(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
保護ベルト層は、タイヤ周方向に延びるコードをタイヤ幅方向に複数本配列し、該コードをゴムにより被覆して構成されている。タイヤへの内圧充填時には、タイヤの径成長によってトレッドの周長が増加して、保護ベルト層のコードが引き伸ばされる。このときのコードの張力の増大を抑制するために、各々のコードを、タイヤ幅方向に振幅を有する波形に形成し、伸び代を予め確保することが行われている。
【0005】
しかしながら、内圧充填時の径成長が大きい航空機用空気入りタイヤにおいて、コードの伸び代をより多く確保しようとすると、該コードのタイヤ幅方向の振幅をより大きくする必要があり、隣接するコード同士の干渉や質量増加が懸念されていた。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、タイヤ質量を増加させることなく、耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、一対のビード部間に跨るカーカスプライと、前記カーカスプライのクラウン部のタイヤ半径方向外側に設けられた内側ベルト層と、前記内側ベルト層のタイヤ半径方向外側に設けられ、コード構成要素を撚り合わせたコードを用いて構成された外側ベルト層と、前記外側ベルト層のタイヤ半径方向外側に設けられ、コード構成要素を撚り合わせたコードを用いて構成されたベルト保護層と、前記ベルト保護層の前記コード及び前記外側ベルト層の前記コードの少なくとも一方に設けられ、前記コードの長手方向の他の部分より弾性の低い低弾性部と、を有
し、前記ベルト保護層及び前記外側ベルト層の少なくとも一方には、前記低弾性部が集まる低弾性領域が設けられており、前記低弾性領域は、タイヤ周方向に間隔Lを空けて複数設けられており、タイヤ周方向におけるトレッドの接地長をLLとすると、L/LL>0.3である。
【0008】
この航空機用空気入りタイヤでは、ベルト保護層のコード及び外側ベルト層のコードの少なくとも一方に低弾性部が設けられており、該コードが部分的に変形し易くなっている。従って、内圧充填による径成長時や接地時において、コードとゴムの境界層に生ずる応力が緩和される。コードの伸び代を確保するためにコードの使用量を増やす必要がないため、タイヤ質量を増加させることなく、耐久性を向上させることができる。
また、低弾性部が、タイヤ周方向に間隔Lを空けて複数設けられた低弾性領域に集まっているので、路面上の突起を踏んだ場合、該突起が低弾性部の位置に合致する確率が低くなる。このため、突起によるタイヤの故障を抑制することができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の航空機用空気入りタイヤにおいて、互いに隣接する前記コードにおいて、コード長さ方向での前記低弾性部の位置が互いに異なる。
【0010】
この航空機用空気入りタイヤでは、互いに隣接するコードにおいて、コード長さ方向での低弾性部の位置が互いに異なるので、コードとゴムの境界層に生ずる応力を分散させることができる。
【0013】
請求項
3の発明は、請求項
1又は請求項2に記載の航空機用空気入りタイヤにおいて、前記低弾性領域は、帯状に形成されると共に、タイヤ幅方向と平行又はタイヤ幅方向に対して傾斜する方向に、連続的又は断続的に延びている。
【0014】
この航空機用空気入りタイヤでは、接地時にコードとゴムの境界層に生ずる応力を、低弾性領域が延びる方向に分散させることができる。
【0015】
請求項
4の発明は、請求項1〜請求項
3の何れか1項に記載の航空機用空気入りタイヤにおいて、前記低弾性部は、前記コードの径方向に穴を形成して構成されている。
【0016】
この航空機用空気入りタイヤでは、コードに穴を形成することにより、該コードの任意の位置に低弾性部を容易に設けることができる。
【0017】
請求項
5の発明は、請求項
4に記載の航空機用空気入りタイヤにおいて、前記穴の大きさは、前記コードの直径未満である。
【0018】
この航空機用空気入りタイヤでは、穴の大きさが、コードの直径未満であるので、コード構成要素の切断を抑制して、コードの破断強度を確保することができる。
【0019】
請求項
6の発明は、請求項
4又は請求項
5に記載の航空機用空気入りタイヤにおいて、前記穴の大きさは、前記コード構成要素の直径の1/2以上である。
【0020】
この航空機用空気入りタイヤでは、穴の大きさが、コード構成要素の直径の1/2以上であるので、コード構成要素の弾性率を適度に低下させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る航空機用空気入りタイヤによれば、タイヤ質量を増加させることなく、耐久性を向上させることができる、という優れた効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。図面において、矢印C方向はタイヤ周方向を示し、矢印R方向はタイヤ半径方向を示し、矢印W方向はタイヤ幅方向を示す。タイヤ半径方向とは、タイヤ回転軸(図示せず)と直交する方向を意味する。タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸と平行な方向を意味する。タイヤ幅方向をタイヤ軸方向と言い換えることもできる。
【0024】
図1において、本実施形態に係る航空機用空気入りタイヤ10は、カーカスプライ12と、内側ベルト層14と、外側ベルト層16と、ベルト保護層18と、ベルト保護層18のコード32及び外側ベルト層16のコード32の少なくとも一方に設けられた低弾性部22(
図2,
図3,
図5)と、を有している。
【0025】
カーカスプライ12は、一対のビード部24間に跨っている。ビード部24には、丸形断面を有するビードコア28が夫々埋設されている。カーカスプライ12のタイヤ幅方向の両端部は、夫々ビードコア28に係留されている。カーカスプライ12は、例えば有機繊維コードをゴム被覆して構成されている。この有機繊維コードとして、芳香族ポリアミド系の繊維や、脂肪族ポリアミド系の繊維を用いることができ、また、芳香族ポリアミド系の繊維と脂肪族ポリアミド系の繊維とを含んだ、所謂ハイブリッドコードを用いることもできる。
【0026】
内側ベルト層14は、カーカスプライ12のクラウン部のタイヤ半径方向外側に設けられている。この内側ベルト層14は、複数のベルトプライ(図示せず)から構成されている。各ベルトプライは、例えば複数本の有機繊維コード(図示せず)をゴム被覆することにより形成されている。この有機繊維コードは、引張破断強度を6.3cN/dtex以上とすることが好ましく、伸張方向に0.3cN/dtex荷重時の伸び率が0.2〜2.0%、伸張方向に2.1cN/dtex荷重時の伸び率が1.5〜7.0%、伸張方向に3.2cN/dtex荷重時の伸び率が2.2〜9.3%であることが好ましい。この有機繊維コードは、芳香族ポリアミド系の繊維から構成することができる。
【0027】
図2において、外側ベルト層16は、内側ベルト層14のタイヤ半径方向外側に設けられ、コード構成要素30(
図6〜
図8)を撚り合わせたコード32を用いて構成されている。コード32は、例えば有機繊維コードであり、引張破断強度が400〜2000Nの一方向強化繊維コードが用いられている。一方向強化繊維コードとしては、例えば、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミドなどを用いることができる。コード構成要素30については、後述する。
【0028】
このコード32をゴムコーティングすることにより、1枚のベルトプライ34が構成されている。外側ベルト層16は、複数枚のベルトプライ34を積層して構成されている(以下、この外側ベルト層16の構成を「切離しベルトプライ構成」という)。本実施形態では、
図2(B)に示されるように、2枚のベルトプライ34を積層して構成されている。
【0029】
ベルトプライ34の各々では、複数本のコード32がタイヤ赤道面CLに対して傾斜角度α1,α2をなすように配列されている。
図2(A)に示される外側のベルトプライにおける傾斜角度がα1、
図2(B)における内側のベルトプライにおける傾斜角度がα2である。傾斜角度α1,α2は、10°〜40°の範囲とされている。角度範囲をこのように設定することにより、路面上の突起に対する外側ベルト層16の内部仕事を高くすることができる。また、タイヤ半径方向に隣り合うベルトプライ34のコード32は、タイヤ赤道面CLに対して互いに逆方向に傾斜するように、すなわち、タイヤ赤道面CLに対して、逆方向に角度をなすように配置されている。また、外側ベルト層16におけるコード32の傾斜角度α1,α2は、内側ベルト層14の有機繊維コードにおける同様の傾斜角度(図示せず)よりも大きくなっている。
【0030】
コード32は、例えば芳香族ポリアミド系の有機繊維コードとされ、1本の総dtex数が3000〜7000の撚りコードであることが好ましい。このように構成されたコード32を用いることにより、航空機用空気入りタイヤ10の軽量化を図ることができる。なお、外側ベルト層16のコード32の打ち込み数は、3〜8本/10mmの範囲内とすることが好ましい。
【0031】
さらに、
図2(B)に示すように、外側ベルト層16のタイヤ幅方向両端部において、両ベルトプライ34間にクッションゴム36を設け、内側のベルトプライ34のコード32と外側のベルトプライ34のコード32との距離を、タイヤ幅方向外側に向かって漸増させることが好ましい。これにより、ベルトプライ34間におけるせん断応力を効果的に小さくすることができ、ベルトプライ34の端部における剥離を抑制することができる。
【0032】
切離しベルトプライ構成とされた外側ベルト層16の代わりに、
図3に示される外側ベルト層26を用いることもできる。以下、この外側ベルト層16の構成を「無端ジグザグ巻きベルト構成」又は「リボン巻きベルト構成」という。この外側ベルト層26は、次のようにして形成される。
図4(A),(B)に示されるように、まず、1または複数本のコード32(
図4では5本)をゴム被覆して構成した帯状の細長体38を準備する。この細長体38を、ほぼ1周する毎に両プライ端間往復させながらタイヤ赤道面CLに対して傾斜角度αで傾斜させて周方向に巻き付けると共に、巻付けを細長体38間に隙間が生じないよう周方向にほぼ細長体38の幅だけずらして多数回巻回する。
【0033】
このようにして形成された外側ベルト層26は、右上がりのコード部分と、左上がりのコード部分とが互いに重なりあった形態となる。そして、外側ベルト層26は、右上がりのコード32のみからなるベルトプライと左上がりのコード32のみからなるベルトプライとを重ねた、いわゆる交差ベルトに相当する構成となる。外側ベルト層26は、実際には1枚のプライではあるが、本実施形態では、プライ数としては2枚としてカウントする。この場合の傾斜角度α、コード32の打ち込み間隔については、上記した切離しベルトプライ構成(
図2)の場合と同様である。
【0034】
図5において、ベルト保護層18は、外側ベルト層16のタイヤ半径方向外側に設けられ、コード構成要素30を撚り合わせたコード32を用いて構成されている。コード32はタイヤ幅方向に振幅を有する波形に形成され、タイヤ幅方向に複数本並べてゴム被覆されている。これは、コード32の伸び代を大きく確保するためである。ベルト保護層18のタイヤ半径方向外側には、トレッド40が設けられている。コード32を波形とすることにより、トレッド40で突起を踏んだ場合に、局部的な大変形を許容し、航空機用空気入りタイヤ10のエンベロープ性を高めることができる。
【0035】
図6〜
図8において、コード32は、コード構成要素30を撚り合わせて構成されている。コード構成要素30は、有機繊維又は金属繊維であり、その最小構成単位は、有機繊維の場合がフィブリル、金属繊維の場合がフィラメントである。一般的に、コード32の弾性率及び強力は、繊維の材質、撚り角度、撚り構造、コード構成要素30の長さ、及び製造条件による内部摩擦に依存している。有機繊維の場合の最小構成単位であるフィブリルの長さは、該フィブリルを撚り合わせた長繊維コードの長さと比べて極めて短い。しかしながら、互いに隣接するフィブリル同士の物理的絡み合いによる摩擦により、弾性率や強力、コードの応力−歪特性の一部を発現させている。
【0036】
低弾性部22は、ベルト保護層18のコード32及び外側ベルト層16のコード32の少なくとも一方に設けられ、コード32の長手方向の他の部分より弾性が低く構成されている。この低弾性部22は、コード32の径方向に、例えば穴20を形成して構成されている。以下、穴20を形成することを「ピアシング」という。
図6は、コード構成要素30が有機繊維であるコード32に、低弾性部22としての穴20を形成した例を示している。この穴20はコード32を貫通していないが、コード32を貫通していてもよい。
【0037】
図7,
図8は、コード構成要素30が金属繊維であるコード32に、低弾性部22としての穴20を形成した例を示している。
図8は、
図7における8−8矢視拡大断面図である。穴20の大きさは、例えばコード32の直径未満である。また、コード構成要素30が金属繊維のフィラメントの場合、
図6,
図7に示されるように、穴20の大きさは、コード構成要素30の直径の1/2以上である。なお、穴20が円形でない場合において、穴20の大きさは、穴20の内壁間の最大距離をいう。穴20が長方形の場合には、穴20の大きさはその長辺の長さとなる。穴20が正方形の場合には、穴20の大きさはその一辺の長さとなる。
【0038】
本実施形態では、コード32の成型後に、機械的な方法により、コード構成要素30を適切な割合で破断させ、又は傷付けることにより、コード32の引張力と伸びの関係(S−S特性)を制御し、特にその破断強度を十分以上に保ちつつ、弾性率を低下させる。そして、本実施形態では、小型の突起をトレッド40で踏みつけることを発端とした、コード32とゴムの境界層における歪の緩和を意図している。
【0039】
図11は、コードの引張力と伸びの関係(S−S特性)を示している。線L1は低弾性部22を有するコード32の場合を示し、線L2は低弾性部を有しない通常のコードの場合を示している。コードの張力は、通常使用で想定される内圧の充填、タイヤ半径方向、タイヤ幅方向及びタイヤ回転方向における荷重の負荷、路面上の突起のトレッド40への貫入、によって増加する。このようにして実使用時にコードに作用する最大張力は、Tmaxである。低弾性部22を設けることにより、コード32(線L1)の破断強力Tbpは、通常のコード(線L2)の破断強力Tboよりも低下する。しかしながら、それでも破断強力Tbpが最大張力Tmaxを上回るように、低弾性部22の設計がなされる。航空機用空気入りタイヤ10の場合、外側ベルト層16に生ずる最大張力Tmaxは、約3〜8kNと推定されるので、コード32(線L1)の破断強力Tbpを、それよりも十分に大きく設定することが望ましい。
図11における角度θ,θ’を用いると、弾性率の変化率を1−tanθ/tanθ’で表すことができる。
【0040】
(低弾性部の形成)
コード構成要素30のS−S特性を制御しつつ、低弾性部22を適切に形成する方法としては、
図9に示されるように、鋭利なニードル42による機械的な方法(ピアシング)が有効である。ニードル42の先端部の形状は、尖点を有さず、ニードル42の直径方向から見て、直線状又は鋸歯状の部分を有することが望ましい。特に、コード構成要素32が、有機繊維のように柔軟性に富む素材の場合には、ニードルの先端が尖り過ぎていると、フィブリル間を通過してしまい、フィブリルを適切な割合で破断させることができなくなる。
【0041】
図9(A),(C),(E)に示されるニードル42の軸部は断面円形である。
図9(B),(D)に示されるニードル42の軸部は断面長方形である。
図9(A)〜(D)に示されるニードル42の先端部は、その軸方向から見て長方形に形成されている。長辺の長さがa1であり、短辺の長さがa2である。
図9(D)に示されるニードル42の先端は、その直径方向かつ長辺と直交する方向から見て、鋸歯状(ジグザグ状)の部分を有している。
図9(E)に示されるニードル42の先端は、その軸方向から見て略正方形に形成されている(a1≒a2)。この先端は、その直径方向かつ各辺と直交する方向から見て、夫々鋸歯状(ジグザグ状)の部分を有している。
【0042】
ニードル42の先端は、コード32に対し、適切な荷重を伴って、例えば該コード32の直角方向に押し当てられる。コード構成要素32が有機繊維の場合に、フィブリルを適切な割合で破断させるためには、長さa1,a2について、コード32の直径をdとすると、0.1d<a1<0.6d、a2<a1の範囲に設定される。同様の理由から、
図9(D),(E)に示されるように、ニードル42の先端が鋸歯状の部分を有している場合には、その波長λと全振幅δ、長さa2との間に、0.4d<λ<2.5d、a2<d、0.3d<δ<1.5dの関係があることが望ましい。ニードル42の先端形状をこのように定めることにより、有機繊維からなるコード32の直径が1.9mmであり、ニードル42の押付け力が30〜50Nの条件下で、コード32の弾性率及び破断強力を75〜90%に低減させる場合に、7割以上の歩留まりを得ることができる。
【0043】
ニードル42によるピアシングを効率的に行う方法として、
図10に示される方法が考えられる。
図10(A)に示される例では、複数のニードル42が放射状に配置された回転歯44を用いている。この回転歯44を、コード32に対し該コード32と直交する方向(矢印A方向)に押し当てながら、回転歯44を矢印R方向に回転させ、コード32を矢印F方向に送って行く。
【0044】
図10(B)に示される例では、複数のニードル42が並列に並べられた櫛歯部材46を用いている。この櫛歯部材46をコード32に対し矢印A方向に押し当ててからその逆方向に戻し、コード32を矢印F方向に所定ピッチ分送って、再び櫛歯部材46をコード32に押し当てる、という動作を繰り返す。つまり、コード32を間欠的に送りながら、櫛歯部材46を矢印A方向及びその逆方向に往復動させる。
【0045】
図10(C)に示される例では、ニードル42が部分円弧状(扇形)に並べられた櫛歯部材46を用いている。この櫛歯部材46をコード32に対し矢印A方向に押し当てながら、矢印R1方向に回動させ、かつコード32を矢印F方向に送って行く。ニードル42が一通りコード32に押し当てられたら、櫛歯部材46を矢印A方向と逆方向に退避させると共に、矢印R2方向に回動させ、コード32を矢印F方向に送ってから、上記の動作を繰り返す。
【0046】
このようにして低弾性部22を設けることによる、コード32の破断強力の低下の程度は、式(1)で表される。式中、kは、ニードル径、ニードル先端形状、ニードル材質、コード撚り角度、コード断面形状、コード素材、及び押付け圧に依存する係数である。
【0048】
一方、高さδの突起が、外側ベルト層16及びベルト保護層18に接触したときのコード張力は、式(2)で表される。式中、iはベルト層番号、Nはベルト枚数、αはベルト角度、wは突起の幅、Fは突起による外力である。張力Tc
iは、通常使用で想定できる内圧充填、垂直、横、前後方向の荷重負荷と、路面上に不可抗力的に生ずる確率で存在し得る寸法及び硬度の突起物のトレッドへの貫入とによって増加する、コードの最大張力である。瞬時的な力を中心とする耐カット性能確保のためには、各層の最大張力Tc
iが、破断強力Tb
iを超過しないことが要請される。
【0050】
これに鑑み、外側ベルト層16やベルト保護層18に用いられるコード32について、低弾性部22を適切に設けることが可能である。低弾性部22を設けることによるコード構成要素32の破断密度は、ニードル42の径や材質、貫通回数、部材に対する押圧等、ピアシング条件の組合せ(式(1)の係数k)により経験的に決定することができる。
【0051】
走行路面上の突起によるトレッド40や外側ベルト層16の故障要因は、次のA〜Dに分類される。
A:有害突起の存在確率
B:突起のトレッド貫入によるコード破断(Tbi<Tci)
C:突起直下の剛性段差領域、即ちコードとゴムとの境界領域の応力集中
D:突起作用位置とピアッシング加工位置が合致することによる応力集中
【0052】
本実施形態によれば、要因B〜Dを解消することができる。具体的には、要因Bは、式(1),(2)を同時に満たすように設計することにより、解消することができる。また、ピアシング加工によってS−S特性の制御が容易にでき、コードの弾性率低減に伴ってコードとゴムの境界領域における応力集中が緩和され、疲労による耐セパレーション性能が向上する。従って、要因Cの影響を抑制することが可能である。
【0053】
本実施形態では、一部のコード構成要素32のみを破断させ又は傷付けるため、そもそも応力集中の程度が小さい。コード断面をすべて切断する方法に比べ、突起による機械的歪の分散が容易で、その影響が小さな領域に留まり、耐久力の低下が最小限に留まる。従って、要因Dの影響を抑制することが可能である。加えて、製造も比較的容易である。
【0054】
更なる応力分散のためには、互いに隣接するコード32において、コード長さ方向での低弾性部22の位置が互いに異なることが望ましい。
【0055】
(低弾性領域)
図2,
図3,
図5において、ベルト保護層18及び外側ベルト層16の少なくとも一方には、低弾性部22が集まる低弾性領域50が設けられている。応力分散のため、低弾性領域50は、タイヤ周方向(矢印C方向)に間隔Lを空けて複数設けられている。タイヤ周方向におけるトレッド40の接地長をLL(図示せず)とすると、L/LL>0.3であることが望ましい。ここで、接地長とは、タイヤ赤道面CLにおいて、TRAによる規定内圧を付与し、規定荷重を負荷した条件下で、タイヤが平滑な路面と接地する長さである。
【0056】
低弾性領域50は、タイヤ周方向溝に帯幅Dを有している。この帯幅Dの範囲内に、低弾性部22が分散して設けられている。換言すれば、帯幅Dの範囲内の互いに隣接するコード32において、コード長さ方向での低弾性部22の位置が互いに異なるようにしている。
【0057】
トレッド40が路面上の突起を踏んだとき、該突起が刃型突起である場合、最大張力Tciが最もシビアとなる。このような場合でも、上記のように低弾性部22の位置を分散させると共に、L/LL>0.3の条件を満たすことにより、耐カット性能を確保することができる。
【0058】
図2(A),(B)には、切離しベルトプライ構成の外側ベルト層16が示されている。各々のベルトプライ34において、低弾性領域50は、タイヤ幅方向に対して角度β傾斜している。この傾斜方向は、各々のベルトプライ34におけるコード32の傾斜方向とは逆になっている。
【0059】
図3には、無端ジグザグ巻きベルト構成とされた外側ベルト層26が示されている。この外側ベルト層26においては、
図4(A),(B)に示されるように、低弾性領域50は、細長体38に帯状に形成されている。隣り合う細長体38において、該細長体38の長さ方向での低弾性領域50の位置は、互いに異なっている。
図3,
図4(A)に示される例では、低弾性領域50が、細長体38の幅方向と平行に連続的に延びている。
図4(B)に示される例では、低弾性領域50が、細長体38の幅方向に対して角度ε傾斜する方向に断続的に延びている。
図4(A),(B)の何れにおいても、低弾性領域50は、細長体38の長手方向に延びている。
【0060】
図5(A)に示されるベルト保護層18においては、帯状に形成された低弾性領域50が、帯状に形成され、タイヤ幅方向と平行に連続的に延びている
。図5(B)に示されるベルト保護層18においては、低弾性領域50が、タイヤ幅方向に対して角度β傾斜する方向に連続的に延びている。
図5(C)に示されるベルト保護層18においては、低弾性領域50が、帯状に形成され、タイヤ幅方向と平行に断続的に延びている。低弾性領域50は、例えば千鳥状に配置されている。この低弾性領域50において、タイヤ幅方向の寸法をw1とし、ベルト保護層18の全幅をWWとすると、w1<WWである。このような低弾性領域50の配置により、耐カット性能を確保することができるようになっている。
【0061】
なお、低弾性領域50が、タイヤ幅方向と傾斜する方向に断続的に延びていてもよい。低弾性領域50の長さw1については、適宜異なっていてもよい。
図2,
図3,
図5において、低弾性領域50の間隔Lや帯幅Dは、一定に限られず、場所によって異なっていてもよい。
【0062】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。
図1において、本実施形態に係る航空機用空気入りタイヤ10では、ベルト保護層18のコード32及び外側ベルト層16のコード32の少なくとも一方に低弾性部22が設けられており、該コード32が部分的に変形し易くなっている。従って、内圧充填による径成長時や接地時において、コード32とゴムの境界層に生ずる応力が緩和される。例えば、
図5に示されるベルト保護層18の波形のコード32について、振幅を大きくすることなく、内圧充填時における該コード32の張力の増大を抑制できる。コード32の伸び代を確保するためにコード32の使用量を増やす必要がないため、タイヤ質量を増加させることなく、耐久性を向上させることができる。
【0063】
互いに隣接するコード32において、コード長さ方向での低弾性部22の位置が互いに異なるので、コード32とゴムの境界層に生ずる応力を分散させることができる。
【0064】
航空機が走行する路面には、様々な突起(異物)が存在することがある。
図2,
図5に示されるように、低弾性部22が、タイヤ周方向に間隔Lを空けて複数設けられた低弾性領域50に集まっているので、路面上の突起を踏んだ場合、該突起が低弾性部22の位置に合致する確率が低くなる。このため、突起によるタイヤの故障を抑制することができる。
【0065】
低弾性領域50は、帯状に形成されると共に、タイヤ幅方向と平行又はタイヤ幅方向に対して傾斜する方向に、連続的又は断続的に延びているので、接地時にコード32とゴムの境界層に生ずる応力を、低弾性領域50が延びる方向に分散させることができる。
【0066】
コード32に穴20を形成することにより、該コード32の任意の位置に低弾性部22を容易に設けることができる。この穴20の大きさを、コード32の直径未満とすることにより、コード構成要素30の切断を抑制して、コード32の破断強度を確保することができる。また、穴20の大きさが、コード構成要素30の直径の1/2以上とすることにより、コード構成要素30の弾性率を適度に低下させることができる。
【0067】
[他の実施形態]
ベルト保護層18は、
図5に示される波形のものに限られず、
図2に示される切離しベルト構成のものであってもよい。
【0068】
互いに隣接するコード32において、コード長さ方向での低弾性部22の位置が互いに異なるものとしたが、これに限られず、低弾性部22の位置が同じであってもよい。
【0069】
低弾性領域50は、タイヤ周方向に間隔Lを空けて複数設けられているものとしたが、これに限られず、低弾性領域50がタイヤ周方向の1箇所に設けられていてもよい。
【0070】
低弾性領域50が帯状に形成され、タイヤ幅方向と平行又はタイヤ幅方向に対して傾斜する方向に、連続的又は断続的に延びているものとしたが、低弾性領域50の形状や配置はこれに限られない。また、低弾性領域50を特定せず、低弾性部22がタイヤ周方向に偏りなく分散していてもよい。
【0071】
低弾性部22が、コード32の径方向に穴20を形成して構成されるものとしたが、これに限られず、切削や径方向の圧縮等により、コード32に切欠きを形成したり、コード32の直径を部分的に小さくしたりしてもよい。また、低弾性部22を設けるための手段としては、上記した機械的な方法が有効であるが、これに限られず、レーザー照射、熱処理等の非接触の方法も利用可能である。
【0072】
穴20の大きさが、コード32の直径未満であり、コード構成要素の直径の1/2以上であるものとしたが、穴20の大きさは必ずしもこれに限られない。
【0073】
(試験例)
50×20.0R22 32PRサイズの航空機用空気入りタイヤにおけるベルト保護層(P:コード径=1.9mm)に関する試験例を以下に示す。コードに対するピアシングは、先端が鋸歯状の回転歯を用いて実施した。この回転歯に設けられたニードルは、鋼鉄製であり、その先端形状は、
図9(D)のタイプである。また、λ=2.1mm、a1=8.4mm、a2=1.0mm、δ=1.7mmである。内側ベルト層のコードは、すべて芳香族ポリアミド繊維からなっている。
【0074】
コード破断強力の引張試験は、接地長(LL=493mm)に等しい長さの試験片を5つ、加硫成型後のタイヤから切り出して実施した。目標の強力低下率((Tbo−Tbp)/Tbo)は0.13、弾性率低下率(1−tanθ/tanθ’)は0.22である。
【0075】
耐カット性能を調べるため、ドラム評価を行った。まず、トレッド溝深さの3分の2に相当するトレッドゴムを、新品タイヤから取り除いた。直径20mm、高さ30mmの鋼鉄製円柱状の突起を、センターリブとショルダーリブに対して、TRA(Tire & Rim Association)の規定内圧・規定荷重条件で、タイヤ周方向位置をランダムに変えながら、100回ずつ押し当てた。その後、シアログラフィーを用いて非破壊検査をした。結果は、
図12の表に示すとおりであり、シアログラフィーにより発見された異常箇所の数を示している。この結果から、実施例1〜8のうち、実施例2を除き異常が発見されず、耐カット性能が確保されていることが確認できた。実施例2に異常が発見されたのは、低弾性領域の帯幅が実質上0で、線上に応力集中が生じたためと考えられる。比較例では、L/LLが0.3を下回っているために、異常箇所が多くなったものと考えられる。