(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133685
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】シーム溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 11/06 20060101AFI20170515BHJP
B23K 11/24 20060101ALI20170515BHJP
H01L 23/02 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
B23K11/06
B23K11/06 540
B23K11/24 350
H01L23/02 C
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-104738(P2013-104738)
(22)【出願日】2013年5月17日
(65)【公開番号】特開2014-223658(P2014-223658A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227836
【氏名又は名称】日本アビオニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】木田 英孝
(72)【発明者】
【氏名】矢萩 勝己
【審査官】
青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−089095(JP,A)
【文献】
特開2009−000731(JP,A)
【文献】
特開2006−086463(JP,A)
【文献】
特開2008−300497(JP,A)
【文献】
特開昭47−039460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/06
B23K 11/24
H01L 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対のローラ電極と、
前記ローラ電極を導電シャフトを介して回動自在に軸支すると同時に前記ローラ電極に給電するための電極ホルダと、
絶縁材料からなる板状の押さえと、
前記押さえを前記1対のローラ電極の間に吊り下げる形で支持する吊り下げ機構と、
前記電極ホルダと前記吊り下げ機構とをトレイ上に載置された溶接対象のワークと垂直な方向に移動させる駆動機構と、
前記電極ホルダの動きに応じて前記吊り下げ機構を介して前記押さえを前記ワークと垂直な方向に移動させる押さえ昇降機構とを備え、
前記駆動機構は、シーム溶接を行う前に前記電極ホルダと前記吊り下げ機構とを前記ワークに近づく方向に下降させ、シーム溶接終了後に前記電極ホルダと前記吊り下げ機構とを前記ワークから離れる方向に上昇させ、
前記押さえ昇降機構は、前記電極ホルダおよび前記吊り下げ機構の下降時に、前記ワークの2辺に前記1対のローラ電極が接触する前に前記押さえを前記ワークと接触させ、前記1対のローラ電極が前記ワークと接触した時点で前記押さえを上昇させて前記ワークから離し、前記電極ホルダおよび前記吊り下げ機構の上昇時に、前記押さえを自重で下降させることにより、前記ローラ電極が前記ワークから離れる時点で前記押さえを前記ワークと接触させ、前記押さえが前記ワークを押し続ける状態を一定期間維持させることを特徴とするシーム溶接装置。
【請求項2】
請求項1記載のシーム溶接装置において、
前記吊り下げ機構は、
前記押さえを前記1対のローラ電極の間に吊り下げる形で支持する支持部材と、
前記支持部材を上下動可能に支持する押さえホルダとからなり、
前記押さえ昇降機構は、
前記ローラ電極の外径より大きな外径と前記導電シャフトの直径より大きな内径とを有し、前記1対のローラ電極のうち一方のローラ電極の導電シャフトに嵌められた絶縁材料からなる昇降用リングと、
前記ワークと垂直な方向の前記昇降用リングの動きを前記支持部材に伝達する伝達機構とからなり、
前記駆動機構は、前記電極ホルダを上下動可能に支持すると同時に、前記押さえホルダを支持し、シーム溶接を行う前に前記電極ホルダと前記押さえホルダとを前記ワークに近づく方向に下降させ、シーム溶接終了後に前記電極ホルダと前記押さえホルダとを前記ワークから離れる方向に上昇させ、
前記押さえは、前記押さえホルダの下降時に、前記ワークの2辺に前記1対のローラ電極が接触する前に前記ワークと接触し、前記1対のローラ電極が前記ワークと接触した時点で上昇して前記ワークから離れ、前記押さえホルダの上昇時に、前記支持部材と前記押さえとが自重で下降することにより、前記ローラ電極が前記ワークから離れる時点で前記ワークと接触し、
前記昇降用リングは、前記電極ホルダの下降に伴って前記トレイと接触したときに前記伝達機構を介して前記支持部材を押し上げることにより、前記押さえを上昇させて前記ワークから離し、前記電極ホルダの上昇に伴って前記トレイから離れ前記伝達機構を介して前記支持部材の動きを止めるまで、前記押さえが前記ワークを押し続ける状態を維持させることを特徴とするシーム溶接装置。
【請求項3】
請求項2記載のシーム溶接装置において、
前記伝達機構は、
前記トレイと水平な方向に沿った回動軸を中心として、前記トレイと垂直な面内で回動可能なように、前記押さえホルダの下端に取り付けられた第1のアームと、
下面が前記第1のアームの上面と当接するように前記支持部材に取り付けられた第2のアームとを備え、
前記第1のアームの回動軸を支点としたときに、前記押さえを挟んで前記支点と反対側に位置する前記第1のアームの端部と前記第2のアームとが当接し、
前記昇降用リングは、前記第1のアームと第2のアームとの接触点よりも前記支点に近い方の位置で前記第1のアームの下面と接触することを特徴とするシーム溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばIC、水晶振動子等の回路素子の容器に蓋を溶接するシーム溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IC、水晶振動子等の回路素子の封止作業は、パッケージにこれらの回路素子を収納して、配線や試験調整作業を行った後の最終製造工程として行われる。封止方法としては、樹脂封止、気密封止などがある。
気密封止法は、金属又はセラミックスのパッケージの中に素子を収納固定し、乾燥した不活性ガス雰囲気中でリッド(蓋)をかぶせて素子を完全に密封する方法である。この気密封止法によれば、水分などの不純物の侵入がなく、また局所加熱による封止なので、熱応力の影響も少なく樹脂封止に比べて高い封止信頼性を得ることができる。
【0003】
この気密封止法のひとつであるシーム接合法を用いて、パッケージにリッドを溶接するシーム溶接装置がある。このシーム溶接装置は、円板状のローラ電極によってワークに圧力を加えながら電流を流すことにより、発生するジュール熱によってワークを溶融させて接合を得るものである。
図4はシーム溶接装置によるシーリング作業を説明する図である。シーム溶接装置は、円板状のローラ電極100a,100bと、ローラ電極100a,100bに給電する導電シャフト101a,101bと、導電シャフト101a,101bに給電する電極ホルダ102a,102bと、電極ホルダ102a,102bを保持する電極保持アーム103a,103bとを備えている。
図4における104はICや水晶振動子等のチップ、105はチップ104を収納するパッケージ、106はリッドである。
【0004】
このシーム溶接装置は、リッド106にローラ電極100a,100bを所定の圧力下で接触させる。そして、パッケージ105を載置した図示しないトレイあるいは電極保持アーム103a,103bを移動させながら、給電ブロック102a、導電シャフト101a、ローラ電極100a、リッド106、ローラ電極100b、導電シャフト101b、給電ブロック102bという経路で電流を流すことにより、リッド106がパッケージ105に溶接される。
しかしながら、従来のシーム溶接装置では、溶接終了後にローラ電極100a,100bを上昇させると、ワーク(パッケージ105とリッド106)がローラ電極100a,100bに付着したまま上昇してしまうという問題点があった。
【0005】
これに対して、出願人は、このようなローラ電極へのワークの付着を防止する手法を提案した(特許文献1参照)。特許文献1に開示された手法では、ワークにローラ電極100a,100bを接触させながら、ワークを
図5(A)のAの方向に移動させるか、あるいはローラ電極100a,100bを
図5(A)のBの方向に移動させることにより、ローラ電極100a,100bを回転させて溶接を行ない、溶接終了後にローラ電極100a,100bへの通電を停止して、ワークをBの方向に移動させるか、あるいはローラ電極100a,100bをAの方向に移動させることにより、
図5(B)に示すようにローラ電極100a,100bを溶接時と逆方向に微小角度回転させた後、
図5(C)に示すようにローラ電極100a,100bを上昇させるようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3194208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、特許文献1に開示された手法では、ローラ電極を溶接時と逆方向に微小角度回転させることで、ワークをローラ電極から引き剥がすようにしていた。
しかしながら、ワークの小型化の進展により、ワークの質量が軽くなったため、特許文献1に開示された手法を適用しても、ローラ電極へのワークの付着を防止することが難しくなってきた。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、溶接終了後のローラ電極へのワークの付着を防止し、作業効率を向上させることができるシーム溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシーム溶接装置は、1対のローラ電極と、前記ローラ電極を導電シャフトを介して回動自在に軸支すると同時に前記ローラ電極に給電するための電極ホルダと、絶縁材料からなる板状の押さえと、前記押さえを前記1対のローラ電極の間に吊り下げる形で支持する吊り下げ機構と、前記電極ホルダと前記吊り下げ機構とをトレイ上に載置された溶接対象のワークと垂直な方向に移動させる駆動機構と、前記電極ホルダの動きに応じて前記吊り下げ機構を介して前記押さえを前記ワークと垂直な方向に移動させる押さえ昇降機構とを備え、前記駆動機構は、シーム溶接を行う前に前記電極ホルダと前記吊り下げ機構とを前記ワークに近づく方向に下降させ、シーム溶接終了後に前記電極ホルダと前記吊り下げ機構とを前記ワークから離れる方向に上昇させ、前記押さえ昇降機構は、前記電極ホルダおよび前記吊り下げ機構の下降時に、前記ワークの2辺に前記1対のローラ電極が接触する前に前記押さえを前記ワークと接触させ、前記1対のローラ電極が前記ワークと接触した時点で前記押さえを上昇させて前記ワークから離し、前記電極ホルダおよび前記吊り下げ機構の上昇時に、前記押さえを自重で下降させることにより、前記ローラ電極が前記ワークから離れる時点で前記押さえを前記ワークと接触させ、前記押さえが前記ワークを押し続ける状態を一定期間維持させることを特徴とするものである。
また、本発明のシーム溶接装置の1構成例において、前記吊り下げ機構は、前記押さえを前記1対のローラ電極の間に吊り下げる形で支持する支持部材と、前記支持部材を上下動可能に支持する押さえホルダとからなり、前記押さえ昇降機構は、前記ローラ電極の外径より大きな外径と前記導電シャフトの直径より大きな内径とを有し、前記1対のローラ電極のうち一方のローラ電極の導電シャフトに嵌められた絶縁材料からなる昇降用リングと、前記ワークと垂直な方向の前記昇降用リングの動きを前記支持部材に伝達する伝達機構とからなり、前記駆動機構は、前記電極ホルダを上下動可能に支持すると同時に、前記押さえホルダを支持し、シーム溶接を行う前に前記電極ホルダと前記押さえホルダとを前記ワークに近づく方向に下降させ、シーム溶接終了後に前記電極ホルダと前記押さえホルダとを前記ワークから離れる方向に上昇させ、前記押さえは、前記押さえホルダの下降時に、前記ワークの2辺に前記1対のローラ電極が接触する前に前記ワークと接触し、前記1対のローラ電極が前記ワークと接触した時点で上昇して前記ワークから離れ、前記押さえホルダの上昇時に、前記支持部材と前記押さえとが自重で下降することにより、前記ローラ電極が前記ワークから離れる時点で前記ワークと接触し、前記昇降用リングは、前記電極ホルダの下降に伴って前記トレイと接触したときに前記伝達機構を介して前記支持部材を押し上げることにより、前記押さえを上昇させて前記ワークから離し、前記電極ホルダの上昇に伴って前記トレイから離れ前記伝達機構を介して前記支持部材の動きを止めるまで、前記押さえが前記ワークを押し続ける状態を維持させることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のシーム溶接装置の1構成例において、前記伝達機構は、前記トレイと水平な方向に沿った回動軸を中心として、前記トレイと垂直な面内で回動可能なように、前記押さえホルダの下端に取り付けられた第1のアームと、下面が前記第1のアームの上面と当接するように前記支持部材に取り付けられた第2のアームとを備え、前記第1のアームの回動軸を支点としたときに、前記押さえを挟んで前記支点と反対側に位置する前記第1のアームの端部と前記第2のアームとが当接し、前記昇降用リングは、前記第1のアームと第2のアームとの接触点よりも前記支点に近い方の位置で前記第1のアームの下面と接触することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小型のワークであっても、シーム溶接終了後にワークがローラ電極に付着して浮き上がることを防止できるので、作業効率を向上させることができる。また、本発明では、ローラ電極を溶接時と逆方向に回転させる必要がないので、シーム溶接に要する時間を短縮することができる。また、真空中での溶接に本発明を適用することができる。
【0012】
また、本発明では、第1のアームと第2のアームとを設け、第1のアームの回動軸を支点としたときに、押さえを挟んで支点と反対側に位置する第1のアームの端部と第2のアームとを当接させ、この第1のアームと第2のアームとの接触点よりも支点に近い方の位置で昇降用リングを第1のアームの下面と接触させることにより、押さえがワークから離れるときの上昇量を、昇降用リングが第1のアームを押し上げる上昇量よりも大きくすることができ、昇降用リングの少ない上昇量で、押さえをワークから大きく離すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係るシーム溶接装置の電極部分の正面図および側面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るシーム溶接装置の動作を説明する図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るシーム溶接装置の動作を説明する図である。
【
図4】従来のシーム溶接装置によるシーリング作業を説明する図である。
【
図5】従来のシーム溶接装置においてローラ電極へのワークの付着を防止する手法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[発明の原理]
発明者は、ローラ電極を溶接時と逆方向に回転させることでワークをローラ電極から引き剥がすのではなく、強制的にワークを押さえてしまうことで、ローラ電極へのワークの付着を防止することに想到した。溶接時に押さえがあると、ワーク表面に傷を付けたり、溶接に影響を与えたりする可能性があるので、溶接時には押さえがワークから離れて、電極上昇時のみ押さえが有効となることが好ましい。また、真空中で溶接を行うことがあるので、ポンプやソレノイドなどのアクチュエータを使用せずに、押さえを駆動できるようにすることが好ましい。さらに、ワークの小型化の進展により、2つのローラ電極間の距離が狭くなり、このローラ電極間に押さえを入れる必要があるため、押さえは絶縁体であることが好ましい。
【0015】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1(A)は本発明の実施の形態に係るシーム溶接装置の電極部分の正面図、
図1(B)は
図1(A)の左側から見た電極部分の側面図である。なお、
図1(B)では、本実施の形態の特徴的な構成である押さえの部分の構造を分かり易くするため、ローラ電極と電極ホルダとを破線で示している。
【0016】
本実施の形態のシーム溶接装置は、金属等の導電材料からなる円板状の1対のローラ電極1a,1bと、金属等の導電材料からなる円柱状の導電シャフト2a,2bと、導電シャフト2a,2bを回動自在に軸支すると同時に導電シャフト2a,2bに給電する、金属等の導電材料からなる電極ホルダ3a,3bと、導電シャフト2a,2bの軸方向の動きを制限する、金属等の導電材料からなるストッパ4a,4bと、絶縁材料からなる板状の押さえ5と、押さえ5が1対のローラ電極1a,1bの間に位置するように、押さえ5を吊り下げる形で支持する支持部材である昇降部6と、下面が後述するアーム9の上面と当接するように昇降部6に取り付けられたアーム7と、昇降部6を上下動可能に支持する押さえホルダ8と、ワーク20(
図4の例ではパッケージ105とリッド106)が載置されたトレイ21と水平な方向に沿った軸10を中心として、トレイ21と垂直な面内で回動可能なように、押さえホルダ8の下端に取り付けられたアーム9と、絶縁材料からなる円環状の昇降用リング11とを備えている。昇降部6と押さえホルダ8とは押さえ5の吊り下げ機構を構成し、アーム7,9と昇降用リング11とは押さえ昇降機構を構成している。また、アーム7,9は、昇降用リング11の動きを昇降部6に伝達する伝達機構を構成している。昇降部6とアーム7,9と押さえホルダ8とは、導電材料からなるものでもよいし、絶縁材料からなるものでもよい。
【0017】
図示しない駆動機構は、電極ホルダ3a,3bを上下動可能に支持する。電極ホルダ3a,3bの上下方向の大まかな位置は駆動機構によって制御される。さらに、電極ホルダ3a,3bは、ローラ電極1a,1bとワーク20との接触によって上下方向の位置が抑制されていない状態では、駆動機構によって規制される上下動範囲の中で最も下の位置まで自重で降りていることになる。この電極ホルダ3a,3bは、ワイヤー等によって図示しない電源と電気的に接続されている。
【0018】
円柱状の導電シャフト2a,2bは、電極ホルダ3a,3bの貫通穴に挿入されて支えられており、滑り摩擦で回転するようになっている。ローラ電極1a,1bは、導電シャフト2a,2bの一端に取付けられ、導電シャフト2a,2bの他端には、導電シャフト2a,2bの軸方向の動きを制限するためのストッパ4a,4bが取り付けられている。こうして、電極ホルダ3a,3bは、導電シャフト2a,2bの軸受として機能すると同時に、導電シャフト2a,2bに電流を供給する役目を果たす。ローラ電極1a,1bは、電極ホルダ3a,3bが下降したときにワーク20の所望の被接合部と接触するように配設されている。
【0019】
また、ローラ電極1aと電極ホルダ3aとの間の導電シャフト2aには、昇降用リング11が嵌められている。導電シャフト2aが貫通する昇降用リング11の貫通穴の直径は、導電シャフト2aの直径よりも大きい。したがって、昇降用リング11は、上下動可能な状態で導電シャフト2aに嵌められていることになる。また、昇降用リング11の外径D2は、ワーク20の高さHにローラ電極1a,1bの直径D1を加えた寸法よりも所定値αだけ大きくなるように設定されている(D2=H+D1+α)。昇降用リング11が導電シャフト2aによって規制される可動範囲は、所定値α以上の値に設定されている。上記のとおり、昇降用リング11は、ローラ電極1aと電極ホルダ3aとの間に配設されており、電極ホルダ3aが下降したときにワーク20の外側のトレイ21と接触するように配設されている。
【0020】
一方、押さえホルダ8は、前記駆動機構に固定されている。この押さえホルダ8は、アーム9を回動可能に支持する。アーム9は、軸10を中心として時計回り及び反時計回りに回動可能である。また、押さえホルダ8は、昇降部6を上下動可能に支持する。昇降部6には、押さえ5とアーム7とが固定されている。押さえ5は、ローラ電極1aと1bの間に配設されており、押さえホルダ8が下降したときにワーク20の上面(
図4の例ではリッド106の上面)と接触するように配設されている。押さえホルダ8及びアーム9と、昇降用リング11との上下方向の位置関係は、昇降用リング11が導電シャフト2aによって規制される上下動範囲の中で最も下の位置まで降りた状態で、昇降用リング11の上部がアーム9の下部と当接するように規定されている。
【0021】
昇降部6の上下方向の大まかな位置は駆動機構によって制御される。したがって、押さえ5の上下方向の大まかな位置も駆動機構によって制御されることになる。さらに、昇降用リング11は、トレイ21と接触していない状態では、アーム7とアーム9とが当接して、アーム9と昇降用リング11とが当接することによって下方に押し付けられ、導電シャフト2aによって規制される上下動範囲の中で最も下の位置まで降りてアーム9の動きを押さえる。これにより、アーム7及び押さえホルダ8の上下方向の位置が決まり、押さえ5の上下方向の位置が決まる。
【0022】
なお、シーム溶接時には、ワーク20とローラ電極1a,1bとの水平方向(
図1(B)左右方向)の位置関係が変わるので、これに伴ってワーク20と押さえ5との水平方向の位置関係も変わる。したがって、押さえ5の水平方向の寸法は、ワーク20の水平方向の寸法よりも大きいことが望ましい。
【0023】
ローラ電極1a,1bと押さえ5と昇降用リング11との上下方向の位置関係は、電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とが下降したときに、押さえ5がワーク20と接触した後に、昇降用リング11がトレイ21と接触し、この接触の後にローラ電極1a,1bがワーク20と接触するように規定されている。また、ローラ電極1a,1bがワーク20と接触した状態で、電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とが上昇したときには、ローラ電極1a,1bがワーク20から離れた後に、昇降用リング11がトレイ21から離れ、この後に押さえ5がワーク20から離れるように規定されている。
【0024】
次に、本実施の形態のシーム溶接装置の動作を
図2(A)、
図2(B)、
図3(A)、
図3(B)を参照して詳細に説明する。
まず、駆動機構によって電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とを下降させると、それに伴ってローラ電極1a,1bと押さえ5と昇降用リング11も下降し、ローラ電極1a,1bがワーク20に接触するよりも前に、押さえ5がワーク20と接触する(
図2(A))。これにより、押さえ5の下降が止まる。
【0025】
電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とがさらに下降すると、昇降用リング11がトレイ21と接触する(
図2(B))。
続いて、電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とがさらに下降すると、昇降用リング11は、トレイ21と接触しているために下降することはできず、導電シャフト2aによって規制される一定の上下動範囲の中で上昇を始める。これにより、昇降用リング11がアーム9を押し上げるので、アーム9がアーム7を押し上げ、昇降部6と押さえ5とが上昇を始める(
図3(A))。
【0026】
電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とがさらに下降すると、ローラ電極1a,1bがワーク20と接触する(
図3(B))。これにより、電極ホルダ3a,3bの下降が抑えられる。駆動機構は、電極ホルダ3a,3bを下降させようとしているにも拘わらず、電極ホルダ3a,3bが下降しないので、ローラ電極1a,1bとワーク20とが接触したことを検知し、電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8の駆動を停止する。
【0027】
上記のとおり、昇降用リング11の外径D2は、ワーク20の高さHにローラ電極1a,1bの直径D1を加えた寸法よりも所定値αだけ大きくなるように設定されている。したがって、ローラ電極1a,1bがワーク20と接触すると、昇降用リング11は、所定値αの分だけアーム9を押し上げることになる。このとき、アーム9は、軸10を中心として時計回りに回動する。軸10を支点として、アーム9と昇降用リング11とが接触する点を力点とすると、押さえ5を挟んで支点と反対側に位置するアーム9の端部がアーム7を押し上げる作用点となり、力点が作用点よりも支点に近い方にあるので、アーム9がアーム7を押し上げる上昇量は、昇降用リング11がアーム9を押し上げる上昇量よりも大きくなる。アーム9がアーム7を押し上げると、昇降部6と押さえ5とが上昇するので、押さえ5の上昇量も、昇降用リング11がアーム9を押し上げる上昇量よりも大きくなる。こうして、ローラ電極1a,1bがワーク20と接触したとき、ワーク20から押さえ5が離れる。
【0028】
ローラ電極1a,1bがワーク20と接触した後、従来と同様にシーム溶接を行う。すなわち、駆動機構によって電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とを水平方向(
図1(B)の左右方向であり、
図3(B)の紙面と垂直な方向)に移動させながら、図示しない電源から電極ホルダ3a、導電シャフト2a、ローラー電極1a、ワーク20、ローラー電極1b、導電シャフト2b、電極ホルダ3bという経路で電流を流すことにより、ワーク20が溶接される(
図4の例ではリッド106がパッケージ105に溶接される)。
【0029】
電源からの通電が終了した時点で、シーム溶接が終了する。シーム溶接の終了後は、
図3(B)、
図3(A)、
図2(B)、
図2(A)の順番で動作する。
駆動機構によって電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とを上昇させると、アーム9の軸10も上昇するので、押さえ5と昇降部6とアーム7の重さ及びアーム9自身の重さによってアーム9が反時計回りの方向に回動を始める。これにより、昇降部6と押さえ5とが下降を始める(
図3(A))。
【0030】
電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とがさらに上昇すると、下降を開始していた押さえ5がワーク20と接触した後に、ローラ電極1a,1bがワーク20から離れるか、あるいは押さえ5がワーク20と接触すると同時に、ローラ電極1a,1bがワーク20から離れる(
図2(B))。押さえ5には、昇降部6及びアーム7の重さによる下向きの力が掛かるので、ワーク20がローラ電極1a,1bに付着していたとしても、ワーク20をローラ電極1a,1bから引き剥がすように押さえ5がワーク20を押圧する。
【0031】
電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とがさらに上昇すると、昇降用リング11がトレイ21から離れる(
図2(A))。昇降用リング11がトレイ21から離れた時点でも、押さえ5はワーク20を押し続けている状態を維持する。
【0032】
電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とがさらに上昇すると、昇降用リング11が導電シャフト2aによって規制される上下動範囲の中で最も下の位置まで降りるので、アーム9の反時計回りの回動が停止する。この状態から電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とがさらに上昇すると、アーム9がアーム7を押し上げるので、昇降部6と押さえ5とが上昇し、押さえ5がワーク20から離れる。こうして、
図1(A)、
図1(B)の状態に戻る。
【0033】
以上のように、本実施の形態では、ローラ電極1a,1bがワーク20と接触する前に、押さえ5をワーク20と接触させ、ローラ電極1a,1bがワーク20と接触した時点で、押さえ5をワーク20から離して、シーム溶接を行う。押さえ5をワーク20から離す理由は、シーム溶接時にワーク20が高温となるので、樹脂等の絶縁材料からなる押さえ5が溶融してしまう可能性があることと、押さえ5がワーク表面に傷を付けたり、溶接に影響を与えたりする可能性があるためである。そして、シーム溶接後にローラ電極1a,1bがワーク20から離れる時点で、押さえ5をワーク20と接触させる。押さえ5は、ローラ電極1a,1bがワーク20から離れた後、暫くの間はワーク20を押し続ける状態を維持するので、ワーク20がローラ電極1a,1bに付着していたとしても、ワーク20をローラ電極1a,1bから引き剥がすことができる。以上のように、本実施の形態では、小型のワーク20であっても、シーム溶接終了後にワーク20がローラ電極1a,1bに付着して浮き上がることを防止できるので、作業効率を向上させることができる。
【0034】
また、本実施の形態では、特許文献1に開示された手法のように、ローラ電極1a,1bを溶接時と逆方向に回転させる必要がないので、シーム溶接に要する時間を短縮することができる。また、本実施の形態では、電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とを駆動するだけで、ポンプやソレノイドなどのアクチュエータを使用せずに押さえ5を駆動することができる。駆動機構は、シーム溶接装置を収納する真空チャンバーの外に配設することができるので、真空中での溶接に本発明を適用することができる。
【0035】
なお、本実施の形態では、電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とが下降したときに、押さえ5がワーク20と接触した後に、昇降用リング11がトレイ21と接触するようにしているが、ローラ電極1a,1bがワーク20と接触した時点で押さえ5をワーク20から離せばよいので、押さえ5がワーク20と接触すると同時に、昇降用リング11がトレイ21と接触するようにしてもよい。また、電極ホルダ3a,3bと押さえホルダ8とが上昇したときに、昇降用リング11がトレイ21から離れた後に、押さえ5がワーク20から離れるようにしているが、ローラ電極1a,1bがワーク20から離れた後に押さえ5がワーク20から離れるようにすればよいので、昇降用リング11がトレイ21から離れると同時に、押さえ5がワーク20から離れるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、シーム溶接に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1a,1b…ローラ電極、2a,2b…導電シャフト、3a,3b…電極ホルダ、4a,4b…ストッパ、5…押さえ、6…昇降部、7,9…アーム、8…押さえホルダ、10…軸、11…昇降用リング、20…ワーク、21…トレイ。