特許第6132724号(P6132724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6132724スライド駆動機構の調整方法及び位相調整装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132724
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】スライド駆動機構の調整方法及び位相調整装置
(51)【国際特許分類】
   B30B 15/06 20060101AFI20170515BHJP
   B30B 1/26 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   B30B15/06 H
   B30B1/26 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-198462(P2013-198462)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-62925(P2015-62925A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100066061
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(74)【代理人】
【識別番号】100143340
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 美良
(72)【発明者】
【氏名】成川 広
(72)【発明者】
【氏名】淺賀 将義
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−255798(JP,A)
【文献】 実公昭50−043018(JP,Y1)
【文献】 特開平08−112696(JP,A)
【文献】 特開平04−322898(JP,A)
【文献】 米国特許第03468173(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/06
B30B 1/26
B30B 15/24
F16H 1/06
F16H 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のクランクシャフトがスプライン締結された駆動ギヤと、
該駆動ギヤにより駆動され、かつ第2のクランクシャフトがスプライン締結されたギヤボスと連結された被駆動ギヤから構成されるスライド駆動機構における前記第1及び第2のクランクシャフトの位相位置の調整方法であって、
前記第1及び第2のクランクシャフトをそれぞれ所定の角度に設置する工程と、
前記第1及び第2のクランクシャフトの基準面からの垂直方向の高さをそれぞれ測定する工程と、
前記測定された高さの差を算出する工程と、
前記算出された差に基づいて、前記被駆動ギヤと前記第2のクランクシャフトのスプラインを、それぞれ所定の歯数ずらす工程と、
を有することを特徴とするスライド駆動機構の調整方法。
【請求項2】
前記被駆動ギヤと前記第2のクランクシャフトのずらされる所定の歯数が、
前記算出された差と、前記駆動ギヤと前記被駆動ギヤの全体の歯数及び前記第2のクランクシャフトのスプラインの全体の歯数に基づいて算出された前記第2のクランクシャフトの変位量とを比較して決定されることを特徴とする請求項1記載のスライド駆動機構の調整方法。
【請求項3】
前記駆動ギヤと前記被駆動ギヤの全体の歯数及び前記第2のクランクシャフトのスプラインの全体の歯数に基づいて算出された前記第2のクランクシャフトの前記変位量は、
前記被駆動ギヤを所定方向に所定歯数だけずらすとともに、前記第2のクランクシャフトのスプラインを所定方向に所定歯数だけずらすことによって得られることを特徴とする請求項2記載のスライド駆動機構の調整方法。
【請求項4】
前記被駆動ギヤを所定方向に所定歯数だけずらすとともに、前記第2のクランクシャフトのスプラインを所定方向に所定歯数だけずらすことによって得られる複数の前記変位量が表に記載されており、
前記被駆動ギヤと前記第2のクランクシャフトのずらされる所定の歯数が、前記算出された差と、前記表に記載された前記変位量を比較して決定されることを特徴とする請求項3記載のスライド機構の調整方法。
【請求項5】
第1のクランクシャフトがスプライン締結された駆動ギヤと、
該駆動ギヤにより駆動され、かつ第2のクランクシャフトがスプライン締結されたギヤボックスと連結された被駆動ギヤから構成されるスライド駆動機構における前記第1及び第2のクランクシャフトの位相調整装置であって、
前記第1及び第2クランクシャフトをそれぞれ所定の角度に設置した際の、それぞれの前記第1及び第2のクランクシャフトの基準面からの垂直方向の高さから算出された高さの差分に対応する前記被駆動ギヤと前記第2クランクシャフトのスプラインのずらすべき歯の歯数を記憶した記憶テーブルと、
前記高さの差分を入力すると、前記記憶テーブルに記憶された、前記高さの差分に対応する前記被駆動ギヤと前記第2クランクシャフトのスプラインのずらすべき歯の歯数を選択し、表示部に表示する表示手段を備えることを特徴とする位相調整装置。
【請求項6】
前記記憶テーブルは、
前記被駆動ギヤと前記第2クランクシャフトのずらすべき歯数に対する変位量において、それぞれ前記基準面からの垂直方向の高さから算出された差分と前記駆動ギヤと前記被駆動ギヤの全体の歯数及び前記第2のクランクシャフトのスプラインの全体の歯数に基づいて、前記第2のクランクシャフトの変位量が算出され、予め記憶されていることを特徴とする請求項5記載の位相調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械等が有するスライド駆動機構の調整方法及び位相調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、板金加工を行うためのプレス機械は広い分野で使用されている。プレス機械の一種であるサーボプレス機を、図9を参照しつつ以下に説明する。
【0003】
サーボプレス機50は、パンチ金型53とダイ金型55との協働によりワークWに対してプレス加工を行うものであって、本体フレーム57をベースとしている。本体フレーム57の下部には、ボルスタ59が設けられており、このボルスタ59の上側には、前述のダイ金型55が着脱可能に設けられている。また、本体フレーム57におけるボルスタ59の上方には、スライド61が昇降可能(上下方向へ移動可能)に設けられており、このスライド61の下側には、前述のパンチ金型53が着脱可能に設置されている。
【0004】
本体フレーム57におけるスライド61の上方には、前後方向へ延びたクランク軸63が回転可能に設けられており、このクランク軸63は、上下に偏心した偏心部63eを有している。また、クランク軸63の偏心部63eには、上部コンロッド65の上端部が回転自在に連結されており、この上部コンロッド65の下端側には、下部コンロッド67の上端側が螺合によって一体的に連結されてあって、この下部コンロッド67の下端部は、スライド61の一部に揺動自在に連結されている。
【0005】
本体フレーム57におけるスライド61の後方には、クランク軸63を回転させてスライド61を昇降させるサーボモータ69が設けられており、このサーボモータ69の出力軸69sには、ピニオンギヤ71が一体的に連結されており、クランク軸63の後端部には、このピニオンギヤ71に噛み合った駆動ギヤ73が一体的に連結されている。
【0006】
したがって、サーボモータ69の駆動によりクランク軸63をピニオンギヤ71及び駆動ギヤ73を介して回転させて、スライド61を昇降(上下方向へ移動)させることにより、パンチ金型53とダイ金型55の協働によりワークWを加工することができる。
【0007】
また、近年2ポイントメカプレスと呼ばれるプレス機械が普及しつつある。このプレス機械は、クランク軸を左右に2個有することを特徴とする。2ポイントメカプレスのスライド駆動機構の主要部を以下に説明する。
【0008】
図10(a)に示したように、2ポイントメカプレスのスライド駆動機構は駆動ギヤ80が、モータに連結されたピニオンギヤ40により駆動される。一方、被駆動ギヤ90は、駆動ギヤ80と噛み合うことにより動力が伝達されて回転駆動される。そして、駆動ギヤ80と被駆動ギヤ90にはそれぞれ右クランクシャフト36a,左クランクシャフト36bが連結されている。この2ポイントメカプレスは、プレスストロークのポイント間の平行度が求められ左右のギヤ及びクランクシャフトの位相調整が重要である。従来の位相調整方法を以下に示す。
【0009】
まず、調整キー16によるギヤの調整は以下の手順で行う(図10(a))。
(1)駆動ギヤ80と被駆動ギヤ90に、それぞれ右クランクシャフト36a,左クランクシャフト36bを取付ける。
(2)駆動ギヤ80と右クランクシャフト36aに調整キー16を入れる。
(3)左右のクランクシャフト36a,36bの角の位相を決める。具体的には、右クランクを90°に、左クランクを270°の位置にして、左右クランプの偏心部(クランプピン)の下端部の高さを同じにする。
(4)被駆動ギヤ90のキー溝と左クランクシャフト36bのキー溝のずれを、調整キー16を現合で削りキー溝を入れ左右クランクシャフト35a,35bの位相合わせを行う。
【0010】
しかし、ギヤ組み付け時に、クランクシャフト角の同期を確認しながら調整キー16を現合にて切削調整する必要があり、その作業は相当な熟練を要する。また、キー締結では伝達トルクの大きさに限界があるという問題もある。
【0011】
そこで、キー締結に代わってスプライン締結Sを採用し、かつ被駆動ギヤ95にギヤボス30を取付けたスライド駆動機構を図10(b)に示す。このスライド駆動機構では、駆動ギヤ85は直接右クランクシャフト35aにスプライン締結され、一方被駆動ギヤ95はギヤボス30と調整代を有する長穴17で複数のボルト15により締結され、ギヤボス30は左クランクシャフト35bとスプライン締結されている。この場合の左右クランクシャフト35a,35bの位相調整を以下に述べる。
(1)左右クランクシャフト35a,35bの角度を同期させ水平位置を決める。
(2)ギヤボス30と被駆動ギヤ95の締結部の長穴17を利用して位相調整を行いボルト15で固定する。
【0012】
なお、例えば特許文献1には、スライドの左右のポイントの位相調整作業が容易で、かつより高精度が得られるプレス機械のメインドライブの位相出し装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−221698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上記したようにスプライン締結Sを採用したスライド駆動機構では、調整キーによる調整ができなくなる。また、ギヤボス30と被駆動ギヤ95を長穴17の調整代を使って調整する場合、長穴寸法を大きくする必要がありギヤボス30の形状を大きくしなければならないという課題がある。
【0015】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、左右のクランクシャフトの位相の調整幅を小さくし、締結部をコンパクトにでき、かつ位相ずれ量に対してその入替相当歯数を自動計算することで、位相調整を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するため以下の構成を有する。
【0017】
(1)第1のクランクシャフトがスプライン締結された駆動ギヤと、
該駆動ギヤにより駆動され、かつ第2のクランクシャフトがスプライン締結されたギヤボスと連結された被駆動ギヤから構成されるスライド駆動機構における前記第1及び第2のクランクシャフトの位相位置の調整方法であって、
前記第1及び第2のクランクシャフトをそれぞれ所定の角度に設置する工程と、
前記第1及び第2のクランクシャフトの基準面からの垂直方向の高さをそれぞれ測定する工程と、
前記測定された高さの差を算出する工程と、
前記算出された差に基づいて、前記被駆動ギヤと前記第2のクランクシャフトのスプラインを、それぞれ所定の歯数ずらす工程と、
を有することを特徴とするスライド駆動機構の調整方法。
【0018】
(2)前記被駆動ギヤと前記第2のクランクシャフトのずらされる所定の歯数が、
前記算出された差と、前記駆動ギヤと前記被駆動ギヤの全体の歯数及び前記第2のクランクシャフトのスプラインの全体の歯数に基づいて算出された前記第2のクランクシャフトの変位量とを比較して決定されることを特徴とする前記(1)記載のスライド駆動機構の調整方法。
【0019】
(3)前記駆動ギヤと前記被駆動ギヤの全体の歯数及び前記第2のクランクシャフトのスプラインの全体の歯数に基づいて算出された前記第2のクランクシャフトの前記変位量は、
前記被駆動ギヤを所定方向に所定歯数だけずらすとともに、前記第2のクランクシャフトのスプラインを所定方向に所定歯数だけずらすことによって得られることを特徴とする前記(2)記載のスライド駆動機構の調整方法。
【0020】
(4)前記被駆動ギヤを所定方向に所定歯数だけずらすとともに、前記第2のクランクシャフトのスプラインを所定方向に所定歯数だけずらすことによって得られる複数の前記変位量が表に記載されており、
前記被駆動ギヤと前記第2のクランクシャフトのずらされる所定の歯数が、前記算出された差と、前記表に記載された前記変位量を比較して決定されることを特徴とする前記(3)記載のスライド機構の調整方法。
【0021】
(5)第1のクランクシャフトがスプライン締結された駆動ギヤと、
該駆動ギヤにより駆動され、かつ第2のクランクシャフトがスプライン締結されたギヤボックスと連結された被駆動ギヤから構成されるスライド駆動機構における前記第1及び第2のクランクシャフトの位相調整装置であって、
前記第1及び第2クランクシャフトをそれぞれ所定の角度に設置した際の、それぞれの前記第1及び第2のクランクシャフトの基準面からの垂直方向の高さから算出された高さの差分に対応する前記被駆動ギヤと前記第2クランクシャフトのスプラインのずらすべき歯の歯数を記憶した記憶テーブルと、
前記高さの差分を入力すると、前記記憶テーブルに記憶された、前記高さの差分に対応する前記被駆動ギヤと前記第2クランクシャフトのスプラインのずらすべき歯の歯数を選択し、表示部に表示する表示手段を備えることを特徴とする位相調整装置。
【0022】
(6)前記記憶テーブルは、
前記被駆動ギヤと前記第2クランクシャフトのずらすべき歯数に対する変位量において、それぞれ前記基準面からの垂直方向の高さから算出された差分と前記駆動ギヤと前記被駆動ギヤの全体の歯数及び前記第2のクランクシャフトのスプラインの全体の歯数に基づいて、前記第2のクランクシャフトの変位量が算出され、予め記憶されていることを特徴とする前記(5)記載の位相調整装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、左右のクランクシャフトの位相の調整幅を小さくし、締結部をコンパクトにでき、かつ位相ずれ量に対してその入替相当歯数を自動計算することで、位相調整を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例のスライド駆動機構の構成を示す図
図2】実施例の駆動ギヤと被駆動ギヤを示す図
図3】実施例のギヤボスとクランクシャフトを示す図
図4】実施例の被駆動ギヤにギヤボスが組まれた状態を示す図
図5】実施例の左右のクランクシャフトの位相差を調整する手順を示したフローチャート
図6】実施例のスライド駆動機構の調整前の状態と調整後の状態を示す図
図7】実施例の表Aを示す図
図8】実施例の表Bを示す図
図9】従来のプレス機械の構成を示す図
図10】従来の2ポイントメカプレスのスライド駆動機構の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ以下に説明する。
【実施例】
【0026】
本実施例のスライド駆動機構について説明する。図1はスライド駆動機構100をプレス機械の背面側から見た図である。
【0027】
駆動ギヤ10は、モータに連結されたピニオンギヤ40により駆動される。被駆動ギヤ20は、駆動ギヤ10と噛み合うことにより動力が伝達されて回転駆動される。被駆動ギヤ20にはギヤボス30が挿入され、複数のボルト15で両者は結合されている。
【0028】
右クランクシャフト35aは駆動ギヤ10とスプライン締結Sにて連結されており、左クランクシャフト35bは被駆動ギヤ20に固定されたギヤボス30とスプライン締結Sにて連結されている。そして、左右のクランクシャフト35a,35bの偏心部35e(図3(b))には、上部コンロッドの上端部が回転自在に連結されている。したがって、モータが回転することによって、その回転が駆動ギヤ10から右クランクシャフト35aに伝達されるとともに、被駆動ギヤ20からギヤボス30を経由して左クランクシャフト35bに伝達される。その結果、コンロッドに接続されたスライドが平行に上下にストロークするためには、駆動ギヤ10と被駆動ギヤ20に取付けられた左右クランクシャフト35a,35bの位相が合っていることが必要である。なお、ここでの左右クランクシャフト35a,35bは既に図10(b)で説明した左右クランクシャフトと同一である。また、右クランクシャフト35aを第1のクランクシャフト、左クランクシャフト35bを第2のクランクシャフトとする。
【0029】
図2(a),(b)は、駆動ギヤ10を示す図である。図2(b)は、中央断面図である。駆動ギヤはその中央部にスプライン溝10aが形成されている。このスプライン溝10aは、右クランクシャフト35aのスプライン軸35c(図3(b))と連結される。
【0030】
図2(c),(d)は、被駆動ギヤ20を示す図である。被駆動ギヤ20の中央の穴にはギヤボス30が挿入され、ボルト15にて固定される。なお、中央部には複数の取付穴20aが形成されているが、取付穴20aの径はボルト15のネジ径より大きめに形成されている。図3(a1)〜(a3)はギヤボス30を示す図である。図3(a1)は正面図、図3(a2)は中央断面図、図3(a3)は斜視図である。中央部には、左クランクシャフト35bのスプライン軸35cが挿入されるためのスプライン溝30aが形成されている。また、周縁部には複数のタップ30bが形成されている。
【0031】
図3(b)は、左右のクランクシャフト35a,35bを示す図である。左右のクランクシャフト35a,35bの一端には、スプライン軸35cが形成されている。このスプライン軸35cは、駆動ギヤ10のスプライン溝10aまたは被駆動ギヤ20に固定されたギヤボス30のスプライン溝30aに挿入される。左右のクランクシャフト35a,35bの偏心部35eには、上部コンロッドの上端部が回転自在に連結される。図4(a),(b)は、被駆動ギヤ20とギヤボス30がボルト15で締結された状態を示す図である。
【0032】
[クランクシャフトの位相差調整]
図5のフローチャートを参照しつつ左右のクランクシャフト35a,35bの位相差を調整する手順について以下に説明する。
【0033】
まず、S101で右クランクシャフト35aのピン角度を90°に、左クランクシャフト35bのピン角度を270°に合わせる(図6(a)参照。ここで、クランクシャフトのピン角度とは、プレス正面から見て上死点を0°として時計回りに回転した場合の回転角度を示す)。S102で左右のクランクシャフト35a,35bに駆動ギヤ10及びギヤボス30が固定された被駆動ギヤ20を挿入し固定する。この場合、右クランクシャフト35aのスプライン軸35cが駆動ギヤ10のスプライン溝10aに挿入され、左クランクシャフト35bのスプライン軸35cが被駆動ギヤ20に固定されたギヤボス30のスプライン溝30aに挿入される。次に、S103で左右のクランクシャフト35a,35bの垂直方向の位置をダイヤルゲージ45で測定し、その差分を求める(図6(a)参照)。この差分が調整すべき位相差に相当する。
【0034】
次にS104で、S103で求めた差分に相当する被駆動ギヤ20と左クランクシャフト35bのスプラインのずらすべき歯数を、表Aから求める。この表Aの詳細については後述する。そして、S105においてS104で求めた歯数に基づいて、被駆動ギヤ20と左クランクシャフト35bのスプラインの歯数をずらす(図6(b)参照)。
【0035】
S106において、再度左右のクランクシャフト35a,35bの垂直方向の位置を再度測定し、その差分を求める(図6(b)参照)。最後に、S107において、S106で求めた差分を目安に被駆動ギヤ20とギヤボス30の位置を調整しながら、ボルト15で締結する。
【0036】
[表Aの説明]
図7の表Aは、左右のクランクシャフト35a,35bの垂直方向位置の差分に基づいて、被駆動ギヤ20と左クランクシャフト35bのスプラインのずらすべき歯の歯数を求めるための表であり、図8の表Bをもとに作成される。したがって、まず表Bについて説明する。
【0037】
表Bは、被駆動ギヤ20と左クランクシャフト35bのスプラインをそれぞれある歯数ずらした場合に、被駆動ギヤ20に連結された左クランクシャフト35bの上下方向の変動量を求めたものである。表Bを作成するにあたっての条件を、以下に記載する。
【0038】
(イ)駆動メインギヤと被駆動ギヤの谷数(Zm)・・・89山
(ロ)クランクシャフトのスプライン歯数(Zs)・・・・・・・36歯
(ハ)クランクシャフトのストローク長さ(St)・・・・・・・200mm
なお、クランクシャフトのストローク長さは、クランクシャフトの偏心量(図6(a))の2倍である。
【0039】
まず、表Bの記載内容について説明する。表Bは、左欄から順に、被駆動ギヤずらし谷数(MG),左クランクスプラインのずらし歯数(SP),スプラインずらしによるギヤ回転谷数(MGs),ギヤとスプラインの相対的ズレ(クランク基準)(δMG),左クランク回転角度(θ),右クランク90°での左クランク上下量(h90)が記載されている。そして、スプラインずらしによるギヤ回転谷数MGsは、次の式1によって計算される。
MGs=SP×Zm/Zs・・・(式1)
【0040】
また、ギヤとスプラインの相対的ズレ(クランク基準)δMGは、次の式2によって計算される。
δMG=−(MGs+MG)・・・(式2)
【0041】
そして、左クランク回転角度(θ)は、次の式3によって計算される。
θ=δMG/Zm×360°・・・(式3)
【0042】
最後に、右クランク90°の左クランク上下量h90は、次の式4によって計算される。
90=St/2×sin(−θ)・・・(式4)
【0043】
具体的な2例を図8の表Bを参照しつつ以下に示す。
【0044】
(例1)
被駆動ギヤ20を時計回りに4谷ずらし、左クランクシャフト35bのスプラインを2歯分だけ反時計回りにずらした場合、スプラインずらしによるギヤ回転谷数MGsは式1から反時計方向に−4.944となる。その結果、ギヤとスプラインの相対的ズレ(クランク基準)δMGは、式2から0.944となる。この値をもとに左クランク上下量h90は、−6.663mmとなる。
【0045】
(例2)
被駆動ギヤ20を時計回りに5谷ずらし、左クランクシャフト35bのスプラインを2歯分だけ反時計回りにずらした場合、スプラインずらしによるギヤ回転谷数MGsは式1から反時計方向に−4.944となる。その結果、ギヤとスプラインの相対的ズレ(クランク基準)δMGは、式2から−0.056となる。この値をもとに左クランクシャフト上下量h90は、0.392mmとなる。
【0046】
このようにして作成した表Bを、左クランクシャフト上下量h90の小さな値の順に並べ替えたのが表Aである。この表Aを使って実際にクランク軸の位相差調整を行った例を以下に示す。
【0047】
図6(a)に示したように、左クランクシャフト35bが0.8mm低い場合、表Aの右端欄の値のうち0.8mmに最も近い値0.784mmを探し出す。次に、この0.784mmの属する行から被駆動ギヤ20の時計回りずらし谷数10と、左クランクシャフト35bの反時計回りスプラインずらし歯数−4を読み取り、実際にずらす。0.8mmと0.784mmの差である0.016mmは、ギヤボス30と被駆動ギヤ20を締結しているボルト15により調整する。
【0048】
なお、表Aと表Bをあらかじめコンピュータの記憶領域に記憶しておき、左右のクランクシャフト35a,35bの位相差を入力すれば、直ちに被駆動ギヤのずらし谷数と左クランクシャフト35bのスプラインずらし歯数をコンピュータの表示部に表示するようにしてもよい。このようにすることで、左右のクランクシャフト35a,35bの位相調整をより容易にすることができる。
【0049】
更に本実施例は、2ポイントメカプレスのスライドストロークにおける平行度を満足するための調整方法を想定しているが、2ポイントメカプレス以外のプレス機械またはプレス機械以外の装置にも適用することができる。
【0050】
本実施例によれば、左右のクランクシャフトの位相の調整幅を小さくし、締結部をコンパクトにでき、かつ位相ずれ量に対してその入替相当歯数を自動計算することで、位相調整を容易にすることができる。
【0051】
本実施例のスライド機構の調整方法は、スライドを上下に往復運動させるための駆動機構で、左右のクランクシャフトの水平を合わせることで位相を調整するものであるが、左右のクランクシャフトを上下に垂直に構成し、スライドを左右に往復運動させるための駆動機構において、上下に構成されているスライドの位置調整を行う場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
10 駆動ギヤ
10a スプライン溝
15 ボルト
20 被駆動ギヤ
30 ギヤボス
30a スプライン溝
35a 右クランクシャフト(第1のクランクシャフト)
35b 左クランクシャフト(第2のクランクシャフト)
35c スプライン軸
35d 偏心部
40 ピニオンギヤ
100 スライド駆動機構
S スプライン締結
図1
図2
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図10