(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一対のビード部にそれぞれ埋設された一対のビードコア間に延在する少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスを骨格とし、該カーカスのサイドウォール部のタイヤ幅方向内側にサイド補強ゴムを備え、該カーカスおよび該ビードコアのタイヤ幅方向外側にゴムチェーファーが配置されてなる空気入り安全タイヤにおいて、
タイヤ幅方向断面において、前記サイド補強ゴムの面積をS1、前記ゴムチェーファーの面積をS2としたとき、下記式(1)、
0.7≦S2/S1≦2.50 (1)
を満足し、前記カーカスプライが、前記ビードコアの周りに内側から外側に折り返され巻き付けられて係止されているか、または、分割された前記ビードコアにより挟持されて係止されており、かつ、前記カーカスプライの補強コードがポリエステル繊維および/またはアラミド繊維からなることを特徴とする空気入り安全タイヤ。
前記カーカスプライの補強コードが、エポキシ化合物を含むエポキシ系接着剤を1浴処理液として用いるとともに、ブロックドイソシアネート化合物およびレゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含む接着剤を2浴処理液として用いて接着剤処理されてなる請求項3記載の空気入り安全タイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1(a)〜(c)に、本発明の空気入り安全タイヤの一例を示す幅方向片側断面図を示す。図示するように、本発明の空気入り安全タイヤは、一対のビード部11にそれぞれ埋設された一対のビードコア1間に延在する少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカス2を骨格とする。図示するタイヤは、カーカス2のクラウン部タイヤ半径方向外側に2枚のベルト層3を備え、カーカス2のサイドウォール部12のタイヤ幅方向内側に断面略三日月状のサイド補強ゴム4を備える、いわゆるサイド補強タイプの安全タイヤである。
【0013】
図示するように、本発明のタイヤにおいては、カーカスプライ2が、分割されたビードコア1により挟持されて係止されるか(図中の(a))、または、ビードコア1の周りに内側から外側に折り返され巻き付けられて係止される(図中の(b),(c))構造を有している。このうち図中の(b)は、折り返されたカーカスプライ2をビードコア1の周りに巻き付けて、その端部をビードコア1に沿って巻き込んだ構造を示し、図中の(c)は、折り返されたカーカスプライ2の端部をビードコア1の周りに巻き付けた後、その端部をビードコア1間に延在するカーカスプライ2の本体部に沿って巻き上げた構造を示す。すなわち、本発明のタイヤにおいては、ビードコア1のタイヤ半径方向外側に、断面先細り状のビードフィラーが配置されておらず、ビードフィラーに代えて、カーカス2およびビードコア1のタイヤ幅方向外側に、ゴムチェーファー5が配置されている。ビードフィラーを配置しないものとしたことで、ビード部近傍におけるカーカスプライへの圧縮入力が極めて小さくなるので、繰り返し圧縮入力に伴うコード強力の低下についても極めて小さく抑えることができ、結果としてタイヤ耐久性を向上することができる。なお、本発明のタイヤにおいては、ビードフィラーに代えてゴムチェーファーが配置されているものであれば、カーカスプライ2の端部の係止構造については、図示する例には限定されない。
【0014】
図示するように、本発明のタイヤにおいては、タイヤ幅方向断面において、サイド補強ゴム4の面積をS1、ゴムチェーファー5の面積をS2としたとき、下記式(1)、
0.10≦S2/S1≦2.50 (1)
を満足する点が重要である。これは、以下のような理由による。
【0015】
すなわち、タイヤの内圧が低下したときに車両の荷重を支持するためには、タイヤのサイドウォール部およびビード部の剛性を高める必要がある。サイドウォール部の剛性を高めるためには、タイヤ最大幅近傍において、カーカスプライのタイヤ幅方向内側に、断面略三日月状のサイド補強ゴム4を配置することが効果的である。また、ビード部の剛性を高めるためには、カーカスプライ2とビードコア1とが隣接する箇所の近傍、および、リムとタイヤとが接触する箇所の近傍に、弾性率の高いゴムを挿入することが効果的である。この際、本発明の構造においては、サイドウォール部の剛性はサイド補強ゴム4の面積S1により制御することができ、ビード部の剛性はゴムチェーファー5の面積S2により制御できると考えられる。
【0016】
かかる観点から、本発明者はさらに検討した結果、上記サイド補強ゴム4の面積S1と、ゴムチェーファー5の面積S2との関係を上記式(1)に従い規定することで、サイドウォール部およびビード部の剛性をバランスよく高めて、内圧低下時においても安定して荷重を支持できるタイヤが得られることを見出したものである。S2/S1の値が0.10より小さいと、ビード部の相対的な剛性が低下して、ビード部近傍でタイヤが早期に故障するおそれがある。また、S2/S1の値が2.50より大きいと、サイドウォール部のたわみが増大して、発熱によるゴム破壊によりタイヤが早期に故障するおそれがある。好適には、本発明のタイヤは、下記式(2)、
0.20≦S2/S1≦2.0 (2)
を満足し、さらに好適には、下記式(3)、
0.50≦S2/S1≦1.5 (3)
を満足するものとする。これにより、ランフラット走行時におけるタイヤ耐久性をより高めることができる。
【0017】
本発明のタイヤにおいては、タイヤ幅方向断面において、サイド補強ゴム4の面積S1およびゴムチェーファー5の面積S2が上記式(1)、好適にはさらに上記式(2)、より好適にはさらに上記式(3)を満足するものであればよく、サイド補強ゴム4およびゴムチェーファー5のそれぞれを構成するゴム組成物の具体的配合やその物性等については、特に制限されるものではない。
【0018】
ここで、図示するように、サイド補強ゴム4は、タイヤのカーカスプライ2とインナーライナー(図示せず)との間に、ベルト3の端部からタイヤ最大幅部を超えてビード部11まで配設される。また、本発明において、サイド補強ゴム4は、1種のゴム組成物で構成されている場合に限定されず、実質的に複数種のゴムの積層構造や組み合わせ構造からなっていてもよい。また、サイド補強ゴム4は、図示するような断面略三日月状の形状には限られない。さらに、ゴムチェーファー5は、下端部がビードコア1のタイヤ半径方向外側端よりもタイヤ半径方向内側であって、上端部がタイヤ断面高さの10〜70%の範囲の位置である領域に配置される。ここで、タイヤ断面高さとは、タイヤを適用リムに組み付けて、規定の空気圧を充填した際における、無負荷状態でのタイヤ半径方向の高さを意味する。また、規格とは、後述する、タイヤが生産または使用される地域において有効な産業規格である。
【0019】
また、本発明においては、カーカスプライ2の補強コードが、ポリエステル繊維および/またはアラミド繊維からなる。カーカスプライ2の補強コードとして、ポリエステル繊維コード、アラミド繊維コードまたはポリエステル繊維とアラミド繊維とのハイブリッドコードを用いることで、これらの繊維は重量当たりの強度および剛性が高いことから、より少ないコードおよびゴムによりタイヤの強度を保持しつつ、タイヤの真円性を確保して、タイヤ形状保持に優れた効果を得ることができる。ポリエステル繊維としては、具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等を挙げることができる。中でも、本発明においては、カーカスプライ2の補強コードとして、PET,PENおよびアラミド繊維を好適に用いることができる。特に、PENは、剛直な分子構造を有することから、タイヤの形状保持性を高めることができる。
【0020】
本発明においては、かかるカーカスプライ2の補強コードが、エポキシ化合物を含む前処理液または接着剤液で処理されてなることが好ましい。ポリエステル繊維およびアラミド繊維を用いた補強コードを、エポキシ化合物を含む前処理液または接着剤液で処理して用いることで、ゴムと補強コードとの接着性を向上して、タイヤ耐久性の向上に寄与することができ、好ましい。このうち、本発明に用いるエポキシ化合物を含む前処理液としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物の1種または2種以上の混合物であるエポキシ化合物を含有するものが好適である。より具体的には、ハロゲン含有のエポキシ類が好ましく、例えば、エピクロルヒドリン多価アルコールまたは多価フェノールとの合成によって得られるものを挙げることができ、グリセロールポリグリシジルエーテルなどの化合物が好ましい。このようなエポキシ化合物を含む前処理液の繊維表面への付着量としては、0.05〜1.5質量%、好適には0.10〜1.0質量%の範囲である。前処理液には、平滑剤、乳化剤、帯電防止剤、その他の添加剤等を必要に応じて混合してもよい。かかる前処理液は、ポリエステル繊維ないしアラミド繊維の表面に付着させて用いることができる。
【0021】
本発明に用いるエポキシ化合物を含む接着剤液は、具体的には、エポキシ化合物として、1分子中に2個以上、好ましくは4個以上のエポキシ基を含む化合物、好適には、エポキシ基を含む化合物、または、多価アルコール類とエピクロルヒドリンとの反応生成物を含有することが好ましい。エポキシ化合物の具体例としては、例えば、ジエチレングリコール・ジグリシジルエーテル、ポリエチレン・ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール・ジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコール・ジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオール・ジグリシジルエーテル、グリセロール・ポリグリシジルエーテル、ジグリセロール・トリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパン・ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ペンタエリチオール・ポリグリシジルエーテル、ジグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ソルビトール・ポリグリシジルエーテル、などの多価アルコール類とエピクロルヒドリンの反応生成物;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0022】
エポキシ化合物を含む接着剤液には、エポキシ化合物の他、当業界においてエポキシ系接着剤に用いられる各種配合成分を配合することができる。
【0023】
より好ましくは、本発明においては、カーカスプライ2の補強コードが、エポキシ化合物を含むエポキシ系接着剤を1浴処理液として用いるとともに、ブロックドイソシアネート化合物およびレゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含む接着剤を2浴処理液として用いて接着剤処理されてなるものとする。ポリエステル繊維ないしアラミド繊維を用いた補強コードを、エポキシ化合物を含むエポキシ系接着剤で処理することで、RFLのみでは接着性能の確保が難しかったポリエステルコードやアラミドコードの表面に、RFLと容易に接着可能なエポキシ処理層を設けることができる。さらに、その後、ブロックドイソシアネート化合物およびレゾルシン・ホルマリン・ラテックスを含む接着剤で処理することで、上記処理後に形成されたエポキシ処理層とRFLとの接着をより強固なものとすることができる。
【0024】
上記1浴処理液に用いるエポキシ化合物としては、上掲したものが挙げられる。上記化合物は水溶性が良好であるので、エポキシ化合物としてこれら化合物を用いることで、接着剤の液安定性が高くなり、作業性が向上する。また、これら化合物はポリエステル繊維やアラミド繊維に対する親和性が良好であるので、接着性が向上する効果も得られる。
【0025】
また、上記1浴処理液としてのエポキシ系接着剤には、上記エポキシ化合物に加えて、ブロックドイソシアネート化合物を配合することができる。かかるブロックドイソシアネート化合物としては、一分子中に、複数個以上の熱解離性のブロックされたイソシアネート基を有する化合物が好ましく用いられる。例えば、下記の一般式で表される熱反応型水性ポリウレタン化合物等が最適である。
(式中、Aは官能基数3〜5の有機ポリイソシアネート化合物のイソシアネート残基を示し、Yは熱処理によりイソシアネート基を遊離するブロック剤化合物の活性水素残基を示し、Zは分子中、少なくとも1個の活性水素原子および少なくとも1個のアニオン形成性基を有する化合物の活性水素残基を示し、Xは2〜4個の水酸基を有し平均分子量が5000以下のポリオール化合物の活性水素残基であり、nは2〜4の整数であり、p+mは2〜4の整数(m≧0.25)である。)
【0026】
本発明に用いる1浴処理液における各成分の比率は、接着剤中の乾燥重量比率で、エポキシ化合物が30〜65%、ブロックドイソシアネート化合物が35〜70%であることが好ましい。
【0027】
また、上記2浴処理液に用いるブロックドイソシアネート化合物については、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)やトリレンジイソシアネート(TDI)等の有機ポリイソシアネート化合物を、ブロック剤でブロックしたものが好ましい。ブロック剤としては、例えば、フェノール、チオフェノール、クロルフェノール、クレゾール、レゾルシノール、p−sec−ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−sec−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール等のフェノール類;イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール等の第2級または第3級のアルコール;ジフェニルアミン等の芳香族第2級アミン類;フタル酸イミド類;δ−バレロラクタム等のラクタム類;ε−カプロラクタム等のカプロラクタム類;マロン酸ジアルキルエステル、アセチルアセトン、アセト酢酸アルキルエステル等の活性メチレン化合物;アセトキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム等のケトオキシム類;3−ヒドロキシピリジン等の塩基性窒素化合物および酸性亜硫酸ナトリウム等を上げることができる。ブロック剤としてはフェノール、ε−カプロラクタムおよびケトオキシムが好適である。
【0028】
レゾルシン・ホルマリン・ラテックスは、好適には、5−メチルレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂等のレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂と、ラテックス成分とからなる。レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂は、好ましくはアルカリ触媒下で合成されたレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物、または、アルカリ触媒下で合成されたレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物と酸性または中性下で合成されたフェノール誘導体−ホルムアルデヒド縮合物との混合物からなる。
【0029】
ラテックス成分としては、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスを好適に用いることができる。かかるビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合体ラテックスとしては、ビニルピリジンとスチレンとブタジエンとの合計に対して、ビニルピリジンが5〜15質量%、スチレンが35〜80質量%、ブタジエンが5〜60質量%含まれる混合溶液で重合を開始し、連続的にビニルピリジンを5〜20質量%、スチレンを10〜40質量%およびブタジエンを45〜75質量%まで変化させて重合を終了させて得られたものであることが、架橋反応に伴う体積およびモジュラス変化による影響が少なく、接着力、特に耐熱耐久性を向上できるために、好ましい。
【0030】
上記ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合体は、次のようにして製造することができる。例えば、水にロジン酸カリウム等の乳化剤を溶解させた後、これにビニルピリジンと、スチレンと、ブタジエンとの合計に対して、それぞれ5〜15質量%、35〜80質量%および5〜60質量%の割合で含まれるように各成分を添加する。さらに、リン酸ナトリウム等の電解質および過酸化物類等を開始剤として加え、重合を行う。その後、所定の転化率に達した後、連続的にビニルピリジンを5〜20質量%、スチレンを10〜40質量%およびブタジエンを45〜75質量%まで変化させて、重合を続ける。その後、所定の転化率に達した後、反応停止剤を加え、重合を停止させ、さらに、残留する単量体を除去することによって、組成比の異なる重合体からなる構造のビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合体を得ることができる。
【0031】
本発明において、例えば、ビニルピリジンとしては、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、5−エチル−2−ビニルピリジン等を挙げることができる。また、スチレンとしては、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物を挙げることができる。さらに、ブタジエンとしては1,3−ブタジエンの以外にも、2−メチル−1,3−ブタジエン等の脂肪族共役ジエン系モノマーの1種または2種以上を挙げることができる。これらは、いずれも1種または2種以上を用いることができる。
【0032】
上記ラテックスの重合には、公知の乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤等を用いてもよく、その他、スチレン化フェノール類、ヒンダートフェノール類等の老化防止剤、シリコン系、高級アルコール系、鉱物油系の消泡剤、その他反応停止剤、凍結防止剤等の添加剤を含有させてもよい。
【0033】
本発明に用いる2浴処理液における各成分の比率は、接着剤中の乾燥重量比率で、ブロックドイソシアネート化合物が30〜65%、レゾルシン・ホルマリン・ラテックスが35〜70%であることが好ましい。
【0034】
本発明において、カーカス2は、平行に配列された複数の補強コードをコーティングゴムで被覆してなる少なくとも1枚、例えば、1〜3枚、特には1〜2枚のカーカスプライから構成される。本発明においてカーカスプライ2を2枚以上とする場合には、すべてのカーカスプライ2の補強コードを、ポリエステル繊維またはアラミド繊維からなるものとする。
【0035】
また、本発明において、
図1(c)に示すように、カーカスプライ2の端部が、ビードコア1間に延在するカーカスプライ2の本体部に沿って巻き上げられている場合には、このカーカスプライの折返し端部2aは、図示するように、サイド補強ゴム4の最大厚み部よりもビードコア1側に位置することが好ましい。これは、タイヤ重量の低減につながるためである。
【0036】
より好適には、カーカスプライの折返し部2aの、ビードコア1の中心からの高さH
Eが、30mm以下、特には、5〜25mmの範囲であるものとして、カーカスプライ2の折返し端部の高さを低く設定する。カーカスプライの折返し部2aをサイド補強ゴム4の最大厚み部よりもビードコア1側に位置するよう低く設定し、特には、その高さH
Eを30mm以下とすると、荷重時に圧縮入力が加わるリムフランジとタイヤとの接触点近傍に有機繊維が配置されない構造となるので、コードの疲労性を考慮せずに、操縦安定性等のタイヤ性能をコントロールすることが可能となる。カーカスプライの折返し部2aの高さが高すぎると、リムフランジ部に圧縮入力が働くため、近傍の補強コードの末端が疲労し、それが破壊核となり、ゴム層の剥離等を誘発して、通常走行時のタイヤの耐久性を十分に向上させることができない場合がある。
【0037】
ここで、本発明においてカーカスプライ2の高さとは、タイヤを適用リムに組み付けて、規定の空気圧を充填した際における、無負荷状態でのタイヤ径方向の高さを意味する。また、適用リムとは下記の規格に規定されたリムをいい、規定の空気圧とは、下記の規格において、最大負荷能力に対応して規定される空気圧をいう。規格とは、タイヤが生産または使用される地域において有効な産業規格であり、例えば、アメリカ合衆国ではThe Tire and Rim Association Inc.のYear Bookであり、欧州ではThe European Tire and Rim Technical OrganizationのStandards Manualであり、日本では日本自動車タイヤ協会のJATMA Year bookである。
【0038】
ベルト層3は、タイヤ赤道面に対して15°〜35°で傾斜して延びるコードのゴム引き層、好ましくは、スチールコードのゴム引き層からなり、2層のベルト層3は、通常、ベルト層3を構成するコードが互いに赤道面を挟んで交差するように積層されて、ベルトを構成する。図示する例では、ベルトは2枚のベルト層3からなるが、本発明のタイヤにおいては、ベルトを構成するベルト層の枚数はこれに限られるものではない。さらに、図示はしないが、ベルト3のタイヤ半径方向外側に、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列したコードのゴム引き層からなり、ベルトの全体を覆うベルト補強層(キャップ層)と、キャップ層の両端部のみを覆う一対のベルト補強層(レイヤー層)とを配置することもできる。
【0039】
また、本発明のタイヤにおいては、
図2に示すように、接地部およびタイヤにリムを装着した際のリムとの接触部以外の、タイヤ表面の少なくとも一部、好適には図示するようにタイヤサイド部に、乱流発生用凸部7を配設することもできる。かかる乱流発生用凸部7を設けることで、タイヤ表面からの放熱効果を向上して、ランフラット走行時におけるタイヤの温度上昇を抑制し、カーカス2の周辺温度を、カーカス2を構成する繊維コードが高い熱収縮応力を示す温度付近に維持することが可能となる。その結果、ランフラット走行時における撓み抑制効果を得ることができ、ランフラットタイヤの応急走行寿命をより向上させることが可能となる。
【0040】
タイヤ表面に乱流発生用凸部7を設けることで、通常はタイヤの回転に伴ってタイヤ周方向に表面上を流れていく空気の流れが、乱流発生用凸部7にぶつかる部分で乱流となってタイヤ表面上を流れ、これによりタイヤ表面との間で積極的な熱交換が行われて、タイヤの放熱を促進させることができることとなる。ここで、
図3を用いて、本発明における乱流発生用凸部7による乱流の発生状態につき説明する。
図3は、本発明のランフラットタイヤの表面近傍を示す部分断面図である。図示するように、走行時において、乱流発生用凸部7が形成されていない部分のタイヤ表面に接触していた空気の流れS1は、タイヤの回転に伴って、乱流発生用凸部7でタイヤ表面から剥離されて、乱流発生用凸部7を乗り越える。このとき、乱流発生用凸部7の背面側には、空気の流れが滞留する部分(領域)S2が生ずる。その後、空気の流れS1は次の乱流発生用凸部7との間のタイヤ表面で跳ね返って、次の乱流発生用凸部7により再びタイヤ表面から剥離される。この際にも、次の乱流発生用凸部7の背面側には、空気の流れが滞留する部分(領域)S3が生ずることになる。
【0041】
この際、タイヤの放熱効果を高めるためには、上記により乱流となった空気の流れS1が接触する領域での、S1の速度を速くすることが有利である。かかる観点から、本発明においては、図示するように、乱流発生用凸部7をタイヤ周方向において複数にて配設して、これら乱流発生用凸部7を、乱流発生用凸部7の長手方向の中央にてその幅wを二等分する点の、隣り合う乱流発生用凸部7間での距離をピッチp、乱流発生用凸部7の高さをhとしたときに、1.0≦p/h≦50.0、かつ、1.0≦(p−w)/w≦100.0の関係を満足するよう配置することが好ましい(
図3,4参照)。
【0042】
p/hの値が1.0未満であると、隣り合う乱流発生用凸部7に挟まれたタイヤ表面に空気の流れが入り込まず、一方、50.0を超えると乱流の影響が及ばない領域が発生するため、いずれにしても、乱流発生用凸部7を設けた部分の放熱効率が、設けていない部分と同等になってしまう。p/hの値は、2.0≦p/h≦24.0とすることがより好ましく、さらに好ましくは、10.0≦p/h≦20.0である。
【0043】
また、本発明において、(p−w)/wは、ピッチpに対する乱流発生用凸部7の幅wの割合を示しており、この値が小さいことは、放熱面に対して乱流発生用凸部7の面積の割合が増大すること、すなわち、放熱面の面積が減少することを意味する。従って、この(p−w)/wの値が1未満であると、放熱面の面積が少なすぎて、放熱効率の十分な向上効果が期待できず、さらに、ゴムの体積が増大することによるゴムの発熱の増大が懸念される。一方、(p−w)/wの値が100.0を超えると、ピッチpに対して幅wが薄くなりすぎて、乱流発生用凸部7に相対して流入衝突する空気の流れS1に対して十分な剛性を維持することができず、乱流発生用凸部7としての役割が不十分となるおそれがある。(p−w)/wの値は、好適には、4.0≦(p−w)/w≦39.0である。
【0044】
さらに、本発明のタイヤにおいては、乱流発生用凸部7の高さhが0.5mm≦h≦7mmを、幅wが0.3mm≦w≦4mmを、それぞれ満足することが好ましい。高さhが7mmを超え、かつ、幅wが4mmを超えると、乱流発生用凸部7の体積が増大して、乱流発生用凸部7における発熱が増加するとともに、乱流発生用凸部7が表面を覆う面積が増大して、ゴム表面で蓄熱してしまうおそれがある。また、hが0.5mm未満であり、かつ、wが0.3mm未満であると、前述したと同様に、乱流発生用凸部7としての必要な剛性を保てなくなるため、放熱効果が十分に得られなくなるおそれがある。
【0045】
また、
図4に模式的に示すように、本発明のタイヤにおいて、乱流発生用凸部7は、その長手方向aとタイヤ半径方向rとのなす角度θが70°以下となるように配置されていることが好ましい。乱流発生用凸部7が配設されるタイヤ表面の空気の流れは、タイヤが回転することで生ずる遠心力により、わずかにタイヤ半径方向外側に向かっている。そこで、乱流発生用凸部7の長手方向aがタイヤ半径方向rに対しなす角度θを70°以下とすることで、タイヤ表面への空気の流入により、乱流発生用凸部7の背後に生ずる空気の滞留部分S2,S3を低減して、放熱効率を向上させることができる。なお、乱流発生用凸部7の長手方向aは、タイヤ半径方向rを基準にして、片側70°およびもう片側70°の合計140°の範囲にあればよい。
【0046】
この場合、回転するタイヤの表面においては、そのタイヤ半径方向rの位置によって、空気の流速が異なる。そのため、乱流発生用凸部7をタイヤ半径方向に複数にて配設する場合には、上記角度θを、乱流発生用凸部7のタイヤ半径方向の位置により、乱流発生用凸部7ごとに異なるものとすることが好ましい。
【0047】
本発明においては、乱流発生用凸部7の形状については特に制限はないが、好適には、図示するように、乱流発生用凸部7が、少なくともタイヤ半径方向内方において、頂部7Aを有するものとする。すなわち、乱流発生用凸部7としては、
図2に示すように4箇所の頂部7Aを有する形状の他、頂部7Aにあたる部分がそれぞれ曲面となっているような形状を有するものであってもよいが、少なくともタイヤ半径方向内方において頂部7Aを有するものとすることで、この頂部7Aの周辺に三次元的な空気の流れが発生し、放熱効果がより向上することとなる。
【0048】
また、本発明においては、乱流発生用凸部7が、長手方向において分割されていることも好ましい。乱流発生用凸部7が長手方向において分割されていると、タイヤ回転時において乱流発生用凸部7の背後に生ずる空気の滞留部分S2,S3が削減されるため、乱流発生用凸部7を設けた部位全体にわたり平均的な放熱が達成できることとなる。なお、この場合の乱流発生用凸部7の分割数は特に限定されず、任意に選択することができる。
【0049】
さらに、本発明のタイヤにおいて、乱流発生用凸部7がタイヤ周方向および半径方向にそれぞれ複数にて配設されている場合には、乱流発生用凸部7のタイヤ周方向における設置頻度が、タイヤ半径方向の位置により異なることが好適である。回転するタイヤの表面においては、その半径方向の位置によって空気の流速が異なる。また、放熱効率はタイヤ表面上を流れる空気の流速に依存する。従って、乱流発生用凸部7をタイヤ周方向および半径方向にそれぞれ複数個設置し、乱流発生用凸部7のタイヤ周方向における設置頻度、すなわち設置個数を、タイヤ半径方向によって変化させることで、タイヤの表面におけるタイヤ半径方向位置の違いによる放熱効率の不均一性が解消できる。
【0050】
また、例えば、本発明のタイヤにおいて、トレッド部13の表面には適宜トレッドパターンが形成されており、最内層にはインナーライナー(図示せず)が形成されている。さらに、本発明のタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の、若しくは、酸素分圧を変えた空気、または、窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
ポリエチレンテレフタレート(PET)のマルチフィラメントである1670dtexのヤーン収束体2本の下撚りおよび上撚りを、長さ10cmあたり40回の撚り数で撚り合わせて、1670dtex/2、撚り数40×40(回/10cm)で表される構造のPETコードを得た。このポリエステル撚りコードに、接着剤処理として、エポキシ化合物を含まない接着剤(下記表1参照)、または、エポキシ化合物を含む接着剤(下記表2参照)に浸漬し、160℃のトライゾーンで2.0kg/本のテンション下で60秒間、240℃のホットゾーンで2.0kg/本のテンション下で60秒間、計120秒間の熱処理を施し、さらに、後述するように、最終的にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着剤(下記表3参照)を用いて処理を行って、接着剤を塗布したコードを作製した。なお、ディップ処理工程の最後のホットゾーンのテンションを微調整して、コードの66N荷重時の中間伸度が4.3%になるように調整した。
【0052】
<エポキシ化合物を含まない接着剤の調製>
まず、軟水、レゾルシン、ホルムアルデヒド37%水溶液およびビニルピリジンラテックスの混合液を25℃で24時間熟成し、RFL液を作製した。次に、レゾルシンホルムアルデヒドノボラック型縮合物と苛性ソーダ水溶液とをRFL液に混合して、下記表1中に示す配合の接着剤を作製した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
*1)ナガセケムテックス(株)製
【0055】
<レゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着剤の調製>
下記表中に示す接着剤組成物を20質量%含むRFL系接着剤を調製した。上記エポキシ化合物を含まない接着剤またはエポキシ化合物を含む接着剤による処理後のコードにこのRFL系接着剤を付着させた後、熱処理機を用いて、これを180℃で1分間乾燥させた。得られたコードを、1〜2kg/本の張力(コードテンション)下で、240℃で2分間熱処理し、接着剤が付着したタイヤコードを製造した。
【0056】
【表3】
*2)ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合ラテックス(日本ゼオン(株)製、「Nipol2518FS」、固形分40.5質量%)
*3)ブロックドイソシアネート化合物(第一工業製薬(株)製、「エラストロンBN27」、固形分濃度30%、メチレンジフェニルの分子構造を含むブロックドイソシアネート化合物)
【0057】
得られたポリエステルコードをゴムで被覆して、ゴム−コード複合体を得た。また、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(アラミド,Kevler(ケブラー)(東レ・デュポン(株)製))の1670dtex/2、撚り数39×39(回/10cm)で表される構造のコードについて、上記と同様にして接着剤処理を施して、ゴムで被覆し、ゴム−コード複合体を得た。
【0058】
得られたゴム−コード複合体を用いて、打込み数50本/50mmのトリートを作製し、これをカーカスプライに適用して、タイヤサイズ225/45R17の空気入り安全タイヤを作製した。この供試タイヤは、一対のビード部にそれぞれ埋設された一対のビードコア間に延在する1枚のカーカスプライからなるカーカスを骨格とし、カーカスのタイヤ半径方向外側には、タイヤ周方向に対し±40°の角度で互いに交錯配置される2層のベルト(材質:スチール)を有していた。また、カーカスのサイドウォール部のタイヤ幅方向内側にはサイド補強ゴムを備え、カーカスプライおよびビードコアのタイヤ幅方向外側にはゴムチェーファーが配置されていた。タイヤ幅方向断面における、サイド補強ゴムの面積S1およびゴムチェーファーの面積S2が下記表中に示す条件を満足するように調整して、各実施例、参考例および比較例の供試タイヤを作製した。
【0059】
(ドラム耐久試験)
各供試タイヤをJATMAに規定される標準リムにリム組みした後、ドラム試験機に取り付け、内圧100kPaを充填し、JATMAに規定される最大荷重を負荷して、ドラム上を20000km走行させた。試験終了後に、各供試タイヤを解剖して、カーカスプライの残存強力を測定し、新品時からの強力保持率を評価した。結果は、比較例1の強力保持率を100としたときの指数で表示し、数値が大きいほど、ドラム耐久性に優れていることを表す。その結果を、下記の表中に併せて示す。
【0060】
【表4】
【0061】
上記表中に示したように、カーカスプライの補強コードにポリエステル繊維またはアラミド繊維を用いるとともに、タイヤ幅方向断面における、サイド補強ゴムおよびゴムチェーファーの面積の比率について式(1)で規定される所定の関係を満足するよう設定した各実施例および参考例の供試タイヤにおいては、上記関係を満足しない比較例の供試タイヤに比して、ドラム耐久性が向上していることが確かめられた。