(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132480
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】変性ウレタン樹脂、その水分散体、及び該水分散体を含む水性塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 18/38 20060101AFI20170515BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20170515BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20170515BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
C08G18/38 063
C08G18/00 C
C09D175/04
C09D5/02
【請求項の数】7
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2012-129258(P2012-129258)
(22)【出願日】2012年6月6日
(65)【公開番号】特開2013-253159(P2013-253159A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(72)【発明者】
【氏名】対馬 伸司
(72)【発明者】
【氏名】坪内 剛士
【審査官】
前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−527289(JP,A)
【文献】
特開2009−108173(JP,A)
【文献】
英国特許出願公開第01193709(GB,A)
【文献】
米国特許第02492334(US,A)
【文献】
特開2013−035972(JP,A)
【文献】
米国特許第3454669(US,A)
【文献】
米国特許第3651140(US,A)
【文献】
米国特許第3647875(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00− 18/87
C08L 1/00−101/16
C09D 1/00−201/10
C09J 1/00−201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する有機基、チオエーテル基及びカルボニル基を有する化合物(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)と、1分子中に水酸基を2個以上有する化合物であって、低分子量グリコール類、高分子量グリコール類およびポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類からなる群より選ばれる少なくとも一種のポリオール化合物(C)とを反応させてなる、カルボニル基と、チオエーテル
基とを含有する変性ウレタン樹脂(X)であって、
化合物(A)が、水酸基を有するメルカプト化合物または1分子中に2個以上のメルカプト基を有するメルカプト化合物である化合物(D)と、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドとをマイケル付加反応させてなる化合物であり且つ一般式(1)で表わされる化合物(A2−1)、ならびに前記化合物(D)と、α,β−不飽和カルボニル化合物(E)とをマイケル付加反応させてなる化合物であり且つ一般式(2)で表わされる化合物(A2−2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、変性ウレタン樹脂(X)。
【化1】
(式中、R
1は水酸基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する有機基、R
2は水素原子又はメチル基、mは1〜5の整数を表わす)
【化2】
(式中、R
3は水酸基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する有機基、R
5及びR
6は、水素原子又は炭素原子数1〜14の有機基を表わす。R
4は水素原子又は炭素原子数1〜3の有機基であり、R
7は炭素原子数1〜8の有機基である。但し、R
4が有機基の場合においてR
4とR
7は、互いに結合して炭素原子数2〜16の環構造を形成していてもよい。nは1〜5の整数を表わす)
【請求項2】
変性ウレタン樹脂(X)のカルボニル基濃度が樹脂固形分に基づいて0.1〜2.5mol/kgの範囲である請求項1に記載の変性ウレタン樹脂(X)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の変性ウレタン樹脂(X)の水分散体。
【請求項4】
請求項3に記載の変性ウレタン樹脂(X)の水分散体と、該変性ウレタン樹脂(X)中のカルボニル基と反応しうる官能基を1分子中に2個以上含有する硬化剤とを含む水性塗料組成物。
【請求項5】
硬化剤がカルボニル基と反応しうる官能基として、ヒドラジド基及び/又はセミカルバジド基を含有し、変性ウレタン樹脂(X)中のカルボニル基1モルに対して、該硬化剤中のヒドラジド基とセミカルバジド基との合計が0.01〜2モルの範囲内である請求項4に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
さらに、水性アニオン性樹脂を含有する請求項4又は5に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
請求項3に記載の変性ウレタン樹脂(X)の水分散体の製造方法であって、ノニオン性又はアニオン性のポリオキシアルキレン化合物に由来する乳化成分の存在下に該変性ウレタン樹脂(X)を水性媒体中に分散させるか、又はポリオキシアルキレン基及び/又はアニオン性基を化学結合を介して導入した変性ウレタン樹脂(X)を水性媒体中に分散させることを特徴とする変性ウレタン樹脂(X)の水分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボニル基と、チオエーテル基及び/又はチオウレタン基とを含有する変性ウレタン樹脂、その水分散体、及び該水分散体を含む水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
常温硬化塗料の分野において、主剤と硬化剤を混合して使用する二液型から作業性に優れる一液型への転換の要望が高まっている。また、近年大気中へ揮発した有機溶剤による環境への悪影響が問題となっており、希釈剤として有機溶剤を用いる溶剤系塗料から水を主体に用いる水性塗料への転換の要望が高まっている。このような要望を実現すべく、一液型水性常温硬化塗料が検討されており、そこに適用できる樹脂組成物が特許文献1に提案されている。この樹脂組成物はカルボニル基含有アクリル樹脂エマルション、及び該カルボニル基との反応が可能なヒドラジド硬化剤からなり、架橋性を持たない従来からのラッカー型の水性塗料よりも大幅に耐水性が向上する。しかし、この樹脂組成物を使用した外装上塗り塗料は基材への塗膜の付着性や酸性雨に対する塗膜の耐久性(耐酸性)が不十分な場合があった。また、この樹脂組成物を使用した下塗り塗料は塗膜の耐水性を長期間維持することが困難な場合があった。そこで付着性、耐水性、耐酸性に優れるウレタン樹脂を用いた一液型水性常温硬化塗料が検討されるようになってきた。
【0003】
特許文献2にはカルボニル基を含有した一液型水性常温硬化ポリウレタン組成物が提案されている。該ポリウレタンは、マイケル付加反応により得られたカルボニル基と3級アミノ基を含有するジオールを原料として用いて製造される。
【0004】
特許文献3には末端イソシアネート基含有プレポリマーとカルボニル基を含有するマイケル付加反応生成物との反応により得られるカルボニル基含有ポリウレタンが開示されている。該マイケル付加反応生成物の製造においては、1級アミノ基を複数個有するアミン化合物を原料として用いている。
【0005】
特許文献2または特許文献3におけるカルボニル基含有ポリウレタンは、上記した原料に由来する塩基性のアミノ基を含有しているために、外装用上塗り又は下塗り塗料として使用した場合、酸性雨による中和が起こり、塗膜のふくれや剥離等の異常が発生することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−157775号公報
【特許文献2】特開2005−272618号公報
【特許文献3】特開2006−28343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐水性と耐酸性に優れた塗膜を形成できる、常温硬化性、付着性及び貯蔵安定性に優れた一液型水性塗料組成物、及び該水性塗料組成物に適用できる樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、水酸基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する有機基、チオエーテル基及びカルボニル基を有する化合物(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)と、ポリオール化合物(C)とを反応させてなる、カルボニル基と、チオエーテル
基とを含有する変性ウレタン樹脂(X)を使用することによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の項からなる。
項1.水酸基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する有機基、チオエーテル基及びカルボニル基を有する化合物(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)と、1分子中に水酸基を2個以上有する化合物であって、低分子量グリコール類、高分子量グリコール類およびポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類からなる群より選ばれる少なくとも一種のポリオール化合物(C)とを反応させてなる、カルボニル基と、チオエーテル
基とを含有する変性ウレタン樹脂(X)であって、
化合物(A)が、水酸基を有するメルカプト化合物または1分子中に2個以上のメルカプト基を有するメルカプト化合物である化合物(D)と、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドとをマイケル付加反応させてなる化合物であり且つ一般式(1)で表わされる化合物(A2−1)、ならびに前記化合物(D)と、α,β−不飽和カルボニル化合物(E)とをマイケル付加反応させてなる化合物であり且つ一般式(2)で表わされる化合物(A2−2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、変性ウレタン樹脂(X)。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R
1は
水酸基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する有機基、R
2は水素原子又はメチル基、mは1〜5の整数を表わす)
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R
3は水酸基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する有機基、R
5及びR
6は、水素原子又は炭素原子数1〜14の有機基を表わす。R
4は水素原子又は炭素原子数1〜3の有機基であり、R
7は炭素原子数1〜8の有機基である。但し、R
4が有機基の場合においてR
4とR
7は、互いに結合して炭素原子数2〜16の環構造を形成していてもよい。nは1〜5の整数を表わす)
項2.変性ウレタン樹脂(X)のカルボニル基濃度が樹脂固形分に基づいて0.1〜2.5mol/kgの範囲である項1に記載の変性ウレタン樹脂(X)。
項3.項1又は2に記載の変性ウレタン樹脂(X)の水分散体。
項4.項3に記載の変性ウレタン樹脂(X)の水分散体と、該変性ウレタン樹脂(X)中のカルボニル基と反応しうる官能基を1分子中に2個以上含有する硬化剤とを含む水性塗料組成物。
項5.硬化剤がカルボニル基と反応しうる官能基として、ヒドラジド基及び/又はセミカルバジド基を含有し、変性ウレタン樹脂(X)中のカルボニル基1モルに対して、該硬化剤中のヒドラジド基とセミカルバジド基との合計が0.01〜2モルの範囲内である項4に記載の水性塗料組成物。
項6.さらに、水性アニオン性樹脂を含有する項
4又は
5に記載の水性塗料組成物。
項7.項
3に記載の変性ウレタン樹脂(X)の水分散体の製造方法であって、ノニオン性又はアニオン性のポリオキシアルキレン化合物に由来する乳化成分の存在下に該変性ウレタン樹脂(X)を水性媒体中に分散させるか、又はポリオキシアルキレン基及び/又はアニオン性基を化学結合を介して導入した変性ウレタン樹脂(X)を水性媒体中に分散させることを特徴とする変性ウレタン樹脂(X)の水分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカルボニル基と、チオエーテル基及び/又はチオウレタン基とを含有する変性ウレタン樹脂(X)は、該チオエーテル基の硫黄原子が酸性成分によるプロトン化を受け難いために、耐酸性に優れた塗膜を得ることができる。さらに、本発明の変性ウレタン樹脂(X)の水分散体を含む水性塗料組成物は、水性アニオン性樹脂を混合した場合でも、粘度の増大やゲル化といった異常を起こし難いために、該水性アニオン性樹脂を用いた粘度調整や物性調整を容易に行うことができ、貯蔵安定性においても優れている。また、本発明の変性ウレタン樹脂(X)の水分散体を含む水性塗料組成物は、該樹脂に含まれるカルボニル基と硬化剤が反応して架橋構造を有する塗膜を得ることが可能であり、常温硬化性に優れる。これらにより架橋後の塗膜は基材に対する付着性に優れると共に、外部からの水や酸性成分等の塗膜劣化因子の浸透を防ぎ、耐水性や耐酸性に優れた塗膜性能を長期間維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明におけるカルボニル基と、チオエーテル
基とを含有する変性ウレタン樹脂(X)は、水酸基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する有機基、チオエーテル基及びカルボニル基を有する化合物(A)と、化合物(B)とポリオール化合物(C)とを反応させて得ることができる。
【0015】
化合物(A)
上記化合物(A)は
、水酸基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する有機基、チオエーテル基及びカルボニル基を有する化合
物であり、上記化合物(
A)は、一般式(1)で表わされる化合物(A2−1)及び一般式(2)で表わされる化合物(A2−2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0016】
上記化合物(A
)と併用して、メルカプト基及びカルボニル基を有し、チオエーテル基を有さない化合物であ
って、例えば、3−メルカプト−2−ブタノン、3−メルカプト−2−ペンタノン、8−メルカプトメントン等を
使用することができる。
【0017】
化合物(A2−1)は、イソシアネート基と反応性を有する基及びメルカプト基を有する化合物(D)と、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドとをマイケル付加反応させることより得られる。上記化合物(D)に含まれるイソシアネート基と反応性を有する基としては、例えば、水酸基、メルカプト基等を挙げることができる。
【0018】
上記化合物(D)の具体例としては、例えば、2−メルカプトエタノール、α−チオグリセロール、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、3−メルカプト−1−プロパノール、1,4−ジメルカプト−2,3−ブタンジオール、3−メルカプト−2−ブタノール等の水酸基を有するメルカプト化合物;エタンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ジメルカプトヘキサン、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、市販品として、ポリエーテル鎖の末端基にメルカプト基を導入した「ポリチオールQE−340M」(東レ・ファインケミカル社)、カップキュアWR−6(コグニス社)、カップキュア3−800(コグニス社)、ビスフェノールA型のjERキュア(三菱化学社)等の1分子中に2個以上のメルカプト基を有するメルカプト化合物等を挙げることができる。
【0019】
上記した中でも特に1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンが、変性ウレタン樹脂(X)に含まれるカルボニル基濃度を高くできる点、或いは該樹脂の分子量を大きくできる点から好適である。
【0020】
化合物(D)として、上記1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンを選択した場合、化合物(A2−1)を得るための、該化合物(D)とダイアセトンアクリルアミドとを等モル量用いた場合のマイケル付加反応における反応式の一例を式(3)に示す。この式(3)における化合物(A2−1)は分子中にイソシアネート基と反応性を有するメルカプト基を2個含有し且つカルボニル基を1個含有している。なお、上記反応においては、化合物(D)1モルに対してダイアセトンアクリルアミドが1モル付加した生成物以外に、2モルもしくは3モル付加した生成物、又はダイアセトンアクリルアミドが付加していない未反応の化合物(D)を含む反応生成物の混合物が得られる。本明細書における反応式は説明のための一つの例を表記したものであり、この式に限定されるものではない。
【0021】
【化3】
【0022】
化合物(A2−2)は、イソシアネート基と反応性を有する基及びメルカプト基を有する上記化合物(D)と、α,β−不飽和カルボニル化合物(E)とをマイケル付加反応させることより得られる。
【0023】
上記α,β−不飽和カルボニル化合物(E)の具体例としては、例えば、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、イソプロペニルメチルケトン、イソプロペニルフェニルケトン、5−メチル−3−ヘキセン−2−オン、3−ヘプテン−2−オン、3−オクテン−2−オン、3−ノネン−2−オン、3−デセン−2−オン、3−メチル−3−ブテン−2−オン、4−メチル−3−ペンテン−2−オン、3−メチル−3−ペンテン−2−オン、2−オクテン−4−オン、2,4−へプタジエン−6−オン、ジイソプロピリデンアセトン、3−メチレン−2−ノルボルナノン、2−シクロヘキセン−1−オン、3−メチル−2−シクロヘキセン−1−オン、ピペリトン、イソホロン、2−シクロペンテン−1−オン、3−メチル−2−シクロペンテン−1−オン、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン、ジヒドロジャスモン等を挙げることができる。
【0024】
なお、上記ジイソプロピリデンアセトンの如きカルボニル基の炭素原子に2個の不飽和基が直接に結合した化合物と、化合物(D)との反応において、上記2個の不飽和基の両方が化合物(D)と反応した場合の反応生成物は、前記式(2)で表わされる化合物(A2−2)とは異なる構造であるが、該反応生成物は化合物(A)として、ポリイソシアネート化合物(B)と反応させることにより変性ウレタン樹脂(X)を得ることができる。
【0025】
化合物(D)として、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンを選択し、α,β−不飽和カルボニル化合物として、メチルビニルケトンを選択した場合、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンと、メチルビニルケトンとを等モル量用いた場合のマイケル付加反応における反応式の一例を式(4)に示す。この式(4)における化合物(A2−2)は分子中にイソシアネート基と反応性のメルカプト基を2個含有し且つカルボニル基を1個含有している。
【0026】
【化4】
【0027】
化合物(A)の製造において、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド又はα,β−不飽和カルボニル化合物(E)に含まれる不飽和基1モルに対する化合物(D)に含まれるメルカプト基のモル数は、1〜10の範囲内、さらに1.05〜5の範囲内となるように混合して、マイケル付加反応を行なうことが好ましい。化合物(D)に含まれるメルカプト基のモル数が1.1よりも小さいと未反応のダイアセトン(メタ)アクリルアミド又はα,β−不飽和カルボニル化合物(E)が、反応生成
物に混合することがあり、該反応生成物を用いて製造したカルボニル基と、チオエーテル
基とを含有する変性ウレタン樹脂(X)を含む水性塗料組成物から作成した被膜は、架橋密度が低下して耐水性が劣ることがある。あるいは該反応生成物から残存する未反応のダイアセトン(メタ)アクリルアミド又はα,β−不飽和カルボニル化合物(E)を除去する工程が煩雑となることがある。また、該モル数が10よりも大きいと、得られたカルボニル基及びチオエーテル基を含有する変性ウレタン樹脂(X)に含まれるカルボニル基の濃度が低いために、該反応生成物を用いて製造した水性塗料組成物から作成した被膜は、硬化反応に劣り、付着性や耐水性が低下することがある。
【0028】
本発明における化合物(A2−1)又は(A2−2)を得るためのマイケル付加反応は、通常、0〜200℃の範囲内、好ましくは、50〜120℃の範囲内で行なうことが、短時間で所望の反応生成物を得られること及び意図しない副反応を抑制可能な点から好ましい。
【0029】
上記マイケル付加反応は、水や有機溶剤の存在下で行なうことができるが、特に用いなくても良い。有機溶剤を使用する場合、その種類は特に限定しないがエステル系、エーテル系、アルコール系等の公知の有機溶剤を使用できる。水や有機溶剤を使用する場合の溶液濃度は好ましくは20質量%以上さらに好ましくは50質量%以上である。これより希薄な場合には反応が進行しにくいため好ましくない。また、反応時間としては、使用する化合物の種類により異なるが、通常30分〜5時間で終了する。
【0030】
マイケル付加反応を行う際、触媒を用いることもできる。触媒としては、特に制限はないが、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、マグネシウムエトキシド等の金属アルコキシド;ナトリウムフェノキシド等の金属フェノキシド;安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム等の金属カルボキレート;トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N′−ジメチルピペラジン、ピリジン、ピコリン、1,8−ジアザービシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の三級アミン;臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化ドデシルトリメチルアンモニウム、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムアセテート等の第四級アンモニウム塩;塩化テトラフェニルホスホニウム、塩化トリフェニルメチルホスホニウム、臭化テトラメチルホスホニウム等の第四級ホスホニウム塩;2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−メチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−アジン−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物等の塩基性化合物が挙げられる。触媒は1種類に限定されることなく、複数種を用いることができる。触媒を使用する場合、その使用量は化合物(D)の使用量に対して10モル%以下が好ましく、必要に応じて複数種を使用することもできる。
【0031】
上記マイケル付加反応の進行は、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド又はα,β−不飽和カルボニル化合物(E)における不飽和基の炭素原子に結合した水素原子に由来する1H−NMRのピークの減少から定量的に確認することができる。該ピークの消失或いは該ピークの減少が反応時間に対して実質的にほとんど認められなくなった時点で反応を終了することができる。
【0032】
ポリイソシアネート化合物(B)
本発明においてポリイソシアネート化合物(B)は、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するものであれば特に制限されるものではない。例えば、ポリイソシアネート化合物は、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物であり、従来からポリウレタンの製造に使用されているものを使用することができる。例えば脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート及びこれらポリイソシアネートの誘導体などを挙げることができる。
【0033】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えばトリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−または2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエートなどの脂肪族ジイソシアネート、例えば、リジンエステルトリイソシアネート、1,4,8−トリイソシアナトオクタン、1,6,11−トリイソシアナトウンデカン、1,8−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルオクタン、1,3,6−トリイソシアナトヘキサン、2,5,7−トリメチル−1,8−ジイソシアナト−5−イソシアナトメチルオクタンなどの脂肪族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0034】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−シクロペンテンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(慣用名:イソホロンジイソシアネート)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−または1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(慣用名:水添キシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物、ノルボルナンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート、例えば、1,3,5−トリイソシアナトシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルイソシアナトシクロヘキサン、2−(3−イソシアナトプロピル)−2,5−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、2−(3−イソシアナトプロピル)−2,6−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、3−(3−イソシアナトプロピル)−2,5−ジ(イソシアナトメチル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)−ヘプタン、6−(2−イソシアナトエチル)−2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−ビシクロ(2.2.1)ヘプタンなどの脂環族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0035】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−もしくは1,4−キシリレンジイソシアネートまたはその混合物、ω,ω’−ジイソシアナト−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−または1,4−ビス(1−イソシアナト−1−メチルエチル)ベンゼン(慣用名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物などの芳香脂肪族ジイソシアネート、例えば、1,3,5−トリイソシアナトメチルベンゼンなどの芳香脂肪族トリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0036】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、2,4’−または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートもしくはその混合物、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネートもしくはその混合物、4,4’−トルイジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、例えば、トリフェニルメタン−4,4’,4’’’−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエンなどの芳香族トリイソシアネート、例えば、4,4’−ジフェニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネートなどの芳香族テトライソシアネートなどを挙げることができる。
【0037】
また、ポリイソシアネートの誘導体としては、例えば、上記したポリイソシアネート化合物のダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、イソシアヌレート、オキサジアジントリオン、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)及びクルードTDIなどを挙げることができる。
【0038】
上記のポリイソシアネート化合物は必要に応じてイソシアネート基の一部を水酸基やアミノ基等の活性水素基を1分子に1〜5個含有する化合物で変性したものを用いてもよい。
【0039】
上記のポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、また、2種以上併用してもよい。
【0040】
ポリオール化合物(C)
本発明の変性ウレタン樹脂(X)は、前記化合物(A)と化合物(B)と、さらにポリオール化合物(C)とを反応させて得られたものであってもよい。
【0041】
ポリオール化合物(C)としては、1分子中に水酸基を2個以上有するものであり、例えば低分子量グリコール類、高分子量グリコール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上用いてもよく、例えばポリエステルポリオールや高分子量グリコールに低分子量グリコールを併用することができる。
【0042】
低分子量グリコール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,8−オクタンジオール、トリシクロデカンジメチロール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ビスフェノール骨格含有ジオール化合物等を挙げることができる。ビスフェノール骨格含有ジオール化合物としては、例えばビスフェノール類のエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物が挙げられ、ビスフェノール類としては、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等を挙げることができる。上記したグリコール類は単独または2種以上混合して使用しても良い。
【0043】
高分子量グリコール類としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリカーボネートグリコール等を挙げることができる。
【0044】
ポリエステルポリオール類としては、例えば、グリコール成分とジカルボン酸成分を反応させたものが挙げられ、公知の方法で容易に製造でき、エステル化反応に限らず、エステル交換反応によっても製造できる。またε−カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環反応によって得られるポリエステルジオール及びこれ等の共縮合ポリエステルも含むことができる。
【0045】
ポリカーボネートポリオール類はジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート又はホスゲン等の炭酸誘導体と、上記したグリコールとの反応により得ることができる。
【0046】
本発明のカルボニル基含有ポリウレタン樹脂はポリオールとして分子内に3個以上の水酸基を有する化合物を用いて分岐構造を持たせることが可能である。分子内に3個以上の水酸基を有する化合物としては、例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(THEIC)等を挙げることができる。
本発明において変性ウレタン樹脂(X)の水分散体の分散安定性や貯蔵安定性を確保するために、変性ウレタン樹脂(X)に親水性のノニオン性基及びアニオン性基からなる群より選ばれる1種以上の基を導入しても良い。
【0047】
変性ウレタン樹脂(X)に親水性のノニオン性基を導入する場合には、ポリオール化合物(C)がその成分の少なくとも一部としてポリエチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体等のポリオキシアルキレン鎖の両末端に水酸基を有するポリオール、又は側鎖にポリオキシアルキレン鎖を有するポリオールを含むことが好適である。
【0048】
側鎖にポリオキシアルキレン鎖を有する上記ポリオールとしては、ポリオキシアルキレン鎖の片方の末端部に水酸基を2個以上有しており、該ポリオキシアルキレン鎖が、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンとのブロック共重合体鎖などである化合物を挙げることができる。上記ポリオキシアルキレン鎖は、100〜10000、特に200〜8000の範囲内の分子量を有することが好適である。
【0049】
側鎖にポリオキシアルキレン鎖を有するポリオールの具体例としては、例えばポリオキシアルキレン鎖を有するアクリレートとジアルカノールアミンとのマイケル付加反応による反応生成物、グリセリンカーボネートとポリオキシアルキレンアミンとの反応生成物などが挙げられ、さらにグリシドールとポリオキシアルキレンアミンとの反応生成物であっても良い。或いは、商品名「Ymer N120」(パーストープ社製)等の市販品を挙げることができる。
【0050】
上記ポリオキシアルキレン鎖を有するアクリレートとしては、例えば、下記式(5)
【0051】
【化5】
【0052】
(式中、R
8は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、mは2〜220、好ましくは5〜180の整数であり、nは2〜3の整数、好ましくは2である、ここでm個のオキシアルキレン単位(C
nH
2nO)は同じであっても又は互に異なっていてもよい。)で示される化合物を挙げることができる。その具体例としては、例えば、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレートなどを挙げることができる。
【0053】
上記ジアルカノールアミンとしては、例えばジエタノールアミン、ジプロパノールアミンなどが挙げられる。
【0054】
上記ポリオキシアルキレン鎖を有するアクリレートとジアルカノールアミンとは、該アクリレートに対するジアルカノールアミンのモル比が0.8〜1.2、好ましくは0.95〜1.05の範囲となるように反応させることが望ましい。この反応は、通常25〜250℃、好ましくは50〜160℃の温度で行われる。
【0055】
上記ポリオキシアルキレンアミンとしては、例えば下式(6)に示す化合物を挙げることができ、市販品としては、例えば、SURFONAMINE L−207(商品名、HUNTSMAN社製)等を挙げることができる。
【0056】
【化6】
【0057】
(式中、R
9は水酸基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、R
10は水素原子又はメチル基を表し、mは2〜220、好ましくは5〜180の整数であり、nは2〜3の整数、好ましくは2である、ここでm個のオキシアルキレン単位(C
nH
2nO)は同じであっても又は互に異なっていてもよい。)
前記グリセリンカーボネートとポリオキシアルキレンアミンとは、グリセリンカーボネート中の環状カーボネート基とポリオキシアルキレンアミン中のアミノ基とのモル比が1:0.8〜1:1.2、好ましくは1:0.95〜1:1.05の範囲となるように反応させることが望ましい。この反応は、通常25〜250℃、好ましくは50〜160℃の温度で行われる。
【0058】
変性ウレタン樹脂(X)にノニオン性基を導入するために、ポリオキシアルキレン鎖の両末端に水酸基を有する上記ポリオール化合物、又は側鎖にポリオキシアルキレン鎖を有する上記ポリオール化合物を用いた場合、これらのポリオール化合物は水分散性と耐水性を両立する観点から、該変性ウレタン樹脂(X)固形分中の1〜25質量%、さらに3〜15質量%の範囲内で用いることがより好ましい。
【0059】
変性ウレタン樹脂(X)の水分散体の分散安定性や貯蔵安定性を確保するために該変性ウレタン樹脂(X)にアニオン性基を導入する場合には、ポリオール化合物(C)がその成分の少なくとも一部としてカルボキシル基含有ポリオールまたはスルホン酸基含有ポリオールを含むことが好適である。
【0060】
カルボキシル基含有ポリオールとしては、例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸及びこれらを縮合したポリエステルポリオールが挙げられる。これらと一緒に12−ヒドロキシステアリン酸、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオン酸、サリチル酸等のヒドロキシカルボン酸を併用することもできる。このようにして変性ウレタン樹脂(X)にアニオン性基を導入した場合の該樹脂の酸価は、1〜35mg−KOH/gの範囲内とすることが水分散安定性と塗膜の耐水性や耐酸性を両立する点から好ましく、より好ましくは5〜20mg−KOH/gの範囲内である。本明細書中における酸価は、JIS K 5601(1999)に定められた滴定法による測定値を意味する。
【0061】
スルホン酸基含有ポリオールは、例えば、スルホイソフタル酸またはそのアルカリ化合物との塩等のスルホン酸基含有二塩基酸と、ポリオール化合物との重縮合反応により得られたポリエステル等を挙げることができる。スルホン酸基含有ポリオールの酸価は0.1〜10mg−KOH/gの範囲内とすることが水分散安定性と塗膜の耐水性や耐酸性を両立する点から好ましい。
【0062】
変性ウレタン樹脂(X)の製造
本発明の変性ウレタン樹脂(X)は、化合物(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)とを反応させるか又は化合物(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)と、ポリオール化合物(C)とを反応させて得ることができる。上記反応における各化合物の配合比は、変性ウレタン樹脂(X)中のカルボニル基濃度が樹脂固形分に基づいて、0.1〜2.5mol/kgの範囲とするように決定することが好ましく、より好ましくは0.2〜1.9mol/kgの範囲内である。上記カルボニル基濃度が0.1mol/kgよりも低いと、本発明の水性塗料組成物から得られる塗膜の耐水性又は耐酸性が不十分になることがあり、該濃度が2.5mol/kgよりも高いと、変性ウレタン樹脂(X)の粘度が高くなることがある。
【0063】
また、変性ウレタン樹脂(X)中のチオエーテル基及びチオウレタン基の合計濃度は、樹脂固形分に基づいて、0.1〜3.0mol/kgの範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.8〜2.3mol/kgの範囲内である。チオエーテル基及びチオウレタン基の合計濃度が0.1mol/kgよりも低いと、本発明の水性塗料組成物から得られる塗膜の耐水性又は耐酸性が不十分になることがあり、該濃度が3mol/kgよりも高いと、変性ウレタン樹脂(X)の粘度が高くなることがある。
【0064】
化合物(A)とポリイソシアネート化合物(B)との反応、又は化合物(A)とポリイソシアネート化合物(B)とポリオール化合物(C)との反応は、通常、40〜160℃の範囲内、好ましくは、60〜140℃の範囲内で行なうことが、短時間で所望の反応生成物を得られること及び意図しない副反応を抑制可能な点から好ましい。
【0065】
上記反応は、水や有機溶剤の存在下又は非存在下で行なうことができる。有機溶剤を使用する場合、その種類は特に限定しないがエステル系、エーテル系、アルコール系等の公知の有機溶剤を使用できる。水や有機溶剤を使用する場合の溶液濃度は好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。該溶液濃度が20質量%よりも低い場合には反応が進行しにくくなることがある。また、反応時間としては、使用する化合物の種類により異なるが、通常2〜10時間で終了する。
【0066】
上記化合物(A)とポリイソシアネート化合物(B)との反応、又は化合物(A)とポリイソシアネート化合物(B)とポリオール化合物(C)との反応を行う際、触媒を用いることもできる。触媒としては、特に制限はないが、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N′−ジメチルピペラジン、ピリジン、ピコリン、1,8−ジアザービシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の三級アミン;臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化ドデシルトリメチルアンモニウム、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムアセテート等の第四級アンモニウム塩;塩化テトラフェニルホスホニウム、塩化トリフェニルメチルホスホニウム、臭化テトラメチルホスホニウム等の第四級ホスホニウム塩;2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−メチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−アジン−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物等の塩基性化合物が挙げられる。触媒は1種類に限定されることなく、複数種を用いることができる。触媒を使用する場合、その使用量は化合物(A)の使用量に対して10モル%以下が好ましく、必要に応じて複数種を使用することもできる。
変性ウレタン樹脂(X)の数平均分子量は、1,000〜200,000の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは、2,000〜100,000の範囲内である。数平均分子量が200,000よりも大きい場合には粘度が高くなり製造が難しく、塗膜の仕上がり性にも不安がある。また、数平均分子量が1,000よりも小さい場合には十分な耐水性の塗膜が得られないことがある。
【0067】
なお、本明細書において、数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間(保持容量)を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフ装置として、「HLC8120GPC」(商品名、東ソー社製)を使用し、カラムとして、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」及び「TSKgel G−2000HXL」(商品名、いずれも東ソー社製)の4本を使用し、検出器として、示差屈折率計を使用し、移動相:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流速:1mL/minの条件下で測定することができる。
【0068】
本発明の変性ウレタン樹脂(X)の水分散体は、変性ウレタン樹脂(X)を、水又は水を含む媒体(以下、「水性媒体」と記す)に分散させたものである。上記水分散体は、水性媒体中に乳化分散してなるものであり、アニオン性、ノニオン性またはカチオン性のいずれのタイプであってもよいが、水分散体の貯蔵安定性、形成塗膜の耐酸性などの観点から、アニオン性、ノニオン性、又はアニオン性とノニオン性との両方を有するタイプが好ましい。さらに、より具体的には、変性ウレタン樹脂(X)をノニオン性又はアニオン性のポリオキシアルキレン化合物に由来する乳化成分の存在下に乳化分散したもの、或いは親水性のノニオン性基及び/又はアニオン性基を該変性ウレタン樹脂に導入したものを乳化分散したもの等が適している。
【0069】
上記ポリオキシアルキレン化合物に由来する乳化成分としては、分子中にポリオキシアルキレン単位を有する化合物が包含され、例えば、アニオン性ポリオキシアルキレン化合物、ノニオン性ポリオキシアルキレン化合物などが挙げられる。
【0070】
アニオン性ポリオキシアルキレン化合物としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸アンモニウム等のポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩などが挙げられ、これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0071】
一方、ノニオン性ポリオキシアルキレン化合物としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル化合物;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル化合物;ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル等のポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル化合物;ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート等のポリオキシアルキレンアルキルエステル化合物;ポリオキシエチレンアルキルアミン等のポリオキシアルキレンアルキルアミン化合物;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等のソルビタン化合物、ポリオキシエチレングリコールなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0072】
また、上記ポリオキシアルキレン化合物に由来する乳化成分としては、例えば、ポリイソシアネートと、上記アニオン性またはノニオン性のポリオキシアルキレン化合物との反応により得られたポリオキシアルキレン基含有ウレタン樹脂や、ポリエポキシ化合物と、上記アニオン性またはノニオン性のポリオキシアルキレン化合物との反応により得られたポリオキシアルキレン基含有エポキシ樹脂等を用いることができる。
【0073】
本発明では、上記乳化成分の使用量は、水分散体の安定性や、塗料組成物の塗膜形成成分として使用した場合の耐水性の点から変性ウレタン樹脂(X)の固形分100質量部に対して、0〜20質量部の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは1〜15質量部の範囲内である。
【0074】
親水性のノニオン性基及び/又はアニオン性基を該変性ウレタン樹脂に導入する方法としては、例えば、ポリオール化合物(C)として、その成分の少なくとも一部としてポリエチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体等のポリオキシアルキレン鎖の両末端に水酸基を有するポリオール、又は側鎖にポリオキシアルキレン鎖を有するポリオールを含むものを用いて変性ウレタン樹脂(X)を得る方法、或いはポリオール化合物(C)として、その成分の少なくとも一部としてカルボキシル基含有ポリオールまたはスルホン酸基含有ポリオールを含むものを用いて変性ウレタン樹脂(X)を得る方法が好適である。
上記方法において、化合物(A)とポリイソシアネート化合物(B)と上記化合物(C)との反応は、任意の順に反応させてもよく、例えば、化合物(A)と化合物(B)とを先に反応させてから化合物(C)を加えて反応、化合物(B)と化合物(C)とを先に反応させてから化合物(A)を加えて反応、又は化合物(A)とポリイソシアネート化合物(B)と上記化合物(C)とを一緒に混合して反応させてもよい。
【0075】
親水性のノニオン性基を変性ウレタン樹脂(X)に導入する上記以外の方法としては、例えば、前記式(6)アミノ基含有ポリオキシアルキレン化合物と、上記化合物(A)と化合物(B)とを反応させる方法を挙げることができる。
【0076】
また、アニオン性基を変性ウレタン樹脂(X)に導入する上記以外の方法としては、例えば、前記化合物(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)との反応又は化合物(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)と、ポリオール化合物(C)との反応を、イソシアネート基が残存する配合比において行い、次いで得られたイソシアネート基が残存する樹脂と、1分子中にイソシアネート基と反応性を有する基及びアニオン性基を有する化合物とを反応させる方法を挙げることができる。上記残存イソシアネート基と、イソシアネート基と反応性を有する基との反応においては、反応効率を高くするために、1分子中にイソシアネート基と反応性を有する基及びアニオン性基を有する化合物の該アニオン性基を塩基性化合物により中和しておいてもよい。
【0077】
上記1分子中にイソシアネート基と反応性を有する基及びアニオン性基を有する化合物としては、例えば、グリシン、7−アミノヘプタン酸等のアミノ酸、アミノ基を有するスルホン酸化合物、アミノ基を有するホスホン酸化合物、メルカプト基を有するカルボン酸化合物などの公知の化合物を挙げることができる。
【0078】
上記アニオン性基を中和するための塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア;エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、モノエタノールアミン、ネオペンタノールアミン、2−アミノプロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノプロパノール等の第1級モノアミン;ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジ−n−プロパノールアミン、ジ−iso−プロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン等の第2級モノアミン;ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、メチルジエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エタノール等の第3級モノアミン;ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン等のポリアミンを挙げることができる。
【0079】
アニオン性基を有する変性ウレタン樹脂(X)を得るための上記以外の方法としては、例えば、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸を含む重合性不飽和モノマーの混合物を、前記化合物(A)と化合物(B)との反応、又は化合物(A)と化合物(B)と化合物(C)との反応により得られた変性ウレタン樹脂(X’)の存在下にラジカル重合反応を行って、変性ウレタン樹脂(X’)にポリ(メタ)アクリル酸(共)重合体をグラフトさせる方法等を挙げることができる。
【0080】
上記の方法により、ノニオン性基とアニオン性基の両方を変性ウレタン樹脂(X)に導入してもよい。
【0081】
変性ウレタン樹脂(X)を水性媒体中に分散した水分散体を得る方法は、特に制限なく従来公知の方法で行うことができ、例えば該変性ウレタン樹脂(X)を前記乳化成分の存在下においてせん断力を加えて水又は水を含む媒体中で微粒子化して得る方法、上記したノニオン性基及び/又はアニオン性基等の親水性基を導入した変性ウレタン樹脂(X)にせん断力を加えて水性媒体中で微粒子化して得る方法、さらに乳化成分の存在下に上記親水性基を導入した変性ウレタン樹脂(X)にせん断力を加えて水性媒体中で微粒子化して得る方法などが挙げられる。アニオン性基を導入した変性ウレタン樹脂(X)の水分散の場合には、該アニオン性基を前記塩基性化合物で中和して水分散してもよい。硬化塗膜の耐酸性や耐水性を考慮すると、上記塩基性化合物としては、揮散しやすい低沸点の塩基性化合物が好適であり、特にアンモニアが好適に用いられる。
【0082】
変性ウレタン樹脂(X)の水分散体の濃度は、安定性や粘度の点から固形分として10〜50質量%の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは20〜45質量%の範囲内である。
【0083】
本発明の水性塗料組成物は、変性ウレタン樹脂(X)の水分散体と該樹脂に含まれるカルボニル基と反応する硬化剤を含むものである。
【0084】
本発明の水性塗料組成物は、硬化剤として、変性ウレタン樹脂(X)中のカルボニル基と反応するヒドラジノ基等を有するヒドラジン誘導体を硬化剤として含有する。上記ヒドラジン誘導体としては、例えば、1分子中にヒドラジド基、及び/またはセミカルバジド基を2個以上有する化合物を好適に用いることができる。これらの化合物は、具体的には、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等の2〜18個の炭素原子を有する飽和鎖状ジカルボン酸ジヒドラジド;マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドなどのモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸ジヒドラジド、フタル酸、テレフタル酸またはイソフタル酸ジヒドラジド、並びにピロメリット酸のジヒドラジド、トリヒドラジドまたはテトラヒドラジド;ニトリロトリスアセトヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド、カルボン酸低級アルキルエステル基を1分子中に2個以上有する低重合体をヒドラジンまたはヒドラジン水化物(ヒドラジンヒドラード)と反応させてなるポリヒドラジド(特公昭52−22878号参照)、炭酸ジヒドラジド等のポリヒドラジド化合物; ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート及びそれにより誘導されるポリイソシアネート化合物にヒドラジンやモノアルキル置換ヒドラジンを反応させて得られるポリセミカルバジド化合物、ジイソシアネートを含む該ポリイソシアネート化合物に上記例示のジヒドラジド化合物やポリヒドラジド化合物を反応させて得られるポリヒドラジド化合物、該ポリイソシアネート化合物とポリエチレングリコールモノアルキルエーテル類等の活性水素を有するポリエーテルやポリオールとの反応から得られる変性ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基にヒドラジンやモノアルキル置換ヒドラジンを反応させて得られるポリセミカルバジド化合物、該変性ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に上記例示のジヒドラジドやポリヒドラジドを反応させて得られるポリヒドラジド化合物等が挙げられ、これらは単独で、或いは必要に応じて混合して一緒に用いることができる。
【0085】
上記ヒドラジン誘導体は、変性ウレタン樹脂(X)のカルボニル基1モルに対して、一般にヒドラジン誘導体に含まれるヒドラジド基とセミカルバジド基の合計が0.01〜2モルの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.5モルの範囲内であることが低温硬化性の点から好ましい。
【0086】
本発明の水性塗料組成物は、必要に応じて、水性アニオン性樹脂、アクリル樹脂、エポキシエステル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等の改質用樹脂;ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、アミノ樹脂等の上記ヒドラジド系硬化剤以外の硬化剤;着色顔料、体質顔料、防錆顔料、光輝材、分散剤、消泡剤、防腐剤、フラッシュラスト抑制剤、顔料分散剤、防錆剤、増粘剤、造膜助剤、硬化触媒酸化防止剤、紫外線吸収剤、有機溶媒等の通常の塗料用添加剤を適宜配合し、変性ウレタン樹脂(X)の水分散体と、硬化剤としてヒドラジノ基等を有するヒドラジン誘導体と一緒に混合分散せしめたものであっても良い。
【実施例】
【0087】
次に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ここで「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
<化合物Aの製造>
水酸基及びメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を有する有機基、チオエーテル基及びカルボニル基を有する化合物(
A)の製造について製造例1〜4に説明する。
【0088】
(製造例1)
化合物A2−1−1の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた1L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、カレンズMT NR1(注1)397.4g、トリエチルアミン0.5g、N−メチルピロリドン214.0gを加え撹拌し、80℃まで昇温して溶解させた。次にダイアセトンアクリルアミド118.5gをN−メチルピロリドン118.5gに溶解させた溶液を30分に渡って加えた。ここで、フラスコに仕込んだカレンズMT NR1のメルカプト基と、ダイアセトンアクリルアミドの不飽和基のモル比率は約3対1である。フラスコ内の反応溶液を攪拌しながら80℃で3時間保持した後、重クロロホルム溶媒を用いた反応溶液の1H−NMR測定を行ったところ、ダイアセトンアクリルアミドの不飽和基に起因する6.19〜6.23ppmのピークは観察されなかった。このことからカレンズMT NR1と、ダイアセトンアクリルアミドとのマイケル付加反応が完結したことを確認した。該反応による生成物A2−1−1は、メルカプト基と、マイケル付加反応により生成したチオエーテル基と、原料のダイアセトンアクリルアミドに由来するカルボニル基とを有する。
(注1)カレンズMT NR1:昭和電工社製、下記式で表される化合物を主成分とする、分子量約568、1分子当たりのメルカプト基数は3個。
【0089】
【化7】
【0090】
(製造例2)
A2−1−2の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた1L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、jERキュアQX11(注2)435.8g、トリエチルアミン0.5g、N−メチルピロリドン234.7gを加え撹拌し、80℃まで昇温して溶解させた。次にダイアセトンアクリルアミド101.5gをN−メチルピロリドン101.5gに溶解させた溶液を30分に渡って加えた。ここで、フラスコに仕込んだjERキュアQX11のメルカプト基と、ダイアセトンアクリルアミドの不飽和基とのモル比率は約3対1である。フラスコ内の反応溶液を攪拌しながら80℃で3時間保持した後、重クロロホルム溶媒を用いた反応溶液の1H−NMR測定を行ったところ、ダイアセトンアクリルアミドの不飽和基に起因する6.19〜6.23ppmのピークは観察されなかった。このことからjERキュアQX11と、ダイアセトンアクリルアミドとのマイケル付加反応が完結したことを確認した。該反応による生成物A2−1−2は、メルカプト基と、マイケル付加反応により生成したチオエーテル基と、原料のダイアセトンアクリルアミドに由来するカルボニル基とを有する。
(注2)jERキュアQX11:三菱化学社製の下記式で表される化合物を主成分とする、メルカプタン当量230〜260g/eq、1分子当たりのメルカプト基数は2個。
【0091】
【化8】
【0092】
(製造例3)
A2−2−1の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた1L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、カレンズMT NR1 454.2g、トリエチルアミン0.5g、N−メチルピロリドン244.5gを加え撹拌し、80℃まで昇温して溶解させた。次にメチルビニルケトン56.1gを30分に渡って加えた。80℃で3時間保持することでA2−2−1を得た。
【0093】
ここで、フラスコに仕込んだカレンズMT NR1のメルカプト基と、メチルビニルケトンの不飽和基のモル比率は3対1である。フラスコ内の反応溶液を攪拌しながら80℃で3時間保持した後、重クロロホルム溶媒を用いた反応溶液の1H−NMR測定を行ったところ、メチルビニルケトンの不飽和基に起因する5.91〜6.30ppmのピークは観察されなかった。このことからカレンズMT NR1と、メチルビニルケトンとのマイケル付加反応が完結したことを確認した。該反応による生成物A2−2−1は、メルカプト基と、マイケル付加反応により生成したチオエーテル基と、メチルビニルケトンに由来するカルボニル基とを有する。
【0094】
(製造例4)
化合物A2−1−3の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた1L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、2−メルカプトエタノール139.5g、トリエチルアミン0.5g、N−メチルピロリドン75.1gを加え撹拌し、80℃まで昇温して溶解させた。次にダイアセトンアクリルアミド287.7gをN−メチルピロリドン287.7gに溶解させた溶液を30分に渡って加えた。ここで、フラスコに仕込んだ2−メルカプトエタノールのメルカプト基と、ダイアセトンアクリルアミドとの不飽和基のモル比率は1.05対1である。フラスコ内の反応溶液を攪拌しながら80℃で3時間保持した後、重クロロホルム溶媒を用いた反応溶液の1H−NMR測定を行ったところ、ダイアセトンアクリルアミドの不飽和基に起因する6.19〜6.23ppmのピークは観察されなかった。このことから2−メルカプトエタノールと、ダイアセトンアクリルアミドとのマイケル付加反応が完結したことを確認した。該反応による生成物A2−1−3は、水酸基と、マイケル付加反応により生成したチオエーテル基と、原料のダイアセトンアクリルアミドに由来するカルボニル基とを有する。
【0095】
<変性ウレタン樹脂(X)及びその水分散体の製造>
変性ウレタン樹脂(X)及びその水分散体の製造について実施例1〜15に説明する。
【0096】
(実施例1)
樹脂(X−1)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「デュラノールT5652」(商品名、旭化成ケミカルズ(株)製、ポリカーボネートジオール)85.0g、「PEG2000」(商品名、三洋化成工業(株)製、ポリエチレングリコール)25.5g、化合物A2−1−1を144.2g、ジメチロールプロピオン酸8.4g、2−メトキシ−1−プロパノール3.1g、「ネオスタンU−100」(商品名、日東化成(株)製、ジブチル錫ラウレート)0.05g、2−メチル−ペンタノン85.0gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」(商品名、住化バイエルウレタン(株)製、イソホロンジイソシアネート)45.1g、「デスモジュールH」(商品名、住化バイエルウレタン(株)製、ヘキサメチレンジイソシアネート)8.5gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。次いで2−メトキシ−1−プロパノール34.0g加え80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約110g除去し、10%アンモニア水5.35gを添加した。さらに水1000gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約500g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、樹脂固形分中のカルボニル基が0.45mol/kgである樹脂が乳化分散した溶液を得た。この樹脂の酸価は13.4mg−KOH/g、重量平均分子量は約13,000であった。
【0097】
(実施例2)
樹脂(X−2)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「デュラノールT5652」63.0g、化合物A2−1−1を152.7g、「ネオスタンU−100」0.05g、2−メチル−ペンタノン69.3gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」31.7g、「デスモジュールH」6.0gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。その後、ヒドロキシル基とカルボキシル基を有するアクリル樹脂[モノマー組成:メタクリル酸/ヒドロキシエチルメタクリレート/スチレン/アクリル酸エチル=11.5/18.5/30/40(質量比)、数平均分子量6000、水酸価80mg−KOH/g、酸価75mg−KOH/g、加熱残分60%]109.7gを加え、80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約100g除去し、10%アンモニア水7.49gを添加した。さらに水1000gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約520g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、樹脂固形分中のカルボニル基が0.49mol/kgである樹脂が乳化分散した溶液を得た。
【0098】
(実施例3)
樹脂(X−3)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「デュラノールT5652」95.2g、化合物A2−1−1を144.2g、ジメチロールプロピオン酸15.9g、2−メトキシ−1−プロパノール3.1g、「ネオスタンU−100」0.05g、2−メチル−ペンタノン86.7gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」53.7g、「デスモジュールH」10.2gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。次いで2−メトキシ−1−プロパノール34.0g加え80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約110g除去し、10%アンモニア水10.1gを添加した。さらに水1000gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約500g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、樹脂固形分中のカルボニル基が0.46mol/kgである樹脂が乳化分散した溶液を得た。この樹脂の酸価は25.1mg−KOH/g、重量平均分子量は約13,600であった。
【0099】
(実施例4)
樹脂(X−4)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「デュラノールT5652」102.0g、「PEG2000」25.5g、化合物A2−1−1を144.2g、2−メトキシ−1−プロパノール3.1g、「ネオスタンU−100」0.05g、2−メチル−ペンタノン83.6gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」35.5g、「デスモジュールH」6.7gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。次いで2−メトキシ−1−プロパノール34.0g加え80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約110g除去し、陰イオン界面活性剤ニューコール714SF(商品名、日本乳化剤(株)製、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩)を添加した。さらに水980gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約500g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、樹脂固形分中のカルボニル基が0.46mol/kgである樹脂が乳化分散した溶液を得た。この樹脂の重量平均分子量は約16,800であった。
【0100】
(実施例5)
樹脂(X−5)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「デュラノールT5652」85.0g、「PEG2000」25.5g、化合物A2−1−1を103.0g、化合物A2−1−2を49.5g、ジメチロールプロピオン酸8.4g、「ネオスタンU−100」0.05g、2−メチル−ペンタノン32.3gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」42.1g、「デスモジュールH」8.0gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。次いで2−メトキシ−1−プロパノール34.0g加え80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約60g除去し、10%アンモニア水5.35gを添加した。さらに水1000gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約500g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、樹脂固形分中のカルボニル基が0.45mol/kgである樹脂が乳化分散した溶液を得た。この樹脂の酸価は13.5mg−KOH/g、重量平均分子量は約13,000であった。
【0101】
(実施例6)
樹脂(X−6)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「デュラノールT5652」95.2g、「PEG2000」25.5g、化合物A2−2−1を112.3g、ジメチロールプロピオン酸8.4g、2−メトキシ−1−プロパノール3.1g、「ネオスタンU−100」0.05g、2−メチル−ペンタノン105.4gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」46.0g、「デスモジュールH」8.7gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。次いで2−メトキシ−1−プロパノール34.0g加え80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約110g除去し、10%アンモニア水5.35gを添加した。さらに水1000gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約500g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、樹脂固形分中のカルボニル基が0.45mol/kgである樹脂が乳化分散した溶液を得た。この樹脂の酸価は13.4mg−KOH/g、重量平均分子量は約13,200であった。
【0102】
(実施例7)
樹脂(X−7)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「デュラノールT5652」108.8g、「PEG2000」25.5g、化合物A2−1−1を82.4g、化合物A2−1−3を26.1g、ジメチロールプロピオン酸8.4g、「ネオスタンU−100」0.05g、2−メチル−ペンタノン69.7gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」35.7g、「デスモジュールH」6.7g、「デュラネートTPA−100」(商品名、旭化成工業(株)製、イソシアヌレート構造を有するヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート)10.2gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。次いで2−メトキシ−1−プロパノール34.0g加え80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約85g除去し、10%アンモニア水5.35gを添加した。さらに水970gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約500g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、樹脂固形分中のカルボニル基が0.48mol/kgである樹脂が乳化分散した溶液を得た。この樹脂の酸価は13.6mg−KOH/g、重量平均分子量は約14,200であった。
【0103】
(実施例8)
樹脂(X−8)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「デュラノールT5652」112.2g、「PEG2000」25.5g、化合物A2−1−1を103.0g、3−メルカプト−2−ブタノンを3.5g、ジメチロールプロピオン酸8.4g、「ネオスタンU−100」0.05g、2−メチル−ペンタノン100.3gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」41.5g、「デスモジュールH」7.9gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。次いで2−メトキシ−1−プロパノール34.0g加え80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約110g除去し、10%アンモニア水5.35gを添加した。さらに水980gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約500g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、樹脂固形分中のカルボニル基が0.45mol/kgである樹脂が乳化分散した溶液を得た。この樹脂の酸価は13.5mg−KOH/g、重量平均分子量は約13,200であった。
【0104】
(実施例9)
樹脂(X−9)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「デュラノールT5652」129.2g、「PEG2000」25.5g、化合物A2−1−1を82.4g、ジメチロールプロピオン酸8.4g、2−メトキシ−1−プロパノール3.1g、「ネオスタンU−100」0.05g、2−メチル−ペンタノン109.7gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」40.0g、「デスモジュールH」7.6gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。次いで2−メトキシ−1−プロパノール34.0g加え80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約110g除去し、10%アンモニア水5.35gを添加した。さらに水1000gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約500g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、樹脂固形分中のカルボニル基が0.26mol/kgである樹脂が乳化分散した溶液を得た。この樹脂の酸価は13.4mg−KOH/g、重量平均分子量は約12,600であった。
【0105】
(実施例10)
樹脂(X−10)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「デュラノールT5652」44.2g、「PEG2000」25.5g、化合物A2−1−1を206.0g、ジメチロールプロピオン酸8.4g、2−メトキシ−1−プロパノール3.1g、「ネオスタンU−100」0.05g、2−メチル−ペンタノン62.9gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」50.6g、「デスモジュールH」9.6gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。次いで2−メトキシ−1−プロパノール34.0g加え80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約60g除去し、10%アンモニア水5.35gを添加した。さらに水950gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約500g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、樹脂固形分中のカルボニル基が0.64mol/kgである樹脂が乳化分散した溶液を得た。この樹脂の酸価は13.2mg−KOH/g、重量平均分子量は約13,000であった。
【0106】
(実施例11)
樹脂(X−11)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「PEG2000」28.8g、化合物A2−1−1を97.0g、化合物A2−1−3を148.8g、ジメチロールプロピオン酸9.6g、「ネオスタンU−100」0.05g、2−メチル−ペンタノン124.5gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」15.3g、「デスモジュールH」2.9g、「TPA−100」93.3g、2−メチル−ペンタノン111.5gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。次いで2−メトキシ−1−プロパノール92.0g加え80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約280g除去し、10%アンモニア水6.12gを添加した。さらに水1000gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約550g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、樹脂固形分中のカルボニル基が1.38mol/kgである樹脂が乳化分散した溶液を得た。この樹脂の酸価は14.0mg−KOH/g、重量平均分子量は約5200であった。
【0107】
(実施例12)
樹脂(X−12)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「デュラノールT5652」80.0g、「PEG2000」26.0g、化合物A2−1−1を157.6g、ジメチロールプロピオン酸9.4g、2−メトキシ−1−プロパノール1.8g、「ネオスタンU−100」0.05g、2−メチル−ペンタノン83.0gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」46.7g、「デスモジュールH」8.8gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。次いで2−メトキシ−1−プロパノール34.0g加え80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約110g除去し、10%アンモニア水5.95gを添加した。さらに水1000gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約500g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、樹脂固形分中のカルボニル基が0.48mol/kgである樹脂が乳化分散した溶液を得た。この樹脂の酸価は14.6mg−KOH/g、重量平均分子量は約24,000であった。
【0108】
(比較例1)
樹脂(X−13)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「デュラノールT5652」187.0g、「PEG2000」25.5g、ジメチロールプロピオン酸8.4g、2−メトキシ−1−プロパノール3.1g、「ネオスタンU−100」0.05g、2−メチル−ペンタノン142.0gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」33.1g、「デスモジュールH」6.3gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。次いで2−メトキシ−1−プロパノール34.0g加え80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約130g除去し、10%アンモニア水5.35gを添加した。さらに水1000gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約500g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、カルボニル基を含まない樹脂が乳化分散した溶液を得た。この樹脂の酸価は13.4mg−KOH/g、重量平均分子量は約14,800であった。
【0109】
(比較例2)
樹脂(X−14)及びその水分散体の製造
撹拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入口を備えた2L容のフラスコ内の空気を窒素置換し、「デュラノールT5652」153.0g、「PEG2000」25.5g、ダイアセトンアクリルアミドとジエタノールアミンとを等モル量でマイケル付加反応させて得られた化合物32.7g、2−メトキシ−1−プロパノール3.1g、「ネオスタンU−100」0.05g、2−メチル−ペンタノン141.1gを加え攪拌し、80℃まで昇温し溶解させた。その後、「デスモジュールI」40.0g、「デスモジュールH」7.6gの混合物を30分掛けて滴下し、80℃で8時間保持した。次いで2−メトキシ−1−プロパノール34.0g加え80℃で1時間保持した後、減圧しながら溶剤を約130g除去し、10%酢酸35.7gを添加した。さらに水970gを添加後、減圧しながら溶剤と水を共沸させながら約500g除去し、加熱残分が約30%になるように水で希釈して、樹脂固形分中のカルボニル基が0.45mol/kgである樹脂が乳化分散した溶液を得た。この樹脂のアミン価は25.5mg−KOH/g、重量平均分子量は約13,500であった。
【0110】
(製造例5)
水性アニオン性樹脂(アクリル樹脂X−15)の製造
攪拌装置、還流冷却器、窒素吹き込み装置及び温度計を備えた4つ口フラスコに脱イオン水28.5部、ノニオン型界面活性剤(日本乳化剤株式会社製品「Newcol707SF」:有効成分30%)0.1部を加え、窒素置換後、85℃に保った。この中に下記組成をエマルション化してなるプレエマルションの3%分及び0.5部の過硫酸アンモニウムを10部の脱イオン水に溶解させた溶液10.5部の25%分を添加し、添加20分後から残りのプレエマルション及び残りの過硫酸アンモニウム水溶液を4時間かけて滴下した。
【0111】
プレエマルション組成
脱イオン水36.8部、スチレン15部、メチルメタクリレート38.8部、n−ブチルアクリレート24部、2−エチルヘキシルアクリレート15部、ダイアセトンアクリルアミド5部、ヒドロキシエチルアクリレート2部、アクリル酸0.2部、Newcol 707SF6.6部
滴下終了後、これをさらに2時間85℃に保持した後、40〜60℃に降温した。次いでアンモニア水でpH8に調整し、カルボニル基濃度は、0.296mol/kgの水性アニオン性樹脂である水性アクリル樹脂エマルションX−15(固形分55%)を得た。
【0112】
(実施例13)
水性塗料組成物B−1の製造
実施例1で得た樹脂(X−1)の水分散体を100部(固形分30部)にADH(商品名、大塚化学(株)製、アジピン酸ジヒドラジド)の10%水溶液を11.8部(固形分1.18部)加え、回転翼式撹拌機で充分に撹拌し、仕込み原料の重量から計算される固形分濃度が23%になるように水で希釈して水性塗料組成物B−1を得た。
【0113】
(実施例14〜26、比較例3〜5)
水性塗料組成物B−2〜B−17の製造
表1と表2に示す配合にて、実施例13と同様にして、水性塗料組成物B−2〜17を得た。
【0114】
<塗料の貯蔵安定性>
実施例13〜26及び比較例3〜5で得られた上記各水性塗料組成物B−1〜B−17を密閉容器中で40℃×1ヵ月貯蔵後の水性塗料組成物の状態を観察し、貯蔵安定性を下記指標にて評価した。評価結果を表1と表2に示した。
○:凝集物や粘度の上昇は認められない。
△:凝集物はないが粘度の上昇が認められる。
×:凝集物が発生した。
【0115】
<試験板の作成>
上記各水性塗料組成物B−1〜B−17を使用して、それぞれについて以下の様にして試験板を作製した。
【0116】
化成処理が施された55%アルミ−亜鉛めっき鋼板(ガルバリウム鋼板、板厚み0.35mm、めっきAZ150)上に上記実施例及び比較例にて製造した各水性塗料組成物B−1〜B−17を膜厚約35μmとなるようにエアスプレー塗装し、23℃、湿度50%で1週間乾燥して、試験板を得た。上記試験板以外に、水性塗料組成物B−1とB−15については、膜厚約35μmとなるように化成処理が施された55%アルミ−亜鉛めっき鋼板(ガルバリウム鋼板、板厚み0.35mm、めっきAZ150)上にエアスプレー塗装した後、23℃、湿度50%で、10分間養生してから、80℃で30分加熱乾燥した試験板を作成した。得られたそれぞれの試験板について下記塗膜性能試験を行なった。
【0117】
<塗膜性能試験>
耐水性試験:試験板を23℃の上水に7日間浸漬し、水から引き上げ直後の塗膜のフクレの有無を観察した(耐水性評価1)。フクレなしを○、塗膜の一部にフクレ発生を△、塗膜全体にフクレ発生を×として目視評価した。また、水から引き上げた試験板を23℃で24時間乾燥した後、試験板の素地に達するようにカッターで格子状に切り込み、大きさ2mm×2mmのゴバン目を100個作った。続いて、その表面に粘着セロハンテープを貼着し、23℃においてそのテープを急激に剥離した後のゴバン目塗膜の残存状態を調べ、塗膜の耐水性を下記指標にて評価した(耐水性評価2)。評価結果を表1及び表1に示した。
◎:ゴバン目塗膜が100個残存し、カッターの切り込みの縁において塗膜の小さなフチカケが生じていない。
○:ゴバン目塗膜が100個残存するが、カッターの切り込みの縁において塗膜の小さなフチカケが生じている
△:ゴバン目塗膜が90〜99個残存する
×:ゴバン目塗膜の残存数が89個以下である。
【0118】
耐酸性試験:試験板を23℃の5%硫酸水溶液に3日間浸漬し、硫酸水溶液から引き上げ直後の塗膜のフクレ有無を観察した(耐酸性評価1)。フクレなしを○、塗膜の一部にフクレ発生を△、塗膜全体にフクレ発生を×として目視評価した。また、硫酸水溶液から引き上げた試験板を23℃で24時間乾燥した後、試験板の素地に達するようにカッターで格子状に切り込み、大きさ2mm×2mmのゴバン目を100個作った。続いて、その表面に粘着セロハンテープを貼着し、23℃においてそのテープを急激に剥離した後のゴバン目塗膜の残存状態を調べ、塗膜の耐酸性を下記指標にて評価した(耐酸性評価2)。評価結果を表1及び表2に示した。
◎:ゴバン目塗膜が100個残存し、カッターの切り込みの縁において塗膜の小さなフチカケが生じていない。
○:ゴバン目塗膜が100個残存するが、カッターの切り込みの縁において塗膜の小さなフチカケが生じている
△:ゴバン目塗膜が90〜99個残存する
×:ゴバン目塗膜の残存数が89個以下である。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】