特許第6133284号(P6133284)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6133284位置合わせ要素の位置決めのための外科用器具
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133284
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】位置合わせ要素の位置決めのための外科用器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/56 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
   A61B17/56
【請求項の数】13
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-519559(P2014-519559)
(86)(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公表番号】特表2014-526917(P2014-526917A)
(43)【公表日】2014年10月9日
(86)【国際出願番号】EP2012063676
(87)【国際公開番号】WO2013007785
(87)【国際公開日】20130117
【審査請求日】2015年6月17日
(31)【優先権主張番号】11173606.2
(32)【優先日】2011年7月12日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】13/180,688
(32)【優先日】2011年7月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513277315
【氏名又は名称】マテリアライズ エン ヴェー
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花之内 健仁
(72)【発明者】
【氏名】バンジェネウグデン ディーター
【審査官】 毛利 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/060536(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0087829(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/124164(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨盤骨の寛骨臼窩に対して位置合わせ要素を位置決めするための患者固有の外科用固定具であって、
− 前記寛骨臼窩の1つ以上の別個の領域、寛骨臼縁付近、及び/又は、寛骨臼縁に嵌合する1つ以上の患者固有の接触要素を備えた一体構造体であって、前記1つ以上の接触要素のうちの少なくとも1つが、寛骨臼縁に対する前記固定具の強固な嵌合を確保するために前記臼蓋窩の縁の横靭帯の後部切り欠きと相互に作用する、一体構造体と、
− 前記構造体に強固に取り付けられて、前記位置合わせ要素の挿入を可能にする1つ以上の穴が設けられた位置決め要素と、
を備える患者固有の外科用固定具。
【請求項2】
前記1つ以上の穴は、前記窩の外側で前記位置合わせ要素の挿入を可能にする、請求項1に記載の外科用固定具。
【請求項3】
前記位置決め要素が前記固定具の残りの部分から取り外し可能である、請求項1または2に記載の外科用固定具。
【請求項4】
少なくとも3つの接触点で、球関節の窩の領域、前記窩の付近、及び/又は、前記窩の縁に嵌合する少なくとも2つの接触要素を備え、1つの接触点と前記窩の縁に最も良く適合する円または楕円の中心との間に描かれる線と、隣接する接触点と前記中心との間に描かれる線との間の角度が180°よりも大きくない、請求項1から3のいずれか1項に記載の外科用固定具。
【請求項5】
前記固定具が少なくとも2つの接触要素を備え、前記位置決め要素が前記接触要素のうちの1つに相当する、請求項1から4のいずれか1項に記載の外科用固定具。
【請求項6】
前記位置決め要素と前記固定具の残りの部分との間の接続部は、外科用切断器具を用いて前記接続部を破壊することにより前記位置決め要素を前記固定具の残りの部分から取り外すことができるように適合され或いは脆弱化されている、請求項1から5のいずれか1項に記載の外科用固定具。
【請求項7】
前記位置決め要素と前記固定具の残りの部分との間の接続は、蟻継ぎ結合、インターロッキング特徴部、ピン止めシステム、および、スナップ嵌合機構から選択される要素によって確保されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の外科用固定具。
【請求項8】
前記固定具が接続構造体を更に備え、前記位置決め要素及び/又は前記1つ以上の接触要素のうちの1つ以上が前記接続構造体から延びている、請求項1から7のいずれか1項に記載の外科用固定具。
【請求項9】
前記1つ以上の穴のうちの少なくとも1つの位置及び/又は方向が術前計画に従っている、請求項1から8のいずれか1項に記載の外科用固定具。
【請求項10】
前記1つ以上の穴のうちの少なくとも1つがドリルガイドの一部である、請求項1から9のいずれか1項に記載の外科用固定具。
【請求項11】
前記位置決め要素が異なる直径を有する第1および第2の穴を備え、前記第1の穴が前記位置合わせ要素の挿入を可能にし、前記第2の穴が固定要素の挿入を可能にする、請求項1から10のいずれか1項に記載の外科用固定具。
【請求項12】
前記位置合わせ要素は、ピン、ワイヤ、ネジ、および、ドリルを備えるグループから選択される、請求項1から11のいずれか1項に記載の外科用固定具。
【請求項13】
前記固定具が付加製造によって一体部品として製造される、請求項1から12のいずれか1項に記載の外科用固定具。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、術前計画に基づいて位置合わせ要素を位置決めするための外科用器具、および、該外科用器具の製造のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
殆どの関節形成、関節置換、及び/又は、関節再建の外科的処置では、特に股関節手術および肩関節手術では、関節が人工のインプラントと置換される。そのようなインターベンションの主な目的は、(関節炎の)痛みを軽減すること、及び/又は、激しい物理的な関節損傷を修復することである。プロテーゼが機能しなくなると、修復手術が行なわれる。しかしながら、この処置は、最初のインターベンションよりも技術的に難しく且つ時間がかかり、結果はあまり満足できない。これは、機能すべき骨のストックが殆どないからであり、また、接着セメントまたは人工の構成要素の除去が骨の破砕または穿孔をもたらす場合があるからである。また、それぞれの連続する関節修復により、プロテーゼの感染および症候性弛緩の危険がかなり増大する場合がある。したがって、関節手術処置の最も重要な観点のうちの1つは、主インプラントの正確な狂いのない安定した配置である。
【0003】
正確なインプラント配置は、肩手術において重要であり、特に股関節手術において重要である。股関節手術で使用される寛骨臼インプラントの大部分は、現在、圧入技術を使用して配置される。この技術では、最初に、直径が次第に増大する一連の半球状のリーマを用いて患者の臼蓋窩の穴が広げられ、それにより、インプラントが配置されるべき場所に半球状の腔が形成される。最終的な(最も大きい)リーマは、一般に、インプラントの直径よりも小さい直径を有する。更なるステップにおいて、インプラントは、インプラントがリーマ仕上げされた腔の縁に支えられ且つインプラントの方向が解剖学的に適するように、インパクタに取り付けられて患者の骨盤に配置される。最後に、インパクタは、インプラントがリーマ仕上げされた腔内に載置するまで、ハンマーを用いてたたかれる。その後、インプラントがインパクタから解放される。
【0004】
当該分野における一般的なコンセンサスは、インプラントの方向が手術の成功およびインプラントの寿命を決定するということである(Hayakawa et al.,Archives of orthopedic and trauma surgery Vol.129(2009):1151−1156)。しかしながら、現在の処置は、良好な方向を得るために幾つかの欠点を示す。実際に、最終的な配置中の唯一の解剖学的視覚基準は横靭帯の方向であり(Pearse et al.,Hip international Vol.18(2008):7−10)、この横靭帯の方向に対して平行にインプラントの上面が方向付けられなければならない。したがって、横靭帯の軸周りの回転は可変パラメータのままである。また、横靭帯は、一般に、外科医の視界から良く見えず、そのため、方向付けプロセスが妨げられる。更に、インパクタおよびハンマーはいずれもかなり大型であり、そのため、インパクタを安定した方向に維持することが難しい。
【0005】
これらの問題に関して幾つかの実用的な解決策が提案されてきた。米国特許第2009/0163922号明細書(Meridew,Metzger)は、位置決めされ且つ随意的に寛骨臼縁に取り付けられるべき患者固有のガイドであって、正確な方向付けを強制するべくインパクタと接続するように形成されるガイドについて記載する。しかしながら、そのような装置が嵌め込み中に当該装置に加えられるモーメントに耐えることができるかどうかは疑わしい。
【0006】
米国特許第2010/0082035号明細書および国際公開第2011/060536号は、患者の骨中への寛骨臼カッププロテーゼの埋め込みを容易にするための患者固有の外科用器具を開示する。ガイドピン骨ガイドピンを患者の臼蓋窩に位置決めするためのガイドが使用されてもよい。しかしながら、そのようなガイドは、限られた精度しか与えない。
【0007】
したがって、インプラントを患者の関節に正確かつ的確に挿入し、配置し、および、方向付けることができる能力を与える代替的な改良された外科装置、特に外科用案内器具の必要性がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、関節形成術で用いる外科用器具に関する。器具は、人または動物の身体における球関節に対する手術を容易にするようになっている。したがって、人の身体の手術において、器具は、股関節手術および肩関節手術において有用であり、特に、寛骨臼カップインプラントまたは関節インプラントを位置決めするのに有用である。外科用器具は位置合わせ要素を位置決めすることができ、その場合、位置合わせ要素の望ましい位置および方向は、一般に、術前計画に基づく。位置合わせ要素は、外科的処置のリーミング段階及び/又はインパクト段階で、術前に計画された最適なインプラント位置合わせ方向に対応するために外科医のためのナビゲータとしての役目を果たす、表示ピン、ワイヤ、ネジ、または、ドリルであってもよい。
【0009】
本発明に係る外科用器具は外科用固定具である。第1の局面において、本発明は、位置合わせ要素を位置決めするための外科用固定具を提供する。本発明に係る固定具は1つ以上の患者固有の接触要素を備え、該接触要素は、共に、少なくとも3つの接触点で、球関節の窩(socket)の領域、前記窩付近の領域、及び/又は、前記窩の縁に嵌合する。窩が関節窩である場合、窩付近の領域は、関節縁および関節周辺部位(例えば、関節下結節、関節上結節、および、肩甲頸など)を含んでもよく、また、肩峰および烏口突起(鉤状突起)を含んでもよい。窩が臼蓋窩である場合、窩付近の領域は、寛骨臼周辺部位(例えば、寛骨臼縁、寛骨臼上溝、上枝など)を含んでもよい。
【0010】
特定の実施形態において、接触点は、1つの接触点と窩縁に最も良く適合する円または楕円の中心とを接続する線と、隣接する接触点と前記中心とを接続する線との間の角度が180°よりも大きくない配置を有する。外科用固定具は、該固定具に強固に取り付けられる位置決め要素を更に備える。この位置決め要素には、位置合わせ要素の挿入を可能にする1つ以上の穴が設けられる。また、特定の実施形態では、位置決め要素が固定具の残りの部分から取り外し可能である。
【0011】
特定の実施形態において、1つの接触要素(接触要素のうちの1つ)は、該接触要素が骨上に位置されるときに、窩の縁に存在する或いは窩内または窩付近の骨に存在する解剖学的特徴部と相互に作用するように固定具に位置される。更なる実施形態において、この解剖学的特徴部は、烏口突起の横靭帯の後部切り欠きである。
【0012】
特定の実施形態において、本発明は、骨盤骨の寛骨臼窩に対して位置合わせ要素を位置決めするための患者固有の外科用固定具であって、窩の1つ以上の別個の領域に嵌合する1つ以上の患者固有の接触要素を有する一体構造体を備える外科用固定具を提供する。特に、これらの1つ以上の接触要素は寛骨臼縁付近及び/又は寛骨臼縁に嵌合し、それにより、前記1つ以上の接触要素のうちの少なくとも1つは、寛骨臼縁に対する前記固定具の強固な嵌め付けを確保するために、前記臼蓋窩の縁の横靭帯の後部切り欠きと相互に作用する。固定具は、接触要素を備える前記一体構造体に強固に取り付けられ得る或いは強固に取り付けられる位置決め要素を更に備え、該位置決め要素には、前記位置合わせ要素の挿入を可能にする1つ以上の穴が設けられる。
【0013】
本明細書中に記載される固定具の特定の実施形態において、外科用固定具は、少なくとも2つの接触要素、または、少なくとも3つの接触要素を備える。同時に、接触要素は、少なくとも3つの接触点で、窩の領域、窩の付近、及び/又は、窩縁に嵌合し、この場合、接触点は、1つの接触点と窩縁に最も良く適合する円または楕円の中心との間に描かれる線と、隣接する接触点と前記中心との間に描かれる線との間の角度が180°よりも大きくない配置を有する。更なる実施形態では、外科用固定具が少なくとも2つの接触要素を備え、その場合、位置決め要素が接触要素のうちの1つに対応する。
【0014】
本明細書中に記載される固定具の特定の実施形態において、位置決め要素の1つ以上の穴は、前記窩の外側で前記位置合わせ要素の挿入を可能にする。
【0015】
本明細書中に記載される固定具の特定の実施形態では、位置決め要素が前記固定具の残りの部分から取り外し可能である。
【0016】
本明細書中に記載される固定具の特定の実施形態では、少なくとも3つの接触点で前記窩の縁の領域に嵌合する1つ以上の接触要素が互いに不可逆的に固定される。
【0017】
前述したように、位置決め要素は、固定具の残りの部分から取り外し可能であってもよい。特定の実施形態において、位置決め要素と固定具の残りの部分との間の接続部は、外科用切断要素を用いて前記接続部を破壊することにより位置決め要素を固定具の残りの部分から取り外すことができるように適合され或いは脆弱化される。他の実施形態において、位置決め要素と固定具の残りの部分との間の接続部は、蟻継ぎ結合、インターロッキング特徴部、ピン止めシステム、および、スナップ嵌合機構から選択される要素によって確保される。
【0018】
特定の実施形態では、本発明に係る外科用固定具が接続構造体を更に備え、位置決め要素及び/又は1つ以上の接触要素のうちの1つ以上が接続構造体から延びる。
【0019】
前述したように、位置決め要素は1つ以上の穴を備える。特定の実施形態では、少なくとも1つの穴の位置及び/又は方向が術前計画に従っている。特定の実施形態では、少なくとも1つの穴がドリルガイドの一部である。特定の実施形態では、位置決め要素が異なる直径を有する第1および第2の穴を備え、第1の穴が位置合わせ要素の挿入を可能にし、第2の穴が固定要素の挿入を可能にする。更なる実施形態において、位置決め要素は、固定要素の挿入を可能にする2つ以上の穴を備える。特定の実施形態において、位置合わせ要素は、ピン、ワイヤ、ネジ、および、ドリルからなる群より選択される。
【0020】
特定の実施形態では、本発明に係る外科用固定具が付加製造によって製造される。
【0021】
更なる態様において、本発明は、本発明に係る患者固有の外科用固定具の製造のための方法を提供する。この方法は、
A.球関節の窩の容積情報を患者から得るステップと、
B.患者のための窩インプラントの取り付け方向を得るステップと、
C.位置合わせ要素を挿入するのに適するインプラント域を取り囲む骨の部分を特定して選択するステップと、
D.外科用固定具の1または複数の接触面のためのベースとして使用するのに適するインプラント域内の或いはインプラント域を取り囲む骨の部分を特定して選択するステップと、
E.ステップA、B、C、D、Eで得られた情報に基づいて外科用固定具を設計して形成するステップと、
を含んでいる。
【0022】
更なる局面において、本発明は、球関節の窩内で窩インプラントを案内するための方法であって、
1)本発明に係る外科用固定具を窩に対して位置決めするステップと、
2)ワイヤ、ピン、ドリル、または、ネジを窩を取り囲む骨内に挿入するために固定具により設けられる穴のうちの1つを使用するステップと、
3)外科用固定具を窩から除去するステップと、
4)術前計画に従ってインプラントを正確な方向で窩へと案内するためにワイヤ、ピン、ドリル、または、ネジを使用するステップと、
を含む方法を提供する。
【0023】
特定の実施形態において、ステップ1)は、窩に対する所望の方向を得るために固定具の回転動作を伴い、また、ステップ3)は、位置決め要素を固定具の残りの部分から、および随意的に骨から取り外すことにより、その後にステップ1)の回転動作の逆転を可能にして固定具の残りの部分を骨から除去することを含む。
【0024】
患者は、動物または人の患者であってもよい。したがって、窩は、動物または人の身体における球関節の任意の窩であってもよい。人の患者において、球関節の窩は、臼蓋窩または関節窩であってもよい。特定の実施形態では、窩が臼蓋窩である。他の実施形態では、窩が関節窩である。
【0025】
本発明に係る外科用固定具は、表示ピン、ワイヤ、ネジ、又は、ドリルの高速で正確な位置決めを可能にするとともに、使用後の固定具の生体構造からの効率的な除去を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明の特定の実施形態の以下の図は、本質的に単なる典型例にすぎず、本教示内容、それらの用途、または、使用を限定しようとするものではない。図面の全体にわたって、対応する参照符号は、同様の或いは対応する部分および特徴を示す。
【0027】
図1】A,A’,A”:本発明の特定の実施形態に係る患者固有の接触点(4)の相対位置、並びに、寛骨臼縁(7)または関節窩縁(16)および臼蓋窩(13)または関節窩(15)に対する接触点の方向の概略表示。B,B’,B”,C,C’,C”:本発明の特定の実施形態に係る患者固有の接触面(14)の配置および形状、並びに、寛骨臼縁(7)または関節窩縁(16)および臼蓋窩(13)または関節窩(15)に対する接触面の方向の概略表示。
図2】A,B:寛骨臼縁(7)によって取り囲まれる臼蓋窩(13)、および、横靭帯の後部切り欠き(8)の図。
図3】臼蓋窩上に位置される(A)、および、骨上に位置されない(B,C)、本発明の特定の実施形態に係る外科用固定具(1)。固定具は、中心接続構造体(12)と、位置決め要素(3)と、それぞれが接触面(4)を備える4つの接触要素(2,2’)とを備える。また、固定具は、固定具の操作のための延出部(10)も備える。位置決め要素(3)は、ドリルガイド(9)としても機能し、穴(5,6)を備えるとともに、脆弱接続部(11)を介して固定具の残りの部分に接続される。
図4】A:位置決め要素(3)と、接触面(4)を備える接触要素(2)とを備える、本発明の特定の実施形態に係る外科用固定具(1)。固定具は2つの延出部(10)を更に備える。位置決め要素(3)は、ドリルガイド(9)でもあり、穴(5,6)を備える。B:骨盤骨(17)の臼蓋窩上に位置される同外科用固定具(1)。
図5】A:骨盤骨の臼蓋窩(7)上に位置される本発明の特定の実施形態に係る外科用固定具(1)。B,C:骨上に位置されない本発明の特定の実施形態に係る外科用固定具(1)。
【0028】
図中、以下の参照符号が使用される。
1−外科用固定具;2,2’−接触要素;3−位置決め要素;4,4’−接触点;5−位置合わせ要素の挿入のための穴;6−固定要素のための穴;7−寛骨臼縁;8−横靭帯の後部切り欠き;9−ドリルガイド;10−延出部;11−適合接続部;12−接続構造体;13−臼蓋窩;14−接触面;15−関節窩;16−関節窩縁;17−骨盤骨
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を特定の実施形態について説明するが、本発明は、それらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。特許請求の範囲における任意の参照符号は、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきでない。
【0030】
本明細書中で使用される単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および、「その(the)」は、文脈において特に明記されない限り、単数形および複数形の両方の指示対象を含む。
【0031】
本明細書中で使用される用語「備えている」、「備える」、および、「から構成される」は、「含んでいる」、「含む」、または、「包含している」、「包含する」と同義であって、包括的または非制約的であり、更なる列挙されていない部材、要素、または、方法ステップを排除しない。用語「備えている」、「備える」、および、「から構成される」は用語「から成る」も含む。
【0032】
また、本明細書中および特許請求の範囲中の第1、第2、第3などといった用語は、同様の要素間を区別するために使用され、特に定められなければ、必ずしも連続的または時間的な順序を表わすために使用されない。言うまでもなく、そのように使用される用語は、適切な状況下で置き換え可能であり、また、本明細書中に記載される発明の実施形態は、本明細書中に記載され或いは例示される以外の順序で作用できる。
【0033】
パラメータ、量、時間的な継続時間、および、同様のものなどの測定可能な値に言及する際に本明細書中で使用される用語「約」は、開示された発明を実施するのに適している限りにおいて、特定の値、および特定の値からの±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、更により好ましくは±0.1%以下の変化を包含するように意図され、言うまでもなく、修飾語句「約」が示す値自体も、具体的に好ましいものとして開示される。
【0034】
端点による数値範囲の列挙は、それぞれの範囲内に包含される全ての数値および分数、並びに、列挙された端点を含む。
【0035】
本明細書中で引用される全ての文献は、それらの全体が参照により本願に組み入れられる。
【0036】
特に定義されない限り、技術用語および科学用語を含む、本発明を開示する際に使用される全ての用語は、この発明が属する技術分野における当業者により共通に理解されるような意味を有する。更なる指針により、本明細書で使用される用語に関する定義が、本発明の教示内容をより良く理解するために含まれる。本明細書中で使用される用語または定義は、専ら本発明の理解を助けるためだけに与えられる。
【0037】
本発明は、位置合わせ要素を位置決めするための患者固有の外科用固定具を提供する。位置合わせ要素は、インプラントのための(術前に計画される)方向及び/又は位置を示すために使用されてもよい。固定具は、窩上または窩付近、及び/又は窩縁上に嵌合する1つ以上の患者固有の接触要素を備え、また、固定具は、位置合わせ要素を位置決めするための位置決め要素を更に備える。
【0038】
本発明は、移植外科の分野に関し、特に、球関節の窩内に配置されるインプラントに関する。人の患者において、これは、寛骨臼カップインプラント、及び/又は、関節インプラントである。本明細書中で使用される用語「寛骨臼カップインプラント」とは、患者の臼蓋窩内へ配置される人工股関節インプラントの構成要素のことである。臼蓋窩は骨盤の凹面であり、この場所で大腿骨頭が骨盤と出会って、それにより、股関節を形成する。本明細書中で使用される用語「関節インプラント」とは、患者の関節窩内に或いは関節窩上に配置される人工肩インプラントの構成要素のことである。そのようなインプラントは、(全)肩関節形成術または逆(全)肩関節形成術で使用されてもよい。(肩甲骨の)関節腔としても知られる関節窩は、肩甲骨の外側角に位置される浅い表面である。この窩は、上腕骨と共に関節窩上腕関節を形成する。
【0039】
本明細書中で使用される用語「縁」および「窩縁」とは、窩の縁のことである。通常、これは、窩を形成する凹状の骨表面の略凸状の縁である。人の患者において、特定の例は、寛骨臼縁及び/又は関節縁である。本明細書中で使用される用語「寛骨臼縁」とは、臼蓋窩の縁、特に、臼蓋窩を形成する骨盤の凹面の略凸状の縁のことである。本明細書中で使用される用語「関節縁」とは、関節窩の縁、特に、関節窩を形成する肩甲骨の凹面の略凸状の縁のことである。
【0040】
球関節との関連で本明細書中において使用される用語「窩」とは、人または動物の身体の球関節の窩のことである。人の患者において、典型例としては、臼蓋窩及び/又は関節窩が挙げられる。
【0041】
本明細書中で使用される用語「位置合わせ要素」とは、例えば位置決めするための特定の場所及び/又は方向を示すことによって、及び/又は、インプラントまたはインプラントガイドを特定の場所へ物理的に案内することによって、解剖学的な窩内への或いは窩上に対するインプラントの正確な位置決めを容易にする要素のことである。そのような要素がなければ、インプラントが不正確に位置され、それにより、プロテーゼの次善機能および患者の不快感がもたらされる場合がある。
【0042】
本明細書中で使用される用語「外科用固定具」および「固定具」とは、患者の解剖学的部位に位置され得るとともに位置合わせ要素の位置決めにおいて外科医を助ける(患者固有の)外科手術用具のことである。
【0043】
この明細書に全体にわたる「1つの実施形態」または「一実施形態」への言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、または、特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、この明細書全体にわたる様々な箇所における語句「1つの実施形態において」または「一実施形態において」の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態に言及しているとは限らないが、同じ実施形態に言及していてもよい。また、この開示から当業者に明らかなように、1つ以上の実施形態において、特定の特徴、構造、または、特性が任意の適した態様で組み合わされてもよい。更に、本明細書中に記載される幾つかの実施形態が他の実施形態に含まれる幾つかの特徴を含み他の特徴を含まない場合、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、当業者により理解されるように、本発明の範囲内に入るように意図されるとともに、異なる実施形態を形成する。例えば、以下の特許請求の範囲では、請求項に記載される実施形態のいずれかを任意の組み合わせで使用できる。
【0044】
第1の局面において、本発明は、動物または人の患者の身体の球関節における窩内への或いは窩に対するインプラントの位置決めを容易にするための外科用器具を提供する。特に、人との関連では、本発明は、寛骨臼カップインプラントまたは関節インプラントを位置決めするために使用され得る位置合わせ要素を位置決めするための外科用固定具を提供する。しかしながら、本発明は、動物に用いるのにも同様に有用である。
【0045】
本発明に係る外科用固定具は、少なくとも1つの患者固有の接触要素、すなわち、患者の生体構造の特定の場所と接触することにより外科用固定具の正確な位置決めを確保するべく使用される外科用固定具の部分を備える。
【0046】
(1つ以上の)患者固有の接触要素により、外科医は、術前計画に従って、窩及び/又は窩縁に対する外科用固定具の正確な位置を得ることができる。実際に、1つ以上の接触要素は、(軟骨または他の軟組織を伴う或いは伴わない)窩及び/又は窩縁の或いはその付近の特定の領域に(共に)嵌合する。特定の実施形態において、1つ以上の接触要素は、少なくとも3つの接触点で窩の縁に嵌合する。特に、固定具が1つの接触要素だけを備える場合、その接触要素は、少なくとも3つの接触点で、窩及び/又は窩縁の或いはその付近の特定の領域に嵌合する。あるいは、固定具が2つ以上の接触要素を備える場合、接触要素は、それらが共に少なくとも3つの接触点で窩及び/又は窩縁の或いはその付近の特定の領域に嵌合するように配置される。接触点は、好ましくは窩を取り囲むために、所定の配置を有し、その場合、
− 1つの接触点と窩の縁に最も良く適合する円または楕円の中心とを接続する線と、
− 隣接する接触点と窩の縁に最も良く適合する円または楕円の中心とを接続する線と、
の間の角度は、180°よりも大きくない。
【0047】
特定の実施形態において、接触点間の角度(各接触点と円または楕円の中心とを接続する線によって決定される)は、175°、170°、165°、160°、155°、150°、145°、140°、135°、130°、125°、120°、115°、110°、105°、100°、95°または90°よりも大きくない。これついては以下で更に詳しく説明する。
【0048】
特定の実施形態において、これらの3つの接触点にわたって延びる接触要素は、互いに不可逆的に取り付けられる。特定の実施形態において、少なくともこれらの接触要素を備える固定具の部分は一体構造として形成される。このことは、これらの接触要素が窩の縁に同時に嵌合することを意味する。
【0049】
本発明に係る外科用固定具は位置決め要素を更に備える。位置決め要素は、術前に計画された位置で窩内の或いは窩を取り囲む骨上に或いは骨内に位置合わせ要素を配置するために使用される固定具の部分である。特定の実施形態において、位置決め要素は、当該位置決め要素が窩を取り囲む骨内で位置合わせ要素を案内するように配置される。位置合わせ要素を配置するのに適する窩を取り囲む骨は、例えば、寛骨臼周辺部位(例えば、寛骨臼縁、寛骨臼上溝、上枝など)または関節周辺部位(例えば、関節下結節、関節上結節、および、肩甲頸など)の骨である。したがって、位置決め要素には、位置合わせ要素の挿入を案内する或いは可能にする少なくとも1つの穴またはスリットが設けられる。位置決め要素は、接触要素を備える固定具の残りの部分に組み込まれ或いは強固に取り付けられる。特定の実施形態において、位置決め要素は、接触要素に強固に取り付けられる構造体である。これらの実施形態において、外科用固定具の接触要素および位置決め要素は、骨に対する固定具の正確な位置決め、したがって、位置合わせ要素の正確な位置決めを可能にする。実際に、接触要素に対する位置決め要素の固定位置、および、固定具の剛性により、位置決め要素は、接触要素を介して骨に正しい位置で固定されると、術前計画に従って、位置合わせ要素の正確な位置決めを可能にする。
【0050】
位置決め要素は固定具に強固に取り付けられる。したがって、位置決め要素と固定具の残りの部分との間の接続は柔軟ではなく或いは弾力性がない。このことは、位置決め要素が固定具に取り付けられる限りは固定具の位置決め要素と接触要素との相対位置が固定されることを意味する。したがって、窩に対する位置決め要素の位置および方向は、骨に対する接触要素の位置によって決定される。また、このことは、関節窩に対する固定具の位置決め中に位置決め要素と接触要素との相対位置が固定されたままとなるようにし、そのため、術前計画に従った位置合わせ要素の位置決め要素を介した正確な位置決めを確保する。
【0051】
特定の実施形態において、本発明の固定具は、固定具の位置決め要素を取り外すことができる、すなわち、外科用固定具の残りの部分から取り外すことができるという事実によって特徴付けられる。これは、力を印加する際にそれを破壊でき或いは外科用器具を使用してそれを切断または除去できるように脆弱化された及び/又は、適合された硬質接続部により位置決め要素が外科用固定具に取り付けられるという事実によって確保され得る。これに加えて或いはこれに代えて、位置決め要素は、位置決め要素の強固で可逆的な接続を可能にする特徴部、例えば、インターロッキング特徴部、蟻継ぎ結合、ピン止めシステム、スナップ嵌合システムなどを介して、外科用固定具の残りの部分に取り外し可能に取り付けられてもよい。位置決め要素を取り外すことができるという事実は、位置合わせ要素が位置決め要素を介して骨内へ導入された後に骨からの外科用固定具の除去を容易にする。
【0052】
インプラントの配置を案内するための位置合わせ要素の望ましい位置は、術前計画によって決定される。また、術前計画を使用して、本発明に係る外科用固定具の接触要素の最適な接触点を決定することができる。実際に、接触要素の数および形状は変わってもよいが、接触要素に設けられる接触点は、固定具の安定性を決定する。接触点の最適な位置は、窩に対する外科用固定具の位置安定性を確保する。随意的に、臼蓋窩に対する固定具の位置安定性を確保するため、接触点は、好ましくは臼蓋窩(13)を取り囲むべく円形配置または略円形配置を有し、この場合、2つの隣接する接触点により規定される角度φは180°よりも大きくない。言い換えれば、1つの接触点(4)と窩縁(7)に最も良く適合する円の中心とを接続する線と、隣接する接触点(4)と前記中心とを接続する線との間の角度が180°よりも大きくない。このことが図1Aに示されている。この場合、臼蓋窩は略円形形状を有すると見なされる。
【0053】
一方、関節窩は梨状であると見なすことができる。したがって、関節窩は、一方側に略円形形状を備えるが、他方側へ向けて先細っている。そのため、関節窩(15)に対する固定具の位置安定性を確保するべく、接触点は、関節窩の縁の外周にわたって円形または略円形の配置を有する。特に、1つの接触点(4)と関節窩縁(16)(の略円形部)に最も良く適合する円の中心との間に描かれる第1の線と、隣接する接触点(4)と前記中心との間に描かれる第2の線とによって形成される角度φは、180°よりも大きくない。これは、180°よりも大きくない2つの隣接する接触点(4)により規定される扇形角度に関して表現することもできる。このことが図1A’に示されている。
【0054】
あるいは、関節窩は、略楕円形状を有していると見なされてもよい。その場合、関節窩(15)に対する固定具の位置安定性を確保するため、接触点は、1つの接触点(4)と関節窩縁(16)に最も良く適合する楕円の中心とを接続する(直)線と、隣接する接触点(4)と前記中心とを接続する(直)線との間の角度φが180°よりも大きくない配置を有する。この場合も前記と同様、2つの隣接する接触点により規定される扇形角度が180°よりも大きくないという事実によって表現できる。このことが図1A”に示されている。
【0055】
このように、より一般的には、規定されない窩に関して、本発明の固定具の特定の実施形態では、接触要素が、窩及び/又は窩縁に対して、異なる接触点で前記窩及び/又は縁と接触することによって嵌合する。これらの接触要素は、共に、少なくとも3つの接触点で、窩及び/又は窩縁(またはその付近)の領域に嵌合し、その場合、接触点は、好ましくは窩を取り囲むべく、1つの接触点と窩縁に最も良く適合する円または楕円の中心との間に描かれる線と、隣接する接触点と前記中心との間に描かれる第2の線との間の角度が180°よりも大きくない或いは同様に2つの隣接する接触点により規定される扇形角度が180°よりも大きくない配置を有する。これらの接触点は、全てが同じ接触要素に位置されてもよく(すなわち、1つの接触要素がこれらの3つの接触点を備える)、または、2つ以上の接触要素にわたって分配されてもよい。
【0056】
特定の実施形態において、本発明に係る外科用固定具の1つ以上の接触要素は、(軟骨または他の軟組織を伴う或いは伴わない)骨上に配置されるようになっている表面上に、患者固有の表面、すなわち、窩及び/又は窩縁(またはその付近)の表面と少なくとも部分的に適合する生体構造係合面を含む。このことは、接触要素が複数の接触点(接触面に対応する)から構成されることを意味する。このとき、臼蓋窩に対する外科用固定具の位置安定性は、接触要素の接触面のサイズおよび位置によって少なくとも部分的に決定される。接触要素の患者固有の表面は、一般に、1平方ミクロン(μm)と50平方センチメートル(cm)との間で変化する面積に及ぶ。
【0057】
特定の実施形態において、本発明に係る外科用固定具は、単一の接触面を有する1つの接触要素だけを備える。特定の実施形態において、この接触面(14)は、円形の窩(臼蓋窩)に関して図1Bに概略的に描かれるように、少なくとも180°の角度にわたって窩(13)及び/又は窩縁(7)の表面に及ぶ。梨状または楕円形の窩(関節窩)においても同様の要件が課される(図1B’および図1B”)。
【0058】
あるいは、本発明に係る外科用固定具は、患者固有の接触面を備える複数の接触要素を備えていてもよい。この場合、外科用固定具の安定した位置決めは、異なる接触要素の接触面が、窩(13)及び/又は窩縁(7)で或いはその付近で、円形窩(臼蓋窩)に関して図1Cに概略的に描かれるように、同じ接触面(14)に属さない隣接する接触点の全ての対に関して、1つの接触点と窩縁(7)に最も良く適合する円の中心との間に描かれる線と、隣接する接触点と前記中心との間に描かれる第2の線との間の角度φが180°よりも大きくない配置を有する場合に、最適に得ることができる。この場合も前記と同様に、梨状または楕円形の窩(関節窩)においても同様の要件が課される(図1C’および図1C”)。また、1つ以上の接触点と1つ以上の接触面との組み合わせを備える固定具も想起される。
【0059】
先の代替案または特定の組み合わせも想起される。特定の実施形態では、先に示されるように、本発明に係る外科用固定具が1つの接触要素のみを備え、この接触要素は、幾つかの患者固有の接触点及び/又は接触面を備える。他の実施形態では、本発明に係る外科用固定具が少なくとも2つの接触要素を備え、各接触要素は、前述したように1つ以上の患者固有の接触点及び/又は接触面を備える。特定の実施形態では、本発明に係る外科用固定具が3つの接触要素を備え、各接触要素は、前述したように1つ以上の患者固有の接触点及び/又は接触面を備える。更なる実施形態では、本発明に係る外科用固定具が4つの接触要素を備え、各接触要素は、前述したように1つ以上の患者固有の接触点及び/又は接触面を備える。更に他の実施形態では、本発明に係る外科用固定具が(少なくとも)5、6、7、8、9、10またはそれ以上の接触要素を備え、各接触要素は、前述したように1つ以上の患者固有の接触点及び/又は接触面を備える。
【0060】
当業者であれば分かるように、本明細書中に記載される固定具において、本発明の外科用固定具の異なる接触要素は、同じ方法で(軟骨または他の軟組織を伴う或いは伴わない)骨と接触する必要がなく、また、それらの全面にわたって骨と接触する必要がない。したがって、特定の実施形態では、少なくとも1つの接触要素がその接触点及び/又は接触面を介して窩縁と少なくとも部分的に接触する。更なる実施形態では、全ての接触要素がそれに設けられる接触点及び/又は接触面を介して窩縁と少なくとも部分的に接触する。具体的には、特定の実施形態において、外科用固定具における少なくとも1つの接触要素の位置及び/又は方向は患者に固有のものである。
【0061】
好適には、少なくとも1つの接触要素は、当該接触要素の患者固有の表面が窩内の或いは窩付近のひときわ目立つ解剖学的特徴の場所にある対応する窩の表面に対応するように固定具に位置される。臼蓋窩において、これは、例えば、以下で「後部切り欠き」とも称される横靭帯の後部切り欠きである。臼蓋窩(13)の横靭帯の後部切り欠き(8)が図2Aおよび図2Bに描かれている。関節窩において、これは例えば烏口突起(鉤状突起)である。つまり、これは、肩甲骨の上前部の外側縁にある小さい鉤状構造である。
【0062】
後部切り欠きまたは烏口突起などのような特徴部に嵌まり込む或いはそのような特徴部に対して嵌合する接触要素を設けると、窩に対する外科用固定具の安定した固定が確保される。例えば、特定の実施形態において、本発明の固定具には、後部切り欠きに嵌合する及び/又は嵌まり込む接触要素が設けられる。装置は、切り欠き内に接触要素を配置するべく接触要素が後部切り欠きに隣接して配置される第1の位置で本発明に係る外科用固定具が臼蓋窩に配置されなければならないように形成され得る。そして、接触要素が切り欠きの縁に達するまで接触要素が切り欠き上にわたって、および随意的に切り欠き内へと移動できるようにする固定具の(僅かな)回転動作により、臼蓋窩に対する外科用固定具の望ましい最終位置を得ることができる。特定の実施形態において、接触要素と横靭帯の後部切り欠きの縁との間の接触により、固定具が正確な位置にあるときに回転停止をもたらす。したがって、特定の実施形態において、本発明の固定具、特に固定具の接触要素は、横靭帯の後部切り欠きなどの窩の付近の或いは烏口突起上の解剖学的特徴部に当てがうための回転アンダーカット特徴部を備えてもよい。
【0063】
したがって、特定の実施形態において、本発明の外科用固定具は、それらが窩内、窩縁上、または、窩を取り囲む(軟骨または他の軟組織を伴う或いは伴わない)骨上の解剖学的特徴部と相互作用する少なくとも1つの接触要素を備えるように形成される。窩が関節窩である場合、窩を取り囲む骨は、関節縁および関節周辺部位(例えば、関節下結節、関節上結節、および、肩甲頸など)を含み、また、肩峰および烏口突起を含んでいてもよい。窩が臼蓋窩である場合、窩を取り囲む骨は、寛骨臼周辺部位(例えば、寛骨臼縁、寛骨臼上溝、上枝など)を含む。特定の実施形態において、接触要素は、後部切り欠き或いは烏口突起の上または中に位置されるようになっている。具体的には、1つの接触要素が外科用固定具に設けられ、その場合、接触要素は、骨上に正確に位置される(すなわち、その最終位置に位置される)と、後部切り欠き内に嵌まり込み或いは後部切り欠き上に嵌合する、または、烏口突起の位置に嵌合するようになっている。特に、そのような接触要素が後部切り欠きまたは鳥口突起を捕捉する或いはロックすることが想起される。これは、固定具が正確な位置にあるときに強い回転停止をもたらし、したがって、窩に対する固定具の正確な位置決めを確保する。そのため、特定の実施形態において、1つの接触要素の形状および固定具に対する当該接触要素の位置は、接触要素が骨上に位置されるときに後部切り欠き或いは烏口突起などの解剖学的特徴部またはその付近を捕捉するようになっている。したがって、特定の実施形態において、そのような接触要素は、アンダーカットを備えていてもよく、あるいは、それが解剖学的特徴部またはその付近を捕捉できるように鉤形状であってもよい。そのため、特定の実施形態において、1つの接触要素は、アンダーカットを備え、または、鉤形状特徴部を備える。特定の実施形態において、このアンダーカットは特に寛骨臼切り欠きに嵌め合わされる。
【0064】
前述した特定の実施形態において、1つ以上の接触要素は、窩の縁上にわたる接触要素の回転によって正確な位置決めが確保され得るように設計される。したがって、骨上に接触要素を配置した後、固定具の僅かな回転は、接触要素が計画された位置に嵌まり込むようにする。一方向のみにアンダーカットを設けることにより、接触要素が互いに強固に固定されるという事実にもかかわらず、固定具を所定位置へと回転させることができる。
【0065】
更なる特定の実施形態では、窩の縁の或いは骨を取り囲む特定の解剖学的特徴部と相互に作用する接触要素がロッキング特徴部を更に備えていてもよいことが想起される。実際に、この接触要素の形状は、接触要素が骨上に位置されるときにこの特徴部にスナップ嵌合し、したがって実際にこの特徴部にロックするように適合されてもよい。
【0066】
本発明の外科用固定具は、位置決め要素を介した位置合わせ要素の正確な位置決めを可能にする。この目的のため、本発明の固定具の位置決め要素は、位置決め要素により案内される位置合わせ要素の骨盤骨または肩甲骨などの窩を取り囲む骨内への挿入を可能にする開口または穴を備える。位置合わせ要素は、ワイヤ、ピン、ネジ、または、ドリル、特に、金属製のワイヤ、ピン、ネジ、または、ドリルであってもよい。特定の実施形態において、位置合わせ要素は、ワイヤまたはピン、特に、キルシュナー鋼線(K−ワイヤ)またはホフマンピンである。
【0067】
特定の実施形態において、位置決め要素は、位置合わせ特徴部を窩の外側に配置できるようにする。実際に、球関節の窩のためのインプラントの位置決めを案内できるように、位置合わせ要素は、一般に、例えば患者の臼蓋窩の寛骨臼周辺領域(例えば、寛骨臼縁、寛骨臼上溝、上枝など)または関節窩の関節周辺領域(例えば、関節下結節、関節上結節、および、肩甲頸など)において、インプラントの取り付け方向と平行な方向で、窩を取り囲む骨上に位置される。例えば、寛骨臼カップインプラントの位置決めのため、位置合わせ要素は、一般に、寛骨臼インプラントの取り付け方向と平行な方向で骨盤骨上に位置される。しかしながら、特定の実施形態において、位置決め要素は、位置合わせ特徴部を窩内(の一般的に中心)に配置できるようにする。
【0068】
位置決め要素の開口の最適な方向は、術前計画に従って位置決め要素の方向を決定することによって得ることができる。したがって、好ましい実施形態において、位置合わせ要素の挿入を可能にする本発明の外科用固定具の少なくとも1つの穴の方向及び/又は位置は、術前計画に従っている。特に、これは、本発明の外科用固定具の接触要素に対する少なくとも1つの穴の相対的な位置及び/又は方向が術前計画に従っていることを意味する。このことは、K−ワイヤなどの標準的な位置合わせ要素の使用を可能にする。穴の位置決め及び/又は方向付けは、外科用固定具の残りの部分に対する位置決め要素の特定の場所及び/又は方向によって、位置決め要素の穴の特定の場所及び/又は位置によって、あるいは、これら2つの組み合わせによって得ることができる。これに加えて或いはこれに代えて、位置合わせ要素が、位置決め要素内への挿入時にインプラントを案内するべく正確な方向を確保するように、当該位置合わせ要素自体の形状を与えることができる。
【0069】
骨に対する本発明の外科用固定具の正確な位置決めは、外科用固定具の正確な位置決めが得られると直ぐに位置合わせ要素の骨内への挿入を可能にするが、外科用固定具が骨に(一時的に)固定され及び/又は正確な位置にロックされれば、位置合わせ要素の挿入がかなり円滑になされる。したがって、特定の実施形態において、外科用固定具は、例えばネジ、ワイヤ、または、ピンを使用して当該外科用固定具を骨に固定できるようにする穴などの固定特徴部を備えていてもよい。したがって、特定の実施形態において、本発明の外科用固定具は、位置合わせ要素の挿入のための手段である穴に加えて、少なくとも1つの穴を備える。特定の実施形態では、本発明の外科用固定具が2つの穴を備える。特定の実施形態において、固定特徴部として使用される穴、および、位置合わせ要素の挿入のために使用される穴は、位置決め要素に設けられる。特定の実施形態において、固定特徴部として使用される穴、および、位置合わせ要素の挿入のために使用される穴は、円筒状である。両方のタイプの(円筒状の)穴は異なる機能を有するため、これらの穴が異なる直径を有してもよい。また、穴の異なる直径は、特に固定特徴部が位置合わせ要素を挿入するための穴よりも小さい直径を有するときに、外科医が位置合わせ要素を固定特徴部内へ挿入することも回避する。
【0070】
本発明に係る固定具の特定の実施形態において、窩の縁に位置決めするための1つ以上の接触要素および位置決め要素は、取り外し可能な別個のユニットであってもよい。しかしながら、取り付けられると、接触要素、位置決め要素、および、固定具の残りの部分の間の相対位置が固定される。
【0071】
特定の実施形態において、位置決め要素は、接触要素上に設けられ或いは接触要素に組み込まれる。すなわち、位置決め要素を備える構造体は、骨と接触する表面を有する。しかしながら、特定の実施形態において、接触要素は、窩の縁に配置するための1つ以上の接触要素とは異なっている。特に、接触要素は、窩の縁に嵌合せず、窩の外側の部位と接触する。位置決め要素およびそのような接触要素は単一のユニットを形成してもよく、したがって、位置決め要素は、それが骨に対する正確な位置決めを確保するのに役立つという点において接触要素として機能してもよい。
【0072】
特定の実施形態において、位置決め要素は、窩の縁にある接触要素に組み込まれ或いは該接触要素から延びる。位置決め要素が窩の縁にある接触要素上に設けられる場合には、位置決め要素の穴が接触要素を貫通して続く。このようにすると、接触要素は、固定要素及び/又は位置合わせ要素の骨内への挿入を妨げない。したがって、更なる実施形態では、位置決め要素が設けられている接触要素も少なくとも1つの穴を含む。
【0073】
ある場合には、第2の或いは更には第3の位置合わせ要素の位置決めが、窩インプラントのかなり正確な位置決めを可能にする。したがって、特定の実施形態では、本発明に係る外科用固定具が複数の位置決め要素を備え、そのうちの少なくとも1つを取り外しできる。更なる実施形態では、全ての位置決め要素を取り外しできる。
【0074】
位置合わせ要素及び/又は固定要素の骨内への挿入は、最初に骨にドリルで穴を開けることよって容易にされてもよい。その後、位置合わせ要素及び/又は固定要素がドリルで開けられた骨の穴内に挿入される。したがって、特定の実施形態において、位置決め要素(および接触要素)の開口または穴のうちの少なくとも1つは、位置決め要素または接触要素上に設けられるドリルガイドの一部である。特定の実施形態において、本発明の外科用固定具には、穴に位置され得るドリルガイドが設けられてもよい。
【0075】
特定の実施形態において、本発明に係る外科用固定具はディスク(1つの接触要素)であり、該ディスクは、(軟骨または他の軟組織を伴う或いは伴わない)骨に配置するための側及び/又は縁に、前述したように窩及び/又は窩縁(またはその付近)の領域と適合する(すなわち、具体的には嵌合する)1つ以上の接触点及び/又は接触面を備えるとともに、接触面の反対側に、位置決め要素を備える。好適には、ディスクから特定の扇形領域を省き、それにより、前述したように1つ以上の接触点及び/又は接触面を有する2つ以上の接触要素を含む外科用固定具を形成することにより、さほど大きくない固定具を得ることができる。特定の実施形態において、接触要素は、中心構造体からの長手方向構造体によって相互に接続されていてもよい。
【0076】
したがって、特定の実施形態では、本発明に係る外科用固定具が接続構造体を備え、その場合、1つ以上の接触要素が接続構造体から延びる。更なる実施形態では、2つ以上の接触要素が接続構造体から延びる。また、位置決め要素が接続構造体から延びてもよい。特定の実施形態において、接続構造体は、中心要素、特に中心軸である。特定の実施形態において、接触要素及び/又は位置決め要素は、接続構造体、中心要素、または、中心軸に接続可能な別個のユニットである。別の実施形態では、本発明の外科用固定具が一体部品として製造される。
【0077】
特定の実施形態において、固定具は、接触要素及び/又は接触要素を接続する中心構造体のいずれかに位置される延出部を含んでいてもよい。延出部は、骨に対する固定具の位置決め中に固定具に関する握持力および視認性を高める。そのような延出部は、これらに限定されないがロッド状構造や、フックなど、構造が異なっていてもよい。一般に、延出部は、接触要素の接触面と垂直な方向で固定具構造体から延びる。
【0078】
特定の実施形態において、本発明の固定具は、外科用器具を案内するための案内特徴部を含む。前述したように、そのような案内特徴部は、位置合わせ要素用の穴を骨に形成するべくドリルを案内するためのドリル孔を含んでいてもよい。しかしながら、1つ以上の接触要素及び/又は接続構造体(適用できる場合)などに関しても、付加的な或いは代替的な案内要素が想起されてもよい。そのような案内特徴部は、穴、スリット溝などを含む。案内特徴部などの更なる要素を可逆的態様で固定するために、取り付け特徴部が固定具の1つ以上の部分に設けられることも更に想起できる。
【0079】
位置合わせ要素が位置決め要素を介して骨内に挿入されると、手術を進めるために、例えば窩インプラントを挿入するために外科用固定具が窩から除去されなければならない。しかしながら、挿入された位置合わせ要素(及び/又は固定要素)は、特に固定具の最終位置で接触要素のうちの1つが後部切り欠きまたは鳥口突起などの解剖学的特徴部と接触する或いは該解剖学的特徴部を捕捉するときに、外科用固定具の移動性を制限する場合がある。この問題を克服するため、本発明は、本発明の外科用固定具の特定の実施形態において、外科用固定具の少なくとも1つの位置決め要素を取り外すことができるようにする。また、更に、特定の実施形態では、1つ以上の接触要素が取り外し可能であってもよいことが想起される。
【0080】
接触要素または取り外し可能な接触要素から取り外すことができる位置決め要素をもたらすため、本発明は、正確な位置決めを確保するために必要な剛性を依然として維持しつつ位置決め要素または接触要素を取り外し可能にするべく位置決め要素または接触要素と固定具の残りの部分との間の接続部が適合される或いは脆弱化される実施形態を想起する。したがって、特定の実施形態において、少なくとも1つの位置決め要素または接触要素と固定具の残りの部分との間の接続部は、それを外科用切断器具を用いてガイドから取り外すことができるように適合され及び/又は脆弱化される。特定の実施形態において、この接続部は、前述したように接続構造体の延出部に設けられる。
【0081】
あるいは、1つ以上の位置決め要素及び/又は接触要素は、蟻継ぎ結合、インターロッキング特徴部、ピン止めシステム、スナップ嵌合システム、または、これらの組み合わせなどの特定の機構を介して固定具の残りの部分に取り外し可能に接続されてもよい。これは、外科用切断器具の使用を回避する。また、位置決め要素及び/又は接触要素と固定具の残りの部分との間の接続部が標準的な接続特徴部である場合には、位置決め要素を他の外科用固定具で再使用できる。特定の実施形態において、この接続部は、前述したように接続構造体の延出部に設けられる。より特定の実施形態において、位置決め特徴部(接触要素を形成するためにそれ自体が接触面を備えていてもよい)は、蟻継ぎ結合などの標準的な接続特徴部によって窩の縁に嵌合する1つ以上の接触要素を備える固定具の残りの部分に接続される。
【0082】
特定の実施形態において、本発明の外科用固定具は、接触要素または位置決め要素を含まない1つ以上の延出部を固定具上に更に備える。そのような延出部は、それ自体は、骨に対する固定具の嵌合に寄与しないが、外科用固定具に関する外科医の握持力を高めることができてもよく、また、例えば、外科用固定具の位置決め中に外科用固定具の回転動作を容易にしてもよく、あるいは、位置合わせ要素の位置決め後の固定具の除去を容易にしてもよい。回転動作を更に容易にするため、そのような延出部は、スクリュードライブを備えていてもよく、すなわち、スクリュードライバー、六角キー、または、同様のものを用いて延出部(したがって、固定具)を回転させることができるようにする特徴部を備えていてもよい。あるいは、スクリュードライブは、延出部に位置されず、固定具の他の場所に位置される。
【0083】
更なる態様において、本発明は、本明細書中に記載される外科用固定具の製造のための方法を提供する。
【0084】
本発明に係る外科用固定具は、1つ以上の患者固有の接触点及び/又は接触面を備える。また、位置決め要素及び/又は接触要素の相対位置及び/又は方向も患者固有のものである。患者固有の外科用固定具の生成は、考慮中の球関節の窩を取り囲む(軟骨または他の軟組織を伴う或いは伴わない)骨領域(例えば、骨盤骨または肩甲骨)の手術画像と、手術の計画とに基づいて行なわれる。特に、患者固有の外科用固定具の生成は、窩(例えば、臼蓋窩または関節窩)の術前画像と、手術の計画とに基づいて行なわれる。したがって、本発明に係る外科用固定具を形成するための方法は、一般に、以下のステップ、すなわち、
A.窩、例えば臼蓋窩または関節窩の容積情報を患者から得るステップと、
B.患者のための窩インプラントの取り付け方向を得るステップと、
C.位置合わせ要素を挿入するのに適するインプラント域を取り囲む(軟骨または他の軟組織を伴う或いは伴わない)骨の部分を特定して選択するステップと、
D.外科用固定具の接触点及び/又は接触面のためのベースとして使用するのに適するインプラント域内の或いは該インプラント域を取り囲む骨の部分を特定して選択するステップと、
E.ステップA、B、Cで得られた情報に基づいて外科用固定具を設計して形成するステップと、
を含む。
【0085】
窩の容積情報を得るステップは、一般に、デジタルの患者固有の画像情報を得ることを含み、これは、例えばコンピュータ断層撮影(CT)スキャナ、磁気共鳴撮像(MRI)スキャナ、超音波スキャナ、X線写真の組み合わせなどの当該技術分野において知られる任意の適した手段によって行なうことができる。医用撮像の概要は、2002年のケンブリッジ大学出版物のピー スーテンス(P.Suetens)による「Fundamentals of Medical imaging」に記載されている。
【0086】
特定の実施形態では、本発明に係る外科用固定具またはその一部分を製造するために、付加製造(AM)技術が使用される。AM技術は、患者固有の接触面を製造するために、または、外科用固定具を一体部品として形成するために特に有用である。一例として、医用画像に基づく患者固有の外科用器具のAMによる製造は、米国特許第5,768,134号明細書(シュバエレンスら(Swaelens et al))に記載されている。
【0087】
AMは、物体の3次元(3D)コンピュータ支援設計(CAD)データを一般に使用して物体の有形モデルを作るために用いられる一群の技術として定義され得る。現在、ステレオリソグラフィ、選択的レーザ焼結、溶融堆積モデリング、ホイルベース技術などを含む多数の付加製造技術が利用できる。
【0088】
選択的レーザ焼結は、プラスチック、金属、または、セラミック粉末の小粒子を、形成されるべき3次元物体を表わす集合体へと焼結または溶着するために、高出力レーザまたは他の集束熱源を使用する。
【0089】
溶融堆積モデリングおよび関連する技術は、通常は加熱に起因する固体材料から液体状態への一時的な転移を使用する。特に米国特許第5,141,680号明細書に記載されているように、材料は、押し出しノズルを通じて制御された態様で押し進められ、所要の場所に堆積される。
【0090】
ホイルベース技術は、接着または光重合または他の技術を用いて被覆物を互いに固定して、これらの被覆物から物体を切断する或いは物体を重合させる。そのような技術は米国特許第5,192,539号明細書に記載されている。
【0091】
典型的なAM技術は、形成されるべき3D物体のデジタル表示から始まる。一般に、デジタル表示は、物体を全体として形成するべく重ね合わされ得る一連の断面層へとスライスされる。AM機器は、このデータを使用して、1層ずつ物体を形成する。3D物体の層データを表わす断面データは、コンピュータシステム・コンピュータ支援設計製造(CAD/CAM)ソフトウェアを使用して生成されてもよい。
【0092】
本発明に係る外科用固定具は、異なる材料で製造されてもよい。一般に、動物または人の身体と生体適合性がある(例えば、USPクラスVI適合)材料のみが考慮に入れられる。好ましくは、外科用固定具は、該固定具が高温殺菌に耐えることができるようにする耐熱材料から形成される。選択的レーザ焼結がAM技術として使用される場合には、外科用テンプレートが、ドイツのミュンヘンにあるEOSにより提供されるPA2200などのポリアミドから形成されてもよく、あるいは、当業者により知られる任意の他の材料が使用されてもよい。
【0093】
本発明の更なる態様は、本明細書中に記載される外科用固定具を使用するための方法を提供する。特に、本発明は、臼蓋窩または関節窩などの球関節の窩内でインプラントを案内するための方法を提供する。この方法は以下のステップを含んでいる。
1)本明細書中に記載される外科用固定具を、窩、例えば臼蓋窩または関節窩に対して位置決めするステップ。特定の実施形態において、このステップは、外科用固定具の(僅かな)回転動作を伴う。回転動作は、窩に対する固定具の望ましい(術前に計画された)方向を得ることを容易にする;
2)随意的に、外科用固定具を窩に対して固定するステップ。このステップは、1つ以上の固定要素を挿入するための穴を外科用固定具が備える場合にだけ可能である;
3)ピン、ワイヤ、ドリル、または、ネジを窩を取り囲む骨内に挿入するために、外科用固定具の位置決め要素により設けられる穴のうちの1つを使用するステップ;
4)前記外科用固定具を窩から除去するステップ;
5)正確なインプラント方向を得るためにステップ3)のピン、ワイヤ、ドリル、または、ネジを使用するステップ;このインプラント方向は術前計画に従った方向である。
【0094】
特定の実施形態において、ステップ1は、窩の縁にある解剖学的特徴と相互に作用する接触要素が所定位置に嵌まり込むように窩に対して所望の方向を得るために固定具の回転動作を伴う。特定の実施形態において、接触要素の回転動作は、接触要素のアンダーカットまたはフックを解剖学的特徴部に強固に固定できるようにする。特に臼蓋窩上の固定具に関して、固定具の配置は、横靱帯の後部切り欠きに対する装置の接触要素の回転アンダーカットの固定を伴うように想起される。
【0095】
特定の実施形態において、ステップ4は、前記位置決め要素を固定具の残りの部分から、および窩から取り外すことにより、その後にステップ1の回転動作の逆転を可能にして固定具の残りの部分を窩から除去することを含む。特定の実施形態において、これは、位置決め要素の結合特徴部(例えば蟻継ぎ)を解放することによって確保される。別の特定の実施形態において、これは、位置決め要素と固定具の残りの部分との間の接続を破壊することによって確保される。
【0096】
なお、本発明との関連で想起される位置合わせ要素は、視覚位置合わせ要素または物理的位置合わせ要素として使用されてもよい。特定の実施形態において、位置合わせ要素は、ピンまたはワイヤであり、インプラントまたはインプラントガイドを正確な位置で骨へ向けて案内するための物理的位置合わせ要素として使用される。一般に、インプラントまたはインプラントガイドは穴またはスリットを備え、穴またはスリットは、当該インプラントまたはインプラントガイドの穴またはスリットが位置合わせ特徴部と嵌合されるときにそれがインプラント及び/又はインプラントガイドを球関節の窩の所望の位置で直接に案内するように位置される。
【0097】
ここで、本発明の特定の実施形態の以下の非限定的な例示によって本発明を明らかにする。
【実施例】
【0098】
実施例1:複数の接触要素を有する外科用固定具
本発明に係る外科用固定具は複数の接触要素を備えていてもよい。図3Aは、骨盤骨(17)、特に図2Bの骨盤骨の臼蓋窩に位置される本発明の特定の実施形態に係る外科用固定具(1)を示す。図3Bおよび図3Cは、骨上に位置されていない同固定具の2つの図を示す。
【0099】
固定具は、位置決め要素(3)と、それぞれが患者固有の接触面(4)を備える4つの接触要素(2,2’)とを備える。接触面のうちの1つ(4’)は、横靭帯の後部切り欠き(8)に位置合わせするように形成され、それにより、回転アンダーカットと回転ロックとが与えられる。これは、臼蓋窩に対する固定具の正確な位置決めを容易にする。
【0100】
位置決め要素は、接触要素のうちの1つ(2’)と共に単一のユニットを形成し、位置合わせ要素の挿入のための穴(5)と、固定要素の挿入のための穴(6)とを備える。位置合わせ要素の挿入のための穴(5)は、骨盤骨にドリルで穴を開けるために使用されてもよい。したがって、位置決め要素は、ドリルガイド(9)、特にドリル加工シリンダでもある。接触要素(2,2’)のそれぞれは接続構造体(12)から延びる。位置決め要素(3)と接続構造体(12)との間の接続部(11)は、外科用切断器具を用いて位置決め要素を外科用固定具から容易に取り外すことができるように適合される。外科用固定具(1)は、固定具に関する握持力を高めることができるようにする付加的な延出部(10)を更に備える。延出部(10)には、識別コード、例えば患者識別子が更に設けられる。
【0101】
図3Dは、図3A図3Cに示されるものと同様の固定具を示し、この場合、延出部(10)には識別コードが設けられない。
【0102】
実施例2:1つの接触要素を有する外科用固定具
本発明に係る外科用固定具は1つの接触要素のみを備えてもよい。図4Aは、本発明の特定の実施形態に係る、そのような外科用固定具(1)を示す。固定具は、位置決め要素(3)と1つの接触要素(2)とを備える。接触要素は患者固有の接触面(4)を備える。位置決め要素は、接触要素(2)に取り付けられるとともに、位置合わせ要素の挿入のための穴(5)と、固定要素の挿入のための穴(6)とを備える。位置合わせ要素の挿入のための穴(5)は、骨盤骨にドリルで穴を開けるために使用されてもよい。したがって、位置決め要素は、ドリルガイド(9)、特にドリル加工シリンダでもある。位置決め要素(3)と接触要素(2)との間の接続部は、外科用切断器具を用いて位置決め要素を外科用固定具から容易に取り外すことができるように適合される(図示せず)。外科用固定具(1)は、接触要素(2)に位置されて位置決め中に固定具の回転動作を容易にする2つの延出部(10)を更に備える。図4Bは、骨盤骨(17)の臼蓋窩に位置される同固定具(1)を示す。固定具の接触要素の接触面は、180°よりも大きい角度にわたって臼蓋窩を取り囲む。
【0103】
実施例3:回転ロックを与える外科用固定具
図5Aは、骨盤骨(17)、特に図2Bの骨盤骨の臼蓋窩に位置される本発明の特定の実施形態に係る外科用固定具(1)を示す。図5Bおよび図5Cは、骨上に位置されていない同固定具の2つの図を示す。固定具は、位置決め要素(3)と、それぞれが患者固有の接触面(4,4’)を備える4つの接触要素(2,2’)とを備える。各接触要素(2,2’)は接続構造体(12)から延びる。接触面のうちの1つ(4’)は、横靭帯の後部切り欠き(8)に位置合わせするように形成される。特に、接触面(4’)は後部切り欠き(8)を部分的に取り囲むように形成され、それにより、回転アンダーカットと強力な回転ロックとが与えられる。これは、臼蓋窩に対する固定具の正確で安定した位置決めをかなり容易にする。
【0104】
図示の実施形態において、位置決め要素は、接触要素のうちの1つ(2’)と共に単一のユニットを形成し、位置合わせ要素の挿入のための穴(5)と、固定要素の挿入のための穴(6)とを備える。位置合わせ要素の挿入のための穴(5)は、骨盤骨にドリルで穴を開けるために使用されてもよい。したがって、位置決め要素は、ドリルガイド(9)、特にドリル加工シリンダでもある。
【0105】
本実施形態において、位置決め要素(3)と接続構造体(12)との間の接続部(11)は、外科用切断器具を用いて位置決め要素を外科用固定具から容易に取り外すことができるように適合される。位置決め要素(3)と共に単一のユニットを形成する接触要素(2’)は、臼蓋窩縁(7)に嵌合する接触面(4)を有するが、回転ロックを与えない。これは、この接触要素が、取り外された位置決め要素(3)の臼蓋窩からの除去を妨げる可能性があるからである。
【0106】
外科用固定具(1)は、固定具に関する握持力を高めることができるようにする付加的な延出部(10)を更に備える。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C