【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
外側表面に凹凸が形成された無端環状ポリイミドフィルムの調製
ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)144.6gとpーフェニレンジアミン(PPD)53.2gをNーメチルピロリドン溶媒802.2L中で縮重合反応して固形分濃度18重量%のポリアミック酸溶液(粘度5.1Pa・s;B型粘度計(TVB−10M(東機産業株式会社)、ローターM3、回転数12rpm、測定温度23℃)を得た。
この溶液1kgに、フィラーとして針状の酸化チタン(FTL-400、真比重4.2g/cm
3、繊維径D=0.71μm、繊維長L=9.72μm、比表面積2.4m
2/g、石原産業(株)製)18g、溶媒としてN−メチルピロリドン505gを加え、ホモディスパーにて均一分散を行った。このようにして得られた分散液は固形分濃度13.0重量%、該固形分中のフィラー濃度は9.1重量%であった。
【0046】
次いで、上記該分散液73.2gを、遠心成型用の回転ドラム内に注入し、次の条件で遠心成型を行った。
回転ドラム:内径61.54mm、幅520mmの内面鏡面仕上げの金属製の回転ドラムを用い、2本の回転ローラー上に載置して、当該ローラーの回転とともに回転する状態に配置した。
加熱温度:上記回転ドラムの外側面に遠赤外線ヒーターを配置し、該回転ドラムの内面温度が1℃/分で110℃まで昇温し、110℃に到達するとこの温度を維持するように制御にした。
まず、回転ドラムを回転した状態で上記該分散液73.2gを回転ドラム内面に均一に塗布し、加熱を開始した。加熱は回転ドラムの内面温度を1℃/分で110℃まで昇温して、その温度で60分間維持しながら、回転ドラムの回転を行った。回転ドラムの回転速度は加熱と共に徐々に加速し、80rad/sに到達したらこれを維持した。加熱及び回転が終了した後、回転ドラム内から固形の無端管状フィルムを取り出した、得られた無端管状フィルムを構成する樹脂はN−メチルピロリドンを16重量%含有するポリアミック酸であった。
【0047】
得られた無端管状ポリアミック酸フィルムを外径60.00mm、幅450mm の中空管状金型に嵌挿して、これを100℃の熱風乾燥炉に入れて、2℃/分で450℃まで加熱し、更にその温度で30分加熱した。斯して、ポリアミック酸をイミド化すると共に、残存する溶媒を除去して、無端管状ポリイミドフィルムを得た。得られた無端管状ポリイミドフィルムの厚さは69μmであった。また、得られた無端管状ポリイミドフィルムの端部の一部をカットして、この断面をSEMにて観察したところ、針状酸化チタンは管状フィルム表面側10μm以内の部分に多く観察され、厚み方向中央部付近の針状酸化チ
タンの量の10倍以上であった。
【0048】
得られた無端管状ポリイミドフィルムを再度、外径60.00mm、幅450mmの中空管状金型に嵌挿して、これを回転させながら、ウォータジェット装置(株式会社フロージャパン製、7XD−55K型)を用いて、250Mpaの水圧で水を無端管状ポリイミドフィルムの外側表面に噴射し、外側表面に存在している針状酸化チタンを脱落させた。ウォータージェット処理後、無端管状ポリイミドフィルムの表面粗さ(Rz)を測定したところ、5.1μmであった。また、ウォータージェット処理後の管状ポリイミドフィルムの外側表面を顕微鏡で観察したところ、針状酸化チタンと同じ形をした離脱痕が無数に存在することが確認された。
【0049】
金属下地層の形成
上記で調製された無端環状ポリイミドフィルム(外側表面に凹凸の形成有り)に、次の条件でニッケルからなる金属下地層を形成した。
先ず、上記で調製された無端環状ポリイミドフィルムを、30重量%の塩化パラジウム水溶液に10分間浸漬し、無端環状ポリイミドフィルムの凹凸が形成された外側表面にパラジウムを担持させた。
次いで、硫酸ニッケル25g、次亜リン酸ナトリウム25g、ピロリン酸ナトリウム50gをイオン交換水1Lに溶解し、pH10となるようにアンモニア水で調整した水溶液に、パラジウムを担持させた無端環状ポリイミドフィルムを5分間浸漬し、無電解ニッケルめっきにより、厚さ1μmのニッケルからなる金属下地層を形成した。
【0050】
金属薄膜の積層
無端環状ポリイミドフィルムに形成した金属下地層層を陰極として、次の条件で電解銅メッキを行い、無端環状ポリイミドフィルムの外側表面に銅からなる金属薄膜を積層させた。
25℃に温調された銅の電解液に、金属薄膜を積層した無端環状ポリイミドフィルムを陰極として浸漬し、陽極に純銅板として用いて陰極電流密度1A/dm
2で10分間、電解を行った。これによって、無端環状ポリイミドフィルムの外側表面に銅からなる金属薄膜が積層された複合無端環状フィルムが得られた。当該複合無端環状フィルムにおいて、銅からなる金属薄膜の厚みは10μmであった。
【0051】
実施例2
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに、針状のウォラスナイト(真比重2.9g/cm
3、繊維径D=1.9μm、繊維長L=25.5μm、比表面積1.8m
2/g、関西マテック(株)製 KAP150)を使用したこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、7.5μmであった。
【0052】
実施例3
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに、針状のチタン酸カリウム(真比重3.5g/cm
3、繊維径D=0.4μm、繊維長L=12.1μm、比表面積3.7m
2/g、大塚化学(株)製)を使用したこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、3.3μmであった。
【0053】
実施例4
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに、針状の導電性酸化チタン(FT3000、真比重4.2g/cm
3、繊維径D=0.4μm、繊維長L=5.04μm、比表面積3.8m
2/g、石原産業(株)製)を使用したこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、2.8μmであった。
【0054】
実施例5
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに、針状の酸化チタン(FTL500、真比重4.2g/cm
3、繊維径D=1.24μm、繊維長L=18.3μm、比表面積1.5m
2/g、石原産業(株)製)を使用したこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、6.3μmであった。
【0055】
実施例6
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに、真球状のシリカ(SP-30、真比重2.2g/cm
3、平均粒径2.6μm、比表面積9.2m
2/g、(株)マイクロン製)を使用し、下地金属層の形成を以下に示すスパッタリングにより行ったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、3.4μmであった。
【0056】
<スパッタリングによる下地金属層の形成>
ターゲット幅100mm、長さ380mmのニッケル板と銅板を縦に無端環状ポリイミドフィルム(外側表面に凹凸の形成有り)と対峙して壁面に固定した状態で、真空度はアルゴン置換で10
-3Torr、真空室内温度120℃、該ターゲットと外フィルム面との距離は15mm、該ターンテーブルを1m/分の速度で回転しつつ、出力電圧6.5W/cm
2にて10分間、ニッケルのスパッタリングを行った。続いて、出力電圧6.2W/cm
2にて銅のスパッタリングを行った。各層の厚みは予備実験の結果からニッケル層500nm、銅層500nmであった。
【0057】
実施例7
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに、不定形の酸化チタン(R550、真比重4.2g/cm
3、平均粒径0.24μm、比表面積12m
2/g、石原産業(株)製)を使用したこと以外は、上記実施例6と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、0.8μmであった。
【0058】
実施例8
下地金属層の形成を実施例6に示すスパッタリング法により行ったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウォータージェット処理後に、無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、5.0μmであった。
【0059】
実施例9
フィラーとして実施例1で使用した針状酸化チタン(FTL−400、真比重4.2g/cm
3、繊維径D=0.71μm、繊維長L=9.72μm石原産業(株)製)と実施例7で使用した不定形の酸化チタン(R550、真比重4.2g/cm
3、平均粒径0.24μmを7:3で混合して使用したこと以外は、上記実施例1と同じ条件(フィラーの総添加量は実施例1と同じ)で、複合無端環状フィルムを製造した。無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、4.7μmであった。
【0060】
比較例1
フィラーの添加及びウォータージェット処理を行わなかったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、下地金属層を形成させる前の無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、0.8μmであった。
【0061】
比較例2
フィラーの添加を行わなかったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、下地金属層を形成させる前の無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、0.8μmであった。
【0062】
比較例3
フィラーの添加を行わず、ウォータージェット処理の代わりに以下に示すサンドブラスト処理を行ったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、サンドブラスト処理後の無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、2.1μmであった。
<サンドブラスト処理>
得られた無端環状ポリイミドフィルムを、再度、外径60.00mm、幅450mmの中空管状金型に嵌挿して、これをサンドブラスト装置に設置し、無端環状ポリイミドフィルムを回転させながら平均粒径50μmのアルミナ砥粒でサンドブラスト処理を行った。
【0063】
比較例4
フィラーの添加を行わず、ウォータージェット処理の代わりに以下に示すウェットブラスト処理を行ったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、ウェットブラスト処理後の無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、1.2μmであった。
<ウェットブラスト処理>
得られた無端管状ポリイミドフィルムを、外径60.00mm、幅450mmの中空管状金型に嵌挿して、これを回転させながら、液体ホーニング装置(LH-5、不二精機製造所製)にて、アルミナ砥粒(平均砥粒径40μmテクノライズ株式会社製、)を無端管状ポリイミドフィルムの外側表面に噴射することによって、ウェットブラスト処理を行った。
【0064】
比較例5
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに針状のチタン酸カリウム(真比重3.5g/cm
3、繊維径D=0.4μm、繊維長L=12.1μm、比表面積3.7m
2/g、大塚化学(株)製)を使用したこと、ウォータージェット処理を行わなかったこと、および下地金属層の形成を上記実施例6と同条件で行ったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、下地金属層を形成させる前の無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、0.8μmであった。
【0065】
比較例6
フィラーとして針状の酸化チタンを使用する代わりに真球状のシリカ(SP-30、真比重2.2g/cm
3、平均粒径2.6μm、比表面積9.2m
2/g、(株)マイクロン製)を使用したこと、ウォータージェット処理を行わなかったこと、および下地金属層の形成を上記実施例6と同条件で行ったこと以外は、上記実施例1と同じ条件で、複合無端環状フィルムを製造した。なお、下地金属層を形成させる前の無端管状ポリイミドフィルムの外側表面の表面粗さ(Rz)を測定したところ、0.8μmであった。
【0066】
密着性の評価
上記実施例1−9及び比較例1−6で製造した複合無端環状フィルムにおいて、金属薄膜(銅層)と、樹脂フィルム(ポリイミド樹脂)の密着性を評価するために、以下の試験を実施した。
【0067】
各複合無端環状フィルムを、230℃に加熱できる1本のロール(径20mm)と駆動ロール(径20mm)とテンションロール(径20mm)の計3本のロールに張力2N/cmで張架し、複合無端環状フィルム外周速度を100mm/秒で72時間回転し続けた。次いで、回転を停止し、複合無端環状フィルムを切り開き、幅10mm、長さ100mmの短冊状試験片を10枚作成した。この短冊状試験片を用いて、剥離試験機(新東科学株式会社製 TRIBOGEARTYPE:17 JIS P8139準拠 剥離速度200mm/分)を用いて樹脂フィルムと金属薄膜のピール強度(密着強度、N/cm)を測定した。ピール強度(密着強度、N/cm)は、各短冊状試験片10枚の平均値を算出することにより求めた。
【0068】
得られた結果を表1に示す。この結果から、フィラーを外側表面に偏位させて含有させた無端環状ポリイミドフィルムから、当該フィラーを脱離させて外側表面に凹凸を形成させた無端環状ポリイミドフィルムを使用することによって金属薄膜の密着性が顕著に向上することが確認された(実施例1−9)。とりわけ、フィラーとして針状のものを使用して外側表面に凹凸を形成させた無端環状ポリイミドフィルムでは、金属薄膜の密着性が格段顕著に向上することも明らかになった(実施例1−5、8−9)。とりわけ、フィラーとして針状のものと共に、不定形のものを使用した場合には、金属薄膜の密着性が極めて良好になることも明らかとなった。針状フィラーと不定形フィラーを併用する場合には、金属薄膜の密着性を一層向上させるという観点から、針状フィラーの比率を高くしておくことが望ましいことも、実施例9の結果から示唆された。
【0069】
【表1】