特許第6132442号(P6132442)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132442
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】凍結保存用バッグの製造装置
(51)【国際特許分類】
   B31B 70/64 20170101AFI20170515BHJP
   B31B 70/99 20170101ALI20170515BHJP
   B29C 65/16 20060101ALI20170515BHJP
   A61J 3/00 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   B31B1/64 321
   B31B19/64
   B31B47/00 321
   B29C65/16
   A61J3/00 301
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-164028(P2014-164028)
(22)【出願日】2014年8月12日
(65)【公開番号】特開2016-40078(P2016-40078A)
(43)【公開日】2016年3月24日
【審査請求日】2016年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】514204761
【氏名又は名称】上田製袋株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】黒▲崎▼ 晏夫
(72)【発明者】
【氏名】上田 克彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公俊
【審査官】 植前 津子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−39872(JP,A)
【文献】 特開2004−142225(JP,A)
【文献】 特許第4279674(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B31B 70/64
B31B 70/99
B31B 150/00−150/20
B31B 160/10
A61J 3/00
B29C 65/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台(14)上に、2枚重ねにしたフッ素系樹脂シート(S1・S2)を支持するシートテーブル(18)と、シートテーブル(18)に載置したフッ素系樹脂シート(S1・S2)を押え保持するシート押圧体(19)と、赤外線レーザービームをフッ素系樹脂シート(S1・S2)へ向かって照射するレーザー装置(16)と、シートテーブル(18)とレーザー装置(16)のいずれか一方を移動操作する走査構造(17)を備えており、
シートテーブル(18)とレーザー装置(16)を走査構造(17)で相対移動させながら、フッ素系樹脂シート(S1・S2)の界面に赤外線レーザービームの照射による溶着部を形成して、前記両シート(S1・S2)を外郭線ビード(1)で一体化し、生体組織を収容する収容部(2)を形成する凍結保存用バッグの製造装置であって、
シートテーブル(18)は、面一の載置面を備えた熱伝導性に富む金属製のテーブル本体(20)を備えており、
シート押圧体(19)は、赤外線透過作用と良熱伝導作用に富む固体材料で構成される放熱体(25)と、放熱体(25)を支持する押圧枠(26)を備えており、
シート押圧体(19)は、シートテーブル(18)で開閉可能に支持されて、テーブル本体(20)に載置したフッ素系樹脂シート(S1・S2)を放熱体(25)で押圧保持する溶着姿勢と、放熱体(25)がフッ素系樹脂シート(S1・S2)から分離する待機姿勢との間で変位でき、
溶着姿勢にしたシート押圧体(19)の放熱体(25)でフッ素系樹脂シート(S1・S2)を押圧保持した状態で、レーザー装置(16)から照射された赤外線レーザービームを、放熱体(25)を介してフッ素系樹脂シート(S1・S2)の界面に作用させて、収容部(2)を形成する凍結保存用バッグの製造装置。
【請求項2】
シートテーブル(18)がテーブル本体(20)と、テーブル本体(20)を支持するテーブル台(21)とを備えており、
テーブル台(21)を基台(14)に設けた走査構造(17)で支持して、テーブル本体(20)がレーザーノズル(37)に対して変位操作可能に設けられており、
放熱体(25)が単結晶シリコン板で形成されて、テーブル本体(20)に載置したフッ素系樹脂シート(S1・S2)の全体を覆っている請求項1に記載の凍結保存用バッグの製造装置。
【請求項3】
シートテーブル(18)がテーブル本体(20)と、テーブル本体(20)を支持するテーブル台(21)とを備えており、
テーブル台(21)を基台(14)に設けた走査構造(17)で支持して、テーブル本体(20)がレーザーノズル(37)に対して変位操作可能に設けられており、
放熱体(25)が単結晶シリコン板で形成されて、テーブル本体(20)に載置したフッ素系樹脂シート(S1・S2)の溶着予定位置のみを覆っている請求項1に記載の凍結保存用バッグの製造装置。
【請求項4】
テーブル台(21)とシート押圧体(19)との間に、シート押圧体(19)を揺動開閉可能に支持するヒンジ(29)と、シート押圧体(19)を開閉操作する開閉アクチュエータ(49)が配置されており、
シート押圧体(19)を溶着姿勢にした状態において、放熱体(25)が開閉アクチュエータ(49)の閉じ操作力でフッ素系樹脂シート(S1・S2)を押圧保持している請求項1から3のいずれかひとつに記載の凍結保存用バッグの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人、動物、植物などの生体組織を凍結保存する際に使用する凍結保存用バッグの製造装置に関する。凍結保存用バッグは、2枚重ねにしたフッ素系樹脂シートを赤外線レーザービームで溶着して袋状の容器として形成してある。
【背景技術】
【0002】
この種の凍結保存用バッグの製造法は、例えば特許文献1に開示されている。そこでは、2枚重ねにした熱可塑性樹脂フィルムを、支持体と赤外線透過固体放熱材(以下、単に放熱材と称す。)とで挟み込んで加圧し、放熱材の側から赤外レーザービームを両フィルムに照射して溶着ビードを形成し、袋状の凍結保存用バッグを形成している。放熱材としては赤外レーザービームの透過を許し高い熱伝導性を有する、透明アルミナ、透明ベリリア、透明マグネシア、透明なシリコン単結晶などがある。また、同文献には熱可塑性樹脂フィルムとして、溶着が困難なフッ素系樹脂を用いることや、赤外レーザービームを水平面内で操作して、収容部と出入口とが一筆書き状に連続する溶着ビードを、熱可塑性樹脂フィルムの接触面に形成することが開示されている。
【0003】
特許文献2においては、凍結保存用バッグの熱シール装置として、2枚のポリオレフィンフィルムを重ね合わせたうえで、上下一対のシールダイス型で挟持して、両シートを熱シールする装置が開示されている。シールダイス型の中央には、縦方向のギャップ(スリット)が形成してあり、ギャップの底部分に薄い壁領域が形成してある。ギャップで分断された肉壁内のそれぞれに、冷却材を通す貫通穴が形成してある。熱シールを行う場合には、一対のシールダイス型で重ね合わせた両シートを挟持し、ギャップ内に配置したレーザーダイオードを作動させ、レーザービームを薄い壁領域に照射して両シートを熱シールする。このとき、薄い壁領域以外の部分は、貫通穴に供給される冷却材で冷やされる。得られたポリオレフィンフィルム製の袋状の容器は、液状医薬品や食料品の包装に用いられる。
【0004】
特許文献3に係るシート材の融着方法においては、金属板製の発熱部材の上面に2枚の熱融着シート材を載置し、その周縁部分を光透過性部材で押圧した状態で、レーザー光を光透過性部材の上面側から照射して発熱部材を発熱させ、発熱部材に接触している熱融着シート材を溶融させて、2枚の熱融着シート材を融着している。光透過性部材は、耐圧ガラス、石英ガラス、耐熱ガラスなどで形成してあり、その下面側に熱融着シート材を押え付けるための押圧部が突設してある。得られたバッグは、輸液バッグ、栄養剤バッグ、血液バッグ等の医療用容器として使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2003−039843号(11ページ実施例1、図3
【特許文献2】特開平11−227050号公報(段落番号0010、図1
【特許文献3】特開2004−142225号公報(段落番号0056、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の凍結保存用バッグにおいては、2枚重ねにしたフッ素系樹脂などの熱可塑性樹脂フィルムを、支持体と放熱材とで挟み込んで加圧し、放熱材の側から赤外レーザービームを両フィルムに照射して、生体組織が充填される収容部と出入口とを一筆書き状に形成している。しかし、凍結保存用バッグの形成手法に関して実験装置で検証が行われているものの、凍結保存用バッグの量産化を実現してコストを削減するには課題が幾つか存在する。
【0007】
特許文献2の熱シール装置は、ギャップ内に配置したレーザーダイオードからレーザービームを照射して、2枚のポリオレフィンフィルムシートを熱シールする。そのため、赤外レーザービームを水平面内で操作する特許文献1の溶着方法とは異なり、生体組織を充填するための収容部と出入口を一筆書き状に連続して形成することができず、袋状の凍結保存用バッグを形成するのに多くの手間が掛かるのを避けられない。シールダイス型を、収容部と出入口の外形線に沿って一筆書き状に構成すると、赤外レーザービームを照射するだけで袋状のバッグを形成できるが、収容部および出入口の形状や大きさが異なるごとに、専用のシールダイス型を用意する必要があるのでコストが嵩むうえ、袋状バッグの形状やサイズを変更する際の即応性に欠ける。
【0008】
特許文献3のシート材の融着方法においては、長方形状に形成された熱融着シート材の短辺に沿ってレーザー光を操作させ、さらに熱融着シート材を支持する発熱部材を熱融着シート材の長辺に沿って送り移動させてバッグを形成する。発熱部材の送り移動量は、レーザー光のビーム径に等しく設定してある。得られたバッグは、輸液などを収容する収容部と出入口を除く周囲部分(耳部分)の全てが面上に融着されるので、頑丈なバッグが得られる。しかし、発熱部材の送り量がレーザー光のビーム径(0.5〜3.0mm)に等しいので、1個のバッグを形成するのに多くの時間を要し、バッグの加工コストが高くつく。
【0009】
本発明の目的は、加熱加工が難しいフッ素系樹脂を素材とする凍結保存用バッグを製造するについて、2枚重ねにした樹脂シートの溶着作業を自動的にしかも的確に行って、凍結保存用バッグを量産化し低コスト化できる凍結保存用バッグの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る凍結保存用バッグの製造装置は、図2に示すように、基台14上に、2枚重ねにしたフッ素系樹脂シートS1・S2を支持するシートテーブル18と、シートテーブル18に載置したフッ素系樹脂シートS1・S2を押え保持するシート押圧体19と、赤外線レーザービームをフッ素系樹脂シートS1・S2へ向かって照射するレーザー装置16と、シートテーブル18とレーザー装置16のいずれか一方を移動操作する走査構造17を備えている。シートテーブル18とレーザー装置16を走査構造17で相対移動させながら、フッ素系樹脂シートS1・S2の界面に赤外線レーザービームの照射による溶着部を形成して、前記両シートS1・S2を外郭線ビード1(図6)で一体化し、生体組織を収容する収容部2と、収容部2に連続する出入口3とを形成する製造装置を前提とする。シートテーブル18(図1)は、面一の載置面を備えた熱伝導性に富む金属製のテーブル本体20を備えている。シート押圧体19は、赤外線透過作用と良熱伝導作用に富む固体材料で構成される放熱体25と、放熱体25を支持する押圧枠26を備えている。シート押圧体19は、シートテーブル18で開閉可能に支持されて、テーブル本体20に載置したフッ素系樹脂シートS1・S2を放熱体25で押圧保持する溶着姿勢と、放熱体25がフッ素系樹脂シートS1・S2から分離する待機姿勢との間を変位できる。溶着姿勢にしたシート押圧体19の放熱体25でフッ素系樹脂シートS1・S2を押圧保持した状態で、レーザー装置16から照射された赤外線レーザービームを、放熱体25を介してフッ素系樹脂シートS1・S2の界面に作用させて、収容部2を形成する。
【0011】
シートテーブル18はテーブル本体20と、テーブル本体20を支持するテーブル台21とを備えている。テーブル台21を基台14に設けた走査構造17で支持して、テーブル本体20をレーザーノズル37に対して変位操作可能とする。図3に示すように、放熱体25は単結晶シリコン板で形成されて、テーブル本体20に載置したフッ素系樹脂シートS1・S2の全体を覆っている。
【0012】
シートテーブル18はテーブル本体20と、テーブル本体20を支持するテーブル台21とを備えている。テーブル台21を基台14に設けた走査構造17で支持して、テーブル本体20をレーザーノズル37に対して変位操作可能とする。図8に示すように、放熱体25は単結晶シリコン板で形成されて、テーブル本体20に載置したフッ素系樹脂シートS1・S2の溶着予定位置のみを覆っている。
【0013】
図10に示すように、テーブル台21とシート押圧体19との間に、シート押圧体19を揺動開閉可能に支持するヒンジ29と、シート押圧体19を開閉操作する開閉アクチュエータ49を配置する。シート押圧体19を溶着姿勢にした状態において、放熱体25が開閉アクチュエータ49の閉じ操作力でフッ素系樹脂シートS1・S2を押圧保持する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る凍結保存用バッグの製造装置は、シートテーブル18とシート押圧体19とレーザー装置16と、走査構造17などを備えている。凍結保存用バッグの製造時には、シートテーブル18とレーザー装置16を走査構造17で相対移動させながら、2枚重ねのフッ素系樹脂シートS1・S2の界面にレーザー装置16で赤外線レーザービームを照射して、前記両シートS1・S2を外郭線ビード1で一体化して、生体組織を収容する収容部2を形成する。また、シートテーブル18に面一の載置面を備えた熱伝導性に富む金属製のテーブル本体20を設けて、その表面にフッ素系樹脂シートS1・S2を載置するようにした。さらに、赤外線透過作用と熱伝導作用に富む固体材料で構成される放熱体25と、押圧枠26とでシート押圧体19を構成して、溶着姿勢にしたシート押圧体19の放熱体25で2枚重ねのフッ素系樹脂シートS1・S2を押圧保持して、赤外線レーザービームをフッ素系樹脂シートS1・S2の界面に照射するようにした。
【0015】
上記のように構成した凍結保存用バッグの製造装置によれば、走査構造17でシートテーブル18とレーザー装置16を相対移動させながら、赤外線レーザービームを照射して外郭線ビード1を形成することにより、収容部2を自動的に形成することができる。また、外郭線ビード1を形成する過程では、フッ素系樹脂シートS1・S2の表面に照射したレーザー吸収により、照射表面近傍で発生した熱を、熱伝導性に富む放熱体25で速やかに拡散冷却することにより、溶着痕(熱損傷)がシート表面に及ぶのを防止して、フッ素系樹脂シートS1・S2の界面にのみ外郭線ビード1が形成されるようにした。こうした凍結保存用バッグの製造装置によれば、2枚重ねにしたフッ素系樹脂シートS1・S2の溶着作業を自動的にしかも的確に行えるので、作業者はフッ素系樹脂シートS1・S2のセットと、溶着されたバッグブランクの取出しを行うだけで凍結保存用バッグを量産できる。さらに、凍結保存用バッグの量産化を実現することにより、加熱加工が難しいフッ素系樹脂シートS1・S2を素材とする凍結保存用バッグを低コスト化して、広く普及させることができる。
【0016】
レーザー装置16に比べて小形で軽量のテーブル台21を走査構造17で支持して、テーブル本体20をレーザーノズル37に対して変位操作するので、走査構造17を簡素化できる。また、フッ素系樹脂シートS1・S2を赤外線レーザービームに対して変位させて、両シートS1・S2の界面に外郭線ビード1を自動的に形成できる。このとき、単結晶シリコン板で形成した放熱体25で、フッ素系樹脂シートS1・S2の全体を覆うと、収容部2や出入口3の外形形状やサイズが異なる凍結保存用バッグを製造する場合であっても、シート押圧体19をそのまま使用できる。従って、段取り換えの手間を省いて、外形形状やサイズが異なる凍結保存用バッグを速やかに製造でき、その分だけ凍結保存用バッグを低コスト化できる。さらに、フッ素系樹脂シートS1・S2の全体を、熱伝導性特性に優れた放熱体25で覆うので、外郭線ビード1を形成する際の溶着熱を放熱体25で効果的に吸収し拡散させることができ、外郭線ビード1に臨むフッ素系樹脂シートS1・S2の表面が過熱されるのを確実に防止できる。
【0017】
単結晶シリコン板を素材とする放熱体25で、テーブル本体20に載置したフッ素系樹脂シートS1・S2の溶着予定位置のみを覆うと、平面視における押圧枠26の面積を放熱体25の面積より十分に大きくできる。従って、面積が増えた分だけシート押圧体19の重量を増強して、テーブル本体20に載置したフッ素系樹脂シートS1・S2をシート押圧体19でテーブル本体20に強固に密着固定できる。また、円板状に形成した放熱体25に比べて、放熱体25の上下面に施される鏡面加工に要する手間を減少して、その分だけ放熱体25の加工コストを削減できる。面積が小さい放熱体25は、破損事故の発生度合を低減して耐久性を向上できる利点もある。
【0018】
テーブル台21とシート押圧体19との間に、ヒンジ29と開閉アクチュエータ49を配置すると、開閉アクチュエータ49の閉じ操作力を利用して、放熱体25でフッ素系樹脂シートS1・S2を確りと押圧できるので、両樹脂シートS1・S2の溶着をさらに的確に行って外郭線ビード1の溶着強度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る凍結保存用バッグの製造装置の縦断側面図である。
図2】凍結保存用バッグの製造装置の概略正面図である。
図3】凍結保存用バッグの製造装置の平面図である。
図4】操作構造の移動動作を示す側面図である。
図5】溶着ビードの形成状況を示す断面図である。
図6】製造された凍結保存用バッグの正面図である。
図7図6におけるA−A線断面図である。
図8】シート押圧体の別の実施例を示す平面図である。
図9図8におけるB−B線断面図である。
図10】シート押圧体の開閉構造の別の実施例を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1ないし図7は、本発明に係る凍結保存用バッグの製造装置の実施例を示す。なお、本発明における前後、左右、上下とは、図2および図3に示す交差矢印と、各矢印の近傍に表記した前後、左右、上下の表示に従う。本発明に係る製造装置においては、例えば図6に示す構造の凍結保存用バッグを製造でき、製造装置の説明を行う前に凍結保存用バッグの構造を簡単に説明しておく。
【0021】
図6および図7において、凍結保存用バッグは、2枚重ねにしたフッ素系樹脂シートS1・S2に赤外線レーザービームを照射して、前記両シートS1・S2の界面に一筆書き状の外郭線ビード1を形成し、外郭線ビード1で囲まれた両シートS1・S2の間に生体組織を収容する収容部2と、収容部2に連続する出入口3を形成してなる。収容部2を区画する外郭線ビード1は、上下一対の平行な上ビード部4および下ビード部5と、左右一対の平行な左ビード部6および右ビード部7と、各ビード部4〜7の隣接隅部に形成される4個の隅ビード部8とからなり、これにより収容部2は4隅が角落としされた縦長四角形状に形成してある。出入口3は上ビード部4の左右中央に形成してある。隅ビード部8を設けることにより、収容部2に直角の内隅が形成されるのを解消して、収容部2に収容した生体組織を余すところなく取出すことができる。
【0022】
フッ素系樹脂シートS1・S2は、完全フッ素化樹脂と、部分フッ素化樹脂と、フッ素化樹脂共重合体のいずれか一つを形成素材にして、赤外線レーザーの透過を許す透明シートとして形成してある。具体的な形成素材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素系樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)などがある。この実施例では、フッ素系樹脂シートS1・S2を、厚みが100μmの四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体製のシートで形成して、両シートS1・S2に赤外線レーザービームを照射して凍結保存用バッグを形成するようにした。
【0023】
図2において凍結保存用バッグの製造装置は、基台14上にシート固定構造15と、シート固定構造15で支持した2枚重ねのフッ素系樹脂シートS1・S2へ向かって、赤外線レーザービームを照射するレーザー装置16と、シート固定構造15を赤外線レーザービームに対して移動操作する走査構造17などで構成してある。
【0024】
シート固定構造15は、2枚重ねにしたフッ素系樹脂シートS1・S2を支持する、前後に長い長方形状のシートテーブル18と、シートテーブル18に載置したフッ素系樹脂シートS1・S2を押え保持するシート押圧体19とで構成する。シートテーブル18は、熱伝導性に富むアルミニウム製のテーブル本体20と、テーブル本体20を固定支持するテーブル台21とを備えており、テーブル台21の後端の左右に、後述するヒンジ29を装着するためのブラケット22が上向きに突設してある(図3参照)。フッ素系樹脂シートS1・S2が載置されるテーブル本体20の上面(載置面)は面一の水平面として仕上げてある。
【0025】
シート押圧体19は、赤外線透過作用と良熱伝導作用に富む固体材料で構成される放熱体25と、放熱体25を支持する鋼材製の押圧枠26とを備えている。放熱体25を形成する固体材料としては、炭酸ガスレーザーを用いて溶着処理を行う関係上、赤外線レーザーに対して透明であるセレン化亜鉛、硫化亜鉛、シリコン、ゲルマニウムなどの赤外線透過放熱体のいずれかを適用できるが、この実施例では単結晶シリコン円板で放熱体25を形成した。図3に示すように、押圧枠26はシートテーブル18より広幅の八角形状の金属枠体からなり、その中央に円形のレーザー窓27が開口され、同窓27の下面側に円形の装着座28が形成してある。放熱体25は装着座28に嵌込み装着されて接着剤で固定してある。
【0026】
押圧枠26の後部とテーブル台21のブラケット22とを、左右一対のヒンジ29で連結することにより、シート押圧体19の全体はシートテーブル18で上下に揺動開閉可能に支持される。シート押圧体19は、図3および図4に示す溶着姿勢と、図1に示す待機姿勢との間で変位操作でき、シート押圧体19を溶着姿勢にした状態では、放熱体25の一部がシートテーブル18の左右側縁からはみ出している(図3参照)。シート押圧体19の開閉操作を容易化するために、押圧枠26の前部中央にハンドル30が設けてある。また、シート押圧体19の後部中央に設けたゴムブロック31を、ブラケット22に固定したストッパー32で受止めることにより、待機姿勢に開放操作したシート押圧体19を、後傾姿勢のままで位置保持できるようにしている。この状態で、2枚重ねにしたフッ素系樹脂シートS1・S2をテーブル本体20に載置し、あるいは溶着処理が終わった凍結保存用バッグのブランク体をテーブル本体20から取り出すことができる。
【0027】
レーザー装置16は市販されている炭酸ガスレーザーユニットであって、左右に長い四角箱状のケースの側端から照射管34を突設し、ケース内部の共振器から出力されたレーザー光を、照射管34の突端の内部に配置した変向ミラー35で下向きに変向したのち、レーザーヘッドの内部に設けた集光レンズ36で絞って、レーザーノズル37から照射する。レーザー装置16は、基台14上に固定したレーザー台38と、レーザー台38に設けた高さ調整構造39で支持されている。この状態のレーザーノズル37は、シート固定構造15の上方に位置しており、その中心は、溶着姿勢にした放熱体25の中心を通る垂直線上に位置している。高さ調整構造39は、複数のリンク対をX字状に組んで構成してあり、リンク対の上下中央に配置した調整ねじ軸40を回動操作することにより、X字状のリンク対の交差角度を大小に変化させて、レーザー装置16の上下高さを調整することができる。高さ調整構造39による高さ調整は最初の1回だけでよく、例えば、レーザー装置16を使用するごとに高さ調整を行う必要はない。
【0028】
走査構造17は、基台14上に固定されるY軸スライダー43と、Y軸スライダー43の移動テーブル45に固定されるX軸スライダー44で、XYステージとして構成してある。Y軸スライダー43およびX軸スライダー44は、それぞれ市販されているボールねじ式の電動スライダー(アクチュエーター)からなり、互いに直交する状態で配置してある。X軸スライダー44の移動テーブル46に、シートテーブル18のテーブル台21が固定してある。このように、テーブル台21を基台14に設けたXYステージで支持することにより、テーブル本体20をレーザーノズル37に対して自在に変位操作できる。これにより、Y軸スライダー43およびX軸スライダー44の移動テーブル45・46を、予め設定されたXY座標に従って移動操作しながら、フッ素系樹脂シートS1・S2に赤外線レーザービームを照射することにより、両シートS1・S2の界面に任意形状の溶着ビードを形成することができる。図2において符号47は、レーザー装置16および走査構造17の作動状態を制御する制御装置である。なお、凍結保存用バッグを製造する過程で、レーザー装置16から放出される赤外線レーザーが漏洩するおそれがあり、こうした漏洩レーザー光による被ばくを防ぐために、製造装置全体の外面空間は、図2に想像線で示すように防護壁で覆われている。
【0029】
以下に凍結保存用バッグの製造手順を説明する。レーザー装置16は、赤外線レーザービームが2枚重ねにしたフッ素系樹脂シートS1・S2の界面で焦点を結ぶように、その集光レンズ36の焦点調整を予め行っておく。図1に示すようにシート押圧体19を待機姿勢に開放操作したのち、テーブル本体20の中央にフッ素系樹脂シートS1・S2を載置する。このとき、その長辺部がY軸スライダー43の中心と平行になり、かつ、フッ素系樹脂シートS1・S2の中心がテーブル本体20の中心と一致するように樹脂シートS1・S2を位置決めしたうえで、シート押圧体19を下降揺動させて溶着姿勢にする。この状態では、押圧枠26および放熱体25の重量によって、フッ素系樹脂シートS1・S2がテーブル本体20に密着している。
【0030】
上記の溶着準備作業が終了したら、図4および図5に示すように、走査構造17を作動させて溶着開始位置を赤外線レーザービームの照射位置に一致させ、レーザー装置16と走査構造17を同時に作動させながら、フッ素系樹脂シートS1・S2の界面に外郭線ビード1を一筆書き状に形成する。このとき、放熱体25は赤外線レーザーを透過させるので、自身が赤外線レーザーを吸収して発熱することはない。また、外郭線ビード1を形成する際に、ビード形成位置の周辺に溶着熱が伝導するが、フッ素系樹脂シートS1の表面に達したレーザーエネルギーが樹脂表面の近傍で吸収されて発生した熱は、熱伝導性に優れた放熱体25に吸収されて拡散される。また、フッ素系樹脂S1・S2の接合面まで達したレーザーエネルギーは、熱エネルギーに変換されて樹脂を溶融し溶着に寄与する。これは、フッ素系樹脂は赤外吸収が大きいため、レーザーエネルギーが樹脂深くまでは浸透しないからである。従って、フッ素系樹脂シートS1・S2は、図5に示すように両者の界面のみが溶着され、フッ素系樹脂シートS1・S2の表面状態を滑らかな状態に保持できる。赤外線レーザービームを溶着開始位置から溶着終了位置まで照射することにより、図6に示すように、外郭線ビード1で囲まれた両シートS1・S2の間に生体組織を収容する収容部2と、収容部2に連続する出入口3を形成することができる。
【0031】
上記のように赤外線レーザーによる溶着作業が終了したら、シート押圧体19を待機姿勢に開放操作して、テーブル本体20上のバッグのブランク体を取出す。以後、上記の作業を繰返し行うことにより、バッグのブランク体を大量に製造することができる。得られたバッグのブランク体は、その周囲部分を図6に想像線で示す切断線の通りに切断することにより、整形された凍結保存用バッグを得ることができる。
【0032】
以上のように構成した凍結保存用バッグの製造装置によれば、加熱加工が難しいフッ素系樹脂を素材とする凍結保存用バッグを製造する際に、フッ素系樹脂シートS1・S2の載置とバッグのブランク体の取り出しを除く一連の溶着作業を、自動的にしかも的確に行なうことができる。また、単結晶シリコン板で形成した放熱体25で、テーブル本体20に載置したフッ素系樹脂シートS1・S2の全体を覆うことにより、外郭線ビード1を形成する際の溶着熱を放熱体25で効果的に吸収して、外郭線ビード1の真上や真下に臨むフッ素系樹脂シートS1・S2の表面が過熱されるのを確実に防止できる。従って、赤外線レーザーを用いた溶着作業に伴って、外郭線ビード1の近傍の樹脂シートが変質して物理的特性が損なわれるのを防止でき、過酷な凍結保存に対して充分な耐性を備えた凍結保存用バッグを得ることができる。また、得られた凍結保存用バッグは、樹脂表面に損傷がなくスムーズであるので、医療用のバッグに適している。
【0033】
レーザー装置16に比べて小形で軽量のテーブル台21を走査構造17で支持して、テーブル本体20をレーザーノズル37に対して変位操作するので、走査構造17を簡素化できる。また、円板状の放熱体25で、テーブル本体20に載置したフッ素系樹脂シートS1・S2の全体を覆うので、円形の放熱体25の任意の位置に赤外線レーザービームを照射して外郭線ビード1を形成できる。従って、収容部2や出入口3の外形形状やサイズが異なる場合であっても、シート押圧体19をそのまま使用して、凍結保存用バッグを製造することができる。従って、シート押圧体19を交換する手間を省いて、外形形状やサイズが異なる凍結保存用バッグを速やかに製造でき、その分だけ凍結保存用バッグを低コスト化できる。
【0034】
図8および図9は、シート押圧体19の別の実施例を示す。そこでは、放熱体25を外郭線ビード1の外形形状と同形に形成して、テーブル本体20に載置したフッ素系樹脂シートS1・S2の溶着予定位置のみを放熱体25で覆うようにした。放熱体25の幅寸法は、外郭線ビード1の幅寸法より十分に大きく設定してある。他は、図1から図4で説明したシート押圧体19と同じであるので、同じ部材に同じ符号を付して、その説明を省略する。上記のように、フッ素系樹脂シートS1・S2の溶着予定位置のみを放熱体25で覆うと、平面視における押圧枠26の面積を放熱体25の面積より十分に大きくできるので、その分だけシート押圧体19の重量を増強して、テーブル本体20に載置したフッ素系樹脂シートS1・S2をシート押圧体19でテーブル本体20に強固に密着固定できる。また、円板状に形成した放熱体25に比べて、放熱体25の上下面に施される鏡面加工に要する手間を減少して、その分だけ放熱体25のコストを削減できる。さらに、面積が小さい放熱体25は破損事故の発生度合を低減して、耐久性を向上できる利点もある。
【0035】
図10は、シート押圧体19の開閉構造の別の実施例を示す。そこでは、テーブル台21とシート押圧体19とをヒンジ29で開閉可能に連結したうえで、テーブル台21とシート押圧体19との間に2個のエアーシリンダー(開閉アクチュエータ)49を設けて、シート押圧体19を自動的に開閉操作できるようにした。詳しくは、テーブル台21のブラケット22の後部左右にシリンダーブラケット50を固定し、さらに押圧枠26の後部左右に連結腕51を固定して、これら両者50・51にエアーシリンダー49を連結した。エアーシリンダー49はダブルアクション型のシリンダーからなり、シート押圧体19をゆっくりと上昇揺動操作できるのはもちろん、シート押圧体19をゆっくりと下降揺動操作して、テーブル本体20に載置したフッ素系樹脂シートS1・S2をテーブル本体20に押付けることができる。また、シート押圧体19を溶着姿勢にした状態において、エアーシリンダー49の閉じ操作力を放熱体25に作用させ続けることにより、フッ素系樹脂シートS1・S2を強固に押圧保持することができる。従って、押圧枠26が例えば比重の小さなアルミニウムで形成してある場合でも、フッ素系樹脂シートS1・S2を確実に押圧固定できる。開閉アクチュエータ49としてはエアーシリンダー以外に、モーターと、モーターで回転駆動されるねじ軸と、雌ねじ体とからなる開閉構造を適用してもよい。
【0036】
上記のように、シート押圧体19をエアーシリンダー49で自動的に開閉操作すると、より少ない手間で凍結保存用バッグを製造できる。さらに、テーブル本体20にフッ素系樹脂シートS1・S2を載置する作業と、バッグのブランク体を取出す作業をロボットハンドで行うようにすると、一連の作業を完全に自動化して、凍結保存用バッグを効率よく大量生産できる。
【0037】
上記の実施例では、それぞれ電動スライダーで構成したY軸スライダー43とX軸スライダー44で走査構造17を構成したがその必要はない。例えば、電動シリンダーやリニアアクチュエーターなどを操作要素にして走査構造17を構成することができる。必要があれば、走査構造17にレーザー装置16を搭載して、静止しているフッ素系樹脂シートS1・S2に外郭線ビード1を形成することができる。テーブル本体20に面積が大きなフッ素系樹脂シートS1・S2を載置しておき、複数の外郭線ビード1を形成したのち、個々のバッグのブランク体を打抜いて、整形された凍結保存用バッグを得ることができる。凍結保存用バッグは、2枚重ねにしたフッ素系樹脂シートS1・S2に、一筆書き状の外郭線ビード1を形成して構成する必要はなく、交差する複数の外郭線ビード1を形成して構成してあってもよい。
【0038】
また、上記の実施例では、シート押圧体19をテーブル本体20に対して揺動開閉したがその必要はない。例えば、テーブル本体20に対して水平揺動できるホルダーを設けておき、このホルダーに設けたガイド軸でシート押圧体19を上下動可能に支持して、シート押圧体19をテーブル本体20に対して溶着姿勢と待機姿勢との間で変位できるようにすることができる。その場合には、シート押圧体19とホルダーとの間に設けたアクチュエータで、シート押圧体19を押圧して溶着姿勢に保持するとよい。ヒンジ29は、急激な下降揺動を防ぐダンパー内蔵のヒンジで構成することができる。
【符号の説明】
【0039】
15 シート固定構造
16 レーザー装置
17 走査構造
18 シートテーブル
19 シート押圧体
20 テーブル本体
25 放熱体
26 押圧枠
36 集光レンズ
37 レーザーノズル
43 Y軸スライダー
44 X軸スライダー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10