特許第6132999号(P6132999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6132999
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】含フッ素ホウ酸PVBコンポジット
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/14 20060101AFI20170515BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20170515BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20170515BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C08L29/14
   C08K3/38
   C08K5/05
   C09K3/18
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-505393(P2017-505393)
(86)(22)【出願日】2016年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2016057565
(87)【国際公開番号】WO2016143851
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2017年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-46663(P2015-46663)
(32)【優先日】2015年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】福島 剛史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝之
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−316243(JP,A)
【文献】 特開昭54−062234(JP,A)
【文献】 特開平06−175386(JP,A)
【文献】 米国特許第5798170(US,A)
【文献】 特開2004−009734(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/137344(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/137343(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/137346(WO,A1)
【文献】 神奈津希,齋藤禎也,佐藤勝之,沢田英夫,含フッ素アルコール/ホウ酸/ゲスト分子ナノコンポジット類の調製と性質,日本化学会第94春季年会 2014年 講演予稿集III,日本,公益社団法人日本化学会,2014年 3月12日,第1003頁
【文献】 青海雄太,小笠原孝文,西田雅一,田中智子,沢田英夫,プロトン性および非プロトン性溶媒中におけるフルオロアルキル基含有ビニルトリメトキシシランオリゴマー/,日本化学会第94春季年会 2014年 講演予稿集III,日本,公益社団法人日本化学会,2014年 3月12日,第1004頁
【文献】 神奈津希,齋藤禎也,佐藤勝之,沢田英夫,含フッ素アルコール/ホウ酸ナノコンポジット類の調製と応用,日本化学会第94春季年会 2014年 講演予稿集III,日本,公益社団法人日本化学会,2014年 3月12日,第824頁
【文献】 神奈津希,齋藤禎也,佐藤勝之,沢田英夫,含フッ素アルコール/ホウ酸/水酸基含有ポリマーナノコンポジット類の調製と表面改質剤への応用,平成27年度 化学系学協会東北大会講演予稿集,日本,公益社団法人日本化学会東北支部 支部長 及川英俊,2015年 9月12日,第163頁
【文献】 神奈津希,齋藤禎也,佐藤勝之,沢田英夫,含フッ素アルコール/ホウ酸/水酸基含有ポリマーナノコンポジット類の調製と応用,日本化学会第95春季年会 2015年 講演予稿集III,日本,公益社団法人日本化学会,2015年 3月11日,第679頁
【文献】 神奈津希,齋藤禎也,佐藤勝之,沢田英夫,種々の含フッ素アルコール/ホウ酸ナノコンポジット類の調製と応用,2014年度 色材研究発表会 講演要旨集,日本,一般財団法人色材協会,2014年10月23日,第116頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
C09K 3/18
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
Rf(A-OH)k 〔X〕
(ここで、kは1または2であり、kが1の場合Rfは炭素数6以下のパーフルオロアルキル基、該パーフルオロアルキル基のフッ素原子の一部が水素原子で置換されたポリフルオロアルキル基、炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を含んで構成されるポリフルオロアルキル基または炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基、炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有する、直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、kが2の場合Rfは炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有する、直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基またはポリフルオロアルキレン基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコール、ホウ酸およびポリビニルブチラールの縮合体からなる含フッ素ホウ酸PVBコンポジット。
【請求項2】
一般式〔X〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
RF-A-OH 〔I〕
(ここで、RFは炭素数6以下のパーフルオロアルキル基、該パーフルオロアルキル基のフッ素原子の一部が水素原子で置換されたポリフルオロアルキル基、または炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を含んで構成されるポリフルオロアルキル基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールが用いられた請求項1記載の含フッ素ホウ酸PVBコンポジット。
【請求項3】
一般式〔I〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
CnF2n+1(CH2)jOH 〔II〕
(ここで、nは1〜6、jは1〜6の整数である)で表されるポリフルオロアルキルアルコールが用いられた請求項2記載の含フッ素ホウ酸PVBコンポジット。
【請求項4】
一般式〔I〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOH 〔III〕
(ここで、nは1〜6、aは1〜4、bは0〜2、cは1〜3の整数である)で表されるポリフルオロアルキルアルコールが用いられた請求項2記載の含フッ素ホウ酸PVBコンポジット。
【請求項5】
含フッ素アルコール100重量部に対しホウ酸が0.1〜50重量部の割合で用いられた請求項2記載の含フッ素ホウ酸PVBコンポジット。
【請求項6】
一般式〔X〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
RF′-A-OH 〔Ia〕
または一般式
HO-A-RF′′-A-OH 〔Ib〕
(ここで、RF′は炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基、炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有する、直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、RF′′は炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有する、直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基またはポリフルオロアルキレン基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールが用いられた請求項1記載の含フッ素ホウ酸PVBコンポジット。
【請求項7】
一般式〔Ia〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
CmF2m+1O〔CF(CF3)CF2O〕dCF(CF3)(CH2)eOH 〔IIa〕
(ここで、mは1〜3、dは0〜100、eは1〜3の整数である)で表されるヘキサフルオロプロペンオキシドオリゴマーアルコールが用いられた請求項6記載の含フッ素ホウ酸PVBコンポジット。
【請求項8】
一般式〔Ia〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
CmF2m+1(OCF2CF2CF2)s(OCF2CF2)t(OCF2)u(CH2)vOH 〔IIa´〕
(ここで、mは1〜3、s、t、uはそれぞれ0〜200、vは1または2の整数である)で表されるポリフルオロポリエーテルアルコールが用いられた請求項6記載の含フッ素ホウ酸PVBコンポジット。
【請求項9】
一般式〔Ib〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
HO(CH2)fCF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕gO(CF2)hO〔CF(CF3)CF2O〕i
CF(CF3)(CH2)fOH 〔IIb〕
(ここで、fは1〜3、g+iは0〜50、hは1〜6の整数である)で表されるパーフルオロアルキレンエーテルジオールが用いられた請求項6記載の含フッ素ホウ酸PVBコンポジット。
【請求項10】
一般式〔Ib〕で表される含フッ素アルコールとして、一般式
HO(CH2CH2O)pCH2CF2(OCF2CF2)q(OCF2)rOCF2CH2(OCH2CH2)pOH
〔IIb´〕
(ここで、pは0〜6、q+rは0〜50の整数である)で表されるポリフルオロアルキレンエーテルジオールが用いられた請求項6記載の含フッ素ホウ酸PVBコンポジット。
【請求項11】
含フッ素アルコール100重量部に対しホウ酸が0.1〜50重量部の割合で用いられた請求項6記載の含フッ素ホウ酸PVBコンポジット。
【請求項12】
請求項2記載の含フッ素アルコール〔I〕または請求項6記載の含フッ素アルコール〔Ia〕または〔Ib〕およびホウ酸をポリビニルブチラールの存在下で縮合反応させることを特徴とする含フッ素ホウ酸PVBコンポジットの製造法。
【請求項13】
請求項2または6記載の含フッ素ホウ酸PVBコンポジットを有効成分とする表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ホウ酸PVBコンポジットに関する。さらに詳しくは、表面処理特性を改善せしめた含フッ素ホウ酸PVBコンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
無機材料表面を各種の化合物やポリマーでコーティングすることにより、様々な表面特性を発現させることが知られている。中でも、フッ素系化合物を表面処理に使用した場合には、フッ素原子の有する特性から、撥水性だけではなく撥油性の点でも表面改質できるので、様々な基材へのコーティングに利用されている。
【0003】
特に、C8のパーフルオロアルキル基を有する表面処理剤を基質に塗布するとことで、高い撥水撥油性を示すコーティングが可能であるが、近年C7以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物が、細胞株を用いた試験管内試験において、発がん因子と考えられている細胞間コミュニケーション阻害をひき起すこと、かつこの阻害は官能基ではなく、フッ素化された炭素鎖長に依存し、炭素鎖が長いもの程阻害力が高いことが報告されており、フッ素化された炭素数の長い化合物を使用したモノマーの製造が制限されるようになってきている。
【0004】
また、炭素数が6以下のパーフルオロアルキル基を有する含フッ素アルコールにあっては、ガラス、金属、石材等の無機質基材への十分な密着性に欠けるという問題もみられる。
【0005】
特許文献1には、セラミックススラリーのセラミックス粉末として酸化ホウ素B2O3を使用し、ポリビニルブチラール〔PVB〕が用いられる樹脂バインダー中の水酸基をホウ素に対して50モル%以下、有機溶剤中の水分量をホウ素に対して10モル%以下としたセラミックススラリーが記載されている。
【0006】
ここで、セラミックススラリーの粉末として酸化ホウ素を使用しているのは、次式で示される反応を抑制するためであるとされている。
B(OH)3 + 2H2O → B(OH)4- + H3O+
【0007】
また、ホウ素の物質量に対するスラリー中の水酸基量を50モル%以下にすることにより、ゲル化を防ぐことができ、PETフィルム等に適用したときフィルムからの剥れを抑制することができると述べられている。なお、ホウ酸を使用したものは、比較例とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−238254号公報
【特許文献2】特許第4674604号公報
【特許文献3】WO 2007/080949 A1
【特許文献4】特開2008−38015号公報
【特許文献5】米国特許第3,574,770号公報
【特許文献6】WO 2014/024873 A1
【特許文献7】WO 2012/091116 A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】あいち産業科学総合センター研究報告書(2003)
【非特許文献2】京都大学化学研究所報告(1951)第26巻第95〜96頁
【非特許文献3】京都大学化学研究所報告(1952)第28巻第78頁
【非特許文献4】高分子化学(1954)第11巻第23〜27頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、環境中に放出されてもパーフルオロオクタン酸等を生成させず、しかも短鎖の化合物に分解され易いユニットを有する含フッ素アルコールを用い、無機質基材等に対する密着性を有し、また撥水性や撥油性を有する含フッ素ホウ酸PVBコンポジットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によって、一般式
Rf(A-OH)k 〔X〕
(ここで、kは1または2であり、kが1の場合Rfは炭素数6以下のパーフルオロアルキル基、該パーフルオロアルキル基のフッ素原子の一部が水素原子で置換されたポリフルオロアルキル基、炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を含んで構成されるポリフルオロアルキル基または炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基、炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有する、直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、kが2の場合Rfは炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有する、直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基またはポリフルオロアルキレン基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコール、ホウ酸およびポリビニルブチラールの縮合体からなる含フッ素ホウ酸PVBコンポジットが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明で用いられる含フッ素アルコールは、末端パーフルオロアルキル基、末端ポリフルオロアルキル基やパーフルオロアルキル基またはポリフルオロアルキル基中のパーフルオロアルキレン鎖の炭素数が6以下のものであり、短鎖の含フッ素化合物に分解され易いユニットを有しているため、環境汚染につながらない。
【0013】
また、含フッ素アルコールとポリビニルブチラールとの混合物が撥水撥油性を有し、これらをホウ酸と反応させて得られる含フッ素ホウ酸PVBコンポジットは、含フッ素アルコールをコンポジットの核となるホウ酸に吸着させており、このコンポジットを基材表面に形成させた薄膜はPVBと複合化されているため、PVB単独あるいはPVB-ホウ酸化合物から形成される薄膜と比べて、ガラス、金属、石材等の無機質基材に対する同等の密着性を示しつつ、良好な撥油性を発現させている。さらに、用いられる含フッ素アルコールの種類を種々変化させることにより、異なる表面特性を有する薄膜の形成を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般式〔X〕で表される含フッ素アルコールとしては、一般式
RF-A-OH 〔I〕
(ここで、RFは炭素数6以下のパーフルオロアルキル基、該パーフルオロアルキル基のフッ素原子の一部が水素原子で置換されたポリフルオロアルキル基、または炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を含んで構成されるポリフルオロアルキル基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールが用いられる。この含フッ素アルコール〔I〕とポリビニルブチラールの混合物の有機溶媒溶液は、各種基材の表面処理剤として用いられる。
【0015】
また、一般式〔X〕で表される含フッ素アルコールとしては、一般式
RF′-A-OH 〔Ia〕
または一般式
HO-A-RF′′-A-OH 〔Ib〕
(ここで、RF′は炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基、炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有する、直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、RF′′は炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有する、直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基またはポリフルオロアルキレン基であり、Aは炭素数1〜6のアルキレン基である)で表される含フッ素アルコールが用いられる。この含フッ素アルコール〔Ia〕または〔Ib〕とポリビニルブチラールとの混合物の有機溶媒溶液は、各種基材の表面処理剤として用いられる。
【0016】
含フッ素アルコール〔I〕としては、例えば一般式
CnF2n+1(CH2)jOH 〔II〕
n:1〜6、好ましくは4〜6
j:1〜6、好ましくは1〜3、特に好ましくは2
で表されるポリフルオロアルキルアルコール等が用いられる。
【0017】
アルキレン基Aとしては、CH2基、CH2CH2基等が挙げられ、かかるアルキレン基を有するパーフルオロアルキルアルキルアルコールとしては、2,2,2-トリフルオロエタノール(CF3CH20H)、3,3,3-トリフルオロプロパノール(CF3CH2CH2OH)、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパノール(CF3CF2CH20H)、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブタノール(CF3CF2CH2CH2OH)、2,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタノール(CF3CF2CF2CF2CH20H)、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキサノール(CF3CF2CF2CF2CH2CH2OH)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクタノール(CF3CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH2OH)等が例示される。
【0018】
また、末端ポリフルオロアルキル基は、末端パーフルオロアルキル基の末端CF3基が例えばCF2H基などに置き換った基あるいは中間CF2基がCFH基またはCH2基に置き換った基を指しており、かかる置換基を有する含フッ素アルコール〔I〕としては、例えば2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール(HCF2CF2CH2OH)、2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロブタノール(CF3CHFCF2CH2OH)、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンタノール(HCF2CF2CF2CF2CH2OH)等が挙げられる。
【0019】
一般式〔II〕で表されるポリフルオロアルキルアルコールは、例えば特許文献2に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
まず、一般式
CnF2n+1(CF2CF2)b(CH2CH2)cI
で表されるポリフルオロアルキルアイオダイド、例えば
CF3(CH2CH2)I
CF3(CH2CH2)2I
C2F5(CH2CH2)I
C2F5(CH2CH2)2I
C3F7(CH2CH2)I
C3F7(CH2CH2)2I
C4F9(CH2CH2)I
C4F9(CH2CH2)2I
C2F5(CF2CF2)(CH2CH2)I
C2F5(CF2CF2)(CH2CH2)2I
C2F5(CF2CF2)2(CH2CH2)I
C2F5(CF2CF2)2(CH2CH2)2I
C4F9(CF2CF2)(CH2CH2)I
C4F9(CF2CF2)(CH2CH2)2I
をN-メチルホルムアミド HCONH(CH3)と反応させ、ポリフルオロアルキルアルコールとそのギ酸エステルとの混合物とした後、酸触媒の存在下でそれに加水分解反応させ、ポリフルオロアルキルアルコール
CnF2n+1(CF2CF2)b(CH2CH2)cOH
を形成させる。ただし、n+2bの値は6以下である。
【0020】
含フッ素アルコール〔I〕としてはまた、RF基が炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基および炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基を含んで構成されるポリフルオロアルキル基であり、具体的には炭素数3〜20、好ましくは6〜10のポリフルオロアルキル基であり、Aが炭素数2〜6、好ましくは2のアルキレン基である含フッ素アルコール、例えば一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOH 〔III〕
n:1〜6、好ましくは2〜4
a:1〜4、好ましくは1
b:0〜2、好ましくは1〜2
c:1〜3、好ましくは1
で表されるポリフルオロアルキルアルコール等も用いられる。
【0021】
一般式〔III〕で表されるポリフルオロアルキルアルコールは、特許文献2に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
まず、一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cI
で表されるポリフルオロアルキルアイオダイド、例えば
CF3(CH2CF2)(CH2CH2)I
C2F5(CH2CF2)(CH2CH2)I
C2F5(CH2CF2)(CH2CH2)2I
C3F7(CH2CF2)(CH2CH2)I
C3F7(CH2CF2)(CH2CH2)2I
C4F9(CH2CF2)(CH2CH2)I
C4F9(CH2CF2)(CH2CH2)2I
C2F5(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)I
C2F5(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)2I
C2F5(CH2CF2)2(CF2CF2)(CH2CH2)I
C2F5(CH2CF2)2(CF2CF2)(CH2CH2)2I
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)I
C4F9(CH2CF2)2(CF2CF2)(CH2CH2)I
C4F9(CH2CF2)(CF2CF2)(CH2CH2)2I
C4F9(CH2CF2)2(CF2CF2)(CH2CH2)2I
をN-メチルホルムアミド HCONH(CH3)と反応させ、ポリフルオロアルキルアルコールとそのギ酸エステルとの混合物とした後、酸触媒の存在下でそれに加水分解反応させ、ポリフルオロアルキルアルコール
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOH
を形成させる。
【0022】
含フッ素アルコール〔Ia〕としては、RF′基が炭素数6以下の末端パーフルオロアルキル基、炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有する、直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、具体的には炭素数3〜305、好ましくは8〜35のエーテル結合含有パーフルオロアルキル基であり、Aが炭素数1〜3、好ましくは1のアルキレン基である含フッ素アルコール、例えば一般式
CmF2m+1O〔CF(CF3)CF2O〕dCF(CF3)(CH2)eOH 〔IIa〕
m:1〜3、好ましくは3
d:0〜100、好ましくは1〜10
e:1〜3、好ましくは1
で表されるヘキサフルオロプロペンオキシドオリゴマーアルコール
または一般式
CmF2m+1(OCF2CF2CF2)s(OCF2CF2)t(OCF2)u(CH2)vOH 〔IIa´〕
m:1〜3、好ましくは3
s、t、u:それぞれ0〜200の整数、好ましくは0〜80の
整数
v:1または2、好ましくは1
で表されるポリフルオロポリエーテルアルコール等が用いられる。
【0023】
また、含フッ素アルコール〔Ib〕としては、RF′′基が炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有し、具体的には炭素数5〜160のパーフルオロアルキレン基またはポリフルオロアルキレン基であり、Aが炭素数1〜3、好ましくは1のアルキレン基である含フッ素アルコール、例えば一般式
HO(CH2)fCF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕gO(CF2)hO〔CF(CF3)CF2O〕iCF(CF3)(CH2)fOH
〔IIb〕
f:1〜3、好ましくは1
g+i:0〜50、好ましくは2〜50
h:1〜6、好ましくは2
または一般式
HO(CH2CH2O)pCH2CF2(OCF2CF2)q(OCF2)rOCF2CH2(OCH2CH2)pOH 〔IIb´〕
p:0〜6、好ましくは1〜4
q+r:0〜50、好ましくは10〜40
で表されるパーまたはポリフルオロアルキレンエーテルジオール等が用いられる。
【0024】
一般式〔IIa〕で表されるヘキサフルオロプロペンオキシドオリゴマーアルコールにおいて、m=1、e=1の化合物は特許文献3に記載されており、次のような工程を経て合成される。
一般式 CF3O〔CF(CF3)CF2O〕nCF(CF3)COOR (R:アルキル基、n:0〜12の整数)で表される含フッ素エーテルカルボン酸アルキルエステルを、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いて還元反応させる。
【0025】
一般式〔IIa´〕で表されるポリフルオロポリエーテルアルコールとしては、市販品、例えばダイキン工業製品デムナム(DEMNUM)SA等を用いることができる。
【0026】
さらに、一般式〔IIb〕で表されるパーフルオロアルキレンエーテルジオールにおいて、f=1は特許文献4〜5に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
FOCRfCOF → H3COOCRfCOOCH3 → HOCH2RfCH2OH
Rf:-CF(CF3)〔OCF2C(CF3)〕aO(CF2)cO〔CF(CF3)CF2O〕bCF(CF3)-
【0027】
一般式〔IIb´〕で表されるポリフルオロアルキレンエーテルジオールとしては、市販品、例えばSolvay Solexis社製品Fomblin Z DOL TX等を用いることができる。
【0028】
ポリビニルブチラールとしては、ポリ酢酸ビニル〔PVAc〕をけん化し、けん化されたポリビニルアルコール〔PVA〕をブチルアルデヒドでアセタール化したものが用いられる。PVAcのけん化度は一般に約70〜99.9モル%であり、未けん化部分はアセチル基として残存する。けん化されて得られたPVBの平均分子量は約1×104〜2×105程度であり、それのブチラール化度(JIS K6728準拠)は約50〜80モル%程度のものが用いられる。
【0029】
実際には市販品、例えば積水化学工業製品エスレックBシリーズ、電気化学工業製品デンカブチラール等が用いられる。
【0030】
このポリビニルブチラールは、種々の溶媒に可溶性であるという特性を有し、主にガラス中間膜や塗料配合剤として使用されている(特許文献6〜7)。特許文献7には、ポリビニルブチラール樹脂中にホウ素原子を有する化合物を均一に分散させることが記載されているが、それは合わせガラス用中間膜における各層の押出成形を容易にするためであると述べられている。また、ポリビニルブチラールはシリカ等の無機粒子と複合化することで、密着性、表面硬度、耐衝撃性を有する薄膜を形成可能であることが知られている(非特許文献1)。
【0031】
なお、PVBの前駆体であるPVAにおいて、ホウ素化合物等を添加した複合材料の粘度上昇に関する基礎的な研究が行われている(非特許文献2〜4)。
【0032】
これらの各成分は、含フッ素アルコール100重量部に対し、ホウ酸が約0.1〜100重量部、好ましくは約10〜60重量部の割合で、かつ一般に等モル量で、またポリビニルブチラールが約5〜600重量部、好ましくは約10〜200重量部の割合で用いられる。ホウ酸の使用割合がこれよりも多い割合で使用されると溶媒への分散性が悪くなる。また、ポリビニルブチラールの使用割合がこれよりも多い割合で使用されると撥水撥油性が低くなる。ホウ酸を用いない場合には、それの有機溶媒溶液、例えば濃度約1.0〜3.0g/Lのメタノール、テトラヒドロフラン溶液などは良好な撥油性を示している。含フッ素アルコール(およびホウ酸)とポリビニルブチラールとの反応は、これらの可溶性溶媒、例えばテトラヒドロフランを用い、一般に室温条件下で混合することにより行われる。
【0033】
得られた含フッ素ホウ酸PVBコンポジット中の含フッ素アルコール量は、約25〜98モル%、好ましくは約40〜70モル%であり、コンポジット径(動的光散乱法により測定)は約10〜600nm、好ましくは約15〜350nmである。
【0034】
含フッ素アルコールとポリビニルブチラールとの混合物を用いることにより、ガラス等の無機質基材への密着性および撥水撥油性を有するコーティングを可能とする。また、これらをホウ酸と反応させて得られる含フッ素ホウ酸PVBコンポジットは、ホウ酸粒子の水酸基に含フッ素アルコールが結合しているものと考えられ、したがってホウ酸の化学的、熱的安定性とフッ素のすぐれた撥水撥油性、防汚性などが有効に発揮されており、実際にガラス表面を含フッ素ホウ酸PVBコンポジットで処理したものは良好な撥水撥油性を示している。
【0035】
なお、含フッ素ホウ酸PVBコンポジットは、含フッ素アルコール、ポリビニルブチラールおよびホウ酸粒子の縮合反応生成物としても形成されるが、この発明の目的を阻害しない限り他の成分の混在も許容される。かかる他の成分としては、有機モノ-またはポリ-カルボン酸エステルである有機エステル可塑剤、有機リン酸エステル可塑剤、有機亜リン酸エステル可塑剤等の可塑剤、好ましくは液状可塑剤を挙げることができる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0037】
実施例1
容量30mlの反応容器に、CF3(CF2)5(CH2)2OH〔FA-6〕100mg(0.27モル)、ホウ酸17mg(0.27モル)およびテトラヒドロフラン5mlを仕込み、室温条件下で5時間攪拌した。その後、テトラヒドロフラン15mlに溶解させたポリビニルブチラール〔PVB〕(積水化学工業製品エスレックB BM-2;PVBの平均重合度5.2×104、ブチラール化度68モル%、アセチル化度1モル%、水酸基含有率31モル%)500mg(9.62×10-3ミリモル;平均分子量から算出)からなるポリマー溶液を滴下し、目視で反応溶液の均一性を確認した後、室温条件下で一昼夜攪拌した。反応終了後、80℃で溶媒を留去し、回収した生成物を70℃の乾燥機、次いで50℃の減圧乾燥機で乾燥させた。555.3mg(収率90%)の含フッ素ホウ酸PVBコンポジットが得られた。
【0038】
得られたコンポジットについて、次の各項目の測定を行った。
粒子径およびそのバラツキ:表1
25℃で固形分濃度1g/Lメタノール分散液について、動的光散乱(DLS)測定法によって測定
液滴の接触角(単位:°):表2
メタノール分散液(粒子濃度5g/L)を、ガラスプレパラート(MATSUNAMI社製マイクロカバーグラス)にディッピングし、室温条件下で乾燥させ、得られた薄膜表面にn-ドデカンまたは水の液滴4μlを静かに接触させ、付着した液滴の接触角を、θ/2法により接触角計(協和界面化学製Drop Master 300)で測定した。なお、水については経時的な測定が行われた。
ガラス基材との密着性:テープ剥離試験として行った
結果は、各実施例、各比較例共、テープ剥
離試験前後の接触角測定において、特に撥
水撥油性能の低下がみられず、いずれも密
着性は良好であった。
【0039】
実施例2〜5
実施例1において、含フッ素アルコール(FA-6)量およびホウ酸量が種々変更されて用いられた。
表1
FA-6 ホウ酸 収量 収率 粒子径
実施例 mg mM mg mM (mg) (%) (nm)
1 100 0.27 17 0.27 555.3 90 430.3± 44.5
2 200 0.55 43 0.70 594.4 80 24.3± 2.4
3 300 0.82 51 0.82 731.9 86 319.6± 82.8
4 400 1.10 68 1.10 803.4 83 244.1± 61.9
5 500 1.37 85 1.37 889.7 82 482.3±125.4

表2(ガラス基材)
水 (経過時間:分)
実施例 n-ドデカン 10 15 20 25 30
1 23 62 63 60 56 51 48 42
2 22 65 64 60 57 52 48 44
3 29 66 66 62 57 54 50 45
4 25 65 62 50 44 39 35 28
5 35 70 50 45 41 34 34 28
【0040】
実施例6〜9
実施例1において、含フッ素アルコール(FA-6)が10mg(0.03ミリモル)、テトラヒドロフランが合計10ml、ポリビニルブチラール(PVB)が種々の量で用いられ、ホウ酸が用いられなかった。得られた混合物溶液をそのまま塗布溶液として使用した。
実施例6:PVB 10mg(1.92×10-4ミリモル)
実施例7:PVB 5mg(9.62×10-5ミリモル)
実施例8:PVB 2mg(3.85×10-5ミリモル)
実施例9:PVB 1mg(1.92×10-5ミリモル)
ガラス基材に対する液滴の接触角は表3に、またPETフィルム基材に対する液滴の接触角は表4にそれぞれ示される。
表3(ガラス基材)
水 (経過時間:分)
実施例 n-ドデカン 10 15 20 25 30
6 30 59 52 49 42 39 32 30
7 28 52 46 49 36 32 27 22
8 30 51 44 40 36 31 25 20
9 46 79 76 76 64 55 47 44

表4(PETフィルム)
水 (経過時間:分)
実施例 n-ドデカン 10 15 20 25 30
6 32 81 78 78 74 64 57 50
7 36 77 72 72 65 54 51 44
8 31 81 68 68 65 57 52 46
9 37 90 81 81 74 56 47 46
【0041】
実施例10〜14
実施例1において、含フッ素アルコールとして
HO(CH2CH2O)pCH2CF2(OCF2CF2)q(OCF2)rOCF2CH2(OCH2CH2)pOH
p:3
q+r:20
(Solvay Solexis社製品Fomblin Z DOL TX)5mg(0.0024ミリモル)、ポリビニルブチラール0.5mg(9.62×10-6ミリモル)、テトラヒドロフランが合計5ml、ホウ酸が種々の量で用いられ、得られた反応溶液をそのまま塗布溶液として使用した。
実施例10:ホウ酸 5.0mg(0.081ミリモル)
実施例11:ホウ酸 2.5mg(0.040ミリモル)
実施例12:ホウ酸 1.0mg(0.016ミリモル)
実施例13:ホウ酸 0.5mg(0.008ミリモル)
実施例14:ホウ酸 −
ガラス基材に対する液滴の接触角は、次の表5に示される。
表5(ガラス基材)
水 (経過時間:分)
実施例 n-ドデカン 10 15 20 25 30
〃 10 57 69 41 39 34 31 28 15
〃 11 60 80 51 48 42 38 34 22
〃 12 57 63 42 38 33 30 21 18
〃 13 56 69 45 43 39 34 32 29
〃 14 57 76 57 53 49 45 41 36
【0042】
下記比較例4(PVB/ホウ酸)を基準として以上の各実施例10〜14を評価すると、n-ドデカンに対する接触角の点においてすぐれていることが分かる。すなわち、撥油性の点ですぐれているといえる。
【0043】
比較例1〜5
実施例1の液滴の接触角測定において、含フッ素ホウ酸PVBコンポジットメタノール分散液の代りに、下記試料のメタノール分散液(5g/L)を用いてコーティングされたガラス基材(表6)またはPETフィルム基材(表7)が用いられた。
比較例1:ガラス基材のみ(コーティングなし)
比較例2:PETフィルム基材のみ(コーティングなし)
比較例3:PBV
比較例4:PBV/ホウ酸
(500mg、9.62×10-3ミリモル/85mg、1.37ミリモ
ル)
比較例5:ホウ酸

表6(ガラス基材)
水 (経過時間:分)
比較例 n-ドデカン 10 15 20 25 30
1 0 50 41 36 34 31 26 29
2 − − − − − − − −
3 13 85 79 73 70 67 62 52
4 41 93 79 74 71 65 61 50
5 22 66 47 43 39 37 32 27

表7(PETフィルム)
水 (経過時間:分)
比較例 n-ドデカン 10 15 20 25 30
1 − − − − − − − −
2 0 76 68 66 61 60 60 58
3 13 85 79 73 70 67 62 52
4 41 93 79 74 71 65 61 50
5 22 66 47 43 39 37 32 27