【課題を解決するための手段】
【0008】
ところで、本発明者らは、既に、特許文献1に開示されるように、頭皮の毛根に真空含浸により育毛剤を供給する技術(育毛・発毛用真空含浸方法)を開発している。この技術開発を進めるにあたり、最近、頭皮の育毛・発毛効果に伴う波及効果として、被施術者の毛髪に艶や張りなどの状態に改善が見られることが判ってきた。
毛髪をミクロ的に観察した場合、
図1に示すように、毛髪表面はキューティクル(小皮)H1で形成されており、このキューティクルH1の内側に、毛髪の芯をなす毛髄H2と、フィブリル束H3と、間充物質H4とが覆われている。ここで、フィブリルは繊維状のケラチンであり、フィブリル束H3はこれらが束になったものを指す。間充物質H4は、柔らかいケラチンタンパク質からなり、毛髄H2やフィブリル束H3の間隙を充填する役割を果たす。パーマネントウェーブ剤、ブリーチ剤、染毛剤などは間充物質H4に対して作用する、というのが現在の通説である。
発明者らの研究によれば、真空状態で毛髪を吸引した場合、重なり合うキューティクルH1間の隙間から老廃物が取り除かれる。キューティクルH1の隙間で“バリヤー”となっていた老廃物がなくなると、毛髪表面から内部へ向けて毛髪修復剤の有効成分が浸透し、毛髪の艶や張りが改善すると考えられる。
【0009】
[第1発明]
上記の知見に鑑み、前記課題を解決するための第1発明の毛髪修復方法は、下記の構成を採用することとした。
すなわち、被施術者の毛髪のうち根元より上側の任意部分を施術容器に挿入する工程と、
前記施術容器に前記毛髪を挿入した状態で、前記施術容器の挿入口を封止して前記毛髪の挿入部分を密閉する工程と、
前記施術容器内の密閉室を真空状態に減圧し、前記毛髪表面のキューティクルの隙間から老廃物を吸い出す工程と、
前記密閉室の真空状態を開放した後、前記施術容器内に毛髪修復剤を供給し、前記キューティクルの隙間から前記毛髪内部に前記毛髪修復剤を浸透させる工程と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
第1発明に係る毛髪修復方法によれば、毛髪周囲の空間を真空状態に保つことで、キューティクルの隙間から老廃物を吸い出す。その後、真空状態を開放してから毛髪に毛髪修復剤を供給することにより、キューティクル間の隙間から毛髪修復剤が毛細管現象により効率よく毛髪の奥まで浸透する。
これにより、毛髪への毛髪修復剤の含浸効果を従来よりも格段に高めることができ、ひいては毛髪の艶や張りなどの状態を良好に改善することができる。
【0011】
[第2発明]
また、前記課題を解決するための第2発明の毛髪修復方法は、下記の構成を採用することとした。
すなわち、被施術者の毛髪のうち根元より上側の任意部分を施術容器に挿入する工程と、
前記施術容器に前記毛髪を挿入した状態で、前記施術容器の挿入口を封止して前記毛髪の挿入部分を密閉する工程と、
前記施術容器内の密閉室を真空状態に減圧し、前記毛髪表面のキューティクルの隙間から老廃物を吸い出す工程と、
真空状態の前記密閉室に毛髪修復剤を供給する工程と、
前記密閉室の真空状態を開放し、前記密閉室の内気圧を瞬間的に上昇させることにより、前記キューティクルの隙間に前記毛髪修復剤を吸い込ませ、前記毛髪内部に同毛髪修復剤を浸透させる工程と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る毛髪修復方法は、毛髪周囲の空間を真空状態に保つことにより、第1発明と同様に、キューティクルの隙間から老廃物を吸い出す。続いて、老廃物を取り除いた後のキューティクル間の隙間に真空含浸の作用を利用して毛髪修復剤を吸い込ませる。
つまり、第2発明では、キューティクル間の隙間に真空含浸の作用を利用して毛髪修復剤を吸い込ませる点で、キューティクル間の隙間に毛細管現象を利用して毛髪修復剤を浸み込ませる第1発明とは異なるが、第1発明と同様かあるいはそれ以上に毛髪への毛髪修復剤の含浸効果を高めることができ、ひいては毛髪の艶や張りなどの状態を良好に改善することができる。
【0013】
上記の様子を模式図を使って説明すると、まず、
図2に示すように、老廃物Dの詰まった毛髪を施術容器内に密閉する。なお、
図2において、符号H1はキューティクル、符号H2は毛髄、符号H3はフィブリル束、符号H4は間充物質である。
次いで、
図3に示すように、毛髪を真空下にさらすことで、キューティクルH1の隙間の空気を外部(
図3中の矢印方向)に吸い出し、キューティクルH1が閉じた状態にする。このとき、その隙間にある老廃物が空気とともに外部に吸い出されるため、結果として、キューティクルH1の隙間の老廃物が取り除かれる。
このような状態で、毛髪周囲の空間に毛髪修復剤を供給した後、この真空状態を開放すると、
図4に示すように、キューティクルH1の隙間に空気が流入し(
図4中の矢印方向)、同時に、毛髪修復剤がこの流入空気とともにキューティクルH1の隙間の奥まで吸い込まれる。
これにより、毛髪への毛髪修復剤の含浸効果を第1発明よりもさらに高めることができ、ひいては毛髪の艶や張りなどの状態を良好に改善することができる。
【0014】
[第3発明]
前記課題を解決するための第3発明の毛髪修復装置は、第1発明の毛髪修復方法を実施するための装置であって、
被施術者の毛髪のうち根元より上側の任意部分が挿入される施術容器と、
前記施術容器に前記毛髪が挿入された状態で、前記施術容器の挿入口を封止して前記毛髪の挿入部分を密閉する封止蓋と、
前記封止蓋により封鎖された前記施術容器内の密閉室を真空状態に減圧し、前記毛髪表面のキューティクルの隙間から老廃物を吸い出す真空ポンプと、
前記施術容器内に毛髪修復剤を供給し、前記毛髪表面のキューティクルの隙間に前記毛髪修復剤を浸み込ませる修復剤供給器と、を備える構成とした。
【0015】
第3発明に係る毛髪修復装置によれば、第1発明に係る毛髪修復方法の各工程に対応する技術的特徴を実現できるから、上記第1発明と同様の効果を得ることが可能となる。
【0016】
[第4発明]
前記課題を解決するための第4発明の毛髪修復装置は、第2発明の毛髪修復方法を実施するための装置であって、
被施術者の毛髪のうち根元より上側の任意部分が挿入される施術容器と、
前記施術容器に前記毛髪が挿入された状態で、前記施術容器の挿入口を封止して前記毛髪の挿入部分を密閉する封止蓋と、
前記封止蓋により封鎖された前記施術容器内の密閉室を真空状態に減圧し、前記毛髪表面のキューティクルの隙間から老廃物を吸い出す真空ポンプと、
真空状態の前記密閉室に毛髪修復剤を供給する修復剤供給器と、
前記密閉室の真空状態を開放し、前記密閉室の内気圧を瞬間的に上昇させることにより、前記毛髪表面のキューティクルの隙間に前記毛髪修復剤を吸い込ませる真空開放バルブと、を備える構成とした。
【0017】
第4発明に係る毛髪修復装置によれば、第2発明に係る毛髪修復方法の各工程に対応する技術的特徴を実現できるから、上記第2発明と同様の効果を得ることが可能となる。
【0018】
[第5発明]
第5発明の毛髪修復用器具は、第1発明または第2発明に係る毛髪修復方法を実施するための器具であって、
被施術者の毛髪のうち根元より上側の任意部分を挿入可能な施術容器と、
前記施術容器に前記毛髪が挿入された状態で、同施術容器の挿入口を封止して前記毛髪の挿入部分を密閉可能な封止蓋と、を備える構成とした。
【0019】
第5発明の毛髪修復用器具は、第1発明または第2発明における毛髪を収容するための必須の容器としての役割を果たす。つまり、同容器は、第1発明または第2発明に係る毛髪修復方法の実施に直接的に寄与するものとなる。
なお、第5発明の毛髪修復用器具には、毛髪修復剤の挿入口や真空状態の開放口が所定の箇所に設けられる。これらの挿入口や開放口は、それぞれ別個に設けてもよいし、兼用であっても構わない。
【0020】
[第6発明]
第6発明の毛髪修復装置は、第3発明または第4発明の毛髪修復装置であって、
前記封止蓋に開口するスリットと、
前記封止蓋の内側に前記スリットと並行して設けられる一対のローラと、
前記一対のローラを駆動可能なモータとを備えており、
前記スリットから挿入された被施術者の毛髪が、前記駆動モータにより駆動される前記一対のローラに挟まれて前記施術容器内に引き込まれる構成とした。
【0021】
第6発明の構成によれば、施術容器に挿入する毛髪の分量調整をローラの引込操作により実現することができる。そのため、施術に不慣れな者であっても手間取ることなく、施術容器への毛髪の挿入作業を簡単かつ適切に行うことができる。
【0022】
[第7発明]
第7発明の毛髪修復装置は、第3発明または第4発明の毛髪修復装置であって、
前記施術容器の外側に設けられるソケットと、
前記ソケットに着脱可能に装着されるカートリッジ式の前記修復剤供給器とを備え、
前記ソケットに前記修復剤供給器が装着されるとき、前記ソケット内の注入口に前記修復剤供給器のノズルが連結されることにより、前記ノズルから前記施術容器内に毛髪修復剤が供給される構成とした。
【0023】
第7発明の構成によれば、ソケットにカートリッジ式の修復剤供給器を装着することにより、施術容器内の密閉室に簡単な操作で適切な量の毛髪修復剤を供給することができる。
カートリッジ式の修復剤供給器に毛髪修復剤を充填しておくことで、毛髪修復剤の保管や管理の作業が容易になる。
【0024】
[第1〜7発明]
本発明において、「施術容器」は、被施術者の毛髪のうち根元より上側の任意部分(少なくとも一部)が挿入可能であればよく、形状(筒状、箱状、袋状)や材質(樹脂、金属、エラストマー)は限定されない。被施術者の毛髪の長さ(長髪・短髪)について特に制限されることはない。
【0025】
「封止蓋」は、施術容器の挿入口からのエアー漏れを防ぐため手段として、ネジ方式、クリップ方式、ワイヤー方式などの封止構造を備える。この封止蓋は、毛髪表面にダメージを与えないようにゴムやエラストマーなどの軟質材料で形成されることが望ましい。
【0026】
「毛髪修復剤」は、その有効成分に特に制限はなく、市販の各種修復剤を使用することができる。
例えば、タンパク質系としては、加水分解ケラチン、加水分解大豆、加水分解小麦、加水分解コラーゲン、加水分解シルク、PPT等、脂質系としては、CMC(細胞膜複合体類似物質)、セラミド、ジラウロリルグルタミン酸リシンNa(ペリセア)、ナノリペア、リビジュア等、天然オイル・エキス系としては、ナッツ油、ホホバ油、サラソウジュ種子油等、アミノ酸系としては、アルギニン、タウリン、グルタミン酸等、シリコーン系としては、ジメチコン、シクロメチコン、アモジメチコン等、ポリマー系としては、ポリクオタニウム、コポリマー等、その他補修剤としてはキトサン誘導体、ヘマチン等が挙げられる。
ミネラル水、イオン水、深層水などの水をそのまま修復剤として採用してもよい。
【0027】
「密閉室」に毛髪修復剤を供給する工程については、毛髪修復剤を密閉室に噴霧するか、点滴針などで液滴として供給することが望ましい。
【0028】
「真空ポンプ」は、施術容器内の密閉室を減圧する機能をもつ装置であればよく、動作原理は特に限定されさない。真空ブロアーや真空エジェクタと呼ばれる真空発生器も含まれる。
例えば、機械的真空ポンプとしては、油回転真空ポンプ (ロータリーポンプ)、液封真空ポンプ、ルーツ真空ポンプ(メカニカルブースタポンプ)、ターボ分子ポンプ(TMP)、ドライ真空ポンプ等、運動量移送式真空ポンプとしては、拡散ポンプ(水銀・油)、スチームエジェクタ真空ポンプ、拡散エジェクタポンプ等、溜込式真空ポンプとしては、クライオポンプ、スパッタイオンポンプ、ソープションポンプ、チタンゲッタポンプ等を採用することができる。これらの真空ポンプは、必要な真空度に応じて組み合わせて使用することが望ましい。
【0029】
「真空状態」は、キューティクルの隙間から老廃物が吸い出される程度に減圧された状態であればよく、具体的な数値は限定されない。
真空圧は、被施術者の個人差により異なるが、その一例として10torr以下の中真空または高真空の状態とすることが考えられる。この程度の圧力まで低下させると、毛髪の太さと毛髪の柔軟性の関係で、毛髪修復剤が毛髪の内部まで浸込みやすく、また、浸透時間の短縮効果が期待される。一般には、太毛の人の場合には高真空の圧力に設定し、細毛の人の場合は、中真空の圧力に設定するとよい。また、個々の髪質に最も適した圧力状態をチェックして個人用のカルテ等を作成するのもよい。
【0030】
本発明によってキューティクルの隙間から取り除かれる「老廃物」には、毛髪自体の老廃物の他、毛髪に付着あるいは残存している異物、不純物などの成長阻害物(整髪剤、シリコーン、酸化物、ムース、シャンプー、リンス、コンディショナー、フケ、皮脂、癜風菌、ゴミ、塵、埃等)を含む。
【0031】
本発明における「施術容器」には、高速振動子を組み込むようにしてもよい。組み込む方法としては、例えば施術容器の外側若しくは内側の壁面に高速振動子を固定する。
このような構成によれば、高速振動子の高速振動が施術容器から密閉室の毛髪に伝わることにより、毛髪修復剤の浸透率を向上させることができる。