特許第6133646号(P6133646)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6133646-金属薄膜を有する無端環状樹脂フィルム 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133646
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】金属薄膜を有する無端環状樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20170515BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   G03G15/20 515
   B32B15/08 M
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-62010(P2013-62010)
(22)【出願日】2013年3月25日
(65)【公開番号】特開2013-225127(P2013-225127A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年12月28日
(31)【優先権主張番号】特願2012-67668(P2012-67668)
(32)【優先日】2012年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100112896
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 宏記
(72)【発明者】
【氏名】栗原 健司
(72)【発明者】
【氏名】河野 裕子
(72)【発明者】
【氏名】三井 智史
(72)【発明者】
【氏名】鞍岡 隆志
【審査官】 杉山 輝和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−017988(JP,A)
【文献】 特開2003−198120(JP,A)
【文献】 特開2007−199273(JP,A)
【文献】 特開2002−192652(JP,A)
【文献】 特開2007−277663(JP,A)
【文献】 特開2003−191258(JP,A)
【文献】 特開2012−058681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端環状樹脂フィルム上に金属薄膜が積層された複合無端環状フィルムであって、
無端環状樹脂フィルムの凹凸が形成された外側表面に金属薄膜が積層されてなり、
前記無端環状樹脂フィルムの外側表面の凹凸が、無端環状樹脂フィルムの外側表面にフィラーを偏位させた状態で含有させた後に当該フィラーを離脱させることにより形成されている、
ことを特徴とする、複合無端環状フィルム。
【請求項2】
前記無端環状樹脂フィルムの外側表面の凹凸が、無端環状樹脂フィルムの外側表面にフィラーを偏位させた状態で含有させた後に、ウォータージェット処理によって当該フィラーを離脱させることにより形成されている、請求項1に記載の複合無端環状フィルム。
【請求項3】
前記フィラーの比表面積が1〜100m2/gである、請求項1又は2に記載の複合無端環状フィルム。
【請求項4】
前記フィラーが針状である、請求項1〜3のいずれかに記載の複合無端環状フィルム。
【請求項5】
画像形成装置における定着部材として使用される、請求項1〜4のいずれかに記載の複合無端環状フィルム。
【請求項6】
下記第1〜3工程を含む、無端環状樹脂フィルム上に金属薄膜が積層された複合無端環状フィルムの製造方法;
外側表面にフィラーを偏位させて含有する無端環状樹脂フィルムを調製する第1工程、
前記第1工程で得られた無端環状樹脂フィルムの外側表面に存在するフィラーを離脱させて、外側表面に凹凸が形成された無端環状樹脂フィルムを調製する第2工程、及び
前記第2工程で得られた無端環状樹脂フィルムの凹凸が形成された外側表面に金属薄膜を積層させる第3工程。
【請求項7】
前記第2工程がウォータージェット処理によって行われる、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記フィラーの比表面積が1〜100m2/gである、請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記フィラーが針状である、請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記複合無端環状フィルムが画像形成装置における定着部材である、請求項6〜9のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属薄膜が高い密着性で無端環状樹脂フィルムに積層しており、複写機、プリンター、ファクシミリ等の画像形成装置における定着ベルトとして好適に使用される複合無端環状フィルムに関する。更に、本発明は、当該複合無端環状フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンター、ファクシミリ等の画像形成装置において、紙等に転写されたトナー像を加熱定着させる定着装置が使用されている。この定着装置において、従来、定着ベルトの加熱は、外部加熱技術としては加熱ローラーを用いた方式(外部ローラー加熱方式)、定着ベルトの内側に設けたヒーターを定着ベルトに接触させて加熱する方式が採用されていたが、近年では、消費電力を削減して省エネルギー化を実現するために、誘導加熱(Induction Heating)により定着ベルトを外部から加熱する誘導加熱方式が開発されている。
【0003】
一般に定着ベルトはポリイミド等の樹脂フィルムが使用されているが、誘導加熱方式で加熱する定着ベルトには、被加熱体として金属薄膜を樹脂フィルムに積層させることが必要とされる。しかしながら、樹脂フィルム、とりわけポリイミドフィルムは、金属層との密着性が低いという問題がある。
【0004】
そこで、従来、誘導加熱方式で加熱する定着ベルトにおいて、樹脂フィルムと金属層の密着性を向上させる技術が報告されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、樹脂フィルムと金属層の密着性を向上させる技術として、樹脂フィルムに対して液体ホーニング装置を用いて砥砂を吐出させることによって樹脂フィルムの表面を粗す表面処理を行う方法が開示されている。しかしながら、特許文献1の方法では、樹脂フィルムの表面粗さは、使用する砥砂の摩耗状態によって変動するため、工業的生産において均一な処理を行うことが困難であるという欠点がある。更に、特許文献1の方法では、前記表面処理により、樹脂フィルムと金属層の密着性が高まるものの、その密着性は依然として満足できるものではない。
【0006】
また、例えば、特許文献2には、樹脂フィルムと金属層の密着性を向上させる技術として、樹脂フィルムの一方表面に金属粒子等の導電性物質を偏位させ、この導電性物質を電極として電解メッキを行うことにより、樹脂フィルム上に金属層を積層させる方法が開示されている。しかしながら、特許文献2の方法では、熱容量が大きいニッケル等の金属粒子を樹脂フィルム中に添加する必要があり、その結果、定着ベルトの熱容量の増大を招き、ひいては省エネルギー性能が劣ってしまう。更に、ニッケルや銅等の金属とポリアミド酸は錯体を形成し易いため、樹脂フィルムの製造時のイミド化反応が抑制されることによる樹脂フィルムの物性の低下や原料ワニスの著しい増粘を来たし、工業的生産が困難になるという欠点がある。とりわけ、金属粒子として銅を添加した場合には、樹脂フィルムの物性劣化が著しくなる。
【0007】
このような従来技術を背景として、金属薄膜が高い密着性で無端環状樹脂フィルムに積層しており、画像形成装置における定着ベルトとして好適に使用される複合無端環状フィルムの開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−17988号公報
【特許文献2】特開2002−248705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、樹脂フィルムに金属薄膜が積層されている複合無端環状フィルムにおいて、金属薄膜と樹脂フィルムの密着性を高める技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、無端環状樹脂フィルムの外側表面にフィラーを偏位させて含有させた後に、該フィラーを離脱させることにより無端環状樹脂フィルムの外側表面に凹凸を形成させ、当該凹凸が形成された面に金属薄膜を積層させると、金属薄膜と無端環状樹脂フィルムの密着性が格段に向上することを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる、複合無端環状フィルム及びその製造方法を提供する。項1. 無端環状樹脂フィルム上に金属薄膜が積層された複合無端環状フィルムであって、
無端環状樹脂フィルムの凹凸が形成された外側表面に金属薄膜が積層されてなり、
前記無端環状樹脂フィルムの外側表面の凹凸が、無端環状樹脂フィルムの外側表面にフィラーを偏位させた状態で含有させた後に当該フィラーを離脱させることにより形成されている、
ことを特徴とする、複合無端環状フィルム。
項2. 前記無端環状樹脂フィルムの外側表面の凹凸が、無端環状樹脂フィルムの外側表面にフィラーを偏位させた状態で含有させた後に、ウォータージェット処理によって当該フィラーを離脱させることにより形成されている、項1に記載の複合無端環状フィルム。項3. 前記フィラーの比表面積が1〜100m2/gである、項1又は2に記載の複合
無端環状フィルム。
項4. 前記フィラーが針状である、項1〜3のいずれかに記載の複合無端環状フィルム。
項5. 画像形成装置における定着部材として使用される、項1〜4のいずれかに記載の複合無端環状フィルム。
項6. 下記第1〜3工程を含む、無端環状樹脂フィルム上に金属薄膜が積層された複合無端環状フィルムの製造方法;
外側表面にフィラーを偏位させて含有する無端環状樹脂フィルムを調製する第1工程、
前記第1工程で得られた無端環状樹脂フィルムの外側表面に存在するフィラーを離脱させて、外側表面に凹凸が形成された無端環状樹脂フィルムを調製する第2工程、及び
前記第2工程で得られた無端環状樹脂フィルムの凹凸が形成された外側表面に金属薄膜を積層させる第3工程。
項7. 前記第2工程がウォータージェット処理によって行われる、項6に記載の製造方法。
項8. 前記フィラーの比表面積が1〜100m2/gである、項6又は7に記載の製造方法。
項9. 前記フィラーが針状である、項6〜8のいずれかに記載の製造方法。
項10. 前記複合無端環状フィルムが画像形成装置における定着部材である、項6〜9
のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複合無端環状フィルムによれば、金属薄膜と無端環状樹脂フィルムの密着性が格段に向上しているので、画像形成装置における定着ベルトとして繰り返し使用しても、無端環状樹脂フィルムから金属薄膜が剥離することなく、優れた耐久性を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明で使用されるフィラーについて、長径と短径の概念を示すため模式図の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.複合無端環状樹脂フィルム
本発明の無端環状樹脂フィルムは、無端環状樹脂フィルム上に金属薄膜が積層された複合無端環状フィルムであって、無端環状樹脂フィルムの凹凸が形成された外側表面に金属薄膜が積層されてなり、且つ前記無端環状樹脂フィルムの外側表面の凹凸が、無端環状樹脂フィルムの外側表面にフィラーを偏位させた状態で含有させた後に当該フィラーを離脱させることにより形成されている、ことを特徴とする。以下、本発明の無端環状樹脂フィルムについて、詳細に説明する。
【0015】
外側表面に凹凸が形成されている無端環状樹脂フィルム
外側表面に凹凸が形成されている無端環状樹脂フィルムの調製に使用される樹脂としては、耐熱性を示すものである限り、特に制限されないが、ポリイミド、芳香族ポリアミド、サーモトロピック液晶ポリマー、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリイミドアミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルイミド等の樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
これらの樹脂の中でも、ポリイミドは、耐熱性、耐屈曲性、柔軟性、寸法安定性等の特性に優れており、本発明において好適に使用される。ポリイミドは、例えば、酸無水物とジアミン化合物からポリアミック酸(ポリイミドの前駆体)を合成し、当該ポリアミック酸を熱や触媒によってイミド化することにより得られる。ポリイミドの合成に使用される酸無水物としては、特に制限されないが、例えば、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、無水ピロメリット酸、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。また、ポリイミドの合成に使用されるジアミン化合物としては、特に制限されないが、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニル、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン−5,5'−ジオキシド、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4'−ジアミノベンズアニリド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン等の芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0017】
前記無端環状樹脂フィルムの厚さについては、特に制限されないが、例えば20〜120μm、好ましくは30〜110μm、更に好ましくは40〜90μmが挙げられる。
【0018】
本発明において、外側表面に凹凸が形成されている無端環状樹脂フィルムは、無端環状樹脂フィルムの外側表面にフィラーを偏位させた状態で含有させた後に該フィラーを離脱させることにより形成される。なお、「無端環状樹脂フィルムの外側表面にフィラーを偏位させた状態で含有」とは、無端環状樹脂フィルムにおいて、フィルム内部に存在するフィラーの含量よりも、フィルムの外側表面に存在するフィラーの含量が多いことを意味し、必ずしも、フィルムの外側表面のみにフィラーが存在することを示すものではない。
【0019】
無端環状樹脂フィルムの外側表面に偏位させるフィラーとしては、無端環状樹脂フィルムに使用される樹脂よりも比重が高いものであればよく、好ましくは真比重が2〜6g/cm3、好ましくは2.5〜5g/cm3のものが挙げられる。このような比重のフィラーを使用することにより、樹脂フィルムの一方の表面に効率的に偏位させることが可能になる。
【0020】
また、当該フィラーは、比表面積が1〜100m2/g、好ましくは1〜20m2/gであることが望ましい。このような比表面積を充足するフィラーを使用することにより、樹脂表面からの離脱をウォータージェット等によって効率的に行うことが可能になる。
【0021】
また、当該フィラーの形状については、特に制限されず、例えば、針状、球状、板状、紡錘状、繊維状、不定形等が挙げられる。これらの中でも、金属薄膜と樹脂製フィルムの密着性をより一層向上させるという観点から、針状が好ましい。特に、針状のフィラーと球状又は不定形のフィラーとを組み合わせて使用することによって、金属薄膜と樹脂製フィルムの密着性を格段顕著に向上させることができる。針状のフィラーと、球状又は不定形のフィラーを組み合わせて使用する場合、これらの比率については、特に制限されないが、金属薄膜と樹脂製フィルムの密着性をより一層向上させるという観点から、例えば、針状のフィラー100重量部に対して、球状又は不定形のフィラーが10〜60重量部、好ましくは10〜50重量部、更に好ましくは20〜50重量部が挙げられる。
【0022】
当該フィラーの大きさについては、その形状に応じて適宜設定すればよいが、例えば、長径の平均が1〜30μm、短径の平均が0.1〜2μmが挙げられる。本明細書において、フィラーの長径及び短径の平均値は、電子顕微鏡((株)日立製作所製、SEM、S−4800)を用いて1,000倍〜50,000倍の倍率でフィラーを撮影し、得られた顕微鏡写真中のフィラーを定規を用いて測定し、20個のフィラーの長径及び短径の平均を算出することにより求められる。また、本明細書において、短径とは、上記顕微鏡写真中のフィラー粒子について、その粒子の外側に接する二つの平行線の組合せを、フィラー粒子を挾むように選択し、これらの組合せのうち最短間隔になる二つの平行線(図1中の点線)の間の距離である。一方、長径とは、上記短径を決める平行線に直角方向となる二つの平行線であって、フィラー粒子の外側に接する二つの平行線の組合せのうち、最長間隔になる二つの平行線(図1中の破線)の距離である。これらの四つの線で形成される長方形は、フィラー粒子がちょうどその中に納まる大きさとなる。
【0023】
より具体的には、当該フィラーが、針状、紡錘状、又は繊維状の場合であれば、長径(繊維長)の平均が1〜30μm、好ましくは2〜20μm、短径(繊維径)の平均が0.1〜2μm、好ましくは0.2〜1.5μmが挙げられる。
【0024】
また、当該フィラーが球状、又は不定形の場合であれば、平均粒径が0.1〜5μm、好ましくは0.2〜3μmが挙げられる。本明細書において、平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布計により測定される体積平均径を示す。
【0025】
当該フィラーとして、具体的には、酸化ジルコニウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、アルミナ、酸化チタン、シリカ、チタン酸カリウム、ウォラストナイト等の無機フィラーが挙げられる。これらの中でも、好ましくは酸化チタン、チタン酸カリウム、ウォラストナイトが挙げられる。
【0026】
無端環状樹脂フィルムの外側表面にフィラーを偏位させた状態で含有させる方法としては、前記樹脂又はその前駆体を含む溶液中に当該フィラーを添加し、遠心成型する方法が挙げられる。このように遠心成型を採用することによって、成型時の遠心力で前記フィラーが樹脂フィルムの表面に局在化(偏位)すると共に、無端環状のフィルムが調製される。
【0027】
また、例えば、樹脂としてポリイミドを使用する場合であれば、酸無水物とジアミン化合物から合成されたポリアミック酸を含む溶液に前記フィラーを添加して、遠心成型を行い、その後、熱風炉で100〜450℃間を速度1.5〜2.5℃/分で昇温し400〜450℃で10〜60分間、好ましくは20〜40分間加熱処理を行うことによって、当該加熱処理によってポリアミック酸がイミド化されてポリイミドに変換され、外側表面にフィラーを偏位させた状態で含有する無端環状ポリイミドフィルムが得られる。
【0028】
前記フィラーの添加量としては、特に制限されるものではないが、無端環状樹脂フィルムの外側表面に対して、金属薄膜との密着性を一層向上させ得る凹凸を形成するという観点から、樹脂又はその前駆体100重量部当たり、前記フィラーが2〜20重量部、好ましくは3〜15重量部、更に好ましくは5〜12重量部が挙げられる。
【0029】
前記遠心成型において、回転ドラム(金型)の加熱条件については、使用する樹脂又はその前駆体の種類に応じて適宜設定されるが、例えば、0.5〜1.5℃/分、好ましくは0.7〜1.0℃/分の速度で昇温させて、100〜120℃、好ましくは110〜120℃に到達したら、その温度を維持することが挙げられる。
【0030】
また、前記遠心成型において、回転ドラムの回転条件については、回転ドラムの大きさ、使用する樹脂やフィラーの種類等に応じて、フィラーを樹脂フィルムの表面に局在化できる条件を適宜設定すればよいが、例えば、10〜120G、好ましくは30〜70Gの遠心力を加えた状態で、90〜180分間、好ましくは120〜160分間が挙げられる。より具体的には、例えば、直径6cm程度の回転ドラムを使用する場合であれば、60〜180rad/秒、好ましくは80〜160rad/秒で、90〜180分間、好ましくは120〜160分間が挙げられる。
【0031】
斯して外側表面にフィラーを偏位させた状態で含有する、無端環状樹脂フィルムが調製される。当該、無端環状樹脂フィルムから、外側表面に存在するフィラーを離脱させることにより、外側表面に金属薄膜との密着性が向上した凹凸を形成した無端環状樹脂フィルムが得られる。
【0032】
外側表面に存在するフィラーを離脱させる方法については、特に制限されないが、好ましくは、フィラーが偏位して存在している無端環状樹脂フィルムの外側表面に対して、ウォータージェット処理(水噴射処理)する方法が挙げられる。当該ウォータージェット処理において噴射する水圧については、無端環状樹脂フィルムの外側表面に存在するフィラーを離脱させ得る限り、特に制限されないが、フィラーを効率的に離脱させつつ、水圧による樹脂フィルムの損傷を抑制するという観点から、好ましくは200〜300Mpa、更に好ましくは250〜280Mpaが挙げられる。
【0033】
斯して、外側表面にフィラーが偏位して存在する無端環状樹脂フィルムから当該外側表面に存在するフィラーを離脱させることにより、無端環状樹脂フィルムの外側表面に、離脱させたフィラーの形状に応じた凹凸が形成される。このようにフィラーを離脱させることにより、無端環状樹脂フィルの外側表面(フィラー離脱させた面)は、表面粗さ(Rz)が通常0.8〜10μm、好ましくは2.0〜8.0μmになり、金属薄膜との密着性を向上させる凹凸形状が表出される。
【0034】
凹凸が形成されている無端環状樹脂フィルムへの金属薄膜の積層
無端環状樹脂フィルムの凹凸が形成された外側表面に金属薄膜を積層させることにより、本発明の複合無端環状フィルムが調製される。
【0035】
本発明の複合無端環状フィルムには、必要に応じて、金属薄膜と無端環状樹脂フィルムとの間には、金属薄膜を電解めっき法により積層させるために金属下地層が設けられていてもよい。金属下地層を形成する金属については、特に制限されないが、好ましくはニッケル,コバルト、アルミニウムなどが挙げられる。金属下地層の形成方法については、特に制限されず、例えば、無電解めっき、スパッタリング、蒸着めっき等が挙げられるが、好ましくは無電解めっき、スパッタリング、更に好ましくはスパッタリングが挙げられる。金属下地層の厚さについては、特に制限されないが、例えば0.05〜3μm、好ましくは0.1〜2μmが挙げられる。
【0036】
金属薄膜は、電磁誘導加熱により被加熱体となる部位である。上記無端環状樹脂フィルムの凹凸が形成された表面に金属薄膜を積層させる方法については、特に制限されないが、低コスト、製造簡便性等の観点から、好ましくは電解めっき法が挙げられる。
【0037】
金属薄膜の種類については、電磁誘導加熱により発熱可能であることを限度として、特に制限されないが、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄、錫、亜鉛、クロム、金、銀等の金属が挙げられ、低コストで優れた導電性を付与するという観点から、好ましくは銅が挙げられる。金属薄膜は、これらの金属の中から1種を選択して単一金属から構成されるものであってもよく、またこれらの金属の中の2種以上の組み合わせからなる合金から構成されるものであってもよい。
【0038】
金属薄膜の厚さについては、使用する金属の種類等に応じて適宜設定されるが、例えば5〜30μm、好ましくは7〜20μmが挙げられる。
【0039】
また、本発明の複合無端環状フィルムにおいて、金属薄膜の表面(無端環状樹脂フィルムと接する面とは反対の面)には、耐久性や耐酸化性等を付与するために、金属保護層が設けられていてもよい。金属保護層を形成する金属については、特に制限されないが、好ましくはニッケルが挙げられる。金属保護層の形成方法は、一般的な無電解めっき法、電解めっき法等の従来公知の方法を採用することができ、低コストで製造できるという観点から電解めっき法が好ましい方法として挙げられる。金属保護層の厚さについては、特に制限されないが、例えば0.05〜3μm、好ましくは0.1〜2μmが挙げられる。
【0040】
更に、本発明の複合無端環状フィルムにおいて、金属薄膜の表面又は金属保護層の表面には、摩耗性、摩擦帯電性等を備えさせるフッ素樹脂からなる樹脂層が積層されていてもよい。フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)等が挙げられる。これらのフッ素樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。フッ素樹脂からなる樹脂層の厚さについては、特に制限されないが、例えば2〜30μm、好ましくは5〜20μmが挙げられる。
【0041】
2.本発明の複合無端環状フィルムの用途
本発明の複合無端環状フィルムは、複写機、プリンター、ファクシミリ等の画像形成装置における定着部材(定着ベルト、定着ロール)として好適に使用される。
【0042】
具体的には、本発明の複合無端環状フィルムからなる定着部材は、各種画像形成装置において、ベルト状又はロール状の定着部として配置され、誘導加熱方式により加熱された状態で、ゴムローラ等からなる加圧ローラと対向、圧接されるように設置される。当該画像形成装置では、ベルト状又はロール状の定着部と加圧ローラの間にトナー画像が転写された被転写物が通過し、未定着のトナーをベルト状又はロール状の定着部で加熱溶融して被転写物上に定着させることにより、画像が形成される。
【0043】
3.本発明の複合無端環状フィルムの製造方法
本発明の複合無端環状フィルムは、下記第1〜3工程を経ることにより製造される。
外側表面にフィラーを偏位させて含有する無端環状樹脂フィルムを調製する第1工程、
前記第1工程で得られた無端環状樹脂フィルムの外側表面に存在するフィラーを離脱させて、外側表面に凹凸が形成された無端環状樹脂フィルムを調製する第2工程、及び
前記第2工程で得られた無端環状樹脂フィルムの凹凸が形成された外側表面に金属薄膜を積層させる第3工程。
【0044】
上記第1〜3工程で使用される原料、処理条件等については、前記「1.複合無端環状フィルム」に記載の通りである。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
外側表面に凹凸が形成された無端環状ポリイミドフィルムの調製
ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)144.6gとpーフェニレンジアミン(PPD)53.2gをNーメチルピロリドン溶媒802.2L中で縮重合反応して固形分濃度18重量%のポリアミック酸溶液(粘度5.1Pa・s;B型粘度計(TVB−10M(東機産業株式会社)、ローターM3、回転数12rpm、測定温度23℃)を得た。
この溶液1kgに、フィラーとして針状の酸化チタン(FTL-400、真比重4.2g/cm3、繊維径D=0.71μm、繊維長L=9.72μm、比表面積2.4m2/g、石原産業(株)製)18g、溶媒としてN−メチルピロリドン505gを加え、ホモディスパーにて均一分散を行った。このようにして得られた分散液は固形分濃度13.0重量%、該固形分中のフィラー濃度は9.1重量%であった。
【0046】
次いで、上記該分散液73.2gを、遠心成型用の回転ドラム内に注入し、次の条件で遠心成型を行った。
回転ドラム:内径61.54mm、幅520mmの内面鏡面仕上げの金属製の回転ドラムを用い、2本の回転ローラー上に載置して、当該ローラーの回転とともに回転する状態に配置した。
加熱温度:上記回転ドラムの外側面に遠赤外線ヒーターを配置し、該回転ドラムの内面温度が1℃/分で110℃まで昇温し、110℃に到達するとこの温度を維持するように制御にした。
まず、回転ドラムを回転した状態で上記該分散液73.2gを回転ドラム内面に均一に塗布し、加熱を開始した。加熱は回転ドラムの内面温度を1℃/分で110℃まで昇温して、その温度で60分間維持しながら、回転ドラムの回転を行った。回転ドラムの回転速度は加熱と共に徐々に加速し、80rad/sに到達したらこれを維持した。加熱及び回転が終了した後、回転ドラム内から固形の無端管状フィルムを取り出した、得られた無端管状フィルムを構成する樹脂はN−メチルピロリドンを16重量%含有するポリアミック酸であった。
【0047】
得られた無端管状ポリアミック酸フィルムを外径60.00mm、幅450mm の中空管状金型に嵌挿して、これを100℃の熱風乾燥炉に入れて、2℃/分で450℃まで加熱し、更にその温度で30分加熱した。斯して、ポリアミック酸をイミド化すると共に、残存する溶媒を除去して、無端管状ポリイミドフィルムを得た。得られた無端管状ポリイミドフィルムの厚さは69μmであった。また、得られた無端管状ポリイミドフィルムの端部の一部をカットして、この断面をSEMにて観察したところ、針状酸化チタンは管状フィルム表面側10μm以内の部分に多く観察され、厚み方向中央部付近の針状酸化チ
タンの量の10倍以上であった。
【0048】
得られた無端管状ポリイミドフィルムを再度、外径60.00mm、幅450mmの中空管状金型に嵌挿して、これを回転させながら、ウォータジェット装置(株式会社フロージャパン製、7XD−55K型)を用いて、250Mpaの水圧で水を無端管状ポリイミドフィルムの外側表面に噴射し、外側表面に存在している針状酸化チタンを脱落させた。ウォータージェット処理後、無端管状ポリイミドフィルムの表面粗さ(Rz)を測定したところ、5.1μmであった。また、ウォータージェット処理後の管状ポリイミドフィルムの外側表面を顕微鏡で観察したところ、針状酸化チタンと同じ形をした離脱痕が無数に存在することが確認された。
【0049】
金属下地層の形成
上記で調製された無端環状ポリイミドフィルム(外側表面に凹凸の形成有り)に、次の条件でニッケルからなる金属下地層を形成した。
先ず、上記で調製された無端環状ポリイミドフィルムを、30重量%の塩化パラジウム水溶液に10分間浸漬し、無端環状ポリイミドフィルムの凹凸が形成された外側表面にパラジウムを担持させた。
次いで、硫酸ニッケル25g、次亜リン酸ナトリウム25g、ピロリン酸ナトリウム50gをイオン交換水1Lに溶解し、pH10となるようにアンモニア水で調整した水溶液に、パラジウムを担持させた無端環状ポリイミドフィルムを5分間浸漬し、無電解ニッケルめっきにより、厚さ1μmのニッケルからなる金属下地層を形成した。
【0050】
金属薄膜の積層
無端環状ポリイミドフィルムに形成した金属下地層層を陰極として、次の条件で電解銅メッキを行い、無端環状ポリイミドフィルムの外側表面に銅からなる金属薄膜を積層させた。
25℃に温調された銅の電解液に、金属薄膜を積層した無端環状ポリイミドフィルムを陰極として浸漬し、陽極に純銅板として用いて陰極電流密度1A/dm2で10分間、電解を行った。これによって、無端環状ポリイミドフィルムの外側表面に銅からなる金属薄膜が積層された複合無端環状フィルムが得られた。当該複合無端環状フィルムにおいて、銅からなる金属薄膜の厚みは10μmであった。
【0051】
実施例2
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに、針状のウォラスナイト(真比重2.9g/cm3、繊維径D=1.9μm、繊維長L=25.5μm、比表面積1.8m2/g、関西マテック(株)製 KAP150)を使用したこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、7.5μmであった。
【0052】
実施例3
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに、針状のチタン酸カリウム(真比重3.5g/cm3、繊維径D=0.4μm、繊維長L=12.1μm、比表面積3.7m2/g、大塚化学(株)製)を使用したこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、3.3μmであった。
【0053】
実施例4
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに、針状の導電性酸化チタン(FT3000、真比重4.2g/cm3、繊維径D=0.4μm、繊維長L=5.04μm、比表面積3.8m2/g、石原産業(株)製)を使用したこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、2.8μmであった。
【0054】
実施例5
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに、針状の酸化チタン(FTL500、真比重4.2g/cm3、繊維径D=1.24μm、繊維長L=18.3μm、比表面積1.5m2/g、石原産業(株)製)を使用したこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、6.3μmであった。
【0055】
実施例6
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに、真球状のシリカ(SP-30、真比重2.2g/cm3、平均粒径2.6μm、比表面積9.2m2/g、(株)マイクロン製)を使用し、下地金属層の形成を以下に示すスパッタリングにより行ったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、3.4μmであった。
【0056】
<スパッタリングによる下地金属層の形成>
ターゲット幅100mm、長さ380mmのニッケル板と銅板を縦に無端環状ポリイミドフィルム(外側表面に凹凸の形成有り)と対峙して壁面に固定した状態で、真空度はアルゴン置換で10-3Torr、真空室内温度120℃、該ターゲットと外フィルム面との距離は15mm、該ターンテーブルを1m/分の速度で回転しつつ、出力電圧6.5W/cm2にて10分間、ニッケルのスパッタリングを行った。続いて、出力電圧6.2W/cm2にて銅のスパッタリングを行った。各層の厚みは予備実験の結果からニッケル層500nm、銅層500nmであった。
【0057】
実施例7
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに、不定形の酸化チタン(R550、真比重4.2g/cm3、平均粒径0.24μm、比表面積12m2/g、石原産業(株)製)を使用したこと以外は、上記実施例6と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、0.8μmであった。
【0058】
実施例8
下地金属層の形成を実施例6に示すスパッタリング法により行ったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、5.0μmであった。
【0059】
実施例9
フィラーとして実施例1で使用した針状酸化チタン(FTL−400、真比重4.2g/cm3、繊維径D=0.71μm、繊維長L=9.72μm石原産業(株)製)と実施例7で使用した不定形の酸化チタン(R550、真比重4.2g/cm3、平均粒径0.24μmを7:3で混合して使用したこと以外は、上記実施例1と同じ条件(フィラーの総添加量は実施例1と同じ)で、複合無端環状フィルムを製造した。無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、4.7μmであった。
【0060】
比較例1
フィラーの添加及びウォータージェット処理を行わなかったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、下地金属層を形成させる前の無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、0.8μmであった。
【0061】
比較例2
フィラーの添加を行わなかったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、下地金属層を形成させる前の無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、0.8μmであった。
【0062】
比較例3
フィラーの添加を行わず、ウォータージェット処理の代わりに以下に示すサンドブラスト処理を行ったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、サンドブラスト処理後の無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、2.1μmであった。
<サンドブラスト処理>
得られた無端環状ポリイミドフィルムを、再度、外径60.00mm、幅450mmの中空管状金型に嵌挿して、これをサンドブラスト装置に設置し、無端環状ポリイミドフィルムを回転させながら平均粒径50μmのアルミナ砥粒でサンドブラスト処理を行った。
【0063】
比較例4
フィラーの添加を行わず、ウォータージェット処理の代わりに以下に示すウェットブラスト処理を行ったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウェットブラスト処理後の無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、1.2μmであった。
<ウェットブラスト処理>
得られた無端管状ポリイミドフィルムを、外径60.00mm、幅450mmの中空管状金型に嵌挿して、これを回転させながら、液体ホーニング装置(LH-5、不二精機製造所製)にて、アルミナ砥粒(平均砥粒径40μmテクノライズ株式会社製、)を無端管状ポリイミドフィルムの外側表面に噴射することによって、ウェットブラスト処理を行った。
【0064】
比較例5
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに針状のチタン酸カリウム(真比重3.5g/cm3、繊維径D=0.4μm、繊維長L=12.1μm、比表面積3.7m2/g、大塚化学(株)製)を使用したこと、ウォータージェット処理を行わなかったこと、および下地金属層の形成を上記実施例6と同条件で行ったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、下地金属層を形成させる前の無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、0.8μmであった。
【0065】
比較例6
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに真球状のシリカ(SP-30、真比重2.2g/cm3、平均粒径2.6μm、比表面積9.2m2/g、(株)マイクロン製)を使用したこと、ウォータージェット処理を行わなかったこと、および下地金属層の形成を上記実施例6と同条件で行ったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、下地金属層を形成させる前の無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、0.8μmであった。
【0066】
密着性の評価
上記実施例1−9及び比較例1−6で製造した複合無端環状フィルムにおいて、金属薄膜(銅層)と、樹脂フィルム(ポリイミド樹脂)の密着性を評価するために、以下の試験を実施した。
【0067】
各複合無端環状フィルムを、230℃に加熱できる1本のロール(径20mm)と駆動ロール(径20mm)とテンションロール(径20mm)の計3本のロールに張力2N/cmで張架し、複合無端環状フィルム外周速度を100mm/秒で72時間回転し続けた。次いで、回転を停止し、複合無端環状フィルムを切り開き、幅10mm、長さ100mmの短冊状試験片を10枚作成した。この短冊状試験片を用いて、剥離試験機(新東科学株式会社製 TRIBOGEARTYPE:17 JIS P8139準拠 剥離速度200mm/分)を用いて樹脂フィルムと金属薄膜のピール強度(密着強度、N/cm)を測定した。ピール強度(密着強度、N/cm)は、各短冊状試験片10枚の平均値を算出することにより求めた。
【0068】
得られた結果を表1に示す。この結果から、フィラーを外側表面に偏位させて含有させた無端環状ポリイミドフィルムから、当該フィラーを脱離させて外側表面に凹凸を形成させた無端環状ポリイミドフィルムを使用することによって金属薄膜の密着性が顕著に向上することが確認された(実施例1−9)。とりわけ、フィラーとして針状のものを使用して外側表面に凹凸を形成させた無端環状ポリイミドフィルムでは、金属薄膜の密着性が格段顕著に向上することも明らかになった(実施例1−5、8−9)。とりわけ、フィラーとして針状のものと共に、不定形のものを使用した場合には、金属薄膜の密着性が極めて良好になることも明らかとなった。針状フィラーと不定形フィラーを併用する場合には、金属薄膜の密着性を一層向上させるという観点から、針状フィラーの比率を高くしておくことが望ましいことも、実施例9の結果から示唆された。
【0069】
【表1】
図1