(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係るボイスコイルスピーカー1を示す断面図である。なお、図中、ボイスコイルスピーカー1の中心軸を、符号L1を付して示す。
本実施形態に係るボイスコイルスピーカー1は、例えば、車両のドアの側面に取り付けられ、車載オーディオ装置からデジタル音声信号が入力され、このデジタル音声信号に基づいて音声を出力するスピーカーである。
図1に示すように、ボイスコイルスピーカー1は、前面に円状のスピーカー開口10が形成された有底円筒状のスピーカーフレーム13を備えている。
このスピーカーフレーム13の後部には、前方へ向かうに従って拡径し、前面に円状の開口が形成された椀状のフレーム後部15が形成されており、このフレーム後部15の後方には、スピーカー本体11の駆動に供される磁気回路部(駆動機構)16が設けられている。
【0014】
磁気回路部16は、円盤状のヨーク底部16aと、このヨーク底部16aの中央部で前方に向かって突出した円柱状のヨーク凸部16bと、を有するヨーク16cを備えている。ヨーク底部16aの前面には、環状のマグネット16dがヨーク凸部16bを囲んで固定されており、さらに、このマグネット16dの前方には、環状のプレート16eが、固定されている。ヨーク凸部16bの外周と、プレート16eとの内周との間には、磁気ギャップ(不図示)が形成されており、この磁気ギャップ内にボビン21aと、このボビン21aに錦糸線(リード線)が巻き回されて形成されたボイスコイル22と、が配置されている。
【0015】
また、スピーカーフレーム13には、ボイスコイルスピーカー1の中心軸L1と同軸で、フレーム後部15の前面に形成された円状の開口の縁から開口の周方向に沿って外側へ向かって延在する環状のフレーム平部17が形成されている。このフレーム平部17の外周には、前方へ向かうに従って拡径し、前面に円状のスピーカー開口10が形成された筒状のフレーム筒部18の基端が接続されている。
フレーム後部15の前面に形成された円状の開口の縁には、この開口を塞ぐようにダンパー20が接続され、このダンパー20の中央において、ボイスコイルスピーカー1の中心軸L1と同軸方向に延出する円筒状のボビン21aが支持されており、これによりスピーカーフレーム13に対してボビン21aが支持、固定されている。このダンパー20及びボビン21aは、その中心軸がボイスコイルスピーカー1の中心軸L1と一致するように同軸配置されている。
【0016】
図2は、ボビン21aを下から見た図である。この図では、ボビン21aと、ボイスコイル22との関係の明確化のため、ボビン21a、及び、ボイスコイル22の形状を単純化した上で、模式的に記載している。
図2に示すように、ボビン21aは、銅線等の線材からなるリード線がボビン21aの軸方向に整列巻きされて形成されたボイスコイル22を複数保持している。本実施形態では、複数のボイスコイル22が、ボビン21aの周方向に多層となるように重ねて設けられている。各層のボイスコイル22のそれぞれは、後述する音声信号処理回路基板32と電気的に接続されており、各層のボイスコイル22のそれぞれが、音声信号処理回路基板32から入力された駆動信号に基づいて、ボビン21aを振動させる構成となっている。
【0017】
図1を参照し、ボビン21aには、前方へ向かうに従って拡径する円錐状の振動板24の基端部25がボイスコイルスピーカー1の中心軸L1と同軸に接続されており、この振動板24の先端部26の外周は、スピーカーフレーム13のフレーム筒部18の前面に形成されたスピーカー開口10の内周に接続されている。多層のボイスコイル22によるボビン21aの振動に応じて、振動板24が振動し、この振動板24の振動に基づいて音声が出力される。
【0018】
フレーム筒部18の前面に形成されたスピーカー開口10の外周には、当該外周の縁から開口の周方向に沿って外側へ向かって延在する環状のフレームフランジ27が設けられており、このフレームフランジ27には、複数のネジ孔(不図示)が形成されている。ボイスコイルスピーカー1が車両のドアの側面に固定される際は、これらネジ孔(不図示)を介してドアに対してボイスコイルスピーカー1がネジ止めされる。
【0019】
ここで、音声信号処理回路基板32について詳述する。
音声信号処理回路基板32には、車載オーディオ装置等の音声信号の出力源となる外部機器が接続されており、音声信号処理回路基板32は、入力されたデジタル音声信号に各種デジタル処理を施すことにより、各層のボイスコイル22用の駆動信号を生成し、出力する回路が実装されたデジタル回路基板である。
より具体的には、この音声信号処理回路基板32には、ΔΣ変調回路や、各種フィルター回路、デジタルアンプ等の回路が実装されている。そして、音声信号処理回路基板32は、音声信号処理回路基板32に接続された外部機器から入力された多チャンネルの音声信号に対して、所定の標本化処理や、所定のフィルタリング処理等の信号処理を実行することによって、各ボイスコイル22に出力すべき駆動信号を生成し、生成した駆動信号をボイスコイル22のそれぞれに出力する。音声信号処理回路基板32から各ボイスコイル22に入力された駆動信号に応じて、ボビン21aが振動し、これに伴って振動板24が振動し、音声が出力される。
ここで、音声信号処理回路基板32に実装された各回路は、デジタル回路であるため、アナログ回路で形成される場合よりも格段に小型で済む。特に、デジタルアンプは、アナログアンプよりも格段に小さくなる。
【0020】
音声信号処理回路基板32は、ヨーク16cの裏側(後方側)において、ヨーク16cに導電性を有するねじ33で固定されており、輻射ノイズを低減する導電性のシールドケース34で覆われている。シールドケース34は、有底の円筒状に形成され、開口部がヨーク底部16aの外周面に取り付けられている。また、シールドケース34には、音声信号処理回路基板32に接続された接続コネクター35が埋設されており、この接続コネクター35に上記外部機器が接続される。
【0021】
上述したように、本実施形態では、音声信号処理回路基板32において、各ボイスコイル22に出力すべき駆動信号が生成され、生成された駆動信号がボイスコイル22のそれぞれに出力される。このため、ボイスコイル22の層の数(本実施形態では、6層)に応じて、駆動信号用の信号ラインを、複数、設ける必要がある。その際、音質の劣化の抑制のため、複数の信号ラインのそれぞれが干渉しないようにすることが求められると共に、この信号ラインにより、ボビン21aの動きが妨げられないようにすることが求められる。
以上を踏まえ、本実施形態では、ボビン21aや、信号ライン等の部材を以下のような構成としている。
【0022】
図3は、ボイスコイル22が巻き回された状態のボビン21aの側面図であり、
図4は、円筒状に成形される前のボビン21aを示す図である。
図4に示すボビン21aにおいて、接点77が露出した方の面である表面61が円筒の外側の面となるように丸められた上で、一端端連結部62と他端連結部63とが接着等の方法により結合されることにより、
図3に示す円筒状のボイスコイル22が成形される。また、
図5は、ボビン21aを示す正面図であり、
図5(A)は信号ライン部67が1つ設けられたボビン21aを、
図5(B)は信号ライン部67が2つ設けられたボビン21aを示す図である。
図3、及び、
図4では、図中の矢印で示すように、前後方向が規定されているものとする。すなわち、矢印Y1で示す方向が前方であり、矢印Y2で示す方向が後方であるものとする。
【0023】
図4に示すように、円筒状に形成される前のボビン21aは、正面視長方形のボビン主部65を備え、このボビン主部65の長手方向に伸びる後端66の一部から、後方へ向かって細長く信号ライン部(延出部)67が2本延出している。ボビン主部65が丸められて一端端連結部62と他端連結部63とが結合されることにより、ボビン主部65が円筒状の筒部となる。2本の信号ライン部67は、ボビン主部65が筒状に成形された際に対向するように、中心軸L1(
図1)を境として対称となる位置に設けられている。換言すれば、2本の信号ライン部67は、ボビン主部65の周方向に等間隔Sに設けられている。
本実施形態では、これらボビン主部65と、信号ライン部67とが、フレキシブルプリント基板によって一体的に形成されている。
以下、ボビン21aの信号ライン部67、及び、ボビン主部65について詳述する。
【0024】
信号ライン部67は、フレキシブルプリント基板であり、音声信号処理回路基板32からボイスコイル22に出力される駆動信号用の信号ラインとして、複数の信号ライン導電体70がパターン形成されている。
信号ライン導電体70のそれぞれは、直線状の導電体であり、信号ライン部67において、信号ライン部67に沿って、所定の間隔をあけて並んで配置されている。信号ライン導電体70は、銅等の金属の薄膜によって構成された導電部材であり、ポリイミド膜やフォトソルダーレジスト膜等の絶縁性を有するフィルムに挟まれることにより、他の信号ライン導電体70や、外部との絶縁性が確保され、また、物理的な接触から保護されている。
【0025】
本実施形態では、ボビン21aに6層のボイスコイル22が形成されているため、全体として、12本の信号ラインが、ボイスコイル22のそれぞれに接続される必要がある。
そして、各信号ライン部67には、この12本の信号ラインの半分に対応して、6本の信号ライン導電体70が形成されている。
【0026】
信号ライン部67の先端には、信号ライン用コネクター71が設けられている。この信号ライン用コネクター71は、音声信号処理回路基板32に接続されるコネクターであり、これら信号ライン用コネクター71が音声信号処理回路基板32に接続されることにより、音声信号処理回路基板32と、信号ライン部67に形成された信号ライン導電体70との電気的な接続が実現され、これにより、音声信号処理回路基板32から信号ライン導電体70を介したボイスコイル22への駆動信号の出力が可能となる。
図1に示すように、信号ライン用コネクター71が音声信号処理回路基板32に接続されると、信号ライン部67を介して、ボビン主部65の後端66と、音声信号処理回路基板32とが物理的に接続された状態となる。ここで、ボビン21aは、ボイスコイルスピーカー1による音声の出力に伴って振動する部材であるため、信号ライン部67は、ボビン21aのストローク量を考慮した撓み部分(遊び部分)が設けられており、これにより、信号ライン部67によりボビン21aの円滑な振動が阻害されることが防止されている。
【0027】
このように、本実施形態では、ボビン21a(ボビン主部65)と、音声信号処理回路基板32とが、フレキシブルプリント基板によって構成された信号ライン部67を介して接続されており、さらに、音声信号処理回路基板32とボイスコイル22のそれぞれとが、信号ライン部67に形成された信号ライン導電体70を介して電気的に接続される構成となっている。
このような構成により、以下のような効果を奏する。
【0028】
すなわち、フレキシブルプリント基板は、薄く、屈曲性に優れているという特徴を有しているため、音声信号処理回路基板32とボビン主部65とが信号ライン部67を介して物理的に接続された状態(
図1に示す状態)となっても、この信号ライン部67がボビン21aの振動を阻害することを抑制でき、音質の劣化を防止できる。特に、本実施形態では、音声信号処理回路基板32からボビン21aのボイスコイル22に対し12本の信号ラインを接続する必要があるが、仮に、音声信号処理回路基板32からボビン21aに対し12本の錦糸線を延出するような構成とした場合、錦糸線の強度、及び、ボビン21aの円滑な振動の実現、を考慮して、錦糸線の太さや配置等を厳密に設計することが求められるが、本実施形態では、フレキシブルプリント基板たる信号ライン部67を利用することにより、容易、かつ、確実に、ボビン21aの円滑な振動を確保できる。
【0029】
また、ボイスコイル22に接続される信号ラインのそれぞれは、音質の劣化を防止すべく、電気的に干渉しないことが求められる。本実施形態では、信号ライン部67がフレキシブルプリント基板であるため、信号ライン(信号ライン導電体70)のそれぞれにおける絶縁状態を確実に確保でき、信号ラインの電気的な干渉を確実に防止できる。特に、信号ラインは、ボビン21aに巻き回されたボイスコイル22に接続されるものあるため、音声出力に伴うボビン21aの振動が、必ず、信号ラインに伝わることとなるが、ボビン21aが振動した場合であっても、各信号ラインが干渉するといった事態が起こり得ない。さらに、信号ライン(信号ライン導電体70)のそれぞれは、フレキシブルプリント基板にプリント形成された導電部材によって構成されているため、ボビン21aの振動に伴って、信号ラインが切断される、といった事態が発生することを極力防止できる。
【0030】
また、信号ライン部67がフレキシブルプリント基板によって構成されており、12本の信号ライン(信号ライン部67に形成された信号ライン導電体70)のそれぞれを音声信号処理回路基板32に電気的に接続する際は、信号ライン部67の信号ライン用コネクター71を音声信号処理回路基板32に接続すればよい。このため、ボイスコイルスピーカー1の製造容易性が非常に高い。この効果は、例えば、12本の信号ラインのそれぞれを錦糸線で構成し、これら錦糸線のそれぞれによって、音声信号処理回路基板32とボイスコイル22とを接続する場合と比較して、顕著である。
【0031】
また、本実施形態では、ボビン21aには、6層のボイスコイル22が形成され、ボイスコイル22のそれぞれに信号ラインが接続されるという性質上、単純化して話せば、1層のボイスコイル22の場合と比較して、各信号ラインに流れる電流が、6分の1となる。すなわち、各信号ラインを流れる電流が非常に小さい。このため、信号ライン部67において、信号ライン導電体70の幅を細くすることができ、これに伴って、信号ライン部67自体の幅を小さくできる。これにより、フレキシブルプリント基板たる信号ライン部67の屈曲性、柔軟性をより大きく確保でき、音質の劣化をより防止できる。
【0032】
また、本実施形態では、ボビン主部65から2つの信号ライン部67が延出し、この2つの信号ライン部67にそれぞれ6本、合計12本の信号ラインが設けられた構成となっている。このため、信号ライン部67を1つ設ける場合と比較して、信号ライン部67からボビン主部65に掛かる負荷が分散するので、ボビン主部65が円滑に振動するようになり、信号ライン部67による音質の劣化を防止できる。
【0033】
さらに、2つの信号ライン部67は、中心軸L1を境として対称、すなわち、ボビン主部65の周方向に等間隔Sとなる位置に設けられている。このため、信号ライン部67を1つ設ける場合と比較して、信号ライン部67に起因してボビン主部65に偏った負荷が加わりにくく、信号ライン部67からボビン主部65に掛かる負荷のバランスが良くなり、ボビン主部65が円滑に振動し、信号ライン部67による音質の劣化を防止できる。特に本実施形態では、信号ライン部67は基部67aと先端の信号ライン用コネクター71によってのみ支持されており、信号ライン部67全体の自重がボビン主部65に掛かっている。したがって、2つの信号ライン部67をボビン主部65の周方向に等間隔Sに配置することで、信号ライン部67からの負荷がボビン主部65に略均等に掛かるので、信号ライン部67による音質劣化の防止効果が顕著になる。
【0034】
また、信号ライン部67に複数の信号ライン導電体70を設けると、信号ライン部67が延出する部分のボビン主部65は、屈曲性、柔軟性が比較的小さくなる。このため、
図5(A)に示すように、信号ライン部67が1つだけ設けられた場合には、ボビン主部65が丸められて円筒状に形成された際に、信号ライン部67が延出するボビン主部65の部位65aが、円形形状に沿わずに直線状になる傾向がある。
一方で、本実施形態では、
図5(B)に示すように、信号ライン部67を2つ設けているため、信号ライン部67を1つ設ける場合と比較して、各信号ライン部67の幅Wが細くなり、信号ライン部67の屈曲性、柔軟性をより大きく確保できると共に、ボビン主部65の直線状になる部位65aが小さくり、丸めたボビン主部65を真円に近づけることができるので、ボビン21aの振動を振動板24に周方向において略均一に伝達することができ、音質の劣化を防止できる。
【0035】
次いで、ボビン主部65について詳述する。
ボビン主部65は、フレキシブルプリント基板によって構成されており、
図4に示すように、前後方向に延び、銅等の金属の薄膜によって構成されたボビン導電体75が、略同一の間隔をあけて12個並んでパターン形成されている。ボビン導電体75のそれぞれは、ポリイミド膜や、フォトソルダーレジスト膜等の絶縁性を有するフィルムに挟み込まれ、他のボビン導電体75や、外部との絶縁性が確保され、また、物理的な接触から保護されている。特に、本実施形態では、ボビン主部65を構成するフレキシブルプリント基板は、両面にシールド材が被覆された三層構造のFPCであり、デジタル信号による輻射ノイズが低減される構成となっている。
【0036】
なお、上述したように、本実施形態では、信号ライン部67と、ボビン主部65とが1つのフレキシブルプリント基板によって一体的に形成されている。このため、信号ライン部67と、ボビン主部65とを個別の部材によって形成する場合と比較して、信号ライン部67とボビン主部65とを接続するための工程等が不要となり、ボイスコイルスピーカー1の製造容易性が向上する。特に、信号ライン部67に形成された信号ライン導電体70のそれぞれと、ボビン主部65に形成されたボビン導電体75のそれぞれとを同一の導電部材により一体的にパターン形成しているため、これら導電体の導通状態を確実に維持した上で、製造容易性を向上させることができる。
【0037】
ボビン主部65の表面61には、ボビン導電体75のそれぞれに対応して、各ボビン導電体75が表面61に露出することによって形成された接点77が設けられている。本実施形態では、ボビン主部65に12個のボビン導電体75が形成されており、これらボビン導電体75のそれぞれに1個ずつ、計12個の接点77が形成されている。
接点77は、ボビン導電体75の前部に形成されたもの(以下、「巻始め接続用接点79」という)と、ボビン導電体75の後部に形成されたもの(以下、「巻終り接続用接点80」という)との2つがあり、ボビン導電体75の並びに応じて、これら接点77が交互に並んで形成されている。
以下、6層のボイスコイル22のうち、ある1つのボイスコイル22と、このボイスコイル22に対応する巻始め接続用接点79、及び、巻終り接続用接点80との関係、及び、これら部材の詳細な構成について説明する。
【0038】
図3に示すように、ボイスコイル22は、ボビン主部65にリード線が巻き回されることによって構成される。本実施形態では、ボイスコイル22の全ては、前端縁84の巻始め部85(リード線の巻回しが始まる部位)から、この前端縁84よりも後方に形成される後端縁86の巻終り部87(リード線の巻回しが終わる部位)に向かって1重巻きに巻回されることによって形成されている。巻始め部85からは、巻き回し前のリード線である巻回前リード線90が延出し、また、巻終り部87からは、巻き回し後のリード線である巻回後リード線91が延出している。
ボイスコイル22は、ボビン主部65において、巻始め接続用接点79と、巻終り接続用接点80との間に、形成される。そして、ボイスコイル22の巻始め部85から延出する巻回前リード線90は、対応する1つの巻始め接続用接点79に半田付け等の手段により接続(導通)されると共に、巻終り部87から延出する巻回後リード線91は、対応する1つの巻終り接続用接点80に接続(導通)される。これにより、音声信号処理回路基板32→信号ライン導電体70→ボビン導電体75→巻始め接続用接点79→巻回前リード線90→ボイスコイル22→巻回後リード線91→巻終り接続用接点80→ボビン導電体75→信号ライン導電体70→音声信号処理回路基板32と続く電気的な接続が確立され、音声信号処理回路基板32からボイスコイル22に対する駆動信号の出力が可能な構成となる。
【0039】
上述したように、信号ラインを介してボイスコイル22に駆動信号を出力するボイスコイルスピーカー1では、信号ラインの存在による、ボイスコイル22の駆動への悪影響を抑制し、音質の劣化を防止する必要がある。
また、信号ライン部67には、デジタル信号による輻射ノイズが生じるため、輻射ノイズを低減するための対策を施す必要がある。例えば信号ライン部67にシールド材を被覆した場合には、このシールド材によって信号ラインの厚さ(太さ)が増すので、ボビン21aの動きがより妨げられてしまい、その結果、ボイスコイルスピーカー1によって出力される音声の音質が劣化するおそれがある。そこで、本実施形態では、信号ライン部67の少なくとも一部をシールドケース34で覆っている。
【0040】
以下、
図6〜
図8を参照し、信号ライン部67のシールド構成について詳細に説明する。
図6はヨーク16cを表側から示す斜視図であり、
図7はヨーク16cを裏側から示す斜視図である。
図8は、ボイスコイルスピーカー1を示す断面図である。
ヨーク16cには、信号ライン部67をヨーク16cの裏側に通す切欠部36が形成されている。より詳細には、ヨーク16cは、上述したように、円盤状のヨーク底部16aと、ヨーク底部16aの中央部で前方に向かって突出した円柱状のヨーク凸部16bと、を備えて構成されており、ヨーク凸部16bに側面切欠部36aが、ヨーク底部16aに側面切欠部36aに連通する底面切欠部36bが形成されている。
【0041】
側面切欠部36aは、ヨーク凸部16bの側面16b1において、ボイスコイル22(
図1)に対向するボイスコイル対向部16b2を避けた部位であって、各信号ライン部67に対応する部位にそれぞれ設けられている。本実施形態では、2本の信号ライン部67が中心軸L1(
図1)を境として対称となる位置に設けられているため、各信号ライン部67に対応する部位に設けられた側面切欠部36aは互いに対向する。
各側面切欠部36aは少なくとも信号ライン部67を通すことが可能な大きさを有している。具体的には、各側面切欠部36aは、ボイスコイルスピーカー1の中心軸L1に沿って延びる矩形状を有し、側面切欠部36aの幅W2は少なくとも信号ライン部67の幅Wより大きく形成されている。
【0042】
底面切欠部36bは、ヨーク底部16aの略中央に設けられている。本実施形態では、1つの底面切欠部36bが、2つの側面切欠部36aに連通しており、裏面視で略矩形状に形成されている。底面切欠部36bの幅W3は少なくとも信号ライン部67の幅Wより大きく形成され、底面切欠部36bの長さL3はボビン主部65が振動した際の2つの信号ライン部67の移動を許容可能な長さに形成されている。
本実施形態では、対向する2つの側面切欠部36a同士も連通しており、ヨーク16cの内部には、2つの側面切欠部36a及び底面切欠部36bのそれぞれが連通してなる空洞部Rが形成されている。
【0043】
また、ヨーク底部16aには、音声信号処理回路基板32を固定するねじ33(
図1)が螺合されるねじ孔37が形成されている。
音声信号処理回路基板32は、底面切欠部36bに対応する位置に、信号ライン部67をヨーク16cの裏側に通す基板切欠部32aを備えている。基板切欠部32aの大きさも、側面切欠部36aと同様に、幅は信号ライン部67の幅Wより大きく形成され、長さはボビン主部65が振動した際の2つの信号ライン部67の移動を許容可能な長さに形成される。
【0044】
ボビン主部65から延出する信号ライン部67は、ヨーク16cの切欠部36を通されてヨーク16cの裏側のシールドケース34内に延在する。これにより、信号ライン部67は、導電性部材から形成されシールド効果を有するヨーク16cと、輻射ノイズを低減する導電性のシールドケース34とに覆われることとなり、信号ライン部67の略全域をシールドできる。したがって、信号ライン部67を流れるデジタル信号による輻射ノイズを遮断できるとともに、外部からのノイズが信号ライン部67に形成された信号ラインを流れる信号に影響することを確実に防止でき、音質を向上させることができる。
この切欠部36はシールドケース34に覆われているため、切欠部36からボイスコイルスピーカー1内にゴミが侵入することも防止できる。
【0045】
しかも、切欠部36は、ヨーク凸部16bの側面16b1における信号ライン部67に対応する部位に形成された側面切欠部36aと、ヨーク底部16aに形成された側面切欠部36aに連通する底面切欠部36bとで構成されるため、ヨーク凸部16bの側面16b1に形成される切欠部36を最小限の大きさにすることができる。これにより、ヨーク16cに切欠部36を設けることによる磁場への影響を抑制できるので、ボビン21aの振動を阻害することなく、ヨーク16cの裏側に信号ライン部67を延出させることができる。
【0046】
さらに、信号ライン部67をヨーク16c及びシールドケース34で覆うことにより、信号ライン部67にシールド材を貼り付ける必要がないので、信号ライン部67を極めて薄く形成できる。したがって、信号ライン部67の屈曲性の低下を抑制でき、信号ライン部67がボビン主部65の振動を阻害することを抑制でき、その結果、音質の劣化を防止できる。なお、上述したように、ボビン主部65には両面にシールド材が被覆され、デジタル信号による輻射ノイズが低減される構成となっている。
【0047】
また、ヨーク16cの裏側に音声信号処理回路基板32を配置することで、信号ライン部67及び音声信号処理回路基板32を1つのシールドケース34によりシールドできるので、信号ライン部67及び音声信号処理回路基板32で生じた輻射ノイズを低減しつつ、部品点数を削減し、製造工程の簡略化を図ることが可能になる。
この音声信号処理回路基板32は、ヨーク16cに導電性を有するねじ33で固定されるため、音声信号処理回路基板32の熱がヨーク16cを介して外部に放熱されるので、音声信号処理回路基板32がシールドケース34によって密閉された状態であっても十分に放熱することができる。
【0048】
ヨーク16c内の空洞部Rは、ボビン主部65のストローク量を考慮した信号ライン部67の撓み部分(遊び部分)を収容可能な大きさに形成されているため、ボビン主部65が振動した際に信号ライン部67が他の部材に干渉することがなく、ボビン主部65の動きが妨げられず、音質の劣化を防止できる。
【0049】
本実施形態では、ヨーク16cの切欠部36を通された信号ライン部67は、音声信号処理回路基板32の基板切欠部32aを通されて、音声信号処理回路基板32の裏面側に引き込まれ、信号ライン部67の信号ライン用コネクター71は、音声信号処理回路基板32の裏面に接続される構成となっている。これにより、音声信号処理回路基板32をヨーク16cに固定した後に、信号ライン用コネクター71を音声信号処理回路基板32に接続することができるので、信号ライン用コネクター71を容易に接続できる。なお、
図8では、音声信号処理回路基板32に接続される前の信号ライン部67を示している。
【0050】
音声信号処理回路基板32に接続された信号ライン部67は、駆動信号に基づいてボビン主部65が振動した際に、信号ライン用コネクター71が動作支点となって移動する。このように、動作支点となる信号ライン用コネクター71をヨーク16cに固定した音声信号処理回路基板32に配置したため、ボビン主部65の振動による信号ライン部67の動作を安定させることができ、信号ライン部67がボビン主部65の振動を阻害することを抑制でき、音質の劣化を防止できる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態に係るボイスコイルスピーカー1では、振動板24と、振動板24に接続され、ボイスコイル22が形成されたボビン21aと、を備え、ボビン21aは、ボイスコイル22が巻き回されて形成されるボビン主部65と、ボビン主部65から延出し、ボイスコイル22に導通する信号ラインが形成された信号ライン部67とを有し、ボビン主部65、及び、信号ライン部67をフレキシブルプリント基板により一体的に形成し、信号ライン部67が延在する部位(本実施形態では、ヨーク16cの裏側)を、シールドケース34で覆った構成としている。この構成により、信号ライン部67の少なくとも一部がシールドケース34に覆われるので、信号ライン部67に形成された信号ラインを流れる信号に対するノイズを防止でき、その結果、音質を向上させることができる。
また、信号ライン部67にシールド材を被覆する必要がなくなるので、信号ライン部67の屈曲性の低下を抑制でき、信号ライン部67がボビン主部65の振動を阻害する事を抑制でき、その結果、音質の劣化を防止できる。
さらに、薄く屈曲性に優れたフレキシブルプリント基板によって信号ライン部67が形成されるため、信号ライン部67がボビン主部65の振動を阻害する事を抑制でき、音質の劣化を防止できる。
【0052】
また、本実施形態では、ヨーク16cの裏側にシールドケース34を設け、ヨーク16cに切欠部36を形成し、この切欠部36に信号ライン部67を通してヨーク16cの裏側のシールドケース34内に延在させた構成としている。この構成により、導電性部材から形成されシールド効果を有するヨーク16cと、シールドケース34とにより、信号ライン部67の略全域をシールドできるので、信号ライン部67に対するノイズを確実に抑制できる。
【0053】
また、本実施形態では、ヨーク16cは、ヨーク底部16aと、このヨーク底部16aからボビン21a内に突出するヨーク凸部16bとを有し、ヨーク凸部16bの側面16b1における信号ライン部67に対応する部位に側面切欠部36aを形成すると共に、ヨーク底部16aに、側面切欠部36aに連通する底面切欠部36bを形成し、ボビン主部65から延出する信号ライン部67を、側面切欠部36a、及び、底面切欠部36bを通してヨーク16cの裏側のシールドケース34内に延在させた構成としている。この構成により、ヨーク16cに設ける切欠部36の大きさを最小限にすることができるので、ヨーク16cに切欠部36を設けることによる磁場への影響を抑制しつつ、ヨーク16cの裏側に信号ライン部67を延出させることができる。
【0054】
また、本実施形態では、ヨーク16cの裏側に設けられたシールドケース34内に音声信号を処理する音声信号処理回路基板32を配置し、信号ライン部67の先端の信号ライン用コネクター71を音声信号処理回路基板32に接続した構成としている。ボイスコイルスピーカー1は、音声信号処理回路基板32が必須構成部材であるが、この構成により、信号ライン部67及び音声信号処理回路基板32を1つのシールドケース34によりシールドでき、部品点数を削減し、製造工程の簡略化を図ることが可能になる。
【0055】
<第2実施形態>
次いで、
図9を参照し、第2実施形態について説明する。
図9は、第2実施形態に係るボイスコイルスピーカー100を示す断面図である。
なお、以下の説明において、上述した第1実施形態と同様の構成要素については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
第1実施形態では、磁気回路部16が振動板24の裏側に設けられていたが、第2実施形態では、磁気回路部116の駆動部116gが振動板24の表側に設けられている。なお、本実施形態では、フレームフランジ27は省略されている。
【0056】
磁気回路部116は、円盤状のヨーク底部116aと、このヨーク底部16aの中央部で振動板24の前方に突出した円柱状のヨーク凸部116bと、このヨーク凸部116bの前端に配置されたヨーク本体116hと、を有するヨーク116cを備えている。ヨーク本体116hの前面には、環状のマグネット116dが固定されており、ヨーク本体116h及びマグネット116dは、ヨーク本体116hの前面に底部を有する有底円筒状の筒体116eに囲まれている。これらのヨーク本体116h、マグネット116d及び筒体116eは磁気回路部116の駆動部116gを構成しており、この駆動部116gは、振動板24よりも前方において、中心軸がボイスコイルスピーカー100の中心軸L1と一致するように位置決めされた上で、ボルト116jによってヨーク凸部116bに固定されている。このように、本実施形態では、振動板24の前方に磁気回路部16の駆動部116gを配置することにより、振動板24の前方に形成されたスペースを有効活用している。
【0057】
ヨーク本体116hの外周と、筒体116eとの内周との間には、ボビン21aと、このボビン21aに錦糸線(リード線)が巻き回されて形成されたボイスコイル22と、が配置されている。ボビン21aはボビン主部65の後端66側においてダンパー20に支持され、振動板24はボビン主部65の後端66よりも軸方向中央側の位置においてボビン主部65に支持されている。
【0058】
ヨーク底部116aには、信号ライン部67をヨーク116cの裏側に通す切欠部136が形成されている。切欠部136は、ヨーク凸部116bの外側であって、信号ライン部67に対応する部位に設けられており、各切欠部136は少なくとも信号ライン部67を通すことが可能な大きさを有している。本実施形態の各切欠部136は、ヨーク底部116aの半径方向に延びる矩形状を有し、切欠部136の幅は少なくとも信号ライン部67の幅Wより大きく形成され、切欠部136の長さL4はボビン主部65が振動した際の信号ライン部67の移動を許容可能な長さに形成されている。
スピーカーフレーム13にも、切欠部136に対応する位置に、切欠部136と略同一の大きさのフレーム切欠部13aが形成されている。
【0059】
ボビン主部65から延出する信号ライン部67は、スピーカーフレーム13のフレーム切欠部13aとヨーク116cの切欠部136を通されてヨーク16cの裏側のシールドケース34内に延在する。これにより、信号ライン部67は、導電性部材から形成されシールド効果を有するヨーク116cと、輻射ノイズを低減する導電性のシールドケース34とに覆われることとなり、信号ライン部67の大部分をシールドできるので、第1実施形態と略同様の効果を奏する。なお、本実施形態では、ヨーク116c又はシールドケース34に覆われない信号ライン部67の部分にシールド材を被覆することが望ましい。
ヨーク116cの切欠部136を通された信号ライン部67の信号ライン用コネクター71は、音声信号処理回路基板32の表面(ヨーク116c側)に接続される。音声信号処理回路基板32は、信号ライン用コネクター71が接続された後に、ヨーク116cに固定される。
【0060】
なお、上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形および応用が可能である。
例えば、上述した実施形態では、ボビン21aに6層のボイスコイル22が形成されていたが、ボイスコイル22の層の数はこれに限らない。すなわち、本発明は、ボビン21aに一又は複数層のボイスコイル22が形成されたボイスコイルスピーカー1に対して広く適用可能である。
【0061】
また、上述した実施形態では、信号ライン部67は2つ設けられていたが、1つであってもよく、また、3つ以上の複数であってもよい。信号ライン部67を複数設ける場合には、
図10に示すように、複数の信号ライン部67は、ボビン21aの中心軸L1に対して対称となる位置、換言すれば円筒状のボビン主部65の周方向に等間隔Sに配置するのが望ましい。これにより、信号ライン部67からの力がボビン主部65に略均等に掛かり、ボビン主部65に偏った負荷が加わりにくくなるので、ボビン主部65が円滑に振動し、信号ライン部67による音質の劣化を防止できる。なお、信号ライン部67の数が奇数の場合には、信号ライン部67をボビン21aの中心軸L1に対して対称となる位置に設けることができないため、ボビン主部65の周方向に等間隔Sに配置すればよい。
信号ライン部67の数を多くするほど、各信号ライン部67の幅を小さくできるので、信号ライン部67の屈曲性、柔軟性をより大きく確保できる。それに加え、ボビン主部65の直線状になる部位65aが小さくり、丸めたボビン主部65を真円に近づけることができるので、ボビン21aの振動を振動板24(
図1等)に周方向において略均一に伝達することができ、音質の劣化を防止できる。
【0062】
また、上述した実施形態では、2つの側面切欠部36aに対して1つの底面切欠部36bが設けられているが、これに限定されず、例えば側面切欠部36aのそれぞれに底面切欠部36bを形成してもよい。
【0063】
また、上述した実施形態では、ヨーク16c,116cの裏側のシールドケース34内に音声信号処理回路基板32を配置したが、シールドケース34内に配置する基板は、これに限定されるものではない。例えば、音声信号処理回路基板32をボイスコイルスピーカー1,100と別体に構成する場合には、シールドケース34内に、信号ライン部67と、外部の音声信号処理回路基板32とを接続するための基板を配置してもよい。
【0064】
また、上述した実施形態では、ヨーク16cとシールドケース34とにより、信号ライン部67の略全域を覆う構成としたが、この構成に限定されず、例えば、信号ライン部67の略全域をシールドケース34で覆う構成としてもよく、また、信号ライン部67の一部をヨーク16c及び/又はシールドケース34で覆う構成としてもよい。
また、上述した実施形態では、ボイスコイルスピーカー1,100は、車両に設けられていたが、車載用に限定されるものではない。