(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133085
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】樹脂成形品の加飾方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
B32B15/08 H
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-54169(P2013-54169)
(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公開番号】特開2014-177090(P2014-177090A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2016年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】599048638
【氏名又は名称】CBC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】松村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】小倉 大
(72)【発明者】
【氏名】山内 基士
(72)【発明者】
【氏名】千葉 忍
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 誠
【審査官】
平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−256929(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3114665(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00〜43/00
G02B5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着により樹脂成形品の表面に加飾を行う加飾方法であって、樹脂成形品の被蒸着面に成膜した際の、膜の反射光が380〜780nmの波長の範囲となるターゲット金属を用いて、樹脂成形品の被蒸着面全域に対して一方向から蒸着を行い、
前記樹脂成形品の被蒸着面に6層に蒸着して積層し、前記樹脂成形品の表面に成膜する層を第1層目として、奇数層をTiO2で成膜するとともに偶数層をSiO2で成膜し、
前記層の厚みを、第1層目よりも第2層目を薄く、第3層目よりも第4層目薄く、第5層目よりも第6層目を薄く積層することを特徴とする樹脂成形品の加飾方法。
【請求項2】
蒸着を物理蒸着法(PVD法)により行うことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形品の加飾方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品の加飾方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電装部品や電子機器の外装部品等には、一般的に射出成形等により成形した樹脂成形品が用いられ、これら樹脂成形品の表面には金属調の加飾が施されている場合がある。
【0003】
このような従来の樹脂成形品に対して金属調の加飾を実現するための方法としては、樹脂成形品の表面に対して塗装を施したり、蒸着法により金属調の加飾を施し、その上に保護層を形成する方法等が採用されている。
【0004】
このような方法による金属調の加飾としては、これまでに、よりリアルな金属調の表面とし、また、加飾に伴う斑が発生しないようにすることを目的として、加飾条件を調整して一様に均一な厚みの膜厚を形成する加飾方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
一方、近年、電子機器の外層部品等の樹脂成形品の加飾においては、面により異なった色調の加飾や、見る角度により色調や濃淡が変化するといった、より意匠性の高い加飾が要求されている。
【0006】
しかしながら、これまでの提案による加飾法によれば、リアルな金属調の加飾については実現されてはいるものの、近年要求されているような樹脂成形品の面による色調の違いや、見る角度による色調の変化といった、より意匠性の高い加飾を施すことは非常に困難であった。
【0007】
また、所望の色の金属調にする場合には、通常、トップコート層に着色を施す等の方法により着色するのが一般的であるため、上記のような意匠性の高い加飾を施すことはさらに困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−89399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような背景から従来の問題点を解消し、樹脂成形品表面に施す金属調の加飾において、所望の色調の加飾が可能であり、かつ、樹脂成形品の面による色調の違いや、見る角度による色調や濃淡の変化といった、より意匠性の高い加飾を施すことが可能な樹脂成形品の加飾方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明の樹脂成形品の加飾方法は以下のことを特徴としている。
【0011】
第1に、蒸着により樹脂成形品の表面に加飾を行う加飾方法であって、樹脂成形品の被蒸着面に成膜した際の、膜の反射光が380〜780nmの波長の範囲となるターゲット金属を用いて、樹脂成形品の被蒸着面全域に対して一方向から蒸着を行
い、前記樹脂成形品の被蒸着面に6層に蒸着して積層し、前記樹脂成形品の表面に成膜する層を第1層目として、奇数層をTiO2で成膜するとともに偶数層をSiO2で成膜し、前記層の厚みを、第1層目よりも第2層目を薄く、第3層目よりも第4層目薄く、第5層目よりも第6層目を薄く積層することを特徴とする。
【0014】
第2に、上記
第1の発明の樹脂成形品の加飾方法において、蒸着を物理蒸着法(PVD法)により行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹脂成形品の加飾方法によれば、樹脂成形品表面に施す金属調の加飾において、所望の色調の加飾が可能であり、かつ、樹脂成形品の面による色調の違いや、見る角度による色調や濃淡の変化といった、より意匠性の高い加飾を施すことが可能な樹脂成形品の加飾方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の蒸着による加飾方法を示す概略図である。
【
図2】色調を決定するための各色の波長を示すグラフである。
【
図3】実施例で用いた樹脂成形品を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の樹脂成形品の加飾方法は、樹脂成形品の被蒸着面全域に対して、蒸着により、一方向から金属薄膜を形成することにより、樹脂成形品の面に応じて膜厚を調整する樹脂成形品の加飾方法である。
【0018】
本発明の樹脂成形品の加飾方法で用いる、基材となる樹脂成形品の樹脂材料としては、従来より各種樹脂成形品に用いられている樹脂材料であれば特に制限なく用いることができ、例えば、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリカーボネート/ABSアロイ(PC/ABS)、熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリスルホン(PSF)、ポリイミド(PI)等の樹脂材料を挙げることができる。
【0019】
また樹脂成形品は、これらの樹脂材料を用いて射出成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形等の各種の方法により成形することができる。
【0020】
本発明の樹脂成形品の加飾方法では、耐熱性、耐薬品性の観点から、樹脂材料としてポリカーボネート樹脂を用いて射出成形により成形した樹脂成形品をより好適に用いることができる。
【0021】
また、上記の樹脂成形品においては、金型にシボ、ヘアライン、スピン等の模様を形成させておくことにより、樹脂成形品の表面に鏡面以外の種々の質感の異なる意匠性を付与することが可能である。
【0022】
本発明の樹脂成形品の加飾方法は、上記の樹脂成形品の被蒸着面全域に対して一方向から蒸着による成膜を行い表面に金属薄膜を形成して加飾を施す。
【0023】
樹脂成形品の被蒸着面に対して施す蒸着法としては、通常公知の蒸着による種々の成膜法を採用することができ、これらの成膜法としては、例えば、物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)等を挙げることができる。
【0024】
これらの中でも、樹脂成形品の被蒸着面への成膜の方向性制御の観点から物理蒸着法(PVD法)のスパッタリング法を好適に用いることができる。
【0025】
本発明において蒸着を行う場合、成膜の原料となるターゲット金属は目的とする加飾の色調に応じて適宜選択が可能であり、成膜後の膜の反射光が380〜780nmの波長の範囲となるターゲット金属を用いる。これらのものとしては、例えば、SiO
2、MgF
2、TiO
2、ZrO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、AL
2O
3等の1種、又は2種以上を混合したターゲット金属を挙げることができる。
【0026】
なお、成膜後の色調は、後述するように、成膜後の膜の厚さや膜の反射光の波長により異なることから、目的とする加飾の色調を考慮してターゲット金属を選択する必要がある。
【0027】
即ち、本発明の樹脂成形品の加飾方法は、樹脂成形品表面に直接色素等を塗装する方法とは異なり、蒸着するターゲット金属の種類を選択的に用いることにより、成膜後の膜の反射光の波長を決定し、所望の色調の加飾を実現するものである。
【0028】
本発明の樹脂成形品の加飾方法における蒸着による膜厚は、特に制限されるものではないが、通常0.1〜1.0μm程度が考慮される。
【0029】
なお、本発明の樹脂成形品の加飾方法においては、蒸着による成膜時の成形品と蒸着方向の位置関係が非常に重要である。
【0030】
即ち、例えば
図1に示すように、樹脂成形品1の膜厚を厚くしたい面(上面11)を蒸着方向2に対して垂直に配置させて、樹脂成形品の被蒸着面全域に対して一方向から成膜を行う。
【0031】
このような成膜条件とすることにより、蒸着方向2に対して垂直の上面11は厚い膜厚の成膜とすることができ、蒸着方向2に対して水平の側面12には非常に薄い膜厚の成膜、また垂直の上面11に対して角度を持った斜面13には中間の膜厚の成膜が可能となる。
【0032】
本発明において、樹脂成形品の被蒸着面全域に対して一方向から成膜を行う具体的な方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法等の蒸着法が実施できる蒸着装置を用いて、蒸着装置内に樹脂成形品を金属ターゲットに対して垂直に設置した状態で、蒸着法及び金属ターゲットに応じた条件で蒸着することにより実現される。
【0033】
さらに本発明の加飾方法では、反射光の波長が異なる膜となるターゲット金属を複数種類用いて、ぞれぞれのターゲット金属により成膜して積層し、その層構成や膜厚を適宜調整することにより、さらに複雑な色調の加飾とすることができる。
【0034】
即ち、成膜後の反射光の波長が短い紫色系と波長が長い赤色系の膜となるターゲット金属を組み合わせて複数層の構成とすることにより、所望の色調とすることが可能となる。
【0035】
各色調の代表的な反射特性は
図2に示すような波長となっており、目的の色調の波長となるようにターゲット金属を選択して成膜して積層すればよい。
【0036】
具体的には、ターゲット金属としてSiO
2やMgF
2等の低反射波長材料とTiO
2、ZrO
2、Nb
2O
5等の高反射波長材料のターゲット金属を選択的に用いて積層することで反射光の波長を調整することが可能となる。
【0037】
例えば、青系の色調を再現したい場合、約460〜470nmの波長となるように層構成を計算して成膜して積層する。
【0038】
なお、波長の異なる複数の層構成とする場合の層数及び層構成に関しては特に制限はなく、本発明の効果を奏する層数及び層構成を適宜設定することができる。層数としては、例えば、3〜9層、好ましくは4〜8層、より好ましくは6層に設定することができる。通常、層数を増加させることにより反射ピークが高くなり、明度が高くなる傾向がある。
【0039】
また、このように波長の異なる複数の層構成とすることにより、膜に入射した光が波長の異なる各層でそれぞれ異なった波長で反射されることから、見る方向により色調が変化する加飾とすることが可能となる。
【0040】
本発明の樹脂成形品の加飾方法によれば、膜自体の色調による濃淡の加飾が可能となり、また、樹脂成形品の色を適宜調整することによっても色調の濃淡を調整することが可能となる。
【0041】
以上、本発明を説明したが、本発明は上記の条件に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において各種の変更が可能である。
【0042】
例えば、本発明の樹脂成形品の加飾方法では、樹脂成形品の被蒸着面に汚れ等がある場合、蒸着後に剥離やピンホールなどの不良が発生する可能性がるため、予め被蒸着面の洗浄処理を行うことができる。また、樹脂成形品の種類や状態によって、膜の密着性の向上を目的として、蒸着直前にプラズマエッチング(ボンバード)処理を施すこともできる。
【0043】
また、成膜後の膜の耐久性や機械的物性(耐摩耗等)の向上を目的としてトップコート層を形成することもできる。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
樹脂材料としてポリカーボネート樹脂を用いて、射出成形にて
図3に示す形状の樹脂成形品1を作成した。樹脂成形品1自体の色は黒とした。
【0045】
この樹脂成形品1をスパッタリング装置にセットして、樹脂成形品1の上面11に向けて一方向から、表1に示す蒸着条件で6層構成となるように蒸着して積層し、樹脂成形品1表面に加飾を行った。
【0046】
【表1】
【0047】
層は、樹脂成形品1と接する層を第1層として順次上に積層して6層の構成とした。
【0048】
上記の条件で加飾した樹脂成形品1の上面11は、紺系の色調の加飾が施され、斜めから見ると赤紫系の色調に変色する加飾とすることができた。
【0049】
また、膜厚の厚い上面11が明るい紺系の色調であるのに対し、膜厚の薄い側面12は、黒色に近い濃紺の色調に加飾された。
【0050】
これにより、蒸着の方向を特定することにより、面による色調を制御できることが確認された。
【符号の説明】
【0051】
1 樹脂成形品
11 上面
12 側面
13 斜面
2 蒸着方向