(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133203
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】車両用内装部品の加飾装置及び加飾方法、車両用内装部品
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20170515BHJP
B23K 26/046 20140101ALI20170515BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20170515BHJP
B44C 1/22 20060101ALI20170515BHJP
B29C 59/16 20060101ALI20170515BHJP
B60R 7/04 20060101ALN20170515BHJP
B60K 37/00 20060101ALN20170515BHJP
【FI】
B23K26/00 B
B23K26/046
B23K26/00 M
B23K26/082
B23K26/00 G
B44C1/22 B
B29C59/16
!B60R7/04 C
!B60K37/00 G
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-262148(P2013-262148)
(22)【出願日】2013年12月19日
(65)【公開番号】特開2014-217882(P2014-217882A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年5月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-80655(P2013-80655)
(32)【優先日】2013年4月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110343
【氏名又は名称】トリニティ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 征弘
(72)【発明者】
【氏名】溝部 忠之
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 聡伸
【審査官】
本庄 亮太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−176744(JP,A)
【文献】
特開2012−139732(JP,A)
【文献】
特開2013−91095(JP,A)
【文献】
特開2002−274100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
B23K 26/046
B23K 26/082
B29C 59/16
B44C 1/22
B60K 37/00
B60R 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体の加飾面または前記樹脂成形体上に形成された塗膜の加飾面にレーザを照射することにより、線状のレーザ加工部からなる絵柄を描くとともに、前記レーザの焦点を前記加飾面からずらして描画することで前記絵柄の一部にグラデーションを形成する車両用内装部品の加飾装置であって、
前記加飾面の前記絵柄に前記グラデーションを付与するグラデーション領域について、実際の加飾面の表面形状に対して曲率が異なるように変形させた仮想の加飾面を想定し、その仮想の加飾面上に描画データを作成するデータ作成装置と、
前記データ作成装置が作成した前記描画データに基づいて、前記仮想の加飾面上に焦点が合うように前記レーザを照射することにより、前記実際の加飾面から前記レーザの焦点をずらした状態で前記加飾面にレーザ加工を行い、前記グラデーションを形成するレーザ描画装置と
を備えたことを特徴とする車両用内装部品の加飾装置。
【請求項2】
前記レーザ描画装置は、前記樹脂成形体の前記加飾面において面方向に前記レーザの焦点を走査する機能と、前記焦点を前記加飾面の垂直方向に調整する機能とを有し、前記描画データに基づいて、前記レーザの焦点を前記面方向に移動させる際に、前記面方向の単位長さに対する前記垂直方向の焦点ずらし量を、前記グラデーションを付与しない描画領域に接続される前記グラデーション領域の始端側は大きくし、前記描画領域から離間した前記グラデーション領域の終端側に行くに従って徐々に小さくすることにより、前記グラデーション領域における前記レーザ加工部に前記グラデーションを形成するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の車両用内装部品の加飾装置。
【請求項3】
前記仮想の加飾面は、前記実際の加飾面よりも前記レーザ描画装置側に位置していることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用内装部品の加飾装置。
【請求項4】
前記レーザ描画装置は、凹状の前記レーザ加工部を形成して前記絵柄を描画することを特徴とする請求項1に記載の車両用内装部品の加飾装置。
【請求項5】
前記レーザ描画装置は、前記加飾面を凸状に膨らませた前記レーザ加工部を形成して前記絵柄を描画することを特徴とする請求項1に記載の車両用内装部品の加飾装置。
【請求項6】
前記レーザ描画装置は、前記塗膜表面及び部品表面の少なくとも一方を変色させて前記絵柄を描画することを特徴とする請求項1に記載の車両用内装部品の加飾装置。
【請求項7】
樹脂成形体の加飾面または前記樹脂成形体上に形成された塗膜の加飾面にレーザを照射することにより、線状のレーザ加工部からなる絵柄を描くとともに、前記レーザの焦点を前記加飾面からずらして描画することで前記絵柄の一部にグラデーションを形成する車両用内装部品の加飾方法であって、
前記加飾面の前記絵柄に前記グラデーションを付与するグラデーション領域について、前記レーザの焦点を前記加飾面の面方向に移動させる際に、前記面方向の単位長さに対する前記加飾面の垂直方向の焦点ずらし量を、前記グラデーション領域の始端側は大きくし、前記グラデーション領域の終端側に行くに従って徐々に小さくすることにより、前記グラデーション領域における前記レーザ加工部に前記グラデーションを形成するようにしたことを特徴とする車両用内装部品の加飾方法。
【請求項8】
前記レーザの照射によって、凹状の前記レーザ加工部を形成して前記絵柄を描画することを特徴とする請求項7に記載の車両用内装部品の加飾方法。
【請求項9】
前記レーザの照射によって、前記加飾面を凸状に膨らませた前記レーザ加工部を形成して前記絵柄を描画することを特徴とする請求項7に記載の車両用内装部品の加飾方法。
【請求項10】
前記レーザの照射によって、前記塗膜表面及び部品表面の少なくとも一方を変色させて前記絵柄を描画することを特徴とする請求項7に記載の車両用内装部品の加飾方法。
【請求項11】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の加飾装置を用いて前記絵柄が描画された車両用内装部品であって、
前記加飾面に描画された前記絵柄には、前記グラデーション領域の始端側から終端側に向けて、前記レーザ加工部の高さまたは深さを一定の割合で減少させることで前記グラデーションが付与されていることを特徴とする車両用内装部品。
【請求項12】
前記加飾面の表面状態を変化させて前記線状のレーザ加工部が形成されるものであり、前記レーザ加工部の幅を一定の割合で減少させることで前記グラデーションが付与されていることを特徴とする請求項11に記載の車両用内装部品。
【請求項13】
前記加飾面は、平坦面であることを特徴とする請求項11に記載の車両用内装部品。
【請求項14】
前記加飾面は、曲面形状を有することを特徴とする請求項11に記載の車両用内装部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体の表面にレーザを照射することにより、線状のレーザ加工部からなる絵柄を描く車両用内装部品の加飾装置及び加飾方法、車両用内装部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装部品などでは、デザイン性や品質を高めるために樹脂成形体の表面に装飾を加えるようにした加飾部品(例えば、コンソールボックス、インストルメントパネル、アームレストなど)が多く実用化されている。このような加飾部品に装飾を加える加飾方法としては、水圧転写が一般的に用いられている。水圧転写とは、水面上に特殊フィルムを浮かべ、そのフィルムに印刷された所定の絵柄(木目模様や幾何学模様などの絵柄)を水圧によって樹脂成形体の表面に転写する技術である。この技術によれば、三次元曲面への印刷を行うことができる。
【0003】
水圧転写以外の加飾方法として、レーザ描画が知られている。レーザ描画は、部品表面にレーザを照射し、レーザによって与えられた熱により部品表面の状態を変化させて、絵柄を描くようにした加飾方法である。この加飾方法によれば、水圧転写による加飾方法と比較して、低コストで絵柄を描画することができる。さらに、本発明者は、レーザ描画による部品表面の加飾方法において、意匠デザインの精度を向上させるために、描画痕をぼかしてグラデーション加工をする手法を検討している。
【0004】
因みに、特許文献1では、レーザ加工によって透光性にグラデーションのある外観を有する透光性薄膜太陽電池の製造方法が開示されている。具体的には、この薄膜太陽電池は所定角度で傾斜した支持台に載置され、太陽電池上の加工点とレーザの焦点との距離を一次的に変化させることで透光性開口溝または穴が形成されている。この場合、太陽電池上の加工点とレーザの焦点との距離が大きくなるに従って、太陽電池に形成される透光性開口溝または穴が小さくなる。この結果、太陽電池の透光性(透過率)の状態にグラデーションが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4949126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示されている手法では、高さ方向(Z方向)におけるレーザの焦点ずらし量を一次的に変化させている。つまり、
図9に示されるように、ワークとなる平板状の薄膜太陽電池60を傾斜して配置し、レーザL1の焦点を水平方向に移動させることで、レーザL1の焦点位置O1からワーク60までの距離を一次的に変化させている。この手法をレーザ描画による加飾方法に適用した場合、一定量の焦点ずらし量では、レーザ加工部の加工度合いに変化が起きない領域が存在する。具体的には、
図10に示されるように、焦点距離fにおけるレーザL1のビームスポット径は、無限小にすることはできず、最小スポット径dが存在している。なお、最小スポット径dは、レーザL1の波長によって異なる値となる。焦点深度bは、レーザL1が最小スポット径dとなる位置でのウエスト半径w(最小スポット径dの半径)に対して、レーザL1のウエスト半径W0が次式(1)で示される範囲である。
【数1】
【0007】
この焦点深度bでは、レーザL1のビームスポット径は緩やかに変化する。従って、レーザL1の焦点深度bの範囲内では、Z方向に焦点をずらしても、レーザ加工部のグラデーションが起きにくい。このため、特許文献1の手法をレーザ描画による加飾方法に適用した場合、絵柄に正確なグラデーションを付与することができなかった。また、自動車の内装部品において、装飾を加える加飾面は、薄膜太陽電池60のように単純な平坦面ではなく、曲面であることが少なくない。このため、ワークを傾斜させてレーザL1の焦点位置を一次的に変化させる手法では、グラデーションを正確に付与することができない。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、樹脂成形体の表面の絵柄にグラデーションを正確に付与することができる車両用内装部品の加飾装置及び加飾方法を提供することにある。また、別の目的は、樹脂成形体の表面にグラデーションを有する絵柄を加飾して外観品質を高めることができる車両用内装部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、樹脂成形体の加飾面または前記樹脂成形体上に形成された塗膜の加飾面にレーザを照射することにより、線状のレーザ加工部からなる絵柄を描くとともに、前記レーザの焦点を前記加飾面からずらして描画することで前記絵柄の一部にグラデーションを形成する車両用内装部品の加飾装置であって、前記加飾面の前記絵柄に前記グラデーションを付与するグラデーション領域について、実際の加飾面の表面形状に対して曲率が異なるように変形させた仮想の加飾面を想定し、その仮想の加飾面上に描画データを作成するデータ作成装置と、前記データ作成装置が作成した前記描画データに基づいて、前記仮想の加飾面上に焦点が合うように前記レーザを照射することにより、前記実際の加飾面から前記レーザの焦点をずらした状態で前記加飾面にレーザ加工を行い、前記グラデーションを形成するレーザ描画装置とを備えたことを特徴とする車両用内装部品の加飾装置をその要旨とする。
【0010】
手段1に記載の発明によると、データ作成装置により、グラデーション領域について、実際の加飾面の表面形状に対して曲率が異なるように変形させた仮想の加飾面が想定され、その仮想の加飾面上に描画データが作成される。そして、レーザ描画装置により、その描画データに基づいて、仮想の加飾面上に焦点が合うようにレーザが照射される。この結果、実際の加飾面からレーザの焦点をずらした状態で樹脂成形体の加飾面にレーザ加工が行われ、グラデーションを有する絵柄が描画される。このように描画すると、部品表面の絵柄に所望とするグラデーションを正確に付与することができ、車両用内装部品における意匠デザインの精度を高めることができる。なお、仮想の加飾面は、実際の加飾面よりもレーザ描画装置側に位置していることがよい。
【0011】
レーザ描画装置は、樹脂成形体の加飾面において面方向にレーザの焦点を走査する機能と、焦点を加飾面の垂直方向に調整する機能とを有する。そして、レーザ描画装置は、描画データに基づいて、レーザの焦点を面方向に移動させる際に、面方向の単位長さに対する垂直方向の焦点ずらし量を、グラデーションを付与しない描画領域に接続されるグラデーション領域の始端側は大きくし、描画領域から離間したグラデーション領域の終端側に行くに従って徐々に小さくすることにより、グラデーション領域におけるレーザ加工部にグラデーションを形成する。つまり、グラデーション領域の始端側ではレーザの焦点が焦点深度の範囲内にあるので、その場合には焦点ずらし量を大きくし、グラデーション領域の終端側ではレーザの焦点が焦点深度の範囲外にあるので、その場合には焦点ずらし量を小さくする。このようにすると、部品表面に加飾する絵柄に所望とするグラデーションを正確に付与することができ、車両用内装部品における意匠デザインの精度を高めることができる。なお、レーザ描画装置は、凹状のレーザ加工部を形成して絵柄を描画してもよいし、加飾面を凸状に膨らませたレーザ加工部を形成して絵柄を描画してもよいし、塗膜表面及び部品表面の少なくとも一方を変色させて絵柄を描画してもよい。
【0012】
手段2に記載の発明は、樹脂成形体の加飾面または前記樹脂成形体上に形成された塗膜の加飾面にレーザを照射することにより、線状のレーザ加工部からなる絵柄を描くとともに、前記レーザの焦点を前記加飾面からずらして描画することで前記絵柄の一部にグラデーションを形成する車両用内装部品の加飾方法であって、前記加飾面の前記絵柄に前記グラデーションを付与するグラデーション領域について、前記レーザの焦点を前記加飾面の面方向に移動させる際に、前記面方向の単位長さに対する前記加飾面の垂直方向の焦点ずらし量を、前記グラデーション領域の始端側は大きくし、前記グラデーション領域の終端側に行くに従って徐々に小さくすることにより、前記グラデーション領域における前記レーザ加工部に前記グラデーションを形成するようにしたことを特徴とする車両用内装部品の加飾方法をその要旨とする。
【0013】
手段2に記載の発明によると、樹脂成形体の加飾面に対してレーザを照射しそのレーザの焦点を加飾面の面方向に走査することで絵柄を構成する線状のレーザ加工部が形成される。また、加飾面の絵柄の一部にグラデーションを付与する際には、面方向の単位長さに対する加飾面の垂直方向の焦点ずらし量を、グラデーション領域の始端側は大きくし、グラデーション領域の終端側に行くに従って徐々に小さくしている。このようにすると、部品表面の絵柄に所望とするグラデーションを正確に付与することができ、車両用内装部品における意匠デザインの精度を高めることができる。なお、レーザの照射によって、凹状のレーザ加工部を形成して絵柄を描画してもよいし、加飾面を凸状に膨らませたレーザ加工部を形成して絵柄を描画してもよいし、塗膜表面及び部品表面の少なくとも一方を変色させて絵柄を描画してもよい。
【0014】
手段3に記載の発明は、手段1に記載の加飾装置を用いて前記絵柄が描画された車両用内装部品であって、前記加飾面に描画された前記絵柄には、前記グラデーション領域の始端側から終端側に向けて、前記レーザ加工部の高さまたは深さを一定の割合で減少させることで前記グラデーションが付与されていることを特徴とする車両用内装部品をその要旨とする。
【0015】
手段3に記載の発明によると、樹脂成形体の加飾面に描画された絵柄の一部には、レーザ加工部の高さまたは深さを一定の割合で減少させることでグラデーションが付与されている。このようにすると、加飾面の絵柄に所望とするグラデーションを正確に付与することができ、車両用内装部品における外観品質を高めることができる。
【0016】
また、加飾面の表面状態を変化させて線状のレーザ加工部が形成される車両用内装部品において、レーザ加工部の幅を一定の割合で減少させることでグラデーションが付与されていてもよい。なお、線状のレーザ加工部としては、加飾面に対して削ったり、発泡させたり、焦がしたりして表面状態を変化させる加工部を含む。このように、レーザ加工部の幅を減少させた場合でも、加飾面の絵柄に所望とするグラデーションを正確に付与することができ、車両用内装部品における意匠デザインの精度を高めることができる。
【0017】
樹脂成形体の加飾面としては、平坦面であってもよいし曲面であってもよい。曲面形状をなす加飾面であった場合でも、その曲面形状に応じて仮想の加飾面を想定し、その仮想の加飾面によってレーザの焦点ずらし量を調整することより、グラデーションを有する絵柄を正確に描画することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上詳述したように、請求項1〜3に記載の発明によると、樹脂成形体の表面の絵柄にグラデーションを正確に付与することができる。また、請求項4に記載の発明によると、樹脂成形体の表面にグラデーションを有する絵柄を加飾して車両用内装部品の外観品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施の形態における車両用内装部品を示す斜視図。
【
図3】グラデーション領域におけるレーザ加工部を示す拡大平面図。
【
図4】車両用内装部品の加飾装置を示す概略構成図。
【
図5】グラデーション領域における仮想の加飾面を示す斜視図。
【
図6】グラデーション領域におけるレーザ加工を示す斜視図。
【
図7】本実施の形態のグラデーションの形成方法を示す説明図。
【
図8】従来のグラデーションの形成方法を示す説明図。
【
図9】従来のグラデーションの形成方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
図1は、車両用内装部品1を示す斜視図であり、
図2は、その車両用内装部品1を示す拡大断面図である。
図1及び
図2に示されるように、車両用内装部品1は、立体的形状の樹脂成形体2と、その樹脂成形体2の表面を被覆するように形成された塗膜3とを有し、塗膜3の表面に絵柄4が描かれている。本実施の形態の車両用内装部品1は、ドアのアームレストを構成する部品である。樹脂成形体2は、ABS樹脂を用いて成形された樹脂成形品であり、黒色に着色されている。また、樹脂成形体2の表面を覆う塗膜3は、例えば高光沢黒色(ピアノブラック)の塗料を用いて形成されている。絵柄4は、樹脂成形体2の上面において加飾面5となる塗膜3の表面に、レーザ描画(具体的には、レーザアブレーション加工)によって描かれている。つまり、本実施の形態の絵柄4は、線状のレーザ加工部6(断面略V字状のレーザ加工溝)からなる。なお、レーザアブレーション加工とは、レーザを固体に照射し、溶融を経ずに原子、分子、クラスターが直接蒸発して、固体表面が削り取られる現象を利用した非加熱加工である。
【0022】
また、塗膜3の表面の絵柄4には、その縁部のグラデーション領域R1にグラデーションが形成されている。
図2及び
図3に示されるように、本実施の形態では、グラデーション領域R1の始端S1側から終端S2側に向けて、レーザ加工部6の深さD1及び幅W1を一定の割合で減少させることにより、グラデーションが付与されている。また、グラデーションを付与しない描画領域R0については、一定の深さD1及び幅W1を有するレーザ加工部6によって絵柄4が描かれている。なお、
図3に示されるレーザ加工部6は直線状であるが、曲線状のレーザ加工部6も含んで絵柄4が描画されている。また、グラデーション領域R1の始端S1は描画領域R0に接続されている。さらに、グラデーション領域R1の終端S2は、描画領域R1から離間しており、絵柄4の外周縁に位置している。
【0023】
図4には、本実施の形態における車両用内装部品1の加飾装置30を示している。この加飾装置30は、樹脂成形体2上に形成された塗膜3の加飾面5にレーザL1を照射することにより、線状のレーザ加工部6からなる絵柄4を描くための装置である。本実施の形態の加飾装置30は、レーザL1の焦点を加飾面5からずらして描画することで絵柄4の一部にグラデーションを形成する機能を有している。
【0024】
図4に示されるように、本実施の形態の加飾装置30は、レーザ照射装置31(レーザ描画装置)、ワーク変位ロボット32及び制御装置33(データ作成装置)を備えている。レーザ照射装置31は、レーザL1(本実施の形態では、波長1064nmのYAGレーザ)を発生させるレーザ発生部41と、レーザL1を偏向させるレーザ偏向部42と、レーザ発生部41及びレーザ偏向部42を制御するレーザ制御部43とを備えている。レーザ偏向部42は、レンズ44と反射ミラー45とを複合させてなる光学系であり、これらレンズ44及び反射ミラー45の位置を変更することにより、レーザL1の照射位置や焦点距離を調整するようになっている。レーザ制御部43は、レーザL1の照射時間変調、照射強度変調、照射面積変調などの制御を行う。
【0025】
また、ワーク変位ロボット32は、ロボットアーム46と、ロボットアーム46の先端に設けられたワーク支持部47とを備えている。ワーク支持部47は、表面に塗膜3が塗装された樹脂成形体2を支持するようになっている。そして、ワーク変位ロボット32は、ロボットアーム46を駆動して樹脂成形体2の位置及び角度を変更することにより、樹脂成形体2の表面に対するレーザL1の照射位置を変更するようになっている。
【0026】
制御装置33は、CPU50、メモリ51及び入出力ポート52等からなる周知のコンピュータにより構成されている。CPU50は、レーザ照射装置31及びワーク変位ロボット32に電気的に接続されており、各種の駆動信号によってそれらを制御する。
【0027】
なお、メモリ51には、レーザ照射を行うためのレーザ照射データが記憶されている。レーザ照射データは、CADデータを変換することによって得られるデータである。CADデータは、樹脂成形体2の表面の形状データや絵柄4を示す画像データ等を変換することによって得られるデータである。メモリ51に記憶されるレーザ照射データとしては、レーザL1の照射位置、焦点距離、照射角度、照射面積、照射時間、照射強度、照射周期、照射ピッチなどを示すデータである。
【0028】
また、本実施の形態の制御装置33において、CPU50は、絵柄4のグラデーション領域R1について、実際の加飾面5の表面形状に対して曲率が異なるように変形させた仮想の加飾面を想定し、その仮想の加飾面上に描画データを作成する。具体的には、
図5に示されるように、実際の加飾面5の表面形状に対して凸状に盛り上がった仮想の加飾面5aが想定される。そして、その仮想の加飾面5a上において絵柄4に対応した描画データが作成される。なお、仮想の加飾面5aの曲率は、グラデーション領域R1の始端S1側ほど大きく、その終端S2側に行くに従って小さくなっている。また、仮想の加飾面5aは、実際の加飾面5よりもレーザ照射装置31側に位置している。
【0029】
さらに、制御装置33のCPU50は、実際の加飾面5上の描画データ及び仮想の加飾面5a上の描画データに基づいて、レーザ照射データを作成して各レーザ照射データをメモリ51に記憶する。ここで、CPU50は、グラデーションのない描画領域R0の絵柄4については、実際の加飾面5上に焦点が合うようにレーザ照射データを作成するとともに、グラデーション領域R1の絵柄4については、仮想の加飾面5a上に焦点が合うようにレーザ照射データを作成する。
【0030】
そして、車両用内装部品1の加飾時には、CPU50は、メモリ51からレーザ照射データを読み出して、その照射データに基づいてレーザ照射装置31を制御する。
【0031】
次に、車両用内装部品1の加飾面5に絵柄4を加える加飾方法について説明する。
【0032】
まず、熱可塑性樹脂(本実施の形態ではABS樹脂)を用いて所定の立体形状に成形した樹脂成形体2を準備する。そして、樹脂成形体2は、作業者によってワーク変位ロボット32のワーク支持部47(
図4参照)にセットされる。
【0033】
次に、樹脂成形体2の表面を覆う塗膜3を形成する。詳述すると、CPU50は、塗膜形成用の駆動信号を生成し、生成した塗膜形成用の駆動信号を塗装機(図示略)に出力する。そして、塗装機は、CPU50から出力された塗膜形成用の駆動信号に基づいて、樹脂成形体2の表面上に塗料を塗装することにより塗膜3を形成する。その後、その塗膜3を乾燥させる。なお、本実施形態では、樹脂成形体2をワーク変位ロボット32のワーク支持部47にセットした状態で塗装・乾燥工程を行ったが、別の装置にて塗装・乾燥工程を行った後に樹脂成形体2をワーク支持部47にセットしてもよい。
【0034】
その後、レーザ照射装置31を駆動することで、樹脂成形体2の表面の塗膜3にレーザL1を照射し、塗膜3の加飾面5上に絵柄4を描画する。具体的に言うと、CPU50は、レーザ照射を行うためのレーザ照射データをメモリ51から読み出す。そして、CPU50は、レーザ照射データに基づいて駆動信号を生成し、生成した駆動信号をレーザ照射装置31に出力する。レーザ照射装置31は、CPU50から出力された駆動信号に基づいて、樹脂成形体2の表面に形成された塗膜3にレーザL1を照射する。なお、レーザ照射装置31のレーザ制御部43は、レーザ発生部41からレーザL1を照射させ、加飾面5,5aにおける画像データのパターンに応じてレーザ偏向部42を制御する。この制御によって、レーザL1の照射位置及び焦点位置が決定される。
【0035】
ここで、絵柄4においてグラデーションを付けない描画領域R0には、実際の加飾面5上に焦点が合うようにしてレーザL1が照射され、その加飾面5がレーザ加工されることで絵柄4が描画される。一方、絵柄4におけるグラデーション領域R1では、仮想の加飾面5a上に焦点が合うようにレーザL1を照射することにより、実際の加飾面5からレーザL1の焦点を上方にずらした状態で加飾面5がレーザ加工される(
図6参照)。このレーザ加工によって、グラデーション領域R1の絵柄4にグラデーションが形成される。
【0036】
より詳しくは、
図7に示されるように、グラデーション領域R1について、レーザL1の焦点を加飾面5の面方向に移動させる際に、面方向の単位長さX1に対する加飾面5の垂直方向の焦点ずらし量Δfを、グラデーション領域R1の始端S1側は大きくする。そして、その焦点ずらし量Δfを、グラデーション領域R1の終端S2側に行くに従って徐々に小さくする。つまり、本実施の形態では、レーザL1の焦点が焦点深度b(
図10参照)の範囲内にある場合には焦点ずらし量Δfを大きくし、レーザL1の焦点が焦点深度bの範囲外にある場合には焦点ずらし量Δfを小さくしている。この結果、グラデーション領域R1における線状のレーザ加工部6において、幅W1及び深さD1が一定の割合で減少することで、グラデーションが正確に形成される。
【0037】
因みに、
図8には、レーザL1の焦点ずらし量Δfを一次的に変化させた場合(従来技術の場合)のレーザ加工部6を示している。この場合、線状のレーザ加工部6において、グラデーション領域R1の始端S1側(焦点深度bの範囲内)ではグラデーションが付きにくく、グラデーションを正確に形成することができない。これに対して、本実施の形態のように、レーザL1の焦点ずらし量Δfの変化を、グラデーション領域R1の終端S2側よりも始端S1側を大きくすることにより、グラデーションが正確に形成される。
【0038】
CPU50は、メモリ51に記憶されているレーザ照射データに基づいて、絵柄4を構成する全ての描画領域(描画領域R0及びグラデーション領域R1)について、レーザL1を照射する。この結果、樹脂成形体2の塗膜3の加飾面5に、グラデーションを有する絵柄4が描画されることにより、
図1及び
図2に示す車両用内装部品1が完成する。
【0039】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0040】
(1)本実施の形態の加飾装置30において、グラデーション領域R1について、実際の加飾面5の表面形状に対して曲率が異なるように変形させた仮想の加飾面5aが想定され、その仮想の加飾面5a上に描画データが作成される。そして、その描画データに基づいて、レーザ照射装置31が駆動され、仮想の加飾面5a上に焦点が合うようにレーザL1が照射される。この結果、実際の加飾面5からレーザL1の焦点をずらした状態で樹脂成形体2の加飾面5にレーザ加工が行われ、グラデーションを有する絵柄4が描画される。このように描画すると、樹脂成形体2の塗膜3における加飾面5の絵柄4にグラデーションを正確に付けることができ、車両用内装部品1における意匠デザインの精度を高めることができる。
【0041】
(2)本実施の形態では、加飾装置30におけるレーザ照射装置31は、樹脂成形体2の加飾面5において面方向にレーザL1の焦点を走査する機能と、焦点を加飾面5の垂直方向に調整する機能とを有する。そして、レーザ照射装置31により、レーザL1の焦点を面方向に移動させる際に、面方向の単位長さX1に対する垂直方向の焦点ずらし量Δfを、グラデーション領域R1の始端S1側は大きくし、グラデーション領域R1の終端S2側に行くに従って徐々に小さくしている。つまり、グラデーション領域R1の始端S1側ではレーザL1の焦点が焦点深度bの範囲内にあるので、その場合には焦点ずらし量Δfを大きくし、グラデーション領域R1の終端S2側ではレーザL1の焦点が焦点深度bの範囲外にあるので、その場合には焦点ずらし量Δfを小さくする。このようにすると、樹脂成形体2の塗膜3の絵柄4にグラデーションを正確に付けることができ、車両用内装部品1における意匠デザインの精度を高めることができる。
【0042】
(3)本実施の形態の車両用内装部品1において、樹脂成形体2の加飾面5に描画された絵柄4の一部には、レーザ加工部6の幅W1及び深さD1を一定の割合で減少させることでグラデーションが付与されている。このようにすると、加飾面5の絵柄4にグラデーションを正確に付けることができ、車両用内装部品1における外観品質を高めることができる。
【0043】
なお、本発明の各実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0044】
・上記実施の形態の絵柄4は、黒色の塗膜3に形成されていたが、他の有色の塗膜3に形成されるものでもよい。さらに、塗膜3を省略して樹脂成形体2の表面に絵柄4を直接描画してもよい。また、樹脂成形体2の表面において、塗膜3を保護するクリアコート層を形成し、そのクリアコート層に絵柄4を描画してもよい。さらには、絵柄4を描画した塗膜3の表面に保護層(クリアコート層)を形成してもよいし、絵柄4を描画した樹脂成形体2の表面に保護層を形成してもよい。
【0045】
・上記実施の形態では、車両用内装部品1の加飾面5は、平坦面に近い表面形状であったが、これに限定されるものではなく、曲面であってもよい。加飾面5が曲面形状である場合でも、上記実施の形態のように仮想の加飾面5aを想定し、それを用いてレーザL1の焦点をずらしてレーザ加工を行うことにより、グラデーションを正確に形成することができる。
【0046】
・上記実施の形態では、レーザ照射によって凹状のレーザ加工部6(レーザ加工溝)を形成して絵柄4を描画していたが、レーザ加工部6としては、これに限定されるものではない。例えば、レーザ照射によって塗膜3の加飾面5を凸状に膨らませたレーザ加工部を形成し、そのレーザ加工部によって絵柄4を描画してもよい。なお、このレーザ加工部は、例えばレーザ照射による発泡現象(樹脂を溶融させる際に泡が発生する現象)を利用して形成し、グラデーション領域ではレーザ加工部の高さを一定の割合で減少させることでグラデーションを形成する。さらに、レーザ照射によって塗膜3表面や部品表面を変色させて絵柄4を描画してもよい。この場合、グラデーション領域ではレーザ加工部の幅を一定の割合で減少させることでグラデーションを形成する。
【0047】
・上記実施の形態では、実際の加飾面5に対して凸状に膨らませた仮想の加飾面5aを想定し、レーザL1の焦点を実際の加飾面5の上方にずらしてレーザ加工を行うものであったが、これに限定されるものではない。実際の加飾面5に対して凹状に凹ませた仮想の加飾面を設定し、上記実施の形態とは反対に加飾面5の下方に焦点をずらしてレーザ加工を行うようにしてもよい。このようにしても、加飾面5の絵柄4に所望とするグラデーションを正確に付与することができる。
【0048】
・上記実施の形態の加飾装置30では、レーザ照射装置31におけるレーザ偏向部42を駆動することで、レーザL1の焦点ずらし量Δfを調整するものであったが、これに限定するものではない。例えば、ロボットアーム46を駆動することによりレーザL1の焦点ずらし量Δfを調整するように構成してもよい。また、ロボットアーム46以外に、加飾面5の垂直方向に樹脂成形体2を移動させるZ軸調整機構を設け、その調整機構によって垂直方向の焦点ずらし量Δfを調整するように構成してもよい。
【0049】
・上記実施の形態は、車両用内装部品1をドアのアームレストに具体化するものであったが、これ以外に、コンソールボックス、インストルメントパネルなどの他の内装部品に具体化してもよい。
【0050】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0051】
(1)手段1において、前記レーザ描画装置は、前記樹脂成形体の前記加飾面において面方向に前記レーザの焦点を走査する機能と、前記焦点を前記加飾面の垂直方向に調整する機能とを有し、前記レーザの焦点が焦点深度の範囲内にある場合には、前記面方向の単位長さに対する前記垂直方向の焦点ずらし量を大きくし、前記レーザの焦点が前記焦点深度の範囲外にある場合には、前記焦点ずらし量を小さくして、前記レーザ加工部にグラデーションを形成するようにしたことを特徴とする車両用内装部品の加飾装置。
【0052】
(2)手段3において、前記加飾面の表面状態を変化させて前記線状のレーザ加工部が形成されるものであり、前記レーザ加工部の幅を一定の割合で減少させることで前記グラデーションが付与されていることを特徴とする車両用内装部品。
【0053】
(3)手段3において、前記加飾面は、曲面形状を有することを特徴とする車両用内装部品。
【符号の説明】
【0054】
1…車両用内装部品
3…塗膜
4…絵柄
5…加飾面
5a…仮想の加飾面
6…レーザ加工部
30…車両用内装部品の加飾装置
31…レーザ描画装置としてのレーザ照射装置
33…データ作成装置としての制御装置
D1…深さ
L1…レーザ
R0…描画領域
R1…グラデーション領域
S1…グラデーション領域の始端
S2…グラデーション領域の終端
W1…幅