特許第6132435号(P6132435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132435
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】静電型電気音響変換器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 19/04 20060101AFI20170515BHJP
   H04R 19/02 20060101ALI20170515BHJP
   H04R 7/04 20060101ALI20170515BHJP
   H04R 31/00 20060101ALI20170515BHJP
   H04R 7/16 20060101ALN20170515BHJP
【FI】
   H04R19/04
   H04R19/02
   H04R7/04
   H04R31/00 C
   !H04R7/16
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-207956(P2013-207956)
(22)【出願日】2013年10月3日
(65)【公開番号】特開2015-73203(P2015-73203A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】秋野 裕
【審査官】 北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−086831(JP,A)
【文献】 特開2008−072177(JP,A)
【文献】 特開平05−145998(JP,A)
【文献】 特開昭58−205399(JP,A)
【文献】 特開2010−288205(JP,A)
【文献】 特開2010−178376(JP,A)
【文献】 特開平10−257590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 19/00−04
H04R 31/00
H04R 7/00−26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定極板と、前記固定極板に対向配置された振動板と、前記振動板の周囲を保持する枠体状の振動板保持部材とを備える静電型電気音響変換器において、
前記振動板と前記振動板保持部材とは長円状に形成され、
前記長円状の振動板保持部材の長軸側の両端部を外側から内側方向に押圧し、前記振動板保持部材の短軸側で対向する一対の長辺を外側に開くように変形させる矯正手段を備えることを特徴とする静電型電気音響変換器。
【請求項2】
前記矯正手段は、
前記振動板保持部材の周囲を囲繞するように配置される支持枠と、
前記支持枠側から前記振動板保持部材の長軸側の両端部に向けて突設され、該長軸側の両端部を内側方向に押圧する押圧部材とを有することを特徴とする請求項1に記載された静電型電気音響変換器。
【請求項3】
前記押圧部材は、前記振動板保持部材の長軸側の両端部に対し、進退可能に前記支持枠に螺合された螺子であることを特徴とする請求項2に記載された静電型電気音響変換器。
【請求項4】
固定極板と、前記固定極板に対向配置された振動板と、前記振動板の周囲を保持する枠体状の振動板保持部材とを備える静電型電気音響変換器の製造方法において、
前記振動板のマザーフィルムを均一に張力をかけた状態で保持する工程と、
前記マザーフィルムに対し長円状の枠体からなる振動板保持部材を接着材を介して取り付ける工程と、
前記マザーフィルムに対する張力を解除する工程と、
前記マザーフィルムにおいて前記振動板保持部材の枠周辺部を切り離す工程と、
前記振動板保持部材の長軸側の両端部を外側から内側に向けて押圧する工程と、を含むことを特徴とする静電型電気音響変換器の製造方法。
【請求項5】
前記振動板保持部材の長軸側の両端部を外側から内側に向けて押圧する工程において、
前記振動板保持部材の周囲を囲繞するように支持枠を配置する工程と、
前記支持枠側から前記振動板保持部材の長軸側の両端部に向けて押圧部材を突設し、該長軸側両端部を内側方向に押圧する工程と、を含むことを特徴とする請求項4に記載された静電型電気音響変換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電型電気音響変換器及びその製造方法に関し、特に、振動板と固定極板との間の静電容量の変化を利用するコンデンサ型のマイク及びヘッドホンにおいて、前記振動板を保持部材に対し撓ませることなく貼り付けることのできる静電型電気音響変換器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話を含む電子機器が小型化し、その内部空間も狭くなっている。前記小型の電子機器の多くは、コンデンサマイクロホンやコンデンサスピーカのような静電型電気音響変換器を内蔵し、マイクロホンユニットやスピーカユニットの小型化も必然的に要求されている。
しかしながら、前記静電型電気音響変換器にあっては、固定極板に対向配置される振動板の形状が一般に正円形に設計されており、前記電子機器における水平もしくは垂直断面が長方形である内部空間を効率的に活用していない。
【0003】
そのような課題に対し、特許文献1には、可変容量マイクロホンにおいて、例えば振動板を含むマイクロホンユニットの平面形状を長円状(陸上競技場トラック形状)にして、前記したような小型の電子機器の内部空間を効率的に用いることが開示されている。
この特許文献1に開示のマイクロホンの構成によれば、マイクロホンユニットの水平断面が従来の正円形の場合よりも大きくできるため、携帯電話のような小型の電子製品の内部空間に対し、該内部空間の隙間を最小限に占めることができ、また、振動板の有効面積が大きくなるため、感度が増大するという効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−86831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1にも記載されているように、マイクロホンユニットにおいて振動板は枠状の保持部材(振動板プレート)に接着され保持される。
しかしながら、振動板を長円状とした場合、振動板に合わせて長円状となされた保持部材の(短軸側で対向する)長辺が振動板の張力によって振動板側に変形し、長辺間において振動板が撓み、張力が低下する。そのため、振動板の張力を安定した状態で製造することが困難であるという課題があった。
【0006】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、静電型電気音響変換器において、長円状とした振動板を保持部材により保持する際、振動板が撓むことなく安定した張力を得ることのできる静電型電気音響変換器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために、本発明に係る静電型電気音響変換器は、固定極板と、前記固定極板に対向配置された振動板と、前記振動板の周囲を保持する枠体状の振動板保持部材とを備える静電型電気音響変換器において、前記振動板と前記振動板保持部材とは長円状に形成され、前記長円状の振動板保持部材の長軸側の両端部を外側から内側方向に押圧し、前記振動板保持部材の短軸側で対向する一対の長辺を外側に開くように変形させる矯正手段を備えることに特徴を有する。
尚、前記矯正手段は、前記振動板保持部材の周囲を囲繞するように配置される支持枠と、前記支持枠側から前記振動板保持部材の長軸側の両端部に向けて突設され、該長軸側の両端部を内側方向に押圧する押圧部材とを有することが望ましい。
また、前記押圧部材は、前記振動板保持部材の長軸側の両端部に対し、進退可能に前記支持枠に螺合された螺子であることが望ましい。
【0008】
このような構成によれば、長円状に形成された振動板を長円状の枠体からなる振動板保持部材により保持する際、前記振動板保持部材の長軸側の両端部が内側方向に押圧される。
これにより、振動板保持部材の短軸側で対向する一対の長辺が外側に開く方向に変形し、振動板は撓み無く安定した状態となされる。
即ち、本発明に係る静電型電気音響変換器によれば、長円状の振動板の張力を安定した状態で製造することが容易であり、また、振動板が長円状であるため、携帯電話のような小型の電子製品の内部空間を効率的に利用することができ、また、振動板の有効面積が大きくなるため、感度の増大といった効果を得ることができる。
【0009】
また、前記した課題を解決するために、本発明に係る静電型電気音響変換器の製造方法によれば、固定極板と、前記固定極板に対向配置された振動板と、前記振動板の周囲を保持する枠体状の振動板保持部材とを備える静電型電気音響変換器の製造方法において、前記振動板のマザーフィルムを均一に張力をかけた状態で保持する工程と、前記マザーフィルムに対し長円状の枠体からなる振動板保持部材を接着材を介して取り付ける工程と、前記マザーフィルムに対する張力を解除する工程と、前記マザーフィルムにおいて前記振動板保持部材の枠周辺部を切り離す工程と、前記振動板保持部材の長軸側の両端部を外側から内側に向けて押圧する工程と、を含むことに特徴を有する。
尚、前記振動板保持部材の長軸側の両端部を外側から内側に向けて押圧する工程において、前記振動板保持部材の周囲を囲繞するように支持枠を配置する工程と、前記支持枠側から前記振動板保持部材の長軸側の両端部に向けて押圧部材を突設し、該長軸側両端部を内側方向に押圧する工程とを含むことが望ましい。
【0010】
このような製造方法によれば、長円状の振動板の張力が安定した状態の静電型電気音響変換器を容易に製造することができ、また、製造した静電型電気音響変換器は振動板が長円状であるため、携帯電話のような小型の電子製品の内部空間を効率的に利用することができ、また、振動板の有効面積が大きくなるため、感度の増大といった効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、静電型電気音響変換器において、長円状とした振動板を保持部材により保持する際、振動板が撓むことなく安定した張力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明に係る静電型電気音響変換器の平面図である。
図2図2は、図1の静電型電気音響変換器のA−A矢視断面図である。
図3図3は、振動板組立体を製造する工程を説明するための平面図及び断面図である。
図4図4は、図3に続く工程を説明するための平面図及び断面図である。
図5図5は、図4に続く工程を説明するための平面図及び断面図である。
図6図6は、図5に続く工程を説明するための平面図及び断面図である。
図7図7は、図6に続く工程を説明するための平面図である。
図8図8は、図7に続く工程を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る静電型電気音響変換器の平面図である。図2は、図1の静電型電気音響変換器のA−A矢視断面図である。
尚、以下の説明では本発明に係る静電型電気音響変換器をコンデンサマイクロホンに適用した場合を例に説明するが、コンデンサ型のヘッドホンやスピーカの場合にも同様の構成を有する。
【0014】
図1図2に示すように、この実施の形態に係るコンデンサマイクロホンは、平面視において振動板が長円状(陸上競技場トラック形状)のマイクロホンユニット10を備えている。
前記マイクロホンユニット10は、ダイアフラムリング12に張設された振動板11と、絶縁座14に支持された固定極板13とをセパレータリング15を介して対向的に配置することにより構成されるが、本発明において、ダイアフラムリング12は、振動板11と相似形の長円状の枠体として形成されている。
即ち、ダイアフラムリング12は、その短軸側で対向し互いに平行な一対の長辺側枠部12a、12aと、長軸側で対向する一対の円弧状枠部12b、12bとを有する。ダイアフラムリング12は金属製で、例えばアルミニウム材や黄銅合金等から形成されてよい。
【0015】
また、振動板11には、一方の面に金属蒸着膜を有する合成樹脂の薄膜が用いられる。振動板11は、振動板組立体として、その金属蒸着膜側が接着材等を介してダイアフラムリング12に貼着される。
【0016】
また、セパレータリング15も、ダイアフラムリング12と同じく長円状の枠体として形成される。セパレータリング15は、電気絶縁性の合成樹脂フィルムからなる。
また、固定極板13は、振動板11が長円状であることから、同じく長円状に形成される。固定極板13には、例えばアルミニウム板が用いられ、この実施形態では、複数の音孔13aが穿設されている。尚、固定極板13の振動板11と対向する面にエレクトレット膜を貼着して、バックエレクトレット型コンデンサマイクロホンとしてもよい。
【0017】
また、絶縁座14は、電気絶縁性の合成樹脂材からなり、この実施形態では、固定極板13の背面側に所定容積の空気室16を形成するための凹部14aを備えている。空気室16内には、不織布等の図示しない音響抵抗材が収納されてよい。また、絶縁座14は、セラミック材であってもよい。
【0018】
マイクロホンユニット10は、ダイアフラムリング12を囲繞する支持枠20を含むマウント部材を介して、マイクロホン基台(図示せず)に略垂直に立設された状態でユニットカバー(図示せず)内に配置される。
ダイアフラムリング12が長円状であることから、この実施の形態において、支持枠20も長円状であり、短軸側で対向し互いに平行な一対の長辺側枠部20a,20aと、長軸側で対向する一対の円弧状枠部20b、20bとを有している。
【0019】
また、支持枠20は、ダイアフラムリング12の長軸側で対向する円弧状枠部12b、12bを、その外側から押圧する矯正手段21を有し、この矯正手段21の押圧力により、短軸側で対向する長辺側枠部12a,12aを変形させ、振動板11が撓まないように張力を調整するようになっている。
この矯正手段21は、例えば図示するように支持枠21側からダイアフラムリング12の長軸側の両端部に向けて突設され、前記長軸側両端部をダイアフラムリング12の内側方向に押圧する螺子部材21a、21a(押圧部材)を有する。より具体的には、前記螺子部材21a,21aは、前記ダイアフラムリング12の長軸側の両端部に対し、進退可能に前記支持枠20に螺合されている。また、支持枠20は、金属製、合成樹脂製のいずれであってもよいが、ダイアフラムリング12よりも高い剛性を備えていることが好ましい。
【0020】
図1図2に示したマイクロホンユニット10の振動板組立体を得るには、先ず図3(a)に平面図、図3(b)に断面図で示すように、振動板11のマザーフィルム1Mを円柱状の台座6上に配置する。マザーフィルム1Mは正円形状である。
次に、図4(a)に平面図、図4(b)に断面図で示すように、マザーフィルム1Mの全周にわたって錘7を付与してマザーフィルム1Mに均一に張力をかけた状態とする。
【0021】
次に、この状態で、図5(a)に平面図、図5(b)に断面図で示すように、マザーフィルム1M上に長円形状のダイアフラムリング12を、接着材を介して取り付ける。そして、錘7を外して、マザーフィルム1Mに対する張力を解除する。この状態では、図6(a)に平面図、図6(b)に断面図で示すように、ダイアフラムリング12の内側に配置されている振動板11となるマザーフィルム1Mの張力により、特にダイアフラムリング12の長辺側枠部12a、12aが内側に(振動板11側に)容易に変形し、これによって振動板11となるダイアフラムリング12の内側のマザーフィルム1Mの張力が、前記マザーフィルム1Mにかけられた初期張力よりも部分的に低下する。
【0022】
次に、図7に平面図で示すように、マザーフィルム1Mに対し、ダイアフラムリング12の枠周辺部分をカッターナイフ等で切り離す。
ここで、ダイアフラムリング12に振動板11が張設された振動板組立体が得られるが、前記のようにダイアフラムリング12の長軸側枠部12a,12aは内側に向けて変形した状態である。そのため、この振動板11とダイアフラムリング12とからなる振動板組立体を囲繞するように支持枠20を配置し、その長軸側両端に設けられた矯正手段21によりダイアフラムリング12の長軸側の両端部を内側方向に押圧する。
【0023】
より具体的には、支持枠20の長軸側の両端部に螺子部材21a,21aを螺入し、螺子部材21a,21aの先端をダイアフラムリング12の長軸側の両端部に向けて突設させる。
これにより螺子部材21a,21aが前記ダイアフラムリング12の長軸側の両端部(円弧状枠部12b、12b)を、図8の平面図に示すように押圧力F1によって押圧する。そして、前記押圧力F1によって生じた変位により、ダイアフラムリング12の短軸側で対向する長辺側枠部12a、12aを外側(図8のF2の方向)に開くように変形させる。
その結果、ダイアフラムリング12に張設された振動板11において、短軸が伸長する方向に引っ張られ、安定した張力が得られる。
【0024】
このように本発明に係る実施の形態によれば、長円状に形成された振動板11を長円状の枠体からなるダイアフラムリング12により保持する際、ダイアフラムリング12の長軸側の両端部(円弧状枠部12b、12b)が内側方向に押圧される。
これにより、ダイアフラムリング12の短軸側で対向する一対の長辺側枠部12a,12aが外側に開く方向に変形し、振動板11は撓み無く安定した状態となされる。
即ち、本発明に係る静電型電気音響変換器によれば、長円状の振動板の張力を安定した状態で製造することが容易であり、また、振動板が長円状であるため、携帯電話のような小型の電子製品の内部空間を効率的に利用することができ、また、振動板の有効面積が大きくなるため、感度の増大といった効果を得ることができる。
【0025】
尚、前記実施の形態においては、本発明に係る静電型電気音響変換器をコンデンサマイクロホンに適用した場合を例に説明したが、前記したようにマイクロホンに限らず、コンデンサ型のヘッドホンやスピーカの場合にも同様の構成を適用することができる。
【0026】
また、前記実施の形態において、矯正手段21における押圧部材を螺子部材21a,21aとしたが、本発明にあっては、その構成に限定されるものではなく、例えば棒状のピン部材を支持枠20側の穴に嵌合させ、その先端をダイアフラムリング12側に突出させた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0027】
10 マイクロホンユニット
11 振動板
12 ダイアフラムリング(振動板保持部材)
12a 長辺側枠部
12b 円弧状枠部
13 固定極板
14 絶縁座
15 セパレータリング
20 支持枠
21 矯正手段
21a 螺子部材(押圧部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8