【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
まず、紅茶葉40g(スリランカ産セイロン紅茶、三井農林株式会社製)から紅茶抽出液を抽出倍率20倍で抽出した。抽出条件は、85℃、7分とした。次に、この濃縮抽出により得られた紅茶抽出液をタンナーゼ0.2g(タンナーゼKTFH、キッコーマン株式会社製)により、温度25〜30℃の下で60分間処理した。このタンナーゼ処理の後に、L−アスコルビン酸ナトリウム1g、重炭酸ナトリウム0.3gでpHを調製し、全量を1000mLとなるよう純水で希釈し、想定飲用濃度の2倍となるよう調製した。さらに、135℃で30秒加熱する超高温殺菌を行い、紅茶飲料を得た。
【0050】
(実施例2)
タンナーゼ処理の後にキシリトール20g(ダニスコジャパン社製)及びスクラロース0.08g(三栄源エフ・エフ・アイ)を加えた以外は、実施例1と同様にした。
【0051】
(実施例3)
紅茶葉36g(ケニア産、三井農林株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0052】
(比較例1)
タンナーゼ処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にした。
【0053】
(比較例2)
タンナーゼ処理を行わなかった以外は、実施例2と同様にした。
【0054】
(比較例3)
タンナーゼ処理を行わなかった以外は、実施例3と同様にした。
【0055】
1.紅茶飲料の分析
実施例1〜3、比較例1〜3について、分析を行った。分析項目は、以下のとおり。結果は、表1に示す。なお、表1中、TF−1は、テアフラビン3−モノガレートであり、TF−1'は、テアフラビン3'−モノガレートであり、TF−2は、テアフラビン3,3'−ジガレートである。
(1)pH
pH計(製品名:pHメーターM−13、堀場製作所社製)により測定した。
(2)吸光度
褐色度(420nm)及び濁度(720nm)について、紫外・可視分光強度計(製品名:分光光度計U−1500、日立ハイテク社製)により測定した。
(3)Brix値(糖度)
糖度計(製品名:デジタル示差濃度計DD−7、アタゴ社製、またはデジタル屈折計RX−5000α、アタゴ社製)により測定した。
(4)ポリフェノール
試料の紅茶飲料を酒石酸鉄法によるタンニン値を350mg/100mlに調製した。その他分析項目については、アサヒ飲料社定法にて測定した。
【0056】
【表1】
【0057】
分析の結果、表1及び
図1で示すように、実施例1〜3では、ポリフェノール組成において非ガレート型カテキンの占める割合が多くなった。また、実施例1と実施例3とを比較すると、茶葉製法の違いによるポリフェノール組成の差が現れた。
【0058】
2.マウス単回投与試験
8週齢雄性ICRマウスを5日間順化させた後3群に分け、10時間絶食後、採血し(0時間)、直ちにオリーブオイル0.1mlと実施例1〜3、または、比較例1〜3いずれかの紅茶飲料0.2ml(対照群は脱塩水)を経口投与し、2、3、5時間後の血漿トリグリセリド(TG)を測定した。血液は30分放置後遠心分離(3000rpm、15℃、20分)を行い、得られた上清を血漿とし、トリグリセリドの測定に用いた。血漿トリグリセリドは、トリグリセライドE−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用い、酵素法(GPO・DAOS法)にて測定した。なお、血漿トリグリセリド濃度は、標準液を用いて作成した標準曲線を用いて算出した。また試験結果は、平均値は±標準誤差で示し、各群間の有意差はFisherの最小有意差法(Fisher−LDS)を用いて検定した(以降すべての試験結果の各群間の有意差についても同様である)。
【0059】
結果を
図2〜5に示す。まず、実施例1と比較例1との結果の比較(
図2)、実施例2と比較例2との結果の比較(
図3)、実施例3と比較例3との結果の比較(
図4)から、実施例1〜3について、血漿トリグリセリド値の上昇を抑制する傾向にあり、
図5で示すように、実施例1と比較例1との結果の比較において、2時間後で有意差が見られた。
【0060】
3.マウス長期投与試験
5週齢雄性C57BL/6Jマウスを5日間予備飼育した後、空腹時血糖値と体重を測定し、対照群5匹(Con)、高脂肪食群6匹(HF)、比較例1の紅茶群5匹(CBT1)、実施例1の紅茶群6匹(CBT2)、イソケルシトリン(Isoquercitrin)群5匹(Iso)、テアフラビン(Theaflavin)群6匹(Thea)の6群に分けた。飼育期間は94日間とし、期間中体重と食餌摂取量は毎日測定した。また、本飼育1,4,7,9,12週目(本飼育1日目、22日目、44日目、59日目、81日目)に血糖値の測定を行い、本飼育12週目(本飼育81日目)に血漿トリグリセリド、血漿遊離脂肪酸(NEFA)の測定を行った。また、本飼育13週目(本飼育89〜91日目)にパルマスIIIN145×195mm(株式会社天然素材探索研究所)をマウスゲージの下に置き糞の採取を72時間行った。
マウスは94日間の本飼育の後、12時間絶食後開腹し、心臓より血液を採取した。次に肝臓、腎臓、腎周囲脂肪、精巣周囲脂肪、内臓(腸間膜)周囲脂肪を摘出した。摘出した臓器は直ちに測定用に調製するもの以外は液体窒素にて凍結し凍結保存(−84℃)した。血液サンプルはエッペンチューブに入れ1時間放置し、遠心分離(3000rpm、15℃、30分)を行い、得られた上清を血清として新たなエッペンチューブに移し、測定まで−84℃に保存した。
【0061】
飼料組成は表2に示した。CBT1群、CBT2群はカゼイン80gに紅茶30mlの割合で混合し、凍結乾燥したものをカゼインとし、高脂肪食と同じ組成のものを給餌した(紅茶カゼインは水分補正を行い20%とした)。Iso群にはIsoquercitrin粉末(EXTRASYNTHESE社製)を、Thea群にはTheaflavin粉末(三井農林株式会社製)をそれぞれサンプルとして高脂肪食に添加したものを給餌した。
【0062】
【表2】
【0063】
空腹時血糖値は12時間絶食後、メディセーフミニGR−102(テルモ株式会社)を用いて測定した。ヘモグロビンA
1c(HbA
1c)は、解剖時に心臓より採血した血液で、マイクロマットIIHbA
1cカートリッジ(Bio−Rad Laboratories)を用いて測定した。
血漿トリグリセリド,血漿NEFAは12時間絶食後「2.マウス単回投与試験」と同様に処理した。血漿トリグリセリドは「2.マウス単回投与試験」と同様の方法で測定し、血漿NEFAはNEFA C−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用い、酵素法(ACS・ACOD法)にて測定した。なお、濃度は、標準液を用いて作成した標準曲線を用いて算出した。
【0064】
血清トリグリセリド、血清NEFAは既述の保存した血清を用いて測定した。血清総コレステロール(TC)はコレステロールE−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用い、酵素法(コレステロールオキシダーゼ・DAOS法)にて測定した。なお、濃度は、標準液を用いて作成した標準曲線を用いて算出した。
【0065】
肝臓脂質、糞中脂質の抽出は、J.Folchらの方法(J.Folch,M.Less,and H.S.Stanly:A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues,J.Biol.Chem.,226,497−509(1957))にて行い、各脂質の測定は前述の方法にて行った。
【0066】
肝臓リン脂質(PL)は、リン脂質C−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用い、コリンオキシダーゼ・DAOS法にて測定した。
【0067】
糞中総胆汁酸は、総胆汁酸−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用い、酵素比色法にて測定した。
【0068】
肝臓脂質代謝系酵素活性の測定に用いるサンプルの調製は次のとおり行った。採血後直ちに摘出した肝臓から0.5gを切り分け、7倍量の0.25Mショ糖破砕溶液(pH7.2、1mM EDTA、3mM Tris−HCl含有)を加え、氷中でガラス製ホモジナイザーを用いてホモジナイズした。このホモジネート液を遠心分離(1000rpm、4℃、10分)し、得られた上清をさらに遠心分離(9000rpm、4℃、10分)し上清と沈殿を分取した。この上清をさらに遠心分離(100000×g、4℃、60分)し、上清と沈殿を分取した。得られた上清はサイトゾル画分として肝臓における脂質代謝系酵素活性の測定に用いた。酵素活性をタンパク質mgで求めるため、A/G B−テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用い、ビウレット法にてタンパク質を定量した。
【0069】
脂肪酸合成酵素活性は、セルに0.2Mリン酸カリウムバッファー(pH7.0)0.5ml、2.5mM アセチル−CoA0.2ml、10mM NADPH0.03ml、サンプル0.05ml、蒸留水0.41mlを順次入れ、パラフィルムでふたをしてセルを上下にして混合した後、30℃に保温した恒温セルホルダーに装着し、経時的に吸光度を測定(339nm、測定時間120秒)した。次に10mMマロニル−CoA 0.02mlを加えて混合した後、30℃に保温した恒温セルホルダーに装着し、再び経時的に吸光度を測定(339nm、測定時間120秒)した。また、ブランクは0.2Mリン酸カリウムバッファー(pH7.0)0.05mlを用い、サンプルの吸光度を補正した。分子吸光係数を6620M
−1cm
−1として、酵素活性を[式1]で求めた。
【0070】
[式1]
脂肪酸合成酵素(mmol/mg)=(吸光度の変化量/6620)×1000/サンプル中のタンパク質量(mg)
【0071】
カルニチンパルミトイル転移酵素活性の測定は、カルニチン依存的にアシル−CoAから遊離するCoAをジチオニトロ安息香酸(DTNB)と反応させ、生じる黄色の色素を経時的に測定する逆反応により活性値を求めた。すなわち、セルに116mM Tris−HClバッファー(pH8、2.5mM EDTA、0.2%TritonX−100、0.005mM DTNB含有)0.5ml、サンプル0.02ml、蒸留水0.45mlを順次入れ、パラフィルムでふたをしてセルを上下にして混合し、30℃に保温した恒温セルホルダーに装着し、経時的に吸光度を測定(412nm、Rate Time120秒)した。次に2mMパルミトイル−CoA0.02mlを加え混合し、経時的に吸光度を測定(412nm、Rate Time120秒)した。また、ブランクとして116mM Tris−HClバッファー(pH8、2.5mM EDTA、0.2%TritonX−100、0.005mM DTNB含有)0.02mlを用い、サンプルの吸光度を補正した。分子吸光係数を13600M
−1cm
−1として、酵素活性を[式2]で求めた。
【0072】
[式2]
カルニチンパルミトイル転移酵素(mmol/mg)=(吸光度の変化量/13600)×1000/サンプル中のタンパク質量(mg)
【0073】
血清レプチンはモリナガレプチン測定キット(株式会社森永生化学研究所)を用い、ELISA法により測定した。なお、濃度は、標準液を用いて作成した標準曲線を用いて算出した。
【0074】
血清インスリンはレビスインスリン−マウス(Sタイプ)(株式会社シバヤギ)を用い、ELISA法により測定した。なお、濃度は、標準液を用いて作成した標準曲線を用いて算出した。
【0075】
血清アディポネクチンはマウス/ラットアディポネクチンELISAキット(大塚製薬株式会社)を用い、ELISA法により測定した。なお、濃度は、標準液を用いて作成した標準曲線を用いて算出した。
【0076】
遺伝子発現評価は、肝臓より抽出したRNAを用い、GeneSQUARE(登録商標)生活習慣病研究用マウス(倉敷紡績株式会社)にて分析し、DNAマイクロアレイ解析を行った。解析は、GenePix Pro 6.1.0.4(Axon CNS)にて行った。フィルター後、HF群を対照としてそれぞれ発現差解析を行った。Foldが2以上を誘導、0.5未満を抑制とした。なお、Thea群については分析を行わなかった。
【0077】
結果を
図6〜24に示す。
図6に示すように、体重の推移はCBT1、CBT2群でHF群と比べて増加が少ない傾向が見られた。また、
図7(a)に示すように、体重当たりの内臓(腸間膜)周囲脂肪はCBT2群で有意に低下した。
図7(b)に示すように、腎臓周囲脂肪もまたCBT2群で低下したが有意差は見られなかった。
図8に示すように、精巣周囲脂肪はCBT1,CBT2群でHF群に比べ低下傾向であった。
図7、8の結果から脂肪の蓄積に関しては、全体的にCBT2群で低下の傾向が示された。
【0078】
図9で示すように、空腹時血糖値は、本飼育44日目まではそれぞれの群間で差は見られなかったが、59日目にCBT1群がHF群に比べて有意に低下した。本飼育81日目にはCBT1,CBT2群いずれも有意に低下した。
図10は、総ヘモグロビン中のヘモグロビンA
1cの割合を示す図である。
【0079】
図11(a)は、血清脂質に関し、トリグリセリド(TG)の結果を示す。
図11(b)で示すように、総コレステロール(TC)はサンプル群での有意差は見られなかった。
図12で示すように、血清NEFAはCBT1群で有意に低下し、CBT2群で低下傾向が見られた。
【0080】
図13(a)で示すように、肝臓脂質に関しては、総脂質はCBT1,CBT2群で有意に低下した。
図13(b)で示すように、トリグリセリド(TG)はCBT1群で有意に低下し、CBT2群で低下傾向が見られた。
図14(a)で示すように、総コレステロール(TC)はCBT2群で有意に低下し、CBT1群で低下傾向が見られた。
図14(b)で示すように、NEFAはCBT2群で有意に低下し、CBT1群で低下傾向が見られた。
図15で示すように、リン脂質(PL)はすべてのサンプル群で有意に低下した。
【0081】
図16(a)で示すように、糞中脂質排泄量に関しては、総脂質はCBT2群がHF群よりも高い傾向にあった。
図16(b)は、トリグリセリド(TG)の結果を示す。
図17(a)で示すように、総コレステロール(TC)はCBT2群がHF群よりも高い傾向にあった。
図17(b)で示すように、総胆汁酸はCBT2群がHF群よりも高い傾向にあった。
【0082】
図18(a)で示すように、肝臓脂質代謝系酵素活性に関しては、脂肪酸合成酵素活性の結果を示す。
図18(b)で示すように、カルニチンパルミトイル転移酵素活性はCBT2群で高い傾向にあった。
【0083】
ホルモン、サイトカインに関しては、
図19(a)で示すように、血清レプチンはCBT2群で低下傾向が見られた。
図19(b)で示すように、インスリンもCBT2群で低下傾向が見られた。
図20で示すように、アディポネクチンは群間差がなかった。
【0084】
遺伝子発現解析に関しては、脂質代謝関連遺伝子として、紅茶群でAPOA2(apolipoprotein A−II)、FABP1(fatty acid binding protein 1,liver)が発現抑制されており(
図21(a)、(b))、APOC3(apolipoprotein C−III)が発現抑制の傾向が見られた(
図22(a))。また、糖質代謝関連遺伝子として、紅茶群でGCK(glucokinase)が発現抑制されており(
図22(b))、PTEN(phosphatase and tensin homolog)、RBP4(retinol binding protein 4,plasma)で発現抑制の傾向が見られた(
図23(a)、(b))。その他、代表的なところでは、紅茶群でFBP1(fructose bisphosphatase 1)が発現誘導、NFKBIA(nuclear factor of kappa light polypeptide gene enhancer in B−cells inhibitor, alpha)が発現抑制されていた(
図24(a)、(b))。
【0085】
以上の結果から、紅茶ポリフェノール飲料摂取により、高脂肪食によって引き起こされる肥満を抑制することが示唆され、その効果には、エステラーゼにより分解された紅茶ポリフェノール分解物が関与していることが推察された。
以下、参考形態の例を付記する。
[1] 紅茶葉から紅茶抽出液を抽出する際および/または抽出後にエステラーゼで処理した紅茶抽出物から製造され、ポリフェノールをタンニン量に換算して60mg/100ml以上含有し、脂肪蓄積抑制作用を有する紅茶飲料。
[2] 前記エステラーゼが、タンナーゼおよびクロロゲン酸エステラーゼのいずれかまたは両方を含む、[1]に記載の紅茶飲料。
[3] ガレート型カテキンとガレート型テアフラビンとの総量(mg/100ml)に対する非ガレート型カテキンと非ガレート型テアフラビンとの総量(mg/100ml)の比率が、2以上15以下である、[1]又は[2]に記載の紅茶飲料。
[4] 高甘味度甘味料もしくは糖アルコールのいずれか又は両方を含有する、[1]乃至[3]いずれか1項に記載の紅茶飲料。
[5] 当該紅茶飲料の総ポリフェノールとして、タンニン量に換算して60mg/100ml以上250mg/100ml以下含有する、[1]乃至[4]いずれか1項に記載の紅茶飲料。
[6] [1]乃至[5]いずれか1項に記載の紅茶飲料を飲料用容器に充填してなる容器詰飲料。
[7] [1]乃至[5]いずれか1項に記載の紅茶飲料を摂取することにより肥満を抑制する方法。
[8] 紅茶葉から紅茶抽出液を抽出する工程と、
前記紅茶抽出液を抽出する前記工程の際および/または前記紅茶抽出液を抽出する前記工程の後に前記紅茶抽出物をエステラーゼで処理する工程と、
を含み、
ポリフェノールをタンニン量に換算して60mg/100ml以上含有し、脂肪蓄積抑制作用を有する紅茶飲料を製造する方法。
[9] 前記エステラーゼが、タンナーゼおよびクロロゲン酸エステラーゼのいずれか又は両方を含む、[8]に記載の紅茶飲料を製造する方法。