(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コーティング層に、コーティング層全体に対して、(i)前記二酸化チタン8〜50質量%と、(ii)水溶性高分子40〜85質量%と、(iii)医薬製剤として許容され得る(i)及び(ii)以外の添加剤0〜20質量%とを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬製剤。
【背景技術】
【0002】
利尿薬は、心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、及び肝性浮腫等を治療するために用いられている医薬である。ループ利尿薬は、腎尿細管、主としてヘンレ係蹄上行脚におけるナトリウムイオン及び塩化物イオン等の再吸収を抑制する。ループ利尿薬として、アゾセミド(特許文献1)、フロセミド等が知られている。アゾセミドを単独で有効成分とする医薬製剤として、経口剤及び注射剤(特許文献2)が知られており、経口剤は1993年から日本において製造販売されている。フロセミドを単独で有効成分とする医薬製剤として経口剤、エアゾール(特許文献3、4)、放出制御製剤(特許文献5)が知られている。
【0003】
上述のループ利尿薬のなかには、光により徐々に分解し、黄色に着色することが知られているものがある。そのため光照射から保護することを目的として、従来、遮光コーティング及び遮光包装等の製剤的工夫が施されてきた(特許文献6)。
【0004】
遮光コーティングの場合、薬物の光に対する安定性を向上させるために、コーティング層中に二酸化チタンを配合することが一般的な技術として利用されている。二酸化チタンには結晶多形が存在するが、その中でもアナターゼ型の二酸化チタンは、遮光能及び白色化能が高いことで知られている。そのため、薬物の光に対する安定性を向上させる目的で、通常、アナターゼ型の二酸化チタンが用いられている。
【0005】
遮光包装の場合、光の透過を防いで製剤を光の影響から保護できる包装体、又は製剤の着色の原因となる、紫外から可視青色領域にかけての波長の光を通過させない、有色又は半透明の包装シートを用いて内部の製剤の光安定化を図ったPTP包装などが用いられている。しかし、光の透過を防ぐアルミニウム等の金属箔をアルケン重合体等で挟み込む等の工夫で光の透過を防ぐ包装体は、アルケン重合体等のみで構成される包装体よりも高価であり、また、紫外から可視青色領域にかけての波長の光を通過させない包装シートは、紫外から可視青色領域にかけての波長の光を通過させる包装シートよりも高価である。
【0006】
近年、病院及び調剤薬局では、患者の利便性を考慮し、数種類の医薬製剤を一服用単位ごとに1つにまとめて包装する一包化というサービスが行われることがある。この際用いられるのは、通常、光や空気中の水分を透過する包装体である。そのため、一包化された医薬製剤は、光の影響や、保管時の気候による温度又は湿度等の影響を受けやすい。一包化に適した医薬製剤とする為には、光のみならず、温度又は湿度に対しても安定であることが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、ループ利尿薬を有効成分とする安定な医薬製剤について検討を行ったところ、ループ利尿薬を含有する製剤は、光に対して安定であっても、温度又は湿度によって外観に変化が生じる場合があることに気がついた。本発明は、包装体に依らなくても温度又は湿度等の外的要因に対して安定な、ループ利尿薬含有医薬製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、当該医薬製剤が、温度又は湿度によって外観に変化が生じる原因を鋭意検討した。そして、ループ利尿薬は、アナターゼ型二酸化チタンと一定条件下で反応し、配合変化を起こすことを突き止め、本願発明を完成させた。すなわち、本願発明は、ループ利尿薬とアナターゼ型二酸化チタンとの接触に問題があるという共通の技術思想のもとで、アナターゼ型二酸化チタンを使用した上でアナターゼ型二酸化チタンとループ利尿薬との接触を回避する態様と、アナターゼ型二酸化チタンを使用せずにルチル型二酸化チタンを使用する態様との、2つの態様からなる。
【0010】
本発明の一態様は、次の通りである。
(1)ループ利尿薬を含む核部と、前記核部の外側に、アナターゼ型二酸化チタンを含むコーティング層とを有し、前記ループ利尿薬と前記アナターゼ型二酸化チタンとが実質的に互いに接しないことを特徴とする医薬製剤。
(2)前記核部と、前記コーティング層との間に、アナターゼ型二酸化チタンを含まない中間層が存在する、(1)に記載の医薬製剤。
(3)前記核部が、アナターゼ型二酸化チタンを含まないコーティング液でループ利尿薬をコーティングしたコーティング原薬を含む粉粒体からなる核錠である、(1)に記載の医薬製剤。
(4)前記ループ利尿薬が、アゾセミド、フロセミド、及びその薬理学的に許容される塩、並びにそれらの水和物からなる群より選択される、(1)〜(3)のいずれかに記載の医薬製剤。
【0011】
本発明の別の一態様は、次の通りである。
(5)ループ利尿薬(アゾセミドを除く)を含む核部と、前記核部の外側に、ルチル型二酸化チタンを含むコーティング層とを有する医薬製剤。
(6)前記ループ利尿薬が、フロセミド、その薬理学的に許容される塩、又はその水和物である、(5)に記載の医薬製剤。
【0012】
これらの2つの態様の発明に従属する発明として、更に以下のような発明がある。
(7)前記二酸化チタンの含有量が、核部に対して0.2質量%以上である、(1)〜(6)のいずれかに記載の医薬製剤。
(8)前記二酸化チタンのレーザー回折法による粉体粒度測定をしたときの50%粒子径が0.1〜10μmである、(1)〜(7)のいずれかに記載の医薬製剤。
(9)前記コーティング層が更に水溶性高分子を含む、(1)〜(8)のいずれかに記載の医薬製剤。
(10)前記コーティング層に、コーティング層全体に対して、(i)前記二酸化チタン8〜50質量%と、(ii)水溶性高分子40〜85質量%と、(iii)医薬製剤として許容され得る(i)及び(ii)以外の添加剤0〜20質量%とを含む、(1)〜(9)のいずれかに記載の医薬製剤。
(11)一部が無色透明で内容物が見える包装体に封入された、(1)〜(10)のいずれかに記載の医薬製剤。
【0013】
本発明を方法で記載するならば、次のようになる。
(12)核部にループ利尿薬を、その外側のコーティング層にアナターゼ型二酸化チタンをそれぞれ含有させ、核部のループ利尿薬と、コーティング層中のアナターゼ型二酸化チタンとを実質的に接触させないことを特徴とする、ループ利尿薬を含有する医薬製剤の保存時の変色抑制方法。
(13)ループ利尿薬(アゾセミドを除く)を含む核部を、ルチル型二酸化チタンを含む成分でコーティングすることを特徴とする、ループ利尿薬(アゾセミドを除く)を含有する医薬製剤の保存時の変色抑制方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、包装形態に依らなくても外的要因に対して安定なループ利尿薬含有医薬製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態を更に詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
ループ利尿薬は、ヘンレのループの太い上行脚の管腔側の膜のNa
+・K
+・2Cl
−共輸送担体を抑制することにより、Na
+、K
+、Cl
−の再吸収を抑制し、速効性かつ強力な利尿作用を示す薬剤である。心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、及び肝性浮腫などに有効な製剤として使用されている。ループ利尿薬としては、アゾセミド、フロセミド、トラセミド、ブメタニド、ピレタニド、トリパミド、エトゾリン及びその薬理学的に許容される塩、並びにそれらの水和物が挙げられる。この中でも、アゾセミド及びフロセミドは、4-置換アミノスルホンアミドを有する点で共通する。
【0017】
アゾセミドは、以下構造式で表される化合物であり、化学名は2-クロロ-5-(2H-テトラゾール-5-イル)-4-[(チオフェン-2-イルメチル)アミノ]ベンゼンスルホンアミドである。アゾセミドは、米国特許第3665002号公報明細書に記載の合成方法に準じて製造することができる。
〔化1〕
【0018】
フロセミドは、以下構造式で表される化合物であり、化学名は5-(アミノスルホニル)-4-クロロ-2-[(2-フラニルメチル)アミノ]安息香酸である。フロセミドは、米国特許第3058882号公報明細書、米国特許第5739361号公報明細書に記載の合成方法に準じて製造することができる。
〔化2〕
【0019】
薬理学的に許容される塩とは、その用途を考慮すれば医薬として許容され得る塩が好ましい。具体的には、ナトリウム、リチウム、カリウム、マグネシウム、アンモニウム、第4級アンモニウム塩、塩酸塩、ジエチルアミン、及びジエタノールアミンのような薬理学的に許容しうる無機及び有機塩基塩を挙げることができる。これらの薬理学的に許容される塩は、公知の方法で得ることができる。水和物とは、前記ループ利尿薬の水和物を意味し、公知の方法で得ることができる。
【0020】
有効成分であるループ利尿薬の含有量(割合)は、製剤全体として1〜70質量%であることが好ましく、2〜40質量%であることがより好ましい。尚、ループ利尿薬の含有量は、実際の使用に適した量で設定することができ、1製剤中1mg〜200mgの範囲で設定することが適当である。
【0021】
二酸化チタンは、遮光を必要とする医薬製剤のコーティング層に主として使用されている遮光剤であり、その結晶構造及び性質の違いにより、ルチル型(R型)、アナターゼ型(A型)、ブルッカイト型(B型)に分類されている。正方晶系のルチル型二酸化チタン及び斜方晶系のブルッカイト型二酸化チタンは、遮光及び白色化の効果は低く、正方晶系のアナターゼ型二酸化チタンは、遮光能及び白色化能が高いことで知られている。そのため、薬物の光に対する安定性を向上させる場合には、アナターゼ型結晶を多く含む二酸化チタンが第一に選択される傾向にある。
【0022】
ルチル型の二酸化チタンは、市販品として入手することが可能である。また、アナターゼ型結晶を900℃以上に加熱する、又はブルッカイト型結晶を650℃以上に加熱することにより得ることができる。そのため、ルチル型の二酸化チタン中に異なる結晶系が混在する場合があるが、ルチル型二酸化チタンを90%以上含有する二酸化チタンであれば、100%ルチル型二酸化チタンとほぼ同等の効果を期待できる。本発明では、表面に化学修飾を施されたルチル型二酸化チタンはルチル型二酸化チタンの定義に含まれる。
【0023】
二酸化チタンの粒子径は、ルチル型結晶であってもアナターゼ型結晶であっても、レーザー回折法による粉体粒度を測定した時の50%粒子径で、0.1〜10μmが好ましく、0.5μm〜5μmがより好ましい。一般に二酸化チタンのような高い屈折率を有する物質は、入射光の波長の約1/2の粒子径のとき、入射光を乱反射によって透過させない能力が大きくなる(特許第2525192号公報、特公平6-2562号公報)。また、コーティング液中で均一な分散状態を保つ為には、粒子径は小さいほうが良い。そのため、レーザー回折法による粉体粒度を測定した時の50%粒子径が、10μmより大きくなると、光遮断能力が低くなる傾向があり、コーティング液中で均一な分散状態を保ちにくくなる。逆に、レーザー回折法による粉体粒度を測定した時の50%粒子径が、0.1μmより小さくなると、波長の大きい可視光領域の入射光を遮断する能力が小さくなり、錠剤を白色に着色する為の着色剤としての機能が低下する(特許第2525192号公報、特公平6-2562号公報、特許第4464356号公報)。
【0024】
二酸化チタンの含有量(割合)は、ルチル型結晶であってもアナターゼ型結晶であっても、当業者であれば、その最適範囲を適宜設定して、本発明を実施することができるが、例えば、核部の総質量に対して0.2質量%以上8質量%以下が好ましい。より好ましくは0.3〜6質量%であり、さらに好ましくは0.4〜4質量%である。通常、二酸化チタンの十分量は、コーティングを施す前の錠剤に対して1〜5質量%と言われているが、本発明では、通常の十分量より少ない量でも、外的要因に対して安定なループ利尿薬を有効成分とする医薬製剤を提供することができる。ループ利尿薬を含有する核部に対する二酸化チタンの含有量が0.2質量%より少ないと、ループ利尿薬の光による変色を防止するのに十分でない。一方、二酸化チタンの含有量が多すぎると、コーティング液中の二酸化チタンの分散状態が悪くなったり、コーティングを施した後の被膜の強度が低下したり、あるいは、コーティングに要する時間が長くなったりする。コーティング層に対する二酸化チタンの含有量は、コーティング層の厚みにより一概に規定できないが、コーティング層全体に対して8〜50質量%が好ましく、より好ましくは9〜40質量%であり、さらに好ましくは10〜25質量%である。
【0025】
本発明のループ利尿薬含有医薬製剤では、ループ利尿薬とアナターゼ型二酸化チタンとが実質的に互いに接しないことが重要である。実質的に互いに接しないとは、例えば、ループ利尿薬(原薬)の一部又は全部が、アナターゼ型二酸化チタンと相互作用を発現しない程度に接しないことを意味する。温度又は湿度等の影響を受け、ループ利尿薬とアナターゼ型二酸化チタンとが配合変化を起こすため、ループ利尿薬を含有する製剤の表面が色変化し、安定性が悪くなるからである。温度又は湿度の影響下で、ループ利尿薬とアナターゼ型二酸化チタンとが配合変化を起こすことは、本発明者が初めて見出したことである。
【0026】
そのような医薬製剤としては、次のようなものがある。
(i)核部にループ利尿薬を、コーティング層にアナターゼ型二酸化チタンを含むが、核部とコーティング層との間に、アナターゼ型二酸化チタンを含まない中間層が設けられている医薬製剤。
(ii)ループ利尿薬を、アナターゼ型二酸化チタンを含まないコーティング剤で被覆し(原薬コーティング)、これを必要に応じて賦形剤等とともに成形して核部とし、この外側に二酸化チタンを含むコーティング層が設けられた医薬製剤。コーティング層中の二酸化チタンはルチル型でも良いし、アナターゼ型でも良い。
(iii)核部にループ利尿薬を含み、コーティング層にルチル型二酸化チタンを含み、アナターゼ型二酸化チタンを含まない医薬製剤。
【0027】
核部は、コーティングを施す前の錠剤(素錠)又は顆粒を意味し、有効成分であるループ利尿薬が含まれている。有効成分は、原薬そのままでも良いし、コーティングを施された原薬でも良い。本発明では、コーティングを施された原薬をコーティング原薬という。コーティング原薬が顆粒である場合は、コーティング原薬顆粒という。原薬にコーティングを施すときは、コーティング層と同様のコーティング剤及び賦形剤等を用いることができるが、アナターゼ型二酸化チタンは用いることができない。ループ利尿薬とアナターゼ型二酸化チタンとが配合変化を起こすのを避けるためである。核部には、医薬分野の技術常識に従い、前記有効成分とともに、結合剤、増粘剤、安定化剤、崩壊剤、流動化剤、滑沢剤、甘味料等を含有させることができる。
【0028】
コーティング層は、核部の外側に位置する膜で、ループ利尿薬の光に対する安定性を高めるために二酸化チタンを含むものである。コーティングは、全体に均一な被覆状態のみならず、全体に不均一な被覆状態も含まれ、当業者であれば、コーティング状態を適宜調整することができる。例えば、ループ利尿薬が原薬のまま核部に含まれている場合、コーティング層は核部を完全に覆っているのが好ましい。核部とコーティング層との間に中間層が設けられている場合、コーティング層は全体に不均一な状態でも良い。コーティング層の厚み比率は、当業者であれば公知の方法で設定できるが、例えば、核部に対して、0.1質量%〜20質量%とするのが好ましく、2質量%〜15質量%とするのがさらに好ましく、3質量%〜8質量%とするのがより好ましい。
【0029】
コーティング層には、二酸化チタンとともに、一般的に医薬品で用いられる公知の成分を適宜組み合わせて含有させることができる。一般的に医薬品で用いられる公知の成分とは、例えば、コーティング剤、甘味料、分散剤、賦形剤、可塑剤、香料、光沢化剤、付着防止剤、防腐剤、保存料、遮光剤、着色剤、及びpH調整剤等が挙げられる。コーティング剤としては、水溶性高分子が一般的に使用されている。水溶性高分子としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセタートサクシナート、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体、カルボキシメチルセルロースナトリウム、酢酸フタル酸セルロース、キサンタンガム、トラガントガム、アラビアゴム、寒天、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリラートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びマクロゴール等が挙げられ、これらから選択される1種以上を単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。これらの中では、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、マクロゴール、及びこれらの組合せが好ましい。水溶性高分子の含有量は、コーティング層全体に対し、40〜85質量%が好ましく、45〜70質量%が更に好ましい。
【0030】
遮光剤としては、二酸化チタンを除くと、タルク、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、カオリン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)、リン酸水素カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム及び合成ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。着色剤としては、タルク、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、カオリン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)、リン酸水素カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウム、三二酸化鉄、及び食用着色剤等が挙げられる。着色剤の含有量は、コーティング層全体に対し、0〜15質量%が好ましく、0〜5質量%が更に好ましい。これらは、1種を単独で又はそれ以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
中間層とは、核部中のループ利尿薬とコーティング層中のアナターゼ型二酸化チタンとの実質的な接触を避けるために、核部とコーティング層との間、すなわち、コーティング層の内側に設けられた層である。中間層は、1層又はそれ以上とすることができる。中間層のコーティングは、全体に均一な被覆状態のみならず、全体に不均一な被覆状態も含まれ、ループ利尿薬とアナターゼ型二酸化チタンとの接触を回避できる範囲において、当業者であれば、コーティング状態を適宜調整することができる。中間層は、コーティング層と同様、一般的に医薬品で用いられる公知の成分を適宜組み合わせて用いることができる。
【0032】
本発明の医薬製剤の製造方法の一例を示す。表1の実施形態において、核部は、通常用いられる方法により製造することができる。例えば、ループ利尿薬、結合剤、及び崩壊剤を混練合し、乾燥後整粒し、そのまま又は更に滑沢剤を混合し圧縮成型して製造することができる。また、ループ利尿薬、賦形剤、及び結合剤等を混和し、溶媒で湿潤させた練合物を一定の形状に成形した後、又は練合物を一定の型に流し込んで成形した後、適切な方法で乾燥して製造することもできる。前記ループ利尿薬は原薬そのままで用いても良いし、コーティング原薬を用いても良い。コーティング原薬を用いる場合は、水溶性高分子を水に溶解し原薬コーティング液として、原薬の表面にコーティングを行うことにより得ることができる。尚、コーティング原薬を含む粉粒体からなる核部とすれば、中間層を設けなくても、アナターゼ型二酸化チタンを含有するコーティング層を設けることができる。
【0033】
一方、コーティング層は、表1の添加剤を水に溶解しコーティング液として、ループ利尿薬を含有する核部の表面にコーティングを行うことにより得ることができる。表1中の各添加剤の質量%は、核部に対する質量%を示す。なお、当業者であれば、表1に示した他にもコーティング層中の各添加剤の含有量を適宜設定することができる。
【表1】
【0034】
コーティング方法は、特に制限されず、一般公知の方法を用いることができる。例えば、コーティングパン方式、流動層コーティング方式、転動コーティング方式などが挙げられる。コーティング層を施すときは、流動造粒機、転動造粒機などの製造装置を使用することができる。他にも、国際公開第01/98067号公報明細書等に記載の有核錠の製造技術を使用して、外層部分をコーティング層とすることもできる。
【0035】
中間層を有する医薬製剤は、例えば、次の手順で製造することができる。ループ利尿薬並びにヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、トウモロコシデンプン、結晶セルロース、ケイ酸マグネシウム及び乳糖水和物を湿式高せん断造粒機に入れて混合した後、エタノールを加えて練合する。この練合品を湿式整粒機に入れ、湿式整粒し、直接加熱流動層乾燥機を用いて乾燥する。得られた乾燥品及びステアリン酸マグネシウムを拡散式混合機を用いて混合し、プレス型打錠機を用いて打錠して、180mg/錠の素錠(核部)とする。ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びタルクを水に溶解あるいは懸濁してコーティング液(中間層用)とし、コーティングパン式コーティング機を用いて、前記素錠にコーティングを行い、中間層を有する核錠とする。ヒドロキシプロピルメチルセルロース、タルク、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及び二酸化チタン(アナターゼ型)を水に溶解あるいは懸濁してコーティング液(コーティング層用)とし、コーティングパン式コーティング機を用いて、前記中間層を有する核錠にコーティングを行い、中間層を有するフィルムコーティング錠とする。
【0036】
ループ利尿薬に原薬コーティングを施して使用する場合は、例えば、次の手順で製剤を製造することができる。ループ利尿薬及びヒドロキシプロピルメチルセルロースを、塩化メチレン・エタノール混液(6:4)に溶解してコーティング液(原薬レイヤリング用)とし、直接加熱流動層造粒機を用いて結晶セルロース球形粒子(商品名:セルフィア CP-305)にコーティングを行い、原薬顆粒を得る。次いでヒドロキシプロピルメチルセルロース及びタルクを水に溶解あるいは懸濁してコーティング液(原薬コーティング用)とし、直接加熱流動層造粒機を用いて、前記原薬顆粒にコーティングを行い、コーティング原薬顆粒とする。コーティング原薬顆粒は、必要に応じて、結合剤、増粘剤、安定化剤、崩壊剤、流動化剤、滑沢剤、又は甘味料等とともに、圧縮成型又は凍結乾燥等して核錠とすることができる。
【0037】
また、前述のコーティング原薬顆粒に必要に応じて賦形剤等を混合したものをプレス型打錠機を用いて圧縮成型して核錠とし、当該核錠を核部として、コーティングパン式コーティング機を用いて、前記同様のアナターゼ型二酸化チタンを含むコーティング層用のコーティング液をコーティングすることにより、中間層を有しないフィルムコーティング錠とすることもできる。また、前述のコーティング原薬顆粒を圧縮成型せずに、段落32の方法で核部とすることもできる。これらの実施形態においては、原薬がコーティングされているため、核部の表面に中間層がなくても、アナターゼ型二酸化チタンとループ利尿薬との接触を回避することができる。
【0038】
本発明の医薬製剤は、一部が無色透明で内容物が見える包装体に封入することができる。内容物が見える包装体とは、包装体の一部に透明部分を有し、内容物の色変化が確認できる包装体をいう。本発明では、無包装状態における医薬製剤の変色を従来製剤より抑えることができるため、包装体自体が遮光機能又は防湿機能等を有さなくても良いという利点を有する。
【実施例】
【0039】
以下、試験例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】
<色差測定>
色差は、分光測色計(CM-3500d,コニカミノルタ社製)を用いて評価した。測定時の基準光源にはD65を用い、対象物の色彩をL*a*b*表色系で測定して、開始時と一定期間保存後の二者の色差ΔEを下記数式1により算出した。ΔEが3.0を超えれば目視で色変化が識別可能な数値である。
【0041】
数式1:ΔE=(Δa
2+Δb
2+ΔL
2)
1/2
【0042】
<試験1>混合粉体の配合変化試験
方法
アゾセミド単独、アゾセミド+ルチル型二酸化チタン(アゾセミドに対し10%)、及びアゾセミド+アナターゼ型二酸化チタン(アゾセミドに対し10%)、並びに、フロセミド+結晶セルロース(フロセミドに対し50%)、フロセミド+結晶セルロース(フロセミドに対し33.3%)+ルチル型二酸化チタン(フロセミドに対し33.3%)、及びフロセミド+結晶セルロース(フロセミドに対し33.3%)+アナターゼ型二酸化チタン(フロセミドに対し33.3%)という合計6種類の混合粉体を準備した。各混合粉体を下記条件(a)下、開放(プラスチックシャーレ)又は気密容器(ガラス瓶)にて3週間保存した。気密容器にて保存するとは、ガラス瓶にポリプロピレン製のキャップを用いて施栓して保存されている状態を示し、容器内への気体の進入について、日本薬局方に定められる密封容器には至らないものの、湿度等の影響が極めて少ない保存状態を意味している。各混合粉体の保存開始後1週目、2週目、及び3週目の色差変化を、前記色差測定の方法で測定した。尚、以下の試験例中で使用したルチル型の二酸化チタンは東邦チタニウム株式会社より購入し、アナターゼ型の二酸化チタンは和光純薬工業株式会社から購入した。
【0043】
条件(a):温度60℃、相対湿度75%、遮光
【0044】
結果
ループ利尿薬としてアゾセミドを用いた場合の各混合粉体の保存後の色差(ΔE)を表2に示す。コントロールであるアゾセミド単独粉体は、気密容器入り及び開放状態ともに、温度及び湿度に対して安定であり、1週目乃至3週目の色差ΔEはいずれも3.0以下であった。一方、アゾセミドとアナターゼ型二酸化チタンとの混合粉体は、色差ΔEが1週目乃至3週目で3.0を大幅に越え、目視でも粉体表面の色変化が確認できるほどであった。これに対し、アゾセミドとルチル型二酸化チタンとの混合粉体は、気密容器では、色差ΔEが3週間経過後も3.0以下であり、目視でも色変化を確認できなかった。また開放状態では、アゾセミドとアナターゼ型二酸化チタンとの混合粉体よりΔE値が約1/2に抑えられていた。ルチル型二酸化チタンとの混合粉体は、アナターゼ型酸化チタンとの混合粉体より、変色を約1/2〜1/5に低減する効果が見られた。
【0045】
ループ利尿薬としてフロセミドを用いた場合の各混合粉体の保存後の色差(ΔE)を表3に示す。コントロールであるフロセミドと結晶セルロースとの混合粉体は、開放状態で温度及び湿度に対して安定であり、1週目乃至3週目の色差ΔEはいずれも3.0以下であった。一方、フロセミドとアナターゼ型二酸化チタンとの混合粉体は、2週目より色差ΔEは3.0を越え、目視でも粉体表面の色変化が確認できるほどであった。これに対し、フロセミドとルチル型二酸化チタンとの混合粉体は、コントロールとほぼ同じ色差ΔE値を示し、目視でも色変化は確認できなかった。
【0046】
以上の結果から、温度及び湿度の影響下で一定期間保存した場合、アナターゼ型二酸化チタンはループ利尿薬(アゾセミド、フロセミド)と配合変化を起こすのに対し、ルチル型二酸化チタンは、ループ利尿薬(アゾセミド、フロセミド)と配合変化を起こし難いことが示され、同じ二酸化チタンであっても、結晶形の違いにより混合粉体の安定性が著しく異なることが明らかになった。
【0047】
尚、上述の変色に関与する化学反応の活性化エネルギーを22.4kJ/molと仮定した場合、アレニウスの式を用いて反応進行量を計算すると、温度60℃で3週間の保存を行った場合の反応進行量は、温度25℃で36ヶ月間、又は温度40℃で6ヶ月間の反応進行量に相当する。
【0048】
【表2】
【表3】
【0049】
<試験2>高温度及び高湿度に対する安定性
方法
アゾセミドをヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、トウモロコシデンプン、結晶セルロース、ケイ酸マグネシウム及び乳糖水和物を湿式高せん断造粒機に入れて混合した後、エタノールを加えて練合した。この練合品を湿式整粒機に入れ、湿式整粒し、直接加熱流動層乾燥機を用いて乾燥させた。最後にこの乾燥品及びステアリン酸マグネシウムを拡散式混合機を用いて混合し、プレス型打錠機を用いて打錠して180mg/錠の素錠(アゾセミド含有部)とした。表4に示した添加剤を水に溶解してコーティング液とし、コーティングパン式コーティング機を用いて、前記素錠にコーティングを行い、参考例1及び比較例1の各製剤を得た。表4中の各添加剤の質量%は、核部(素錠)に対する質量%を示す。各製剤を条件(a)下、開放状態にて3週間保存した。保存開始後1週目、2週目、及び3週目の製剤表面の色差変化を、前記色差測定の方法で測定した。
【0050】
条件(a):温度60℃、相対湿度75%、遮光
【0051】
結果
保存後の各製剤の色差(ΔE)を表4に示す。ルチル型二酸化チタンを添加した場合、高温多湿環境下で、かつ二酸化チタンを多量に添加しても、1週目乃至3週目の色差ΔEは3.0以下であった。アナターゼ型二酸化チタンを添加した場合、3週目の色差ΔEは3.0を大幅に越えており、目視でも錠剤表面の色変化が確認できるほどであった。
以上の結果から、コーティング層にアナターゼ型二酸化チタンを添加した製剤は、高温多湿条件下で色調変化を起こすのに対し、コーティング層にルチル型二酸化チタンを添加した製剤は、たとえアナターゼ型二酸化チタンより多量に添加したとしても、色調変化を起こし難いことが示され、同じ二酸化チタンであっても結晶形の違いにより製剤の安定性が著しく異なることが明らかになった。
【0052】
【表4】
【0053】
<試験3>温度及び湿度に対する長期安定性
方法
参考例1と同様にして、180mg/錠又は125mg/錠の核部(素錠)を製造した後、表5に示した添加剤を水に溶解したコーティング液を使用して、前記核部にコーティングを行い、参考例2とした。表5中の各添加剤の質量%は、核部に対する質量%を示す。参考例1及び参考例2の各製剤を下記条件(b)で、開放状態にて3ヶ月間保存した。保存開始後1ヶ月目、2ヶ月目、及び3ヶ月目の製剤表面の色差変化を前記色差測定の方法で測定した。
【0054】
条件(b):温度25℃、相対湿度75%、遮光
【0055】
結果
保存後の各製剤の色差(ΔE)を表5に示す。参考例1及び参考例2の色差ΔEは約0.2〜0.7であり、目視で色変化が識別可能とされる3.0を大幅に下回っていた。すなわち、ループ利尿薬とアナターゼ型二酸化チタンとが実質的に互いに接しない本発明の医薬製剤は、高湿度下で長期間保存しても安定であるという効果が見られた。
【0056】
【表5】
【0057】
<試験4>温度、湿度、及び光に対する安定性
方法
参考例1と同様にして、180mg/錠の核部(素錠)を製造した後、表6に示した添加剤を水に溶解したコーティング液を使用して、前記核部にコーティングを行い、参考例3及び比較例2とした。表6中の各添加剤の質量%は、核部に対する質量%を示す。参考例3と比較例2とは、二酸化チタンの結晶形が異なること以外は全て同じ処方である。これら各製剤を下記条件(c)で、開放状態又は気密容器(ガラス瓶)にて総照度120万lxに達するまで保存後、製剤表面の色差変化を前記色差測定の方法で測定した。尚、総照度120万lxに達するまでの期間は、約25日間である。
【0058】
条件(c):温度25℃、相対湿度30%、照度2000lx/hr
【0059】
結果
保存後の各製剤の色差ΔEを表6に示す。ルチル型二酸化チタンを含むコーティングを施した参考例3は、いずれの場合も色差ΔEが3.0を大幅に下回っており、光に対しても十分安定であることが示された。一方、コーティング層にアナターゼ型二酸化チタンを含有し、アゾセミドとアナターゼ型二酸化チタンとが実質的に接触している比較例2では、湿度等の影響が極めて少ない気密容器にて保存していた場合、色差ΔEは3.0を大幅に下回り、参考例3と同様良好な結果だったにもかかわらず、湿度の影響を受ける開放状態での色差ΔEは3.0を超える結果となった。このことは、光及び温度のみならず、湿度に対して安定な製剤とするためには、ループ利尿薬とアナターゼ型二酸化チタンとが実質的に互いに接しないことが重要であることを示している。
【0060】
【表6】
【0061】
<試験5>高湿度に対する安定性
方法
参考例1と同様にして、180mg/錠の核部(素錠)を製造した後、表7に示した添加剤を水に溶解したコーティング液を使用して、核部にコーティングを行い、参考例4とした。表7中の各添加剤の質量%は、核部に対する質量%を示す。製剤を条件(c)又は条件(d)で総照度120万lxに達するまで保存後、製剤表面の色差変化を前記色差測定の方法で測定した。尚、総照度120万lxに達するまでの期間は、約25日間である。
【0062】
条件(c):温度25℃、相対湿度30%、照度2000lx/hr
条件(d):温度25℃、相対湿度75%、照度2000lx/hr
【0063】
結果
保存後の製剤の色差ΔE値を表7に示す。参考例4の色差ΔEはいずれも3.0を下回っていた。このことは、ループ利尿薬であるアゾセミドとアナターゼ型二酸化チタンとが実質的に互いに接しない本発明の製剤は、高湿度下(75%RH)で保存後も安定であることを示している。
【0064】
【表7】
【0065】
以上の試験例2〜5は、ループ利尿剤としてアゾセミドを使用して試験を実施しているが、ここで、アゾセミドを他のループ利尿剤(フロセミド等)に置き換えて全く同じように試験を行うことができることは、構造類似の同類薬であることから、当業者であれば容易に理解できることである。しかも、試験結果においても、試験例1においてアゾセミドとフロセミドとが同様の特性を示したことから、アゾセミドを他のループ利尿剤(フロセミド等)に置き換えても、やはり、同様の結果となることを容易に理解することができる。
【0066】
<試験6>二酸化チタンの粒子径
方法
実施例のコーティングに用いたルチル型の二酸化チタンの粒子径を、レーザー回折法により測定した。分散媒に水を用い、ルチル型の二酸化チタンの屈折率を2.7として、レーザー回折式粒度分布測定機(Mastersizer 2000,Malvern Instruments社製)を使用して測定を行ったところ、1.13μmであった。