BHJP
【FI】
   A61K31/445
   A61P25/28
   A61K9/70 401
   A61K47/32
   A61K47/34
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-559823(P2014-559823)
(86)(22)【出願日】2013年2月26日
(65)【公表番号】特表2015-508813(P2015-508813A)
(43)【公表日】2015年3月23日
(86)【国際出願番号】KR2013001504
(87)【国際公開番号】WO2013129813
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2016年1月26日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0020510
(32)【優先日】2012年2月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513288850
【氏名又は名称】エスケー ケミカルズ カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK CHEMICALS CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】イム,ジョンソプ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,ヨンユン
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ウォンノ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヨジン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヘミン
(72)【発明者】
【氏名】オ,ジュンギョ
(72)【発明者】
【氏名】キム,フンテク
(72)【発明者】
【氏名】イ,ボンヨン
【審査官】 参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102188363(CN,A)
【文献】 特開昭63−307814(JP,A)
【文献】 特開平01−104008(JP,A)
【文献】 特開平10−072343(JP,A)
【文献】 特開昭61−246122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/445
A61K 9/70
A61K 47/32
A61P 25/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持層、薬物含有マトリックス層、粘着層及び剥離層から構成される経皮吸収製剤であって、前記薬物含有マトリックス層が(i)有効成分としてのドネペジルまたはその薬学的に許容される塩と、(ii)ポリビニルピロリドンと、(iii)アクリル系粘着剤とからなり、かつ前記粘着層がシリコーン系粘着剤を含む経皮吸収製剤。
【請求項2】
前記薬物含有マトリックス層が、薬物含有マトリックス層の全重量に対して、10〜40重量%のドネペジルまたはその薬学的に許容される塩、0.1〜20重量%のポリビニルピロリドン、及び40〜80重量%のアクリル系粘着剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の経皮吸収製剤。
【請求項3】
前記薬物含有マトリックス層が、薬物含有マトリックス層の全重量に対して、30〜40重量%のドネペジルまたはその薬学的に許容される塩、1〜20重量%のポリビニルピロリドン、及び40〜60重量%のアクリル系粘着剤を含むことを特徴とする請求項2に記載の経皮吸収製剤。
【請求項4】
前記ポリビニルピロリドンが7,000〜1,500,000の範囲の重量平均分子量を有することを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項5】
前記粘着層が50〜150μmの範囲の厚さを有することを特徴とする請求項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項6】
前記粘着層が90〜110μmの範囲の厚さを有することを特徴とする請求項に記載の経皮吸収製剤。
【請求項7】
(a)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩及びポリビニルピロリドンを含有する溶液にアクリル系粘着剤を溶解する工程と;
(b)工程(a)によって得られた溶液をフィルムの上に塗布し、乾燥して、薬物含有マトリックス層を形成する工程と;
(c)工程(b)によって得られた薬物含有マトリックス層の上にシリコーン系粘着剤を含む粘着層を形成する工程と
を含む経皮吸収製剤の製造方法。
【請求項8】
前記ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩及びポリビニルピロリドンを含有する溶液が、ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩と酢酸エチルとの混合物をポリビニルピロリドンのエタノール溶液と混合することにより得られることを特徴とする請求項に記載の経皮吸収製剤の製造方法。
【請求項9】
前記薬物含有マトリックス層が、薬物含有マトリックス層の全重量に対して、10〜40重量%のドネペジルまたはその薬学的に許容される塩、0.1〜20重量%のポリビニルピロリドン、及び40〜80重量%のアクリル系粘着剤を含むことを特徴とする請求項に記載の経皮吸収製剤の製造方法。
【請求項10】
前記薬物含有マトリックス層が、薬物含有マトリックス層の全重量に対して30〜40重量%のドネペジルまたはその薬学的に許容される塩、1〜20重量%のポリビニルピロリドン、及び40〜60重量%のアクリル系粘着剤を含むことを特徴とする請求項に記載の経皮吸収製剤の製造方法。
【請求項11】
前記ポリビニルピロリドンが7,000〜1,500,000の範囲の重量平均分子量を有することを特徴とする請求項10のうちいずれか1項に記載の経皮吸収製剤の製造方法。
【請求項12】
前記粘着層の形成が、50〜150μmの範囲の厚さを有する粘着層を得るように行われることを特徴とする請求項に記載の経皮吸収製剤の製造方法。
【請求項13】
前記粘着層の形成が、90〜110μmの範囲の厚さを有する粘着層を得るように行われることを特徴とする請求項に記載の経皮吸収製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドネペジル含有経皮吸収製剤及びその製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、薬物含有マトリックス層及び粘着層を含む2層構造を有する経皮吸収製剤(例えばパッチの形態)であって、前記薬物含有マトリックス層が、特定のポリマーを用いてドネペジルを完全に溶解した後、粘着剤とともに製剤化して得られる経皮吸収製剤、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学名が2−[(1−ベンジル−4−ピペリジニル)メチル]−5,6−ジメトキシインダン−1−オンのドネペジルまたはその塩は、認知症を治療するための治療剤として用いられるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤である。
【0003】
認知症は、主に高齢者に発生する。高齢者は、嚥下が困難であることが多く、進行した認知症を患う多くの患者にとって、経口製剤の服用は困難である。さらに、経口投与の場合、薬物の血漿濃度が非常に急速に上昇したり低下したりすることがあり、副作用を引き起こす恐れがある。したがって、血漿中濃度を一定かつ持続的に維持することができる製剤が求められている。例えば、EP1437130A1には、ドネペジル等の抗認知症薬を含む経皮吸収製剤が開示されている。前記経皮吸収製剤は、ドネペジル等の抗認知症薬が粘着剤に分散された構造を有し、また皮膚に適用された場合に、血漿中の薬物濃度を12時間以上一定に維持するよう設計されている。また、WO2007/129427には、粘着層、薬物含有層、及び中間層を含む3層構造を有する経皮吸収製剤が開示されている。
【0004】
一方、一般的な認知症患者のために、1日から数日、例えば1日以上、好ましくは約1週間以上、薬物血中濃度を維持することが可能な経皮吸収製剤を設計することが必要である。このような経皮吸収製剤は、比較的多量の薬物(例えばドネペジル)の使用を必要とする。しかし、従来の経皮吸収製剤では、ドネペジルの量が多くなると、ドネペジルが製剤中で結晶化し、粘着力の低下等の問題を引き起こす。また、ドネペジルの放出速度を調整するために設計した3層構造の経皮吸収製剤の場合、製造工程が複雑かつ困難なものとなり、経済性が劣る等の不利が生じる。
【0005】
また、界面活性剤等の従来の可溶化剤でドネペジルを完全に溶解することにより、長時間作用する経皮吸収製剤を設計しても、その使用中に急速な放出ダンピング現象が発生する。したがって、放出ダンピングの問題を効果的に抑止できる経皮吸収製剤を設計することが必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、薬物含有マトリックス層及び粘着層を含む2層構造を有する経皮吸収製剤(例えばパッチの形態)であって、前記薬物含有マトリックス層が、特定のポリマー、すなわちポリビニルピロリドンを用いてドネペジルを完全に溶解した後、粘着剤とともに製剤化して得られる経皮吸収製剤が、一定速度で長時間、例えば1日以上、好ましくは約1週間以上、ドネペジルを放出することができ、また、放出ダンピング現象を抑止できることを見出した。
したがって、本発明の目的は、2層構造を有する前記経皮吸収製剤を提供することである。
また、本発明の別の目的は、前記経皮吸収製剤の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、支持層、薬物含有マトリックス層、粘着層及び剥離層から構成される経皮吸収製剤であって、前記薬物含有マトリックス層が(i)有効成分としてのドネペジルまたはその薬学的に許容される塩と、(ii)ポリビニルピロリドンと、(iii)アクリル系粘着剤とを含み、かつ前記粘着層がアクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤を含む経皮吸収製剤が提供される。
【0008】
本発明の経皮吸収製剤において、前記薬物含有マトリックス層は、薬物含有マトリックス層の全重量に対して、10〜40重量%のドネペジルまたはその薬学的に許容される塩、0.1〜20重量%のポリビニルピロリドン、及び40〜80重量%のアクリル系粘着剤を含んでもよく、30〜40重量%のドネペジルまたはその薬学的に許容される塩、1〜20重量%のポリビニルピロリドン、及び40〜60重量%のアクリル系粘着剤を含むことが好ましい。また、前記ポリビニルピロリドンは、7,000〜1,500,000の範囲の重量平均分子量を有してもよい。
【0009】
一実施形態において、前記粘着層はシリコーン系粘着剤を含んでもよく、また、50〜150μm、好ましくは90〜110μmの範囲の厚さを有してもよい。
【0010】
本発明の別の実施形態によれば、(a)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩及びポリビニルピロリドンを含有する溶液にアクリル系粘着剤を溶解する工程と;(b)工程(a)によって得られた溶液をフィルムの上に塗布し、乾燥して、薬物含有マトリックス層を形成する工程と;(c)工程(b)によって得られた薬物含有マトリックス層の上にアクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤を含む粘着層を形成する工程とを含む経皮吸収製剤の製造方法が提供される。
【0011】
前記ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩及びポリビニルピロリドンを含有する溶液は、ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩と酢酸エチルとの混合物をポリビニルピロリドンのエタノール溶液と混合することにより得てもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明による2層構造を有する経皮吸収製剤において、ドネペジルの結晶化は一切見られず、ドネペジルを一定速度で長時間にわたって放出することができ、また、単層構造の経皮吸収製剤で発生する放出ダンピング現象を抑止することができる。特に、前記薬物含有マトリックス層及び前記粘着層がそれぞれ異なる粘着剤を用いて構成される場合、ドネペジルの放出を、放出ダンピング現象を抑止しつつ、1週間以上一定速度に制御することができる。また、本発明による2層構造を有する経皮吸収製剤は、空気(酸素)とドネペジルとの接触を最小限に抑えることができ、これもまた、経皮吸収製剤の安定性に寄与する。したがって、本発明による経皮吸収製剤は、認知症の患者、特に高齢の患者に対し、血中濃度の急速な上昇による副作用を生じることなく、有用に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】様々な重量平均分子量を有するポリビニルピロリドンを用いて製造した経皮吸収製剤の試験管内皮膚浸透速度の評価結果を示すグラフである。
図2】本発明による2層構造を有する経皮吸収製剤の試験管内皮膚浸透速度の評価結果を示すグラフである。
図3】本発明の経皮吸収製剤及び比較製剤の生体内薬物濃度プロファイルを1週間測定して得られた結果を示すグラフである。
【0014】
本発明は、支持層、薬物含有マトリックス層、粘着層及び剥離層から構成される経皮吸収製剤であって、前記薬物含有マトリックス層が(i)有効成分としてドネペジルまたはその薬学的に許容される塩と、(ii)ポリビニルピロリドンと、(iii)アクリル系粘着剤とを含み、かつ前記粘着層がアクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤を含む経皮吸収製剤を提供する。
【0015】
本発明による経皮吸収製剤において、前記ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩(例えばドネペジル塩酸塩)は、治療上有効な血中濃度を得るのに十分な量、例えば薬物含有マトリックス層の全重量に対して10〜40重量%、好ましくは、30〜40重量%の範囲で使用してもよい。ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩の含量が10重量%未満の場合、所望の治療効果が得られない恐れがある。ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩の含量が40重量%を超える場合、粘着力が低下したり、薬物の結晶が形成されたりすることがある。
【0016】
前記ポリビニルピロリドンは、ドネペジルの溶解性を高め、経皮吸収製剤におけるドネペジルの完全な溶解を可能にする役割を果たす。前記ポリビニルピロリドンは、7,000〜1,500,000の範囲の重量平均分子量を有してもよい。また、前記ポリビニルピロリドンは、薬物含有マトリックス層の全重量に対して0.1〜20重量%、好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは4〜12重量%の範囲の量で用いてもよい。ポリビニルピロリドンの含量が0.1重量%未満の場合、所望の可溶化効果が得られない恐れがある。ポリビニルピロリドンの含量が20重量%を超える場合、前記薬物含有マトリックス層が変色したり、粘度が高過ぎることによって製剤化の過程が困難になったりする恐れがある。
【0017】
前記アクリル系粘着剤は粘着性を有するポリマーであり、官能基として、カルボキシル基、水酸基、またはこれらの組み合わせを有する。このような粘着剤の例としては、Durotak 87−202A、Durotak 387−2510、Durotak 87−4287、Durotak 387−2287、Durotak 87−2287、Durotak 387−2516、Durotak 87−2516、Durotak 387−2525、Durotak 87−2525、Durotak 87−2979、Durotak 87−2074、Durotak 87−235A、Durotak 87−2353、Durotak 387−2353、Durotak 87−2852、Durotak 87−2051、Durotak 387−2051、Durotak 87−2052、Durotak 387−2052、Durotak 387−2054、Durotak 87−2054、Durotak 87−2677、Durotak 87−2194、Durotak 387−2196、Durotak 387−2825、Durotak 87−2825、Durotak 87−502A、Durotak 87−503A、Durotak 87−504A等が挙げられる。前記アクリル系粘着剤は、Durotak 87−2516 (Henkel社)、Durotak 87−235A (Henkel社)、Durotak 87−2353 (Henkel社)、Durotak 387−2353 (Henkel社)、またはDurotak 87−502A (Henkel社)であってもよく、これらであることが好ましい。前記アクリル系粘着剤は、薬物含有マトリックス層の全重量に対して40〜80重量%、好ましくは40〜60重量%の範囲で使用してもよい。
【0018】
一実施形態において、前記薬物含有マトリックス層は、薬物含有マトリックス層の全重量に対して、ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩10〜40重量%、ポリビニルピロリドン0.1〜20重量%、及びアクリル系粘着剤40〜80重量%を含んでもよい。別の実施形態において、前記薬物含有マトリックス層は、薬物含有マトリックス層の全重量に対して、ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩30〜40重量%、ポリビニルピロリドン1〜20重量%、及びアクリル系粘着剤40〜60重量%を含んでもよい。
【0019】
必要に応じて、前記薬物含有マトリックス層は、可塑剤または安定化剤をさらに含んでもよい。前記可塑剤または前記安定化剤は、薬物含有マトリックス層の全重量に対して約40重量%以下の量で使用してもよいが、これに限定されない。
【0020】
本発明による経皮吸収製剤は、アクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤を含む粘着層を含む。
【0021】
前記アクリル系粘着剤は、上述したものと同じである。
【0022】
前記シリコーン系粘着剤は、アミン基を有する薬物との相溶性、及び粘着性を有するポリマーである。このような粘着剤の例としては、BIO−PSA 7−4301、BIO−PSA 7−4302、BIO−PSA 7−4303、BIO−PSA 7−4201、BIO−PSA 7−4202、BIO−PSA 7−4302、BIO−PSA 7−4101、BIO−PSA 7−4102、BIO−PSA 7−4103等が挙げられる。前記シリコーン系粘着剤は、BIO−PSA 7−4302 (Dow corning社)、BIO−PSA 7−4202 (Dow corning社)、または BIO−PSA 7−4102 (Dow corning社)であってもよく、これらであることが好ましい。
【0023】
一方、前記薬物含有マトリックス層及び前記粘着層が、それぞれ異なる粘着剤を用いて構成される場合、ドネペジルの放出を、放出ダンピング現象の抑止しつつ、1週間以上一定速度に制御できることが明らかになった。したがって、本発明の一実施形態において、前記粘着層は好ましくはシリコーン系粘着剤を含む。また、その厚さは、50〜150μmであってもよく、90〜110μmであることが好ましく、約100μmであることがさらに好ましい。
【0024】
本発明はまた、(a)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩及びポリビニルピロリドンを含有する溶液にアクリル系粘着剤を溶解する工程と;(b)工程(a)によって得られた溶液をフィルムの上に塗布し、乾燥して、薬物含有マトリックス層を形成する工程と;(c)工程(b)によって得られた薬物含有マトリックス層の上にアクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤を含む粘着層を形成する工程とを含む経皮吸収製剤の製造方法を提供する。
【0025】
工程(a)において、前記ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩及びポリビニルピロリドンを含有する溶液は、ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩と酢酸エチルとの混合物をポリビニルピロリドンのエタノール溶液と混合することにより得られる。
【0026】
工程(b)は、工程(a)によって得られた溶液をフィルムの上に塗布し、乾燥して、薬物含有マトリックス層を形成することによって行われてもよい。前記フィルムは、通常のPETフィルム、例えばシリコーンでコーティングされたPETフィルムであってもよい。前記乾燥は、約70℃のオーブンで15分間乾燥することによって行われてもよい。また、通常の支持フィルム、例えばアルミニウムが積層されたポリエステルフィルムを、前記フィルムとは反対の側(すなわち、薬物含有マトリックス層が露出している側)に積層して支持層を形成してもよい。また、経皮吸収製剤分野で一般的に使用されている薬物不浸透性の可撓性材料を支持フィルムとして用いてもよい。例えば、ポリオレフィン、ポリエーテル、エチレン・酢酸ビニル多層フィルム、ポリエステル、ポリウレタン等を使用してもよい。
【0027】
工程(c)は、工程(b)によって得られた薬物含有マトリックス層の上に、アクリル系粘着剤またはシリコーン系粘着剤を含む粘着層を形成することによって行われてもよい。前記シリコーン系粘着剤を含有する粘着層は、シリコーン系粘着剤を、例えばフッ素コーティングされたPETフィルム上に所定の厚さで塗布し、約70℃のオーブンで約15分間乾燥させ、その後、得られた粘着層を工程(b)によって得られた薬物含有マトリックス層の上に積層することによって形成されてもよい。また、前記アクリル系粘着剤を含有する粘着層は、アクリル系粘着剤を、例えばシリコーンコーティングされたPETフィルム上に所定の厚さで塗布し、約70℃のオーブンで約15分間乾燥させ、その後、得られた粘着層を、工程(b)によって得られた薬物含有マトリックス層の上に積層することによって形成されてもよい。
【0028】
パッチの形態の経皮吸収製剤を製造するために、上記のようにして得られた、支持層、薬物含有マトリックス層、及び粘着層を有する製剤の上に、剥離層を形成してもよい。前記剥離層には、経皮吸収製剤分野で一般的に使用される離型ライナーまたはそれらの積層物を使用してもよい。例えば、シリコン樹脂またはフッ素樹脂でコーティングされた、ポリエチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等を原料とする、フィルム、紙、またはそれらの積層物を使用することができる。
【0029】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明を例示的に説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0030】
実施例1:ポリマーの評価
多様なポリマーと粘着剤との相溶性を評価するための予備実験を行い、予備実験において比較的良い相溶性を示す結果の得られたポリマーについて、ドネペジル塩基の可溶化に対する効果を評価した。すなわち、ドネペジル(1g)と酢酸エチル(1g)とを混合した。それぞれ別の容器において、他のポリマー、すなわちポリビニルピロリドン(PVP K17、BASF社)、Eudragit(登録商標)E100(Degussa社)、及びPlastoid(登録商標)B(Evonik Industries AG社)(各0.2g)をエタノール(0.8g)に溶解して溶液を得た。次いでこれらの溶液を、前記ドネペジルと酢酸エチルとの混合溶液にそれぞれ添加した。1−1(ポリマー非添加)においては、エタノール(1.0g)を前記ドネペジルと酢酸エチルとの混合溶液に添加した。各溶液を2時間撹拌した後に外観を観察した。結果を以下の表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1の結果から、ポリビニルピロリドンを使用するとドネペジルが完全に溶解し、外観が透明になることがわかる。したがって、粘着剤との相溶性を有する前記ポリビニルピロリドンは、ドネペジルの溶解度を効果的に高めるため、ドネペジルに対する可溶化剤として特に適していると結論づけられた。
【0033】
実施例2:ポリビニルピロリドンの分子量に着目した製剤化の評価
経皮吸収製剤の製剤化におけるポリビニルピロリドンの分子量の影響を評価した。ドネペジル塩基とポリビニルピロリドンとを含む溶液を、以下の表2の組成に従って、実施例1と同様の手順で調製した(2−1の場合、エタノール(1g)のみを添加した)。この溶液にアクリル系粘着剤を添加した後、均質化した。得られた溶液それぞれをシリコーンでコーティングされたPETフィルム上に塗布した。得られたフィルムそれぞれを、70℃のオーブンで15分間乾燥させ、次いで支持フィルムを積層した。これらについて、製剤化におけるポテンシャルを評価した。表2のPVP K17(重量平均分子量:7,000〜11,000、BASF社)、PVP K30(重量平均分子量:44,000〜54,000、BASF社)、またはPVP K90(重量平均分子量:1,000,000〜1,500,000、BASF社)はポリビニルピロリドンとして、Durotak 87−235A (Henkel社)はアクリル系粘着剤として使用した。
【0034】
【表2】
【0035】
ポリマーを含まない溶液2−1は、粘度が非常に低く、フィルム上に塗布することができなかった。上記結果からわかるように、ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は7,000〜1,500,000の範囲にあることが好ましく、その使用量は約1〜20重量%の範囲にあることが好ましく、4〜12重量%の範囲にあることがより好ましい。
【0036】
図1は、実施例2−2、2−5、2−7、及び2−8で製造した経皮吸収製剤の試験管内皮膚浸透速度の評価結果を示す。皮膚浸透速度は、次のように測定した。それぞれの経皮吸収製剤を1cmの大きさに切断し、ヒトの死体皮膚に貼付した。皮膚を通して拡散したサンプルを、所定の時間に自動採取した。フランツセルの内部温度は32.5℃に設定し、pH7.4のリン酸塩緩衝液を試験液として用いた。採取したサンプルは高速液体クロマトグラフィーで分析した。図1の結果より、いずれの経皮吸収製剤も、一定のフラックス値を示すことがわかる。
【0037】
実施例3:2層構造を有する経皮吸収製剤の製造及び評価
(1)経皮吸収製剤の製造
以下の表3に示す組成に従って経皮吸収製剤を製造し、その試験管内皮膚浸透速度を評価した。表3のPVP K90 (BASF社)はポリビニルピロリドンとして、Durotak 87−235A (Henkel社)はアクリル系粘着剤として、Bio−PSA 7−4302 (Dow corning社)はシリコーン系粘着剤として使用した。
【0038】
【表3】
【0039】
シリコーンでコーティングされたPETフィルム上にドネペジル塩基、ポリビニルピロリドン、及びアクリル系粘着剤が塗布されて成る薬物含有マトリックス層(厚さ:65μm)を、表3に示す組成及び量に従って、実施例2と同様の手順で製造した。得られた薬物含有マトリックス層に、アルミニウムが積層されたポリエステル支持フィルムを積層して、第1層を形成した。
【0040】
シリコーン粘着剤(BIO−PSA−7−4302、Dow corning社)を、フッ素でコーティングされたPETフィルムに、乾燥後の厚さが100μm(実施例3−1)または50μm(実施例3−2)となるように塗布した後、70℃のオーブンで15分間乾燥して、皮膚粘着層(第2層)を形成した。先に製造した第1層から、前記シリコーンでコーティングされたPETフィルムを剥離した。この第1層に、それぞれの第2層を積層して、実施例3−1及び3−2の経皮吸収製剤を製造した。
【0041】
また、薬物含有マトリックス層で使用されたアクリル系粘着剤と同様のアクリル系粘着剤を、シリコーンでコーティングされたPETフィルムに、乾燥後の厚さが100μm(実施例3−3)または50μm(実施例3−4)となるように塗布した後、70℃のオーブンで15分間乾燥して、皮膚粘着層(第2層)を形成した。先に製造した第1層から、前記シリコーンでコーティングされたPETフィルムを剥離した。得られた第1層に、各第2層を積層して、実施例3−3及び3−4の経皮吸収製剤を製造した。
【0042】
(2)試験管内皮膚浸透速度の評価
実施例3−1〜3−4の経皮吸収製剤の試験管内皮膚浸透速度を、フランツセル(垂直拡散セル)を用いて評価した。皮膚浸透速度は、次のように測定した。それぞれの経皮吸収製剤を1cmの大きさに切断し、ヒトの死体皮膚に貼付した。皮膚を通して拡散したサンプルを、所定の時間に自動採取した。フランツセルの内部温度は32.5℃に設定し、pH7.4のリン酸塩緩衝液を試験液として用いた。採取したサンプルは高速液体クロマトグラフィーで分析した。結果を図2に示す。
【0043】
図2の結果に示されるように、薬物含有マトリックス層で使用されたものと同じアクリル系粘着剤から構成された粘着層を有する経皮吸収製剤(すなわち実施例3−3及び3−4)は、比較的迅速なドネペジル放出パターンを示し、したがって、比較的短時間作用性の経皮吸収製剤(例えば、約72時間作用する経皮吸収製剤)として有効に使用できることが期待される。一方、シリコーン系粘着剤から構成された粘着層を有する経皮吸収製剤(すなわち、実施例3−1及び3−2)は、ドネペジルの制御放出パターンを示した。特に、粘着層の厚さが100μmである経皮吸収製剤は、ドネペジルの優れた制御放出パターンを示した。したがって、これらは、長時間作用性の経皮吸収製剤(例えば、約1週間作用する経皮吸収製剤)として有効に使用できることが期待される。
【0044】
(3)経皮吸収製剤の生体内評価
実施例3−1の経皮吸収製剤の長時間作用性制御放出特性を、無毛ラットを用いて評価した。比較のために、単層構造を有する経皮吸収製剤(比較例1)の評価も実施した。比較例1の経皮吸収製剤は、ドネペジル塩基0.5g及び酢酸エチル2.5gを使用したことを除いては、実施例2−8と同様の手順で、薬物含有マトリックス層(厚さ:65μm)を形成することによって製造した。
【0045】
比較例1の経皮吸収製剤は、10cmの大きさに切断した。実施例3−1の経皮吸収製剤は、5cm及び10cmの大きさに切断した。各経皮吸収製剤を無毛ラットに貼付した後、血液サンプルを、2、4、6、12、24、48、72、96、120、144、及び168時間後に、すなわち168時間(1週間)にわたって採取した後、血漿中のドネペジルの量をそれぞれ測定した。この血中濃度−時間プロファイルを図3に示す。
【0046】
図3の結果に示されるように、比較例1の単層構造を有する経皮吸収製剤の示す血中濃度は低く、その後、144時間の時点で予想外の放出ダンピング現象が見られた。しかし、大きさが5cmと10cmの、2層構造の経皮吸収製剤は、1週間にわたってドネペジルの治療上有効な濃度を維持しつつ、有意な制御放出プロフィールを示し、薬物量の半減は血中薬物濃度の半減につながった。したがって、本発明による2層構造を有する経皮吸収製剤は、ドネペジルを長時間にわたって一定濃度で持続的に放出できることがわかる。
図1
図2
図3