【文献】
Journal of Bacteriology,2003年,Vol.185,No.10,pp.3020−3030
【文献】
Journal of Bacteriology,1997年,Vol.179,No.20,pp.6228−6237
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ノックアウト変異Ptr遺伝子及び/又は前記ノックアウト変異Tsp遺伝子が、遺伝子開始コドンへの変異、並びに/又は遺伝子開始コドンの下流及び遺伝子停止コドンの上流に位置する1つ若しくは複数の停止コドンを含む、請求項1又は2に記載の細胞。
シャペロン活性を持つがプロテアーゼ活性を持たないDegPタンパク質をコードする変異DegP遺伝子及びノックアウト変異Tsp遺伝子を含む、請求項2に記載の細胞。
前記ノックアウト変異Ptr遺伝子及び/又は前記ノックアウト変異Tsp遺伝子が、遺伝子開始コドンへのミスセンス変異及び任意選択で1つ又は複数のさらなる点変異により作出される制限マーカー部位を含む、請求項9に記載の細胞。
【発明を実施するための形態】
【0040】
配列の簡単な説明
配列番号1は、開始コドンの上流に6ヌクレオチドATGAACを包含する、変異していないTsp遺伝子のDNA配列である。
配列番号2は、変異していないTspタンパク質のアミノ酸配列である。
配列番号3は、開始コドンの上流に6ヌクレオチドATGAATを包含する、変異ノックアウトTsp遺伝子のDNA配列である。
配列番号4は、変異していないプロテアーゼIII遺伝子のDNA配列である。
配列番号5は、変異していないプロテアーゼIIIタンパク質のアミノ酸配列である。
配列番号6は、変異ノックアウトプロテアーゼIII遺伝子のDNA配列である。
配列番号7は、変異していないDegP遺伝子のDNA配列である。
配列番号8は、変異していないDegPタンパク質のアミノ酸配列である。
配列番号9は、変異DegP遺伝子のDNA配列である。
配列番号10は、変異DegPタンパク質のアミノ酸配列である。
配列番号11は、抗TNF抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号12は、抗TNF抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号13は、抗TNF抗体の軽鎖のアミノ酸配列である。
配列番号14は、抗TNF抗体の重鎖のアミノ酸配列である。
配列番号15は、変異Tsp遺伝子の領域のためのAse I制限部位を含む3’オリゴヌクレオチドプライマー配列である。
配列番号16は、変異Tsp遺伝子の領域のためのAse I制限部位を含む5’オリゴヌクレオチドプライマー配列である。
配列番号17は、変異プロテアーゼIII遺伝子の領域のためのAse I制限部位を含む3’オリゴヌクレオチドプライマー配列である。
配列番号18は、変異プロテアーゼIII遺伝子の領域のためのAse I制限部位を含む5’オリゴヌクレオチドプライマー配列である。
配列番号19は、変異DegP遺伝子の領域のためのAse I制限部位を含む5’オリゴヌクレオチドプライマー配列である。
配列番号20は、変異DegP遺伝子の領域のためのAse I制限部位を含む3’オリゴヌクレオチドプライマー配列である。
【0041】
本発明の第一の態様及び第二の態様において、本発明者らは、1つ又は複数のプロテアーゼ変異を導入するのに必要とされるゲノムへの最小限の変異のみを含む、目的タンパク質を発現するのに適した組換えグラム陰性細菌細胞を提供した。本発明の第一の態様において、細菌細胞は野生型細菌細胞と、シャペロン活性及び低減されたプロテアーゼ活性を持つDegPタンパク質をコードする変異DegP遺伝子、変異ptr並びに変異Tsp遺伝子から選択される1つ又は複数の変異プロテアーゼ遺伝子、並びに任意選択で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列のみが異なる。本発明の第二の態様において、細菌細胞はTsp及び/又はプロテアーゼIIIのノックアウト変異を含み、ここでTsp及び/又はプロテアーゼIII遺伝子は遺伝子開始コドンへの変異並びに/又は遺伝子開始コドンの下流及び遺伝子停止コドンの上流に位置する1つ若しくは複数の停止コドンを含む。
【0042】
本発明の第一及び第二の態様により提供される細胞は変異していない細胞と比較して低減されたプロテアーゼ活性を持ち、目的の組換えタンパク質、とりわけタンパク質分解感受性である目的タンパク質のタンパク質分解を低減させることができる。それ故、本発明の第一及び第二の態様により提供されるグラム陰性細胞の1つ又は複数は、変異していない細菌細胞と比較して、インタクトな目的の組換えタンパク質を高収量で及び目的タンパク質のタンパク質分解断片を低収量又は好ましくは無収量で提供することができる。
【0043】
当業者は、候補の細胞クローンが所望の目的タンパク質収量を持つかを見るために、発酵法、ELISA及びタンパク質G hplcを包含する当該技術分野でよく知られている方法を用いて、当該クローンを試験することが容易に可能であろう。適した発酵法はHumphreys D Pら(1997)、「大腸菌における二量体Fabの形成:ヒンジのサイズ及びアイソタイプ、鎖間ジスルフィド結合の存在、Fab’発現レベル、尾部の配列並びに増殖条件の影響(Formation of dimeric Fabs in E. coli:effect of hinge size and isotype,presence of interchain disulphide bond,Fab’ expression levels,tail piece sequences and growth conditions.)」、J.IMMUNOL.METH.209:193〜202ページ;Backlund E.Reeks D.Markland K.Weir N.Bowering L.Larsson G.、「大腸菌におけるペリプラズム産物保持のための流加回分の設計(Fedbatch design for periplasmic product retention in Escherichia coli)」、Journal Article.Research Support、Non−U.S.Gov’t Journal of Biotechnology.135(4):358〜65ページ、2008 Jul 31;Champion KM.Nishihara JC.Joly JC.Arnott D.、「異なる生物製剤の発酵プロセス完了時の大腸菌プロテオームの類似性(Similarity of the Escherichia coli proteome upon completion of different biopharmaceutical fermentation processes.)」、[Journal Article]Proteomics.1(9):1133〜48ページ、2001 Sep;及びHorn U.Strittmatter W.Krebber A.Knupfer U.Kujau M.Wenderoth R.Muller K.Matzku S.Pluckthun A.Riesenberg D.、「非制限増殖条件下で最適化発現ベクター及び高細胞密度発酵を用いた大腸菌における機能的二量体ミニ抗体の高容積収量(High volumetric yields of functional dimeric miniantibodies in Escherichia coli,using an optimized expression vector and high−cell−density fermentation under non−limited growth conditions)」、Journal Article.Research Support、Non−U.S.Gov’t Applied Microbiology & Biotechnology.46(5−6):524〜32ページ、1996 Dec.に記載される。当業者は、タンパク質が正しくフォールドされているかを見るために、タンパク質G HPLC、円二色法、NMR、X線結晶解析法及びエピトープアフィニティー測定法などの当該技術分野でよく知られている方法を用いて、分泌されるタンパク質を試験することが容易に可能であろう。
【0044】
本発明の第一及び第二の態様の組換え細菌細胞の1つ又は複数は、変異していない細菌細胞と比較して顕著に改善されたタンパク質収量を示し得る。改善されたタンパク質収量はペリプラズムのタンパク質収量及び/又は上清のタンパク質収量とすることができる。本発明の第一及び第二の態様の組換え細菌細胞の1つ又は複数は、目的タンパク質のより高速な生産が可能であり、それ故、変異していない細菌細胞と比較して同じ量の目的タンパク質がより短い時間で生産され得る。目的タンパク質のより高速な生産は、細胞増殖の初期期間、例えばタンパク質発現の誘導後の最初の5、10、20又は30時間にわたって特に顕著であり得る。
【0045】
Tsp変異、好ましくはノックアウト変異を単独で又はDegP変異若しくはプロテアーゼIII変異との組み合わせで含む本発明による細胞がとりわけ好ましい。これらの細胞は変異していない細胞と比較して、目的タンパク質のより高い収量及びより高速な初期収量を示す。変異Tsp遺伝子を単独で又は変異DegP遺伝子又は変異ptr遺伝子との組み合わせで含むかかる細胞系の例は、遺伝子型ΔTspを持ち、2009年5月21日にNational Collection of Type Cultures、HPA、英国にアクセッション番号NCTC13444で寄託された変異体大腸菌細胞株MXE001、遺伝子型ΔTspΔptrを持ち、2009年5月21日にNational Collection of Type Cultures、HPA、英国にアクセッション番号NCTC13447で寄託されたMXE004、及び遺伝子型ΔTsp、DegP S210Aを持ち、2009年5月21日にNational Collection of Type Cultures、HPA、英国にアクセッション番号NCTC13448で寄託されたMXE005である。
【0046】
さらに本細胞の1つ又は複数は、変異していない細菌細胞と実質的に同じ又は変異していない細菌細胞と比較して改善されたものであってもよい、細胞増殖及び/又は複製を包含する良好な増殖プロファイルを示すことができる。
【0047】
本発明の第一の態様による細胞のゲノムは、野生型細胞と比較してゲノムへの最小限の破損を持ったものであり、それによって宿主細胞において典型的に見出される、他の細胞性タンパク質の発現に対する他の変異の有害な作用を低減する。したがって、本発明の第一の態様による組換え宿主細胞の1つ又は複数は、ゲノム配列へのさらなる遺伝子改変変異を含む細胞と比較して、改善されたタンパク質発現及び/又は改善された増殖プロファイルを示すことができる。
【0048】
本発明の第二の態様による細胞のゲノムは、ノックアウト変異を導入するためのゲノムへの最小限の破損を持ったものであり、それによって抗生物質耐性マーカーなどのDNAを挿入することによりプロテアーゼ遺伝子のノックアウトを作出することの有害な作用を低減する。したがって、本発明の第二の態様による組換え宿主細胞の1つ又は複数は、抗生物質耐性マーカーなどのDNAの挿入により作出されるプロテアーゼのノックアウト変異を含む細胞と比較して、改善されたタンパク質発現及び/又は改善された増殖プロファイルを示すことができる。
【0049】
本発明の第一及び第二の態様により提供される細胞はまた、細胞ゲノムにさらなる破損を含む細胞と比較して、治療タンパク質の生産への使用にもより適している。
【0050】
本発明は以下に、より詳細に説明される。本明細書に記載される全ての実施形態は、特に他に述べられていない限り、本発明の第一、第二及び第三の態様を参照する。
【0051】
用語「タンパク質」及び「ポリペプチド」は、文脈により別途示されない限り、本明細書で交換可能に用いられる。「ペプチド」は10以下のアミノ酸を指すことが意図される。
【0052】
用語「ポリヌクレオチド」としては、文脈により別途示されない限り、遺伝子、DNA、cDNA、RNA、mRNAなどが挙げられる。
【0053】
本明細書で用いられる場合、本明細書の文脈における用語「含む」は「包含する」と解釈されるべきである。
【0054】
本発明の文脈における変異していない細胞又は対照細胞は、細胞が上述のプロテアーゼ変異を保有するように改変されていない、本発明の組換えグラム陰性細胞と同じタイプの細胞を意味する。例えば、変異していない細胞は野生型細胞であってもよく、1つ又は複数の変異を導入する改変の前の本発明の細胞と同じ宿主細胞集団に由来するものであってもよい。
【0055】
表現「細胞」、「細胞系」、「細胞培養物」及び「株」は交換可能に用いられる。
【0056】
本発明の文脈における用語「遺伝的に同質な」は、本発明の細胞のゲノムが、上述の変異プロテアーゼ遺伝子の1つ又は複数、及び任意選択で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを除いて野生型細胞と比較して実質的に同一又は同一のゲノム配列を持つことを意味する。この実施形態において、本発明による細胞は、野生型細胞と比較してさらなる非天然の又は遺伝子改変の変異を含まない。一実施形態において、本発明による細胞は、上述のプロテアーゼ変異及び任意選択で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを除いて、起こり得るあらゆる天然の変異を考慮に入れ、野生型細胞と比較して実質的に同一のゲノム配列を持ってもよい。例えば遺伝子置換ベクターによるプロテアーゼ変異の株への導入の間、及び目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの株への導入の間、ゲノム変異はさらに1つ又は複数、株に導入され得ることにも留意すべきである。したがって、一実施形態において、本発明による細胞は、上述のプロテアーゼ変異及び任意選択で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを除いて、起こり得るあらゆる天然の変異並びにプロテアーゼ変異及び/又は目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの導入に由来し得る任意のさらなるゲノム変異を考慮に入れ、野生型細胞と比較して実質的に同一のゲノム配列を持ってもよい。
【0057】
細胞代謝及びDNA複製に関係する遺伝子変異の例としては、当該技術分野において大腸菌株において一般に用いられるが本発明による細胞において用いられないものであり、phoA、fhuA、lac、rec、gal、ara、arg、thi及びproが挙げられる。
【0058】
一実施形態において、本発明による細胞は、上述のプロテアーゼ変異及び任意選択で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを除いて、野生型細胞と比較して正確に同一のゲノム配列を持ってもよい。
【0059】
本発明の文脈における用語「野生型」は、天然に生じ得る又は環境から単離され得る、いかなる遺伝子改変変異も保有しない、グラム陰性細菌細胞の株を意味する。大腸菌の野生型株の例は、W3110 K−12株などのW3110である。野生型株の例としては、
【化1】
を包含するK−12株ファミリーの株が挙げられる。野生型の大腸菌株のさらなる例としては、W株(ATCC9637)及びB株(ATCC23226)が挙げられる。
【0060】
任意の適したグラム陰性細菌が本発明の組換え細胞を生産するための親細胞として用いられ得る。適したグラム陰性細菌としては、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、エルウィニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)、シゲラ(Shigella)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)及び大腸菌が挙げられる。好ましくは親細胞は大腸菌である。任意の適した大腸菌の株が本発明において親細胞として用いられ得る。適した大腸菌株の例としては、
【化2】
を含むK−12株ファミリーが挙げられる。さらなる適した大腸菌株としては、W株(ATCC9637)及びB株(ATCC23226)が挙げられる。好ましくはK−12 W3110などの野生型W3110株が用いられる。
【0061】
本発明の第一の態様による細胞は、1つ又は複数の変異プロテアーゼ遺伝子及び任意選択で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を除いて野生型細菌細胞と遺伝的に同質である。本発明の第二の態様による細胞もまた好ましくは、1つ又は複数の変異プロテアーゼ遺伝子及び任意選択で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を除いて野生型細菌細胞と遺伝的に同質である。
【0062】
好ましい実施形態において、細胞は、上述のプロテアーゼ変異及び任意選択で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを除いて野生型の大腸菌細胞と遺伝的に同質である。より好ましくは、本発明による細胞は、上述のプロテアーゼ変異及び任意選択で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを除いて大腸菌株W3110と遺伝的に同質である。本発明による細胞が上述のプロテアーゼ変異及び任意選択で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを除いて同質遺伝子的であり得る、他の適した野生型の大腸菌細胞の例としては、
【化3】
を包含するK−12株ファミリーの株が挙げられる。本発明による細胞が上述のプロテアーゼ変異及び任意選択で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを除いて同質遺伝子的であり得る、さらなる適した野生型の大腸菌株の例としては、W株(ATCC9637)及びB株(ATCC23226)が挙げられる。
【0063】
本発明の細胞は、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むことにより、野生型細胞とさらに異なり得る。この実施形態において、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、細胞の中に形質転換される及び/又は宿主細胞のゲノム内に組み込まれる適した発現ベクターの中に含有され得る。目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが宿主のゲノム内に挿入される実施形態において、本発明の細胞はまた、挿入される目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列に起因して、野生型細胞と異なるであろう。好ましくは、ポリヌクレオチドは細胞において発現ベクターの中にあり、それによって宿主細胞のゲノムへの最小限の破損を引き起こす。
【0064】
本発明のある特定の実施形態において、組換えグラム陰性細菌細胞は、シャペロン活性及び低減されたプロテアーゼ活性を持つDegPタンパク質をコードする変異DegP遺伝子を含む。本明細書で用いられる「DegP」は、シャペロン及びプロテアーゼとしての二重の機能を持つDegPタンパク質(HtrAとしても知られる)をコードする遺伝子を意味する(「セリンペプチダーゼのファミリー(Families of serine peptidases)」;Rawlings ND、Barrett AJ.Methods Enzymol.1994;244:19〜61ページ)。変異していないDegP遺伝子の配列は配列番号7に示され、変異していないDegPタンパク質の配列は配列番号8に示される。
【0065】
低温では、DegPはシャペロンとして機能し、高温ではDegPはプロテアーゼとして機能する傾向がある(「広範に保存される熱ショックタンパク質におけるシャペロンからプロテアーゼへの温度依存的スイッチ(A Temperature−Dependent Switch from Chaperone to Protease in a Widely Conserved Heat Shock Protein.)」、Cell、Volume 97、Issue 3、339〜347ページ.Spiess C、Beil A、Ehrmann M)及び「大腸菌からのHtrA(DegP)タンパク質の低温でのタンパク質分解活性(The proteolytic activity of the HtrA(DegP)protein from Escherichia coli at low temperatures)」、Skorko−Glonek Jら Microbiology 2008、154、3649〜3658ページ)。
【0066】
細胞がDegP変異を含む実施形態において、細胞におけるDegP変異は、シャペロン活性を持つが完全なプロテアーゼ活性を持たないDegPタンパク質をコードする変異DegP遺伝子を提供する。
【0067】
本発明の文脈における表現「シャペロン活性を持つ」は、変異DegPタンパク質が野生型の変異していないDegPタンパク質と比較して同じ又は実質的に同じシャペロン活性を持つことを意味する。好ましくは、変異DegP遺伝子は、野生型の変異していないDegPタンパク質の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上又は95%以上のシャペロン活性を持つDegPタンパク質をコードする。より好ましくは、変異DegP遺伝子は、野生型DegPと比較して同じシャペロン活性を持つDegPタンパク質をコードする。
【0068】
本発明の文脈における表現「低減されたプロテアーゼ活性を持つ」は、変異DegPタンパク質が野生型の変異していないDegPタンパク質と比較して完全なプロテアーゼ活性を持たないことを意味する。好ましくは、変異DegP遺伝子は、野生型の変異していないDegPタンパク質の50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下又は5%以下のプロテアーゼ活性しか持たないDegPタンパク質をコードする。より好ましくは、変異DegP遺伝子はプロテアーゼ活性を持たないDegPタンパク質をコードする。細胞は染色体のDegPを欠損していない、すなわちDegP遺伝子配列がいずれの形態のDegPタンパク質の発現も妨げるようには欠失又は変異されていない。
【0069】
シャペロン活性及び低減されたプロテアーゼ活性を持つタンパク質を生産するため、任意の適した変異がDegP遺伝子中に導入され得る。グラム陰性細菌から発現されるDegPタンパク質のプロテアーゼ及びシャペロン活性は、当業者により、DegPのプロテアーゼ活性及びシャペロン活性がDegPの天然の基質であるMalSに対して試験されたSpiessらに記載された方法(「広範に保存される熱ショックタンパク質におけるシャペロンからプロテアーゼへの温度依存的スイッチ(A Temperature−Dependent Switch from Chaperone to Protease in a Widely Conserved Heat Shock Protein.)」、Cell、Volume 97、Issue 3、339〜347ページ.Spiess C、Beil A、Ehrmann M)、及び「大腸菌からのHtrA(DegP)タンパク質の低温でのタンパク質分解活性(The proteolytic activity of the HtrA(DegP)protein from Escherichia coli at low temperatures)」、Skorko−Glonek Jら Microbiology 2008、154、3649〜3658ページに記載された方法などの任意の適切な方法により、容易に試験され得る。
【0070】
DegPはセリンプロテアーゼであり、His105、Asp135及びSer210のアミノ酸残基の触媒三残基からなる活性中心を持つ(「セリンペプチダーゼのファミリー(Families of serine peptidases)」、Methods Enzymol.、1994、244:19〜61ページ Rawlings N及びBarrett A)。シャペロン活性及び低減されたプロテアーゼ活性を持つタンパク質を生産するためのDegP変異は、His105、Asp135及びSer210のうちの1、2又は3個へのミスセンス変異などの変異を含むことができる。したがって、変異DegP遺伝子は以下を含むことができる。
・ His105への変異、又は
・ Asp135への変異、又は
・ Ser210への変異、又は
・ His105及びAsp135への変異、又は
・ His105及びSer210への変異、又は
・ Asp135及びSer210への変異、又は
・ His105、Asp135及びSer210への変異
【0071】
His105、Asp135及びSer210のうちの1、2又は3個は、シャペロン活性及び低減されたプロテアーゼ活性を持つタンパク質をもたらす任意の適したアミノ酸へと変異され得る。例えばHis105、Asp135及びSer210のうちの1、2又は3個は、Gly又はAlaなどの小さいアミノ酸へと変異され得る。さらなる適した変異は、His105、Asp135及びSer210のうちの1、2又は3個を逆の性質を持つアミノ酸へと変化させることであり、それはAsp135のLys又はArgへの変異、極性のHis105のGly、Ala、Val又はLeuなどの非極性アミノ酸への変異、及び小さな親水性のSer210のVal、Leu、Phe又はTyrなどの大きな又は疎水性の残基への変異などである。好ましくは、DegP遺伝子は
図1cに示されるような点変異S210Aを含み、この変異はシャペロン活性を持つがプロテアーゼ活性を持たないタンパク質を生産することが見出された(「広範に保存される熱ショックタンパク質におけるシャペロンからプロテアーゼへの温度依存的スイッチ(A Temperature−Dependent Switch from Chaperone to Protease in a Widely Conserved Heat Shock Protein.)」、Cell、Volume 97、Issue 3、339〜347ページ.Spiess C、Beil A、Ehrmann M)。
【0072】
本発明はまた、シャペロン活性及び低減されたプロテアーゼ活性を持つDegPタンパク質をコードする変異DegP遺伝子を含む組換えグラム陰性細菌細胞を提供するが、ここでDegP遺伝子は上で論じられたようにHis105への変異、又はAsp135への変異、又はHis105及びAsp135への変異、又はHis105及びSer210への変異、又はAsp135及びSer210への変異、又はHis105、Asp135及びSer210への変異を含む。
【0073】
DegPは2個のPDZドメイン、PDZ1(残基260〜358)及びPDZ2(残基359〜448)を持ち、これらはタンパク質−タンパク質相互作用を仲介する(「広範に保存される熱ショックタンパク質におけるシャペロンからプロテアーゼへの温度依存的スイッチ(A Temperature−Dependent Switch from Chaperone to Protease in a Widely Conserved Heat Shock Protein.)」、Cell、Volume 97、Issue 3、339〜347ページ.Spiess C、Beil A、Ehrmann M)。本発明の一実施形態において、degP遺伝子はPDZ1ドメイン及び/又はPDZ2ドメインを欠失するように変異される。PDZ1及びPDZ2の欠失はDegPタンパク質のプロテアーゼ活性の全喪失及び野生型のDegPタンパク質と比較して低下したシャペロン活性をもたらす一方、PDZ1又はPDZ2いずれかの欠失は野生型のDegPタンパク質と比較して5%のプロテアーゼ活性及び同様のシャペロン活性をもたらす(「広範に保存される熱ショックタンパク質におけるシャペロンからプロテアーゼへの温度依存的スイッチ(A Temperature−Dependent Switch from Chaperone to Protease in a Widely Conserved Heat Shock Protein.)」、Cell、Volume 97、Issue 3、339〜347ページ.Spiess C、Beil A、Ehrmann M)。
【0074】
本発明はまた、シャペロン活性及び低減されたプロテアーゼ活性を持つDegPタンパク質をコードする変異DegP遺伝子を含む組換えグラム陰性細菌細胞を提供するが、ここでdegP遺伝子は上で論じられたようにPDZ1ドメイン及び/又はPDZ2ドメインを欠失するように変異される。
【0075】
変異DegP遺伝子はまた、例えば
図1cに示されるように、同定及びスクリーニング方法において役立つためにAse Iなどのサイレントな非天然の制限部位を含むことができる。
【0076】
点変異S210A及びAse I制限マーカー部位を含む変異DegP遺伝子の好ましい配列は配列番号9に示され、コードされるタンパク質配列は配列番号10に示される。配列番号9の変異DegP配列において作製された変異は
図1cに示される。
【0077】
細胞がシャペロン活性及び低減されたプロテアーゼ活性を持つDegPタンパク質をコードする変異DegP遺伝子を含む本発明の実施形態において、本発明により提供される細胞の1つ又は複数は、DegP遺伝子が染色体欠損のDegPなどのDegPの発現を妨げるノックアウトのDegPへと変異している変異細胞と比べて、正しくフォールドされたタンパク質の細胞からの改善された収量を提供することができる。DegPの発現を妨げるノックアウト変異DegP遺伝子を含む細胞においてDegPのシャペロン活性は全て失われる一方、本発明による細胞においては、完全なプロテアーゼ活性は失われるもののDegPのシャペロン活性は保持される。これらの実施形態において、本発明による1つ又は複数の細胞はより低いプロテアーゼ活性を持ってタンパク質のタンパク質分解を妨げる一方、シャペロン活性を維持して宿主細胞におけるタンパク質の正しいフォールディング及び輸送を実現する。
【0078】
当業者は、タンパク質が正しくフォールドされているかを見るために、タンパク質G HPLC、円二色法、NMR、X線結晶解析法及びエピトープアフィニティー測定法などの当該技術分野でよく知られている方法を用いて、分泌されるタンパク質を試験することが容易に可能であろう。
【0079】
これらの実施形態において、本発明による1つ又は複数の細胞は、DegPの発現を妨げる変異ノックアウトDegP遺伝子を保有する細胞と比較して改善された細胞増殖を持つことができる。理論に縛られるのを望むことなく、シャペロン活性を必要とする全てのタンパク質を処理する細胞の能力を増加させることができるシャペロン活性を保持するDegPプロテアーゼに起因して、改善された細胞増殖が表され得る。したがって、細胞の増殖及び複製のために必要な正しくフォールドされたタンパク質の生産は、本発明の細胞の1つ又は複数においてDegPノックアウト変異を保有する細胞と比較して増加させることができ、それによって増殖を制御する細胞経路を改善する。さらに、既知のDegPプロテアーゼ欠損株は一般に温度感受性で、典型的にはおよそ28℃より高い温度で増殖しない。一方、本発明による細胞は温度感受性でなく、細菌からのタンパク質の工業規模生産に典型的に用いられるおよそ30℃〜およそ37℃の温度を包含する、28℃以上の温度で増殖させることができる。
【0080】
本発明のある特定の実施形態において、組換えグラム陰性細菌細胞はノックアウト変異ptr遺伝子を含む。本明細書で用いられる「ptr遺伝子」は、高分子量のタンパク質を分解するプロテアーゼであるプロテアーゼIIIをコードする遺伝子を意味する。変異していないptr遺伝子の配列は配列番号4に示され、変異していないプロテアーゼIIIタンパク質の配列は配列番号5に示される。
【0081】
本発明のある特定の実施形態において、組換えグラム陰性細菌細胞はノックアウト変異Tsp遺伝子を含む。本明細書で用いられる「Tsp遺伝子」は、ペニシリン結合タンパク質−3(PBP3)及びファージ尾部タンパク質に対して働くことが可能なペリプラズムのプロテアーゼであるプロテアーゼTsp(Prcとしても知られる)をコードする遺伝子を意味する。変異していないTsp遺伝子の配列は配列番号1に示され、変異していないTspタンパク質の配列は配列番号2に示される。
【0082】
本発明の第一の態様において、変異ptr遺伝子又はプロテアーゼIIIをコードする変異ptr遺伝子というのは、別途示されていない限り、低減されたプロテアーゼ活性を持つプロテアーゼIIIタンパク質をコードする変異ptr遺伝子又はノックアウト変異ptr遺伝子のいずれかをいう。
【0083】
本発明の第一の態様において、変異Tsp遺伝子又はTspをコードする変異Tsp遺伝子というのは、別途示されていない限り、低減されたプロテアーゼ活性を持つTspタンパク質をコードする変異Tsp遺伝子又はノックアウト変異Tsp遺伝子のいずれかをいう。
【0084】
本発明の第一の態様において、本発明の文脈における表現「低減されたプロテアーゼ活性を持つプロテアーゼIIIタンパク質をコードする変異ptr遺伝子」及び「低減されたプロテアーゼ活性を持つTspタンパク質をコードする変異Tsp遺伝子」は、変異ptr遺伝子又は変異Tsp遺伝子が野生型の変異していないptr遺伝子又はTsp遺伝子と比較して完全なプロテアーゼ活性を持たないことを意味する。
【0085】
本発明の第一の態様において、好ましくは、変異ptr遺伝子は野生型の変異していないプロテアーゼIIIタンパク質の50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下又は5%以下のプロテアーゼ活性を持つプロテアーゼIIIをコードする。より好ましくは、変異ptr遺伝子はプロテアーゼ活性を持たないプロテアーゼIIIタンパク質をコードする。この実施形態において、細胞は染色体のptrを欠損していない、すなわちptr遺伝子配列はいずれの形態のプロテアーゼIIIタンパク質の発現も妨げるようには欠失又は変異されていない。
【0086】
低減されたプロテアーゼ活性を持つプロテアーゼIIIタンパク質を生産するため、任意の適した変異がptr遺伝子中に導入され得る。グラム陰性細菌から発現されるプロテアーゼIIIタンパク質のプロテアーゼ活性は、当業者により、当該技術分野における任意の適した方法により、容易に試験され得る。
【0087】
本発明の第一の態様において、好ましくは、変異Tsp遺伝子は野生型の変異していないTspタンパク質の50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下又は5%以下のプロテアーゼ活性を持つTspタンパク質をコードする。より好ましくは、変異Tsp遺伝子はプロテアーゼ活性を持たないTspタンパク質をコードする。この実施形態において、細胞は染色体のTspを欠損していない、すなわちTsp遺伝子配列はいずれの形態のTspタンパク質の発現も妨げるようには欠失又は変異されていない。
【0088】
低減されたプロテアーゼ活性を持つタンパク質を生産するため、任意の適した変異がTsp遺伝子中に導入され得る。グラム陰性細菌から発現されるTspタンパク質のプロテアーゼ活性は当業者により、Tspのプロテアーゼ活性が試験されたKeilerらに記載された方法(「Tspプロテアーゼ
*の活性部位残基の同定(Identification of Active Site Residues of the Tsp Protease
*)」、THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY Vol.270、No.48、Issue of December 1、28864〜28868ページ、1995 Kenneth C.Keiler及びRobert T.Sauer)などの当該技術分野における任意の適した方法により、容易に試験され得る。
【0089】
TspはKeilerら(上記)において残基S430、D441及びK455を含む活性部位を持つものとして報告されており、残基G375、G376、E433及びT452はTspの構造を維持するのに重要である。Keilerら(上記)は、変異Tsp遺伝子S430A、D441A、K455A、K455H、K455R、G375A、G376A、E433A及びT452Aは検出可能なプロテアーゼ活性を持たなかったという知見を報告する。変異Tsp遺伝子S430Cはおよそ5〜10%の野生型活性を呈したことがさらに報告されている。したがって、低減されたプロテアーゼ活性を持つタンパク質を生産するためのTsp変異は、残基S430、D441、K455、G375、G376、E433及びT452の1つ又は複数へのミスセンス変異などの変異を含むことができる。好ましくは、低減されたプロテアーゼ活性を持つタンパク質を生産するためのTsp変異は、活性部位残基S430、D441及びK455の1、2又は3個全てへのミスセンス変異などの変異を含むことができる。
【0090】
したがって、変異Tsp遺伝子は以下を含むことができる。
・ S430への変異、又は
・ D441への変異、又は
・ K455への変異、又は
・ S430及びD441への変異、又は
・ S430及びK455への変異、又は
・ D441及びK455への変異、又は
・ S430、D441及びK455への変異
【0091】
S430、D441、K455、G375、G376、E433及びT452の1つ又は複数は、低減されたプロテアーゼ活性を持つタンパク質をもたらす任意の適したアミノ酸へと変異され得る。適した変異の例はS430A、S430C、D441A、K455A、K455H、K455R、G375A、G376A、E433A及びT452Aである。変異Tsp遺伝子は活性部位残基への1、2又は3個の変異を含むことができ、例えば遺伝子は以下を含むことができる。
・ S430A若しくはS430C、及び/又は
・ D441A及び/又は
・ K455A若しくはK455H若しくはK455R
【0092】
好ましくは、Tsp遺伝子は点変異S430A又はS430Cを含む。
【0093】
本発明はまた、変異Tsp遺伝子を含む組換えグラム陰性細菌細胞を提供するが、ここで変異Tsp遺伝子は低減されたプロテアーゼ活性を持つTspタンパク質をコードし、Tsp遺伝子は上で論じられたように残基S430、D441、K455、G375、G376、E433及びT452の1つ又は複数へのミスセンス変異などの変異を含む。
【0094】
本発明の第一の態様において、本発明の文脈における表現「ノックアウト変異ptr遺伝子」及び「ノックアウト変異Tsp遺伝子」は、遺伝子が1つ又は複数の変異を含み、それによって遺伝子によりコードされるタンパク質の無発現を引き起こして、ノックアウト変異遺伝子によりコードされるタンパク質を欠損した細胞を提供することを意味する。ノックアウト遺伝子は部分的に又は全てが転写され得るが、コードされるタンパク質には翻訳され得ない。
【0095】
本発明の第一の態様において、ノックアウト変異ptr遺伝子及び/又はノックアウト変異Tsp遺伝子は、任意の適した方法で、例えば1つ又は複数の欠失変異、挿入変異、点変異、ミスセンス変異、ナンセンス変異及びフレームシフト変異により変異され得るものであり、タンパク質の無発現を引き起こす。例えば、遺伝子は抗生物質耐性マーカーなどの外来DNA配列の遺伝子コード配列中への挿入によりノックアウトされ得る。
【0096】
本発明の第一の態様の好ましい実施形態において、遺伝子は抗生物質耐性マーカーなどの外来DNA配列の遺伝子コード配列中への挿入により変異されない。好ましくはTsp遺伝子及び/又はプロテアーゼIII遺伝子は、遺伝子開始コドンへの変異並びに/又は遺伝子開始コドンの下流及び遺伝子停止コドンの上流に位置する1つ若しくは複数の停止コドンを含み、それによってTspタンパク質及び/又はプロテアーゼIIIタンパク質の発現を妨げる。
【0097】
本発明の第二の態様による細胞はTsp及び/又はプロテアーゼIIIのノックアウト変異を含み、ここでTsp遺伝子及び/又はプロテアーゼIII遺伝子は遺伝子開始コドンへの変異並びに/又は遺伝子開始コドンの下流及び遺伝子停止コドンの上流に位置する1つ若しくは複数の停止コドンを含み、それによってTspタンパク質及び/又はプロテアーゼIIIタンパク質の発現を妨げる。
【0098】
標的ノックアウト遺伝子の開始コドンへの変異は開始コドンの機能の喪失を引き起こし、それによって標的遺伝子がコード配列の開始部に適した開始コドンを含まないことが確実となる。開始コドンへの変異は、開始コドンのヌクレオチドの1、2又は3個全てのミスセンス変異であってもよい。代替的に又は付加的に、開始コドンは挿入又は欠失フレームシフト変異により変異されてもよい。
【0099】
ptr遺伝子及びTsp遺伝子はATG開始コドンを各々含む。ATGコドン2個がコード配列の5’末端に存在するTsp遺伝子において見出されるように、遺伝子が適切に位置する開始コドンを2個以上含む場合、ATGコドンの1個又は両方がミスセンス変異により変異され得る。
【0100】
好ましい実施形態において、ptr遺伝子は
図1aに示されるようにATG開始コドンをATTへと変化させるよう変異される。好ましい実施形態において、Tsp遺伝子は
図1bに示されるように2番目のATGコドン(コドン3)がTCGへと変異される。
【0101】
ノックアウト変異ptr遺伝子及び/又はノックアウト変異Tsp遺伝子は、遺伝子開始コドンの下流及び遺伝子停止コドンの上流に位置する1つ又は複数の停止コドンを代替的に又は付加的に含むことができる。好ましくはノックアウト変異ptr遺伝子及び/又はノックアウト変異Tsp遺伝子は、開始コドン及び1つ又は複数の挿入される停止コドンの両方へのミスセンス変異を含む。
【0102】
1つ又は複数の挿入される停止コドンは好ましくはインフレームの停止コドンである。しかしながら、1つ又は複数の挿入される停止コドンは、代替的に又は付加的にフレーム外の停止コドンであってもよい。1つ又は複数のフレーム外の停止コドンは、フレーム外の開始コドンが挿入又は欠失フレームシフト変異によりインフレームの開始コドンへと変化する翻訳を停止するのに必要とされ得る。1つ又は複数の停止コドンは、ナンセンス点変異及びフレームシフト変異を包含する任意の適した変異により導入され得る。1つ又は複数の停止コドンは好ましくはフレームシフト変異及び/又は挿入変異により、好ましくは遺伝子配列のセグメントを停止コドンを含む配列で置換することにより導入される。例えばAse I制限部位が挿入されてもよく、これは停止コドンTAAを含む。
【0103】
好ましい実施形態において、ptr遺伝子は
図1aに示されるように、Ase I制限部位の挿入によりインフレームの停止コドンを挿入するよう変異される。
【0104】
好ましい実施形態において、Tsp遺伝子は
図1bに示されるように5番目のコドンから「T」を欠失するように変異され、それによってコドン11及び16に停止コドンをもたらすフレームシフトを引き起こす。好ましい実施形態において、Tsp遺伝子は
図1bに示されるようにAse I制限部位を挿入するように変異され、コドン21に3個目のインフレームの停止コドンを作出する。
【0105】
好ましい実施形態において、ノックアウト変異ptr遺伝子は配列番号6のDNA配列を持つ。配列番号6のノックアウト変異ptr遺伝子配列において作製された変異は
図1aに示される。
【0106】
好ましい実施形態において、ノックアウト変異Tsp遺伝子は配列番号3のDNA配列を持ち、これは開始コドンの上流に6ヌクレオチドATGAATを包含する。配列番号3のノックアウト変異Tsp配列において作製された変異は
図1bに示される。一実施形態において、変異Tsp遺伝子は配列番号3のヌクレオチド7〜2048のDNA配列を持つ。
【0107】
上記のノックアウト変異は有利であり、その理由はこれらの変異が標的のノックアウト遺伝子部位の上流又は下流の染色体DNAに最小限の破損を引き起こす又は破損を引き起こさず、細胞の目的タンパク質、とりわけ治療タンパク質の発現への適合性に影響を及ぼす可能性がある抗生物質耐性マーカーなどの外来DNAの挿入及び保持を必要としないためである。したがって、本発明による細胞の1つ又は複数は、プロテアーゼ遺伝子が外来DNAの遺伝子コード配列中への挿入によりノックアウトされた細胞と比較して、改善された増殖プロファイル及び/又はタンパク質発現を示すことができる。
【0108】
ノックアウト変異を包含する多くの遺伝子改変変異は、成功裏に変異した細胞の選択及び同定を実現する抗生物質耐性マーカーの使用に関与する。しかしながら上で論じたように、抗生物質耐性マーカーを用いることには多数の不利点がある。
【0109】
本発明のさらなる実施形態は、抗生物質耐性マーカーを用いることについての上述の不利点を克服するもので、ここではシャペロン活性を持つがプロテアーゼ活性を持たないDegPタンパク質をコードする変異DegP遺伝子、プロテアーゼIIIをコードする変異ptr遺伝子及びプロテアーゼTspをコードする変異Tsp遺伝子の1つ又は複数から選択される変異プロテアーゼ遺伝子が制限マーカー部位を1つ又は複数含むように変異される。制限部位は遺伝子の中に遺伝子改変されるもので、非天然である。制限マーカー部位は、必要とされる染色体の変異を含む正しく改変された細胞のスクリーニング及び同定を実現することから、有利である。変異プロテアーゼ遺伝子を1つ又は複数保有するように改変された細胞は、細胞溶解液からのゲノムDNAのPCRにより、非天然の制限マーカー部位を含むゲノムDNAの領域を増幅するように設計されたオリゴヌクレオチド対を用いて分析され得る。増幅されたDNAは次いでアガロースゲル電気泳動により、DNAを非天然の制限マーカー部位で消化することが可能な適した制限酵素とのインキュベーションの前後に分析され得る。制限酵素とのインキュベーション後のDNA断片の存在は、細胞が変異プロテアーゼ遺伝子を1つ又は複数保有するように改変することに成功したことを裏付ける。
【0110】
ノックアウト変異ptr遺伝子が配列番号6のDNA配列を持つ実施形態において、配列番号17及び配列番号18に示されるオリゴヌクレオチドプライマー配列は、形質転換された細胞のゲノムDNAから非天然のAse I制限部位を含むDNAの領域を増幅するのに用いられ得る。増幅されたゲノムDNAは、ゲノムDNA中の変異ptr遺伝子の存在を確認するため、次いでAse I制限酵素とインキュベートされ、ゲル電気泳動により分析され得る。
【0111】
ノックアウト変異Tsp遺伝子が配列番号3又は配列番号3のヌクレオチド7〜2048のDNA配列を持つ実施形態において、配列番号15及び配列番号16に示されるオリゴヌクレオチドプライマー配列は、形質転換された細胞のゲノムDNAから非天然のAse I制限部位を含むDNAの領域を増幅するのに用いられ得る。増幅されたゲノムDNAは、ゲノムDNA中の変異Tsp遺伝子の存在を確認するため、次いでAse I制限酵素とインキュベートされ、ゲル電気泳動により分析され得る。
【0112】
変異DegP遺伝子が配列番号9のDNA配列を持つ実施形態において、配列番号19及び配列番号20に示されるオリゴヌクレオチドプライマー配列は、形質転換された細胞のゲノムDNAから非天然のAse I制限部位を含むDNAの領域を増幅するのに用いられ得る。増幅されたゲノムDNAは、ゲノムDNA中の変異DegP遺伝子の存在を確認するため、次いでAse I制限酵素とインキュベートされ、ゲル電気泳動により分析され得る。
【0113】
1つ又は複数の制限部位は、1つ又は複数の欠失変異、挿入変異、点変異、ミスセンス変異、ナンセンス変異及びフレームシフト変異を包含する任意の適した変異により導入され得る。制限部位は上記のように開始コドンの変異及び/又は1つ若しくは複数の停止コドンを導入する変異により導入され得る。この実施形態は、制限マーカー部位が、導入されるノックアウト変異の直接的な固有のマーカーであることから、有利である。
【0114】
Ase I制限部位などのインフレームの停止コドンを含む制限マーカー部位が挿入され得る。これは、挿入される制限部位が制限マーカー部位及び遺伝子コード配列の完全な転写を妨げるための停止コドンの両方として作用することから、とりわけ有利である。例えば、
図1aに示されるような停止コドンがAse I部位の導入によりptr遺伝子に導入される実施形態において、この挿入は制限部位をも作出する。例えば、
図1bに示されるような停止コドンがAse I部位の導入によりTsp遺伝子にコドン21で導入される実施形態において、この挿入は制限部位をも作出する。
【0115】
制限マーカー部位は、開始コドンへの変異及び任意選択で1つ又は複数のさらなる点変異により挿入され得る。この実施形態において、制限マーカー部位は好ましくはEcoR I制限部位である。これは、開始コドンへの変異は制限マーカー部位をも作出することから、とりわけ有利である。例えば、
図1aに示されるようなptr遺伝子の開始コドンがATTへと変化している実施形態において、この変化はEcoR Iマーカー部位を作出する。例えば、
図1bに示されるようなTsp遺伝子の開始コドン(コドン3)がATGからTCGへと変化している実施形態において、
図1bに示されるようなコドン2のAACからAATへのさらなる点変異及びコドン3のATGからTCGへの変異はEcoR I制限マーカー部位を作出する。
【0116】
DegP遺伝子において、マーカー制限部位はサイレントなコドン変化を用いて導入され得る。例えば、
図1cに示されるようにAse I部位がサイレントな制限マーカー部位として用いられ得るが、ここでTAA停止コドンはフレーム外である。
【0117】
ptr遺伝子及び/又はTsp遺伝子が低減されたプロテアーゼ活性を持つプロテアーゼIII又はTspをコードするように変異される本発明の実施形態において、1つ又は複数のマーカー制限部位がサイレントなコドン変化を用いて導入され得る。
【0118】
本発明による組換えグラム陰性細菌細胞は任意の適した手段により生産され得る。当業者は染色体の遺伝子配列を変異遺伝子配列で置換するのに用いられ得る、適した技術を知っている。相同組換えによる宿主染色体内への組み込みを実現する、適したベクターが利用され得る。
【0119】
適した遺伝子置換法は、例えばHamiltonら(「大腸菌において欠失及び遺伝子置換を生成する新たな方法(New Method for Generating Deletions and Gene Replacements in Escherichia coli)」、Hamilton C.M.ら、Journal of Bacteriology Sept.1989、Vol.171、No.9 4617〜4622ページ)、Skorupskiら(「対立遺伝子交換のためのポジティブ選択ベクター(Positive selection vectors for allelic exchange)」、Skorupski K及びTaylor R.K.、Gene、1996、169、47〜52ページ)、Kielら(「相同組換え及びプラスミド分離による大腸菌変異株の構築のための一般的方法(A general method for the construction of Escherichia coli mutants by homologous recombination and plasmid segregation)」、Kiel J.A.K.W.ら、Mol Gen Genet 1987、207:294〜301ページ)、Blomfieldら(「枯草菌(Bacillus subtilis)のsacB遺伝子及び温度感受性のpSC101レプリコンを用いた大腸菌における対立遺伝子交換(Allelic exchange in Escherichia coli using the Bacillus subtilis sacB gene and a temperature sensitive pSC101 replicon)」、Blomfield I.C.ら、Molecular Microbiology 1991、5(6)、1447〜1457ページ)及びRiedら(「グラム陰性細菌においてマーカー変換・追い出し変異誘発により部位特異的未標識変異を構築するためのnptI−sacB−sacRカートリッジ(An nptI−sacB−sacR cartridge for constructing directed, unmarked mutations in Gram−negative bacteria by marker exchange−eviction mutagenesis)」、Ried J.L.及びCollmer A.、Gene 57(1987)239〜246ページ)に記載される。相同組換え/置換を可能にする適したプラスミドはpKO3プラスミドである(Linkら、1997、Journal of Bacteriology、179、6228〜6237ページ)。
【0120】
変異に成功した株は、コロニーPCR DNAシークエンシング及びコロニーPCR制限酵素マッピングを包含する当該技術分野でよく知られている方法を用いて同定され得る。
【0121】
細胞が変異プロテアーゼ遺伝子の2個又は3個を含む実施形態において、変異プロテアーゼはグラム陰性細菌の中に同一の又は異なるベクター上で導入され得る。
【0122】
一実施形態において、本発明は、遺伝子型ΔTspを持ち、2009年5月21日にNational Collection of Type Cultures、Health Protection Agency(HPA)、Centre for Infections、61 Colindale Avenue、ロンドン、NW9 5EQ、英国にアクセッション番号NCTC13444で寄託された変異体大腸菌細胞株MXE001を提供する。さらなる実施形態において、本発明は、遺伝子型Δptrを持ち、2009年5月21日にNational Collection of Type Cultures、Health Protection Agency(HPA)、Centre for Infections、61 Colindale Avenue、ロンドン、NW9 5EQ、英国にアクセッション番号NCTC13445で寄託された変異体大腸菌細胞株MXE002を提供する。一実施形態において、本発明は、遺伝子型DegP S210Aを持ち、2009年5月21日にNational Collection of Type Cultures、Health Protection Agency(HPA)、Centre for Infections、61 Colindale Avenue、ロンドン、NW9 5EQ、英国にアクセッション番号NCTC13446で寄託された変異体大腸菌細胞株MXE003を提供する。
【0123】
さらなる実施形態において、本発明は、遺伝子型ΔTspΔptrを持ち、2009年5月21日にNational Collection of Type Cultures、Health Protection Agency(HPA)、Centre for Infections、61 Colindale Avenue、ロンドン、NW9 5EQ、英国にアクセッション番号NCTC13447で寄託された変異体大腸菌細胞株MXE004を提供する。
【0124】
一実施形態において、本発明は、遺伝子型ΔTsp、DegP S210Aを持ち、2009年5月21日にNational Collection of Type Cultures、Health Protection Agency(HPA)、Centre for Infections、61 Colindale Avenue、ロンドン、NW9 5EQ、英国にアクセッション番号NCTC13448で寄託された変異体大腸菌細胞株MXE005を提供する。
【0125】
さらなる実施形態において、本発明は、遺伝子型Δptr、DegP S210Aを持ち、2009年5月21日にNational Collection of Type Cultures、Health Protection Agency(HPA)、Centre for Infections、61 Colindale Avenue、ロンドン、NW9 5EQ、英国にアクセッション番号NCTC13449で寄託された変異体大腸菌細胞株MXE006を提供する。
【0126】
一実施形態において、本発明によるグラム陰性細菌細胞は、染色体ompTの欠損などのノックアウト変異ompT遺伝子を保有しない。一実施形態において、本発明による細胞は、ノックアウト変異ptr遺伝子及び/又はノックアウト変異Tsp遺伝子のほかに任意のさらなるノックアウト変異プロテアーゼ遺伝子を保有しない。
【0127】
本発明による細胞は目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列をさらに含むことができる。目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は外因性であっても内因性であってもよい。目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は宿主の染色体内に組み込まれてもよく、組み込まれない状態でベクター、典型的にプラスミド中にあってもよい。
【0128】
一実施形態において、本発明による細胞は目的タンパク質を発現する。本明細書の文脈における「目的タンパク質」は、発現のためのポリペプチド、通常は組換えポリペプチドをいうことが意図される。しかしながら、目的タンパク質は、宿主細胞中の内因性遺伝子から発現される内因性タンパク質であってもよい。
【0129】
本明細書で用いられる「組換えポリペプチド」は、組換えDNA技術を用いて構築又は生産されるタンパク質をいう。目的タンパク質は、内因性タンパク質若しくは例えば減弱された生物活性を有するその変異バージョン又はそれらの断片と同一な、外因性ベクターから発現される外因性の配列とすることができる。代替として、目的タンパク質は、正常時には宿主細胞により発現されない異種タンパク質であってもよい。
【0130】
目的タンパク質は、治療的、予防的又は診断的タンパク質を包含する任意の適したタンパク質とすることができる。
【0131】
一実施形態において、目的タンパク質は、炎症性疾患及び障害、免疫疾患及び障害、線維性障害並びにがんを包含する疾患又は障害の治療において有用である。
【0132】
用語「炎症性疾患」又は「障害」及び「免疫疾患又は障害」は、関節リウマチ、乾癬性関節炎、スティル病、マックル・ウェルズ病、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎、SLE(全身性エリテマトーデス)、喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、血管炎、I型糖尿病、移植及び移植片対宿主疾患を包含する。
【0133】
用語「線維性障害」は、特発性肺線維症(IPF)、全身性硬化症(又は皮膚硬化症)、腎線維症、糖尿病性腎症、IgA腎症、高血圧、末期腎疾患、腹膜線維症(連続的携帯式腹膜透析)、肝硬変、加齢性黄斑変性(ARMD)、網膜症、心臓反応性線維症、瘢痕、ケロイド、熱傷、皮膚潰瘍、血管形成、冠動脈バイパス外科手術、関節形成及び白内障の外科手術を包含する。
【0134】
用語「がん」は、上皮から生じ、皮膚、又はより一般には例えば乳房、卵巣、前立腺、肺、腎臓、膵臓、胃、膀胱又は腸といった生体器官の内膜に見出される悪性新生物を包含する。がんは隣接する組織へと浸潤し、例えば骨、肝臓、肺又は脳といった遠位の器官に伝播する(転移する)傾向がある。
【0135】
タンパク質は、タンパク質分解感受性のポリペプチド、すなわち天然状態において又は分泌の間のいずれかで、大腸菌などのグラム陰性細菌の1つ又は複数のプロテアーゼにより切断されやすい、切断感受性の、又は切断されるタンパク質とすることができる。一実施形態において、目的タンパク質はDegP、プロテアーゼIII及びTspから選択されるプロテアーゼに対してタンパク質分解感受性である。一実施形態において、目的タンパク質はプロテアーゼDegP及びプロテアーゼIIIに対してタンパク質分解感受性である。一実施形態において、目的タンパク質はプロテアーゼDegP及びTspに対してタンパク質分解感受性である。一実施形態において、目的タンパク質はプロテアーゼTsp及びプロテアーゼIIIに対してタンパク質分解感受性である。一実施形態において、目的タンパク質はプロテアーゼDegP、プロテアーゼIII及びTspに対してタンパク質分解感受性である。
【0136】
好ましくはタンパク質は真核生物のポリペプチドである。
【0137】
本発明による細胞により発現される目的タンパク質は、例えば免疫原、2個の異種タンパク質を含む融合タンパク質又は抗体とすることができる。目的タンパク質として使用する抗体としては、モノクローナル抗体、多価抗体、多特異的抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体又はキメラ抗体が挙げられる。抗体は任意の種からのものであることが可能であるが、好ましくはモノクローナル抗体、ヒト抗体又はヒト化断片に由来する。抗体は免疫グロブリン分子の任意のクラス(例としてIgG、IgE、IgM、IgD又はIgA)又はサブクラスに由来することが可能で、例えばマウス、ラット、サメ、ウサギ、ブタ、ハムスター、ラクダ、ラマ、ヤギ又はヒトを包含する任意の種から取得され得る。抗体断片のパーツは2以上の種から取得され得るものであり、例えば抗体断片はキメラであってもよい。1つの例において、定常領域はある種から、可変領域は別の種からのものである。
【0138】
抗体は、全長の重鎖及び軽鎖を持つ完全な抗体分子、又は例としてVH、VL、VHH、Fab、改変Fab、Fab’、F(ab’)
2、Fv、scFv断片、Fab−Fv、又はPCT/GB2008/003331に記載されるようなFab−dAbなどの二重特異性抗体といった完全な抗体分子の断片とすることができる。
【0139】
抗体は任意の標的抗原に特異的であり得る。抗原は例えば細菌細胞、酵母細胞、T細胞、内皮細胞又は腫瘍細胞などの細胞上の細胞表面タンパク質といった細胞関連タンパク質であってもよく、又は抗原は可溶性タンパク質であってもよい。目的の抗原はまた、例えば受容体及び/又はその対応するリガンドといった、疾患又は感染症の間に上方制御されるタンパク質などの医学的に関連のある任意のタンパク質であってもよい。細胞表面タンパク質の特定の例としては、例えばβ1インテグリンなどのインテグリンや例としてVLA−4、E−セレクチン、Pセレクチン又はL−セレクチンといった接着分子、CD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CD11a、CD11b、CD18、CD19、CD20、CD23、CD25、CD33、CD38、CD40、CD40L、CD45、CDW52、CD69、CD134(OX40)、ICOS、BCMP7、CD137、CD27L、CDCP1、CSF1又はCSF1受容体、DPCR1、DPCR1、ジュジュリン2、FLJ20584、FLJ40787、HEK2、KIAA0634、KIAA0659、KIAA1246、KIAA1455、LTBP2、LTK、MAL2、MRP2、ネクチン様2、NKCC1、PTK7、RAIG1、TCAM1、SC6、BCMP101、BCMP84、BCMP11、DTD、がん胎児性抗原(CEA)、ヒト乳脂肪グロブリン(HMFG1及び2)、MHCクラスI及びMHCクラスII抗原、KDR及びVEGF、並びに適切な場合はそれらの受容体が挙げられる。
【0140】
可溶性抗原としては、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−8、IL−12、IL−13、IL−14、IL−16又はIL17A及び/若しくはIL17FなどのIL−17などのインターロイキン、例えば呼吸合胞体ウイルス又はサイトメガロウイルス抗原といったウイルス抗原、IgEなどの免疫グロブリン、インターフェロンα、インターフェロンβ又はインターフェロンγなどのインターフェロン、腫瘍壊死因子TNF(以前は腫瘍壊死因子−αとして知られた)、腫瘍壊死因子β、G−CSF又はGM−CSFなどのコロニー刺激因子並びにPDGF−α及びPDGF−βなどの血小板由来増殖因子、並びに適切な場合はそれらの受容体が挙げられる。他の抗原としては、細菌細胞表面抗原、細菌毒素、インフルエンザ、EBV、HepA、B及びCなどのウイルス、バイオテロリズム剤、放射性核種及び重金属、並びにヘビ及びクモの毒液及び毒素が挙げられる。
【0141】
一実施形態において、抗体は目的抗原の活性を機能的に変えるのに用いられ得る。例えば抗体は、前記抗原の活性を直接的に又は間接的に中和、アンタゴナイズ又はアゴナイズすることができる。
【0142】
好ましい実施形態において、本発明による細胞により発現される目的タンパク質は抗TNF抗体であり、より好ましくはWO01/094585(この内容は参照により本明細書に組み入れられる)に記載される抗TNF Fab’である。
【0143】
好ましくは抗体分子はヒトTNF(以前はTNFαとして知られた)に特異性を持ち、その軽鎖は配列番号11の軽鎖可変領域を含み、その重鎖は配列番号12の重鎖可変領域を含む。
【0144】
好ましくはヒトTNFに特異性を持つ抗体分子はFab’であり、配列番号13を含む又は配列番号13からなる軽鎖配列、及び配列番号14を含む又は配列番号14からなる重鎖配列を持つ。
【0145】
本発明の発明者らは驚くべきことに、本発明による1つ又は複数の細胞における発現によりFab収量が改善され得ることを発見した。理論に縛られるのを望むことなく、シャペロン活性及び低減されたプロテアーゼ活性を持つ本発明の株において用いられる変異DegP遺伝子はFab収量を改善するが、その理由はDegPのシャペロン活性がFabの正しいフォールディングを促進するためである。
【0146】
発現後、抗体断片は例えばエフェクター分子などの別の実体へのコンジュゲーションにより、さらに処理されてもよい。
【0147】
本明細書で用いられる用語エフェクター分子としては、例えば、抗悪性腫瘍剤、薬剤、毒素(細菌又は植物起源の酵素活性毒素及びその断片など、例としてリシン及びその断片)、例えば酵素といった生物活性タンパク質、他の抗体又は抗体断片、合成又は天然のポリマー、例としてDNA、RNA及びそれらの断片といった核酸及びその断片、放射性核種、とりわけ放射性ヨウ化物、放射性同位体、キレート化金属、ナノ粒子、並びに蛍光化合物又はNMR若しくはESR分光法により検出され得る化合物などのレポーター基が挙げられる。エフェクター分子は抗体又はその断片に任意の適した方法により付着され得るものであり、例えば抗体断片はWO05/003171又はWO05/003170(これらの内容は参照により本明細書に組み入れられる)に記載される少なくとも1つのエフェクター分子に付着するよう改変され得る。WO05/003171又はWO05/003170はまた、適したエフェクター分子を記載している。
【0148】
一実施形態において、抗体又はFabなどのその断片は、必要な場合、例えば全抗体と同様に、必要とされる性質を有する産物を生成するようPEG化される。例えば抗体はPEG化抗TNF−α Fab’とすることができ、WO01/094585に記載されるように、好ましくは重鎖のC末端でシステイン残基の1つにリジル−マレイミド誘導基を付着していて、ここでリジル残基の2個のアミノ基の各々は、分子量およそ20,000Daであるメトキシポリ(エチレングリコール)残基と、メトキシポリ(エチレングリコール)残基の全体平均分子量がおよそ40,000Daであるように、より好ましくはリジル−マレイミド誘導基が[1−[[[2−[[3−(2,5−ジオキソ−1−ピロリジニル)−1−オキソプロピル]アミノ]エチル]アミノ]−カルボニル]−1,5−ペンタンジイル]ビス(イミノカルボニル)であるように共有結合している。
【0149】
細胞はまた、さらなる目的タンパク質を1つ又は複数コードするさらなるポリヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0150】
目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドは別のポリペプチドとの融合物として、好ましくはシグナル配列又は成熟したポリペプチドのN末端に特異的な切断部位を持つ他のポリペプチドとして発現され得る。選択される異種シグナル配列は、宿主細胞により認識され処理されるものでなければならない。生来の又は真核生物のポリペプチドシグナル配列を認識せず処理しない原核生物の宿主細胞については、シグナル配列は原核生物のシグナル配列に置き換えられる。適したシグナル配列としては、OmpA、PhoA、LamB、PelB、DsbA及びDsbCが挙げられる。
【0151】
一実施形態において、発現カセットは目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを保有するのに本発明において利用され、このヌクレオチドは1つ又は複数の目的タンパク質をコードする1つ又は複数のタンパク質コード配列及び1つ又は複数の制御性発現配列を典型的に含む。1つ又は複数の制御性発現配列としてはプロモーターを挙げることができる。1つ又は複数の制御性発現配列としてはまた、終結配列などの3’非翻訳領域を挙げることができる。適したプロモーターはより詳細に下で論じられる。
【0152】
一実施形態において、本発明による細胞はプラスミドなどのベクターを含む。ベクターは好ましくは上に規定される発現カセットの1つ又は複数を含む。
【0153】
本発明における使用のためのベクターは、上に規定される発現カセットを適したベクター中に挿入することにより生産され得る。代替として、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列の発現を指揮する制御性発現配列がベクター中に含有されてもよく、であるからポリヌクレオチドのコード領域のみがベクターを完全なものにするのに必要とされ得る。
【0154】
本発明により宿主細胞をポリヌクレオチドで形質転換するのに利用され得るベクターの例としては、以下が挙げられる。
・ pBR322若しくはPACYC184などのプラスミド、及び/又は
・ 細菌ファージなどのウイルスベクター
・ トランスポゾンなどの転位性の遺伝要素
【0155】
多くの形態の発現ベクターが利用可能である。かかるベクターはプラスミドのDNA複製開始点、抗生物質選択マーカー、プロモーター、並びにマルチクローニング部位(発現カセット)及びリボソーム結合部位をコードするDNA配列により分離される転写ターミネーターを通常含む。
【0156】
本発明において利用されるプロモーターは、関連のポリヌクレオチドに直接的に連結されることが可能であり、代替として適切な位置に、例えば関連のポリペプチドが挿入されるときに関連のプロモーターが同じベクターの上で働くことが可能であるようにベクター中に置かれることが可能である。一実施形態において、プロモーターは自身が働くポリヌクレオチドのコード部分の前に置かれ、これは例えば各々のポリヌクレオチドのコード部分の前に置かれる関連のプロモーターである。本明細書で用いられる「前」とは、プロモーターがコードするポリヌクレオチド部分との関係で5’側に置かれることを意味することが意図される。
【0157】
プロモーターは宿主細胞に対して内因性であっても外因性であってもよい。適したプロモーターとしては、Lac、tac、trp、PhoA、Ipp、Arab、Tet及びT7が挙げられる。
【0158】
利用される1つ又は複数のプロモーターは誘導性のプロモーターであってもよい。
【0159】
細菌系における使用のための発現ユニットはまた、目的ポリペプチドをコードするDNAに作動可能に連結されるシャイン・ダルガーノ(S.D.)リボソーム配列を一般に含有する。
【0160】
ポリヌクレオチド配列が例えば抗体軽鎖及び抗体重鎖といった2つ以上の目的タンパク質についての2つ以上のコードする配列を含む本発明の実施形態において、ポリヌクレオチド配列はmRNAの中央における翻訳開始を許容する1つ又は複数の配列内リボソーム進入部位(IRES)配列を含むことができる。IRES配列はコードするポリヌクレオチド配列の間に位置することができ、mRNAの分離した翻訳を促進してコードされるポリペプチド配列を生産する。
【0161】
ターミネーターは宿主細胞に対して内因性であって外因性であってもよい。適したターミネーターはrrnBである。
【0162】
プロモーター及びターミネーターを包含するさらなる適した転写制御因子並びにタンパク質標的化方法は「大腸菌において遺伝子の高レベル発現を達成するためのストラテジー(Strategies for Achieving High−Level Expression of Genes in Escherichia coli)」、Savvas C.Makrides、Microbiological Reviews、Sept 1996、512〜538ページに見出され得る。
【0163】
ポリヌクレオチドに関して本明細書に記載される本発明の実施形態は、関連の態様が同様に適用されることが可能な限り、本発明の代替的な実施形態、例えばベクター、発現カセット及び/又はその中で利用される構成要素を含む宿主細胞に等しく適用する。
【0164】
本発明の第三の態様によると、本発明の第一又は第二の態様において上記される組換えグラム陰性細菌細胞中で目的の組換えタンパク質を発現させるステップを含む、目的の組換えタンパク質を生産する方法が提供される。
【0165】
本発明の方法において好ましく利用されるグラム陰性細菌細胞及び目的タンパク質は詳細が上に記載されている。
【0166】
目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが外因性であるとき、ポリヌクレオチドは当該技術分野で知られている任意の適した手段を用いて宿主細胞の中に組み入れられ得る。典型的に、ポリヌクレオチドは細胞中に形質転換される発現ベクターの一部として組み入れられる。したがって、1つの態様において、本発明による細胞は目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現カセットを含む。
【0167】
ポリヌクレオチド配列は標準的な技術を用いることで、例えば塩化ルビジウム、PEG又はエレクトロポレーションを利用することで、細胞中に形質転換されることが可能である。
【0168】
本発明による方法はまた、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドで形質転換に成功した安定な細胞の選択を促進する選択系を利用することもできる。選択系は、選択マーカーをコードするポリヌクレオチド配列の共形質転換を典型的に利用する。一実施形態において、細胞中に形質転換される各ポリヌクレオチドは、1つ又は複数の選択マーカーをコードするポリヌクレオチド配列をさらに含む。したがって、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド及びマーカーをコードする1つ又は複数のポリヌクレオチドの形質転換は共に起こり、所望のタンパク質を生産する細胞を選ぶのに選択系を利用することが可能である。
【0169】
1つ又は複数のマーカーを発現することが可能な細胞は、例えば毒素又は抗生物質の添加といった特定の人工的に課された条件下で生存/生育/増殖することができるが、それは細胞の中に組み込まれる選択系のポリペプチド/遺伝子又はポリペプチドの構成要素により付与される性質(例として抗生物質耐性)のためである。1つ又は複数のマーカーを発現することが不可能な細胞は人工的に課された条件下で生存/生育/増殖することができない。人工的に課された条件は必要に応じてより強力な又はより弱いものを選択することが可能である。
【0170】
任意の適した選択系が本発明において利用され得る。典型的に選択系は、例えばテトラサイクリン、クロラムフェニコール、カナマイシン又はアンピシリン耐性遺伝子といった既知の抗生物質への耐性を与える遺伝子を1つ又は複数、ベクター中に包含することに基づき得る。関連の抗生物質存在下で生育する細胞は、抗生物質への耐性を付与する遺伝子と所望のタンパク質との両者を発現することから、選択することが可能である。
【0171】
一実施形態において、本発明による方法は形質転換された細胞を、それによって目的タンパク質を発現させるために培地中で培養するステップをさらに含む。
【0172】
誘導性の発現系又は構成的プロモーターが本発明において目的タンパク質を発現させるのに用いられ得る。適した誘導性の発現系及び構成的プロモーターは当該技術分野でよく知られている。
【0173】
任意の適した培地が形質転換された細胞を培養するのに用いられ得る。培地は特異的な選択系に適合されてもよく、例えば培地は形質転換に成功した細胞だけが培地中で増殖することが許容されるように抗生物質を含んでもよい。
【0174】
培地から取得された細胞は必要に応じてさらなるスクリーニング及び/又は精製に供され得る。本方法は必要に応じて目的タンパク質を抽出し精製するステップを1つ又は複数、さらに含んでもよい。
【0175】
ポリペプチドは、細胞質、ペリプラズム又は培養培地を包含する株から回収され得る。
【0176】
タンパク質を精製するのに用いられる特異的な方法(単数又は複数)は、タンパク質のタイプに依存する。適した方法としては、イムノアフィニティーカラム又はイオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、疎水性相互作用クロマトグラフィー、シリカでのクロマトグラフィー、S−SEPHAROSE及びDEAEなどのイオン交換樹脂でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、硫酸アンモニウム沈殿並びにゲル濾過が挙げられる。
【0177】
抗体は培養培地及び/又は細胞質抽出液及び/又はペリプラズム抽出液から従来の抗体精製手法により適切に分離され得るものであり、この手法としては、例えばタンパク質A−セファロース、タンパク質Gクロマトグラフィー、タンパク質Lクロマトグラフィー、硫黄親和性混合型樹脂、Hisタグ、FLAGタグ、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、アフィニティークロマトグラフィー、硫酸アンモニウム、エタノール若しくはPEG分画/沈殿、イオン交換膜、膨張層吸着クロマトグラフィー(EBA)又は擬似移動床式クロマトグラフィーなどがある。
【0178】
本方法はまた、目的タンパク質の発現量を測定して目的タンパク質の発現レベルが高い細胞を選択するさらなるステップを包含する。
【0179】
本明細書に記載される1つ又は複数の方法ステップは、バイオリアクターなどの適した容器内で組み合わせで行われ得る。
【実施例】
【0180】
(例1)
変異体大腸菌細胞株の作製
用いられた宿主細胞株はW3110遺伝子型:F−LAM−IN(rrnD−rrnE)1 rph1(ATCC番号27325)であった。
【0181】
W3110Aは、図に示されるようにW3110の異なるバッチである。
【0182】
次の変異体大腸菌細胞株がpKO3相同組換え/置換プラスミドを用いる遺伝子置換ベクター系を用いて作製された(Linkら、1997、Journal of Bacteriology、179、6228〜6237ページ)。
【表1】
【0183】
MXE001株は、2009年5月21日にNational Collection of Type Cultures、HPA、英国にアクセッション番号NCTC13444で寄託された。
MXE004株は、2009年5月21日にNational Collection of Type Cultures、HPA、英国にアクセッション番号NCTC13447で寄託された。
MXE005株は、2009年5月21日にNational Collection of Type Cultures、HPA、英国にアクセッション番号NCTC13448で寄託された。
【0184】
Tsp、プロテアーゼIII及びDegP組み込みカセットはSal I、Not I制限断片として同様に制限pKO3プラスミドの中に移動された。
【0185】
プラスミドはクロラムフェニコールマーカーとともにpSC101複製開始点(RepA)の温度感受性変異体を用いて、染色体組み込みイベントを行い、選択する。レバンスクラーゼをコードするsacB遺伝子はショ糖で増殖する大腸菌にとって致死的であり、そのため(クロラムフェニコールマーカー及びpSC101開始点を伴って)脱組み込み及びプラスミドキュアリングイベントを行い、選択するのに用いられる。この方法論は以前に記載されている(Hamiltonら、1989、Journal of Bacteriology、171、4617〜4622ページ及びBlomfieldら、1991、Molecular Microbiology、5、1447〜1457ページ)。pKO3系は挿入される遺伝子を除いて全ての選択マーカーを宿主のゲノムから除去する。
【0186】
次のプラスミドが構築された。
配列番号3に示されるようにEcoR I及びAse I制限マーカーを含むノックアウト変異Tsp遺伝子を含むpMXE191
配列番号6に示されるようにEcoR I及びAse I制限マーカーを含むノックアウト変異プロテアーゼIII遺伝子を含むpMXE192
配列番号9に示されるようにAse Iを含む変異DegP遺伝子を含むpMXE192
【0187】
これらのプラスミドは次いでChung CTら「同一溶液中での細菌細胞の形質転換及び保存(Transformation and storage of bacterial cells in the same solution.)」PNAS 86:2172〜2175ページ(1989)に見出される方法を用いて調製された化学的コンピテント大腸菌W3110細胞に形質転換された。
【0188】
1日目
40μlの大腸菌細胞は、冷却されたBioRad 0.2cmエレクトロポレーションキュベット内で(10pg)1μlのpKO3 DNAと混合された後、2500V、25μF及び200Ωでエレクトロポレーションされた。1000μlの2×PYが速やかに添加され、細胞はインキュベーター内で30℃、1時間、250rpmで振とうすることにより回復した。細胞は2×PY中で段階的に1/10希釈された後、100μlの一定分量がクロラムフェニコールを20μg/ml含有する30℃及び43℃に予め加温された2×PY寒天プレート上に蒔かれた。プレートは30℃及び43℃で終夜インキュベートされた。
【0189】
2日目
30℃で増殖したコロニー数はエレクトロポレーション効率の推定を出すものであったが、43℃での増殖を生き延びたコロニーは潜在的な組み込みイベントを表す。43℃プレートから単一コロニーが採取され、10mlの2×PYに再懸濁された。このうちの100μlが5%(w/v)ショ糖を含有する30℃に予め加温された2×PY寒天プレート上に蒔かれ、単一コロニーを生成した。プレートは30℃で終夜インキュベートされた。
【0190】
3日目
ここでのコロニーは潜在的な同時に起こる脱組み込み及びプラスミドキュアリングイベントを表す。脱組み込み及びキュアリングイベントが増殖において早期に発生する場合、コロニー塊の大部分はクローンであろう。単一コロニーが採取され、クロラムフェニコール20μg/ml又は5%(w/v)ショ糖のいずれかを含有する2×PY寒天上にレプリカプレートが作成された。プレートは30℃で終夜インキュベートされた。
【0191】
4日目
ショ糖で増殖し、且つクロラムフェニコールで死滅するコロニーは、潜在的な染色体置換及びプラスミドキュアリングイベントを表す。これらのコロニーが採取され、変異特異的なオリゴヌクレオチドでのPCRによりスクリーニングされた。正しいサイズの陽性PCRバンドを生成したコロニーが5%(w/v)ショ糖を含有する2×PY寒天上に現れて単一コロニーを生成し、プレートは30℃で終夜インキュベートされた。
【0192】
5日目
PCR陽性、クロラムフェニコール感受性及びショ糖耐性の大腸菌の単一コロニーがグリセロールストック、化学的コンピテントセルを作るのに用いられ、5’及び3’隣接オリゴでのPCR反応のためのPCR鋳型として働いて、Taqポリメラーゼを用いたダイレクトDNAシークエンシングのためのPCR産物を生成した。
【0193】
細胞株MXE001、MXE004及びMXE005は、
図1a、1b及び1cに示されるような非天然のAse I制限部位を含む各変異プロテアーゼ遺伝子の領域をオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCR増幅することにより試験され、1つ又は複数の変異プロテアーゼ遺伝子を保有するゲノムDNAの改変の成功が確認された。増幅されたDNA領域は次いでゲル電気泳動によりAse I制限酵素とのインキュベーションの前後に分析され、変異遺伝子中の非天然のAse I制限部位の存在が確認された。この方法は次のように実施された。
【0194】
次のオリゴがPCRを用いてMXE001、MXE004、MXE005及びW3110から調製された大腸菌細胞溶解液からのゲノムDNAを増幅するのに用いられた。
【化4】
【0195】
溶解液は細胞の単一コロニーを20ulの1×PCRバッファー中で95℃で10分間加熱することにより調製された。混合液は室温まで冷やされ、次いで13,200rpmで10分間遠心分離された。上清は移され、「細胞溶解液」としてラベルされた。
【0196】
各々の株はオリゴのTsp対、プロテアーゼIII対及びDegP対を対毎に用いて増幅された。
【0197】
DNAは標準的なPCR手法を用いて増幅された。
5ul バッファー×10(Roche)
1ul dNTP混合液(Roche、10mM混合液)
1.5ul 5’オリゴ(5pmol)
1.5ul 3’オリゴ(5pmol)
2ul 細胞溶解液
0.5ul Taq DNAポリメラーゼ(Roche 5U/ul)
38.5ul H2O
【0198】
PCRサイクル
94℃ 1分間
94℃ 1分間)
55℃ 1分間) 30サイクル繰り返される
72℃ 1分間)
72℃ 10分間
【0199】
反応が完了したら、25ulがAse Iでの消化のために新しい微量遠心チューブへと移された。25ulのPCR反応液に19ulのH2O、5ulのバッファー3(NEB)、1ulのAse I(NEB)が添加、混合され、37℃で2時間インキュベートされた。
【0200】
残りのPCR反応液に5ulのローディングバッファー(×6)が添加され、20ulが0.8% TAE 200mlアガロースゲル(Invitrogen)+エチジウムブロマイド(5ulの10mg/mlストック)上にロードされて、100ボルトで1時間泳動された。10ulのサイズマーカー(Perfect DNAマーカー 0.1〜12Kb、Novagen)が最終レーン内にロードされた。
【0201】
Ase I消化が完了したら、10ulのローディングバッファー(×6)が添加され、20ulが0.8% TAEアガロースゲル(Invitrogen)+エチジウムブロマイド(5ulの10mg/mlストック)上にロードされて、100ボルトで1時間泳動された。10ulのサイズマーカー(Perfect DNAマーカー 0.1〜12Kb、Novagen)が最終レーン内にロードされた。
【0202】
両方のゲルはUVトランスルミネーターを用いて可視化された。
【0203】
増幅された全てのゲノム断片はTspについて2.8Kb、プロテアーゼIIIについて1.8Kb、及びDegPについて2.2K.bの正しいサイズのバンドを示した。
【0204】
Ase Iでの消化後、これにより導入されたAse I部位がプロテアーゼ欠損株の中には存在するが、W3110対照の中には存在しないことを確認した。
【0205】
MXE001:Tspプライマーセットを用いて増幅されたゲノムDNA及び結果として生じたDNAがAse Iで消化され、2.2Kbp及び0.6Kbpのバンドを生じた。
【0206】
MXE004:Tspプライマーセット及びプロテアーゼIIIプライマーセットを用いて増幅されたゲノムDNA及び結果として生じたDNAがAse Iで消化され、2.2Kbp及び0.6Kbpのバンド(Tsp断片)並びに1.0Kbp及び0.8Kbpのバンド(プロテアーゼIII断片)を生じた。
【0207】
MXE005 Tspプライマーセット及びDegPプライマーセットを用いて増幅されたゲノムDNA及び結果として生じたDNAがAse Iで消化され、2.2Kbp及び0.6Kbpのバンド(Tsp断片)並びに1.25Kbp及び0.95Kbpのバンド(DegP断片)を生じた。
【0208】
W3110のPCR増幅されたDNAはAse I制限酵素により消化されなかった。
【0209】
CDP870 Fab’(抗TNF Fab’)の発現ベクターであるプラスミドpMXE117(pTTO CDP870又は40.4)は、Sambrookら 1989、Molecular cloning:a laboratory manual.CSHL press、N.Y.において見出すことができる従来の制限クローニング方法論を用いて構築された。プラスミドpMXE117(pTTO CDP870又は40.4)は強いtacプロモーター及びlacオペレーター配列という特徴を含有した。Fabの軽鎖及び重鎖遺伝子は単一のジシストロニックなメッセージとして転写された。大腸菌OmpAタンパク質からのシグナルペプチドをコードするDNAは軽鎖及び重鎖遺伝子配列の両方の5’末端へと融合され、ポリペプチドの大腸菌ペリプラズムへの移行を指揮した。転写は二重転写ターミネーターrrnB t1t2を用いて終結された。lacIq遺伝子は恒常的に発現されるLac Iリプレッサータンパク質をコードした。これはtacプロモーターからの転写を、脱抑制がアロラクトース又はIPTGの存在により誘導されるまで抑制した。用いられた複製開始点はp15Aで、これは低いコピー数を維持した。プラスミドは抗生物質選択のためのテトラサイクリン耐性遺伝子を含有した。
【0210】
pMXE117は次いでChung C.Tら「同一溶液中での細菌細胞の形質転換及び保存(Transformation and storage of bacterial cells in the same solution.)」PNAS 86:2172〜2175ページ(1989)に見出される方法を用いて調製された化学的コンピテントなプロテアーゼ欠損細胞(株MXE001、MXE004及びMXE005)並びにW3110細胞の中に形質転換された。
【0211】
(例2)
振とうフラスコ培養を用いた変異大腸菌株における抗TNFα Fab’の発現
株MXE001、MXE004及びMXE005は、増殖及び抗TNFα Fab’の発現をW3110に対して比較する振とうフラスコ実験において試験された。
【0212】
用いられた振とうフラスコ実験プロトコールは次のように行われた。
【0213】
合成培地順応細胞の調製
単一コロニーは5mlの2×PY(1% phytone、Difco、0.5%酵母エキス、Difco、0.5% NaCl)ブロス+テトラサイクリン(Sigma)10ug/mlの中に採取され、250rpmで振とうしながら37℃で終夜増殖させた。100ulのこの終夜培養液は200mlの化学合成SM6E培地(Humphreysら、2002、Protein Expression and Purification、26、309〜320ページに記載)+テトラサイクリン10ug/mlに接種するのに用いられ、250rpmで振とうしながら30℃で終夜増殖させた。100ulのこの第二の終夜培養液は、第二の200mlのSM6E培地+テトラサイクリン10ug/mlの入ったフラスコに接種するのに用いられた。これは培養液がOD600およそ2に達するまで増殖させた。培養液は短時間遠心分離されて細胞が回収された後、100mlのSM6Eに再懸濁された。グリセロールが終濃度12.5%になるように添加された後、一定分量の「順応細胞」が−80℃で保存された。
【0214】
200ml振とうフラスコ実験
振とうフラスコ培養は2mlの一定分量の融解された合成培地「順応細胞」を200mlのSM6E培地+テトラサイクリン10ug/mlに添加することにより開始された。これらは250rpmで撹拌しながら30℃で終夜増殖させた。試験される各々の株は3連で増殖させた。
【0215】
2.0のOD600まで増殖させた細胞はIPTGを200uMになるように添加することにより異種タンパク質の生産のために誘導された。1mlの培養サンプルが1時間、2時間、4時間、6時間、12時間及び24時間で採取され、13,200rpmで5分間の遠心分離後、細胞ペレットは200ulのペリプラズム抽出バッファー(100mM Tris.Cl/10mM EDTA pH7.4)に再懸濁された。ペリプラズム抽出液は30℃で終夜、250rpmで撹拌された。翌日、抽出液は13,200rpmで10分間遠心分離され、上清がデカンテーションで除去されて「ペリプラズム抽出液」として−20℃で保存された。使用済みの細胞ペレットは廃棄された。
【0216】
ELISA定量
96ウェルのELISAプレートは4℃で終夜、AB141(ウサギ抗ヒトCH1、UCB)2μgml
−1でPBS中でコーティングされた。300ulのサンプル/コンジュゲートバッファー(PBS、BSA 0.2%(w/v)、Tween20 0.1%(v/v))で3回洗浄後、サンプル及び標準の1/2段階希釈がプレート上で100μlのサンプル/コンジュゲートバッファー中で行われ、プレートは室温で1時間、250r.p.mで撹拌された。300ulの洗浄バッファー(PBS、Tween20 0.1%(v/v))で3回洗浄後、100μlの露出抗体6062(ウサギ抗ヒトκ HRPコンジュゲート、The Binding Site、Birmingham、U.K.)がサンプル/コンジュゲートバッファーで1/1000に希釈した後に添加された。プレートは次いで室温で1時間、250r.p.mで撹拌された。300ulの洗浄バッファーで3回洗浄後、100μlのTMB基質が添加され(TMB溶液(Calbiochem):dH
2Oの50:50混合液)、A
630が自動プレートリーダーを用いて記録された。ペリプラズム抽出液中のFab’濃度は適切なアイソタイプの精製Fab’標準との比較により算出された。
【0217】
図2は野生型W3110と比較したMXE005及びMXE001の増殖を示す。
図3は野生型W3110と比較したMXE005及びMXE001株からのFab’の改善された発現を示す。
【0218】
図4はMXE004及びW3110の増殖を示し、
図5はMXE004及びW3110におけるFab’の発現を示し、
図5ではMXE004からの発現はW3110より高かったことが分かる。
【0219】
(例3)
振とうフラスコ培養を用いた変異大腸菌株における抗mIL13マウスFabの発現
株MXE001、MXE004、MXE005及び野生型W3110細胞はマウス化抗mIL13 Fab’を発現するプラスミドpMKC006で形質転換され、実験が24時間後の代わりに6時間後に停止されたこと以外は例2に記載されたものと同じ振とうフラスコ方法を用いて試験された。
【0220】
図6はMXE001、MXE004、MXE005及びW3110における抗mIL−13マウスFabの発現を示し、ここではMXE001、MXE004及びMXE005はW3110と比較してより高いFab発現を示すことが分かる。
【0221】
(例4)
変異大腸菌株からの軽鎖及び重鎖の発現分析
例2に記載された振とうフラスコ実験の、プラスミドpMXE117で形質転換された株MXE005及び野生型W3110細胞由来のペリプラズム抽出液は、BIAcore(商標)2000装置(Pharmacia Biosensor AB、Uppsala、Sweden)を用いて行われる表面プラスモン共鳴結合アッセイを用いて試験された。抗TNFα Fab’はCM5センサーチップ上に標準的なNHS/EDC化学作用を用いて固定された。残渣のNHSエステルはエタノールアミン塩酸塩(1M)で不活化された。
【0222】
Fab’断片は固定化されたモノクローナル抗重鎖抗体又は固定化されたモノクローナル抗軽鎖抗体のいずれかにより別々のフローセル内に捕捉された。結合したFab’の存在は、第二のステップにおける相補的なモノクローナル抗体(抗軽鎖又は抗重鎖)の結合により明らかにされた。高レベルの固定化抗体は、大量輸送が限定された条件下で測定が行われることを確実にするが、ここで結合についての会合速度定数の寄与はサンプル中のFab’濃度によりなされる寄与との比較において低い。第二のステップで用いられる溶液相のモノクローナル抗体は、結合がこの相互作用の会合速度定数により限定されないよう高濃度で表面上を通過する。
【0223】
アセンブルされたFab’断片及び正しくフォールドされたアセンブルされていない鎖はいずれも最初の捕捉ステップの間に検出される。二次抗体の結合はインタクトなFab’断片のみに対するものである。それ故、第一及び第二段階での相対的結合の分析はFab’サンプル中の過剰なアセンブルされていない軽鎖又は過剰なアセンブルされていない重鎖のいずれかの存在を明らかにし、アセンブリーの化学量論に対する情報を与える。
【0224】
アッセイは両方の設定において各サンプルについて行われ、各サンプルは2連でランダム化された順番で流された。
【0225】
(i)アセンブルされたFab’の濃度が軽鎖の捕捉により決定されるものであった場合、サンプル及び標準(10gl/minの)が固定化されたHP6053上にインジェクトされ、HP6045を300Rg/mlで溶液相中の表面上を通過させる第二のステップが続いた。
【0226】
(ii)アセンブルされたFab’の濃度が重鎖の捕捉により決定されるものであった場合、サンプル及び標準(10t at tOjuVmin)が固定化されたHP6045上にインジェクトされ、HP6053を5001lg/mlで溶液相中の表面上を通過させる第二のステップが続いた。いずれの場合においても、表面は10giの30mM HClで、30l/minで再生された。
【0227】
BlAevaluation 3.1(Pharmacia Biosensor AB)を用いて決定された共鳴ユニット数は、標準曲線に対して読み取られた。
【0228】
図7は発酵過程の間の軽鎖(L鎖)、重鎖(H鎖)及びFabの発現を示し、ここではMXE001からの2時間、4時間及び6時間後の軽鎖、重鎖及びFab’の発現がW3110と比較してより高いことが示される。
図7は6時間後のMXE005からの軽鎖がW3110と比較してより高く、MXE005からの2時間、4時間及び6時間後のFab’発現がW3100と比較してより高いことを示す。
【0229】
(例5)
Fab’についての変異大腸菌株のタンパク質分解活性の分析
例2における振とうフラスコ実験の、プラスミドpMXE117で形質転換された株MXE001、MXE005及び野生型W3110細胞由来のペリプラズム抽出液は、ポリクローナルなウエスタンブロット分析において抗TNFα Fab’のタンパク質分解と比較して次のように試験された。
【0230】
12ulの各ペリプラズム抽出液+4ulのSDS−PAGEローディングバッファー(Invitrogen)は85℃まで5分間加熱され、25℃まで冷却されて、次いで短時間遠心分離されて、予め調製されたNuPAGE 4〜12% Bis−Trisゲル(Invitrogen)上にロードされた。SeeBlue2サイズマーカー(Invitrogen)が分子量の推定に用いられた。ゲルは150Vで1時間電気泳動された後、タンパク質は150mAで2時間のイムノブロッティングを用いて、予め湿らせたPVDF膜(Invitrogen)上にトランスファーされた。膜は「ブロッキングバッファー」(PBS、3%(w/v)粉乳、0.1%(v/v)Tween20(Sigma))中で穏やかに撹拌しながら1時間ブロッキングされた。ポリクローナルウサギ抗ヒトFab’血清(UCB)が5mlのブロッキングバッファー中の1:1000の希釈でアプライされ、室温で1時間、穏やかに撹拌しながらインキュベートされた。膜は、各回とも穏やかに撹拌しながらブロッキングバッファーで5分間、3回洗浄された。二次抗体(ロバ抗ウサギIgG HRPコンジュゲート抗体(Jackson))がブロッキングバッファー中の1:5000の希釈でアプライされ、室温で1時間、穏やかに撹拌しながらインキュベートされた。膜は、各回とも穏やかに撹拌しながら5分間、4回洗浄され、初回はブロッキングバッファーで、その後PBS、0.1%Tweenで2回、次いで最終回はPBSで洗浄された。ブロットはMetal Enhanced Dab基質(Thermo Scientific)を用いて可視化された。
【0231】
図8はウエスタンブロット分析の結果を示し、W=W3110、1=MXE001(ΔTsp)及び5=MXE005(ΔTsp、DegP S210A)である。14KDa周辺の断片化は、発現されたFab’軽鎖のタンパク質分解断片を表すと考えられる。MXE001及びMXE005は野生型W3110と比較して14KDaマーク周辺のタンパク質分解産物がより少ないことが分かる。理論に縛られることなく、このデータは抗TNFα Fab’がTsp及びDegPによるタンパク質分解に感受性であることを示唆する。
【0232】
(例6)
高密度発酵を用いた変異大腸菌株の増殖及び変異大腸菌株におけるFab’の発現
株MXE005及び野生型W3110細胞は、増殖及び抗TNFα Fab’の発現を比較する発酵実験において試験されたプラスミドpMXE117で形質転換された。
【0233】
増殖培地
発酵増殖培地は3.86g/l NaH
2PO
4.H
2O及び112g/lグリセロールを含むSM6E培地(Humphreysら、2002、Protein Expression and Purification、26、309〜320ページに記載される)に基づくものであった。
【0234】
種菌
種菌培養液は10μg/mlテトラサイクリンを補充した同一培地中で増殖させた。培養液は30℃で撹拌しながらおよそ22時間インキュベートされた。
【0235】
発酵
発酵槽(総容量2.5リットル)に、種菌培養液が0.3〜0.5のOD
600になるように接種した。温度は増殖期の間は30℃に維持され、誘導の前に25℃へと下げられた。溶存酸素濃度は可変の撹拌及び気流により30%より高い空気飽和度で維持された。培養液のpHは15%(v/v)NH
4OH及び10%(v/v)濃H
2SO
4での自動滴定により7.0で制御された。発泡は10%(v/v)Struktol J673溶液(Schill及びSeilacher)の添加により制御された。
【0236】
多数の添加が発酵の異なる段階でなされた。バイオマス濃度がおよそ40のOD
600に達したとき、マグネシウム塩及びNaH
2PO
4.H
2Oが添加された。NaH
2PO
4.H
2Oのさらなる添加が誘導期の前及び間になされ、リン酸塩が過剰量で維持されることを確実にした。発酵開始時に存在するグリセロールが枯渇したとき(およそ75のOD
600)、80%(w/w)グリセロールの連続供給が適用された。発酵中の同じ時点で170μMでのIPTG供給が適用された。IPTG供給の開始は誘導の開始として受け取られた。発酵は典型的により低いグリセロール供給速度(0.5〜2.5ml/h)で70〜73時間、より高いグリセロール供給速度(5.4〜10.9ml/h)で50〜60時間実行された。
【0237】
バイオマス濃度及び増殖速度の測定
バイオマス濃度は600nmでの培養液の光学密度を測定することにより決定された。
【0238】
ペリプラズムの抽出
細胞は培養サンプルから遠心分離により回収された。上清画分はさらなる分析のために(−20℃で)保持された。細胞ペレット画分は抽出バッファー(100mM Tris−HCl、10mM EDTA、pH7.4)中で元の培養液の液量になるように再懸濁された。60℃でおよそ16時間のインキュベーションに続いて、抽出液は遠心分離により澄まされ、上清画分は分析のために(−20℃で)保持された。
【0239】
Fab’の定量
ペリプラズム抽出液及び培養上清中のFab’濃度はHumphreysら、2002、Protein Expression and Purification、26、309〜320ページに記載されるFab’アセンブリーELISAにより決定された。
【0240】
図9は対照のW3110と比較したMXE001の増殖プロファイルを示し、これは増殖プロファイルがおよそ35時間、実質的に同じであることを示す。
【0241】
図10は対照のW3110と比較した大腸菌株MXE001由来の上清(点線)及びペリプラズム(実線)からのFab収量を示す。MXE001株はおよそ30時間までより高いペリプラズムのFab’発現を、発酵期間全体にわたって顕著により高い上清のFab’発現を示す。
【0242】
図11は対照のW3110と比較した大腸菌株MXE001の上清及びペリプラズムからの総Fab’収量を示し、ここではMXE005株が対照のW3110と比較してより高いFab’収量を得たことが分かる。
【0243】
図12は対照のW3110と比較した大腸菌株MXE001のFab’特異的な生産速度を示し、ここではMXE001がW3110と比較して顕著により高い特異的な生産速度を持つことが分かる。
【0244】
図13は対照のW3110と比較したMXE004及びMXE005の増殖プロファイルを示す。MXE004及びMXE005の増殖プロファイルは対照のW3110と比較して、およそ35時間の初期期間にわたってより速い。
【0245】
図14は大腸菌株MXE004、MXE005及びW3110対照の上清(点線)及びペリプラズム(実線)からのFab’収量を示す。MXE005株はおよそ28時間、対照と比較してより高いペリプラズムからのFab’収量を示し、発酵期間全体にわたって対照と比較して顕著により高い上清のFab’収量を示す。MXE004株はおよそ20時間、対照と比較してより高いペリプラズムからのFab’収量を示し、発酵期間全体にわたって対照と比較して顕著により高い上清のFab’収量を示す。
【0246】
図15は大腸菌株MXE004及びMXE005の上清及びペリプラズムからの総Fab’収量を示し、ここではMXE004株及びMXE005株は対照と比較して顕著により高い収量を得たことが明確に分かる。
【0247】
図16は大腸菌株MXE004、MXE005及びW3110対照のFab’特異的な生産速度を示し、ここではMXE004及びMXE005はW3110と比較して顕著により高い特異的な生産速度を持つことが分かる。
【0248】
(例7)
振とうフラスコ実験におけるW3110及び高度に変異した大腸菌株と比較した変異大腸菌株MXE001、MXE004及びMXE005の増殖
次の株が振とうフラスコ実験において分析され、増殖速度が評価された。
W3110由来の変異大腸菌株MXE001、MXE004及びMXE005(例1)
野生型大腸菌株W3110
以下の遺伝子型を持つSURE(Stratagene)
【化5】
以下の遺伝子型を持つSTBL3(Invitrogen)
【化6】
以下の遺伝子型を持つTOP10(Invitrogen)
【化7】
及び以下の遺伝子型を持つXL1−Blue(Stratagene)
【化8】
【0249】
単一コロニーを5mlのLBブロス(1リットルあたり10gトリプトン、5g酵母エキス、10g NaCl)中に採取し、37℃で終夜、250rpmで振とうしながら増殖させた。終夜培養液は75mlのLBブロスにOD
660が0.1になるよう接種するのに用いられた(n=2)。培養液は37℃、250rpmで振とうしながら増殖させ、0.2mlのサンプルが毎時間移され、OD
600が記録された。OD600は次いで1時間ごとの時間に対してプロットされ、結果は
図17に示される。大きく変異した大腸菌株はMXE001、MXE004、MXE005及びW3110と比較してより低い増殖速度を持つことが
図17から見られる。
【0250】
本発明は好ましい実施形態に関してとりわけ示され、記載されているが、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の範囲から逸脱することなく形態及び詳細における様々な変更がなされ得ることが当業者に理解されるであろう。