(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、緻密性の高い焼結体は耐磨耗性等が高まるものの、高強度となっているため焼結後の機械加工(研磨、切削等)が容易ではない。特に、離型性を高めるために、型内部にアルミホイル等を敷いてプレス成型することがあるが、この場合、成型物表面に皺が生じる。そこで、研磨等により表面の皺を容易に取り除くためにも、プレス成型後に容易に機械加工ができることが望まれている。また、プレス成型による場合、屈曲管状構造や、その他複雑な形状の焼結体(成形体)を得ることが容易ではない。また、炭化された樹脂成形体をケイ素ガス等と反応させる場合、反応が成形体表面のみで生じやすく、成形体内部にまで十分にケイ素化された緻密な成形体を得ることが容易ではない。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、緻密性が高く複雑な形状の成形体も得ることができ、機械加工を容易に施すことができるSiC成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う
本発明に係るSiC成形体の製造方法は、SiCを含有するSiC成形体の製造方法において、
SiC粉末及び有機物を含む有機物成形体の加熱により前記有機物を炭化(炭素化)させ、炭化成形体を得る炭化工程、及び
前記炭化成形体と
該炭化成形体中の炭素の量に応じて使用量が調整されたフェロシリコンとを一の密閉空間内で加熱し、
溶融した前記フェロシリコンを前記炭化成形体に浸透させて該炭化成形体中の炭素と
該フェロシリコン
中のシリコンとを反応させ
てSiC成形体を得ると共に、該SiC成形体中に前記フェロシリコン中の鉄を残存させる反応工程
を有
し、
前記フェロシリコンはシリコンを75〜80質量%含み、前記フェロシリコンの使用量は、前記炭化成形体中の炭素100質量部に対して、60質量部以上200質量部以下とし、前記鉄を前記SiC形成体に残存させることによって、該SiC成形体の緻密性を高めて強度を向上する。
【0007】
本発明に係るSiC成形体の製造方法によれば、反応工程における炭化成形体中の炭素(カーボン)とフェロシリコンとの反応によりSiCを生成させ、SiC成形体を得ることができる。ここで、炭化工程で得られる炭化成形体中に既にSiC粉末が含有されているため、炭化成形体の緻密性が適度に高く、また反応工程において既に含有されているSiC粉末の焼結も生じ得るため、得られるSiC成形体の内部の緻密性も高くすることができる。さらに、フェロシリコン中の鉄が得られるSiC成形体中に残存することも、緻密性、強度等を高める要因となる。一方、反応工程前に、強度が高くない炭化成形体に対して機械加工を容易に施すことなどができ、複雑な形状の成形体を得ることができる。
【0008】
本発明に係るSiC成形体の製造方法において、前記反応工程の前記密閉空間が30Pa以下の減圧条件下であり、加熱により前記フェロシリコンを溶融して前記炭化成形体に浸透させることが好ましい。このように減圧条件(略真空雰囲気)下で反応工程を行うと、溶融したフェロシリコンの大気中に含まれる窒素や酸素等との反応が抑えられ、脱気された炭化物中に速やかに全体に均一に浸透し、フェロシリコンのシリコンが炭化成形体中の炭素と反応する。密閉空間の雰囲気圧が30Paを超えると溶融したフェロシリコンの炭化物への浸透が悪くなるうえ、フェロシリコンが密閉空間(例えば真空炉内)の窒素や酸素と反応して炭化物との反応効率も悪くなり、その結果、得られるSiC成形体の強度や緻密性が低下する傾向にある。そこで、密閉空間雰囲気を30Pa以下、好ましくは10Pa以下にすることで溶融したフェロシリコンが炭化物中へ全体的に均一に浸透し、緻密性や強度に優れたSIC成形体を効率的に得ることができる。
【0009】
本発明に係るSiC成形体の製造方法において、前記有機物成形体が炭素粉末をさらに含むことが好ましい。このように炭化前の有機物成形体に炭素粉末を含ませておくことで、炭化成形体の加工性を維持しつつ緻密性を高め、得られるSiC成形体の緻密性をさらに高めることができる。
【0010】
本発明に係るSiC成形体の製造方法において、前記有機物が熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂を用いることで、プレス成型等により容易に成形を行うことができ、また炭化工程の際の形状変形を抑制することができる。
【0011】
本発明に係るSiC成形体の製造方法において、前記SiC粉末及び前記熱硬化性樹脂を少なくとも含む原料の加熱プレス成型により、前記有機物成形体を得る成形工程をさらに有することが好ましい。加熱プレス成型を行うことで、任意の形状の成形体を比較的容易に得ることができる。
【0012】
本発明に係るSiC成形体の製造方法において、前記反応工程の前に、前記炭化成形体に機械加工を施す加工工程をさらに有することが好ましい。反応工程前の炭化成形体は脆く、機械加工(研磨、切削等)が容易である。従って、このように加工工程を有することで、複雑な又は精密な形状のSiC成形体を比較的容易に得ることができる。
【0013】
本発明に係るSiC成形体の製造方法において、前記加工工程における前記機械加工が、前記炭化成形体の表面の少なくとも一部の研磨であり、前記反応工程を、複数の前記炭化成形体を用い、前記加工工程にて研磨された該各炭化成形体の表面同士を接触させた状態で行うことが好ましい。このようにすることで、面接触する面積が広くなり、反応工程において強く結合するため、管構造等のプレス成型では困難な形状の成形体を効率的に得ることができる。
【0014】
本発明に係るSiC成形体の製造方法において、前記有機物成形体が、融点が前記フェロシリコンの融点以上である金属製中子をさらに含み、該金属製中子の融点がSiCの融点以下であるか、該金属製中子が酸又はアルカリに可溶であり、前記反応工程以降に、前記金属製中子の融点以上SiCの融点以下での加熱、又は酸若しくはアルカリとの接触により、前記金属製中子を除去する除去工程をさらに有することが好ましい。このようにすることで、空洞部等を有するSiC成形体を効率的に得ることができる。
【0015】
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るSiC成形体の製造方法によれば、緻密性が高く、機械加工を施した複雑な形状のSiC成形体も得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
続いて、添付した図面を参照しながら本発明を具体化した実施の形態について説明する。
<第1の実施の形態:SiC成形体の製造方法>
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るSiC成形体の製造方法は、成形工程、炭化工程、加工工程及び反応工程をこの順に有する。ここで、SiC成形体とは、SiC(炭化ケイ素)を含有する、好ましくはSiCを主成分として含有する成形体であり、SiC以外の成分を含有していてもよい。
【0019】
(成形工程)
本工程においては、原料の加熱プレス成型により、
図2(A)に示すように、所望の形状の有機物成形体10(有機物を含有する成形体)を得る。加熱プレス成型を行うことで、任意の形状の有機物成形体10を比較的容易に得ることができる。この加熱プレス成型に供する原料は、SiC粉末及び熱硬化性樹脂(有機物の一例)を少なくとも含み、さらに炭素粉末を含むことが好ましい。加熱プレス成型に供する原料にSiC粉末を含有させることで、得られる有機物成形体10、及びこれを炭化して得られる炭化成形体11(
図2(B)参照)の緻密性を高め、緻密性、強度等の高いSiC成形体を得ることができる。また、炭素粉末をさらに含有させることで、この緻密性をさらに高めることができる。
【0020】
有機物成形体10の形状としては特に限定されず、所望する最終的なSiC成形体の形状に応じて適宜設定すればよい。例えば、
図2(A)に示すような円筒を軸方向に二分割した形状とすることができる。この場合、後工程で順に説明するように円筒状のSiC成形体を得ることができる。
【0021】
SiC粉末は、α型SiC、β型SiCなど、特に限定されず、公知のものを用いることができる。SiC粉末の平均粒径としては、特に制限されず例えば0.05μm以上50μm以下程度とすることができ、0.3μm以上10μm以下が好ましい。原料に占めるSiC粉末の含有量(固形分換算、以下他の成分も同様)としては、例えば30質量%以上99質量%以下とすることができ、50質量%以上90質量%以下が好ましい。SiC粉末の含有量が少なすぎると緻密性の高い成形体が得られにくくなる場合がある。逆に、SiC粉末の含有量が多すぎると、有機物成形体10の成形性が低下する場合がある。
【0022】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、例えばフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができ、これらの中でもフェノール樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂は粉末状のものを用い、SiC粉末と混合させることが好ましい。粉末状のものを用いることで、均一に混合することができる。粉末状の熱硬化性樹脂の平均粒径としては、特に制限されず例えば0.05μm以上50μm以下程度とすることができ、0.3μm以上10μm以下が好ましい。原料に占める熱硬化性樹脂の含有量としては、例えば1質量%以上50質量%以下とすることができ、10質量%以上30質量%以下が好ましい。熱硬化性樹脂の含有量が少なすぎると、成形性が低下する場合がある。逆に熱硬化性樹脂の含有量が多すぎると、得られる成形体の緻密性が低下するおそれがある。
【0023】
炭素粉末は、いわゆるカーボンブラック等、公知のものを用いることができる。炭素粉末の平均粒径としては、特に限定されず、例えば0.05μm以上50μm以下程度とすることができ、0.3μm以上10μm以下が好ましい。原料に占める炭素粉末の含有量としては、例えば1質量%以上30質量%以下とすることができ、5質量%以上20質量%以下が好ましい。炭素粉末の含有量が少なすぎると緻密性を高める効果が十分に発揮されない場合がある。逆に、炭素粉末の含有量が多すぎると、有機物成形体10の成形性が低下する場合がある。
【0024】
また、SiC粉末、熱硬化性樹脂粉末及び炭素粉末の平均粒径が全て、0.05μm以上50μm以下であることが好ましく、0.3μm以上10μm以下であることがより好ましい。このように各粉末の粒径を所定範囲とすることで均一混合性が高まり、均一な性情の成形体を得ることができる。
【0025】
なお、この原料には、その他の成分、例えば熱硬化性樹脂以外の有機物、硬化促進剤、離型剤、焼結助剤等が含有されていてもよい。
【0026】
加熱プレス成型は、公知の加熱プレス機を用いて行うことができる。加熱プレス成型の条件としては特に限定されず、用いる熱硬化性樹脂の特性等に応じて適宜設定することができる。例えば、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を用いる場合、加熱温度を150℃以上200℃以下とすることができる。また、プレス成型の際の圧力としては、例えば5MPa以上100MPa以下とすることができる。
【0027】
(炭化工程)
本工程においては、成形工程で得られた有機物成形体10の加熱により、有機物成形体10中の有機物(熱硬化性樹脂)を炭化させ、炭化成形体(炭化物を含有する成形体)11を得る(
図2(B)参照)。
【0028】
この炭化は、公知の炭化炉等を用いて行うことができる。炭化の際の加熱温度としては、有機物成形体10中の有機物が炭化する温度であれば特に限定されず、例えば800℃以上1000℃以下とすることができる。炭化の際の加熱時間としては、十分に炭化がなされる時間であれば特に限定されず、有機物成形体10のサイズ等に応じて適宜調整すればよいが、例えば30分以上6時間以下程度とすることができる。この炭化は、通常、不活性ガス(窒素ガス、希ガス等)雰囲気下で行われ、希ガス下が好ましく、アルゴンガス下がより好ましい。また、炭化の際の雰囲気圧としては特に制限されず、大気圧でよい。なお、得られた炭化成形体11中に、炭化されずに残った有機物が存在していてもよい。
【0029】
(加工工程)
本工程においては、炭化工程によって得られた炭化成形体11に対して、必要に応じて機械加工を施す。機械加工としては、工具や機械を用いて行う加工であれば特に限定されず、切削、研磨、研削等を挙げることができる。炭化成形体11は、熱硬化性樹脂由来の炭化物(カーボン)を含有し、比較的脆い状態となっている。従って、炭化成形体11に対して機械加工が容易であり、複雑な形状への加工(細かい切削等)や、精密な形状への加工(平滑性の高い研磨等)などを比較的容易に行うことができる。
【0030】
ここで、
図2(B)に示した炭化成形体11に対しては、円筒を軸方向に二分割したときの断面に相当する端面12(表面の一部であり、反応工程において互いに接合させる接合面)を研磨する(
図2(B)参照)。この端面12の平滑性を高めることで、次の反応工程における接合性を高めることができる。なお、炭化成形体11における端面12以外の表面も、必要に応じ、研磨、切削、研削、ドリル加工等を施してよい。
【0031】
(反応工程)
本工程においては、炭化成形体11とフェロシリコンとを一の密閉空間内で好ましくは減圧(略真空)条件下で加熱して、炭化成形体11中の炭素とフェロシリコンとを反応させる。この反応により、炭化成形体11中の炭化物(カーボン)が炭化珪素(SiC)となり、炭化成形体11がSiC成形体となる。この加熱の際、炭化成形体11に含有されるSiC粉末が焼結してもよく、この場合、得られるSiC成形体の緻密性がより高まる。
【0032】
具体的には、
図2(C)に示すように、端面12を研磨した2つの炭化成形体11を用い、端面12同士を重ねて(接触させて)円筒状にした状態で反応工程に供する。このようにすることで、端面12上においても炭素とフェロシリコンとが反応しSiCが生成するため、重ね合わせた端面12(接合面)同士が結合する。従って、このようにすることで、プレス成型では困難な円筒状のSiC成形体を得ることができる。
【0033】
フェロシリコンとは鉄と珪素との合金(例えば、Si:20〜90質量%、Fe:10〜80質量%)であって、その他微量の元素(C、P、S、Al等)を含んでいる。フェロシリコンは、鉄鋼の製造に用いる還元剤、脱酸剤、造さい剤又は合金成分添加剤として広く用いられており、融点は1200〜1400℃である。フェロシリコンとしては、例えばJIS G2302:1998で規定される1号、2号、3号等を用いることができる。これらの中でも、比較的一般的かつ珪素含有量の高いフェロシリコン2号(Si:75〜80質量%)が好ましい。フェロシリコンは、粉末状又は粒状物の市販品を用いることができ、安価に入手できる。
【0034】
フェロシリコンの使用量は、特に限定されず、共に加熱する炭化成形体11の量(炭化成形体11中の炭化物(カーボン)の量)に応じて調整すればよい。例えば、100質量部の炭化成形体11に対して、5質量部以上50質量部以下が好ましい。また、炭化成形体11中の炭化物(カーボン)100質量部に対して、60質量部以上300質量部以下が好ましく、90質量部以上200質量部以下がより好ましい。
【0035】
この反応工程においては、例えば、一の密閉空間として公知の真空炉中に炭化成形体11とフェロシリコンとを入れ、これらを加熱することにより行われる。この加熱により、フェロシリコンが溶融し、溶融したフェロシリコンと炭化成形体11とが接触することで、溶融したフェロシリコンが脱気した炭化成形体11内に浸透して炭化成形体11中の炭素原子が珪素化し、炭化珪素となる。
【0036】
炭化成形体11とフェロシリコンとは例えば真空炉中に、互いに接触した状態で配置したほうがよいが、離間させて溶融したフェロシリコンが炭化成形体11に接触するように配置してもよい。炭化成形体11とフェロシリコンとを接触した状態で配置する場合、炭化成形体11の最上部にフェロシリコンを載置するのが良い。このようにすることで加熱溶融したフェロシリコンが重力で炭化成形体11内部に下方に向かって速やかに浸透する。フェロシリコンを炭化成形体11下方に配置した場合、溶融したフェロシリコンは毛細管現象でもって徐々に炭化成形体11内部に浸透する。そして、溶融したフェロシリコン中のシリコンが炭化成形体11の炭素と反応して、炭化ケイ素が生成される。炭化成形体11は略真空状態に脱気されているので、溶融したフェロシリコンの炭化成形体11内部への浸透性が高く、得られるSiC成形体内部の緻密性をより高められる。
【0037】
なお、反応工程において、フェロシリコン中の鉄等も炭化成形体と接触し、鉄が得られるSiC成形体中に残存することとなるが、性能等に特別に負の影響を与える範囲ではない。逆に、鉄等を残存させることが、緻密なSiC成形体を得ることができる原因の一つであるとも推測される。
【0038】
密閉空間の減圧(略真空)条件としては、30Pa以下が好ましく、10Pa以下がさらに好ましい。このような条件下で反応を行うことで、脱気された炭化成形体11内部に溶融したフェロシリコンが浸透しやすく、効率的に反応させることができる。なお、真空炉内を不活性ガス雰囲気にすることで、副反応も抑えることができる。不活性ガスとしては、窒素ガス、希ガス類等を用いることができ、アルゴンガスがより好ましい。
【0039】
反応工程における加熱温度としては、フェロシリコンの融点以上、炭化珪素の融点(2730℃)以下であれば良いが、フェロシリコンの融点近傍、例えば、1200℃以上1400℃以下(但し、フェロシリコンの融点以上)が好ましい。加熱温度が高すぎると形状の変形等が生じるおそれがある。
【0040】
反応工程における加熱時間としては、例えば0.1時間以上2時間以下が好ましい。加熱時間が短すぎると、溶融したフェロシリコンが炭化成形体11内部全体に浸透せずに十分に反応が進行しないおそれがあり、加熱時間が長すぎると形状の変形等が生じるおそれがある。
【0041】
この反応工程を経ることで、炭化成形体11が緻密に硬化されたSiC成形体となる。反応工程を経たSiC成形体は必要に応じて、例えば最終的な研磨処理等の後処理を施してもよい。
【0042】
<第2の実施の形態:SiC成形体の製造方法>
図3に示すように、本発明の第2の実施の形態に係るSiC成形体の製造方法は、成形工程、炭化工程、加工工程、反応工程及び除去工程を有する。
【0043】
(成形工程)
図4(A)に示すように、第2の実施の形態における成形工程においては、空洞部22を有するSiC成形体23を形成するための金属製中子21を原料に封入した状態で加熱プレス成型を行う。このようにすることで、金属製中子21を含む有機物成形体20を得ることができる。なお、金属製中子21の一部は、有機物成形体20表面に露出していてもよいし、露出していなくてもよい。金属製中子21を用いること以外は、第1の実施の形態の成形工程と同様である。
【0044】
金属製中子21の融点は、フェロシリコンの融点以上である。この金属製中子21の融点は、具体的には例えば1200℃以上であり、1400℃以上が好ましく、1400℃超、更には1500℃以上が好ましい。融点がフェロシリコンの融点以上の金属製中子21を用いることで、反応工程においても金属製中子21の形状をそのまま維持することができる。さらに、金属製中子21は、後の除去工程で除去するために、融点がSiCの融点(2730℃)以下であるか、酸又はアルカリに可溶であるものを用いる。このような金属としては、例えば鉄(融点1539℃)、コバルト(融点1478℃)、クロム(融点1900℃)、ニッケル(融点1455℃)、白金(融点1774℃)等を挙げることができる。なお、銅(融点1085℃)の場合は表面が酸化した酸化銅(融点1201℃)で覆われているので、例えば直径が200μ以下の銅細線等も用いることができる。
【0045】
金属製中子21は、円柱状のものを用いているが、この形状に限定されず、所望する空洞部22の形状に応じて適宜設定すればよい。金属製中子21は繊維状であってもよい。なお、貫通した形状の空洞部22(孔部)の代わりに、貫通していない凹状の空洞部(穴部)を形成してもよい。
【0046】
(炭化工程、加工工程及び反応工程)
第2の実施の形態における炭化工程、加工工程及び反応工程は、第1の実施の形態と同様である。但し、金属製中子21が表面に露出していない場合、加工工程において研磨等により金属製中子21の一部を露出させる。なお、反応工程において金属製中子21が溶融すると、この溶融金属が炭化成形体内部に浸透し、溶融したフェロシリコンの浸透を妨げることになる。そのため、フェロシリコンが溶融する温度(フェロシリコンの融点)以上かつ金属製中子21の融点以下で加熱することが好ましい。
【0047】
(除去工程)
本工程においては、反応工程を経てSiC化された成形体から金属製中子21を除去する。この除去は、金属製中子21の融点以上SiCの融点以下での加熱、又は酸若しくはアルカリとの接触により行うことができる。加熱により除去する場合は、金属製中子21の露出面が下向きとなるように配置しておく。また、酸又はアルカリとの接触としては、例えば酸溶液又はアルカリ溶液(銅製の中子に対しては濃硝酸や熱濃硫酸、鉄製の中子21に対しては希塩酸や希硫酸等)への浸漬等により行えばよい。加熱した場合の溶融物及び酸又はアルカリとの反応により生じる反応物は、金属製中子21の露出面より流出する。なお、金属製中子21の融点が比較的低い場合など、反応工程において金属製中子21の一部が溶融し、除去される場合もあるが特段の問題は生じない。
【0048】
このように第2の実施の形態に係る製造方法においては、金属製中子21を用いることで、
図4(B)に示すように、空洞部22を有するSiC成形体23を効率的に得ることができる。
【0049】
<第3の実施の形態:SiC成形体>
本発明の第3の実施の形態に係るSiC(炭化ケイ素)成形体は、本発明の第1又は第2の実施の形態に係るSiC成形体の製造方法により得られるSiC成形体である。SiC成形体は、緻密性が高く、プレス成型では困難な複雑な形状とすることもできる。
【0050】
本発明は前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲でその構成を変更することもできる。例えば、有機物は熱硬化性樹脂に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂であってもよく、その他パルプ繊維等の天然物であってもよい。また、反応工程において複数の炭化成形体を接合させなくとも、一の炭化成形体をそのままSiC化させてもよい。反応工程において、加熱により溶融させた液体状のフェロシリコンに炭化成形体を浸漬させることにより、フェロシリコン中のケイ素と炭化物(カーボン)とを反応させてもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて、本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
SiC粉末(平均粒径3μm)73質量%、炭素粉末(平均粒径1μm)11質量%及びフェノール樹脂粉末(平均粒径2.5μm)15質量%を混合し、加熱プレス成型に供する原料を得た。公知のプレス機を用い、得られた原料を20MPa、150〜200℃の加圧加熱条件でプレス成型し、有機物成形体を得た。有機物成形体は、円筒を軸方向に2分割した形状のものを2個成形した。
2つの有機物成形体を公知の炭化炉により炭化させた。この炭化は、アルゴン雰囲気中の大気圧下で、800〜1000℃の範囲で2.5時間加熱することにより行った。得られた炭化成形体の端面を研磨した。
研磨した端面同士を重ね合わせ、円筒形状とした状態で円筒上部にフェロシリコン粒を載せて公知の真空炉内に配置した。フェロシリコン(Si:75質量%、Al:1〜2質量%、P:微量、Fe:残部)の量は、炭化成形体100質量部に対して26質量%とした。そして真空炉を10Paに減圧して略真空状態とし、1400℃で0.5時間加熱した。この加熱によりフェロシリコンが溶融し、溶融したフェロシリコンが炭化成形体に浸透して炭化成形体中の炭化物(カーボン)と反応し、SiCが生成された。このようにして、端面同士が固く密着し緻密硬化した円筒形状のSiC成形体を得た。