(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133657
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/27 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
H02K1/27 501A
H02K1/27 501M
H02K1/27 501K
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-73378(P2013-73378)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-197971(P2014-197971A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2016年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】千葉 貞一郎
(72)【発明者】
【氏名】小柴 敦誉
【審査官】
田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−211934(JP,A)
【文献】
特開2006−280195(JP,A)
【文献】
特開2012−186889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に装着された環状のステータと、前記ステータ内に配置されて前記ハウジングに回転可能に支持されたロータとを備えるとともに、前記ロータのロータコアに複数の永久磁石が埋め込まれている電動機であって、
一対の前記永久磁石は、前記ロータの軸中心から見てV字形状に配置され、
前記ロータコアには、
前記永久磁石の端面が位置するフラックスバリアと、
前記ロータコアの外周寄りに位置した前記フラックスバリアと前記ロータコアの外周表面との間で形成されるサイドブリッジと、
前記サイドブリッジの周方向の両端から前記ロータコアの内方に向けて窪んだ第1凹部および第2凹部と、
前記ロータの軸中心から見てV字形状に配置されて、前記永久磁石が埋め込まれる埋込孔とが設けられ、
前記埋込孔の内面と、前記永久磁石の対向する短辺側の対角位置に位置する辺縁とが当接することにより、前記永久磁石が前記埋込孔で支持され、
前記永久磁石における、前記サイドブリッジ寄りに位置した長辺側に位置するとともに、前記サイドブリッジを介して前記第2凹部と対向する角部分では、その角部分に対応した位置において、前記埋込孔が前記永久磁石の長辺側における前記永久磁石の外方に拡張されて、前記永久磁石と前記埋込孔との間に隙間が形成されている
ことを特徴とする電動機。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機において、
前記サイドブリッジは、前記ロータコアの径方向の外方に突出するように湾曲したアーチ状に形成されている
ことを特徴とする電動機。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電動機において、
前記サイドブリッジは、前記ロータコアの周方向において略均一な厚さを有している
ことを特徴とする電動機。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電動機において、
前記一対の永久磁石の前記ロータコアの内方側の端面が位置するフラックスバリアは、センタブリッジを介して互いに隣設されている
ことを特徴とする電動機。
【請求項5】
ハウジング内に装着された環状のステータと、前記ステータ内に配置されて前記ハウジングに回転可能に支持されたロータとを備えるとともに、前記ロータのロータコアに複数の断面矩形状の永久磁石が埋め込まれている電動機であって、
前記ロータの軸中心から見てV字形状に配置された一対の前記永久磁石により1つの磁極が形成され、
前記ロータコアには、
前記永久磁石の短辺側の一方の端面が位置し、かつ前記ロータコアの外周寄りに位置した外周側のフラックスバリアと、
前記永久磁石の短辺側の他方の端面が位置し、かつ前記フラックスバリアよりも内方側に位置した内方側のフラックスバリアと、
前記外周側のフラックスバリアと前記ロータコアの外周表面との間で形成されるサイドブリッジと、
互いに隣設する一対の前記内方側のフラックスバリアの間に形成されるセンタブリッジと、
前記サイドブリッジの周方向の両端から前記ロータコアの内方に向けて窪んだ第1凹部および第2凹部と、
前記ロータの軸中心から見てV字形状に配置されて、前記永久磁石が埋め込まれる埋込孔とが設けられ、
前記サイドブリッジは、前記ロータコアの径方向の外方に突出するように湾曲したアーチ状に形成されているとともに、前記ロータコアの周方向において略均一な厚さを有し、
前記第1凹部と前記ロータコアの軸中心とを結ぶ線、および第2凹部と前記ロータコアの軸中心とを結ぶ線の間に、前記外周側のフラックスバリアが設けられており、
前記埋込孔の内面と、前記永久磁石の対向する短辺側の対角位置に位置する辺縁とが当接することにより、前記永久磁石が前記埋込孔で支持され、
前記永久磁石における、前記サイドブリッジ寄りに位置した長辺側に位置するとともに、前記サイドブリッジを介して前記第2凹部と対向する角部分では、その角部分に対応した位置において、前記埋込孔が前記永久磁石の長辺側における前記永久磁石の外方に拡張されて、前記永久磁石と前記埋込孔との間に隙間が形成されている
ことを特徴とする電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に係り、特に埋込永久磁石型同期電動機のロータの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、埋込永久磁石型同期電動機では、トルク脈動や、鉄損、磁束高調波、あるいはコギングトルクを低下させる目的で、ロータを構成するロータコアの外周表面に凹部を設けることが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。電動機を電動車両やハイブリッド車両の走行用の駆動源として用いる場合、そのような諸特性は、電動機での振動や騒音の発生、電動機の小型化、ハイブリッド車両での燃費等に大きく影響するため、特許文献1,2以外にも、凹部の形状や位置に関する多くの提案がなされている。そして、そのような凹部は、ロータコア内に埋め込まれる永久磁石の端部近傍に位置することとなる。
【0003】
一方、ロータコアには、永久磁石の端部に対応した位置に空隙が設けられ、端部からの漏れ磁束を低減させている。この空隙は、ロータの外周表面の近くに位置することから、空隙とロータコアの外周表面との間の部位は、所定の厚みを有したブリッジ状に形成される。このような部位は、サイドブリッジと称されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−328956号公報
【特許文献2】特開2009−278860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前述のサイドブリッジでは、空隙の形状によっては、ロータの回転によって生じる遠心力により、ブリッジの基端部分に応力が集中し、ロータの回転中にサイドブリッジが破損する可能性があるなど、耐久性に問題が生じる。
これに対して、サイドブリッジの破損を防止するために、サイドブリッジの基端部分の肉厚を大きくすることも考えられるが、このような場合には、永久磁石からの漏れ磁束が増えるうえ、凹部がもたらす特性に影響を及ぼすこが懸念される。
【0006】
本発明の目的は、電動機としての特性を良好に維持しつつ、耐久性を向上させることができる電動機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係る電動機は、ハウジング内に装着された環状のステータと、前記ステータ内に配置されて前記ハウジングに回転可能に支持されたロータとを備えるとともに、前記ロータのロータコアに複数の永久磁石が埋め込まれている電動機であって、前記ロータコアには、前記永久磁石の端面が位置するフラックスバリアと、前記ロータコアの外周寄りに位置した前記フラックスバリアと前記ロータコアの外周表面との間で形成されるサイドブリッジと、前記サイドブリッジの周方向の両端から前記ロータコアの内方に向けて窪んだ第1凹部および第2凹部とが設けられることを特徴とする。
【0008】
第2発明に係る電動機では、前記サイドブリッジは、前記ロータコアの径方向の外方に突出するように湾曲したアーチ状に形成されていることが望ましい。
第3発明に係る発電機では、前記サイドブリッジは、前記ロータコアの周方向において略均一な厚さを有していることが望ましい。
第4発明に係る電動機では、一対の前記永久磁石は、前記ロータの軸中心から見てV字形状に配置され、前記一対の永久磁石の前記ロータコアの内方側の端面が位置するフラックスバリアは、センタブリッジを介して互いに隣設されていることが望ましい。
【0009】
第5発明に係る電動機は、ハウジング内に装着された環状のステータと、前記ステータ内に配置されて前記ハウジングに回転可能に支持されたロータとを備えるとともに、前記ロータのロータコアに複数の断面矩形状の永久磁石が埋め込まれている電動機であって、前記ロータの軸中心から見てV字形状に配置された一対の前記永久磁石により1つの磁極が形成され、前記ロータコアには、前記永久磁石の短辺側の一方の端面が位置し、かつ前記ロータコアの外周寄りに位置した外周側のフラックスバリアと、前記永久磁石の短辺側の他方の端面が位置し、かつ前記フラックスバリアよりも内方側に位置した内方側のフラックスバリアと、前記外周側のフラックスバリアと前記ロータコアの外周表面との間で形成されるサイドブリッジと、互いに隣設する一対の前記内方側のフラックスバリアの間に形成されるセンタブリッジと、前記サイドブリッジの周方向の両端から前記ロータコアの内方に向けて窪んだ第1凹部および第2凹部とが設けられ、前記サイドブリッジは、前記ロータコアの径方向の外方に突出するように湾曲したアーチ状に形成されているとともに、前記ロータコアの周方向において略均一な厚さを有し、前記第1凹部と前記ロータコアの軸中心とを結ぶ線、および第2凹部と前記ロータコアの軸中心とを結ぶ線の間に、前記外周側のフラックスバリアが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、サイドブリッジの両端に第1、第2凹部を設けるので、ロータの回転時の遠心力による応力を、第1、第2凹部およびサイドブリッジの周方向の中央の3箇所に分散させて生じさせることができ、各箇所での応力の大きさを低減できて耐久性を向上させることができる。また、第1、第2凹部のいずれかを従来の凹部として機能させることが可能であり、凹部が電動機にもたらす特性を良好に維持できる。なお、サイドブリッジは、周方向の中央に応力が生じるように薄肉に形成されるが、こうすることで永久磁石からの漏れ磁束も軽減できる。
【0011】
第2発明によれば、サイドブリッジが外方に向けて湾曲して突出しているため、サイドブリッジの両端に形成される第1,第2凹部を内方に窪んだより明瞭な形状にでき、トルク脈動や鉄損等の諸特性を良好に維持できる。
第3発明によれば、サイドブリッジが周方向に均一な厚さを有しているので、周方向の中程で生じる応力を該周方向に沿って分散でき、極小部位に大きく集中して生じるのを抑制できる。
第4発明によれば、隣接されるフラックスバリア間にセンタブリッジを設けることになるので、ロータ回転時の遠心力に対してより確実に対抗でき、耐久性を一層向上させることができる。
第5発明によれば、第1発明ないし第4発明での作用効果を同様に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電動機の全体を示す断面図。
【
図3】前記ロータコアの要部を拡大して示す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔電動機の全体構成〕
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の電動機1の全体を示す断面図である。
図2は、電動機1のロータコア41を示す図である。
【0014】
図1において、電動機1は、ハウジング2の内部に装着された環状のステータ3と、ステータ3内に配置されるとともに、ハウジング2内で回転可能に支持されたロータ4とを備える。このような電動機1は、ロータ4のロータコア41内に永久磁石43が埋め込まれた埋込永久磁石型同期電動機として構成されている。
【0015】
〔ステータ〕
ステータ3は、図には明示していないが、電磁鋼板を軸方向に沿って多数積層することにより構成されたステータコア31を備える。ステータコア31は、周方向に連続した外周側のヨーク32と、ヨーク32から中央のロータ4側に向けて突出した複数のティース33とを備える。複数のティース33は、ヨーク32の周方向に沿って互いに等間隔で設けられている。このようなティース33には、電磁コイル34が巻線されている。
【0016】
〔ロータ〕
ロータ4は、ステータコア31と同様に電磁鋼板を軸方向に沿って多数積層することにより構成された環状のロータコア41と、ロータコア41の中央に設けられた挿通孔41Aに挿通されたロータシャフト42と、ロータコア41の埋込孔41B内に嵌合された合計16個の角柱状の永久磁石43とを備える。
【0017】
図2において、ロータコア41の埋込孔41Bは、軸心側から見て対称となるようにV字形状に設けられている。このような埋込孔41Bの一対を一組とし、この一組の埋込孔41B内に埋め込まれた一対の永久磁石43により1つの磁極が形成される。すなわち、本実施形態のロータ4の極数は、8極である。隣り合う磁極の極性は、互いに相違している。それぞれの磁極は、ロータコア41の周方向に沿って等間隔で形成されている。
【0018】
ロータコア41において、開口形状が長孔とされた埋込孔41Bの長手方向の一端は、空隙からなるフラックスバリア41Cになっている。このフラックスバリア41Cには、断面矩形状の永久磁石43の短辺側の一対の端面43B、43Bのうち、一方の端面43B(
図3参照)が位置する。同様に埋込孔41Bの長手方向の他端は、永久磁石43の他方の端面43Bが位置する同様なフラックスバリア41Dになっている。つまり、埋込孔41Bの内面に対しては、後述の支持部71,72に当接する端面43Bの一部を除き、永久磁石43の長辺側の一対の側面43A(
図3参照)が接触している。
【0019】
フラックスバリア41C,41Dのうち、ロータコア41の外周側に位置するフラックスバリア41Cは、永久磁石43からの漏れ磁束を低減するために設けられている。ロータコア41の外周表面から遠い内方側に位置したフラックスバリア41Dは、永久磁石43からの漏れ磁束の低減、および後述する冷却構造の一部を構成するために設けられている。なお、フラックスバリア41Cとロータコア41の外周表面との間は、サイドブリッジ44となっており、磁極の中心側で隣設し合うフラックスバリア41Dの間は、センタブリッジ45となっている。サイドブリッジ44については後述する。
【0020】
このようなロータコア41の軸方向の両側には、環状のエンドプレート46,47が取り付けられている。ロータシャフト42の出力部42A(
図1中の左側)側にて、ロータコア41に取り付けられたエンドプレート46には、ロータコア41のフラックスバリア41Dに対応した部位とロータシャフト42側とを連通させる油路46Aが、径方向に沿って設けられている。油路46Aの端部には、ハウジング2内に開口した吐出孔46Bが設けられている。もう一方のエンドプレート47には、フラックスバリア41Dに対応した位置に吐出開口47Aが設けられ、フラックスバリア41Dとハウジング2内とが連通している。なお、本実施形態では、ロータシャフト42の軸方向が略水平とされた横置きの電動機1について説明しているが、本発明としては、ロータシャフトの軸方向が略鉛直とされた縦置きの電動機であってもよい。そして、縦置きとした場合には、吐出孔46Bを省略してもよい。
【0021】
ロータシャフト42の中央には、出力部42Aとは反対側に開口し、軸方向に沿って出力部42A側に向かって延びた油路42Bが設けられている。油路42Bの出力部42A側の端部は、径方向に貫通した油路42Cと連通している。油路42Cは、エンドプレート46の油路46Aと連通している。
【0022】
永久磁石43としては、ネオジウムやジスプロシウムなどの希土類永久磁石が好適に用いられる。このような永久磁石43は、ロータコア41の埋込孔41B内に嵌合された状態で接着剤により固定される。永久磁石43の固定構造に関しては後述する。
【0023】
〔冷却構造〕
電動機1では、ヒステリシス損や渦電流損を要因とする発熱によってステータコア31、電磁コイル34、ロータコア41、永久磁石43が高温状態となる。このため、本実施形態においては、ハウジング2の内部と、外部の冷却油タンク51との間で冷却油が循環し、電動機1を冷却する構造を採用している。
【0024】
本構造において、電動機1のロータシャフト42に設けられた油路42Bの開口側には、冷却油タンク51からの供給流路52が接続されている。一方、電動機1を構成するハウジング2の底部分に設けられたドレン開口2Aには、冷却油タンク51へのドレン流路53が接続されている。供給流路52には油圧ポンプ54が設けられ、ドレン流路53にはオイルクーラ55が設けられている。
【0025】
冷却油タンク51から油圧ポンプ54にて吸い上げられた冷却油は、ロータシャフト42の油路42Bに入り込み、油路42B内を軸方向に沿って一端側から他端側に向けて流れ、他端側に設けられた径方向の油路42Cを通ってエンドプレート46の油路46Aに流れ込む。
【0026】
油路46Aに入り込んだ冷却油の一部は、吐出孔46Bからハウジング2内に噴射され、ロータコア41および電磁コイル34を冷却する。また、油路46Aに入り込んだ他の冷却油は、ロータコア41のフラックスバリア41Dに入り込み、フラックスバリア41D内を軸方向に沿って流れることでロータコア41および永久磁石43を冷却する。フラックスバリア41Dを流れ終えた冷却油は、エンドプレート47の吐出開口47Aからハウジング2内に噴射され、やはりロータコア41および電磁コイル34を冷却する。
【0027】
吐出孔46Bおよび吐出開口47Aから噴射された冷却油は、ロータコア41および電磁コイル34を冷却する他、ロータシャフト42を回転支持するベアリング21,22を冷却する。これらを冷却した冷却油は、ハウジング2内を滴下等して底部分の油溜部23に集約される。集約された冷却油は、油溜部23からドレン開口2Aを通してドレン流路53を流れ、オイルクーラ55にて冷却された後に冷却油タンク51に戻る。
【0028】
〔サイドブリッジ〕
図3は、ロータコア41の要部を拡大して示す拡大図である。この
図3には、隣り合う2極分が示されている。
図3に示すように、ロータコア41の外周表面には、この外周寄りに位置したフラックスバリア41Cの近傍において、内方に向けて窪んだ第1凹部61および第2凹部62が設けられている。各磁極では、第1凹部61同士が磁極の中心に対して周方向の外側の位置に設けられ、第2凹部62同士が磁極の中心に対して周方向の内側の位置に設けられている。そして、第1凹部61および第2凹部62の周方向の間隔は、フラックスバリア41Cを周方向に跨ぐ程度の大きさである。すなわち、第1凹部61とロータコア41の軸中心とを結ぶ線をL1とし、第2凹部62とロータコア41の軸中心とを結ぶ線をL2としたとき、線L1,L2の間にフラックスバリア41Cが設けられている。この結果、フラックスバリア41Cとロータコア41の外周表面との間の薄肉部分により、第1凹部61および第2凹部62の間を連結するサイドブリッジ44が形成される。
【0029】
サイドブリッジ44は、フラックスバリア41Cの開口形状との関係で、ロータコア41の周方向において略均一な厚さ(径方向の肉厚)を有しているとともに、ロータコアの径方向の外方に突出するように湾曲したアーチ状に形成されている。つまり、アーチ状とされたサイドブリッジ44の基端側に第1凹部61および第2凹部62が設けられている。サイドブリッジ44の曲率半径は、ロータコア41の外周の半径よりも小さい。
【0030】
このような形状のサイドブリッジ44では、ロータ4の回転に伴う遠心力によって応力集中が生じるが、生じる箇所は、サイドブリッジ44の周方向の両端部および周方向の中央付近である。具体的には、第1凹部61および第2凹部62の底部分と、サイドブリッジ44(フラックスバリア41C)の内面側の部分との3箇所に分散して応力が生じる。従って、1点に応力集中が生じていた従来と比較して、各箇所で生じる応力を小さくでき、耐久性が向上する。また、第1凹部61および第2凹部62のうち、本実施形態では特に、第2凹部62を従来からの凹部として機能させることができ、電動機1の特性を良好に維持することが可能である。
【0031】
〔永久磁石の固定構造〕
以下には、
図3に基づき、永久磁石43の固定構造について説明する。
図3に示すように、鋼板7のフラックスバリア41C,41Dを形成する部分には、永久磁石43の2箇所の対角位置に向けて突出した支持部71,72が設けられている。フラックスバリア41C側の支持部71は、永久磁石43の一方の端面43Bの中でも、ロータコア41の外周表面から遠い方の辺縁に当接している。フラックスバリア41D側の支持部72は、センタブリッジ45の外方側の基端部分に設けられており、永久磁石43の他方の端面43Bの中でも、ロータコア41の外周表面に近い方の辺縁に当接している。このように、永久磁石43は、対向する短辺側の辺縁の2箇所の対角位置にてロータコア41に支持されている。
【0032】
ここで、支持部71,72が永久磁石43の端面43Bに当接する当接幅は、端面43Bが設けられている永久磁石43の短辺側の全幅に対して、略1/5(5分の1)よりも短いことが望ましい。1/5よりも短いことで、端面43Bからの漏れ磁束を低減できる。また、支持部71,72の端面43Bでの当接箇所は、永久磁石43の角部である端面43Bの幅方向の端部から離れていてもよい。
【0033】
そして、鋼板7の埋込孔41Bを形成する部分には、支持部71,72とは永久磁石43の角部を挟んで反対側の位置に拡張部73が設けられている。拡張部73は、永久磁石43の側面43Aとの間に僅かな隙間を形成するために、埋込孔41Bの一部を拡張して設けられている。拡張部73はまた、積層される全ての鋼板7に設けられている。積層される鋼板7は全て同一形状であり、それぞれを位置合わせすることで積層方向(ロータコア41の軸方向と同じ)に連通した埋込孔41Bが形成され、この埋込孔41Bに永久磁石43を組み込むことが可能である。
【0034】
積層方向に連通した全ての拡張部73により、埋込孔41Bにおける永久磁石43の別の対角位置にある2箇所には、ロータコア41を軸方向に沿って貫通した充填孔48が形成される。つまり、このような充填孔48は、永久磁石43が埋込孔41Bに組み込まれた状態で、永久磁石43と拡張部73との間に形成される。軸方向に連続した充填孔48に対して接着剤を充填することにより、永久磁石43の対向する長辺側の辺縁の2箇所の対角位置がロータコア41に固定されることになる。なお、モールド材等の樹脂材料などを接着剤として用いてもよい。
【0035】
従って、本実施形態では、永久磁石43の側面43A全体に接着剤を回して固定する必要がなく、接着剤を充填する手間を大幅に省くことができ、組立作業を容易にできる。しかも、永久磁石43は埋込孔41B内に嵌合されており、永久磁石43の両側の側面43Aが埋込孔41Bの内面と接触した状態にある。従って、接着剤の充填量が少なくとも、永久磁石43を埋込孔41B内に確実に保持しておくことができる。
【0036】
〔変形例〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、永久磁石43が充填孔48に充填される接着剤にてロータコア41に固定されていたが、永久磁石43の固定構造としてはこれに限定されない。例えば、埋込孔41Bの大きさを永久磁石43が遊嵌される大きさに設けておき、埋込孔41Bの内面と永久磁石43の側面43Aとの間に生じる隙間に接着剤を充填して、永久磁石43をスロータコア41に固定してもよいし、永久磁石43の軸方向での両端面をエンドプレート46,47に接着剤にて固定してもよい。
【0037】
前記実施形態では、V字形状に配置された一対の永久磁石43を一組として1つの磁極を形成していたが、例えば、
図4に示すように、ロータコア41の外周に沿って複数の永久磁石43を設け、各々の永久磁石43にて1つの磁極を形成してもよい。
このような構成では、各永久磁石43の両端にフラックスバリア41Cが線対称な形状に設けられ、各フラックスバリア41Cに対応してサイドブリッジ44および第1,第2凹部61,62が設けられる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、電動自動車、ハイブリッド自動車、電動建設機械、ハイブリッド建設機械等の車両に用いられ、好ましくはこれら建設機械の走行用の電動機として利用できる。
【符号の説明】
【0039】
1…電動機、2…ハウジング、3…ステータ、4…ロータ、41…ロータコア、41C,41D…フラックスバリア、43…永久磁石、43B…端面、44…サイドブリッジ、45…センタブリッジ、61…第1凹部、62…第2凹部。