特許第6133637号(P6133637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133637
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】紡糸延伸装置
(51)【国際特許分類】
   D02J 1/22 20060101AFI20170515BHJP
   D01D 10/00 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   D02J1/22 302A
   D01D10/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-49267(P2013-49267)
(22)【出願日】2013年3月12日
(65)【公開番号】特開2014-173212(P2014-173212A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 欣三
(72)【発明者】
【氏名】杉山 研志
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−136433(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101135070(CN,A)
【文献】 特表2012−533694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 − 13/02
D02G 1/00 − 3/48
D02J 1/00 − 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸装置から紡出された糸を延伸する紡糸延伸装置であって、
加熱ローラを含み、糸道に沿って配置された、前記糸を延伸するための複数のローラを備え、
前記糸の走行方向において隣り合う2つの前記ローラは、回転方向が逆であり、
前記複数のローラには、それぞれ360度以内の巻き掛け角度で、前記回転方向に沿って前記糸が巻き掛けられており、
前記複数のローラにおいて、前記走行方向において糸が延伸される区間において隣り合う2つの前記ローラ間の前記糸の非接触長Lfは、前記走行方向において糸が延伸される区間において隣り合う2つの前記ローラそれぞれに対する前記糸の接触長Lcよりも短いことを特徴とする紡糸延伸装置。
【請求項2】
前記複数のローラにおいて、前記走行方向において糸が延伸される区間において隣り合う2つの前記ローラ間の前記糸の非接触長Lfは、前記走行方向において糸が延伸される区間において隣り合う2つの前記ローラそれぞれに対する前記糸の接触長Lcの60%以下であることを特徴とする請求項1に記載の紡糸延伸装置。
【請求項3】
前記複数のローラにおいて、前記走行方向において糸が延伸される区間において隣り合う2つの前記ローラ間の前記糸の非接触長Lfは、前記走行方向において糸が延伸される区間において隣り合う2つの前記ローラそれぞれに対する前記糸の接触長Lcの40〜60%であることを特徴とする請求項2に記載の紡糸延伸装置。
【請求項4】
前記複数のローラには、それぞれ180度以上270度以内の巻き掛け角度で、前記糸が巻き掛けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の紡糸延伸装置。
【請求項5】
前記複数のローラにおいて、前記走行方向において糸が延伸される区間において隣り合う2つの前記ローラ間の前記糸の非接触長Lfは、前記走行方向において糸が延伸される区間において隣り合う2つの前記ローラの半径の和よりも小さいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の紡糸延伸装置。
【請求項6】
前記複数のローラは、前記糸道に沿って千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の紡糸延伸装置。
【請求項7】
前記複数のローラは、複数の予備加熱用のローラと複数の熱固定用のローラとを有し、
前記複数の予備加熱用のローラと、これらよりも糸送り速度の速い前記複数の熱固定用のローラとの間において、前記糸が延伸されることを特徴とする請求項1に記載の紡糸延伸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸装置から紡出された糸を延伸する紡糸延伸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紡糸装置から紡出されたポリエステル等の糸を延伸し、熱固定する複数のローラを備える紡糸延伸装置、紡糸延伸装置により延伸された糸を巻き取ってパッケージを形成する糸巻取装置などを備える紡糸引取機が知られている。
【0003】
特許文献1のFig.1に記載の紡糸延伸装置では、延伸前の糸を予備加熱するための予備加熱用の2個のローラが上下方向に並べて配置され、延伸後の糸を熱固定するための熱固定用の2個のローラが上下方向に並べて配置されている。予備加熱用の2個のローラと熱固定用の2個のローラとは左右方向に並べて配置されている。糸の走行方向において隣り合う2つのローラは、回転方向が逆である。
【0004】
特許文献1のFig.3に記載の紡糸延伸装置は、上下方向に並べて配置された予備加熱用の2個のローラと、上下方向に並べて配置された熱固定用の2個のローラと、が上下方向に並べて配置されている。予備加熱用の2個のローラと、熱固定用の2個のローラとは、それぞれ、回転方向が逆であるが、糸の走行方向において隣り合う予備加熱用のローラと熱固定用のローラとは、回転方向が同じである。
【0005】
予備加熱用の2個のローラは、糸が延伸可能な温度(ガラス転移点以上)に設定される。熱固定用の2個のローラは、予備加熱用のローラよりも高い温度であって、延伸された糸を熱固定可能な温度に設定される。紡糸装置から紡出された糸は、それぞれのローラに360度以内の巻き掛け角度で、予備加熱用の2個のローラに巻き掛けられた後、熱固定用の2個のローラに巻き掛けられている。上流の予備加熱用の2個のローラは、ほぼ同じ糸送り速度であり、また、下流の熱固定用の2個のローラは、上流の予備加熱用の2個のローラよりも速いほぼ同じ糸送り速度である。これらのローラを走行する糸は、予備加熱用のローラによりガラス転移点以上に加熱され、上流の予備加熱用のローラと、予備加熱用のローラよりも糸送り速度の速い下流の熱固定用のローラと、の間で延伸され、熱固定用のローラにより熱固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/009497号(Fig.1、Fig3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、糸が延伸されるためには、予備加熱用のローラと熱固定用のローラとの間でローラに接触していない糸の長さは、例えば、ローラの直径の2倍程度が必要と考えられていた。このため、特許文献1に記載の紡糸延伸装置においては、予備加熱用のローラと、熱固定用のローラと、の間で、ローラに接触していない糸の長さが長くなっている(Fig.1、Fig3参照)。特に、特許文献1のFig.3に記載の紡糸延伸装置では、予備加熱用のローラと熱固定用のローラとの回転方向が同じであるため、予備加熱用のローラと熱固定用のローラとの間において、糸が共通外接線方向に走行することにより、ローラに接触していない糸の長さが長くなっている。
【0008】
ローラに接触していない糸の長さが長いと、ローラの回転による随伴流により、ローラに接触していない糸に揺れが生じるという問題がある。ローラに接触していない糸に揺れが生じると、糸を構成するフィラメント同士が接触、離反を繰り返して互いに叩かれることで、糸の品質が低下する。また、隣接して走行する糸同士が接触することにより、断糸する可能性がある。特に、予備加熱用のローラと、熱固定用のローラと、の間は、糸を延伸する箇所であるため、糸の速度が急激に変化するために、ローラ上を走行する糸が滑ってローラ表面の糸をグリップする力が低下している。このため、予備加熱用のローラと熱固定用のローラとの間で生じるローラに接触していない糸の揺れがローラ上を走行する糸にまで伝搬して、ローラの表面で糸が擦過されることで、糸品質が大幅に低下する。
【0009】
本発明の目的は、2つのローラ間において、ローラに接触していない糸の揺れを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明の紡糸延伸装置は、紡糸装置から紡出された糸を延伸する紡糸延伸装置であって、加熱ローラを含み、糸道に沿って配置された、前記糸を延伸するための複数のローラを備え、前記糸の走行方向において隣り合う2つの前記ローラは、回転方向が逆であり、前記複数のローラには、それぞれ360度以内の巻き掛け角度で、前記回転方向に沿って前記糸が巻き掛けられており、前記複数のローラにおいて、前記走行方向において隣り合う2つの前記ローラ間の前記糸の非接触長Lfは、前記走行方向において隣り合う2つの前記ローラそれぞれに対する前記糸の接触長Lcよりも短いことを特徴とする。
【0011】
本発明では、糸の走行方向において隣り合う2つのローラ(以下、「隣接ローラ」という。)は、回転方向が逆である。複数のローラには、それぞれ360度以内の巻き掛け角度で、回転方向に沿って糸が巻き掛けられている。すなわち、隣接ローラには、それぞれ、S字状に糸が巻き掛けられている。このため、糸は、隣接ローラ間において、隣接ローラの共通内接線方向に走行する。従って、隣接ローラの回転方向が同じであり、糸が、隣接ローラ間において、隣接ローラの共通外接線方向に走行する場合に比べて、隣接ローラ間の糸の非接触長Lfが短くなる。
【0012】
さらに、本発明では、隣接ローラ間の糸の非接触長Lfは、隣接ローラそれぞれに対する糸の接触長Lcよりも短い。従って、隣接ローラ間の糸の非接触長Lfが短いため、ローラの回転による、隣接ローラ間においてローラに接触していない糸への随伴流の影響が小さくなる。これにより、隣接ローラ間においてローラに接触していない糸の揺れが抑制されるため、糸品質の低下、断糸が抑制される。また、ローラの回転による、隣接ローラ間においてローラに接触していない糸への随伴流の影響が小さくなるため、糸掛けの際に邪魔となる防風板を減らすことが可能となり、ローラへの糸掛けの作業性が向上する。また、隣接ローラ間の糸の非接触長Lfが短いため、隣接ローラ間に糸に接触する糸ガイドが不要となり、糸品質の低下、断糸がさらに抑制されるとともに、糸ガイドへの糸掛けが不要となるため、ローラへの糸掛けの作業性が向上する。また、ローラそれぞれに対する糸の接触長Lcが確保されているため、糸を加熱ローラにより十分加熱することができる。また、ローラそれぞれに対する糸の接触長Lcが確保されているため、糸とローラとの摩擦力により、隣接ローラ間においてローラに接触していない糸の揺れがさらに抑制される。
【0013】
第2の発明の紡糸延伸装置は、第1の発明の紡糸延伸装置において、前記複数のローラにおいて、前記走行方向において隣り合う2つの前記ローラ間の前記糸の非接触長Lfは、前記走行方向において隣り合う2つの前記ローラそれぞれに対する前記糸の接触長Lcの60%以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明では、隣接ローラ間の非接触長Lfは、隣接ローラそれぞれに対する糸の接触長Lcの60%以下である。従って、隣接ローラ間の非接触長Lfに対して、隣接ローラそれぞれに対する糸の接触長Lcが長いため、糸とローラとの摩擦力により、隣接ローラ間においてローラに接触していない糸の揺れがさらに抑制される。
【0015】
第3の発明の紡糸延伸装置は、第2の発明の紡糸延伸装置において、前記複数のローラにおいて、前記走行方向において隣り合う2つの前記ローラ間の前記糸の非接触長Lfは、前記走行方向において隣り合う2つの前記ローラそれぞれに対する前記糸の接触長Lcの40〜60%であることを特徴とする。
【0016】
本発明では、隣接ローラ間の非接触長Lfは、隣接ローラそれぞれに対する糸の接触長Lcの40以上であるため、隣接ローラ間の隙間を、糸掛け時にサクションガンで吸引しながらローラに糸を掛けていく作業を行うのに十分な隙間とすることができる。
【0017】
第4の発明の紡糸延伸装置は、第1〜第3の発明のいずれかの紡糸延伸装置において、前記複数のローラには、それぞれ180度以上270度以下の巻き掛け角度で、前記糸が巻き掛けられていることを特徴とする。
【0018】
本発明では、複数のローラには、それぞれ180度以上270度以下の巻き掛け角度で、糸が巻き掛けられているため、複数のローラそれぞれに対する糸の接触長Lcを十分に確保することができる。すなわち、糸の接触長Lcが十分に長いため、糸をローラにより十分加熱することができる。また、巻き掛け角度が十分に大きいため、ローラ表面で糸が十分に把持され、ローラ上での糸の滑りを抑えることができる。特に、延伸前後のローラ上での糸の滑りを抑えることで、糸品質の低下をさらに抑制することができる。
【0019】
第5の発明の紡糸延伸装置は、第1〜第4の発明のいずれかの紡糸延伸装置において、前記複数のローラにおいて、前記走行方向において隣り合う2つの前記ローラ間の前記糸の非接触長Lfは、前記走行方向において隣り合う2つの前記ローラの半径の和よりも小さいことを特徴とする。
【0020】
本発明では、隣接ローラ間の非接触長Lfは、隣接ローラの半径の和よりも小さいため、隣接ローラが近接して配置され、紡糸延伸装置がコンパクトとなる。
【0021】
第6の発明の紡糸延伸装置は、第1〜第5の発明のいずれかの紡糸延伸装置において、前記複数のローラは、前記糸道に沿って千鳥状に配置されていることを特徴とする。
【0022】
本発明では、複数のローラは、糸道に沿って千鳥状に配置されている。このように、複数のローラが千鳥状に近接して配置されているため、隣接ローラ間の糸の非接触長Lfが短くなる。また、紡糸延伸装置がコンパクトとなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、糸の走行方向において隣り合う2つのローラ(以下、「隣接ローラ」という。)は、回転方向が逆である。複数のローラには、それぞれ360度以内の巻き掛け角度で、回転方向に沿って糸が巻き掛けられている。すなわち、隣接ローラには、それぞれ、S字状に糸が巻き掛けられている。このため、糸は、隣接ローラ間において、隣接ローラの共通内接線方向に走行する。従って、隣接ローラの回転方向が同じであり、糸が、隣接ローラ間において、隣接ローラの共通外接線方向に走行する場合に比べて、隣接ローラ間の糸の非接触長Lfが短くなる。さらに、本発明では、隣接ローラ間の糸の非接触長Lfは、隣接ローラそれぞれに対する糸の接触長Lcよりも短い。従って、隣接ローラ間の糸の非接触長Lfが短いため、ローラの回転による、隣接ローラ間においてローラに接触していない糸への随伴流の影響が小さくなる。これにより、隣接ローラ間においてローラに接触していない糸の揺れが抑制されるため、糸品質の低下、断糸が抑制される。また、ローラの回転による、隣接ローラ間においてローラに接触していない糸への随伴流の影響が小さくなるため、糸掛けの際に邪魔となる防風板を減らすことが可能となり、ローラへの糸掛けの作業性が向上する。また、隣接ローラ間の糸の非接触長Lfが短いため、隣接ローラ間に糸に接触する糸ガイドが不要となり、糸品質の低下、断糸がさらに抑制されるとともに、糸ガイドへの糸掛けが不要となるため、ローラへの糸掛けの作業性が向上する。また、ローラそれぞれに対する糸の接触長Lcが確保されているため、糸を加熱ローラにより十分加熱することができる。また、ローラそれぞれに対する糸の接触長Lcが確保されているため、糸とローラとの摩擦力により、隣接ローラ間においてローラに接触していない糸の揺れがさらに抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る紡糸引取機の構成を示す正面図である。
図2】本発明の実施形態に係る紡糸引取機の側面図である。
図3】紡糸延伸装置の拡大正面図である。
図4】一変形例に係る紡糸引取機の構成を示す正面図である。
図5】一変形例に係る紡糸引取機の側面図である。
図6】他の変形例に係る紡糸引取機の構成を示す正面図である。
図7】他の変形例に係る紡糸延伸装置の拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る紡糸延伸装置を備えた紡糸引取機の構成を示す正面図である。図2は、紡糸引取機の側面図である。以下、図1及び図2において示す各方向を、上下方向、左右方向、前後方向として説明する。図1及び図2に示すように、紡糸引取機1は、紡糸延伸装置2と、糸巻取装置3と、を備えている。紡糸引取機1は、上方にある紡糸装置4から紡出されて連続的に供給される複数の糸Yを紡糸延伸装置2で延伸して、糸巻取装置3に送り、糸巻取装置3で複数の糸Yを巻き取っている。糸Yは、例えば、延伸のための予備加熱が必要なポリエステル繊維である。
【0026】
紡糸延伸装置2は、紡糸装置4から紡出された糸Yを延伸するための複数のゴデットローラ14〜18などを備えている。詳細については後述する。
【0027】
糸巻取装置3は、紡糸装置4の下方に配置されており、紡糸延伸装置2で延伸された複数の糸Yを、複数のボビンBにそれぞれ巻き取って複数のパッケージPを形成する。糸巻取装置3は、案内ローラ5、6と、複数の支点ガイド7と、2台の巻取ユニット8と、を備える。
【0028】
案内ローラ5、6は、図示しないモータによって駆動される駆動ローラであって、それらの回転軸方向が左右方向と平行に設けられている。案内ローラ6は、案内ローラ5よりも後方かつ上方に配置されている。紡糸延伸装置2から送られてくる複数の糸Yは、案内ローラ5、6により、下方の複数の支点ガイド7に送られる。
【0029】
複数の支点ガイド7は、案内ローラ6の下方であって、後述する巻取ユニット8の複数のトラバースガイド12の上方において、複数のトラバースガイド12及びボビンホルダ11に装着された複数のボビンBの真上に、前後方向に沿って複数のボビンの間隔と同じ間隔で並んで配置されている。
【0030】
巻取ユニット8は、本体フレーム9、本体フレーム9に回転可能に設けられた円板状のターレット10、ターレット10に片持ち支持され、巻取軸が水平に延びており、複数のボビンBが巻取軸の軸方向に沿って直列に装着される2本のボビンホルダ11、糸Yの綾振りを行うトラバースガイド12、本体フレーム9に対して上下方向に移動可能であり、ボビンホルダ11に装着されたボビンBに対して離接するコンタクトローラ13などを有している。
【0031】
巻取ユニット8は、ボビンホルダ11が図示しないモータの駆動により回転することで、このボビンホルダ11に装着された複数のボビンBを回転させ、回転する複数のボビンBに複数の糸Yを巻き取る。このとき、ボビンBに巻き取られる糸Yは、複数のボビンBの上方にそれぞれ配置されたトラバースガイド12によって、支点ガイド7を支点としてボビンBの軸方向に綾振りされる。
【0032】
そして、支点ガイド7を支点としてトラバースガイド12に綾振られた糸Yは、ボビンBに巻き取られてパッケージPを形成する。このとき、コンタクトローラ13は、ボビンBへの巻き取り時に、パッケージPの外周面に接触して、所定の接圧を付与しながら回転して、パッケージPの形状を整える。そして、ボビンホルダ11に装着された複数のボビンB上に巻かれた複数のパッケージPは、満巻きになると図示しないプッシャーで前方へ押し出されてボビンホルダ11から取り外される。
【0033】
次に、紡糸延伸装置2について説明する。図3は、紡糸延伸装置2の拡大正面図である。図1図3に示すように、紡糸延伸装置2は、複数のゴデットローラ14〜18(複数のローラ)、保温箱19、案内ローラ20、21を備え、紡糸装置4の下方に配置されている。なお、図1及び図3においては、保温箱19の内部が見えるように図示している。
【0034】
複数のゴデットローラ14〜18は、糸道に沿って配置され、紡糸装置4から紡出された糸Yを延伸するためのものである。複数のゴデットローラ14〜18は、それぞれ、図示しないフレームによって片持ち支持された図示しないモータにより回転される駆動ローラである。複数のゴデットローラ14〜18は、それぞれ、内部に図示しないヒータを備えた加熱ローラである。
【0035】
ゴデットローラ14〜16は、延伸前の糸Yが走行する、延伸前の糸Yを加熱するための予備加熱用のゴデットローラである。糸Yを延伸するにはガラス転移点以上の温度までの加熱が必要となる。糸Yがポリエステル繊維である場合、予備加熱用のゴデットローラ14〜16は、通常、80〜100℃の温度に設定される。なお、ガラス転移点は、高分子によって異なる。ゴデットローラ17、18は、延伸された糸Yを熱固定するための熱固定用のゴデットローラである。糸Yがポリエステル繊維である場合、熱固定用のゴデットローラ17、18は、通常、120〜150℃の温度に設定される。このように、熱固定用のゴデットローラ17、18は、予備加熱用のゴデットローラ14〜16よりも設定温度が高い。
【0036】
複数のゴデットローラ14〜18は、それぞれの軸芯が互いに平行であって、回転軸は、図1及び図3の紙面奥行方向に向かって延びている。複数のゴデットローラ14〜18は、例えば直径2rが220〜300mmの範囲内であり、略同じ直径となっている。ゴデットローラ14、15、16、17、18の順に下方から上方に千鳥状に配置されており、熱固定用のゴデットローラ17、18は、予備加熱用のゴデットローラ14〜16よりも上方に位置するよう配置される。
【0037】
ゴデットローラ14、16、18は、図1及び図3における時計回り方向に回転している。ゴデットローラ15、17は、図1及び図3における反時計回り方向に回転している。従って、糸Yの走行方向において隣り合うゴデットローラ14とゴデットローラ15、ゴデットローラ15とゴデットローラ16、ゴデットローラ16とゴデットローラ17、ゴデットローラ17とゴデットローラ18は、それぞれ、回転方向が逆である。
【0038】
ゴデットローラ14〜18には、それぞれ360度以内の巻き掛け角度で、下方から上方の順に、すなわち、ゴデットローラ14、15、16、17、18の順に、回転方向に沿って糸Yが巻き掛けられている。言い換えれば、糸Yの走行方向において隣り合う2つのゴデットローラ14とゴデットローラ15、ゴデットローラ15とゴデットローラ16、ゴデットローラ16とゴデットローラ17、ゴデットローラ17とゴデットローラ18には、それぞれ、S字状に糸Yが巻き掛けられている(いわゆるS掛け。)。なお、以下では、複数のゴデットローラ14〜18のうち、糸Yの走行方向において隣り合ういずれか2つのゴデットローラ14〜18を「隣接ゴデットローラ」ともいう。隣接ゴデットローラは、回転方向が逆であり、また、複数のゴデットローラ14〜18には、それぞれ360度以内の巻き掛け角度で、回転方向に沿って糸Yが巻き掛けられている。このため、糸Yは、隣接ゴデットローラ間において、隣接ゴデットローラの共通内接線方向に走行する。本実施形態では、複数のゴデットローラ14〜18には、それぞれ180度以上270度以下の巻き掛け角度で、糸Yが巻き掛けられている。
【0039】
保温箱19は、ゴデットローラ14〜18を収容する断熱材からなる略直方体形状の箱である。保温箱19により、ゴデットローラ14〜18から発せられる熱が外部に逃げないようになっており、内部が保温されている。保温箱19の内部は、設定温度が高い熱固定用のゴデットローラ17、18が上方に配置されていることや熱の対流により、下方に比べて上方の温度が高くなっている。保温箱19の内部には、ゴデットローラの設定温度が互いの設定温度に影響を及ぼすことを防止するため、隔壁24が設けられている。
【0040】
保温箱19には、同一側面(右側面)の上方及び下方にスリット22、23が設けられており、下方のスリット22を通過して、保温箱19の内部に複数の糸Yが進入し、上方のスリット23を通過して、保温箱19の内部から複数の糸Yが導出する。すなわち、保温箱19へは、保温箱19の紡糸装置4から紡出された糸Yの糸道側(保温箱19の右側)から糸Yが進入し、保温箱19からは、紡糸装置4から紡出された糸Yの糸道側(保温箱19の右側)へ糸Yが導出する。
【0041】
保温箱19は、鉛直面に対して、前方へ約10度傾いている。これは、案内ローラ20、21を前後(軸方向)に位置をずらして、保温箱19に進入する糸Yと保温箱19から導出する糸Yとが、接触しないようにするためである。
【0042】
案内ローラ20は、保温箱19のスリット22から左右方向にずれた位置(右側)に保温箱19の外部に配置されており、紡糸装置4から紡出される複数の糸Yの糸道を変更し、保温箱19の方へ糸Yを導く。案内ローラ20には、上方から糸Yが進入する。案内ローラ21は、保温箱19のスリット23から左右方向にずれた位置(右側)に保温箱19の外部に配置されており、保温箱19から導出する複数の糸Yの糸道を変更し、案内ローラ5の方へ複数の糸Yを導く。なお、案内ローラ20、21は従動ローラであっても駆動ローラであってもよいが、駆動ローラであれば、糸Yの糸道の変更が容易となる。
【0043】
複数の糸Yを延伸する過程について説明する。紡糸装置4から紡出された複数の糸Yは、予備加熱用のゴデットローラ14〜16に接触することによりガラス転移点以上の温度に予備加熱される。予備加熱された複数の糸Yは、予備加熱用のゴデットローラ14〜16の回転駆動により、下流の熱固定用のゴデットローラ17、18に送られる。ここで、例えば、上流の予備加熱用のゴデットローラ14〜16は、糸送り速度が略同じである。また、下流の熱固定用のゴデットローラ17、18は、糸送り速度が略同じであって、予備加熱用のゴデットローラ14〜16よりも糸送り速度が速い。従って、予備加熱用のゴデットローラ14〜16と、これらよりも糸送り速度の速い熱固定用のゴデットローラ17、18との間において、複数の糸Yが延伸される。延伸された複数の糸Yは、熱固定用のゴデットローラ17、18に接触することにより、熱固定され、熱固定用のゴデットローラ17、18の回転駆動により、案内ローラ20へ送られる。
【0044】
従来の紡糸延伸装置では、糸の走行方向において隣り合う2つのゴデットローラ間においてゴデットローラに接触していない糸の長さが長いため、ゴデットローラの回転による随伴流により、ゴデットローラに接触していない糸に揺れが生じるという問題がある。ゴデットローラに接触していない糸に揺れが生じると、糸を構成するフィラメント同士が接触、離反を繰り返して互いに叩かれることで、糸の品質が低下する。また、隣接して走行する糸同士が接触することにより、断糸する可能性がある。特に、予備加熱用のゴデットローラと熱固定用のゴデットローラとの間では、糸の速度が急激に変化するために、ゴデットローラ上を走行する糸が滑ってローラ表面の糸をグリップする力が低下している。このため、予備加熱用のゴデットローラと熱固定用のゴデットローラとの間で生じるゴデットローラに接触していない糸の揺れがゴデットローラ上を走行する糸に伝播して、ゴデットローラの表面で糸が擦過されることで、糸品質が大幅に低下する。
【0045】
ここで、隣接ゴデットローラそれぞれに対する糸の接触長をLcとする。ゴデットローラ14に接触している糸Yの接触長をLc1とする。ゴデットローラ15に接触している糸Yの接触長をLc2とする。ゴデットローラ16に接触している糸Yの接触長をLc3とする。ゴデットローラ17に接触している糸Yの接触長をLc4とする。ゴデットローラ18に接触している糸Yの接触長をLc5とする。また、隣接ゴデットローラ間の糸Yの非接触長をLfとする。糸Yの走行方向において隣り合うゴデットローラ14とゴデットローラ15間の糸Yの非接触長をLf1とする。糸Yの走行方向において隣り合うゴデットローラ15とゴデットローラ16間の糸Yの非接触長をLf2とする。糸Yの走行方向において隣り合うゴデットローラ16とゴデットローラ17間の糸Yの非接触長をLf3とする。糸Yの走行方向において隣り合うゴデットローラ17とゴデットローラ18間の糸Yの非接触長をLf4とする。
【0046】
上述のように、隣接ゴデットローラは、回転方向が逆であり、また、複数のゴデットローラ14〜18には、それぞれ360度以内の巻き掛け角度で、回転方向に沿って糸Yが巻き掛けられている。言い換えれば、隣接ゴデットローラには、S字状に糸Yが巻き掛けられている。このため、糸Yは、隣接ゴデットローラ間において、隣接ゴデットローラの共通内接線方向に走行する。従って、隣接ゴデットローラの回転方向が同じであり、糸Yが、隣接ゴデットローラ間において、隣接ゴデットローラの共通外接線方向に走行する場合に比べて、隣接ゴデットローラ間の糸Yの非接触長Lf(Lf1、Lf2、Lf3、Lf4)が短くなる。
【0047】
さらに、本実施形態では、隣接ゴデットローラ間の糸Yの非接触長Lfは、隣接ゴデットローラそれぞれに対する糸Yの接触長Lcよりも短い(Lf<Lc)。すなわち、非接触長Lf1は、接触長Lc1よりも短く(Lf1<Lc1)、且つ、接触長Lc2よりも短い(Lf1<Lc2)。非接触長Lf2は、接触長Lc2よりも短く(Lf2<Lc2)、且つ、接触長Lc3よりも短い(Lf2<Lc3)。非接触長Lf3は、接触長Lc3よりも短く(Lf3<Lc3)、且つ、接触長Lc4よりも短い(Lf3<Lc4)。非接触長Lf4は、接触長Lc4よりも短く(Lf4<Lc4、)、且つ、接触長Lc5よりも短い(Lf4<Lc5)。従って、隣接ゴデットローラ間の糸Yの非接触長Lfが短いため、ゴデットローラの回転による、隣接ゴデットローラ間においてゴデットローラに接触していない糸Yへの随伴流の影響が小さくなる。これにより、隣接ゴデットローラ間においてゴデットローラに接触していない糸Yの揺れが抑制される。このため、各糸Yを構成するフィラメント同士が接触、離反を繰り返して互いに叩かれることがなく、糸品質の低下が抑制される。また、隣接して走行する糸Y同士の接触が抑制されるため、断糸が抑制される。
【0048】
特に、予備加熱用のゴデットローラ16と熱固定用のゴデットローラ17との間は、糸Yを延伸する箇所であるため、糸Yの速度が急激に変化するために、ゴデットローラ16、17上を走行する糸Yが滑って、ゴデットローラ16、17表面の糸Yをグリップする力が低下している。ここで、ゴデットローラ16、17間のゴデットローラ16、17に接触していない糸Yに揺れが生じると、糸揺れがゴデットローラ16、17を走行する糸Yに伝搬して、ゴデットローラ16、17表面で糸Yが擦過されることで、糸品質が大幅に低下する。本実施形態では、予備加熱用のゴデットローラ16と熱固定用のゴデットローラ17との間の糸Yの非接触長Lf3が短いため、予備加熱用のゴデットローラ16と熱固定用のゴデットローラ17との間のゴデットローラ16、17に接触していない糸Yの揺れが抑制される。従って、ゴデットローラ16、17上を走行する糸Yの揺れが抑制されるため、糸品質の低下がさらに抑制される。
【0049】
また、ゴデットローラ14〜18の回転による、隣接ゴデットローラ間においてゴデットローラに接触していない糸Yへの随伴流の影響が小さくなるため、糸掛けの際に邪魔となる防風板を減らすことが可能となり、ゴデットローラ14〜18への糸掛けの作業性が向上する。また、隣接ゴデットローラ間の糸Yの非接触長Lfが短いため、隣接ゴデットローラ間に糸ガイドが不要となる。糸ガイドは、糸Yに接触するため、糸Yとの摩擦により、糸品質の低下、断糸を起こす可能性があるが、不要となるため、糸品質の低下、断糸がさらに抑制される。さらに隣接ゴデットローラ間の糸ガイドがないことから、糸ガイドへの糸掛け作業が不要であるため、ゴデットローラ14〜18への糸掛けの作業性が向上する。
【0050】
また、ゴデットローラ14〜18それぞれに対する糸Yの接触長Lc1(>Lf1)、Lc2(>Lf1、Lf2)、Lc3(>Lf2、Lf3)、Lc4(>Lf3、Lf4)、Lc5(>Lf4)が確保されているため、糸Yをゴデットローラ14〜18により十分加熱することができる。また、ゴデットローラ14〜18それぞれに対する糸Yの接触長Lc1(>Lf1)、Lc2(>Lf1、Lf2)、Lc3(>Lf2、Lf3)、Lc4(>Lf3、Lf4)、Lc5(>Lf4)が確保されているため、糸Yとゴデットローラとの摩擦力により、隣接ゴデットローラ間においてゴデットローラ14〜18に接触していない糸Yの揺れがさらに抑制される。
【0051】
また、本実施形態では、隣接ゴデットローラ間の糸Yの非接触長Lfは、隣接ゴデットローラそれぞれに対する糸Yの接触長Lcの40〜60%である(0.4Lc≦Lf≦0.6Lc)。すなわち、非接触長Lf1は、接触長Lc1の40〜60%であり(0.4Lc1≦Lf1≦0.6Lc1)、且つ、接触長Lc2の40〜60%である(0.4Lc2≦Lf2≦0.6Lc2)。非接触長Lf2は、接触長Lc2の40〜60%であり(0.4Lc2≦Lf2≦0.6Lc2)、且つ、接触長Lc3の40〜60%である(0.4Lc3≦Lf2≦0.6Lc3)。非接触長Lf3は、接触長Lc3の40〜60%であり(0.4Lc3≦Lf3≦0.6Lc3)、且つ、接触長Lc4の40〜60%である(0.4Lc4≦Lf3≦0.6Lc4)。非接触長Lf4は、接触長Lc4の40〜60%であり(0.4Lc≦Lf4≦0.6Lc4)、且つ、接触長Lc5の40〜60%である(0.4Lc5≦Lf4≦0.6Lc5)。このように、隣接ゴデットローラ間の糸Yの非接触長Lfは、隣接ゴデットローラそれぞれに対する糸Yの接触長Lcの60%以下である(Lf≦0.6Lc)。従って、非接触長Lfに対して、接触長Lcが長いため、糸Yとゴデットローラとの摩擦力により、隣接ゴデットローラ間においてゴデットローラ14〜18に接触していない糸Yの揺れがさらに抑制される。また、隣接ゴデットローラ間の糸Yの非接触長Lfは、隣接ゴデットローラそれぞれに対する糸Yの接触長Lcの40%以上である(0.4Lc≦Lf)。従って、隣接ゴデットローラ間の隙間を十分大きく取ることができ、糸掛け時に糸Yをサクションガンで吸引しながらゴデットローラ14〜18に掛けていく作業を行うのに十分な隙間とすることができる。
【0052】
また、本実施形態では、複数のゴデットローラ14〜18には、それぞれ180度以上270度以下の巻き掛け角度で、糸Yが巻き掛けられているため、ゴデットローラ14〜18それぞれに対する糸Yの接触長Lc(Lc1〜Lc5)を十分に確保することができる。このため、糸Yをゴデットローラ14〜18により十分加熱することができる。また、糸Yの巻き掛け角度が180度以上であり、十分に大きいため、ゴデットローラ14〜18表面で糸Yが十分に把持され、ゴデットローラ14〜18上での糸Yの滑りを抑えることができる。特に、延伸前後の予備加熱用のゴデットローラ16、熱固定用のゴデットローラ17上での糸Yの滑りを抑えることで、糸品質の低下をさらに抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態では、隣接ゴデットローラ間の糸Yの非接触長Lfは、隣接ゴデットローラそれぞれの半径rの和2r(=r+r)よりも小さい(Lf(Lf1〜Lf4)<2r)。このため、隣接ゴデットローラが近接して配置され、紡糸延伸装置2がコンパクトとなる。
【0054】
また、本実施形態では、複数のゴデットローラ14〜18は、糸道に沿って千鳥状に配置されている。このように、複数のゴデットローラ14〜18が千鳥状に近接して配置されているため、隣接ゴデットローラ間の糸の非接触長Lfが短くなる。また、紡糸延伸装置2がコンパクトとなる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明を適用可能な形態は、上述の実施形態に限られるものではなく、以下に例示するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることが可能である。
【0056】
図4は、一変形例に係る紡糸引取機の構成を示す正面図である。図5は、一変形例に係る紡糸引取機の側面図である。上述の実施形態では、案内ローラ20、21を前後(軸方向)に位置をずらして、保温箱19に進入する糸Yと保温箱19から導出する糸Yとが接触しないようにするため、保温箱19は、鉛直面に対して前方へ傾斜して配置されている。保温箱19を傾斜させる構成に替えて、図4及び図5に示すように、ガイド25、26を設け、ガイド25、26により、保温箱19に進入する糸と保温箱19から導出する糸とが接触しないよう複数の糸Yを屈曲させ、案内ローラ20に複数の糸Yを導く構成としてもよい。ガイド25は、複数の糸Yを後方から前方へ向けて屈曲し、屈曲した糸Yは、ガイド26に導出する。ガイド26は、複数の糸Yを上方から下方に向けて屈曲し、屈曲した糸Yは、案内ローラ20に導出する。複数の糸Yの糸道は、上述の実施形態で説明した図1及び図2に示す糸道であってもよいし、図4及び図5に示す糸道であってもよい。
【0057】
図6は、他の変形例に係る紡糸引取機の構成を示す正面図である。図7は、他の変形例に係る紡糸延伸装置の拡大正面図である。図6及び図7に示すように、紡糸延伸装置2は、複数のゴデットローラ101〜104(複数のローラ)、複数のゴデットローラ101〜104を収容する保温箱19等を備える。ゴデットローラ101、102は、上述の実施形態におけるゴデットローラ14〜16と同様、延伸前の糸Yを予備加熱するための予備加熱用のゴデットローラである。ゴデットローラ103、104は、上述の実施形態におけるゴデットローラ17、18同様、延伸後の糸Yを熱固定するための熱固定用のゴデットローラである。従って、複数のゴデットローラ101〜104は、2個の予備加熱用のゴデットローラ101、102と、2個の熱固定用のゴデットローラ103、104と、の合計4個である。ゴデットローラ101、102、103、104の順に下方から上方に千鳥状に配置されており、熱固定用のゴデットローラ103、104は、予備加熱用のゴデットローラ101、102よりも上方に位置するよう配置される。
【0058】
ゴデットローラ101、103は、図6及び図7における反時計回り方向に回転している。ゴデットローラ102、104は、図6及び図7における時計回り方向に回転している。従って、糸Yの走行方向において隣り合うゴデットローラ101とゴデットローラ102、ゴデットローラ102とゴデットローラ103、ゴデットローラ103とゴデットローラ104は、それぞれ、回転方向が逆である。
【0059】
ゴデットローラ101〜104には、それぞれ360度以内の巻き掛け角度で、ゴデットローラ101、102、103、104の順に、回転方向に沿って糸Yが巻き掛けられている。言い換えれば、糸Yの走行方向において隣り合う2つのゴデットローラ101とゴデットローラ102、ゴデットローラ102とゴデットローラ103、ゴデットローラ103とゴデットローラ104には、それぞれ、S字状に糸Yが掛けられている(いわゆるS掛け。)。また、複数のゴデットローラ101〜104には、それぞれ360度以内の巻き掛け角度で、回転方向に沿って糸Yが巻き掛けられている。このため、糸Yは、隣接ゴデットローラ間において、隣接ゴデットローラの共通内接線方向に走行する。
【0060】
保温箱19の内部には、ゴデットローラの設定温度が互いの設定温度に影響を及ぼすことを防止するため、隔壁24が設けられている。保温箱19には、右側面及び左側面にスリット22、23が設けられており、右側面のスリット22を通過して、保温箱19の内部に複数の糸Yが進入し、左側面のスリット23を通過して、保温箱19の内部から複数の糸Yが導出する。すなわち、複数の糸Yは、保温箱19の右側から保温箱19の内部に進入し、保温箱19の内部から保温箱19の左側へ導出する。このため、保温箱19に進入する糸Yと保温箱19から導出する糸Yとは接触しないから、保温箱19は傾いていない。
【0061】
ゴデットローラ101に接触している糸Yの接触長をLc11とする。ゴデットローラ102に接触している糸Yの接触長をLc12とする。ゴデットローラ103に接触している糸Yの接触長をLc13とする。ゴデットローラ104に接触している糸Yの接触長をLc14とする。糸Yの走行方向において隣り合うゴデットローラ101とゴデットローラ102間の糸Yの非接触長をLf11とする。糸Yの走行方向において隣り合うゴデットローラ102とゴデットローラ103間の糸Yの非接触長をLf12とする。糸Yの走行方向において隣り合うゴデットローラ103とゴデットローラ104間の糸Yの非接触長をLf3とする。
【0062】
上述の実施形態と同様、隣接ゴデットローラ間の糸Yの非接触長Lfは、隣接ゴデットローラそれぞれに対する糸Yの接触長Lcよりも短い(Lf<Lc)。すなわち、非接触長Lf11は、接触長Lc11よりも短く(Lf11<Lc11)、且つ、接触長Lc12よりも短い(Lf11<Lc12)。非接触長Lf2は、接触長Lc12よりも短く(Lf12<Lc12)、且つ、接触長Lc13よりも短い(Lf12<Lc13)。非接触長Lf13は、接触長Lc13よりも短く(Lf13<Lc13)、且つ、接触長Lc14よりも短い(Lf13<Lc14)。
【0063】
上述の実施形態においては、非接触長Lf1〜Lf4は、略同じ長さである。言い換えれば、ゴデットローラ14〜18において、隣接ゴデットローラの間隔が略同じである。予備加熱用のゴデットローラと、熱固定用のゴデットローラとは、設定温度、糸Yの糸送り速度等の様々な条件が異なるため、予備加熱用のゴデットローラと熱固定用のゴデットローラとの間隔は、予備加熱用のゴデットローラ間の間隔、及び、熱固定用のゴデットローラ間の間隔よりも離れている方が好ましい。
【0064】
上述の実施の形態においては、複数のゴデットローラ14〜18は、加熱ローラである。これに限らず、延伸前の糸Yが走行する予備加熱用のゴデットローラ14〜16の全部又は一部を、生産する糸種、例えば常温で延伸可能なナイロンなどでは、ヒータを備えない非加熱ローラとすることもできる。また、延伸前の糸Yが走行する予備加熱用のゴデットローラ14〜16がヒータを備える場合は、ヒータの電源を切断して全部又は一部を非加熱状態で使用したりすることもできる。
【0065】
上述の実施形態においては、予備加熱用のゴデットローラ14〜16を3個、熱固定用のゴデットローラ17、18を2個、合計5個の略同じ直径のゴデットローラ14〜18を糸道に沿って千鳥状に設けている。これに限らず、ゴデットローラの個数、配置、直径、糸の巻き掛け角度、予備加熱用及び熱固定用のゴデットローラとする個数等は、生産する糸の種類、糸の加熱温度等に応じて、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 紡糸引取機
2 紡糸延伸装置
3 糸巻取装置
4 紡糸装置
14〜18、101〜104 ゴデットローラ(ローラ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7