特許第6132934号(P6132934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132934
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20170515BHJP
   H02P 21/18 20160101ALI20170515BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20170515BHJP
【FI】
   H02P21/22
   H02P21/18
   H02M7/48 E
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-552263(P2015-552263)
(86)(22)【出願日】2013年12月13日
(86)【国際出願番号】JP2013083416
(87)【国際公開番号】WO2015087437
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2016年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】井堀 敏
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正
(72)【発明者】
【氏名】内野 禎敬
(72)【発明者】
【氏名】広田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】杉野 英則
(72)【発明者】
【氏名】荒尾 祐介
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−151215(JP,A)
【文献】 国際公開第2000/014863(WO,A1)
【文献】 特開2006−320134(JP,A)
【文献】 特開平08−331890(JP,A)
【文献】 特開2008−043126(JP,A)
【文献】 特開2004−248392(JP,A)
【文献】 特開2013−005573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
H02M 7/48
H02P 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電動機を可変電圧可変周波数の交流電力により駆動する電力変換装置であって、
交流電圧を整流して直流電圧に変換する順変換器と、
前記順変換器にて変換された直流電圧を平滑する平滑コンデンサを有する直流中間回路と、
半導体スイッチング素子で構成された逆変換器と、
前記半導体スイッチング素子を駆動するドライバ回路と、
前記逆変換器の出力電流を検出する電流検出回路と、
前記電力変換装置の出力電圧と前記電流検出回路の検出電流との位相差、力率角、あるいは力率値を求め、前記位相差、力率角、あるいは力率値に基づいて、前記交流電動機の加速時間あるいは減速時間を制御する制御回路と、を備え
前記交流電動機の減速モードあるいは加速モードにおける減速時間あるいは加速時間の速度変化率を制御する際に、前記検出電流が予め定められた値以上あるいは超過した場合に、減速状態を加速状態に、あるいは加速状態を減速状態に変更するように制御し、前記検出された電流が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度減速あるいは加速を開始することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
交流電動機を可変電圧可変周波数の交流電力により駆動する電力変換装置であって、
交流電圧を整流して直流電圧に変換する順変換器と、
前記順変換器にて変換された直流電圧を平滑する平滑コンデンサを有する直流中間回路と、
半導体スイッチング素子で構成された逆変換器と、
前記半導体スイッチング素子を駆動するドライバ回路と、
前記逆変換器の出力電流を検出する電流検出回路と、
前記電力変換装置の出力電圧と前記電流検出回路の検出電流との位相差、力率角、あるいは力率値を求め、前記位相差、力率角、あるいは力率値に基づいて、前記交流電動機の加速時間あるいは減速時間を制御する制御回路と、
前記直流中間回路の電圧を検出する電圧検出回路と、を備え、
前記交流電動機の減速モードあるいは加速モードにおける減速時間あるいは加速時間の速度変化率を制御する際に、前記電圧検出回路にて検出された電圧が予め定められた値以上あるいは超過した場合に、前記減速状態を加速状態に、あるいは加速状態を減速状態に変更するように制御し、前記検出された電圧が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度減速あるいは加速を開始することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
交流電動機を可変電圧可変周波数の交流電力により駆動する電力変換装置であって、
交流電圧を整流して直流電圧に変換する順変換器と、
前記順変換器にて変換された直流電圧を平滑する平滑コンデンサを有する直流中間回路と、
半導体スイッチング素子で構成された逆変換器と、
前記半導体スイッチング素子を駆動するドライバ回路と、
前記逆変換器の出力電流を検出する電流検出回路と、
前記電力変換装置の出力電圧と前記電流検出回路の検出電流との位相差、力率角、あるいは力率値を求め、前記位相差、力率角、あるいは力率値に基づいて、前記交流電動機の加速時間あるいは減速時間を制御する制御回路と、
前記直流中間回路の電圧を検出する電圧検出回路と、を備え、
前記交流電動機の減速モードあるいは加速モードにおける減速時間あるいは加速時間の速度変化率を制御する際に、前記検出電流と前記電圧検出回路にて検出された電圧のどちらかが予め定められた値以上あるいは超過した場合に、減速状態を加速状態に、あるいは加速状態を減速状態に変更するように制御し、前記検出電流と前記検出された電圧が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度減速あるいは加速を開始することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の電力変換装置であって、
前記力率値あるいは力率角は、前記検出電流を座標軸変換により求めたトルク電流成分値と励磁電流成分値と前記検出電流値のうち二つ以上の電流値か、あるいは、トルク電流成分指令値と励磁電流成分指令値と前記検出電流値のうち二つ以上の電流値により求めることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載の電力変換装置であって、
前記力率値あるいは力率角は、前記検出電流の特定位相近傍をサンプリングすることにより求めた有効電流成分値と無効電流成分値と前記検出電流値のうち二つ以上の電流値により求めることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1乃至3の何れかに記載の電力変換装置であって、
前記交流電動機の減速モードあるいは加速モードにおける減速時間あるいは加速時間の速度変化率を制御する際に、前記減速モードあるいは前記加速モードは二以上の速度変化率を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1乃至3の何れかに記載の電力変換装置であって、
前記交流電動機の減速モードあるいは加速モードにおける減速時間あるいは加速時間の速度変化率を制御する際に、前記速度変化率は一定であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項1乃至3の何れかに記載の電力変換装置であって、
前記交流電動機の減速モードあるいは加速モードにおける減速時間あるいは加速時間の速度変化率を制御する際に、前記速度変化率が可変であるS字曲線あるいはU字曲線で近似されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項1乃至3の何れかに記載の電力変換装置であって、
前記電流検出回路において検出される電流は、前記電力変換装置の直流母線側の電流であることを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置であるインバータは、産業界をはじめ家電製品にも誘導電動機の速度制御装置として多く採用されている。誘導電動機を減速停止する場合、誘導電動機の減速時における回転エネルギーが電気エネルギーに変換され、電力変換装置の直流中間回路にある平滑コンデンサに静電エネルギーとして蓄積されるが、その処理できる蓄積量は小さいため平滑コンデンサの両端電圧が上昇し、電力変換装置の直流中間回路に設けられた電圧検出回路が動作し、前もって設定された過電圧レベルを超えると電力変換装置が停止する。
【0003】
このため、電力変換装置には、前記直流中間回路に半導体スイッチと制動用の抵抗器からなる回生制動回路が搭載されており、前記交流機の減速時の回転エネルギーを制動抵抗器で熱エネルギーとして消費する構成にし、平滑コンデンサの両端電圧の上昇を抑制して電圧検出保護回路が動作しないようにしている。
【0004】
特許文献1の段落[0007]には、「前記平滑用コンデンサの両端に接続される制動抵抗とスイッチの直列回路と、前記平滑用コンデンサの両端の電圧が所定の値を超えたときに前記スイッチを閉路させる電圧検出回路と、外部からの開始指令に基づいて、所定期間(T)内の前記スイッチが閉路している時間を集計し、この集計時間(Σt)を出力する集計回路と、前記期間(T)と集計時間(Σt)とから前記制動抵抗の使用率(X%:X=(Σt/T)*100)を演算する使用率演算回路と、前記使用率(X%)を前記期間(T)が終了時に外部へ表示する表示回路とを備える。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3648932号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、回生エネルギー処理回路(制動抵抗、スイッチ、制御回路で構成)を使用する際の制動抵抗の使用率について記載されており、回生エネルギー処理回路が不要となる最短の減速時間をどのように決定するかについての開示は一切ない。すなわち、減速時に出力周波数を下げたときの動作はいわゆる脱調状態なしで運転して減速するものであって、その減速時間は負荷を含めた慣性モーメントや電動機の特性などに依存している。そのため、最適な減速時間を見つけ出すためには、操作者は負荷を含めた慣性モーメントや電動機の特性を考慮しながら、十数回の加速と減速操作を行うことになる。このような方法は、操作者の負担が大きく、システム立ち上げのために多くの時間を要するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、交流電動機を可変電圧可変周波数の交流電力により駆動する電力変換装置であって、交流電圧を整流して直流電圧に変換する順変換器と、前記順変換器にて変換された直流電圧を平滑する平滑コンデンサを有する直流中間回路と、半導体スイッチング素子で構成された逆変換器と、前記半導体スイッチング素子を駆動するドライバ回路と、前記逆変換器の出力電流を検出する電流検出回路と、前記電力変換装置の出力電圧と前記電流検出回路の検出電流との位相差、力率角、あるいは力率値を求め、前記位相差、力率角、あるいは力率値に基づいて、前記交流電動機の加速時間あるいは減速時間を制御する制御回路と、を備える構成とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、最適な減速時間あるいは加速時間を求めるための操作者の負担を軽減することができ、システム立ち上げの時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例に係る電力変換装置の概略構成図である。
図2】交流電動機の入力電圧と入力電流の位相関係を示す図である。
図3】本願に係る電力変換装置の制御ブロック図(第一の形態)である。
図4】本願に係る電力変換装置の制御ブロック図(第二の形態)である。
図5】本願に係る電力変換装置の制御ブロック図(第三の形態)である。
図6】本願に係る誘導電動機の有効電流、無効電流を検出するタイミング図である。
図7】本願に係る電力変換装置の制御ブロック図(第四の形態)である。
図8】本願における電力変換装置の他の主回路構成図である。
図9(a)】本願における電力変換装置の出力周波数と加速・減速時間の動作タイミング図(a)である。
図9(b)】本願における電力変換装置の出力周波数と加速・減速時間の動作タイミング図(b)である。
図9(c)】本願における電力変換装置の出力周波数と加速・減速時間の動作タイミング図(c)である。
図9(d)】本願における電力変換装置の出力周波数と加速・減速時間の動作タイミング図(d)である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0010】
以下では図面を用いて実施例1について説明する。なお、各図における共通の構成については同一の参照番号を付してある。また、本実施例は図示例に限定されるものではない。
実施例1における電力変換装置の形態を以下に図を用いて説明する。図1は、実施例1に係る電力変換装置の構成図である。図1の電力変換装置13は、交流電動機4に電力を供給するための順変換器1、平滑用コンデンサ2、逆変換器3、制御回路5、冷却ファン6、デジタル操作パネル7、ドライバ回路8、回生制動回路9、を備えて構成される。図1では、任意の入力電源として交流電源を用いた場合を示す。
【0011】
順変換器1は、交流電力を直流電力に変換する。平滑用コンデンサ2は、直流中間回路に備えられている。逆変換器3は、直流電力を任意の周波数の交流電力に変換する。逆変換器3内には、代表的な半導体素子としてのIGBTが搭載されている。ここで、半導体素子としてはIGBTに限定されるものではなく、スイッチング素子としての形態を有するものであれば良い。
冷却ファン6は、順変換器1及び逆変換器3内のパワーモジュールを冷却する。デジタル操作パネル7は、電力変換装置の各種制御データを設定、変更、異常状態及びモニタ表示を行う。例えば、交流電動機4を駆動する際の加速時間や停止させる場合の減速時間などを設定することができる。制御データの一つである加速・減速時間は図示しない記憶部に格納され、このデータに基づいて、図示しないマイコンが交流電動機4の加速・減速を制御する。さらに、最適の時間で加速運転動作や減速運転動作を行いたい場合には、デジタル操作パネル上に予め設けられた機能コードで「加速時間制御モード」あるいは「減速時間制御モード」を選択することができる。
デジタル操作パネル7には異常表示が可能な表示部が設けられており、電力変換装置における異常が検出されると当該表示部に表示される。本実施例のデジタル操作パネル7としては、特に種類が限られるものではないが、デジタル操作パネルとして装置使用者の操作性を考慮して表示部の表示を見ながら操作が行えるように構成している。
なお、表示部は必ずしも操作パネル7と一体に構成する必要はないが、操作パネル7の操作者が、表示を見ながら操作できるように一体構成とすることが望ましい。デジタル操作パネル7から入力された電力変換装置の各種制御データは図示しない記憶部に格納される。
【0012】
制御回路5は、デジタル操作パネル7によって入力される各種の制御データに基づいて逆変換器3のスイッチング素子を制御すると共に、電力変換装置13全体の制御を司る働きをするもので、マイコン(制御演算装置)が搭載されており、デジタル操作パネル7から入力される各種の制御データに応じて必要な制御処理が行えるように構成されている。 内部構成は省略するが、各種の制御データが格納された記憶部の記憶データからの情報に基づいて演算を行うマイコン(制御演算装置)が搭載されている。
電流検出器CTは、交流機のU相、W相の線電流を検出する。V相の線電流は、交流条件(iu+iv+iw=0)から、iv=−(iu+iw)として求められる。図1ではCTを2個用いた例を示したが、CTを3個使用し、各U相、V相、W相の線電流を検出してもよい。
【0013】
電流検出回路10は、電流検出器CTの出力を加工するもので、位相検出回路11は、電力変換装置の出力電圧と電流検出回路の検出電流との位相差を検出する。位相比較回路12は、検出した位相差と予め定められた位相値(例えば、180°)との比較を行う。
加速・減速時間修正回路13は、位相差に基づいて、電力変換装置の加速時間あるいは減速時間を最適に制御する。ドライバ回路8は、制御回路5からの指令に基づいて逆変換器3のスイッチング素子を駆動する。ドライバ回路8内にはスイッチングレギュレータ回路(DC/DCコンバータ)が搭載されており、電力変換装置の運転に必要な各直流電圧を生成し、これらを各構成に対して供給する。
【0014】
回生制動回路9は、交流電動機の減速時回転エネルギーを熱エネルギーとして回生制動抵抗器BRで消費させる役割を果たすものである。直流中間回路の直流電圧VPNを検出し、検出値が予め設定された電圧レベル以上になれば、回生制動回路9内のスイッチング素子をオンさせる。
回生制動回路9内には、代表的なスイッチング素子としてIGBTが搭載されているが、当然、この素子はIGBTに限定されるものではなく、スイッチング素子としての形態を有するものであれば良い。
回生制動回路9内に搭載されているIGBTの定格電流は有限であるため、IGBTを破壊させないために、回生制動回路に接続可能な制動抵抗器BRの許容最小抵抗値Rminも電力変換装置の容量毎に予め製品仕様として定められている。
電力変換装置の各種制御データは、デジタル操作パネル7から設定及び変更が可能である。また、入力電源として、交流電源ではなく、直流電源を供給する場合には、直流端子P(+)側に直流電源の(+)側を接続し、直流端子N(−)側に直流電源の−側を接続すればよい。さらには、交流端子RとSとTを接続し、この接続点に直流電源の(+)側を接続し、直流端子N(−)側に直流電源の(−)側を接続してもよいし、逆に、直流端子P(+)側に直流電源の(+)側を接続し、交流端子RとSとTを接続し、この接続点に直流電源の(−)側を接続してもよい。
図2は、交流電動機の入力電圧と入力電流の位相関係を示す図である。(a)は、交流電動機の無負荷モード時における交流電動機の入力電圧と入力電流の位相関係である。当然、入力相電圧と入力線電流の位相は約90°(π/2)となる(入力電力P=√3*Vo*Io*cosΦ=0)。
【0015】
(b)は、交流電動機の電動機モード時における交流電動機の入力電圧と入力電流の位相関係である。当然、入力相電圧と入力線電流の位相は0〜90°(0〜π/2)となる(入力電力P=√3*Vo*Io*cosΦ>0)。
【0016】
(c)は、交流電動機の発電機モード時における交流電動機の入力電圧と入力電流の位相関係である。当然、入力相電圧と入力線電流の位相は90〜180°(π/2〜π)となる(入力電力P=√3*Vo*Io*cosΦ<0)。
電力変換装置で交流電動機を駆動する搬送機などの場合、交流電動機を加速時間で加速する場合は、(b)の電動機モードで動作し、交流電動機を減速時間で減速する場合は、(c)の発電機モードで動作する。すなわち、入力相電圧と入力線電流の位相を検出すれば、交流電動機の動作が電動機モードか発電機モードかを判別することができる。
【0017】
また、発電機モードの場合の最大発電電力は、入力相電圧と入力線電流の位相差(力率角)が180°(π)時である。すなわち、入力相電圧と入力線電流の力率値が−1の時最大となる。しかし、電動機は誘導性負荷のため、電動(力行)時に位相差が完全に0°(cosΦ=1)になることはなく、回生時においても位相差が完全に180°(cosΦ=−1)になることはない。
図3は、本実施例に係る電力変換装置の制御ブロック図(第一の形態)である。電力変換装置に入力された出力周波数指令f1と出力周波数指令に対する出力電圧Vを電圧演算回路で三相出力相電圧Vu、Vv、Vwを求め、PWM演算結果に従い誘導電動機を速度制御する。
【0018】
PWM演算回路により各相の交流出力相電圧が下式で表される。
・Vu=Vu*sin(ω1*t)
・Vv=Vv*sin(ω1*t−2π/3)
・Vw=Vw*sin(ω1*t−4π/3)
ここで、角周波数ω1=2π*f1である。
【0019】
すなわち、各相の出力相電圧は、搬送波としての三角波と変調波として正弦波を図示しないマイコンがPWM演算し決定しているため、マイコンは各相の電圧位相を認識している。すなわち、マイコンが各相電圧の位相を決定しているわけである。
このため、例えば、u相の相電圧Vuを基準(ゼロ位相点)にすれば、電流検出回路で検出したu相の線電流iuのゼロ近傍点までの位相をタイマーでカウントアップすることによりその位相差を演算することにより検出することができる。
上記に従い、位相検出回路11は、電流検出回路10の検出信号に対し、PWM演算回路のu相の相電圧Vuを基準に線電流iuとの位相差Φを検出する。
もちろん、相電圧Vvと相電圧Vwを基準にして、線電流ivとiwの位相差Φを検出しても本実施例の意図は変わらない。
【0020】
位相検出回路で検出した位相差Φに基づいて、加速・減速時間修正回路13で電力変換装置が駆動する誘導電動機の最適な加速時間あるいは減速時間を自動修正する。
図9は、本実施例における電力変換装置の出力周波数と加速・減速時間の動作タイミング図を示す。
【0021】
システムによっては電動機を繰り返し運転する際に、常に同じ減速時間tdと同じ加速時間taで加速・減速・停止を繰り返し、停止位置を同じ場所にしなければならない用途(例えば、コンベア)がある。このようなシステムの場合には、予めデジタル操作パネル7で設定した減速時間および加速時間で常に動作することが望ましい。
【0022】
一方、システムのタクトタイムを可能な限り最適にする用途(例えば、自動倉庫)の場合には、最短の時間で加速・減速運転できることが望ましい。
このようにシステムに依存して、減速時間および加速時間が予め設定した時間で常に動作するか、位相差Φあるいは力率値cosΦを検出してその検出値に従い減速時間および加速時間の速度変化率を制御するかをデジタル操作パネル7から、図示しないデジタル操作パネル上の機能コードでユーザが任意に選択できる構成にする。
【0023】
例えば、最適の時間で加速運転動作したい場合には、デジタル操作パネル上に予め設けられた機能コードで「加速時間制御モード」を選択し、最適の時間で減速運転動作したい場合には、「減速時間制御モード」を選択する。
【0024】
(a)は、減速モードにおける減速時間の速度変化率を制御する際に、電圧検出回路の検出電圧が予め定められた値以上あるいは超過した場合に、減速時間の速度変化率をゼロ(減速停止)に制御し、検出電圧が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度減速を開始する動作タイミング図である。
【0025】
交流電動機を速度制御し、時刻t1で減速(減速時間td1)を開始する際、u相の相電圧Vuを基準に線電流iuとの位相差Φを検出し、この位相差Φが、回生側電力が最大となる位相差180°(π)に近づくように減速時間の速度変化率を大きく制御する。
【0026】
電動機は誘導性負荷のため、回生時において位相差を完全に180°(π)に制御することはできないため、検出した位相差Φが180°(π)に近づくように減速時間の速度変化率を自動調整する。
【0027】
検出した位相差Φが180°と比較し、その差が大きい場合には減速時間の速度変化率を大きく(短い減速時間)制御し、その差が小さい場合には減速時間の速度変化率を小さく(長い減速時間)制御する。
【0028】
検出した位相差Φと減速時間tdとの相関関係を予めメモリに格納しておけばよい。例えば、
・90°<Φ≦110°→td21
・110°<Φ≦130°→td22
・130°<Φ≦150°→td23
・150°<Φ≦170°→td24
・170°<Φ<180°→td25
ここで、各減速時間の数値としては、td21<td22<td23<td24<td25の関係があり、各減速時間の速度変化率(傾き)には、Δtd21>Δtd22>Δtd23>Δtd24>Δtd25の関係がある。
【0029】
例えば、検出した位相差Φが90°<Φ≦110°の範囲の場合には、目標の180°に対しその差が大きいため、減速時間の速度変化率を大きく(短い減速時間:td21)制御する。そして、次に検出した位相差Φが110°<Φ≦130°の範囲の場合には、目標の180°に対しその差が少し小さくなったので、減速時間の速度変化率を少し緩和して(減速時間:td22)制御する。この場合の減速時間には、td21<td22の関係がある。このように順次検出した位相差Φに応じて減速時間の速度変化率を連続的に制御する。
【0030】
本実施例では、位相差は20°毎に減速時間を変えているが、位相差を20°に限定したものではなく、10°毎でも30°毎でも発明の意図は変わらない。
【0031】
時刻t2で電圧検出回路の検出電圧が予め定められた値VPNlimu以上あるいは超過したため、減速時間の速度変化率をゼロ(減速停止)にし、検出電圧が予め定められた値VPNlimd以下あるいは未満になった時刻t3で再度減速(減速時間td3)を開始する。VPNlimuとVPNlimdの差をヒステリシス幅という。
【0032】
ここで、時刻t1〜t2の期間において、検出した位相差Φに基づいて減速時間の速度変化率を2段階(減速時間td21とtd22)に制御しているが、検出した位相差Φに基づいて減速時間の速度変化率を5段階(例えば、減速時間td21、td22、td23、td24、td25)に制御しても、本実施例の意図は変わらない。
【0033】
また、時刻t2で減速時間の速度変化率をゼロ(減速停止)にすれば、交流電動機の回転周波数frと電力変換装置の出力周波数f1との差が減少するため、回生電力も減少し、平滑コンデンサ2における充電電圧の電圧上昇や電流上昇を抑制できる。
【0034】
時刻t4で、検出電圧が予め定められた値VPNlimu以上あるいは超過したため、減速時間の速度変化率をゼロ(減速停止)にし、検出電圧が予め定められた値VPNlimd以下あるいは未満になった時刻t5で再度減速を開始し、時刻t6で交流電動機が停止する。もちろん、u相の相電圧Vuを基準に線電流iuとの位相差Φを常に検出し、回生電力が最大となる位相差180°(π)に近づくように減速時間の速度変化率を制御する。
【0035】
ここで、減速モードにおける減速時間の速度変化率を制御する際に、電流検出回路の検出電流が予め定められた値以上あるいは超過した場合に、減速時間の速度変化率をゼロ(減速停止)に制御し、検出電流が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度減速を開始するようにしてもよい。さらには、減速モードにおける減速時間の速度変化率を制御する際に、電流検出回路の検出電流と電圧検出回路の検出電圧のどちらかが予め定められた値以上あるいは超過した場合に、減速時間の速度変化率をゼロ(減速停止)に制御し、電流検出回路の検出電流と電圧検出回路の検出電圧の両方が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度減速を開始するようにしてもよい。
【0036】
(b)は、減速モードにおける減速時間の速度変化率を制御する際に、電流検出回路の検出電流が予め定められた値以上あるいは超過した場合に、減速状態を加速状態に変更制御し、検出電流が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度減速を開始する動作タイミング図である。
【0037】
交流電動機を速度制御し、時刻t1で減速(減速時間td4)を開始する際、u相の相電圧Vuを基準に線電流iuとの位相差Φを検出し、この位相差Φが、回生側電力が最大となる位相差180°(π)に近づくように減速時間の速度変化率を大きく(短い減速時間)制御する。
【0038】
電動機は誘導性負荷のため、回生時において位相差を完全に180°(π)に制御することはできないため、検出した位相差Φが180°(π)に近づくように減速時間の速度変化率を自動調整する。
時刻t2で電流検出回路の検出電流が予め定められた値Ilimu以上あるいは超過したため、減速状態を加速状態に変更制御し、検出電流が予め定められた値Ilimd以下あるいは未満になった時刻t3で再度減速を開始する。IlimuとIlimdの差をヒステリシス幅という。
【0039】
ここで、時刻t2で減速状態を加速状態(加速時間ta2)に変更制御すれば、上記(a)における減速時間の速度変化率をゼロ(減速停止)に制御するより、交流電動機の回転周波数frと電力変換装置の出力周波数f1との差がさらに減少するため、回生電力も大幅に減少し、直流中間回路の平滑コンデンサ2の充電電圧の電圧上昇や電流上昇を抑制できる。
【0040】
このため、本実施例(b)における減速モード期間の減速所要時間(t1〜t6)は、実施例(a)における減速モード期間の減速所要時間(t1〜t6)より短くすることが可能である。
【0041】
ここで、時刻t3〜t4の期間において、検出した位相差Φに基づいて減速時間の速度変化率を2段階(減速時間td21とtd22)に制御している。もちろん、実施例(a)と同様に検出した位相差Φに基づいて減速時間の速度変化率を5段階(例えば、減速時間td21、td22、td23、td24、td25)に制御しても、本実施例の意図は変わらない。
【0042】
時刻t4で、検出電流が予め定められた値Ilimu以上あるいは超過したため、減速状態を加速状態(加速時間ta3)に変更制御し、検出電流が予め定められた値Ilimd以下あるいは未満になった時刻t5で再度減速(減速時間td7)を開始し、時刻t6で交流電動機が停止する。もちろん、u相の相電圧Vuを基準に線電流iuとの位相差Φを常に検出し、回生電力が最大となる位相差180°(π)に近づくように減速時間の速度変化率を制御する。
【0043】
ここで、減速モードにおける減速時間の速度変化率を制御する際に、直流中間回路の電圧検出回路の検出電圧が予め定められた値以上あるいは超過した場合に、減速状態を加速状態に変更制御し、検出電圧が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度減速を開始するようにしてもよい。さらには、減速モードにおける減速時間の速度変化率を制御する際に、電流検出回路の検出電流と電圧検出回路の検出電圧のどちらかが予め定められた値以上あるいは超過した場合に、減速状態を加速状態に変更制御し、電流検出回路の検出電流と電圧検出回路の検出電圧の両方が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度減速を開始するようにしてもよい。
【0044】
(c)は、加速モードにおける加速時間の速度変化率を制御する際に、電流検出回路の検出電流が予め定められた値以上あるいは超過した場合に、加速時間の速度変化率をゼロ(加速停止)に制御し、検出電流が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度加速を開始する動作タイミング図である。
【0045】
交流電動機を速度制御し、時刻0で加速(加速時間ta4)を開始する際、u相の相電圧Vuを基準に線電流iuとの位相差Φを検出し、この位相差Φが、電動(力行)側電力が最大となる位相差が0°に近づくように加速時間の速度変化率を大きく(短い加速時間)制御する。
電動機は誘導性負荷のため、電動(力行)時において位相差を完全に0°に制御することはできないため、検出した位相差Φが0°に近づくように加速時間の速度変化率を自動調整する。
【0046】
検出した位相差が0°と比較し、その差が大きい場合には加速時間の速度変化率を大きく(短い加速時間)制御し、その差が小さい場合には加速時間の速度変化率を小さく(長い加速時間)制御する。
例えば、検出した位相差Φと加速時間taとの下記相関を予めメモリに格納しておけばよい。
・70°<Φ<90°→ta51
・50°<Φ≦70°→ta52
・30°<Φ≦50°→ta53
・10°<Φ≦30°→ta54
・0°<Φ≦10°→ta55
ここで、各加速時間の数値としては、ta51<ta52<ta53<ta54<ta55の関係があり、各加速時間の速度変化率(傾き)には、Δta51>Δta52>Δta53>Δta54>Δta55の関係がある。
例えば、検出した位相差Φが70°<Φ<90°の範囲の場合には、目標の0°に対しその差が大きいため、加速時間の速度変化率を大きく(短い加速時間:ta51)制御する。
そして、次に検出した位相差Φが50°<Φ≦70°の範囲の場合には、目標の0°に対しその差が少し小さくなったので、加速時間の速度変化率を少し緩和して(加速時間:ta52)制御する。この場合の加速時間には、ta51<ta52の関係がある。このように順次検出した位相差Φに応じて加速時間の速度変化率を連続的に制御する。
本実施例では、位相差は20°毎に加速時間を変えているが、位相差を20°に限定したものではなく、10°毎でも30°毎でも発明の意図は変わらない。
【0047】
時刻t1で検出電流が予め定められた値Ilimu以上あるいは超過したため、加速時間の速度変化率をゼロ(加速停止)にし、検出電流が予め定められた値Ilimd以下あるいは未満になった時刻t2で再度加速(加速時間ta51)を開始する。IlimuとIlimdの差をヒステリシス幅という。
【0048】
ここで、時刻t2〜t4の期間において、検出した位相差Φに基づいて加速時間の速度変化率を2段階(加速時間ta51とta52)に制御しているが、検出した位相差Φに基づいて加速時間の速度変化率を5段階(例えば、加速時間ta51、ta52、ta53、ta54、ta55)に制御しても、本実施例の意図は変わらない。
また、時刻t1で加速時間の速度変化率をゼロ(加速停止)にすれば、交流電動機の回転周波数frと電力変換装置の出力周波数f1との差が減少するため、交流電動機を加速するための加速エネルギーが減減少し、しいては交流電動機への供給電力も減少し、直流中間回路の平滑コンデンサ2の電圧変動や電流上昇を抑制できる。
【0049】
時刻t4で、検出電流が予め定められた値Ilimu以上あるいは超過したため、加速時間の速度変化率をゼロ(加速停止)にし、検出電流が予め定められた値Ilimd以下あるいは未満になった時刻t5で再度加速を開始し、時刻t6で交流電動機が加速完了する。
もちろん、u相の相電圧Vuを基準に線電流iuとの位相差Φを常に検出し、電動電力が最大となる位相差0°に近づくように加速時間の速度変化率を制御する。
ここで、加速モードにおける加速時間の速度変化率を制御する際に、電流検出回路の検出電流が予め定められた値以上あるいは超過した場合に、加速時間の速度変化率をゼロ(加速停止)に制御し、検出電流が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度加速を開始するようにしてもよい。さらには、加速モードにおける加速時間の速度変化率を制御する際に、電流検出回路の検出電流と電圧検出回路の検出電圧のどちらかが予め定められた値以上あるいは超過した場合に、加速時間の速度変化率をゼロ(加速停止)に制御し、電流検出回路の検出電流と電圧検出回路の検出電圧の両方が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度加速を開始するようにしてもよい。
【0050】
(d)は、加速モードにおける加速時間の速度変化率を制御する際に、電流検出回路の検出電流が予め定められた値以上あるいは超過した場合に、加速状態を減速状態に変更制御し、検出電流が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度加速を開始する動作タイミング図である。
【0051】
交流電動機を速度制御し、時刻0で加速(加速時間ta8)を開始する際、u相の相電圧Vuを基準に線電流iuとの位相差Φを検出し、この位相差Φが、電動(力行)側電力が最大となる位相差0°に近づくように加速時間の速度変化率を大きく(短い加速時間)制御する。
【0052】
電動機は誘導性負荷のため、電動(力行)時において位相差を完全に0°に制御することはできないため、検出した位相差Φが0°に近づくように加速時間の速度変化率を自動調整する。
【0053】
時刻t1で電流検出回路の検出電流が予め定められた値Ilimu以上あるいは超過したため、加速状態を減速状態に変更制御し、検出電流が予め定められた値Ilimd以下あるいは未満になった時刻t2で再度加速を開始する。IlimuとIlimdの差をヒステリシス幅という。
【0054】
ここで、時刻t1で加速状態を減速状態(減速時間td8)に変更制御すれば、上記(c)における加速時間の速度変化率をゼロ(加速停止)に制御するより、交流電動機の回転周波数frと電力変換装置の出力周波数f1との差がさらに減少するため、交流電動機を加速するための加速エネルギーが減少し、しいては電動(力行)側電力も大幅に減少し、直流中間回路の平滑コンデンサ2の電圧変動や電流上昇を抑制できる。
【0055】
このため、本実施例(d)における加速モード期間の加速所要時間(t1〜t5)は、実施例(c)における加速モード期間の加速所要時間(t1〜t6)より短くすることが可能である。
【0056】
ここで、時刻t2〜t4の期間において、検出した位相差Φに基づいて加速時間の速度変化率を2段階(加速時間ta51とta52)に制御しているが、実施例(c)と同様に、検出した位相差Φに基づいて加速時間の速度変化率を5段階(例えば、加速時間ta51、ta52、ta53、ta54、ta55)に制御しても、本実施例の意図は変わらない。
【0057】
時刻t2以降では、検出電流が予め定められた値Ilimu以上あるいは超過しないため、時刻t4で再度加速(加速時間ta11)を開始し、時刻t5で交流電動機が加速完了する。もちろん、u相の相電圧Vuを基準に線電流iuとの位相差Φを常に検出し、電動(力行)側電力が最大となる位相差0°に近づくように加速時間の速度変化率を制御する。
【0058】
ここで、加速モードにおける加速時間の速度変化率を制御する際に、電圧検出回路の検出電圧が予め定められた値以上あるいは超過した場合に、加速状態を減速状態に変更制御し、検出電圧が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度加速を開始するようにしてもよい。さらには、加速モードにおける加速時間の速度変化率を制御する際に、電流検出回路の検出電流と電圧検出回路の検出電圧のどちらかが予め定められた値以上あるいは超過した場合に、加速状態を減速状態に変更制御し、電流検出回路の検出電流と電圧検出回路の検出電圧の両方が予め定められた値以下あるいは未満になった場合に、再度加速を開始するようにしてもよい。
【0059】
また、本実施例では、加速時間あるいは減速時間の速度変化率は一定(直線)で説明したが、これに限定されるものではなく、速度変化率が可変である曲線(例えば、S字曲線あるいはU字曲線)であっても本実施例の意図は変わらない。
本実施例により、交流電動機の減速時間を調整することなしに過電圧保護レベルあるいは過電流保護レベルに掛からない最適な減速時間を自動設定する電力変換装置を提供できるため、ユーザがシステムの負荷を含めた慣性モーメントや電動機の特性などに応じて最適な減速時間を求めるための操作(例えば、十数回の加速と減速操作)を行う必要がなく、システム立ち上げの時間を短縮できる。
【実施例2】
【0060】
図4は、本実施例2に係る電力変換装置の制御ブロック図(第二の形態)である。
センサレスベクトル制御は、誘導電動機の直流機化制御と称されるものであり、誘導電動機に流れる一次電流を座標変換することにより、トルクに寄与するトルク電流成分と磁束に寄与する励磁電流成分に分解し、直流機と同様の制御性能を引出す制御方式である。
電流検出器CTで誘導電動機の一次側の線電流を検出し、dq軸変換部で検出した電流を直交したdq軸に変換し、励磁電流成分Idとトルク電流成分Iqにベクトル分解(i1=Id+jIq)する。そして、トルク電流成分Iqがトルク電流指令値Iqに、励磁電流成分Idが励磁電流指令値Idに一致するように制御する。
【0061】
この場合、誘導電動機において、トルク電流成分Iqが正(Iq>0)の場合を電動モードとすれば、トルク電流成分Iqが負(Iq<0)の場合は、回生モードであることがわかる。すなわち、トルク電流成分Iqの符号で、誘導電動機が電動状態(電動機)か、回生状態(発電機)か、を判断することができる。
もちろん、直交したdq軸は仮想軸であるため、dq軸の名前(d軸、q軸)を限定するものではなく、αβ軸であっても、各々の軸が直交したものであればよい。すなわち、励磁電流成分Idとトルク電流成分Iqを、励磁電流成分Iαとトルク電流成分Iβとしても本実施例の意図は変わらない。
【0062】
ここで、例えば、一次側の相電圧Vuと一次側のu相電流iuの力率角Φ、あるいは力率値cosΦは、近似的に下記数(1)から数(4)で求められる。
cosΦ=Iq/I1 ------------------------------------- 数(1)
Φ=cos−1{Iq/I1} ------------------------------- 数(2)
あるいは
cosΦ=Iq/(Iq+Id1/2 ------------------- 数(3)
Φ=cos−1{Iq/(Iq+Id1/2}------------ 数(4)
力率値、力率角演算回路で検出した力率値cosΦ、あるいは力率角Φに基づいて、加速・減速時間修正回路13で電力変換装置が駆動する誘導電動機の最適な加速時間あるいは減速時間を自動修正する。実施例2と異なる点は、力率値、力率角演算回路で検出した力率値cosΦ、あるいは力率角Φに基づいて、最適な加速時間あるいは減速時間を自動修正する点である。
【0063】
本実施例における電力変換装置の出力周波数の動作タイミング図は、図9と同様であり、その動作は、実施例2で説明した図9(a)、(b)、(c)、(d)と同様である。
【0064】
ここで、実施例2と同様に、減速する場合、検出した力率値がcos(180°)と比較し、その差が大きい場合には減速時間の速度変化率を大きく(短い減速時間)制御し、その差が小さい場合には減速時間の速度変化率を小さく(長い減速時間)制御する。
例えば、検出した力率値cosΦと減速時間tdとの下記相関を予めメモリに格納しておけばよい。
・cos(90°)<cosΦ≦cos(110°)→td21
・cos(110°)<cosΦ≦cos(130°)→td22
・cos(130°)<cosΦ≦cos(150°)→td23
・cos(150°)<cosΦ≦cos(170°)→td24
・cos(170°)<cosΦ<cos(180°)→td25
ここで、各減速時間の数値としては、td21<td22<td23<td24<td25の関係があり、各減速時間の速度変化率(傾き)には、Δtd21>Δtd22>Δtd23>Δtd24>Δtd25の関係がある。
【0065】
また、加速する場合は、
・cos(70°)<cosΦ<cos(90°)→ta51
・cos(50°)<cosΦ≦cos(70°)→ta52
・cos(30°)<cosΦ≦cos(50°)→ta53
・cos(10°)<cosΦ≦cos(30°)→ta54
・cos(0°)<cosΦ≦cos(10°)→ta55
ここで、各加速時間の数値としては、ta51<ta52<ta53<ta54<ta55の関係があり、各加速時間の速度変化率(傾き)には、Δta51>Δta52>Δta53>Δta54>Δta55の関係がある。
【実施例3】
【0066】
図5は、本実施例3に係る電力変換装置の制御ブロック図(第三の形態)である。図4と異なるのは、検出したトルク電流成分Iqと検出した励磁電流成分Idの代わりにトルク電流指令Iqと励磁電流指令Idを使用した点である。
【0067】
ここで、例えば、一次側の相電圧Vuと一次側のu相電流iuの力率角Φ、あるいは力率値cosΦは、近似的に下記数(5)から数(8)で求められる。
cosΦ=Iq/I1 -------------------------------- 数(5)
Φ=cos−1{Iq/I1} -------------------------- 数(6)
あるいは
cosΦ=Iq/(Iq*2+Id*21/2 ----------- 数(7)
Φ=cos−1{Iq/(Iq*2+Id*21/2}---- 数(8)
実施例3と異なる点は、トルク電流指令Iqと励磁電流指令Idを用いて、力率値、力率角演算回路で検出した力率値cosΦ、あるいは力率角Φに基づいて、最適な加速時間あるいは減速時間を自動修正する点である。
【0068】
やはり、本実施例における電力変換装置の出力周波数の動作タイミング図は、図9と同様であり、その動作は、実施例1で説明した図9(a)、(b)、(c)、(d)と同様である。
【実施例4】
【0069】
図6は、本実施例4に係る誘導電動機の有効電流、無効電流を検出するタイミング図である。
誘導電動機の一次側に流れる一次電流i1は、下記のように表される。
i1=I1(r)+j{I1(i)}
すなわち、一次電流i1は有効電流成分I1(r)と無効電流成分I1(i)のベクトル和で表現される。
【0070】
一次側のu相電流iuにおいて、その有効電流成分Iu(r)は、当然相電圧Vuと同相であり、その無効電流成分Iu(i)は、当然相電圧Vuに対しπ/2(90°)遅れた位相状態になる。この関係は、誘導電動機の負荷の状態によらない。つまり、誘導電動機あるいは誘導発電機が無負荷の状態であろうと有負荷の状態であろうと、この関係は常に成立している。
【0071】
すなわち、相電圧Vuを基準に、π/2(90°)と3π/2(270°)の時点の電流が有効電流成分Iu(r)の±のピーク値であり、0(0°)とπ(180°)の時点の電流が無効電流成分Iu(i)の±のピーク値を示している。
すなわち、相電圧Vuを基準にして、下記位相のサンプリング時点は、各々u相の有効電流成分とu相の無効電流成分を表している。
・π/2と3π/2時点:Iu(i)=0→u相の有効電流成分Iu(r)
・0とπの時点:Iu(r)=0→u相の無効電流成分Iu(i)
各々の位相差が120°である三相交流の場合、v相電流ivは、u相電流iuに対し2π/3(120°)位相が遅れた状態であり、w相電流iwは、u相電流iuに対し4π/3(240°)位相が遅れた状態にある。このため、相電圧Vuを基準に考えれば、下記位相のサンプリング時点は、各々v相の有効電流成分とv相の無効電流成分を表している。
・π/6と7π/6時点:Iv(i)=0→v相の有効電流成分Iv(r)
・2π/3と5π/3の時点:Iv(r)=0→v相の無効電流成分Iv(i)
さらに、相電圧Vuを基準に考えれば、下記位相のサンプリング時点は、各々w相の有効電流成分とw相の無効電流成分を表している。
・5π/6と11π/6時点:Iw(i)=0→w相の有効電流成分Iw(r)
・π/3と4π/3の時点:Iw(r)=0→w相の無効電流成分Iw(i)
すなわち、相電圧Vuを基準に、0(0°)とπ(180°)の時点θuiにおける一次側のu相電流をサンプリング検出すれば、u相の無効電流成分Iu(i)を検出でき、2π/3(120°)と5π/3(300°)の時点θviにおける一次側のv相電流をサンプリング検出すればv相の無効電流成分Iv(i)を検出でき、π/3(60°)と4π/3(240°)の時点θwiにおける一次側のw相電流をサンプリング検出すればw相の無効電流成分Iw(i)を検出できることは明らかである。
【0072】
このように、u相の相電圧Vuを基準に特定の位相における電流を検出すれば無効電流成分が検出可能であることの原理について説明したが、もちろん、v相の相電圧Vvを基準にしても、w相の相電圧Vwを基準にしてもよい。
【0073】
また、相電圧Vuと相電圧Vvと相電圧Vwを基準にしても、基準とする相電圧によりサンプリングする特定の位相が異なるのみで、サンプリングする特定の位相点を間違わなければ、無効電流成分の±のピーク値は同じ値となることは自明である。
すなわち、u相の相電圧Vuを基準に特定の位相(θui、θvi、θwi)の近傍における電動機電流を検出すれば、無効電流成分I1(i)を検出することができる。もちろん、全ての特定の位相点であるθuiとθviとθwiの近傍における電動機電流の検出に限定されるものではなく、特定の位相θuiの近傍のみの時点、あるいは、特定の位相θviの近傍のみの時点、あるいは、特定の位相θwiの近傍のみの時点における電動機電流である無効電流成分I1(i)を検出してもよい。
【0074】
さらには、位相点であるθui、θvi、θwiの内、特定の2つの位相時点(例えば、θuiとθvi)の近傍における電動機電流である無効電流成分I1(i)を検出してもよい。
【0075】
また同様に、相電圧Vuを基準に、π/2(90°)と3π/2(270°)の時点θurにおける一次側のu相電流をサンプリング検出すれば、u相の有効電流成分Iu(r)を検出でき、5π/6(150°)と11π/6(330°)の時点θvrにおける一次側のv相電流をサンプリング検出すればv相の有効電流成分Iv(r)を検出でき、π/6(30°)と7π/6(210°)の時点θwrにおける一次側のw相電流をサンプリング検出すればw相の有効電流成分Iw(r)を検出できる。
このように、u相の相電圧Vuを基準に特定の位相における電流を検出すれば有効電流成分が検出可能であることの原理について説明したが、もちろん、v相の相電圧Vvを基準にしても、w相の相電圧Vwを基準にしてもよい。
【0076】
また、相電圧Vuと相電圧Vvと相電圧Vwを基準にしても、基準とする相電圧によりサンプリングする特定の位相が異なるのみで、サンプリングする特定の位相点を間違わなければ、有効電流成分の±のピーク値は同じ値となる。
【0077】
すなわち、u相の相電圧Vuを基準に特定の位相(θur、θvr、θwr)の近傍における電動機電流を検出すれば、有効電流成分I1(r)を検出することができる。もちろん、全ての特定の位相点であるθurとθvrとθwrの近傍における電動機電流の検出に限定されるものではなく、特定の位相θurの近傍のみの時点、あるいは、特定の位相θvrの近傍のみの時点、あるいは、特定の位相θwrの近傍のみの時点における電動機電流である有効電流成分I1(r)を検出してもよい。
さらには、位相点であるθur、θvr、θwrの内、特定の2つの位相時点(例えば、θurとθvr)の近傍における電動機電流である有効電流成分I1(r)を検出してもよい。
【0078】
図7は、本実施例に係る電力変換装置の制御ブロック図(第四の形態)である。ここで、例えば、一次側の相電圧Vuと一次側のu相電流iuの力率角Φ、あるいは力率値cosΦは、近似的に下記数(14)から数(18)で求められる。
cosΦ=I1(r)/I1 ------------------------------- 数(9)
Φ=cos−1{I1(r)/I1} ------------------------ 数(10)
あるいは
cosΦ=I1(r)/[{I1(r)}+{I1(i)}1/2 -- 数(11)
Φ=cos−1{I1(r)/[{I1(r)}+{I1(i)}1/2}--数(12)
この場合、誘導電動機において、有効電流成分I1(r)が正{I1(r)>0}の場合を電動モードとすれば、有効電流成分I1(r)が負{I1(r)<0}の場合は、発電モードであることがわかる。すなわち、有効電流成分I1(r)の符号で、誘導電動機が電動状態(電動機)か、回生状態(発電機)か、を判断することもできる。
【0079】
あるいは、力率角Φが0°〜90°、あるいは力率値cosΦが0〜1の場合は電動モードであり、力率角Φが90°〜180°あるいは、力率値cosΦが−1〜0の場合は回生モードである。すなわち、力率角Φ、あるいは力率値cosΦにより、誘導電動機が電動状態(電動機)か、回生状態(発電機)か、を判断することができる。
【0080】
力率値、力率角演算回路で検出した力率値cosΦ、あるいは力率角Φに基づいて、加速・減速時間修正回路13で電力変換装置が駆動する誘導電動機の最適な加速時間あるいは減速時間を自動修正する。
【0081】
やはり、本実施例における電力変換装置の出力周波数の動作タイミング図は、図9と同様であり、その動作は、実施例2で説明した図9(a)、(b)、(c)、(d)と同様である。また、数(1)〜数(12)を用いて求める力率値cosφや力率角φは一実施例であり、これらの数(1)〜数(12)を限定するものではない。
【実施例5】
【0082】
図8は、本実施例5における電力変換装置の他の主回路構成図である。図1と共通の構成および同一の機能については、やはり同一の参照番号を付してある。図1と異なるのは、電流検出器の検出位置である。
【0083】
SH1、SHi、SHdは電流検出用のシャント抵抗器であり、SH1は直流中間回路のN側の電流を検出し、SHiは、逆変換器3を構成する下アームの各スイッチング素子であるU相とV相とW相のIGBTに接続され、SHdは、各スイッチング素子であるIGBTに並列に接続されたダイオードに接続されている。
【0084】
すなわち、電力変換装置の直流母線側に設けられたシャント抵抗器SHiは、各IGBTに流れる合成電流を検出する電流検出器であり、シャント抵抗器SHdは、各IGBTに並列に接続されたダイオードに流れる合成電流を検出する電流検出器である。
【0085】
シャント抵抗SHi、SHdは、U相を構成する下アームのIGBTとダイオードに接続されているが、U相を構成する上アームのIGBTとダイオードに接続して電流を検出してもよい。SH1かSHi、SHdのシャント抵抗器の電圧を検出することにより、電動機の各線電流を間接的に検出することができる。
このため、電流検出回路の検出電流を座標軸変換により求めたトルク電流成分値と励磁電流成分値やPWM演算回路のu相の相電圧Vuを基準にした特定の位相の近傍における電流から、有効電流成分I1(r)と無効電流成分I1(i)を検出し、実施例1から4と同様に制御できる。
【0086】
以上の実施例で示したように、交流電動機の減速時間あるいは加速時間を調整することなしに過電圧保護レベルあるいは過電流保護レベルに掛からない最適な減速時間あるいは加速時間を自動設定する電力変換装置を提供できるため、ユーザがシステムの負荷を含めた慣性モーメントや電動機の特性などに応じて最適な減速時間あるいは加速時間を求めるための操作を行う必要がなく、システム立ち上げの時間を短縮できるという効果がある。
また、実施例1から6に開示した内容と効果は、図1および図8に記載した回生制動回路9の有無に無関係であり、回生制動回路がない電力変換装置においても同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0087】
1…順変換器、2…平滑用コンデンサ、3…逆変換器、4…誘導電動機、5…制御回路、6…冷却ファン、7…デジタル操作パネル、8…ゲートドライブ回路、9…回生制動回路、
10…電流検出回路、11…位相検出回路、12…加速・減速時間修正回路、13…電力変換装置、CT…電流検出器、SH1,SHi,SHd…直流母線側の電流検出用シャント抵抗、ta1,ta2…加速時間、td1,td2…減速時間、t…時間、*…乗算演算子、/…除算演算子、j…虚数部演算子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9(a)】
図9(b)】
図9(c)】
図9(d)】