特許第6133339号(P6133339)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133339
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】モータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/10 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
   H02K5/10 Z
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-16000(P2015-16000)
(22)【出願日】2015年1月29日
(65)【公開番号】特開2016-144227(P2016-144227A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2016年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】昭和 秀明
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 大吾
(72)【発明者】
【氏名】近藤 尚之
【審査官】 森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−210787(JP,A)
【文献】 特開2006−187145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/00−5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部と、
前記ベース部の一方側に位置し、コイルを有するステータと、
前記ベース部の前記一方側に位置し、前記ステータに対して回転するロータと、
前記ベース部の他方側に位置し、前記コイルの引出線に接続される回路基板と、を備え、
前記ベース部には前記コイルの引出線を前記一方側から前記他方側へと通す引出孔が設けられ、
前記引出線の一部を引出孔内で固定する第1の接着剤と、
前記第1の接着剤と異なる、前記引出孔を密封するとともに前記引出線を固定する第2の接着剤と、を備える、
ことを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記第1の接着剤の硬化速度は、前記第2の接着剤の硬化速度よりも速いことを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記第2の接着剤の接着強度は、前記第1の接着剤の接着強度よりも高いことを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ。
【請求項4】
前記第1の接着剤が紫外線硬化型接着剤であり、前記第2の接着剤が熱硬化型接着剤であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項5】
前記引出孔の内周壁には絶縁材が設けられ、
前記引出線は、その一部が前記第1の接着剤により前記絶縁材に固定されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに1項に記載のモータ。
【請求項6】
ベース部と、
前記ベース部の一方側に位置し、コイルを有するステータと、
前記ベース部の前記一方側に位置し、前記ステータに対して回転するロータと、
前記ベース部の他方側に位置する回路基板と、を備え、
前記ベース部には前記コイルの引出線を前記一方側から前記他方側へと通して前記回路基板に接続させる引出孔が設けられたモータの製造方法であって、
前記回路基板に接続された前記引出線の一部を前記引出孔の内周壁から離間した状態で、第1の接着剤により固定する仮固定工程と、
前記ベース部、前記ステータおよび前記回路基板を含むユニットを洗浄するユニット洗浄工程と、
前記引出孔を第2の接着剤で密封することにより前記仮固定工程にて固定された前記引出線の他の部分を固定する本固定工程と、を備え、
前記ユニット洗浄工程は、前記仮固定工程と前記本固定工程の間に行われる工程である、
ことを特徴とするモータの製造方法。
【請求項7】
前記第1の接着剤が紫外線硬化型接着剤であり、前記第2の接着剤が熱硬化型接着剤であることを特徴とする請求項6に記載のモータの製造方法。
【請求項8】
前記引出孔の内周壁には絶縁材が設けられ、
前記仮固定工程では、前記回路基板に接続された前記引出線の一部を前記絶縁材に固定することを特徴とする請求項6または7に記載のモータの製造方法。
【請求項9】
前記ユニット洗浄工程は、前記ユニットを液体に浸漬して超音波振動を与えることにより洗浄する工程であることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載のモータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク駆動装置等の電子機器が異物の侵入によって故障することがあるため、電子機器に使用されるモータには、モータ内への異物等の侵入を防止することが求められている。そこで、モータ内への異物等の侵入を防止する様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ベースの引出孔と回路基板の貫通孔とを紫外線硬化型接着剤で封止し、続けてベースの上面側へはみだした紫外線硬化型接着剤を熱硬化型接着剤で覆うことにより、貫通孔の密封度を高めて異物等の侵入を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−187145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モータでは、外部からの異物等の侵入を防止するのみならず、その製造段階においても、モータの部材に洗浄等を行って内部への異物等の混入を防止する必要がある。しかしながら特許文献1に記載の技術では、ベースに形成された引出孔を紫外線硬化型接着剤で封止した後、続けて熱硬化型接着剤を塗布し硬化させており、熱硬化型接着剤を硬化させた後で洗浄を行うと、洗浄による振動の影響により、接着剤(紫外線硬化型接着剤や回路基板を接着する接着剤等)の劣化やクラックの発生につながるおそれがある。したがって引出孔の密封性が低下してしまうおそれがあった。一方、先に洗浄等を行ってから、紫外線硬化型接着剤および熱硬化型接着剤を塗布し硬化させることも考えられるが、この場合、コイルからの引出線が洗浄の際に生じる振動によって引出孔内で振動し、引出線が断線するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、コイルの引出線の断線を防止しつつベースの引出孔を好適に封止することができるモータおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点に係るモータは、
ベース部と、
前記ベース部の一方側に位置し、コイルを有するステータと、
前記ベース部の前記一方側に位置し、前記ステータに対して回転するロータと、
前記ベース部の他方側に位置し、前記コイルの引出線に接続される回路基板と、を備え、
前記ベース部には前記コイルの引出線を前記一方側から前記他方側へと通す引出孔が設けられ、
前記引出線の一部を引出孔内で固定する第1の接着剤と、
前記第1の接着剤と異なる、前記引出孔を密封するとともに前記引出線を固定する第2の接着剤と、を備える、
ことを特徴とする。
【0008】
前記第1の接着剤の硬化速度は、前記第2の接着剤の硬化速度よりも速くてもよい。
【0009】
前記第2の接着剤の接着強度は、前記第1の接着剤の接着強度よりも高くてもよい。
【0010】
前記第1の接着剤が紫外線硬化型接着剤であり、前記第2の接着剤が熱硬化型接着剤であってもよい。
【0011】
前記引出孔の内周壁には絶縁材が設けられ、
前記引出線は、その一部が前記第1の接着剤により前記絶縁材に固定されてもよい。
【0012】
本発明の第2の観点に係るモータの製造方法は、
ベース部と、
前記ベース部の一方側に位置し、コイルを有するステータと、
前記ベース部の前記一方側に位置し、前記ステータに対して回転するロータと、
前記ベース部の他方側に位置する回路基板と、を備え、
前記ベース部には前記コイルの引出線を前記一方側から前記他方側へと通して前記回路基板に接続させる引出孔が設けられたモータの製造方法であって、
前記回路基板に接続された前記引出線の一部を前記引出孔の内周壁から離間した状態で、第1の接着剤により固定する仮固定工程と、
前記ベース部、前記ステータおよび前記回路基板を含むユニットを洗浄するユニット洗浄工程と、
前記引出孔を第2の接着剤で密封することにより前記仮固定工程にて固定された前記引出線の他の部分を固定する本固定工程と、を備え、
前記ユニット洗浄工程は、前記仮固定工程と前記本固定工程の間に行われる工程である、
ことを特徴とする。
【0013】
前記第1の接着剤が紫外線硬化型接着剤であり、前記第2の接着剤が熱硬化型接着剤であってもよい。
【0014】
前記引出孔の内周壁には絶縁材が設けられ、
前記仮固定工程では、前記回路基板に接続された前記引出線の一部を前記絶縁材に固定してもよい。
【0015】
前記ユニット洗浄工程は、前記ユニットを液体に浸漬して超音波振動を与えることにより洗浄する工程であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コイルの引出線の断線を防止しつつベースの引出孔を好適に封止することができるモータおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態に係るスピンドルモータの断面図である。
図2】ベース下面に設けられた回路基板を示す平面図である。
図3】スピンドルモータの製造工程の一部を示す工程図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係るスピンドルモータの製造工程の一部を示す工程図である。
図5】第2の実施形態の変形例に係るスピンドルモータの製造工程の一部を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態に係るスピンドルモータを、図面を参照して説明する。このスピンドルモータ100は、コンピュータに使用される磁気ディスクや光ディスク等のディスクを備えたデータ記憶装置の駆動源として使用されるものである。なお、本実施形態ではスピンドルモータを例に説明するが、特に限定するわけではなく、種々のモータについて本発明を適用することができる。
【0019】
(第1の実施形態)
本発明の第1実施形態に係るスピンドルモータ100は、図1に示すように、アウターロータ型のスピンドルモータとして構成されている。スピンドルモータ100は、例えば、図示しないハードディスク駆動装置(HDD:Hard Disk Drive)の磁気ディスクを回転させるものである。
【0020】
スピンドルモータ100は、図1に示すように、ロータ10と、ステータ20と、スリーブ30と、磁気吸引板40と、ベース部50と、回路基板60と、を備える。
なお、図1は、スピンドルモータ100の断面図である。以下ではスピンドルモータ100の構成の理解を容易にするため、特に断りがない場合は図1における上下方向に対応させて「上」、「下」という用語を用いて説明する。
【0021】
ロータ10は、ステータ20に対して軸線Aを中心に回転するものであり、シャフト11と、ロータハブ12と、マグネット13と、を有する。
【0022】
シャフト11は、ロータ10の回転軸であり、軸線Aに沿った略円柱状に形成されている。シャフト11は、流体動圧を利用した軸受機構(図示せず)を介して、スリーブ30に軸線Aを中心に回転可能に支持されている。
【0023】
ロータハブ12は、マグネット13を保持するものであり、下側に開口した有底筒状に形成されている。ロータハブ12は、例えばステンレス鋼で形成されている。ロータハブ12の中央部には、シャフト11が圧入や接着等の手法により固定されている。これにより、ロータハブ12は、シャフト11と共に回転する。また、ロータハブ12の内周面には、マグネット13が固定されている。
【0024】
マグネット13は、軸線Aを中心として環状に形成され、その周方向に沿ってN極とS極とが交互に着磁された構造を有する。
【0025】
ステータ20は、コア21と、コア21に巻き回されるコイル22と、を有する。
コア21は、板状の磁性材料が上下方向に複数積層されて構成されている。コア21は、軸線Aを中心として略円環状に形成され、その円周方向に沿って配列されると共に外径方向に突出した複数の櫛歯を有する。コア21は、ベース部50に固定され、マグネット13の内周面と隙間を空けて対向する位置に配置されている。
【0026】
コア21には、コイル22が三相巻線で巻き回される。コイル22の端はベース部50の下側へ引き出され、引出線Lを構成している。引出線Lは、短絡を防止するため、先端を除いて表面が絶縁膜で被覆されている。
【0027】
スリーブ30は、軸線Aを中心に略円筒状に形成され、その内部でシャフト11を回転可能に支持するものである。
【0028】
磁気吸引板40は、磁性材料により形成され、マグネット13の下方に位置する。磁気吸引板40は、ロータ10の浮上位置を安定させるためにマグネット13を引きつける磁気吸引力を発生させる。
【0029】
ベース部50は、ステータ20と磁気吸引板40を上側で固定し、保持するものである。ベース部50は、例えばアルミニウム合金からなり、ハードディスク駆動装置のハウジングの一部として構成される。ベース部50は、上下方向においてロータハブ12と対向し、且つ、軸線Aを中心とした径方向に広がって形成されている。
【0030】
ベース部50には、スリーブ30が取り付けられるスリーブ取付孔50aが形成されている。スリーブ取付孔50aは、ベース部50を底面51(下面)から軸線A方向に貫通する。スリーブ取付孔50aには、スリーブ30が挿入されて接着剤等の手段により固定される。なお、スリーブ取付孔50aの下端内周には、カウンタープレート31が所定の方法により固定され、これによりスリーブ30の下端側が閉塞される。
【0031】
また、ベース部50には、底面51から上方に向かって凹む凹部52が形成されている。凹部52は、回路基板60の配設スペースを確保するために設けられ、その内部に回路基板60が接着層63(図3参照)によって固定されている。
【0032】
回路基板60は、例えばFPC(Flexible Printed Circuits)からなり、コイル22と電気的に接続される。この回路基板60を介して、図示しない駆動回路からコイル22に駆動電流が供給される。駆動電流がコイル22に供給されると、ステータ20の磁極(コア21の櫛歯とコイル22により構成される)とマグネット13の磁極との間に相互作用が生じ、ステータ20に対してロータ10が回転する。このようにしてスピンドルモータ100は動作する。
例えばハードディスク駆動装置では、スピンドルモータ100のロータハブ12に所定方法で磁気ディスクが固定されており、スピンドルモータ100の動力で磁気ディスクを回転させる。
【0033】
回路基板60には、図2に示すように、上述の駆動回路に接続され、コイル22に駆動電流を供給するパッド部61が設けられている。また、回路基板60には、パッド部61から離れた位置に、パッド部61に接続する引出線Lを引き出すための貫通孔H6が形成されている。一方、ベース部50には、図1に示すように、コイル22の直下に引出孔H5が形成されている。回路基板60の貫通孔H6は、この引出孔H5と平面的に重なるように設けられている。回路基板60の貫通孔H6とベース部50の引出孔H5には、ベース部50上面側のコイル22から伸びる引出線Lが通されている。引出線Lは、コイル22の三相巻線の端部がひとまとめに束ねられた配線やU、V、W相の各々に対応した3本の配線を含む4本の配線である。各配線の先端は、図2に示すように、ベース部50の底面51側の回路基板60のパッド部61に配線毎に半田付けされている。なお、図2に示す例では、4本の配線を含む引出線Lのうち1本の配線が、対応するパッド部61に半田付けされている例を示している。パッド部61は、各配線に対応して設けられている。
【0034】
回路基板60の貫通孔H6とベース部50の引出孔H5は、組立段階においてコイル22の引出線Lを容易に挿入することができるように、コイル22の引出線Lよりも大きい径に形成されている。貫通孔H6および引出孔H5には、引出線Lが通された状態で、引出線Lとの間に空間が形成される。このため、引出線Lがパッド部61に半田付けされた後に超音波洗浄が行われると、引出線Lが振動により貫通孔H6および引出孔H5の内部で動いてしまう。その結果、引出線Lが断線するおそれがある。また、引出線Lが引出孔H5のエッジにあたり引出線Lの被覆が破損して短絡するおそれがある。そこで、引出線Lの断線や短絡を防止するため、超音波洗浄を行う前の段階で、図1に示すように、引出線Lとベース部50の引出孔H5の内周壁との間に後述する第1の接着剤70を塗布して、引出線Lと引出孔H5の内周壁とを第1の接着剤70により接着する。なお、この接着は、後述するようにスピンドルモータ100の組立時における仮固定に相当する。
【0035】
第1の接着剤70には、引出線Lを簡易に接着することが可能な接着剤が用いられている。第1の接着剤70は、後述する第2の接着剤80よりも硬化速度が速く、好ましくは紫外線硬化型接着剤である。第1の接着剤70が紫外線硬化型接着剤であれば、紫外線の照射により短時間で硬化させることができ、スピンドルモータ100の生産性を高めることができるからである。本実施形態の第1の接着剤70では紫外線硬化型接着剤が用いられているが、硬化速度が速ければ特に限定されるわけではない。例えば、光硬化型接着剤や、瞬間接着剤等、後述する第2の接着剤80よりも硬化速度が速ければ種々の接着剤を用いることができる。紫外線硬化型接着剤には、例えば、アクリル系樹脂を主成分とする絶縁性の接着剤が用いられる。しかしながら、アクリル系樹脂に特に限定するわけではなく、例えばエポキシ系樹脂であってもよいし、ポリイミド系樹脂、ポリベンゾオキサザール系樹脂等を用いてもよい。
【0036】
第1の接着剤70は、引出線Lとベース部50の引出孔H5の内周壁の間を繋ぐように用いられる(図3(B)参照)。引出孔H5内では、短絡を防止するため、引出線Lが引出孔H5の内周壁から離れた位置を通っている。第1の接着剤70は、この引出線Lの一部と引出孔H5の内周壁の一部との間に塗布され硬化される。これにより、引出線Lの断線や短絡を防止する。なお、引出線Lが引出孔H5の内周壁の一部に固定されるように第1の接着剤70が塗布されるのであれば、第1の接着剤70が塗布される引出線Lの部分は、引出孔H5内に位置する引出線Lの部分に限られない。例えば、引出孔H5外側にある引出線Lの一部と引出孔H5の内周壁との間を繋ぐように第1の接着剤70が塗布されてもよい。図1に戻り、引出線Lは、引出線Lの第1の接着剤70で接着された部分と異なる他の部分がさらに第2の接着剤80によって接着されている。
【0037】
第2の接着剤80は、回路基板60の貫通孔H6内とベース部50の引出孔H5内に充填するように塗布され、貫通孔H6および引出孔H5を密封している。第2の接着剤80は、貫通孔H6および引出孔H5の内側で硬化され、引出線Lが第1の接着剤70で接着された状態のまま、引出線Lを貫通孔H6内および引出孔H5内で固定している。第2の接着剤80による引出線Lの固定は、後述するようにスピンドルモータ100の組立時における本固定に相当する。
【0038】
第2の接着剤80は、ベース部50の下面側にも用いられ、図2に示すように、ベース部50の下面側に引き出された引出線Lと、回路基板60の貫通孔H6と、パッド部61と、半田62と、を覆っている。第2の接着剤80は、ベース部50の下面側の引出線Lや半田62等を保護する。なお、上述したように、図2に示す例では、4本の配線を含む引出線Lのうち1本の配線が、対応するパッド部61に半田付けされている例を示している。図示は省略しているが、第2の接着剤80は、回路基板60の貫通孔H6と、各配線に対応して設けられたパッド部61および半田62と、を覆っている。また、図示する例では引出孔H5および貫通孔H6が1つ設けられている例を示しているが、引出孔H5および貫通孔H6は、それぞれ対応して複数設けられていてもよい。この場合、第2の接着剤80は、全ての引出孔H5および貫通孔H6を密封するよう塗布されればよい。
【0039】
第2の接着剤80には引出線Lを強固に接着することが可能な、第1の接着剤70と異なる接着剤が用いられている。第2の接着剤80の強度は、第1の接着剤70の強度よりも高く、その耐久性も第1の接着剤70の耐久性よりも高い。第2の接着剤80は、好ましくは熱硬化型接着剤である。第2の接着剤80が熱硬化型接着剤であれば、引出孔H5などの光が入り込みにくい箇所でも完全に硬化することができ、引出線Lの固定において高い強度と耐久性を実現することができるからである。また、引出孔H5等の密封性を高めることもできるからである。第2の接着剤80には、例えば、エポキシ系樹脂を主成分とする絶縁性の接着剤が用いられるが、特に限定するわけではない。例えば、フェノール系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、レゾルシノール系樹脂、キシレン系樹脂、フラン系樹脂などのメチロール系樹脂、及びポリエステル系樹脂など種々の接着剤を用いることができる。
【0040】
次に、コイル22の引出線Lの固定方法について説明する。まず、ベース部50に、コア21およびコイル22を取り付け、ベース部50の下面の凹部52に、回路基板60を貼り付ける。これにより、ベース部50、コア21、コイル22および回路基板60で構成されるユニット(以下、単にユニットと呼ぶ)が組み立てられる。
【0041】
次に、図3(A)に示すように、ベース部50の引出孔H5と回路基板60の貫通孔H6に通された引出線Lの先端を回路基板60のパッド部61に半田付けする。
【0042】
次に、図3(B)に示すように、引出線Lとベース部50の引出孔H5の内周壁とを第1の接着剤70で接着して仮固定する。具体的には、引出孔H5の内周壁と引出線Lの一部の側面とを繋ぐように第1の接着剤70を塗布し、続けて第1の接着剤70を硬化させることにより、引出線Lを引出孔H5内で仮固定する。第1の接着剤70が紫外線硬化型接着剤である場合、引出孔H5内に紫外線を照射することにより第1の接着剤70を硬化させる。なお、図示する例では、引出孔H5の内周壁と引出線Lの側面の一部とを繋ぐように第1の接着剤70を塗布したが、引出線Lの一部であれば、第1の接着剤70の塗布は側面のみでなくてもよい。また、上述したように、引出線Lが引出孔H5の内周壁の一部に固定されるように第1の接着剤70が塗布されるのであれば、第1の接着剤70が塗布される引出線Lの部分は、引出孔H5内に位置する引出線Lの部分に限られない。
【0043】
次に、引出線Lが仮固定されたユニットを液体に浸漬し、超音波振動を与えユニットを洗浄する(超音波洗浄)。これにより、ユニットに付着した異物を除去する。なお、引出線Lを仮固定してから超音波洗浄を行うため、振動により貫通孔H6および引出孔H5の内部で引出線Lが動いてしまうことを抑制し、引出線Lの断線や短絡を防止することができる。
【0044】
次に、図3(C)に示すように、第2の接着剤80で引出孔H5を密封し、引出線Lを引出孔H5内に本固定する。具体的には、ベース部50の引出孔H5および回路基板60の貫通孔H6を密封するように第2の接着剤80を充填する。このとき、引出孔H5の内部を貫通する空間や気泡が残らないようにする。また、ベース部50の下面側に引き出された引出線Lと回路基板60のパッド部61とを覆うように、第2の接着剤80を塗布する。その後、第2の接着剤80を硬化させる。第2の接着剤80が熱硬化型接着剤である場合、第2の接着剤80を塗布したユニットを高温の恒温槽に保管することにより、第2の接着剤80を硬化させる。以上の工程により、コイル22の引出線Lの固定が終了する。なお、本実施形態では引出線Lの固定後に例えばロータ10等の他の部材を組み付けているが、他の部材を組み付けてから引出線Lを固定しても良い。
【0045】
以上のように、第1の実施形態に係るスピンドルモータ100では、コイル22から伸びる引出線Lを、ベース部50の引出孔H5と回路基板60の貫通孔H6とに通し、回路基板60のパッド部61に接続している。そして、超音波洗浄前に、引出線Lの一部と引出孔H5の内周壁とを第1の接着剤70で接着することにより、引出線Lを引出孔H5内に仮固定している。このため、超音波洗浄で引出線Lが振動して、断線(完全断線または半断線)したり短絡したりすることを防止することができる。また、超音波洗浄のほか、組立中のスピンドルモータ100に振動や衝撃が加わる仮固定後の工程(例えば、搬送工程)でも、引出線Lの断線や短絡を防止することができる。
【0046】
また、スピンドルモータ100では、超音波洗浄後に、引出孔H5を第2の接着剤80で密封して、引出線Lを引出孔H5内に本固定している。このため、本固定で用いた第2の接着剤80に対して超音波振動が与えられることがなく、第2の接着剤80にクラック等が発生することがない。このように、第1の実施形態に係るスピンドルモータ100では、第2の接着剤80の密封性や接着性の低下を防止し、ベース部50の引出孔H5を好適に封止することができる。
【0047】
ベース部50の引出孔H5内では、第1の接着剤70により、引出線Lが引出孔H5の内周壁から離れた位置で仮固定されている。第1の接着剤70は絶縁性を有するため、引出線Lを仮固定した後の製造工程で、引出線Lの短絡を防止することができる。
【0048】
第1の接着剤70が紫外線硬化型接着剤である場合、容易に接着剤を硬化することができるので、スピンドルモータ100の生産性を高めることができる。また、第2の接着剤80が熱硬化型接着剤である場合、接着剤の強度と耐久性を高めることができるので、スピンドルモータ100の品質および信頼性を高めることができる。
【0049】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係るスピンドルモータ100は、ベース部50の引出孔H5の内周壁に絶縁材90が設けられている。以下、第1の実施形態と異なる構成について説明する。
【0050】
絶縁材90は樹脂等の絶縁材で形成されている。絶縁材90は、図4(C)に示すように、円筒部91と、円筒部91の上端側から円筒の径方向に張り出すフランジ部92と、を有している。絶縁材90の円筒部91は、引出孔H5に嵌入され、円筒部91の外周壁と引出孔H5の内周壁とが固着している。円筒部91の長さは引出孔H5の長さよりも短く、円筒部91の先端は引出孔H5内に位置している。円筒部91の内周は、下方に向かうに従ってやや小さくなり、下面側の内径は回路基板60の貫通孔H6とほぼ同じ径である。円筒部91にはコイル22の引出線Lが通され、円筒部91の開口は引出線Lの引出口93として機能している。円筒部91の内側では、引出線Lが内周壁に第1の接着剤70によって接着されることで仮固定され、これにより、引出線Lの動きが抑制されている。第1の接着剤70は引出線Lの断線や短絡を防止する。
【0051】
円筒部91内は、そのほぼ下半分が第2の接着剤80で充填されている。第2の接着剤80は、円筒部91内のほか、引出孔H5および貫通孔H6内にも充填されている。第2の接着剤80がベース部50の下面側に設けられることは第1の実施形態と同様である。第2の接着剤80は、貫通孔H6および引出孔H5内を密封し、引出線Lを本固定する。
【0052】
次に、第2の実施形態におけるコイル22の引出線Lの固定方法について説明する。まず、第1の実施形態と同様に、ベース部50、コア21、コイル22および回路基板60で構成されるユニットを組み立てる。第2の実施形態では、絶縁材90のフランジ部92がベース部50の上面に接触するように、絶縁材90の円筒部91をベース部50の引出孔H5に挿入し、その絶縁材90が挿入されたベース部50を用いてユニットを組み立てる。
【0053】
次に、図4(A)に示すように、コイル22の引出線Lを絶縁材90の円筒部91に通し、回路基板60の貫通孔H6から引き出す。引出線Lの先端を回路基板60のパッド部61に半田付けする。
【0054】
次に、図4(B)に示すように、引出線Lの一部と絶縁材90の内周壁とを第1の接着剤70で接着することにより、引出線Lを引出孔H5内で仮固定する。具体的には、絶縁材90の内周壁に第1の接着剤70を塗布し、引出線Lの一部を第1の接着剤70に接触させる。続けて第1の接着剤70を硬化させる。これにより、引出線Lを仮固定する。なお、図示する例では、引出線Lを絶縁材90の内周壁から離間した位置で仮固定させた例を示しているが、引出線Lと絶縁材90とを接触させた状態で仮固定させてもよい。
【0055】
次に、第1の実施形態と同様に、引出線Lが仮固定されたユニットを液体に浸漬し、超音波振動を与えて洗浄する(超音波洗浄)。
【0056】
次に、図4(C)に示すように、第2の接着剤80で引出線Lを本固定する。第2の実施形態では、絶縁材90の円筒部91の、引出線Lが仮固定された位置よりも下側の空間が第2の接着剤80で充填されるように、第2の接着剤80を塗布する。ベース部50の下面側の塗布は第1の実施形態と同様である。続けて、第2の接着剤80を硬化させる。これにより、引出線Lを引出孔H5内に本固定する。以上の工程により、コイル22の引出線Lの固定が終了する。
【0057】
以上のように、第2の実施形態に係るスピンドルモータ100では、ベース部50の引出孔H5に絶縁材90を挿入し、コイル22から伸びる引出線Lを絶縁材90の引出口93に通している。そして、超音波洗浄前に、引出線Lの一部を絶縁材90に第1の接着剤70で接着することにより、引出線Lを引出孔H5内に仮固定している。第2の実施形態に係るスピンドルモータ100は、第1の実施形態と同様に、仮固定後の超音波洗浄等で、引出線Lの断線や短絡を防止することができる。
【0058】
第2の実施形態では、超音波洗浄後に、絶縁材90の円筒部91と引出孔H5とを第2の接着剤80で密封して引出線Lを引出孔H5内に本固定している。このため、超音波振動で第2の接着剤80の密着性や接着性が低下することがない。第2の実施形態でもベース部50の引出孔H5を好適に封止することができる。
【0059】
引出線Lは、絶縁材90を介してベース部50に固定される。このため、引出孔H5内の引出線Lの絶縁性が高められ、引出線Lの短絡を好適に防止することができる。また、絶縁材90の円筒部91の内周は下方に向かうに従ってやや小さくなっているので、引出線Lを上方から容易に挿入することができ、上方から仮固定を容易にすることができる。絶縁材90の円筒部91の上方またはフランジ部92で引出線Lを仮固定することにより、ベース部50よりも上方で仮固定することもできる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態等によって限定されるものではない。例えば、上記第2の実施形態では、絶縁材90が円筒部91を有する円筒形状である例を示したが、絶縁材90は、コイル22の引出線Lが挿通可能な引出口を有する限り、その形状は問われない。
【0061】
例えば、図5に示すように、絶縁材90は、漏斗状の引出口93を有するシート状の絶縁シムであってもよい。この場合、絶縁シムの引出口93がベース部50の引出孔H5と重なるように、絶縁シムをベース部50に取り付けて、ユニットを組み立てる。そして、コイル22の引出線Lを絶縁シムの引出口93に通し、引出線Lの先端を回路基板60のパッド部61に半田付けする(図5(A)参照)。その後、引出線Lの一部を絶縁シムの漏斗部分の上面壁に第1の接着剤70で接着することにより、引出線Lを仮固定する(図5(B)参照)。その後上記の実施形態と同様に、洗浄して第2の接着剤80で引出孔H5を密封し、引出線Lを引出孔H5内に本固定する(図5(C)参照)。このように絶縁シムを用いた場合も、仮固定によって引出線Lの動きが抑制され、引出線Lの断線や短絡を防止することができる。
なお、この場合、引出線Lの仮固定は、絶縁材90(絶縁シム)に加え、さらに第1の実施形態と同様にして引出孔H5の内周壁においても行われてもよい。
【0062】
また、上記第2の実施形態では、図4に示すように、絶縁材90が円筒部91とフランジ部92とを有した円筒形状である例を示したが、絶縁材90は、引出孔H5内の図4で示す右側のみ、などといったように、引出線Lを第1の接着剤70で仮固定する側にのみ設けられてもよい。
【0063】
上記第1および第2の実施形態では、回路基板60に貫通孔H6が形成され、この貫通孔H6にコイル22の引出線Lが通されていたが、本発明はこれに限定されない。本発明では、少なくともベース部50に引出孔H5が形成されていればよい。例えば、回路基板60に貫通孔H6が形成されなくてもよい。この場合、回路基板60がベース部50の引出孔H5を塞がないように、回路基板60をベース部50の引出孔H5から離れた位置に設ければよい。この場合においても、引出線Lをベース部50の下面に引き出すことができる。
【0064】
上記第1および第2の実施形態では、第2の接着剤80が引出孔H5内の大部分を満たすように、第2の接着剤80を塗布していたが、本発明はこれに限定されない。本発明では、引出線Lの第1の接着剤70で固定された部分以外の部分が固定され、かつ引出孔H5が密封されれば、第2の接着剤80により引出孔H5内の大部分を満たさなくてもよい。第2の接着剤80は、ベース部50の引出孔H5の内部を貫通する空間が残らないように引出孔H5に充填されればよい。なお、第2の接着剤80で固定される部分は、仮固定において第1の接着剤70にて固定された引出線Lの部分を含んでいてもよいし、当該部分を含まなくてもよい。
【0065】
上記第1および第2の実施形態では、ユニットを超音波洗浄していたが、本発明はこれに限定されない。本発明におけるユニットの洗浄には、例えば、洗浄液にユニットを浸漬して洗浄するディップ洗浄が含まれる。このような洗浄であっても、例えば、洗浄液が攪拌された場合に、その振動による引出線Lの断線や短絡を防止することができる。また、このような洗浄後に引出線Lを本固定すれば、洗浄による第2の接着剤80の密着性等が低下せず、ベース部50の引出孔H5を好適に封止することができる。
【0066】
上記第1および第2の実施形態では、4本の配線を含む引出線Lをまとめて仮固定する例を示したが、これは一例である。例えば、4本の配線それぞれを個別に第1の接着剤70にて引出孔H5の内部のそれぞれの位置に接着してもよい。また、4本の配線のうちから2本ずつ組み合わせて接着してもよい。なお、組み合わせは任意であってよい。これによれば、各配線をそれぞれ固定するため、引出線L全体の強度を向上させることができる。また、ベース部50の引出孔H5を小さくすることができるので、ベース部50の強度の低下を防ぐことができる。
【0067】
以上の説明では、本発明の理解を容易にするために、公知の技術的事項の説明を適宜省略した。
【符号の説明】
【0068】
100…スピンドルモータ
10…ロータ
11…シャフト
12…ロータハブ
13…マグネット
20…ステータ
21…コア
22…コイル
30…スリーブ
31…カウンタープレート
50…ベース部
51…底面
52…凹部
H5…引出孔
60…回路基板
61…パッド部
62…半田
63…接着層
H6…貫通孔
70…第1の接着剤
80…第2の接着剤
90…絶縁材
91…円筒部
92…フランジ部
93…引出口
L…引出線
図1
図2
図3
図4
図5