(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133326
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】実質的に等比率の一酸化炭素および水素を含有するガス混合物の生成方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/38 20060101AFI20170515BHJP
C23C 8/22 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
C01B3/38
C23C8/22
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-550742(P2014-550742)
(86)(22)【出願日】2012年12月13日
(65)【公表番号】特表2015-509070(P2015-509070A)
(43)【公表日】2015年3月26日
(86)【国際出願番号】FR2012052927
(87)【国際公開番号】WO2013102714
(87)【国際公開日】20130711
【審査請求日】2015年10月2日
(31)【優先権主張番号】1250164
(32)【優先日】2012年1月6日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】ドメルグ、ディディエ
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−060235(JP,A)
【文献】
特開2001−214255(JP,A)
【文献】
特開2003−342709(JP,A)
【文献】
特表2012−511633(JP,A)
【文献】
特開平10−237618(JP,A)
【文献】
特開2001−354403(JP,A)
【文献】
特開2012−046359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00−3/58
C23C 8/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部品の熱処理用の雰囲気を熱処理炉内で生成する方法であって、それによって、処理サイクルの少なくとも1つの段階または熱処理炉の少なくとも1つの区域に、COガスおよびメタノールを含む混合物を導入し、メタノールは微細液滴または蒸気の形態にあり、COとメタノールとの間の反応を前記熱処理炉の内部で起こし、以下の反応に従って水素とCOとの混合物を生成させ:
CH3OH+CO→2CO+2H2
前記COは、前記導入に先立って、CO発生装置内で炭化水素または炭化水素の混合物とCO2との反応によって得られ、
前記CO発生装置からのCOガスを、前記熱処理炉内に注入する前に、熱交換器におけるメタノールとの熱交換によって前記メタノールが前記熱処理炉に到達する前に冷却し、したがって前記導入は、熱交換中に冷却されたCOの注入および加熱されたメタノールの注入を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記導入を、温度が720℃を超える、処理サイクルの1段階または熱処理炉の1区域において行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記導入を、温度が750℃〜1120℃の範囲内にある、処理サイクルの1段階または熱処理炉の1区域において行うことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理炉内のカーボンポテンシャルを、CO発生装置に注入される混合物の炭化水素/CO2比を考慮することによって調節することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は金属部品の熱処理の分野に関する。
【0002】
本発明の目的の1つは、金属部品の熱または熱化学処理用の炉内に注入される雰囲気を供給するための新たな方法を提案することである。
【0003】
本発明によって包含される雰囲気は、第1に、希釈された場合に部品の脱炭および酸化を回避することと、第2に、希釈されない場合に炭素部品の富化能力があること(浸炭および浸炭窒化方法)とを可能にしなければならない。最後に、経済的で、安全で、取扱い容易な条件下でこのような雰囲気を製造することが可能でなければならない。
【0004】
上の基準を満たす熱処理雰囲気は一般に、それらの主成分として、上述の処理に関して中立的役割を果たす窒素、酸化に抗して保護する水素、および、酸化と脱炭の両方に抗して保護し、必要であれば、炭素富化(浸炭)をもたらすことを可能にし得る一酸化炭素を含有する。これらの雰囲気は、少量成分、たとえばCO
2および水またはメタンも含有する。雰囲気は、化学的平衡に影響を与えるために、炭化水素(天然ガス、プロパン等)で富化してもよい。
【0005】
このような雰囲気を製造するために現在用いられている従来の方法は、下に引用する方法を含み、これらは当業者に周知である。
【0006】
まず第1に、これらの雰囲気は、「吸熱式発生装置」として知られているものによって製造してもよい。これらの発生装置は、空気と燃料(一般に天然ガス)との間の反応であって、約1000℃の温度まで加熱された触媒反応器内で生じる反応により、雰囲気を製造する。このタイプの雰囲気は典型的に、その主成分として、40%の窒素(N2)、40%の水素(H2)、および20%の一酸化炭素(CO)を含有する。吸熱式発生装置によって製造される雰囲気は周知であり、長年使用されてきたが、使用者が専用の製造機に投資する必要があるという欠点を有する。さらに、吸熱式発生装置の使用は、多くの場合、ほとんど順応性がないことが明らかになっている。製造能力は一般に、実際の需要に適合させることが困難であり、このような場合には、実際の必要量よりも多くのフローを絶えず製造する必要がある。さらに、混合物の各種成分のレベルが、触媒反応器内で生じる反応により決まる。窒素で希釈することによりそのH
2およびCOのレベルを下げること(「内部希釈」として一般に知られる方法)は依然として可能であるけれども、COおよびH
2のレベルをそれぞれ20%および40%を超えて上昇させるのは工業的に実現可能ではない。これは、主成分のレベルを上昇させるためには、窒素を損なって酸素レベルを上昇させることが必要であり、これは安全性および材料耐性の問題を引き起こすからである。
【0007】
別の周知の製造方法は、「インサイチュー」または「合成雰囲気」と呼ばれている。なぜなら、外部発生装置の介在なしに、様々な必要なガス成分の混合物を炉内に直接注入し、これらの成分が互いに「インサイチュー」で、炉の温度に適合した領域で反応することによって、雰囲気が得られるからである。これらの雰囲気は特に、窒素/メタノール混合物を含む。メタノールは最も一般的に、熱処理炉内に挿入されたステムを使用して、メタノールを微細液滴の形態で噴霧してそれを炉内に押し入れる、窒素ガスの環状流を使用するキャピラリーチューブによって注入される。典型的には900℃になり得る炉内の温度のために、メタノール分子はクラッキングし、以下の反応に基づいてCOおよびH
2を生成する:
CH
3OH−−>CO+2H
2。
【0008】
こうして生成される混合物は、COの2倍の水素を含有する。したがって、窒素およびメタノールから生成される雰囲気は、吸熱式発生装置によって製造されるものと同一の雰囲気を合成することを可能にする。窒素とメタノールとの比に応じて、よりH
2およびCOに富んだ雰囲気を得ることも可能である。これらの雰囲気は特に、浸炭処理をより迅速に行うことを可能にするであろう。
【0009】
nCH
3OH+mN
2→nCO+2nH
2+mN
2
この場合、COレベルは、典型的には最終混合物の10〜27%で変化する。
【0010】
窒素供給を省くために、純メタノール、または一滴ずつ他の有機液体と混合したメタノールをクラッキングすることが提案されており、この場合にはCOレベルが33%まで上昇するが、この方法は工業上まれであり、というのはそれが大量の煤を発生させ、炭素富化の観点から制御困難であるためであることに注目すべきである。
【0011】
発生装置雰囲気または合成雰囲気であるガス雰囲気中で行われる浸炭または浸炭窒化処理の場合、処理速度は、雰囲気と部品の表面領域との間の炭素移行速度、すなわち炭素フローΦ
Cと関係付けられ、Φ
Cは次のとおり表現することができる:
Φ
C=β(PC−C
S)
式中、
C
Sは処理される部品の炭素量を表し、PCは雰囲気のカーボンポテンシャル(無限の時間にわたって雰囲気に曝露される鉄箔のレベルとして定義される)を表し、βは炭素移行係数であり、これはCOおよびH2レベルの積に比例する。
【0012】
カーボンポテンシャルは、平衡化した雰囲気を仮定して、以下の関係式を用いて計算することができる:
【数1】
【0013】
したがって、カーボンポテンシャルは、部品と雰囲気との間で生じ得る平衡に特徴的であり、係数βはその平衡を満たし得る速度を特徴付ける。
【0014】
このため、生産性を増加させようとする場合には、COおよびH
2レベルを上昇させ、カーボンポテンシャルおよび炭素移行係数βを通して炭素フローを最大化することに明らかな利点がある。
【0015】
とりわけ、50%のCOおよび50%のH2を含有する(したがって比が1の)雰囲気は、炭素移行係数βを最大化するであろう。
【0016】
これは、窒素が一般に推進ガスとして使用されるけれども、これをCOに置き換えて、50/50に近いCOおよびH2の最終混合物を得ることが可能なためである(nおよびmは各々1に等しい)。
【0017】
nCH3OH+mCO→(n+m)CO+2nH2
式中 n=m=1
CH3OH+CO→2CO+2H2
しかし、CO分子の高毒性のため、1本のシリンダーまたは一連のシリンダーに収容したCOを用いる実施のコストおよび困難さが、この解決策を魅力のないものにしている。
【0018】
したがって、本発明は、金属部品の熱処理のための雰囲気を提供する新たな方法を提案する。以下において詳細にわかるように、この方法は次のとおり要約できるであろう:
−発生装置内で炭化水素(複数の炭化水素)とCO
2との混合物から(典型的には数バールの圧力で)COを生成させ、炭化水素は、たとえばC
2H
2、C
2H
4、C
3H
6等、またはこのようなガスの混合物でありうる。
【0019】
ここで追求される目的は、この炭化水素が炭素を生成し、その結果、以下の反応に従ってこの炭素をCO
2によって消費してCOを生成できることである:
C
xH
y→xC+y/2H
2 (1)
および
C+CO
2→2CO (2)
反応器内の温度は650℃〜850℃の範囲内であり、CO
2との煤燃焼反応はかなり発熱性(175Kジュール/モル)なので、大きなアルミナ表面積で足りることが知られている。したがって、触媒の使用は必要ない。
【0020】
アセチレンの炭化水素としての使用は、クラッキングが発熱性であるため、有益であることに注目すべきである。結果として、反応器の温度を維持することは、よりエネルギー消費的でない。
【0021】
アセチレンを使用する場合、1Nm
3/hの雰囲気を生成するのに要するフローは、0.117Nm
3/hのC
2H
2および0.234Nm
3/hのCO
2である。
【0022】
−こうして生成したCOを、次に、たとえば既に上で述べた周知の技術を用いて、CO/CH
3OHの組を熱処理炉に注入することによって、メタノールと外部で結合させ、通常のインサイチュー反応を行う。
【0023】
したがって、本発明は、金属部品の熱処理用の雰囲気を炉内で生成する方法に関し、それによって、処理サイクルの少なくとも1つの段階または熱処理炉の少なくとも1つの区域に、COガスおよびメタノールを含む混合物を導入し、メタノールは微細液滴または蒸気の形態にあり、COとメタノールとの間の反応を炉の内部で起こし、以下の反応に従って水素とCOとの混合物を生成させ:
CH
3OH+CO→2CO+2H2
前記COは、前記導入に先立って、CO発生装置内で炭化水素または炭化水素の混合物とCO
2との反応によって得られている。
【0024】
CO/メタノール混合物は、好ましくは、処理サイクルの1段階または熱処理炉の1区域(その温度は720℃を超え、さらにより好ましくは750℃〜1120℃の範囲内にある)において導入される。
【0025】
本発明を実施する一方法によれば、CO発生装置からのCOガスを炉内に注入する前に、熱交換器内におけるメタノールとの熱交換によって前記メタノールが炉に到達する前に冷却し、したがって流体の前記導入は、熱交換中に冷却されたCOの注入および加熱されたメタノールの注入を含む。
【0026】
これは、反応器の出口において、ガスの冷却がその組成を固定させることを可能にするためである。
【0027】
にもかかわらず、より複雑でない熱交換手段、たとえば従来の水冷を想定することができる。
【0028】
反応器の出口においてガスを冷却せず、注入系を経由して炉内にこれを直接注入することもできる。
【0029】
本発明を実施する別の方法によれば、炉内のカーボンポテンシャルの調節を、CO発生装置内に注入される炭化水素/CO
2比を考慮することによって行う。
【0030】
したがって、例示すると、炉あたり1つの発生装置の場合、炉のカーボンポテンシャルは、CO発生装置に注入されるCO
2/C
xH
y比によって有利に調整されるであろう。ポテンシャルが高すぎる場合、C
xH
yフローを減少させるかまたはCO
2フローを増加させ、それが低すぎる場合、炭化水素フローを増加させるかまたはCO
2フローを減少させる。この調整は直接炉内部で行うこともできるであろうが、それは一連の追加のガスを伴うより労力のかかる実施を要するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明を実施する一方法に従って熱処理雰囲気を製造するための設備の部分概略図を表す。
【0032】
本発明は、添付の
図1(唯一の図面)を読み取ると、よりよく理解されるであろう。
図1は、本発明を実施する一方法に従って熱処理雰囲気を製造するための設備の部分概略図を表す。この図は以下の要素を示す:
−参照番号1は必要な雰囲気を供給すべき熱処理炉を示し、参照番号2は、たとえば、インサイチュー窒素/メタノール生成において従来使用されているものと同じタイプの注入ステムを示す。
【0033】
−発生装置3は、CO
2ガスのソースを用いてCO(そのフローはユニット5を経由して調節される)を、炭化水素ガスのソースを用いて、たとえばアセチレン(そのフローはユニット5を経由して調節される)を供給される;
−したがって、発生装置3の出口でCOが回収され、その温度は典型的には[700〜950]℃の範囲内である;
−COを炉の注入ステムへ送る前に、交換器4内で「高温」COとメタノールとの間で熱交換を行い、COの温度を典型的には[100〜250]℃の範囲に下げ、一方で同じ操作によりメタノールの温度を典型的には200℃まで上げる。
【0034】
−したがって、注入ステム2へ送るのは、この「冷却」COおよびこの「加熱」メタノールである。
以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]金属部品の熱処理用の雰囲気を炉(1)内で生成する方法であって、それによって、処理サイクルの少なくとも1つの段階または熱処理炉の少なくとも1つの区域に、COガスおよびメタノールを含む混合物を導入し、メタノールは微細液滴または蒸気の形態にあり、COとメタノールとの間の反応を炉の内部で起こし、以下の反応に従って水素とCOとの混合物を生成させ:
CH3OH+CO→2CO+2H2
前記COは、前記導入に先立って、CO発生装置内で炭化水素または炭化水素の混合物とCO2との反応(3)によって得られている方法。
[2]前記導入を、温度が720℃を超え、さらにより好ましくは750℃〜1120℃の範囲内にある、処理サイクルの1段階または熱処理炉の1区域において行うことを特徴とする[1]に記載の方法。
[3]CO発生装置からのCOガスを、炉内に注入される前に、熱交換器(4)におけるメタノールとの熱交換によって前記メタノールが炉に到達する前に冷却し、したがって流体の前記導入は、熱交換中に冷却されたCOの注入および加熱されたメタノールの注入を含むことを特徴とする[1]または[2]に記載の方法。
[4]炉内のカーボンポテンシャルを、CO発生装置に注入される混合物の炭化水素/CO2比を考慮することによって調節することを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の方法。