(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態としての高圧タンクの検査システムを示す説明図である。
図1(B)は、検査システム1000を模式的に示している。ただし、検査対象の高圧タンク100については、タンク軸線CXに平行な面(
図1(A)のA−A断面)で切った概略断面を模式的に示している。また、
図1(A)は、
図1(B)の高圧タンク100のタンク軸線CXに沿った方向の左側の側面を模式的に示している。
【0014】
高圧タンク100は、例えば、燃料電池車両(不図示)に搭載され、燃料電池に燃料ガスとして供給される高圧水素を貯蔵する圧力容器である。高圧タンク100は、ライナー10と、繊維強化樹脂層20と、バルブ側口金30と、エンド側口金40と、プラグ50と、を備える。
【0015】
ライナー10は、金属製または強化プラスチック等の樹脂製の中空のタンク容器であり、円筒状のシリンダー部11と、シリンダー部11の両側の略半球形状のドーム部12と、を備える。一方のドーム部12(
図1(B)の左側)の頂上箇所には、タンク軸線CXを中心とするプラグ接続孔を有するバルブ側口金30が設けられており、他方のドーム部12(
図1(B)の右側)の頂上箇所には、ライナー10のエンド側を閉塞するためのエンド側口金40が設けられている。バルブ側口金30のプラグ接続孔にはプラグ50が挿入接続されている。高圧タンク100には、プラグ50に接続される不図示の配管を介して燃料電池およびガス充填部が接続されており、高圧の燃料ガス(以下、単に「高圧ガス」とも呼ぶ)の充填および放出が行われる。
【0016】
繊維強化樹脂層20は、ライナー10の外表面と、バルブ側口金30およびエンド側口金40の周囲と(以下、「ライナー10の外表面等」と呼ぶ)を覆う補強層である。繊維強化樹脂層20は、ライナー10の外表面等に巻き付けられた炭素繊維強化プラスチック(CFRP;carbon−fiber−reinforced plastic)などの強化繊維と、その強化繊維同士を結着するエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂と、で構成される。繊維強化樹脂層20は、例えば、以下のように形成される。まず、熱硬化性樹脂を含浸させた強化繊維を、いわゆるヘリカル巻きやフープ巻きなどの所定の巻き方にて、ライナー10の外表面等を覆うように巻き付ける。次に、強化繊維が巻き付けらえたライナー10を恒温槽において所定の温度で加熱し、強化繊維中の熱硬化性樹脂を熱硬化させる。この結果、ライナー10の外表面等に繊維強化樹脂層20が形成される。
【0017】
なお、ライナー10のシリンダー部11の外表面を覆うように繊維強化樹脂層20が形成された高圧タンク100の部分102が、高圧タンク100のシリンダー部に対応する。以下では、この部分102を高圧タンク100の「シリンダー部102」と呼ぶ。また、ライナー10のバルブ側のドーム部12の外表面およびバルブ側口金30の外周表面を覆うように繊維強化樹脂層20が形成された高圧タンク100の部分104bが、高圧タンク100のバルブ側のドーム部に対応する。以下では、この部分104bを高圧タンク100のバルブ側の「ドーム部104b」と呼ぶ。同様に、ライナー10のエンド側のドーム部12の外表面およびエンド側口金40の外周表面を覆うように繊維強化樹脂層20が形成された高圧タンク100の部分104eが、高圧タンク100のエンド側のドーム部に対応する。以下では、この部分104eを高圧タンク100のエンド側の「ドーム部104e」と呼ぶ。なお、バルブ側のドーム部104bとエンド側のドーム部104eとを特に区別しない場合には、これらを単に「ドーム部104」とも呼ぶ。
【0018】
検査システム1000は、高圧タンク100と同様に燃料電池車両に搭載され、燃料電池車両の運転動作中においてリアルタイムに高圧タンク100の状態についての検査を行う。検査システム1000は、高圧タンク100のタンク肩部106の外周側表面に設置された剥離状態検出センサー110と、燃料電池車両内に設置された加速度センサー130と、判定部120と、を備える。
【0019】
高圧タンク100のタンク肩部106は、シリンダー部102とドーム部104との境界からドーム部104の先端に向かう部分であって、シリンダー部102とドーム部104との境界からドーム部104の先端までの高さLdに対して50%以内の部分と規定する。ただし、Ld/2の±10%の範囲としてもよい。また、タンク肩部106の内側に存在する繊維強化樹脂層20のうち、その内層側の厚みが50%以内の部分24を「肩部内層領域」と規定する。ただし、繊維強化樹脂層20の厚みの50%±10%の範囲としてもよい。
【0020】
剥離状態検出センサー110は、タンク肩部106の繊維強化樹脂層20内の層間剥離を検出するためのセンサーである。剥離状態検出センサー110は、本例では、超音波の送波器および受波器を備えている。送波器から出力されて繊維強化樹脂層20内を伝搬する超音波は、樹脂層と空気の層との界面において反射するため、受波器で受け取る超音波は層間剥離に応じて変化する。剥離状態検出センサー110は、この現象を利用して、層間剥離の発生を検出するものである。なお、剥離状態検出センサー110としては、送波器から出力する超音波がラム波である超音波センサーを用いることが好ましい。
【0021】
加速度センサー130は、燃料電池車両の運転動作中において路面干渉などによって高圧タンク100に圧縮衝撃荷重等による衝撃が加わったことを検出するためのセンサーである。加速度センサー130としては、一般的に3次元加速度センサーが用いられる。
【0022】
判定部120は、後述するように、剥離状態検出センサー110からの出力信号に基づいて、層間剥離の発生の有無を判定する。
【0023】
図2は、タンク肩部106の繊維強化樹脂層20の内部において層間剥離が発生した場合の問題について示す説明図である。燃料電池車両の運転動作中において路面干渉などによって高圧タンク100に圧縮衝撃荷重等による衝撃が加わると、
図2(A)に示すように、タンク肩部106において、繊維強化樹脂層20の内部で1箇所以上の層間剥離が発生する場合がある。この層間剥離は、発生した時点では小さな層間剥離であったとしても、
図2(B)に示すように、運転動作中において高圧ガスの充填・放出を繰り返した場合には、これに応じた応力がライナー10(ドーム部12)を介して繊維強化樹脂層20の層間剥離の部分に加わり、大きな層間剥離に成長する可能性がある。
【0024】
タンク肩部106の肩部内層領域24に大きな層間剥離が発生すると、発生した層間剥離よりもさらに内層側の繊維強化樹脂の部分にのみ応力が加わることになる。加わった応力が強度限界を超えると、
図2(C)に示すように、強度限界を超えた部分に亀裂等の破損が発生することになる。従って、タンク肩部106の繊維強化樹脂層20の内部、特に、内層側の肩部内層領域24に層間剥離が発生した場合には、肩部の強度発現性が低下して高圧タンクが損傷に至る可能性が高いため、早期に高圧タンクを交換することが望ましい。検査システム1000では、判定部120において、以下で説明するように高圧タンク100の繊維強化樹脂層20の内部の層間剥離の発生の有無を検出する。
【0025】
図3は、タンク肩部106の繊維強化樹脂層20の層間剥離の検出フローを示す説明図である。判定部120は、燃料電池車両の起動に伴って、以下で説明する層間剥離検出処理を開始し、燃料電池車両の停止に伴って終了する。判定部120は、加速度センサー130から出力される検知信号により、あらかじめ設定した値以上の加速度を検出し、路面干渉などによって高圧タンク100の繊維強化樹脂層20で層間剥離を発生させる可能性のある衝撃が加わったことを検出するまで待機する(ステップS10)。
【0026】
衝撃が加わった場合には、判定部120は剥離状態検出センサー110を作動し、繊維強化樹脂層20の層間剥離の状態の検出を実行する(ステップS20)。具体的には、判定部120は、剥離状態検出センサー110の送波器から測定用の超音波を繊維強化樹脂層20へ向けて出力させて受波器が受け取る超音波の測定を行い、受波器から出力される出力信号を剥離状態検出センサー110からのセンサー出力信号として受け取る。なお、本例では、両側のドーム部104(104e,104b)のタンク肩部106にそれぞれ剥離状態検出センサー110が設置されているため、上記測定は、それぞれの剥離状態検出センサー110で別々に実行される。そして、判定部120は、受け取った測定結果を解析し、肩部内層領域に層間剥離が存在するか否かを判定する(ステップS30)。
【0027】
図4は、剥離状態検出センサー110から出力されるセンサー出力信号の一例を示すグラフである。縦軸は、センサー出力、すなわち、測定した超音波の大きさを示している。横軸は、
表面に送波器から超音波の出力を開始した時点からの経過時間tであり、
経過時間tと、繊維強化樹脂層20を伝搬する超音波の波長λ(=Ct/f,Ct:音速,f:超音波の周波数)と、に基づいて導出される繊維強化樹脂層20の表面からの深さを表している。
【0028】
図4に示すように、層間剥離が無い場合のセンサー出力信号(破線)と、層間剥離が有る場合のセンサー出力信号(実線)と、を比較すればわかるように、層間剥離が有った場合には、信号の状態変化として位相ずれが発生する。これは、上記したように、送波器から出力して繊維強化樹脂層20内を伝搬する超音波は、樹脂層と空気の層(剥離)との界面において反射するため、受波器で受け取る超音波の位相が層間剥離の有無に応じて変化するからである。従って、このセンサー出力信号中の位相ずれの発生の有無を解析することにより、層間剥離の有無を判定することが可能である。例えば、層間剥離が無い状態の信号に対して、あらかじめ設定した許容値(ε)以上の位相ずれが発生した時点で層間剥離が発生していることを検出することができる。そして、超音波出力開始時から位相ずれの検出時までの時間に基づいて、層間剥離の位置が、繊維強化樹脂層20の表面からの深さのどの位置にあるかを求めることが可能であり、肩部内層領域24にあるか否か判断することができる。
【0029】
ここで、剥離状態検出センサー110の送波器から発する超音波のタンク軸線CX回りの周方向への伝搬は、内層方向(深さ方向)への伝搬に比べて非常に速いことが分かっている。このため、剥離状態検出センサー110の受波器で受け取る超音波は、周方向の各位置で内層方向に伝搬した超音波の複合波となる。従って、本例では、層間剥離の位置として、繊維強化樹脂層20の表面からの深さ方向の位置を求めることは可能であるが、繊維強化樹脂層20の周方向のどの位置で発生しているかを求めることはできない。また、剥離状態検出センサー110の送波器から発せられる超音波は、タンク軸線
CX回りの周方向だけでなくあらゆる方向に伝搬する。ただし、剥離状態検出センサー110が設けられたタンク肩部106で送波器から発せられた超音波が周方向へ伝搬して受波器で受け取られるのに要する時間はあらかじめ計算により求めることができる。そこで、受波器による計測時間を、既知の周方向の伝搬時間に基づいて制限することにより、タンク肩部106内の周方向への伝搬のみの測定を行うことが可能である。
【0030】
判定部120は、センサー出力信号の位相ずれに基づいて、肩部内層領域24に層間剥離が存在するか否か判断する(
図3のステップS30)。肩部内層領域24に層間剥離が存在している場合には、燃料電池車両の制御部に対して層間剥離発生を通知し、燃料電池車両の制御部によってタンク交換の警告を表示する(ステップS40)。なお、タンク交換の警告表示は、例えば、警告灯を点灯することや、表示モニターにタンク交換の警告を表示すること等種々の方法によって行うことができる。
【0031】
判定部120は、肩部内層領域24に層間剥離が存在しなかった場合(ステップS30;No)に、あるいは、タンク交換の警告を行った(ステップS40)後に、記録装置(不図示)に層間剥離の状態の検出結果を記録する(ステップS50)。なお、層間剥離の状態の検出結果としては、層間剥離の有無を示すデータや層間剥離の位置を示すデータが記録される。また、センサー出力信号のデータを記録するようにしてもよい。検出結果の記録(ステップS50)の実行後、判定部120は、層間剥離検出処理の開始位置(ステップS10)に戻り、加速度センサー130によって衝撃の発生が検出される度に、ステップS20〜ステップS50を繰り返し実行する。
【0032】
以上のように、本実施形態においては、燃料電池車両において路面干渉などによる衝撃の発生が検出された場合に、高圧タンクのタンク肩部における繊維強化樹脂層の肩部内層領域において層間剥離が発生していかか否かを検出している。これにより、高圧タンクの強度発現性がタンク肩部において低下し、結果として高圧タンクの損傷に至る可能性があることを事前に予測することができる。そして、高圧タンクの早期の交換を促すことができる。
【0033】
図5は、第1実施形態の変形例としての高圧タンクの検査システムを示す説明図である。
図1の検査システム1000では、送波器および受波器を備える剥離状態検出センサー110がタンク肩部106の外周側表面に設置された場合を例に説明している。しかしながら、変形例の検査システム1000B(
図5)に示すように、タンク肩部106の外周側表面に、周方向に沿って別々に設置された送波器112および受波器114を1つの剥離状態検出センサーとして利用することも可能である。なお、この場合、2つの剥離状態検出センサー110を用いて、一方を送波器112とし、他方を受波器114として利用することも可能である。本変形例の場合にも、同様に、燃料電池車両において路面干渉などによる衝撃の発生が検出された場合に、高圧タンクのタンク肩部における繊維強化樹脂層の肩部内層領域において層間剥離が発生しているか否かを検出することができる。
【0034】
なお、本実施形態では、バルブ側およびエンド側の両方のタンク肩部106に剥離状態検出センサー110を設置した場合を示しているが、どちらか一方のみであってもよい。以下の実施形態においても同様である。
【0035】
また、本実施形態の層間剥離の検出フローでは、加速度センサー130によって衝撃の発生が検出される度に、層間剥離の有無を検出する処理を行うものとしている(
図3)。しかしながら、これに限定されるものではなく、例えば、加速度センサー130によって衝撃が検出された後、例えば、定期的なタイミングや、ガスの充填タイミング、タンク内圧の変動量一定以上となった場合等、種々のタイミングで、加速度センサー130によって衝撃の発生が検出されるタイミングに加えて、層間剥離の有無の検出処理を行うようにしてもよい。また、加速度センサー130による衝撃の検出に関係なく、上記種々のタイミングで層間剥離の有無の検出処理を繰り返し行うようにしてもよい。
【0036】
B.第2実施形態:
図6は、第2実施形態としての高圧タンクの検査システムを示す説明図である。この検査システム1000Cは、タンク肩部106の外周側表面に、周方向に沿って複数の剥離状態検出センサー110を設置した構成を示している。具体的には、4つの剥離状態検出センサー110a〜110dが周方向に沿って等間隔に設置されている。この構成の場合、以下で説明するように、少なくとも、4つの剥離状態検出センサー110a〜110dのいずれか2つの間の周方向に沿った4つの領域Aab,Abc,Acd,Adaのうちのいずれの領域において層間剥離が発生しているかを求めることができる。
【0037】
例えば、第1の剥離状態検出センサー110aの送波器から超音波を出力した場合、第1〜第4の剥離状態検出センサー110a〜110dの受波器は、それぞれの位置に伝搬してきた超音波を検出し、それぞれの検出した超音波に応じたセンサー出力信号を出力する。このとき、受波器としての第1〜第4の剥離状態検出センサー110a〜110dのセンサー出力信号における位相ずれ信号の振幅は、層間剥離の位置に対する周方向の位置関係によって変化する。具体的には、距離が遠いほど振幅が小さくなる。
【0038】
そこで、例えば、第2の剥離状態検出センサー110bのセンサー出力信号の位相ずれ信号の振幅が最も大きく、第3の剥離状態検出センサー110cのセンサー出力信号の位相ずれ信号の振幅が2番目に大きいとする。この場合、第2の剥離状態検出センサー110bと第3の剥離状態検出センサー110cとの間の領域Abcであって、第2の剥離状態検出センサー110b側の領域で層間剥離が発生していることまで特定することが可能である。なお、周方向に沿って設置する剥離状態検出センサー110の数を多くすれば、設置した数に応じて、層間剥離の位置として、周方向に沿った位置をより精度よく検出することが可能である。
【0039】
なお、各剥離状態検出センサーのセンサー出力信号の振幅の大きさは、送波器と剥離状態検出センサーの位置関係や送波器の位置と層間剥離の位置との位置関係によっても変化する場合がある。そこで、例えば、超音波を出力する送波器として機能させる剥離状態検出センサーの位置を順に切り替えて、
図6の場合には、4つの剥離状態検出センサー110a〜110dを順に切り替えて送波器として機能させて、それぞれ計測を行って、層間剥離の発生に応じた信号変化が最も顕著な信号に基づいて層間剥離の位置を求めることも可能である。
【0040】
図7は、第2実施形態の変形例としての高圧タンクの検査システムを示す説明図である。なお、
図7では、加速度センサー130および判定部120を省略して示している。前述した
図6の検査システム1000Cでは、複数の剥離状態検出センサー110がタンク肩部の外周側表面に周方向に沿って円周状に設置された場合を例に説明している。しかしながら、変形例の検査システム1000D(
図7)では、タンク軸線CXの方向に沿った複数の列において、複数の剥離状態検出センサー110(110a1〜110f1,110a2〜110f2)がそれぞれ円周状に設置された構成を示している。この構成の場合には、タンク肩部106において発生する層間剥離の位置として、周方向に沿った位置だけでなく、タンク軸線CXの方向に沿った位置についても求めることが可能である。
【0041】
例えば、
図6で説明したように、CX軸上の同じ位置にある剥離状態検出センサー110によって、その位置の円周上にある層間剥離を求めることができる。例えば、第1の円周C1にそって設けられた剥離状態検出センサー110a1〜110f1(110d1〜110f1は不図示)によって、第1の円周C1(第1の円周C1の周辺を含む)上にある層間剥離の位置を求め、第2の円周C2に沿って設けられた剥離状態検出センサー110a2〜110f2(110d2〜110f2は不図示)によって、第2の円周C2(第
1の円周C1の周辺を含む)上にある層間剥離の位置を求めることができる。
【0042】
また、いずれか一つの剥離状態検出センサーの送波器から発した超音波を、各剥離状態検出センサーの受波器で受け取って、それぞれが受け取った信号の違いから、周方向に沿った位置だけでなく、タンク軸線CXの方向に沿った位置についても求めることも可能である。例えば、
図7において、剥離状態検出センサー110a1の送波器から超音波を発した際に、各剥離状態検出センサー110a1〜110f1,110a2〜110f2の受波器で受け取られた超音波に基づいて出力されるセンサー出力信号の位相ずれ信号の振幅の大きさを比較する。これにより、最も大きい4つの剥離状態検出センサーの位置の間に層間剥離があることがわかる。そして、4つの剥離状態検出センサーの位置とそれぞれの信号振幅とに基づく補間により層間剥離の位置を求めることができる。
【0043】
なお、第2実施形態および変形例においても、第1実施形態の変形例(
図5)と同様に、別々の送波器および受波器で剥離状態検出センサーを構成することも可能である。
【0044】
C.第3実施形態:
図8は、第3実施形態としての高圧タンクの検査システムを示す説明図である。この検査システム1000Eは、タンク肩部106の外周側表面に、複数の剥離状態検出センサーの送波器112を周方向に沿って設置し、タンク肩部106の内周側表面に、送波器112に対向するように複数の剥離状態検出センサーの受波器114を設置した構成を示している。なお、各受波器114と判定部120との接続線(例えば、金属配線)は、プラグ50に設けられたシール構造(例えば、ハーメチックシール等)の配線取り出し領域(不図示)を介してタンク内部からタンク外部へ取り出される。
【0045】
本実施形態の場合にも、各送波器112から出力した超音波を、それぞれ、対向設置された受波器114において受波し、各受波器114のセンサー出力信号における位相ずれの位置および振幅から、層間剥離の位置として、周方向に沿った位置および深さ方向の位置を求めることが可能である。
【0046】
また、本実施形態においても、第2実施形態の変形例(
図7)と同様に、複数の送波器112を、タンク軸線CXの方向に沿った複数の列において、それぞれ円周状に設置し、複数の受波器114を複数の送波器112にそれぞれ対向するように設置した構成としてもよい。このようにすれば、第2実施形態の変形例と同様に、タンク肩部106において発生する層間剥離の位置として、周方向に沿った位置だけでなく、タンク軸線CXの方向に沿った位置についても求めることが可能である。
【0047】
なお、本実施形態では、タンク肩部106の外周側表面に送波器112を設置し、タンク肩部106の内周側表面に受波器を設置した構成を例に説明しているが、タンク肩部106の内周表面に送波器112を設置し、タンク肩部106の外周側表面に受波器を設置した構成としてもよい。
【0048】
D.第4実施形態:
図9は、第4実施形態としての高圧タンクの検査システムを示す説明図である。この検査示システム1000Fは、タンク肩部106の内周側表面に、複数の剥離状態検出センサー116を周方向に沿って設置した構成を示している。剥離状態検出センサー116は、タンクの歪み量を測定するための金属歪みゲージである。なお、各剥離状態検出センサー116と判定部120Fとの接続線(例えば、金属配線)は、第3実施形態の場合(
図8)と同様に、プラグ50に設けられたシール構造の配線取り出し領域(不図示)を介してタンク内部からタンク外部へ取り出される。
【0049】
図10は、層間剥離が無い場合におけるタンク内圧と歪み量との関係の一例を示すグラフである。
図10に示すように、あらかじめ、層間剥離が発生していない高圧タンクでタンク内圧と歪み量(「基準歪み量」とも呼ぶ)との関係(以下、「基準歪み特性」とも呼ぶ)を求めておき、判定部120Fは、求めた基準歪み特性をデータとして記憶部(不図示)に保持している。剥離状態検出センサー116によって測定された歪み量が、基準歪み特性曲線よりも上側の領域(
図10のハッチング領域)にある場合には、測定時のタンク内圧における基準歪み量よりも大きくなっているため、層間剥離が発生していると考えられる。
【0050】
そこで、判定部120Fは、加速度センサー130によって衝撃を検出した場合に、剥離状態検出センサー116を作動させて、高圧タンク100のタンク肩部106における歪み量を測定する。そして、測定した歪み量に基づいて、以下のように層間剥離の有無を判定する。すなわち、基準歪み特性を示すデータを参照して、測定時におけるタンク内圧に対応する基準歪み量を求める。そして、測定した歪み量が、基準歪み量より大きい場合には、層間剥離が発生していると判定することができる。そして、層間剥離の深さ方向の位置は、例えば、以下のように求めることができ、これに基づいて、層間剥離が肩部内層領域24で発生しているか否か判断することができる。
【0051】
図11は、複数のタンク内圧をパラメータとして層間剥離が発生している深さ方向の位置と歪み量との関係の一例を示すグラフである。
図11に示すように、あらかじめ、複数のタンク内圧について、それぞれ、層間剥離が発生している深さ方向の位置(タンク表面からの距離)と歪み量との関係を求めておき、判定部120Fは、そのデータを記憶部(不図示)に保持している。記憶部に保持しているデータを参照して、
図11に示すように、歪み量測定時におけるタンク内圧および測定した歪み量(εd)に対応するタンク表面からの距離Xdを求めることにより、層間剥離が発生している深さ方向の位置を求めることができる。なお、測定した歪み量(εd)としては、例えば、複数の剥離状態検出センサー116で測定された歪み量のうちの最大値を利用することが好ましい。
【0052】
なお、層間剥離の周方向に沿った位置は、周方向に沿って設置された複数の剥離状態検出センサー116で測定される歪み量の大きさが層間剥離の位置に近いほど大きくなることから、各剥離状態検出センサー116で測定される歪み量を比較することにより求めることができる。
【0053】
本実施形態の場合には、各剥離状態検出センサー116で測定された歪み量から、層間剥離の有無、並びに、層間剥離の位置として、周方向に沿った位置および深さ方向の位置を求めることが可能である。
【0054】
また、本実施形態においても、複数の剥離状態検出センサー116を、タンク軸線CXの方向に沿った複数の列において、それぞれ円周状に設置した構成としてもよい。このようにすれば、タンク肩部106において発生する層間剥離の位置として、周方向に沿った位置だけでなく、タンク軸線CXの方向に沿った位置についても求めることが可能である。
【0055】
また、本実施形態の場合には、タンク肩部106の内周側表面に金属歪みゲージを用いた剥離状態検出センサー116を設置した構成を例に説明したが、タンク肩部106の外周側表面に剥離状態検出センサー116を設置した構成としてもよい。
【0056】
また、本実施形態の場合には、剥離状態検出センサー116として金属歪みゲージを用いた構成を例に説明したが、歪み量を測定する剥離状態検出センサーとしてはファイバー・ブラッグ・グレーティング(Fiber Bragg Grating,FBG)を用いてもよい。ただし、FBGを用いる場合には、タンク肩部106に設置されるFBGのセンサー部と、レーザ光源と、検出器と、センサー部、レーザ光源、および、検出器の間を接続するFBGの光ファイバーケーブルと、が設けられる。判定部は検出器から出力される信号の表す歪み量に基づいて、金属歪みゲージの場合と同様に層間剥離の状態を検出することができる。
【0057】
E.第5実施形態:
図12は、第5実施形態としての高圧タンクの検査システムを示す説明図である。この検査システム1000Gは、タンク肩部106の外周側表面に、複数の剥離状態検出センサー118を周方向に沿って設置した構成を示している。剥離状態検出センサー118はアコースティック・エミッション(Acoustic Emission,AE)センサーである。AEセンサーを用いた剥離状態検出センサー118は、層間剥離に応じて発生する周波数帯域の音を検出することができる。
【0058】
そこで、判定部120Gは、加速度センサー130によって衝撃を検出した場合に、剥離状態検出センサー118を作動させて、高圧タンク100のタンク肩部106において発生する音を測定する。そして、測定した音に層間剥離に応じて発生する周波数帯域の音が含まれている場合には、層間剥離が発生していると判定することができる。そして、層間剥離の深さ方向の位置は、例えば、AEセンサーで検出される層間剥離に応じた音の強さは、層間剥離の位置からの距離に応じて変化するので、AEセンサーから出力される信号の振幅に応じて求めることができ、これに基づいて、層間剥離が肩部内層領域24で発生しているか否か判定することができる。なお、タンク肩部106において発生する層間剥離の周方向の位置は、AEセンサーにおいて一般的な位置標定法等の導出方法により求めることができる。
【0059】
本実施形態の場合には、剥離状態検出センサー118によって層間剥離に応じた音を検出することにより、層間剥離の有無、並びに、層間剥離の位置として、周方向に沿った位置および深さ方向の位置を求めることが可能である。
【0060】
また、本実施形態においても、複数の剥離状態検出センサー118を、タンク軸線CXの方向に沿った複数の列において、それぞれ円周状に設置した構成としてもよい。このようにすれば、タンク肩部106において発生する層間剥離の位置として、周方向に沿った位置だけでなく、タンク軸線CXの方向に沿った位置についても位置標定法等に基づいて求めることが可能である。
【0061】
なお、本実施形態の場合には、タンク肩部106の外周側表面にAEセンサーを用いた剥離状態検出センサー118を設置した構成を例に説明したが、タンク肩部106の内周側表面に剥離状態検出センサー118を設置した構成としてもよい。
【0062】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。