(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ブレーキロータと、摩擦材と、この摩擦材を前記ブレーキロータと接触させる摩擦材操作手段と、この摩擦材操作手段を駆動する電動モータと、この電動モータのモータ回転角を推定する回転角推定手段と、ブレーキ力を推定するブレーキ力推定手段と、目標ブレーキ力となるように前記電動モータによりブレーキ力を制御する制御装置とを備える電動ブレーキ装置において、
前記ブレーキ力推定手段は、
前記摩擦材、前記摩擦材操作手段、または前記摩擦材もしくは摩擦材操作手段を支持する部材のいずれかに作用する荷重または変位対応量を検出するブレーキ力センサの出力に基づいて前記ブレーキ力を推定する直接推定手段と、前記ブレーキ力センサの出力以外の情報を元にブレーキ力を推測する間接推定手段とを有し、
前記直接推定手段により前記ブレーキ力を推定する範囲が、定められた低ブレーキ力の範囲であり、この範囲を超過する範囲では、前記間接推定手段によりブレーキ力の推定を行う、
ことを特徴とする電動ブレーキ装置。
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記間接推定手段が、前記モータ回転角と前記ブレーキ力との定められた関係を用い、前記回転角推定手段により検出されるモータ回転角に基づいてブレーキ力を推定する電動ブレーキ装置。
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記間接推定手段が、前記電動モータのモータ電流と前記ブレーキ力との定められた関係を用い、電流センサによるモータ電流の検出値に基づいてブレーキ力を推定する電動ブレーキ装置。
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電動ブレーキ装置において、前記ブレーキ力センサが、前記摩擦材と前記ブレーキロータとの接触力による、前記摩擦材、摩擦材操作手段、または前記摩擦材および摩擦材操作手段を支持する部材のいずれかの変形量を検出する電動ブレーキ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、車両用ブレーキは、例えば通常0.2G以下程度の減速度で使用されることが多く、その際にドライバは車両の挙動に合わせてペダル等を操作し細かくブレーキの制御を行っているため、ブレーキ力センサにおいてはドライバに違和感を抱かせないために十分な検出精度が求められる。一方、大きな車両減速度が必要となる急制動時においては、一般にドライバがフィーリングに合わせてペダルを細かく制御するようなケースは稀であり、ブレーキ力センサの検出精度は比較的粗くとも問題ないと考えられる。
【0005】
また、前記ブレーキ力を推定する手段として、前記各特許文献のような、直動機構の軸方向荷重を検出するブレーキ荷重センサが比較的安価に構成できるため有用であり、その場合、電動ブレーキ装置は摩擦材とブレーキロータの押圧力を制御する。その際、摩擦材とブレーキロータの摩擦係数はその温度によって変化し、例えば高速走行時から激しい制動を繰り返す場合などにおいて、摩擦係数が1/3程度になる場合があることが知られている(フェード現象)。よって、前記ブレーキ荷重センサにはフェード状態を想定した押圧力を検出する広いダイナミックレンジが求められるが、その結果として、フェードが発生しない常用域において十分な分解能を得ることが困難となる場合がある。
【0006】
前記の通り、ブレーキ力センサを比較的頻度の低い状況を想定した広いダイナミックレンジに設定すると、常用域において十分な分解能を得るために高精度な荷重センサを構成する必要が生じ、高コストとなる恐れがある。
【0007】
この発明は、上記課題を解消するものであり、広いダイナミックレンジを持ちながら、常用域において十分な分解能を有するブレーキ力推定手段の構成が容易となり、制御精度向上や低コスト化を可能とできる電動ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の電動ブレーキ装置は、ブレーキロータ3と、摩擦材4と、この摩擦材4を前記ブレーキロータ3と接触させる摩擦材操作手段5と、この摩擦材操作手段5を駆動する電動モータ6と、この電動モータ6のモータ回転角を推定する回転角推定手段8aと、ブレーキ力を推定するブレーキ力推定手段16と、目標ブレーキ力となるように前記電動モータ6によりブレーキ力を制御する制御装置2とを備える電動ブレーキ装置において、
前記ブレーキ力推定手段16は、
前記摩擦材4、前記摩擦材操作手段5、または前記摩擦材4もしくは摩擦材操作手段5のいずれかを支持する部材7のいずれかに作用する荷重対応量を検出するブレーキ力センサ19の出
力に基づいて前記ブレーキ
力を推定する直接推定手段17と、前記ブレーキ力センサ19の出力以外の情報を元にブレーキ力を推測する間接推定手段18とを有し、
前記直接推定手段17により前記ブレーキ力を推定する範囲が、定められた低ブレーキ力の範囲であり、この範囲を超過する範囲では、前記間接推定手段18によりブレーキ力の推定を行う、
ことを特徴とする。
なお、この明細書で、前記「荷重または変位対応量」とは、荷重および変位の他、歪などの荷重または変位に換算できる物理量を含む意味である。
【0009】
この構成によると、ブレーキ力推定手段16が、ブレーキ力によって発生する荷重または変位対応量を検出するブレーキ力センサ19を用いた直接推定手段17と、間接推定手段18とを有し、直接推定手段17は、定められた低ブレーキ力の範囲の検出を行えれば良いため、前記
ブレーキ力センサ19として高精度な検出が行えるものが安価に得られる。直接推定手段17の推定範囲を超過する範囲では、前記間接推定手段18によりブレーキ力の推定を行えば良い。前記直接推定手段17の推定範囲を超過するような大きなブレーキ力を与える場合は、ドライバがフィーリングに合わせてペダルを細かく制御するようなケースは稀であり、ブレーキ力センサ19の検出精度は比較的粗くとも問題ない。そのため、荷重または変位対応量を検出するブレーキ力センサ19は不要であり、モータ回転角やモータ電流等からでも推定が行える。
そのため、例えばフェード状態を想定した押圧力を検出できるような、広いダイナミックレンジを持ちながら、常用域において十分な分解能を有するブレーキ力推定手段16の構成が容易となり、制御精度向上や低コスト化を可能とできる。
【0010】
この発明において、前記間接推定手段18が、前記モータ回転角と前記ブレーキ力との定められた関係を用い、前記回転角推定手段8aにより検出されるモータ回転角に基づいてブレーキ力を推定する構成であっても良い。
摩擦材4を動作させる電動モータ6のモータ回転角とブレーキ力とは、ある程度定まった関係があるため、その関係を試験やシミュレーション等で求めおくことで、モータ回転角に基づいてブレーキ力を推定することができる。モータ回転角を検出する回転角センサ等の回転角推定手段8aは、モータ制御のために一般的に電動モータ6に付随して設けられるため、その回転角推定手段8aを用いれば良い。そのため、前記間接推定手段18が簡単な構成で得られる。
【0011】
この発明において、前記間接推定手段18が、前記電動モータ6のモータ電流と前記ブレーキ力との定められた関係を用い、電流センサ8bによるモータ電流を検出値に基づいてブレーキ力を推定する構成であっても良い。
摩擦材4を動作させる電動モータ6のモータ電流と回転角とブレーキ力とは、ある程度定まった関係があるため、その関係を試験やシミュレーション等で求めおくことで、モータ電流に基づいてブレーキ力を推定することができる。電流センサ8bは簡単な構成で安価なものが多くあり、それを用いれば良い。そのため、この構成の場合も、前記間接推定手段18が簡単な構成で得られる。
【0012】
この発明において、前記直接推定手段17の用いるブレーキ力センサ19が、前記摩擦材4と前記ブレーキロータ3との接触力による、前記摩擦材4、または摩擦材操作手段5、または前記摩擦材4もしくは摩擦材操作手段5を支持する部材7のいずれかの変形量を検出するものであっても良い。
摩擦材4とブレーキロータ3との接触力により、電動ブレーキ装置の各部に弾性変形が生じる。前記ブレーキ力センサ19は、そのような弾性変形を検出する。変形を検出するブレーキ力センサ19のセンサ素子19aは、検出できる範囲が限られたものであれば、高精度な検出をできるものが種々存在する。そのような
センサ素子19aを用いることで、ブレーキ力を高精度に検出できる直接推定手段17が安価に製造できる。
【0013】
この発明において
、前記直接推定手段17により推定され
たブレーキ力と、前記電動モータ6のモータ回転角およびモータ電流との少なくとも何れか一つ以上との関係に基づいて、前記間接推定手段18の校正を行う校正手段20を有するようにしても良い。
経年変化等により、モータ回転角やモータ電流等とブレーキ力との関係が変化することがある。そのため、前記校正手段20を設けて前記間接推定手段18の校正を行うことで、前記間接推定手段18のブレーキ力の推定精度を常に維持することができる。前記校正手段20は、この電動ブレーキ装置を作動させて前記直接推定手段17により検出したブレーキ力を用いて校正を行うため、精度良く校正することができ、また直接推定手段17と間接推定手段18の推定ブレーキ力の乖離も回避できる。
【0014】
前記校正手段20を設けた場合に、この電動ブレーキ装置を搭載した車両の車速が所定値以下のときに、前記車両の操縦者の指示によらず電動モータ6を作動させ、前記校正手段20に基づき前記間接推定手段18の校正を行うようにしても良い。
校正のための電動ブレーキ装置の作動を、車両の車速が所定値以下のときに行うようにした場合、走行の障害を生じさせずに安全に校正が行える。
【発明の効果】
【0015】
この発明の電動ブレーキ装置は、ブレーキロータと、摩擦材と、この摩擦材を前記ブレーキロータと接触させる摩擦材操作手段と、この摩擦材操作手段を駆動する電動モータと、この電動モータのモータ回転角を推定する回転角推定手段と、ブレーキ力を推定するブレーキ力推定手段と、目標ブレーキ力となるように前記電動モータによりブレーキ力を制御する制御装置とを備える電動ブレーキ装置において、前記ブレーキ力推定手段は、前記摩擦材、前記摩擦材操作手段、または前記摩擦材もしくは摩擦材操作手段を支持する部材のいずれかに作用する荷重または変位対応量を検出するブレーキ力センサの出
力に基づいて前記ブレーキ
力を推定する直接推定手段と、前記
ブレーキ力センサの出力以外の情報を元にブレーキ力を推測する間接推定手段とを有し、前記直接推定手段により前記ブレーキ力を推定する範囲が、定められた低ブレーキ力の範囲であり、この範囲を超過する範囲では、前記間接推定手段によりブレーキ力の推定を行うため、押圧力を検出できる広いダイナミックレンジを持ちながら、常用域において十分な分解能を有するブレーキ力推定手段の構成が容易となり、制御精度向上や低コスト化を可能とできる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。この電動ブレーキ装置は、電動ブレーキアクチュエータ1と、この電動ブレーキアクチュエータ1を制御する制御装置2と、
図8に一例を示すブレーキロータ3と、このブレーキロータ3を挟んで配置された一対の摩擦材4,4とを備える。摩擦材4は摩擦バッドからなる。ブレーキロータ3は、この例ではブレーキディスクからなり、車輪(図示せず)と一体に回転する。ブレーキロータ3は、ブレーキドラムであっても良い。電動ブレーキアクチュエータ1は、摩擦材4をブレーキロータ3と接触させる摩擦材操作手段5と、この摩擦材操作手段5を駆動する電動モータ6とを備える。電動モータ6は、3相の同期モータまたは誘導モータ等の交流モータ、または直流モータ等からなる。
【0018】
摩擦材操作手段5は、電動モータ6から減速機構を介して入力される回転入力を、片方の摩擦材4の往復直線運動に変換する直動機構等で構成され、キャリパポディ7におけるブレーキロータ3を挟む一方の対向部7aに設置されている。摩擦材操作手段5の先端に一方の摩擦材4が取付けられ、他方の摩擦材4はキャリパポディ7の他方の対向部7bに取付けられている。キャリパポディ7は、車輪を支持するナックル(図示せず)に固定されたマウント(図示せず)に対して、ブレーキロータ3の軸方向に移動可能に設置されている。同図の電動ブレーキアクチュエータ1の具体的な構造例は、後に
図9と共に説明する。
【0019】
図1において、電動モータ6には、モータ用センサ8の一つとして、モータ回転角を推定する回転角センサ等の回転角推定手段8aと、電流センサ8bとが設けられている。
【0020】
制御装置2は、与えられた目標ブレーキ力となるように、前記電動モータ6によりブレーキ力を制御する装置であり、マイクロコンピュータや電子回路等からなる。前記目標ブレーキ力は、上位ECU11がブレー
キペダル等のブレーキ操作手段12の操作量に応じて各輪の電動ブレーキ装置における制御装置2に分配する。制御装置2は、前記目標ブレーキ力に応じてトルク指令または回転数指令からなる駆動指令を生成する演算制御器13と、この演算制御13から出力された駆動指令をモータ電流に変換して電動モータ6に印加するモータドライバ14とが設けられている。演算制御器13は、ブレーキ力推定手段16の推定値を用いてフィードバック制御する。演算制御器13がベクトル制御する構成である場合は、前記回転角推定手段8aの検出するモータ回転角を用いてモータの効率化を高める制御を行う。モータドライバ14は、例えばPWM制御によってモータ電流を制御する。演算制御器13および演算制御器14は、バッテリ等の電源装置15に接続されている。
【0021】
上記基本構成の制御装置2において、前記ブレーキ力推定手段16が、直接推定手段17と間接推定手段18とで構成されている。
【0022】
前記直接推定手段17は、ブレーキ力センサ19のセンサ素子19aの出力をブレーキ力に変換する手段である。前記直接推定手段17は、ブレーキ力センサ19の出力を所定の相関に基づいて推定ブレーキ力に換算する。ブレーキ力センサ19のセンサ素子19aは、
図9に示すように、前記摩擦材4、前記摩擦材操作手段5、および前記キャリパポディ7等の前記摩擦材4もしくは摩擦材操作手段5を支持する部材のいずれかに設けられている。前記センサ素子19aは、この電動ブレーキ装置の機械的な構成部分のいずれかにおける、ブレーキ力によって変位や、歪等の変形が生じる部分、または荷重が変化する部分に設けられ、その変位、変形、荷重等を検出する手段である。前記センサ素子19aは、例えば、
図8に各種の配置例を同じ図上で併記するように、摩擦材4に設けられて摩擦材4の歪を検出するセンサ素子19a
1、またはキャリパポディ7に設けられてキャリパポディ7の歪を検出するセンサ素子19a
2であっても良く、摩擦材操作手段5を支持する部材の変形による変位を検出するセンサ素子19a
3であっても良い。
【0023】
図1において、間接推定手段18は、ブレーキ力センサ19のセンサ素子19aの出力以外の情報、例えばモータ用センサ8の出力から、ブレーキ力センサ19の検出範囲外のブレーキ力を推定する手段である。モータ用センサ8は、例えばモータ角度センサ等のモータ角度推定手段8a、または電流センサ8b等からなる。
【0024】
すなわち、間接推定手段18は、電動ブレーキ装置の剛性を測定した結果、例えば、モータ回転角と前記ブレーキ力との定められた関係を用い、前記回転角推定手段8aにより検出されるモータ回転角に基づいてブレーキ力を推定する構成とされる。モータ回転角の代わりに、電動モータ6に回転を入力する入力軸の回転角を用いるようにしても良い。前記間接推定手段18は、この他に、電動モータ6の前記モータ電流と前記ブレーキ力との定められた関係を用い、電流センサ8bによるモータ電流の検出値に基づいてブレーキ力を推定する構成であっても良い。
【0025】
前記ブレーキ力推定手段16は、前記直接推定手段17により前記ブレーキ力を推定する範囲は、定められた低ブレーキ力の範囲(例えば乾燥路面では0.3G以下)とされ、この範囲を超過する範囲では、前記間接推定手段18によりブレーキ力の推定を行う構成とされる。
【0026】
間接推定手段18は、予め試験等によって求めた相関に基づいても良く、実際のブレーキ力センサ19とモータセンサ8の出力推移より相関を求めても良い。例えば
図3に示すような、予めモータ角度とブレーキ力の相関に基づくマップ等を用意しても良く、
図3中の前記定められた低ブレーキ力の範囲である設定範囲の上限値F
bmaxの 近傍における勾配から以降の相関を推定しても良い。また、前記の手法を併用しても良い。
【0027】
上記構成の作用を説明する。
図2は、ブレーキ力推定例を示す。同図のセンサレス推定範囲は、間接推定手段18による推定範囲を示す。同図のセンサ素子検出範囲は、直接推定手段17による検出範囲を示す。
図1のブレーキ力推定手段16は、ブレーキ力センサ19の出力による検出する直接推定手段17と、ブレーキ力センサ19を用いない間接推定手段18とを備えており、その双方を用いて全ブレーキ力領域の推定を行う。
領域全てをブレーキ力センサ19の出力で検出する場合と比較して、
図2の例によるブレーキ力センサ19のセンサ素子19aのダイナミックレンジは小さくて良い。一般に、電動ブレーキ装置のようなサーボ制御系にはマイコンやFPGA(Field-Programmable Gate Array )のようDSP(Digital Signal Processor)を演算に用いる場合が多く、その場合にA/D変換器の分解能が検出分解能に等しくなるため、
図2の例のほうがブレーキ力センサ19の分解能を高くすることができる。
また、上記の場合においてセンサの分解能が同等以上であれば十分な場合、
図2のように狭い範囲の検出で良い場合、例えばセンサ構成部品の寸法公差やセンサ取付誤差を緩和・許容することができ、コスト低減が可能となる。
【0028】
図3,
図4は、各モータ特性とブレーキ力との相関の例を示す。
図3は、モータ回転角とブレーキ力との相関に基づく例を示す。この相関、すなわち電動ブレーキ装置の剛性は、実装前に予め測定することができる。もしくは、前記定められた低いブレーキ力の範囲の上限値である設定範囲上限値F
bmaxに到達する前のモータ角度に対するブレーキ力の勾配から以降の剛性を推測し、演算しても良い。
図中の設定範囲上限値F
bmaxまではブレーキ力センサ19(
図1参照)により検出し、それ以降は間接推定手段18(
図1参照)により、
図3の相関に基づいたLUT(ルックアップテーブル)や演算式を用いて推定し、所望のモータ回転角に到達するようモータを制御する。
この時、主に摩擦材4(
図8参照)の非線形剛性により、一般にブレーキ力が低い領域ほど強い非線形を示し、この領域の剛性は摩擦材4の摩耗状態や温度等に依存して大きく変化する。よって、推定の難しい低ブレーキ力領域はブレーキ力センサ19を用いて高精度に推定し、比較的推定し易い高ブレーキ力領域は間接推定手段18によるモータ角度等からの推定によって補うという、合理的な構成をとることができる。
【0029】
図4は、モータトルクとブレーキ力との相関に基づく例を示す。この相関すなわち電動ブレーキ装置のトルク変換係数は、実装前に予め測定することができる。もしくは、設定範囲上限値F
bmaxに到達する前のモータトルクに対するブレーキ力の勾配から推測しても良い。
図中の設定範囲上限値F
bmaxまではブレーキ力センサ19(
図1参照)により検出し、それ以降は
図4の相関に基づいたLUTや数式を用いて推定し、所望のモータ電流を維持するよう制御する。その際、ブレーキを加圧する場合すなわち正作動時と、ブレーキを減圧する場合すなわち逆作動時において、同図に示すようにヒステリシスを有する特性を考慮する必要がある。例えば、所定のブレーキ力まで加圧する場合、正作動特性において縦軸のブレーキ力に相当する横軸のモータトルクを出力すれば、電動ブレーキ装置のブレーキ力は概ね前記所定のブレーキ力に到達する。
【0030】
この時、主に電動ブレーキアクチュエータ1(
図8参照)における軸受、減速機、直動機構(ねじ、ボールランプ、etc )の摩擦抵抗や、電動モータ6(
図8参照)のコギングトルク等の割合が、モータトルクに対して比較的大きい領域、すなわちブレーキ力およびトルクが低い領域における相関を正確に把握することは難しい。よって、推定の難しい低ブレーキ領域はブレーキ力センサ19を用いて高精度に推定し、比較的推定し易い高ブレーキ領域はモータ回転角やモータ電流等からの間接的な推定により補うという、合理的な構成をとることができる。
【0031】
図5〜
図7は、この実施形態の実装フローの各例を示す。
図5は、ブレーキ力推定値が、設定範囲上限値F
bmaxの超過した場合に、モータ回転角を用いてブレーキ力推定値を補間する例を示す。このとき、設定範囲上限値F
bmaxは、センシングの限界よりわずかに小さい値に設定しておくことが好ましい。
同図の動作を順に説明すると、推定ブレーキ力F
bと設定範囲上限値F
bmaxとを比較し(ステップR1)、略同じである場合は、設定範囲上限値F
bmaxにおけるモータ回転角θ
SWをモータ回転角θとし(ステップR5)、制御演算を行う(ステップR4)。この制御演算における目標値(目標ブレーキ力)はF
rであり、その制御量を推定ブレーキ力F
bとする。
【0032】
ステップR1で、推定ブレーキ力F
bと設定範囲上限値F
bmaxが略同じでない場合、推定ブレーキ力F
bが設定範囲上限値F
bmax以上であるかを判定し、以上でない場合は(ステップR2:no)、前記制御演算(ステップR4)を行う。推定ブレーキ力F
bが設定範囲上限値F
bmax以上である場合は(ステップR2:yes)、推定ブレーキ力F
bを、設定範囲上限値F
bmax+f(θ−θ
SW)とし(ステップR3)、その後、前記の制御演算(ステップR4)を行う。
【0033】
図6は、ブレーキ力推定値が推定範囲を超過した場合、モータ回転角制御に切り替える例を示す。ステップS1において、推定ブレーキ力F
bが設定範囲上限値F
bmax以上であるか否かを判定し、以上である場合は、目標値rをf
θ(F
r)、制御量yをθとし(ただしF
rは目標ブレーキ力)(ステップS2)、制御演算を行う(ステップS3)。この制御演算における目標値はrであり、制御量はyである。ステップS1の判断時に、推定ブレーキ力F
bが設定範囲上限値F
bmax以上でない場合は、目標値rをF
r、制御量yを推定ブレーキ力F
bとし(ステップS4)、前記制御演算(ステップS3)を行う。
【0034】
図7は、ブレーキ力推定値が推定範囲を超過した場合、モータ電流制御に切り替える例を示す。ステップT1において、推定ブレーキ力F
bが設定範囲上限値F
bmax以上であるか否かを判定し、以上である場合は、目標値rをf
c(F
r)とし、制御量yをi
m(i
m:モータ電流、F
r:目標ブレーキ力)(ステップT2)とし、制御演算を行う(ステップT3)。この制御演算における目標値はrであり、制御量はyである。ステップT1の判断時に、推定ブレーキ力F
bが設定範囲上限値F
bmax以上でない場合は、目標値rをF
r、制御量yを推定ブレーキ力F
bとし(ステップT4)、前記制御演算(ステップT3)を行う。
【0035】
この実施形態の電動ブレーキ装置によると、上記のように、常用域において十分な分解能を有するブレーキ力センサの構成が容易となり、制御精度向上や低コスト化を可能とする。
【0036】
上記構成の電動ブレーキ装置において、
図1に示すように、次の校正手段20を設けても良い。この校正手段20は、この電動ブレーキ装置を搭載した車両の車速が所定値(例えば、略停止とみなせる速度、または人が歩行する程度の速度)以下のときに前記電動モータ6を作動させ、この作動を行っている間における、前記直接推定手段17により推定された前記推定ブレーキ力と、前記電動モータ6のモータ回転角および前記電動モータ6のモータ電流との少なくとも何れか一つ以上との関係に基づいて、前記間接推定手段18の校正を行う。
【0037】
摩擦材の摩耗、各部品の摩耗や変形、その他の経年変化等により、モータ回転角やモータ電流等とブレーキ力との関係が変化することがある。そのため、前記校正手段20を設けて前記間接推定手段18の校正を行うことで、前記間接推定手段18のブレーキ力の推定精度を常に維持することができる。前記校正手段20は、この電動ブレーキ装置を作動させて前記直接推定手段17により検出したブレーキ力を用いて校正を行うため、精度良く校正することができ、また直接推定手段17と間接推定手段18の推定ブレーキ力の乖離も回避できる。このとき、校正のための電動ブレーキ装置の作動は、例えば車両が停止している状態などの、車両の車速が所定値以下のときに行うと、走行の障害を生じさせずに安全に校正が行えるため好適である。
【0038】
次に、
図8の電動ブレーキ装置の電動ブレーキアクチュエータ1の具体例を
図9と共に説明する。この例では、その摩擦材操作手段5が、直動機構5aおよび遊星機構形式の減速機械5bを有する。直動機構5aは、回転軸22と、回転軸22の外周の円筒面に転がり接触する複数の遊星ローラ23と、これらの遊星ローラ23を囲むように配置された外輪部材24と、遊星ローラ23を自転可能かつ公転可能に保持するキャリヤ25と、外輪部材24の軸方向後方に配置された磁気式荷重センサからなるブレーキ力センサ19(
図8のブレーキ力センサ19)とを有する。
【0039】
回転軸22は、
図8に示す電動モータ6の回転が
図9の歯車27を介して入力されることにより回転駆動される。回転軸22は、対向部7aを軸方向に貫通して形成された収容孔7aaの軸方向後側の開口から一端が突出した状態で収容孔7aaに挿入され、収容孔7aaからの突出部分に歯車27がスプライン嵌合して回り止めされている。歯車27は、収容孔7aaの軸方向後側の開口を塞ぐようにボルト28で固定した蓋29で覆われている。蓋29には回転軸22を回転可能に支持する軸受30が組み込まれている。
【0040】
遊星ローラ23は、回転軸22の外周の円筒面に転がり接触しており、回転軸22が回転したときに遊星ローラ23と回転軸22の間の摩擦によって遊星ローラ23も回転するようになっている。遊星ローラ23は、周方向に一定の間隔をおいて複数設けられている。
【0041】
外輪部材24は、キャリパボディ17の対向部7aに設けられた収容孔7aa内に収容され、その収容孔7aaの内周で軸方向にスライド可能に支持されている。外輪部材24の軸方向前端には、摩擦材4の背面に形成された係合凸部31に係合する係合凹部32が形成され、この係合凸部31と係合凹部32の係合によって、外輪部材24がキャリパボディ7に対して回り止めされている。
【0042】
外輪部材24の内周には螺旋凸条33が設けられ、遊星ローラ23の外周には、螺旋凸条33に係合する円周溝34が設けられており、遊星ローラ23が回転したときに、外輪部材24の螺旋凸条33が円周溝34に案内されて、外輪部材24が軸方向に移動するようになっている。ここでは遊星ローラ23の外周にリード角が0度の円周溝34を設けているが、円周溝34のかわりに螺旋凸条33と異なるリード角をもつ螺旋溝を設けてもよい。
【0043】
キャリヤ25は、遊星ローラ23を回転可能に支持するキャリヤピン25Aと、その各キャリヤピン25Aの軸方向前端の周方向間隔を一定に保持する環状のキャリヤプレート25Bと、各キャリヤピン25Aの軸方向後端の周方向間隔を一定に保持する環状のキャリヤ本体25Cとからなる。キャリヤプレート25Bとキャリヤ本体25Cは遊星ローラ23を間に軸方向に対向しており、周方向に隣り合う遊星ローラ23の間に配置された連結棒35を介して連結されている。
【0044】
キャリヤ本体25Cは、滑り軸受36を介して回転軸22に支持され、回転軸22に対して相対回転可能となっている。遊星ローラ23とキャリヤ本体25Cの間には、遊星ローラ23の自転がキャリヤ本体25Cに伝達するのを遮断するスラスト軸受37が組み込まれている。
【0045】
各キャリヤピン25Aは、周方向に間隔をおいて配置された複数のキャリヤピン25Aに外接するように装着された縮径リングばね38で径方向内方に付勢されている。この縮径リングばね38の付勢力によって、遊星ローラ23の外周は回転軸22の外周に押さえ付けられ、回転軸22と遊星ローラ23の間の滑りが防止されている。縮径リングばね38の付勢力を遊星ローラ23の軸方向全長にわたって作用させるため、キャリヤピン25Aの両端に縮径リングばね38が設けられている。
【0046】
ブレーキ力センサ19は、磁気式荷重センサであって、荷重入力部材47のフランジ部46の軸方向後方に支持部材43が対向する向きで収容孔7aa内に嵌め込まれている。キャリヤ25とブレーキ力センサ19の間には、キャリヤ25と一体に公転する間座39と、間座39とブレーキ力センサ19のセンサ機構部19cの間で軸方向荷重を伝達するスラスト軸受40とが組み込まれている。スラスト軸受40は、荷重入力部材47のフランジ部46の内径側部分に接触するように設けられており、このスラスト軸受40を介して間座39からフランジ部46の内径側部分に軸方向荷重が入力されるようになっている。荷重入力部材47の円筒部57内に組み込まれた軸受58で、回転軸22が回転可能に支持されている。
【0047】
ブレーキ力センサ19のセンサ機構部19cは、支持部材43の外周縁を、収容孔7aaの内周に装着した止め輪41で係止することによって軸方向後方への移動が規制されている。そして、このブレーキ力センサ19は、間座39とスラスト軸受40とを介してキャリヤ本体25Cを軸方向に支持することで、キャリヤ25の軸方向後方への移動を規制している。また、キャリヤ25は、回転軸22の軸方向前端に装着された止め輪42で軸方向前方への移動も規制されている。したがって、キャリヤ25は、軸方向前方と軸方向後方の移動がいずれも規制され、キャリヤ25に保持された遊星ローラ23も軸方向移動が規制された状態となっている。
【0048】
同図のブレーキ力センサ19は、上記のようにして互いに軸方向に動く部品の一方の部品に永久磁石などのセンサターゲット19bが設けられ、他方の部品に磁気センサからなるセンサ素子19aが設けられ、その軸方向の相対移動量を荷重値として検出する。
【0049】
なお、ブレーキ力センサ19を構成する荷重センサとしては、磁気式の他に、静電容量センサ、リラクタンス検出センサ、光学センサ等を利用したものを用いることも可能である。
【0050】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。