特許第6133134号(P6133134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6133134透析システム、調整装置、および、調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133134
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】透析システム、調整装置、および、調整方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
   A61M1/16 171
   A61M1/16 173
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-113673(P2013-113673)
(22)【出願日】2013年5月30日
(65)【公開番号】特開2014-230680(P2014-230680A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年4月8日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第80回大阪透析研究会 プログラム・予稿集,第40頁,平成25年3月5日発行 第80回大阪透析研究会,平成25年3月17日開催 日本透析医学会雑誌 46巻 Supplement・1,第481頁,〔O−0373〕,日本透析医学会編集委員会,平成25年5月28日発行
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513136551
【氏名又は名称】医療法人拓真会
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武島 正佳
(72)【発明者】
【氏名】春田 富久
(72)【発明者】
【氏名】常本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小松 大介
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−533829(JP,A)
【文献】 特表2014−513290(JP,A)
【文献】 特開2008−220774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖成分を含む粉末透析用剤を溶解、希釈して患者に透析治療を施すための1以上の透析装置に供給する透析システムにおいて、
前記粉末透析用剤を溶解して得られる濃厚液または当該濃厚液を少なくとも希釈用水と混合して得られる透析液である対象液を一時的に貯留する貯留部を備えており、
前記貯留部の貯留容量が、前記粉末透析用剤を溶解してから当該貯留部を経て透析装置に供給されるまでの待機時間が、前記糖成分の異性体別割合が一定になる平衡に達するまでの平衡時間以上になる容量であり、
さらに、前記貯留部に貯留された対象液が、平衡に到達したか否かを確認または予測する確認・予測手段を、備えており、
前記平衡に達したと確認予測された対象液のみを貯留部から出力させる、
ことを特徴とする透析システム。
【請求項2】
請求項1に記載の透析システムであって、さらに、
前記対象液を、前記糖成分の平衡化を促進する温度に調温する調温手段を備える、ことを特徴とする透析システム。
【請求項3】
請求項2に記載の透析システムであって、
前記調温手段は、前記貯留部に貯留された対象液を、前記糖成分の平衡化を促進する温度に加温して調温する、ことを特徴とする透析システム。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載の透析システムであって、
前記貯留部は、複数の貯留槽を備えており、
前記複数の貯留槽のうち、対象液の出力が許容された貯留槽とは別の貯留槽に、新たな対象液を供給し、貯留する、ことを特徴とする透析システム。
【請求項5】
糖成分を含む粉末透析用剤を溶解して濃厚液を生成する溶解装置と、前記濃厚液を少なくとも希釈用水と混合して透析液を生成するとともに当該透析液を患者に透析治療を施すための1以上の透析装置に供給する供給装置と、が配管で接続された透析システムに組み込まれる調整装置であって、
前記粉末透析用剤を溶解して得られる濃厚液または当該濃厚液を少なくとも希釈用水と混合して得られる透析液である対象液を一時的に貯留する貯留部を備えており、
前記貯留部の貯留容量が、前記粉末透析用剤を溶解してから当該貯留部を経て透析装置に供給されるまでの待機時間が、前記糖成分の異性体別割合が一定になる平衡に達するまでの平衡時間以上になる容量であり、
さらに、前記貯留部に貯留された対象液が、平衡に到達したか否かを確認または予測する確認・予測手段を、備えており、
前記平衡に達したと確認予測された対象液のみを貯留部から出力させる、
ことを特徴とする調整装置。
【請求項6】
糖成分を含む粉末透析用剤を溶解、希釈して患者に透析治療を施すための1以上の透析装置に供給する透析システムで用いられる透析液の成分を調整する調整方法であって、
前記粉末透析用剤を溶解して得られる濃厚液または当該濃厚液を少なくとも希釈用水と混合して得られる透析液である対象液を貯留部に一時的に貯留するステップを有し、
前記貯留部の貯留容量が、前記粉末透析用剤を溶解してから当該貯留部を経て透析装置に供給されるまでの待機時間が、前記糖成分の異性体別割合が一定になる平衡に達するまでの平衡時間以上になる容量であり、
さらに、前記貯留部に貯留された対象液が、平衡に到達したか否かを確認または予測する確認・予測ステップと、
前記平衡に達したと確認予測された対象液のみを貯留部から出力させるステップと、
を備える、
ことを特徴とする調整方法。
【請求項7】
請求項に記載の調整方法であって、さらに、
前記対象液を、前記糖成分の平衡化を促進する温度に調温するステップを有する、ことを特徴とする調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖成分を含む粉末透析用剤を溶解、希釈して患者に透析治療を施すための1以上の透析装置に供給する透析システム、当該透析システムに組み込まれる調整装置、および、当該透析システムで用いられる透析液の成分を調整する調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病院等で腎不全患者の治療に使用される透析液は、重炭酸ナトリウムを含まないもの(以下、A剤という。)と重炭酸ナトリウム(以下、B剤という。)の2種類の薬剤に水を混合して調整されるものである。従来、このA剤、B剤は、それぞれ、所定濃度の液体、すなわち、液状A剤および液状B剤として提供されていた。医院や病院などの透析施設では、必要に応じて、この液状A剤および液状Bを混合・希釈して、透析液を生成していた。
【0003】
かかる液状A剤および液状B剤は、患者1名の1回の透析で、5リットル前後もの量が使用される。したがって、複数の患者を取り扱う医院や病院においては、液状A剤、液状B剤を多量に備蓄し、随時、運搬する必要があり、運搬の負担、貯蔵スペース等の問題があった。
【0004】
そこで、近年では、運搬性向上の観点から、これらA剤及びB剤を粉末化したもの(以下、「粉末A剤」、「粉末B剤」という)を透析の前に溶解して、液状A剤および液状B剤と同等の濃度を持つA剤濃厚液およびB剤濃厚液を得る試みがなされている(例えば特許文献1,2など)。かかる粉末A剤、粉末B剤を用いる技術によれば、貯蔵スペースを低減でき、また、運搬の負担も大幅に低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−220774号公報
【特許文献2】特開2008−220784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、A剤に含まれる糖成分、具体的にはグルコースには、いくつかの異性体が知られている。従来多用されていた液状A剤に含まれるグルコースのうち、約36%は、図9(a)に示すα−グルコースであり、約64%が図9(b)に示すβ−グルコースとなっている。一方、粉末A剤に含まれるグルコースには、β−グルコースは存在せず、α−グルコースが100%となっている。この粉末A剤を、水に溶解させると時間とともにα−グルコースの一部がβ−グルコースに変化していき、最終的には、液状A剤と同じ、約36%がα−グルコース、約64%がβ−グルコースの状態で平衡に達する。
【0007】
しかし、粉末A剤を溶解して用いる場合、溶解液中のグルコースが平衡に達した否かを確認しないまま、粉末B剤の溶解液および水と混合し、希釈して、透析液を生成し、患者に透析治療を施すための透析装置に供給していた。その結果、透析液の組成、特に、グルコースの比率が、液状A剤を用いた場合と異なっている可能性があった。液状A剤および粉末A剤のいずれを使用した場合でも、最終的に得られる透析液の組成は、ほぼ同じであることが望ましい。
【0008】
そこで、本発明では、粉末A剤を用いても、液状A剤から生成される透析液と同じ組成の透析液が生成できる透析システム、当該透析システムに組み込まれる調整装置、および、透析液の成分を調整する調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の透析システムは、糖成分を含む粉末透析用剤を溶解、希釈して患者に透析治療を施すための1以上の透析装置に供給する透析システムにおいて、前記粉末透析用剤を溶解して得られる濃厚液または当該濃厚液を少なくとも希釈用水と混合して得られる透析液である対象液を一時的に貯留する貯留部を備えており、前記貯留部の貯留容量が、前記粉末透析用剤を溶解してから当該貯留部を経て透析装置に供給されるまでの待機時間が、前記糖成分の異性体別割合が一定になる平衡に達するまでの平衡時間以上になる容量であり、さらに、前記貯留部に貯留された対象液が、平衡に到達したか否かを確認または予測する確認・予測手段を、備えており、前記平衡に達したと確認予測された対象液のみを貯留部から出力させる、ことを特徴とする。
【0010】
好適な態様では、さらに、前記対象液を、前記糖成分の平衡化を促進する温度に調温する調温手段を備える。この場合、前記調温手段は、前記貯留部に貯留された対象液を、前記糖成分の平衡化を促進する温度に加温して調温する、ことが望ましい。
【0011】
他の好適な態様では、前記貯留部は、複数の貯留槽を備えており、前記複数の貯留槽のうち、対象液の出力が許容された貯留槽とは別の貯留槽に、新たな対象液を供給し、貯留する。
【0012】
他の本発明である調整装置は、糖成分を含む粉末透析用剤を溶解して濃厚液を生成する溶解装置と、前記濃厚液を少なくとも希釈用水と混合して透析液を生成するとともに当該透析液を患者に透析治療を施すための1以上の透析装置に供給する供給装置と、が配管で接続された透析システムに組み込まれる調整装置であって、前記粉末透析用剤を溶解して得られる濃厚液または当該濃厚液を少なくとも希釈用水と混合して得られる透析液である対象液を一時的に貯留する貯留部を備えており、前記貯留部の貯留容量が、前記粉末透析用剤を溶解してから当該貯留部を経て透析装置に供給されるまでの待機時間が、前記糖成分の異性体別割合が一定になる平衡に達するまでの平衡時間以上になる容量であり、さらに、前記貯留部に貯留された対象液が、平衡に到達したか否かを確認または予測する確認・予測手段を、備えており、前記平衡に達したと確認予測された対象液のみを貯留部から出力させる、ことを特徴とする。
【0013】
他の本発明である調整方法は、糖成分を含む粉末透析用剤を溶解、希釈して患者に透析治療を施すための1以上の透析装置に供給する透析システムで用いられる透析液の成分を調整する調整方法であって、前記粉末透析用剤を溶解して得られる濃厚液または当該濃厚液を少なくとも希釈用水と混合して得られる透析液である対象液を貯留部に一時的に貯留するステップを有し、前記貯留部の貯留容量が、前記粉末透析用剤を溶解してから当該貯留部を経て透析装置に供給されるまでの待機時間が、前記糖成分の異性体別割合が一定になる平衡に達するまでの平衡時間以上になる容量であり、さらに、前記貯留部に貯留された対象液が、平衡に到達したか否かを確認または予測する確認・予測ステップと、前記平衡に達したと確認予測された対象液のみを貯留部から出力させるステップと、を備える。好適な態様では、さらに、前記対象液を、前記糖成分の平衡化を促進する温度に調温するステップを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前記粉末透析用剤を溶解してから透析装置に供給されるまでの待機時間が、前記糖成分の異性体別割合が一定になる平衡に達するまでの平衡時間以上になる容量の貯留部に対象液が一時的に貯留されるため、粉末A剤を用いても、液状A剤から生成される透析液と同じ組成の透析液が生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態である透析システムの構成図である。
図2】調整装置の構成を示す図である。
図3】A剤濃厚液中のα−グルコース及びβ−グルコースの存在比率の経時変化を示すグラフである。
図4】A剤濃厚液中のα−グルコース及びβ−グルコースの存在比率の経時変化を示すグラフである。
図5】調整装置が組み込まれたA剤溶解装置の構成を示す図である。
図6】調整装置が組み込まれた透析液供給装置の構成を示す図である。
図7】調整装置が組み込まれた他の透析液供給装置の構成を示す図である。
図8】調整装置が組み込まれた透析システムの構成を示す図である。
図9】α−グルコースおよびβ−グルコースの構造式である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である透析システム10の構成ブロック図である。この透析システム10は、二種類の粉末透析用剤(粉末A剤および粉末B剤)を溶解、混合、希釈して透析液を生成し、生成された透析液を、患者に透析治療を施すための透析装置(「透析用監視装置」とも呼ばれる)20に供給するためのシステムである。
【0017】
この透析システム10は、機械室に設置された逆浸透装置12(以下「RO装置12」という)、溶解装置14,16、および、透析液供給装置18と、機械室とは隔離された透析室に設置された複数の透析装置20とから主に構成されている。
【0018】
RO装置12は、逆浸透膜(RO膜)を用いて水から不純物を除去し、純度の高いRO水を生成する。生成されたRO水は、水供給ライン22,24を介して、A剤溶解装置14、B剤溶解装置16、透析液供給装置18に供給される。なお、本実施形態では、RO装置12を用いて高純度の水を生成しているが、高純度の水が得られるなら、他の装置を用いてもよい。
【0019】
A剤溶解装置14、B剤溶解装置16は、それぞれ、対応する粉末透析用剤をRO水で溶解する。ここで、A剤は、電解質成分(例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム)や、pH調整剤(例えば酢酸)、糖(例えばグルコース)等を含む薬剤である。また、B剤は、重炭酸ナトリウム等を含む薬剤である。これら粉末A剤および粉末B剤を溶解して得られた液体は、それぞれ、A剤濃厚液、B剤濃厚液として、濃厚液供給ライン26,28を介して透析液供給装置18に供給される。透析液供給装置18は、A剤濃厚液、B剤濃厚液、RO水を所定比率で混合し、所定濃度の透析液を生成する。生成された透析液は、必要に応じて、濃度測定等されたうえで、複数の透析装置20に供給されて、各透析装置20によって各患者に対して透析治療が施されることになる。
【0020】
ところで、既述した通り、本実施形態では、透析液を、粉末A剤および粉末B剤を溶解し、混合、希釈して生成している。このような粉状(固体状)のA剤およびB剤を用いるのは、運搬性を向上し、また、貯蔵スペースを低減するためである。すなわち、粉末A剤、粉末B剤を溶解して透析液を生成するのではなく、予め、液状になったA剤(液状A剤)、B剤(液状B剤)を用いて透析液を生成する態様も知られている。しかし、患者1名の1回の透析には、5リットルもの液状A剤および液状B剤が必要であるため、液状A剤、液状B剤を用いる場合は、多量の液状A剤、液状B剤を運搬、貯蔵する必要がある。特に、複数の患者を扱う医院や病院等の施設では、液状A剤、液状B剤の運搬の負担が大きく、また、大きな貯蔵スペースが必要であった。
【0021】
一方、粉末A剤、粉末B剤を用いる形態の場合、液状A剤、液状B剤に比して、軽量・小量であるため、運搬の負担が小さく、また、貯蔵スペースも少なくてもよい。一方で、必要に応じて、粉末A剤および粉末B剤を溶解すれば、液状A剤、液状B剤とほぼ同様の薬液(A剤濃厚液、B剤濃厚液)が得られる。
【0022】
ただし、粉末A剤を溶解したA剤濃厚液と液状A剤との組成は、必ずしも、同じではなかった。例えば、A剤には、糖成分としてグルコースが含まれているが、このグルコースには、いくつかの異性体がある。液状A剤に含まれるグルコースのうち、約36%はα−グルコース(図9(a))であり、約64%はβ−グルコース(図9(b))である。これは、体液中のグルコースの異性体比率と、ほぼ同じである。一方、粉末A剤には、β−グルコースは存在せず、α−グルコースのみが存在している。この粉末A剤を水に溶解すると、α−グルコースの一部が、β−グルコースへと変化していき、最終的には、液状A剤と同じ、約36%がα−グルコース、約64%がβ−グルコースとなる平衡状態になる。ただし、粉末A剤を溶解してから平衡状態になるまでは、液温にもよるが、ある程度の時間がかかる。従来は、粉末A剤を溶解したA剤濃厚液中のグルコースが平衡に達したかを考慮することなく、混合希釈して透析液を生成していた。そのため、得られる透析液の組成(特にグルコースの異性体比率)が、液状A剤等を用いて生成した透析液の組成と異なる場合があった。
【0023】
そこで、本実施形態では、粉末A剤を用いて生成される透析液の組成が、液状A剤等を用いて生成した透析液と同じ組成と同じになるように、透析システム10に、A剤濃厚液または透析液を調整する調整装置50を組み込んでいる。
【0024】
この調整装置50の基本的な構成概念と具体的な構成について、図2を参照して説明する。図2は、調整装置50の構成を示す図である。はじめに、調整装置50の基本的な構成概念について説明する。調整装置50は、A剤濃厚液またはA剤濃厚液から生成された透析液を一時的に貯留し、所定温度に調温する装置である。なお、以下では、調整装置50で貯留・調温されるA剤濃厚液または透析液を、「対象液」と呼ぶ。
【0025】
透析装置20に供給される透析液中のグルコースが平衡に達しているようにするためには、A剤が溶解されてから透析液が透析装置20に供給されるまでの時間T1(以下「待機時間T1」という)を、対象液中のグルコースが平衡に達するまでの時間T2(以下「平衡化時間T2」という)以上にする必要がある。
【0026】
待機時間T1は、対象液の貯留容量Vaを、単位時間当たりの対象液の使用量Vbで除することで求まる(T1=Va/Vb)。この待機時間T1が、平衡化時間T2以上になれば、すなわち、Va/Vb≧T2であり、ひいては、Va≧T2*Vbとなれば、透析液が透析装置20に供給された時点で、透析液中のグルコースは、平衡に達していることになる。そこで、本実施形態では、調整装置50に、対象液を貯留する貯留部52を設けるとともに、当該貯留部52の貯留容量Vaを、Va≧T2*Vbとしている。かかる貯留部52に、対象液を一時的に貯留することで、透析液が透析装置20に達した時点で、透析液中のグルコースは平衡に達しており、液状A剤から生成される透析液と同じ組成になる。
【0027】
また、本実施形態の調整装置50には、A剤濃厚液の液温を調整する調温部56も設けられている。これは、グルコースの平衡化を促進するためである。出願人の実験によれば、グルコースは、液温が高いほど平衡化時間T2が短くなるため、調温部56によりA剤濃厚液の液温を高めることで、平衡化時間T2が短くなり、ひいては、貯留部52の貯留容量Vaも小さくできる。これについて、図3図4を参照して説明する。図3図4は、A剤濃厚液中のα−グルコース及びβ−グルコースの存在比率の経時変化を示すグラフであり、図3(a)は、液温を20℃に、図3(b)は、液温を30℃に、図4(a)は、液温を35℃に、図4(b)は、液温を40℃に保った場合を示している。各図において、実線は、α−グルコースの、破線は、β−グルコースの存在比率を示している。
【0028】
この実験では、粉末A剤を所定の温度(20℃、30℃、35℃、40℃)のRO水で溶解して9LのA剤濃厚液を作成し、所定の温度で恒温している。なお、A剤濃厚液中のグルコース濃度は、0.035g/mlであり、PHは約4.9である。また、実験に際しては、旋光度及び旋光回転角の測定を5分毎に行い、その測定結果を以下の式1,2にあてはめて、A剤濃厚液のα−グルコースの存在比率Y、及び、β−グルコースの存在比率Zを算出している。
Y=(X−B)/(A−B) 式1
Z=100−Y 式2
【0029】
なお、式1において、Xは、旋光度の測定結果、Aは、100%α−グルコースの場合の理論旋光度、Bは、100%β−グルコースの場合の理論旋光度であり、A,Bの値としてA=112.2°、B=18.7°を用いている。また、旋光度とは、特定の単色光を用い、所定の温度で測定したときの旋光度を意味する。本実験では、所定の温度のA剤濃厚液を必要量、測定容器に入れ、旋光計(HORIBA社製:型式SEPA−300)を所定の温度、所定の濃度、波長ナトリウムD線、層長100mmの条件下で旋光度及び旋光回転角を5分毎に測定している。そして、旋光度が53.2°以下になれば、グルコースが平衡に達したと判断している。
【0030】
図3図4に示す通り、溶解されたA剤は、液温が高いほど平衡化時間T2が、短くなる。具体的には、液温20℃の場合、平衡化時間T2は、170分が必要となる。一方、液温30℃、35℃、40℃と上げていけば、平衡化時間T2は、50分、40分、25分に短縮されていく。つまり、これらの実験によれば、平衡化時間T2は、液温に依存しており、液温が高いほど短縮できることが分かる。特に、液温20℃と30℃を比べれば、平衡化時間T2は、1/3以下に短縮されており、その短縮効果が大きいことが分かる。また、液温40℃にすれば、液温20℃に比して、平衡化時間T2が約1/7と大幅に抑えられることが分かる。
【0031】
次に、具体例を挙げて、実際に必要な貯留部52の貯留容量Vaについて説明する。例えば、50人の患者に透析液500ml/minを同時に供給する透析システム10を考える。この場合、1分当たりのA剤濃厚液の使用量Vb1は715ml、1分当たりの透析液の使用量Vb2は25000mlとなる。
【0032】
かかる透析システム10において、A剤濃厚液を液温20℃で貯留する場合、平衡化時間T2は、170minであるため、貯留部52の容量Vaは、170*715=121550ml以上必要となる。また、A剤濃厚液ではなく、透析液を貯留する場合、貯留部52の容量Vaは、170*25000=4250000ml以上必要となる。
【0033】
同様に、A剤濃厚液を液温30℃で貯留する場合、平衡化時間T2は、50minであるため、貯留部52の容量Vaは、50*715=35750ml以上必要となる。また、A剤濃厚液ではなく、透析液を貯留する場合、貯留部52の容量Vaは、50*25000=1250000ml以上必要となる。
【0034】
A剤濃厚液を液温35℃で貯留する場合、平衡化時間T2は、40minであるため、貯留部52の容量Vaは、40*715=28600ml以上必要となる。また、A剤濃厚液ではなく、透析液を貯留する場合、貯留部52の容量Vaは、40*25000=1000000ml以上必要となる。
【0035】
A剤濃厚液を液温40℃で貯留する場合、平衡化時間T2は、25minであるため、貯留部52の容量Vaは、25*715=17875ml以上必要となる。また、A剤濃厚液ではなく、透析液を貯留する場合、貯留部52の容量Vaは、25*25000=625000ml以上必要となる。
【0036】
以上の説明から明らかな通り、対象液の温度を高くすることにより、貯留部52の貯留容量を小さく抑えることができ、貯留部52、ひいては、調整装置50のサイズを大幅に低減できる。特に、液温30℃にすれば、液温20℃に比べて、必要な貯留容量Vaを1/3以下に低減できる。また、液温40℃にすれば、液温20℃に比べて、貯留容量を約1/7と大幅に低減できる。したがって、対象液の液温は、特に限定されるものではないが、対象液は、20℃〜100℃の範囲に調温されることが望ましい。また、貯留部52の容量や調整装置50のサイズ低減の観点、その後の透析液の安定性を考慮すると、対象液は、30℃〜40℃の範囲に調温されることがより望ましい。
【0037】
次に、調整装置50の具体的構成について、図2を参照して説明する。調整装置50は、既述した通り、対象液(A剤濃厚液または透析液)を貯留する貯留部52と、対象液を調温する調温部56を備える他、確認・予測部58や、判定部60等も備えている。
【0038】
貯留部52は、A剤濃厚液を一時的に貯留するための部位であり、本実施形態では、二つの貯留槽54で貯留部52を構成している。貯留槽54内には、フロートスイッチ等の水位センサ62が設けられており、貯留槽54に貯留されている対象液が規定容量に達すれば、対象液の供給がストップするようになっている。すなわち、各貯留槽54には、その上側に接続された対象液供給ライン72を介して対象液が上流側から供給される。対象液の水位が規定位置に達したことが水位センサ62で検知されれば、対象液供給ライン72上に設けられた電気駆動式バルブ66が閉鎖され、対象液の供給がストップされる。また、各貯留槽54の底部には、対象液を出力するための対象液出力ライン74が接続されており、当該対象液出力ライン74上には、電気駆動式バルブ68および移送ポンプ70が設けられている。そして、この電気駆動式バルブ68および移送ポンプ70を駆動することにより、貯留槽54に貯留された対象液が下流側に出力される。
【0039】
各貯留槽54の容量は、貯留部52全体で必要な貯留容量Vaを貯留槽54の個数N(本実施形態ではN=2)で除した値(Va/N)以上となっている。このように貯留部52を複数の貯留槽54で構成する場合、平衡化が進んでいない新たな対象液は、対象液の出力が許容された貯留槽54とは別の貯留槽54に供給する。かかる構成とすることで、貯留されて平衡化が進んだ対象液と、上流側から新たに供給された平衡化が進んでいない対象液とが混和することが防止される。そして、結果として、平衡に達していない対象液が、下流側に出力されることが防止される。
【0040】
貯留部52の周囲には、調温部56が設けられている。調温部56は、貯留部52に貯留された対象液を所定の温度に昇温、維持、場合によっては冷却するもので、昇温手段、維持手段、冷却手段等が設けられている。この調温部56により、貯留部52に貯留された対象液は、20℃〜100℃の範囲で指定した温度で継続的に維持され、必要に応じて冷却される。
【0041】
なお、昇温手段としては、対象液を加温できる機構、例えば、電気ヒータや温水、蒸気、マイクロ波等を利用した加熱機構を用いることができる。また、維持手段としては、貯留槽54全体を覆う断熱室や、加熱機構の駆動を制御するPID動作制御、ON/OFF動作制御、比例動作制御、積分動作制御、微分動作制御機構等が挙げられる。冷却手段としては、冷水等の水冷式、自然風冷および強制風冷等の風冷式、冷媒ガス等を利用した気体冷却式等による冷却機構を用いることができる。
【0042】
調温部56において、対象液を昇温することにより、グルコースの平衡化を促進でき、ひいては、貯留部52の必要容量を低減できる。また、調温部56において、対象液を冷却するのは、炭酸ガスの発生抑制や、対象液を体液と同等の温度にするためである。すなわち、対象液がA剤濃厚液の場合は、調整装置50の下流側において、A剤濃厚液(対象液)がB剤濃厚液と混合される。このとき、A剤濃厚液(対象液)が高温だと、B剤濃厚液の成分である炭酸水素ナトリウムの分解性が増し、炭酸ガスが発生するおそれがある。そのため、A剤濃厚液は、B剤濃厚液との混合前に、常温程度に冷却されることが望ましい。また、対象液が透析液の場合、調整装置50の下流側において、透析液(対象液)は、透析装置20に供給される。この供給に際して、透析液の液温は、体温相当にしておくことが望ましいため、透析液は、透析装置20に供給される前に、体温相当に冷却されることが望ましい。
【0043】
確認・予測部58は、各貯留槽54に貯留された対象液が平衡に達したか否かをリアルタイムで判断または予測する部位である。この確認・予測部58は、例えば、旋光度測定、NMRスペクトル測定、ラマンスペクトル測定、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、GOD法、GDH法等の酵素電極法、HX法、GOD/POD法等の酵素比色法等を用いた検出器を備え、当該検出器での検出結果から平衡状態か否かを判断する。また、確認・予測部58は、平衡状態か否かを明確に判断するのではなく、例えば、貯留されている対象液の温度を検知するセンサ、貯留時間を計測するタイマーを有し、検知温度および計測時間から貯留されている対象液が平衡に達したか否かを予測してもよい。なお、図2では、確認・予測部58を、貯留槽54内に配置しているが、タイマー等、確認・予測部58の構成要素の一部は、貯留槽54の外部に設けられてもよい。いずれにしても、この確認・予測部58での確認結果は、判定部60へと送られる。
【0044】
判定部60は、確認・予測部58でリアルタイムに検出された確認・予測結果に基づいて、各貯留槽54ごとに、対象液が平衡に達したか否かを判定する。平衡に達していると判定した場合、当該判定部60は、対象液の出力を許容する信号を、判定した貯留槽54に対応する電気駆動式バルブ68および移送ポンプ70の駆動源に送信する。この信号を受けた場合、電気駆動式バルブ68および移送ポンプ70は、通常通り、必要に応じて対象液を下流側へと出力する。一方、平衡に達していないと判定した場合、判定部60は、エラー信号を、判定した貯留槽54に対応する電気駆動式バルブ68および移送ポンプ70の駆動源に送る。このエラー信号を受けた場合、電気駆動式バルブ68および移送ポンプ70は、対象液の出力を行わない。
【0045】
なお、本実施形態では、二つの貯留槽54を設けているため、一方の貯留槽54の対象液が未平衡で、当該一方の貯留槽54から対象液が出力できないとしても、他方の貯留槽54において対象液が平衡に達していれば、当該他方の貯留槽54から対象液を出力できるため問題ない。しかし、二つの貯留槽54いずれでも平衡に達していない場合や、貯留槽54が一つしか存在せず、かつ、当該一つの貯留槽54において平衡に達していない場合には、対象液が全く出力できないことになり、問題になる。そこで、かかる場合には、判定部60は、一時的に対象液の出力を許容する一方で、平衡化を促進するべく、調温部56に対して昇温温度を高める指示を出力したり、アラーム等を鳴らし、操作者に対してシステムの検査を促したりしてもよい。
【0046】
以上のように、十分な容量の貯留部52を有した調整装置50を透析システム10に設けることにより、透析装置20に供給された時点で、透析液中のグルコースが平衡に達しており、液状A剤を用いて生成した透析液と同じ組成の透析液が得られる。また、貯留部52に貯留されている対象液を調温する調温部56を設けることにより、貯留部52、ひいては、調整装置50が過度に大きくなることを防止できる。また、加熱機構を用いて積極的に対象液の温度を調整しているため、外部環境温度の影響を受けにくく、グルコースの平衡化を安定して進めることができる。
【0047】
以上のような調整装置50は、A剤溶解装置14や透析液供給装置18に組み込まれてもよいし、これら装置と独立した個別の装置として透析システム10に組み込まれてもよい。例えば、図5は、調整装置50が組み込まれたA剤溶解装置14の構成図である。
【0048】
A剤溶解装置14は、上述した通り、粉末A剤をRO水で溶解し、A剤濃厚液を生成する装置である。調整装置50が組み込まれたA剤溶解装置14は、A剤溶解槽32と、当該A剤溶解槽32に連結された調整装置50と、を備えている。A剤溶解槽32は、粉末A剤を溶解するための槽で、水供給ライン24を介してRO装置12に接続されている。A剤溶解槽32には、フロートスイッチ等の水位センサ34や、撹拌装置(図示せず)等が設けられている。このA剤溶解槽32に、所定容量の粉末A剤とRO水を投入し、撹拌することで、粉末A剤の溶解液、すなわちA剤濃厚液が生成される。生成されたA剤濃厚液は、A剤溶解装置14の底部に接続されたA剤濃厚液供給ライン26aを介して、移送ポンプ36により、調整装置50の貯留槽54に移送される。調整装置50は、この移送されたA剤濃厚液を、対象液として、グルコースが平衡に達するまで、貯留部52に貯留、調温する。
【0049】
なお、既存のA剤溶解装置14、すなわち、調整装置50が組み込まれていないA剤溶解装置14にも、A剤濃厚液を一時的に貯留するA剤濃厚液貯槽が設けられていた。ただし、この従来のA剤溶解装置14におけるA剤濃厚液貯槽は、グルコースの平衡については何ら考慮されておらず、グルコースを平衡に達するまで貯留するには容量が不足しており、また、平衡化促進のためにA剤濃厚液を調温する機能はなかった。かかるA剤濃厚液貯槽に替えて、十分な容量のA剤濃厚液を貯留・調温できる調整装置50を設けることで、グルコースが平衡に達した透析液、すなわち、液状A剤から生成される透析液と同様の組成の透析液を、透析装置に供給できる。また、調整装置50を別途設けるのではなく、もともと存在していたA剤濃厚液貯槽に替えて、調整装置50を設けているため、透析システム10全体のサイズアップを比較的小さく抑えることができる。
【0050】
また、調整装置50は、透析液供給装置18に組み込まれてもよい。図6は、調整装置50が組み込まれた透析液供給装置18の一例を示す図である。透析液供給装置18は、A剤濃厚液、B剤濃厚液、RO水を所定の割合で混合して透析液を生成し、透析装置20に供給する装置である。この透析液供給装置18には、RO水が流れるとともに水量を計測する水計測器38が配設された水供給ライン22や、定量ポンプ42が接続されるとともにA剤濃厚液が流れるA剤濃厚液供給ライン26、定量ポンプ40が接続されるとともにB剤濃厚液が流れるB剤濃厚液供給ライン28、透析液貯槽44、送液ポンプ48等が設けられている。A剤濃厚液供給ライン26およびB剤濃厚液供給ライン28は、最終的には、水供給ライン22に連通している。水供給ライン22におけるRO水が、水計測器38を経た後、A剤濃厚液およびB剤濃厚液と所定比率で混合されることで、所定濃度の透析液が生成される。生成された透析液は、透析液貯槽44に一時的に貯留される。
【0051】
透析液貯槽44には、フロートスイッチ等の水位センサ46h,46Lが設けられており、当該透析液貯槽44内の透析液の液位が上限又は下限に達したことが検出可能となっている。また、この透析液貯槽44は、透析液から発生したガス等を分離除去できるように構成されており(図示せず)、ガス等が分離除去された透析液は、送液ポンプ48の駆動により透析液供給ライン30を介して、各透析装置20に供給される。
【0052】
かかる透析液供給装置18に調整装置50を組み込む場合は、図6に示すように、A剤濃厚液供給ライン26上に配置すればよい。この場合、調整装置50は、A剤濃厚液供給ライン26を流れるA剤濃厚液を対象液として、グルコースが平衡に達するまで、貯留部52に貯留、調温する。そして、これにより、グルコースが平衡に達した透析液が、透析装置20に供給される。
【0053】
また、図7は、調整装置50が組み込まれた透析液供給装置18の他の例を示す図である。この透析液供給装置18では、透析液貯槽44に替えて調整装置50を設けている。この場合、調整装置50は、A剤濃厚液およびB剤濃厚液が混合希釈された透析液を対象液として、グルコースが平衡に達するまで、貯留部52に貯留、調温する。したがって、この場合、調整装置50の貯留部52は、透析液貯槽44としても機能する。そして、これにより、グルコースが平衡に達した透析液を透析装置20に供給できる。
【0054】
また、透析装置20に供給する際、透析液は、体温相当まで調温されることが必要であるが、調整装置50を透析液供給装置18に組み込んだ場合、この透析装置20に近い位置で、グルコース平衡化促進のために透析液またはA剤濃厚液が調温されるため、別途、加温等する必要が殆どない。その結果、体温相当まで調温するために必要な電力消費量を低減できる。特に、透析液貯槽44に替えて調整装置50を設けた場合(図7の場合)、透析装置の調温部56で、グルコース平衡化促進のための調温と、体温に合わせるための調温の両方を行うことができるため、体温に合わせる調温のために別途、昇温機構等を簡略化することができる。また、A剤濃厚液供給ライン26上に調整装置50を設けた場合(図6の場合)、調整装置50は、希釈混合される前のA剤濃厚液を貯留・調温するため、透析液貯槽44に替えて調整装置50を設けた場合(図7の場合)に比して、貯留部52の容量を小さくでき、ひいては、調整装置50のサイズを低減できる。
【0055】
また、これまでの説明では、既存の装置(A剤溶解装置14、透析液供給装置18)に調整装置50を組み込む例を挙げたが、調整装置50は、独立した装置として透析システム10に組み込まれてもよい。すなわち、図8に示すように、A剤溶解装置14と透析液供給装置18の配管ライン、すなわち、A剤濃厚液供給ライン26上に調整装置50を設けてもよい。この場合、調整装置50は、A剤溶解装置14から出力されたA剤濃厚液を対象液として、グルコースが平衡に達するまで、貯留部52に貯留、調温する。これにより、グルコースが未平衡の透析液が透析装置に供給されることを効果的に防止できる。また、この場合、調整装置50を他の装置に組み込むのではなく、独立した装置として構成している。そのため、既存のA剤溶解装置14や透析液供給装置18を既に有している施設においては、これら装置を変更・交換しなくても、透析システム10に調整装置50を組み入れることができるため、導入のコストを低減できる。
【0056】
また、これまで挙げた例では、調整装置50において、A剤濃厚液または透析液である対象液を貯留するだけでなく、調温も行っていた。しかし、貯留部52での貯留容量が十分に大きく、対象液をグルコースが平衡に達するまで十分な時間待機させられるのであれば、調温部56は省略されてもよい。調温部56に限らず、確認・予測部58、判定部60も適宜、省略されてもよい。また、調温部56は、貯留部52に貯留されている対象液を加温するのではなく、他の位置で対象液を加温するようにしてもよい。例えば、調温部56は、粉末A剤を溶解するためにA剤溶解装置14に供給されるRO水を加温する構成としてもよい。この場合、比較的高温のRO水で粉末A剤が溶解されるため、得られるA剤濃厚液も比較的高温となる。そして、その結果、グルコースの平衡化が促進、ひいては、平衡に達するまでに要する時間が短縮されるため、貯留部52に必要な容量を低減できる。
【0057】
また、これまでの例では、調整装置50の貯留部52の貯留容量Vaを、Va≧T2*Vb(T2は平衡化時間、Vbは単位時間当たりの対象液の使用量)とした。しかし、貯留部52の貯留容量Vaは、当該貯留部52以外での対象液の貯留容量分だけ、T2*Vbよりも少なくてもよい。具体的には、透析システム10には、調整装置50の貯留部52以外にも、A剤濃厚液または透析液である対象液を貯留する部位が存在する。例えば、(調整装置50が組み込まれていない)A剤溶解装置14のA剤濃厚液貯槽や透析液供給装置18の透析液貯槽44、各装置を接続する配管ライン26,30にも、対象液は一時的に留まり、グルコースの平衡化が進む。透析装置20に供給する透析液のグルコースを平衡に達した状態にするためには、このこれら貯留部52以外の対象液の貯留部位における貯留容量Votherと、貯留部52の容量Vaを加算した透析システム10全体での対象液の貯留容量Vallが、T2*Vb以上(Vall=(Va+Vother)≧T2*Vb)となればよい。したがって、正確にいえば、貯留部52の貯留容量Vaは、Va≧T2*Vb−Votherであればよい。
【0058】
いずれにしても、A剤が溶解してから透析装置に供給されるまでの時間T1が、グルコースが平衡に達するまでの時間T2以上になるような容量の貯留部52を設けることにより、グルコースが未平衡の透析液が透析装置に供給されることが効果的に防止される。
【符号の説明】
【0059】
10 透析システム、12 RO装置、14 A剤溶解装置、16 B剤溶解装置、18 透析液供給装置、20 透析装置、22,24 水供給ライン、26 A剤濃厚液供給ライン、28 B剤濃厚液供給ライン、30 透析液供給ライン、32 A剤溶解槽、34,62 水位センサ、36,70 移送ポンプ、38 水計測器、40,42 定量ポンプ、44 透析液貯槽、48 送液ポンプ、50 調整装置、52 貯留部、54 貯留槽、56 調温部、58 確認・予測部、60 判定部、66,68 電気駆動式バルブ、72 対象液供給ライン、74 対象液出力ライン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9