特許第6132813号(P6132813)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132813
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20170515BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   B60T8/17 C
   B60L7/24 D
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-118324(P2014-118324)
(22)【出願日】2014年6月9日
(65)【公開番号】特開2015-229489(P2015-229489A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2016年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】岡野 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】二之夕 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】中田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】神谷 雄介
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−154600(JP,A)
【文献】 特開2010−167972(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/047598(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 − 8/96
B60L 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標圧と実圧との偏差が許容範囲外にある場合には前記偏差を前記許容範囲に収めるように前記実圧を制御し、前記偏差が前記許容範囲にある場合には前記実圧を保持することにより液圧制動力を制御する液圧制動装置と、
回生制動力を発生させる回生制動装置と、
を備え、前記回生制動力と前記液圧制動力とを併用して要求制動力を発生させる車両用制動装置であって、
前記液圧制動装置は、
嵩上げのタイミングであるか否かを判定するタイミング判定部と
記タイミング判定部が前記嵩上げのタイミングであると判定している場合、前記実圧が前記許容範囲外であり且つ前記実圧が前記目標圧より小さいか否かの判定結果に応じて、前記許容範囲に関する第一値、作動液のホイールシリンダへの充填による応答遅れに関する第二値、及び前記液圧制動力を制御する電磁弁に対する制御遅れに関する第三値から嵩上げ量を選択する選択部と、
前記選択部により選択されている前記嵩上げ量を前記目標圧に加える嵩上げ制御部と、
を備える車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記嵩上げ制御部は、前記実圧が前記許容範囲外であり且つ前記実圧が前記目標圧より小さいことが判定されている場合、前記第二値に設定された前記嵩上げ量を前記目標圧に加え、前記実圧が前記許容範囲外であり且つ前記実圧が前記目標圧より小さいことが判定されていない場合、少なくとも前記第一値を含む前記嵩上げ量を前記目標圧に加える車両用制動装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記嵩上げ制御部は、前記実圧が前記許容範囲外であり且つ前記実圧が前記目標圧より小さいことが判定されている場合、前記嵩上げ量を前記目標圧に加えず、前記実圧が前記許容範囲外であり且つ前記実圧が前記目標圧より小さいことが判定されていない場合、少なくとも前記第一値を含む前記嵩上げ量を前記目標圧に加える車両用制動装置。
【請求項4】
目標圧と実圧との偏差が許容範囲外にある場合には前記偏差を前記許容範囲に収めるように前記実圧を制御し、前記偏差が前記許容範囲にある場合には前記実圧を保持することにより液圧制動力を制御する液圧制動装置と、
回生制動力を発生させる回生制動装置と、
を備え、前記回生制動力と前記液圧制動力とを併用して要求制動力を発生させる車両用制動装置であって、
前記液圧制動装置は、
嵩上げのタイミングであるか否かを判定するタイミング判定部と、
前記タイミング判定部が前記嵩上げのタイミングであると判定している場合、前記要求制動力が増大しているか否かの判定結果に応じて、前記許容範囲に関する第一値、作動液のホイールシリンダへの充填による応答遅れに関する第二値、及び前記液圧制動力を制御する電磁弁に対する制御遅れに関する第三値から嵩上げ量を選択する選択部と、
前記選択部により選択されている前記嵩上げ量を前記目標圧に加える嵩上げ制御部と、
を備える車両用制動装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記嵩上げ制御部は、前記要求制動力が増大していると判定されている場合、前記第二値に設定された前記嵩上げ量を前記目標圧に加え、前記要求制動力が増大していると判定されていない場合、少なくとも前記第一値を含む前記嵩上げ量を前記目標圧に加える車両用制動装置。
【請求項6】
請求項4において、
前記嵩上げ制御部は、前記要求制動力が増大していると判定されている場合、前記嵩上げ量を前記目標圧に加えず、前記要求制動力が増大していると判定されていない場合、少なくとも前記第一値を含む前記嵩上げ量を前記目標圧に加える車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回生制動力と液圧制動力とを併用する車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両などモータ駆動装置を有する車両では、ブレーキにおいて、回生制動と液圧制動とによる協調制御(回生協調制御)が行われている。燃費性能の観点から、回生制動力を液圧制動力より優先して使用する制御が行われている。ブレーキECUは、回生制動力を要求制動力から減算して不足制動力を演算し、その不足制動力を発生させるように液圧制動力発生装置を制御する。
【0003】
回生協調制御において、回生制動力に限界があることから、回生制動力を主にした制動状態から液圧制動力を増大させる制御状態に遷移させる「すり替え」が実行される。このすり替えにおいて、不感帯の設定など液圧制動装置の制御特性によっては、応答遅れが生じ、ブレーキフィーリングに影響が出る場合があった。具体的には、一時的にブレーキの効きがやや甘くなったように運転手に感じさせてしまうことがある。
【0004】
そこで、特開2009−154600号公報及び特開2010−167972号公報に記載のブレーキ制御装置では、すり替えのタイミングで目標圧を嵩上げし、スムーズに実圧を増大させ、上記課題を解決している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−154600号公報
【特許文献2】特開2010−167972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記応答遅れは、ブレーキの制御状態に応じて遅れ量が異なると考えることができる。つまり、上記装置には、ブレーキフィーリングの観点から、まだ改良の余地がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、ブレーキフィーリングと制御性の観点から、制御状態に応じた適切な嵩上げ制御が実行できる車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の様相1に係る車両用制動装置は、目標圧と実圧との偏差が許容範囲外にある場合には前記偏差を前記許容範囲に収めるように前記実圧を制御し、前記偏差が前記許容範囲にある場合には前記実圧を保持することにより液圧制動力を制御する液圧制動装置と、回生制動力を発生させる回生制動装置と、を備え、前記回生制動力と前記液圧制動力とを併用して要求制動力を発生させる車両用制動装置であって、前記液圧制動装置は、嵩上げのタイミングであるか否かを判定するタイミング判定部と、前記タイミング判定部が前記嵩上げのタイミングであると判定している場合、前記実圧が前記許容範囲外であり且つ前記実圧が前記目標圧より小さいか否かの判定結果に応じて、前記許容範囲に関する第一値、作動液のホイールシリンダへの充填による応答遅れに関する第二値、及び前記液圧制動力を制御する電磁弁に対する制御遅れに関する第三値から嵩上げ量を選択する選択部と、前記選択部により選択されている前記嵩上げ量を前記目標圧に加える嵩上げ制御部と、を備える。
【0009】
この構成によれば、嵩上げのタイミングであっても、増圧モードであるか否かによって嵩上げ量が変更される。増圧モードとは、実圧が許容範囲外であり且つ実圧が目標圧より小さい場合に行われる、実圧を増大させて液圧制動力を増大させようとする制御である。この増圧モードが実行されている際には、例えば電磁弁が操作されているなど、保持モード(実圧が許容範囲内にある場合に実圧を維持する制御)の場合とは装置の状態が異なっている。したがって、装置の状態の違いから液圧制御の遅れ(応答遅れ)の量も異なる。上記様相1によれば、制御の状態に応じて、第一値、第二値、及び第三値から選択され設定された嵩上げ量を目標圧に加えるため、ブレーキフィーリングは向上する。また、増圧モードか否かにより嵩上げ量を変更するため、制御が容易となる。
【0010】
本発明の様相2に係る車両用制動装置は、上記様相1において、前記嵩上げ制御部は、前記実圧が前記許容範囲外であり且つ前記実圧が前記目標圧より小さいことが判定されている場合、前記第二値に設定された前記嵩上げ量を前記目標圧に加え、前記実圧が前記許容範囲外であり且つ前記実圧が前記目標圧より小さいことが判定されていない場合、少なくとも前記第一値を含む前記嵩上げ量を前記目標圧に加える。
【0011】
この構成によれば、嵩上げのタイミングであっても、増圧モードの場合には、第二値のみが選択された嵩上げ量が目標圧に加算される。増圧モードでは、実圧がすでに許容範囲外にあり、第一値を加算する必要はない。また、増圧モードでは、電磁弁はすでに動作しており、回路構成に起因した印加電流による遅れや、弁(バルブ)の開閉による動作遅れ等の第三値も加算不要となる。このように、上記様相2によれば、適切な嵩上げ量が選択され、不自然な制動力発生を抑制し、ブレーキフィーリングを向上させることができる。
【0012】
本発明の様相3に係る車両用制動装置は、上記様相1において、前記嵩上げ制御部は、前記実圧が前記許容範囲外であり且つ前記実圧が前記目標圧より小さいことが判定されている場合、前記嵩上げ量を前記目標圧に加えず、前記実圧が前記許容範囲外であり且つ前記実圧が前記目標圧より小さいことが判定されていない場合、少なくとも前記第一値を含む前記嵩上げ量を前記目標圧に加える。
【0013】
この構成によれば、嵩上げのタイミングであっても、増圧モードの場合には、嵩上げを実行しない。上記様相2と同様、増圧モードでは、第一値及び第三値は不要である。そして、上記様相3では、増圧モードにおいて、さらに第二値も選択せず、嵩上げ量を加算しない(あるいは嵩上げ量を0とする)制御を実行する。これにより、制御はさらに容易となり、制御性は向上する。また、増圧モードであるため、嵩上げがなくとも液圧制動力は増大していき、ブレーキフィーリングの悪化は抑制される。
【0014】
本発明の様相4に係る車両用制動装置は、目標圧と実圧との偏差が許容範囲外にある場合には前記偏差を前記許容範囲に収めるように前記実圧を制御し、前記偏差が前記許容範囲にある場合には前記実圧を保持することにより液圧制動力を制御する液圧制動装置と、回生制動力を発生させる回生制動装置と、を備え、前記回生制動力と前記液圧制動力とを併用して要求制動力を発生させる車両用制動装置であって、前記液圧制動装置は、嵩上げのタイミングであるか否かを判定するタイミング判定部と、前記タイミング判定部が前記嵩上げのタイミングであると判定している場合、前記要求制動力が増大しているか否かの判定結果に応じて、前記許容範囲に関する第一値、作動液のホイールシリンダへの充填による応答遅れに関する第二値、及び前記液圧制動力を制御する電磁弁に対する制御遅れに関する第三値から嵩上げ量を選択する選択部と、前記選択部により選択されている前記嵩上げ量を前記目標圧に加える嵩上げ制御部と、を備える。
【0015】
この構成では、要求制動力が増大しているか否かで嵩上げ量を変更する。要求制動力が増大している場合、目標圧は増大し、実圧は許容範囲外となり、ブレーキ制御は増圧モードとなる。上記様相4によれば、上記様相1と同様の効果が発揮される。
【0016】
本発明の様相5に係る車両用制動装置は、上記様相4において、前記嵩上げ制御部は、前記要求制動力が増大していると判定されている場合、前記第二値に設定された前記嵩上げ量を前記目標圧に加え、前記要求制動力が増大していると判定されていない場合、少なくとも前記第一値を含む前記嵩上げ量を前記目標圧に加える。この構成によれば、上記様相2と同様の効果が発揮される。
【0017】
本発明の様相6に係る車両用制動装置は、上記様相4において、前記嵩上げ制御部は、前記要求制動力が増大していると判定されている場合、前記嵩上げ量を前記目標圧に加えず、前記要求制動力が増大していると判定されていない場合、少なくとも前記第一値を含む前記嵩上げ量を前記目標圧に加える。この構成によれば、上記様相3と同様の効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第一実施形態の車両用制動装置の構成を示す構成図である。
図2】第一実施形態のレギュレータの詳細構成を示す断面図である。
図3】第一実施形態の車両用制動装置のブレーキ制御(液圧制御)を説明するための説明図である。
図4】第一実施形態の嵩上げのタイミングの一例を説明するための説明図である。
図5】第一実施形態の車両用制動装置の嵩上げ量を説明するための説明図である。
図6】第一実施形態の嵩上げのタイミングの一例を説明するための説明図である。
図7】第一実施形態の嵩上げ制御を説明するためのフローチャートである。
図8】第二実施形態の嵩上げ制御を説明するためのフローチャートである。
図9】第三実施形態の車両用制動装置の構成を示す構成図である。
図10】第三実施形態の嵩上げ制御を説明するためのフローチャートである。
図11】第四実施形態の嵩上げ制御を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。また、説明に用いる各図は概念図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない場合がある。
【0020】
<第一実施形態>
図1に示すように、本実施形態の車両用制動装置は、車輪5FR,5FL,5RR,5RLに液圧制動力を発生させる液圧制動力発生装置BFと、駆動輪、例えば左右前輪5FR,5FLに回生制動力を発生させる回生制動力発生装置BMと、液圧制動力発生装置BFを制御するブレーキECU6と、回生制動力発生装置BMを制御するハイブリッドECU8と、を備えている。液圧制動力発生装置BFとブレーキECU6は、液圧制動装置を構成する。回生制動力発生装置BMとハイブリッドECU8は、回生制動装置を構成する。
【0021】
(回生協調制御)
回生制動力発生装置BMは、両前輪5FR,5FLを連結する車軸に接続された例えば交流同期型のモータ91と、モータ91によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ93に充電し、バッテリ93の直流電流を交流電流に変換してモータ91へ供給するインバータ92等とを備えて構成される。
【0022】
ハイブリッドECU8は、バッテリ93の充電状態を管理し、また、ブレーキECU6と協調して回生ブレーキ制御を実行する。すなわち、両前輪5FR,5FLの回転力でモータ91を駆動させることにより発電を行い、得られた電力によりバッテリ93を充電する。そして、この発電の際のモータ91の抵抗力により発生する回生制動力を求めてブレーキECU6に対して出力する。
【0023】
ブレーキECU6及びハイブリッドECU8は、互いに通信可能に接続されており、要求制動力が、回生制動力発生装置BMによって発生される目標回生制動力と液圧制動力発生装置7によって発生される目標液圧制動力との和と等しくなるように協調制御(回生協調制御)を行なう。
【0024】
本実施形態では、ブレーキECU6及びハイブリッドECU8は、回生制動力発生装置BMを優先的に使用する制御を行う。すなわち、ブレーキECU6は、ブレーキペダル10の操作に応じて、回生量の目標値(目標回生量)を演算し、その目標回生量をハイブリッドECU8に出力する。ハイブリッドECU8は、目標回生量に対して実行する回生量(実行回生量)を演算し、その実行回生量をブレーキECU6に出力する。ブレーキECU6は、実行回生量に対応する回生制動力を要求制動力から減算して不足制動力を演算し、その不足制動力を発生させるように液圧制動力発生装置BFを制御する。つまり、ブレーキECU6は、不足制動力を目標液圧制動力とし、目標液圧制動力に基づいて目標サーボ圧(「目標圧」に相当する)を設定し、後述するブレーキ制御を実行する。
【0025】
(液圧制動力発生装置BF)
液圧制動力発生装置BFは、図1に示すように、マスタシリンダ1と、反力発生装置2と、第一制御弁22と、第二制御弁23と、サーボ圧発生装置4と、液圧制御部5と、各種センサ71〜76等により構成されている。
【0026】
(マスタシリンダ1)
マスタシリンダ1は、ブレーキペダル10の操作量に応じて作動液を液圧制御部5に供給する部位であり、メインシリンダ11、カバーシリンダ12、入力ピストン13、第1マスタピストン14、および第2マスタピストン15等により構成されている。ブレーキペダル10は、運転手がブレーキ操作可能なブレーキ操作手段であれば良い。また、マスタピストンは1つであっても良い。
【0027】
メインシリンダ11は、前方が閉塞されて後方に開口する有底略円筒状のハウジングである。メインシリンダ11の内周側の後方寄りに、内向きフランジ状に突出する内壁部111が設けられている。内壁部111の中央は、前後方向に貫通する貫通孔111aとされている。また、メインシリンダ11の内部の内壁部111よりも前方に、内径がわずかに小さくなっている小径部位112(後方)、113(前方)が設けられている。つまり、小径部位112、113は、メインシリンダ11の内周面から内向き環状に突出している。メインシリンダ11の内部には、小径部位112に摺接して軸方向に移動可能に第1マスタピストン14が配設されている。同様に、小径部位113に摺接して軸方向に移動可能に第2マスタピストン15が配設されている。
【0028】
カバーシリンダ12は、略円筒状のシリンダ部121、蛇腹筒状のブーツ122、およびカップ状の圧縮スプリング123で構成されている。シリンダ部121は、メインシリンダ11の後端側に配置され、メインシリンダ11の後側の開口に同軸的に嵌合されている。シリンダ部121の前方部位121aの内径は、内壁部111の貫通孔111aの内径よりも大とされている。また、シリンダ部121の後方部位121bの内径は、前方部位121aの内径よりも小とされている。
【0029】
防塵用のブーツ122は蛇腹筒状で前後方向に伸縮可能であり、その前側でシリンダ部121の後端側開口に接するように組み付けられている。ブーツ122の後方の中央には貫通孔122aが形成されている。圧縮スプリング123は、ブーツ122の周りに配置されるコイル状の付勢部材であり、その前側がメインシリンダ11の後端に当接し、後側はブーツ122の貫通孔122aに近接するように縮径されている。ブーツ122の後端および圧縮スプリング123の後端は、操作ロッド10aに結合されている。圧縮スプリング123は、操作ロッド10aを後方に付勢している。
【0030】
入力ピストン13は、ブレーキペダル10の操作に応じてカバーシリンダ12内を摺動するピストンである。入力ピストン13は、前方に底面を有し後方に開口を有する有底略円筒状のピストンである。入力ピストン13の底面を構成する底壁131は、入力ピストン13の他の部位よりも径が大きくなっている。入力ピストン13は、シリンダ部121の後方部位121bに軸方向に摺動可能かつ液密的に配置され、底壁131がシリンダ部121の前方部位121aの内周側に入り込んでいる。
【0031】
入力ピストン13の内部には、ブレーキペダル10に連動する操作ロッド10aが配設されている。操作ロッド10aの先端のピボット10bは、入力ピストン13を前側に押動できるようになっている。操作ロッド10aの後端は、入力ピストン13の後側の開口およびブーツ122の貫通孔122aを通って外部に突出し、ブレーキペダル10に接続されている。ブレーキペダル10が踏み込み操作されたときに、操作ロッド10aは、ブーツ122および圧縮スプリング123を軸方向に押動しながら前進する。操作ロッド10aの前進に伴い、入力ピストン13も連動して前進する。
【0032】
第1マスタピストン14は、メインシリンダ11の内壁部111に軸方向に摺動可能に配設されている。第1マスタピストン14は、前方側から順番に加圧筒部141、フランジ部142、および突出部143が一体となって形成されている。加圧筒部141は、前方に開口を有する有底略円筒状に形成され、メインシリンダ11の内周面との間に間隙を有し、小径部位112に摺接している。加圧筒部141の内部空間には、第2マスタピストン15との間にコイルばね状の付勢部材144が配設されている。付勢部材144により、第1マスタピストン14は後方に付勢されている。換言すると、第1マスタピストン14は、設定された初期位置に向けて付勢部材144により付勢されている。
【0033】
フランジ部142は、加圧筒部141よりも大径で、メインシリンダ11の内周面に摺接している。突出部143は、フランジ部142よりも小径で、内壁部111の貫通孔111aに液密に摺動するように配置されている。突出部143の後端は、貫通孔111aを通り抜けてシリンダ部121の内部空間に突出し、シリンダ部121の内周面から離間している。突出部143の後端面は、入力ピストン13の底壁131から離間し、その離間距離dは変化し得るように構成されている。
【0034】
ここで、メインシリンダ11の内周面、第1マスタピストン14の加圧筒部141の前側、および第2マスタピストン15の後側により、「第1マスタ室1D」が区画されている。また、メインシリンダ11の内周面(内周部)と小径部位112と内壁部111の前面、および第1マスタピストン14の外周面により、第1マスタ室1Dよりも後方の後方室が区画されている。第1マスタピストン14のフランジ部142の前端部および後端部は後方室を前後に区分しており、前側に「第二液圧室1C」が区画され、後側に「サーボ室(「出力室」に相当する)1A」が区画されている。さらに、メインシリンダ11の内周部、内壁部111の後面、シリンダ部121の前方部位121aの内周面(内周部)、第1マスタピストン14の突出部143(後端部)、および入力ピストン12の前端部により「第一液圧室1B」が区画されている。
【0035】
第2マスタピストン15は、メインシリンダ11内の第1マスタピストン14の前方側に、小径部位113に摺接して軸方向に移動可能に配置されている。第2マスタピストン15は、前方に開口を有する筒状の加圧筒部151、および加圧筒部151の後側を閉塞する底壁152が一体となって形成されている。底壁152は、第1マスタピストン14との間に付勢部材144を支承している。加圧筒部151の内部空間には、メインシリンダ11の閉塞された内底面111dとの間に、コイルばね状の付勢部材153が配設されている。付勢部材153により、第2マスタピストン15は後方に付勢されている。換言すると、第2マスタピストン15は、設定された初期位置に向けて付勢部材153により付勢されている。メインシリンダ11の内周面、内底面111d、および第2マスタピストン15により、「第2マスタ室1E」が区画されている。
【0036】
マスタシリンダ1には、内部と外部を連通させるポート11a〜11iが形成されている。ポート11aは、メインシリンダ11のうち内壁部111よりも後方に形成されている。ポート11bは、ポート11aと軸方向の同様の位置に、ポート11aに対向して形成されている。ポート11aとポート11bは、メインシリンダ11の内周面とシリンダ部121の外周面との間の環状空間を介して連通している。ポート11aおよびポート11bは、配管161に接続され、かつリザーバ171(低圧力源)に接続されている。
【0037】
また、ポート11bは、シリンダ部121および入力ピストン13に形成された通路18により第一液圧室1Bに連通している。通路18は入力ピストン13が前進すると遮断され、これによって第一液圧室1Bとリザーバ171とが遮断される。
【0038】
ポート11cは、内壁部111より後方かつポート11aよりも前方に形成され、第一液圧室1Bと配管162とを連通させている。ポート11dは、ポート11cよりも前方に形成され、サーボ室1Aと配管163とを連通させている。ポート11eは、ポート11dよりも前方に形成され、第二液圧室1Cと配管164とを連通させている。
【0039】
ポート11fは、小径部位112の両シール部材91、92の間に形成され、リザーバ172とメインシリンダ11の内部とを連通している。ポート11fは、第1マスタピストン14に形成された通路145を介して第1マスタ室1Dに連通している。通路145は、第1マスタピストン14が前進するとポート11fと第1マスタ室1Dが遮断される位置に形成されている。ポート11gは、ポート11fよりも前方に形成され、第1マスタ室1Dと配管51とを連通させている。
【0040】
ポート11hは、小径部位113の両シール部材93、94の間に形成され、リザーバ173とメインシリンダ11の内部とを連通させている。ポート11hは、第2マスタピストン15の加圧筒部151に形成された通路154を介して第2マスタ室1Eに連通している。通路154は、第2マスタピストン15が前進するとポート11hと第2マスタ室1Eが遮断される位置に形成されている。ポート11iは、ポート11hよりも前方に形成され、第2マスタ室1Eと配管52とを連通させている。
【0041】
また、マスタシリンダ1内には、適宜、Oリング等のシール部材(図面黒丸部分)が配置されている。シール部材91、92は、小径部位112に配置され、第1マスタピストン14の外周面に液密的に当接している。同様に、シール部材93、94は、小径部位113に配置され、第2マスタピストン15の外周面に液密的に当接している。また、入力ピストン13とシリンダ部121との間にもシール部材95、96が配置されている。
【0042】
ストロークセンサ71は、運転者によりブレーキペダル10が操作された操作量(ストローク)を検出するセンサであり、検出信号をブレーキECU6に送信する。ブレーキストップスイッチ72は、運転者によるブレーキペダル10の操作の有無を2値信号で検出するスイッチであり、検出信号をブレーキECU6に送信する。
【0043】
(反力発生装置2)
反力発生装置2は、ブレーキペダル10が操作されたとき操作力に対抗する反力を発生する装置であり、ストロークシミュレータ21を主にして構成されている。ストロークシミュレータ21は、ブレーキペダル10の操作に応じて第一液圧室1Bおよび第二液圧室1Cに反力液圧を発生させる。ストロークシミュレータ21は、シリンダ211にピストン212が摺動可能に嵌合されて構成されている。ピストン212は圧縮スプリング213によって前方に付勢されており、ピストン212の前面側に反力液圧室214が形成される。反力液圧室214は、配管164およびポート11eを介して第二液圧室1Cに接続され、さらに、反力液圧室214は、配管164を介して第一制御弁22および第二制御弁23に接続されている。
【0044】
(第一制御弁22)
第一制御弁22は、非通電状態で閉じる構造の電磁弁であり、ブレーキECU6により開閉が制御される。第一制御弁22は、配管164と配管162との間に接続されている。ここで、配管164はポート11eを介して第二液圧室1Cに連通し、配管162はポート11cを介して第一液圧室1Bに連通している。また、第一制御弁22が開くと第一液圧室1Bが開放状態になり、第一制御弁22が閉じると第一液圧室1Bが密閉状態になる。したがって、配管164および配管162は、第一液圧室1Bと第二液圧室1Cとを連通するように設けられている。
【0045】
第一制御弁22は通電されていない非通電状態で閉じており、このとき第一液圧室1Bと第二液圧室1Cとが遮断される。これにより、第一液圧室1Bが密閉状態になって作動液の行き場がなくなり、入力ピストン13と第1マスタピストン14とが一定の離間距離dを保って連動する。また、第一制御弁22は通電された通電状態では開いており、このとき第一液圧室1Bと第二液圧室1Cとが連通される。これにより、第1マスタピストン14の進退に伴う第一液圧室1Bおよび第二液圧室1Cの容積変化が、作動液の移動により吸収される。
【0046】
圧力センサ73は、第二液圧室1Cおよび第一液圧室1Bの反力液圧を検出するセンサであり、配管164に接続されている。圧力センサ73は、第一制御弁22が閉状態の場合には第二液圧室1Cの圧力を検出し、第一制御弁22が開状態の場合には連通された第一液圧室1Bの圧力も検出することになる。圧力センサ73は、検出信号をブレーキECU6に送信する。
【0047】
(第二制御弁23)
第二制御弁23は、非通電状態で開く構造の電磁弁であり、ブレーキECU6により開閉が制御される。第二制御弁23は、配管164と配管161との間に接続されている。ここで、配管164はポート11eを介して第二液圧室1Cに連通し、配管161はポート11aを介してリザーバ171に連通している。したがって、第二制御弁23は、第二液圧室1Cとリザーバ171との間を非通電状態で連通して反力液圧を発生させず、通電状態で遮断して反力液圧を発生させる。
【0048】
(サーボ圧発生装置4)
サーボ圧発生装置4は、減圧弁(「電磁弁」に相当する)41、増圧弁(「電磁弁」に相当する)42、圧力供給部43、およびレギュレータ44等で構成されている。減圧弁41は、非通電状態で開く構造の電磁弁(常開弁)であり、ブレーキECU6により流量が制御される。減圧弁41の一方は配管411を介して配管161に接続され、減圧弁41の他方は配管413に接続されている。つまり、減圧弁41の一方は、配管411、161、およびポート11a、11bを介してリザーバ(低圧力源)171に連通している。なお、配管411は、リザーバ171ではなく、後述するリザーバ434に接続されていても良い。この場合、リザーバ434が低圧力源に相当する。また、リザーバ171とリザーバ434が同一のリザーバであっても良い。
【0049】
増圧弁42は、非通電状態で閉じる構造の電磁弁(常閉弁)であり、ブレーキECU6により流量が制御されている。増圧弁42の一方は配管421に接続され、増圧弁42の他方は配管422に接続されている。減圧弁41及び増圧弁42は、パイロット液圧発生装置に相当する。
【0050】
圧力供給部43は、レギュレータ44に主に高圧の作動液を供給する部位である。圧力供給部43は、アキュムレータ(高圧力源)431、液圧ポンプ432、モータ433、およびリザーバ434等で構成されている。
【0051】
アキュムレータ431は、高圧の作動液を蓄積するタンクである。アキュムレータ431は、配管431aによりレギュレータ44および液圧ポンプ432に接続されている。液圧ポンプ432は、モータ433によって駆動され、リザーバ434に貯留された作動液を、アキュムレータ431に圧送する。配管431aに設けられた圧力センサ75は、アキュムレータ431のアキュムレータ液圧を検出し、検出信号をブレーキECU6に送信する。アキュムレータ液圧は、アキュムレータ431に蓄積された作動液の蓄積量に相関する。
【0052】
アキュムレータ液圧が所定値以下に低下したことが圧力センサ75によって検出されると、ブレーキECU6からの指令に基づいてモータ433が駆動される。これにより、液圧ポンプ432は、アキュムレータ431に作動液を圧送して、アキュムレータ液圧を所定値以上に回復する。
【0053】
レギュレータ(調圧装置)44は、図2に示すように、シリンダ441、ボール弁442、付勢部443、弁座部444、制御ピストン445、およびサブピストン446等で構成されている。
【0054】
シリンダ441は、一方(図面右側)に底面をもつ略有底円筒状のシリンダケース441aと、シリンダケース441aの開口(図面左側)を塞ぐ蓋部材441bと、で構成されている。シリンダケース441aには、内部と外部を連通させる複数のポート4a〜4hが形成されている。蓋部材441bも、略有底円筒状に形成されており、筒状部の複数のポート4a〜4hに対向する各部位に各ポートが形成されている。
【0055】
ポート4aは、配管431aに接続されている。ポート4bは、配管422に接続されている。ポート4cは、配管163に接続されている。配管163は、サーボ室1Aと出力ポート4cとを接続している。ポート4dは、配管414を介して配管161に接続されている。ポート4eは、配管424に接続され、さらにリリーフバルブ423を経由して配管422に接続されている。ポート4fは、配管413に接続されている。ポート4gは、配管421に接続されている。ポート4hは、配管51から分岐した配管511に接続されている。なお、配管414は、配管161ではなく、リザーバ434に接続されていても良い。
【0056】
ボール弁442は、ボール型の弁であり、シリンダ441内部のシリンダケース441aの底面側(以下、シリンダ底面側とも称する)に配置されている。付勢部443は、ボール弁442をシリンダケース441aの開口側(以下、シリンダ開口側とも称する)に付勢するバネ部材であって、シリンダケース441aの底面に設置されている。弁座部444は、シリンダケース441aの内周面に設けられた壁部材であり、シリンダ開口側とシリンダ底面側を区画している。弁座部444の中央には、区画したシリンダ開口側とシリンダ底面側を連通させる貫通路444aが形成されている。弁部材444は、付勢されたボール弁442が貫通路444aを塞ぐ形で、ボール弁442をシリンダ開口側から保持している。貫通路444aのシリンダ底面側の開口部には、ボール弁442が離脱可能に着座(当接)する弁座面444bが形成されている。
【0057】
ボール弁442、付勢部443、弁座部444、およびシリンダ底面側のシリンダケース441aの内周面で区画された空間を「第1室4A」とする。第1室4Aは、作動液で満たされており、ポート4aを介して配管431aに接続され、ポート4bを介して配管422に接続されている。
【0058】
制御ピストン445は、略円柱状の本体部445aと、本体部445aよりも径が小さい略円柱状の突出部445bとからなっている。本体部445aは、シリンダ441内において、弁座部444のシリンダ開口側に、同軸的且つ液密的に、軸方向に摺動可能に配置されている。本体部445aは、図示しない付勢部材によりシリンダ開口側に付勢されている。本体部445aのシリンダ軸方向略中央には、両端が本体部445a周面に開口した径方向(図面上下方向)に延びる通路445cが形成されている。通路445cの開口位置に対応したシリンダ441の一部の内周面は、ポート4dが形成されているとともに、凹状に窪んでいる。この窪んだ空間を「第3室4C」とする。
【0059】
突出部445bは、本体部445aのシリンダ底面側端面の中央からシリンダ底面側に突出している。突出部445bの径は、弁座部444の貫通路444aよりも小さい。突出部445bは、貫通路444aと同軸上に配置されている。突出部445bの先端は、ボール弁442からシリンダ開口側に所定間隔離れている。突出部445bには、突出部445bのシリンダ底面側端面中央に開口したシリンダ軸方向に延びる通路445dが形成されている。通路445dは、本体部445a内にまで延伸し、通路445cに接続している。
【0060】
本体部445aのシリンダ底面側端面、突出部445bの外周面、シリンダ441の内周面、弁座部444、およびボール弁442によって区画された空間を「第2室4B」とする。第2室4Bは、突出部445bとボール弁442とが当接していない状態で、通路445d,445c、および第3室4Cを介してポート4d、4eに連通している。
【0061】
サブピストン446は、サブ本体部446aと、第1突出部446bと、第2突出部446cとからなっている。サブ本体部446aは、略円柱状に形成されている。サブ本体部446aは、シリンダ441内において、本体部445aのシリンダ開口側に、同軸的且つ液密的、軸方向に摺動可能に配置されている。
【0062】
第1突出部446bは、サブ本体部446aより小径の略円柱状であり、サブ本体部446aのシリンダ底面側の端面中央から突出している。第1突出部446bは、本体部445aのシリンダ開口側端面に当接している。第2突出部446cは、第1突出部446bと同形状であり、サブ本体部446aのシリンダ開口側の端面中央から突出している。第2突出部446cは、蓋部材441bと当接している。
【0063】
サブ本体部446aのシリンダ底面側の端面、第1突出部446bの外周面、制御ピストン445のシリンダ開口側の端面、およびシリンダ441の内周面で区画された空間を「第1パイロット室(パイロット室)4D」とする。第1パイロット室4Dは、ポート4fおよび配管413を介して減圧弁41に連通し、ポート4gおよび配管421を介して増圧弁42に連通している。
【0064】
一方、サブ本体部446aのシリンダ開口側の端面、第2突出部446cの外周面、蓋部材441b、およびシリンダ441の内周面で区画された空間を「第2パイロット室4E」とする。第2パイロット室4Eは、ポート4hおよび配管511、51を介してポート11gに連通している。各室4A〜4Eは、作動液で満たされている。圧力センサ74は、サーボ室1Aに供給されるサーボ圧を検出するセンサであり、配管163に接続されている。圧力センサ74は、検出信号をブレーキECU6に送信する。
【0065】
このように、レギュレータ44は、第1パイロット室4Dの圧力(「パイロット圧」とも称する)に対応する力とサーボ圧に対応する力との差によって駆動される制御ピストン445を有し、第1パイロット室4Dに流入出する液体の流量が増大すると、パイロット圧に対応する力とサーボ圧に対応する力とが釣り合っている平衡状態における制御ピストン445の位置を基準とする同制御ピストン445の移動量が増大して、サーボ室1Aに流入出する液体の流量が増大するように構成されている。
【0066】
レギュレータ44は、アキュムレータ431から第1パイロット室4Dに流入する液体の流量が増大するほど、第1パイロット室4Dが拡大するとともにアキュムレータ431からサーボ室1Aに流入する液体の流量が増大し、第1パイロット室4Dからリザーバ171に流出する液体の流量が増大するほど、第1パイロット室4Dが縮小するとともにサーボ室1Aからリザーバ171に流出する液体の流量が増大するように構成されている。
【0067】
また、制御ピストン445は、第1パイロット室4Dに面する壁部にダンパ装置Zを有している。ダンパ装置Zは、ストロークシミュレータのような構成であり、付勢部材で第1パイロット室4Dに向けて付勢されたピストン部を有する。ダンパ装置Zが設けられることで、第1パイロット室4Dの剛性が設定される。
【0068】
(液圧制御部5)
マスタシリンダ液圧(マスタ圧)を発生する第1マスタ室1D、第2マスタ室1Eには、配管51、52、ABS(Antilock Brake System)53を介してホイールシリンダ541〜544が連通されている。ホイールシリンダ541〜544は、車輪5FR〜5RLのブレーキを構成している。具体的には、第1マスタ室1Dのポート11g及び第2マスタ室1Eのポート11iには、それぞれ配管51、52を介して、公知のABS53が連結されている。ABS53には、車輪5FR〜5RLを制動するブレーキを作動させるホイールシリンダ541〜544が連結されている。
【0069】
ABS53は、車輪速度を検出する車輪速度センサ(「検出手段」及び「第二センサ」に相当する)76を各輪に備えている。車輪速度センサ76により検出された車輪速度を示す検出信号はブレーキECU6に出力されるようになっている。
【0070】
このように構成されたABS53において、ブレーキECU6は、マスタ圧、車輪速度の状態、及び前後加速度に基づき、各保持弁、減圧弁の開閉を切り換え制御し、モータを必要に応じて作動して各ホイールシリンダ541〜544に付与するブレーキ液圧すなわち各車輪5FR〜5RLに付与する制動力を調整するABS制御(アンチロックブレーキ制御)を実行する。ABS53は、マスタシリンダ1から供給された作動液を、ブレーキECU6の指示に基づいて、量やタイミングを調整して、ホイールシリンダ541〜544に供給する装置である。
【0071】
後述する「ブレーキ制御」では、サーボ圧発生装置4のアキュムレータ431から送出された液圧が増圧弁42及び減圧弁41によって制御されてサーボ圧がサーボ室1Aに発生することにより、第1マスタピストン14及び第2マスタピストン15が前進して第1マスタ室1D及び第2マスタ室1Eが加圧される。第1マスタ室1D及び第2マスタ室1Eの液圧はポート11g、11iから配管51、52及びABS53を経由してホイールシリンダ541〜544へマスタ圧として供給され、車輪5FR〜5RLに液圧制動力が付与される。
【0072】
(ブレーキECU6)
ブレーキECU6は、電子制御ユニットであり、マイクロコンピュータを有している。マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAM、ROM、不揮発性メモリー等の記憶部を備えている。
【0073】
ブレーキECU6は、各電磁弁22、23、41、42、及びモータ433等を制御するため、各種センサ71〜76と接続されている。ブレーキECU6には、ストロークセンサ71から運転者によりブレーキペダル10の操作量(ストローク量)が入力され、ブレーキストップスイッチ72から運転者によるブレーキペダル10の操作の有無が入力され、圧力センサ73から第二液圧室1Cの反力液圧又は第一液圧室1Bの圧力(又は反力液圧)が入力され、圧力センサ74からサーボ室1Aに供給されるサーボ圧が入力され、圧力センサ75からアキュムレータ431のアキュムレータ液圧が入力され、車輪速度センサ76から各車輪5FR,5FL,5RR,5RLの速度が入力される。
【0074】
(ブレーキ制御)
ここで、ブレーキECU6のブレーキ制御について説明する。ブレーキ制御は、通常のブレーキ制御である。すなわち、ブレーキECU6は、第一制御弁22に通電して開弁し、第二制御弁23に通電して閉弁した状態とする。第二制御弁23が閉状態となることで第二液圧室1Cとリザーバ171とが遮断され、第一制御弁22が開状態となることで第一液圧室1Bと第二液圧室1Cとが連通する。このように、ブレーキ制御は、第一制御弁22を開弁させ、第二制御弁23を閉弁させた状態で、減圧弁41及び増圧弁42を制御してサーボ室1Aのサーボ圧を制御するモードである。減圧弁41及び増圧弁42は、第1パイロット室4Dに流入出させる作動液の流量を調整する弁装置ともいえる。このブレーキ制御において、ブレーキECU6は、ストロークセンサ71で検出されたブレーキペダル10の操作量(入力ピストン13の移動量)またはブレーキペダル10の操作力から、運転者の要求制動力を算出する。そして、要求制動力から回生制動力を減算した不足制動力に基づいて目標サーボ圧が設定され、測定された実際のサーボ圧である実サーボ圧(「実圧」に相当する)を目標サーボ圧に近づけるように減圧弁41及び増圧弁42が制御される。
【0075】
詳細に説明すると、ブレーキペダル10が踏まれていない状態では、上記のような状態、すなわちボール弁442が弁座部444の貫通路444aを塞いでいる状態となる。また、減圧弁41は開状態、増圧弁42は閉状態となっている。つまり、第1室4Aと第2室4Bは隔離されている。
【0076】
第2室4Bは、配管163を介してサーボ室1Aに連通し、互いに同圧力に保たれている。第2室4Bは、制御ピストン445の通路445c、445dを介して第3室4Cに連通している。したがって、第2室4B及び第3室4Cは、配管414、161を介してリザーバ171に連通している。第1パイロット室4Dは、一方が増圧弁42で塞がれ、他方が減圧弁41を介してリザーバ171に連通している。第1パイロット室4Dと第2室4Bとは同圧力に保たれる。第2パイロット室4Eは、配管511、51を介して第1マスタ室1Dに連通し、互いに同圧力に保たれる。
【0077】
この状態から、ブレーキペダル10が踏まれると、ブレーキECU6は、目標液圧制動力(不足制動力)、具体的には目標サーボ圧に基づいて、減圧弁41及び増圧弁42を制御する。すなわち、ブレーキECU6は、減圧弁41を閉じる方向に制御し、増圧弁42を開ける方向に制御する。
【0078】
増圧弁42が開くことでアキュムレータ431と第1パイロット室4Dとが連通する。減圧弁41が閉じることで、第1パイロット室4Dとリザーバ171とが遮断される。アキュムレータ431から供給される高圧の作動液により、第1パイロット室4Dの圧力を上昇させることができる。第1パイロット室4Dの圧力が上昇することで、制御ピストン445がシリンダ底面側に摺動する。これにより、制御ピストン445の突出部445b先端がボール弁442に当接し、通路445dがボール弁442により塞がれる。そして、第2室4Bとリザーバ171とは遮断される。
【0079】
さらに、制御ピストン445がシリンダ底面側に摺動することで、突出部445bによりボール弁442がシリンダ底面側に押されて移動し、ボール弁442が弁座面444bから離間する。これにより、第1室4Aと第2室4Bは弁座部444の貫通路444aにより連通する。第1室4Aには、アキュムレータ431から高圧の作動液が供給されており、連通により第2室4Bの圧力が上昇する。なお、ボール弁442の弁座面444bからの離間距離が大きくなる程、作動液の流路が大きくなり、ボール弁442の下流の流路の液圧が高くなる。つまり、第1パイロット室4Dの圧力(パイロット圧)が大きくなる程、制御ピストン445の移動距離が大きくなり、ボール弁442の弁座面444bからの離間距離が大きくなり、第2室4Bの液圧(サーボ圧)が高くなる。
【0080】
ブレーキECU6は、ストロークセンサ71で検知された入力ピストン13の移動量(ブレーキペダル10の操作量)が大きくなる程、第1パイロット室4Dのパイロット圧が高くなるように増圧弁42を制御する。つまり、入力ピストン13の移動量(ブレーキペダル10の操作量)が大きくなる程、パイロット圧が高くなり、サーボ圧も高くなる。サーボ圧は、圧力センサ74により取得でき、パイロット圧に換算することができる。
【0081】
第2室4Bの圧力上昇に伴って、それに連通するサーボ室1Aの圧力も上昇する。サーボ室1Aの圧力上昇により、第1マスタピストン14が前進し、第1マスタ室1Dの圧力が上昇する。そして、第2マスタピストン15も前進し、第2マスタ室1Eの圧力が上昇する。第1マスタ室1Dの圧力上昇により、高圧の作動液が後述するABS53及び第2パイロット室4Eに供給される。第2パイロット室4Eの圧力は上昇するが、第1パイロット室4Dの圧力も同様に上昇しているため、サブピストン446は移動しない。このように、ABS53に高圧(マスタ圧)の作動液が供給され、摩擦ブレーキが作動して車両が制動される。「ブレーキ制御」において第1マスタピストン14を前進させる力は、サーボ圧に対応する力に相当する。
【0082】
ブレーキ操作を解除する場合、反対に、減圧弁41を開状態とし、増圧弁42を閉状態として、リザーバ171と第1パイロット室4Dとを連通させる。これにより、制御ピストン445が後退し、ブレーキペダル10を踏む前の状態に戻る。
【0083】
本実施形態のブレーキ制御は、ブレーキペダル10の操作及びストロークに応じて目標サーボ圧を設定し、サーボ圧が目標サーボ圧に達するように、減圧弁41及び増圧弁42を制御してパイロット圧を変化させる制御である。目標サーボ圧は、マップ等に基づいて設定される。また、本実施形態において、減圧弁41及び増圧弁42は、出入口間の差圧によって開弁電流が変化する電磁弁である。
【0084】
また、ブレーキECU6では、図3に示すように、目標サーボ圧に対して所定の不感帯が設定されている。ブレーキECU6は、液圧制御を行うにあたり、実サーボ圧が不感帯の範囲(「許容範囲」に相当する)内に入ると実質的に目標サーボ圧に達したものと認識する。このような不感帯を設定することで、目標サーボ圧を一点に設定する場合よりも液圧制御のハンチングを抑制することができる。
【0085】
ブレーキECU6は、ブレーキ制御において、目標サーボ圧と実サーボ圧との偏差が不感帯の範囲外にある場合には当該偏差を不感帯の範囲に収めるように実圧を制御し、目標サーボ圧と実サーボ圧との偏差が不感帯の範囲にある場合には実サーボ圧を保持するように実サーボ圧を制御する。ブレーキECU6は、圧力センサ74の値を監視しながら減圧弁41及び増圧弁42を制御するフィードバック制御を行っている。
【0086】
ブレーキECU6は、実サーボ圧が不感帯の範囲外で且つ目標サーボ圧よりも小さい場合、実サーボ圧を目標サーボ圧に向けて増大させる「増圧モード」となる。また、ブレーキECU6は、実サーボ圧が不感帯の範囲外で且つ目標サーボ圧よりも大きい場合、実サーボ圧を目標サーボ圧に向けて減少させる「減圧モード」となる。ブレーキECU6は、実サーボ圧が不感帯の範囲内にある場合、実サーボ圧を保持する「保持モード」となる。具体例を挙げると、ブレーキECU6は、増圧モードにおいては増圧弁42を開弁させ減圧弁41を閉弁させ、減圧モードにおいては増圧弁42を閉弁させ減圧弁41を開弁させ、保持モードにおいては増圧弁42及び減圧弁41を閉弁させる。
【0087】
(嵩上げ制御)
回生協調制御では、上述のとおり、燃費性能向上の観点から回生制動力が優先的に利用され、要求制動力に対する不足分が液圧制動力で補填される。要求制動力が比較的小さい場合には、回生制動力のみで要求制動力をまかなうことが可能である。そして、要求制動力が比較的大きい場合には、回生制動力に液圧制動力を併用して要求制動力がまかなわれる。
【0088】
図4に示すように、ブレーキペダル10が踏み込まれた当初のように(t0〜t1)、回生制動力のみで要求制動力をまかなうことができる場合であっても、より高い安全性の観点から、液圧制動力も若干発生させ、回生制動力を主として回生制動力と液圧制動力とを併用する制御が行われる。そして、回生制動力の増加が要求制動力の増加に追従できなくなると(t1〜t3)、回生制動力を主とした制動状態から液圧制動力を増大させる制動状態へと遷移する。このように遷移させる制御はすり替え制御(すり替え)と呼ばれる。
【0089】
ここでは、要求制動力はt2において最大値となり、回生制動力はt1からt3に向けて徐々に増加しt3で要求制動力に到達する。t4において、車両の速度の減速に伴い車輪の回転数も減り、回生制動力も減少し始める。したがって、t4以降、再びすり替え制御が実行される。図4においては、t1とt4においてすり替え制御がなされる。すり替えは、主に、要求制動力に対して、回生制動力が不足する場合に行われる。
【0090】
このすり替え制御において、液圧制動力は、不感帯が設定されている分、遅れて増大することとなる。液圧制動力を増大させるために、目標サーボ圧を増大させたとしても、目標サーボ圧と実サーボ圧の差が不感帯の範囲を超えない限り、増圧モードとならず、実サーボ圧は変化しない。そこで、従来から、すり替えのタイミングで、目標サーボ圧を嵩上げする嵩上げ制御が為されている。
【0091】
ここで、嵩上げの量である嵩上げ量について説明する。本実施形態において、嵩上げ量は、不感帯の範囲に関する第一値、作動液のホイールシリンダ541〜544への充填による応答遅れに関する第二値、及び液圧制動力を制御する電磁弁(ここでは減圧弁41及び増圧弁42)に対する制御遅れに関する第三値から選択されて設定されている。
【0092】
第一値は、不感帯の片幅(不感帯における目標サーボ圧との最大偏差)と、実サーボ圧から目標サーボ圧を減算した減算値を加算した値に設定される。実サーボ圧が目標サーボ圧よりも大きい場合、上記減算値は正となり、第一値は不感帯の片幅よりも大きくなる。この場合、増圧モードにするためには、目標サーボ圧を実サーボ圧を超えて増大させなければならず、第一値は比較的大きな値となる。一方、実サーボ圧が目標サーボ圧よりも小さい場合、上記減算値は負となり、第一値は不感帯の片幅よりも小さくなる。この場合、増圧モードにするためには、実サーボ圧が目標サーボ圧より小さいため、比較的小さい嵩上げ量で足りる。第一値は、不感帯内の実サーボ圧を、目標サーボ圧より小さく且つ不感帯外とするための最小値ともいえる。
【0093】
第二値は、ホイールシリンダ541〜544の消費液量に応じた値であって、ホイールシリンダ541〜544への作動液の充填による応答遅れを補正するための値である。ホイール圧は、一般に、パイロット圧が上昇してサーボ圧が上昇し、それに伴いマスタ圧が上昇し、ABS54等を介して、作動液がホイールシリンダ541〜544に充填されることで上昇する。第二値は、このような作動液の充填に係る時間分を補正するための値である。第二値は、実験やシミュレーション演算により設定されている。
【0094】
第三値は、減圧弁41及び増圧弁42の動作の遅れを補正するための値である。電磁弁(ソレノイドバルブ)である減圧弁41及び増圧弁42は、コイルに電流を流すことにより発生する電磁駆動力と、スプリングの付勢力と、電磁弁の出入口間の差圧に応じた差圧作用力とのつりあい関係により開閉が制御される。この電磁駆動力を発生させる際、回路構成(リレーのオン/オフ等)によって、コイルへの印加電流の制御遅れが発生する。特に印加電流を0から上昇させる際に制御遅れが生じる。また、バルブ(弁)の開閉動作にも応答時間がかかり、特に閉状態から開状態への遷移に遅れが生じる。したがって、第三値は、これら印加電流の制御遅れ及びバルブの動作遅れを補正する値に設定されている。第三値は、実験やシミュレーション演算により設定されている。
【0095】
ブレーキECU6には、第一値、第二値、及び第三値に基づいて設定された第一嵩上げ量及び第二嵩上げ量が記憶されている。図5に示すように、本実施形態において、第一嵩上げ量(図では第一所定値と表す)は、第一値と第二値と第三値を加算した値である。第二嵩上げ量(図では第二所定値と表す)は、第二値に設定されている。各嵩上げ量は、第一値、第二値、及び第三値から選択されて設定されている。当該選択は、本実施形態のように予め行っておいても良く、ブレーキECU6がブレーキ制御の状態に応じてその都度行うようにしても良い。
【0096】
ブレーキECU6は、機能として、タイミング判定部61と、増圧判定部62と、嵩上げ制御部63と、を備えている。タイミング判定部61は、ハイブリッドECU8と通信して、回生制動力の変化割合(変化勾配)が減少し且つ不足制動力が増大側に変化したか否かを判定する。タイミング判定部61は、例えば、回生制動力が傾き1で上昇していたところから傾き0.5に変化し、且つ不足制動力(目標液圧制動力)が1で一定だったところから2に変化したタイミングを検出する。また例えば、回生制動力の傾きが0から−1へ変化した場合も、回生制動力の変化割合が減少したこととなる。タイミング判定部61は、嵩上げのタイミングを判定している。タイミング判定部61は、図4ではt1とt4の際に嵩上げのタイミングと判定する。嵩上げのタイミングは、すり替えのタイミングと重複する。
【0097】
増圧判定部62は、圧力センサ74の測定値に基づいて、実サーボ圧が不感帯の範囲外であり且つ実サーボ圧が目標サーボ圧より小さいか否かを判定する。すなわち、増圧判定部62は、ブレーキ制御が増圧モードであるか否かを判定する。
【0098】
嵩上げ制御部63は、各判定部61、62の判定に基づいて、目標サーボ圧に第一嵩上げ量又は第二嵩上げ量を加える。具体的に、嵩上げ制御部63は、タイミング判定部61が嵩上げタイミングと判定した際に、増圧判定部62が増圧モードと判定していない場合、目標サーボ圧に第一嵩上げ量を加算し、増圧判定部62が増圧モードと判定している場合、目標サーボ圧に第二嵩上げ量を加算する。図4において、t1の際に、増圧モードでなければ第一嵩上げ量だけ目標サーボ圧が嵩上げされ、増圧モードであれば第二嵩上げ量だけ目標サーボ圧が嵩上げされる。
【0099】
続いて、図6に示すように、運転手によりブレーキペダル10が途中で踏み増しされた場合について説明する。図6では、t1において、嵩上げのタイミングと判定され、その際に増圧モードであれば第二嵩上げ量が目標サーボ圧に加算され、増圧モードでなければ第一嵩上げ量が目標サーボ圧に加算される。t2〜t3において、要求制動力が一定となり、t3でブレーキ操作の踏み増しが行われ、t3以降は要求制動力が増大する。t3においては、回生制動力は、一定(最大値)であり、変化割合が減少していないため嵩上げのタイミングとは判定されない。
【0100】
t4において、車速の低下に伴い回生制動力も減少し始める。t4において、回生制動力の傾きが0から−1に減少する。したがって、t4において、タイミング判定部61は、嵩上げタイミングと判定する。ここで、t3からt4にかけては、要求制動力が増大し回生制動力が一定であったため、目標液圧制動力が増大し、目標サーボ圧は増大している。したがって、本実施形態のt4においては、目標サーボ圧の増大に伴い不感帯の範囲の最小値も増大し、実サーボ圧が不感帯の範囲外に位置し且つ目標サーボ圧よりも小さい値となっている。換言すると、t4において、ブレーキ制御は、増圧モードとなっている。t4において、タイミング判定部61が嵩上げタイミングと判定するとともに、増圧判定部62が増圧モードと判定する。これにより、嵩上げ制御部63は、t4において、第二嵩上げ量(すなわち第二値のみ)を目標サーボ圧に加算する。
【0101】
ブレーキECU6による嵩上げ制御の流れについて図7を参照して説明する。図7に示すように、タイミング判定部61が嵩上げのタイミングと判定している場合(S101:Yes)、増圧判定部62が増圧モードか否かを判定する(S102)。増圧モードである場合(S102:Yes)、嵩上げ制御部63は、第二嵩上げ量を目標サーボ圧に加えて嵩上げする(S103)。増圧モードでない場合(S102:No)、嵩上げ制御部63は、第一嵩上げ量を目標サーボ圧に加えて嵩上げする(S104)。
【0102】
ここで第一実施形態の効果を説明する。ブレーキ制御が増圧モードである場合、すでに増圧弁42は開弁状態にあり、開いている状態での開度を変える応答時間はほぼ0と考えられる。また、増圧弁42のコイルには、すでに開弁するための電流が印加されており、回路構成(リレー等)は接続状態となっており、電流を増加させる際の回路構成による制御遅れもほぼ0と考えられる。また、増圧モードでは、すでに実サーボ圧は不感帯の範囲外に位置しているため、不感帯の範囲に相当する嵩上げ値、すなわち第一値は必要ない。したがって、増圧モードの際には、第一値及びコイルやバルブの遅れに関する第三値は、嵩上げ量に含める必要はない。
【0103】
第一実施形態によれば、嵩上げのタイミングにおいて、増圧モードである場合は、作動液の充填遅れに関する第二値のみを嵩上げ量として目標サーボ圧に加算することで、不自然な制動力発生を抑制し、より適切な応答性を実現することができる。また、2つの嵩上げ量で制御を行っており、制御の複雑化は抑制されている。このように、本実施形態によれば、ブレーキフィーリングと制御性の観点から、制御状態に応じた適切な嵩上げ制御が実行できる。
【0104】
<第二実施形態>
第二実施形態の車両用制動装置は、嵩上げ時に増圧モードである場合の対応が第一実施形態と異なっている。したがって、異なっている部分を説明する。
【0105】
第二実施形態の嵩上げ制御部63は、タイミング判定部61が嵩上げのタイミングと判定している際、増圧判定部62が増圧モードと判定していない場合、第一嵩上げ量(第一値と第二値と第三値を加算した値)を目標サーボ圧に加算し、増圧判定部62が増圧モードと判定している場合、嵩上げを実行しない。すなわち、嵩上げ制御部63は、嵩上げ量を目標サーボ圧に加算しない。
【0106】
例えば図6において、嵩上げ制御部63は、t1及びt4の際に、ブレーキ制御が増圧モードであれば嵩上げを行わず、増圧モードでなければ第一嵩上げ量を嵩上げする。第二実施形態の嵩上げ制御の流れについて説明する。図8に示すように、タイミング判定部61が嵩上げのタイミングと判定している場合(S201:Yes)、増圧判定部62が増圧モードか否かを判定する(S202)。増圧モードである場合(S202:Yes)、嵩上げ制御部63は、嵩上げを禁止する(S203)。増圧モードでない場合(S202:No)、嵩上げ制御部63は、第一嵩上げ量を目標サーボ圧に加えて嵩上げする(S204)。
【0107】
増圧モードである場合、作動液の充填による遅れ分のみを補正するよりも、嵩上げを行わずに制御を簡易し且つ補正分の戻し制御(最終的に嵩上げを0にする制御)を抑制するほうが、制御の容易性の面では有利となる。増圧モードであるため、作動液の充填による遅れも最小限に抑えられる。第二実施形態によれば、不自然な制動力発生を抑制しつつ、簡易な制御が可能となる。つまり、第二実施形態によれば、ブレーキフィーリングと制御性の観点から、制御状態に応じた適切な嵩上げ制御が実行できる。
【0108】
なお、第二実施形態のブレーキECU6は、嵩上げ量0に相当する第四値を記憶していても良い。この場合、第二実施形態では、第二嵩上げ量を第四値に設定し、増圧モードの際には第二嵩上げ量を目標サーボ圧に加算する。嵩上げ制御部63は、嵩上げのタイミングにおいて、第一値、第二値、第三値、及び嵩上げ量0に相当する第四値のうちから選択され設定された嵩上げ量を、増圧判定部62の判定結果に応じて前記目標圧に加えるといえる。
【0109】
<第三実施形態>
第三実施形態の車両用制動装置は、第一実施形態に対して、増圧判定部62ではなく要求増大判定部64により嵩上げ制御の判定を行っている点で異なっている。したがって
異なっている部分を説明する。
【0110】
第三実施形態のブレーキECU6は、図9に示すように、タイミング判定部61と、要求増大判定部64と、嵩上げ制御部63と、を備えている。要求増大判定部64は、要求制動力が増大しているか否か(傾きが正であるか否か)を判定している。
【0111】
嵩上げ制御部63は、タイミング判定部61が嵩上げのタイミングであると判定している際、要求増大判定部64が要求制動力が増大していると判定している場合(図6におけるt1とt4)、第二嵩上げ量を目標サーボ圧に加算し、要求増大判定部64が要求制動力が増大していると判定していない場合(図4におけるt4)、第一嵩上げ量を目標サーボ圧に加算する。
【0112】
第三実施形態の嵩上げ制御の流れについて説明する。図10に示すように、タイミング判定部61が嵩上げのタイミングと判定している場合(S301:Yes)、要求増大判定部64は要求制動力が増大しているか否かを判定する(S302)。要求制動力が増大している場合(S302:Yes)、嵩上げ制御部63は、第二嵩上げ量を目標サーボ圧に加えて嵩上げする(S303)。要求制動力が増大していない場合(S302:No)、嵩上げ制御部63は、第一嵩上げ量を目標サーボ圧に加えて嵩上げする(S304)。これにより、第一実施形態同様の効果が発揮される。また、嵩上げのタイミングで且つ要求制動力が増大している場合、図4のt1及び図6のt1とt4の際のように、すでに増圧弁42は開状態になっている場合が多く、第三値を加算する必要はなく、より適切な嵩上げ制御が実行される。
【0113】
一方、第三実施形態のブレーキECU6は、第二実施形態同様、第二嵩上げ量を目標サーボ圧に加算する代わりに、嵩上げを実行しないように設定しても良い。すなわち、嵩上げ制御部63は、タイミング判定部61が嵩上げのタイミングであると判定している際、要求増大判定部64が要求制動力が増大していると判定している場合(図6におけるt1とt4)、嵩上げを実行せず(すなわち嵩上げ量を目標サーボ圧に加算せず)、要求増大判定部64が要求制動力が増大していると判定していない場合(図4におけるt4)、第一嵩上げ量を目標サーボ圧に加算する。
【0114】
すなわち、図11に示すように、タイミング判定部61が嵩上げのタイミングと判定している場合(S401:Yes)、要求増大判定部64は要求制動力が増大しているか否かを判定する(S402)。要求制動力が増大している場合(S402:Yes)、嵩上げ制御部63は、嵩上げを行わない(あるいは嵩上げ量0を加算する)(S403)。要求制動力が増大していない場合(S402:No)、嵩上げ制御部63は、第一嵩上げ量を目標サーボ圧に加えて嵩上げする(S404)。これにより、第二実施形態同様の効果が発揮される。
【0115】
<その他変形態様>
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、第一嵩上げ量は、少なくとも第一値を含む値であれば良く、第一値のみ、第一値と第二値の和、又は第一値と第三値の和であっても良い。また、嵩上げ量である嵩上げ量は、制御状況に応じて第一値から第三値(又は第一値から第四値)のうちから選択的に組み合わされてあるいは選択されて設定されても良い。
【符号の説明】
【0116】
1:マスタシリンダ、 11:メインシリンダ、 12:カバーシリンダ、
13:入力ピストン、 14:第1マスタピストン、
15:第2マスタピストン、 1A:サーボ室、 1B:第一液圧室、
1C:第二液圧室、 1D:第1マスタ室、 1E:第2マスタ室、
10:ブレーキペダル、 171:リザーバ、
2:反力発生装置、 22:第一制御弁、 23:第二制御弁、
4:サーボ圧発生装置、 41:減圧弁(電磁弁)、
42:増圧弁(電磁弁)、 431:アキュムレータ、
44:レギュレータ、 445:制御ピストン、
4D:第1パイロット室、 541、542、543、544:ホイールシリンダ、
5FR、5FL、5RR、5RL:車輪、 BF:液圧制動力発生装置、
6:ブレーキECU、 61:タイミング判定部、 62:増圧判定部、
63:嵩上げ制御部、 64:要求増大判定部、
71:ストロークセンサ、 72:ブレーキストップスイッチ、
73、74、75:圧力センサ、 76:車輪速度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11