【実施例1】
【0015】
本発明のスクロール圧縮機の実施例1を
図1〜
図4を用いて説明する。
まず、
図1により本実施例のスクロール圧縮機の全体構成を説明する。
スクロール圧縮機1は、冷凍機や空気調和機などの冷凍装置に使用される冷凍装置用のスクロール圧縮機であって、作動流体である冷媒ガスを圧縮して上方へ吐出する圧縮機構部2と、この圧縮機構部2を回転軸300を介して駆動する駆動部3とを円筒状の密閉容器700内に収納して構成されている。本実施形態では、上から圧縮機構部2、駆動部3及び油溜り730の順に配設され、回転軸300を介して前記圧縮機構部2と前記駆動部3が連結されている縦型スクロール圧縮機である。
【0016】
前記密閉容器700は、上キャップ710及び下キャップ720を有している。上キャップ710及び下キャップ720は密閉容器700の中央筒部に対して外側に被せるように嵌合され、その嵌合端部が溶接トーチにより斜め下方及び斜め上方から加熱されて溶着される。密閉容器700の底面には脚部721が取付けられている。下キャップ720の内側には、マグネット722が取付けられていて、圧縮機内の粉塵(鉄粉など)を回収する役目を果たしている。
【0017】
また、密閉容器700の側面にはハーメ端子702及び端子カバー703が設けられ、電動機600に電力を供給できるようになっている。ハーメ端子702は、密閉容器700を貫通して設けられ、固定子601のコイルエンド601aとフレーム400との間に位置している。
【0018】
前記圧縮機構部2は、固定スクロール100と旋回スクロール200とを基本要素として構成されている。
前記旋回スクロール200を旋回駆動する前記駆動部3は、固定子601及び回転子602からなる電動機600と、回転軸300と、給油ポンプ900と、旋回スクロール200の自転防止機構の主要部品であるオルダム継手500と、転がり軸受401,803と、旋回スクロール軸受部203と、旋回スクロール軸受部203に配設されたすべり軸受210とを備えて構成されている。
【0019】
前記回転軸300は、主軸部302とクランクピン301と副軸受支持部303とを一体に備えて構成されている。主軸部302と副軸受支持部303とは、同一軸心に形成され、前記主軸部302の部分を構成している。更に、回転軸300の下端部には、給油ポンプ900が圧入されている。転がり軸受401,803は回転軸300の主軸部302及び副軸受支持部303を回転自在に係合する回転軸支持部を構成する。旋回スクロール軸受部203は、その内径にすべり軸受210が圧入され、回転軸300のクランクピン301を回転軸方向であるスラスト方向に移動可能かつ回転自在に係合するように、旋回スクロール200に備えられている。
【0020】
前記転がり軸受(主軸受)401は電動機600の上側に配置され、前記転がり軸受(副軸受)803は電動機600の下側に配置されている。転がり軸受401,803は、電動機600の両側で主軸部分を支持する主軸用軸受を構成する。密閉容器700に固定された下フレーム801にハウジング802がボルト805を介して固定されている。このハウジング802に転がり軸受803が上方から挿入され、その上方から更にハウジングカバー804が取付けられている。
【0021】
前記給油ポンプ900は、回転軸300下端に装着された遠心形ポンプであり、油溜り730に貯留された潤滑用の油を強制的に給油穴901を通して吸込み、油通路311を通して、副軸受803、旋回スクロール軸受部203、更には転がり軸受401に供給するために設けられている。なお、油通路311から供給された油は、旋回スクロール200と固定スクロール100との摺動部にも供給される。油通路311は、回転軸300に縦に貫通するように設けられ、回転軸300の軸心に対して同心の下部給油穴と回転軸300の軸心に対して偏心した上部給油穴とを有している。この下部給油穴に連通する横給油穴312が設けられて副軸受803に給油されるようになっている。
【0022】
前記フレーム400は密閉容器700に固定され、転がり軸受401を支持する部材を構成している。このフレーム400は、転がり軸受401を支持する軸受支持部401aと、この軸受支持部401aの上部から外方に延び圧縮機構部2を支持する圧縮機構支持部401bとを有する。圧縮機構支持部401bは、その下面全体が平坦状に形成されて吐出管701より上方に位置され、その外周面が密閉容器700の内周面に周方向の複数箇所で溶接740されている。
【0023】
また、バランスウェイト407が、前記転がり軸受401よりも電動機側に位置して回転軸300に設けられている。なお、本実施例では、前記バランスウェイト407は回転軸300とは別体に形成されて回転軸300に圧入されて固着されているが、このバランスウェイト407は回転軸300と一体に形成されて設けられていても良い。前記バランスウェイト407の最大外径部407aは前記固定子601のコイルエンド601aの端面側に突出して設けられ、前記コイルエンド601aの内径より大径となっている。これによって、回転軸300の回転バランスを十分に確保することができる。
【0024】
前記固定スクロール100は、台板101と渦巻体であるスクロールラップ102と吸込口103と吐出口104とを有して構成され、フレーム400に複数のボルト405により固定されている。この複数のボルト405は周方向に均等に配置されている。スクロールラップ102は台板101の下側に垂直に立設されている。
【0025】
前記旋回スクロール200は、台板201とスクロールラップ202と旋回スクロール軸受部203と、この旋回スクロール軸受部203に配設されたすべり軸受210と、図示しない背圧穴とを基本構成要素として構成されている。前記スクロールラップ202は前記台板201の上側に垂直に立設されている。前記旋回スクロール軸受部203は台板201の下側(反ラップ側)に垂直に突出して形成されている。また、前記旋回スクロール200は、鋳鉄やアルミ(アルミニューム)などを材料とする鋳物から各構成部分を加工することにより形成されている。
【0026】
前記旋回スクロール200の台板201には、圧縮室130と旋回背面の背圧室411とを連通させる背圧穴(図示せず)が設けられており、背圧室411の圧力を吸入圧力と吐出圧力の中間の圧力(中間圧力)に保っている。旋回スクロール200の背面側に構成される前記背圧室411は、前記旋回スクロール200、前記フレーム400及び前記固定スクロール100とで囲まれて形成される空間である。従って、前記フレーム400は前記背圧室411を形成する部材を兼ねている。
【0027】
前記フレーム400の上面に形成された溝にはシールリング410が設けられ、このシールリング410は背圧室411への吐出ガス流入を防いでいる。旋回スクロール200は背圧室411の中間圧力とシールリング410の内側に作用する吐出圧力との合力で固定スクロール100に押し付けられている。なお、前記シールリング410の内径は前記転がり軸受401の外径より小さく構成されている。
【0028】
このような構成を採用できるようにするために、前記転がり軸受401を前記フレーム400の回転駆動手段側から該フレーム400へ挿入し、挿入した転がり軸受401をフレームカバー403で固定する構成となっている。このフレームカバー403にはスラスト軸受402が設けられている。また、前記フレームカバー403は前記フレーム400とは別体に形成されている。
【0029】
前記フレームカバー403はフレーム400にボルト406により固定されている。このようにボルト固定とすることで、フレームカバー403とフレーム400との間隙を的確にシールできることから、給油経路からの油漏れを抑制することができる。なお、前記フレームカバー403は、前記フレーム400の内側に挿入されて転がり軸受401を押さえる部分と、フレーム400の回転駆動手段側端面に当接してこれに固定される部分とから構成されている。
【0030】
また、オルダム継手500が、前記旋回スクロール200の台板201の背面に配設されている。このオルダム継手500には直交する2組のキー(
図3に示す614を参照)が形成されており、これらのキーの1組がフレーム400に形成されたオルダム継手500の受け部であるキー溝(
図4の399を参照)を滑動し、残りの1組が旋回スクロールラップ202の台板201の背面側に形成したキー溝206を滑動する。これによって、旋回スクロール200はスクロールラップ202の立設する方向である軸線方向に垂直な面内を固定スクロール100に対して自転せずに旋回運動する。
【0031】
前記圧縮機構部2は、前記電動機600に連結した回転軸300の回転によりクランクピン301が偏心回転すると、旋回スクロール200がオルダム継手500により固定スクロール100に対し自転せずに旋回運動を行い、冷媒ガスを吸入管711及び吸入口103を介してスクロールラップ102及び202で形成される圧縮室130に吸入する。固定スクロール100と旋回スクロール200とを噛み合わせて形成した圧縮室130は、旋回スクロール200が旋回運動することにより、その容積が減少する圧縮動作が行われる。即ち、旋回スクロール200の旋回運動により、圧縮室130は中央部へ移動しながら容積を減少して冷媒ガスを圧縮する。
【0032】
この圧縮動作では、旋回スクロール200の旋回運動に伴って、冷媒ガスが吸入管711及び吸入口103を経由して圧縮室130へ吸込まれ、圧縮行程を経て、固定スクロール100の吐出口104から密閉容器700内に吐出される。これによって、密閉容器700内の空間は吐出圧力に保たれる。前記圧縮機構部2で圧縮する冷媒ガスとしては、地球環境に優しく地球温暖化係数(GWP)の低いR32などの冷媒が用いられている。
【0033】
その後、吐出された冷媒ガスは、圧縮機構部2及び電動機600の周囲を循環した後に吐出管701から密閉容器700のスクロール圧縮機1外へ放出される。
【0034】
次に、給油経路について説明する。回転軸300が回転されると、給油ポンプ900により油溜り730の油が回転軸内の油通路311に昇圧して供給される。この油通路311に送られた油の一部は、横穴312を通って転がり軸受である副軸受803に流れた後、油溜り730に戻る。前記油通路311を通ってクランクピン301の上部に到達した油はすべり軸受210を通り、更には転がり軸受401へ流れる。転がり軸受401を潤滑した油は、その殆どが排油パイプ408を通り、油溜り730に戻る。
【0035】
前記旋回スクロール200の旋回スクロール軸受部203の端面には給油ポケット205が設けられており、旋回スクロール200が旋回運動することにより、給油ポケット205がシールリング410の外側と内側を往復し、旋回軸受210と軸受401の間にある油の一部を背圧室411に搬送する。搬送された油はオルダム継手500に給油された後、固定スクロールの鏡板面105と旋回スクロール200の台板201の摺動面に給油される。
【0036】
背圧室411に搬送された油は、図示しない背圧穴を通って、または鏡板摺動面の微小隙間を通って圧縮室130に流入する。この圧縮室130に流入した油は、圧縮された冷媒ガスと共に吐出口104から吐出され、密閉容器700内で冷媒ガスと分離されて前記油溜り730に戻る。
【0037】
次に、上記
図1に示す電動機600の構成について
図2を用いて説明する。
図2は
図1に示す電動機600のII−II線断面図である。
図2に示すように、電動機600は、回転軸(クランク軸)300に固定された回転子602と、この回転子602に対し周方向に空隙を介して対向するように前記密閉容器700(
図1参照)に固設された固定子601とを備えている。前記回転子602は、回転子鉄心603と、この固定子鉄心603内に前記回転軸300と平行に形成された6つの磁石溝604と、これらそれぞれの磁石溝604内に装着された永久磁石605等により構成されている。これら永久磁石605の装着により、回転子鉄心603には6つの磁極が形成される。
【0038】
前記固定子601は、固定子鉄心606と固定子巻線21等から構成されている。前記固定子鉄心606は、その内径側に周方向に等間隔で形成された9つの固定子スロット7aと、9つのティース部7bと、このティース部7bの外周側を一体に連結したコアバック7c等から構成されている。前記固定子巻線21は、前記ティース部7bを取り囲むように巻回された集中巻き方式となっており、3相の巻線を備えている。
【0039】
このようにして、電動機600は、6極9スロットの集中巻き永久磁石式電動機として構成され、この電動機600はインバータ駆動装置により駆動されるように構成されている。なお、前記電動機600は、例えば、4極6スロットなどの極数、スロット数や、分布巻き方式を適用しても良い。
【0040】
次に、上記スクロール圧縮機により圧縮される冷媒の種類毎に、圧縮機の吐出温度、固定子の巻線温度の関係について表1により説明する。
表1では、冷凍装置の冷媒としてR410A、R22、R32を用いた場合について、それぞれの蒸発温度、凝縮温度を一定とした時の吸込温度、吐出温度及び固定子の巻線温度を比較して示している。
【0041】
【表1】
【0042】
この表1に示すように、冷媒としてR32を使用した場合、冷媒としてR22やR410Aを使用した場合と比較し、吐出温度及び固定子の巻線温度がそれぞれ約30℃程度高くなっていることがわかる。
【0043】
吐出温度が高くなると、前述したように、密閉容器700内の電動機600の周囲温度が上昇し、固定子601に使用されている絶縁材の耐熱温度をオーバーし、コイル焼損を引き起こす課題が生じる。
【0044】
また、電動機600の回転子602の永久磁石605にネオジ磁石を用いている場合、ネオジ磁石の減磁耐熱温度を超えて不可逆減磁が生じ、電流増加による効率低下や更なる温度上昇を引き起こす課題も生じる。
【0045】
更に、オルダム継手500の材質にアルミ材を使用し、フレーム400に鋳物を使用している場合、オルダム継手500のキー614とフレーム400に形成されたキー溝399(
図3参照)により構成されるキー隙間は、それらの線膨張係数の違いにより小さくなり、必要な隙間が確保できずに、オルダム継手500のキーとフレーム400のキー溝との摺動部に磨耗やかじりが発生し、スクロール圧縮機の信頼性を低下させてしまう。
【0046】
また、前記回転軸300を支持する転がり軸受401,803を120℃以上の高温で使用すると、熱膨張による寸法変化量が大きくなって、軸受隙間が不適切となり、軸受に損傷を引き起こす可能性も生じる。
【0047】
そこで、本実施例では、冷媒としてR32などを使用することで密閉容器700内の温度が上昇しても、スクロール圧縮機の信頼性を確保できるようにするため、以下説明する工夫が為されている。
【0048】
まず、電動機600を構成する回転子602において、前記磁石溝(磁石挿入溝)604に埋設される永久磁石605をフェライト磁石で構成している。フェライト磁石は、低温ほど不可逆減磁し易く、逆に高温ほど不可逆減磁し難い性質を持っているため、R32冷媒を使用することで高温になったとしても、減磁の心配が無い。従って、冷媒としてR32を使用するスクロール圧縮機でも、圧縮機の性能を維持することが可能となる。
【0049】
また、前記電動機600を構成する固定子601に使用されている絶縁材は、従来一般に、耐熱クラスが120(E)のものが使用されている。これに対し、本実施例では、前記絶縁材の仕様を、耐熱クラス130(B)、耐熱クラス155(F)或いは耐熱クラス180(H)の何れかに変更する。従来のR410AやR22冷媒に対して、R32冷媒を使用した場合、前記表1で説明したように、固定子巻線の温度が120℃を超えてしまうことがわかった。しかし、前記絶縁材を前記の仕様とすることで、120℃以上の高温条件になっても、固定子巻線の耐熱クラスを越えることを防止でき、固定子巻線の焼損などを防止することができる。
【0050】
本実施例では、更に、前記転がり軸受401,803として寸法安定化処理(TS処理)を施した軸受鋼を使用している。前記寸法安定化処理した軸受鋼とは、高温焼き戻しをして組織を安定化することにより高温使用下での寸法変化を抑制した軸受鋼である。
【0051】
その結果、寸法安定化処理した軸受鋼を使用した転がり軸受を採用することにより、R32冷媒の使用により高温になっても、転がり軸受の損傷を防止することができる。
【0052】
即ち、前記回転軸を支持する転がり軸受を120℃以上の高温で使用する場合、熱膨張による寸法変化量が大きくなることがわかった(日本精工株式会社(NSK)転がり軸受カタログ CAT. No. 1102n A26ページ5.2.4、及びNTN株式会社 転がり軸受総合カタログ CAT. No.2202/J A-16ページ3.3.2、等参照)。この寸法変化量が大きくなると、軸受隙間が不適切となり、軸受に損傷を引き起こす可能性があることが判明し、本実施例ではこの課題を解決するために、上述したように、前記転がり軸受401,803として寸法安定化処理(TS処理)を施した軸受鋼を採用したものである。
【0053】
また、本実施例では、上記対策に加え、更に前記オルダム継手500についても次のように構成している。これを
図3及び
図4により説明する。
図3は
図1に示すオルダム継手を拡大して示す図で、(a)は側面図、(b)は底面図、
図4は
図1に示すフレームを拡大して示す平面図である。
【0054】
まず、本実施例のオルダム継手500の材料として、鉄系焼結材を使用している。前記オルダム継手500には、前記フレーム400に形成したキー溝399と係合するキー614と、前記旋回スクロール200の台板201背面に形成されているキー溝206(
図1参照)に係合するキー614が形成されており、これらのキー614が前記各キー溝206,399との摺動部となる。このキー614とフレーム400に構成した前記キー溝399及び旋回スクロール200に形成した前記キー溝206との隙間が確保されないと、摺動による磨耗またはかじりが生じる可能性がある。そこで、本実施例では、アルミと比較して熱膨張が小さい鉄系焼結材を用いることで、変形(伸び)の影響を最小限に抑えるように構成している。
【0055】
なお、オルダム継手500のキー614と係合する前記フレーム400の材料としては一般に鋳鉄が使用され、前記旋回スクロール200の材料も鋳鉄などの鉄系材料で一般に構成されている。
【0056】
前記オルダム継手500の材料としてアルミ材を用いた場合、常温20℃において前記オルダムキーと前記フレームまたは旋回スクロールのキー溝との隙間を100とし、120℃まで熱膨張した際の隙間が10で構成される寸法の組合せを例とすると、150℃まで熱膨張した場合の隙間は、
10−(150℃−120℃)×(100−10)/(120−20)=−17
となり、隙間が確保されない。このため、前記オルダムキーと前記フレームまたは旋回スクロールのキー溝との間でカジリや磨耗が発生してしまう。
【0057】
これに対し、オルダム継手500の材料として鉄系焼結材を用いた場合、鉄の線膨張係数を「12.1×10E−6/K」、アルミの線膨張係数を「23×10E−6/K」とすると、常温20℃から120℃に変化する場合、隙間は、
100−(100−10)×12.1×10E−6/23×10E−6=53
となる。また、150℃に変化する場合は、
53−(150℃−120℃)×(100−53)/(120−20)=39
となり、隙間を十分に確保できる。
【0058】
従って、R32冷媒を使用した場合でも、オルダム継手500に鉄系焼結材を用いることにより、R410A冷媒を使用した場合でオルダム継手にアルミ材を使用した場合よりも大きい隙間を確保することができる。これにより、前記キー614と前記キー溝206,399との摺動による磨耗を防ぐことが可能となる。
【0059】
更に、本実施例では、次の工夫も為されている。
図3及び
図4に示すように、圧縮機停止状態でのフレーム400のキー溝399の幅をL1、オルダム継手500のキー614幅をL2とし、また、フレームの線膨張係数をα1、オルダム継手の線膨張係数をα2、オルダム継手500のキー614とフレーム400の温度上昇度をΔT(圧縮機運転中の吐出ガス温度−停止状態での温度)とする。圧縮機運転中は、フレーム400のキー溝399及びオルダム継手500のキー614は吐出ガス温度程度の高温となっている。そこで、圧縮機運転中のフレーム400のキー溝399の幅をL1´、オルダム継手500のキー614の幅をL2´とすると、
L1´=L1(1+α1・ΔT) …(1)
L2´=L2(1+α2・ΔT) …(2)
が成り立つ。これより、圧縮機運転中のフレーム400のキー溝とオルダム継手500のキー614との隙間δは、
δ=L1´−L2´
=L1(1+α1・ΔT)−L2(1+α2・ΔT) …(3)
となる。
【0060】
上記数式(3)から、圧縮機運転中に隙間δが確保される条件は、「δ>0」である。即ち、
L1(1+α1・ΔT)−L2(1+α2・ΔT)>0
∴ L1(1+α1・ΔT)>L2(1+α2・ΔT) …(4)
となる。
【0061】
R32冷媒を用いた場合、R22やR410A冷媒と比較して、吐出ガス温度が20℃〜30℃程度高くなる。つまり、オルダム継手とフレームの温度は「120+20〜30℃=140℃〜150℃」程度であるため、温度上昇度ΔTは、R410A冷媒に比べて20℃〜30℃程度高くなる。
【0062】
例えば、「L1=8.02mm、L2=8.01mm、α1=12.1×10E−6/K(鋳物)、α2=23×10E−6/K(アルミ)」とすると、R410A冷媒の場合には「ΔT=120−20=100」であり、δ=0.0013mmとなるから隙間は確保できる。しかし、R32冷媒を使用した場合には、「ΔT=150−20=130」とすると、δ=−0.0013mmとなり隙間が確保できなくなってしまう。
【0063】
従って、R32冷媒を使用するスクロール圧縮機の場合、フレーム400のキー溝399の幅L1、オルダム継手500のキー614の幅L2、及び材質は、「δ>0」、即ち上記数式(4)を満足するように構成することにより、R32冷媒を使用した場合でも、圧縮機運転中の隙間δを十分に確保することができる。これにより、摺動による磨耗を防ぐことが可能となる。
【0064】
本実施例において、更に詳しくは、前記固定子絶縁材料として耐熱クラス180(H)を使用し、更に前記フレームに形成されたキー溝の幅をL1、フレームの線膨張係数をα1とし、前記オルダム継手に形成されたキーの幅をL2、オルダム継手の線膨張係数をα2とした場合に、前記フレームのキー溝幅L1と前記オルダム継手のキー幅L2との関係が
L1×(1+α1×160)>L2×(1+α2×160) …(5)
を満足するように構成されているものである。この数式(5)においては、上記数式(4)における温度上昇度ΔTを160としているが、これは前記固定子絶縁材として耐熱クラス180(H)を使用したときの使用上限温度180℃と、圧縮機停止状態での温度20℃との差である。
【0065】
なお、前記オルダム継手500のキー614と係合する前記旋回スクロール200のキー溝206についても、上記フレーム400のキー溝399の場合と同様に、上記数式(4)或いは上記数式(5)を満足するように構成されている。
【0066】
本実施例のスクロール圧縮機は以上説明したように構成されているので、冷媒としてR32を使用して、吐出ガス温度が上昇しても、高耐熱温度の部品で圧縮機が構成されているので、温度上昇による悪影響を防止し、信頼性に優れたスクロール圧縮機を得ることができる。
【0067】
即ち、スクロール圧縮機を構成する各部品を120℃を超える温度で使用できる高耐熱仕様の部品とすることで、吐出ガス温度が高くなるR32冷媒を用いた場合のスクロール圧縮機の信頼性を確保することができる。
【0068】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。更に、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。