特許第6133493号(P6133493)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6133493SiOx/Si/C複合材料及びその製造方法及び該複合材料を含むリチウムイオン電池用負極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133493
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】SiOx/Si/C複合材料及びその製造方法及び該複合材料を含むリチウムイオン電池用負極
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/113 20060101AFI20170515BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20170515BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20170515BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C01B33/113 A
   H01M4/36 C
   H01M4/36 A
   H01M4/48
   H01M4/38 Z
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-509250(P2016-509250)
(86)(22)【出願日】2013年4月27日
(65)【公表番号】特表2016-522139(P2016-522139A)
(43)【公表日】2016年7月28日
(86)【国際出願番号】CN2013074886
(87)【国際公開番号】WO2014172914
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2015年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】シュエジアオ フェン
(72)【発明者】
【氏名】ジンジュン ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ロンジエ ジョウ
(72)【発明者】
【氏名】ユチアン ドウ
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−225494(JP,A)
【文献】 特開2010−021100(JP,A)
【文献】 特開2011−222151(JP,A)
【文献】 特開2009−205950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO/Si複合粒子と、前記SiO/Si複合粒子上に被覆された炭素被覆層とを有するSiO/Si/C複合材料であって、
0<x≦2であり、及び
前記SiO/Si複合粒子は、2:1〜1.2:1のSi:Oモル比を有する、前記SiO/Si/C複合材料。
【請求項2】
前記SiO/Si複合粒子は、SiO非晶質マトリックス相中に埋め込まれたナノシリコン微結晶を含む、請求項1に記載のSiO/Si/C複合材料。
【請求項3】
前記ナノシリコン微結晶は、1〜50nmの粒径を有する、請求項2に記載のSiO/Si/C複合材料。
【請求項4】
前記炭素被覆層は、2〜15nmの厚さを有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載のSiO/Si/C複合材料。
【請求項5】
前記SiO/Si複合粒子は、10.0μm以下のD50粒径を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載のSiO/Si/C複合材料。
【請求項6】
前記SiO/Si複合粒子は、20.0μm以下のD90粒径を有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載のSiO/Si/C複合材料。
【請求項7】
前記SiO/Si複合粒子は、0.1μm以上のD10粒径を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載のSiO/Si/C複合材料。
【請求項8】
SiO/Si/C(式中、0<x≦2である)複合材料の製造方法であって、
a)SiO粉末を金属還元剤と共に、1.25:1〜10:1のモル比で粉砕するステップ、
b)前記金属還元剤の酸化生成物を完全に除去して、2:1〜1.2:1のSi:Oモル比を有するSiO/Si複合粒子を得るステップ、
c)前記SiO/Si複合粒子を炭素で被覆して前記SiO/Si/C複合材料を得るステップ、
を含む、SiO/Si/C複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記金属還元剤は、Mg、Al、Zn、Li及びこれらの組み合わせからなる群より選択される請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップa)の間、前記SiO粉末は、予め0〜15時間、高エネルギーボールミル粉砕プロセスにより粉砕され、さらに3〜20時間、前記金属還元剤と共に粉砕される請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップc)は化学気相成長又は熱分解により行われ、2〜15nmの厚さを有する炭素被覆層を得る、請求項8から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記化学気相成長又は熱分解は、トルエン、アセチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、クエン酸、グルコース、ピッチ及びこれらの組み合わせから選択される前駆体又は炭素源を使用することにより行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から7までのいずれか1項に記載のSiO/Si/C複合材料を含む、リチウムイオン電池用の負極。
【請求項14】
請求項13に記載の負極を含むリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiO/Si/C複合材料の製造方法に関する。特に、本発明は、リチウムイオン電池の負極用のSiO/Si/C複合材料の製造方法に関する。また、本発明は、前記方法により製造されたSiO/Si/C複合材料及びリチウムイオン電池におけるその使用に関する。また、本発明は更に、複合材料及びSiO/Si/C複合材料の製造におけるその使用に関する。
【0002】
背景技術
リチウムイオン電池(LIB)は、携帯電子デバイス、例えば携帯電話及びノート型コンピューターのユビキタス電源として広く使用される。黒鉛は、充電式リチウムイオン電池において、最も広く使用される負極材料である。しかし、黒鉛のエネルギー密度は比較的低い、すなわち372mAhg-1に過ぎない。さらに、リチウムイオン電池のエネルギー密度を向上させるために、研究者はその高いリチウム貯蔵容量を有するシリコン系負極材料に注目している。しかし、これらの材料の主な問題は、リチウムの吸蔵/放出中の巨大な体積変化により生じる電極の粉状化及び電子伝導率の損失である。このような問題を解決するため、ナノサイズの多孔質構造の材料が選択され、リチウムとの合金化に関連する体積膨張を緩和し、それによって電極の機械的な不具合を解消する。研究及び探索されたSi系負極材料の中で、一酸化ケイ素(SiO)はその長いサイクル寿命及び低コストのために特に有望視される。SiOの優れたサイクル性能は、酸化リチウム及びケイ酸リチウムが形成され、バッファ層として機能して充放電時の体積変化を最小にすることに由来する。
【0003】
4000mAhg-1のリチオ化の場合に体積膨張が400%であるシリコンと比較して、SiOの体積膨張は、約2600mAhg-1の電気化学的リチオ化の場合に約200%である。リチオ化中のSiOの体積膨張は酸化リチウム(Li2O)及びケイ酸リチウム(Li4SiO4)を形成することにより抑制されるため、シリコンのサイクル性能よりも高いSiOのサイクル性能を容易に達成できた。そして、実用化のためには、現在の正極材料に対して、1000〜1500mAhg-1の負極容量で十分である。従って、多くの研究グループは、リチウムイオン電池の負極としてのSiO材料(例えば、1)Jae−Hun Kimらは、SiOのボールミル粉砕及びその後の熱分解プロセスによって製造した一酸化ケイ素/炭素複合材料を報告した)に注目している。この複合材料は100サイクルを超えても、710mAhg-1の可逆容量を示す(Kim,J.−H.ら Enhanced cycle performance of SiO−C composite anode for lithium−ion batteries。Journal of Power Sources,2007.170(2):p.456−459を参照);2)Wei−Ren Liuらは、流動床化学蒸着プロセスによりサブミクロンのSiO粒子の炭素被覆は50サイクル後に620mAhg-1の容量を示すことを報告した(Liu,W.−R.ら Nano−porous SiO/Si/Carbon composite anode for lithium−ion batteries参照。Journal of Applied Electrochemistry,2009.39(9):p.1643−1649);及び3)Jung−In Leeらは、多孔質一酸化ケイ素、多孔質一酸化ケイ素の不均化反応により生じるシリコン及びシリカからなるシリコン系多成分複合材料を報告した。この複合材料は、100回のサイクル寿命で1500mAhg-1の可逆容量を示す。
【0004】
市販の非晶質固体SiOは、気体状SiOの凝縮により高温でSi及びSiO2から技術的に製造されることは周知である。多くの物理的及び化学的研究が行われたにも関わらず、固体SiOの原子構造についてはまだ議論されている。また、上記の従来技術は、SiO系材料の製造プロセスの間の不均化反応のためSiO2の形成が不可避であることを開示する。SiO2はリチウムイオンに対して不活性であるため、固体SiO材料中でSiO2が形成されると材料の容量を著しく劣化させる。従って、SiO2は、負極容量への容量の寄与をしない。さらに、SiO2は、負極容量の主要な貢献物であるシリコンの含量を減少させる。
【0005】
従って、SiO/Si/C複合材料中のSi:Oの原子比を調節することにより、大きな容量を示し、かつリチオプロセス中に形成されるLi2O及びLi4SiO4の含量を減少させる、容易かつコスト効率の高いSiO/Si/C材料の製造方法が必要である。
【0006】
発明の概要
本発明において、本発明者らは、粉砕中の一酸化ケイ素(SiO)と還元剤の間の部分還元反応により、少量の高い可逆容量ナノシリコンを一酸化ケイ素中に埋め込むことを試みた。結果として、SiO材料のSi:O比が上昇する。すなわち、粉砕プロセス中の還元反応により酸素含量が減少する。
【0007】
従って、得られるSiO/Si複合材料の容量は、従来技術の結果による容量よりも大きい。また、リチオ化プロセス中に形成されるLi2O及びLi4SiO4含量を制御でき、それによって制御できる能力原価で体積緩和効果を最大化する。従って、本明細書では、SiO/Si複合粒子及び前記SiO/Si複合粒子上に被覆された炭素被覆層を有し、0<x≦2であり、前記SiO/Si複合粒子は3:1〜1.1:1、好ましくは2:1〜1.2:1のSi:Oモル比を有する、SiO/Si/C複合材料を提供する。
【0008】
本発明の一実施形態では、前記SiO/Si複合粒子は、非晶質SiOマトリックス相中に埋め込まれたナノシリコン微結晶を含む。
【0009】
本発明の別の実施形態では、前記SiO/Si複合粒子は、10.0μm以下、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは2.0μm以下であり、さらに好ましくは1.1μm以下のD50粒径を有する。
【0010】
本発明の更に別の実施形態では、前記SiO/Si複合粒子は、20.0μm以下、好ましくは11.1μm以下のD90粒径を有する。
【0011】
本発明の更に別の実施形態では、前記SiO/Si複合粒子は、0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上のD10粒径を有する。
【0012】
また、SiO/Si/C(式中、0<x≦2である)複合材料の製造方法であって、
a)SiO粉末を金属還元剤と共に、1.25:1〜10:1、好ましくは2:1〜5:1のモル比で粉砕するステップ、
b)前記金属還元剤の酸化生成物を完全に除去してSiO/Si複合粒子を得るステップ、
c)前記SiO/Si複合粒子を炭素で被覆して前記SiO/Si/C複合材料を得るステップ、
を含む、SiO/Si/C複合材料の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の一実施形態では、前記金属還元剤はMg、Al、Zn、Li及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0014】
また、前記方法により製造されるSiO/Si/C複合材料が提供される。
【0015】
また、前記SiO/Si/C複合材料を含むリチウムイオン電池用の負極が提供される。
【0016】
また、前記負極を含むリチウムイオン電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明に係るSiO/Si/C複合材料の概略構造を示す。
図2図2は、本発明の一実施形態に係るSiO/Si/C複合材料のSEM画像を示す。
図3A図3Aは、本発明の一実施形態に係るSiO/Si複合材料のTEM画像を示す。
図3B図3Bは、本発明の一実施形態に係るSiO/Si複合材料のTEM画像を示す。
図4図4は、本発明の一実施形態に係るSiO/Si複合材料の粒度分布を示す。
図5図5は、25時間、ボールミル粉砕された一酸化ケイ素(下)及び本発明の一実施形態に係るSiO/Si複合材料(上)のXRDプロファイルを示す。
図6図6(A)及び(B)はそれぞれ、(a)本発明の一実施形態に係るSiO/Si複合材料のN2吸着/脱着等温線、及び(b)SiO/Si複合材料の吸着ブランチ等温線においてBJH式より計算された孔径分布プロットを示す。
図7図7は、本発明の一実施形態に係るSiO/Si/C複合材料の最初の二つの放電/充電曲線を示す。
図8図8は、出発SiO/C、25時間、ボールミル粉砕されたSiO/C、及び本発明の一実施形態に係るSiO/Si/C複合材料のサイクル性能を示す。
図9図9は、10時間、粉砕した出発SiO(m−SiO)、及び本発明の一実施形態に係るSiO/Si/C複合材料(m−SiO/Si)のXPSスペクトルを示す。
図10図10は、本発明の一実施形態に係るSiO/Si/C複合材料のHR−TEM画像を示す。
【0018】
発明の詳細な説明
以下の説明、例及び添付の特許請求の範囲を参照して、本発明の他の特徴、態様及び利点が明らかになる。
【0019】
特に示さない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾がある場合、定義を含む本明細書が優先する。
【0020】
量、濃度、又は他の値若しくはパラメータが、範囲、好ましい範囲又は好ましい上限値及び好ましい下限値のリストとして与えられる時、どの範囲が個別に開示されるかどうかに関わらず、具体的に任意の範囲の上限値若しくは好ましい値の何れかと、任意の範囲の下限値若しくは好ましい値の任意の対から形成される全ての範囲を開示するものとして理解されるべきである。数値範囲が本明細書に記載される場合、特に明記しない限り、該範囲は、該範囲の終点並びに該範囲内の全ての整数及び分数を含むことが意図される。
【0021】
「約」という用語が値又は範囲の終点を記載するのに使用される場合、開示内容は参照される特定の値又は終点を含むと理解されるべきである。
【0022】
特に明記しない限り、全ての百分率、部、比等は、質量基準による。
【0023】
SiO/Si/C複合材料
一態様では、本発明は、SiO/Si複合粒子及び前記SiO/Si複合粒子上に被覆された炭素被覆層を有し(0<x≦2である)、SiO/Si/C複合材料を提供する。
【0024】
本明細書で使用される時、0<x≦2とは、SiOのSi原子が+4、+3、+2、+1及びこれらの組み合わせの原子価で存在することを意味する。
【0025】
SiO/Si/C複合材料の構造は、図1に模式的に示すことができる。図1に示されるように、SiO/Si複合粒子は、SiO非晶質マトリックス相中に埋め込まれたナノシリコン微結晶を含み、ナノシリコン微結晶はSiO非晶質マトリックス相中に均一に分布する。加えて、SiO/Si粒子は、炭素被覆層によって覆われる。
【0026】
本発明の一実施形態では、SiO/Si複合粒子は、約3:1〜1.1:1、好ましくは約2:1〜1.2:1のSi:Oモル比を有する。
【0027】
本発明の別の実施形態では、ナノシリコン微結晶は約1〜約50nm、好ましくは約4〜約20nmの粒径を有する。
【0028】
本発明の別の実施形態では、SiO/Si/C複合材料は、約2〜約15nm、好ましくは約4〜約12nm、より好ましくは約6〜約10nmの厚さを有する炭素被覆層を有する。
【0029】
本発明のさらに別の実施形態では、SiO/Si複合粒子は、10.0μm以下、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは2.0μm以下であり、さらに好ましくは1.1μm以下の範囲内のD50粒径を有してよい。また、SiO/Si複合粒子のD90粒径は、20.0μm以下、好ましくは11.1μm以下の範囲内であってよく、及びD10粒径は0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上の範囲内であってよい。
【0030】
ここでは、D50、D90又はD10粒径は、累積分布率が特定値に達した場合の粒径を表す。例えば、D90=5μmの場合、10%の粒子が5μmよりも大きく、90%の粒子が5μmよりも小さい。ここで使用される特定値、例えば50、90及び10は使用される試験装置及び方法に応じて質量、重量、長さ等を基準としてよい。特に、ここで使用されるD50、D90及びD10粒径は体積基準であり、及びそれらは通常、使用される体積平均粒度分布曲線により得られる。本発明の一実施形態では、SiO/Si複合粒子は、約0.1〜約1000μmの範囲の粒度分布を有してよい。
【0031】
SiO/Si/C複合材料の製造方法
別の態様では、SiO/Si/C複合材料を得るために、本発明は、
本発明のSiO/Si/C(式中、0<x≦2である)複合材料の製造方法であって、
a)SiO粉末を金属還元剤と共に、約1.25:1〜約10:1、好ましくは約2:1〜約5:1のモル比で粉砕するステップ、
b)前記金属還元剤の酸化生成物を完全に除去してSiO/Si複合粒子を得るステップ、
c)前記SiO/Si複合粒子を炭素で被覆して前記SiO/Si/C複合材料を得るステップ、
を有する、SiO/Si/C複合材料の製造方法を提供する。
【0032】
本発明の一実施形態では、金属還元剤はMg、Al、Zn、Li及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0033】
本発明の別の実施形態では、ステップa)の間に、SiO粉末を予め0〜約15時間、高エネルギーボールミル粉砕プロセスにより粉砕し、さらに約3〜約20時間、前記金属還元剤と共に粉砕する。
【0034】
本発明のさらに別の実施形態では、ステップc)は化学蒸着法又は熱分解により行われ、約2〜約15nm、好ましくは約4〜約12nm、より好ましくは約6〜約10nmの厚さを有する炭素被覆層を得る。
【0035】
具体的には本発明の一実施形態では、ステップa)における出発SiO粉末は市販されているか、又は先行技術で公知の方法により高温でSi及びSiO2から製造してよい。出発SiO粉末の粒径としては約200メッシュ〜約500メッシュ、好ましくは約200メッシュ〜約400メッシュが挙げられるが、これらに限定されない。代表的な市販のSiO粉末は、Aldrich社(325メッシュ)及びAladdin社(200メッシュ)から商業的に購入できる。
【0036】
本発明の一実施形態では、粉砕を行う方法としてはボールミル粉砕が挙げられるが、これに限定されない。本発明の特定の実施形態では、粉砕は、ジルコニアバイアルと硬化ステンレスバイアルを含む市販の遊星ボールミルを用いて、高エネルギーボールミル粉砕(高エネルギー機械的粉砕)により行われる。ボールミル粉砕の継続時間、回転速度、ジルコニア球又はステンレス鋼球の数及び大きさを含む操作パラメータは、製造者の指示に応じて採用することができ、当業者は容易に、これらの粉砕の操作パラメータを調節することができる。本発明の特定の実施形態では、約3〜約20時間、好ましくは約5〜約15時間、10個のジルコニア球(Φ=10mm)を有する遊星ボールミル中で、約300〜約500rpm、好ましくは約400〜約500rpmの回転速度で、SiO及び還元剤粉末を粉砕する。本発明の別の実施形態では、ステップa)前の代わりの前処理ステップにおいて、約0〜約15時間、好ましくは約5〜約15時間、遊星ボールミル中で約400rpmの回転速度で、SiO粉末を前粉砕する。
【0037】
本明細書で使用される用語「還元剤」は、シリコンのより高い酸化状態、例えばSi4+をより低い酸化状態に還元する能力を有し、且つ粉砕プロセスに悪影響を与えない物質を意味する。ステップa)においてここで使用される還元剤としては金属、例えばMg、Al、Zn、Li及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。還元剤に対するSiOのモル比は約1.25:1〜約10:1、好ましくは約2:1〜約5:1の範囲内であってよい。本発明の特定の実施形態では、還元剤がMgであるため、還元剤と出発SiO粉末の反応は以下のように推測できる。
SiO+Mg=MgO+Si
Mgが還元剤として使用される場合、Mgは約50〜約200メッシュ、好ましくは約100〜約200メッシュの粒径を有する粉末の形態で使用することが好ましい。市販のMg粉末はSinopharm Chemical Reagent Co.,Ltd(100〜200メッシュ)及びAladdin社(100〜200メッシュ)から商業的に購入できる。本発明の特定の実施形態では、SiOのMgに対するモル比は約5:1であった。
【0038】
本発明の一実施形態では、ステップa)における還元剤の酸化生成物を酸性溶液に浸漬させることによって、前記酸化生成物を完全に除去する処理を行う。本明細書で使用される用語「酸性溶液」は、還元剤の酸化生成物を溶解させるがSiOに対して不活性な溶液を意味する。従って、酸性溶液は、塩酸、過塩素酸、硝酸、硫酸、リン酸、およびそれらの組み合わせの溶液から選択される。フッ化水素酸はSi含有材料中で反応性を有する可能性があるため、本発明ではフッ化水素酸を使用することを避ける。酸性溶液は、還元剤の酸化生成物、例えばMgO、Al23、ZnO及び/又はLi2Oを溶解できる限り、希釈液又は濃縮液の形態であってよい。酸性溶液の濃度としては約0.5M〜約5M、好ましくは約1M〜約2Mが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の特定の実施形態では、還元剤の酸化生成物がMgOの場合、酸性溶液は2Mの塩酸溶液である。本明細書で使用される用語「完全に除去する」は、還元剤の酸化生成物の少なくとも約90%、好ましくは約95%、より好ましくは約99%が実質的に溶解し、除去されることを意味する。酸化生成物のそのような量を除去できる限り、酸浸漬時間は限定されない。好ましくは酸浸漬時間は約1〜約12時間、より好ましくは約4〜約6時間まで継続する。
【0039】
本発明の一実施形態では、ステップb)の後に、得られた混合物を場合により洗浄剤により洗浄してよい。洗浄剤の選択は限定されないが、エタノール、脱イオン水、又はそれらの組み合わせが挙げられる。処理のし易さ及びコスト効率を考慮すると、本発明の特定の実施形態では、ステップb)でSiO/Si材料から生成した溶解塩を洗い流すために、脱イオン水が使用される。
【0040】
本発明の一実施形態では、洗浄ステップの後、最終生成物を得るために、洗浄されたSiO/Si材料を場合により乾燥してよい。本発明では、乾燥を行う方法としては真空乾燥が挙げられるが、これに限定されない。また、乾燥パラメータ、例えば温度及び継続時間は当業者により容易に調節できる。具体的に乾燥温度としては約50℃〜約100℃が挙げられるが、これに限定されない。乾燥継続時間は、乾燥プロセスで使用される温度に応じて、約4〜約12時間、持続してよい。本発明の特定の実施形態では、洗浄されたSiO/Si材料は約60℃で約10時間、真空乾燥される。
【0041】
従来技術では、リチウムイオン電池用の負極材料の炭素被覆は多くの利点、例えば導電性、化学的安定性、電気化学的安定性、固有の物理的性質及び低コストを有することが証明された。
【0042】
従って、本発明の一実施形態では、上記プロセスにより得られたSiO/Si材料は、ステップc)において炭素含有材料で更に被覆される。従来技術で公知の種々の炭素被覆方法、例えば化学気相成長(CVD)法、熱分解などがある。本発明の一実施形態では、炭素源としてトルエン、アセチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、クエン酸、グルコース、ピッチ、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の特定の実施形態では、被覆プロセスは、1)上記のように反応チャンバ内で得られたSiO/Si複合材料を提供するサブステップ、及び2)反応チャンバ内にトルエンを含む前駆体ガスを導入し、かつ約200℃〜約1000℃の温度を維持するサブステップ、を有する。このプロセスの間、被覆継続時間は、炭素被覆プロセスで使用される温度に応じて約0.3〜約2時間であってよいが、これに限定されない。
【0043】
結果として、上記方法により、一酸化ケイ素とシリコンの合計に対する約5%〜約20%、及び好ましくは約12.5%〜約20%の炭素質量比を有するSiO/Si/C材料を製造する。炭素被覆層は、約2〜約15nm、好ましくは約4〜約12nm、より好ましくは約6〜約10nmの厚さを有する。
【0044】
SiO/Si/C複合材料を特性化する方法
本発明によるSiO/Si/C複合材料の構造及びより多くの物理的特性をより良く理解するため、本発明者等は、実施例で製造されたSiO/Si/C複合材料を特性化する以下の機器テストを行った。
【0045】
Si/Oの原子比の測定方法は、エネルギー分散分光(EDS)により行われる。本発明において、透過型電子顕微鏡(JOEL製のTEM、JEM−100CX)を用いて測定を行い、Si/O原子比を計算する。
【0046】
図2に示されるSEM画像は、FESEM、JOEL JSM−7401Fにより得られる。
【0047】
図3及び10に示されるTEM画像は、JOEL JEM−100CXにより得られる。
【0048】
図4に示されるSiO/Si複合粒子の粒度分布は、MASTERSIZER 2000により得られる。
【0049】
図5に示されるXRDプロファイルはRigaku D/max−2200/PC、Cuにより得られる。
【0050】
図6(A)及び(B)に示される孔径分布及びN2吸着/脱着等温線はBrunauer−Emmett−Teller(BET)測定、Micromeritics Inc ASAP 2010 M+Cにより得られる。
【0051】
図9に示されるXPSスペクトルはKratos Axis UltraDLDにより得られる。
【0052】
実施例
実施例1
SiO/Si複合材料の製造
Planetary Mono Mill P−6(Fritsch、Germany)を用いた25時間、400rpmの回転速度の高エネルギーボールミル粉砕プロセスにより、SiO/Si複合材料を合成した。2.0gのSiO(325メッシュ、Aldrich)粉末を80mlのジルコニアバイアル中に入れ、10個のジルコニアボール(Φ=10mm)で10時間、ボールミル粉砕を行った。その後、Mg粉末(200メッシュ、Sinopharm Chemical Reagent Co.,Ltdより購入)0.218gを添加し、次いで15時間、ボールミル粉砕を行った。この結果、約1.0μmのD50粒径、約11.0μmのD90粒径、及び約0.4μmのD10粒径を有するSiO/Si/C複合材料が(図4に示すように)得られた。MgOを除去するために、得られた粉末(SiO/Si/MgO)を12時間、2MのHCl溶液に最初に浸漬させ、次いで脱イオン水で洗浄し、最後に60℃で10時間、真空乾燥させた。その結果、得られたSiO/Si複合材料は約1.25:1のSi:Oモル比を有する。
【0053】
SiO/Si/C複合材料の製造
得られたSiO/Si粉末(0.2g)をアルミニウムボートに充填し、石英管炉の中央部に置いた。次に、前駆体ガス(アルゴン及びトルエン)を炉内に導入した。その後、炉の温度を、10℃・min-1の速度で室温から800℃に上昇させ、800℃で60分間、維持した。炉をゆっくりと室温まで冷却した。高温でトルエンが迅速に分解し、SiO/Si粒子の表面上に堆積した。結果として、図10に示す約10nmの平均厚さを有する炭素被覆層を有するSiO/Si/C複合材料が得られた。複合材料中の被覆された炭素の含量は12.5%であると測定された。
【0054】
実施例2
2.0gのSiO粉末及び0.545gのMg粉末をボールミル粉砕プロセスに投入した以外は、実施例1で用いられたものと同じ方法でSiO/Si/C複合材料を製造した。その結果、得られたSiO/Si複合材料は約2:1のSi:Oモル比を有する。
【0055】
実施例3
2.0gのSiO粉末及び0.872gのMg粉末をボールミル粉砕プロセスに投入した以外は、実施例1で用いられたものと同じ方法でSiO/Si/C複合材料を製造した。その結果、得られたSiO/Si複合材料は約5:1のSi:Oモル比を有する。
【0056】
実施例4
炉の温度を10℃・min-1の速度で室温から800℃まで増加させ、800℃で90分間、維持した以外は、実施例1で用いられたものと同じ方法でSiO/Si/C複合材料を製造した。その結果、約10nmの平均厚さを有する炭素被覆層を有するSiO/Si/C複合材料が得られた。複合材料中の被覆された炭素の含量は約15.2%であると測定された。
【0057】
実施例5
炉の温度を10℃・min-1の速度で室温から800℃まで増加させ、800℃で30分間、維持した以外は、実施例1で用いられたものと同じ方法でSiO/Si/C複合材料を製造した。その結果、約5nmの平均厚さを有する炭素被覆層を有するSiO/Si/C複合材料が得られた。複合材料中の被覆された炭素の含量は約5.6%であると測定された。
【0058】
比較例1
実施例1で用いられたものと同じ方法で出発SiO/C材料を炭素で被覆することにより、SiO/C材料を製造したが、ボールミル粉砕及びMg粉末の添加を行わなかった。購入したSiOを直接にアルミニウムボートに充填し、炭素被覆のために石英管炉の中央部に置いた。
【0059】
比較例2
Mg粉末をボールミル粉砕プロセス中に投入しなかった以外は、実施例1で用いられたものと同じ方法でSiO/C複合材料を製造した。購入したSiOを粉砕機に充填し、400rpmで25時間、粉砕した。次いで、生成物をアルミニウムボートに入れ、炭素被覆のために石英管炉の中央部に置いた。
【0060】
電池の組立及び電気化学的測定:
実施例1〜5及び比較例1〜2で製造された複合材料の電気化学的性能を、二電極コイン型電池を用いて測定した。70:20:10の質量比で、活物質、スーパーP導電性カーボンブラック(40nm、Timical)及びバインダーとしてのスチレンブタジエンゴム/カルボキシメチルセルロースナトリウム(SBR/SCMC、質量比3:5)の混合物を塗布することにより作用電極を製造した。純Cu箔上に混合物を塗布後、電極を乾燥させ、Φ12mmのシートに切断し、3MPaでプレスし、次いで更に50℃で4時間、真空乾燥した。アルゴン充填グローブボックス(MB−10 compact、MBraun)内で、2質量%のビニレンカーボネート(VC)を含む、電解質としての1M LiPF6/EC+DMC(体積比1:1、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC))、セパレータとしてのENTEK ET20−26、及び対電極としての純リチウム箔を用いて、CR2016コイン型電池を組み立てた。
【0061】
サイクル性能を100mAg-1又は300mAg-1の電流密度、25℃で、LAND電池試験システム(Wuhan Kingnuo Electronics Co.,Ltd.,China)で評価した。カットオフ電圧は、放電(リチウム吸蔵)する場合、Li/Li+に対して0.01V、充電(リチウム放出)する場合、Li/Li+に対して1.2Vであった。試験結果を図7及び図8に示す。
【0062】
評価
図2に示すように、実施例1によるSiO/Si/C複合材料の粒子は小さく、均一に分布するが、これは図1に示される概略構造を示す。また、実施例2〜5は、実施例1と同様の構造も有する。
【0063】
また、図3(A)及び(B)に示すように、実施例1のSiO/Si/C複合材料においていくつかの微結晶を発見できる。これらは5〜10nmの大きさの範囲内であり、3.1ÅのSi(111)面間隔値として特定されるシリコン相として確認された。従って、ナノシリコン微結晶は非晶質マトリックス相中に埋め込まれたが、これはさらに図1に示される概略構造を示す。また、実施例2〜5は、実施例1と同様の構造を有する。
【0064】
図5に示すように、実施例1のSiO及びSiO/Si複合材料の主回折ピークは類似する。SiOは、ボールミル粉砕プロセス中のSiOの不均化によるシリコン相の弱い回折パターンを示した。実施例1のSiO/Si複合材料については、シリコンの回折パターンが増加した。本発明者等は、SiOが部分的にMgと反応してナノシリコン微結晶に還元されたと推測している。また、ボールミル粉砕後の一連の正方晶ZrO2ピークが検出される。酸化物の汚染物質は粉砕媒体(バイアル及びZrO2ボール)に由来したものであるに違いない。
【0065】
図6(A)及び(B)に示すように、実施例1のSiO/Si複合材料の比表面積は24.5m2-1である。これらの孔は、主にMgO還元生成物をエッチングすることによって得られる。
【0066】
図7は、実施例1によるSiO/Si/C複合材料の最初の2つの放電/充電曲線を示す。コイン型電池を、Li/Li+に対して0.01〜1.2V、100mAg-1で放電した。図7に示すように、電流密度100mAg-1でSiO/Si/C複合材料の最初の2つの放電/充電曲線が得られる。SiO/Si/C複合材料の放電及び充電容量は、最初のサイクルで61.9%の初期クーロン効率で、それぞれ2080mAhg-1及び1286.8mAhg-1である。
【0067】
図8は、比較例1のSiO/C材料、比較例2のSiO/C材料、及び実施例1のSiO/Si/C複合材料のサイクル性能を示す。コイン型電池を、Li/Li+に対して0.01〜1.2Vで、5サイクルで100mAg-1、次のサイクルで300mAg-1で放電した。図8に示すように、比較例1のSiO/C材料と比較すると、比較例2のSiO/C材料のサイクル性能は改善する。しかし、その可逆容量がまだ相対的に低く、単に900mAhg-1であった。意想外にも、実施例1のSiO/Si/C複合材料の可逆容量は、約900mAhg-1(比較例2)から、1200mAhg-1超(実施例1)まで更に向上する。従って、Mgとの還元反応及び炭素の被覆により、実施例1のSiO/Si/Cの負極は、より優れたサイクル安定性とより高い可逆容量を提供する。
【0068】
図9は、10時間、粉砕した出発SiO(m−SiO)及び実施例1のSiO/Si/C複合材料(m−SiO/Si)のXPSスペクトルを示す。第1表は、m−SiO及びm−SiO/SiについてのSi 2pスペクトルのSi酸化状態の存在比を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
第1表に示されるように、10時間、粉砕した出発SiOと比較すると、Si4+の存在比は著しく減少するが、低い酸化状態、すなわち、Si0、Si+、Si2+及びSi3+は増加する。従って、本発明の方法により製造されたSiO/Si/C複合材料において、より高い酸化状態のSi、すなわちSi4+の量を還元剤により減少させて、より低い酸化状態のSi量を増加させる。従って、サイクル安定性を改善し、より大きな可逆容量を得る。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10