特許第6132783号(P6132783)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6132783インクジェット印刷ヘッド面のための熱的に安定な撥油性濡れ防止コーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132783
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】インクジェット印刷ヘッド面のための熱的に安定な撥油性濡れ防止コーティング
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20170515BHJP
   C09D 183/08 20060101ALI20170515BHJP
   C09D 183/07 20060101ALI20170515BHJP
   C09D 183/05 20060101ALI20170515BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20170515BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   B41J2/14 501
   C09D183/08
   C09D183/07
   C09D183/05
   C09D5/16
   B41J2/16 401
   B41J2/16 517
   B41J2/14 613
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-31741(P2014-31741)
(22)【出願日】2014年2月21日
(65)【公開番号】特開2014-172395(P2014-172395A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2017年2月20日
(31)【優先権主張番号】13/786,235
(32)【優先日】2013年3月5日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルン・サンバイ
(72)【発明者】
【氏名】サントク・エス・バデシャ
(72)【発明者】
【氏名】マンダキニ・カナンゴ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・エム・ガルビン
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィッド・ジェイ・ジェルヴァシ
【審査官】 外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−164690(JP,A)
【文献】 特表2005−507140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−215
C09D 5/16
C09D 183/05
C09D 183/07
C09D 183/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷ヘッド前面のためのコーティングであって、
前記コーティングが、一般式
【化1】
を有するメチル水素メチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマー架橋剤から得られる、架橋したジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーを含み、
式中、xとyはそれぞれ独立に約1〜約100の整数であり、前記コーティングが、350psiまでの圧力で290℃の温度に加熱したとき、重量減少が約15%未満であることによって示されるような高い熱安定性を有する、コーティング。
【請求項2】
紫外線(UV)ゲルインク滴または固体インク滴が、約40°より大きな接触角を示す、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
前記コーティングが、約30°未満の滑り角を有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項4】
前記コーティングが、前記コーティングを少なくとも140℃の温度で少なくとも2日間、溶融したUVゲルインクまたは固体インクに浸した後に、紫外線(UV)ゲルインク滴または固体インク滴との接触角および滑り角を維持する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項5】
60分間で300℃に加熱した後、前記コーティングの合計重量の15%未満が失われる、請求項1に記載のコーティング。
【請求項6】
水約1.5〜約8インチの液垂れ圧を維持する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項7】
前記架橋したジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーは、白金触媒の存在下で、ビニル末端のジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーとメチル水素メチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマー架橋剤との反応によって作製される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項8】
前記架橋したフルオロシリコーンポリマーが、前記硬化したコーティングの合計重量の約10〜約100重量%の量で存在する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項9】
前記架橋したフルオロシリコーンポリマーが、ビニル基を含有するポリマーとSi−H基を含有する架橋剤とのヒドロシリル化反応から形成される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項10】
前記UVゲルインク滴または前記固体インク滴が、前記コーティングの表面に対して約40°より大きな接触角と約30°未満の滑り角を示す、請求項9に記載のコーティング。
【請求項11】
水約1.5〜約8インチの液垂れ圧を維持する、請求項9に記載のコーティング。
【請求項12】
インクジェット印刷ヘッド前面のための撥油性濡れ防止コーティングを形成するプロセスであって、
ビニル基を含有するポリマーとSi−H基を含有する架橋剤とを含む反応剤混合物を基材にコーティングすることと;
前記コーティングされた反応剤混合物を、第1の温度で硬化処理に付すこと、と
を含み、前記ポリマーは、以下の構造を有する、ビニル末端のジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーであり、
【化2】
式中、nは、30〜100であり、mは、1〜10であるプロセス。
【請求項13】
前記架橋剤は、以下の構造を有するメチル水素メチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマー架橋剤であり、
【化3】
式中、xは、1〜5であり、yは、1〜10である、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
ビニル基を含有する前記ポリマーとSi−H基を含有する架橋剤とを約20:1〜約5:1の重量比で反応させる、請求項12に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
インクジェットプリンタは、記録基材(例えば、紙)に、インクジェット印刷ヘッドからの液体インクの液滴を吐出または放出することによって画像を形成する。印刷ヘッドは、典型的には、内に画定されたノズル開口部を有する前面を有し、この前面を通り、液体インクが液滴として記録基材に放出される。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷ヘッドの前面は、インクの濡れまたは液垂れによって汚染されることがある。このような汚染は、インクジェット印刷ヘッドの前面にあるノズル開口部の部分的または完全な遮断を引き起こし、またはその原因となることがあり、インクジェット印刷ヘッドから、より小さなまたは過剰に大きいインク液滴を放出させ、記録基材に放出されるインク液滴の意図した軌跡を変えてしまうなどして、これらはすべて、インクジェットプリンタの印刷品質を悪化させる。
【0003】
インクジェット印刷ヘッドの前面は、典型的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(例えば、Teflon(登録商標))またはペルフルオロアルコキシ(PFA)などの材料でコーティングされ、保護される。現行の印刷ヘッドは、Xerox Corporationから市販されるものを含め、固体インクに対し、良好な初期性能を有する。しかし、操作寿命が経過するにつれて、性能が悪化し、インクは、典型的なインク放出温度で、印刷ヘッド前面のコーティングの上を簡単に滑らなくなる。というよりも、インクは、固着し、印刷ヘッド前面コーティングを沿って流れる傾向があり、残留するインク膜が残り、インクジェット印刷ヘッドの前面にあるノズル開口部を部分的または完全に遮断することがある。図1は、ノズル開口部の周囲にある前面領域のほとんどを固体インクが濡らし、汚染していることを示す、印刷操作後のインクジェット印刷ヘッドの前面の写真である。したがって、液垂れによる欠陥を防ぐ撥油性濡れ防止コーティングは、堅牢性および信頼性を高め、将来の固体インクを新しく市場に浸透させるために重要である。
【0004】
固体インクは、室温で固体であり、溶融したインクを基材に適用する高温で溶融するという特徴を有するインクである。固体インクは、一般的に、インク媒剤、1種類以上のワックス、任意要素の着色剤、1種類以上の任意要素の添加剤、例えば、粘度調整剤、酸化防止剤、可塑剤などを含む。UV硬化性インクは、一般的に、光開始剤パッケージ、硬化性担体材料、任意要素の着色剤、1種類以上の任意要素の添加剤、例えば、粘度調整剤、分散剤、相乗剤などを含む。UV硬化性相変化インク、UV硬化性インクのサブセットは、ゲル化剤と、場合により硬化性ワックスとをさらに含んでいてもよい。「硬化性」という用語は、例えば、重合可能な構成要素または組み合わせ、すなわち、例えば、遊離ラジカル経路、および/または放射線感受性の光開始剤を使用することによって重合が光開始される重合によって硬化し得る材料を指す。例えば、硬化性担体材料は、1種類以上の硬化性モノマーまたは硬化性ワックスであってもよい。
【0005】
インクジェット印刷ヘッド前面の汚染は、パージングおよび/またはワイピング手順を採用することによって、ある程度は減らすことができる。しかし、これらの手順は、望ましくない程度まで時間を消費し、および/または過剰な量のインクを使用することによって、インクジェット印刷ヘッドの有用な寿命を短くすることがある。インクジェット印刷ヘッド前面の汚染は、印刷ヘッドのノズル開口部から放出されるインクで顕著に濡らされない撥油性濡れ防止印刷ヘッド前面コーティングを付与することによって、ある程度減らすこともできる。しかし、典型的には印刷ヘッド製造プロセスの際に遭遇する温度まで加熱すると、公知の撥油性濡れ防止印刷ヘッド前面コーティングに特徴的な表面特性は、インクジェット印刷ヘッド前面の汚染を最低限にすることに依存することができない程度まで悪化する。したがって、高い製造温度にさらされたときに表面特性を悪化させない熱的に安定な撥油性濡れ防止コーティングが、印刷ヘッドには必要である。
【0006】
熱的に安定であることがわかっている他の撥油性印刷ヘッド前面コーティングは、シロキシフルオロ炭素(SFC)を含み、2011年3月22日に出願された米国特許出願第13/069,304号、2011年10月17日に出願された米国特許出願第13/275,255号、および米国特許公開第2012/0044298号に開示されており、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。これらのコーティングは、高い製造温度にさらされた後であっても、積み重ね中のインクおよびインクのエージング試験によって、例えば、高い接触角/低い滑り角などの良好な表面特性を示す。しかし、これらのコーティングは、製造し、印刷ヘッドに実装するのに高価な場合がある。また、これらのコーティングの熱安定性(熱重量分析(TGA)スキャンにおける分解開始温度によって示されるような)は、印刷ヘッド製造温度の290℃よりわずかに高く、印刷ヘッド製造工程の信頼性および堅牢性を低くする場合がある。
【0007】
このように、上述の問題を避けて用いられる、従来の印刷ヘッド面プレートコーティングに変わるものが望ましい。このようなコーティングの利点は、印刷ヘッドに関連する欠陥が少なく、前面の寿命が長く、コーティングを生成するための製造費用が少ないことであろう。特に、圧電印刷ヘッドのための、堅牢性が高く信頼性のある濡れ防止コーティングは、有機系インクを用いた画質性能にとって特に重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に示す実施形態によれば、印刷ヘッドアセンブリで使用するための新規組成物が提供される。
【0009】
特に、本発明の実施形態は、インクジェット印刷ヘッド前面のためのコーティングであって、架橋したジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーを含み、350psiまでの圧力で290℃の温度に加熱したときに重量減少が約15%未満であることによって示されるような高い熱安定性を有するコーティングを提供する。
【0010】
さらなる実施形態では、インクジェット印刷ヘッド前面のためのコーティングであって、架橋したジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーを含み、架橋したジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーが、式Iを有する繰り返し単位を含み、
【化1】
式中、aは10〜1000の整数であり、bは、1〜500の整数であり、UVゲルインク滴または固体インク滴が、コーティングを少なくとも30分間290℃までの温度にさらした後のコーティング表面に対し、約40°より大きな接触角を示す、コーティングを提供する。
【0011】
さらに他の実施形態では、インクジェット印刷ヘッド前面のための撥油性濡れ防止コーティングを形成するプロセスであって、ビニル基を含有するポリマーとSi−H基を含有する架橋剤とを含む反応剤混合物を基材にコーティングすることと;コーティングされた反応剤混合物を、第1の温度で硬化処理に付すこととを含む、プロセスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、印刷操作の後の、PTFEコーティングを有する印刷ヘッドのノズル領域全体にわたる固体インクの汚染を示す写真である。
図2図2は、本発明の実施形態のインクジェット印刷ヘッドの断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態のヒドロシリル化反応によって生成される架橋したフルオロシリコーンポリマーの模式図である。
図4図4は、本発明の実施形態のインクジェット印刷ヘッドのための熱的に安定な撥油性濡れ防止コーティングの熱安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態は、従来の面プレートが直面する多くの課題、例えば、液垂れまたは漏れを避けるために、印刷ヘッド面プレートのコーティングとして使用するための新規組成物を提供する。加えて、この新規組成物は、印刷ヘッド前面のための熱的に安定な撥油性濡れ防止コーティングと、これを作製する方法とを提供する。いくつかの実施形態では、コーティング組成物は、架橋したフッ素化室温加硫(RTV)シリコーンを含む。フルオロシリコーンコーティングは、印刷ヘッド性能に望ましい特性を実証した。例えば、これらのフルオロシリコーンコーティングの空気中でのTGAプロファイルは、コーティング組成物が並外れた熱安定性を有することを示す(30〜300℃で重量減少がわずか1%、分解の開始が316℃)。これらのコーティングは、積み重ね(290℃/350psi)およびシアンマゼンタイエローブラック(CMYK)インクの混合物に同様に140℃の条件で2日間浸した後に、良好な表面特性を保持する(高い接触角および低い滑り角の両方)。特に、これらのフルオロシリコーンコーティングは、290℃にさらした後の厚みおよび質量の減少が非常にわずかであることを示した。任意の濡れ防止コーティングは、印刷ヘッド製造工程の際に290℃にさらされ、これらの条件に耐え得ることが必要である。さらに、このようなコーティングは、圧電印刷ヘッドのための濡れ防止コーティングとして特に魅力的な候補であり得る。
【0014】
表面に対するインク滴の接着は、インク滴の滑り角(すなわち、インク滴が、残渣または染みを残さずに表面を滑り始めるとき、水平位置に対して表面が傾いている角度)を測定することによって決定することができる。滑り角が小さいほど、インク滴と表面との接着性が小さい。本明細書で使用する場合、「接着性が小さい」とは、紫外線硬化性ゲルインクまたは固体インクを用い、印刷ヘッド前面表面を用いて測定したとき、約30°未満の小さな滑り角を意味する。
【0015】
ここに記載する実施形態は、インクジェット印刷ヘッド前面に使用可能な撥油性濡れ防止コーティングを含み、この表面コーティングは、撥油性で接着性が小さいポリマー材料を含む。インクジェット印刷ヘッド前面表面がこのようなコーティングを有する場合、吐出された紫外線(UV)ゲルインク(UVインクとも呼ばれる)滴、または吐出された固体インク滴は、表面コーティングに対して低い接着性を示す。表面に対するインク滴の接着性は、インク滴の滑り角を測定することによって決定することができ、ここで、滑り角は、インク滴が、残渣または染みを残さずに表面を滑り始めるとき、水平位置に対して表面が傾いている角度である。滑り角が小さいほど、インク滴と表面との接着性が小さい。
【0016】
紫外線硬化性ゲルインクまたは固体インクを用い、印刷ヘッド前面表面を表面として用いて測定した場合、ある実施形態では、小さな滑り角は、約25°未満の値を有し、他の実施形態では、小さな滑り角は、約20°未満の値を有する。さらに他の実施形態では、紫外線硬化性ゲルインクまたは固体インクを用い、印刷ヘッド前面表面を表面として用いて測定した場合、小さな滑り角は、約1°より大きい。
【0017】
ここで使用する場合、撥油性濡れ防止コーティングは、表面コーティングが高温、例えば、180℃〜325℃の範囲または約180℃〜約325℃の範囲の温度、および、高圧、例えば、約100psi〜約400psiまたは約100psi〜約400psiに長い時間さらされた後に、紫外線ゲルインクまたは固体インク滴が表面コーティングに対し低い接着性を示すとき、「熱的に安定で」ある。長い時間は、10分〜2時間の範囲、または約10分〜約2時間の範囲であってもよい。
【0018】
一実施形態では、表面コーティングは、表面コーティングが約290℃の温度、約350psiの圧力に約30分間さらされた後、熱的に安定である。表面コーティングは、劣化せずに高温高圧でステンレス鋼のアパーチャー留め具に接合され得る。したがって、得られた印刷ヘッドは、インク液滴が印刷ヘッド前面を転がり残渣を残さないようにすることができるため、インクの汚染を防ぐことができる。
【0019】
ある実施形態では、印刷装置は、前面と、前面の表面に設けられた撥油性濡れ防止コーティングとを有するインクジェット印刷ヘッドを備えている。撥油性濡れ防止コーティングは、吐出された紫外線ゲルインク滴または吐出された固体インク滴が、40°より大きなもしくは約40°、または45°より大きなもしくは約45°の接触角を示すように構成された撥油性で接着性が小さいポリマー材料を含む。一実施形態では、吐出された紫外線ゲルインク滴または吐出された固体インク滴は、55°より大きなもしくは約55°の接触角を示す。別の実施形態では、吐出された紫外線ゲルインク滴または吐出された固体インク滴は、65°より大きなもしくは約65°の接触角を示す。一実施形態では、吐出された紫外線ゲルインク滴または吐出された固体インク滴と表面コーティングとの間で示される接触角に上限はない。別の実施形態では、吐出された紫外線ゲルインク滴または吐出された固体インク滴は、150°未満または約150°の接触角を示す。さらに別の実施形態では、吐出された紫外線ゲルインク滴または吐出された固体インク滴は、90°未満または約90°の接触角を示す。
【0020】
インクが印刷ヘッドに充填されたら、インクを放出するときまで、インクをノズル内に維持することが望ましい。一般的に、インクの接触角が大きいほど、液垂れ圧が良い(大きいことを意味する)。液垂れ圧は、インクタンクまたは容器の圧力が大きくなったときに、アパーチャープレートが、ノズル開口部からインクが飛び出すのを避ける能力に関する。飛び出すことなくより高い圧力を維持することは、印刷ヘッドのメンテナンスに必要であり、さらに、印刷命令が行われたときには、すばやい印刷を可能にする。
【0021】
ある実施形態では、コーティングは、熱的に安定であり、高温、例えば、180℃〜325℃の範囲または約250℃〜約300℃の範囲の温度、および、高圧、例えば、100psi〜400psiまたは約200psi〜約350psiに、長い時間、10分〜2時間または約30分〜約60分の範囲でさらされた後であっても、本明細書に開示されるような望ましい接触角および滑り角を維持することができる。これにより、高い液垂れ圧を維持する。
【0022】
一実施形態では、コーティングは、熱的に安定であり、約300psiの圧力で約290℃の温度に約30分間さらされた後であっても、本明細書に開示されるような望ましい接触角および滑り角を維持することができ、高い液垂れ圧の維持を可能にする。有利なことに、本明細書に記載の撥油性濡れ防止コーティングは、紫外線硬化性ゲルインクおよび固体インクに低い接着性と高い接触角とを合わせて付与し、さらに、液垂れ圧を改良し、またはノズルからインクが飛び出るのを減らすか、もしくはなくすという利益を付与する。
【0023】
一実施形態では、本開示のコーティングは、コーティングが290℃までの温度に少なくとも30分間さらされた後の、コーティング表面とUVゲルインク滴または固体インク滴との接触角および滑り角を40°より大きく維持することができる。
【0024】
一実施形態では、本開示のコーティングは、コーティング表面とUVゲルインク滴または固体インク滴との接触角および滑り角を40°より大きく、滑り角を30°より小さく維持することができる。
【0025】
一実施形態では、本開示のコーティングは、コーティング表面とUVゲルインク滴または固体インク滴との接触角および滑り角を55°より大きく、滑り角を20°より小さく維持することができる。
【0026】
一実施形態では、本開示のコーティングは、コーティングを少なくとも140℃の温度で少なくとも2日間、溶融したUVゲルインクまたは固体インクに浸した後に、UVゲルインク滴または固体インク滴との接触角および滑り角を維持することができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、架橋したジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーは、式Iを有する繰り返し単位を含み、
【化2】
式中、aは10〜10,000の整数であり、bは、1〜1000の整数である。さらなる実施形態では、aは、10〜5,000の整数、または10〜1,000の整数である。さらなる実施形態では、bは、1〜500の整数である。
【0028】
いくつかの実施形態では、撥油性濡れ防止コーティングは、ビニル末端のジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーとメチル水素メチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマー架橋剤とのヒドロシリル化反応によって作製される、架橋したフルオロシリコーンポリマーを含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、架橋したフルオロシリコーンポリマーは、硬化したコーティングの合計重量の約10〜約100重量%、約20〜約70重量%、または約95〜約100重量%の量で存在する。
【0030】
いくつかの実施形態では、ビニル末端のジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーは、一般式
【化3】
式中、mおよびnは、約1〜約300、約10〜約200、または約30〜約100の整数である;を有する。ビニル末端のフルオロシリコーンの1つの具体例は、Nusil Technology LLCから入手可能なCF3510である。
【0031】
いくつかの実施形態では、メチル水素メチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマー架橋剤は、一般式
【化4】
式中、m(x)およびn(y)は、約1〜約100、約1〜約30、または約30〜約90の整数である;を有する。水素シロキサン架橋剤の1つの具体例は、Nusil Technology LLCから入手可能なXL 150である。
【0032】
いくつかの実施形態では、架橋したフルオロシリコーンポリマーは、ビニル基を含有するポリマーとSi−H基を含有する架橋剤とのヒドロシリル化反応から形成される。
【0033】
ある実施形態では、撥油性濡れ防止コーティングは、図3に示されるように、ヒドロシリル化反応による、2成分、すなわち、ビニル末端のジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーとメチル水素メチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマー架橋剤との白金触媒による付加硬化に基づく。
【0034】
いくつかの実施形態では、ビニル末端のジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーおよびメチル水素メチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマー架橋剤、ならびに白金触媒を約1分〜約30分、約30分〜約180分、または約180分〜約5時間かけて一緒に混合することができる。
【0035】
一般的に、ビニル末端のジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーとメチル水素メチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマー架橋剤との重量比は、約100:1〜約1:1、約70:1〜約10:1、または約20:1〜約5:1である。
【0036】
ヒドロシリル化反応の速度を高めるために、反応混合物に白金触媒を加えてもよい。白金触媒の例としては、限定されないが、クロロ白金酸およびその誘導体、例えば、Speier触媒、Karstedt触媒、塩化白金−オレフィン錯体、白金シクロメチルビニルシロキサン、[PtCl2(シクロオクタジエン)]などが挙げられる。いくつかの実施形態では、触媒は、ヒドロシリル化反応において、約0.01ppm〜約1ppm、または約1ppm〜約100ppm、または約100ppm〜約1000ppmの量で存在する。
【0037】
いくつかの実施形態では、ビニル末端のジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマーまたはメチル水素メチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマー架橋剤を、溶媒、例えば、トリフルオロトルエン、ペルフルオロアルカン、ペルフルオロフルオロケトン、ペルフルオロアルコール、フッ素化テトラヒドロフラン、フッ素化エーテル、Novec 7200(3M Chemical Company)、Novec 7500(3M Chemical Company)、Novec 7600(3M Chemical Company)、FC−75(3M Chemical Company)、Asahikilin AK−225(SPI Supplies)、クロロホルム、塩化メチレン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、エーテル、酢酸ブチル、アセトン、およびこれらの混合物で希釈してもよい。いくつかの実施形態では、溶媒は、約1〜約95重量%、または約10〜約70重量%、または約75〜約95重量%の量で存在していてもよい。
【0038】
いくつかの実施形態では、コーティングは、水約1.5〜約8インチの液垂れ圧を維持するか、または水約2〜約8インチの液垂れ圧を維持するか、または水約2〜約6インチの液垂れ圧を維持する。
【0039】
インクジェット印刷ヘッドの前面にコーティングすると、撥油性濡れ防止表面コーティングは、インクジェット印刷ヘッドから放出されるインクに対し、撥油性濡れ防止コーティングに残るインク液滴が、単純な自浄作用のある様式で印刷ヘッドから滑り落ちることができるように、十分に低い接着性を示す。塵、紙粒子などの汚染物質は、インクジェット印刷ヘッドの前面で時に見られるが、滑っているインク液滴によって、インクジェット印刷ヘッド前面から取り除くことができる。撥油性濡れ防止印刷ヘッド前面コーティングは、自浄作用があり、汚染物質がないインクジェット印刷ヘッドを提供することができる。
【0040】
本明細書で使用する場合、撥油性濡れ防止コーティングは、インクと撥油性濡れ防止コーティングとの接触角が、一実施形態では、約45°より大きく、別の実施形態では約55°より大きいときに、インクジェット印刷ヘッドから放出されるインクに対し、「十分に低い濡れ性」を示すことができる。
【0041】
本明細書に開示の撥油性濡れ防止コーティングを、任意の適切なインクジェットプリンタ、例えば、連続式インクジェットプリンタ、サーマルドロップオンデマンド(DOD)インクジェットプリンタ、圧電式DODインクジェットプリンタのインクジェット印刷ヘッドのための撥油性で接着性が小さい印刷ヘッド前面コーティングとして使用することができる。ここで使用する場合、「プリンタ」という用語は、任意の目的で印刷出力機能を発揮する、例えば、デジタル複写機、製本機、ファクシミリ機、多機能機械などの任意の装置を包含する。
【0042】
本明細書に開示の撥油性濡れ防止コーティングを、任意の適切なインク、例えば、水性インク、溶媒インク、UV硬化性インク、染料昇華インク、固体インクなどを放出するように構成されたインクジェット印刷ヘッドのための撥油性で接着性が小さい印刷ヘッド前面コーティングとして使用することができる。本明細書に開示の撥油性濡れ防止コーティングとともに使用するのに適した例示的なインクジェット印刷ヘッドを、図2を用いて記載する。
【0043】
典型的なインクジェット印刷ヘッド60は、典型的には支持留め具25に接合したノズルプレート30を備えていてもよい。図2は、濡れ防止コーティング40を有する印刷ヘッド吐出スタックの実施形態を示す。この実施形態では、撥油性の濡れ防止コーティング40が、ノズルプレート30に接合されている。ノズルプレートは、アパーチャー支持留め具25に接合されたポリマー膜、例えば、ポリイミド膜であってもよい。
【0044】
支持留め具25は、ステンレス鋼などの任意の適切な材料から形成されており、本明細書に定義するアパーチャー50を備えている。アパーチャー50は、インク供給源(示さず)と連通していてもよい。ノズルプレート30は、ポリイミドなどの任意の適切な材料から形成されていてよく、本明細書に定義するノズル55を備えている。ノズル55は、インク供給源からのインク45が、印刷ヘッド60からノズル50を経て記録基材に吐出可能であるように、アパーチャー50を介してインク供給源と連通していてもよい。
【0045】
示されている実施形態では、ノズルプレート30は、間にある接着剤材料35によって支持留め具25に接合されている。接着剤材料35は、熱可塑性接着剤として与えられてもよく、接合プロセスの際に溶融し、ノズルプレート30を支持留め具25に接合することができる。典型的には、ノズルプレート30および撥油性濡れ防止コーティング40も接合プロセスの際に加熱する。熱可塑性接着剤が形成される材料に応じて、接合温度は、180℃〜325℃の範囲であってもよい。
【0046】
従来の撥油性濡れ防止コーティングは、典型的な接合プロセスまたはインクジェット印刷ヘッドの製造の際に遭遇する他の高温高圧プロセスにさらされたとき、劣化する傾向がある。しかし、本明細書に開示の撥油性濡れ防止コーティング40は、接合温度に加熱した後に、インクに対し、十分に低い接着性(低い滑り角によって示される)と高い接触角とを示す。撥油性濡れ防止コーティング40は、高い液垂れ圧を有して、自浄作用があって汚染物質がないインクジェット印刷ヘッド60を提供することができる。高温にさらされたときに撥油性濡れ防止コーティング40が望ましい表面特性(例えば、低い滑り角および高い接触角を含む)において実質的な劣化に抵抗する能力によって、高い液垂れ圧を維持しつつ、自浄作用能を有するインクジェット印刷ヘッドを、高温高圧プロセスを用いて製造することができる。
【0047】
一実施形態では、最初に、上述のように、ビニル基を含有するポリマーとSi−H基を含有する架橋剤とを少なくとも含む反応剤混合物を適用することによって、基材に撥油性濡れ防止コーティングを形成してもよい。反応剤混合物を基材に適用した後、反応剤を一緒に反応させ、撥油性濡れ防止コーティングを形成する。反応剤を、例えば、反応剤混合物を硬化させることによって一緒に反応させることができる。一実施形態では、反応剤混合物を最初に約160℃で約60分〜4時間硬化させる。別の実施形態では、反応混合物を室温で24時間硬化させる。
【0048】
一実施形態では、ダイ押出コーティング、浸漬コーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スタンプ印刷、ブレード技術などの任意の適切な方法を用い、反応剤混合物を基材32に適用してもよい。空気噴霧デバイス、例えば、エアブラシまたは自動化空気/液体スプレーを使用し、反応剤混合物をスプレーすることができる。空気噴霧デバイスを、均一または実質的に均一な量の反応剤混合物を用いて基材32の表面を覆うように均一なパターンで動く自動化往復機関に取り付けることができる。ドクターブレードの使用は、反応剤混合物を適用するために使用可能な別の技術である。フローコーティングでは、プログラム可能なディスペンサを用い、反応剤混合物を適用する。
【実施例】
【0049】
実施例1
コーティング1
潜在的なインクジェット印刷ヘッド前面基材への撥油性濡れ防止コーティングの評価のために、コーティングを以下のように調製した。代表的な反応において、Nusil Technologyから入手可能なCF3510(ビニル末端のジメチルメチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマー)3.63gおよびNusil Technologyから入手可能なXL 150(メチル水素メチルトリフルオロプロピルシロキサンポリマー架橋剤)0.41gを丸底フラスコ内に測り入れた。次いで、酢酸エチル溶媒29gをこのフラスコに加え、内容物をN下、61℃で24時間撹拌した。得られた配合物を、0.005milのドローバーコーターを用いポリイミド基材にコーティングした。濡れた膜を160℃で4時間硬化させ、均一で欠陥のない濡れ防止コーティングを得た。
【0050】
評価
空気中でのTGA分解プロファイルによっても、図4に示すように、これらのコーティングのきわめて高い熱安定性が確認される。典型的な熱重量分析(TGA)実験において、コーティング片を炉内で加熱し、分解に起因する重量減少を温度に対してプロットした。重量減少%が少ないことは、熱的な安定性が高いコーティングであることを示す。これらのコーティングは、316℃まででわずか1%の重量減少を示し、このことは、印刷ヘッド製造の際に遭遇するであろう条件で熱安定性が高いことを示した。別の例では、オーブン中、コーティングを300℃で60分間維持した。このコーティングは、300℃/60分後の重量減少がわずか3%であり、このことは、熱安定性が高いことを示した。コーティングの熱堅牢性は、印刷ヘッド製造プロセスの際に約200℃〜約315℃の温度に約15分〜約120分さらされるときに必要である。まとめると、本発明の実施形態のコーティングは、300℃に60分間加熱した後、コーティングの合計重量の15%未満が減少する。
【0051】
固体インクに対する表面特性について、コーティングを評価した。結果を以下の表1に与える。これらのコーティングは、印刷ヘッド製造のプレス接着性接合サイクルを模倣する積み重ね条件(Teflonカバーレイを用い、290℃/350psi)の後、高い接触角を維持していた。さらに、積み重ねたコーティングは、2日間/140℃/CYMKインク浸漬エージング後、高い接触角を維持していた。このコーティングは、低い滑り角を示しており、このことは、インク接着性が低いことを示した。30°未満の滑り角は、典型的には、インクが低い接着性を有し、残渣を残すことなく表面からきれいに取り除かれることを示す。さらに、試験材をインク浸漬試験から引き出したとき、インクはきれいに取り除かれており、コーティングにおいてインク残渣は観察されなかった。このことは、インクが、印刷ヘッドメンテナンスサイクルの際にワイパーブレードによってきれいにふき取られ得ることを示唆する。
【表1】
【0052】
まとめ
本発明の実施形態は、熱に安定であり、機械的に堅牢な、撥油性濡れ防止コーティングのための新規組成物、およびこのコーティングを調製するための手順を提供する。本発明の実施形態は、圧電印刷ヘッドに特によく適していることが実証された。濡れ防止コーティングは、優れた熱安定性を有しつつ、望ましい高いインク接触角と低い滑り角とを示す。これらのコーティングは、さらに、290℃の温度にさらした後、非常に小さい厚みおよび質量減少を示す。
【0053】
元々提示されており、補正されてもよい特許請求の範囲は、現時点では予想できないか、または認められていないものを含め、例えば、出願人/特許権者およびその他から生じ得る本明細書に開示する実施形態および教示の改変、変更、修飾、改良、等価物、実質的な等価物を包含する。特許請求の範囲に明らかに列挙されていない限り、特許請求の範囲の工程または構成要素は、明細書または任意の他の特許請求の範囲から、任意の特定の順序、数、位置、大きさ、形状、角度、色または材料であると暗示されるべきではなく、またはほのめかされるべきではない。
【0054】
本明細書で参照するあらゆる特許および明細書は、具体的に、また完全に、その全体が本明細書に参考により組み込まれる。
図1
図2
図3
図4