(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項13から24のいずれかに記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載されているように、ハーフトーン型位相シフトマスクは、透光性基板上に、転写パターン(位相シフトパターン)が形成されたハーフトーン位相シフト膜(以下、単に位相シフト膜という。)と、遮光帯等の遮光パターンが形成された遮光膜が順に積層した構造を備える構成が一般的である。このような位相シフトマスクは、透光性基板上に位相シフト膜と遮光膜が順に積層した構造を備えるマスクブランクを用いて製造される。このマスクブランクを用いて位相シフトマスクを製造する際、位相シフト膜と遮光膜にはそれぞれ異なるパターンを形成する必要がある。このため、位相シフト膜と遮光膜はドライエッチング特性が異なる材料をそれぞれ適用する必要がある。
【0007】
位相シフト膜は、ArF露光光を所定の透過率で透過する機能と、その透過するArF露光光に対し、その位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過するArF露光光との間で所定の位相差を生じさせる機能を持たせる必要がある。ケイ素を含有する材料は、そのような機能を有する位相シフト膜を形成するのに好適な光学特性に調整しやすく、特に、遷移金属シリサイド系材料は、位相シフト膜の材料として広く用いられている。ケイ素を含有する材料を位相シフト膜に適用する場合、遮光膜の材料にクロムを含有する材料が適用されることが多い。また、遮光膜が多層膜の場合、位相シフト膜に接する側の層にクロムを含有する材料を適用することもある(この層をエッチングストッパー膜として、別の機能膜の扱いとすることがある。)。クロムを含有する材料の薄膜とケイ素を含有する材料の薄膜は、ドライエッチングでパターニングするときに互いに高いエッチング選択性を有するためである。
【0008】
一般に、位相シフトマスクは、露光装置のマスクステージにセットして半導体基板上のレジスト膜等の転写対象物に対して転写パターンを露光転写する場合、その位相シフトマスクの透光性基板側から露光光が照射される。上記のようなケイ素を含有する材料からなる位相シフト膜とクロムを含有する材料からなる遮光膜(位相シフト膜に接する側の層がクロムを含有する材料で形成された遮光膜の場合も含む。)を備えた位相シフトマスクの場合、露光装置による露光転写を繰り返し行ったとき、遮光膜中のクロム原子が位相シフト膜を形成するケイ素を含有する材料中に移動する現象、いわゆるクロムマイグレーションが発生することが新たに判明し、問題となっていた。
【0009】
位相シフトマスクにおいて、大きなサイズの位相シフト膜のパターンが配置されている場合、そのパターン上に一回りサイズの小さな遮光膜のパターンが設けられることがある。このような場合にクロムマイグレーションの発生による影響は特に大きくなる。位相シフトマスクを露光装置のマスクステージにセットしてArF露光光を照射したときに、遮光膜中のクロム原子が励起されて位相シフト膜のパターン内にクロム原子が数多く侵入してくると、位相シフト膜の透過率が低下する。ハーフトーン型の位相シフト膜の場合、透過率の低下は、その位相シフトパターンを透過する露光光と、透光部を透過する露光光との間で生じる位相シフト効果が低下することに繋がるため、問題となる。また、位相シフト膜内に侵入したクロム原子が、位相シフト膜のパターンの側壁に析出して、位相シフトマスクを透過した露光光のパターン像に悪影響を及ぼすこともある。さらに、位相シフト膜内に入り込んだクロム原子が透光部の透光性基板の表面で析出して、透光部にくもり(透光部の透過率の低下)が生じる原因にもなり得る。
【0010】
そこで、本発明は、従来の課題を解決するためになされたものである。すなわち、透光性基板上に位相シフト膜および遮光膜がこの順に積層しており、位相シフト膜がケイ素を含有し、クロムを実質的に含有しない材料で形成され、遮光膜の少なくとも位相シフト膜に接する層がクロムを含有する材料で形成された構成を備えるマスクブランクであっても、そのマスクブランクから位相シフトマスクを製造し、その位相シフトマスクを用いて露光装置で露光転写を行ったときに、クロムマイグレーションの発生が大幅に抑制されているマスクブランクを提供することを目的としている。また、このマスクブランクを用いて製造される位相シフトマスクを提供することを目的としている。そして、本発明は、このような位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
透光性基板上に、位相シフト膜および遮光膜がこの順に積層した構造を備えるマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を2%以上30%以下の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上200度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、ケイ素を含有し、クロムを実質的に含有しない材料で形成され、前記透光性基板側から下層と上層が積層した構造を含み、
前記下層は、前記透光性基板よりも前記露光光の波長における屈折率nが小さく、
前記上層は、前記透光性基板よりも前記露光光の波長における屈折率nが大きく、
前記下層は、前記上層よりも前記露光光の波長における消衰係数kが大きく、
前記遮光膜は、前記位相シフト膜に接する層を含み、
前記位相シフト膜に接する層は、クロムを含有する材料からなり、前記上層よりも前記露光光の波長における屈折率nが小さく、かつ前記上層よりも前記露光光の波長における消衰係数kが大きい
ことを特徴とするマスクブランク。
【0012】
(構成2)
前記上層は、前記下層よりも厚さが厚いことを特徴とする構成1記載のマスクブランク。
(構成3)
前記下層は、厚さが10nm未満であることを特徴とする構成1または2に記載のマスクブランク。
【0013】
(構成4)
前記下層の屈折率nは、1.5以下であることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成5)
前記上層の屈折率nは、2.0よりも大きいことを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
【0014】
(構成6)
前記位相シフト膜に接する層の屈折率nは、2.0以下であることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成7)
前記下層の消衰係数kは、2.0以上であることを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【0015】
(構成8)
前記上層の消衰係数kは、0.8以下であることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成9)
前記位相シフト膜に接する層の消衰係数kは、1.0以上であることを特徴とする構成1から8のいずれかに記載のマスクブランク。
【0016】
(構成10)
前記下層は、前記透光性基板の表面に接して形成されていることを特徴とする構成1から9のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成11)
前記上層は、表層にその表層を除いた部分の上層よりも酸素含有量が多い層を有することを特徴とする構成1から10のいずれかに記載のマスクブランク。
【0017】
(構成12)
前記透光性基板側から入射する前記露光光に対する裏面反射率が30%以上であることを特徴とする構成1から11のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成13)
透光性基板上に、転写パターンが形成された位相シフト膜と、遮光パターンが形成された遮光膜がこの順に積層した構造を備える位相シフトマスクであって、
前記位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を2%以上30%以下の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上200度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、ケイ素を含有し、クロムを実質的に含有しない材料で形成され、前記透光性基板側から下層と上層が積層した構造を含み、
前記下層は、前記透光性基板よりも前記露光光の波長における屈折率nが小さく、
前記上層は、前記透光性基板よりも前記露光光の波長における屈折率nが大きく、
前記下層は、前記上層よりも前記露光光の波長における消衰係数kが大きく、
前記遮光膜は、前記位相シフト膜に接する層を含み、
前記位相シフト膜に接する層は、クロムを含有する材料からなり、前記上層よりも前記露光光の波長における屈折率nが小さく、かつ前記上層よりも前記露光光の波長における消衰係数kが大きい
ことを特徴とする位相シフトマスク。
【0018】
(構成14)
前記上層は、前記下層よりも厚さが厚いことを特徴とする構成13記載の位相シフトマスク。
(構成15)
前記下層は、厚さが10nm未満であることを特徴とする構成13または14に記載の位相シフトマスク。
【0019】
(構成16)
前記下層の屈折率nは、1.5以下であることを特徴とする構成13から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成17)
前記上層の屈折率nは、2.0よりも大きいことを特徴とする構成13から16のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0020】
(構成18)
前記位相シフト膜に接する層の屈折率nは、2.0以下であることを特徴とする構成13から17のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成19)
前記下層の消衰係数kは、2.0以上であることを特徴とする構成13から18のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0021】
(構成20)
前記上層の消衰係数kは、0.8以下であることを特徴とする構成13から19のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成21)
前記位相シフト膜に接する層の消衰係数kは、1.0以上であることを特徴とする構成13から20のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0022】
(構成22)
前記下層は、前記透光性基板の表面に接して形成されていることを特徴とする構成13から21のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成23)
前記上層は、表層にその表層を除いた部分の上層よりも酸素含有量が多い層を有することを特徴とする構成13から22のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0023】
(構成24)
前記透光性基板側から入射する前記露光光に対する裏面反射率が30%以上であることを特徴とする構成13から23のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成25)
構成13から24のいずれかに記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明のマスクブランクは、透光性基板上に位相シフト膜および遮光膜がこの順に積層しており、位相シフト膜がケイ素を含有し、クロムを実質的に含有しない材料で形成され、遮光膜の少なくとも位相シフト膜に接する層がクロムを含有する材料で形成された構成を備えるマスクブランクであるにも関わらず、そのマスクブランクから位相シフトマスクを製造し、その位相シフトマスクを用いて露光装置で露光転写を行ったときに、遮光膜中のクロム元素が位相シフト膜内に侵入する現象であるクロムマイグレーションの発生を大幅に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明者らは、透光性基板上に、ケイ素を含有する材料からなる位相シフト膜とクロムを含有する材料からなる遮光膜が積層した位相シフトマスクにおいて、遮光膜中のクロム原子が位相シフト膜を形成するケイ素を含有する材料中に移動する現象、クロムマイグレーションが発生することを抑制する手段について、鋭意研究を行った。本発明者らは、ArF露光光によって、位相シフト膜中のケイ素と遮光膜中のクロムがそれぞれ光励起されることに起因し、クロムマイグレーションが発生していることを突き止めた。
【0027】
位相シフトマスクの透光性基板の内部に入射したArF露光光は、基板の主表面と位相シフト膜のパターンとの界面で一部は反射されるが、ArF露光光の大部分は位相シフト膜内に入射する。位相シフト膜は、ArF露光光を所定の透過率で透過する機能を有する必要がある。このため、位相シフト膜は、その内部に入射したArF露光光の大部分を吸収するような光学特性を有している。ArF露光光のエネルギーを吸収した位相シフト膜を構成するケイ素や遷移金属の各原子は、そのエネルギーを吸収することで光励起する。
【0028】
位相シフトマスクにおける位相シフト膜のパターン上に遮光膜のパターンが積層されている領域では、位相シフト膜を透過したArF露光光が、位相シフト膜と遮光膜との界面で一部が反射されるが、残りは遮光膜の内部に入射する。そして、遮光膜の内部でArF露光光のほとんどが吸収され、遮光膜から出射されるArF露光光はごくわずか(位相シフト膜に入射する前のArF露光光の光量に対し、例えば0.01%の光量にまで減衰する。)になる。このとき、遮光膜の内部では、クロム原子がArF露光光のエネルギーを吸収して光励起する。
【0029】
遮光膜のクロム原子が光励起され、位相シフト膜の構成元素も光励起された状態では、遮光膜の内部で光励起しているクロム原子が位相シフト膜の内部に侵入しやすくなる。上述のように、従来の位相シフト膜は、ArF露光光をその位相シフト膜の内部で吸収することで透過率を制御する設計思想となっており、遮光膜も同様の設計思想となっている。従来の位相シフト膜と遮光膜の設計思想では、ArF露光光を照射したときにその膜を構成する全ての原子のうち、光励起されてしまう原子の比率が高くなることは避け難く、クロムマイグレーションの発生を抑制することは難しい。
【0030】
本発明者らは、位相シフト膜のArF露光光に対する透過率を所定値とするために、透光性基板と位相シフト膜との界面における反射率(裏面反射率)を従来の位相シフト膜よりも高くすることで、位相シフト膜を構成する全てのケイ素原子のうち、ArF露光光によって光励起されるケイ素原子の比率を低下させることができるのではないかと考えた。透光性基板側から位相シフト膜へArF露光光が入射するとき、透光性基板と位相シフト膜との界面で反射されるArF露光光の光量を従来よりも高くすることで、位相シフト膜の内部に入射する露光光の光量を下げることができる。これにより、位相シフト膜内で吸収されるArF露光光の光量を従来よりも少なくしても、位相シフト膜から出射するArF露光光の光量を従来の位相シフト膜と同等にすることができる。その結果、位相シフト膜の内部でケイ素原子が光励起しにくくなり、遮光膜から光励起したクロム原子が侵入することを抑制できることを見出した。
【0031】
これに加え、本発明者らは、遮光膜のArF露光光に対する遮光性能を確保するために、位相シフト膜と遮光膜との界面における反射率(裏面反射率)を従来の場合よりも高くすることで、遮光膜を構成する全てのクロム原子のうち、ArF露光光によって光励起されるクロム原子の比率を低下させることができるのではないかと考えた。位相シフト膜と遮光膜との界面で反射されるArF露光光の光量を従来よりも高くすることで、遮光膜の内部に入射する露光光の光量を下げることができる。これにより、遮光膜内で吸収されるArF露光光の光量を従来よりも少なくしても、従来の遮光膜と同等の遮光性能とすることができる。その結果、遮光膜の内部でクロム原子が光励起しにくくなり、位相シフト膜の内部にクロム原子が侵入することを抑制できることを見出した。
【0032】
そこで、まず、従来の位相シフト膜よりも透光性基板との界面における反射率を高くすることを検討した。透光性基板上に設けられた位相シフト膜の裏面反射率を高めるには、位相シフト膜の少なくとも透光性基板に接する層をArF露光光の波長における消衰係数k(以下、単に消衰係数kという。)が大きい材料で形成することが必要となる。単層構造の位相シフト膜は、その求められる光学特性と膜厚を満たす必要性から、ArF露光光の波長における屈折率n(以下、単に屈折率nという。)が大きく、かつ消衰係数kが小さい材料で形成されることが一般的である。ここで、位相シフト膜を形成する材料の組成を調整して消衰係数kを大幅に大きくすることで位相シフト膜の裏面反射率を高めることを考える。この調整を行うと、その位相シフト膜は所定範囲の透過率の条件を満たせなくなるため、この位相シフト膜の厚さを大幅に薄くする必要が生じる。しかし、今度は位相シフト膜の厚さを薄くしたことによって、その位相シフト膜は所定範囲の位相差の条件を満たせなくなってしまう。位相シフト膜を形成する材料の屈折率nを大きくすることには限界があるため、単層の位相シフト膜で裏面反射率を高くすることは難しい。
【0033】
そこで、位相シフト膜を下層と上層を含む積層構造とし、この積層構造の全体で裏面反射率を高める設計思想でさらなる検討を行った。位相シフト膜における透光性基板から離れた側にある上層は、従来の単層の位相シフト膜の場合と同様、屈折率nが大きく、消衰係数kが小さい材料を適用することにした。他方、位相シフト膜における透光性基板側にある下層は従来の位相シフト膜の場合よりも、消衰係数kが大きい材料を適用することにした。このような下層は、位相シフト膜の透過率を低下させる方向に機能するため、下層の厚さは薄くする必要が生じる。下層の厚さを薄くすると、下層を透過する露光光の光量が増加するため、裏面反射率が下がる。そこで、裏面反射率をさらに高めるために、下層の屈折率nを透光性基板の屈折率nよりも小さくすることにした。このようにすることで、下層と上層の間における屈折率nの差が大きくなり、下層と上層の界面での露光光の反射光量が増大し、位相シフト膜の裏面反射率を高めることができることを見出した。
【0034】
次に、位相シフト膜と遮光膜との界面におけるArF露光光に対する反射率を高くすることを検討した。この反射率を高める一般的な方法は、遮光膜における位相シフト膜の上層と接する層を、位相シフト膜の上層よりも大きい屈折率nを有する材料により形成することである。位相シフト膜の上層よりも大きい屈折率nを有する材料とするには、窒素をより多く含有させる必要がある。しかし、窒素含有量が多い材料は消衰係数kが小さくなる傾向があるため、遮光膜を形成する層には好ましくない。この点を考慮し、遮光膜における位相シフト膜の上層と接する層は、消衰係数kが位相シフト膜より大きく、屈折率nが小さい材料で形成することにした。このようにすることで、位相シフト膜の上層と遮光膜との間の界面でのArF露光光に対する反射率を高くしつつ、膜厚の薄い遮光膜でも十分な遮光性能を確保することができる。以上のような位相シフト膜と遮光膜の構成とすることで、前記の技術的課題を解決できるという結論に至った。
【0035】
すなわち、本発明は、透光性基板上に、位相シフト膜および遮光膜がこの順に積層した構造を備え、さらに以下の特徴を有するマスクブランクである。位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を2%以上30%以下の透過率で透過させる機能と、位相シフト膜を透過した露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間で150度以上200度以下(より好ましくは、150度以上180度以下)の位相差を生じさせる機能とを有している。加えて、その位相シフト膜は、ケイ素を含有し、クロムを実質的に含有しない材料で形成され、透光性基板側から下層と上層が積層した構造を含んでいる。位相シフト膜の下層は、透光性基板よりも露光光の波長における屈折率nが小さい。位相シフト膜の上層は、透光性基板よりも露光光の波長における屈折率nが大きい。位相シフト膜の下層は、上層よりも前記露光光の波長における消衰係数kが大きい。遮光膜は、位相シフト膜に接する層を含んでいる。さらに、その位相シフト膜に接する層は、クロムを含有する材料からなり、上層よりも露光光の波長における屈折率nが小さく、かつ上層よりも露光光の波長における消衰係数kが大きい。
【0036】
図1は、本発明の実施形態に係るマスクブランク100の構成を示す断面図である。
図1に示す本発明のマスクブランク100は、透光性基板1上に、位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4がこの順に積層された構造を有する。
【0037】
透光性基板1は、合成石英ガラスのほか、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO
2−TiO
2ガラス等)などで形成することができる。これらの中でも、合成石英ガラスは、ArFエキシマレーザー光に対する透過率が高く、マスクブランク100の透光性基板1を形成する材料として特に好ましい。透光性基板1を形成する材料のArF露光光の波長(約193nm)における屈折率nは、1.50以上1.60以下であることが好ましく、1.52以上1.59以下であるとより好ましく、1.54以上1.58以下であるとさらに好ましい。
【0038】
位相シフト膜2には、ArF露光光に対する透過率が2%以上であることが求められる。位相シフト膜2の内部を透過した露光光と空気中を透過した露光光との間で十分な位相シフト効果を生じさせるには、露光光に対する透過率が少なくとも2%は必要である。位相シフト膜2の露光光に対する透過率は、3%以上であると好ましく、4%以上であるとより好ましい。他方、位相シフト膜2の露光光に対する透過率が高くなるにつれて、裏面反射率を高めることが難しくなる。このため、位相シフト膜2の露光光に対する透過率は、30%以下であると好ましく、20%以下であるとより好ましく、10%以下であるとさらに好ましい。
【0039】
位相シフト膜2は、適切な位相シフト効果を得るために、透過するArF露光光に対し、この位相シフト膜2の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した光との間で生じる位相差が150度以上200度以下の範囲になるように調整されていることが求められる。位相シフト膜2における前記位相差は、155度以上であることが好ましく、160度以上であるとより好ましい。他方、位相シフト膜2における前記位相差は、190度以下であることが好ましく、180度以下であることがより好ましく、179度以下であることがさらに好ましい。位相シフト膜2にパターンを形成するときのドライエッチング時に、透光性基板1が微小にエッチングされることによる位相差の増加の影響を小さくするためである。また、近年の露光装置による位相シフトマスクへのArF露光光の照射方式が、位相シフト膜2の膜面の垂直方向に対して所定角度で傾斜した方向からArF露光光を入射させるものが増えてきているためでもある。
【0040】
マスクブランク100は、位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態における透光性基板1側からArF露光光が照射されたときの反射率(裏面反射率)が30%以上であることが好ましい。裏面反射率を30%以上とすることによって、位相シフト膜2中のケイ素原子の光励起を抑制でき、遮光膜3中のクロム原子の光励起を抑制できる。この抑制効果により、遮光膜3中のクロム原子が位相シフト膜2中に移動する現象であるクロムマイグレーションを抑制できる。他方、裏面反射率が高すぎると、このマスクブランク100から製造された位相シフトマスクを用いて転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)へ露光転写を行ったときに、位相シフトマスクの裏面側の反射光によって露光転写像に与える影響が大きくなるため、好ましくない。この観点から、裏面反射率は、45%以下であることが好ましく、40%以下であるとより好ましい。
【0041】
位相シフト膜2は、透光性基板1側から、下層21と上層22が積層した構造を有する。位相シフト膜2の全体で、上記の透過率、位相差の各条件を満たし、かつ遮光膜3との積層構造での裏面反射率が上記の条件を満たす必要がある。これらの条件を満たすには、位相シフト膜2における下層21の屈折率nは、透光性基板1の屈折率nよりも小さいことが少なくとも必要とされる。同時に、上層22の屈折率nは、透光性基板1の屈折率nよりも大きいことが少なくとも必要とされる。加えて、下層21の消衰係数kは、上層22の消衰係数kよりも大きいことが少なくとも必要とされる。なお、上層22の厚さは、下層21の厚さよりも厚いことが好ましい。
【0042】
位相シフト膜2の下層21と上層22との上述した関係を満たすには、下層21の屈折率nは、1.50以下であることが求められる。下層21の屈折率nは、1.45以下であると好ましく、1.40以下であるとより好ましい。また、下層21の屈折率nは、1.00以上であると好ましく、1.10以上であるとより好ましい。下層21の消衰係数kは、2.00以上であることが求められる。下層21の消衰係数kは、2.20以上であると好ましく、2.40以上であるとより好ましい。また、下層21の消衰係数kは、3.30以下であると好ましく、3.10以下であるとより好ましい。なお、下層21の屈折率nおよび消衰係数kは、下層21の全体を光学的に均一な1つの層とみなして導出された数値である。
【0043】
他方、位相シフト膜2の下層21と上層22との上述した関係を満たすには、上層22の屈折率nは、2.00よりも大きいことが求められる。上層22の屈折率nは、2.10以上であると好ましい。また、上層22の屈折率nは、3.00以下であると好ましく、2.80以下であるとより好ましい。上層22の消衰係数kは、0.80以下であることが求められる。上層22の消衰係数kは、0.60以下であると好ましく、0.50以下であるとより好ましい。また、上層22の消衰係数kは、0.10以上であると好ましく、0.20以上であるとより好ましい。なお、上層22の屈折率nおよび消衰係数kは、後述の表層部分を含む上層22の全体を光学的に均一な1つの層とみなして導出された数値である。
【0044】
位相シフト膜2を含む薄膜の屈折率nと消衰係数kは、その薄膜の組成だけで決まるものではない。その薄膜の膜密度や結晶状態なども屈折率nや消衰係数kを左右する要素である。このため、反応性スパッタリングで薄膜を成膜するときの諸条件を調整して、その薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kとなるように成膜する。下層21と上層22を、上記の屈折率nと消衰係数kの範囲にするには、反応性スパッタリングで成膜する際に、希ガスと反応性ガス(酸素ガス、窒素ガス等)の混合ガスの比率を調整することだけに限られない。反応性スパッタリングで成膜する際における成膜室内の圧力、スパッタターゲットに印加する電力、ターゲットと透光性基板1との間の距離等の位置関係など多岐にわたる。また、これらの成膜条件は成膜装置に固有のものであり、形成される下層21および上層22が所望の屈折率nおよび消衰係数kになるように適宜調整されるものである。
【0045】
一方、位相シフト膜2の全体の厚さは100nm未満であることが望まれる。位相シフトマスクを製造するためのマスクブランクにおいて、電磁界(EMF:Electro Magnetics Field)効果に係るバイアスが小さいことが望まれている。EMFバイアスを低減するには、位相シフトマスクの薄膜パターンの厚さを薄くことが有効であるためである。他方、上記の位相シフト膜2の下層21と上層22の厚さの関係を満たす必要もある。特に位相シフト膜2の全体でのArF露光光に対する透過率の点を考慮すると、下層21の厚さは、10nm未満であることが好ましく、9nm以下であるとより好ましく、8nm以下であるとさらに好ましい。また、特に位相シフト膜2の裏面反射率の点を考慮すると、下層21の厚さは、3nm以上であることが好ましく、4nm以上であるとより好ましく、5nm以上であるとさらに好ましい。
【0046】
特に位相シフト膜2の全体でのArF露光光に対する位相差と裏面反射率の点を考慮すると、上層22の厚さは、下層21の厚さの9倍以上であることが好ましく、10倍以上であるとより好ましい。また、特に位相シフト膜2の厚さは100nm未満とすることを考慮すると、上層22の厚さは、下層21の厚さの15倍以下であることが好ましく、13倍以下であるとより好ましい。上層22の厚さは、90nm以下であることが好ましく、80nm以下であるとより好ましい。
【0047】
位相シフト膜2は、下層21と上層22がともにケイ素を含有し、クロムを実質的に含有しない材料で形成される。位相シフト膜2は、さらにクロムを除く金属元素を含有することが好ましい。位相シフト膜2を形成する材料中に含有させる金属元素としては、遷移金属元素であることが好ましい。この場合の遷移金属元素としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)およびパラジウム(Pd)のうちいずれか1つ以上の金属元素が挙げられる。また、位相シフト膜2を形成する材料中に含有させる遷移金属元素以外の金属元素としては、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびガリウム(Ga)などが挙げられる。位相シフト膜2を形成する材料には、前記の元素に加え、炭素(C)、水素(H)、ホウ素(B)、ゲルマニウム(Ge)およびアンチモン(Sb)等の元素が含まれてもよい。また、下層21を形成する材料には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の不活性ガスが含まれてもよい。
【0048】
位相シフト膜2の下層21は、クロムを除く金属およびケイ素を含有し、かつクロム及び酸素を実質的に含有しない材料で形成されることが好ましい。下層21は、消衰係数kが大きい材料を適用する必要があるのに対し、材料中の酸素含有量を増加させると消衰係数kの低下度合いが非常に大きくなり、好ましくないためである。このため、下層21は、酸素を実質的に含有しない材料であることが必要とされる。ここで、酸素を実質的に含有しない材料とは、材料中の酸素含有量が少なくとも5原子%以下である材料である。下層21の形成する材料の酸素含有量は、3原子%以下であると好ましく、X線光電子分光法等による組成分析を行ったときに検出下限値以下であるとより好ましい。
【0049】
また、下層21を形成する材料に窒素を含有してもよい。ただし、材料中の窒素含有量を増加させるに従い、その材料の屈折率nが増大していく傾向がある。また、酸素の場合ほどではないが、材料中の窒素含有量を増加させるに従い、その消衰係数kが低下していく傾向がある。下層21を形成する材料は、屈折率nが小さく、消衰係数kが大きい材料であるほうが好ましい。これらのことから、下層21が金属、ケイ素および窒素からなる材料で形成されている場合における窒素含有量は、20原子%以下であると好ましく、19原子%以下であるとより好ましく、15原子%以下であるとさらに好ましい。一方、この場合における下層21を形成する材料の窒素含有量は、5原子%以上であると好ましく、10原子%以上であるとより好ましい。下層21は、クロムを除く金属およびケイ素からなる材料、またはクロムを除く金属、ケイ素および窒素からなる材料で形成されていることがより好ましく、クロムを除く金属およびケイ素からなる材料で形成されているとより好ましい。
【0050】
下層21は、透光性基板1の表面に接して形成されていることが好ましい。下層21が透光性基板1の表面と接した構成とした方が、位相シフト膜2の下層21と上層22の積層構造によって生じる上記の裏面反射率を高める効果がより得られるためである。位相シフト膜2の裏面反射率を高める効果に与える影響が微小であれば、透光性基板1と位相シフト膜2との間にエッチングストッパー膜を設けてもよい。この場合、エッチングストッパーの厚さは、10nm以下であることが必要であり、7nm以下であると好ましく、5nm以下であるとより好ましい。また、エッチングストッパーとして有効に機能するという観点から、エッチングストッパー膜の厚さは、3nm以上であることが必要である。エッチングストッパー膜を形成する材料の消衰係数kは、0.1未満であることが必要であり、0.05以下であると好ましく、0.01以下であるとより好ましい。また、この場合のエッチングストッパー膜を形成する材料の屈折率nは、1.9以下であることが少なくとも必要であり、1.7以下であると好ましい。エッチングストッパー膜を形成する材料の屈折率nは、1.55以上であることが好ましい。
【0051】
位相シフト膜2の上層22は、クロムを除く金属、ケイ素、窒素および酸素を含有し、かつクロム及び酸素を実質的に含有しない材料で形成されることが好ましい。位相シフト膜2の下層21が消衰係数kの大きい材料で形成される必要があるため、上層22は窒素だけでなく酸素も積極的に含有させる必要がある。この点を考慮すると、上層22を形成する材料の酸素含有量は、5原子%よりも多いことが好ましく、10原子%以上であるとより好ましく、12原子%以上であるとさらに好ましい。酸素は、材料中の含有量が多くなるにつれて、その材料の屈折率nおよび消衰係数kをともに低下させる傾向を有する。このため、上層22中の酸素含有量が多くなるにつれて、位相シフト膜2の全体におけるArF露光光に対する所定の透過率と位相差を確保するために必要となる位相シフト膜2の全体での厚さが厚くなっていく。これらの点を考慮すると、上層22を形成する材料の酸素含有量は、30原子%以下であると好ましく、25原子%以下であるとより好ましく、20原子%以下であるとさらに好ましい。
【0052】
窒素は、材料中の含有量が多くなるにつれて、その材料の屈折率nが上がる傾向を有し、消衰係数kが下がる傾向を有する。上層22を形成する材料の窒素含有量は、20原子%以上であると好ましく、25原子%以上であるとより好ましく、30原子%以上であるとさらに好ましい。一方、上層22の形成する材料の窒素含有量は、50原子%以下であると好ましく、45原子%以下であるとより好ましく、40原子%以下であるとさらに好ましい。
【0053】
上層22を形成する材料における金属の含有量[原子%]を金属とケイ素の合計含有量[原子%]で除した比率[%](以下、この比率を「M/[M+Si]比率」という。)は、下層21におけるM/[M+Si]比率よりも小さいことが求められる。材料中のM/[M+Si]比率が0〜約34%の範囲では、M/[M+Si]比率が大きくなるに従い、屈折率nおよび消衰係数kがともに大きくなる傾向がある。上層22は、屈折率nが大きく、消衰係数kが小さい傾向を有する材料を用いる必要があり、材料中のM/[M+Si]比率が小さいものを適用することが好ましい。これに対し、下層21は、屈折率nが小さく、消衰係数kが大きい傾向を有する材料を用いる必要があり、材料中のM/[M+Si]比率がある程度大きいものを適用することが好ましい。
【0054】
下層21におけるM/[M+Si]比率から上層22におけるM/[M+Si]比率を引いた差が少なくとも1%以上であることが好ましい。他方、下層21におけるM/[M+Si]比率から上層22におけるM/[M+Si]比率を引いた差が少なくとも10%以下であることが好ましく、8%以下であるとさらに好ましい。下層21を形成する材料におけるM/[M+Si]比率は、少なくとも8%以上であることが求められ、9%以上であると好ましく、10%以上であるとより好ましい。また、下層21を形成する材料におけるM/[M+Si]比率は、少なくとも20%以下であることが求められ、15%以下であることが好ましく、12%以下であるとより好ましい。
【0055】
位相シフト膜2の透過率および位相シフト量の変動を小さくするという観点から見ると、上層22中に予め酸素を含有させることだけでなく、上層22中の金属含有量を少なくすることが望まれる。しかし、位相シフト膜2の上層22を形成する材料に屈折率nと消衰係数kの両方を大きくすることに寄与する金属元素を含有させないと、位相シフト膜2の全体の厚さが厚くなるという問題が生じる。また、上層22をDCスパッタリング法で成膜する場合、金属シリサイドターゲットの導電性が低いことに起因する欠陥が増加するという問題もある。これらの点を考慮すると、上層22におけるM/[M+Si]比率は2%以上とすることが好ましく、3%以上とするとより好ましい。他方、位相シフト膜2(上層22)の透過率および位相シフト量の変動を小さくという観点から見ると、上層22におけるM/[M+Si]比率は9%以下とすることが好ましく、8%以下とするとより好ましい。
【0056】
下層21を形成する材料と上層22を形成する材料は、ともに同じ金属元素を含有させることが好ましい。上層22と下層21は、同じエッチングガスを用いたドライエッチングによってパターニングされる。このため、上層22と下層21は、同じエッチングチャンバー内でエッチングすることが望ましい。上層22と下層21を形成する各材料に含有している金属元素が同じであると、上層22から下層21へドライエッチングする対象が変わっていくときのエッチングチャンバー内の環境変化を小さくすることができる。
【0057】
位相シフト膜2における下層21および上層22は、スパッタリングによって形成されるが、DCスパッタリング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリングも適用可能である。成膜レートを考慮すると、DCスパッタリングを適用することが好ましい。導電性が低いターゲットを用いる場合においては、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを適用することが好ましいが、成膜レートを考慮すると、RFスパッタリングを適用するとより好ましい。
【0058】
位相シフト膜2における下層21と上層22をスパッタリングでそれぞれ形成する工程においては、下層21と上層22を同じ1つのターゲットによって形成することはできない。下層21と上層22のM/[M+Si]比率が異なるためである。下層21と上層22をM/[M+Si]比率が異なる2つのターゲットでそれぞれ形成する場合、同じ成膜室でそれぞれ形成してもよいし、異なる成膜室でそれぞれ形成してもよい。また、下層21と上層22をケイ素ターゲットと金属シリサイドターゲットを用い、各ターゲットに印加する電圧を変えるスパッタリングによって、M/[M+Si]比率が異なる下層21と上層22を形成してもよい。なお、下層21と上層22を異なる成膜室で形成する場合においては、各成膜室同士をたとえば別の真空室を介して連結する構成とすることが好ましい。この場合、大気中の透光性基板1を真空室内に導入する際に経由させるロードロック室を真空室に連結することが好ましい。また、ロードロック室、真空室および各成膜室の間で透光性基板1を搬送するための搬送装置(ロボットハンド)を設けることが好ましい。
【0059】
上層22は、表層にその表層を除いた部分の上層22よりも酸素含有量が多い層(以下、単に表面酸化層という。)を有することが望ましい。上層22の表面酸化層を形成する方法としては、種々の酸化処理が適用可能である。この酸化処理としては、例えば、大気中などの酸素を含有する気体中における加熱処理、酸素を含有する気体中におけるフラッシュランプ等による光照射処理、オゾンや酸素プラズマを上層22の表層に接触させる処理などがあげられる。特に、位相シフト膜2の膜応力を低減する作用も同時に得られる加熱処理やフラッシュランプ等による光照射処理を用いて、上層22に表面酸化層を形成することが好ましい。上層22の表面酸化層は、厚さが1nm以上であることが好ましく、1.5nm以上であるとより好ましい。また、上層22の表面酸化層は、厚さが5nm以下であることが好ましく、3nm以下であるとより好ましい。なお、上記の上層22の屈折率nおよび消衰係数kは、表面酸化層を含む上層22全体の平均値である。上層22中の表面酸化層の比率はかなり小さいため、表面酸化層の存在が上層22全体の屈折率nおよび消衰係数kに与える影響は小さい。
【0060】
一方、下層21は、ケイ素からなる材料、またはケイ素からなる材料に酸素を除く非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成されてもよい。この下層21は、ケイ素に加え、いずれの半金属元素を含有してもよい。この半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。
【0061】
下層21は、酸素以外の非金属元素を含有してもよい。この非金属元素の中でも、窒素、炭素、フッ素及び水素から選ばれる1以上の元素を含有させると好ましい。この非金属元素には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の希ガスも含まれる。下層21は、積極的に酸素を含有させることをしない(酸素含有量は、X線光電子分光法等による組成分析を行ったときに検出下限値以下であることが好ましい。)。下層21を形成する材料中に酸素を含有させることによって生じる下層21の消衰係数kの低下が他の非金属元素に比べて大きく、位相シフト膜2の裏面反射率を大きく低下させないためである。
【0062】
下層21は、ケイ素および窒素からなる材料、またはケイ素および窒素からなる材料に酸素を除く非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成されていることが好ましい。窒素を含有するケイ素系材料の方が窒素を含有していないケイ素系材料よりもArF露光光に対する耐光性が高くなるためである。また、下層21に位相シフトパターンを形成したときのパターン側壁の酸化が抑制されるためである。ただし、下層21を形成する材料中の窒素含有量が多くなるに従い、屈折率nは大きくなり、消衰係数kは小さくなる。このため、下層21を形成する材料中の窒素含有量は、40原子%以下であることが好ましく、36原子%以下であるとより好ましく、32原子%以下であるとさらに好ましい。
【0063】
上層22は、その表層部分を除き、ケイ素および窒素からなる材料、またはケイ素および窒素からなる材料に酸素を除く非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料で形成される。上層22の表層部分とは、上層22の下層21側とは反対側の表層部分のことをいう。成膜装置で透光性基板1上に位相シフト膜2を成膜し終えた後、膜表面の洗浄処理が行われる。この上層22の表層部分は、洗浄処理時に洗浄液やリンス液に晒されるため、成膜時の組成に関わらず酸化が進むことが避け難い。また、位相シフト膜2が大気中に晒されることや大気中で加熱処理を行ったことによっても上層22の表層部分の酸化が進む。上記のとおり、上層22は屈折率nが大きい材料であるほど好ましい。材料中の酸素含有量が増加するに従って屈折率nは低下する傾向があるため、表層部分を除き、成膜時において上層22に酸素を積極的に含有させることはしない(酸素含有量は、X線光電子分光法等による組成分析を行ったときに検出下限値以下であることが好ましい。)。これらのことから、上層22の表層部分は、表層部分を除く上層22を形成する材料に酸素を加えた材料で形成されることになる。なお、上層22の表層部分は、上記の種々の酸化処理で形成してもよい。
【0064】
上層22は、ケイ素に加え、いずれの半金属元素を含有してもよい。この半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。
【0065】
上層22は、酸素以外の非金属元素を含有してもよい。この非金属元素の中でも、窒素、炭素、フッ素及び水素から選ばれる1以上の元素を含有させると好ましい。この非金属元素には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の希ガスも含まれる。上層22は屈折率nが大きい材料であるほど好ましく、ケイ素系材料は窒素含有量が多くなるほど屈折率nが大きくなる傾向がある。このため、上層22を形成する材料に含まれる半金属元素と非金属元素の合計含有量は10原子%以下であることが好ましく、5原子%以下であるとより好ましく、積極的に含有させないとさらに好ましい。他方、上記の理由から、上層22を形成する材料中の窒素含有量は、少なくとも下層21を形成する材料中の窒素含有量よりも多いことが求められる。上層22を形成する材料中の窒素含有量は、50原子%よりも多いことが好ましく、52原子%以上であるとより好ましく、55原子%以上であるとさらに好ましい。
【0066】
下層21を形成する材料と表層部分を除く上層22を形成する材料は、ともに同じ元素で構成されていることが好ましい。上層22と下層21は、同じエッチングガスを用いたドライエッチングによってパターニングされる。このため、上層22と下層21は、同じエッチングチャンバー内でエッチングすることが望ましい。上層22と下層21を形成する各材料を構成している元素が同じであると、上層22から下層21へとドライエッチングする対象が変わっていくときのエッチングチャンバー内の環境変化を小さくすることができる。同じエッチングガスによるドライエッチングで位相シフト膜2がパターニングされるときにおける、上層22のエッチングレートに対する下層21のエッチングレートの比率は、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であるとより好ましい。また、同じエッチングガスによるドライエッチングで位相シフト膜2がパターニングされるときにおける、上層22のエッチングレートに対する下層21のエッチングレートの比率は、1.0以上であることが好ましい。
【0067】
マスクブランク100は、位相シフト膜2上に遮光膜3を備える。一般に、バイナリ型の転写用マスクでは、転写パターンが形成される領域(転写パターン形成領域)の外周領域は、露光装置を用いて半導体ウェハ上のレジスト膜に露光転写した際に外周領域を透過した露光光による影響をレジスト膜が受けないように、所定値以上の光学濃度(OD)を確保することが求められている。この点については、位相シフトマスクの場合も同じである。通常、位相シフトマスクを含む転写用マスクの外周領域では、ODが2.8以上であると好ましく、3.0以上であるとより好ましい。位相シフト膜2は所定の透過率で露光光を透過する機能を有しており、位相シフト膜2だけでは所定値の光学濃度を確保することは困難である。このため、マスクブランク100を製造する段階で位相シフト膜2の上に、不足する光学濃度を確保するために遮光膜3を積層しておくことが必要とされる。このようなマスクブランク100の構成とすることで、位相シフトマスク200(
図2参照)を製造する途上で、位相シフト効果を使用する領域(基本的に転写パターン形成領域)の遮光膜3を除去すれば、外周領域に所定値の光学濃度が確保された位相シフトマスク200を製造することができる。
【0068】
遮光膜3は、少なくとも位相シフト膜2(上層22)に接する層を含む。遮光膜3が単層構造の場合、その単層の遮光膜3自体が位相シフト膜2(上層22)に接する層に相当する。また、遮光膜3が2層以上の積層構造の場合、最下層が位相シフト膜2(上層22)に接する層に相当する。遮光膜3の位相シフト膜2に接する層は、位相シフト膜2にパターンを形成する際に用いられるエッチングガスに対して十分なエッチング選択性を有する材料を適用する必要がある。このため、遮光膜3の位相シフト膜2に接する層は、クロムを含有する材料で形成される。遮光膜3の位相シフト膜2に接する層を形成するクロムを含有する材料としては、クロム金属のほか、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が挙げられる。
【0069】
一般に、クロム系材料は、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスでエッチングされるが、クロム金属はこのエッチングガスに対するエッチングレートがあまり高くない。塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスのエッチングガスに対するエッチングレートを高める点を考慮すると、遮光膜3を形成する材料としては、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が好ましい。また、遮光膜3を形成するクロムを含有する材料にモリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させてもよい。モリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させることで、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスに対するエッチングレートをより速くすることができる。
【0070】
遮光膜3の位相シフト膜2に接する層は、位相シフト膜2の上層22の屈折率nよりも小さいことが必要とされる。遮光膜3の位相シフト膜2に接する層の屈折率nは、2.00以下であると好ましく、2.00未満であるとより好ましく、1.95以下であるとさらに好ましい。さらに、遮光膜3の位相シフト膜2に接する層は、位相シフト膜2の上層22の消衰係数kよりも大きいことが必要とされる。遮光膜3の位相シフト膜2に接する層の消衰係数kは、1.00以上であると好ましく、1.10以上であるとより好ましく、1.20以上であるとさらに好ましい。位相シフト膜2の下層21および上層22と遮光膜3の位相シフト膜2に接する層が、上記の光学特性を有することにより、ArF露光光に対する裏面反射率を30%以上とすることができる。これにより、位相シフト膜2中のケイ素原子の光励起を抑制でき、遮光膜3中のクロム原子の光励起を抑制できる。
【0071】
遮光膜3が2層以上の積層構造の場合、遮光膜3の位相シフト膜2に接する層(最下層)以外の層は、種々の材料が適用可能である。遮光膜3の最下層以外の層は、上記のクロムを含有する材料が適用可能である。また、遮光膜3の最下層以外の層は、遷移金属とケイ素を含有する材料で形成してもよい。遷移金属とケイ素を含有する材料は遮光性能が高く、遮光膜3の厚さを薄くすることが可能となるためである。遮光膜3の最下層以外の層に含有させる遷移金属としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等のいずれか1つの金属またはこれらの金属の合金が挙げられる。遮光膜3の最下層以外の層に含有させる遷移金属元素以外の金属元素としては、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびガリウム(Ga)などが挙げられる。
【0072】
マスクブランク100において、遮光膜3をエッチングするときに用いられるエッチングガスに対してエッチング選択性を有する材料で形成されたハードマスク膜4を遮光膜3の上にさらに積層させた構成とすると好ましい。ハードマスク膜4は、基本的に光学濃度の制限を受けないため、ハードマスク膜4の厚さは遮光膜3の厚さに比べて大幅に薄くすることができる。そして、有機系材料のレジスト膜は、このハードマスク膜4にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能するだけの膜の厚さがあれば十分であるので、従来よりも大幅に厚さを薄くすることができる。レジスト膜の薄膜化は、レジスト解像度の向上とパターン倒れ防止に効果があり、微細化要求に対応していく上で極めて重要である。
【0073】
このハードマスク膜4は、遮光膜3の全体がクロムを含有する材料で形成されている場合は、ケイ素を含有する材料で形成されることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、有機系材料のレジスト膜との密着性が低い傾向があるため、ハードマスク膜4の表面をHMDS(Hexamethyldisilazane)処理を施し、表面の密着性を向上させることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、SiO
2、SiN、SiON等で形成されるとより好ましい。
【0074】
また、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合におけるハードマスク膜4の材料として、前記のほか、タンタルを含有する材料も適用可能である。この場合におけるタンタルを含有する材料としては、タンタル金属のほか、タンタルに窒素、酸素、ホウ素および炭素から選らばれる一以上の元素を含有させた材料などが挙げられる。たとえば、Ta、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO、TaBON、TaCN、TaCO、TaCON、TaBCN、TaBOCNなどが挙げられる。また、ハードマスク膜4は、遮光膜3の最下層以外の層がケイ素を含有する材料で形成されている場合、前記のクロムを含有する材料で形成されることが好ましい。
【0075】
マスクブランク100において、ハードマスク膜4の表面に接して、有機系材料のレジスト膜が100nm以下の膜厚で形成されていることが好ましい。DRAM hp32nm世代に対応する微細パターンの場合、ハードマスク膜4に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)に、線幅が40nmのSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)が設けられることがある。しかし、この場合でも、レジストパターンの断面アスペクト比が1:2.5と低くすることができるので、レジスト膜の現像時、リンス時等にレジストパターンが倒壊や脱離することを抑制できる。なお、レジスト膜は、膜厚が80nm以下であるとより好ましい。
【0076】
図2に、上記実施形態のマスクブランク100から製造される本発明の実施形態に係る位相シフトマスク200とその製造工程を示す。
図2(g)に示されているように、位相シフトマスク200は、マスクブランク100の位相シフト膜2に転写パターンである位相シフトパターン2aが形成され、遮光膜3に遮光パターン3bが形成されていることを特徴としている。マスクブランク100にハードマスク膜4が設けられている構成の場合、この位相シフトマスク200の作成途上でハードマスク膜4は除去される。
【0077】
本発明の実施形態に係る位相シフトマスク200の製造方法は、前記のマスクブランク100を用いるものであり、ドライエッチングにより遮光膜3に転写パターンを形成する工程と、転写パターンを有する遮光膜3をマスクとするドライエッチングにより位相シフト膜2に転写パターンを形成する工程と、遮光パターンを有するレジスト膜である第2のレジストパターン6bをマスクとするドライエッチングにより遮光膜3に遮光パターン3bを形成する工程とを備えることを特徴としている。以下、
図2に示す製造工程にしたがって、本発明の位相シフトマスク200の製造方法を説明する。なお、ここでは、遮光膜3の上にハードマスク膜4が積層したマスクブランク100を用いた位相シフトマスク200の製造方法について説明する。また、ここでは、位相シフト膜2に接する層を含む遮光膜3のすべての層にクロムを含有する材料を適用し、ハードマスク膜4にケイ素を含有する材料を適用した場合について述べる。
【0078】
まず、マスクブランク100におけるハードマスク膜4に接して、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。次に、レジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)である第1のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、位相シフトパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(
図2(a)参照)。続いて、第1のレジストパターン5aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(
図2(b)参照)。
【0079】
次に、第1のレジストパターン5aを除去してから、ハードマスクパターン4aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成する(
図2(c)参照)。続いて、遮光パターン3aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつハードマスクパターン4aを除去した(
図2(d)参照)。
【0080】
次に、マスクブランク100上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜3に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(
図2(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(
図2(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(
図2(g)参照)。
【0081】
前記のドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、Clが含まれていれば特に制限はない。たとえば、Cl
2、SiCl
2、CHCl
3、CH
2Cl
2、CCl
4、BCl
3等があげられる。また、前記のドライエッチングで使用されるフッ素系ガスとしては、Fが含まれていれば特に制限はない。たとえば、CHF
3、CF
4、C
2F
6、C
4F
8、SF
6等があげられる。特に、Cを含まないフッ素系ガスは、ガラス基板に対するエッチングレートが比較的低いため、ガラス基板へのダメージをより小さくすることができる。
【0082】
本発明の位相シフトマスク200は、前記のマスクブランク100を用いて作製されたものである。このため、転写パターンが形成された位相シフト膜2(位相シフトパターン2a)はArF露光光に対する透過率が2%以上30%以下の範囲内であり、かつ位相シフトパターン2aを透過した露光光と位相シフトパターン2aの厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間における位相差が150度以上200度以下(より好ましくは150度以上180度以下)の範囲内となっている。また、この位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの透光性基板1上の領域における裏面反射率が30%以上になっている。これにより、位相シフトパターン2a中のケイ素原子の光励起を抑制でき、遮光パターン3b中のクロム原子の光励起を抑制できる。さらに、遮光パターン3b中のクロム原子が位相シフトパターン2a中に移動する現象であるクロムマイグレーションを抑制できる。
【0083】
位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの透光性基板1上の領域における裏面反射率が45%以下であると好ましい。位相シフトマスク200を用いて転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)へ露光転写を行ったときに、位相シフトパターン2aの裏面側の反射光によって露光転写像に与える影響が大きくならない範囲とするためである。
【0084】
本発明の半導体デバイスの製造方法は、前記の位相シフトマスク200を用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴としている。位相シフトマスク200の位相シフトパターン2aは、クロムマイグレーションによる影響が大幅に抑制できている。このため、この位相シフトマスク200を露光装置にセットし、その位相シフトマスク200の透光性基板1側からArF露光光を照射して転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)へ露光転写する工程を継続して行っても、高い精度で転写対象物に所望のパターンを転写し続けることができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
[マスクブランクの製造]
主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.35mmの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面を所定の表面粗さに研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理を施されたものである。この透光性基板1の光学特性を測定したところ、屈折率nが1.56、消衰係数kが0.00であった。
【0086】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=11原子%:89原子%)を用い、アルゴン(Ar)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、透光性基板1上に、モリブデンおよびケイ素からなる位相シフト膜2の下層21(MoSi膜)を7nmの厚さで形成した。
【0087】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に下層21が成膜された透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=4原子%:96原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N
2)、酸素(O
2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、下層21上に、モリブデン、ケイ素、窒素および酸素からなる位相シフト膜2の上層22(MoSiON膜)を72nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を79nmの厚さで形成した。
【0088】
次に、この位相シフト膜2が形成された透光性基板1に対して、位相シフト膜2の膜応力を低減するため、および表層に酸化層を形成するための加熱処理を行った。具体的には、加熱炉(電気炉)を用いて、大気中で加熱温度を450℃、加熱時間を1時間として、加熱処理を行った。別の透光性基板1の主表面に対して、同条件で下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を成膜し、加熱処理を行ったものを準備した。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.0%、位相差が170.0度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEM(Scanning Electron Microscope)とEDX(Energy Dispersive X-Ray Spectroscopy)で分析したところ、位相シフト膜2の上層22の表面から約1.7nm程度の厚さで酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2の下層21および上層22の各光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが1.15、消衰係数kが2.90であり、上層22は、屈折率nが2.38、消衰係数kが0.31であった。
【0089】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に位相シフト膜2が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO
2)、窒素(N
2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、位相シフト膜2上にCrOCNからなる遮光膜3(CrOCN膜 Cr:O:C:N=55原子%:22原子%:12原子%:11原子%)を46nmの厚さで形成した。このマスクブランク100は、透光性基板1上に位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態における波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は40.9%であった。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。また、別の透光性基板1を準備し、同じ成膜条件で遮光膜3のみを成膜し、その遮光膜3の光学特性を測定したところ、屈折率nが1.95、消衰係数kが1.53であった。なお、遮光膜3の組成は、X線光電子分光法(XPS)による測定によって得られた結果である。以下、他の膜に関しても同様である。
【0090】
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に、位相シフト膜2および遮光膜3が積層された透光性基板1を設置し、二酸化ケイ素(SiO
2)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとし、RFスパッタリングにより遮光膜3の上に、ケイ素および酸素からなるハードマスク膜4を5nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1上に、2層構造の位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備えるマスクブランク100を製造した。
【0091】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例1のマスクブランク100を用い、以下の手順で実施例1の位相シフトマスク200を作製した。最初に、ハードマスク膜4の表面にHMDS処理を施した。続いて、スピン塗布法によって、ハードマスク膜4の表面に接して、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚80nmで形成した。次に、このレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき位相シフトパターンである第1のパターンを電子線描画し、所定の現像処理および洗浄処理を行い、第1のパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(
図2(a)参照)。
【0092】
次に、第1のレジストパターン5aをマスクとし、CF
4ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(
図2(b)参照)。
【0093】
次に、第1のレジストパターン5aを除去した。続いて、ハードマスクパターン4aをマスクとし、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl
2:O
2=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成した(
図2(c)参照)。次に、遮光パターン3aをマスクとし、フッ素系ガス(SF
6+He)を用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつ同時にハードマスクパターン4aを除去した(
図2(d)参照)。
【0094】
次に、遮光パターン3a上に、スピン塗布法によって、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚150nmで形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜に形成すべきパターン(遮光帯パターン)である第2のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(
図2(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl
2:O
2=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターンを形成した(
図2(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(
図2(g)参照)。
【0095】
作製した実施例1の位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cm
2となるように間欠照射する照射処理を行った。この照射処理を行った後の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。以上のことから、この実施例1のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を積算照射量が40kJ/cm
2となるまで行っても、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができるといえる。
【0096】
さらに、この実施例1の位相シフトマスク200の照射処理を行った領域の位相シフトパターン2aに対し、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)による測定を行った。その結果、位相シフトパターン2aのクロム含有量は微小であることがわかった。以上のことから、この実施例1のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aに対してArFエキシマレーザーの露光光が照射されても、遮光パターン3b内のクロムが位相シフトパターン2a内に移動する現象(クロムマイグレーション)を十分に抑制できるといえる。
【0097】
(実施例2)
[マスクブランクの製造]
実施例2のマスクブランク100は、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この実施例2の位相シフト膜2は、下層21と上層22を形成する材料と膜厚をそれぞれ変更している。具体的には、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=11原子%:89原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N
2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、透光性基板1上に、モリブデン、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の下層21(MoSiN膜)を7nmの厚さで形成した。
【0098】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に下層21が成膜された透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=8原子%:92原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N
2)、酸素(O
2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、下層21上に、モリブデン、ケイ素、窒素および酸素からなる位相シフト膜2の上層22(MoSiON膜)を88nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を95nmの厚さで形成した。
【0099】
また、実施例1と同様の処理条件で、この実施例2の位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。別の透光性基板1の主表面に対して、同条件でこの実施例2の位相シフト膜2を成膜し、加熱処理を行ったものを準備した。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.0%、位相差が170.4度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、位相シフト膜2の上層22の表面から約1.6nm程度の厚さで酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2の下層21および上層22の各光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが1.34、消衰係数kが2.79であり、上層22は、屈折率nが2.13、消衰係数kが0.28であった。
【0100】
以上の手順により、透光性基板1上に、MoSiNの下層21とMoSiONの上層22とからなる位相シフト膜2、CrOCNの単層構造からなる遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例2のマスクブランク100を製造した。このマスクブランク100は、透光性基板1上に位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態における波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は36.5%であった。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
【0101】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例2のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例2の位相シフトマスク200を作製した。
【0102】
作製した実施例2の位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cm
2となるように間欠照射する照射処理を行った。この照射処理を行った後の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。以上のことから、この実施例2のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を積算照射量が40kJ/cm
2となるまで行っても、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができるといえる。
【0103】
さらに、この実施例2のハーフトーン型位相シフトマスク200の照射処理を行った領域の位相シフトパターン2aに対し、二次イオン質量分析法(SIMS)による測定を行った。その結果、位相シフトパターン2aのクロム含有量は微小であることがわかった。以上のことから、この実施例2のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aに対してArFエキシマレーザーの露光光が照射されても、遮光パターン3b内のクロムが位相シフトパターン2a内に移動する現象(クロムマイグレーション)を十分に抑制できるといえる。
【0104】
(実施例3)
[マスクブランクの製造]
実施例3のマスクブランク100は、遮光膜3以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この実施例3の遮光膜3は、位相シフト膜2側から最下層(位相シフト膜2に接する層)と上層が積層した構造からなる。具体的には、枚葉式DCスパッタ装置内に位相シフト膜2が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、窒素(N
2)、二酸化炭素(CO
2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、位相シフト膜2上に、クロム、酸素、窒素および炭素からなる遮光膜3の最下層(CrOCN膜 Cr:O:C:N=49原子%:24原子%:13原子%:14原子%)を47nmの厚さで形成した。続いて、同じくクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)と窒素(N
2)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、最下層の上に、クロムおよび窒素からなる遮光膜3の上層(CrN膜 Cr:N=76原子%:24原子%)を5nmの厚さで形成した。
【0105】
以上の手順により、透光性基板上に、MoSiの下層21とMoSiONの上層22とからなる位相シフト膜2、CrOCNの最下層とCrNの上層とからなる遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例3のマスクブランク100を製造した。このマスクブランク100は、透光性基板1上に位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態における波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は40.9%であった。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。また、別の透光性基板1を準備し、同じ成膜条件で遮光膜3のみを成膜し、その遮光膜3の光学特性を測定した。その結果、遮光膜3の最下層は、屈折率nが1.78、消衰係数kが1.20であった。また、遮光膜3の上層は、屈折率nが1.55、消衰係数kが1.68であった。
【0106】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例3のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例3の位相シフトマスク200を作製した。
【0107】
作製した実施例3の位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cm
2となるように間欠照射する照射処理を行った。この照射処理を行った後の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。以上のことから、この実施例3のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を積算照射量が40kJ/cm
2となるまで行っても、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができるといえる。
【0108】
さらに、この実施例3のハーフトーン型位相シフトマスク200の照射処理を行った領域の位相シフトパターン2aに対し、二次イオン質量分析法(SIMS)による測定を行った。その結果、位相シフトパターン2aのクロム含有量は微小であることがわかった。以上のことから、この実施例3のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aに対してArFエキシマレーザーの露光光が照射されても、遮光パターン3b内のクロムが位相シフトパターン2a内に移動する現象(クロムマイグレーション)を十分に抑制できるといえる。
【0109】
(実施例4)
[マスクブランクの製造]
実施例4のマスクブランク100は、遮光膜3以外については、実施例2と同様の手順で製造した。この実施例4の遮光膜3は、実施例3の遮光膜3と同じものを用いた。以上の手順により、透光性基板上に、MoSiNの下層21とMoSiONの上層22とからなる位相シフト膜2、CrOCNの最下層とCrNの上層とからなる遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例4のマスクブランク100を製造した。このマスクブランク100は、透光性基板1上に位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態における波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は34.9%であった。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
【0110】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例4のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例4の位相シフトマスク200を作製した。
【0111】
作製した実施例4の位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cm
2となるように間欠照射する照射処理を行った。この照射処理を行った後の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。以上のことから、この実施例4のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を積算照射量が40kJ/cm
2となるまで行っても、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができるといえる。
【0112】
さらに、この実施例4のハーフトーン型位相シフトマスク200の照射処理を行った領域の位相シフトパターン2aに対し、二次イオン質量分析法(SIMS)による測定を行った。その結果、位相シフトパターン2aのクロム含有量は微小であることがわかった。以上のことから、この実施例4のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aに対してArFエキシマレーザーの露光光が照射されても、遮光パターン3b内のクロムが位相シフトパターン2a内に移動する現象(クロムマイグレーション)を十分に抑制できるといえる。
【0113】
(実施例5)
[マスクブランクの製造]
実施例5のマスクブランク100は、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この実施例5の位相シフト膜2は、下層21と上層22を形成する材料と膜厚をそれぞれ変更している。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとするRFスパッタリングにより、透光性基板1の表面に接してケイ素からなる位相シフト膜2の下層21(Si膜)を8nmの厚さで形成した。続いて、ケイ素(Si)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N
2)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、下層21上に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の上層22(SiN膜 Si:N=43原子%:57原子%)を63nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を71nmの厚さで形成した。
【0114】
さらに、この位相シフト膜2が形成された透光性基板1に対して、位相シフト膜2の膜応力を低減するため、および表層部分に酸化層を形成するための加熱処理を行った。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜2の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.1%、位相差が177.0度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、上層22の表面から約2nm程度の厚さの表層部分で酸化層が形成されていることが確認された。
【0115】
以上の手順により、透光性基板1上に、Siの下層21とSiNの上層22とからなる位相シフト膜2、CrOCNの単層構造からなる遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例5のマスクブランク100を製造した。このマスクブランク100は、透光性基板1上に位相シフト膜2と遮光膜3が積層した状態における波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は42.7%であった。この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。また、別の透光性基板1を準備し、同じ成膜条件で位相シフト膜2のみを成膜し、その位相シフト膜2の光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが1.06、消衰係数kが2.72であり、上層22は、屈折率nが2.63、消衰係数kが0.37であった。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例5のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例5の位相シフトマスク200を作製した。
【0116】
作製した実施例5の位相シフトマスク200における遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cm
2となるように間欠照射する照射処理を行った。この照射処理を行った後の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。以上のことから、この実施例5のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を積算照射量が40kJ/cm
2となるまで行っても、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができるといえる。
【0117】
さらに、この実施例5のハーフトーン型位相シフトマスク200の照射処理を行った領域の位相シフトパターン2aに対し、二次イオン質量分析法(SIMS)による測定を行った。その結果、位相シフトパターン2aのクロム含有量は微小であることがわかった。以上のことから、この実施例5のマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200は、遮光パターン3bが積層している位相シフトパターン2aに対してArFエキシマレーザーの露光光が照射されても、遮光パターン3b内のクロムが位相シフトパターン2a内に移動する現象(クロムマイグレーション)を十分に抑制できるといえる。
【0118】
(比較例1)
[マスクブランクの製造]
この比較例1のマスクブランクは、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この比較例1の位相シフト膜は、モリブデン、ケイ素および窒素からなる単層構造の膜を適用した。具体的には、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合焼結ターゲット(Mo:Si=11原子%:89原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N
2)およびヘリウム(He)の混合ガスをスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、モリブデン、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2を69nmの厚さで形成した。
【0119】
また、実施例1と同様の処理条件で、この位相シフト膜に対しても加熱処理を行った。別の透光性基板1の主表面に対して、同条件でこの比較例1の位相シフト膜を成膜し、加熱処理を行ったものを準備した。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM193)を用いて、その位相シフト膜の波長193nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が6.1%、位相差が177.0度(deg)であった。また、位相シフト膜に対して、STEMとEDXで分析したところ、位相シフト膜の表面から約2nm程度の厚さで酸化層が形成されていることが確認された。
【0120】
以上の手順により、透光性基板1上に、MoSiNからなる位相シフト膜、CrOCNの単層構造からなる遮光膜およびハードマスク膜が積層した構造を備える比較例1のマスクブランクを製造した。このマスクブランクは、透光性基板1上に位相シフト膜と遮光膜が積層した状態における波長193nmの光に対する裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は11.0%であった。この位相シフト膜と遮光膜の積層構造における波長193nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。また、別の透光性基板を準備し、同じ成膜条件で位相シフト膜のみを成膜し、その位相シフト膜の各光学特性を測定したところ、屈折率nが2.39、消衰係数kが0.57であった。
【0121】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例1のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例1の位相シフトマスクを作製した。
【0122】
作製した比較例1の位相シフトマスクにおける遮光パターンが積層している位相シフトパターンの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cm
2となるように間欠照射する照射処理を行った。この照射処理を行った後の位相シフトマスクに対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、設計仕様を満たせていなかった。以上のことから、この比較例1のマスクブランクから製造された位相シフトマスクは、露光装置にセットしてArFエキシマレーザーの露光光による露光転写を積算照射量が40kJ/cm
2となるまで行うと、半導体デバイス上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができなくなるといえる。
【0123】
さらに、比較例1の位相シフトマスクにおける遮光パターンが積層している位相シフトパターンの領域に対し、ArFエキシマレーザー光を積算照射量が40kJ/cm
2となるように間欠照射する照射処理を行った。照射処理を行った領域の位相シフトパターンに対し、二次イオン質量分析法(SIMS)を行った。その結果、位相シフトパターンのクロム含有量は各実施例での結果に比べて大幅に増加していた。この結果から、この比較例1のマスクブランクから製造された位相シフトマスクは、遮光パターンが積層している位相シフトパターンに対してArFエキシマレーザーの露光光が照射された際、遮光パターン内のクロムが位相シフトパターン内に移動することを抑制できないといえる。
マスクブランク(100)は、透光性基板(1)上に位相シフト膜(2)及び遮光膜(3)がこの順に積層した構造を備え、前記位相シフト膜は、ArF露光光を2%以上30%以下の透過率で透過させる機能と、その透過するArF露光光に対して150度以上200度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、ケイ素を含有し、クロムを実質的に含有しない材料で形成され、前記透光性基板側から下層(21)と上層(22)が積層した構造を含み、前記下層は前記透光性基板よりも屈折率nが小さく、前記上層は前記透光性基板よりも屈折率nが大きく、前記下層は前記上層よりも消衰係数kが大きく、前記遮光膜は前記位相シフト膜に接する層を含み、前記位相シフト膜に接する層はクロムを含有する材料からなり、前記上層よりも屈折率nが小さく、かつ前記上層よりも消衰係数kが大きい。