(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132527
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】高炉スラグ含有セメントスラリー組成物及びこれを用いたソイルセメントスラリーの調製方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/08 20060101AFI20170515BHJP
C04B 28/04 20060101ALI20170515BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20170515BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20170515BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20170515BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20170515BHJP
C04B 24/10 20060101ALI20170515BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20170515BHJP
C09K 17/44 20060101ALI20170515BHJP
C09K 17/20 20060101ALI20170515BHJP
C09K 17/42 20060101ALI20170515BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20170515BHJP
C08F 222/06 20060101ALN20170515BHJP
C08F 216/14 20060101ALN20170515BHJP
C08F 290/06 20060101ALN20170515BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B28/04
C04B18/14 A
C04B22/14 B
C04B24/26 H
C04B24/26 A
C04B24/06 A
C04B24/10
C04B14/10 Z
C09K17/44 P
C09K17/20 P
C09K17/42 P
E02D3/12 102
!C08F222/06
!C08F216/14
!C08F290/06
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-264186(P2012-264186)
(22)【出願日】2012年12月3日
(65)【公開番号】特開2014-108911(P2014-108911A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081798
【弁理士】
【氏名又は名称】入山 宏正
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴穂
(72)【発明者】
【氏名】米澤 敏男
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅路
(72)【発明者】
【氏名】上田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】幸加木 宏亮
(72)【発明者】
【氏名】木之下 光男
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 和秀
(72)【発明者】
【氏名】玉木 伸二
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−036044(JP,A)
【文献】
特開2011−026167(JP,A)
【文献】
特開平10−007446(JP,A)
【文献】
特開2006−298726(JP,A)
【文献】
特開2011−121793(JP,A)
【文献】
特開2009−035453(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/143629(WO,A1)
【文献】
特開2010−285289(JP,A)
【文献】
特開2010−285292(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/143630(WO,A1)
【文献】
特開2012−051737(JP,A)
【文献】
特開2013−203635(JP,A)
【文献】
特開2013−001603(JP,A)
【文献】
米国特許第04328039(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結合材、水、ベントナイト及び添加剤を含有する高炉スラグセメントスラリー組成物であって、結合材として下記の高炉スラグ組成物を用い、また添加剤の少なくとも一部として下記の流動化剤を高炉スラグ組成物100質量部当たり0.1〜5質量部の割合で含有し、更に水/結合材の質量比を100〜250%に調製したことを特徴とする高炉スラグ含有セメントスラリー組成物。
高炉スラグ組成物:粉末度が3000〜8000cm2/gの高炉スラグ微粉末を60〜70質量%、ポルトランドセメントを20〜35質量%及び石膏を5〜12質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る高炉スラグ組成物。
流動化剤:下記のA成分を65〜99質量%及び下記のB成分を1〜35質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る流動化剤。
A成分:分子中に下記の構成単位Lを40〜60モル%及び下記の構成単位Mを60〜40モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜80000の水溶性ビニル共重合体。
構成単位L:マレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位M:分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及び分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上。
B成分:グルコン酸、グルコン酸アルカリ金属塩及びショ糖から選ばれる一つ又は二つ以上
【請求項2】
B成分がグルコン酸ナトリウム塩である請求項1記載の高炉スラグ含有セメントスラリー組成物。
【請求項3】
流動化剤がA成分を75〜97質量%及びB成分を3〜25質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものである請求項1又は2記載の高炉スラグ含有セメントスラリー組成物。
【請求項4】
高炉スラグ組成物100質量部当たり、流動化剤を0.2〜3質量部の割合で含有する請求項1〜3のいずれか一つの項記載の高炉スラグ含有セメントスラリー組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つの項記載の高炉スラグ含有セメントスラリー組成物を土壌1m3当たり300〜1200kgの割合で用いることを特徴とするソイルセメントスラリーの調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高炉スラグ含有セメントスラリー組成物及びこれを用いたソイルセメントスラリーの調製方法に関する。近年、二酸化炭素排出量の削減やエネルギー消費効率の改善についての要求が益々強くなっている。かかる事情に鑑み、ソイルセメントを利用する山留め工事、地下止水工事、軟弱地盤改良工事等で実施されるソイルセメント壁工法においても、製鉄所から副産する高炉水砕スラグが高炉スラグ微粉末の形で高炉セメントの原料として有効利用されている。一般にソイルセメント壁工法は、セメント系固化材と水とを混合したセメントスラリー(セメントミルク)を地盤に注入し、削孔混練機械を用いて原位置で土と攪拌混合して硬化させ、山留め壁を造る工法であるが、高炉セメントはセメント系固化材として用いられている。高炉セメントは、普通ポルトランドセメントに高炉スラグ微粉末を混合して製造され、JIS−R5211の規格では、高炉スラグ微粉末の含有量によって、A種(5%超〜30%)、B種(30%超〜60%)及びC種(60%超〜70%)の3種類に分けられているが、ソイルセメント壁工法では高炉セメントB種が使用されており、高炉スラグ微粉末の含有量が高炉セメントB種よりも多い高炉セメントは使用されていないのが実状である。ソイルセメント壁工法において高炉セメントB種は、地盤1m
3中に100〜400kgの割合で混入するのが一般的であるが、高炉セメントB種1トンを工場で製造するために約400kgの二酸化炭素を排出しているので、高炉セメントB種を用いて地盤1m
3を改良するためには、施工機械の運転や材料の運搬等などにより発生する二酸化炭素の排出を除き、40〜160kgの二酸化炭素を排出していることになる。そのため、ソイルセメント壁工法を実施する現場では、1)高炉スラグ微粉末を現在(高炉セメントB種)よりもっと多い割合で使用することにより、二酸化炭素の発生を抑制すること、2)セメントミルクと土壌を混合したソイルセメントスラリーに充分な流動性と流動保持性を持たせることにより、具体的にはフロー値が200mm以上となるような流動性と流動保持性を持たせることにより、一定の作業時間内における応力負担材(H鋼)の挿入性を確保すると共に、地中へのセメントミルクの注入率を下げることにより、廃棄することとなる建設汚泥の発生量を抑えること、3)セメントミルクと土壌との均一混合を促すことにより、ソイルセメント壁に充分な止水性及び強度等を発現させること、以上の1)〜3)が同時に要求される。本発明はかかる要求に応えることができる高炉スラグ含有セメントスラリー組成物及びこれを用いたソイルセメントスラリーの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ソイルセメントスラリーの流動化方法として、各種の流動化剤を添加する方法が知られている(例えば特許文献1〜3参照)。また地盤改良において、高炉スラグ微粉末を現在よりもっと多い割合で使用することにより、二酸化炭素の発生を抑制する方法も知られている(例えば特許文献4〜7参照)。しかし、これらの従来法では、前記したソイルセメント壁工法における前記した1)〜3)の要求に同時に且つ充分に応えることができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−169209号公報
【特許文献2】特開2011−121793号公報
【特許文献3】特開2012−51737号公報
【特許文献4】特開2010−285465号公報
【特許文献5】国際公開第2010/143630号
【特許文献6】特開2010−285466号公報
【特許文献7】特開2011−236073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、1)高炉スラグ微粉末を現在(高炉セメントB種)よりもっと多い割合で使用することにより、二酸化炭素の発生を抑制すること、2)セメントミルクと土壌を混合したソイルセメントスラリーに充分な流動性と流動保持性を持たせることにより、具体的にはフロー値が200mm以上となるような流動性と流動保持性を持たせることにより、一定の作業時間内における応力負担材(H鋼)の挿入性を確保すると共に、地中へのセメントミルクの注入率を下げることにより、廃棄することとなる建設汚泥の発生量を抑えること、3)セメントミルクと土壌との均一混合を促すことにより、ソイルセメント壁に充分な止水性及び強度等を発現させること、以上の1)〜3)を同時に且つ充分に達成することができる高炉スラグ含有セメントスラリー組成物及びこれを用いたソイルセメントスラリーの調製方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく研究した結果、結合材として特定の3成分を特定割合で含有して成る高炉スラグ組成物を用い、また添加剤の少なくとも一部として特定の2成分を特定割合で含有して成る流動化剤を高炉スラグ組成物に対し特定割合で用いて、更に水/結合材の質量比を特定範囲に調製した高炉スラグ含有セメントスラリー組成物を用いることが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、少なくとも結合材、水、ベントナイト及び添加剤を含有する高炉スラグ含有セメントスラリー組成物であって、結合材として下記の高炉スラグ組成物を用い、また添加剤の少なくとも一部として下記の流動化剤を高炉スラグ組成物100質量部当たり0.1〜5質量部の割合で含有し、更に水/結合材の質量比を100〜250%に調製したことを特徴とする高炉スラグ含有セメントスラリー組成物に係る。
【0007】
高炉スラグ組成物:粉末度が3000〜8000cm
2/gの高炉スラグ微粉末を
60〜70質量%、ポルトランドセメントを20〜
35質量%及び石膏を
5〜12質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る高炉スラグ組成物。
【0008】
流動化剤:下記のA成分を65〜99質量%及び下記のB成分を1〜35質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る流動化剤。
【0009】
A成分:分子中に下記の構成単位Lを40〜60モル%及び下記の構成単位Mを60〜40モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜80000の水溶性ビニル共重合体。
【0010】
構成単位L:マレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩から形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位M:分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及び分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上。
【0011】
B成分:グルコン酸、グルコン酸アルカリ金属塩及びショ糖から選ばれる一つ又は二つ以上
【0012】
また本発明は、本発明に係る高炉スラグ含有セメントスラリー組成物を土壌1m
3当たり300〜1200kgの割合で用いることを特徴とするソイルセメントスラリーの調製方法に係る。
【0013】
本発明に係る高炉スラグ含有セメントスラリー組成物(以下、本発明のスラリー組成物という)は、少なくとも結合材、水、ベントナイト及び添加剤を含有して成るものである。本発明のスラリー組成物は、結合材として特定の3成分を所定割合で含有して成る高炉スラグ組成物を用いたものである。かかる高炉スラグ組成物は、粉末度が3000〜8000cm
2/gの高炉スラグ微粉末
を60〜70質量%、ポルトランドセメントを20〜35質量%及び石膏を5〜12質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものである。
【0014】
前記の高炉スラグ微粉末には、粉末度が3000〜8000cm
2/gのものを使用するが、好ましくは粉末度が3500〜6500cm
2/gのものを使用する。粉末度が3000〜8000cm
2/gの範囲を外れたものを使用すると、調製したソイルセメントスラリーの流動性が悪くなったり、得られる硬化体の強度が低下したりする。尚、本発明において粉末度は、ブレーン法による比表面積で表したものである。
【0015】
またポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントが挙げられるが、なかでも汎用の普通ポルトランドセメントが好ましい。
【0016】
また石膏としては、無水石膏、二水石膏、半水石膏等が挙げられるが、なかでも無水石膏が好ましい。無水石膏としては、天然無水石膏や副産無水石膏等が挙げられるが、いずれにしてもそれを90質量%以上の純度で含有するものが好ましい。無水石膏の粉末度は、2500〜8000cm
2/gのものが好ましく、3000〜6500cm
2/gのものがより好ましい。
【0017】
本発明のスラリー組成物にはベントナイトを用いる。ベントナイトはモンモリロナイトを主成分とする粘土鉱物であるが、かかるベントナイトとしては市販のものを使用できる。
【0018】
本発明のスラリー組成物には、添加剤の少なくとも一部として特定の流動化剤を用いる。高炉スラグ微粉末の含有量の多い高炉セメントを用いたソイルセメントスラリーは、施工時において、従来のポルトランドセメントや高炉セメントB種を用いたソイルセメントスラリーに比べて流動性の低下が著しくなる傾向が強いため、本発明のスラリー組成物では、かかる流動性の低下を防止する目的で、流動保持性に優れた流動化剤として、A成分とB成分とから成る特定の流動化剤を用いる。
【0019】
A成分は、分子中に構成単位Lを40〜60モル%及び構成単位Mを60〜40モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜80000の水溶性ビニル共重合体であり、ソイルセメントスラリーに優れた流動性を付与する。構成単位Lはマレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩から形成された構成単位から選ばれるものであり、構成単位Mは分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及び分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから形成された構成単位から選ばれるものである。かかるA成分の水溶性ビニル共重合体は公知の方法(例えば特開2012−51737号参照)で合成することができる。
【0020】
B成分は、ソイルセメントスラリーに流動性を付与した後の経時的な流動性を良好に保つ。かかるB成分としては、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸リチウム等のグルコン酸アルカリ金属塩、及びショ糖から選ばれる化合物が挙げられるが、なかでもグルコン酸ナトリウムが好ましい。
【0021】
本発明のスラリー組成物に用いる流動化剤は、A成分を65〜99質量%及びB成分を1〜35質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものであるが、なかでもA成分を75〜97質量%及びB成分を3〜25質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものが好ましい。かかる流動化剤はA成分とB成分を予め所定の比率で混合しておいたものを水に溶解した1液型の水溶液として使用することが好ましく、その使用量は結合材100質量部当たり0.1〜5質量部の割合となるようにするが、好ましくは0.2〜3質量部の割合となるようにする。
【0022】
本発明のスラリー組成物は公知の方法で調製することができる。例えば、高炉スラグ組成物とベントナイトと流動化剤及び水の各所定量をミキサーに投入して練り混ぜる方法で調製することができる。この際、ベントナイトは本発明のスラリー組成物それ自体の分離防止や水分逸散防止等の目的で用い、通常は本発明のスラリー組成物の0.3〜10質量%となる範囲で用いる。また本発明のスラリー組成物は水/結合材の質量比が100〜250%となるように調製するが、150〜230%とするように調製するのが好ましい。尚、本発明のスラリー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、消泡剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、繊維等を添加して用いることもできる。
【0023】
本発明に係るソイルセメントスラリーの調製方法では、以上説明した本発明のスラリー組成物を、土壌1m
3当たり300〜1200kg、好ましくは400〜1000kgの割合で用いて土壌と混合し、ソイルセメントスラリーとする。土壌1m
3当たりの本発明のソイルセメントスラリーに要求される流動性、得られる硬化体に要求される強度、混合する土壌の性状等に応じて、適宜選択することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、山留め工事や地下止水工事等におけるソイルセメント壁工法において、1)高炉スラグ微粉末を現在(高炉セメントB種)よりもっと多い割合で使用することにより、二酸化炭素の発生を抑制すること、2)セメントミルクと土壌を混合したソイルセメントスラリーに充分な流動性と流動保持性を持たせることにより、具体的にはフロー値が200mm以上となるような流動性と流動保持性を持たせることにより、一定の作業時間内における応力負担材(H鋼)の挿入性を確保すると共に、地中へのセメントミルクの注入率を下げることにより、廃棄することとなる建設汚泥の発生量を抑えること、3)セメントミルクと土壌との均一混合を促すことにより、ソイルセメント壁に充分な止水性及び強度等を発現させること、以上の1)〜3)を同時に且つ充分に達成することができるという効果がある。
【0025】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例等において、別に記載しない限り、%は質量%を、また部は質量部を意味する。
【実施例】
【0026】
試験区分1(流動化剤の調製)
・A成分としての水溶性ビニル共重合体(a−1)の合成
無水マレイン酸98g及びα−アリル−ω−メチル−ポリ(n=33)オキシエチレン1512gを反応容器に仕込み、徐々に加温して攪拌しながら均一に溶解した後、反応容器内の雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水浴にて83℃に保ち、過酸化ベンゾイル2gを投入してラジカル重合反応を開始した。更に過酸化ベンゾイル3gを分割投入し、ラジカル重合反応を4時間継続して反応させた。得られた共重合体に水を加えて加水分解し、水溶性ビニル共重合体(a−1)の40%水溶液を得た。この水溶性ビニル共重合体(a−1)を分析したところ、マレイン酸から形成された構成単位/α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=33)から形成された構成単位=50/50(モル比)の割合で有する質量平均分子量42000(GPC法、プルラン換算)の水溶性ビニル共重合体であった。
【0027】
・水溶性ビニル共重合体(a−3)の合成
α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=30)オキシエチレン1370g(1.0モル)、マレイン酸116g(1.0モル)及び水1760gを反応容器に仕込み、撹拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水浴にて60℃に保ち、過硫酸ナトリウムの20%水溶液8gを加えてラジカル重合反応を開始した。更に過硫酸ナトリウムの20%水溶液5gを加え、ラジカル重合反応を5時間継続して反応を完結し、水溶性ビニル共重合体を得た後、48%水酸化ナトリウム水溶液167g(2.0モル)を加えて中和し、水を390g加えて水溶性ビニル共重合体(a−3)の40%水溶液を得た。水溶性ビニル共重合体(a−3)を分析したところ、マレイン酸ナトリウムから形成された構成単位/α−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレン(n=30)から形成された構成単位=50/50(モル比)の割合で有する質量平均分子量51600(GPC法、プルラン換算)の水溶性ビニル共重合体であった。
【0028】
水溶性ビニル共重合体(a−2)、(ar−1)、(ar−2)及び(ar−5)の合成
水溶性ビニル共重合体(a−1)の合成と同様にして、水溶性ビニル共重合体(a−2)、(ar−1)、(ar−2)及び(ar−5)を合成した。
【0029】
水溶性ビニル共重合体(ar−3)及び(ar−4)の合成
水溶性ビニル共重合体(a−3)の合成と同様にして、水溶性ビニル共重合体(ar−3)及び(ar−4)を合成した。以上で合成したA成分としての水溶性ビニル共重合体の内容を表1にまとめて示した。
【0030】
【表1】
【0031】
表1において、
質量平均分子量:GPC法、プルラン換算
L−1:マレイン酸から形成された構成単位
L−2:マレイン酸ナトリウムから形成された構成単位
M−1:α−アリル−ω−メチル−ポリ(n=33)オキシエチレンから形成された構成単位
M−2:α−アリル−ω−メチル−ポリ(n=68)オキシエチレンから形成された構成単位
M−3:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=30)オキシエチレンから形成された構成単位
M−4:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=105)オキシエチレンから形成された構成単位
M−5:α−アリル−ω−メチル−ポリ(n=9)オキシエチレンから形成された構成単位
【0032】
・流動化剤(d−1)の調製
A成分として表1に記載の水溶性ビニル共重合体(a−1)の40%水溶液を225部、B成分としてグルコン酸ナトリウム(試薬一級)を10部及び水15部をガラス容器に投入して撹拌混合し、水溶性ビニル共重合体(a−1)を90質量%及びグルコン酸ナトリウムを10質量%(合計100質量%)の割合で含有する流動化剤(d−1)の40%水溶液を調製した。
【0033】
・流動化剤(d−2)〜(d−8)及び(dr−1)〜(dr−11)の調製
流動化剤(d−1)の調製と同様にして、流動化剤(d−2)〜(d−8)の水溶液及び流動化剤(dr−1)〜(dr−11)の水溶液を調製した。調製した各流動化剤の内容を表2にまとめて示した。
【0034】
【表2】
【0035】
表2において、
a−1〜a−3,ar−1〜ar−5:試験区分1で合成した表1に記載の水溶性ビニル共重合体
b−1:グルコン酸ナトリウム
b−2:グルコン酸
c−1:ショ糖
*1:ナフタレンスルホン酸ホルマリン高縮合物塩を主成分とする分散剤
*2:ポリアクリル酸塩を主成分とする分散剤
*3:リグニンスルホン酸塩を主成分とする分散剤
【0036】
試験区分2(高炉スラグ組成物の調製)
表3に記載の調合条件で、高炉スラグ微粉末、ポルトランドセメント及び石膏を用いて高炉スラグ組成物(S−1)、(S−2)及び(SR−1)を調製した。
【0037】
【表3】
【0038】
表3において、
sg−1:粉末度が4100cm
2/gの高炉スラグ微粉末
sg−2:粉末度が5900cm
2/gの高炉スラグ微粉末
gp−1:粉末度が4150cm
2/gの無水石膏
N:普通ポルトランドセメント
【0039】
試験区分3(セメントスラリー組成物の調製)
実施例1〜15及び比較例1〜21
表4に記載の配合条件で、ホバートミキサーに、表3に記載の高炉スラグ組成物(S−1)、ベントナイト及び練り混ぜ水(水道水)の所定量を順次投入し、また表2に記載の流動化剤の所定量を投入して練り混ぜ、表4に記載した実施例1〜15のセメントスラリー組成物(SL−1)〜(SL−15)及び比較例1〜21のセメントスラリー組成物(RSL−1)〜(RSL−21)を調製した。
【0040】
【表4】
【0041】
表4において、
S−1,S−2,SR−1:表3に記載の高炉スラグ組成物
d−1〜d−8,dr−1〜dr−11:表2に記載の流動化剤
流動化剤の使用量:高炉スラグ組成物100質量部当たりの流動化剤の質量部
*4:高炉セメントB種(密度=3.04g/cm
3、ブレーン値3850cm
2/g)
【0042】
試験区分4(ソイルセメントスラリーの調製及び評価)
実施例16〜30及び比較例22〜42
・ソイルセメントスラリーの調製
表4に記載のセメントスラリー組成物を用い、材齢28日で2N/mm
2以上の一軸圧縮強度が得られることを目標に想定して、土壌1m
3当たりのセメントスラリー組成物の使用量(kg)を定めた。すなわち、表4に記載のセメントスラリー組成物の所定量をホバートミキサーに投入した後、表5に記載の物性値を有する混合土(地盤を掘削して得た粘性土を、珪砂と、粘性土/珪砂=3/1(質量比)の割合で混合したもの)を加えて撹拌混合し、ソイルセメントスラリーを調製した。各例で調製したソイルセメントスラリーの内容を表6にまとめて示した。また二酸化炭素の排出量の低減効果についても表6にまとめて示した。
【0043】
【表5】
【0044】
・ソイルセメントスラリーの物性評価
調製した各例のソイルセメントスラリーについて、練り混ぜ直後のフロー値及び練り混ぜてから120分経過後のフロー値を次のように求め、双方からフロー残存率を計算すると共に、得られた硬化体について、一軸圧縮強度及び透水比を次のように求め、結果を表7にまとめて示した。
【0045】
フロー値:JIS−R5201に準拠し、練り混ぜ直後と120分後にフロー試験を行い、15回落差後のフロー値(mm)を測定した。
【0046】
フロー残存率:(2時間静置後のフロー値/練り混ぜ直後のフロー値)×100で求めた。
【0047】
一軸圧縮強度試験:JIS−A1108に準拠し、直径50mm×高さ100mmの型枠を用いて成形した成形品について、材齢28日の圧縮強度(N/mm
2)を測定した。
【0048】
透水比:JIS−A1404に準拠し、直径150mm×高さ40mmの金属製型枠にソイルセメントスラリーを充填した後、ポリエチレンフィルムで表面を覆って、温度20℃、湿度80%の恒温室に28日間養生し、脱型後に表面を平滑に仕上げて、試験体を作製した。この試験体の上下両面の中央に、直径5cmの円孔をもつ厚さ1cmのゴムガスケットを当て、均一に締め付けた後、上面から9.8kPaの水圧を1時間かけて透水試験をおこなった。透水の目安として、下記の透水比を算出した。ここで透水比の数値が小さいほど遮水性が優れていることを意味する。
透水比=各例のソイルセメントスラリーから作製した試験体の透水量(g)/比較例22のソイルセメントスラリーから作製した試験体の透水量(g)
【0049】
【表6】
【0050】
表6において、
SL−1〜SL−15,RSL−1〜RSL−21:表4に記載のセメントスラリー組成物
注入量:混合土1m
3当たりのセメントスラリー組成物の注入量(kg)
注入率容積:混合土1m
3当たりのセメントスラリー組成物の注入割合(容積%)
結合材の含有量:混合土1m
3当たりの結合材として用いた高炉スラグ組成物又は高炉セメントB種の含有量
二酸化炭素の排出量:混合土1m
3当たりに用いた結合材の製造に必要なエネルギーに由来する二酸化炭素の排出量を計算から求めた値(kg/混合土1m
3)
【0051】
【表7】
【0052】
表7において、
*5:流動化剤の添加量を増やしても目標のフロー値に達しなかったので測定しなかった。
【0053】
表6及び表7から明らかなように、各実施例で調製したソイルセメントスラリーによると、1)高炉スラグ微粉末を現在(高炉セメントB種)よりもっと多い割合で使用することにより、二酸化炭素の発生を抑制すること、2)セメントミルクと土壌を混合したソイルセメントスラリーに充分な流動性と流動保持性を持たせることにより、具体的にはフロー値が200mm以上となるような流動性と流動保持性を持たせることにより、一定の作業時間内における応力負担材(H鋼)の挿入性を確保すると共に、地中へのセメントミルクの注入率を下げることにより、廃棄することとなる建設汚泥の発生量を抑えること、3)セメントミルクと土壌との均一混合を促すことにより、ソイルセメント壁に充分な止水性及び強度等を発現させること、以上の1)〜3)を同時に且つ充分に達成することができる。