(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133683
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/20 20060101AFI20170515BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
G01N33/20 N
G01N33/38
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-104127(P2013-104127)
(22)【出願日】2013年5月16日
(65)【公開番号】特開2014-224760(P2014-224760A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 三馨
(72)【発明者】
【氏名】福浦 尚之
【審査官】
西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−175477(JP,A)
【文献】
特開2002−340782(JP,A)
【文献】
特開2003−107025(JP,A)
【文献】
鈴木 三馨 他,”ひび割れ発生限界腐食量と腐食生成物の膨張率の定量化に基づく構造・耐久錬成解析システムの高精度化”,大成建設技術センター報 第43号(2010),2010年,24−1〜24−7頁
【文献】
鈴木 三馨 他,塩害による腐食劣化予測に対する構造・鋼材腐食連成解析手法の構築,土木学会論文集E2(材料・コンクリート構造),日本,土木学会,2014年 7月18日,Vol.70/No.3,pp.301-319
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00−33/46
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材がコンクリート中に埋設されてなるコンクリート構造物の塩害腐食環境下における該鋼材の劣化を3次元有限要素法を用いて予測する方法であって、
コンピュータ内において前記鋼材を3次元でモデル化するに当たり、鋼材の骨組みをトラス要素で作成し、鋼材の表面にトラス要素を構成する複数の節点が表面積を有する膜要素を適用し、鋼材の縦断面にソリッド要素を適用し、膜要素を構成するそれぞれの節点に塩化物イオン濃度と節点に固有の表面積のデータを規定してモデル化をおこなう第1のステップ、
鋼材の表面を構成する節点ごとに塩化物イオン濃度を算出し、次いで腐食電流密度を算出し、次いで節点における腐食量を算出する第2のステップからなる、コンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法。
【請求項2】
鋼材の腐食はカソード反応とアノード反応が交互に同じ速度で進行することで生じることを前提とし、このカソード反応とアノード反応が同じ鋼材表面で生じる場合の腐食をミクロセル腐食と規定し、該ミクロセル腐食は前記鋼材表面の同じ膜要素内で生じるものであり、別途の鋼材表面間で生じる場合の腐食をマクロセル腐食と規定し、該マクロセル腐食は前記鋼材表面の異なる膜要素間で生じるものであり、
前記第2のステップにおける腐食電流密度の算出に当たり、
各鋼材表面におけるミクロセル腐食電流密度と2つの鋼材表面間におけるマクロセル腐食電流密度の双方を算出し、これら2種類の腐食電流密度の総和を算出して第2のステップで算出される腐食電流密度とする、請求項1に記載のコンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法。
【請求項3】
第2のステップにおいて節点ごとに算出された単位面積当たりの腐食量から鋼材の単位長さ当たりの体積増加量を算出し、膜要素の単位面積を鋼材の軸心方向へ投影させた際の投影面積で該体積増加量を除して鋼材の腐食膨張ひずみを算出する第3のステップをさらに有する、請求項1または2に記載のコンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法。
【請求項4】
コンクリート構造物中の鋼材が複数の要素からなる場合に、カソード要素を注目要素として、コンクリート構造物中の線材の集合体として存在する鋼材のカソード部とアノード部の面積比と2点間に流れるマクロセル腐食電流密度の関数であるマクロセル腐食電流密度の分配率aを設定し、複数のアノード要素のそれぞれに対して流れるマクロセル腐食電流を分配することで、コンクリート構造物中の線材の集合体として存在する鋼材のカソード部とアノード部の面積比と2点間に流れるマクロセル腐食電流密度の大きさを考慮する、請求項1に記載のコンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋やPC鋼材等の鋼材がコンクリート中に埋設されてなるコンクリート構造物が塩害腐食環境下に置かれた際の鋼材の劣化を3次元有限要素法を用いて予測する、コンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩害によるコンクリート中に埋設された鉄筋やPC鋼線等の鋼材の腐食予測解析においては、塩化物イオン(以下、Cl
-)の拡散解析に基づいてCl
-の濃度分布を計算した後、鋼材の節点位置のCl
-の濃度から腐食量を計算するのが一般的である。
【0003】
従来の劣化予測方法(腐食予測方法)では解析モデルが2次元のため、鋼材は鋼材中心に節点を持つトラス要素として表現している。そのため、コンクリート表面からCl
-が浸透した場合に、実際には鋼材中心と鋼材周辺は位置が異なることから鋼材中心よりもかぶり側の鋼材表面のCl
-濃度が高くなるにも関わらず、解析上は鋼材中心のCl
-濃度を参照して腐食計算しているために腐食量が小さく算出されることになる。
【0004】
ところで、コンクリート中の鋼材の腐食は、カソード反応とアノード反応が互いに等しい速度で進行することによって生じる。非特許文献1,2で開示されるように、同じ要素内でカソード反応とアノード反応が発生する腐食がミクロセル腐食であり、異なる要素間でカソード反応とアノード反応が発生する腐食がマクロセル腐食である。従来の腐食予測方法では、鋼材がトラス要素でモデル化されているために、同じ要素内でカソード反応とアノード反応がおこなわれるマクロセル腐食を考慮することができない。
【0005】
実際の腐食は、Cl
-濃度の高いかぶり側の鋼材表面でアノード反応し、他の鋼材表面ではカソード反応することから、鋼材断面は一様に腐食せず、
図10で示すようにかぶり側のみで腐食することになる。しかしながら、従来の劣化予測方法では、鋼材がトラス要素でモデル化されているために、鋼材周方向でカソード反応とアノード反応がおこなわれるマクロセル腐食を考慮することができない。
【0006】
また、従来の劣化予測方法では、非特許文献3〜6で記載されるように、鋼材の腐食膨張を鉄筋周辺に強制変位を一様に加えることでモデル化している。また、非特許文献7では、鉄筋の上下面の腐食量を変えて腐食ひび割れ発生時の計算をしているものもあるが、設定している腐食量を計算しているわけではない。なお、ここでは、鉄筋の上下面の腐食量が異なる理由をブリーディングの影響としている。
【0007】
実際の腐食は、アノード部とカソード部の面積比がマクロセル腐食電流密度に影響する。しかしながら、従来の劣化予測方法では、アノード要素を注目要素とマクロセル腐食電流密度を計算しているため、カソード要素は複数のアノード要素に対して2要素間で計算されるマクロセル腐食電流密度が分配されることなく流れることとなり、RC部材中の線材の集合体として存在する鋼材のカソード部とアノード部の面積比を考慮できていない。
【0008】
また、上記する非特許文献3において、塩害によるコンクリート中の鋼材の腐食劣化予測は、腐食量の算定と鋼材の腐食膨張による腐食ひび割れ発生を別々に算出している。塩害環境下の鉄筋コンクリート構造物においては、コンクリートのひび割れ進展と鋼材の腐食進展が相互に影響し合うことで構造性能が変化する。しかし、当該文献記載の技術ではこの相互作用の影響が考慮されておらず、したがって危険側の腐食劣化予測となっている。
【0009】
ところで、2012年度制定の土木学会コンクリート標準示方書においては、コンクリート構造物の塩害に対する耐久設計として、コンクリート中の鋼材が腐食発生する時点を限界状態と規定している。しかしながら、コンクリート中の鋼材の腐食性評価防食技術研究小委員会(338委員会)においては、コンクリート中の鋼材が腐食発生する時点からコンクリートが腐食ひび割れ発生する時点を限界状態とした照査に移行することが検討されている。したがって、コンクリート構造物の塩害に対する耐久設計において、鋼材が埋設されたコンクリート構造物が塩害腐食環境下に置かれた際の鋼材の劣化の進行を精度よく予測計算する方法が求められている。
【0010】
ここで、特許文献1には、コンクリート構造物の硫酸腐食環境下でのエトリンガイトと硫酸カルシウムによる浸食・劣化を予測計算する方法が開示されている。より具体的には、pH値が低い(すなわち硫酸濃度が高い)場合は、コンクリート表面のセメント水和物が硫酸カルシウムに変化する計算と、この硫酸カルシウムが膨張してコンクリートの空隙を埋めたときにコンクリート表面から剥離する計算とを行なうことによって硫酸カルシウムによる浸食量を計算し、pH値が高い(すなわち硫酸濃度が低い)場合は、硫酸カルシウムがアルミン酸三石灰と反応してエトリンガイトを生成する計算と、エトリンガイトの結晶成長圧によって膨張を引き起してコンクリートの空隙を埋めたときにコンクリート表面から剥離する計算を行なうことにより、コンクリート構造物の劣化の進行を予測計算するものである。
【0011】
しかし、この劣化進行予測法を適用したとしても、コンクリート構造物内の鋼材の塩害に対する耐久設計において、コンクリート構造物内に埋設された鋼材の塩害腐食環境下における劣化の進行を精度よく予測することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−164256号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】長谷川祐介,宮里心一,親本俊憲・横関康祐:ひび割れを有する鉄筋コンクリートの腐食速度解析モデルの提案,コンクリート工学論文集,第17巻第1号,2006.1.
【非特許文献2】丸屋剛,武田均,堀口賢一,小山哲,許鎧麟:コンクリート中の鋼材のマクロセル腐食に関する解析手法の構築,土木学会論文集E,Vol.62,No.4,pp.757-776,2006.11.
【非特許文献3】土木学会:コンクリート中の鋼材の腐食性評価と防食技術研究小委員会(338委員会)委員会報告書(その2)およびシンポジウム論文集,コンクリート技術シリーズ99.2012.10.
【非特許文献4】松尾豊史、西内達雄、松村卓郎:鉄筋の腐食膨張に伴うコンクリートのひびわれ進展解析,コンクリート工学年次論文報告集,Vol.19,No.2,pp.99-104,1997.
【非特許文献5】元路寛、関博:FEMを用いた鉄筋腐食によるコンクリートのひび割れ幅について,土木学会年次学術講演会講演概要集第5部,pp.634-635,54巻,1999.
【非特許文献6】横関康弘、MISRA Sudhir、本橋賢一:鉄筋の腐食膨張によるひび割れ発生に関する解析モデル,コンクリート構造物の補修工法と電気防食に関するシンポジウム論文報告集,pp.23-28,1994.10.
【非特許文献7】角本周,梶川康男,川村満紀:コンクリート中の鉄筋腐食による膨張挙動の弾塑性解析とその適用性,土木学会論文集,V-10, No.402,pp.151-159,1989.2.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、コンクリート構造物内に埋設された鋼材の塩害腐食環境下における劣化やその進行を精度よく予測することのできる、コンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成すべく、本発明によるコンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法は、鋼材がコンクリート中に埋設されてなるコンクリート構造物の塩害腐食環境下における該鋼材の劣化を3次元有限要素法を用いて予測する方法であって、コンピュータ内において前記鋼材を3次元でモデル化するに当たり、鋼材の骨組みをトラス要素で作成し、鋼材の表面にトラス要素を構成する複数の節点が表面積を有する膜要素を適用し、鋼材の縦断面にソリッド要素を適用し、膜要素を構成するそれぞれの節点に塩化物イオン濃度と節点に固有の表面積のデータを規定してモデル化をおこなう第1のステップ、鋼材の表面を構成する節点ごとに塩化物イオン濃度を算出し、次いで腐食電流密度を算出し、次いで節点における腐食量を算出する第2のステップからなるものである。
【0016】
本発明のコンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法は、コンクリート中に埋設された鉄筋やPC鋼線等の鋼材の塩害による劣化を精度よく特定するものである。そして、このための構成として、3次元有限要素法を用いて鋼材の劣化を予測するに当たり、第1のステップにて鋼材を3次元でモデル化する際に、鋼材の骨組みをトラス要素で作成し、鋼材の表面はトラス要素を構成する複数の節点が表面積を有する膜要素を適用し、鋼材の縦断面にソリッド要素を適用し、膜要素を構成するそれぞれの節点に塩化物イオン濃度と節点に固有の表面積のデータを規定してモデル化をおこなう点に一つの特徴がある。
【0017】
このモデル化により、鋼材のかぶり側の腐食を算出することが可能となり、実際の腐食に対して算出された腐食量が小さくなるといった問題は解消される。
【0018】
また、第2のステップでは、鋼材の表面を構成する節点ごとに塩化物イオン濃度を算出し、次いで腐食電流密度を算出し、次いで節点を含む鋼材表面における腐食量が算出される。
【0019】
本発明の劣化予測方法によれば、鋼材の周方向の局所的な腐食量を得ることも可能となり、塩害によるコンクリート中の鋼材の腐食分布を精度よく予測することが可能となる。
【0020】
そのため、塩害による鉄筋コンクリート構造物やPCコンクリート構造物における腐食ひび割れ時期を精度よく予測することが可能となる。
【0021】
また、本発明によるコンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法の好ましい実施の形態として、鋼材の腐食はカソード反応とアノード反応が交互に同じ速度で進行することで生じることを前提とし、このカソード反応とアノード反応が同じ鋼材表面で生じる場合の腐食をミクロセル腐食と規定し、別途の鋼材表面間で生じる場合の腐食をマクロセル腐食と規定し、前記第2のステップにおける腐食電流密度の算出に当たり、各鋼材表面におけるミクロセル腐食電流密度と2つの鋼材表面間におけるマクロセル腐食電流密度の双方を算出し、これら2種類の腐食電流密度の総和を算出して第2のステップで算出される腐食電流密度とする形態を挙げることができる。
【0022】
本実施の形態の予測方法によれば、鋼材の表面に節点に応じて表面積が規定され、膜要素が適用されたことで、同じ要素内でカソード反応とアノード反応がおこなわれるミクロセル腐食を考慮することが可能となる。
【0023】
さらに、本発明によるコンクリート構造物の鋼材の劣化予測方法の他の実施の形態は、第2のステップにおいて節点ごとに算出された単位面積当たりの腐食量から鋼材の単位長さ当たりの体積増加量を算出し、膜要素の単位面積を鋼材の軸心方向へ投影させた際の投影面積で該体積増加量を除して鋼材の腐食膨張ひずみを算出する第3のステップをさらに有するものである。
【0024】
本実施の形態の予測方法によれば、鋼材の腐食量のみならず、腐食膨張ひずみをも精度よく予測することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から理解できるように、本発明のコンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法によれば、コンクリート内の鋼材を3次元でモデル化するに当たり、鋼材の骨組みをトラス要素で作成し、鋼材の表面にトラス要素を構成する複数の節点が表面積を有する膜要素を適用し、鋼材の縦断面にソリッド要素を適用し、膜要素を構成するそれぞれの節点に塩化物イオン濃度と節点に固有の表面積のデータを規定してモデル化をおこなうとともに、節点ごとに塩化物イオン濃度を算出し、次いで腐食電流密度を算出し、次いで節点における腐食量を算出することにより、塩害腐食環境下におけるコンクリート構造物内の鋼材の腐食量を精度よく予測することができ、鋼材の腐食分布や腐食ひび割れ時期を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明のコンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法のフロー図である。
【
図2】上図はコンクリート構造物のFEMモデルを説明した図であり、下図は鋼材のモデルを説明した図である。
【
図3】ミクロセル腐食形成時の腐食電流密度の計算方法を説明した図である。
【
図4】外部分極曲線の設定方法を説明した図であって、(a)は過電圧により得られる外部分極曲線上の腐食電流密度と自然電位を示した図であり、(b)は外部分極曲線である。
【
図5】2点間に生じるマクロセル腐食時の腐食電流密度の計算方法を説明した図である。
【
図6】アノード要素が複数ある場合のマクロセル腐食の計算例を説明した図であって、着目要素をカソード要素とすることでアノード要素の分割によらず算出されるマクロセル腐食電流密度が一定であることを説明した図である。
【
図7】鋼材表面における複数の電気回路への適応による累積した腐食電流密度の計算方法を説明した図であって、上から順に、注目要素におけるミクロセル腐食電流密度を説明した図、注目要素をアノードとした際の注目要素におけるマクロセル腐食電流密度の総和を説明した図、注目要素をカソードとした際の注目要素におけるマクロセル腐食電流密度の総和を説明した図である。
【
図8】コンクリート中の鋼材の腐食膨張方法を説明した図である。
【
図9】構造解析と鋼材腐食解析の連成解析の相互作用を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明のコンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法の実施の形態を説明する。なお、図示するフローは腐食膨張の計算までも含めたものであるが、必要に応じて腐食量の計算までをおこなうフローであってもよい。
【0028】
(コンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法の実施の形態)
図1は本発明のコンクリート構造物内の鋼材の劣化予測方法のフロー図であり、
図2の上図はコンクリート構造物をコンピュータ内でモデル化した際のモデルを説明した図であり、
図2の下図はコンピュータ内における鋼材のモデルを説明した図である。
【0029】
図1で示すように、本発明のコンクリート構造物の鋼材の劣化予測方法では、まず、コンピュータ内において3次元有限要素法解析を実行するに当たり、鉄筋等の鋼材が埋設されたコンクリート構造物の3次元モデルのモデル化をおこなう(S100、第1のステップ)。
【0030】
ここで、コンクリート構造物のモデルは、
図2で示すように、コンクリートはソリッド要素、鋼材である鉄筋は、複数の節点を繋いだトラス要素と、鋼材の表面は各節点を含んで表面積をもった膜要素、縦断面はインターフェイス(ソリッド)要素から形成する。
【0031】
ここで、膜要素上の節点は、それぞれが塩化物イオン濃度と表面積のデータを有している。
【0032】
次に、物質移動モデルを適用した塩化物イオン濃度の計算を実行する(S10)。より具体的には、初期データの入力値の設定をおこない(S11)、次に、鋼材表面の各膜要素における塩化物イオン濃度の算出をおこなう(S12)。
【0033】
モデル化においては、
図2で示すコンクリートモデルとこのコンクリートモデル内に配設された鉄筋モデルにおいて、初期データ(表面塩化物イオン濃度Co、コンクリートの塩化物イオン濃度に対する拡散係数D)を設定する。また、コンクリート表面からその内部に至る長さをX軸、この長さに応じた塩化物イオン濃度をY軸にとった塩化物濃度に関する二次曲線グラフ等を使用し、このグラフ内に鉄筋の位置も規定し、鉄筋のかぶり側の節点における塩化物イオン濃度、かぶりと反対側の節点における塩化物イオン濃度、鉄筋の中央位置の節点における塩化物イオン濃度などを特定しておく。
【0034】
次いで、フィックの拡散方程式により、膜要素上の鋼材表面位置における全塩化物イオン濃度を算出し、塩化物イオンの固定化の影響を考慮して、全塩化物イオン濃度から細孔溶液中の塩化物イオン濃度を算出する。
【0035】
次に、腐食電流密度(腐食速度)の計算を実行する(S20)。より具体的には、鋼材表面位置のミクロセル腐食電流密度および2点間におけるマクロセル腐食電流密度の算出をおこない(S21)、次にRC部材中における鋼材腐食のモデル化による累積した腐食電流密度の算出をおこなう(S22)。
【0036】
ここで、
図3はミクロセル腐食電流密度の計算方法を説明した図であり、
図4は外部分極曲線の設定方法を説明した図であって、
図4aは過電圧により得られる外部分極曲線上の腐食電流密度と自然電位を示した図であり、
図4bは外部分極曲線である。また、
図5は2点間に生じるマクロセル腐食時の腐食電流密度の計算方法を説明した図であり、
図6はアノード要素が複数ある場合のマクロセル腐食の計算例を説明した図であって、着目要素をカソード要素とすることでアノード要素の分割によらず算出されるマクロセル腐食電流密度は一定であることを説明した図である。さらに、
図7は鋼材表面における複数の電気回路への適応による累積した腐食電流密度の計算方法を説明した図であって、上から順に、注目要素におけるミクロセル腐食電流密度を説明した図、注目要素をアノードとした際の注目要素におけるマクロセル腐食電流密度の総和を説明した図、注目要素をカソードとした際の注目要素におけるマクロセル腐食電流密度の総和を説明した図である。
【0037】
コンクリート中の鋼材腐食は、カソード反応とアノード反応が互いに等しい速度で進行することによって生じる。このカソード反応とアノード反応が同じ膜要素で生じる場合の腐食をミクロセル腐食とし、別の膜要素間で生じる場合の腐食をマクロセル腐食とする。
【0038】
ある膜要素のミクロセル腐食形成時の腐食電流密度は、内部カソード分極曲線と内部アノード分極曲線の交点で決まる。内部カソード分極曲線および内部アノード分極曲線をそれぞれ以下の式1、式2に示す。
【0039】
ここで、
E
c:内部カソード分極曲線上の自然電位(V)
E
co:内部カソード反応の平衡電位(V)
β
c:内部カソード分極曲線のターフェル勾配(V/decade)
i
c:内部カソード分極曲線上の電流密度(A/cm
2)
i
co:交換電流密度 (A/cm
2)
E
a:内部アノード分極曲線上の自然電位(V)
E
pit:孔食電位(V)
β
a:内部アノード分極曲線のターフェル勾配(V/decade)
i
a:内部アノード分極曲線上の電流密度(A/cm
2)
i
pass:不動態電流密度(A/cm
2)
[OH
‐]:水酸化物イオン濃度(mol/l)
pH:液相のpH
【0040】
また、外部カソード分極曲線および外部アノード分極曲線は
図4で示すように内部カソード分極曲線および内部アノード分極曲線を用いて算出される。外部カソード分極曲線および外部アノード分極曲線をそれぞれ以下の式3、式4で示す。
【0041】
ここで、
i
app,c:外部カソード分極曲線上の腐食電流密度(A/cm
2)
i
app,a:外部アノード分極曲線上の腐食電流密度(A/cm
2)
【0042】
膜要素M、Nの2点間に起きるマクロセル腐食を
図5に示す。図中の要素Mはカソードとなる要素、要素Nはアノードとなる要素とする。また、要素M、要素Nの内部分極曲線C
M,C
N,A
M,A
Nから、要素Mの外部カソード分極曲線と要素Nの外部アノード分極曲線をそれぞれ以下の式5、式6によって求める。2点間の自然電位差ΔE
M−Nがコンクリート抵抗を下回る際にマクロセル腐食が生じ、要素Nでは内部アノード分極曲線A
N上の自然電位Emacro,Nの電流密度が、要素Mは内部アノード分極曲線A
M上の自然電位Emacro,Mの電流密度がそれぞれ流れる。この時の要素Nのマクロセル腐食電流密度はミクロセル腐食電流密度からi
macro,M−N増加し、要素Mのマクロセル腐食電流密度はミクロセル腐食電流密度からi
macro, M−N減少する。
【0043】
ここで、
i
app,c,M:要素Mにおける外部カソードの腐食電流密度(A/cm
2)
i
app,a,N:要素Nにおける外部アノードの腐食電流密度(A/cm
2)
i
a,M:任意の自然電位時のA
M上の腐食電流密度(A/cm
2)
i
c,M:任意の自然電位時のC
M上の腐食電流密度(A/cm
2)
i
a,N:任意の自然電位時のA
N上の腐食電流密度(A/cm
2)
i
c,N:任意の自然電位時のC
N上の腐食電流密度(A/cm
2)
L
M−N:要素M−N間の距離(cm)
ρ
con:マクロセル回路が形成される部分のコンクリートの見かけの比抵抗(W・cm)
i
g,M−N:要素M−N間に流れる電流密度(A/cm
2)
i
micro,M:要素Mのミクロセル腐食電流密度(A/cm
2)
i
micro,N:要素Nのミクロセル腐食電流密度(A/cm
2)
i
macro,M:マクロセル形成時の要素Mの腐食電流密度(A/cm
2)
i
macro,N:マクロセル形成時の要素Nの腐食電流密度(A/cm
2)
i
macro,M−N:要素M-N間のマクロセル腐食電流密度(A/cm
2)
【0044】
次に、コンクリート構造物(RC部材)中における鋼材腐食のモデル化として、RC中の鋼材が複数の要素からなる場合、カソード要素を注目要素として、マクロセル腐食電流密度の分配率aを設定し、複数のアノード要素のそれぞれに対して流れるマクロセル腐食電流を分配することで、RC部材中の線材の集合体として存在する鋼材のカソード部とアノード部の面積比を考慮できるようにした。要素M−N間のマクロセル腐食電流密度の分配率α
M-Nを以下の式8によって設定した。ここで、α
M-Nにより、あるカソード要素(注目要素M)と対のアノード要素群(対要素N,N=1〜n)のカソードとアノードの面積比と2点間に流れるマクロセル腐食電流密度の大きさを考慮した。複数のアノード要素がある場合のM-N間のマクロセル腐食電流密度i
cor,M−Nを以下の式9に示す。また、注目要素Kに流れるマクロセル腐食形成時の腐食電流密度を以下の式10に示す。
【0045】
ここで、
i
cor,i-j:複数のアノード要素がある場合の要素i−j間のマクロセル腐食電流密度(A/cm
2)
i
cor,K:要素Kの腐食電流密度(A/cm
2)
α
M-N:要素M−N間のマクロセル腐食電流密度の分配率
S
M:要素M(カソード部)の表面積(cm
2)
S
N:要素N(アノード部)の表面積(cm
2)
【0046】
図1に戻り、次に、腐食量の計算を実行する(S30)。より具体的には、ファラデーの法則によってΔTにおける鋼材表面位置の腐食量を算出し(S31)、次いで、時刻T+ΔTにおける腐食量を算出する(S32)。
【0047】
ここで、
図8はコンクリート中の鋼材の腐食膨張方法を説明した図である。
【0048】
これまでのフローにより、鋼材表面の各節点において、単位面積あたりの腐食量が算出されている。
図8で示すように、鋼材の膨張ひずみは腐食による単位長さあたりの体積増加量から膜要素の鋼材軸への投影面積を割った値となる。
【0049】
以上、ステップS10〜S30までが本発明の劣化予測方法の第2のステップである。
【0050】
図1に戻り、次に、腐食膨張の計算を実行する(S400、第3のステップ)。より具体的には時刻T+ΔTにおける腐食膨張ひずみを算出する(S41)。
【0051】
図示する一連のフローでは、塩害環境下の鉄筋コンクリート構造物のコンクリートのひび割れ進展と鋼材の腐食進展が相互に影響し合うことをモデル化している。
図9で示すように、ひび割れがコンクリートの塩化物イオンに対する拡散係数に影響し、鋼材腐食が腐食膨張に影響する。これまでのフローのように、局所的に腐食膨張することによって腐食ひび割れは早くなる。このように、連成解析を用いることにより、ひび割れ部で塩化物イオンが浸透し易くなることから、ひび割れ部の腐食速度が早くなるといった効果を表現することができる。
【0052】
図示する本発明の劣化予測方法を適用することで、鋼材周方向の局所の腐食量が得られることにより、塩害によるコンクリート中の鋼材の腐食分布をより精度よく予測することができる。さらに、塩害による鉄筋コンクリート構造物の腐食ひび割れ時期をより精度よく予測することができる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。