特許第6132858号(P6132858)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132858
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】テルミサルタン含有フィルムコート錠
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4184 20060101AFI20170515BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20170515BHJP
   A61K 9/28 20060101ALI20170515BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   A61K31/4184
   A61P9/12
   A61K9/28
   A61K47/02
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-3110(P2015-3110)
(22)【出願日】2015年1月9日
(65)【公開番号】特開2016-128390(P2016-128390A)
(43)【公開日】2016年7月14日
【審査請求日】2017年1月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207252
【氏名又は名称】ダイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083301
【弁理士】
【氏名又は名称】草間 攻
(72)【発明者】
【氏名】武知 一人
(72)【発明者】
【氏名】長田 結佳里
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 勝
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 義徳
【審査官】 茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102488690(CN,A)
【文献】 国際公開第2005/097070(WO,A1)
【文献】 特開2002−104960(JP,A)
【文献】 特開2001−081033(JP,A)
【文献】 国際公開第03/011296(WO,A1)
【文献】 特開2016−013980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61P 9/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてテルミサルタンを含有する素錠を、フィルムコート層で被覆したフィルムコート錠において、
酸化チタンを含有しないフィルムコート層を内層として形成させ、
外層として酸化チタンを含有するフィルムコート層を形成させ、且つ、
内層と外層の各フィルムコート層の重量比が、内層:外層=60:40とした、
ことを特徴とする、テルミサルタン含有2層フィルムコート錠。
【請求項2】
外層のフィルムコート層に、酸化チタンを、全フィルムコート層成分中4〜8重量%含有させたものである請求項1に記載のテルミサルタン含有フィルムコート錠。
【請求項3】
有効成分としてテルミサルタンを含有する素錠を、酸化チタンを含有するフィルムコート層で被覆したフィルムコート錠において、
酸化チタンを含有しないフィルムコート層を内層として形成させ、
外層として酸化チタンを含有するフィルムコート層を形成させ、且つ、
内層と外層の各フィルコート層の重量比を、内層:外層=60:40とした、
ことを特徴とする、テルミサルタン含有フィルムコート錠の黄変を抑制させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルミサルタン含有フィルムコート錠に関り、詳細には、テルミサルタン含有の白色フィルムコート錠において、錠剤の黄変を抑制したテルミサルタン含有フィルムコート錠に関する。
【背景技術】
【0002】
4’−[[2−n−プロピル−4−メチル−6−(1−メチルベンズイミダゾール−2−イル)−ベンズイミダゾール−1−イル]−メチル]−ビフェニル−2−カルボン酸、すなわちテルミサルタン(日本医薬品一般名称)は、主に血管平滑筋のアンジオテンシンIIタイプ1(AT)受容体において、生理的昇圧物質であるアンジオテンシンII(A−II)と特異的に拮抗し、その血管収縮作用を抑制することにより降圧作用を発現する化合物であり(特許文献1)、臨床的に高血圧症に使用されている医薬品である。
テルミサルタンは、臨床的には20mg、40mg及び80mg含有の錠剤(ミカルディス(登録商標)錠)が提供されており(非特許文献1)、そのうち20mg錠及び40mg錠は通常の錠剤(素錠)であり、80mg錠はフィルムコート錠となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−179659号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】テルミサルタン錠の医薬品インタビューフォーム(2014年6月(改訂第19版))
【0005】
本発明者らは、テルミサルタン20mg、40mg及び80mg含有の各製剤について、それぞれのフィルムコート錠を開発するべく製剤化検討を行っている過程で、光照射によりフィルムコート層に黄変が認められ、その原因を解明するべく検討を行った結果、有効成分であるテルミサルタンとフィルムコート層に含有される着色剤である酸化チタンとの配合禁忌による黄変であることを解明した。
【0006】
そこで、この黄変を改善するべく処方設計を行い、テルミサルタンを含有する素錠に対してフィルムコート層を2層コーティングし、酸化チタンを含有しないフィルム層を内層として形成させたのち、外層として酸化チタンを含有するフィルムコート層を形成させた場合には、素錠中に含まれる有効成分であるテルミサルタンとフィルムコート層に含まれる酸化チタンとの接触を回避することができ、その結果、素錠の黄変を大幅に改善させることができることを見出した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、テルミサルタン含有のフィルムコート錠において、その黄変を抑制させたテルミサルタン含有フィルムコート錠を提供すること、並びにその黄変を抑制させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するための本発明の一つの態様は;
有効成分としてテルミサルタンを含有する素錠を、フィルムコート層で被覆したフィルムコート錠において、
酸化チタンを含有しないフィルムコート層を内層として形成させ、
外層として酸化チタンを含有するフィルムコート層を形成させ、且つ、
内層と外層の各フィルムコート層の重量比が、内層:外層=60:40とした、
ことを特徴とする、テルミサルタン含有2層フィルムコート錠、
である。
【0009】
より具体的な本発明は、外層のフィルムコート層中に、酸化チタンを、全フィルムコート層を構成する成分中4〜8重量%含有させたものであるテルミサルタン含有フィルムコート錠である。
【0010】
また、本発明の別の態様は;
有効成分としてテルミサルタンを含有する素錠を、酸化チタンを含有するフィルムコート層で被覆したフィルムコート錠において、
酸化チタンを含有しないフィルムコート層を内層として形成させ、
外層として酸化チタンを含有するフィルムコート層を形成させ、且つ、
内層と外層の各フィルムコート層の重量比が、内層:外層=60:40とした、
ことを特徴とする、テルミサルタン含有フィルムコート錠の黄変を抑制させる方法、
である。

【発明の効果】
【0011】
本発明により、テルミサルタンを含有するフィルムコート錠について、フィルムコート層の黄変を抑制させることができ、流通過程や、無包装状態で保管した場合にあっても、長期に亘り製剤の品質の安定性が保たれる利点を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のテルミサルタン含有フィルムコート錠の光苛酷試験による安定性試験の結果を示した図であり、経時的な黄色味の変化(b値)を示した。
図2】本発明のテルミサルタン含有フィルムコート錠の光苛酷試験による安定性試験の結果を示した図であり、イニシャルを基準とした経時的な色の変化(ΔE)を示した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、上記したように、その基本は、有効成分としてテルミサルタンを含有する素錠を、酸化チタンを含有するフィルムコート層で被覆したフィルムコート錠において、
酸化チタンを含有しないフィルムコート層を内層として形成させ、
外層として酸化チタンを含有するフィルムコート層を形成させた、
テルミサルタン含有の2層フィルムコート錠である。
【0014】
素錠中に含有される有効成分であるテルミサルタンの含有量としては、すでに臨床的に使用されている20mg、40mg及び80mgであり、通常の錠剤を調製するのに汎用されている添加剤(賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等)を用い、当該医薬品分野で慣用される製剤技術を用い、素錠が調製される。
【0015】
例えば賦形剤としては、乳糖、結晶セルロース、トウモロコシ澱粉、バレイショ澱粉、D−マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、イソマルト、マルチトール、白糖、ショ糖、ブドウ糖等を挙げることができる。
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポビドン、エチルセルロース、アルファー化デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体等を挙げることができる。
また、崩壊剤としては、例えばトウモロコシ澱粉、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、カンテン末等が挙げられる。
さらに、滑択剤としては、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、硬化油等が挙げることができる。
【0016】
また本発明の素錠を構成する配合成分として、塩基性化合物を含有させるのがよく、そのような塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、L−アルギニン、メグルミン、水酸化カリウム等を挙げることができる。
【0017】
本発明においては、そのような添加剤のなかでも、特に軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、メグルミン、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、エリスリトール、D−マンニトール等を用いるのがよい。
【0018】
素錠の重量は、有効成分であるテルミサルタンの含有量により異なるが、下記表1に20mg、40mg及び80mg含有の素錠を調製する場合の配合成分の詳細を示した。
【0019】
【表1】
【0020】
上記で調製された素錠に対するフィルムコート層を構成するフィルムコート処方としては、種々のものを挙げることができるが、本発明にあっては、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、ポリエチレングリコール、酸化チタンからなる処方が好ましい。
ポリエチレングリコールとしては、市販のポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール1000、ポリエチレングリコール1500、ポリエチレングリコール1540、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール6000、ポリエチレングリコール20000及びポリエチレングリコール35000の何れも好適に使用できる。好ましくはポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール6000及びポリエチレングリコール20000であり、最も好ましくはポリエチレングリコール6000である。
これらのポリエチレングリコールはマクロゴール(登録商標)の名称で市販されているものを用いることができる。
【0021】
このフィルムコート処方からなるフィルムコート層を各素錠に被覆するのであるが、本発明にあっては2層フィルムコートを施すことに特徴がある。すなわち、内層のフィルムコート層には着色剤である酸化チタンを含有させず、外層のフィルムコート層に酸化チタンを含有させることを特徴とする。
【0022】
素錠に対するフィルムコート層の被覆量は、上記表に示した有効成分である各テルミサルタンの含有量が異なる各素錠により異なるが、全フィルムコート量として、20mg素錠に対しては2〜3mg、40mg素錠に対しては3〜4mg、80mg素錠に対しては5mgである。
【0023】
その全フィルムコート量のうち、内層を構成するフィルムコート層としては、有効成分であるテルミサルタンと酸化チタンとの接触の回避をより完全なものとするべく、全フィルムコート層成分のうちの6割の量を内層としての被覆に用い、残りの4割の量を外層として被覆するのがよい。
【0024】
外層のフィルムコート層に含有させる酸化チタンの含有量は、全フィルムコート層成分中の3〜20重量%、好ましくは、4〜8重量%含有させるのが好ましい。
3重量%未満であると白色性が劣り、20重量%を超えて含有させると作業性が悪くなると共に、素錠の表面状態に悪影響を与える可能性があり、好ましいものではない。
【0025】
フィルムコート層の被覆は、通常のフィルムコーティング機で行うことができ、具体的には、内層となるフィルムコート層を被覆した後、外層となるフィルムコート層を被覆することにより本発明のテルミサルタン含有フィルムコート錠を得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例として、テルミサルタン80mg含有の素錠を対象としたフィルムコート層の被覆検討の実際を記載することにより、本発明を更に詳細に説明する。
ただし、本発明は以下の実験例に限定されるものではなく、その技術的範囲を逸脱しない限り種々の変形が可能であり、かかる範囲も本発明の技術的範囲に包含されることはいうまでもない。
【0027】
実施例1:
<フィルムコート処方2層コート:酸化チタン4重量%含有>
上記表1に記載のテルミサルタン80mg含有素錠(340mg素錠)を用い、以下の成分にからなるフィルムコート層(2層)を被覆し、テルミサルタン含有フィルムコート錠を調製した。
【0028】
【表2】
【0029】
*1:小計に対する含有率(重量%)を示す。
【0030】
実施例2:
<フィルムコート処方2層コート:酸化チタン8重量%含有>
上記表1に記載のテルミサルタン80mg含有素錠(340mg素錠)を用い、以下の成分にからなるフィルムコート層(2層)を被覆し、テルミサルタン含有フィルムコート錠を調製した。
【0031】
【表3】
【0032】
*1:小計に対する含有率(重量%)を示す。
【0033】
比較例:
<フィルムコート処方1層コート:酸化チタン20重量%含有>
上記表1に記載のテルミサルタン80mg含有素錠(340mg素錠)を用い、以下の成分にからなるフィルムコート層(1層)を被覆し、テルミサルタン含有フィルムコート錠を調製した。
【0034】
【表4】
【0035】
*1:小計に対する含有率(重量%)を示す。
【0036】
試験例:光照射安定性試験(光苛酷試験)
【0037】
<方法>
上記の実施例1及び2で得られた本発明のテルミサルタン80mg含有2層フィルムコート錠、並びに比較例で得られたテルミサルタン80mg含有1層フィルムコート錠を用いて、光安定性試験を行った。
各フィルムコート錠をシャーレに置き、光安定性試験器(型式:LST300D型)内で、以下の条件のもとで光照射を行った。
条件:光量 D65、2500Lux/hr
温湿度 25℃/60%RH
期間:5日(30万Lux)、10日(60万Lux)
注:カッコ内は、総照射光量を示した。
【0038】
<評価項目>
(1)外観目視、色差
(2)外観色調の判定基準
− :変化なし
± :イニシャルに比べて僅かに変化
+ :変化が認められる
++:著しい変化が認められる
【0039】
<結果>
外観目視の結果を下記表5に、色差測定結果を図1及び図2に示した。
なお、参考として臨床的に使用されているテルミサルタン80mg錠(ミカルディス錠80mg:フィルムコート錠)及びフィルムコーティングしない素錠についても、同様の光照射試験を同時に行い、それらの結果も併せて示した。
【0040】
【表5】
【0041】
以上の表5に示した結果、並びに図の結果から判明するように、2層フィルムコート品の酸化チタン量4重量%、8重量%における光照による外観安定性試験(目視、色差)を評価した結果、フィルムコート層として、2層フィルムコートとし、内層に酸化チタンを含有せず、外層に酸化チタンを含有させることにより、光照射苛酷試験においては、1層フィルムコートと比較して、顕著な改善が認められた。
特に酸化チタンの含有量を4重量%とした場合は、光照射60万Luxでは殆ど変色は認められなかった。
以上の結果より、テルミサルタン含有フィルムコート錠におけるコート層の黄変防止策として、フィルムコート層を2層とし、酸化チタンの含有量の減量、及び酸化チタンを2層フィルムコートの外層に添加することにより、有効成分であるテルミサルタンとの接触を回避することにより、錠剤の黄変を改善させることができた。
【0042】
なお、上記は、テルミサルタン80mg含有フィルムコート錠についての説明であるが、テルミサルタン20mg及び40mg含有のフィルムコート錠についても、フィルムコート層を2層とし、内層のフィルムコート層に遮光剤である酸化チタンを含有させず、外層のフィルムコート層に酸化チタンを含有させることで、フィルムコート層の黄変を抑制できるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、テルミサルタン含有フィルムコート錠について、従来継時的に観察されていた錠剤の黄変を、効果的に抑制することができ、長期に亘り色調が変化しない製品を医療に提供することができる。
図1
図2