特許第6133132号(P6133132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133132
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】抗菌性フロアマット用シート
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/10 20060101AFI20170515BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20170515BHJP
   A01N 59/06 20060101ALI20170515BHJP
   A47G 27/02 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   A01N25/10
   A01N59/16 A
   A01N59/06 Z
   A47G27/02 B
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-112616(P2013-112616)
(22)【出願日】2013年5月29日
(65)【公開番号】特開2014-231492(P2014-231492A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋本 栄一
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−157315(JP,A)
【文献】 特開平07−322949(JP,A)
【文献】 特開平10−251445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
A47G27/00−27/06
D06N 1/00− 7/06
C08K 3/00−13/08
E04F15/00−15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも塩化ビニル系樹脂、可塑剤、抗菌剤および熱安定剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物を成形して得られる抗菌性フロアマット用シートであって、
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、可塑剤として数平均分子量700〜3000のアジピン酸系ポリエステルが40〜60重量部添加されてなり、
抗菌剤はガラス−銀抗菌剤であり、塩化ビニル系樹脂100重量部対して0.1〜5.0重量部添加されていることを特徴とする抗菌性フロアマット用シート。
【請求項2】
熱安定剤がBa−Zn複合安定剤および/またはCa−Zn複合安定剤であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性フロアマット用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は建造物の床面に貼り合わせたり敷設したりする抗菌性フロアマット用シートに関するものであり、細菌類や黴菌類の繁殖を長期に亘って防止し清潔な屋内空間を維持できる抗菌性フロアマット用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の屋内の床面は、多種多様の素材が使用されている。その中には、擦過や引き摺り、荷重等により傷が付きやすい素材も使用されている。そのため、床面を保護する目的で、柔軟性、衝撃吸収性を有する軟質塩化ビニル系樹脂からなるシートを床面に貼り合わせたり敷設されたりしている。
一方、建造物は鉄筋コンクリート構造やプレハブ構造等に加えて、新建材等の使用とが相俟って、著るしく密閉性や保温性が高まっているため、脱衣所、化粧室、キッチン等の多湿な水回り設備の近傍や、風通しの悪い部屋の隅は、細菌類や黴菌類が繁殖しやすい。これらの繁殖に伴って分泌される分泌物は、床面のシート等の汚染をも引き起こすおそれがある。加えて、細菌類や黴菌類の繁殖は喘息やアトピー性疾患の原因と考えられているため、健康面にも大きな障害をもたらすおそれがある。
【0003】
かかる状況に鑑み、実開平7−9952号には、細菌類や黴菌類に対し抗菌性を有する、ピリジン系化合物とイミダゾール系化合物との混合成分からなる抗菌剤を添加してなるフイルムが開示されている(以下、「特許文献1」とする)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のフィルムは、十分な抗菌性の発揮はもとより長期に亘る抗菌性も発揮されず、ピリジン系化合物とイミダゾール系化合物とを併用するため、コスト的に割高となる。加えて、有機系成分であるため、フィルム生産時およびフィルム使用時おける安全性も不安視される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7−9952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる問題を解決するためになされたものであって、床面に貼り合わせたり敷設したりする抗菌性フロアマット用シートにおいて、細菌類や黴菌類の繁殖を長期に亘って阻止し、清潔な屋内空間を維持しうる安全で安価な抗菌性フロアマット用シートを提供するものである。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するために種々検討したところ、塩化ビニル系樹脂からなるシートにおいて、塩化ビニル系樹脂中にガラス−銀抗菌剤を含有することにより、細菌類や黴菌類の繁殖を長期に亘って阻止し、清潔な屋内空間を維持しうる、安全で安価な抗菌性フロアマット用シートを完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような知見の下で成し得たものであり、以下を要旨とする。
(1)少なくとも塩化ビニル系樹脂、可塑剤、抗菌剤および熱安定剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物を成形して得られる抗菌性フロアマット用シートであって、
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、可塑剤として数平均分子量700〜3000のアジピン酸系ポリエステルが40〜60重量部添加されてなり、
抗菌剤はガラス−銀抗菌剤であり、塩化ビニル系樹脂100重量部対して0.1〜5.0重量部添加されていることを特徴とする抗菌性フロアマット用シート。
(2)熱安定剤がBa−Zn複合安定剤および/またはCa−Zn複合安定剤であることを特徴とする(1)に記載の抗菌性フロアマット用シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗菌性フロアマット用シートは、床面に貼り合わせたり敷設したりするフロアマットとして、細菌類や黴菌類の繁殖を長期に亘って阻止し、清潔な屋内空間を維持しうる安全で安価な抗菌性シートとして好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の抗菌性フロアマット用シートは、少なくとも塩化ビニル系樹脂、可塑剤、抗菌剤および熱安定剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物を成形して得られるものである。
なお、本明細書中において、「抗菌性フロアマット用シート」を、単に「シート」と記載することもある。
【0011】
本発明で使用される塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニルや、塩化ビニルモノマーと、塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、塩化ビニルモノマーと高級ビニルエーテルとの共重合体等、またはこれらの混合物が挙げられる。塩化ビニルと共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、マレイン酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸、アクリル酸、酢酸ビニル等のオレフィン系モノマーやアクリル系モノマーが挙げられる。
塩化ビニル系樹脂は、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
上記塩化ビニル系樹脂の重合度としては、1000〜2000が好ましく、更に好ましくは1000〜1500である。重合度が1000未満であると、溶融張力が低くシート成形が困難となる傾向にあり、重合度2000を超えると、シート加工温度が高くなり樹脂が分解しやすい傾向にある。
【0013】
上記塩化ビニル系樹脂には、柔軟性を付与するために可塑剤を添加する。可塑剤としては、フタル酸ジオクチルエステル(DOP)、フタル酸ジイソノニルエステル(DINP)、フタル酸ブチルベンジルエステル(BBP)、フタル酸ジイソデシルエステル(DIDP)、フタル酸ジウンデシルエステル(DUP)などに代表される一般のフタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸ジオクチルエステル(DOA)、セバシン酸ジオクチルエステル(DOS)、アゼライン酸ジオクチルエステル(DOZ)に代表される一般の脂肪酸エステル系可塑剤、トリメリット酸トリオクチルエステル系可塑剤、ポリプロピレンアジペート等に代表されるアジピン酸系ポリエステル系可塑剤などの高分子系可塑剤、セバシン酸系可塑剤、塩素化パラフィンなどの一般的な可塑剤、トリクレジルフォスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤、エポキシ化大豆油等が挙げられるが、好ましくは数平均分子量が700〜3000である高分子系可塑剤である。
高分子系可塑剤は、ブリードしにくいため長期に亘ってシートを使用しても、シート表面がべたついたり硬化したりするおそれがない。そのため、長期に亘って、使用者が歩行中に滑ったり引っかかったりすることのない良好なフロアマットとなる。また、高分子系可塑剤を使用すれば、可塑剤のブリードに併せて後述する抗菌剤が染み出すおそれがないため、長期に亘って抗菌性を維持することができる。
高分子系可塑剤のなかでも、アジピン酸系ポリエステルは低揮発性であるため、床表面の塗装などへの影響が極めて低減できるためさらに好ましい。
また、エポキシ化大豆油は熱安定剤としての働きがあるため、上記高分子系可塑剤と組み合わせて使用すると好適である。
可塑剤の添加量としては、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、30〜70重量部程度である。
【0014】
本発明の抗菌性フロアマット用シートは、ガラス−銀抗菌剤を含有してなる。
ガラス−銀抗菌剤は、ガラスの網目構造中に銀イオンを取り込んでいるもので、水分の存在下において銀イオンをごく少量ずつ徐放する。徐放された銀イオンはプラスに帯電しており、このイオンがマイナスに帯電している細菌や黴菌を引き寄せ、細菌や黴菌の表面の電気バランスを崩すことにより細胞膜を破壊し、死滅させる。
また、銀イオンは細菌や黴菌の内部に到達し、菌内の酵素の−SH基と反応、結合することで酵素活性を失わせる。さらに、細菌や黴菌のDNAとも反応し、その複製機能を失わせて繁殖力を低下させる働きがある。
他の金属イオンも銀イオンと同様のはたらきがあるが、種々の抗菌剤について検討したところ、塩化ビニル系樹脂からなるシートに含有させるものにおいては、ガラス−銀抗菌剤が特に優れることが判明した。
【0015】
ガラス−銀抗菌剤は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、0.1〜5.0重量部含有するさせる。
添加量が0.1重量部未満であると抗菌性が十分ではなく、5.0重量部を超えても、抗菌性は飽和するばかりでなく、シートが白濁する傾向にあるため好ましくない。
【0016】
本発明の抗菌性フロアマット用シートは、熱安定剤を含有してなる。
熱安定剤としては、Ba−Zn系、Ca−Zn系、Pb系、Sn系、Cd−Ba系の金属塩、ジフェニルデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリキシレニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイトなどの有機ホスファイト系安定剤、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫マレート、有機錫メルカプチド、有機錫スルホンアミドなどの錫系安定剤などが使用できる。
これらの熱安定剤は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。熱安定剤の添加量としては、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、0.1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部が好ましい。
【0017】
本発明においては、上記熱安定剤のなかでも、Ba−Zn系複合安定剤および/またはCa−Zn系複合安定剤が好ましい。Ba−Zn系複合安定剤やCa−Zn系複合安定剤は、それ自体が抗菌性を示すため、熱安定性を付与するとともに抗菌性を向上させることができる。
【0018】
本発明の抗菌性フロアマット用シートには、上記の可塑剤、抗菌剤、熱安定剤以外にも、必要に応じて光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、充填剤、顔料等を配合することが可能である。
【0019】
塩化ビニル系樹脂に、可塑剤、抗菌剤、熱安定剤および必要に応じて添加される各種添加剤を含有してなる塩化ビニル系樹脂組成物は、スーパーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合され、カレンダー法、押出法、インフレーション法等の適宜の手段により、所望の厚さのシートに成形される。シートの厚さについては特に限定されないが、一般的に使用されるシートの厚さは0.1〜5.0mm程度である。
【0020】
このようなシートは、単層からなるものであってもよいし、複数層からなるものであってもよい。シートを複数層で構成する場合は、各層は同一の組成からなるものであってもよいし、各層に含有させる可塑剤の添加量を変えて各層の硬さを変化させたり、着色させて色相を変化させてもよい。
なお、複数層からシートを構成する場合においては、抗菌剤は、最表面の層に添加されいれば抗菌性が発現するが、最表面に加え、最表面以外の層に添加されていてもよい。
【0021】
本発明の抗菌性フロアマット用シートには、デザイン性の向上を目的として意匠層を設けることができる。
意匠層は、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷などの通常の印刷技術を用いて、パターン印刷(ステンドグラス調、花柄、ストライプなど)、ベタ塗り印刷、文字印刷などにより形成される。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0023】
<実施例1、2、4〜8、比較例1〜
表1に示す配合の塩化ビニル系樹脂組成物をカレンダー成形した後、3枚を重ね合わせて厚さ1.0mmのシートを得た。
【0024】
【表1】
【0025】
表中;
塩化ビニル樹脂1:重合度1000
塩化ビニル樹脂2:重合度800
塩化ビニル樹脂3:重合度1700
可塑剤1:アジピン酸系ポリエステル(DIC株式会社製 W−1020−EL)、数 平均分子量1000
可塑剤2:フタル酸ジオクチルエステル(DOP)
可塑剤3:エポキシ化大豆油(DIC株式会社製 W−100EL)
熱安定剤1:Ba−Zn複合系安定剤(株式会社ADEKA製 KKL−210)
熱安定剤2:トリキシレニルホスファイト(TXP)
抗菌剤1:ガラス−銀抗菌剤(石塚硝子株式会社製 イオンピュアNDC−K)
抗菌剤2:担持体ゼオライト(富士ケミカル株式会社製 バクテキラー)
【0026】
上記実施例および比較例のシートについて、以下の評価を行なった。
【0027】
<加工適性>
上記実施例および比較例のシートの成形性について評価した。評価基準は以下のとおりである。
〇・・・カレンダー工程およびラミネート工程で問題なし
△・・・カレンダー成形が難しい
評価結果は、表1に示す。
【0028】
<抗菌性>
実施例および比較例で得られたシートについて、JIS Z2801に準拠し、耐水区分1、耐光区分1の条件で抗菌性試験を行い、以下の基準で評価した。
〇・・・黄色ぶどう球菌、大腸菌ともに抗菌活性値が2.0以上
△・・・黄色ぶどう球菌、大腸菌いずれかの抗菌活性値が2.0以上
×・・・黄色ぶどう球菌、大腸菌ともに抗菌活性値が2.0未満
評価結果は、表1に示す。
【0029】
<ブリード性>
ポリスチレン板に、実施例および比較例で得られたシートを載せ、荷重3kg/20cm、試験条件60℃×24時間でシートの重量減少量を測定した。評価基準は以下のとおりである。
○・・・重量減少量が1g/m未満
△・・・重量減少量が1g/m以上2g/m未満
【0030】
実施例1、2、4〜8のシートは、表1からわかるように何れも抗菌性に優れることがわかる。そのため、細菌類や黴菌類の繁殖を長期に亘って阻止し、清潔な屋内空間を維持することが可能となる。