特許第6132837号(P6132837)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6132837アスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132837
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】アスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/96 20060101AFI20170515BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C12N9/96
   C12N9/02
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-516853(P2014-516853)
(86)(22)【出願日】2013年5月23日
(86)【国際出願番号】JP2013064387
(87)【国際公開番号】WO2013176225
(87)【国際公開日】20131128
【審査請求日】2016年4月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-119582(P2012-119582)
(32)【優先日】2012年5月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000162478
【氏名又は名称】協和メデックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】金城 健太
(72)【発明者】
【氏名】荒武 知子
【審査官】 吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/126067(WO,A1)
【文献】 特開2013−074877(JP,A)
【文献】 特開2013−074876(JP,A)
【文献】 特開昭63−049081(JP,A)
【文献】 特開平04−066087(JP,A)
【文献】 特開平06−062846(JP,A)
【文献】 特開2002−233363(JP,A)
【文献】 特開2003−116539(JP,A)
【文献】 特開2004−105025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/96
C12N 9/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸オキシダーゼに、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルを水性媒体中で共存させることを特徴とするアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法。
【請求項2】
アスコルビン酸オキシダーゼに、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルを水性媒体中で共存させることを特徴とするアスコルビン酸オキシダーゼの保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法、アスコルビン酸オキシダーゼの安定化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血清等の生体試料中の測定対象成分を、酸化酵素を用いて過酸化水素を生成させ、生成した過酸化水素を測定することにより測定対象成分を測定する臨床検査が日常的に行われている。この過酸化水素測定に基づく、生体試料中の測定対象成分の測定方法において、生体試料中に含まれるアスコルビン酸、ビリルビン等の妨害物質の影響がしばしば問題となる。特に、アスコルビン酸は還元作用が非常に強く、その影響を回避するために、アスコルビン酸オキシダーゼを用いてアスコルビン酸をデヒドロアスコルビン酸に変換し、アスコルビン酸の影響を抑制する方法が、臨床検査においてしばしば用いられている。
【0003】
アスコルビン酸オキシダーゼは、分子量約14万の青色銅タンパク質であり、アスコルビン酸をデヒドロアスコルビン酸に変換する。アスコルビン酸の影響抑制のために、生体試料中の測定対象成分を測定するための試薬には、しばしばアスコルビン酸オキシダーゼが含まれる。しかしながら、アスコルビン酸オキシダーゼは不安定であり、試薬保存中に失活し試薬の性能が悪化するという課題がある。
【0004】
本課題に対して、アスコルビン酸オキシダーゼを含有する溶液に、金属または陽性の塩基性基と陰性の酸基とから成る化合物、あるいは、当該化合物と、カタラーゼ及び/又はパーオキシダーゼと、酸化性色素カップラーとを併用して添加することによるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法(特許文献1参照)、アスコルビン酸オキシダーゼを、N−置換タウリン系緩衝剤の存在下に凍結乾燥して保持することによるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法(特許文献2参照)、アスコルビン酸オキシダーゼにスキムミルク、ラクトース、シュクロース及び可溶性デンプンから選ばれる1種以上を含有せしめることによるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法(特許文献3参照)、ウシ血清アルブミン、デキストラン又はポリエチレングリコールから選択される水溶性担体とアスコルビン酸オキシダーゼとを化学結合させることによる、溶液状態におけるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法(特許文献4参照)、ピルビン酸(塩)の1種または2種以上を配合させることによるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法(特許文献5参照)、アスコルビン酸オキシダーゼを含む溶液に糖アルコールを添加することによるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法(特許文献6参照)、アスコルビン酸オキシダーゼに2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンおよびこれらの塩より選ばれる物質を共存させることによるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法(特許文献7参照)、アスコルビン酸オキシダーゼをタンパク質分解物と共存させることによる乾燥状態のアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法(特許文献8参照)、アミノ酸及びアミノ酸塩および/またはオリゴペプチドを添加することによるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法(特許文献9参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平8−015430号公報
【特許文献2】特開平4−066087号公報
【特許文献3】特開平5−244948号公報
【特許文献4】特開平6−062846号公報
【特許文献5】特開2002−233363号公報
【特許文献6】特開2003−116539号公報
【特許文献7】特開2004−105025号公報
【特許文献8】特開2005−114368号公報
【特許文献9】特開2007−228842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、長期保存に適したアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法、アスコルビン酸オキシダーゼの保存方法、及び、アスコルビン酸オキシダーゼの安定化組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは本課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アスコルビン酸オキシダーゼに、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルを水性媒体中で共存させることにより、アスコルビン酸オキシダーゼが安定に保持される、という知見を見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]〜[3]に関する。
[1] アスコルビン酸オキシダーゼに、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルを水性媒体中で共存させることを特徴とするアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法。
[2] アスコルビン酸オキシダーゼに、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルを水性媒体中で共存させることを特徴とするアスコルビン酸オキシダーゼの保存方法。
[3] アスコルビン酸オキシダーゼに、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルを水性媒体中で共存させることを特徴とするアスコルビン酸オキシダーゼの安定化組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、長期保存に適したアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法、アスコルビン酸オキシダーゼの保存方法、及び、アスコルビン酸オキシダーゼの安定化組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法は、アスコルビン酸オキシダーゼに、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルを水性媒体中で共存させることを特徴とする方法である。
【0010】
本発明のアスコルビン酸オキシダーゼの保存方法は、アスコルビン酸オキシダーゼに、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルを水性媒体中で共存させることを特徴とする方法である。
【0011】
本発明のアスコルビン酸オキシダーゼの安定化組成物は、アスコルビン酸オキシダーゼに、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルを水性媒体中で共存させることを特徴とする組成物である。
【0012】
本発明において「安定」とは、長時間アスコルビン酸オキシダーゼを保存してもアスコルビン酸オキシダーゼの酵素活性が維持されていることを意味し、具体的には、アスコルビン酸オキシダーゼの水溶液を30℃で10日間保存し、30℃で10日間保存後のアスコルビン酸オキシダーゼ活性が、アスコルビン酸オキシダーゼ水溶液の調製直後のアスコルビン酸オキシダーゼ活性の60%以上であることをいう。アスコルビン酸オキシダーゼ活性は、例えば以下の方法により測定することができる。
【0013】
アスコルビン酸オキシダーゼの基質であるアスコルビン酸の水溶液(基質液)を調製する。アスコルビン酸オキシダーゼを含有する検体(xμL)を、予め37℃で5分間加温した緩衝液(yμL)に添加し、次いで、基質液(zμL)を添加する。基質液を添加して2分後の反応液の292 nmでの吸光度(E1)、及び、基質液を添加して3分後の反応液の292 nmでの吸光度(E2)を測定し、以下の式(I)により、検体中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性を算出する。
【0014】
【数1】
【0015】
アスコルビン酸オキシダーゼの安定化は、例えば以下の方法により評価することができる。アスコルビン酸オキシダーゼを含む検体として、ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する緩衝液に、アスコルビン酸オキシダーゼと、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルとを添加して調製した検体Aについて、調製直後の検体A(調製直後)と、検体A(調製直後)を30℃10日間保存した後の検体A(保存後)を調製する。また、ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する緩衝液に、アスコルビン酸オキシダーゼのみを添加して調製した、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルを含まない検体aについて、調製直後の検体a(調製直後)と、検体a(調製直後)を30℃10日間保存した後の検体a(保存後)を調製する。
【0016】
検体として、検体A(調製直後)を用いて、上記のアスコルビン酸オキシダーゼ活性測定方法により、検体A(調製直後)中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性VA(調製直後)を算出する。同様に、検体として、検体A(調製直後)の代わりに、検体A(保存後)、検体a(調製直後)、及び、検体a(保存後)の各検体を用いて、各検体中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性VA(保存後)、Va(調製直後)、及び、Va(保存後)を算出する。検体Aにおけるアスコルビン酸オキシダーゼ活性の残存率は、以下の式(II)により算出する。
【0017】
【数2】
【0018】
同様に、検体aにおけるアスコルビン酸オキシダーゼ活性の残存率は、以下の式(III)により算出する。
【0019】
【数3】
【0020】
上記式(II)で算出した検体Aにおけるアスコルビン酸オキシダーゼ活性の残存率が60%以上であり、かつ、上記式(III)で算出した検体aにおけるアスコルビン酸オキシダーゼ活性の残存率よりも高い場合、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルによりアスコルビン酸オキシダーゼが安定化された、と評価することができる。
【0021】
本発明におけるアスコルビン酸オキシダーゼは、EC1.10.3.3に分類される酵素で、以下のいずれかの反応を触媒する酵素である。
(1)L−アスコルビン酸+1/2O2 → デヒドロアスコルビン酸+H2O
上記反応を触媒するアスコルビン酸オキシダーゼとしては、例えばキュウリ、カボチャ等の植物由来のアスコルビン酸オキシダーゼ等が挙げられる。
(2)L−アスコルビン酸+O2 → デヒドロアスコルビン酸+H2O2
上記反応を触媒するアスコルビン酸オキシダーゼとしては、例えばトリコデリマ属(Trichoderma属)、モルティエレラ属(Mortierella属)、ユペニシリニウム属(Eupenicillium属)等の微生物由来のアスコルビン酸オキシダーゼ等が挙げられる。
【0022】
上記(1)の反応を触媒するアスコルビン酸オキシダーゼは、例えば和光純薬工業社、旭化成ファーマ社、ロシュダイアグノスティクス社、東洋紡社等から入手することができる。また、上記(1)の反応を触媒するアスコルビン酸オキシダーゼとして、化学修飾されたアスコルビン酸オキシダーゼも使用することができ、化学修飾されたアスコルビン酸オキシダーゼとしては、例えばロシュダイアグノスティクス社等から入手することができる。上記(2)の反応を触媒するアスコルビン酸オキシダーゼは、例えば天野エンザイム社等から入手することができる。
【0023】
本発明において、水性媒体としては、アスコルビン酸オキシダーゼを安定に保持し得る水性媒体であれば特に制限はなく、例えば脱イオン水、蒸留水、緩衝液等が挙げられ、緩衝液が好ましい。本発明におけるアスコルビン酸オキシダーゼの水性媒体中の濃度は、通常0.1〜100 U/mLである。緩衝液としては、アスコルビン酸オキシダーゼを安定に保持し得るpHの領域に緩衝能を有する緩衝剤が好ましく、例えばリン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。グッド緩衝液に使用されるグッド緩衝剤としては、例えば2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、3−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、N−〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、2−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕エタンスルホン酸(HEPES)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−ヒドロキシプロパンスルホン酸)(POPSO)、N−〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕グリシン(Tricine)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(CHES)、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)等が挙げられる。
【0024】
本発明において、アスコルビン酸オキシダーゼは、通常、pH5〜9の水性媒体中で保存され、pH6〜8の水性媒体中で保存されることが好ましい。
【0025】
本発明における亜硝酸若しくはその塩は、アスコルビン酸オキシダーゼを安定化させるものであれば特に制限はない。亜硝酸塩における塩としては、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。
【0026】
本発明における亜硝酸エステルは、アスコルビン酸オキシダーゼを安定化させる亜硝酸エステルであれば特に制限はない。亜硝酸エステルとしては、例えば亜硝酸アルキル等が挙げられる。亜硝酸アルキルとしては、例えば亜硝酸メチル、亜硝酸エチル、亜硝酸プロピル、亜硝酸ブチル、亜硝酸ペンチル、亜硝酸イソペンチル等が挙げられる。
【0027】
本発明における亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルの水性媒体中の濃度は、アスコルビン酸オキシダーゼを安定化する濃度であれば特に制限はなく、通常、0.01〜100 mmol/Lであり、0.05〜50 mmol/Lが好ましい。
【0028】
本発明のアスコルビン酸オキシダーゼの保存方法は、アスコルビン酸オキシダーゼに亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルを水性媒体中で共存させて保存する方法である。本発明のアスコルビン酸オキシダーゼの保存方法に使用されるおけるアスコルビン酸オキシダーゼとその濃度、及び、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルとその濃度は、上記アスコルビン酸オキシダーゼ安定化方法と同様のものが挙げられる。本発明のアスコルビン酸オキシダーゼの保存方法における保存期間は、アスコルビン酸オキシダーゼが安定に保存される期間であれば特に制限はなく、通常、1〜2年間である。また、本発明のアスコルビン酸オキシダーゼの保存方法における保存温度は、アスコルビン酸オキシダーゼが安定に保存される温度であれば特に制限はなく、通常、-5〜45℃であり、0〜30℃が好ましく、2〜10℃が特に好ましい。
【0029】
本発明のアスコルビン酸オキシダーゼの保存方法においては、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルの他に、界面活性剤、防腐剤、蛋白質等をアスコルビン酸オキシダーゼに共存させてもよい。界面活性剤としては、例えば非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。防腐剤としては、例えばアジ化物、キレート剤等が挙げられる。アジ化物としては、例えばアジ化ナトリウム等が挙げられる。キレート剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)もしくはその塩等が挙げられる。塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。蛋白質としては、例えばアルブミン等が挙げられ、アルブミンとしては例えばBSA等が挙げられる。
【0030】
本発明のアスコルビン酸オキシダーゼの安定化組成物には、アスコルビン酸オキシダーゼ、及び、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルの他に、過酸化水素測定系に基づく測定対象成分の測定方法に使用される試薬およびキットに通常含まれる構成要素が含まれていてもよい。測定対象成分としては、総コレステロール(TC)、高密度リポ蛋白中のコレステロール(HDL-C)、低密度リポ蛋白中のコレステロール(LDL-C)、超低密度リポ蛋白中のコレステロール(VLDL-C)、レムナント様リポ蛋白中のコレステロール(RLP-C)、遊離型コレステロール(FC)、トリグリセリド、尿酸、リン脂質、糖化タンパク質等が挙げられる。
【0031】
例えばコレステロール(TC, HDL-C, LDL-C, VLDL-C, RLP-C)の測定方法に使用される試薬およびキットには、アスコルビン酸オキシダーゼと、亜硝酸若しくはその塩又は亜硝酸エステルの他に、コレステロールエステラーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、酸化発色型色原体等が含有され、トリグリセリドの測定方法に使用される試薬およびキットには、アスコルビン酸オキシダーゼの他に、リパーゼ、グリセロールキナーゼ、ATP、グリセロール3-リン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、酸化発色型色原体等が含有される。
【0032】
酸化発色型色原体としては、ロイコ型色原体、酸化カップリング型色原体等が挙げられる。
【0033】
ロイコ型色原体は、ペルオキシダーゼの存在下、過酸化水素と反応して、単独で色素を生成する機能を有する。ロイコ型色原体としては、例えばテトラメチルベンジジン、o-フェニレンジアミン、10-N-カルボキシメチルカルバモイル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン(CCAP)、10-N-メチルカルバモイル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン(MCDP)、N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン ナトリウム塩(DA-64)、10-N-カルボキシメチルカルバモイル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン ナトリウム塩(DA-67)、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン、ビス〔3-ビス(4-クロロフェニル)メチル-4-ジメチルアミノフェニル〕アミン(BCMA)等が挙げられる。
【0034】
酸化カップリング発色型色原体は、ペルオキシダーゼの存在下、過酸化水素と反応して色素を生成する機能を有する。この色素を生成する反応においては、一対の酸化カップリング発色型色原体の組み合わせが用いられる。一対の酸化カップリング発色型色原体の組み合わせとしては、カプラーとアニリン類との組み合わせ、カプラーとフェノール類との組み合わせが挙げられる。
【0035】
カプラーとしては、例えば4-アミノアンチピリン(4-AA)、3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラジン等が挙げられる。
アニリン類としては、N-(3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン(MAOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(DAOS)、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOPS)、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(HDAOS)、N,N-ジメチル-3-メチルアニリン、N,N-ジ(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-サクシニルエチレンジアミン(EMSE)、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-アセチルエチレンジアミン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-4-フルオロ-3,5-ジメトキシアニリン(F-DAOS)等が挙げられる。
【0036】
フェノール類としては、フェノール、4-クロロフェノール、3-メチルフェノール、3-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード安息香酸(HTIB)等が挙げられる。
本発明のアスコルビン酸オキシダーゼの安定化組成物には、前述の界面活性剤、防腐剤、蛋白質等が含まれていてもよい。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら限定するものではない。尚、本実施例、比較例及び試験例においては、下記メーカーの試薬及び酵素を使用した。
【0037】
MOPS(同仁化学研究所社製)、BSA(ミリポア社製)、リン酸二水素カリウム(純正化学社製)、酢酸ナトリウム(関東化学社製)、アスコルビン酸(ナカライテスク社製)、亜硝酸ナトリウム(純正化学社製)、亜硝酸カリウム(純正化学社製)、亜硝酸エチル(東京化成社製)、アスコルビン酸オキシダーゼ(旭化成ファーマ社製)、化学修飾アスコルビン酸オキシダーゼ(ロシュダイアグノスティクス社製)。
【実施例1】
【0038】
以下の方法により、亜硝酸塩及び亜硝酸エステルによるアスコルビン酸オキシダーゼの安定化効果を検討した。
(1)検体
以下の組成からなる検体A(検体A0〜A4)、及び、検体B(検体B0〜B4)を調製した。
<検体A(検体A0〜A4)>
MOPS(pH7.0) 20 mmol/L
BSA 4 g/L
化学修飾アスコルビン酸オキシダーゼ 4 kU/L
亜硝酸塩又は亜硝酸エステル(第1表参照、検体A0は無添加)
<検体B(検体B0〜B4)>
MOPS(pH7.0) 20 mmol/L
BSA 4 g/L
アスコルビン酸オキシダーゼ 4 kU/L
亜硝酸塩又は亜硝酸エステル(第1表参照、検体B0は無添加)
【0039】
(2)アスコルビン酸オキシダーゼ活性測定用緩衝液
以下の組成からなるアスコルビン酸オキシダーゼ活性測定用緩衝液を調製した。
【0040】
リン酸二水素カリウム(pH6.0) 67 mmol/L
酢酸ナトリウム 67 mmol/L
BSA 1 g/L
【0041】
(3)アスコルビン酸オキシダーゼ基質液
アスコルビン酸水溶液(3 g/L)をアスコルビン酸オキシダーゼ基質液として用いた。
【0042】
(4)調製直後の検体中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性
反応セルへ上記(2)のアスコルビン酸オキシダーゼ活性測定用試薬(3 mL)を添加し、37℃で5分間加温した。そこへ検体A1(0.04 mL)を添加し、次いで、上記(3)のアスコルビン酸オキシダーゼ基質液(0.1 mL)を添加し、反応を開始させた。反応2分後の反応液の292 nmでの吸光度(E1)、及び、反応3分後の反応液の292 nmでの吸光度(E2)を測定し、上記式(I)によって、検体A1中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性VA1(調製直後)を決定した。
【0043】
(5)30℃10日間保存後の検体中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性
調製直後の検体A1の代わりに、30℃10日間存後の検体A1を用いる以外は上記(4)と同様の方法により、30℃10日間保存後の検体A1中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性VA1(保存後)を決定した。
【0044】
(6)30℃10日間保存後の検体中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性の残存率
上記(4)で決定したVA1(調製直後)と(5)で決定したVA1(保存後)とから、調製直後の検体A1中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性に対する30℃10日間保存後の検体A1中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性の残存率を上記式(II)により決定した。結果を第1表に示す。
【0045】
検体として、検体A1の代わりに、検体A2〜A4、及び、検体B1〜B4の各検体を用いる以外は上記(1)〜(6)と同様の方法により、調製直後の各検体中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性に対する、30℃10日間保存後の各検体中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性の残存率を決定した。結果を第1表に示す。
【0046】
さらに、検体A1の代わりに、検体A0及び検体B0を用い、上記式(II)の代わりに、上記式(III)を用いる以外は上記(1)〜(6)と同様の方法により、調製直後の各検体中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性に対する、30℃10日間保存後の各検体中のアスコルビン酸オキシダーゼ活性の残存率を決定した。結果を第1表に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
第1表から明らかな様に、アスコルビン酸オキシダーゼとして、化学修飾アスコルビン酸オキシダーゼを用いた場合(A0〜A4)でも、非修飾のアスコルビン酸オキシダーゼを用いた場合(B0〜B4)でも、アスコルビン酸オキシダーゼ活性の残存率は、亜硝酸塩又は亜硝酸エステル非共存下に比較して、亜硝酸塩又は亜硝酸エステル共存下で高く、60%以上であることが分かった。それに対して、亜硝酸塩又は亜硝酸エステル非共存下では、残存率は60%未満と低かった。従って、アスコルビン酸オキシダーゼに亜硝酸塩又は亜硝酸エステルを水性媒体中で共存させることにより、アスコルビン酸オキシダーゼが安定化されることが分かった。

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、アスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法、アスコルビン酸オキシダーゼの保存方法、及び、アスコルビン酸オキシダーゼの安定化組成物が提供される。本発明のアスコルビン酸オキシダーゼの安定化方法、アスコルビン酸オキシダーゼの保存方法、及び、アスコルビン酸オキシダーゼの安定化組成物は臨床診断等に有用である。