【実施例】
【0026】
本実施例のスライド駆動機構について説明する。
図1はスライド駆動機構100をプレス機械の背面側から見た図である。
【0027】
駆動ギヤ10は、モータに連結されたピニオンギヤ40により駆動される。被駆動ギヤ20は、駆動ギヤ10と噛み合うことにより動力が伝達されて回転駆動される。被駆動ギヤ20にはギヤボス30が挿入され、複数のボルト15で両者は結合されている。
【0028】
右クランクシャフト35aは駆動ギヤ10とスプライン締結Sにて連結されており、左クランクシャフト35bは被駆動ギヤ20に固定されたギヤボス30とスプライン締結Sにて連結されている。そして、左右のクランクシャフト35a,35bの偏心部35e(
図3(b))には、上部コンロッドの上端部が回転自在に連結されている。したがって、モータが回転することによって、その回転が駆動ギヤ10から右クランクシャフト35aに伝達されるとともに、被駆動ギヤ20からギヤボス30を経由して左クランクシャフト35bに伝達される。その結果、コンロッドに接続されたスライドが平行に上下にストロークするためには、駆動ギヤ10と被駆動ギヤ20に取付けられた左右クランクシャフト35a,35bの位相が合っていることが必要である。なお、ここでの左右クランクシャフト35a,35bは既に
図10(b)で説明した左右クランクシャフトと同一である。また、右クランクシャフト35aを第1のクランクシャフト、左クランクシャフト35bを第2のクランクシャフトとする。
【0029】
図2(a),(b)は、駆動ギヤ10を示す図である。
図2(b)は、中央断面図である。駆動ギヤはその中央部にスプライン溝10aが形成されている。このスプライン溝10aは、右クランクシャフト35aのスプライン軸35c(
図3(b))と連結される。
【0030】
図2(c),(d)は、被駆動ギヤ20を示す図である。被駆動ギヤ20の中央の穴にはギヤボス30が挿入され、ボルト15にて固定される。なお、中央部には複数の取付穴20aが形成されているが、取付穴20aの径はボルト15のネジ径より大きめに形成されている。
図3(a1)〜(a3)はギヤボス30を示す図である。
図3(a1)は正面図、
図3(a2)は中央断面図、
図3(a3)は斜視図である。中央部には、左クランクシャフト35bのスプライン軸35cが挿入されるためのスプライン溝30aが形成されている。また、周縁部には複数のタップ30bが形成されている。
【0031】
図3(b)は、左右のクランクシャフト35a,35bを示す図である。左右のクランクシャフト35a,35bの一端には、スプライン軸35cが形成されている。このスプライン軸35cは、駆動ギヤ10のスプライン溝10aまたは被駆動ギヤ20に固定されたギヤボス30のスプライン溝30aに挿入される。左右のクランクシャフト35a,35bの偏心部35eには、上部コンロッドの上端部が回転自在に連結される。
図4(a),(b)は、被駆動ギヤ20とギヤボス30がボルト15で締結された状態を示す図である。
【0032】
[クランクシャフトの位相差調整]
図5のフローチャートを参照しつつ左右のクランクシャフト35a,35bの位相差を調整する手順について以下に説明する。
【0033】
まず、S101で右クランクシャフト35aのピン角度を90°に、左クランクシャフト35bのピン角度を270°に合わせる(
図6(a)参照。ここで、クランクシャフトのピン角度とは、プレス正面から見て上死点を0°として時計回りに回転した場合の回転角度を示す)。S102で左右のクランクシャフト35a,35bに駆動ギヤ10及びギヤボス30が固定された被駆動ギヤ20を挿入し固定する。この場合、右クランクシャフト35aのスプライン軸35cが駆動ギヤ10のスプライン溝10aに挿入され、左クランクシャフト35bのスプライン軸35cが被駆動ギヤ20に固定されたギヤボス30のスプライン溝30aに挿入される。次に、S103で左右のクランクシャフト35a,35bの垂直方向の位置をダイヤルゲージ45で測定し、その差分を求める(
図6(a)参照)。この差分が調整すべき位相差に相当する。
【0034】
次にS104で、S103で求めた差分に相当する被駆動ギヤ20と左クランクシャフト35bのスプラインのずらすべき歯数を、表Aから求める。この表Aの詳細については後述する。そして、S105においてS104で求めた歯数に基づいて、被駆動ギヤ20と左クランクシャフト35bのスプラインの歯数をずらす(
図6(b)参照)。
【0035】
S106において、再度左右のクランクシャフト35a,35bの垂直方向の位置を再度測定し、その差分を求める(
図6(b)参照)。最後に、S107において、S106で求めた差分を目安に被駆動ギヤ20とギヤボス30の位置を調整しながら、ボルト15で締結する。
【0036】
[表Aの説明]
図7の表Aは、左右のクランクシャフト35a,35bの垂直方向位置の差分に基づいて、被駆動ギヤ20と左クランクシャフト35bのスプラインのずらすべき歯の歯数を求めるための表であり、
図8の表Bをもとに作成される。したがって、まず表Bについて説明する。
【0037】
表Bは、被駆動ギヤ20と左クランクシャフト35bのスプラインをそれぞれある歯数ずらした場合に、被駆動ギヤ20に連結された左クランクシャフト35bの上下方向の変動量を求めたものである。表Bを作成するにあたっての条件を、以下に記載する。
【0038】
(イ)駆動メインギヤと被駆動ギヤの谷数(Zm)・・・89山
(ロ)クランクシャフトのスプライン歯数(Zs)・・・・・・・36歯
(ハ)クランクシャフトのストローク長さ(St)・・・・・・・200mm
なお、クランクシャフトのストローク長さは、クランクシャフトの偏心量(
図6(a))の2倍である。
【0039】
まず、表Bの記載内容について説明する。表Bは、左欄から順に、被駆動ギヤずらし谷数(MG),左クランクスプラインのずらし歯数(SP),スプラインずらしによるギヤ回転谷数(MGs),ギヤとスプラインの相対的ズレ(クランク基準)(δMG),左クランク回転角度(θ),右クランク90°での左クランク上下量(h
90)が記載されている。そして、スプラインずらしによるギヤ回転谷数MGsは、次の式1によって計算される。
MGs=SP×Zm/Zs・・・(式1)
【0040】
また、ギヤとスプラインの相対的ズレ(クランク基準)δMGは、次の式2によって計算される。
δMG=−(MGs+MG)・・・(式2)
【0041】
そして、左クランク回転角度(θ)は、次の式3によって計算される。
θ=δMG/Zm×360°・・・(式3)
【0042】
最後に、右クランク90°の左クランク上下量h
90は、次の式4によって計算される。
h
90=St/2×sin(−θ)・・・(式4)
【0043】
具体的な2例を
図8の表Bを参照しつつ以下に示す。
【0044】
(例1)
被駆動ギヤ20を時計回りに4谷ずらし、左クランクシャフト35bのスプラインを2歯分だけ反時計回りにずらした場合、スプラインずらしによるギヤ回転谷数MGsは式1から反時計方向に−4.944となる。その結果、ギヤとスプラインの相対的ズレ(クランク基準)δMGは、式2から0.944となる。この値をもとに左クランク上下量h
90は、−6.663mmとなる。
【0045】
(例2)
被駆動ギヤ20を時計回りに5谷ずらし、左クランクシャフト35bのスプラインを2歯分だけ反時計回りにずらした場合、スプラインずらしによるギヤ回転谷数MGsは式1から反時計方向に−4.944となる。その結果、ギヤとスプラインの相対的ズレ(クランク基準)δMGは、式2から−0.056となる。この値をもとに左クランクシャフト上下量h
90は、0.392mmとなる。
【0046】
このようにして作成した表Bを、左クランクシャフト上下量h
90の小さな値の順に並べ替えたのが表Aである。この表Aを使って実際にクランク軸の位相差調整を行った例を以下に示す。
【0047】
図6(a)に示したように、左クランクシャフト35bが0.8mm低い場合、表Aの右端欄の値のうち0.8mmに最も近い値0.784mmを探し出す。次に、この0.784mmの属する行から被駆動ギヤ20の時計回りずらし谷数10と、左クランクシャフト35bの反時計回りスプラインずらし歯数−4を読み取り、実際にずらす。0.8mmと0.784mmの差である0.016mmは、ギヤボス30と被駆動ギヤ20を締結しているボルト15により調整する。
【0048】
なお、表Aと表Bをあらかじめコンピュータの記憶領域に記憶しておき、左右のクランクシャフト35a,35bの位相差を入力すれば、直ちに被駆動ギヤのずらし谷数と左クランクシャフト35bのスプラインずらし歯数をコンピュータの表示部に表示するようにしてもよい。このようにすることで、左右のクランクシャフト35a,35bの位相調整をより容易にすることができる。
【0049】
更に本実施例は、2ポイントメカプレスのスライドストロークにおける平行度を満足するための調整方法を想定しているが、2ポイントメカプレス以外のプレス機械またはプレス機械以外の装置にも適用することができる。
【0050】
本実施例によれば、左右のクランクシャフトの位相の調整幅を小さくし、締結部をコンパクトにでき、かつ位相ずれ量に対してその入替相当歯数を自動計算することで、位相調整を容易にすることができる。
【0051】
本実施例のスライド機構の調整方法は、スライドを上下に往復運動させるための駆動機構で、左右のクランクシャフトの水平を合わせることで位相を調整するものであるが、左右のクランクシャフトを上下に垂直に構成し、スライドを左右に往復運動させるための駆動機構において、上下に構成されているスライドの位置調整を行う場合にも適用することができる。