特許第6132975号(P6132975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6132975波動歯車装置および多層中空体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132975
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】波動歯車装置および多層中空体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
   F16H1/32 B
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-511179(P2016-511179)
(86)(22)【出願日】2014年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2014059418
(87)【国際公開番号】WO2015151146
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2016年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優
(72)【発明者】
【氏名】清澤 芳秀
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−186718(JP,A)
【文献】 実開昭62−37656(JP,U)
【文献】 特開2001−200854(JP,A)
【文献】 特開平06−050411(JP,A)
【文献】 特開2006−17222(JP,A)
【文献】 特開2012−031891(JP,A)
【文献】 米国特許第4177695(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性内歯歯車と、
可撓性外歯歯車と、
前記可撓性外歯歯車を非円形に撓めて前記剛性内歯歯車に部分的にかみ合わせ、これら両歯車のかみ合い位置を円周方向に移動させるウエーブジェネレータと、
を有し、
前記ウエーブジェネレータは、非円形のプラグ外周面が形成された中空状のウエーブプラグと、前記プラグ外周面に装着したウエーブベアリングとを備え、
前記剛性内歯歯車および前記ウエーブプラグのうちの少なくとも一方は多層中空体から形成されており、
前記多層中空体は、金属製の外側中空体と、金属製の内側中空体と、前記外側中空体と前記内側中空体の間に挟まれた中間中空体とを備え、
前記中間中空体は、
金属製の第1中空体と、
前記第1中空体の外周面と前記外側中空体の内周面との間に挟まれた第1炭素繊維強化プラスチック層と、
前記第1中空体の内周面と前記内側中空体の外周面との間に挟まれた第2炭素繊維強化プラスチック層と、
を備えていることを特徴とする波動歯車装置。
【請求項2】
前記ウエーブプラグは前記多層中空体から形成され、
前記外側中空体の外周面に前記プラグ外周面が形成されている、
請求項1に記載の波動歯車装置。
【請求項3】
前記剛性内歯歯車は前記多層中空体であり、
前記内側中空体の内周面には内歯が形成されている、
請求項1に記載の波動歯車装置。
【請求項4】
前記外側中空体および前記内側中空体の素材は、鋼、ステンレススチール、アルミニウム合金およびチタン合金のうちのいずれか一つである請求項1に記載の波動歯車装置。
【請求項6】
前記第1中空体の素材は、鋼、ステンレススチール、アルミニウム合金およびチタン合金のうちのいずれか一つである請求項1に記載の波動歯車装置。
【請求項7】
請求項1に記載のウエーブプラグあるいは剛性内歯歯車を製造するために用いる多層中空体の製造方法であって、
前記内側中空体を形成するための内側中空体ブランク材の外周面に、前記第2炭素繊維強化プラスチック層を積層して第1中空積層体を製造する工程と、
前記第1中空体を形成するための第1中空体ブランク材の外周面に、前記第1炭素繊維強化プラスチック層を積層して、第2中空積層体を製造する工程と、
前記第2中空積層体に前記第1中空積層体を圧入し、前記第2炭素繊維強化プラスチック層を前記第1中空体ブランク材の内周面に固定して、第3中空積層体を製造する工程と、
前記外側中空体を形成するための外側中空体ブランク材に前記第3中空積層体を圧入し、前記第1炭素繊維強化プラスチック層を前記外側中空体ブランク材の内周面に固定して、第4中空積層体を製造する工程と、
前記第4中空積層体の前記外側中空体ブランク材、および、前記第4中空積層体の前記内側中空体ブランク材の少なくとも一方に後加工を施す工程と、
を含むことを特徴とする多層中空体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波動歯車装置のウエーブジェネレータのウエーブプラグおよび剛性内歯歯車に関する。また、ウエーブプラグおよび剛性内歯歯車の製造に用いる多層中空体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置では、ウエーブジェネレータによって、可撓性外歯歯車を楕円状に撓めて剛性内歯歯車に部分的にかみ合わせ、ウエーブジェネレータを回転させて、両歯車のかみ合い位置を周方向に移動させる。これにより、両歯車の歯数差分だけ、両歯車の間に相対回転が生ずる。
【0003】
一方の歯車を回転しないように固定しておけば、ウエーブジェネレータに入力される回転が、他方の歯車から、両歯車の歯数差に応じて減速された減速回転として出力される。可撓性外歯歯車を楕円状に撓めるウエーブジェネレータは、一般に、楕円状外周面を備えた金属製の剛性プラグと、この楕円状外周面に装着したウエーブベアリングとを備えている。
【0004】
波動歯車装置としては、その中心部分に軸線方向に中空部が貫通して延びている中空タイプのものが知られている。中空タイプの波動歯車装置では、そのウエーブジェネレータのウエーブプラグとして、その中心部を貫通して延びる中空部を備えた円筒状のウエーブプラグが用いられる。
【0005】
ここで、波動歯車装置の使用トルクの増大および大中空径が求められている。使用トルクが大きい場合に、中空径を大きくすると、波動歯車装置の歯とび(ラチェッテイング)が懸念される。特に、フラットタイプ、シルクハットタイプの波動歯車装置では、より大きな内径の中空部を形成するためには、ウエーブプラグに、より大きな中空部を形成する必要がある。ウエーブプラグに大きな中空部を形成すると、その肉厚が小さくなり、その半径方向の剛性が低下する。この結果、両歯車の間に歯飛びが発生する負荷トルクも低下する。これを回避するには、限れられた断面形状(肉厚、幅)でも高剛性を有するウエーブプラグが必要になる。
【0006】
一般的にウエーブプラグの材料として使用されている鋼(縦弾性率:210GPa)よりも大きな縦弾性率を有する材料としては、セラミック(アルミナ:350GPa、窒化珪素:320GPa)、炭素繊維強化プラスチック(以下、「CFRP」と呼ぶ場合もある。)が知られている。
【0007】
炭素繊維強化プラスチックは、使用炭素繊維の弾性率によって、55〜400GPaと広範囲の縦弾性係数を有する。CFRPを用いた素材は、特許文献1に開示されている。当該特許文献1では、ロボットハンドのフォークを形成する矩形筒状のフレームに、制振板の表裏にCFRP層を積層したサンドイッチ構造の素材を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−180357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、セラミックは加工性が悪いのでウエーブプラグの素材としては適していない。また、特許文献1において提案されているサンドイッチ構造の素材を用いてウエーブプラグを製造することが考えられるが、当該素材の表裏の面はCFRP層によって規定されており、加工性が悪い。
【0010】
ウエーブプラグの外周面は精度の良い楕円形状に加工する必要があり、その内周部にはモーター軸との取付け等のために複雑な加工を必要とする。したがって、ウエーブプラグは、高剛性であることが要求されると同時に、その外周部および内周部が精度良く加工可能であることが要求される。従来においては、ウエーブプラグの素材として、双方の要求を満たす適切なものが無い。
【0011】
一方、波動歯車装置の剛性内歯歯車についても、高剛性であることが要求されると同時に、その内周面には精度良く内歯を加工可能であることが要求される。また、剛性内歯歯車は、その外周面によって、ボール軸受け等の軸受けを介して、可撓性外歯歯車を支持する場合がある。このような場合には、剛性内歯歯車の外周面に軸受け内輪軌道面を一体形成して、波動歯車装置を小型、軽量に構成することもある。したがって、剛性内歯歯車は高剛性であると共に、その外周面に精度良く軸受け軌道面などを加工可能であることが要求される。
【0012】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、限られた断面(肉厚、幅)で大きな剛性を確保でき、加工性にも優れたウエーブプラグを備えたウエーブジェネレータを有する波動歯車装置を提供することにある。
【0013】
また、本発明の課題は、歯飛びが発生する負荷トルクの低下を抑制し、かつ、大きな中空部を形成可能な波動歯車装置を提供することにある。
【0014】
さらに、本発明の課題は、限られた断面で大きな剛性を確保でき、加工性にも優れた剛性内歯歯車を有する波動歯車装置を提供することにある。
【0015】
一方、本発明の課題は、このような限られた断面で大きな剛性を確保でき、加工性にも優れたウエーブプラグおよび剛性内歯歯車の製造に用いる多層中空体の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明の波動歯車装置は、
剛性内歯歯車と、
可撓性外歯歯車と、
前記可撓性外歯歯車を楕円状等の非円形に撓めて前記剛性内歯歯車に部分的にかみ合わせ、これら両歯車のかみ合い位置を円周方向に移動させるウエーブジェネレータと、
を有し、
前記ウエーブジェネレータは、楕円状等の非円形のプラグ外周面が形成された中空状のウエーブプラグと、前記プラグ外周面に装着したウエーブベアリングとを備え、
前記剛性内歯歯車および前記ウエーブプラグのうちの少なくとも一方は多層中空体から形成されており、
前記多層中空体は、金属製の外側中空体と、金属製の内側中空体と、前記外側中空体と前記内側中空体の間に挟まれた中間中空体とを備え、
前記中間中空体は、少なくとも一層の炭素繊維強化プラスチック層を備えていることを特徴としている。
【0017】
本発明の波動歯車装置では、ウエーブプラグあるいは剛性内歯歯車、または、その双方が、CFRP層を挟み外側中空体および内側中空体が積層された多層中空体から形成されている。金属素材の単体からなるウエーブプラグ、剛性内歯歯車に比べて、これらの部材は、限られた断面(肉厚と幅)で大きな剛性が確保され、より軽量である。また、多層中空体の外周面は金属製の外側中空体によって規定され、その内周面は金属製の内側中空体によって規定されている。よって、多層中空体は、その外周部分および内周部分に対する加工が容易であり、ウエーブプラグ、剛性内歯歯車の素材として用いるのに適している。
【0018】
本発明において、前記ウエーブプラグが前記多層中空体から形成される場合には、前記外側中空体の外周面に前記プラグ外周面が形成される。ウエーブプラグは、金属素材の単体からなるウエーブプラグに比べて、限られた断面(肉厚と幅)で大きな剛性を確保でき、軽量化も図ることができる。よって、必要とされる剛性を確保しつつ、大きな中空部を形成可能な軽量のウエーブプラグを実現できる。
【0019】
また、ウエーブプラグの外周部分は金属製の外側中空体によって形成され、その内周部分は金属製の内側中空体によって形成されている。よって、ウエーブプラグの外周面を、精度良く、楕円状外周面等の非円形外周面に加工することが容易であり、その内周部分にモーター軸取付け用の複雑な加工を行うことも容易である。
【0020】
このように、本発明の波動歯車装置は、限られた断面で大きな剛性を確保でき、加工性にも優れたウエーブプラグを用いている。したがって、ウエーブプラグに大きな中空部を形成しても、当該ウエーブプラグの剛性を確保できる。よって、ウエーブジェネレータによって確実に可撓性外歯歯車を支持できるので、歯飛びが発生する負荷トルクの低下を抑制し、大きな中空部を形成可能な軽量の波動歯車装置を実現できる。
【0021】
ここで、前記中間中空体は、金属製の第1中空体と、前記第1中空体の外周面と前記外側中空体の内周面との間に挟まれた第1炭素繊維強化プラスチック層と、前記第1中空体の内周面と前記内側中空体の外周面との間に挟まれた第2炭素繊維強化プラスチック層と、
を備えていることが望ましい。複数のCFRP層を積層することにより、ウエーブプラグの剛性等の機械的強度の等方性を確保し、かつ、ウエーブプラグの剛性を高め、その軽量化を図ることができる。
【0022】
前記外側中空体、前記内側中空体、前記第1中空体の金属素材としては、鋼、ステンレススチール、アルミニウム合金およびチタン合金のうちのいずれか一つを用いることができる。各筒を相互に異なる金属素材を用いて製造することも可能である。
【0023】
次に、上記構成のウエーブプラグに用いる多層中空体の製造方法は、
前記内側中空体を形成するための内側中空体ブランク材の外周面に、前記第2炭素繊維強化プラスチック層を積層して第1中空積層体を製造する工程と、
前記第1中空体を形成するための第1中空体ブランク材の外周面に、前記第1炭素繊維強化プラスチック層を積層して、第2中空積層体を製造する工程と、
前記第2中空積層体に前記第1中空積層体を圧入し、前記第2炭素繊維強化プラスチック層を前記第1中空体ブランク材の内周面に固定して、第3中空積層体を製造する工程と、
前記外側中空体を形成するための外側中空体ブランク材に前記第3中空積層体を圧入し、前記第1炭素繊維強化プラスチック層を前記外側中空体ブランク材の内周面に固定して、第4中空積層体を製造する工程と、
前記第4中空積層体の前記外側中空体ブランク材、および、前記第4中空積層体の前記内側中空体ブランク材の少なくとも一方に後加工を施す工程と、
を含むことを特徴としている。
【0024】
一方、剛性内歯歯車を多層中空体から形成することができる。この場合には、多層中空体の前記内側中空体の内周面に内歯が形成される。また、前記外側中空体の外周面に、ボール軸受けあるいはコロ軸受けの内輪軌道面が形成される場合もある。
【0025】
剛性内歯歯車を多層中空体から形成する場合においても、前記中間中空体は、金属製の第1中空体と、前記第1中空体の外周面と前記外側中空体の内周面との間に挟まれた第1炭素繊維強化プラスチック層と、前記第1中空体の内周面と前記内側中空体の外周面との間に挟まれた第2炭素繊維強化プラスチック層とを備えていてもよい。また、前記外側中空体、前記内側中空体および前記第1中間体の金属素材は、鋼、ステンレススチール、アルミニウム合金およびチタン合金のうちのいずれか一つとすればよい。
【0026】
本発明の剛性内歯歯車は、CFRP層を挟み外筒および内筒が積層された多層中空体から形成されている。金属素材の単体からなる剛性内歯歯車に比べて、限られた断面(肉厚と幅)で大きな剛性を確保でき、軽量化も図ることができる。また、剛性内歯歯車の外周部分は金属製の外側中空体によって形成され、その内周部分は金属製の内側中空体によって形成されている。よって、その内周面に精度良く内歯を加工することが容易である。また、その外周面に精度良く軸受け外輪軌道面を一体形成することが容易である。
【0027】
次に、上記構成の剛性内歯歯車の製造に用いる多層中空体の製造方法は、
前記内側中空体を形成するための内側中空体ブランク材の外周面に、前記第2炭素繊維強化プラスチック層を積層して第1中空積層体を製造する工程と、
前記第1中空体を形成するための第1中空体ブランク材の外周面に、前記第1炭素繊維強化プラスチック層を積層して、第2中空積層体を製造する工程と、
前記第2中空積層体に前記第1中空積層体を圧入し、前記第2炭素繊維強化プラスチック層を前記第1中空体ブランク材の内周面に固定して、第3中空積層体を製造する工程と、
前記外側中空体を形成するための外側中空体ブランク材に前記第3中空積層体を圧入し、前記第1炭素繊維強化プラスチック層を前記外側中空体ブランク材の内周面に固定して、第4中空積層体を製造する工程と、
前記第4中空積層体の前記内側中空体ブランク材の内周面に内歯を加工する工程と、
を含むことを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明を適用したシルクハットタイプの波動歯車装置の左側面図、縦断面図および右側面図である。
図2図1の波動歯車装置のウエーブジェネレータのウエーブプラグの断面構成を示す模式図、ウエーブプラグの別の例を示す模式図、およびウエーブプラグの更に別の例を示す模式図である。
図3図2のウエーブプラグの製造手順を示す説明図である。
図4】多層中空体から形成した剛性内歯歯車の例を示す断面図である。
図5】本発明を適用可能な波動歯車装置の三例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した波動歯車装置の実施の形態を説明する。図1(a)、(b)および(c)は本実施の形態に係るシルクハットタイプの波動歯車装置の左側面図、縦断面図および右側面図である。
【0030】
波動歯車装置1は、円環状の剛性内歯歯車2と、この内側に同軸に配置したシルクハット形状の可撓性外歯歯車3と、可撓性外歯歯車3の内側に同軸に嵌めたウエーブジェネレータ4とを備えている。可撓性外歯歯車3は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部5と、この円筒状胴部5の一方の端から半径方向の外方に広がっているダイヤフラム6と、円筒状胴部5における他方の開口端の側の外周面部分に形成した外歯7とを備えている。剛性内歯歯車2は、クロスローラーベアリング9を介して、可撓性外歯歯車3を相対回転自在の状態で支持している。本例では、剛性内歯歯車2の円形外周面にクロスローラーベアリング9の内輪軌道面9aが形成されている。クロスローラーベアリング9の外輪9bには、可撓性外歯歯車3が同軸に締結されている。
【0031】
可撓性外歯歯車3の外歯7の形成部分は、ウエーブジェネレータ4によって、非円形状、一般的には楕円状に撓められて、その楕円形状の長軸両端の外歯7の部分が、剛性内歯歯車2の内歯8の部分にかみ合っている。ウエーブジェネレータ4は不図示のモーターによって回転駆動される。ウエーブジェネレータ4は、剛性のウエーブプラグ11と、このウエーブプラグ11の楕円状のウエーブプラグ外周面12に装着されて楕円状に撓められているウエーブベアリング13とを備えている。ウエーブプラグ11にはその中心部を軸線11aの方向に貫通する中空部14が形成されている。
【0032】
(ウエーブプラグ)
図2(a)はウエーブプラグ11の断面構成を示す模式図である。ウエーブプラグ11はCFRP層を含む多層中空体から形成されており、楕円状のプラグ外周面12が形成された金属製円筒からなる外側中空体21と、ウエーブプラグ内周面15が形成された金属製円筒からなる内側中空体22と、外側中空体21と内側中空体22の間に挟まれている中間中空体23とを備えている。
【0033】
中間中空体23は、金属製円筒からなる第1中空体24と、第1中空体24の外周面24aと外側中空体21の内周面21bとの間に挟まれている第1炭素繊維強化プラスチック層25と、第1中空体24の内周面24bと内側中空体22の外周面22aとの間に挟まれている第2炭素繊維強化プラスチック層26とを備えている。
【0034】
外側中空体21、内側中空体22および第1中空体24の素材としては、鋼、ステンレススチール、アルミニウム合金およびチタン合金等を用いることができる。通常は、炭素鋼S45Cが用いられる。各中空体21、22、24に同一の素材を用いることが可能であり、相互に異なる素材を用いることも可能である。また、外側中空体21、内側中空体22に同一素材を用い、中間の第1中空体24に別素材を用いることも可能である。
【0035】
第1、第2CFRP層25、26では、プリプレグのシートワインディングまたは炭素繊維を樹脂母材に所定密度で所定方向に巻き付けるフィラメントワインディングによって、炭素繊維がワインディングされている。ワインディング方向は、円周方向、円周方向とは異なる方向にすることができる。第1、第2CFRP層のワインディング方向を相互に異なる方向とすることもできる。
【0036】
第1、第2CFRP層25、26に用いる樹脂としては、強度の高いエポキシ樹脂、ポリミド樹脂を用いることができ、一般的にはエポキシ樹脂を用いることができる。炭素繊維としては、ピッチ系、PAN系のいずれの炭素繊維も用いることができるが、加工性、弾性、熱伝導、振動減衰能等の観点から、ピッチ系を用いることが望ましい。
【0037】
また、第1、第2CFRP層25、26における炭素繊維の体積分率Vfは、フィラメントワインディング、シートワインディングのいずれの場合においても、55〜65%とすることができる。樹脂部と炭素繊維との接合強度の観点から、最も良い値がVf65%であると言われている。
【0038】
さらに、環状のウエーブプラグ11の径方向の撓みを小さくするために、その円周方向の引張弾性率を大きくすることが望ましい。このためには、第1、第2CFRP層25、26における炭素繊維のワインディング方向を、円周方向(0deg配向)とすればよい。CFRP層の厚みが薄い場合、例えば1.5mm位までであれば、Odeg配向のみで良い。しかし、CFRP層の厚みが増す場合には、その厚みに応じて、その全体の強度を所定レベル以上とするために、0deg配向に45deg配向を組み合せることが望ましい。
【0039】
次に、図2(b)に示すように、中間中空体23を第1炭素繊維強化プラスチック層25のみから形成することも可能である。この場合には、ウエーブプラグ11Aは、楕円状のプラグ外周面12が形成された金属製の外側中空体21と、プラグ内周面15が形成された金属製の内側中空体22と、外側中空体21と内側中空体22の間に挟まれている中間中空体23としての第1CFRP層25とから構成される。
【0040】
また、図2(c)に示すように、中間中空体23が構成されたウエーブプラグ11Bを用いることも可能である。この場合の中間中空体23は、図2(a)に示す第1中空体24、第1、第2CFRP層25、26に加え、金属製円筒からなる内側の第2中空体27と第3CFRP層28とが追加されている。
【0041】
なお、波動歯車装置のウエーブジェネレータとしては、オルダム機構付きのものが知られている。例えば、特許第4155420号公報の図6に記載されている構造のオルダム機構付きウエーブジェネレータが知られている。この場合においても、ウエーブジェネレータのオルダム機構を構成している各ウエーブプラグに本発明を適用可能である。
【0042】
(ウエーブプラグの製造方法)
次に、図3は、上記構成のウエーブプラグ11の製造方法(多層中空体の製造方法)の一例を示す説明図である。図3を参照して説明すると、まず、内側中空体22を形成するための円筒状の内側中空体ブランク材22A、第1中空体24を形成するための円筒状の第1中空体ブランク材24A、および外側中空体21を形成するための円筒状の外側中空体ブランク材21Aを製造する(工程ST1−1、ST1−2、ST1−3)。内側中空体ブランク材22Aの代わりに、金属製の丸棒からなるブランク材を用いることも可能である。
【0043】
次に、内側中空体ブランク材22Aの円形外周面に第2炭素繊維強化プラスチック層26を積層して第1中空積層体31を製造する(ST2−1)。同様に、第1中空体ブランク材24Aの円形外周面に第1炭素繊維強化プラスチック層25を積層して第2中空積層体32を製造する(ST2−2)。
【0044】
次に、第2中空積層体32の円形内周面に第1中空積層体31を圧入して加熱し、第2CFRP層26と第2中空積層体32の円形内周面との間を接着剤によって接着固定する。これにより、第3中空積層体33が得られる(工程ST3)。この後は、外側中空体ブランク材21Aの円形内周面に第3中空積層体33を圧入し、第1炭素繊維強化プラスチック層25と外側中空体ブランク材21Aの円形内周面との間を接着剤によって接着固定する。これにより、第4中空積層体34が得られる(工程ST4)。
【0045】
最後に、第4中空積層体34の外側中空体ブランク材21Aの円形外周面を加工して、楕円形状のウエーブプラグ外周面12を形成する。また、第4中空積層体34の内側中空体ブランク材22Aに後加工を施して、ボルト穴等を形成すると共に、所定径の中空部14を形成する(工程ST5)。このような工程を経て、ウエーブプラグ11が製造される。
【0046】
(剛性内歯歯車の例)
次に、上記の剛性内歯歯車2を、CFRP層を備えた多層中空体から製造することも可能である。図4に多層中空体から形成した剛性内歯歯車2Aを示す断面図であり、剛性内歯歯車2Aは図1に示す剛性内歯歯車2の代わりに用いることができる。
【0047】
剛性内歯歯車2Aは、クロスローラーベアリング(図示せず)の内輪軌道面109aが形成された金属製円筒からなる外側中空体121と、内歯108が形成された金属製円筒からなる内側中空体122と、外側中空体121と内側中空体122の間に挟まれている中間中空体123とを備えている。中間中空体123は一層の炭素繊維強化プラスチック層125から形成されている。
【0048】
外側中空体121、内側中空体122の素材、CFRP層は、先に述べたウエーブプラグ11の場合と同様とすることができる。また、中間中空体123は、図2(a)、(c)に示すような多層構造とすることも可能である。
【0049】
剛性内歯歯車2Aの製造に用いるCFRP層を備えた多層中空体の製造方法としては、図3に示すウエーブプラグに用いる多層中空体の製造方法と同様な方法を採用することができる。剛性内歯歯車2Aの製造工程には、製造された多層中空体の内周面に内歯108を加工する工程、その外周面に内輪軌道面109aを加工する工程等が含まれる。
【0050】
(その他の実施の形態)
本発明を適用した上記の剛性内歯歯車2Aは、クロスローラーベアリングの内輪軌道面109aが一体形成され、所謂、図1に示すユニット型の波動歯車装置に用いられるものである。本発明は、図1に示すユニット型の波動歯車装置以外の各種形態の波動歯車装置に用いる各種構造の剛性内歯歯車にも適用可能である。
【0051】
例えば、図5(a)はカップ型の波動歯車装置を示す縦断面図であり、図5(b)は単列玉軸受けを備えた波動発生器を有するフラット型の波動歯車装置を示す縦断面図であり、図5(c)は複列玉軸受けを備えた波動発生器を有するフラット型の波動歯車装置を示す縦断面図である。図5(a)に示す剛性内歯歯車2B、図5(b)に示す2個の剛性内歯歯車2C1、2C2、および図5(c)に示す2個の剛性内歯歯車2D1、2D2を、本発明による多層中空体から製造することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5