特許第6132964号(P6132964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6132964-萎縮性加齢性黄斑変性の処置方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132964
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】萎縮性加齢性黄斑変性の処置方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20170515BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20170515BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20170515BHJP
【FI】
   A61K39/395 N
   A61P27/02
   A61K47/34
【請求項の数】7
【外国語出願】
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-124732(P2016-124732)
(22)【出願日】2016年6月23日
(62)【分割の表示】特願2014-169846(P2014-169846)の分割
【原出願日】2009年7月13日
(65)【公開番号】特開2016-169233(P2016-169233A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2016年6月28日
(31)【優先権主張番号】12/176,238
(32)【優先日】2008年7月18日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591018268
【氏名又は名称】アラーガン、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・アール・ロビンソン
(72)【発明者】
【氏名】ウェンディ・エム・ブランダ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・エム・ヒューズ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ・エイ・バーク
(72)【発明者】
【氏名】スコット・エム・ホイットカップ
【審査官】 長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−237713(JP,A)
【文献】 特表2007−535536(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/130134(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/128526(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61K 47/34
A61P 27/02
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
dry型加齢性黄斑変性(AMD)からwet型AMDへの進行を防止または遅延する方法において使用するための生体適合性の薬物送達システムであって、ベバシズマブのエステル、ラニビズマブのエステル、ならびにそれらの塩および混合物から選択される抗血管新生剤と、該抗血管新生剤を伴うポリマービヒクルとを含み;
ここで、
前記ポリマービヒクルは乳酸−グリコール酸コポリマーであり、
前記方法は、前記薬物送達システムを、患者のdry型AMDの眼に投与するステップを含み、該患者は他方の眼にwet型AMDを有し、
前記投与ステップは、dry型AMD眼の硝子体腔内への前記薬物送達システムの注入により実施される、
薬物送達システム。
【請求項2】
抗血管新生剤が、ポリマービヒクル全体に均一に分散されることによってポリマービヒクルに伴う、請求項1に記載の薬物送達システム。
【請求項3】
抗血管新生剤が、ベバシズマブのエステルまたはその塩である、請求項1に記載の薬物送達システム。
【請求項4】
薬物送達システムが、5μg〜3mgのベバシズマブを含む、請求項3に記載の薬物送達システム。
【請求項5】
薬物送達システムが、24時間にわたって平均して10ng〜40μgのベバシズマブを放出する、好ましくは24時間にわたって平均して14μg〜28μgまたは平均して7μg〜14μgのベバシズマブを放出する、請求項4に記載の薬物送達システム。
【請求項6】
薬物送達システムが、25℃において0.1/秒の剪断速度で、130,000cps〜300,000cpsの間の粘度を有する、請求項1に記載の薬物送達システム。
【請求項7】
前記方法が、薬物送達システムを25〜30ゲージのシリンジを使用して眼に注入することを含む、請求項1に記載の薬物送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な眼状態を処置するための、また、特定の眼状態の発生を防止するための組成物(すなわち、薬物送達システム)および方法に関する。具体的には、本発明は、後部眼状態を、例えば、網膜、脈絡膜および/または黄斑の血管新生を防止することによって処置および防止するための、ならびに/あるいは、様々なタイプの黄斑変性(例えば、加齢性黄斑変性)を、抗血管新生剤を含む薬物送達システムの使用によって処置するための医薬組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
先進工業国では、平均寿命が80歳を超えており、着実に延び続けている。残念なことに、高齢者についての生活の質はしばしば、加齢性黄斑変性(「ARMD」または「AMD」)として知られている眼状態によってひどく低下させられている。AMDは世界的に失明の主な原因であり、世界保健機関は、約1400万人がAMDのために失明しているか、または、重度の障害を受けていると推定している。AMDは、高齢者およびその家族の身体的および精神的な健康状態に多大な影響を及ぼし、また、著しい公的医療負担をもたらしている。AMDの重要な特徴は、網膜の中心における特殊な区域である黄斑における変性および血管新生に起因し得る、中心視覚の進行性喪失である。
【0003】
2つの形態のAMD、すなわち、萎縮性またはdry型のAMDと、血管新生性またはwet型のAMDとが存在する。典型的には、AMDはdry型AMDとして始まる。dry型AMDは、ドルーゼンと呼ばれる黄色斑様の沈着物が、黄斑において、網膜色素上皮(「RPE」)と、その下の脈絡膜との間に形成されることによって特徴づけられる。dry型AMD患者の約15%が、新しい血管が脈絡膜に形成されることによるものである脈絡膜血管新生と、視力喪失とによって特徴づけられるwet型AMDを発症する。
【0004】
AMDのための治療法がない一方で、wet型AMD(少ない方の型のAMD)のためには様々な処置が知られている(例えば、抗血管新生剤の使用および光線力学的療法(黄斑へのレーザー照射))。wet型AMDを処置するための抗血管新生剤には、血管内皮増殖因子(VEGF)の作用を遮断し、それにより、wet型AMD患者における脈絡膜血管新生および視力喪失を引き起こす血管形成(網膜における新しい血管の形成)を遅くする薬剤が含まれる。wet型AMDを処置するために承認された、または臨床研究中であるそのような「抗VEGF」剤には、ベバシズマブ(Avastin)、ラニビズマブ(Lucentis)およびペガプタニブ(Macugen)が含まれる。ベバシズマブは、転移性結腸ガンにおける使用について承認された全長型抗VEGF抗体である。ラニビズマブは、VEGFのすべてのイソ型を阻害するヒト化抗VEGFモノクローナル抗体フラグメントであり、ペガプタニブは、VEGFの1つのイソ型(VEGF-165)を特異的に阻害するVEGF中和アプタマーである。
【0005】
他の知られている抗VEGF剤には、低分子干渉RNA(siRNA);コルチコステロイド、例えば、酢酸アネコルタブ、トリアムシノロンアセトニドおよびフルオシノロンアセトニド;受容体チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、バタラニブおよびルボキシスタウリン(プロテインキナーゼC活性を低下させる));乳酸スクアラミン;および増殖因子(色素上皮由来因子を含む)が含まれる。siRNAはVEGFの産生およびVEGF受容体の産生を阻害することができ、コルチコステロイドはwet型AMDのDME局面を処置することができ、受容体チロシンキナーゼ阻害剤はVEGFの下流側の影響を阻害し、乳酸スクアラミンは、VEGFに対する下流側の影響とともに原形質膜のイオンチャンネルを阻害する。
【0006】
眼状態には、眼または眼の部分もしくは領域の1つに影響を及ぼすか、あるいは、これが関係する疾患、障害または状態が含まれ得る。大まかに言えば、眼には、眼球、ならびに、眼球を構成する組織および流体、さらに、眼周囲の筋肉(例えば、斜筋および直筋)、および、眼球内にあるか、または、眼球に隣接する視神経の一部が含まれる。眼前方、すなわち前部眼の状態は、例えば、眼周囲の筋肉、まぶた、または、水晶体包の後壁もしくは毛様体筋に対して前方に位置する眼球組織もしくは眼球液のような眼の領域または部位に影響を及ぼすか、あるいはこれが関係する疾患、障害または状態である。従って、眼前方の眼状態は主に、結膜、角膜、結膜、前眼房、虹彩、後眼房(虹彩の後方であるが、水晶体包の後壁の前方)、水晶体および水晶体包、ならびに、前方の眼領域または眼部位の血管形成または維持または神経支配に関わる血管、リンパ管および神経に影響を及ぼすか、あるいは、それらが関係する。
【0007】
眼前方の(前部)眼状態には、下記のような疾患、障害または状態が含まれ得る:例えば、無水晶体、偽水晶体、乱視、眼瞼痙攣、白内障、結膜疾患、結膜炎、角膜疾患、角膜潰瘍、ドライアイ症候群、眼瞼疾患、涙器疾患、涙道閉塞、近視、老視、瞳孔障害、屈折障害および斜視など。緑内障は、緑内障処置の臨床的目標が、眼の前眼房における房水の圧上昇を低下させること(すなわち、眼内圧を低下させること)であり得るので、眼前方の眼状態であると見なすことができる。
【0008】
後部眼状態(すなわち、眼の後方の眼状態)は、後方の眼領域または眼部位、例えば、脈絡膜または強膜(水晶体包の後壁を貫く面に対して後方の位置にある)、硝子体、硝子体腔、網膜、視神経(すなわち、視神経円板)、ならびに、後方の眼領域または眼部位の血管形成または神経支配に関わる血管および神経に主に影響を及ぼすか、あるいはこれらが主に関係する疾患、障害または状態である。
【0009】
従って、後部眼状態には、下記のような疾患、障害または状態が含まれ得る:例えば、黄斑変性(例えば、非滲出性加齢性黄斑変性および滲出性加齢性黄斑変性);脈絡膜血管新生;急性黄斑神経網膜症;黄斑浮腫(例えば、嚢胞様黄斑浮腫および糖尿病性黄斑浮腫);ベーチェット病、網膜障害、糖尿病網膜症(増殖性糖尿病網膜症を含む);網膜動脈閉塞疾患;網膜中心静脈閉塞;ブドウ膜炎網膜疾患;網膜剥離;後部の眼部位または眼位置に影響を及ぼす眼外傷;眼のレーザー処置によって生じるか、または影響を受ける後部眼状態;光線力学的療法によって生じるか、または影響を受ける後部眼状態;光凝固;放射線網膜症;網膜上膜障害;網膜静脈分枝閉塞;前部虚血性視神経症;非網膜症糖尿病性網膜機能不全、色素性網膜炎および緑内障。緑内障は、緑内障処置の治療目標が、網膜細胞もしくは視神経細胞に対する損傷、または該細胞の喪失に起因する視力の喪失を防止するか、あるいはその発生を減少させること(すなわち、神経保護)であるので、後部眼状態とも見なすことができる。
【0010】
前述のように、黄斑変性(例えば、AMD)は世界における失明の主な原因であり、1300万人のアメリカ人が黄斑変性の形跡を有することが推定される。黄斑変性は、黄斑、すなわち、読書または運転するために必要になる鮮明かつ直接的な視覚に関わる網膜の光感受性部分の破壊をもたらす。中心視覚が特に影響を受ける。黄斑変性は、dry型(萎縮性)またはwet型(滲出性)のどちらかとして診断される。dry型形態の黄斑変性がwet型形態の黄斑変性よりも一般的であり、AMD患者の約90%がdry型AMDと診断されている。この疾患のwet型形態は通常、より重症の視覚喪失を引き起こす。黄斑変性は、ゆっくりした、または、突然の、痛みのない視覚喪失を生じさせることがある。黄斑変性の原因は明らかになっていない。dry型形態のAMDは、加齢および黄斑組織が薄くなること、色素が黄斑に沈着すること、またはこれら2つのプロセスの組合せから生じ得る。wet型AMDに関しては、新しい血管が網膜の直下に成長し、血液および流体を漏出する。この漏出により、網膜細胞の死が引き起こされ、中心視覚において暗点が生じる。
【0011】
黄斑浮腫(「ME」)は黄斑の腫大を生じさせることがある。この浮腫は、網膜血管からの流体漏出によって引き起こされる。血液が、弱い血管壁から、色を検出し、かつ、日中の視覚が依存する神経末端である錐体に富む黄斑の非常に小さい区域に漏出する。その場合、中心視野の中央部またはそのすぐ側にかすみが生じる。視覚喪失が数ヶ月間にわたって進行することがある。網膜血管の閉塞、眼の炎症、および、加齢性黄斑変性はいずれも、黄斑浮腫に関連している。この浮腫はまた、白内障摘出術後の腫大によって影響を受ける場合もある。MEの症状には、かすんだ中心視覚、ゆがんだ視覚、ピンク色に染まった視覚、および光感受性が含まれる。MEの原因には、網膜静脈の閉塞、黄斑変性、糖尿病性黄斑漏出、眼の炎症、特発性中心性漿液性脈絡膜症、前部または後部ブドウ膜炎、扁平部炎、色素性網膜炎、放射線網膜症、後部硝子体剥離、網膜上膜形成、特発性傍中心窩網膜毛細血管拡張、Nd:YAGによる包切開術または虹彩切開術が含まれ得る。一部のME患者は、緑内障のための局所用のエピネフリンまたはプロスタグランジンアナログの使用歴を有する場合がある。MEのための第一選択処置は典型的には、局所適用される抗炎症性点眼薬である。網膜毛細管透過性の増大およびその後の網膜浮腫または黄斑浮腫は、部分的には血管内皮増殖因子(VEGF)(45kDの糖タンパク質)によって媒介される血液網膜関門の破壊の結果として生じることがある。おそらくは密着結合タンパク質(例えば、オクルディンおよび閉鎖帯)のリン酸化を増大させることによってではあるが、VEGFが血管透過性を増大させ得ることが知られている。同様に、ヒトの眼以外の疾患状態(例えば、腹水症)でも、VEGFが、強力な血管透過性因子(VPF)として特徴づけられている。
【0012】
生化学的には、VEGFは、血管形成を受ける組織において、毛細管の数の増大に対する主要な寄与因子であることが知られている。ウシの毛細血管内皮細胞は、VEGFにより刺激されたとき、インビトロで増殖し、管構造の徴候を示す。VEGFのアップレギュレーションが、運動に対する生理学的応答の主要な構成要素であり、血管形成におけるその役割が、血管傷害における可能性のある処置ではないかと考えられる。
【0013】
VEGFは、内皮細胞における細胞内シグナル伝達カスケードを生じさせる。VEGFがVEGF受容体-2(VEGFR-2)に結合すると、血管透過性を様々に刺激する因子(上皮の一酸化窒素シンターゼ(eNOS))、増殖/生存を様々に刺激する因子(bFGF;塩基性線維芽細胞増殖因子)、遊走を様々に刺激する因子(分子間接着分子(ICAM)、血管細胞接着分子(VCAM)、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP))、および、最終的には成熟血管への分化を様々に刺激する因子の産生を刺激するチロシンキナーゼシグナル伝達カスケードが開始される。血管形成シグナル伝達カスケードの一部として、NO(一酸化窒素)が、血管形成応答に対する主要な寄与因子であると広く見なされている。これは、NOの阻害が血管形成増殖因子の影響を著しく低下させるからである。
【0014】
正常なヒト網膜はVEGFをほとんど含有しないか、または全く含有しない;しかし、低酸素症により、VEGF産生のアップレギュレーションが引き起こされる。低酸素症誘導されたVEGFアップレギュレーションによって特徴づけられる疾患状態には、限定されないが、CRVOおよびBRVOが含まれる。VEGFのこの低酸素症誘導アップレギュレーションは薬理学的に阻害され得る。Pe'er J.他、Vascular Endothelial Growth Factor Upregulation In Human Central Retinal Vein Occlusion、OPHTHALMOLOGY、1998、105:412-416。抗VEGF抗体は、VEGF推進の毛細管内皮細胞増殖を阻害し得ることが明らかにされている。従って、VEGFの影響を弱めることにより、静脈閉塞疾患からの黄斑浮腫を処置することが理論的に根拠付けられる。
【0015】
加えて、VEGFの過剰発現は、血管形成を刺激することに加えて、血管における増大した透過性を引き起こす。“wet”型または滲出性の黄斑変性において、VEGFは網膜内への毛細管の増殖を引き起こす。血管形成の増大もまた、浮腫を引き起こすので、血液および他の網膜流体が網膜内に漏出し、これにより、視覚喪失が引き起こされる。本発明には、血管形成のための主要なシグナル伝達カスケードを停止させ、それにより症状を防止するためなどに、抗血管新生剤(例えば、VEGF阻害アプタマーまたは他のVEGF阻害化合物)を使用することによる、血管新生を伴わない黄斑変性のための新規な処置が含まれる。
【0016】
糖尿病網膜症は、20歳から74歳までの成人における失明の主な原因である。糖尿病網膜症患者において、黄斑虚血が、不可逆的な視力喪失および低下したコントラスト感度の大きな原因である。この虚血の原因である毛細管非灌流および低下した毛細管血流が、中心窩無血管帯(FAZ)の増大またはFAZの輪郭の不規則性としてフルオレセイン血管造影図で臨床的に認められる。これらの所見は、他の、恐らくはより広く知られている、視覚を脅かす糖尿病網膜症合併症(黄斑浮腫および増殖性網膜症を含む)の予測因子である。恐らくより重要なことに、大規模な毛細管非灌流はまた、糖尿病網膜症の視覚予後不良の予測因子でもある。
【0017】
黄斑浮腫および増殖性網膜症のために利用可能であり、または開発中である処置(例えば、レーザー光凝固、硝子体内コルチコステロイドおよび抗VEGF療法)がある。レーザー光凝固が、黄斑虚血に直接に関連する視覚喪失のために研究されているが、現在、この障害のための処置は全く知られていない。
【0018】
正常な哺乳動物眼球の外側表面には、結膜上皮として知られている組織の層があり、その下には、テノン膜(結膜間質とも呼ばれる)と呼ばれる組織の層がある。眼球をわたって後方に広がるテノン膜の範囲は、テノン嚢として知られている鞘を形成する。テノン膜の下には上強膜が存在する。結膜上皮およびテノン膜が、まとめて結膜と称される。前記のように、テノン膜の下には上強膜が存在し、上強膜の下には強膜があり、脈絡膜が続く。ほとんどのリンパ管およびそれらの関連する排液システム(これは、近傍に置かれた治療剤を除くことにおいて非常に効率的である)が眼の結膜に存在する。
【0019】
治療剤を、眼状態を処置するために眼に投与することができる。例えば、緑内障に特徴的な上昇した眼内圧を処置するための降圧治療剤についての標的組織が、毛様体および/または小柱網であり得る。残念なことに、点眼薬の形態での眼用局所的降圧医薬品の投与では、治療剤が毛様体および/または小柱網の標的組織に達する前に、治療剤のすべてではなくともそのほとんどが迅速に洗い流されることとなる可能性があるため、頻繁な再投薬が、高眼圧状態を効果的に処置するために要求される。加えて、抗緑内障医薬品およびその保存剤の局所投与から生じる患者に対する副作用が、結膜充血(眼の発赤)、刺痛、痛み、低下した涙液産生および涙液機能、低下した涙膜安定性、表在性点状角膜炎、扁平上皮細胞異形成、ならびに、細胞形態学における変化を含めて、眼の不快から、眼表面の、視覚を脅かす変化にまで及ぶ。局所用抗緑内障点眼薬のこれらの有害な影響は、患者の服薬コンプライアンスを妨げることによって緑内障の処置を妨げる可能性があり、また、点眼薬による長期間の処置は、濾過手術が成功しにくいことに関連している。Asbell P.A.他、Effects of topical antiglaucoma medications on the ocular surface、Ocul Surf、2005 (Jan)、3 (1):27-40;Mueller M.他、Tear film break up time and Schirmer test after different antiglaucomatous medications、Invest Ophthalmol Vis Sci、2000 (Mar 15)、41 (4):S283。
【0020】
薬物デポー剤を後部(すなわち、黄斑付近)のテノン嚢下腔に投与することが知られている。例えば、米国特許第6,413,245号の第4欄を参照のこと。加えて、ポリ乳酸のインプラントをテノン嚢下腔または脈絡膜上位置に投与することが知られている。例えば、米国特許第5,264,188号および米国特許出願公開第20050244463号を参照のこと。
【0021】
抗血管新生剤を、血管形成(例えば、脈絡膜血管新生(「CNV」))を伴う眼状態(例えば後部眼状態)の処置のために使用することができる。治療量の抗血管新生剤(薬物)の眼への送達は、血漿中の半減期が短い薬物については、眼内組織の薬物暴露が制限されるので、不可能でないとしても、困難であることがある。従って、後部眼状態(例えば、CNV)を処置するために薬物を送達するより効率的な方法は、薬物を眼に直接に設置することであり、例えば、薬物を硝子体の中に直接に入れることである。Maurice, D.M. (1983)、Micropharmaceutics of the eye、Ocular Inflammation Ther.、1:97-102;Lee, V.H.L.他(1989)、Drug delivery to the posterior segment、第25章、Retina、T.E. OgdenおよびA.P. Schachat編、St. Louis:CV Mosby、第1巻、pp. 483-98;および、Olsen, T.W.他(1995)、Human scleral permeability: effects of age, cryotherapy, transscleral diode laser, and surgical thinning、Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.、36:1893-1903。
【0022】
薬物の硝子体内注入などの技術が有望な結果を示しているが、抗血管新生剤を含めて、活性薬剤の短い眼内半減期のために、硝子体内注入は、治療薬物レベルを維持するために頻繁に繰り返されなければならない。結果として、この反復プロセスは、副作用(例えば、感染、網膜剥離、眼内炎および白内障)の潜在的可能性を増大させる。
【0023】
眼内薬物送達システムを生分解性ポリマーから作製することができ、例えば、ポリ(ラクチド)(PLA)ポリマー、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)ポリマー、ならびに、PLAおよびPLGAポリマーのコポリマーから作製することができる。PLAおよびPLGAポリマーは加水分解によって分解し、分解生成物の乳酸およびグリコール酸は二酸化炭素および水に代謝される。
【0024】
薬物送達システムが様々な活性薬剤とともに調製されている。例えば、眼内使用が意図される、2-メトキシエストラジオールのポリ乳酸ポリマーインプラント(ロッドおよびウエハとして)を溶融押出し法によって作製することが知られている。例えば、米国特許出願公開第20050244471号を参照のこと。加えて、眼内使用が意図される、ブリモニジンのポリ乳酸ポリマーインプラントおよびミクロスフェアを作製することが知られている。例えば、米国特許出願公開第20050244463号および同第20050244506号、ならびに、米国特許出願第11/395,019号を参照のこと。さらに、眼内使用が意図される、ビマトプロストを含有するポリ乳酸ポリマーインプラントおよびミクロスフェアを作製することが知られている。例えば、米国特許出願公開第20050244464号および同第20060182781号、ならびに、米国特許出願第11/303,462号および同第11/371,118号を参照のこと。
【0025】
欧州特許第488401号では、ある種のポリ乳酸から作製される眼内インプラントであって、網膜/硝子体障害または緑内障の外科的手術の後で眼の内部に投与されるための眼内インプラントが議論されている。欧州特許第430539号では、脈絡膜上に挿入される生体侵食性インプラントの使用が議論されている。
【0026】
米国特許出願第11/565,917号(2006年12月1日出願)には、様々な固体状の薬物含有インプラントの(テノン嚢下を含む)眼内投与が開示されている。
【0027】
所定の位置において縫合または固定される眼内薬物送達システムが知られている。縫合手段または他の固定手段では、敏感な眼組織が、治療剤を薬物送達システム内または薬物送達システム上に含有するため、あるいは、治療剤がインビボで放出されることを可能にするためには必要とされない薬物送達システムの様々な局面と接触していることが要求される。従って、縫合手段または眼固定手段は、単に周辺的または補助的価値を示すに過ぎず、それらの使用は、治癒時間、患者の不快、および、感染または他の合併症の危険性を増大させる可能性がある。
【0028】
米国特許出願第11/742,350号、同第11/859,310号、同第11/952,938号、同第11/364,687号では、抗VEGF治療剤(例えば、ベバシズマブ)を含む眼内組成物の使用が議論されている。眼内使用のための高分子の配合物が知られている。例えば、米国特許出願第11/370,301号、同第11/364,687号、同第60/721,600号、同第11/116,698号および同第60/567,423号を参照のこと。
【0029】
重要なことに、dry型AMDがAMDの最も一般的な形態ではあるが、抗酸化剤(例えば、網膜における反応性酸素化学種を中和するための高用量のビタミンC、ビタミンE、βカロテンおよび/または亜鉛)の使用を除き、「より一般的な‘dry型’AMDのための現在の治療法は存在しない」。Gehrs K.他、Age-related macular degeneration - emerging pathogenetic and therapeutic concepts、Ann Med、2006、38:450-471。従って、「AMDの最も一般的な萎縮性(dry型)形態のための効果的な処置は存在しない」。Petrukhin, K.、New therapeutic targets in atrophic age-related macular degeneration、Expert Opin. Ther. Targets、92007) 11 (5):625-639。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
従って、dry型AMDの処置のために眼内使用に好適な持続放出型薬物送達システムを有することが好都合であると考えられる。従って、必要とされるものは、dry型AMDを処置するための組成物および方法である。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、この必要性を、dry型AMDを処置するための組成物および方法を提供することによって満たす。具体的には、本発明は、dry型AMDを、眼内(すなわち、硝子体内)使用のために好適な持続放出型薬物送達システムの使用によって処置するのに有効な眼内処置を提供する。
【0032】
定義
下記の用語は、下記の意味を有することが定義される:
【0033】
「抗血管新生剤」は、硝子体内注入または硝子体内埋め込みなどによって眼に投与されたとき、抗血管形成作用を有する化合物を意味する。
【0034】
「抗VEGF剤」は、VEGFの活性または作用を阻害する化合物を意味し、これには、ベバシズマブ、ラニビズマブ、ペガプタニブ、VEGF中和アプタマー、抗VEGFモノクローナル抗体、siRNA、コルチコステロイド(例えば、酢酸アネコルタブ、トリアムシノロンアセトニドおよびフルオシノロンアセトニド)、受容体チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、バタラニブおよびルボキシスタウリン)、乳酸スクアラミンおよび増殖因子(色素上皮由来因子を含む)が含まれる。
【0035】
「約」は、おおよそまたはほぼであることを意味し、本書に示される数値または数値範囲の関連では、記載または特許請求の範囲に記載される数値または数値範囲の±10%を意味する。
【0036】
「活性薬剤」、「薬物」および「治療剤」は本書では相互に交換可能に使用され、眼状態を処置するために使用される(生物学的または高分子を含めた)いずれの物質も意味する。
【0037】
「生体適合性」は、薬物送達システムに関して、薬物送達システムが哺乳動物の眼に眼内投与されたとき、著しい免疫原性反応が生じないことを意味する。
【0038】
「生体侵食性ポリマー」は、インビボで分解するポリマーを意味する。該ポリマーは、ゲルまたはヒドロゲル型のポリマー、PLAまたはPLGAポリマー、あるいは、それらの混合物または誘導体であり得る。「生体侵食性」および「生分解性」は同義的であり、本書では互換可能に使用される。
【0039】
「薬物送達システム」は、薬物送達システムが眼組織に縫合されるか、または、取り付け手段によって所定のところに固定されるという要件を何ら有することなく、薬物送達システムがインビボ投与されたとき、治療量の治療剤を放出し得る、液体、ゲル、ヒドロゲル、高粘度配合物、固体インプラントまたはミクロスフェアを意味する。
【0040】
「dry型AMD」(萎縮性加齢性黄斑変性とも呼ばれる)は、ドルーゼンが黄斑に存在するが、網膜血管新生がほとんどないか、または全くないヒトの網膜状態を意味する。dry型AMDには、カテゴリー1のAMD(ドルーゼンがほとんど存在しないか、または、小さいドルーゼンだけが存在する)、カテゴリー2のAMD(小さいサイズ〜中程度サイズのドルーゼンが存在する初期のAMD)、および、カテゴリー3のAMD(多数の中程度のまたは大きいドルーゼンが存在する中等度のAMD)が含まれる。対照的に、「wet型AMD」は、網膜血管新生の存在(カテゴリー4のAMDまたは進行したAMD)または視覚喪失によって特徴づけられるヒトの網膜状態を意味する。小さいドルーゼンは直径が63ミクロン未満であり、中サイズのドルーゼンは直径が63〜124ミクロンの間であり、大きいドルーゼンは直径が125ミクロン以上である。
【0041】
「眼内」は、眼組織の内部または下部側を意味する。薬物送達システムの眼内投与には、薬物送達システムを、テノン嚢下、結膜下、脈絡膜上および硝子体内などの位置に投与することが含まれる。薬物送達システムの眼内投与には、薬物送達システムを、局所外用的、全身的、筋肉内、皮下および腹腔内などの位置に投与することは含まれない。
【0042】
「眼状態」は、眼または眼の部分もしくは領域の1つに影響を及ぼすか、あるいはこれが関係する疾患、障害または状態を意味し、例えば、網膜疾患を意味する。眼には、眼球、ならびに、眼球を構成する組織および流体、さらに、眼周囲の筋肉(例えば、斜筋および直筋)、および、眼球内にあるか、または、眼球に隣接する視神経の一部が含まれる。
【0043】
「後部眼状態」は、後方の眼領域または眼部位、例えば、(水晶体包の後壁を貫く面に対して後方の位置にある)脈絡膜または強膜、硝子体、硝子体腔、網膜、視神経(すなわち、視神経円板)、ならびに、後方の眼領域または眼部位の血管形成または神経支配に関わる血管および神経に影響を及ぼすか、あるいはこれが関係する疾患、障害または状態を意味する。
【0044】
「実質的に」は、そのように修飾される事項または量の51%〜100%の間を意味する。
【0045】
「眼領域または眼部位における(または、の中への)挿入(または埋め込み)に好適な」は、薬物送達システムに関して、過度の組織損傷を引き起こすことなく、また、インプラントの埋め込みまたは挿入が行われる患者の既存の視覚を不当に物理的に妨害することなく、投与され、注入され、挿入され、または埋め込まれ得るようなサイズ(寸法)を有する薬物送達システムを意味する。
【0046】
「持続した期間」または「持続放出」の「持続(した)」は、3日を超える期間、好ましくは少なくとも20日間(すなわち、20日から365日までの期間)、最も好ましくは少なくとも30日間を意味する。持続放出は約2ヶ月〜約4ヶ月の間にわたって継続することができる。
【0047】
「治療レベル」または「治療量」は、眼状態を安全に処置するために適切であり、その結果、眼状態の症状を軽減または防止するようにする、眼領域に局所的に送達されている活性薬剤の量または濃度を意味する。
【0048】
「処置する」は、処置をヒト患者に施すことを意味する。処置には、現在の診断されている眼状態(例えば、dry型AMD)の既に存在する臨床的症状(例えば、存在するドルーゼンの量または程度)を軽減するために作用する処置、ならびに、現在の診断されている眼状態が、さらなるまたは新しい臨床的症状(例えば、視覚喪失および/または血管新生)を有する別の眼状態(例えば、wet型AMD)に悪化するのを防止すること(または、悪化の速度を遅くすること)が含まれる。
【0049】
本発明の一実施形態は、網膜疾患を処置するための方法であり、例えば、黄斑変性(例えば、dry型加齢性黄斑変性(dry型AMD))を処置するための方法である。本方法は、抗血管新生剤をdry型AMD患者の眼に投与し、それにより、dry型AMDを処置するステップを含むことができる。抗血管新生剤は抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)剤であり得、例示的な抗VEGF剤として、ベバシズマブ、ラニビズマブおよびペガプタニブ、ならびに、これらの抗VEGF剤の誘導体、エステル、塩および混合物を挙げることができる。
【0050】
好ましくは、抗血管新生剤は、生体適合性の薬物送達システムとして、またはその一部として、本発明の範囲に含まれる方法において投与される。従って、生体適合性の薬物送達システムは、抗血管新生剤と、この抗血管新生剤を伴うポリマービヒクルとを含むことができる。ポリマービヒクルは、ポリマー乳酸(「PLA」)、ポリマーグリコール酸、乳酸−グリコール酸コポリマー(「PLGA」)、ポリマーヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびポリマーヒアルロン酸、ならびに、それらの混合物からなる群から選択することができる。
【0051】
抗血管新生剤は、ポリマービヒクル全体に均一に分散されることによってポリマービヒクルに伴うことができ、本方法の投与ステップは、抗血管新生剤を、前部眼内位置、または後部眼内位置(例えば、硝子体腔の中)に注入することによって行うことができる。
【0052】
本発明のさらなる実施形態は、dry型AMDを処置するための方法であって、抗血管新生剤(すなわち、ベバシズマブ、または、その誘導体、エステルもしくは塩)と、抗血管新生剤を伴うポリマービヒクルとを含む生体適合性薬物送達システムを調製すること、および、薬物送達システムをdry型AMD患者の眼の硝子体腔の中に注入し、それにより、dry型AMDを処置することによる方法である。
【0053】
好ましくは、本発明の範囲内にある薬物送達システムは約5μg〜約3mgの抗血管新生剤ベバシズマブを含有するか、または含むことができる。少し異なった言い方をすれば、本発明の範囲内にある薬物送達システムは、薬物送達システムの眼内注入または眼内埋め込み後24時間にわたって平均して約10ng〜約40μgの抗血管新生剤(例えば、ベバシズマブ)をインビボで放出することができる。好ましくは、薬物送達システムは、薬物送達システムの眼内注入または眼内埋め込み後24時間にわたって平均して約14μg〜約28μgの抗血管新生剤(すなわち、ベバシズマブ)を放出する。より好ましくは、薬物送達システムは、薬物送達システムの眼内注入または眼内埋め込み後24時間にわたって平均して約7μg〜約14μgの抗血管新生剤(すなわち、ベバシズマブ)を放出することができる。一実施形態において、薬物送達システムは、薬物送達システムの眼内注入または眼内埋め込み後24時間にわたって10ng〜約200μgの抗血管新生剤(例えば、ベバシズマブ)を放出することができる。
【0054】
本発明の範囲内にある詳細な一方法は、片方の眼がdry型AMDであり、他方の眼がwet型AMDである患者においてdry型AMDを処置するための方法であって、抗血管新生剤と、抗血管新生剤を伴うポリマービヒクルとを含む生体適合性薬物送達システムを、患者のdry型AMDの眼の硝子体腔の中に注入し、それにより、処置された眼においてdry型AMDからwet型AMDへの進行を防止するかまたは遅らせることによってdry型AMDを処置するステップを含む方法である。
【0055】
本発明の範囲内にあるさらなる詳細な一方法は、dry型AMDを処置するための低用量方法であって、下記のステップを含む方法である:(a)約5μg〜約20μgの間のベバシズマブと、ベバシズマブを伴うポリマーヒアルロン酸ビヒクルとを含む生体適合性の持続放出型薬物送達システムを調製するステップ;(b)薬物送達システムをdry型AMD患者の眼の硝子体腔の中に注入するステップ;および(c)薬物送達システムから、約1ヶ月以上、または、約2ヶ月、または、約3ヶ月以上の間、24時間にわたって平均して約14ナノグラム〜約120ナノグラムの間のベバシズマブを放出させ(好ましくは、薬物送達システムは活性薬剤を約3ヶ月〜約6ヶ月の間放出することができる)、それにより、dry型AMDを薬物送達システムから放出される低用量のベバシズマブにより処置するステップ。患者の他方の非注入の眼は、wet型AMDを有する可能性があり、注入を受けたdry型AMD眼においては、網膜血管新生の開始の防止または遅延によってdry型AMDが処置される。
【0056】
薬物送達システムは、約25℃において約0.1/秒の剪断速度で、約130,000cps〜約300,000cpsの間の粘度を有することができる。薬物送達システムは25〜30ゲージのシリンジを通して注入することができる。
【0057】
本発明はまた、dry型AMDを処置するための低用量方法であって、下記のステップを含む方法を包含する:(a)約5μg〜約20μgの間のベバシズマブと、ベバシズマブを伴うポリマーヒアルロン酸ビヒクルとを含む生体適合性の持続放出型薬物送達システムを調製するステップ;(b) 25〜30ゲージのシリンジを使用して、薬物送達システムをdry型AMD患者の眼の硝子体腔の中に注入するステップ(ここで、患者の他方の非注入の眼はwet型AMDを有する);および(c)薬物送達システムから、約3ヶ月〜約6ヶ月の期間、24時間にわたって平均して約14ナノグラム〜約120ナノグラムの間のベバシズマブを放出させ、それにより、注入を受けたdry型AMD眼において、網膜血管新生の開始の防止または遅延によって、薬物送達システムから放出される低用量のベバシズマブでdry型AMDを処置するステップ(ここで、薬物送達システムは、約25℃において約0.1/秒の剪断速度で、約130,000cps〜約300,000cpsの間の粘度を有する)。
【0058】
本発明の範囲内にあるさらなる一方法は、脈絡膜血管新生の発達を防止するための方法であって、下記のステップを含む方法である:(a)抗血管新生薬物と、抗血管新生薬物を伴うポリマーヒアルロン酸とを含む生体適合性の薬物送達システムを調製するステップ;および(b)薬物送達システムを眼内位置(例えば、テノン嚢下、結膜下、脈絡膜上、強膜内、硝子体内または眼球後方の眼内位置)に注入し、それにより、脈絡膜血管新生の発達を防止するステップ。使用されるポリマーヒアルロン酸は、架橋ヒアルロン酸もしくは非架橋ヒアルロン酸またはそれらの混合物であり得、好ましくは、ポリマーヒアルロン酸は約100万ダルトン〜約200万ダルトンの間の分子量を有する。
【0059】
まとめると、本発明は、薬物と、薬物のためのポリマービヒクルとを含む生体適合性の薬物送達システムを調製すること、および、薬物送達システムを眼内位置に注入または埋め込むことによって、眼状態を処置するための組成物および方法を包含する。ポリマービヒクルは、例えば、コラーゲン、多糖(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギネート、キトサン、寒天およびペクチン)、ヒアルロン酸または生分解性ポリマー(例えば、PLGAまたはPLAポリマー)であり得る。眼内位置は前部または後部眼内位置であり得、眼状態は前部または後部眼状態である得る。眼内位置は、テノン嚢下、結膜下、脈絡膜上、強膜内、硝子体内および眼球後方の眼内位置が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】x軸に示されるポリソルベート80濃度で、24時間、48時間および72時間のインビトロでのインキュベーションを行った後の、網膜色素上皮細胞ARPE-19のインビトロ生存パーセント(y軸)を示すグラフである(y軸の100%生存は、時間ゼロにおけるARPE-19細胞の生存である)。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明は、被処置患者のdry型AMD眼に血管新生が存在しないときでさえ、抗血管新生剤が、dry型AMDなどの状態を処置するために使用できるという発見に基づいている。本発明より前には、被処置患者の眼に血管新生が存在しないdry型AMDなどの状態を処置するために、抗血管新生剤が使用され得ることは知られていなかった。例えば、Lin J.他、Vascular Endothelial Growth Factor Gene Polymorphisms in Age-related Macular Degeneration、Am J Ophthalmol.、2008 Mar 29(VEGF遺伝子は、dry型AMP患者のDNAと関連がない)、および、Cook H.他、Age-related macular degeneration: diagnosis and management、Br Med Bull.、2008、85:127-49(「…、進行したdry型AMDのための処置がない…」)を参照のこと。本発明により、dry型AMDからwet型AMDへの進行を防止するかまたは遅らせることによって、dry型AMDが処置される。
【0062】
理論にとらわれることを望まないが、本発明者らは、本発明および本発明における実施形態の有効性の機構を考えることができる。すなわち、wet型AMDを片方の眼に有する患者は、血管新生(wet型AMD)を他方の眼において発症する(毎年の)確率が10%であることが推定され得る。これらの割合は累積的であるため、5年間では、wet型AMDを片方の眼に有する患者は、おそらくは補体因子H遺伝子における変異の存在のために、wet型AMDを他方の眼において発症する確率が50%である。本発明者らが考えるところでは、片方の眼においてwet型AMDの発症を引き起こす遺伝子媒介プロセスが、時間とともに他方の眼に及び、その結果、そのような患者は、wet型の(血管新生性)AMDを両方の眼において発症する危険性が高く、従って、患者が重篤な視覚喪失を両方の眼において発症する確率を低下させるために、予防的対策が指示される。
【0063】
従って、本発明者らは、処置されるdry型AMD眼が血管新生をほとんどまたは全く有していないとしても、抗血管新生療法が、dry型AMDを処置し、それにより、wet型AMDへのその進行を防止するために効果的であり得ると考える。dry型AMDからwet型AMDに進行する確率を低下させるために、関連のある標的には、血管内皮増殖因子(VEGF)経路が含まれる。VEGFは、脈管形成および血管形成の両方に関与する重要なシグナル伝達タンパク質である。dry型AMDの患者では、VEGFの過剰発現がCNVへの進行に関連付けられている。VEGFは、重要な標的として妥当であることが確認されている。というのは、VEGF遮断剤、例えば、Macugen(商標)(ペガプタニブ)、すなわち、VEGF165を特異的に遮断するペグ化アプタマー、および、より重要なものに、Avastin(商標)(ベバシズマブ)、すなわち、より無差別的で、すべての知られているVEGFイソ型(VEGF121、VEGF165、VEGF189およびVEGF20)を遮断するモノクローナル抗体。VEGF遮断剤は、AMDに伴うCNV、増殖性糖尿病網膜症(PDR)、血管新生緑内障、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、および、網膜静脈閉塞(RVO)に続発する黄斑浮腫のために広く使用されている。抗VEGF遮断による結果は、AMDに伴うCNVについては最も目覚ましい。
【0064】
そのような使用についてはFDAによって現時点では承認されていないが、1.25〜2.5mgの水性(すなわち、即時放出)ベバシズマブ(すなわち、持続または長期放出型の薬物送達システムとしてではないもの)を硝子体腔の中に注入することが、著しい眼内毒性が動物およびヒトの両方の研究で認められることなく行われている。即時放出(すなわち、水性)配合物からの、硝子体内への注入後の、抗VEGFモノクローナル抗体(例えば、ベバシズマブ)の硝子体での半減期はほんの5〜6日にすぎない。従って、即時放出型の抗血管新生配合物では、継続した、または、長期の治療効果を(即時的な、一度での放出のために)何ら提供することができず、眼状態を処置するために頻繁な、痛みを伴う再注入が必要となる。
【0065】
従って、1.25〜2.5mgもの高用量の大きいベバシズマブ硝子体内水性配合物が、黄斑血管新生(wet型AMD)を処置するために投与されているが、本発明者らは、知られている硝子体内投薬量の1%未満(すなわち、12μg未満)のベバシズマブ用量により、血管新生を抑制することが可能であると考えている。本発明者らは、6.2μgもの低いベバシズマブ用量(すなわち、知られている1.25mg用量の0.5%もの少ない用量)が、ヒトにおける眼内血管新生を処置または防止するために(すなわち、dry型AMDを処置するために)使用できると考える。従って、慢性的な眼状態(例えば、dry型AMD)の長期間の処置を提供するために、1.25mg〜2.5mgの抗血管新生剤(例えば、ベバシズマブ)を、持続放出型薬物送達システムから3〜6ヶ月にわたって硝子体の中に放出させることができる。
【0066】
ヒドロゲルは、水または他の水性媒体における分散物として形成されるコロイド状ゲルである。従って、ヒドロゲルは、粘性のゼリー様生成物を生成するように分散相(ポリマー)が連続相(すなわち、水)と一緒にされているコロイドの形成の際に形成される(例えば、凝集したケイ酸)。ヒドロゲルは、化学的または物理的結合により架橋される親水性ポリマー鎖の三次元ネットワークである。ポリマー鎖の親水性のために、(ヒドロゲルがその最大量の水を既に吸収している場合を除いて)ヒドロゲルは水を吸収し、膨潤する。膨潤過程は、非架橋の親水性ポリマーが溶解するのと同じである。定義により、水が、ヒドロゲルの総重量(または体積)の少なくとも10%を構成する。
【0067】
ヒドロゲルの例には、合成ポリマー、例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、および、化学的または物理的に架橋されたポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリエチレンオキシド、および、加水分解されたポリアクリルニトリルが含まれる。有機ポリマーであるヒドロゲルの例には、共有結合的またはイオン的に架橋された多糖系ヒドロゲル、例えば、多価金属塩としてのアルギネート、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、ヘパリン、ヒアルロネート、ならびに、キチン、キトサン、プルラン、ゲランおよびキサンタンから得られるヒドロゲルが含まれる。本発明者らの実験において使用される具体的なヒドロゲルは、セルロース化合物(すなわち、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC))および高分子量ヒアルロン酸(HA)であった。
【0068】
本発明の実施形態として、本発明者らは、硝子体内注入のためのヒドロゲル配合物を、ポリマーヒアルロン酸および抗VEGFモノクローナル抗体を使用して作製した。この薬物送達システムは、3〜6ヶ月の期間にわたり抗VEGFモノクローナル抗体の低い1日用量の持続放出を提供することができ、dry型AMDからwet型AMDへの転化を防止することができる。薬物送達システムはまた、ヒドロゲル中に抗VEGF抗体のミクロスフェア封入物を含むことができる。持続放出型薬物送達システムは、dry型AMDから血管新生AMDに進行する確率を減少させるために眼において必要な抗VEGF遮断を提供することができる。加えて、長期間にわたって眼において放出される低用量は、全身毒性レベルの抗血管新生剤をもたらさない。
【0069】
本発明の持続放出型薬物送達システムはまた、血管新生の危険性がある網膜中心静脈閉塞の患者において、また、血管新生疾患に進行する危険性がある重篤な非増殖性糖尿病網膜症の患者において、持続放出による抗VEGF遮断を提供するためにも使用することができる。
【0070】
あるいは、薬物送達システムは、PLGAインプラント、リポソーム封入抗体(場合により架橋ヒアルロン酸に取り込まれる)であり得る。加えて、ミクロスフェア、(0.001から100ミクロンの範囲にある)マイクロカプセル、および、リポソームであって、放出を改変するようにヒドロゲルポリマーとの相互作用を生じる修飾された表面を有するもの。
【0071】
他の抗VEGF化合物を抗VEGFモノクローナル抗体(例えば、ベバシズマブ)の代わりに使用することができ、これらには、抗VEGFアプタマー(例えば、ペガプタニブ)、可溶性の組換えおとり受容体(例えば、VEGF Trap)、抗体フラグメント(例えば、ラニビズマブ)、コルチコステロイド、VEGFRまたはVEGFリガンドの発現を低下させる低分子干渉RNA、チロシンキナーゼ阻害剤によるVEGFR後の遮断、MMP阻害剤、IGFBP3、SDF-1遮断剤、PEDF、γ−セクレターゼ、Delta様リガンド4、インテグリンアンタゴニスト、HIF-1α遮断、プロテインキナーゼCK2遮断、ならびに、血管内皮カドヘリン(CD-144)抗体および間質由来因子(SDF)-1抗体を使用する血管新生部位に向かう幹細胞(すなわち、内皮前駆細胞)の阻害が含まれる。必ずしも抗VEGF化合物であるとは限らない、CNVに対抗する活性を有する薬剤もまた使用することができ、これらには、抗炎症性薬物、ラパマイシン、シクロスポリン、抗TNF剤および抗補体剤が含まれる。
【0072】
本発明はまた、特定の薬物送達システム配合物、および、これらの薬物送達システムを、眼状態(例えば、dry型AMD)を処置するために投与するための方法を包含する。本発明は、(局所外用投与または全身投与とは対照的に)もっぱら眼内投与のために構成および形成される薬物送達システムを包含する。眼内投与を、眼の硝子体腔(後眼房)の中への埋め込みまたは注入によって行うことができる。本発明の範囲内にある薬物送達システムは、生分解性のインプラントおよび/またはミクロスフェアであることができる。薬物送達システムはモノリシックである(すなわち、活性薬剤が生分解性ポリマー全体に均一に分布または分散する)ことが可能である。治療剤を、本発明に従って作製される薬物送達システムから、約2時間〜12ヶ月以上の期間にわたって放出させることができる。本発明の薬物送達システムの重要な特徴は、薬物送達システムが投与される眼内位置に薬物送達システムを固定するための手段(例えば、キャップ、突起または縫合タブ)を何ら含まないことである。
【0073】
本発明の範囲内にある薬物送達システムの重要な特徴は、眼内埋め込み部位または眼内注入部位およびその隣接部における著しい免疫原性の出現または持続を伴うことなく、治療剤の持続放出を提供するために、眼内位置(例えば、前方のテノン嚢下、結膜下、硝子体内または脈絡膜上の位置)の中に埋め込むか、または、注入できることである。
【0074】
ポリラクチド(PLA)ポリマーは、ポリ(L-ラクチド)およびポリ(D,L-ラクチド)の2つの化学的形態で存在する。純粋なポリ(L-ラクチド)はレジオレギュラーであり、従って、非常に結晶性でもあり、従って、非常に遅い速度でインビボで分解する。ポリ(D,L-ラクチド)はレジオランダムであり、従って、より迅速な分解をインビボにおいて引き起こす。従って、主成分がポリ(L-ラクチド)ポリマーであり、残りがポリ(D-ラクチド)ポリマーである混合物であるPLAポリマーは、主成分がポリ(D-ラクチド)ポリマーであるPLAポリマーよりも遅い速度でインビボで分解する。PLGAは、ポリ(D,L-ラクチド)と、ポリ(グリコリド)とを様々な可能な比率で組み合わせたコポリマーである。PLGAにおけるグリコリド含有量が大きいほど、ポリマー分解が速くなる。
【0075】
本発明の一実施形態において、眼内投与(すなわち、硝子体内埋め込みまたは硝子体内注入による)のための薬物送達システムは、少なくとも75wt%のPLAおよび最大でも約25wt%のポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)ポリマーを含むか、またはこれらからなるか、またはこれらから実質的になる。
【0076】
本発明の範囲内にあるものに、シリンジのニードルを通して眼内位置に投与することができる、ヒドロゲル(例えば、ポリマーヒアルロン酸)に懸濁される、(抗血管新生剤を取り込む)ミクロスフェアの懸濁物がある。そのような懸濁物の投与では、25℃におけるミクロスフェア懸濁物の粘度が約300,000cP未満であることが要求される。25℃における水の粘度が約1cPである(cPまたはcpsはセンチポアズであり、粘度の尺度である)。25℃において、オリーブ油の粘度が84cPであり、ひまし油の粘度が986cPであり、グリセロールの粘度が1490cPである。
【0077】
本発明の薬物送達システムは、治療剤を、生分解性ポリマーと混合されて、またはこれに分散されて含むことができる。薬物送達システムの組成は、好ましい薬物放出プロフィル、使用された具体的な活性薬剤、処置される眼状態、および、患者の病歴に従って変化し得る。本発明の薬物送達システムにおいて使用することができる治療剤には、(本発明の範囲内にある薬物送達システムにおいて単独であるか、または、別の治療剤との組合せである)下記の薬剤が含まれるが、これらに限定されない:
【0078】
ace阻害剤、内因性サイトカイン、基底膜に影響を与える薬剤、内皮細胞の成長に影響を与える薬剤、アドレナリン作動性のアゴニストまたは遮断剤、コリン作動性のアゴニストまたは遮断剤、アルドースレダクターゼ阻害剤、鎮痛剤、麻酔剤、抗アレルギー剤、抗炎症剤、降圧剤、昇圧剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗原虫剤、抗感染剤、抗腫瘍剤、代謝拮抗剤、抗血管形成剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗生物質、例えば、アミノグリコシド系、例えば、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシンおよびバンコマイシン;アンフェニコール系、例えば、クロラムフェニコール;セファロスポリン系、例えば、セファゾリンHCl;ペニシリン系、例えば、アンピシリン、ペニシリン、カルベニシリン、オキシシリン、メチシリン;リンコサミド系、例えば、リンコマイシン;ポリペプチド系抗生物質、例えば、ポリミキシンおよびバシトラシン;テトラサイクリン系、例えば、テトラサイクリン;キノロン系、例えば、シプロフラキシンなど;スルホンアミド系、例えば、クロラミンT;ならびに、スルホン系、例えば、親水性成分としてのスルファニル酸、抗ウイルス性薬物、例えば、アシクロビル、ガンシクロビル、ビダラビン、アジドチミジン、アザチオプリン、ジデオキシイノシン、ジデオキシシトシン、デキサメタゾン、シプロフラキシン、水溶性抗生物質、例えば、アシクロビル、ガンシクロビル、ビダラビン、アジドチミジン、ジデオキシイノシン、ジデオキシシトシン;エピネフリン;イソフルルフェート;アドリアマイシン;ブレオマイシン;マイトマイシン;ara-C;アクチノマシンD;スコポラミン;その他、
【0079】
鎮痛剤、例えば、コデイン、モルヒネ、ケテロラック、ナプロキセンなど、麻酔剤、例えば、リドカイン;β-アドレナリン作動性遮断剤またはβ-アドレナリン作動性アゴニスト、例えば、エフェドリン、エピネフリンなど;アルドースレダクターゼ阻害剤、例えば、エパルレスタット、ポナルレスタット、ソルビニル、トルレスタット;抗アレルギー剤、例えば、クロモリン、ベクロメタゾン、デキサメタゾンおよびフルニソリド;コルヒチン、駆虫剤、例えば、イベルメチンおよびスラミンナトリウム;抗アメーバ剤、例えば、クロロキンおよびクロルテトラサイクリン;および、抗真菌剤、例えば、アンホテリシンなど;抗血管形成化合物、例えば、酢酸アネコルタブ;レチノイド類、例えば、タザロテン;抗緑内障剤、例えば、ブリモニジン(AlphaganおよびAlphagan P)、アセタゾラミド、ビマトプロスト(Lumigan)、チモロール、メベフノロール;メマンチン、ラタノプロスト(Xalatan);α-2アドレナリン作動性受容体アゴニスト;2-メトキシエストラジオール;抗新生物剤、例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、インターフェロン(α、βおよびγ);代謝拮抗剤、例えば、葉酸アナログ、プリンアナログおよびピリミジンアナログ;免疫抑制剤、例えば、アザチオプリン、シクロスポリンおよびミゾリビン;縮瞳剤、例えば、カルバコール;散瞳剤、例えば、アトロピン;プロテアーゼ阻害剤、例えば、アプロチニン、カモスタット、ガベキサート;血管拡張剤、例えば、ブラジキニン;および、様々な増殖因子、例えば、上皮増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、神経増殖因子;カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤など。
【0080】
本発明の特定の実施形態において、活性薬剤は、VEGF受容体(VEGFR)またはVEGFリガンドの発現を遮断する、あるいは低下させる化合物であってよく、これらには、限定されないが下記の化合物が含まれる:抗VEGFアプタマー(例えば、ペガプタニブ)、可溶性の組換えおとり受容体(例えば、VEGF Trap)、抗VEGFモノクローナル抗体(例えば、ベバシズマブ)および/または抗体フラグメント(例えば、ラニビズマブ)、VEGFRまたはVEGFリガンドの発現を低下させる低分子干渉RNA、チロシンキナーゼ阻害剤によるVEGFR後の遮断、MMP阻害剤、IGFBP3、SDF-1遮断剤、PEDF、γ-セクレターゼ、Delta様リガンド4、インテグリンアンタゴニスト、HIF-1α遮断、プロテインキナーゼCK2遮断、ならびに、血管内皮カドヘリン(CD-144)抗体および間質由来因子(SDF)-1抗体を使用する血管新生部位に向かう幹細胞(すなわち、内皮前駆細胞)の阻害。
【0081】
本発明の別の実施形態または変形において、活性薬剤はメトトレキサートである。別の変形において、活性薬剤はレチノイン酸である。別の変形において、活性薬剤は抗炎症剤、例えば、非ステロイド系抗炎症剤である。使用することができる非ステロイド系抗炎症剤には、下記のものが含まれるが、これらに限定されない:アスピリン、ジクロフェナック、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ケトロラック、ナプロキセンおよびスプロフェン。さらなる変形において、抗炎症剤はステロイド系抗炎症剤、例えば、デキサメタゾンである。
【0082】
本発明の薬物送達システムにおいて使用することができるステロイド系抗炎症剤には、下記のものが含まれ得るが、これらに限定されない:21-アセトキシプレグネノロン、アルクロメタゾン、アルゲストン、アムシノニド、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、クロロプレドニゾン、クロベタゾール、クロベタゾン、クロコルトロン、クロプレドノール、コルチコステロン、コルチゾン、コルチバゾール、デフラザコート、デソニド、デソキシメタゾン、デキサメタゾン、ジフロラゾン、ジフルコルトロン、ジフルプレドナート、エノキソロン、フルアザコート、フルクロロニド、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルオコルチンブチル、フルオコルトロン、フルオロメトロン、酢酸フルペロロン、酢酸フルプレドニデン、フルプレドニゾロン、フルランドレノリド、プロピオン酸フルチカゾン、ホルモコータル、ハルシノニド、プロピオン酸ハロベタゾール、ハロメタゾン、酢酸ハロプレドン、ヒドロコルタマート、ヒドロコルチゾン、エタボン酸ロテプレドノール、マジプレドン、メドリゾン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾロン、フランカルボン酸モメタゾン、パラメタゾン、プレドニカルベート、プレドニゾロン、プレドニゾロン25-ジエチルアミノアセテート、リン酸プレドニゾロンナトリウム、プレドニゾン、プレドニバル、プレドニリデン、リメキソロン、チクソコルトール、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンベネトニド、トリアムシノロンヘキサセトニド、および、それらの誘導体。
【0083】
一実施形態において、コルチゾン、デキサメタゾン、フルオシノロン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾンおよびトリアムシノロン、ならびに、それらの誘導体が、好ましいステロイド系抗炎症剤である。別の好ましい変形において、ステロイド系抗炎症剤はデキサメタゾンである。別の変形において、生分解性インプラントは、2種以上のステロイド系抗炎症剤の組合せを含む。
【0084】
活性薬剤(例えば、抗血管新生剤)は、インプラントまたは薬物送達システムの約1wt%〜約90wt%を占めることができる。一変形において、活性薬剤はインプラントの約5wt%〜約80wt%である。好ましい変形において、活性薬剤はインプラントの約10wt%〜約60wt%を占める。本発明のより好ましい実施形態において、活性薬剤はインプラントの約50wt%を占めることができる。
【0085】
本発明の薬物送達システム中に存在する治療活性薬剤は、薬物送達システムの生分解性ポリマーに均一に分散され得る。使用される生分解性ポリマーの選択は、所望される放出速度論、患者許容性、および、処置されるべき疾患の性質などとともに変化し得る。考慮されるポリマー特性には、埋め込み部位における生体適合性および生分解性、活性薬剤との適合性、ならびに、加工温度が含まれるが、これらに限定されない。生分解性ポリマーマトリックスは通常、インプラントの少なくとも約10wt%、少なくとも約20wt%、少なくとも約30wt%、少なくとも約40wt%、少なくとも約50wt%、少なくとも約60wt%、少なくとも約70wt%、少なくとも約80wt%または少なくとも約90wt%を占める。一変形において、生分解性ポリマーマトリックスは薬物送達システムの約40wt%〜50wt%を占める。
【0086】
使用することができる生分解性ポリマーには、分解されたとき、生理学的に許容される分解生成物を生じる、モノマー(例えば、有機エステルまたはエーテル)から作製されるポリマーが含まれるが、これらに限定されない。無水物、アミドまたはオルトエステルなどもまた、単独で、または、他のモノマーとの組合せとして、使用することができる。ポリマーは一般には縮合重合体である。ポリマーは架橋されていても、架橋されていなくてもよい。
【0087】
大抵の場合、炭素および水素の他に、ポリマーは酸素および窒素、特に酸素を含む。酸素は、オキシ、例えば、ヒドロキシまたはエーテルとして、また、カルボニル、例えば、非オキソカルボニル(例えば、カルボン酸エステル)などとして存在することができる。窒素は、アミド、シアノおよびアミノとして存在することができる。使用することができる生分解性ポリマーの例が、Hellerの、Biodegradable Polymers in Controlled Drug Delivery、"CRC Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems"、第1巻、CRC Press、Boca Raton、FL (1987)に挙げられている。
【0088】
特に注目されるのが、ヒドロキシ脂肪族カルボン酸のポリマー(ホモポリマーまたはコポリマー)および多糖である。注目されるポリエステルに含まれるものは、D-乳酸、L-乳酸、ラセミ乳酸、グリコール酸、カプロラクトンおよびそれらの組合せのホモポリマーまたはコポリマーである。グリコール酸および乳酸のコポリマーが特に注目され、この場合、生分解速度がグリコール酸対乳酸の比率によって制御される。ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)コポリマーにおける各モノマーのパーセントは、0-100%、約15-85%、約25-75%、または、約35-65%であり得る。特定の実施形態において、25/75のPLGAコポリマーおよび/または50/50のPLGAコポリマーが使用される。他の実施形態において、PLGAコポリマーはポリラクチドポリマーとの併用で使用される。
【0089】
他の薬剤を様々な目的のために薬物送達システム配合物において用いることができる。例えば、緩衝剤および保存剤を用いることができる。使用することができる保存剤には、重亜硫酸ナトリウム、重硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、メチルパラベン、ポリビニルアルコールおよびフェニルエチルアルコールが含まれるが、これらに限定されない。用いることができる緩衝剤の例には、所望される投与経路のためにFDAによって承認されるような炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよび重炭酸ナトリウムなどが含まれるが、これらに限定されない。コロイド中で粒子を安定化するために使用することができる界面活性剤、および/または、電解質(例えば、塩化ナトリウムおよび塩化カリウム)もまた、配合物に含ませることができる。薬物送達システムはまた、微小環境ならびに境界部(拡散滞留層)でpHを制御するための酸性および塩基性賦形剤も含有し得る。
【0090】
生分解性の薬物送達システムはまた、活性薬剤の放出を加速または遅延させるさらなる親水性または疎水性化合物を含むことができる。加えて、放出調節剤(例えば、米国特許第5,869,079号に記載される放出調節剤)をインプラントに含ませることができる。用いられる放出調節剤の量は、所望される放出プロフィル、調節剤の活性、および、調節剤の非存在下におけるグルココルチコイドの放出プロフィルに依存する。緩衝剤または放出強化もしくは調節剤が親水性である場合、それは放出促進剤としても作用することができる。親水性の添加物は、薬物粒子を取り囲む物質のより速い溶解(これは、薬物の露出表面積を増大させ、それにより、薬物が拡散する速度を増大させる)により放出速度を増大させるように作用する。同様に、疎水性の緩衝剤または強化もしくは調節剤はよりゆっくり溶解することができ、これにより、薬物粒子の露出を遅くすることができ、それにより、薬物が拡散する速度を遅くすることができる。
【0091】
本発明の範囲内にある薬物送達システムは、活性薬剤の粒子を生分解性ポリマー内に分散させて調製することができる。理論によってとらわれることはないが、生分解性ポリマーマトリックスが浸食されることによって、また、眼の流体(例えば、硝子体)の中へ粒子状薬剤が拡散し、続いてポリマーマトリックスが溶解し、活性薬剤が放出されることによって、活性薬剤の放出が達成されると考えられる。インプラントからの活性薬剤の放出速度論に影響を与える要因には、インプラントのサイズおよび形状、活性薬剤粒子のサイズ、活性薬剤の溶解性、活性薬剤対ポリマーの比率、製造方法、露出表面積、インプラントの密度、ならびに、ポリマーの浸食速度のような特性が含まれ得る。
【0092】
活性薬剤の放出速度は、少なくとも部分的には、生分解性ポリマーマトリックスを構成するポリマー骨格成分の分解速度に依存し得る。例えば、縮合ポリマーは、(いくつかある機構の中で特に)加水分解によって分解することができ、従って、インプラントによる水分取り込みを高めるインプラント組成変化はおそらく、加水分解の速度を増大させ、それにより、ポリマー分解および浸食の速度を増大させ、従って、活性薬剤放出の速度を増大させ得る。活性薬剤の放出速度はまた、活性薬剤の結晶化度、インプラント内のpH、および、境界部でのpHによって影響を受けることがある。
【0093】
本発明の薬物送達システムの放出速度論は、部分的には、薬物送達システムの表面積に依存し得る。表面積が大きいほど、多くのポリマーおよび活性薬剤が眼の流体に露出させられ、これにより、流体におけるポリマーのより速い浸食および活性薬剤粒子のより速い溶解が引き起こされる。
【0094】
本発明の薬物送達システムおよび方法によって処置することができる眼状態の例には、緑内障、ブドウ膜炎、黄斑浮腫、黄斑変性、網膜剥離、後部眼腫瘍、真菌またはウイルスの感染症、多巣性脈絡膜炎、糖尿病網膜症、増殖性硝子体網膜症(PVR)、交感性眼炎、フォークト・小柳・原田(VKH)症候群、ヒストプラスマ症、ブドウ膜滲出および血管閉塞が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態において、インプラントは、ブドウ膜炎、黄斑浮腫、血管閉塞状態、増殖性硝子体網膜症(PVR)および種々の他の網膜症などの医学的状態を処置することにおいて特に有用である。
【0095】
本発明の薬物送達システムはシリンジによって眼内位置に注入することができ、あるいは、切開を強膜において行った後、鉗子、トロカールまたは他のタイプのアプリケーターによる設置を含めて、様々な方法によって眼の中に挿入する(埋め込む)ことができる。場合によっては、トロカールまたはアプリケーターを、切開部を生じさせることなく使用することができる。好ましい実施形態において、ハンドヘルド・アプリケーターが、1つまたは複数の生分解性インプラントを眼の中に挿入するために使用される。ハンドヘルド・アプリケーターは典型的には、18〜30GAのステンレススチールニードル、レバー、アクチュエーターおよびプランジャーを含む。インプラントを後部の眼領域または眼部位の中に挿入するための好適なデバイスには、米国特許出願第10/666,872号に開示されるデバイスが含まれる。
【0096】
投与方法は一般には、眼領域内の標的区域に、ニードル、トロカールまたは埋め込みデバイスによりアクセスすることを最初に伴う。標的区域(例えば、硝子体腔)内に入れられると、ハンドヘルド・デバイスのレバーを押下して、アクチュエーターに、プランジャーを前方に押し出させることができる。プランジャーは前方に移動すると、インプラントを標的区域(すなわち、硝子体)に押し入れることができる。
【0097】
本発明の範囲内にあるインプラントを作製するために様々な技術を用いることができる。有用な技術には、相分離法、界面法、押出し法、圧縮法、成形法、射出成形法およびヒートプレス法などが含まれる。
【0098】
本明細書に開示される薬物送達システムは、下記を含めて、様々な眼疾患または眼状態を防止または処置するために使用することができる:
【0099】
黄斑症/網膜変性:黄斑変性(加齢性黄斑変性(ARMD)(例えば、非滲出性加齢性黄斑変性および滲出性加齢性黄斑変性)を含む)、脈絡膜血管新生、網膜症(糖尿病網膜症を含む)、急性および慢性の黄斑神経網膜症、中心性漿液性脈絡網膜症、および、黄斑浮腫(類嚢胞黄斑浮腫および糖尿病性黄斑浮腫を含む)。ブドウ膜炎/網膜炎/脈絡膜炎:急性多発性小板状色素上皮症、ベーチェット病、バードショット網脈絡膜症、感染症(梅毒、ライム病、結核、トキソプラズマ症)、ブドウ膜炎(中間部ブドウ膜炎(扁平部炎)および前部ブドウ膜炎を含む)、多巣性脈絡膜炎、多発性一過性白点症候群(MEWDS)、眼サルコイドーシス、後部強膜炎、地図状脈絡膜炎、網膜下線維症、ブドウ膜炎症候群およびフォークト・小柳・原田症候群。眼疾患/滲出性疾患:網膜動脈閉塞疾患、網膜中心静脈閉塞、播種性血管内凝固障害、網膜静脈分枝閉塞症、高血圧性眼底変化、眼虚血性症候群、網膜動脈毛細血管瘤、コーツ病、傍中心窩毛細血管拡張症、半網膜静脈閉塞症、乳頭血管炎、網膜中心動脈閉塞、網膜動脈分枝閉塞症、頸動脈疾患(CAD)、樹氷状分枝血管炎、鎌状赤血球網膜症および他の異常血色素症、網膜色素線条症、家族性滲出性硝子体網膜症、イ−ルズ病。外傷性/外科性:交感性眼炎、ブドウ膜炎網膜疾患、網膜剥離、外傷、レーザー、PDT、光凝固、手術時の低灌流、放射線網膜症、骨髄移植網膜症。
【0100】
増殖性障害:増殖性硝子体網膜症および網膜上膜、増殖性糖尿病網膜症。感染性障害:眼ヒストプラズマ症、眼トキソカラ症、推定眼ヒストプラズマ症候群(POHS)、眼内炎、トキソプラズマ症、HIV感染に伴う網膜疾患、HIV感染に伴う脈絡膜疾患、HIV感染に伴うブドウ膜炎疾患、ウイルス性網膜炎、急性網膜壊死、進行性網膜外層壊死、真菌性網膜疾患、眼梅毒、眼結核、びまん性片側性亜急性神経網膜炎およびハエウジ病。遺伝性障害:網膜色素変性、網膜ジストロフィを合併した全身性障害、先天性停止性夜盲症、錐体ジストロフィ、シュタルガルト病および黄色斑眼底、ベスト病、網膜色素上皮のパターンジストロフィ、X連鎖網膜分離症、ソースビー眼底変性症、良性中心性黄斑症、ビエッティー・クリスタリンジストロフィ、弾性線維性仮性黄色腫。網膜の裂傷/裂孔:網膜剥離、黄斑円孔、巨大網膜裂孔。腫瘍:腫瘍に伴う網膜疾患、RPEの先天性肥大、後部ブドウ膜メラノーマ、脈絡膜血管腫、脈絡膜骨腫、脈絡膜転移、網膜および網膜色素沈着上皮の複合過誤腫、網膜芽細胞腫、眼底の血管増殖性腫瘍、網膜星状細胞腫、眼内リンパ系腫瘍。その他:点状脈絡膜内層症、急性後部多発性小板状色素上皮症、近視性網膜変性および急性網膜色素上皮炎など。
【0101】
実施例
下記の実施例は本発明の様々な局面および実施形態を例示する。
【実施例1】
【0102】
dry型AMDを処置するための硝子体内ベバシズマブ−PLGAミクロスフェア
78歳の男性が加齢性黄斑変性および白内障を両方の眼に有する。この患者はまた、心臓血管疾患および下壁心筋梗塞の病歴を6ヶ月前に有し得る。この患者は、右眼におけるかすんだ視覚および変視症を訴えることがあり、検査により、右眼の視力が20/400であり、左眼の視力が20/32であることが明らかにされ得る。網膜検査では、右眼において、サイズがおよそ1つ分の円板区域である中心窩下脈絡膜血管新生(CNV)(右眼のwet型AMD)が、周囲の出血および浮腫とともに示され得る。左眼では、脈絡膜血管新生の徴候は、フルオレセイン血管造影法によって確認されないが、wet型AMDを発症することについての高リスクの特徴(例えば、中心窩を含んだ軟らかい無定形態らしいドルーゼン)が示され得る(左眼のdry型AMD)。患者は、wet型AMDの右眼においてラニビズマブ(抗血管新生剤)の月1回の硝子体内注入を開始することができ、4ヶ月以内に浮腫および出血が消散し、視力が20/125に回復する。
【0103】
よりよく見える左眼においてwet型AMDを発症する危険性が現在高いことを考えて、患者は左眼において、この眼におけるCNVの発症を予防するために、(必要な場合には浸透強化剤を伴う)持続放出型抗VEGFモノクローナル抗体配合物の硝子体内注入を受けることができる。注入量は、PLGAミクロスフェアの中に取り込まれたベバシズマブを含む50μlとし、総ベバシズマブ(薬物)重量は2.5mgとすることができる。
【0104】
インビトロ放出速度が10μg/日であるポリソルベート20PLGAミクロスフェアもまた、網膜透過性を高めるために配合物に入れることができる。ベバシズマブおよびポリソルベート20ミクロスフェアが、27Gのニードルを使用する妥当なシリンジ注入性で、1.2%の濃度で架橋ヒアルロン酸に入れられる。
【0105】
患者は50μlの本発明のベバシズマブ−PLGAミクロスフェア(総薬物重量2.5mg)の左眼硝子体内注入を6ヶ月毎に受けることができ、そして、7年間の経過観察期間が終了したとき、患者は左眼における視力を20/32で維持し得る。患者がwet型AMDを左眼において発症する危険性は50%を超えていたが、繰り返される試験で、左眼におけるCNVの徴候は何ら示されない。残念ながら、7年間の経過観察が終了したとき、右眼における視力は、検査で中心の黄斑区域において示される器質化円板状瘢痕を伴い、20/400にまで悪化し得る。左眼における視力を失っていないことを考えると、この患者は運転免許および自活した生活スタイルをこの時間枠にわたって維持することができる。眼において持続した低用量の抗VEGF療法にさらされていたにもかかわらず、患者の心臓血管疾患は、血栓塞栓性事象を何ら経験することなく、変化を受けないままでいることができる。
【0106】
実施例1〜3において治療的に使用されるミクロスフェアは、塩化メチレンからPVA(ポリビニルアルコール)溶液の中への溶媒蒸発法によって作製することができる。10〜100mg/mLのミクロスフェアを等張性リン酸塩緩衝液に懸濁することができ、50〜200μLのミクロスフェア懸濁物を眼内位置に投与することができる。
【0107】
選択されたポリ乳酸(PLA)またはPLGA樹脂の全体に抗血管新生剤が均一に分布または分散されている抗血管新生剤ミクロスフェアを、乳化/溶媒蒸発技術を使用して製造することができる。ポリマー相からの抗血管新生剤の喪失を防止するために、また、ローディング効率を増大させるために、非溶媒(連続水相)を抗血管新生剤で飽和させる。加えて、メタノールで飽和された抗血管新生剤を、乳化を停止させるために使用することができる。メタノールは、ジクロロメタンを迅速に除くためのシンクとして役立ち、これにより、ミクロスフェアを、抗血管新生剤がミクロスフェアから拡散し得る前に硬化させた。
【実施例2】
【0108】
dry型AMDを処置するための低用量硝子体内ベバシズマブ−PLGAミクロスフェア
74歳の男性が、片方(右)の眼がdry型加齢性AMDであり、他方(左)の眼がwet型AMDであると診断されている。この男性は、右眼の視力が20/40である。この男性は、dry型AMD眼の中への持続放出型薬物送達システムの硝子体内注入によって処置される。持続放出型薬物送達システムは、総量で約6マイクログラム(低用量)の活性薬剤(ベバシズマブ)をポリマービヒクルに含む。ポリマービヒクルは、高粘度ヒアルロン酸またはPLGAもしくはPLAであり、ベバシズマブ(抗血管新生剤)とともに、複数のミクロスフェアまたは1つのモノリシックインプラント(その中で、ベバシズマブは均一に分布する)を形成する。あるいは、持続放出型薬物送達システムは、ベバシズマブのミクロスフェアまたはインプラントをヒアルロン酸(架橋型または非架橋型)中に含むことができ、その結果、粘性のポリマービヒクル(ヒアルロン酸)および固体のポリマービヒクル(PLAまたはPLGAのミクロスフェアまたはインプラント)の両方が同じ薬物送達システムに存在する。薬物送達システムは6μgのベバシズマブを1〜6ヶ月の期間にわたって硝子体の中に放出することができ、その後で、患者の右眼は血管新生の証拠を全く示すことがなく、かつ、右眼において維持された同じ視力(20/40)を示すことができる。
【実施例3】
【0109】
dry型AMDを処置するための硝子体内ラニビズマブ−PLGAミクロスフェア
83歳の女性が、左眼においてかすんだ視覚で起床することがある。この女性は、緑内障、白内障除去後IOL(眼内レンズ)を挿入した状態、および、dry型AMDの病歴を両眼に有し得、Alphagan P点眼薬を使用し続け得る。この女性の眼科医の検査により、この女性は、左眼がwet型AMDであると診断され、直ちに網膜専門医に紹介され得る。視力は右眼が20/25であり、左眼が20/200であり得る。網膜検査では、右眼黄斑におけるdry型変化(ただし、中心窩下領域における大きいドルーゼンおよび多数の色素性変化のような高リスクの特徴がある)が示され得る。左眼の黄斑は、サイズがおよそ2つ分の円板区域の中心窩下CNVを、周囲の黄斑浮腫および網膜内出血とともに示し得る。フルオレセイン血管造影法では、主に外見が典型的である左眼CNVの存在が確認され得る。患者は、wet型AMDの左眼においてラニビズマブの月1回の硝子体内注入を直ちに開始することができる。網膜浮腫が3ヶ月の期間にわたって消失するが、患者の左眼視力は、20/100へとやや改善し得るに過ぎない。患者は、右眼においてCNVを発症する危険性が高かったので、また、左眼における視力が3ヶ月の期間にわたってあまり改善され得ないので、右眼におけるCNVの発症を予防するために、PLGAミクロスフェアに取り込まれた4.8mgのラニビズマブを含む50μlの硝子体内注入を右眼に受けることができる。インビトロ放出速度が5μg/日であるポリソルベート20PLGAミクロスフェアもまた、網膜透過性を高めるために配合物に入れることができる。ミクロスフェアを、部分的架橋のヒアルロン酸(HA)に2.1%のHA濃度で入れることができる。そのような架橋HAを、Allergan Medical(Irvine、California)から、Juvederm Ultra Plus、Juvederm 30、CaptiqueおよびVolumaの商品名で入手することができる。
【0110】
この女性は、4.8mgラニビズマブ−PLGAミクロスフェアを含む50μlの右眼硝子体内注入を、4年間の期間にわたって6ヶ月毎に繰り返し受けることができ、視力は右眼が20/25、左眼については20/200に保たれる。網膜検査では、右眼においてdry型AMD、および、左眼において軽度の中心窩下線維症を伴う器質化円板状瘢痕が示され得る。この女性は、右眼において維持することができる良好な視力を考えると、自宅で自活することができる。
【実施例4】
【0111】
網膜浸透強化剤を伴う抗血管新生薬物送達システム
網膜色素上皮(「RPE」)細胞に対するポリソルベート網膜浸透強化剤の毒性を調べるために実験を行った。すなわち、ARPE-19細胞(Dunn K.他、ARPE-19, a human retinal pigment epithelial cell line with differential properties、Exp Eye Res.、1996 Feb;62 (2):155-69を参照のこと)を、0%から0.10%(w/w)の範囲のポリソルベート80濃度でインビトロにおいてインキュベーションし、細胞生存性アッセイを行った。
【0112】
このインビトロ実験のためのプロトコルは下記の通りであった:ARPE-19細胞(継代数11〜23)を、10%のFBSが補充されたDMEM:F12培地において125,000細胞/ウエルで24ウエルプレートに実験前日に播種した。経時変化および用量応答をARPE-19細胞に対して同時に行った。溶液インキュベーションのパラメーター(例えば、pH、浸透圧)をどの濃度についても測定した。インキュベーション時間は、24h、48h、72hであった。1つの陰性コントロール(非処理)および1つの陽性コントロール(5mMのH2O2)を含めた。非処理条件は、血清が補充された細胞培養培地であった。5mMのH2O2は3%のH2O2ストック溶液(875mM)から調製した。細胞に適用される濃度は、例えば下記のようないくつかのパラメーターを考慮して決定された:
(a)配合において一般に使用される濃度
(b)化合物溶解性に対する限界濃度
(c)適用可能な粘度、浸透圧およびpHの値に対する限界濃度。
【0113】
第1のアプローチでは、濃度が広範囲に及んだ(実験1)。予備的結果の後、第2セットの実験(実験2〜4)により、50%の細胞生存性の阻害をもたらすより正確な化合物濃度を、細胞生存性アッセイおよび形態学的局面に基づいて求めた。全範囲の濃度を、最高濃度条件から細胞培養培地(10%のFBSが補充されたDMEM:F12)への連続希釈により得た。MTTアッセイからの結果を、下記のように計算される細胞生存性の百分率として表した:
%細胞生存=OD試験/ODコントロール×100。
3実験を同じ条件で独立して完了した後、グラフを3組の値からプロットし、これにより、実験間の標準偏差値を得た。このようにして、50%の細胞生存性をもたらす濃度を求めた。形態学的外観を、5から1(すなわち、正常から致死的表現型)の範囲での半定量的なスコア化によって解析した。
【0114】
図1に示されるように、約0.06%(0.6mg/ml)を超えるポリソルベート80濃度には、RPE細胞生存性の低下が伴い、約0.09%(0.9mg/ml)よりも高いポリソルベート80濃度には、50%未満の細胞生存性が伴うことが観測された。従って、硝子体の体積がヒトの眼では4mlであるとすれば、硝子体におけるポリソルベートの総最大重量は一度に3.6mgを超えてはならない。
【0115】
上記の実施例1〜3のそれぞれにおいて、使用される抗血管新生剤に対する網膜の透過性を増大させるために、1つまたは複数の網膜浸透強化剤を薬物送達システムに含ませることができる。従って、網膜浸透強化剤を、抗血管新生剤(すなわち、抗VEGF化合物)と併せて放出するように、持続放出型薬物送達システムに加えることができる。低用量の抗VEGF化合物と、浸透強化剤との両方を6ヶ月の期間にわたって共に放出することにより、CNVを処置するために網膜下腔に達する抗VEGF化合物(とりわけ、大きい抗VEGF化合物、例えば、モノクローナル抗体)の効力を最適化することができる。好ましい網膜浸透強化剤は、ポリソルベート20(例えば、Tween20またはC12−ソルビタン−E20)およびポリソルベート80であり、これらは、水溶液として薬物送達システムに加えられ、水溶液における網膜浸透強化剤の濃度は約0.005%〜0.10%の間である(水1mlあたり0.05mg〜1mgの網膜浸透強化剤)。代替の網膜浸透強化剤には、ラウリル硫酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウムおよびシクロデキストランが含まれるが、これらに限定されない。
【0116】
上記で示されるすべての参考文献、記事、特許、出願および公報は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
従って、特許請求の範囲の精神および範囲は、上記の好ましい実施形態の記載に限定されてはならない。
図1