特許第6132561号(P6132561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6132561排水処理用触媒及びそれを用いた排水処理方法
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  • 特許6132561-排水処理用触媒及びそれを用いた排水処理方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132561
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】排水処理用触媒及びそれを用いた排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/50 20060101AFI20170515BHJP
   B01J 23/52 20060101ALI20170515BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20170515BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20170515BHJP
   C02F 1/74 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   B01J23/50 MZAB
   B01J23/52 M
   B01J23/46 301M
   B01J23/89 M
   C02F1/74 101
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-9653(P2013-9653)
(22)【出願日】2013年1月22日
(65)【公開番号】特開2014-140800(P2014-140800A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】熊 涼慈
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 綱也
(72)【発明者】
【氏名】石井 徹
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−257575(JP,A)
【文献】 特開2001−300313(JP,A)
【文献】 特開2008−093539(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/120588(WO,A1)
【文献】 特開平08−276194(JP,A)
【文献】 特開2007−268527(JP,A)
【文献】 特表平10−511040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 −38/74
C02F 1/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水の湿式酸化処理に用いる触媒であって、ルテニウムと、A成分として鉄、チタン、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物と、B成分として銀、金、パラジウム、イリジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の貴金属または該貴金属を含む化合物であり、ルテニウム/B成分の質量比(Ru/B比)が3/1以上50/1以下であることを特徴とする排水処理用触媒。
【請求項2】
ルテニウムを0.05〜10質量%、A成分を89〜99.94質量%、B成分を0.01〜1質量%(ルテニウムとA成分とB成分の合計は100質量%である)含有することを特徴とする請求項1に記載の排水処理用触媒。
【請求項3】
ルテニウムの少なくとも70質量%が触媒表面から1000μm以内の位置に存在することを特徴とする請求項1または2に記載の排水処理用触媒。
【請求項4】
触媒の比表面積が20〜70m/gであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の排水処理用触媒。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の触媒を用いて排水を湿式酸化することを特徴とする排水の処理方法。
【請求項6】
反応塔に上記触媒を触媒層あたり空間速度0.1〜10hr−1となるように充填し、理論酸素要求量の0.5〜5倍の酸素共存下にて排水を加熱して反応塔に供給し、反応塔を80〜370℃に加熱して触媒により排水を酸化・分解処理し、得られた処理液を気液分離することを特徴とする請求項5に記載の排水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水を浄化処理する方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、化学プラント設備、メッキ工業設備、皮革製造設備、金属工業設備、金属鉱業設備、食品製造設備、医薬品製造設備、繊維工業設備、紙パルプ工業設備、染色染料工業設備、電子工業設備、機械工業設備、印刷製版設備、ガラス製造設備、写真処理設備、発電設備から排出される排水を浄化処理する場合に用いられる。
【背景技術】
【0002】
排水を処理する方法としては、例えば生物処理法、燃焼処理法、および湿式酸化法などが知られている。生物処理法は、排水中の被酸化性物質の分解に長時間を要し、しかも低濃度のものしか処理できないので、排水が高濃度の場合、適切な濃度に希釈する必要などがあり、これらの為に処理施設の設備面積が広大になるという欠点がある。また、使用する微生物は気温等の影響を大きく受けるため、安定した運転を続けることは困難である。
【0003】
燃焼処理は、燃料費等のコストがかかるため、大量の排水を処理すると処理コストが著しく高くなるという問題を有している。また燃焼による排ガス等による二次公害を生じるおそれがある。
【0004】
湿式酸化法は、高温、高圧下で、しかも酸素の存在下で排水を処理し、排水中の被酸化性物質を酸化および/または分解処理する方法であるが、一般に処理効率が低いため、この方法において反応速度を速め且つ反応条件を緩和する手段として、例えば酸化物を用いた触媒やこれら酸化物と貴金属元素等を組み合わせた触媒を使用する触媒湿式酸化法が提案されている。
【0005】
本発明者らは既に、チタンとジルコニウムの複合酸化物と、パラジウムおよび白金等の貴金属類、および/またはコバルト、ニッケル等の重金属類を含有する触媒を用いた排水の処理方法(特許文献1)、鉄とチタン、ケイ素およびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物と、パラジウムおよび白金等の貴金属類、および/またはコバルト、ニッケル等の重金属類を含有する触媒およその触媒を用いた排水の処理方法(特許文献2)を提案した。これらの触媒はいずれも触媒活性が高く、耐久性においても高いものとなったが、更なる処理活性および耐久性の向上が望まれるものであった。
【0006】
そのような中、本発明者らは、2種類以上の触媒組成および/または触媒組成比の異なる触媒を使用した排水の処理方法(特許文献3)を提案した。この方法は、従来の方法と比べると浄化性が高く、耐久性もあり、経済性にも優れた方法であったが、長期間の使用においては、特に触媒層入口部における触媒の処理性能の低下や、触媒強度の低下、あるいは粉化を生じることがあった。また、長期間安定的に処理できる場合においても、処理性能が低い問題があった。更に、気液上向並流を使用した処理方法では、入口部分が反応器の下部となるため、劣化しやすい下部の触媒のみを交換することができず、触媒をすべて抜き出す必要があり、非常に高コストになることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平3−34997号
【特許文献2】特開平5−138027号
【特許文献3】特開平8−276194号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、排水中の有機および/または無機の被酸化性物質を効率よく、経済的に、なおかつ長期間安定的に処理する方法を提供することを目的とするものである。更に白金、パラジウムは高活性であるが高コストであるために排水処理設備の費用負担が増加し一般的に排水処理手段として用いるには不利である。本発明はこれらの排水を実際に処理するときの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、以下の手段を見出し発明を完成するに至ったものである。
【0010】
本発明は排水の湿式酸化処理に用いる触媒であって、ルテニウムと、A成分として鉄、チタン、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物と、B成分として銀、金、白金、パラジウム、イリジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の貴金属または該貴金属を含む化合物であり、ルテニウム/B成分の質量比(Ru/B比)が2/1以上50/1以下であることを特徴とする排水処理用触媒である。更に当該触媒を用いた排水処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明を用いることで、白金(Pt)、パラジウム(Pd)のような高価な貴金属を多量に用いることなく、これらの貴金属を多く使用した触媒と同等以上に排水を処理することができる。更に排水処理条件を限定することで当該触媒の性能を十分に発揮することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明にかかる排水処理方法の実施態様の一つを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は排水の湿式酸化処理に用いる触媒であって、ルテニウムと、A成分として鉄、チタン、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物と、B成分として銀、金、白金、パラジウム、イリジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の貴金属または該貴金属を含む化合物であり、ルテニウム/B成分の質量比(Ru/B比)が2/1以上50/1以下であることを特徴とする排水処理用触媒であり、好ましくは(1)ルテニウムを0.05〜10質量%、A成分を89〜99.94質量%、B成分を0.01〜1質量%(ルテニウムとA成分とB成分の合計は100質量%である)含有すること、(2)ルテニウムの少なくとも70質量%が触媒表面から1000μm以内の位置に存在すること、(3)触媒の比表面積が20〜70m/gであることである。
【0014】
本発明にかかる触媒を用いた排水処理方法は、当該触媒を用いて排水を湿式酸化すること、好ましくは反応塔に上記触媒を触媒層あたり空間速度0.1〜10hr−1となるように充填し、理論酸素要求量の0.5〜5倍の酸素共存下にて排水を加熱して反応塔に供給し、反応塔を80〜370℃に加熱して触媒により排水を酸化・分解処理し、得られた処理液を気液分離することである。
【0015】
(触媒)
本発明にかかる触媒は、ルテニウムと、A成分として鉄、チタン、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物と、B成分として銀、金、白金、パラジウム、イリジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の貴金属または該貴金属を含む化合物であり、ルテニウム/B成分の質量比(Ru/B比)が2/1以上50/1以下であることを特徴とする。
【0016】
ルテニウム(Ru)は金属、金属酸化物何れの状態であっても良いし、双方が混ざった状態であっても良い。ルテニウム量はB成分との関係で、ルテニウム/B成分の質量比(Ru/B比)が2/1以上50/1以下であること、好ましくは3/1以上40/1以下、より好ましくは4/1以上30/1以下である。2/1未満であるときは貴金属量が増加し触媒コストが上昇することから好ましくはない。また本発明は他の構成要素と併用することで貴金属量を増加させることなく高活性を得ることができるものである。一方、50/1を超える場合には排水処理活性が極度に低下することが見られるので好ましくはない。
【0017】
ルテニウム源としては、金属の他、ルテニウム塩、特に水溶性塩を用いることができ、好ましくは水溶性のルテニウム塩であり、好ましくは塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、酢酸ルテニウム、ルテニウム酸カリウム、ヘキサアンミンルテニウム三塩化物であり、更に好ましくは、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウムである。水溶性ルテニウム塩はA成分にルテニウムを被覆する場合に好都合であること、触媒の表面から1000μm以内の位置に存在させることなどができるからである。
【0018】
A成分としては、鉄、チタン、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物であり、好ましくは鉄、チタン、ジルコニウムおよびセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物、更に好ましくは鉄、チタンおよびセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物である。元素を含む化合物とは処理する排水中で安定し排水を処理することができるものであれば何れのものであってもよいが、好ましくは炭酸塩、水酸化物、酸化物であり、更に好ましくは酸化物である。これらの化合物は混合物、複合物であってもよく、たとえば酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム、酸化ジルコニウムの単独、又はこれらの混合物、チタンと鉄の複合酸化物、チタンとセリウムの複合酸化物、チタンとジルコニウムの複合酸化物、鉄とセリウムの複合酸化物、鉄とジルコニウムの複合酸化物、セリウムとジルコニウムの複合酸化物、チタンと鉄とセリウムの複合酸化物を用いることができ、好ましくはチタンと鉄の複合酸化物、チタンとセリウムの複合酸化物、チタンとジルコニウムの複合酸化物、更に好ましくはチタンと鉄の複合酸化物、チタンとジルコニウムの複合酸化物である。
【0019】
B成分として銀、金、白金、パラジウム、イリジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の貴金属または該貴金属を含む化合物であり、好ましくは白金、パラジウムまたはイリジウムの少なくとも1種であり、最も好ましくは白金又はパラジウムである。B成分は単独使用できる他、混合すること、合金とすることでも使用することができる。
【0020】
ルテニウム、A成分、B成分は混合して用いることもできるが、単位質量あたり体積が大きいA成分にルテニウム、B成分を担持することが好ましい。またA成分に一所に担持すること、A成分に別々に担持することもできる。
【0021】
なおルテニウム、A成分、B成分の他、本発明にかかる触媒性能を阻害しないものであれば他の成分を混合または担持することもできる。
【0022】
当該触媒を100質量%とした場合にルテニウムは0.05〜10質量%、好ましくは0.07〜8質量%、更に好ましくは0.1〜6質量%である。0.05質量%未満であるときは十分な処理性能が得られないため好ましくなく、10質量%を超えても使用量に相応した処理性能が得られず、かつコストアップとなるため経済的に不利であり好ましくないからである。
【0023】
当該触媒を100質量%とした場合にB成分は0.01〜1質量%であり、好ましくは0.01〜0.7質量%、更に好ましくは0.01〜0.6質量%である。0.01質量%未満であれば十分な処理性能が得られないため好ましくなく、1質量%を超えても使用量に相応した処理性能が得られず、かつコストアップとなるため経済的に不利であり好ましくないからである。
【0024】
なお、ルテニウムとA成分とB成分の合計は100質量%であり、ルテニウムおよびB成分の含有比率は、貴金属として計算する。
【0025】
(触媒調製方法)
本発明の効果を奏するものであれば触媒の調製方法は何れのものであってもよいが、好ましくは(1)ルテニウム塩、A成分およびB成分の塩を粉末の状態で混合し触媒とする方法、(2)A成分に、ルテニウムの水溶性塩とB成分の水溶性塩を含む水溶液を加え十分に混合したのち乾燥し焼成し触媒とする方法、(3)A成分であって排水に不溶な化合物をペレット状等の所望の形状に成形したものに、ルテニウムの水溶性塩とB成分の水溶性塩を含む水溶液を加え十分に混合したのち乾燥し焼成し触媒とする方法があり、特に(3)が好ましい。
【0026】
また、本発明の触媒の形状としては、例えば、ペレット状、粒状、球状、リング状、ハニカム状など、目的に応じた形状を適宜選択すればよく、特に限定されない。
【0027】
(活性成分の分布状態の測定)
触媒に担持されている活性成分全量に対する、担体表面から深さ1000μmまでの触媒表層部に存在する活性成分の割合(質量%)は、EPMA(電子プローブマイクロ分析)により触媒断面における活性成分の量を線分析し、面積比により、全体の分布に占める、触媒表面から深さ1000μmまでの割合を算出して求めた。
分析装置:島津製作所製EPM−810
X線ビーム直径:1μm
加速電圧:20kV
試料電流:0.1μm
試料スキャン速度200μm/分
(比表面積)
窒素を用いたBET法により求めた比表面積である。
【0028】
(排水の処理方法)
本発明が対象とする排水は、化学プラント設備、メッキ工業設備、皮革製造設備、金属工業設備、金属鉱業設備、食品製造設備、医薬品製造設備、繊維工業設備、紙パルプ工業設備、染色染料工業設備、電子工業設備、機械工業設備、印刷製版設備、ガラス製造設備、写真処理設備、発電設備から排出される排水であり、特に有効に効果を生じる排水はアクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸等の脂肪族カルボン酸やそのエステル、またはテレフタル酸、テレフタル酸エステル等の芳香族カルボン酸やそのエステル、またはアミン、イミン、アンモニア、ヒドラジン等の窒素化合物、または硫化水素、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物やメルカプタン類、スルホン酸類等の有機硫黄化合物、或いはジオキサン、フェノール類、ダイオキシン類、フロン類等の有害物質が含まれているものである。
【0029】
排水処理温度および圧力は、反応塔内で排水が液相を保持できるように処理温度に応じて圧力を適宜調節することが望ましい。例えば処理温度が80〜95℃の場合は大気圧下でもよいが、95℃〜170℃の場合は0.2〜1MPa(Gauge)程度の圧力、170〜230℃の場合は1〜5MPa(Gauge)程度の圧力、230℃以上の場合は5MPa(Gauge)超の圧力を加え、排水が液相を保持できる様に圧力を制御する事が望ましい。
【0030】
液空間速度(LHSV)は0.1〜10hr−1、好ましくは0.2〜5hr−1であり、0.1hr−1未満であれば排水処理量が低下して、過大な設備が必要となることがあり、10hr−1を超える場合には反応塔内での排水の酸化・分解処理が不十分となることがあるため好ましくはないからである。
【0031】
本発明は、排水を、酸素源を用いて処理することができ、酸素源とは酸素ガス、空気、オゾン、過酸化水素である。酸素供給量は、排水の理論酸素要求量の0.5〜5倍、好ましくは0.7〜4倍含まれるものを用いることができる。また排水中に酸素を含む化合物が存在する場合には酸素を含まない不活性ガス、窒素、二酸化炭素、プラントからの燃焼ガスを用いて処理することができる。
【0032】
なお、ここでいう理論酸素要求量とは、排水中の被酸化物質を、二酸化炭素、窒素、水、硫酸塩等の灰分にまで分解するのに必要な酸素量のことを言う。
【実施例】
【0033】
以下に実施例と比較例をもちいて本発明を更に説明するが本発明の効果を奏するものであれば以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
−触媒調製例1(A−1)−
触媒調製には、チタンの酸化物(チタニア)のペレット状成形担体を用いた。該担体は平均直径5mm、平均長さ6mm、比表面積はBET法で41m/g、該成形担体のチタンの酸化物の結晶構造はアナターゼ型であった。活性成分を該担体の表層部に微粒子として高分散担持させるため、該担体を常時動かしながら、Ru:Ag=20:1(質量比)の割合で混合した硝酸ルテニウム水溶液と硝酸銀水溶液の混合水溶液を吹き付けて担持させた後、90℃の熱風気流中で回転させながら1時間乾燥し、次いで水素含有ガスを用いて300℃で3時間焼成処理を行って触媒(A−1)を得た。得られた触媒(A−1)の主成分およびその質量比はTiO:Ru:Ag=99.475:0.5:0.025であった。また、触媒(A−1)のルテニウムの分布状況(ルテニウム全含有量に対する、担体表面から1000μm以内の位置に存在するルテニウムの割合)をEPMAで調べた結果、及びBET比表面積の測定結果は表1に示す通りであった。
【0035】
−触媒調製例2〜8および比較調製例1〜2−
触媒調製例2〜8および比較調製例1〜2では何れも触媒調製例1で使用した担体を用いた。該担体に触媒活性成分を担持する方法において、原料の一部を変更した以外は触媒調製例1と同じ方法で表1に記載する触媒(A−2)〜(A−8)および(B−1)〜(B−2)を調製した。
【0036】
−触媒調製例2(A−2)−
硝酸銀水溶液の代わりに、塩化金酸水溶液を用いた。得られた触媒(A−2)の主成分およびその質量比はTiO:Ru:Au=99.475:0.5:0.025であった。
【0037】
−触媒調製例3(A−3)−
硝酸銀水溶液の代わりに、硝酸白金水溶液を用いた。得られた触媒(A−3)の主成分およびその質量比はTiO:Ru:Pt=99.475:0.5:0.025であった。
【0038】
−触媒調製例4(A−4)−
硝酸銀水溶液の代わりに、硝酸パラジウム水溶液を用いた。得られた触媒(A−4)の主成分およびその質量比はTiO:Ru:Pd=99.475:0.5:0.025であった。
【0039】
−触媒調製例5(A−5)−
硝酸銀水溶液の代わりに、塩化イリジウム水溶液を用いた。得られた触媒(A−5)の主成分およびその質量比はTiO:Ru:Ir=99.475:0.5:0.025であった。
【0040】
−触媒調製例6(A−6)−
硝酸ルテニウム水溶液と硝酸銀水溶液の混合水溶液の代わりに、Ru:Pd=2:1(質量比)の割合で混合した硝酸ルテニウム水溶液と硝酸パラジウム水溶液の混合水溶液を用いた事以外は触媒調製例1と同じ方法で、触媒(A−6)を調製した。得られた触媒(A−6)の主成分およびその質量比はTiO:Ru:Pd=99.25:0.5:0.25であった。
【0041】
−触媒調製例7(A−7)−
硝酸ルテニウム水溶液と硝酸銀水溶液の混合水溶液の代わりに、Ru:Pd=38.5:1(質量比)の割合で混合した硝酸ルテニウム水溶液と硝酸パラジウム水溶液の混合水溶液を用いた事以外は触媒調製例1と同じ方法で、触媒(A−7)を調製した。得られた触媒(A−7)の主成分およびその質量比はTiO:Ru:Pd=99.487:0.5:0.013であった。
【0042】
−触媒調製例8(A−8)−
硝酸ルテニウム水溶液と硝酸銀水溶液の混合水溶液の代わりに、Ru:Pd=50:1(質量比)の割合で混合した硝酸ルテニウム水溶液と硝酸パラジウム水溶液の混合水溶液を用いた事以外は触媒調製例1と同じ方法で、触媒(A−8)を調製した。得られた触媒(A−8)の主成分およびその質量比はTiO:Ru:Pd=99.49:0.5:0.01であった。
【0043】
−比較調製例1(B−1)−
触媒調製例1で使用した担体を用い、該担体に触媒活性成分を担持する方法において、硝酸ルテニウム水溶液と硝酸銀水溶液の混合水溶液の代わりに、硝酸ルテニウム水溶液のみを用いた事以外は触媒調製例1と同じ方法で、触媒(B−1)を調製した。得られた触媒(B−1)の主成分およびその質量比はTiO:Ru=99.5:0.5であった。
【0044】
−比較調製例2(B−2)−
触媒調製例1で使用した担体を用い、該担体に触媒活性成分を担持する方法において、硝酸ルテニウム水溶液と硝酸銀水溶液の混合水溶液の代わりに、Ru:Pd=1:1(質量比)の割合で混合した硝酸ルテニウム水溶液と硝酸パラジウム水溶液の混合水溶液を用いた事以外は触媒調製例1と同じ方法で、触媒(B−2)を調製した。得られた触媒(B−2)の主成分およびその質量比はTiO:Ru:Pd=99:0.5:0.5であった。
【0045】
(触媒物性)
触媒(A−1)〜(A−8)および(B−1)〜(B−2)のルテニウムの分布状況(ルテニウム全含有量に対する、担体表面から1000μm以内の位置に存在するルテニウムの割合)をEPMAで調べた結果、及びBET比表面積の測定結果は表1に示す通りであった。
【0046】
【表1】
【0047】
−触媒調製例9〜11および比較調製例3〜5−
触媒調製例9〜11および比較調製例3〜5には、チタンと鉄、セリウムまたはジルコニウムとの複合酸化物を含有するペレット状成形担体を用いた。該担体は平均直径5mm、平均長さ6mmであった。そして該担体に触媒調製例1と同様の方法で活性成分を含有させて触媒C−1〜C−3およびD−1〜D−3を得た。
【0048】
−触媒調製例9(C−1)−
担体として、チタンの酸化物、鉄の酸化物並びにチタンと鉄の複合酸化物(Ti−Fe化合物)を含有するペレット状成形担体を用いた。該担体の主成分の重量比はTiO:Fe=15:85であり、比表面積はBET法で52m/gであった。該成形担体中に含有されるチタンの酸化物の結晶構造はアナターゼ型であった。
この担体を用い、該担体に触媒活性成分を担持する方法において、硝酸銀水溶液の代わりに、硝酸パラジウム水溶液を用いた事以外は触媒調製例1と同じ方法で、触媒(C−1)を調製した。得られた触媒(C−1)の主成分およびその質量比はTi−Fe化合物:Ru:Pd=99.475:0.5:0.025であった。
【0049】
−触媒調製例10(C−2)−
担体として、チタンの酸化物、セリウムの酸化物並びにチタンとセリウムの複合酸化物(Ti−Ce化合物)を含有するペレット状成形担体を用いた。該担体の主成分の重量比はTiO:CeO=90:10であり、比表面積はBET法で45m/gであった。該成形担体中に含有されるチタンの酸化物の結晶構造はアナターゼ型であった。
【0050】
この担体を用い、該担体に触媒活性成分を担持する方法において、硝酸銀水溶液の代わりに、硝酸白金水溶液を用いた事以外は触媒調製例1と同じ方法で、触媒(C−2)を調製した。得られた触媒(C−2)の主成分およびその質量比はTi−Ce化合物:Ru:Pt=99.475:0.5:0.025であった。
【0051】
−触媒調製例11(C−3)−
担体として、チタンの酸化物、ジルコニウムの酸化物並びにチタンとジルコニウムの複合酸化物(Ti−Zr化合物)を含有するペレット状成形担体を用いた。該担体の主成分の重量比はTiO:ZrO=70:30であり、比表面積はBET法で36m/gであった。該成形担体の結晶構造はZrTiO4が主体であった。
【0052】
この担体を用い、該担体に触媒活性成分を担持する方法において、硝酸銀水溶液の代わりに、塩化イリジウム水溶液を用いた事以外は触媒調製例1と同じ方法で、触媒(C−3)を調製した。得られた触媒(C−3)の主成分およびその質量比はTi−Zr化合物:Ru:Ir=99.475:0.5:0.025であった。
【0053】
−比較調製例3(D−1)−
触媒調製例9で使用した担体を用い、該担体に触媒活性成分を担持する方法において、硝酸ルテニウム水溶液と硝酸銀水溶液の混合水溶液の代わりに、硝酸ルテニウム水溶液のみを用いた事以外は触媒調製例1と同じ方法で、触媒(D−1)を調製した。得られた触媒(D−1)の主成分およびその質量比はTi−Fe化合物:Ru=99.5:0.5であった。
【0054】
−比較調製例4(D−2)−
触媒調製例10で使用した担体を用い、該担体に触媒活性成分を担持する方法において、硝酸ルテニウム水溶液と硝酸銀水溶液の混合水溶液の代わりに、硝酸ルテニウム水溶液のみを用いた事以外は触媒調製例1と同じ方法で、触媒(D−2)を調製した。得られた触媒(D−2)の主成分およびその質量比はTi−Ce化合物:Ru=99.5:0.5であった。
【0055】
−比較調製例5(D−3)−
触媒調製例11で使用した担体を用い、該担体に触媒活性成分を担持する方法において、硝酸ルテニウム水溶液と硝酸銀水溶液の混合水溶液の代わりに、硝酸ルテニウム水溶液のみを用いた事以外は触媒調製例1と同じ方法で、触媒(D−3)を調製した。得られた触媒(D−3)の主成分およびその質量比はTi−Zr化合物:Ru=99.5:0.5であった。
【0056】
(触媒物性)
触媒(C−1)〜(C−3)および(D−1)〜(D−3)のルテニウムの分布状況(ルテニウム全含有量に対する、担体表面から1000μm以内の位置に存在するルテニウムの割合)をEPMAで調べた結果、及びBET比表面積の測定結果は表2に示す通りであった。
【0057】
【表2】
【0058】
(実施例1)
図1に示す装置を使用し、下記の条件下で1000時間処理を行った。反応塔1(直径26mm、長さ3000mmの円筒状)内部に触媒(A−1)を1.0リットル充填した。処理に供した排水は、化学プラントから排出された主に酢酸を含有する排水で、COD(Cr)は19g/リットルであった。
【0059】
該排水を排水供給ライン6を通して排水供給ポンプ5に供給し、2.0リットル/hの流量で昇圧フィードした後、加熱器3で210℃に加熱して反応塔1の底から供給した。また空気を酸素含有ガス供給ライン8から供給し、コンプレッサー7で昇圧した後、O/COD(Cr)(供給ガス中の酸素量/排水の化学的酸素要求量)=1.5となる様に酸素含有ガス流量調節弁9で流量を制御して加熱器3の手前で該排水に混入した。尚、反応塔1では気液上向並流で処理を行った。反応塔1では、電気ヒーター2を用いて該排水の温度を210℃に保温し、酸化・分解処理を実施した。得られた処理液は処理液ライン10を経て気液分離器11に送り気液分離した。この際、気液分離器11内で液面コントローラーLCで液面を検出し、一定の液面を保持する様に液面制御弁13から処理液を排出した。また圧力制御弁12は圧力コントローラーPCで圧力を検出し、5MPa(Gauge)の圧力を保持する様に制御した。得られた排水の処理結果は表3に示す。
【0060】
(実施例2〜8および比較例1〜2)
触媒をそれぞれ(A−2)〜(A−8)、並びに(B−1)〜(B−2)に変更した以外は実施例1と同じ方法で同じ排水処理を行った。結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
(実施例9)
図1に示す装置を使用し、下記の条件下で1000時間処理を行った。反応塔1(直径26mm、長さ3000mmの円筒状)内部に触媒(A−4)を1.0リットル充填した。処理に供した排水は、化学プラントから排出された主にジオキサンおよび酢酸ナトリウムを含有する排水で、COD(Cr)は10g/リットルであった。
【0063】
該排水を排水供給ライン6を通して排水供給ポンプ5に供給し、2.0リットル/hの流量で昇圧フィードした後、加熱器3で220℃に加熱して反応塔1の底から供給した。また空気を酸素含有ガス供給ライン8から供給し、コンプレッサー7で昇圧した後、O/COD(Cr)(供給ガス中の酸素量/排水の化学的酸素要求量)=1.5となる様に酸素含有ガス流量調節弁9で流量を制御して加熱器3の手前で該排水に混入した。尚、反応塔1では気液上向並流で処理を行った。反応塔1では、電気ヒーター2を用いて該排水の温度を220℃に保温し、酸化・分解処理を実施した。得られた処理液は処理液ライン10を経て気液分離器11に送り気液分離した。この際、気液分離器11内で液面コントローラーLCで液面を検出し、一定の液面を保持する様に液面制御弁13から処理液を排出した。また圧力制御弁12は圧力コントローラーPCで圧力を検出し、5MPa(Gauge)の圧力を保持する様に制御した。得られた排水の処理結果は表4に示す。
【0064】
(実施例10〜12および比較例3〜6)
触媒をそれぞれ(C−1)〜(C−3)、(B−1)、並びに(D−1)〜(D−3)に変更した以外は実施例1と同じ方法で同じ排水処理を行った。結果を表4に示す。
【0065】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は排水処理に関する技術であり、特に排水中に活性汚泥などで処理が難しい有機酸を含む排水処理に用いることができる。
【符号の説明】
【0067】
1.湿式酸化反応器
2.加熱手段(ヒーター又は熱媒体)
3.排水加熱手段(熱交換器)
4.排水冷却手段(熱交換器)
5.排水加圧ポンプ
6.排水導入ライン
7.酸素含有ガス加圧手段(加圧ポンプ)
8.酸素含有ガス導入ライン
9.圧力調節バルブ
10.処理水排出ライン
11.気液分離手段
12.圧力調節バルブ
13.液量調節バルブ
14.気体排出ライン
15.液体排出ライン
図1